(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】周波数変換装置、及び周波数変換方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/35 20060101AFI20241113BHJP
【FI】
G02F1/35 502
(21)【出願番号】P 2023554993
(86)(22)【出願日】2022-09-05
(86)【国際出願番号】 JP2022033297
(87)【国際公開番号】W WO2023067923
(87)【国際公開日】2023-04-27
【審査請求日】2024-04-15
(31)【優先権主張番号】P 2021173463
(32)【優先日】2021-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「時間変調メタマテリアル非線形フォトニクスの基盤構築」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】金森 義明
(72)【発明者】
【氏名】菊池 伸明
(72)【発明者】
【氏名】岡本 聡
(72)【発明者】
【氏名】冨田 知志
(72)【発明者】
【氏名】大野 誠吾
(72)【発明者】
【氏名】児玉 俊之
【審査官】林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-112572(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0275593(US,A1)
【文献】国際公開第2019/039551(WO,A1)
【文献】金森 義明、他,可動式電磁誘起透明化メタマテリアルによるTHz波フィルタ,2021年 第68回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集,公益社団法人応用物理学会,p.03-335
【文献】RAMACCIA, Davide et al.,Phase-Induced Frequency Conversion and Doppler Effect With Time-Modulated Metasurfaces,IEEE Transactions on Antennas and Propagation,2020年03月,Vol. 68,No. 3,pp. 1607-1617,DOI: 10.1109/TAP.2019.2952469
【文献】LEE, Seojoo et al.,Metamaterials for Enhanced Optical Responses and their Application to Active Control of Terahertz Waves,Advanced Materials,2020年03月18日,Vol. 32,No. 35,pp.2000250 -1 - 2000250 -17,DOI: 10.1002/adma.202000250
【文献】HUANG, Y. et al.,Actively tunable THz filter based on an electromagnetically induced transparency analog hybridized with a MEMS metamaterial,Scientific Reports,2020年11月30日,Vol. 10,No. 1,pp.1-10,DOI: 10.1038/s41598-020-77922-1
【文献】RAMACCIA, D. et al.,Time-varying metamaterials and metasurfaces for antennas and propagation applications,Journal of Physics: Conference Series,2021年11月01日,Vol. 2015,No. 1,pp. 012121-1 -012121-5,DOI: 10.1088/1742-6596/2015/1/012121
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-1/39
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波源から出力された第1周波数の電磁波を入力波として入力し、前記第1周波数に比して高い第2周波数に変調された出力波を出力する変調部を備え、
前記変調部は、前記入力波を入力し変調波を発生するメタマテリアルにより形成された変調回路を備え、
前記変調回路は、
前記変調回路自体に発生する電界の制御に基づいて誘電率を時間変調し前記入力波の位相を第1変調した第1変調出力波を発生する第1変調回路と、
前記変調回路自体に発生する磁界の制御に基づいて透磁率を時間変調し前記入力波の位相を第2変調した第2変調出力波を発生する第2変調回路と、を備え、
前記誘電率及び
前記透磁率のうち少なくとも一方の制御に基づいて時間変調される屈折率に応じて、前記入力波を時間変調した変調出力波を
、前記第1変調出力波と前記第2変調出力波とに基づいて出力する、
周波数変換装置。
【請求項2】
前記第1変調回路は、所定の第1パターンが繰り返し形成され、制御に基づいて前記第1パターンに発生する前記電界に基づいて前記誘電率を時間変調する第1メタマテリアルにより形成されている、
請求項
1に記載の周波数変換装置。
【請求項3】
前記第1パターンは、
電位差を有する一対の第1電極部及び第2電極部と、
制御に基づいて前記第1電極部と前記第2電極部との電気的な接続をオン状態或いはオフ状態に切替えるスイッチング部とを備え、
前記スイッチング部の接続状態に応じて発生する前記電界の変動に基づいて前記誘電率を時間変調させる、
請求項
2に記載の周波数変換装置。
【請求項4】
前記スイッチング部は、入力される共振周波数の波に基づいて弾性変形して振動し、前記第1電極部と前記第2電極部とを断続的に電気的に接続するカンチレバーが形成されている、
