(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】無溶剤型アクリル系粘着剤組成物及び粘着シート
(51)【国際特許分類】
C09J 133/04 20060101AFI20241113BHJP
C09J 4/02 20060101ALI20241113BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20241113BHJP
【FI】
C09J133/04
C09J4/02
C09J7/38
(21)【出願番号】P 2024041477
(22)【出願日】2024-03-15
【審査請求日】2024-03-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000105877
【氏名又は名称】サイデン化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特許第5087414(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無溶剤型アクリル系粘着剤組成物であって、
アルキル基の炭素数が4以上8以下の(メタ)アクリル酸エステル(a)85~93質量部と、カルボキシル基含有アクリルモノマー(b)7~15質量部とを含有するアクリル系部分共重合体と、
前記アクリル系部分共重合体100質量部に対して、1分子中に2個以上のアルキレングリコールと、3個以上の(メタ)アクリロイル基とを有する重合性モノマー(e)0.10~1.5質量部、及び、1分子中に1個以上の活性水素基と反応する官能基と、1個以上の(メタ)アクリロイル基とを有する重合性モノマー(f)0.03~0.40質量部の少なくともいずれかを含有し、
前記無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を活性エネルギー線を用いて硬化させた粘着剤層のゲル分率が37~75%であり、
前記アクリル系部分共重合体は、水酸基含有アクリルモノマー(c)を更に含
み、
前記水酸基含有アクリルモノマー(c)の含有量は7質量部以下であり、
前記活性エネルギー線は、紫外線であり、
前記無溶剤型アクリル系粘着剤組成物の紫外線硬化条件は、メタルハライドランプを使用して照度172mW/cm
2
、積算光量1550mJ/cm
2
での照射条件を含み、
前記粘着剤層の厚さは、25μmである、
無溶剤型アクリル系粘着剤組成物。
【請求項2】
前記1分子中に1個以上の活性水素基と反応する官能基が、イソシアネート基である、
請求項1に記載の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物。
【請求項3】
光重合開始剤(d)を更に含み、
前記アクリル系部分共重合体100質量部に対して、前記光重合開始剤(d)を0.3~1.0質量部で含有する、
請求項1に記載の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物。
【請求項4】
前記水酸基含有アクリルモノマー(c)は、4-ヒドロキシブチルアクリレートを含む、
請求項1に記載の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル酸エステル(a)は、ブチルアクリレート及び2-エチルヘキシルアクリレートの少なくともいずれかを含み、
前記カルボキシル基含有アクリルモノマー(b)は、アクリル酸を含む、
請求項1に記載の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物。
【請求項6】
前記重合性モノマー(f)は、2-イソシアナトエチルアクリレート及び2-イソシアナトエチルメタクリレートの少なくともいずれかを含む、
請求項1に記載の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物。
【請求項7】
マーキングフィルム用である、
請求項1に記載の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物。
【請求項8】
基材と、
前記基材の少なくとも一方の面に設けられた請求項1から
7のいずれか一項に記載の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物からなる粘着剤層と、を備える、
粘着シート。
【請求項9】
前記粘着剤層は、活性エネルギー線を用いて前記無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を硬化させることによって形成される、
請求項8に記載の粘着シート。
【請求項10】
前記活性エネルギー線は紫外線を含む、
請求項9に記載の粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無溶剤型アクリル系粘着剤組成物及び粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系粘着剤の形態としては、溶剤型アクリル系粘着剤、水分散型(エマルション型)アクリル系粘着剤、及び無溶剤型アクリル系粘着剤(アクリルシロップ)が挙げられる。この内、溶剤型アクリル系粘着剤は、溶剤に起因する環境衛生面及び安全性の問題が指摘されている。また、水分散型(エマルション型)アクリル系粘着剤は、媒体である水を蒸発させるために多大な乾燥エネルギーを要すること、並びに、得られた塗膜に乳化剤等が混入することによる耐水性の低下等の課題を有する。一方で、無溶剤型アクリル系粘着剤(アクリルシロップ)、特に紫外線硬化型粘着剤は、溶剤起因の問題がなく、良好な粘着性能を与え得ることから注目を集めている。このため、紫外線硬化型粘着剤及びこれを利用した粘着製品に関し、種々の提案がされている。
【0003】
一般的に、アクリル系粘着剤は、テープ、ラベル、ステッカー及びシールなどの用途において幅広く利用され、耐候性、耐久性、及び高い透明性に優れている。また、アクリル系粘着剤に使用できるモノマー種が非常に多く存在することから、アクリル系粘着剤は多種多様な用途に使用される。
【0004】
しかしながら、例えば、自動車及びバイク等の車両に直接貼り付ける用途でアクリル系粘着剤を使用した場合、洗車時の洗剤及び給油時のガソリンなどがアクリル系粘着剤に付着することで、一般的なアクリル系粘着剤は溶解または膨潤してしまう。これにより、アクリル系粘着剤で車両に貼り付けていたラベルが剥がれるといった不具合が生じることがある。
【0005】
例えば、アクリル酸アルキルエステルモノマーとカルボキシル基含有モノマーなどの親水性の高いモノマーを共重合した共重合体を用いることでアクリル系粘着剤の耐ガソリン性を高めることが可能である一方で、耐アルカリ性が劣る。親水性を下げる為に、カルボキシル基含有モノマーの含有量を減らすと、耐アルカリ性は良くなる一方で、耐ガソリン性は悪化し、凝集力の低下により保持力及び定荷重剥離力が劣る。
