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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】トレッド用ゴム組成物およびタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/06 20060101AFI20241113BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20241113BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20241113BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20241113BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20241113BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20241113BHJP
   C08K 5/548 20060101ALI20241113BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20241113BHJP
   C08L 91/00 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
C08L9/06
B60C1/00 A
B60C11/00 D
C08K3/04
C08K3/22
C08K3/36
C08K5/548
C08L9/00
C08L91/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018194578
(22)【出願日】2018-10-15
(65)【公開番号】P2020063336
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-08-27
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永瀬 隆行
(72)【発明者】
【氏名】田中 健宏
【合議体】
【審判長】藤原 浩子
【審判官】北澤 健一
【審判官】小出 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-171707(JP,A)
【文献】特開2016-204504(JP,A)
【文献】特開2011-144349(JP,A)
【文献】特開2017-218042(JP,A)
【文献】特開2011-231303(JP,A)
【文献】特開2016-113051(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
B60C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンブタジエンゴムを60~85質量%およびブタジエンゴムを15~40質量%含むゴム成分100質量部に、
カーボンブラックを1~40質量部、および
シリカを50~150質量部
含有し、次の(式A)~(式C)を満たすトレッド用ゴム組成物であって、
前記シリカのBET比表面積が180m 2 /g以上であるトレッド用ゴム組成物
(式A) tanδ(0℃)≦0.60
(式B) tanδ(15℃)≦0.20
(式C) |tanδ(15℃)-tanδ(30℃)|≦0.08
(tanδ(0℃)、tanδ(15℃)およびtanδ(30℃)は、それぞれ、0℃、15℃および30℃における動的歪振幅0.5%でのtanδを表す。)
【請求項2】
水酸化アルミニウムを含有する請求項1記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
ゴム成分100質量部に対してオイルを10~80質量部含有する請求項1または2記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項4】
下記式(1)で表される化合物、および/または下記式(2)で表される結合単位Aと下記式(3)で表される結合単位Bとを含む化合物である、メルカプト基を有するシランカップリング剤を含有する請求項1~3のいずれか1項に記載のトレッド用ゴム組成物。
【化1】
(式中、R101~R103は、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~12のアルキル基、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~12のアルコキシ基、または-O-(R111-O)z-R112(z個のR111は、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~30の2価の炭化水素基を表す。z個のR111は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。R112は、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~30のアルキル基、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数2~30のアルケニル基、炭素数6~30のアリール基、または炭素数7~30のアラルキル基を表す。zは、1~30の整数を表す。)で表される基を表す。R101~R103はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。R104は、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~6のアルキレン基を表す。)
【化2】
【化3】