請求項
3に記載の周波数変換装置。
【請求項5】
前記第2変調回路は、制御信号に基づいて磁界を発生させ前記透磁率を時間変調させる所定の第2パターンが形成された第2メタマテリアルにより形成されている、
請求項2から
4のうちいずれか1項に記載の周波数変換装置。
【請求項6】
前記第2パターンは、
入力される電流、電圧、及び磁界のうち少なくとも1つに基づいて前記透磁率を変化させ、
前記電流或いは前記電圧を時間変調する制御に基づいて前記透磁率を時間変調する、
請求項
5に記載の周波数変換装置。
【請求項7】
前記変調部は、前記変調回路から出力された前記変調出力波を1回以上共振した共振波に基づいて前記出力波を出力する共振部を備える、
請求項1から
6のうちいずれか1項に記載の周波数変換装置。
【請求項8】
前記共振部は、前記変調出力波を1回以上反射し前記出力波を出力するキャビティを備える、
請求項
7に記載の周波数変換装置。
【請求項9】
波源から第1周波数の電磁波を出力し、
変調部に前記電磁波を入力波として入力し、
前記変調部が有する、メタマテリアルにより形成された変調回路において誘電率及び透磁率のうち少なくとも一方を制御し、前記変調回路の屈折率を時間変調し、
前記変調回路において
、前記変調回路自体に発生する電界の制御に基づいて前記誘電率を時間変調し前記入力波の位相を第1変調した第1変調出力波を発生し、
前記変調回路自体に発生する磁界の制御に基づいて前記透磁率を時間変調し前記入力波の位相を第2変調した第2変調出力波を発生し、
前記第1変調出力波と前記第2変調出力波とに基づいて、前記第1周波数に比して高い第2周波数に変調された出力波を出力する、
周波数変換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力波の周波数を変換して出力する周波数変換装置、及び周波数変換方法に関する。
本願は、2021年10月22日に、日本に出願された特願2021-173463-号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、移動体における通信トラフィックの増加が著しく、第5世代移動通信システム(5th Generation:5G)が普及しつつある。5G通信においては、数GHz帯のミリ波を用いて高速大容量の通信が可能である。しかしながら、通信デバイスの性能は年々向上し、普及率も年々増加していることから、将来的に5G通の信通信量も逼迫することが予想される。そのため、5G通信に比して更に高速大容量通信を可能とする次世代の6G通信が研究されている。
【0003】
6G通信においては、より高周波のテラヘルツ(THz)帯の電磁波領域のテラヘルツ波を用いて通信することが期待されている。テラヘルツ波の実現のために、THz光を出力する光源が研究されている。現在、THz光源には、量子カスケードレーザ、単一走行キャリアフォトダイオード(UTC-PD)、共鳴トンネルダイオード、光伝導アンテナ等を用いたものが存在している。しかしながら、これらの現状の光源は、出力光の発信周波数が固定され、もしくは変調幅が狭帯域に構成されている。更に現状の光源は、可搬性に乏しい大型の装置を用いるため設置面積を要すると共に、大きな発熱量に応じた冷却設備が必要であり運用コストが増大する。そのため、現状の光源は、主に計測装置として用いられている。
【0004】
THz光源を次世代通信に利用可能とするためには、常温で動作し、出力波の波長を調整して周波数を変調可能とし、装置が小型に構成されていることが望ましい。発明者らは、人工的に構成されたメタマテリアルを利用したTHz光源について提案している(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。メタマテリアルとは、負の屈折率を有する等、天然に存在しない物理特性を実現可能とするように人工的に構成された超微細構造体からなる人工光学物質である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】”Actively tunable THz filter based on an electromagnetically induced transparency analog hybridized with a MEMS metamaterial” Ying Huang, Kenta Nakamura, Yuma Takida, Hiroaki Minamide, Kazuhiro Hane & Yoshiaki Kanamori Scientific Reports volume 10, Article number: 20807 (2020), 30 November 2020.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
次世代通信に利用可能なTHz光源を実現するためには、上述した問題点を改善する必要があるものの、メタマテリアルについては、未知の部分が多いのが実情である。特許文献1及び非特許文献1に記載された技術においては、電磁波の周波数を変換する具体的手法についてはまだ提案されていなかった。発明者らは、メタマテリアルを用い、THz帯の出力波を出力可能な波源について鋭意研究を続けてきた。
【0008】