【0006】
親油性のアクリル酸アルキルエステルモノマーをアクリル系粘着剤に配合すると、耐アルカリ性は良くなる一方で、耐ガソリン性は悪化し、ポリマー自体のガラス転移温度の低下に伴い凝集力が下がる。このように、アクリル酸アルキルエステルモノマーとカルボキシル基含有モノマーの配合バランスで親油性と親水性を調整し、耐ガソリン性と耐アルカリ性を両立することは困難である。
【0007】
そこで、特許文献1、2は、アクリル系粘着剤に要求される耐ガソリン性と耐アルカリ性を両立するために、カルボキシル基含有モノマーと水酸基含有モノマーを多量に使用した溶剤型アクリル系粘着剤を提案している。カルボキシル基含有モノマーと水酸基含有モノマーによる水素結合の発生で液の安定性が低下する課題に対して、アルコール溶剤の使用で水素結合を阻害することで液の安定性を得ている。
【0008】
特許文献3は、アルキレングリコールを保有するアクリレートの使用割合が40~90質量%、カルボン酸含有(メタ)アクリルモノマー由来の単位の割合が10~20質量%であるアクリル樹脂組成物を提案している。親水性を上げることで耐油性(耐オレイン酸性、耐ガソリン性、耐トルエン性)を強化している。
【0009】
特許文献4は、耐油性向上の面で水分散型重合体と、無機粒子とを含有することと、無機粒子の含有割合が水分散型重合体100質量部に対して、3~90質量部であることを特徴とする水分散型粘着剤粘着剤を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2016-210863号公報
【文献】特開2019-189876号公報
【文献】特開2022-024067号公報
【文献】特開2012-117053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1、2の製造方法は、溶剤排出による環境問題を引き起こすとともに、アルコールの水酸基と反応してしまうイソシアネート系の架橋剤を使用できないといった制約を有する。これにより、溶剤型アクリル系粘着剤に使用可能な架橋剤の選択肢が少ないため、基材への密着性が劣るといった課題がある。
【0012】
また、特許文献3では、親水性が高い為に、アルカリ性の水がアクリル樹脂組成物に侵入しやすく、アクリル樹脂組成物が膨潤し、塗膜が基材や被着体から剥がれてしまう。したがって、特許文献3の技術では、十分な耐アルカリ性を得ることは出来ない。
【0013】
また、特許文献4では、水分散型重合体と無機粒子との分離を引き起こし、粘着剤の溶液安定性が低下する問題があった。
【0014】
そこで、本発明は、粘着力、保持力、定荷重剥離力、耐ガソリン性、及び耐アルカリ性に優れた無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の目的を達成するために、本発明は以下の構成を備える。すなわち、無溶剤型アクリル系粘着剤組成物であって、アルキル基の炭素数が4以上8以下の(メタ)アクリル酸エステル(a)85~93質量部と、カルボキシル基含有アクリルモノマー(b)7~15質量部とを含有するアクリル系部分共重合体と、前記アクリル系部分共重合体100質量部に対して、1分子中に2個以上のアルキレングリコールと、3個以上の(メタ)アクリロイル基とを有する重合性モノマー(e)0.10~1.5質量部、及び、1分子中に1個以上の活性水素基と反応する官能基と、1個以上の(メタ)アクリロイル基とを有する重合性モノマー(f)0.03~0.40質量部の少なくともいずれかを含有し、前記無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を活性エネルギー線を用いて硬化させた粘着剤層のゲル分率が37~75%であり、前記アクリル系部分共重合体は、水酸基含有アクリルモノマー(c)を更に含み、前記水酸基含有アクリルモノマー(c)の含有量は7質量部以下であり、前記活性エネルギー線は、紫外線であり、前記無溶剤型アクリル系粘着剤組成物の紫外線硬化条件は、メタルハライドランプを使用して照度172mW/cm
2
、積算光量1550mJ/cm
2
での照射条件を含み、前記粘着剤層の厚さは、25μmである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、粘着力、保持力、定荷重剥離力、耐ガソリン性、及び耐アルカリ性に優れた無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴は任意に組み合わされてもよい。
【0018】
本明細書において「~」を用いて特定される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値の範囲として含むものとする。
【0019】
本明細書において「(メタ)アクリル」との文言には、「アクリル」及び「メタクリル」の両方の文言が含まれることを意味する。また、同様に、「(メタ)アクリレート」との文言には、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方の文言が含まれることを意味する。(メタ)アクリル系単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル、並びに、(メタ)アクリル酸等を挙げることができる。これらのうち、(メタ)アクリル酸エステル及び(メタ)アクリル酸を用いることがより好ましく、(メタ)アクリル酸エステルを用いることがさらに好ましい。
【0020】
<無溶剤型アクリル系粘着剤組成物>
無溶剤型アクリル系粘着剤組成物は、アルキル基の炭素数が4以上8以下の(メタ)アクリル酸エステル(a)85~93質量部と、カルボキシル基含有アクリルモノマー(b)7~15質量部とを含有するアクリル系部分共重合体と、アクリル系部分共重合体100質量部に対して、1分子中に2個以上のアルキレングリコールと、3個以上の(メタ)アクリロイル基とを有する重合性モノマー(e)0.10~1.5質量部、及び、1分子中に1個以上の活性水素基と反応する官能基と、1個以上の(メタ)アクリロイル基とを有する重合性モノマー(f)0.03~0.40質量部の少なくともいずれかを含有する。
【0021】
無溶剤型アクリル系粘着剤組成物は、実質的に溶剤を含有しない。溶剤(例えば、有機溶剤)を実質的に含有しないとは、有機溶剤が不可避的に混入する場合を除いて、有機溶剤を能動的に無溶剤型アクリル系粘着剤組成物に配合しないことをいう。無溶剤型アクリル系粘着剤組成物の溶剤含有量は、無溶剤型アクリル系粘着剤組成物100重量%に対して好ましくは2重量%以下、より好ましくは0~2重量%、さらに好ましくは0~1重量%である。溶剤含有量が多すぎると、粘着剤層に気泡が発生し、粘着シートの耐久性等が低下することがある。