(式中、xは0以上の整数、yは1以上の整数である。R201は、水素原子、ハロゲン原子、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~30のアルキル基、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数2~30のアルケニル基、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数2~30のアルキニル基、または該アルキル基の末端の水素原子が水酸基もしくはカルボキシル基で置換されたものを表す。R202は、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~30のアルキレン基、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数2~30のアルケニレン基、または、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数2~30のアルキニレン基を表す。R201とR202とで環構造を形成してもよい。)
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のトレッド用ゴム組成物で構成されるトレッドを備えるタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド用ゴム組成物および該ゴム組成物により構成されたトレッドを備えたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省資源、省エネルギー、加えて環境保護の立場から、排出炭酸ガスの低減に対する社会的要求が強まっており、自動車に対しても軽量化、電気エネルギーの利用等、様々な対応策が検討されている。そのため、自動車用タイヤの転がり抵抗を低減し、低燃費性を高めることが要求され、また、耐摩耗性等の性能を改善することも望まれている。
【0003】
例えば、転がり抵抗を低下させる方法として、特許文献1では、アミノ基およびアルコキシ基を含有する有機ケイ素化合物で変性されたジエン系ゴム(変性ゴム)を用いる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-344955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のゴム組成物では、シリカとゴムとの反応効率が向上して低燃費性が改善される一方で、シリカとゴムとの結合が密になり過ぎることから、耐摩耗性に改善の余地がある。その他、自動車タイヤ用のゴム組成物は、安全性の面から、ウェットグリップ性能にも優れることが必要とされる。
【0006】
そこで、本発明は、ウェットグリップ性能、低燃費性能および耐摩耗性能等の総合性能に優れたトレッド用ゴム組成物、ならびに該トレッド用ゴム組成物により構成されたトレッドを備えたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、所定量のスチレンブタジエンゴムと所定量のBRを含むゴム成分100質量部に、所定量のカーボンブラックと所定量のシリカを含むトレッド用ゴム組成物であって、0℃における動的歪振幅0.5%でのtanδ(以下、tanδ(0℃)とも表す。)が0.60以下であり、15℃における動的歪振幅0.5%でのtanδ(以下、tanδ(15℃)とも表す。)が0.20以下であり、|tanδ(15℃)-tanδ(30℃)|≦0.08を満たすトレッド用ゴム組成物とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成した。なお、tanδ(30℃)は、30℃における動的歪振幅0.5%でのtanδを表す。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1]スチレンブタジエンゴムを60~85質量%、好ましくは65~80質量%、より好ましくは70~75質量%または65~70質量%およびブタジエンゴムを15~40質量%、好ましくは20~35質量%、より好ましくは25~30質量%または30~35質量%含むゴム成分100質量部に、
カーボンブラックを1~40質量部、好ましくは3~30質量部、より好ましくは5~20質量部、および
シリカを50~150質量部、好ましくは55~115質量部、より好ましくは60~100質量部
含有し、次の(式A)~(式C)を満たすトレッド用ゴム組成物
(式A) tanδ(0℃)≦0.60 (好ましくは0.25≦tanδ(0℃)≦0.45、より好ましくは0.25≦tanδ(0℃)≦0.40、さらに好ましくは0.30≦tanδ(0℃)≦0.40)
(式B) tanδ(15℃)≦0.20 (好ましくは0.11≦tanδ(15℃)≦0.19、より好ましくは0.13≦tanδ(15℃)≦0.18、さらに好ましくは0.14≦tanδ(15℃)≦0.18、特に好ましくは0.14≦tanδ(15℃)≦0.16)
(式C) |tanδ(15℃)-tanδ(30℃)|≦0.08 (好ましくは0.01≦|tanδ(15℃)-tanδ(30℃)|≦0.07、より好ましくは0.02≦|tanδ(15℃)-tanδ(30℃)|≦0.06、さらに好ましくは0.03≦|tanδ(15℃)-tanδ(30℃)|≦0.05)
(tanδ(0℃)、tanδ(15℃)およびtanδ(30℃)は、それぞれ、0℃、15℃および30℃における動的歪振幅0.5%でのtanδを表す。)、
[2]水酸化アルミニウムを含有する上記[1]記載のトレッド用ゴム組成物、
[3]ゴム成分100質量部に対してオイルを10~80質量部、好ましくは15~70質量部、より好ましくは20~60質量部含有する上記[1]または[2]記載のトレッド用ゴム組成物、
[4]下記式(1)で表される化合物、および/または下記式(2)で表される結合単位Aと下記式(3)で表される結合単位Bとを含む化合物である、メルカプト基を有するシランカップリング剤を含有する上記[1]~[3]のいずれかに記載のトレッド用ゴム組成物
【化1】
(式中、R101~R103は、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~12のアルキル基、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~12のアルコキシ基、または-O-(R111-O)z-R112(z個のR111は、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~30の2価の炭化水素基を表す。z個のR111は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。R112は、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~30のアルキル基、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数2~30のアルケニル基、炭素数6~30のアリール基、または炭素数7~30のアラルキル基を表す。zは、1~30の整数を表す。)で表される基を表す。R101~R103はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。R104は、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~6のアルキレン基を表す。)
