IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 内山工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ガスケット及びその製造方法 図1
  • 特許-ガスケット及びその製造方法 図2
  • 特許-ガスケット及びその製造方法 図3
  • 特許-ガスケット及びその製造方法 図4
  • 特許-ガスケット及びその製造方法 図5
  • 特許-ガスケット及びその製造方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】ガスケット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/12 20060101AFI20241113BHJP
【FI】
F16J15/12 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021117560
(22)【出願日】2021-07-16
(65)【公開番号】P2023013407
(43)【公開日】2023-01-26
【審査請求日】2024-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】枝廣 和憲
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/230331(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に合体される第1部材及び第2部材の2部材間に取り付けられるガスケットであって、
環状の芯体部と、前記芯体部に一体に成形される弾性材製のシール部とを備え、
前記芯体部は、前記2部材の対向面間に挟持される芯体本体部と、凹状の第1接合溝と、前記第1接合溝に隣接して形成された凹状の第2接合溝と、前記第1接合溝の前記第2接合溝側の溝肩に形成され前記第1接合溝の開口部位に向けて突出した凸状のくさび部とを備え、
前記シール部は、前記2部材の対向面間を密封するシール本体部と、前記第1接合溝及び前記第2接合溝の開口部位まで前記弾性材が充填されて形成される接合部とを有することを特徴とするガスケット。
【請求項2】
請求項1において、
前記芯体部には、前記2部材の対向面に対向する両面のそれぞれに、前記第1接合溝、前記第2接合溝及び前記くさび部が形成されていることを特徴とするガスケット。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記芯体部は、金属材料または熱可塑性樹脂材料からなり、
前記くさび部は、前記第1接合溝の開口部位に被さるように折り曲げ形成されていることを特徴とするガスケット。
【請求項4】
相互に合体される第1部材及び第2部材の2部材間に取り付けられ、環状の芯体部と、前記芯体部にインサート成形される弾性材製のシール部とを備えたガスケットの製造方法であって、
前記芯体部は、前記2部材の対向面間に挟持される芯体本体部と、凹状の第1接合溝と、前記第1接合溝に隣接して形成された凹状の第2接合溝と、前記第1接合溝の前記第2接合溝側の溝肩に形成された起立状態の凸状のくさび部とを備え、
前記くさび部を前記第1接合溝の開口部位側に折り曲げ、前記開口部位に被さるようにくさび部を配する折り曲げ変形工程と、
前記芯体部が載置された成形金型のキャビティ内に成形材料を充填し、前記シール部を成形するとともに、前記第1接合溝及び前記第2接合溝の開口部位まで前記成形材料を充填し接合部を一体成形する成形工程とを有することを特徴とするガスケットの製造方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記折り曲げ変形工程では、前記成形金型の型締めの際の前記成形金型による押圧で起立状態の前記くさび部を前記第1接合溝の開口部位側に折り曲げ変形することを特徴とするガスケットの製造方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5において、
