(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】Drp1-フィラミン複合体形成阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4422 20060101AFI20241113BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20241113BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20241113BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
A61K31/4422
A61P1/00
A61P3/10
A61P9/04
(21)【出願番号】P 2023069650
(22)【出願日】2023-04-20
(62)【分割の表示】P 2021571409の分割
【原出願日】2020-05-26
【審査請求日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2019103034
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】521520898
【氏名又は名称】アールディスカバリー エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】王子田 彰夫
(72)【発明者】
【氏名】進藤 直哉
(72)【発明者】
【氏名】西村 明幸
(72)【発明者】
【氏名】西田 基宏
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/080516(WO,A1)
【文献】特開平02-121967(JP,A)
【文献】特表2001-519415(JP,A)
【文献】ZENG, Hongxia; et al.,Rapid Commun. Mass Spectrom.,2016年,30,1771-1778,DOI:10.1002/rcm.7657
【文献】長島 駿他,日薬理誌,2017年,Vol.149,pp.254-259,DOI: 10.3389/fcell.2015.00062
【文献】Elizabeth A. NOVAK et al.,“Mitochondrial dysfunction in inflammatory bowel disease”,Frontiers in Cell and Developmental Biology,2015年10月01日,Vol. 3,DOI: 10.3389/fcell.2015.00062
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33-33/44
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(3)で表される化合物
又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とする、慢性心不全の予防薬又は治療薬。
【化1】
【請求項2】
下記式(6)で表される化合物
又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とする、慢性心不全の予防薬又は治療薬。
【化2】
【請求項3】
下記式(4)で表される化合物
又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とする、慢性心不全の予防薬又は治療薬。
【化3】
【請求項4】
下記式(5)で表される化合物
又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とする、慢性心不全の予防薬又は治療薬。
【化4】
【請求項5】
下記式(4)で表される化合物
又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とする、炎症性腸疾患の予防薬又は治療薬。
【化5】
【請求項6】
下記式(4)で表される化合物
又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とする、1型糖尿病又は2型糖尿病の予防薬又は治療薬。
【化6】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイナミン関連タンパク質1(Drp1)-フィラミン複合体形成阻害剤及び新規化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
ミトコンドリアは、ほぼすべての真核細胞に見られる細胞小器官であり、主に、電子伝達系で生じる酸化的リン酸化の結果としてATP生成に関与する。ミトコンドリアは融合と分裂を繰り返し、その異常は、がん、心血管疾患、神経変性疾患などの発症に関与することが知られている。例えば、心筋梗塞後に非梗塞領域で誘発されたミトコンドリアの形態学的機能障害は、エネルギー代謝障害を引き起こし、慢性心不全を引き起こすことが示唆されている。
【0003】
ミトコンドリアとアクチン細胞骨格の異常な相互作用は、心筋梗塞後の心臓の脆弱性の重要な決定要因として世間の関心を集めている。ミトコンドリアの分裂は、GTP結合タンパク質であるDrp1の活性化によって誘発される。本発明者らは、心筋細胞を低酸素刺激すると、細胞内のDrp1がフィラミンを結合してDrp1-フィラミン複合体を形成し、さらにDrp1-フィラミン-アクチン複合体を形成してそれ自体を活性化し、ミトコンドリア分裂を促進することを明らかにした。本発明者らはまた、シルニジピンがDrp1-フィラミン複合体の形成を阻害することも明らかにした。(例えば、非特許文献1を参照。)
【0004】
シルニジピンは、以下の化学式(A1)で表される化合物である。シルニジピンは、L型カルシウムチャネル及びN型カルシウムチャネルを遮断する働きがあり、高血圧症薬として使用されてきた。シルニジピンは、他の降圧薬と比較して、降圧効果が持続するという特徴がある。したがって、シルニジピンは、心不全及び不整脈などの心血管疾患の治療薬として有用である(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Nishimura A.,et al.,Hypoxia-induced interaction of filamin with Drp1 causes mitochondrial hyperfission-associated myocardial senescence, Sci.Signal., 11(556), eaat5185, 2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、Drp1-フィラミン複合体形成阻害剤及びDrp1-フィラミン複合体形成阻害剤に有効成分として含めることができる新規化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を含む。
【0010】
一態様では、本発明は、式(I)の化合物:
【化2】
及びその薬理学的に許容される塩及びそれらの溶媒和物を含み、
式中、
化合物が、
【化3】
以外である場合、
R
1は、1~3個の置換基で置換されたフェニルであり、少なくとも1つの置換基がNO
2又はNH
2であるという条件で、置換基のそれぞれは独立してNO
2、NH
2、OH、C
1-C
6アルキル、C
1-C
6ハロアルキル、又はC
1-C
6アルコキシアルキルであり、
R
2は、H、C
1-C
6アルキル、C
1-C
6ハロアルキル、又はC
1-C
6アルコキシアルキルであり、
R
3は、H、C
1-C
6アルキル、C
1-C
6ハロアルキル、又はC
1-C
6アルコキシアルキルであり、
R
4は、C
1-C
6アルキル又はC
1-C
6ハロアルキルであり、
R
5は、フェニル又はピリジニルであり、フェニル又はピリジニルは非置換であるか、又はそれぞれが独立してNO
2、NH
2、OH、C
1-C
6アルキル、C
1-C
6ハロアルキル、又はC
1-C
6アルコキシアルキルである1~3個の置換基で置換されており、
(i)結合aが存在し、結合b及びcが存在しない、あるいは(ii)結合b及びcが存在し、結合aが存在しない、のいずれかであり、
Aは、結合aが存在する場合はNHであり、結合b及びcが存在する場合はNであり、
mは1~4の整数であり、
nは1~3の整数である。
式(I)の化合物は、以下の発明を実施するための形態及び特定の実施形態1~41にさらに記載されている。
【0011】
別の態様では、本発明は、式(1)の化合物:
【化4】
及びその薬理学的に許容される塩及びそれらの溶媒和物を含み、
式中、
R
1はフェニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基又は4-ピリジル基を表し、R
2は水素原子又はアミノ基を表し、R
3は水素原子又はニトロ基を表し、R
2が水素原子である場合、R
3はニトロ基であり、R
2がアミノ基である場合、R
3は水素原子である。
式(I)の化合物は、以下の発明を実施するための形態及び特定の実施形態42~44にさらに記載されている。
【0012】
別の態様では、本発明は、式(2)の化合物:
【化5】
及びその薬理学的に許容される塩及びそれらの溶媒和物を含み、
式中、
R
4はフェニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基又は4-ピリジル基を表し、R
5はアミノ基を表し、R
6は水素原子を表す。
【0013】
別の態様では、本発明は、式(A)の化合物:
【化6】
及びその薬理学的に許容される塩及びそれらの溶媒和物を含み、
式中、
化合物が、
【化7】
以外である場合、
RはNO
2又はNH
2であり、Rはフェニル環の2位、3位、又は4位にあり、XはCH又はNである。
【0014】
別の態様では、本発明は、式(B)の化合物:
【化8】
及びその薬理学的に許容される塩及びそれらの溶媒和物を含み、
式中、
RはNO
2又はNH
2であり、Rはフェニル環の2位、3位、又は4位にあり、XはCH又はNを表す。
【0015】
別の態様では、本発明は、(a)本発明の化合物及び(b)1つ以上の薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を含む。本明細書で使用される「本発明の化合物」という用語は、式(I)の化合物もしくはその薬理学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物、式(1)の化合物もしくはその薬理学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物、式(2)の化合物もしくはその薬理学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物、式(A)の化合物もしくはその薬理学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物、又は式(B)の化合物もしくはその薬理学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物を指す。本明細書で「本発明の医薬組成物」と呼ばれることもある上記医薬組成物は、以下の発明を実施するための形態及び特定の実施形態65~88にさらに記載されている。
【0016】
別の態様では、本発明は、有効成分として本発明の化合物を含むダイナミン関連タンパク質1(Drp1)-フィラミン複合体形成阻害剤を含む。本明細書で「本発明の(Drp1)-フィラミン複合体形成阻害剤」と呼ばれることもある上記ダイナミン関連タンパク質1(Drp1)-フィラミン複合体形成阻害剤は、以下の発明を実施するための形態及び特定の実施形態89にさらに記載されている。
【0017】
さらに別の態様では、本発明は、シルニジピンと比較して有利な特性を有する本発明の化合物を含む。いくつかの態様では、化合物は、ミトコンドリア分裂を阻害するシルニジピンと同様の能力を有するが、シルニジピンと比較してカルシウムチャネルを遮断する能力が低下している。他の態様では、化合物は、カルシウムチャネルを遮断する能力の低下の有無にかかわらず、ミトコンドリア分裂を阻害するシルニジピンと比較して増強された能力を有する。そのような有利な特性を有する化合物は、以下の発明を実施するための形態及び特定の実施形態52~64にさらに記載されている。
【0018】
さらなる態様では、本発明は、例えば、Drp1機能障害によって引き起こされる疾患、慢性心不全、筋萎縮性側索硬化症、炎症性腸疾患、又は糖尿病、例えば1型及び2型(1/2型)糖尿病の予防薬又は治療薬として使用するための本発明の化合物、医薬組成物、及び(Drp1)-フィラミン複合体形成阻害剤を含む。Drp1機能障害、慢性心不全、筋萎縮性側索硬化症、炎症性腸疾患、及び糖尿病、例えば、1/2型糖尿病によって引き起こされる疾患を、本発明の化合物、医薬組成物、及び(Drp1)-フィラミン複合体形成阻害剤を用いて治療する方法も提供される。例示的な使用及び治療方法は、以下の発明を実施するための形態及び特定の実施形態90~99にさらに記載されている。
【0019】
本発明は以下の態様をさらに含む。
[1]有効成分として、以下の式(1)で表される化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物を含むダイナミン関連タンパク質1(Drp1)-フィラミン複合体形成阻害剤。
【化9】
[式(1)において、R
1はフェニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基又は4-ピリジル基を表し、R
2は水素原子又はアミノ基を表し、R
3は水素原子又はニトロ基を表し、R
2が水素原子である場合、R
3はニトロ基であり、R
2がアミノ基である場合、R
3は水素原子である]。
[2]式(1)において、R
1がフェニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基もしくは4-ピリジル基を表し、R
2が水素原子を表し、R
3がニトロ基を表し、又はR
1が2-ピリジル基、3-ピリジル基もしくは4-ピリジル基を表し、R
2がアミノ基を表し、R
3が水素原子を表す、[1]に記載のDrp1-フィラミン複合体形成阻害剤。
[3]式(1)において、R
1がフェニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基又は4-ピリジル基を表し、R
2がアミノ基を表し、R