【0022】
<アクリル系部分共重合体>
アクリル系部分共重合体は、アクリル系モノマーを部分的に共重合させた共重合体であり、本明細書において「アクリルシロップ」とも呼ばれる。無溶剤型アクリル系粘着剤組成物がアクリルシロップを含有することにより生じる利点は、以下の通りである。例えば、溶剤や水を含まないアクリル系粘着剤組成物なので塗布後の溶剤除去が不要となるため、環境に優しく、人体への安全性が高い作業工程で粘着シートを得ることができる。また、作業工程で水分を蒸発させる為の多大な乾燥エネルギーを省くことができる。
【0023】
(アルキル基の炭素数が4以上8以下の(メタ)アクリル酸エステル(a))
アルキル基の炭素数が4以上8以下の(メタ)アクリル酸エステル(a)としては、例えば、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、及びヘプチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートを挙げることができる。これらのモノマーは、単独で又は2種類以上を混合して用いられる。特に、(メタ)アクリル酸エステル(a)は、ブチルアクリレート及び2-エチルヘキシルアクリレートの少なくともいずれかを含むことが好ましい。
【0024】
ここで、アルキル基の炭素数が3以下の(メタ)アクリル酸エステルを使用すると、ポリマー自体のガラス転移温度(Tg)が上がり凝集力が上昇することで、保持力及び定荷重剥離の特性が改善される。一方で、親水性が上がるため耐アルカリ性が悪くなる。
【0025】
また、アルキル基の炭素数が9以上の(メタ)アクリル酸エステルを使用すると、親油性が上がるため耐アルカリ性が向上する。一方で、ポリマー自体のガラス転移温度(Tg)が下がり凝集力が低下するので、保持力及び定荷重剥離の特性が悪くなる。
【0026】
アルキル基の炭素数が4以上8以下の(メタ)アクリル酸エステル(a)の含有量は、アクリル系部分共重合体を構成する全単量体100質量部中に85~93質量部である。
【0027】
(カルボキシル基含有アクリルモノマー(b))
カルボキシル基含有アクリルモノマー(b)の配合量で無溶剤型アクリル系粘着組成物に凝集力を付与することができ、粘着力、保持力、及び定荷重剥離の特性を調整することができる。また、カルボキシル基含有アクリルモノマー(b)の配合により、アクリル系粘着組成物の親水性を上げることができるので、耐ガソリン性を向上することができる。
【0028】
カルボキシル基含有アクリルモノマー(b)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、コハク酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヘキサヒドロフタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸β-カルボキシエチル、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。本発明では、これらの中から少なくとも1種を使用することが望ましい。また、これらの中でも、上記の(メタ)アクリル酸エステル(a)との共重合性と、後述の重合性モノマー(f)との反応性を考慮すると、カルボキシル基含有アクリルモノマー(b)は、アクリル酸を含むことが好ましい。
【0029】
カルボキシル基含有アクリルモノマー(b)の含有量は、アクリル系部分共重合体を構成する全単量体100質量部中に7~15質量部である。カルボキシル基含有アクリルモノマー(b)の含有量が7質量部よりも少ない場合、以下の問題がある。例えば、アクリル系粘着剤組成物の親水性が低下するため耐ガソリン性が悪くなり、粘着剤層の粘着力が低下するため、保持力及び定荷重剥離の特性が悪化する。このように、粘着剤層が十分な粘着性能を得ることが出来ない。一方で、カルボキシル基含有アクリルモノマー(b)の含有量が15質量部よりも多い場合、アクリル系粘着剤組成物の親水性が向上するため、耐ガソリン性は向上するが、耐アルカリ性が悪くなる。したがって、耐ガソリン性と耐アルカリ性を両立するためには、カルボキシル基含有アクリルモノマー(b)の使用量は好ましくは7~15質量部である。
【0030】
(水酸基含有アクリルモノマー(c))
アクリル系部分共重合体は、水酸基含有アクリルモノマー(c)を更に含むことができる。水酸基含有アクリルモノマー(c)の含有量は、アクリル系部分共重合体を構成する全単量体100質量部中に7質量部以下である。水酸基含有アクリルモノマー(c)を7質量部よりも多く使用した場合、アクリル系粘着剤組成物の親水性が上がるため耐ガソリン性が向上するが、耐アルカリ性は悪化してしまう。
【0031】
水酸基含有アクリルモノマー(c)としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、及び4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル(ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート)を挙げることができる。これらの中でも、上記の(メタ)アクリル酸エステル(a)との共重合性と、後述の重合性モノマー(f)との反応性を考慮すると、水酸基含有アクリルモノマー(c)は4-ヒドロキシブチルアクリレートを含むことが好ましい。
【0032】
これらのモノマーを単独で使用することで耐アルカリ性をあまり低下させることなく耐ガソリン性を向上することができる。しかし、アクリル系部分共重合体がカルボキシル基含有アクリルモノマー(b)を含まず、かつ水酸基含有アクリルモノマー(c)を含む場合では粘着力及び定荷重剥離特性が悪く、無溶剤型アクリル系粘着剤組成物が十分な粘着物性を得ることが出来ない。そのため、アクリル系部分共重合体が水酸基含有アクリルモノマー(c)を含む場合ではカルボキシル基含有アクリルモノマー(b)と水酸基含有アクリルモノマー(c)とを混合して使用することが好ましい。カルボキシル基含有アクリルモノマー(b)と水酸基含有アクリルモノマー(c)とを混合して用いることで、アクリル系粘着剤組成物の親水性を向上させることができるため、耐ガソリン性を改善することができる。また、カルボキシル基と水酸基の水素結合によってアクリル系粘着剤組成物の凝集力を向上させることができるため、保持力及び定荷重剥離の特性が改善する。
【0033】
<重合方法>
アクリル系部分共重合体は、通常の溶液重合、塊状重合、及び活性エネルギー線照射による重合などにより製造され得るが、溶剤を使わずに重合する塊状重合や活性エネルギー線重合が好ましい。ここで、活性エネルギー線は紫外線を含む。塊状重合や活性エネルギー線重合によれば、脱溶剤などの工程を経ることなく、アクリル系部分共重合体が得られ、本発明の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物の製造にそのまま使用することができる。