前記くさび部は、その縦断面が基部から先端部へ先細り形状に形成された板体であり、前記第2接合溝側における一方面の前記基部から前記先端部への傾斜が、前記第1接合溝側における他方面の前記基部から前記先端部への傾斜よりも大きく形成されていることを特徴とするガスケットの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相互に合体される第1部材及び第2部材の2部材間に取り付けられるガスケット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関のヒートエクスチェンジャーカバーとヒートエクスチェンジャーとの間や、シリンダブロックとオイルパンとの間等、各種2部材間に取り付けられ、これら2部材を締結することによって2部材の対向面間を密封する環状のガスケットが知られている。このようなガスケットは、剛性を有する環状の芯体部と、熱可塑性樹脂材やゴム材等の弾性材からなるシール部とによって構成される。
【0003】
上述のようなガスケットは、芯体部とシール部とを一体に接合するために、芯体部に接着剤を塗布した状態でインサート成形したり、芯体部に貫通孔(ピアス穴)を設けて貫通孔内にシール材料が充填されるようにインサート成形することによって製造されることが知られている。しかしながら、芯体部に接着剤を塗布してシール部を接合する場合は、接着剤の費用がかかる上、接着剤を塗布する工程を要する。また、芯体部に貫通孔を形成するには、金属板を打ち抜いて芯体部を製造する際に同時に貫通孔を形成する金型や、金属板を打ち抜いて芯体部を製造した後に、後加工で貫通孔を形成する工程が必要となる。そのため、金型によって芯体部と同時に貫通孔を形成する場合には、金型が複雑になり費用が増加するおそれがある。また、後加工で芯体部に貫通孔を形成する場合でも、後加工により工程数が増加し、その結果、コストアップにつながるおそれがある。
【0004】
下記特許文献1には、板金製のカバーに取り付けられるゴム製のみからなるガスケットが開示されている。ここにはカバーに突起を設け、突起の先端を基部より拡がるように変形させそこにガスケットを設けることで、接着剤を用いることなく、ガスケットが突起から容易に外れにくい構造が記載されている。
下記特許文献2には、燃料電池セルのシール手段として用いられる樹脂系セパレータに設けられるシール構造体の製造方法が開示されている。ここには、ガスケット保持溝の両サイドの溝肩から隆起した隆起部を、成型用金型の型締めによりガスケット保持溝側へせり出すように塑性変形させてからキャビティ内にシール材料を充填させる製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-106719号公報
【文献】特許第5126472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に開示されているガスケットは、突起に固着されているガスケット自体がシール機能を有するものであり、また上記特許文献2に開示されている樹脂系セパレータも、ガスケット保持溝に形成されるガスケットがシール機能を有するものである。よってシール機能を有する部位が2部材の対向面間に挟持され、芯体部の両面をシールする構造のものには、上記特許文献1や上記特許文献2に開示されている構成をそのまま適用することが難しい。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、2部材間をシールする本来の密封性能を維持しながらも芯体部とシール部とが強固に一体とされたガスケット及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のガスケットは、相互に合体される第1部材及び第2部材の2部材間に取り付けられるガスケットであって、環状の芯体部と、前記芯体部に一体に成形される弾性材製のシール部とを備え、前記芯体部は、前記2部材の対向面間に挟持される芯体本体部と、凹状の第1接合溝と、前記第1接合溝に隣接して形成された凹状の第2接合溝と、前記第1接合溝の前記第2接合溝側の溝肩に形成され前記第1接合溝の開口部位に向けて突出した凸状のくさび部とを備え、前記シール部は、前記2部材の対向面間を密封するシール本体部と、前記第1接合溝及び前記第2接合溝の開口部位まで前記弾性材が充填されて形成される接合部とを有することを特徴とする。
【0009】
また、上記目的を達成するために、本発明のガスケットの製造方法は、相互に合体される第1部材及び第2部材の2部材間に取り付けられ、環状の芯体部と、前記芯体部にインサート成形される弾性材製のシール部とを備えたガスケットの製造方法であって、前記芯体部は、前記2部材の対向面間に挟持される芯体本体部と、凹状の第1接合溝と、前記第1接合溝に隣接して形成された凹状の第2接合溝と、前記第1接合溝の前記第2接合溝側の溝肩に形成された起立状態の凸状のくさび部とを備え、前記くさび部を前記第1接合溝の開口部位側に折り曲げ、前記開口部位に被さるようにくさび部を配する折り曲げ変形工程と、前記芯体部が載置された成形金型のキャビティ内に成形材料を充填し、前記シール部を成形するとともに、前記第1接合溝及び前記第2接合溝の開口部位まで前記成形材料を充填し接合部を一体成形する成形工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のガスケットは、上述した構成とされるため、2部材間をシールする本来の密封性能を維持しながらも芯体部とシール部とが強固に一体とされる。