本発明は、装置を小型に構成しつつ、常温で動作し、出力波の周波数を任意に変調可能とする周波数変換装置、及び周波数変換方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様は、波源から出力された第1周波数の電磁波を入力波として入力し、前記第1周波数に比して高い第2周波数に変調された出力波を出力する変調部を備え、前記変調部は、前記入力波を入力し変調波を発生するメタマテリアルにより形成された変調回路を備え、前記変調回路は、前記変調回路自体に発生する電界の制御に基づいて誘電率を時間変調し前記入力波の位相を第1変調した第1変調出力波を発生する第1変調回路と、前記変調回路自体に発生する磁界の制御に基づいて透磁率を時間変調し前記入力波の位相を第2変調した第2変調出力波を発生する第2変調回路と、を備え、前記誘電率及び前記透磁率のうち少なくとも一方の制御に基づいて時間変調される屈折率に応じて、前記入力波を時間変調した変調出力波を、前記第1変調出力波と前記第2変調出力波とに基づいて発生する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、装置を小型に構成しつつ、常温で動作し、出力波の周波数を任意に変調可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る周波数変換装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】周波数変換装置の変調部の構成を示す斜視図の一例である。
【
図3】第1変調回路の構成を示す斜視図の一例である。
【
図4】第1変調回路に形成された第1パターンの構成を示す断面図の一例である。
【
図5】第1パターンのサイズと共振周波数との関係を示す図の一例である。
【
図6】第1パターンのオン状態における光学特性を示す図の一例である。
【
図7】第1パターンのオフ状態における光学特性を示す図での一例ある。
【
図8】第1パターンのサイズと光学特性との関係を示す図の一例である。
【
図10】第2メタマテリアルの構成を示す斜視図の一例である。
【
図11】第2メタマテリアルの物理的特性を示す図の一例である。
【
図12】第2メタマテリアルにおける変調を概略的に示す図の一例である。
【
図13】第2メタマテリアルに与えられる磁場を概略的に示す図の一例である。
【
図14】変調回路における変調を概略的に示す図の一例である。
【
図15】変調回路から出力された変調出力波を共振部において共振する状態を示す図の一例である。
【
図16】出力波の周波数特性を示す図の一例である。
【
図17】周波数変換装置の性能を示す図の一例である。
【
図19】波源と共振部との位置関係を示す図の一例である。
【
図20】周波数変調方法の処理の流れを示すフローチャートの一例である。
【
図21】第1変調回路の製造方法を示す図の一例である。
【
図22】入力する制御電流の大きさを変化させた場合に磁性体において観測される強磁性共鳴スペクトルを示す図である。
【
図23】
図22に示す強磁性共鳴スペクトルから得られる共鳴磁場と入力する制御電流との関係を示す図である。
【
図24】、磁性体に入力されるマイクロ波の各入力周波数に対する共鳴磁場のシフト量の変化を示す図である。
【
図25】磁性体に与えられる制御電流の大きさに対するダンピング定数の値の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る周波数変換装置、及び周波数変換方法について説明する。周波数変換装置は、例えば、ミリ波帯の電磁波を入力して変調し、THz帯の電磁波を出力する装置である。
【0013】
図1に示されるように、周波数変換装置1は、例えば、電磁波を生成し出力する波源2(光源ともいう)と、波源2から出力された電磁波を入力波L1として入力し、入力波L1を変調した変調出力波L2を出力する変調部3と、波源2及び変調部3を制御する制御装置10とを備える。
【0014】
制御装置10は、波源2から出力される電磁波のタイミングに応じて変調部3に入力する電圧や電流等を制御し変調部3における変調を制御する。制御装置10は、制御に基づいて変調部3における誘電率及び透磁率のうち少なくとも一方を制御することにより屈折率を制御し、出力される出力波L4の時間変調を制御する。
【0015】
制御装置10は、例えば、任意の電圧及び周波数に基づく電源電圧を発生させる電源部12を備える。電源部12は、1つ以上設けられていてもよい。電源部12は、変調部3及び波源2に応じた電圧を発生させるように構成されている。電源部12は、駆動用の電磁界を発生させるものであってもよい。
【0016】
電源部12は、変調部3に所望の変調制御を実行させる制御部11により制御されている。制御部11は、記憶部13に記憶された制御プログラムに基づいて、電源部12を制御し、波源2から入力波L1を発生させ、変調部3において入力波L1を変調させる。制御部11及び記憶部13は、例えば、パーソナルコンピュータ等の演算可能な情報処理端末により構成されている。
【0017】
波源2は、例えば、第1周波数(Ω)の電磁波を生成する。電磁波は、例えば、ミリ波帯のレーザ光である。波源2は、レーザ光に限らず他の周波数帯の電磁波を生成するものであってもよい。第1周波数は、例えば、MHz帯からGHz帯における任意の周波数に調整される。波源2は、レーザ光に比して波長が短い電磁波を出力してもよい。波源2が出力した電磁波は、変調部3に入力される。
【0018】
変調部3は、波源2から出力された第1周波数の電磁波の入力波L1を入力し、第1周波数を変調した出力波L4を出力する。出力波L4は、例えば、テラヘルツ(THz)帯の電磁波として出力される。変調部3は、第1周波数に比して高周波の第2周波数の出力波L4を出力する。
【0019】
変調部3は、例えば、人工的に構成されたメタマテリアルにより形成された変調回路4と、変調回路4により出力された変調出力波L2を共振し共振波L3を発生させる共振部9とを備える。メタマテリアルは、天然に存在しない物理特性を実現可能とするように人工的に構成された超微細構造体により構成されている。
【0020】
変調回路4は、例えば、波源2から出力された第1周波数の電磁波を入力波L1として入力し、第1周波数が変調された変調出力波L2を発生する。変調回路4は、自体に発生する電磁界の特性を時間変調することで屈折率を時間変調し、入力波L1の第1周波数が時間変調された変調出力波L2を発生する。
【0021】
変調回路4は、例えば、制御装置10により出力された入力電圧に基づいて電磁界を発生させ、自体の屈折率を変化させる。変調回路4は、入力電圧だけでなく、外部から入力される電磁界の時間的変化に基づく電磁誘導により駆動され、電磁界を発生させてもよい。