【0034】
(熱重合開始剤)
アクリル系部分共重合体を製造する際に使用する熱重合開始剤としては、例えば、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシピバレート、ジベンゾイルパーオキサイド、ビス(2-メチルベンゾイル)パーオキサイド、ビス(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、ジオクタノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、及びジ-t-ブチルパーオキサイドなどの油溶性有機過酸化物、例えば、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)などの油溶性アゾ化合物などを挙げることができる。これらは、単独で又は2種類以上を混合して用いられる。
【0035】
(光重合開始剤(d))
本発明では、アクリル系部分共重合体を製造する際および重合したアクリル系粘着組成物を紫外線により硬化させる目的で光重合開始剤(d)は用いられ得る。代表的な光重合開始剤(d)としては、アセトフェノン系、フォスフィンオキサイド系、ベンゾイン系、ベンゾフェノン系、チオキサントン系の開始剤を挙げることができる。これらは、単独で又は2種類以上を混合して用いられる。
【0036】
アセトフェノン系開始剤としては、アセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン等を挙げることができる。
【0037】
フォスフィンオキサイド系開始剤としては、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド等を挙げることができる。
【0038】
ベンゾイン系開始剤としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等を挙げることができる。
【0039】
ベンゾフェノン系開始剤としては、ベンゾフェノン、p-メトキシベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4,4´-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4´-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0040】
チオキサントン系開始剤としては、チオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2-クロルチオキサントン等を挙げることができる。
【0041】
これらの開始剤を1種単独、または2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明では、硬化性が良好な点から、アセトフェノン系開始剤及び/又はフォスフィンオキサイド系開始剤の使用が好ましい。
【0042】
無溶剤型アクリル系粘着剤組成物は、アクリル系部分共重合体100質量部に対して、光重合開始剤(d)を0.3~1.0質量部で含有する。ここで、光重合開始剤(d)の含有量が0.3質量部よりも少ない場合、未反応のモノマーが残りやすく、アクリル系粘着組成物の臭気の問題が生じる。一方で、光重合開始剤(d)の含有量が1.0質量部よりも多い場合、硬化後の重合物(アクリル系共重合体)の分子量が低くなり、定荷重剥離特性が悪くなる。
【0043】
(連鎖移動剤)
アクリル系部分共重合体の分子量を調整するために、連鎖移動剤を適宜使用することができる。連鎖移動剤としては、例えば、チオグリコール酸オクチル、チオグリコール酸メトキシブチル、メルカプトプロピオン酸オクチル、メルカプトプロピオン酸メトキシブチル、ステアリルメルカプタン、ラウリルメルカプタンなどのメルカプタン類、α-メチルスチレンダイマーを挙げることができる。これらは、単独で又は2種類以上を混合して用いられる。
【0044】
<添加剤>
無溶剤型アクリル系粘着剤組成物は、重合性モノマー(e)と重合性モノマー(f)の少なくともいずれかを含むことができる。
【0045】
例えば、無溶剤型アクリル系粘着剤組成物は、アクリル系部分共重合体100質量部に対して、1分子中に2個以上のアルキレングリコールと、3個以上の(メタ)アクリロイル基とを有する重合性モノマー(e)0.10~1.5質量部、及び、1分子中に1個以上の活性水素基と反応する官能基と、1個以上の(メタ)アクリロイル基とを有する重合性モノマー(f)0.03~0.40質量部の少なくともいずれかを含有する。
【0046】
(重合性モノマー(e))
重合性モノマー(e)は、3官能以上の多官能(メタ)アクリレートをアルキレングリコールで変性したモノマーである。アルキレングリコールを構成するアルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、イソブチレンオキサイドが挙げられ、好ましくはエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドである。重合性モノマー(e)に含まれるアルキレングリコールの数(本明細書では「n」で表記)は、2個以上であり、好ましくは3個以上である。重合性モノマー(e)に含まれるアルキレングリコールの数は、40個以下であり、好ましくは35個以下である。重合性モノマー(e)に含まれるアルキレングリコールの数の範囲は、上記の任意の上限値及び下限値の組み合わせであり、例えば、2個以上40個以下、2個以上35個以下、3個以上40個以下、又は3個以上35個以下であり得る。重合性モノマー(e)に含まれる(メタ)アクリロイル基の数は、3個以上5個以下であることが好ましく、3個以上4個以下であることがより好ましい。重合性モノマー(e)としては、例えば、トリメチロールプロパンEO変性(n≒3、20)トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンPO変性トリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性トリアクリレート、ペンタエリスリトールEO変性(n≒35)トリおよびテトラ(メタ)アクリレートを挙げることができる。本発明では、これらの中から少なくとも1種を使用することが望ましい。本発明の無溶剤型アクリル系粘着組成物に光重合開始剤(d)と共に重合性モノマー(e)を添加し、架橋させることで凝集力を付与できる。更に、アルキレングリコールが架橋部分に付与されることで親水性が向上し、耐ガソリン性を向上することができる。
【0047】