【0011】
また、本発明のガスケットの製造方法は、上述した構成とされるため、部材間をシールする本来の密封性能を維持しながらも芯体部とシール部とが強固に一体とされたガスケットを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(a)は本発明の一実施形態に係るガスケットの模式的平面図、(b)は(a)のX部の模式的拡大図である。
図2】(a)は図1(b)のY-Y’線矢視断面図、(b)は(a)が第1部材及び第2部材の間にガスケットを取り付けた状態における模式的縦断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係るガスケットの製造方法を説明するための説明図である。(a)は成形金型内に芯体部が載置された状態における模式的縦断面図、(b)は芯体部の要部の模式的平面図、(c)は芯体部の模式的斜視図、(d)は(a)のZ部の模式的拡大図である。
図4】同ガスケットの製造方法を時系列に沿って説明するための説明図である。(a)は図3(a)の成形金型が型締めされた状態における模式的縦断面図、(b)は金型のキャビティ内に弾性材が充填された状態における模式的縦断面図である。
図5】(a)~(d)は、それぞれ本発明の他の実施形態に係るガスケットの模式的縦断面図である。
図6】(a)は本発明のさらに他の実施形態に係るガスケットに用いられる芯体部の模式的平面図、(b)は(a)の芯体部にシール部が接合されたガスケットの模式的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。なお、一部の図では、他図に付している符号の一部を省略している。
【0014】
<ガスケット>
図1図2に示すガスケット1は、相互に合体される第1部材4及び第2部材5の2部材間に取り付けられ、環状の芯体部2と、芯体部2に一体に成形される弾性材製のシール部3とを備える。芯体部2は、2部材の対向面4a,5a間に挟持される芯体本体部20と、凹状の第1接合溝23と、第1接合溝23に隣接して形成された凹状の第2接合溝24とを備える。さらに芯体部2は、第1接合溝23の第2接合溝24側の溝肩に形成され第1接合溝23の開口部位23aに向けて突出した凸状のくさび部25を備える。シール部3は、2部材の対向面4a,5a間を密封するシール本体部30と、第1接合溝23及び第2接合溝24の開口部位23a,24aまで弾性材が充填されて形成される接合部31とを有する。
以下、詳しく説明する。なお、本明細書では、2部材間に取り付けられた状態において、第1部材4側を上側、第2部材5側を下側として、ガスケット1を説明する。
【0015】
本実施形態において、第1部材4は、第2部材5の上方に配される部材である。第1部材4及び第2部材5としては、例えば内燃機関のヒートエクスチェンジャーカバー及びエクスチェンジャーや、シリンダブロック及びオイルパン等が挙げられる。本実施形態のガスケット1は、上述したような第1部材4の対向面4a及び第2部材5の対向面5aの間を密封する部材である。図1(a)に示すガスケット1の平面視における形状は、第1部材4及び第2部材5の対向面4a,5aの形状に沿ったものとされる。
【0016】
図1(a)に示すガスケット1は、環状の芯体部2及び芯体部2に一体に成形される弾性材製のシール部3を備えている。芯体部2は、冷間圧延鋼板やステンレス鋼板等の剛性を有する金属材料の板材の打ち抜き加工や、熱可塑性樹脂材料による射出成形等で形成される。この芯体部2の内周面2a側にはシール部3が一体に成形される。2部材の対向面4a,5a間に挟持される芯体本体部20の上面20a及び下面20bの内周面2a側には、芯体部2の上下方向(厚み方向)の中心側へ切欠状に形成された切欠段部21,21がそれぞれ形成されている。また、上面20aの適所には、切欠段部21に連なって外周側へ延出した接合凹部22が複数設けられている。芯体本体部20の適所には、固着具であるボルトによって第1部材4及び第2部材5に組付けるための上下方向に貫通したボルト孔26が複数設けられている。