3が水素原子を表す、[1]に記載のDrp1-フィラミン複合体形成阻害剤。
[4]Drp1機能障害によって引き起こされる疾患の予防薬又は治療薬である、[1]~[3]のいずれかに記載のDrp1-フィラミン複合体形成阻害剤。
[5]疾患が慢性心不全、筋萎縮性側索硬化症、炎症性腸疾患又は糖尿病、例えば、1/2型糖尿病である、[4]に記載のDrp1-フィラミン複合体形成阻害剤。
[6][1]~[5]のいずれかに記載のDrp1-フィラミン複合体形成阻害剤、及び薬学的に許容される担体を含む、Drp1-フィラミン複合体形成を阻害するための医薬組成物。
[7]以下の式(2)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
【化10】
[式(2)において、R
4はフェニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基又は4-ピリジル基を表し、R
5はアミノ基を表し、R
6は水素原子を表す]。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、Drp1-フィラミン複合体形成阻害剤を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1(a)は、実験例1において正常酸素下で培養した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図1(b)は、実験例1において低酸素下で培養した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
【
図2】
図2(a)は、ミトコンドリアの代表的な蛍光顕微鏡写真である。
図2(b)は、
図2(a)の写真からフィルタリングして抽出されたミトコンドリアの形状を示す画像である。
図2(c)は、正常酸素又は低酸素下で培養した新生仔ラットの心筋細胞のミトコンドリアの長さを示すグラフである。
【
図3】
図3は、実験例2において小胞状ミトコンドリアを有する細胞の割合の測定結果を示すグラフである。
【
図4】
図4(a)は、実験例3の実験スケジュールを示す図である。
図4(b)は、実験例3における生存率の測定結果を示すグラフである。
【
図5】
図5(a)は、実験例4の実験スケジュールを示す図である。
図5(b)は、実験例4における生存率の測定結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実験例5における各群のマウスの血糖値の経時変化を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実験例6の解析結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、実験例8における管状ミトコンドリアを有する細胞の割合の測定結果を示すグラフである。
【
図9】
図9(a)は、実験例9における細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図9(b)は、
図9(a)の蛍光顕微鏡写真の画像解析の結果としてのミトコンドリア断片の平均長の測定結果を示すグラフである。
【
図10】
図10は、実験例10におけるα-アクチニン陽性細胞に対するp53蓄積細胞の割合の測定結果を示すグラフである。
【
図11】
図11は、実験例11における小胞状ミトコンドリアを有する細胞の割合の測定結果を示すグラフである。
【
図12】
図12は、実験例12における塩化カリウム刺激後の細胞内カルシウムイオン濃度の増加を示すグラフである。
【
図13】
図13は、実験例13における小胞状ミトコンドリアを有する細胞の割合の測定結果を示すグラフである。
【
図14】
図14は、実験例14における管状ミトコンドリアを有する細胞の割合の測定結果を示すグラフである。
【
図15】
図15は、実験例15における塩化カリウム刺激後の細胞内カルシウムイオン濃度の増加を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(化合物)
一態様では、本発明は、式(I)の化合物:
【化11】
及びその薬理学的に許容される塩及びそれらの溶媒和物を含み、
式中、
化合物が、
【化12】
以外である場合、
R
1は、1~3個の置換基で置換されたフェニルであり、少なくとも1つの置換基がNO
2又はNH
2であるという条件で、置換基のそれぞれは独立してNO
2、NH
2、OH、C
1-C
6アルキル、C
1-C
6ハロアルキル、又はC
1-C
6アルコキシアルキルであり、
R
2は、H、C
1-C
6アルキル、C
1-C
6ハロアルキル、又はC
1-C
6アルコキシアルキルであり、
R
3は、H、C
1-C
6アルキル、C
1-C
6ハロアルキル、又はC
1-C
6アルコキシアルキルであり、
R
4は、C
1-C
6アルキル又はC
1-C
6ハロアルキルであり、
R
5は、フェニル又はピリジニルであり、フェニル又はピリジニルは非置換であるか、又はそれぞれが独立してNO
2、NH
2、OH、C
1-C
6アルキル、C
1-C
6ハロアルキル、又はC
1-C
6アルコキシアルキルである1~3個の置換基で置換されており、
(i)結合aが存在し、結合b及びcが存在しない、あるいは(ii)結合b及びcが存在し、結合aが存在しない、のいずれかであり、
Aは、結合aが存在する場合はNHであり、結合b及びcが存在する場合はNであり、
mは1~4の整数であり、
nは1~3の整数である。
【0023】
本明細書で使用される場合、「C1-Cnアルキル」という用語は、鎖中に1~n個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖の非置換アルキルを指す。C1-C6アルキルの例には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル(tBu)、ペンチル、イソペンチル、tert-ペンチル、ヘキシル、及びイソヘキシルが含まれる。
【0024】
本明細書で使用される場合、「C1-Cnハロアルキル」という用語は、鎖中に1~n個の炭素原子を有し、1つ以上の水素原子がハロゲンで置換されている直鎖又は分枝鎖の非置換アルキルを指す。ハロアルキル基の例には、トリフルオロメチル(CF3)、ジフルオロメチル(CF2H)、モノフルオロメチル(CH2F)、ペンタフルオロエチル(CF2CF3)、テトラフルオロエチル(CHFCF3)、モノフルオロエチル(CH2CH2F)、及びトリフルオロエチル(CH2CF3)が含まれる。
【0025】
本明細書で使用される場合、「C1-Cnアルコキシアルキル」という用語は、鎖中に1~n個の炭素原子を有し、基を分子の残部に結合する末端酸素を有する直鎖又は分枝鎖の非置換アルキルを指す。C1~C6アルコキシ基の例には、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、t-ブトキシ、ペントキシ、及びヘキソキシが含まれる。
【0026】
本明細書で使用される場合、「フェニル」という用語は、以下の基を表す:
【化13】
置換フェニル基の置換基は、フェニル環上のその位置によって同定できる。例えば、置換基は、2位、3位、又は4位にある場合があり、位置の番号付けは、前述のフェニル構造に示されるような位置を指す。
【0027】
本明細書で使用される場合、「ピリジニル」又は「ピリジル」という用語は、1つの環CHが窒素原子で置き換えられたフェニル基を表す。ピリジニル基は、2-ピリジル、3-ピリジル、又は4-ピリジルであり得る。「2-ピリジル」は、次の基を指す。
【化14】
「3-ピリジル」は、次の基を指す。
【化15】
「4-ピリジル」は、次の基を指す。
【化16】
【0028】
基に関する「非置換」という用語は、特定の基が置換基を有さないことを意味する。基に関する「置換された」という用語は、特定の基が1つ以上の置換基を有することを意味する。基が置換されていると明示的に記載されていない場合、そのような基は非置換であると理解される。
【0029】
いくつかの実施形態では、式(I)の化合物は、式(Ia)の化合物である。
【化17】
【0030】
他の実施形態では、式(I)の化合物は、式(Ib)の化合物である。
【化18】
【0031】
式(I)の化合物(式(Ia)及び式(Ib)の化合物を含む)のいくつかの実施形態では、R
1は、
【化19】
であり、
式中、R
1aはNO
2又はNH
2であり、R
1b及びR
1cはそれぞれ独立してH、NO
2、NH
2、OH、C
1-C
6アルキル、C
1-C
6ハロアルキル、又はC
1-C
6アルコキシアルキルである。いくつかの実施形態では、R
1b及びR
1cの両方がHである。
【0032】
式(I)の化合物(式(Ia)及び式(Ib)の化合物を含む)のいくつかの実施形態では、R2は、H、C1-C3アルキル、C1-C3ハロアルキル、又はC1-C3アルコキシアルキルである。いくつかの実施形態では、R2はCH3である。
【0033】
式(I)の化合物(式(Ia)及び式(Ib)の化合物を含む)のいくつかの実施形態では、R3は、H、C1-C3アルキル、C1-C3ハロアルキル、又はC1-C3アルコキシアルキルである。いくつかの実施形態では、R3はCH3である。いくつかの実施形態では、R2及びR3の両方がCH3である。
【0034】
式(I)の化合物(式(Ia)及び式(Ib)の化合物を含む)のいくつかの実施形態では、R4は、C1-C3アルキル又はC1-C3ハロアルキルである。いくつかの実施形態では、R4はCH3である。
【0035】
式(I)の化合物(式(Ia)及び式(Ib)の化合物を含む)のいくつかの実施形態では、R5は、非置換であるか、又は1~3個の置換基で置換されたフェニルであり、置換基のそれぞれは独立してNO2、NH2、OH、C1-C6アルキル、C1-C6ハロアルキル、又はC1-C6アルコキシアルキルである。いくつかの実施形態では、R5は非置換フェニルである。
【0036】
式(I)の化合物(式(Ia)及び式(Ib)の化合物を含む)のいくつかの実施形態では、R5は、非置換であるか、又は1~3個の置換基で置換されたピリジニルであり、置換基のそれぞれは独立してNO2、NH2、OH、C1-C6アルキル、C1-C6ハロアルキル、又はC1-C6アルコキシアルキルである。いくつかの実施形態では、R5は非置換ピリジニルである。いくつかの実施形態では、R5ピリジニル基は、4-ピリジル(例えば、非置換4-ピリジル)である。他の実施形態では、R5ピリジニルは3-ピリジル(例えば、非置換4-ピリジル)である。R5ピリジニルは2-ピリジル(例えば、非置換2-ピリジル)である。
【0037】
式(I)の化合物(式(Ia)及び式(Ib)の化合物を含む)のいくつかの実施形態では、mは1である。他の実施形態では、mは2である。他の実施形態では、mは3である。さらに他の実施形態では、mは4である。
【0038】
式(I)の化合物(式(Ia)及び式(Ib)の化合物を含む)のいくつかの実施形態では、nは1である。他の実施形態では、nは2である。他の実施形態では、nは3である。いくつかの実施形態では、mは2であり、nは1である。
【0039】
式(I)の化合物(式(Ia)及び式(Ib)の化合物を含む)のいくつかの実施形態では、R
1は、
【化20】
であり、
式中、R
1aはNO
2又はNH
2であり、R
2、R
3、及びR
4はCH
3であり、R
5は、非置換フェニル又は非置換ピリジニル(例えば、非置換4-ピリジル、mは2であり、nは1である)である。
【0040】
いくつかの実施形態では、式(I)の化合物は、3-(2-メトキシエチル)5-[(2E)-3-フェニル-2-プロペン-1-イル]2,6-ジメチル-4-(2-ニトロフェニル)-1,4-ジヒドロピリジン-3,5-ジカルボキシラートである。他の実施形態では、式(I)の化合物は、3-(2-メトキシエチル)5-[(2E)-3-フェニル-2-プロペン-1-イル]4-(3-アミノフェニル)-2,6-ジメチル-1,4-ジヒドロピリジン-3,5-ジカルボキシラートである。他の実施形態では、式(I)の化合物は、3-(2-メトキシエチル)5-[(2E)-3-フェニル-2-プロペン-1-イル]2,6-ジメチル-4-(3-ニトロフェニル)ピリジン-3,5-ジカルボキシラートである。他の実施形態では、式(I)の化合物は、3-(2-メトキシエチル)5-[(2E)-3-フェニル-2-プロペン-1-イル]2,6-ジメチル-4-(4-ニトロフェニル)-1,4-ジヒドロピリジン-3,5-ジカルボキシラートである。他の実施形態では、式(I)の化合物は、3-(2-メトキシエチル)5-[(2E)-3-フェニル-2-プロペン-1-イル]4-(4-アミノフェニル)-2,6-ジメチル-1,4-ジヒドロピリジン-3,5-ジカルボキシラートである。他の実施形態では、式(I)の化合物は、3-(2-メトキシエチル)5-[(2E)-3-(ピリジン-4-イル)-2-プロペン-1-イル]2,6-ジメチル-4-(2-ニトロフェニル)-1,4-ジヒドロピリジン-3,5-ジカルボキシラートである。他の実施形態では、式(I)の化合物は、3-(2-メトキシエチル)5-[(2E)-3-(ピリジン-4-イル)-2-プロペン-1-イル]2,6-ジメチル-4-(3-ニトロフェニル)-1,4-ジヒドロピリジン-3,5-ジカルボキシラートである。他の実施形態では、式(I)の化合物は、3-(2-メトキシエチル)5-[(2E)-3-(ピリジン-4-イル)-2-プロペン-1-イル]4-(3-アミノフェニル)-2,6-ジメチル-1,4-ジヒドロピリジン-3,5-ジカルボキシラートである。他の実施形態では、式(I)の化合物は、3-(2-メトキシエチル)5-[(2E)-3-(ピリジン-4-イル)-2-プロペン-1-イル]2,6-ジメチル-4-(4-ニトロフェニル)-1,4-ジヒドロピリジン-3,5-ジカルボキシラートである。
【0041】
別の態様では、本発明は、式(1)の化合物:
【化21】
及びその薬理学的に許容される塩及びそれらの溶媒和物を含み、
式中、
R
1はフェニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基又は4-ピリジル基を表し、R
2は水素原子又はアミノ基を表し、R
3は水素原子又はニトロ基を表し、R
2が水素原子である場合、R
3はニトロ基であり、R
2がアミノ基である場合、R
3は水素原子である。
【0042】