【0022】
変調回路4は、例えば、変化した屈折率に基づいて入力波L1をラマン散乱によりレイリー散乱光、低周波側にシフトしたストークス散乱光、高周波側にシフトしたアンチストークス散乱光を発生させる。
【0023】
変調回路4は、例えば、変化した屈折率に基づいて、入力された入力波L1の位相を調整し第1周波数(Ω)にシフト周波数(ω)の1倍及び2倍程度を加算した高調側の変調周波数(Ω+ω、Ω+2ω)の散乱光(アンチストークス光)を発生し、発生した散乱光に基づいて変調出力波L2を出力する。
【0024】
変調回路4は、シフト周波数(ω)の1倍及び2倍程度を減算した低調側の変調周波数(Ω-ω、Ω-2ω)の散乱光(ストークス光)も同時に発生させる。本実施形態に係る変調回路4は、散乱光のうち高周波側に変調されたアンチストークス光を利用し、第1周波数(Ω)に比して高い変調周波数(Ω+ω、Ω+2ω)の変調出力波L2を出力する。変調回路4は、更に、変調周波数を微調整して出力可能である。
【0025】
変調回路4は、例えば、誘電率を時間変調する第1変調回路5と、透磁率を時間変調する第2変調回路6とを備える。第1変調回路5は、例えば、第1入力波L1aを入力した後、変調し第1変調出力波L1Aを発生する。第2変調回路6は、例えば、第2入力波L1bを入力した後、変調し第2変調出力波L1Bを発生する。
【0026】
第1変調回路5においては、例えば、第1入力波L1aを0.1~10MHzの帯域において周波数がシフトされた第1変調出力波L1Aを出力する。第2変調回路6においては、例えば、第2入力波L1bを0.1~10GHzの帯域において周波数がシフトされた第2変調出力波L1Bを出力する。変調回路4は、入力波L1を第2変調回路6においてGHz帯に大きく変調すると共に、第1変調回路5においてMHz帯に小さく変調し、周波数の微調整を行うことができる。
【0027】
第1変調回路5は、電源部12により生成された第1周波数の第1入力電圧に基づいて駆動される。第1変調回路5は、第1入力電圧だけでなく、外部から入力される電磁界の時間的変化に基づく電磁誘導により駆動されてもよい。
【0028】
第1変調回路5は、制御に基づいて駆動時に自体の誘電率を時間変調し入力波L1に基づく第1入力波L1aの位相を第1変調し、第1入力波L1aの周波数に比して高い第1変調出力波L1Aを出力する。第1入力波L1aは、後述の第2変調回路6から出力された第2変調出力波L1Bである。第1入力波L1aは、第2変調出力波L1Bが無い場合は、入力波L1である。
【0029】
第1変調回路5は、駆動時に誘電率を時間変調し第1入力波L1aの位相を第1変調した第2変調出力波を出力する。第1変調回路5は、後述のように第2変調出力波L1Bの周波数を微調整し第1変調出力波L1Aを発生する。
【0030】
第2変調回路6は、例えば、制御に基づいて強磁性共鳴を発生し、入力波のラマン散乱により発生する散乱波のアンチストークス光に基づいて第1周波数を第1周波数に比して10GHz程度高い第2変調周波数に第2変調する。
【0031】
第2変調回路6は、電源部12により生成された第2周波数の第2入力電圧の制御に基づいて駆動される。第2変調回路6は、第2入力電圧だけでなく、外部から入力される電磁界の時間的変化させる制御に基づく電磁誘導により駆動されてもよい。
【0032】
図2に示されるように、変調回路4は、第2変調回路6と第1変調回路5とが重畳されて形成されている。第1変調回路5は、所定の第1パターン5Bが繰り返し形成された第1メタマテリアル5Aにより形成されている。第1メタマテリアル5Aは、例えば、第1入力電圧の入力に基づいて電界を発生させ誘電率を変化させるように構成されている。
【0033】
第1メタマテリアル5Aは、マトリクス状に配置された多数の第1パターン5Bにより形成されている。第1メタマテリアル5Aは、第1方向(図のX軸方向)に複数の第1パターン5Bが直列に配置されている。第1方向に直列に配置された複数の第1パターン5Bにより、列状の第1パターン群5Cが形成されている。第1方向に直交する第2方向(図のY軸方向)に沿って、複数の第1パターン群5Cが並置されている。
【0034】
第2変調回路6は、所定の第2パターン6Bが繰り返し形成された第2メタマテリアル6Aにより形成されている。第2メタマテリアル6Aは、例えば、第2入力電圧の入力に基づいて磁界を発生させ透磁率を変化させるように構成されている。
【0035】
第2メタマテリアル6Aは、列状に配置された複数の第2パターン6Bにより構成されている。各第2パターン6Bは、第2方向に沿って配置されている。各第2パターン6Bは、第2方向に沿って見て、第1方向における隣接する第1パターン5Bの接続部分に配置されている。
【0036】
図3及び
図4に示されるように、第1変調回路5は、電源部12に設けられた第1電源12Aにより電気的に駆動される。第1電源12Aは、例えば、所定の周波数において変化する第1電圧を出力する。各第1パターン群5Cは、例えば、第1電源12Aに並列に接続されている。各第1パターン群5Cにおいて、各第1パターン5B同士は、相互に電子を伝達可能に電気的に接続されている。第1変調回路5は、例えば、入力される第1電圧に基づいて、電界を発生させる。
【0037】
第1パターン5Bは、例えば、板状の基板P上においてH状に形成された電極パターンである。第1パターン5Bは、例えば、チタン(Ti)層に金(Au)層が重畳された金属層により形成されている。第1パターン5Bは、例えば、電気回路と微細な機械構造を、基板P上に集積させたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)である。
【0038】
第1パターン5Bは、例えば、第1入力電圧を入力する一対の第1電極部5B1と第2電極部5B2とが設けられている。即ち、一対の第1電極部5B1と第2電極部5B2の間には、電位差が生じている。一対の第1電極部5B1と第2電極部5B2との間にはスイッチング部5B3が設けられている。スイッチング部5B3の-Z方向には、第3電極5B4が設けられている。