【0017】
図1(a)のX部の拡大図である図1(b)に示すように、接合凹部22には、2つの第1接合溝23,23及び第2接合溝24が設けられている。第1接合溝23は、切欠段部21からさらに下方に窪んだ凹部であり、その開口部位23aは、芯体本体部20の周方向に沿って延びた、平面視して丸角の長方形状となっている。第1接合溝23の底面23bは、開口部位23aよりも平面視してわずかに小さい丸角の長方形状となっている。2つの第1接合溝23,23は、芯体本体部20の周方向に直交する幅方向に間隔を空けて並んで設けられている。内周側の第1接合溝23は切欠段部21に隣接した位置に配されており、外周側の第1接合溝23は、接合凹部22の外周側の縁部に沿って形成されて、芯体本体部20の上面20aに隣接した位置に配されている。第1接合溝23,23の間には、第1接合溝23,23に隣接した凹状の第2接合溝24が設けられている。第2接合溝24は、切欠段部21と略面一に設けられている。また、第1接合溝23,23の第2接合溝24側の溝肩には、第1接合溝23,23の開口部位23a,23aに被さるように板体を折り曲げ形成されたくさび部25,25が形成されている。本実施形態において、くさび部25の他方面(下面)25bは、第1接合溝23の内側壁23cに対して直角に近い角度で折り曲げ形成されている。つまり、本実施形態において内周側の第1接合溝23に隣接するくさび部25は、内周側に折り曲げ形成され、外周側の第1接合溝23に隣接するくさび部25は、外周側に折り曲げ形成される。また、くさび部25は、その先端部25dが第1接合溝23の溝幅の略中心に位置するように形成されている。くさび部25は、第1接合溝23の長手方向の略中心に配され、その長手方向の寸法は、第1接合溝23の長手方向の寸法よりも短いものとなっている。
【0018】
シール部3は、弾性材からなり、芯体部2に固着一体に成形される。弾性材としては、EPDM、NBR、H-NBR、ACM、AEM、FKM等のゴム材等が挙げられる。なお、シール部3を構成する弾性材は上記列挙したものやゴム材に限定されず弾性を有する樹脂材等であってもよく、設計に応じて適宜選択されればよい。
【0019】
シール部3の内周側には、第1部材4及び第2部材5の対向面4a,5a間を密封するシール本体部30を有する。このシール本体部30は、芯体部2の内周面2aに沿って内周面2aよりも内周側に設けられており、芯体本体部20の上面20a及び下面20bよりも上下方向に突出して形成されている(図2(a)参照)。ガスケット1が第1部材4及び第2部材5に組付けられると、シール本体部30が対向面4a,5aに接触して弾性変形しながら対向面4a,5a間を密封する(図2(b)参照)。
【0020】
シール部3は、芯体本体部20の上面20a及び下面20bに設けられた切欠段部21,21に至るように固着される。さらにシール部3は、第1接合溝23,23の開口部位23a,23a及び第2接合溝24の開口部位24aまで弾性材が充填された接合部31を有する。第1接合溝23内の接合部31は、弾性材が第1接合溝23の底面23bからくさび部25の他方面25b間に充填されて、開口部位23aまで充填されている。図1のY-Y’線矢視断面図である図2(a)に示すように、シール本体部30以外の部分のシール部3は、芯体本体部20の上面20a、下面20b及びくさび部25の一方面(上面)25aに対して略面一となるように構成されている。
【0021】
本実施形態の芯体部2は、金属材料または熱可塑性樹脂材料からなり、くさび部25が折り曲げ形成されているので、くさび部25を容易に形成することができる。また、くさび部25は、第1接合溝23の開口部位23aに被さるように折り曲げ形成されている。そして、弾性材は第1接合溝23の底面23bからくさび部25の他方面25b間に充填されている。そのため、第1接合溝23内に存在する弾性材にくさび部25が被さっているので、接合部31が第1接合溝23内から剥離することが抑制される。さらに、第1接合溝23の開口部位23a及び第2接合溝24の開口部位24aまで弾性材が行き渡って接合部31が構成されるので、芯体部2とシール部3とが強固に一体とされる。このように、本実施形態のガスケット1は、図2(b)に示すように2部材間をシールする本来の密封性能を維持しながらも、芯体部2とシール部3とが強固に一体とされる。また、シール部3は、芯体本体部20の上面20a及び下面20bの切欠段部21,21にも充填して固着されているため、芯体部2とシール部3とがより強固に一体とされる。また、くさび部25は折り曲げられた基部25cの部分の周囲がシール部3によって充填されて、一方面(上面)25aがシール部3と略面一となっているため、第1部材4と第2部材5の間に取り付けられた状態でくさび部25に応力が集中することが抑制される。なお、くさび部25の一方面(上面)25aは、弾性材に覆われておらず、シール部3から露出している。図1(a)に示すように、本実施形態のガスケット1では、接合凹部22に充填された接合部31が周方向に間隔を空けて4つ設けられている。