式(1)の化合物のいくつかの実施形態において、R1はフェニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基もしくは4-ピリジル基を表し、R2は水素原子を表し、R3はニトロ基を表し、又はR1は2-ピリジル基、3-ピリジル基もしくは4-ピリジル基を表し、R2はアミノ基を表し、R3は水素原子を表す。いくつかの実施形態では、R1はフェニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基又は4-ピリジル基を表し、R2は水素原子を表し、R3はニトロ基を表す。他の実施形態では、R1は、2-ピリジル基、3-ピリジル基又は4-ピリジル基を表し、R2はアミノ基を表し、R3は水素原子を表す。他の実施形態では、R1はフェニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基又は4-ピリジル基を表し、R2はアミノ基を表し、R3は水素原子を表す。
【0043】
別の態様では、本発明は、以下の式(2)によって表される化合物又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物を提供する。
【化22】
[式(2)において、R
4はフェニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基又は4-ピリジル基を表し、R
5はアミノ基を表し、R
6は水素原子を表す]。
【0044】
上記の式(2)で表される化合物は新規化合物である。上記の式(2)で表される化合物の具体例には、以下の化学式(5)で表される化合物(以下「NS4-700」という)、及び以下の化学式(6)で表される化合物(以下、「NS4-238」という)が含まれる。
【0045】
【0046】
【0047】
NS4-700は、NS4-238と比べて高度にミトコンドリア分裂の抑制能を示すが、カルシウムチャネルを遮断しない。NS4-238は、シルニジピンより約3倍強いミトコンドリア分裂の抑制能を示し、シルニジピンと同程度にカルシウムチャネルを遮断する。
【0048】
別の態様では、本発明は、式(A)の化合物:
【化25】
及びその薬理学的に許容される塩及びそれらの溶媒和物を含み、
式中、
RはNO
2又はNH
2であり、Rはフェニル環の2位、3位、又は4位にあり、化合物が、
【化26】
以外の場合、XはCH又はNである。
【0049】
別の態様では、本発明は、式(B)の化合物:
【化27】
及びその薬理学的に許容される塩及びそれらの溶媒和物を含み、
式中、
RはNO
2又はNH
2であり、Rはフェニル環の2位、3位、又は4位にあり、XはCH又はNを表す。
【0050】
(Drp1-フィラミン複合体形成阻害剤)
一態様において、本発明は、活性成分として、式(I)の化合物もしくはその薬理学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物、式(1)の化合物もしくはその薬理学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物、式(2)の化合物もしくはその薬理学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物、式(A)の化合物もしくはその薬理学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物、又は式(B)の化合物もしくはその薬理学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物を含むダイナミン関連タンパク質1(Drp1)-フィラミン複合体形成阻害剤を含む。
【0051】
一実施形態では、本発明は、有効成分として、以下の式(1)によって表される化合物又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物を含むダイナミン関連タンパク質1(Drp1)-フィラミン複合体形成阻害剤を提供する。
【0052】
【化28】
[式(1)において、R
1はフェニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基又は4-ピリジル基を表し、R
2は水素原子又はアミノ基を表し、R
3は水素原子又はニトロ基を表し、R
2が水素原子である場合、R
3はニトロ基であり、R
2がアミノ基である場合、R
3は水素原子である]。
【0053】
上記の式(1)で表される化合物は、上記の化学式(A1)で表されるシルニジピンの誘導体である。例で後述するように、本発明者らは、式(1)で表される化合物がDrp1-フィラミン複合体の形成を阻害できることを明らかにした。Drp1-フィラミン複合体の形成を阻害すると、ミトコンドリアの分裂を抑制することができる。
【0054】
この実施形態のDrp1-フィラミン複合体形成阻害剤はまた、上記の式(1)によって表される化合物、又はその薬理学的に許容される塩、又はそれらの溶媒和物として理解され得る。
【0055】
ヒトDrp1タンパク質には、NCBIアクセッション番号NP_036193.2、NP_036192.2、NP_001265395.1などが割り当てられている。マウスDrp1タンパク質には、NCBIアクセッション番号NP_001021118.1、NP_001263269.1、NP_001263270.1などが割り当てられている。
【0056】
フィラミンは、フィラミンA、フィラミンB、フィラミンCなどによって例示される。ヒトフィラミンAタンパク質には、NCBIアクセッション番号NP_001104026.1、NP_001447.2などが割り当てられている。マウスフィラミンAタンパク質には、NCBIアクセッション番号NP_001277350.1、NP_034357.2などが割り当てられている。
【0057】
ヒトフィラミンBタンパク質には、NCBIアクセッション番号NP_001157789.1、NP_001157790.1、NP_001157791.1などが割り当てられている。マウスフィラミンBタンパク質には、NCBIアクセッション番号NP_001074896.1、NP_598841.1などが割り当てられている。
【0058】
ヒトフィラミンCタンパク質には、NCBIアクセッション番号NP_001120959.1、NP_001449.3などが割り当てられている。マウスフィラミンCタンパク質には、NCBIアクセッション番号NP_001074654.1、NP_001298003.1などが割り当てられている。
【0059】
この特許明細書において、「…は、有効成分として…を含む」という表記は、「…が、主要な有効成分として、…を含む」を意味する。本発明のDrp1-フィラミン複合体形成阻害剤は、(a)式(I)もしくはその薬理学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物、(b)式(1)もしくはその薬理学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物、(c)式(2)もしくはその薬理学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物、(d)式(A)もしくはその薬理学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物、又は(e)式(E)もしくはその薬理学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物によって表される化合物を含むが、その含有量は特に限定されない。いくつかの実施形態では、本発明のDrp1-フィラミン複合体形成阻害剤は、式(1)によって表される化合物又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物を含む。
【0060】
(薬理学的に許容される塩及び溶媒和物)
式(I)、式(1)、式(2)、式(A)、もしくは式(B)によって表される化合物は、遊離種であり得、式(I)、式(1)、式(2)、式(A)、もしくは式(B)によって表される化合物の薬理学的に許容される塩であり得、式(I)、式(1)、式(2)、式(A)もしくは式(B)によって表される化合物の溶媒和物であり得、又は式(I)、式(1)、式(2)、式(A)、もしくは式(B)によって表される化合物の薬理学的に許容される塩の溶媒和物であり得る。いくつかの実施形態では、化合物は、溶媒和物、より具体的には水和物の形態である。他の実施形態では、化合物は溶媒和物の形態ではない。
【0061】
薬理学的に許容される塩は、ヒドロクロレート、サルフェート、ヒドロブロメート、ヒドロヨージド、ホスフェート、ニトレート、ベンゾエート、メタンスルホネート、2-ヒドロキシエタンスルホネート、p-トルエンスルホネート、アセテート、プロパノエート、オキサレート、マロネート、スクシネート、グルタレート、アジペート、タルトレート、マレエート、フマレート、マレート、又はマンデレートによって例示される。
【0062】
溶媒和物は、薬学的に許容される溶媒和物である限り、特に限定されず、水和物及び有機溶媒和物によって例示される。いくつかの実施形態では、溶媒和物は水和物である。
【0063】
特定の態様では、本発明は、シルニジピンと比較して有利な特性を有する本発明の化合物、例えば、上記の化合物を提供する。いくつかの態様では、化合物は、ミトコンドリア分裂を阻害するシルニジピンと同様の能力を有するが、シルニジピンと比較してカルシウムチャネルを遮断する能力が低下している。例えば、本発明の化合物は、シルニジピンのミトコンドリア分裂阻害活性の少なくとも50%、シルニジピンのミトコンドリア分裂阻害活性の少なくとも75%、シルニジピンのミトコンドリア分裂阻害活性の少なくとも90%を有し、又は少なくともシルニジピンのミトコンドリア分裂阻害活性に等しいミトコンドリア分裂阻害活性を有し得る。ミトコンドリア分裂阻害活性は、本明細書に記載されるように、例えば、実験例1の評価システムによって決定することができる。
【0064】
他の態様では、本発明の化合物は、カルシウムチャネルを遮断する能力の低下の有無にかかわらず、ミトコンドリア分裂を阻害するシルニジピンと比較して増強された能力を有する。例えば、本発明の化合物は、(a)シルニジピンのミトコンドリア分裂阻害活性の少なくとも100%、少なくとも125%又は少なくとも150%(及び場合により最大200%、最大300%又は最大300%超)を有し、及び任意で(b)シルニジピンのカルシウムチャネル遮断活性の75%以下、50%以下、25%以下、又は10%以下のカルシウムチャネル遮断活性を有し得る。ミトコンドリア分裂阻害活性は、本明細書に記載されるように、例えば、実験例1の評価システムによって決定され、カルシウムチャネル遮断活性は、本明細書に記載されるように、例えば、実験例12の評価システムによって決定され得る。
【0065】
(例示的なDrp1-フィラミン複合体形成阻害剤の実施形態)
<第1の実施形態>
第1の実施形態のDrp1-フィラミン複合体形成阻害剤に関して、式(1)によって表される化合物は、R1がフェニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基又は4-ピリジル基を表し、R2が水素原子を表し、R3がニトロ基を表すようなものであり得る。あるいは、第1の実施形態のDrp1-フィラミン複合体形成阻害剤に関して、式(1)によって表される化合物は、R1が2-ピリジル基、3-ピリジル基又は4-ピリジル基を表し、R2がアミノ基を表し、R3が水素原子を表すようなものであり得る。
【0066】
例で後述するように、本発明者らは、第1の実施形態のシルニジピン誘導体がDrp1-フィラミン複合体形成阻害剤を有することを明らかにした。本発明者らはまた、第1の実施形態のシルニジピン誘導体が、カルシウムチャネルを遮断するシルニジピンとは異なり、カルシウムチャネルを遮断するように作用しないことも明らかにした。すなわち、第1の実施形態のシルニジピン誘導体は降圧効果を示さない。
【0067】
例で後述するように、本発明者らは、シルニジピンが、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、炎症性腸疾患、及び糖尿病、例えば、1/2型糖尿病などの難治性疾患に対して治療効果を示すことを明らかにした。
【0068】
しかしながら、シルニジピンの投与は、その降圧効果のために、非高血圧患者にとっては困難である。対照的に、降圧効果を有さない第1の実施形態のシルニジピン誘導体は、非高血圧患者にも投与することができる。
【0069】
第1の実施形態のシルニジピン誘導体の具体例には、下記の化学式(3)で表される化合物(以下、「NS4-019」という)、下記の化学式(4)で表される化合物(以下、「NS4-043」という)、及び下記の化学式(5)で表される化合物(以下、「NS4-700」という)が含まれる。
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
例で後述するように、NS4-019及びNS4-043は、シルニジピンと同等の程度までミトコンドリア分裂に対して抑制能を示す。NS4-700は、後述するNS4-238に匹敵する高い程度までミトコンドリア分裂に対して抑制能を示す。
【0074】
<第2の実施形態>
第2の実施形態のDrp1-フィラミン複合体形成阻害剤に関して、式(1)によって表される化合物は、R1がフェニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基又は4-ピリジル基を表し、R2がアミノ基を表し、R3が水素原子を表すようなものであり得る。
【0075】
例で後述するように、本発明者らは、第2の実施形態のシルニジピン誘導体が、ミトコンドリア分裂に対してシルニジピンの約3倍強力な抑制能を示すことを明らかにした。
【0076】
第2の実施形態のシルニジピン誘導体の具体例としては、以下の化学式(5)で表される化合物(以下「NS4-700」という)、及び以下の化学式(6)で表される化合物(以下、「NS4-238」という)が含まれる。
【0077】
【0078】
【0079】
例で後述するように、NS4-700は、NS4-238と比べて高度にミトコンドリア分裂の抑制能を示すが、カルシウムチャネルを遮断しない。再度、例で後述するように、NS4-238は、シルニジピンより約3倍強いミトコンドリア分裂の抑制能を示し、シルニジピンと同程度にカルシウムチャネルを遮断する。
【0080】
(予防薬又は治療薬)
本発明は、一実施形態では、前述の化合物のいずれか及び本発明のDrp1-フィラミン複合体形成阻害剤を有効成分として含む、Drp1機能障害によって引き起こされる疾患の予防剤又は治療剤を提供する。Drp1機能障害によって引き起こされる疾患は、慢性心不全、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、炎症性腸疾患、及び糖尿病、例えば1/2型糖尿病によって例示される。