【化2】
【化3】
(式中、xは0以上の整数、yは1以上の整数である。R201は、水素原子、ハロゲン原子、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~30のアルキル基、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数2~30のアルケニル基、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数2~30のアルキニル基、または該アルキル基の末端の水素原子が水酸基もしくはカルボキシル基で置換されたものを表す。R202は、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~30のアルキレン基、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数2~30のアルケニレン基、または、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数2~30のアルキニレン基を表す。R201とR202とで環構造を形成してもよい。)、ならびに
[5]上記[1]~[4]のいずれかに記載のトレッド用ゴム組成物で構成されるトレッドを備えるタイヤ
に関する。
【発明の効果】
【0009】
スチレンブタジエンゴムを60~85質量%およびブタジエンゴムを15~40質量%含むゴム成分100質量部に、カーボンブラックを1~40質量部およびシリカを50~150質量部含有し、tanδ(0℃)≦0.60、tanδ(15℃)≦0.20、および|tanδ(15℃)-tanδ(30℃)|≦0.08を満たす本発明のトレッド用ゴム組成物は、タイヤのトレッドに用いることにより、ウェットグリップ性能、低燃費性能および耐摩耗性能等の総合性能に優れたタイヤとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
一の実施態様であるトレッド用ゴム組成物は、スチレンブタジエンゴムを60~85質量%およびブタジエンゴムを15~40質量%含むゴム成分100質量部に、カーボンブラックを1~40質量部およびシリカを50~150質量部含有し、tanδ(0℃)≦0.60(式A)、tanδ(15℃)≦0.20(式B)、および|tanδ(15℃)-tanδ(30℃)|≦0.08(式C)を満たすものとすることを特徴とする。この特徴により、同様の配合を用いるゴム組成物と比較して飛躍的にタイヤのウェットグリップ性能、低燃費性能および耐摩耗性能等の総合性能を改善することができる。具体的には、タイヤ温度30~40℃のエネルギーロスを低減することで、RRC(転がり抵抗係数)を低減することができると考えられる。この際、BRを15質量%以上含有させてガラス転移温度Tgを下げることにより、耐摩耗性を向上させることができると考えられる。このように、tanδ(0℃)≦0.60、tanδ(15℃)≦0.20、および|tanδ(15℃)-tanδ(30℃)|≦0.08を満たすものとすることにより、超低燃費配合を適用したタイヤであっても、これらのtanδの値や|tanδ(15℃)-tanδ(30℃)|の値がより高い配合に比べて、同程度のtanδ(30℃)でよりRRCを低くする、すなわち低燃費化することができると考えられる。
【0011】
一の実施形態であるトレッド用ゴム組成物のtanδ(0℃)は0.60以下であり、0.45以下が好ましく、0.40以下がより好ましい。tanδ(0℃)が0.60を超えると、低燃費性能、とりわけ冬場の燃費性能が悪くなるおそれがある。また、tanδ(0℃)は、0.25以上が好ましく、0.30以上がより好ましい。tanδ(0℃)を0.25以上とすることにより、良好なウェットグリップ性能を得ることができる傾向がある。なお、tanδ(0℃)は、後述する実施例に記載の測定方法により得られる値である。
【0012】
一の実施形態であるトレッド用ゴム組成物のtanδ(15℃)は0.20以下であり、0.19以下が好ましく、0.18以下がより好ましく、0.16以下がさらに好ましい。tanδ(15℃)が0.20を超えると、燃費性能が悪化するおそれがある。また、tanδ(15℃)は、0.11以上が好ましく、0.13以上がより好ましく、0.14以上がさらに好ましい。tanδ(15℃)を0.11以上とすることにより、乾燥路面での必要な制動力を発揮できる傾向がある。なお、tanδ(15℃)は、後述する実施例に記載の測定方法により得られる値である。
【0013】
一の実施形態であるトレッド用ゴム組成物の|tanδ(15℃)-tanδ(30℃)|は0.08以下であり、0.07以下が好ましく、0.06以下がより好ましく、0.05以下がさらに好ましい。|tanδ(15℃)-tanδ(30℃)|が0.08を超えると、エネルギーロスの温度依存性が大きくなり、すなわちタイヤの使用環境温度による燃費性能への依存性が大きくなるおそれがあり、冬場に燃費性能が悪化する傾向がある。また、|tanδ(15℃)-tanδ(30℃)|は、0.01以上が好ましく、0.02以上がより好ましく、0.03以上がさらに好ましい。|tanδ(15℃)-tanδ(30℃)|を0.01以上とすることにより、乾燥路面およびウェット路面での制動性能のバランスが両立できる傾向がある。なお、|tanδ(15℃)-tanδ(30℃)|は、後述する実施例に記載の測定方法により得られる値である。
【0014】