重合性モノマー(e)の含有量は、アクリル系部分共重合体100質量部に対して0.10~1.5質量部、好ましくは0.15~1.5質量部である。ここで、重合性モノマー(e)の含有量が0.10質量部よりも少ない場合、粘着剤層のゲル分率が減少するため、十分な凝集力が得られない。そのため、粘着剤層の保持力が悪化し、耐ガソリン性も改善しない。一方で、重合性モノマー(e)の含有量が1.5質量部よりも多い場合、アクリル系粘着剤組成物の凝集力が上がり過ぎて柔軟性が損なわれるため、定荷重剥離特性が悪化する。
【0048】
(重合性モノマー(f))
重合性モノマー(f)は、1個以上のイソシアネート基と1個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマーである。ここで、イソシアネート基の数は、1~3個であり、好ましくは1個である。(メタ)アクリロイル基の数は、1~3個であり、好ましくは1~2個である。イソシアネート基の数が1個であり、かつ(メタ)アクリロイル基の数が1個である重合性モノマー(f)としては、例えば、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。イソシアネート基の数が1個であり、かつ(メタ)アクリロイル基の数が2個である重合性モノマー(f)としては、紫外線硬化性を更に高める観点で、例えば、1,1-(ビス(メタ)アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネートが挙げられる。市販の重合性モノマー(f)としては、2-イソシアナトエチルアクリレート(商品名:カレンズAOI、レゾナック社製)、2-イソシアナトエチルメタクリレート(商品名:カレンズMOI、レゾナック社製)、1,1-ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート(商品名:カレンズBEI、レゾナック社製)等が挙げられる。
【0049】
また、2-イソシアナトエチルメタクリレートのイソシアネート基をアミン化合物でブロックした「カレンズMOI-BM」(レゾナック社製)、ピラゾール化合物でブロックした「カレンズMOI-BP」(レゾナック社製)、2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)と1,6-ジイソシアナトヘキサン(HDI)との重合物(商品名「Laromer PR9000」BASF社製)、グリシジル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル等も重合性モノマー(f)として使用できる。
【0050】
本発明では、活性水素基との反応性を考慮し、重合性モノマー(f)は、2-イソシアナトエチルアクリレート(商品名:カレンズAOI、レゾナック社製)及び2-イソシアナトエチルメタクリレート(商品名:カレンズMOI、レゾナック社製)の少なくともいずれかを含むことが好ましい。
【0051】
本発明において、重合性モノマー(f)は、紫外線硬化の際に光重合するアクリル系ポリマーに対して、活性水素基と反応する官能基を付与するものである。一方、本発明のアクリル系部分共重合体の構成成分は、カルボキシル基含有アクリルモノマー(b)及び水酸基含有アクリルモノマー(c)等の活性水素基含有モノマーを含んでいる。そのため、アクリル系部分共重合体中のアクリル系ポリマーや紫外線硬化の際に光重合するアクリル系ポリマーには、カルボキシル基や水酸基等の活性水素基も付与される。前述の活性水素基と反応する官能基と、カルボキシル基や水酸基等の活性水素基とが養生中に反応することにより、粘着剤の形成に寄与するアクリル系ポリマーに架橋構造が導入される。
【0052】
ここで、重合性モノマー(f)が備える1分子中に1個以上の活性水素基と反応する官能基が、イソシアネート基である。重合性モノマー(f)が備える1分子中に1個以上の活性水素基と反応する官能基の数は、1~3個であり、好ましくは1個である。
【0053】
重合性モノマー(f)が備える1分子中に1個以上の活性水素基と反応する官能基と、アクリル系部分共重合体中のアクリル系ポリマーが備えるカルボキシル基や水酸基等の活性水素基とを予め反応させることにより、炭素-炭素二重結合を有するアクリル系ポリマーを含有するアクリル系部分共重合体を得ることもできる。この場合、例えば反応容器中で40~80℃程度の加熱工程が必要となる。加熱工程を回避するため、本発明においては、重合性モノマー(f)と、アクリル系部分共重合体中のアクリル系ポリマーとを予め反応させずに、前述のように紫外線硬化の工程と養生の工程で、重合性モノマー(f)とアクリル系ポリマーを反応させた方が好ましい。
【0054】
重合性モノマー(f)の含有量は、アクリル系部分共重合体100質量部に対して0.03~0.40質量部である。ここで、重合性モノマー(f)の含有量が0.03質量部よりも少ない場合、粘着剤層のゲル分率が減少し凝集力が不足するため、粘着剤層の保持力及び定荷重剥離特性が悪い。したがって、粘着剤層が十分な粘着性能を得ることができない。一方で、重合性モノマー(f)の含有量が0.40質量部よりも多い場合、アクリル系粘着剤組成物の凝集力が上がり過ぎて柔軟性が損なわれるため、定荷重剥離特性が悪くなる。
【0055】
<その他の添加剤>
無溶剤型アクリル系粘着剤組成物は、必要に応じて、粘着シートの粘着性能等を阻害しない範囲で各種添加剤を含有しても良い。その他の添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、充填剤、顔料、増粘剤、帯電防止剤、シランカップリング剤、難燃剤、粘着付与樹脂を挙げることができる。これらは、単独で又は2種類以上を混合して用いられる。
【0056】
<用途>
本発明の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物は、活性エネルギー線(例えば、紫外線)の照射によって硬化するため、厚塗り塗工が可能である。本発明の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物はマーキングフィルム用である。また、本発明の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を用いた粘着剤は、例えばマーキングフィルム用の粘着剤として用いられる。マーキングフィルムとは、粘着剤付きのシート材のことである。マーキングフィルムの一般的な利用方法を説明する。まず、ユーザーは、自身又は他人の所有する店舗の名称及び営業時間等を表示、装飾、及び宣伝するために、マーキングフィルム(シート材)をカットすることで所望の文字やロゴ等の形状のシートを得る。そして、ユーザーは、所望の形状にカットしたマーキングフィルムを、例えば、店舗の屋内及び/又は屋外の看板及びガラス等に貼り付ける。あるいは、ユーザーは、バイク及び自動車の車両等の意匠性を向上させる目的で、車両等の塗装面にユーザーの所望の形状のマーキングフィルムを直接貼り付けることができる。これにより、車両等の美観性が向上し、ユーザーの車両に対する多様な嗜好性を満足させることができる。