【0081】
この実施形態の予防薬又は治療薬に関して、前述の化合物又はDrp1-フィラミン複合体形成阻害剤は、好ましくは、薬学的に許容される担体と混合されて、医薬組成物として製剤化される。医薬組成物は、経口剤形又は非経口剤形を有し得る。経口剤形は、錠剤、ピル、カプセル、エリキシル、及びマイクロカプセルによって例示される。非経口剤形は、注射、吸入剤、坐剤、及びパッチによって例示される。
【0082】
薬学的に許容される担体は、精製水、酸化チタン、カルナウバロウ、合成スクアラン、クロタミトン、及びゼラチンなどの塩基、エチルセルロース、グリセリン、及びメタクリル酸コポリマーSなどの結合剤、結晶セルロース、クロスカルメロースナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、及びヒプロメロースなどの賦形剤、アラビアゴム、アルミノメタケイ酸マグネシウム、ポビドン、ベンジルアルコール、酢酸ナトリウム、及びステアリン酸マグネシウムなどの安定剤、Macrogol400及びMacrogol6000などの可塑剤、ならびに安息香酸ベンジル及びベンジルアルコールなどの可溶化剤によって例示される。
【0083】
医薬組成物は、添加剤をさらに含み得る。添加剤は、スクロース、ラクトース、及びサッカリンなどの甘味料、ペパーミント及びl-メントールなどの香料、安息香酸、サリチル酸、チメロサール、及びフェノールなどの防腐剤によって例示される。
【0084】
医薬組成物は、前述の担体及び添加剤を適切に組み合わせ、一般に認められている薬務に必要とされる単位剤形のいずれかにしたがってそれらを混合することによって製剤化され得る。
【0085】
医薬組成物は、本発明の化合物の純度によって特徴付けられ得る。例えば、特定の態様では、医薬組成物は、本発明の化合物以外の活性医薬成分を含まず、特定の実施形態では、医薬組成物は、シルニジピンを実質的に含まない。本明細書で使用される場合、「シルニジピンを実質的に含まない」という用語は、検出可能な量のシルニジピン、治療有効量のシルニジピン、及び/又は任意の量のシルニジピンを指す。さらなる態様では、医薬組成物における本発明の化合物は、少なくとも90%純粋である(例えば、少なくとも95%純粋、98%純粋、又は99%純粋である)。純度の割合は、担体、例えば、賦形剤を除く医薬組成物における活性医薬成分の純度を指す。
【0086】
本発明の化合物を含む医薬組成物は、好ましくは、(a)少なくとも1mgの本発明の化合物、少なくとも2mgの本発明の化合物、少なくとも5mgの本発明の化合物、少なくとも10mgの本発明の化合物及び/又は(b)最大20mgの本発明の化合物、最大25mgの本発明の化合物、又は最大50mgの本発明の化合物を含む剤形である。
【0087】
患者への投与は、典型的には、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射、及び鼻腔内、経気管支、筋肉内、経皮、又は経口法などの当業者に知られている任意の方法によって実施することができる。投与量は、患者の体重、年齢、及び症状、ならびに投与方法によって異なる場合がある。適切な投与量は、当業者によって適切に選択され得る。
【0088】
Drp1-フィラミン複合体形成阻害剤の投与量は、Drp1-フィラミン複合体形成阻害剤の種類及び患者の症状によって異なり得るが、成人の経口投与量(体重60kgを想定)は通常1日あたり約1~30mgと考えられ、1日1回又は1日数回投与される。
【0089】
非経口投与量は、Drp1-フィラミン複合体形成阻害剤の種類、患者の症状、標的器官、投与方法などによって異なり得るが、成人(体重60kgを想定)の全身投与は通常1日あたり約0.1~10mgと考えられ、1日1回又は1日数回投与される。一方、成人の局所投与(体重60kgを想定)は、通常1日あたり約0.1~10mgと考えられ、1日1回又は1日数回投与される。
【0090】
(他の実施形態)
一実施形態では、本発明は、治療を必要とする患者に有効用量のDrp1-フィラミン複合体形成阻害剤を投与することを含む、Drp1機能障害によって引き起こされる疾患の予防方法又は治療方法を提供する。
【0091】
一実施形態では、本発明は、Drp1機能障害によって引き起こされる疾患の予防又は治療のためのDrp1-フィラミン複合体形成阻害剤を提供する。
【0092】
一実施形態では、本発明は、Drp1機能障害によって引き起こされる疾患の予防薬又は治療薬を製造するためのDrp1-フィラミン複合体形成阻害剤の使用法を提供する。
【0093】
これらの実施形態のすべてにおいて、Drp1-フィラミン複合体形成阻害剤は、前述されたもののいずれかと同じである。また、Drp1機能障害によって引き起こされる疾患は前述のものと同じである。
【0094】
(合成スキーム)
次の合成スキームを使用して、本発明の化合物を調製することができる。スキームA~Dにおいて、R1a、R1b、R1c、R2、R3、R4、及びR5は、式(I)の化合物について本明細書で定義された通りである。
【0095】
【0096】
スキームAでは、必要に応じて、R1a、R1b、R1c、R2、R3、R4、及びR5に保護基を有する、1当量の化合物A、1当量の化合物B、及び1当量の化合物Cを2-プロパノール中で組み合わせ、約70℃で一定時間(例えば、24~72時間)撹拌して、化合物Dを提供する。適切な保護基は知られており、当業者によって容易に選択される(例えば、Wuts and Greene,2007,Greene’s Protective Groups in Organic Synthesis,Fourth Edition,John Wiley&Sons,Inc.;Kocienski,2005,Protecting Groups,Third Edition,Thiemeを参照)。例えば、アミン基は、tert-ブチルオキシカルボニル(Boc)保護基で保護することができる。化合物Dは、例えば、シリカゲルでのフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製することができる。R1a、R1b、R1c、R2、R3、R4、及びR5の保護基は、存在する場合、精製ステップの前後に標準的手段で除去され得る。例えば、Boc保護アミンは、酸加水分解(例えば、ジクロロメタン中の保護アミンをトリフルオロ酢酸で処理すること)によって脱保護され得る。
【0097】
【0098】
スキームBでは、必要に応じてR1a、R1b、R1c、R2、R3、R4、及びR5に保護基を有する、1当量の化合物E、1当量の化合物F、及び1当量の化合物Cを2-プロパノール中で組み合わせ、約70℃で一定時間(例えば、24~72時間)撹拌して、化合物Dを提供することができる。化合物Dは、例えば、シリカゲルでのフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製することができる。R1a、R1b、R1c、R2、R3、R4、及びR5の保護基は、存在する場合、精製ステップの前後に標準的手段で除去され得る。
【0099】
【0100】
スキームCでは、必要に応じてR1b、R1c、R2、R3、R4、及びR5に保護基を有する化合物G(例えば、スキームA又はスキームBにしたがって生成される)を氷酢酸中で過剰の鉄粉末(例えば、化合物Gの1当量あたり55当量)と組み合わせ、約100℃で撹拌することができる(例えば、15分間)。続いて、反応混合物を酢酸エチルで希釈し、セライトのパッドを通して濾過することができる。濾液を重炭酸ナトリウムの飽和水溶液及びブラインで順次洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、真空濃縮することができる。次に、残渣を、例えばシリカゲルでのフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製して、化合物Hを提供することができる。R1b、R1c、R2、R3、R4、及びR5の保護基は、存在する場合、精製ステップの前後に標準的手段で除去することができる。
【0101】
【0102】
スキームDでは、必要に応じてR1a、R1b、R1c、R2、R3、R4、及びR5に保護基を有する化合物D(例えば、スキームA又はスキームBにしたがって作成される)を含むジクロロメタンの撹拌溶液を、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノンDDQと組み合わせることができる。周囲温度で、例えば2時間撹拌した後、反応混合物を、例えばシリカゲルでのフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製して、化合物Iを提供することができる。R1a、R1b、R1c、R2、R3、R4、及びR5の保護基は、存在する場合、精製ステップの前後に標準的手段で除去することができる。
【実施例】
【0103】
本発明は、例を参照して以下でさらに詳述される。しかしながら、本発明は、以下の例に限定されない。
【0104】
(実験例1)
<ミトコンドリア分裂の程度を評価するためのシステムの構築>
細胞内ミトコンドリア分裂の程度を定量的に評価するためのシステムが構築された。より具体的には、新生仔ラットから得られた心筋細胞を、正常酸素下(20%)又は低酸素下(1%)で16時間培養した。次に、ミトコンドリアを選択的に染色する蛍光色素(Thermo Fisher Scientific Inc.のMitoTracker Green FM)で細胞を染色した。細胞を蛍光顕微鏡で観察し、ミトコンドリアの形状を画像解析で定量化した。
【0105】
図1(a)及び1(b)はミトコンドリアの代表的な蛍光顕微鏡写真である。
図1(a)は、正常酸素下で培養した細胞の蛍光顕微鏡写真であり、
図1(b)は、低酸素下で培養した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
【0106】
図2(a)及び
図2(b)は、画像解析によりミトコンドリアの形状を定量化する方法を説明する写真及び画像である。
図2(a)はミトコンドリアの代表的な蛍光顕微鏡写真である。
図2(b)は、
図2(a)の写真からフィルタリングして抽出されたミトコンドリアの形状を示す画像である。
図2(b)の画像は、ミトコンドリアの形状を定量化するために解析された。
【0107】
図2(c)は、正常酸素又は低酸素下で培養した新生仔ラットの心筋細胞のミトコンドリアの長さを示すグラフである。
図2(c)において、「正常酸素」は、通常の酸素濃度下での培養から得られた結果を表し、「低酸素」は、低酸素濃度下での培養から得られた結果を表す。
図2(c)に示すように、3.5μm以下のミトコンドリアは小胞状に分類され、4.2μm以上のミトコンドリアは管状に分類され、サイズが3.6μm以上4.2μm未満のミトコンドリアは中間に分類された。
【0108】
結果から、正常酸素下で培養された新生仔ラットの心筋細胞は、管状ミトコンドリアを高い割合で産生し、一方、低酸素下(1%)で培養された新生仔ラットの心筋細胞は、ミトコンドリア分裂を引き起こし、小胞状ミトコンドリアを高い割合で産生することが明らかになった。この実験例の方法は、ミトコンドリアの形状を定量的に評価できることも確認された。
【0109】
(実験例2)
<既存薬のスクリーニング>
低酸素環境下でミトコンドリア分裂を抑制することができる化合物は、実験例1で構築された評価システムを使用して、既存薬からスクリーニングされた。ここで調べた既存薬には、以下の化学式(A1)で表されるシルニジピン、以下の化学式(A2)で表されるアムロジピン、以下の化学式(A3)で表されるニフェジピン、以下の化学式(A4)で表されるニカルジピン、以下の化学式(A5)で表されるニソルジピン、及び以下の化学式(A6)で表されるニトレンジピンが含まれる。
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
前述の各化合物を、最終濃度が1μMに調整されるように、新生仔ラットの心筋細胞の培養培地に添加し、細胞を1時間インキュベーションし、さらに低酸素環境下で16時間培養した。次に、MitoTracker Green FM(Thermo Fischer Scientific Inc.)を使用して、実験例1で記載されたのと同じ方法で細胞を染色し、蛍光顕微鏡で観察し、ミトコンドリアの形状を定量化した。また、比較のために、薬剤の代わりにジメチルスルホキシド(DMSO)を添加した群を用意した。
【0117】
図3は、小胞状ミトコンドリアを有する細胞の割合の測定結果を示すグラフである。結果から、シルニジピンが低酸素刺激下でミトコンドリア分裂を有意に抑制できることが明らかになった。
【0118】
(実験例3)
<シルニジピン投与による筋萎縮性側索硬化症の改善>
難治性疾患に及ぼすシルニジピンの効果を調べた。この実験例では、筋萎縮性側索硬化症(ALS)のモデルマウスにシルニジピンを投与し、生存率を調べた。使用したALSモデルマウスはSOD1-G93Aマウスであった。
【0119】
図4(a)は実験スケジュールを示す図である。5,000μg/kgのシルニジピンを含む浸透圧ポンプを、ALS発症後の各モデルマウスの腹腔内に埋め込み、薬剤を28日間連続投与し、生存率を測定した。
【0120】
図4(b)は、生存率の測定結果を示すグラフである。
図4(b)において、「SOD1-G93A」はALSモデルマウスから得られた結果を表し、「SOD1-G93A+CIL」はシルニジピン投与後のALSモデルマウスから得られた結果を表す。結果から、シルニジピン投与群のマウスは、非シルニジピン投与群と比較して、生存期間の有意な延長を示すことが明らかになった。結果は、ALSに及ぼすシルニジピンの治療効果を示唆している。
【0121】
(実験例4)
<シルニジピン投与による炎症性腸疾患の改善>
難治性疾患に及ぼすシルニジピンの効果を調べた。この実験例では、炎症性腸疾患のモデルマウスにシルニジピンを投与し、生存率を調べた。使用された炎症性腸疾患のモデルマウスは、デキストランスルファート(DSS)を投与することによって炎症性腸疾患が誘発されるマウスであった。
【0122】
図5(a)は実験スケジュールを示す図である。DSS投与開始の3日前から、25,000μg/kgのシルニジピンを含む浸透圧ポンプを各マウスの腹腔内に埋め込み、薬剤を17日間連続投与し、生存率を測定した。
【0123】