【0022】
<製造方法>
次に図3及び図4を参照しながら、図1及び図2に示すガスケット1の製造方法について説明する。
ガスケット1は、芯体部2に弾性材製のシール部3をインサート成形することによって製造される。この製造において、後述する折り曲げ変形工程前のくさび部25は、芯体部の第1接合溝23の第2接合溝24側の溝肩に形成された起立状態の凸状となっている。このくさび部を第1接合溝23の開口部位23a側に折り曲げ、開口部位23aに被さるようにくさび部25を配する(折り曲げ変形工程)。そして、芯体部2が載置された成形金型100のキャビティ130内に成形材料を充填し、シール部3を成形するとともに、第1接合溝23及び第2接合溝24の開口部位23a,24aまで成形材料を充填し接合部31を一体成形する(成形工程)。
以下、ガスケット1の製造方法について、詳しく説明する。なお、図3(a)~(d)に示す起立状態のくさび部25において、第2接合溝24側の面を一方面25a、第1接合溝23側の面を他方面25bとする。折り曲げ変形工程後、くさび部25の一方面25aは上方、他方面25bは下方を向く面となる。
【0023】
図3(a)~(d)に示すように、本実施形態の製造方法に用いられる芯体部2は、芯体部2の第1接合溝23の第2接合溝24側の溝肩に形成された起立状態の凸状のくさび部25を有する。くさび部25は板体であり、その一方面25aは、基部25cから先端部25dにかけて隣接する第1接合溝23側に傾斜した形状となっている。くさび部25の他方面25bは、第1接合溝23の内側壁23cと略面一に構成され、第1接合溝23の底面23bに対して略垂直となっている。つまり、くさび部25は、第2接合溝24側における一方面25aの基部25cから先端部25dへの傾斜が、第1接合溝23側における他方面25bの基部25cから先端部25dへの傾斜よりも大きく形成されている。また、図3(a)~(d)に示すように、くさび部25の先端部25dは、一方面25a側が隣接する第1接合溝23側に上がり傾斜した曲面形状、他方面25b側が平面形状となっている。また、図3(b)(c)に示すように、くさび部25は、第1接合溝23の長手方向の略中心に配され、その長手方向の寸法は、第1接合溝23の長手方向の寸法よりも短いものとなっている。
【0024】
成形金型100は、上型110と下型120とで構成される。上型110及び下型120には、型締めによってキャビティ130を構成するキャビティ面111,121が設けられている。上型110には、外部からの成形材料rをキャビティ130内に供給するためのゲート部112がキャビティ面111に連なるように形成されている。上型110及び下型120は、それぞれのキャビティ面111,121が対向するように配置される。キャビティ130は、成形材料が充填される空間であり、その形状はシール部3の形状に沿ったものとなっている。
【0025】
次にガスケット1を製造するための各工程について説明する。
折り曲げ変形工程では、まず下型120のキャビティ面121上に芯体部2を載置する(図3(a)参照)。そして、上型110及び下型120を型締めする。このとき、上型110のキャビティ面111にくさび部25の先端部25dが当接し、型締めの進行に伴い上型110による押圧で起立状態のくさび部25が隣接する第1接合溝23の開口部位23a側に折り曲げ変形される(折り曲げ変形工程)。型締めが完了すると、くさび部25は、他方面25bが第1接合溝23の内側壁23cに対して直角に近い角度で折り曲げられる(図4(a)参照)。
【0026】
図3(d)に示すように、くさび部25は、第2接合溝24側における一方面25aの基部25cから先端部25dへの傾斜が、第1接合溝23側における他方面25bの基部25cから先端部25dへの傾斜よりも大きく形成されている。そのため、くさび部25は、折り曲げ変形工程による上型110の押圧によって隣接する第1接合溝23の開口部位23a側に折り曲げ変形しやすくなっている。さらに、くさび部25の先端部25dは、一方面25a側が隣接する第1接合溝23側に上がり傾斜した曲面形状、他方面25b側が平面形状となっている。そのため、上型110がくさび部25の先端部25dに当接してくさび25の折り曲げを開始すると、曲面形状となっている一方面25a側をスムーズに滑り、くさび部25をより確実に第1接合溝23の開口部位23a側に折り曲げ変形しやすくなっている。