【0057】
マーキングフィルムは、例えば、ポリ塩化ビニル(塩ビ)製、ポリウレタン製、ポリエステル製、及びポリスチレン製等の合成樹脂製フィルムの基材を備える。基材の一方の面には着色又は印刷が施される。基材の他方の面には粘着剤が塗布される。基材としては、耐候性、着色性、及びコスト優位性の観点で、塩ビフィルムの使用が好ましい。塩ビフィルムを用いる場合、塩ビフィルム中の可塑剤が粘着剤に移行し、軟化するのを防ぐため、高分子可塑剤等で可塑化されたものを用いても良い。
【0058】
<粘着シート>
本発明の粘着シートは、基材と、基材の少なくとも一方の面に設けられた無溶剤型アクリル系粘着剤組成物からなる粘着剤層と、を備える。粘着剤層は、活性エネルギー線を用いて無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を硬化させることによって形成される。粘着シートは、上記で説明した粘着剤と併用することができ、粘着剤と同様の用途で用いることができる。粘着剤層及び粘着シートは、以下で説明する方法により形成することができる。
【0059】
ここで、粘着剤層のゲル分率が37~75%である。ゲル分率の測定方法は後述の試験7にて説明する。例えば、ゲル分率が37%未満である場合、アクリル系粘着剤組成物が十分な凝集力を有さないため、粘着剤層の保持力が悪化し、耐ガソリンが向上しない。一方で、ゲル分率が75%を超える場合、アクリル系粘着剤組成物の凝集力が上がり過ぎるため、粘着剤層の柔軟性が損なわれることにより定荷重剥離特性が悪化する。
【0060】
<アクリルシロップA~Jの製造方法>
表1は、アクリルシロップの原料配合と物性を示す。表1のアクリルシロップAの原料配合に基づいて、攪拌機、温度計、還流冷却器、及び窒素導入管を備えた反応装置に、窒素ガスを封入後、ブチルアクリレート(BA)90部、アクリル酸(AAC)10部、熱重合開始剤(2,2'-アゾビスイソブチロニトリル)0.005部を仕込む。これらを攪拌させながら、窒素ガス気流中において、85℃で5時間反応させた。反応終了後、同組成比のモノマーで希釈し、蒸発残分30.4質量%のアクリルシロップAを得た。アクリルシロップAの粘度は、粘度計(東機産業社製、装置名:B型粘度計)を用いて測定された。アクリルシロップB~Jは、表1の原料配合に基づき、アクリルシロップAと同様の工程で得られるため、詳細な説明を省略する。
【0061】
【表1】
(備考)
・BA:ブチルアクリレート
・2EHA:2-エチルヘキシルアクリレート
・AAC:アクリル酸
・4HBA:4-ヒドロキシブチルアクリレート
【0062】
<重合性モノマー(e)を含む無溶剤型アクリル系粘着剤組成物の製造方法>
表2は、実施例1~8、比較例1~6の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物の原料配合を示す。表2の実施例1の原料配合に基づき、アクリルシロップA100部に対して、重合性モノマー(e)としてアロニックスM-350(商品名、東亞合成社製)を0.5部、光重合開始剤(d)としてOmnirad651(商品名、IGM Resins社製)を1.0部添加して、充分に混合して実施例1の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を得た。実施例2~8と比較例1~6の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物は、表2の原料配合に基づき、実施例1と同様の工程で得られるため、詳細な説明を省略する。
【0063】
【表2】
(備考)
<重合性モノマー(e)>
A:トリメチロールプロパンEO変性(n≒3)トリアクリレート(アロニックスM-350/東亞合成社製)
B:トリメチロールプロパンEO変性(n≒20)トリアクリレート(NKエステルAT-20E/新中村化学社製)
C:ペンタエリスリトールEO変性(n≒35)トリおよびテトラアクリレート(NKエステルATM-35E/新中村化学社製)
D:トリメチロールプロパントリアクリレート(アロニックスM-309/東亞合成社製)
なお、上記の「n」の数値は、重合性モノマー(e)に含まれるポリアルキレングリコールの数とする。
<光重合開始剤(d)>
A:2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(Omnirad651/IGM Resins社製)
B:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(Omnirad184/IGM Resins社製)
C:ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンサイド(Omnirad819/IGM Resins社製)
D:2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィノキサイド(OmniradTPO/IGM Resins社製)
【0064】
<重合性モノマー(f)を含む無溶剤型アクリル系粘着剤組成物の製造方法>
表3は、実施例9~18、比較例7~12の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物の原料配合を示す。表3の実施例9の原料配合に基づき、アクリルシロップA100部に対して、重合性モノマー(f)としてカレンズMOI(商品名、レゾナック社製)を0.40部、光重合開始剤(d)としてOmnirad651(商品名、IGM Resins社製)を1.0部添加して、充分に混合して実施例9の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を得た。実施例10~18と比較例7~12の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物は、表3の原料配合に基づき、実施例9と同様の工程で得られるため、詳細な説明を省略する。
【0065】
【表3】
(備考)
<重合性モノマー(f)>
A:2-イソシアナトエチルメタクリレート(カレンズMOI/レゾナック社製)
B:2-イソシアナトエチルアクリレート(カレンズAOI/レゾナック社製)
<光重合開始剤(d)>
A:2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(Omnirad651/IGM Resins社製)
B:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(Omnirad184/IGM Resins社製)
C:ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンサイド(Omnirad819/IGM Resins社製)
D:2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィノキサイド(OmniradTPO/IGM Resins社製)
【0066】
<重合性モノマー(e)と重合性モノマー(f)を含む無溶剤型アクリル系粘着剤組成物の製造方法>
表4は、実施例19~27と比較例13~16の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物の原料配合を示す。表4の実施例19の原料配合に基づき、アクリルシロップB100部に対して、重合性モノマー(e)としてNKエステルAT-20E(商品名、新中村化学社製)を0.5部、重合性モノマー(f)としてカレンズMOI(商品名、レゾナック社製)を0.08部、光重合開始剤(d)としてOmnirad651(商品名、IGM Resins社製)を0.3部添加して、充分に混合して実施例19の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を得た。実施例20~27と比較例13~16の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物等は、表4の原料配合に基づき、実施例19と同様の工程で得られるため、詳細な説明を省略する。
【0067】
【表4】
(備考)
表2と表3の備考と同じであるため省略する
【0068】
<評価用粘着シートの作成>
実施例1~27及び比較例1~16のそれぞれの無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を用いて、以下の評価用粘着シートを作製した。実施例1~27及び比較例1~16のそれぞれの無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を用いて、以下の方法で塩ビフィルムに厚さ25μmの粘着剤層を形成し、粘着シートを作製した。各無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を、シリコーン樹脂コートされたPETフィルム(重剥離タイプの離型性基材)上に塗布後、PETフィルム(軽剥離タイプの離型性基材)を貼り合わせ、下記の紫外線硬化条件で紫外線を照射し硬化させた。硬化後、PETフィルム(軽剥離タイプの離型性基材)を剥がし、塩ビフィルムにPETフィルム(重剥離タイプの離型性基材)上の粘着剤層を転写し、23℃、50%RHの環境下で5日間の養生を行い、評価用粘着シートを得た。紫外線硬化条件は、メタルハライドランプを使用して照度172mW/cm2、積算光量1550mJ/cm2での照射条件を含む。照度・光量計として、EIT社製「UV POWER PUCK」を使用した。
【0069】
<粘着剤及び粘着シートの特性評価方法>
(試験1 粘着力の測定)
各粘着シートについて、JIS Z0237に準じて、23℃、50%RHの環境下、試験板(メラミン塗装板)に対する180°引きはがし粘着力を測定した。具体的には、粘着シートを幅25mmに切断し、メラミン塗装板に貼り付け、2kg荷重にて圧着ロールで1往復圧着して、メラミン塗装板に対する粘着力測定用の試験片を作製した。圧着させてから23℃、50%RH環境で48時間放置した後の試験片を、引きはがし速度300mm/分の条件で粘着シートを引きはがし、メラミン塗装板に対する粘着力を測定した。以下の評価基準に基づいて、粘着シートの粘着力を評価した。
(評価基準)
合格:粘着力が13.0N/25mm以上である
不合格:粘着力が13.0N/25mm未満である
【0070】
(試験2 保持力の測定)
各粘着シートを幅25mm、長さ50mmのサイズに切断し、保持力測定用の試験片を作製した。この試験片を、JIS Z0237に準じて、接着面積が25mm×25mmになるようにSUS板に貼り付け、2kg荷重にて圧着ロールで1往復圧着させた。その後、23℃、50%RHの環境下に60分間放置してから、更に40℃の環境下で20分放置後に、おもり取り付け用のフックを含めて1.0kgのおもりを取り付け、24時間後の試験片のずれた距離(ずれ長さ;mm)、又は、試験片が完全に剥がれ落ちた時間(落下時間;分)を測定した。以下の評価基準に基づいて、粘着シートの保持力を評価した。
(評価基準)
合格:ずれ長さが0.5mm以下である
不合格:ずれ長さが0.5mmを超える、又は、保持時間24時間以内に試験片が落下する
【0071】
(試験3 定荷重剥離力の測定(メラミン塗装板))
各粘着シートを幅25mm、長さ70mmのサイズに切断し、定荷重剥離力測定用の試験片を作製した。この試験片を、接着面積が25mm×50mmになるようにメラミン塗装板に貼り付け、2kg荷重にて圧着ロールで1往復圧着させた。その後、23℃、50%RHの環境下に60分間放置してから、23℃、50%RHの環境下で、圧着したテープ試料を専用ジグにセットし、かつ、評価対象であるテープ試料の端部に、粘着面に対して90°方向に引きはがす荷重がかかるように、おもり取り付け用のフックを含めて0.20kgのおもりを取り付けた。120分後の試験片のハガレ距離(ハガレ長さ;mm)、又は、試験片が完全に剥がれ落ちた時間(落下時間;分)を測定した。以下の評価基準に基づいて、粘着シートの定荷重剥離力を評価した。
(評価基準)
合格:ハガレ長さが40.0mm以下である
不合格:ハガレ長さが40.0mmを超える、又は、保持時間120分以内に試験片が落下する
【0072】
(試験4 定荷重剥離力の測定(ポリプロピレン(PP)板))
各粘着シートを幅25mm、長さ70mmのサイズに切断し、定荷重剥離力測定用の試験片を作製した。この試験片を、接着面積が25mm×50mmになるようにポリプロピレン(PP)板に貼り付け、2kg荷重にて圧着ロールで1往復圧着させた。その後、23℃、50%RHの環境下に60分間放置してから、40℃の環境下で、圧着したテープ試料を専用ジグにセットし、かつ、評価対象であるテープ試料の端部に、粘着面に対して90°方向に引きはがす荷重がかかるように、おもり取り付け用のフックを含めて0.05kgのおもりを取り付けた。120分後の試験片のハガレ距離(ハガレ長さ;mm)、又は、試験片が完全に剥がれ落ちた時間(落下時間;分)を測定した。以下の評価基準に基づいて、粘着シートの定荷重剥離力を評価した。
(評価基準)
合格:ハガレ長さが40.0mm以下である
不合格:ハガレ長さが40.0mmを超える、又は、保持時間120分以内に試験片が落下する
【0073】
(試験5 耐ガソリン性の評価)
各粘着シートを20mm×50mmのサイズに切断し、耐ガソリン性試験用の試験片を作製した。この試験片をそれぞれメラミン塗装板に貼り合わせてから23℃、50%RHの環境下で24時間放置後、擬似ガソリン(トルエン:イソオクタン=1:1混合溶液)に30分浸漬し、取り出し24時間後のメラミン塗装板に貼った試料の外観の変化を目視で観察し、以下の基準で評価した。その際、○は実用上の問題がないことを表す。△、×は実用に耐え得ないことを表す。