シルニジピン投与開始初日(0日目)から、飲料水として3%DSSを含む水道水をマウスに7日間与えた。シルニジピン投与の開始後7日目~14日目までの期間、飲料水は通常の水道水に戻された。また、シルニジピンの代わりに溶媒のみをマウスに与えた対照群を用意した。
【0124】
図5(b)は、生存率の測定結果を示すグラフである。
図5(b)において、「3%DSS Veh」は、溶媒のみを投与した炎症性腸疾患のモデルマウスから得られた結果を表し、「3%DSS CIL」は、シルニジピンを投与した炎症性腸疾患のモデルマウスから得られた結果を表す。
【0125】
結果から、シルニジピン投与群のマウスは、シルニジピン非投与群のマウスと比較して、生存率の有意な増加を示すことが明らかになった。結果は、炎症性腸疾患に対するシルニジピンの予防効果又は治療効果を示唆している。
【0126】
(実験例5)
<シルニジピン投与による糖尿病の最初の改善>
難治性疾患に及ぼすシルニジピンの効果を調べた。この実験例では、シルニジピンを1/2型糖尿病のモデルマウスに投与し、血糖値を経時的に測定した。使用した1/2型糖尿病のモデルマウスは、生後42日目に200mg/kgのストレプトゾトシン(STZ)を腹腔内投与されたマウスであった。また、比較のために、トレプトゾトシンを投与していないマウスを用意した。
【0127】
各群のマウスの血糖値は、実験開始後、経時的に測定された。実験開始後14日目に、長期投与用に、5,000μg/kgのシルニジピン又は溶媒のみを含む浸透圧ポンプを各群の各マウスに埋め込んだ。
【0128】
図6は、各群のマウスの血糖値の経時変化を示すグラフである。
図6において、「STZ Veh」は、溶媒のみを投与した1/2型糖尿病のモデルマウスから得られた結果を表し、「STZ CIL」は、シルニジピンを投与した1/2型糖尿病のモデルマウスから得られた結果を表し、「偽Veh」は、溶媒のみを投与した対照マウスから得られた結果を表し、「偽CIL」は、シルニジピンを投与した対照マウスから得られた結果を表す。
【0129】
結果から、1/2型糖尿病のモデルマウスは、シルニジピン投与後、正常レベルにさらに近づく血糖値を示すことが明らかになった。結果は、1/2型糖尿病に対するシルニジピンの治療効果を示唆している。
【0130】
(実験例6)
<シルニジピン投与による2型糖尿病の第2の改善>
難治性疾患に及ぼすシルニジピンの効果を調べた。この実験例に示される結果は、九州大学病院の患者についての遡及的解析から得られた。この実験例では、アムロジピンを投与された高血圧患者及び高血糖患者、ならびにシルニジピンを投与された高血圧患者及び高血糖患者における血中HbA1cの割合を評価した。
【0131】
図7は解析結果を示すグラフである。
図7において、「アムロジピン」は、アムロジピンを投与された患者の解析結果を表し、「シルニジピン」は、シルニジピンを投与された患者の解析結果を表す。グラフの数字は患者数を表している。
【0132】
結果から、シルニジピンを投与された患者は、アムロジピンを投与された患者と比較して、HbA1cの有意な減少を示すことが明らかになった。結果は、2型糖尿病に対するシルニジピンの治療効果を示唆している。
【0133】
(実験例7)
<シルニジピン誘導体の合成>
シルニジピン誘導体を合成した。
【0134】
<<NS4-019の合成>>
以下の化学式(3)で表される化合物(以下、「NS4-019」という)は、以下のスキームIにしたがって合成された。
【0135】
【0136】
【0137】
より具体的には、2-メトキシエチルアセトアセタート(164mg、1.02mmol)、2-ニトロベンズアルデヒド(153mg、1.01mmol)及びシンナミル3-アミノクロトナート(220mg、1.01mmol)を2-プロパノール(10mL)に溶解し、混合物を70℃で72時間撹拌した。次に、溶媒を蒸発させ、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(2:1~3:2に段階分けされたヘキサン:酢酸エチル)によって精製して、黄色の粘性油としてNS4-019(283mg、収率57%)を得た。
【0138】
1H NMR(500MHz,CDCl3):7.70(dd,J=8.0,1.0Hz,1H),7.53(dd,J=8.0,1.0Hz,1H),7.45(td,J=8.0,1.0Hz,1H),7.34-7.20(m,6H),6.45(d,J=16.0Hz,1H),6.19(dt,J=16.0,6.5Hz,1H),5.89(s,1H),5.75(s,1H),4.69(ddd,J=13.0,6.5,1.0Hz,1H),4.63(ddd,J=13.0,6.5,1.0Hz,1H),4.27-4.21(m,1H),4.08-4.02(m,1H),3.59-3.47(m,2H),3.26(s,3H),2.33(s,3H),2.32(s,3H).ESI-MS m/z:515.2[M+Na]+.
【0139】
<<NS4-021の合成>>
以下の化学式(7)で表される化合物(以下、「NS4-021」という)は、以下のスキームIIにしたがって合成された。
【0140】
【0141】
【0142】
より具体的には、シルニジピン(50.8mg、0.103mmol)をジクロロメタン(3mL)に溶解し、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノン(31.5mg、0.139mmol)を加えた。混合物を室温で2時間撹拌し、反応混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:酢酸エチル=8:1)により精製して、無色の粘性油としてNS4-021(44.8mg、収率89%)を得た。
【0143】
1H NMR(500MHz,CDCl3):8.16(t,J=2.0Hz,1H),8.00(ddd,J=8.0,2.5,1.0Hz,1H),7.57(dt,J=8.0,1.0Hz,1H),7.41(t,J=8.0Hz,1H),7.36-7.29(m,3H),7.26-7.23(m,2H),6.45(d,J=16.0Hz,1H),5.86(dt,J=16.0,7.0Hz,1H),4.63(dd,J=7.0,1.0Hz,2H),4.14-4.09(m,2H),3.32(t,J=5.0Hz,2H),3.21(s,3H),2.65(s,3H),2.64(s,3H).ESI-MS m/z:513.2[M+Na]+.
【0144】
<<NS4-043の合成>>
以下の化学式(4)で表される化合物(以下、「NS4-043」という)は、以下のスキームIIIにしたがって合成された。
【0145】
【0146】
【0147】
より具体的には、(E)-3-(4-ピリジル)アリルアセトアセタート(220mg、1.00mmol)、2-ニトロベンズアルデヒド(153mg、1.01mmol)及び2-メトキシエチル3-アミノクロトナート(162mg、1.02mmol)を2-プロパノール(5mL)に溶解し、混合物を70℃で36時間撹拌した。溶媒を蒸発させ、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(1:1~1:6に段階分けされたヘキサン:酢酸エチル)で精製して、黄色固体としてNS4-043(128mg、収率26%)を得た。
【0148】
1HNMR(500MHz,CDCl3):8.52(d,J=6.5Hz,2H),7.71(dd,J=8.0,1.5Hz,1H),7.54(dd,J=8.0,1.5Hz,1H),7.47(td,J=8.0,1.5Hz,1H),7.26-7.23(m,1H),7.18(d,J=6.5Hz,2H),6.41(dt,J=16.0,6.0Hz,1H),6.33(d,J=16.0Hz,1H),5.91(s,1H),5.67(s,1H),4.72(ddd,J=13.5,6.0,1.0Hz,1H),4.65(ddd,J=13.5,6.0,1.0Hz,1H),4.27-4.21(m,1H),4.09-4.04(m,1H),3.58-3.48(m,2H),3.26(s,3H),2.35(s,3H),2.34(s,3H).ESI-MS m/z:494.2[M+H]+.
【0149】
<<NS4-238の合成>>
以下の化学式(6)で表される化合物(以下、「NS4-238」という)は、以下のスキームIVにしたがって合成された。
【0150】
【0151】
【0152】
より具体的には、シルニジピン(67.9mg、0.138mmol)を酢酸(2mL)に溶解し、鉄粉末(425mg、7.60mmol)を加えた。混合物を100℃で15分間撹拌し、反応混合物を酢酸エチルで希釈し、次にセライトを通して濾過して、固体成分を分離した。濾液を飽和重炭酸ナトリウム水及び飽和ブラインで洗浄し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧下で蒸発させた。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:酢酸エチル=3:2)で精製して、淡黄色の粘性油としてNS4-238(50.0mg、収率78%)を得た。
【0153】
1HNMR(500MHz,CDCl3):7.35(d,J=7.0Hz,2H),7.30(t,J=7.5Hz,2H),7.24(t,J=7.0Hz,1H),6.99(t,J=7.5Hz,1H),6.71(d,J=7.5Hz,1H),6.66(t,J=2.0Hz,1H),6.53(d,J=16.0Hz,1H),6.46(ddd,J=8.0,2.5,1.0Hz,1H),6.24(dt,J=16.0,6.0Hz,1H),5.62(s,1H),5.01(s,1H),4.77(ddd,J=13.5,6.0,1.5Hz,1H),4.67(ddd,J=13.5,6.0,1.5Hz,1H),4.26-4.14(m,2H),3.57-3.54(m,2H),3.32(s,3H),2.35(s,3H),2.32(s,3H).ESI-MS m/z:463.2[M+H]+.
【0154】
<<NS4-700の合成>>
以下の化学式(5)で表される化合物(以下、「NS4-700」という)は、以下のスキームVにしたがって合成された。
【0155】
【0156】
【0157】
より具体的には、(E)-3-(4-ピリジル)アリルアセトアセタート(42.3mg、0.193mmol)、3-(Boc-アミノ)ベンズアルデヒド(43.8mg、0.198mmol)及び2-メトキシエチル3-アミノクロトナート(30.8mg、0.193mmol)を2-プロパノール(1mL)に溶解し、混合物を70℃で24時間撹拌した。溶媒を蒸発させ、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(1:2~1:3に段階分けされたヘキサン:酢酸エチル)により精製して、無色の非晶質物質として中間体Boc-NS4-700(36.8mg、収率34%)を得た。中間体(31.3mg、55.5μmol)をジクロロメタン(2mL)に溶解し、トリフルオロ酢酸(0.5mL)を滴下した。混合物を室温で20分間撹拌し、反応液を飽和重炭酸ナトリウム水で中和し、ジクロロメタンで2回抽出した。得られた有機層を組み合わせ、飽和ブラインで洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を減圧下で蒸発させた。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(100:1~25:1に段階分けされたクロロホルム:メタノール)で精製して、無色の非晶質物質としてNS4-700(19.9mg、収率77%)を得た。
【0158】
1HNMR(500MHz,CDCl3):8.51(d,J=5.5Hz,2H),7.18(d,J=5.5Hz,2H),7.00(t,J=8.0Hz,1H),6.73(dt,J=7.5,1.0Hz,1H),6.68(t,J=2.0Hz,1H),6.47(ddd,J=8.0,2.5,1.0Hz,1H),6.42(dt,J=16.0,5.0Hz,1H),6.31(d,J=16.0Hz,1H),5.99(s,1H),5.02(s,1H),4.86(ddd,J=14.5,5.0,1.5Hz,1H),4.66(ddd,J=14.5,5.0,1.5Hz,1H),4.29-4.23(m,1H),4.20-4.15(m,1H),3.60-3.56(m,2H),3.33(s,3H),2.37(s,3H),2.31(s,3H).ESI-MS m/z:464.2[M+H]+.
【0159】
<<JYK-002の合成>>
以下の化学式(8)で表される化合物(以下、「JYK-002」という)は、NS4-019について記載されている手順にしたがって、2-メトキシエチル3-オキソブタノアート、(E)-3-フェニル-2-プロペン-1-イル3-アミノブト-2-エノアート、及び4-ニトロベンズアルデヒドから調製された。
【0160】
【0161】
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ:8.02(d,J=8.0Hz,2H),7.44(d,J=8.0Hz,2H),7.29-7.21(m,5H),6.47(d,J=16.0Hz,1H),6.14(dt,J=16.0,6.4Hz,1H),5.64(s,1H),5.13(s,1H),4.73-4.59(m,2H),4.21-4.07(m,2H),3.54-3.43(m,2H),3.27(s,3H),2.35(s,3H),2.32(s,3H).ESI-MS m/z:493.2[M+H]+.
【0162】
<<JYK-003の合成>>
以下の化学式(9)で表される化合物(以下、「JYK-003」という)は、NS4-238について記載されている手順にしたがって、3-(2-メトキシエチル)5-[(2E)-3-フェニル-2-プロペン-1-イル]2,6-ジメチル-4-(4-ニトロフェニル)-1,4-ジヒドロピリジン-3,5-ジカルボキシラートから調製された。
【0163】
【0164】
1H NMR(500MHz,CDCl3)δ:7.36-7.28(m,4H),7.24(tt,J=7.0,1.5Hz,1H),7.09(d,J=8.5Hz,2H),6.53(d,J=8.5Hz,2H),6.50(d,J=16.0Hz,1H),6.22(dt,J=16.0,6.0Hz,1H),5.56(s,1H),4.95(s,1H),4.76(ddd,J=13.5,6.0,1.5Hz,1H),4.66(ddd,J=13.5,6.0,1.5Hz,1H),4.24-4.13(m,2H),3.57-3.53(m,2H),3.32(s,3H),2.34(s,3H),2.32(s,3H).ESI-MS m/z:463.2[M+H]+.