【0039】
第1電極部5B1と第2電極部5B2とは、例えば、第1方向に沿った棒状に形成されている。スイッチング部5B3は、例えば、第2方向に沿った片持ち梁形状のカンチレバーに形成されている。スイッチング部5B3の一端側は、例えば、第1電極部5B1側に電気的に接続されている。スイッチング部5B3の他端側は、例えば、第2電極部5B2側と+Z方向に離間し、電気的に接続されていない。スイッチング部5B3は、第1方向に沿って見て+Z方向に盛り上がった台形状に形成されている。
【0040】
スイッチング部5B3の他端側は、-Z方向に折れ曲がり、第2電極部5B2に接近して配置されている。スイッチング部5B3の他端側は、第1入力電圧に基づいて発生する静電気に基づいて、第3電極5B4に引き寄せられる。スイッチング部5B3は、制御に基づいてY方向に沿って全体的に撓んで弾性変形し、他端側が第2電極部5B2に接触する。これにより、第1電極部5B1と第2電極部5B2とが電気的に接続される。
【0041】
即ち、スイッチング部5B3は、第1入力電圧に基づいて第1電極部5B1と第2電極部5B2との電気的な接続をオン状態或いはオフ状態に切替える。
【0042】
第1パターン5Bは、スイッチング部5B3の電気的な接続に基づいて、周囲に電界を発生する。スイッチング部5B3のY軸方向の長さは、所定の振動数に共振する1次固有振動数を有するように調整されている。スイッチング部5B3のY軸方向の長さは、例えば、5-30μmである。スイッチング部5B3は、例えば、kHzからMHz帯における1次固有振動数を有する。スイッチング部5B3の振動数fは、例えば、以下の式(1)に基づいて算出される。
【0043】
【0044】
但し、d:振動子の厚さ、L:振動子の長さ、E:ヤング率(Au)、ρ:密度(Au)である。金(Au)のヤング率(E)は、例えば、78GPaであり、密度(ρ)は、例えば、19.32g/cm3である。上記パラメータのうち、d及びLを含む係数は、形状に依存する形状値であり、E及びρを含む項は物性に依存する物性値である。
【0045】
図5に示されるように、スイッチング部5B3の長さと周波数との関係性は、形状値に基づいて変化する。スイッチング部5B3は、所望の特性に応じて形状値が調整されている。スイッチング部5B3のカンチレバーの形状は一例であり、他端側が第2電極部5B2側に屈曲しているもの等、他の形状に形成されていてもよい。スイッチング部5B3は、第1電極部5B1と第2電極部5B2との電気的な接続を切り替えるものであれば他のものに置き換えられてもよい。
【0046】
スイッチング部5B3は、第1入力電圧に基づいて駆動されるだけでなく、基板Pに入力される表面弾性波や、外部入力される超音波の共振の制御に基づいて駆動されてもよい。また、スイッチング部5B3は、カンチレバーだけでなく、基板P上に形成されるトランジスタを有する電気回路に基づいて駆動されてもよい。スイッチング部5B3は、例えば、第1入力電圧の周波数に応じて振動する。
【0047】
第1パターン5Bは、スイッチング部5B3の接続状態に応じて発生する電界の変動に基づいて周囲の誘電率を変化させる。
【0048】
図6に示されるように、スイッチング部5B3が電気的に接続されたオン状態(
図6(A)参照)において、第1パターン5Bは、誘電率の変化に基づいて電磁波に対する特性が変化する。第1パターン5Bは、例えば、スイッチング部5B3が電気的に接続された状態において、電磁波に対する反射率(R)及び透過率(T)が変化し、所定の周波数の電磁波を遮蔽する(
図6(B)及び
図6(C)参照)。
図6の例では、第1パターン5Bは、スイッチング部5B3が電気的に接続された状態において0.51THz帯の周波数の電磁波を反射、又は遮蔽する。
【0049】
図7に示されるように、スイッチング部5B3が電気的に切断されたオフ状態(
図7(A)参照)において、第1パターン5Bは、誘電率が変化せず、電磁波に対する特性が変化しない。
【0050】
これにより、第1パターン5Bは、スイッチング部5B3の動作に基づいて第1電極部5B1と第2電極部5B2との電気的な接続をオン状態或いはオフ状態に切替えると共に、スイッチング部5B3の接続状態に応じて発生する電界の変動に基づいて発生する誘電率を時間変調させることができる。そのため、第1パターン5Bは、誘電率の変化に基づいて、透過する電磁波の位相を遅延させ屈折率を変化させることができる。上記原理に基づいて、第1変調回路5は、制御に基づいて誘電率を時間変調し、所定の帯域の電磁波を時間変調することができる。
【0051】
図8に示されるように、第1電極部5B1及び第2電極部5B2の幅(W)は、遮蔽する電磁波の周波数に影響を与えないのに比して(
図8(a)参照)、スイッチング部5B3のY軸方向に沿った長さ(L)は、遮蔽する電磁波の周波数に影響を与える。
【0052】
従って、第1変調回路5は、変調する電磁波の帯域に応じて形成された複数の第1パターン5Bを有していてもよい。複数の第1パターン5Bは、Z軸方向に重畳されて形成されていてもよいし、XY平面上に並列して形成されていてもよい。第1電源12Aは、異なる帯域に応じて設けられた第1変調回路5に応じて第1電圧及び第1周波数を調整してもよく、制御装置10は、入力される電磁波の帯域と変調度合いに応じて第1電圧及び第1周波数を制御してもよい。第1変調回路5は、更に、第2変調回路6と組み合わされることで、電磁波の変調の効果を向上させることができる。
【0053】
図9に示されるように、第2変調回路6は、例えば、電源部12に設けられた第2電源12Bにより電気的に駆動される。第2電源12Bは、例えば、所定の周波数において変化する第2電圧に応じた制御電流を出力する。制御装置10は、例えば、第2電源12Bの制御電流の値を制御する。第2変調回路6に設けられた複数の第2メタマテリアル6Aは、例えば、それぞれ第2電源12Bに並列に接続されている。
【0054】