【0027】
折り曲げ変形工程によって芯体部2のくさび部25が折り曲げ変形され、型締めによってキャビティ130が構成された後、成形工程を行う。成形工程では、ゲート部112を介して、外部からの成形材料rをキャビティ130内に射出成形する。この成形材料rは、流動性を有する未加硫の弾性材とされる。キャビティ130内に成形材料rが充填されると、第1接合溝23,23及び第2接合溝24の開口部位23a,23a,24aまで成形材料が充填される。くさび部25は開口部位23aを完全には閉塞せずにその一部に被さっている状態であるので、くさび部25が被さっていない箇所から成形材料rが第1接合溝23内に流れ込んで充填される。キャビティ130内に充填された成形材料rを加硫させた後、型開きして離型し、ゲート部112内等で加硫された余分な弾性材をカットすれば、芯体部2とシール部3とが一体成形された図1等に示すガスケット1が製造される。成形工程では、第1接合溝23及び第2接合溝24の開口部位23a,24aまで成形材料rが充填されているので、シール部3の成形とともに接合部31も成形される。
【0028】
上述した製造方法によれば、折り曲げ変形工程によって、起立状態のくさび部25を折り曲げ、第1接合溝23の開口部位23aに被さるように折り曲げ形成されたくさび部25を設けることができる。折り曲げ形成されたくさび部25によって、シール部3の接合部31が芯体部2から脱落することを抑制して芯体部2とシール部3とを一体に強固にすることができる。また、本実施形態の折り曲げ変形工程では、型締めの際の上型110による押圧で起立状態のくさび部25を折り曲げ変形するので、芯体部2とシール部3とを強固に一体にするくさび部25を製造工程の中で工数を増やすことなく設けることができる。
【0029】
そして、成型工程では、シール部3を形成するための成形材料rが第1接合溝23及び第2接合溝24の開口部位23a,24aまで充填され接合部31が一体成形される。そのため、従来のように公差管理が難しいピアス穴を芯体部2に設ける必要がなく、本来の密封性能を維持しながらも芯体部2とシール部3とが強固に一体とされたガスケット1を得ることができる。また、接着剤を用いる必要がないので、接着が難しいために一体に成形するのが難しい異種材同士の組み合わせによるものであっても一体にインサート成形が可能であり、製造工程を増やすことなく、芯体部2及びシール部3の材料選定の自由度が向上する。
【0030】
なお、上述の製造方法では、型締めの際の上型110による押圧で起立状態のくさび部25を折り曲げ変形させているが、それ以外の方法でくさび部25は折り曲げ形成されてもよい。また、上述の成形工程では、成形材料rである未加硫の弾性材をゲート部112から射出成形させているが、成形方法はこれに限定されることはなく、種々の成型方法によって芯体部2とシール部3とが一体にインサート成形されればよい。また、選択された成形方法に応じた成形材料rが選択されればよく、また、選択された成形方法に応じた成形金型100が選択されればよく、例えばゲート部112を不要とする成形方法であれば、ゲート部112が設けられていない成形金型100が選択される。また、成形金型100も本実施形態の上型110及び下型120のように2つの型を用いるものに限定されない。なお、本実施形態の製造方法によれば、芯体部2に接着剤等の塗布を必要としないものではあるが、それを除外するものではなく、折り曲げ変形工程の前に芯体部2に対する接着剤の塗布工程が行われてもよい。接着剤が芯体部2に塗布されると、第1接合溝23の底面23bに接着剤が溜まり、厚みのある接着層を確保することができる。また、折り曲げ変形工程の際に、第1接合溝23内や第2接合溝24内に形成された接着層に上型110が直接接触しにくいので接着層の厚さが損なわれにくく、成形工程後の接着性の向上が期待できる。
【0031】
<他の実施形態に係るガスケット>
次に図5を参照しながら、他の実施形態に係るガスケットについて、それぞれ説明する。なお、図5(a)~(d)は、図2(a)(図1(b)のY-Y’線矢視断面図)に対応する、各実施形態の模式的縦断面図である。また、以下の説明では、上述した図1図2に示す第1実施形態のガスケット1と共通する部分の構成及び効果の説明は省略する。
【0032】