【0165】
<<JYK-001の合成>>
以下の化学式(10)で表される化合物(以下、「JYK-001」という)は、NS4-043についての手順にしたがって、2-メトキシエチル3-アミノブト-2-エノアート、(E)-3-(ピリジン-4-イル)-2-プロペン-1-イル3-オキソブタノアート、及び3-ニトロベンズアルデヒドから調製された。
【0166】
【0167】
1H NMR(500MHz,CDCl3)δ:8.55(d,J=6.0Hz,2H),8.15(t,J=2.0Hz,1H),8.00(dd,J=8.0,2.0Hz,1H),7.66(dd,J=8.0,2.0Hz,1H),7.36(t,J=8.0Hz,1H),7.20(d,J=6.0Hz,2H),6.44-6.42(m,2H),5.77(s,1H),5.17(s,1H),4.78-4.67(m,2H),4.24-4.12(m,2H),3.60-3.50(m,2H),3.30(s,3H),2.41(s,3H),2.37(s,3H).ESI-MS m/z:494.2[M+H]+.
【0168】
<<JYK-004の合成>>
以下の化学式(11)で表される化合物(以下、「JYK-004」という)は、NS4-043について記載されている手順にしたがって、2-メトキシエチル3-アミノブト-2-エノアート、(E)-3-(ピリジン-4-イル)-2-プロペン-1-イル3-オキソブタノアート、及び4-ニトロベンズアルデヒドから調製された。
【0169】
【0170】
1H NMR(500MHz,CDCl3)δ:8.54(d,J=6.0Hz,2H),8.07(d,J=9.0Hz,2H),7.49(d,J=9.0Hz,2H),7.16(d,J=6.0Hz,2H),6.40-6.38(m,2H),5.81(s,1H),5.17(s,1H),4.78-4.68(m,2H),4.26-4.14(m,2H),3.58-3.49(m,2H),3.32(s,3H),2.40(s,3H),2.36(s,3H).ESI-MS m/z:494.2[M+H]+.
【0171】
(実験例8)
<NS4-238の第1の評価>
実験例1で構築された評価システムを使用して、ミトコンドリア分裂に及ぼす実験例7で合成されたNS4-238の抑制能を調べた。
【0172】
NS4-238を、最終濃度が1μMに調整されるように、新生仔ラットの心筋細胞の培養培地に添加し、細胞を1時間インキュベーションし、さらに低酸素環境下で16時間培養した。次に、MitoTracker Green FM(Thermo Fischer Scientific Inc.)を使用して、実験例1で記載されたのと同じ方法で細胞を染色し、蛍光顕微鏡で観察し、ミトコンドリアの形状を定量化した。また、比較のために、NS4-238の代わりにシルニジピンを添加した群、及び薬剤の代わりにジメチルスルホキシド(DMSO)を添加した群を用意した。
【0173】
図8は、管状ミトコンドリアを有する細胞の割合の測定結果を示すグラフである。
図8において、「CIL」は、シルニジピン投与から得られた結果を表し、「NS4-238」は、NS4-238投与から得られた結果を表し、「DMSO」は、DMSO投与から得られた結果を表し、「N」は、正常酸素環境から得られた結果を表し、「H」は、低酸素環境から得られた結果を表す。
【0174】
結果から、NS4-238は低酸素刺激下でミトコンドリア分裂を有意に抑制することが明らかになった。また、ミトコンドリア分裂に対するNS4-238の抑制能はシルニジピンの約3倍高いことも明らかになった。
【0175】
(実験例9)
<NS4-238の第2の評価>
実験例8では、低酸素刺激下でのミトコンドリア分裂が調べられた。この実験例では、ミトコンドリア分裂が過剰発現されたフィラミン又は過剰発現されたフィラミン心筋症変異体によって促進されるか否か、及びミトコンドリア分裂に及ぼすNS4-238の影響が調べられた。
【0176】
フィラミン心筋症と呼ばれる疾患は、フィラミンC遺伝子のA1539T変異(1539位のアデニンからチミンへの置換)を伴うことが知られている。次に、フィラミン-C遺伝子のA1539T変異体と類似するフィラミンA遺伝子のA1545T変異体が心筋細胞のミトコンドリアの形状に及ぼす影響を調べた。
【0177】
mCherryタグと融合した野生型フィラミンA遺伝子の発現ベクター、又はmCherryタグと融合したフィラミンA遺伝子のA1545T変異体の発現ベクターを、マウスの心臓横紋筋細胞株であるH9c2細胞に形質導入し、過剰発現させた。また、比較のために、mCherryの発現ベクターを形質導入し、過剰発現させた群を用意した。
【0178】
細胞を24時間培養し、シルニジピン又はNS4-238は、最終濃度を1μMに調整しながら培養培地に添加され、細胞をさらに24時間培養した。また、比較のために、薬剤の代わりにDMSOを添加した群を用意した。
【0179】
次に、MitoTracker Green FM(Thermo Fischer Scientific Inc.)を使用して、実験例1で記載されたのと同じ方法で細胞を染色した。細胞を蛍光顕微鏡で観察し、ミトコンドリアの形状を画像解析で定量化した。
【0180】
図9(a)は細胞の蛍光顕微鏡写真である。スケールバー=50μm
図9(b)は、
図9(a)の蛍光顕微鏡写真の画像解析の結果としてのミトコンドリア断片の平均長の測定結果を示すグラフである。
図9(b)において、「*」は、p<0.05で有意差があることを表し、「**」はp<0.01で有意差があることを表す。
【0181】
図9(a)及び9(b)において、「DMSO」はDMSO添加から得られた結果を表し、「CIL」はシルニジピン添加から得られた結果を表し、「NS4-238」はNS4-238添加から得られた結果を表し、「mCherry」はmCherryの過剰発現から得られた結果を表し、「mCherry-FLNa WT」は、mCherryタグと融合した野生型フィラミンA遺伝子の過剰発現から得られた結果を表し、「mCherry-FLNa A1545T」は、mCherryタグと融合したフィラミンA遺伝子のA1545T変異体の過剰発現から得られた結果を表す。
【0182】
結果から、ミトコンドリアの分裂は、野生型フィラミンA遺伝子の過剰発現によって促進されることが明らかになった。ミトコンドリアの分裂は、フィラミンA遺伝子のA1545T変異体の過剰発現によってさらに促進されることが見出された。
【0183】
NS4-238の添加により、野生型フィラミンA遺伝子の過剰発現又はフィラミンA遺伝子のA1545T変異体の過剰発現によって促進されるミトコンドリアの分裂抑制に成功したことも明らかになった。
【0184】
さらに、シルニジピンの添加では、野生型フィラミンA遺伝子の過剰発現又はフィラミンA遺伝子のA1545T変異体の過剰発現によって促進されるミトコンドリアの分裂を抑制することができなかった。
【0185】
(実験例10)
<シルニジピン誘導体の第1の評価>
実験例7で合成されたシルニジピン誘導体が心筋細胞の老化にどのように影響を及ぼし得るかを調べた。心筋細胞の老化は、p53タンパク質の蓄積に基づいて評価された。より具体的には、各シルニジピン、及び実験例7で合成された個々の化合物、すなわちNS4-019、NS4-021及びNS4-043を、最終濃度が1μMに調整されるように、新生仔ラットの心筋細胞の培養培地に添加し、細胞を1時間インキュベーションした。次に、細胞を、低酸素(1%)環境下で18時間培養し、続いて正常酸素(21%)環境下で18時間培養することにより、低酸素-再酸素化刺激に供した。次に、各培養物の細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、抗p53抗体及び抗α-アクチニン抗体で免疫染色した。α-アクチニンは心筋細胞のマーカーである。各培養物の細胞を蛍光顕微鏡下で観察し、α-アクチニン陽性細胞に対するp53蓄積細胞の割合を決定した。
【0186】
図10は、α-アクチニン陽性細胞に対するp53蓄積細胞の割合の測定結果を示すグラフである。
図10において、「Nor DMSO」は、DMSOを添加して低酸素-再酸素化刺激せずに正常酸素で培養した細胞から得られた結果を表し、「H/R DMSO」は、DMSOを添加して低酸素-再酸素化刺激下で培養した細胞から得られた結果を表し、「H/R CIL」は、シルニジピンを添加して低酸素-再酸素化刺激下で培養した細胞から得られた結果を表し、「H/R NS4-019」は、NS4-019を添加して低酸素-再酸素化刺激下で培養した細胞から得られた結果を表し、「H/R NS4-021」は、NS4-021を添加して低酸素-再酸素化刺激下で培養した細胞から得られた結果を表し、「H/R NS4-043」は、NS4-043を添加して低酸素-再酸素化刺激下で培養した細胞から得られた結果を表し、「**」は、p<0.01で有意差があることを表す。
【0187】
結果から、NS4-019及びNS4-043は、シルニジピンのように、おそらく低酸素-再酸素化刺激によって誘発された心筋細胞の老化に対して抑制効果を示すことが明らかになった。対照的に、NS4-021は、おそらく低酸素-再酸素化刺激によって誘発された心筋細胞の老化に対して抑制効果を示さないことが見出された。
【0188】
(実験例11)
<シルニジピン誘導体の第2の評価>
実験例1で構築された評価システムを使用して、ミトコンドリア分裂に及ぼす実験例7で合成されたシルニジピン誘導体の抑制能を調べた。
【0189】
より具体的には、最初に、各シルニジピン、及び実験例7で合成された個々の化合物、すなわちNS4-019、NS4-021及びNS4-043を、最終濃度が1μMに調整されるように、新生仔ラットの心筋細胞の培養培地に添加し、細胞を1時間インキュベーションした。
【0190】
次に、各細胞を低酸素環境下でさらに18時間培養した。次に、MitoTracker Green FM(Thermo Fischer Scientific Inc.)を使用して、実験例1で記載されたのと同じ方法で細胞を染色し、蛍光顕微鏡で観察し、ミトコンドリアの形状を定量化した。また、比較のために、薬剤の代わりにジメチルスルホキシド(DMSO)を添加した群を用意した。
【0191】
図11は、小胞状ミトコンドリアを含む細胞の割合の測定結果を示すグラフである。
図11において、「CIL」は、シルニジピンを添加した細胞から得られた結果を表し、「*」は、p<0.05で有意差があることを表し、「**」は、p<0.01で有意差があることを表す。
【0192】
結果から、シルニジピンと同様に、NS4-019及びNS4-043は低酸素刺激下でミトコンドリア分裂を有意に抑制できることが明らかになった。また、NS4-021は低酸素刺激下でミトコンドリア分裂を抑制する傾向があることがわかった。要するに、実験例10及び11の結果から、NS4-021は低酸素-再酸素化刺激下で心筋細胞の老化に対して抑制効果を示さなかったが、低酸素刺激下でミトコンドリア分裂を抑制する傾向を示したことが明らかになった。
【0193】
(実験例12)
<シルニジピン誘導体の第3の評価>
実験例7で合成されたシルニジピン誘導体によるカルシウムチャネルの遮断効果を調べた。より具体的には、まず、マウス神経芽細胞腫の細胞株に属するNeuro-2a細胞を無血清培養培地で培養し、カルシウムイオンプローブとして、Fura 2-AM(Dojindo Laboratories)を細胞に形質導入するために培養培地に添加した。
【0194】
次に、培養培地を、HEPES緩衝栄養溶液(pH7.4)、各シルニジピン、及び実験例7で合成された個々の化合物、すなわちNS4-019、NS4-021、NS4-043、NS4-238、及びNS4-700で置き換え、最終濃度が0、1、10、100、及び1,000nMに調整されるように、培養培地に添加し、培養培地を30分間インキュベーションした。
【0195】
次に、塩化カリウム溶液(最終濃度60mM)を添加して脱分極刺激を与え、細胞へのカルシウムイオンの流入を蛍光顕微鏡で観察した。
【0196】
図12は、塩化カリウム刺激後の細胞内カルシウムイオン濃度の増加を示すグラフである。
図12において、「CIL」は、シルニジピンを添加した細胞から得られた結果を表し、「NS4-238」は、NS4-238を添加した細胞から得られた結果を表し、「**」は、p<0.01で有意差があることを表す。横軸は個々の化合物の濃度を示し、縦軸は以下の式(F1)で与えられるΔ比を示す。ここで、Δ比は細胞内カルシウムイオン濃度に関連する値である。
Δ比=(340nmで励起した場合の510nmでの蛍光強度)/(380nmで励起した場合の510nmでの蛍光強度)…(F1)
【0197】
結果から、シルニジピン及びNS4-238はカルシウムチャネルに及ぼす遮断効果を示す一方、NS4-019、NS4-021、NS4-043、及びNS4-700はカルシウムイオンチャネルに及ぼす遮断効果を示さないことが明らかになった。
【0198】
(実験例13)
<シルニジピン誘導体の第4の評価>
実験例1で構築された評価システムを使用して、ミトコンドリア分裂に及ぼす実験例7で合成されたNS4-238及びNS4-700の抑制能を調べた。
【0199】
より具体的には、まず、NS4-238又はNS4-700を、最終濃度が0.3μMに調整されるように、新生仔ラットの心筋細胞の培養培地に添加して、細胞を1時間インキュベーションした。次に、各細胞を低酸素環境下でさらに18時間培養した。次に、MitoTracker Green FM(Thermo Fischer Scientific Inc.)を使用して、実験例1で記載されたのと同じ方法で細胞を染色し、蛍光顕微鏡で観察し、ミトコンドリアの形状を定量化した。また、比較のために、薬剤の代わりにジメチルスルホキシド(DMSO)を添加した群を用意した。
【0200】
図13は、小胞状ミトコンドリアを含む細胞の割合の測定結果を示すグラフである。
図13において、「DMSO」は、DMSOを添加した細胞から得られた結果を表し、「NS4-238」は、NS4-238を添加した細胞から得られた結果を表し、「*」は、p<0.05で有意差があることを表し、「**」は、p<0.01で有意差があることを表す。
【0201】
結果から、NS4-700は、NS4-238と同様に、低酸素刺激下でミトコンドリア分裂を有意に抑制できることが明らかになった。
【0202】
(実験例14)