図10に示されるように、第2メタマテリアル6A(第2パターン6B)は、下層側の第1層6A1と、第1層のZ軸方向に重層された上層側の第2層6A2とにより形成されている。第1層6A1は、例えば、プラチナ(Pt)等の重金属により形成されている。第2層6A2は、例えば、コバルト(Co)、イリジウム(Ir)により積層フェリ磁性(Co/Ir)多層膜等により形成されている。第2層6A2は、透磁率をGHz帯において時間変調する超高周波磁性体に形成されている。
【0055】
第2メタマテリアル6Aは、2つの効果を生じるように形成されている。1つ目の効果は、「スピンホール効果」と呼ばれる現象である。スピンホール効果は、重金属中での電流と直交方向に材質が有するスピン-軌道の相互作用によりup/downスピンの偏極(スピン流)が生じる現象である。
【0056】
2つ目の効果は、「強磁性共鳴」と呼ばれる現象である。強磁性共鳴は、強磁性体の固有振動数と一致した周波数の電磁波が外部から入力された場合、強磁性体の歳差運動が誘起され、磁気共鳴が生じ、透磁率の大幅な変化(Δμ)が生じる現象である。第2メタマテリアル6Aは、高周波でのスピンホール効果を用いて高周波スピン流を生成し、磁気共鳴状態の強磁性体にスピン注入を行うことで、透磁率を時間変調可能に形成されている。
【0057】
第1層6A1は、入力される制御電流の周波数に応じてスピンホール効果を生じるように形成されている。第2層6A2の超高周波磁性体は、例えば、第1層6A1に生じるスピンホール効果に応じて磁気共鳴を発生するように形成されている。
【0058】
図11に示されるように、強磁性共鳴においては、狭い周波数の範囲において透磁率が大きく正から負に変調される。第2層6A2は、例えば、第1層6A1に入力される制御電流の入力により発生する磁気共鳴に基づいて透磁率を増大する。
【0059】
図12に示されるように、第2メタマテリアル6Aは、第2入力波L1bを入力した後、磁気共鳴に基づいて透磁率を増大し、時間変調された第2変調出力波L1Bを発生する。第2入力波L1bは、例えば、第1周波数(Ω)が10GHz帯のミリ波であり、周波数(Ω)に10GHz帯のシフト周波数(ω)の1倍及び2倍程度を加算した高調側の変調周波数(Ω+ω、Ω+2ω)の第2変調出力波L1Bを出力する。
【0060】
上記構成により、第2変調回路6は、第2入力波L1bを入力した後、磁気共鳴に基づいて透磁率を増大し、時間変調された第2変調出力波L1Bを発生することができる。ここで、第2入力波L1bは、例えば、波源2から入力される入力波L1である。即ち、第2変調回路6は、制御信号に基づいて磁界を発生させ透磁率を時間変調させる所定の第2パターン6Bが形成された第2メタマテリアル6Aにより形成されている。第2パターンは、入力される電流、電圧、及び磁界のうち少なくとも1つに基づいて透磁率を変化させ、電流或いは電圧を時間変調する制御に基づいて透磁率を時間変調する。制御信号は、例えば、第2変調回路6に入力される電圧、電流、外部から入力される電磁界等であり、第2メタマテリアル6Aの発生磁界を制御可能なものであれば他の制御方法が用いられてもよい。
【0061】
図13に示されるように、第2変調回路6は、永久磁石により生成された傾斜磁場G中に配列させることにより、幅広い周波数帯に対応し透磁率を時間変調することができる。従って、第2変調回路6は、異なる磁場に応じて設けられた複数の第2メタマテリアル6Aを有していてもよい。第2変調回路6は10GHz程度の変調幅において入力波L1を変調するため、出力波を所望の周波数に調整するためには、第2変調回路6に入力波L1を入力し、第2変調回路6から出力された第2変調出力波L1Bを第1変調回路5において1MHz帯において微調整するように変調し、変調出力波L2を生成すればよい。
【0062】
変調回路4から出力された変調出力波L2は、共振部9により1回以上共振され、変調回路4において変調が繰り返されて共振波L3が生成され、出力波L4が出力される(
図1参照)。
【0063】
図14及び
図15に示されるように、共振部9は、例えば、変調回路4から出力された変調出力波L2を1回以上反射し、出力波L4を出力するキャビティ9Aを備える。キャビティ9Aは、例えば、半透過性を有する一対の凹面鏡により形成された凹面ファブリペローキャビティである。キャビティ9Aは、反射波が往復し、変調回路4により変調を受け、出力波L4を出力するように形成されている。キャビティ9Aの間隔は、自体の共振周波数と、変調回路4の変調周波数とが一致するように調整されている。キャビティ9Aの共振周波数は、反射波の往復に要する時間の逆数により算出される。キャビティ9Aの間隔は、例えば、変調回路4のシフト周波数(ω)が10GHzの場合、15mm程度である。キャビティ9Aは、内部において変調出力波L2を反射すると共に、出力波L4を出力する。
【0064】
キャビティ9Aは、例えば、金、銅、タングステン等の材料を用いた100nm以下の厚さを有する金属箔膜、ワイヤーグリッド、メタルメッシュ、誘電体多層膜により形成されている。キャビティ9Aは、一部に全反射する鏡が用いられていてもよい。
【0065】
変調回路4は、所定の第1周波数(Ω)の入力波L1を入力し、高周波側にシフトした変調周波数(Ω+ω)又は低周波側にシフトした変調周波数(Ω-ω)の変調出力波L2を出力する。キャビティ9A内においては、例えば、変調出力波L2がn回反射され、反射波が再度変調回路4に入力され、変調出力波L2が更に変調された共振波L3が出力される。
【0066】
図16に示されるように、キャビティ9Aからは、第1周波数(Ω)にシフト周波数(ω)が等間隔に加算または減算された周波数スペクトル(周波数コム)を有する出力波L4が出力される。変調回路4において変調される変調出力波L2の位相変調は、以下の式(2)により示される。
【0067】
【0068】
変調出力波L2の位相変調は、以下の式(3)によりシフト周波数の分だけシフトしたフーリエ成分で表すことができ、このようにn次にシフトした成分の振幅は、n次のベッセル関数で示される。