図5(a)に示すガスケット1Aは、第1実施形態のガスケット1と異なり、芯体本体部20の外周面2b側の上面20a及び下面20bに切欠段部21,21が設けられ、芯体部2の外周面2b側にシール部3が一体成形され、その他の部分の構成は、第1実施形態のものと略同様の構成である。シール部3が芯体部2の外周面2b側に設けられていても、ガスケット1Aは、第1部材4及び第2部材5の対向面4a,5a間を密封することができる。
【0033】
図5(b)に示すガスケット1Bは、第1部材4の対向面4aに対向する芯体本体部20の上面20a及び第2部材5の対向面5aに対向する芯体本体部20の下面20bのそれぞれに、第1接合溝23,23、第2接合溝24及びくさび部25,25が形成されている。さらに、上面20a側の第1接合溝23,23の開口部位23a,23aまで弾性材が充填され、下面20b側の第1接合溝23,23の開口部位23a,23aから底面23b,23bまで弾性材が充填されている。そのため、上面20a、下面20bのそれぞれに接合部31,31が形成されているので、芯体部2とシール部3との接合がより強固となる。図5(b)に示すガスケット1Bは、芯体部2の下面20bに、第1接合溝23,23、第2接合溝24、くさび部25,25及び接合部31が形成されている以外の構成は、第1実施形態のものと略同様である。
【0034】
図5(c)に示すガスケット1Cは、第1実施形態のガスケット1における内周側の第1接合溝23及びくさび部25が形成され、第1実施形態のガスケット1における外周側の第1接合溝23及びくさび部25が形成されていない構成となっている。また、第2接合溝24の溝幅が第1実施形態のものと比べて小さく形成されている。図5(c)に示すガスケット1Cは、第1接合溝23、第2接合溝24及びくさび部25以外の部分の構成は第1実施形態のものと略同様である。第1接合溝23及びくさび部25が1つずつであっても、くさび部25によって接合部31の剥離が抑制され、芯体部2とシール部3とが強固に一体とされる。なお、第1実施形態のガスケット1の内周側ではなく外周側の第1接合溝23及びくさび部25が形成されている構成であってもよい。
【0035】
図5(d)に示すガスケット1Dの芯体部2は、第1実施形態のガスケット1の芯体部2を周方向の中心に沿って分割したような形状となっている。図5(d)に示すガスケット1Dにおいて、芯体部2は第1芯体部2A及び第2芯体部2Bの2つの部材により構成される。第1芯体部2Aは、第2芯体部2Bの内周側に配置され、シール部3を介して第2芯体部2Bに隣接している。
【0036】
第1芯体部2A及び第2芯体部2Bはそれぞれ環状に形成されている。第1芯体部2Aは、外周面2Ab側の上面20a及び下面20bに切欠段部21,21が形成され、第2芯体部2Bは、内周面2Ba側の上面20a及び下面20bに切欠段部21,21が形成されている。第1芯体部2A及び第2芯体部2Bの第1接合溝23に隣接した部分の切欠段部21,21が、第2接合溝24として機能する。くさび部25,25はそれぞれ第1芯体部2A及び第2芯体部2Bの第1接合溝23,23の溝肩に形成されている。第1芯体部2Aのくさび部25は、第1接合溝23の外周側(第2接合溝24側)の溝肩に形成されて第1接合溝23の開口部位23aに被さるように内周側に折り曲げ形成されている。第2芯体部2Bのくさび部25は、第1接合溝23の内周側(第2接合溝24側)の溝肩に形成されて第1接合溝23の開口部位23aに被さるように外周側に折り曲げ形成されている。
【0037】
シール部3は、第1芯体部2A及び第2芯体部2Bとの間の略中心部にシール本体部30が形成されている。シール本体部30は、芯体部2の上面20a及び下面20bよりも上下方向に突出する2つの突出部30a,30a及び2つの突出部30a,30aの間に底部が設けられている凹部30bを備えている。ガスケット1Dは、芯体部2が2以上に分割されていても、接合部31が第1接合溝23及び第2接合溝24の開口部位23a,24aに充填されることで、芯体部2(第1芯体部2A及び第2芯体部2B)とシール部3とが強固に一体とされる。また、シール本体部30が芯体部2の幅方向の中心に形成されていても、第1部材4及び第2部材5の対向面4a,5a間を密封することができる。本実施形態のシール本体部30は、2つの突出部30a,30aが第1部材4及び第2部材5の対向面4a,5aに接触することで変形して、対向面4a,5a間を密封する。なお、本実施形態では、第1芯体部2A及び第2芯体部2Bはそれぞれ環状に形成された別体のものであるが、第1芯体部2A及び第2芯体部2Bは周方向に間隔を空けて適所に複数設けられた接続部によって接続された一体のものであってもよい。