<シルニジピン誘導体の第5の評価>
実験例8に記載された実験例1の方法に記載された評価システムを使用して、ミトコンドリア分裂に及ぼす実験例7で合成されたシルニジピン誘導体の抑制能を調べた。
【0203】
図14は、管状ミトコンドリアを有する細胞の割合の測定結果を示すグラフである。
図14において、「Nor DMSO」は、DMSOを添加して正常酸素で培養した細胞から得られた結果を表し、「DMSO」は、DMSO投与から得られた結果を表し、「シルニジピン」は、シルニジピン投与から得られた結果を表し、「No.1」~「No.9」は、NS4-019、NS4-238、NS4-021、JYK-002、JYK-003、NS4-043、JYK-001、NS4-700、及びJYK-004の投与から得られた結果をそれぞれ表し、「*」は、p<0.05で有意差があることを表し、「**」は、p<0.01で有意差があることを表す。
【0204】
結果から、NS4-019、NS4-238、NS4-043、及びNS4-700は、低酸素刺激下でミトコンドリア分裂を有意に抑制することが示された。
【0205】
(実験例15)
<シルニジピン誘導体の第6の評価>
実験例12に記載された方法にしたがって、実験例7で合成されたシルニジピン誘導体によるカルシウムチャネルの遮断効果を調べた。
【0206】
図15は、塩化カリウム刺激後の細胞内カルシウムイオン濃度の増加を示すグラフである。
図15において、「シルニジピン」は、シルニジピンが添加された細胞から得られた結果を表し、「No.1」~「No.9」は、NS4-019、NS4-238、NS4-021、JYK-002、JYK-003、NS4-043、JYK-001、NS4-700、及びJYK-004の投与から得られた結果をそれぞれ表し、「**」は、p<0.01で有意差があることを表す。横軸は個々の化合物の濃度を示し、縦軸は実施例12のように式(F1)で与えられるΔ比を示す。
【0207】
結果から、シルニジピン及びNS4-238は1000nMでカルシウムチャネルに遮断効果を示したことが示される。
【産業上の利用可能性】
【0208】
本発明によれば、Drp1-フィラミン複合体形成阻害剤を提供することが可能である。
【0209】
特定の実施形態
本開示は、以下の特定の実施形態によって例示される。
1.式(I)の化合物:
【化58】
(式中、
化合物が、
【化59】
以外である場合、
R
1は、1~3個の置換基で置換されたフェニルであり、少なくとも1つの置換基がNO
2又はNH
2であるという条件で、置換基のそれぞれは独立してNO
2、NH
2、OH、C
1-C
6アルキル、C
1-C
6ハロアルキル、又はC
1-C
6アルコキシアルキルであり、
R
2は、H、C
1-C
6アルキル、C
1-C
6ハロアルキル、又はC
1-C
6アルコキシアルキルであり、
R
3は、H、C
1-C
6アルキル、C
1-C
6ハロアルキル、又はC
1-C
6アルコキシアルキルであり、
R
4は、C
1-C
6アルキル又はC
1-C
6ハロアルキルであり、
R
5は、フェニル又はピリジニルであり、フェニル又はピリジニルは非置換であるか、又はそれぞれが独立してNO
2、NH
2、OH、C
1-C
6アルキル、C
1-C
6ハロアルキル、又はC
1-C
6アルコキシアルキルである1~3個の置換基で置換されており、
(i)結合aが存在し、結合b及びcが存在しない、あるいは(ii)結合b及びcが存在し、結合aが存在しない、のいずれかであり、
Aは、結合aが存在する場合はNHであり、結合b及びcが存在する場合はNであり、
mは1~4の整数であり、
nは1~3の整数である)
又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
2.式(Ia)
【化60】
の構造を有する、実施形態1の化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
3.式(Ib)
【化61】
の構造を有する、実施形態1の化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
4.R
1が、
【化62】
(式中、R
1aはNO
2又はNH
2であり、R
1b及びR
1cはそれぞれ独立してH、NO
2、NH
2、OH、C
1-C
6アルキル、C
1-C
6ハロアルキル、又はC
1-C
6アルコキシアルキルである)
である、実施形態1~3のいずれか1つの化合物又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
5.R
1b及びR
1cがそれぞれ独立してH、NO
2、NH
2、OH、C
1-C
3アルキル、C
1-C
3ハロアルキル、又はC
1-C
3アルコキシアルキルである、実施形態4の化合物又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
6.R
1が、
【化63】
である、実施形態4の化合物又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
7.R
1が、
【化64】
である、実施形態4の化合物又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
8.R
1が、
【化65】
である、実施形態4の化合物又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
9.R
1aがNO
2である、実施形態4~8のいずれか1つの化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
10.R
1aがNH
2である、実施形態4~8のいずれか1つの化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
11.R
2が、H、C
1-C
3アルキル、C
1-C
3ハロアルキル、又はC
1-C
3アルコキシアルキルである、実施形態1~10のいずれか1つの化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
12.R
2が、C
1-C
3アルキルである、実施形態11の化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
13.R
2がCH
3である、実施形態12の化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
14.R
3が、H、C
1-C
3アルキル、C
1-C
3ハロアルキル、又はC
1-C
3アルコキシアルキルである、実施形態1~13のいずれか1つの化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
15.R
3が、C
1-C
3アルキルである、実施形態14の化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
16.R
3がCH
3である、実施形態15の化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
17.R
4が、C
1-C
3アルキル又はC
1-C
3ハロアルキルである、実施形態1~16のいずれか1つの化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
18.R
4が、C
1-C
3アルキルである、実施形態17の化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
19.R
4がCH
3である、実施形態18の化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
20.R
5が、非置換フェニルであるか、又は1~3個の置換基で置換されているフェニルであり、置換基のそれぞれが独立してNO
2、NH
2、OH、C
1-C
6アルキル、C
1-C
6ハロアルキル、又はC
1-C
6アルコキシアルキルである、実施形態1~19のいずれか1つの化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
21.R
5が、非置換フェニルであるか、又は1~3個の置換基で置換されたフェニルであり、置換基のそれぞれが独立してNO
2、NH
2、OH、C
1-C
3アルキル、C
1-C
3ハロアルキル、又はC
1-C
3アルコキシアルキルである、実施形態20の化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
22.R
5が非置換フェニルである、実施形態20の化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
23.R
5が、非置換ピリジニルであるか、又は1~3個の置換基で置換されているピリジニルであり、置換基のそれぞれが独立してNO
2、NH
2、OH、C
1-C
6アルキル、C
1-C
6ハロアルキル、又はC
1-C
6アルコキシアルキルである、実施形態1~19のいずれか1つの化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
24.R
5が、非置換ピリジニルであるか、又は1~3個の置換基で置換されたピリジニルであり、置換基のそれぞれが独立してNO
2、NH
2、OH、C
1-C
3アルキル、C
1-C
3ハロアルキル、又はC
1-C
3アルコキシアルキルである、実施形態23の化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
25.R
5が非置換ピリジニルである、実施形態23の化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
26.R
5ピリジニルが4-ピリジルである、実施形態23~25のいずれか1つの化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
27.R
5ピリジニルが3-ピリジルである、実施形態23~25のいずれか1つの化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
28.R
5ピリジニルが2-ピリジルである、実施形態23~25のいずれか1つの化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
29.mが2である、実施形態1~28のいずれか1つの化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
30.nが1である、実施形態1~28のいずれか1つの化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
31.実施形態2の化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物
(式中、
R
1は
【化66】
であり、
式中、R
1aはNO
2又はNH
2であり、
R
2、R
3、及びR
4はCH
3であり、
R
5は非置換フェニル又は非置換ピリジニルであり、
mは2であり、
nは1である)。
32.R
5が非置換4-ピリジルである、実施形態31の化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
33.化合物が、
【化67】
である、実施形態1の化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
34.化合物が、
【化68】
である、実施形態1の化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
35.化合物が、
【化69】
である、実施形態1の化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
36.化合物が、
【化70】
である、実施形態1の化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
37.化合物が、
【化71】
である、実施形態1の化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
38.化合物が、
【化72】
である、実施形態1の化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
39.化合物が、
【化73】
である、実施形態1の化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
40.化合物が、
【化74】
である、実施形態1の化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
41.化合物が、
【化75】
である、実施形態1の化合物、又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
42.以下の式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物
【化76】
(式(1)において、R
1はフェニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基又は4-ピリジル基を表し、R
2は水素原子又はアミノ基を表し、R
3は水素原子又はニトロ基を表し、R
2が水素原子である場合、R
3はニトロ基であり、R
2がアミノ基である場合、R
3は水素原子である)。
43.式(1)において、
(a)R
1が、フェニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基もしくは4-ピリジル基を表し、R
2が水素原子を表し、R
3がニトロ基を表し、又は
(b)R
1が2-ピリジル基、3-ピリジル基もしくは4-ピリジル基を表し、R
2がアミノ基を表し、R
3が水素原子を表す、実施形態42の化合物。
44.式(1)において、R
1がフェニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基又は4-ピリジル基を表し、R
2がアミノ基を表し、R
3が水素原子を表す、実施形態42の化合物。
45.以下の式(2)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物