【0069】
【0070】
キャビティ9Aによりq回変調された共振波L3のφ(t)は、変調回路4における変調度をaとすると、直列にq個連続した変調回路4と等価であるので、変調の大きさはその分大きくなり、1回通過時の位相変調の式は、以下の式(4)により示される。
【0071】
【0072】
キャビティ9Aによりq回変調された共振波L3の位相変調は、以下の式(5)により示される。
【0073】
【0074】
キャビティ9Aによれば、変調出力波L2の反射を繰り返し、変調回路4に再度入力する回数を増加し、変調度を増加させることができる。上記構成により変調回路4は、シフト周波数(ω)がn倍に変調されて加算された第2変調周波数(Ω+nω)の共振波L3に基づいて出力波L4を出力する。
【0075】
図17には、本実施形態において変調され出力されるテラヘルツ波の発生効率が示されている。図において横軸には、変調において繰り返されて発生する高次ラマンシフトの次数が示されている。縦軸には、変調回路4における変調度aと、キャビティ9Aにおける共振回数であるQ値を示すqとの積で与えられる性能因子a×qが示されている。図には、変調回路4において発生するラマン散乱光の発生効率の対数が階調に基づいて示されている。
【0076】
例えば、変調回路4におけるシフト周波数が10GHzである場合に、変調部3に第1周波数が10GHzのマイクロ波の入力波L1を入力し、1THzの出力波L4を出力させる場合について説明する。変調部3は、第1周波数が10GHzの入力波L1を入力し、変調回路4において出力される変調出力波L2をキャビティ9Aの反射に基づいて、1THzまで10GHzずつ変調を繰り返し、変調回路4において99次のラマンシフトを発生させることで1THzの出力波L4を出力することができる。
【0077】
図17に示すように、変調部3はa×qの値を100とすると、1THzの出力波L4を1%の効率に基づいて生成する性能指数を有する。既存のTHz帯の光源は、is-TPG(injection-seeded THz-wave parametric generator: 光注入型THz波パラメトリック発生)に基づいて電磁波を発生し、その効率が0.025%である。本実施形態に係る変調部3によれば、既存の光源に比して高効率にテラヘルツ帯の電磁波を生成することができる。
【0078】
図18に示されるように、共振部9は、凹面鏡を組み合わせたキャビティ9A(
図18(A)参照)だけでなく、電磁波を閉じ込め、媒質と複数回相互作用する共振構造を有していれば、他の構造を有していてもよい。共振部9は、例えば、平面鏡を組み合わせた平面ファブリペローキャビティ9B(
図18(B)参照)、平面鏡と凹面鏡とを組み合わせたキャビティ9C(
図18(C)参照)、反射波が回転するように反射を繰り返すリングキャビティ9D(
図18(D)参照)、VIPA(Virtually imaged phased array)型多重反射キャビティ9E(
図18(E)参照)等が用いられてもよい。また、共振部9は、反射鏡だけでなく、導波管、導波路等を用いて、電磁波を閉じ込めてもよい。
【0079】
図19(A)に示されるように、周波数変換装置1は、波源2が共振部9の外部に設けられていてもよい。周波数変換装置1は、波源2が共振部9の内部に設けられていてもよい(
図19(B)参照)。周波数変換装置1は、波源2の一部が共振部9の鏡を構成していてもよい(
図19(C)参照)。また、共振部9は、複数の変調回路4が直列に接続されて形成されていてもよい(不図示)。また、共振部9は、直列に接続された所定の個数の変調回路4とキャビティが組み合わされて形成されていてもよい(不図示)。
【0080】
図20には、周波数変換装置1において変調される入力波の変調方法の各工程が示されている。波源2から第1周波数の電磁波を出力する(ステップS100)。変調部3に電磁波を入力波L1として入力する(ステップS102)。変調部3が有する、メタマテリアルにより形成された変調回路4において誘電率及び誘電率のうち少なくとも一方を制御し、変調回路4の屈折率を時間変調する(ステップS104)。変調回路4において入力波L1を時間変調した変調出力波L2を発生する(ステップS106)。このとき、第1変調回路5においては、入力される第1電圧を制御し、
変調回路4自体に発生する電界を時間変調し、入力波の位相を時間変調した第1変調出力波L1Aを出力する。第2変調回路6においては、入力される第2電圧に応じた制御電流を制御し、
変調回路4自体に発生する磁界を時間変調し、入力波のラマン散乱波に基づいて位相を時間変調した第2変調出力波L1Bを出力する。
【0081】
第1変調出力波L1Aと第2変調出力波L1Bとに基づく変調出力波L2を共振部9において1回以上共振し共振波L3を生成する(ステップS108)。共振波L3に基づいて第1周波数に比して高い第2周波数に変調された出力波L4を出力する(ステップS108)。
【0082】
図21には、第1変調回路5の製造方法の1例が示されている。(i)シリコン製の基板P上の全面にチタン層がスパッタリングに基づくプリントにより形成され、チタン層の上層に金層がプリントにより形成され、金属層が形成される。(ii)フォトリソグラフィに基づいて第3電極5B4の位置にフォトレジストをマスクする。(iii)エッチング処理に基づいて、金属層を除去し、マスクされた位置において第3電極5B4を形成する。金属層のうち、例えば、金層は薬液を用いたウェットエッチングにより除去され、チタン層はイオンビームミリング等のドライエッチングにより除去される。フォトレジストは、剥離液を用いて除去する。(iv)第3電極5B4の上層に熱酸化膜(SiO2)の層を形成する。形成された熱酸化膜の層の表面にプリントにより金属層を形成する。
【0083】