【0038】
次に、図6を参照しながら、他の実施形態に係るガスケット1Eについて説明する。なお、以下の説明では、上述した図1図2に示す第1実施形態のガスケット1と共通する部分の構成及び効果の説明は省略する。
【0039】
図6(a)は、ガスケット1Eに用いられる芯体部2の接合凹部22の1つを示す模式的平面図である。また、図6(a)のくさび部25は、折り曲げ変形工程前の起立状態を示している。芯体本体部20の内周面2a側の上面20a及び不図示の下面20bには、切欠段部21,21が形成されている。上面20aには、切欠段部21に連なって外周側へ延出した、平面視して略円形の接合凹部22が形成されている。そして、接合凹部22には、2つの第1接合溝23,23及び第1接合溝23,23に隣接した第2接合溝24が設けられている。第1接合溝23,23は、平面視して円形の接合凹部22の曲率に応じた平面視して円弧形状となっている。内周側の第1接合溝23は切欠段部21に近接した位置に配されており、外周側の第1接合溝23は、接合凹部22の縁部に沿って形成されて、芯体本体部20の上面20aに隣接した位置に配されている。また、図6(a)に示すくさび部25,25は、起立状態となっており、第1接合溝23,23の第2接合溝24側の溝肩に形成され、第1接合溝23,23に沿った平面視して円弧形状となっている。
【0040】
図6(b)は、(a)の芯体部2に折り曲げ変形工程及び成形工程を経て、芯体部2とシール部3とが一体に成形されたガスケット1Eの模式的平面図である。芯体部2の内周面2a側にシール部3が形成されており、シール部3の内周側にシール本体部30、第1接合溝23,23及び第2接合溝24に充填されて接合部31が形成されている。平面視して円弧形状のくさび部25,25であっても、折り曲げ変形工程によって、それぞれ隣接する第1接合溝23,23の開口部位23a,23aを覆うように変形される。また、くさび部25,25は、その周囲に充填されたシール部3によって、くさび部25,25に合体された第1部材4及び第2部材5による応力が集中することが抑制される。このような円弧形状に形成された第1接合溝23,23及びくさび部25,25であっても、シール部3が剥離することが抑制されて、芯体部2とシール部3とが強固に一体とされる。
【0041】
ガスケット1,1A,1B,1C,1D,1Eの構成は、上述した各実施形態の構成に限定されることはない。例えば、芯体部2の周方向に直交する幅方向に沿って分割された複数の部材を接合することによって芯体部2が構成されるものであってもよい。また、ガスケット1,1A,1B,1C,1D,1Eに形成される接合部31の数や位置は、図1(a)に示すものに限定されない。また、芯体部2の複数の箇所に形成される第1接合溝23、第2接合溝24及びくさび部25は、形成箇所毎に芯体部2の上面20a、下面20bの異なる面に形成されてもよい。また、第1接合溝23、第2接合溝24及びくさび部25の構成や形状も上述したものに限定されることはない。例えば、芯体部2の上面20aと下面20bとでは、第1接合溝23、第2接合溝24及びくさび部25の構成がそれぞれ異なっているものであってもよい。また、上述の各実施形態では、第1接合溝23は、芯体部2の周方向に沿って延びた長方形状の開口部位23aを有し、くさび部25は芯体部2の周方向に沿って延びたものであるが、これに限定されることはない。例えば、第1接合溝23は芯体部2の周方向に直交する幅方向に沿って延びた開口部位23aを有し、くさび部25は、芯体部2の幅方向に延びた開口部位23aに被さるように芯体部2の幅方向に沿って延びたものであってもよい。また、第2接合溝24は切欠段部21と略面一の構成となっているが、切欠段部21よりも窪んだ形状であってもよい。また、シール部3の構成も上述したものに限定されることはなく、例えば、芯体部2の内周面2a側と外周面2b側のそれぞれにシール本体部30,30が形成されてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1,1A,1B,1C,1D,1E ガスケット
2 芯体部
20 芯体本体部
23 第1接合溝
23a 開口部位
24 第2接合溝
24a 開口部位
25 くさび部
25a 一方面
25b 他方面
25c 基部
25d 先端部
3 シール部
30 シール本体部
31 接合部
4 第1部材
4a 対向面
5 第2部材
5a 対向面
100 成形金型
130 キャビティ
r 成形材料

図1
図2
図3
図4
図5
図6