(評価基準)
○:変化無し、もしくは取り出し後塩ビフィルムにしわが発生するが、24時間後に元の状態にもどる
△:塩ビフィルムにしわ、僅かな剥がれが生じる
×:塩ビフィルムに、しわ、膨れ、収縮等の変形が生じ、景観が悪い
【0074】
(試験6 耐アルカリ性の評価)
各粘着シートを20mm×50mmのサイズに切断し、耐アルカリ性試験用の試験片を作製した。この試験片をそれぞれメラミン塗装板に貼り合わせてから23℃、50%RHの環境下で24時間放置後、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液中に7時間浸漬し、取り出し24時間後のメラミン塗装板に貼った試料の外観の変化を目視で観察し、以下の基準で評価した。その際、○は実用上の問題がないことを表す。△、×は実用に耐え得ないことを表す。
(評価基準)
○:変化無し、もしくは取り出し後粘着剤層が膨潤しているが、24時間後に元の状態にもどる
△:粘着剤層が膨潤し元の状態に戻らない
×:粘着剤層に膨潤、溶解等の変化が生じた
【0075】
(試験7 ゲル分率の測定)
紫外線硬化後、23℃、50%RHの環境下で5日間の養生を行い得られた粘着剤皮膜を0.1g正確に秤量(W1)して酢酸エチル50mlに1日間浸漬した。秤量した200メッシュの金網(W2)を用いてろ過を行い、可溶分を抽出した。その後、ろ過を行った200メッシュの金網を乾燥した。乾燥後の200メッシュの金網の重さ(W3)を秤量した。これら測定値から以下の式を使いゲル分率(重量%)を算出した。
ゲル分率(重量%)=((W3-W2)/W1)×100
W1:粘着剤被膜の重さ
W2:200メッシュ金網の重さ
W3:乾燥した後の200メッシュ金網の重さ
【0076】
(試験結果)
表2は、実施例1~8及び比較例1~6の試験結果を示す。表3は、実施例9~18及び比較例7~12の試験結果を示す。表4は、実施例19~27及び比較例13~16の試験結果を示す。
【0077】
(実施例1~27の試験結果)
表2~4によれば、実施例1~27は、粘着力、保持力、定荷重剥離力、耐ガソリン性、及び耐アルカリ性の全てにおいて優れた特性を有する。
【0078】
(比較例1~16の試験結果)
一方で、比較例1~16は、粘着力、保持力、定荷重剥離力、耐ガソリン性、及び耐アルカリ性の全てにおいて優れた特性を有さなかった。以下、粘着力、保持力、定荷重剥離力、耐ガソリン性、及び耐アルカリ性の全てを総称して「要求性能」と呼ぶ。
【0079】
(比較例1~6の試験結果の考察)
比較例1は、アルキレングリコールを有さない重合性モノマーを含むため、要求性能を満たさなかったと考えられる。比較例2は、本発明で規定した配合量を超える重合性モノマー(e)と本発明で規定した配合量を超える光重合開始剤(d)を含むため、要求性能を満たさなかったと考えられる。比較例3は、本発明で規定した配合量未満の重合性モノマー(e)を含むため、要求性能を満たさなかったと考えられる。比較例4は、本発明で規定した配合量を超えるカルボキシル基含有アクリルモノマー(b)を含むため、要求性能を満たさなかったと考えられる。比較例5は本発明で規定した配合量未満のカルボキシル基含有アクリルモノマー(b)を含むことと、ゲル分率が本発明で規定した範囲未満のため、要求性能を満たさなかったと考えられる。比較例6は、ゲル分率が本発明で規定した範囲未満のため、要求性能を満たさなかったと考えられる。
【0080】
(比較例7~12の試験結果の考察)
比較例7は、本発明で規定した配合量未満の重合性モノマー(f)を含むため、要求性能を満たさなかったと考えられる。比較例8は、本発明で規定した配合量を超える重合性モノマー(f)を含むため、要求性能を満たさなかったと考えられる。比較例9は、ゲル分率が本発明で規定した範囲未満であるため、要求性能を満たさなかったと考えられる。比較例10は本発明で規定した配合量未満のカルボキシル基含有アクリルモノマー(b)を含むため、要求性能を満たさなかったと考えられる。比較例11は、本発明で規定した配合量を超えるカルボキシル含有アクリルモノマー(b)を含むため、要求性能を満たさなかったと考えられる。比較例12は、本発明で規定した配合量を超える水酸基含有アクリルモノマー(c)を含むため、要求性能を満たさなかったと考えられる。
【0081】
(比較例13~16の試験結果の考察)
比較例13は、アルキレングリコールを有さない重合性モノマー(e)を含むため、要求性能を満たさなかったと考えられる。比較例14は、本発明で規定した配合量未満の重合性モノマー(e)を含むため、要求性能を満たさなかったと考えられる。比較例15は、本発明で規定した配合量を超える重合性モノマー(e)を含むため、要求性能を満たさなかったと考えられる。比較例16は、本発明で規定した配合量を超える重合性モノマー(f)と光重合開始剤(d)を含むため、要求性能を満たさなかったと考えられる。
【0082】
以上の通り、本発明の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物は、粘着力、保持力、定荷重剥離力、耐ガソリン性、及び耐アルカリ性に優れるといった顕著な効果を有する。
【0083】
また、本発明は、環境に優しく、人体への安全性が高い無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を提供することができるため、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標12「つくる責任 つかう責任」に貢献することが可能である。
【0084】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【要約】
【課題】本発明は、粘着力、保持力、定荷重剥離力、耐ガソリン性、及び耐アルカリ性に優れた無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】
アルキル基の炭素数が4以上8以下の(メタ)アクリル酸エステル(a)85~93質量部と、カルボキシル基含有アクリルモノマー(b)7~15質量部とを含有するアクリル系部分共重合体と、前記アクリル系部分共重合体100質量部に対して、1分子中に2個以上のアルキレングリコールと、3個以上の(メタ)アクリロイル基とを有する重合性モノマー(e)0.10~1.5質量部、及び、1分子中に1個以上の活性水素基と反応する官能基と、1個以上の(メタ)アクリロイル基とを有する重合性モノマー(f)0.03~0.40質量部の少なくともいずれかを含有する。前記無溶剤型アクリル系粘着剤組成物からなる粘着剤層のゲル分率が37~75%である。
【選択図】なし