(v)第1電極部5B1及び第2電極部5B2の位置にフォトリソグラフィに基づいてフォトレジストをマスクする。(vi)エッチング処理に基づいて金属層を溶解し、第1電極部5B1及び第2電極部5B2を形成する。フォトレジストは、剥離液を用いて除去する。(vii)第1電極部5B1及び第2電極部5B2の上層にシリコン層を形成する。(viii)スイッチング部5B3の一端側以外の位置にフォトリソグラフィに基づいてフォトレジストをマスクする。(ix)エッチング処理に基づいてスイッチング部5B3の一端側の位置におけるシリコン層を除去する。フォトレジストは、剥離液を用いて除去する。(x)フォトリソグラフィに基づいてスイッチング部5B3の一端側及び他端側以外の部分にフォトレジストをマスクする。(xi)フォトレジストの上層に金属層を立体的に形成すると共に、金属層の上層に熱酸化膜の層を形成する。
【0084】
(xii)フォトリソグラフィに基づいてスイッチング部5B3の上層にフォトレジストをマスクする。(xiii)エッチング処理に基づいて、スイッチング部5B3以外の部分の熱酸化膜の層及び金属層を除去する。(xiv) フォトレジストを、剥離液を用いて除去し、スイッチング部5B3の内部に空隙を形成する。(xv)シリコン層をエッチングに基づいて除去し、カンチレバー状のスイッチング部5B3を形成する。上記各工程に基づいて、MEMSが形成されたメタマテリアルに基づく第1変調回路5を形成することができる。
【0085】
以下、周波数変換装置1の変調回路4に生じる屈折率(透磁率)を外部から入力する制御電流に基づいて制御可能であることを示す試験結果を示す。試験においては、白金薄膜が形成された磁性体(例えばFeNi)に入力する制御電流に基づいて、磁性体に生じるスピンホール効果を観測した。
【0086】
図22には、入力する制御電流の大きさを変化させた場合に磁性体において観測される強磁性共鳴スペクトルの測定結果が示されている。
図23には、
図22に示す強磁性共鳴スペクトルから得られる共鳴磁場と入力する制御電流との関係が示されている。以上より、磁性体に入力する制御電流の大きさに基づいて強磁性共鳴磁場(H
res)がシフトする。これに伴って、制御電流の大きさに基づいて透磁率スペクトルのピーク磁場もシフトする。
【0087】
従って、周波数変換装置1によれば、変調回路4において第2変調回路6に入力する制御電流の大きさに基づいて透磁率の制御をすることができる。即ち、変調回路4における透磁率は、第2変調回路6に入力する制御電流のON/OFFのタイミングを変更すること、即ち制御電流の周波数を調整することで、変調することができる。
【0088】
図24には、磁性体に入力されるマイクロ波の各入力周波数に対する共鳴磁場のシフト量(Δμ
0H)の変化の測定結果が示されている。ここで、共鳴磁場のシフト量とは、制御電流を入力した場合の共鳴磁場と、制御電流無しの場合の共鳴磁場の差分値である。図示するように、磁性体に入力するマイクロ波の周波数が大きくなるに従って、共鳴磁場のシフト量が大きくなることがわかる。磁性体の共鳴磁場を大きくシフトするように制御することは、磁性体の透磁率を大きく変化させるように制御することが可能となることを意味する。磁性体の透磁率の変化幅が大きいことは、周波数変換が効率化されることを意味する。
【0089】
図25には、磁性体に与えられる制御電流の大きさに対する磁気的摩擦の大きさを示すダンピング定数(α)の値の変化が示されている。図示するように、磁性体に制御電流を入力することで、ダンピング定数が増減することを示している。ダンピング定数が小さくなるように制御することは、磁性体の透磁率スペクトルの信号線幅が小さくなるように働くことを意味する。従って、周波数変換装置1によれば、変調回路4において第2変調回路6に入力する制御電流の大きさに基づいて、透磁率スペクトルの形状を変化させ、透磁率の値を制御することができる。
【0090】
上述した制御装置10において、制御部11は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予め記憶部13が有するHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることでインストールされてもよい。また、プログラムは、必ずしも必要ではなく、制御部11において順序回路を構成することにより所定の動作が実行されるようにしてもよい。
【0091】
上述したように、周波数変換装置1によれば、装置を小型に構成しつつ、常温で動作し、出力波の周波数を任意に変調可能とすることができる。周波数変換装置1によれば、メタマテリアルにより形成された変調回路4に基づいて、誘電率及び透磁率を時間変調する制御に基づいて屈折率を時間変調することができ、入力波を時間変調した出力波を生成することができる。周波数変換装置1によれば、第2変調回路6に基づいて透磁率を時間変調し入力波をGHz帯において時間変調し、第1変調回路5に基づいて誘電率を時間変調し入力波をMHz帯に時間変調することで、任意のテラヘルツ帯域の周波数を有する出力波を生成することができる。
【0092】
周波数変換装置1によれば、メタマテリアルにより形成された変調回路4においてラマン散乱に基づいて生じる散乱波を用いてGHz帯に変調された変調出力波を生成することができる。また、周波数変換装置1によれば、共振部9において変調回路4において出力された変調出力波L2を共振することで、変調周波数の変調を繰り返し行うことができ、テラヘルツ帯に変調された出力波L4を出力することができる。
【0093】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。例えば、上記実施形態において周波数変換装置1は、変調部3において入力波L1を高周波側にシフトした変調出力波L2を利用することを例示したが、低周波側にシフトした変調出力波L2を利用してもよい。
【符号の説明】
【0094】
1 周波数変換装置
2 波源
3 変調部
4 変調回路
5 第1変調回路
5A 第1メタマテリアル
5B 第1パターン
5B1 第1電極部
5B2 第2電極部
5B3 スイッチング部
6 第2変調回路
6A 第2メタマテリアル
6B 第2パターン
6A1 第1層
6A2 第2層
9 共振部
9A キャビティ