【化77】
(式(2)において、R
4はフェニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基又は4-ピリジル基を表し、R
5はアミノ基を表し、R
6は水素原子を表す)。
46.式(A)の化合物:
【化78】
(式中、
化合物が、
【化79】
以外である場合、
(a)RはNO
2又はNH
2であり、Rはフェニル環の2位、3位、又は4位にあり、及び
(b)XはCH又はNである)
又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
47.式(B)の化合物:
【化80】
又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物
(式中、
(a)RはNO
2又はNH
2であり、Rはフェニル環の2位、3位、又は4位にあり、及び
(b)XはCH又はNを表す)。
48.薬理学的に許容される塩の形態である、実施形態1~47のいずれか1つの化合物、薬理学的に許容される塩又は溶媒和物。
49.薬理学的に許容される塩が、ヒドロクロレート、サルフェート、ヒドロブロメート、ヒドロヨージド、ホスフェート、ニトレート、ベンゾエート、メタンスルホネート、2-ヒドロキシエタンスルホネート、p-トルエンスルホネート、アセテート、プロパノエート、オキサレート、マロネート、スクシネート、グルタレート、アジペート、タルトレート、マレエート、フマレート、マレート、又はマンデレートである、実施形態48の化合物、薬理学的に許容される塩又は溶媒和物。
50.遊離塩基の形態である、実施形態1~47のいずれか1つの化合物、薬理学的に許容される塩又は溶媒和物。
51.溶媒和物の形態ではない、実施形態1~50のいずれか1つの化合物、薬理学的に許容される塩又は溶媒和物。
52.ミトコンドリア分裂阻害活性を有する、実施形態1~51のいずれか1つの化合物、薬理学的に許容される塩又は溶媒和物。
53.ミトコンドリア分裂阻害活性が、例えば、実験例1の評価システムによって決定されるように、シルニジピンのミトコンドリア分裂阻害活性の少なくとも50%である、実施形態52の化合物、薬理学的に許容される塩又は溶媒和物。
54.ミトコンドリア分裂阻害活性が、例えば、実験例1の評価システムによって決定されるように、シルニジピンのミトコンドリア分裂阻害活性の少なくとも75%である、実施形態52の化合物、薬理学的に許容される塩又は溶媒和物。
55.ミトコンドリア分裂阻害活性が、例えば、実験例1の評価システムによって決定されるように、シルニジピンのミトコンドリア分裂阻害活性の少なくとも90%である、実施形態52の化合物、薬理学的に許容される塩又は溶媒和物。
56.ミトコンドリア分裂阻害活性が、例えば、実験例1の評価システムによって決定されるように、少なくともシルニジピンのミトコンドリア分裂阻害活性に等しい、実施形態52の化合物、薬理学的に許容される塩又は溶媒和物。
57.ミトコンドリア分裂阻害活性が、例えば、実験例1の評価システムによって決定されるように、シルニジピンのミトコンドリア分裂阻害活性の最大300%である、実施形態52~56のいずれか1つの化合物、薬理学的に許容される塩又は溶媒和物。
58.ミトコンドリア分裂阻害活性が、例えば、実験例1の評価システムによって決定されるように、シルニジピンのミトコンドリア分裂阻害活性の最大200%である、実施形態52~56のいずれか1つの化合物、薬理学的に許容される塩又は溶媒和物。
59.ミトコンドリア分裂阻害活性が、例えば、実験例1の評価システムによって決定されるように、シルニジピンのミトコンドリア分裂阻害活性の最大150%である、実施形態52~56のいずれか1つの化合物、薬理学的に許容される塩又は溶媒和物。
60.シルニジピンと比較してカルシウムチャネル遮断活性が低下している、実施形態1~59のいずれか1つの化合物、薬理学的に許容される塩又は溶媒和物。
61.カルシウムチャネル遮断活性が、例えば、実験例12の評価システムによって決定されるように、シルニジピンのカルシウムチャネル遮断活性の75%以下である、実施形態60の化合物、薬理学的に許容される塩又は溶媒和物。
62.カルシウムチャネル遮断活性が、例えば、実験例12の評価システムによって決定されるように、シルニジピンのカルシウムチャネル遮断活性の50%以下である、実施形態60の化合物、薬理学的に許容される塩又は溶媒和物。
63.カルシウムチャネル遮断活性が、例えば、実験例12の評価システムによって決定されるように、シルニジピンのカルシウムチャネル遮断活性の25%以下である、実施形態60の化合物、薬理学的に許容される塩又は溶媒和物。
64.カルシウムチャネル遮断活性が、例えば、実験例12の評価システムによって決定されるように、シルニジピンのカルシウムチャネル遮断活性の10%以下である、実施形態60の化合物、薬理学的に許容される塩又は溶媒和物。
65.実施形態1~64のいずれか1つの化合物、薬理学的に許容される塩又は溶媒和物、及び1つ以上の薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
66.1つ以上の薬学的に許容される担体が塩基を含む、実施形態65の医薬組成物。
67.塩基が、精製水、酸化チタン、カルナウバロウ、合成スクアラン、クロタミトン、又はゼラチンを含む、実施形態66の医薬組成物。
68.1つ以上の薬学的に許容される担体が結合剤を含む、実施形態65~67のいずれか1つの医薬組成物。
69.結合剤が、エチルセルロース、グリセリン又はメタクリル酸コポリマーSを含む、実施形態68の医薬組成物。
70.1つ以上の薬学的に許容される担体が賦形剤を含む、実施形態65~69のいずれか1つの医薬組成物。
71.賦形剤が、結晶セルロース、クロスカルメロースナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、及びヒプロメロース、安定剤、例えばアラビアゴム、アルミノメタケイ酸マグネシウム、ポビドン、ベンジルアルコール、酢酸ナトリウム、又はステアリン酸マグネシウムである、実施形態70の医薬組成物。
72.1つ以上の薬学的に許容される担体が可塑剤を含む、実施形態65~71のいずれか1つの医薬組成物。
73.可塑剤が、Macrogol400又はMacrogol6000である、実施形態72の医薬組成物。
74.1つ以上の薬学的に許容される担体が可溶化剤を含む、実施形態65~73のいずれか1つの医薬組成物。
75.可溶化剤が、安息香酸ベンジル及びベンジルアルコールである、実施形態74の医薬組成物。
76.実施形態1~64のいずれか1つの化合物、薬理学的に許容される塩又は溶媒和物以外の活性医薬成分を含まない、実施形態65~75のいずれか1つの医薬組成物。
77.シルニジピンを実質的に含まない、実施形態65~75のいずれか1つの医薬組成物。
78.実施形態1~64のいずれか1つの化合物、薬理学的に許容される塩又は溶媒和物が、少なくとも90%純粋である、実施形態65~77のいずれか1つの医薬組成物。
79.実施形態1~64のいずれか1つの化合物、薬理学的に許容される塩又は溶媒和物が、少なくとも95%純粋である、実施形態65~77のいずれか1つの医薬組成物。
80.経口剤形である、実施形態65~79のいずれか1つの医薬組成物。
81.ピル、錠剤、カプセル、エリキシル又はマイクロカプセルの形態である、実施形態80の医薬組成物。
82.実施形態1~64のいずれか1つの少なくとも1mgの化合物、薬理学的に許容される塩又は溶媒和物を含む、実施形態65~79のいずれか1つの医薬組成物。
83.実施形態1~64のいずれか1つの少なくとも2mgの化合物、薬理学的に許容される塩又は溶媒和物を含む、実施形態65~79のいずれか1つの医薬組成物。
84.実施形態1~64のいずれか1つの少なくとも5mgの化合物、薬理学的に許容される塩又は溶媒和物を含む、実施形態65~79のいずれか1つの医薬組成物。
85.実施形態1~64のいずれか1つの少なくとも10mgの化合物、薬理学的に許容される塩又は溶媒和物を含む、実施形態65~79のいずれか1つの医薬組成物。
86.実施形態1~64のいずれか1つの最大20mgの化合物、薬理学的に許容される塩又は溶媒和物を含む、実施形態65~85のいずれか1つの医薬組成物。
87.実施形態1~64のいずれか1つの最大25mgの化合物、薬理学的に許容される塩又は溶媒和物を含む、実施形態65~85のいずれか1つの医薬組成物。
88.実施形態1~64のいずれか1つの最大50mgの化合物、薬理学的に許容される塩又は溶媒和物を含む、実施形態65~85のいずれか1つの医薬組成物。
89.実施形態1~64のいずれか1つの化合物、薬理学的に許容される塩又は溶媒和物を有効成分として含む、ダイナミン関連タンパク質1(Drp1)-フィラミン複合体形成阻害剤。
90.Drp1機能障害によって引き起こされる疾患の予防薬又は治療薬として使用するための、実施形態1~64のいずれか1つの化合物、薬理学的に許容される塩もしくは溶媒和物、実施形態65~88のいずれか1つの医薬組成物、又は実施形態89の(Drp1)-フィラミン複合体形成阻害剤。
91.慢性心不全の予防薬又は治療薬として使用するための、実施形態1~64のいずれか1つの化合物、薬理学的に許容される塩もしくは溶媒和物、実施形態65~88のいずれか1つの医薬組成物、又は実施形態89の(Drp1)-フィラミン複合体形成阻害剤。
92.筋萎縮性側索硬化症の予防薬又は治療薬として使用するための、実施形態1~64のいずれか1つの化合物、薬理学的に許容される塩もしくは溶媒和物、実施形態65~88のいずれか1つの医薬組成物、又は実施形態89の(Drp1)-フィラミン複合体形成阻害剤。
93.炎症性腸疾患の予防薬又は治療薬として使用するための、実施形態1~64のいずれか1つの化合物、薬理学的に許容される塩もしくは溶媒和物、実施形態65~88のいずれか1つの医薬組成物、又は実施形態89の(Drp1)-フィラミン複合体形成阻害剤。
94.糖尿病、任意で
(a)1型糖尿病、又は
(b)2型糖尿病
の予防薬又は治療薬として使用するための、実施形態1~64のいずれか1つの化合物、薬理学的に許容される塩もしくは溶媒和物、実施形態65~88のいずれか1つの医薬組成物、又は実施形態89の(Drp1)-フィラミン複合体形成阻害剤。
95.Drp1機能障害によって引き起こされる疾患を治療する方法であって、それを必要とする対象に、実施形態1~64のいずれか1つの治療有効量の化合物、薬理学的に許容される塩もしくは溶媒和物、実施形態65~88のいずれか1つの医薬組成物、又は実施形態89の(Drp1)-フィラミン複合体形成阻害剤を投与することを含む方法。
96.慢性心不全を治療する方法であって、それを必要とする対象に、実施形態1~64のいずれか1つの治療有効量の化合物、薬理学的に許容される塩もしくは溶媒和物、実施形態65~88のいずれか1つの医薬組成物、又は実施形態89の(Drp1)-フィラミン複合体形成阻害剤を投与することを含む方法。
97.筋萎縮性側索硬化症を治療する方法であって、それを必要とする対象に、実施形態1~64のいずれか1つの治療有効量の化合物、薬理学的に許容される塩もしくは溶媒和物、実施形態65~88のいずれか1つの医薬組成物、又は実施形態89の(Drp1)-フィラミン複合体形成阻害剤を投与することを含む方法。
98.炎症性腸疾患を治療する方法であって、それを必要とする対象に、実施形態1~64のいずれか1つの治療有効量の化合物、薬理学的に許容される塩もしくは溶媒和物、実施形態65~88のいずれか1つの医薬組成物、又は実施形態89の(Drp1)-フィラミン複合体形成阻害剤を投与することを含む方法。
99.糖尿病、例えば1型糖尿病又は2型糖尿病を治療する方法であって、それを必要とする対象に、実施形態1~64のいずれか1つの治療有効量の化合物、薬理学的に許容される塩もしくは溶媒和物、実施形態65~88のいずれか1つの医薬組成物、又は実施形態89の(Drp1)-フィラミン複合体形成阻害剤を投与することを含む方法。
1’.有効成分として、以下の式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物を含むダイナミン関連タンパク質1(Drp1)-フィラミン複合体形成阻害剤
【化81】
(式(1)において、R
1はフェニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基又は4-ピリジル基を表し、R
2は水素原子又はアミノ基を表し、R
3は水素原子又はニトロ基を表し、R
2が水素原子である場合、R
3はニトロ基であり、R
2がアミノ基である場合、R
3は水素原子である)。
2’.式(1)において、R
1がフェニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基もしくは4-ピリジル基を表し、R
2が水素原子を表し、R
3がニトロ基を表し、又はR
1が2-ピリジル基、3-ピリジル基もしくは4-ピリジル基を表し、R
2がアミノ基を表し、R
3が水素原子を表す、実施形態1’によるDrp1-フィラミン複合体形成阻害剤。
3’.式(1)において、R
1がフェニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基又は4-ピリジル基を表し、R
2がアミノ基を表し、R
3が水素原子を表す、実施形態1’によるDrp1-フィラミン複合体形成阻害剤。
4’.Drp1機能障害によって引き起こされる疾患の予防薬又は治療薬である、実施形態1’~3’のいずれか1つによるDrp1-フィラミン複合体形成阻害剤。
5’.疾患が慢性心不全、筋萎縮性側索硬化症、炎症性腸疾患又は2型糖尿病である、実施形態4’によるDrp1-フィラミン複合体形成阻害剤。
6’.実施形態1’~5’のいずれか1つに記載されるDrp1-フィラミン複合体形成阻害剤、及び薬学的に許容される担体を含む、Drp1-フィラミン複合体形成を阻害するための医薬組成物。
7’.以下の式(2)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物
【化82】
(式(2)において、R
4はフェニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基又は4-ピリジル基を表し、R
5はアミノ基を表し、R
6は水素原子を表す)。