スチレンブタジエンゴムを60~85質量%およびブタジエンゴムを15~40質量%含むゴム成分100質量部に、カーボンブラックを1~40質量部およびシリカを50~150質量部含有するゴム組成物において、tanδ(0℃)≦0.60(式A)、tanδ(15℃)≦0.20(式B)、および|tanδ(15℃)-tanδ(30℃)|≦0.08(式C)を満たすものとすることは、使用するスチレンブタジエンゴムやブタジエンゴムのTgを最適化することにより得られ、具体的には、これらを組み合わせて配合したトレッドゴム組成物のtanδピーク温度が、-9℃以下になるように選択することにより、あるいはその他の配合剤である、オイル、樹脂等の量を調節することで、-9℃以下に調整することも可能であり、これらの配合調整を行うことにより、当業者により過度の負担を強いることなく行われ得る。
【0015】
(ゴム成分)
一の実施形態において、ゴム成分は、スチレンブタジエンゴム(SBR)を60~85質量%、ブタジエンゴム(BR)を15~40質量%含有する。その他、ゴム成分には、SBRおよびBR以外に、例えば、天然ゴム(NR)、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(HPNR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、イソプレンゴム(IR)等を含有させることもできるが、SBRおよびBRのみが好ましい。
【0016】
(SBR)
SBRとしては特に限定はなく、溶液重合SBR(S-SBR)、乳化重合SBR(E-SBR)、これらの変性SBR(変性S-SBR、変性E-SBR)等が挙げられる。変性SBRとしては、末端および/または主鎖が変性されたSBR、スズ、ケイ素化合物等でカップリングされた変性SBR(縮合物、分岐構造を有するもの等)等が挙げられる。なかでもS-SBRが好ましい。さらに、これらSBRの水素添加物(水素添加SBR)等も使用することができる。これらSBRは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
本実施形態で使用できるS-SBRとしては、JSR(株)、宇部興産(株)、旭化成(株)、ZSエラストマー(株)等によって製造販売されるS-SBRが挙げられる。
【0018】
SBRのスチレン含量は、グリップ性能の観点から、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。スチレン含量が多すぎると、スチレン基が隣接し、ポリマーが硬くなりすぎ、架橋が不均一となりやすく、高温走行時のブロー性が悪化するおそれがあり、また、温度依存性が増大し、温度変化に対する性能変化が大きくなってしまい、走行中および後期の安定したグリップ性能が良好に得られない傾向があることから、SBRのスチレン含有量は、55質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、45質量%以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、SBRのスチレン含有量は、1H-NMR測定により算出される。
【0019】
SBRのビニル結合量は、シリカとの反応性の担保、ゴム強度や耐摩耗性の観点から10モル%以上が好ましく、15モル%以上がより好ましく、20モル%以上がさらに好ましい。また、SBRのビニル結合量は、温度依存性の増大防止、グリップ性能、EB(耐久性)、耐摩耗性の観点から、70モル%以下が好ましく、65モル%以下がより好ましく、60モル%以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、SBRのビニル結合量(1,2-結合ブタジエン単位量)は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定される。
【0020】
SBRの重量平均分子量(Mw)は、耐摩耗性およびグリップ性能等の観点から20万以上が好ましく、30万以上がより好ましく、40万以上がさらに好ましく、50万以上が特に好ましい。また、Mwは、架橋均一性等の観点から、200万以下が好ましく、150以下がより好ましく、100万以下がさらに好ましい。なお、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ-M)による測定値を基に、標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0021】
SBRのゴム成分中の含有量は、60質量%以上であるが、65質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。SBRのゴム成分中の含有量が、60質量%未満の場合は、ウェット路面でのグリップ性能が不十分となる傾向がある。また、SBRのゴム成分中の含有量は、85質量%以下であり、80質量%以下が好ましく、75質量%以下がより好ましく、70質量%以下がより好ましい。SBRのゴム成分中の含有量が、85質量%を超える場合は、耐摩耗性能が不十分となる傾向がある。
【0022】
(BR)
BRとしては特に限定されるものではなく、例えば、シス1,4結合含有率が50%未満のBR(ローシスBR)、シス1,4結合含有率が90%以上のBR(ハイシスBR)、希土類元素系触媒を用いて合成された希土類系ブタジエンゴム(希土類系BR)、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、変性BR(ハイシス変性BR、ローシス変性BR)等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。
【0023】
ハイシスBRとしては、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR130B、BR150B、BR150L、JSR(株)製のBR730等が挙げられる。ハイシスBRを含有することで低温特性および耐摩耗性能を向上させることができる。希土類系BRとしては、例えば、ランクセス(株)製のBUNA-CB25等が挙げられる。
【0024】
SPB含有BRは、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶が、単にBR中に結晶を分散させたものではなく、BRと化学結合したうえで分散しているものが挙げられる。このようなSPB含有BRとしては、宇部興産(株)製のVCR-303、VCR-412、VCR-617等が挙げられる。
【0025】
変性BRとしては、リチウム開始剤により1,3-ブタジエンの重合を行ったのち、スズ化合物を添加することにより得られ、さらに変性BR分子の末端がスズ-炭素結合で結合されているもの(スズ変性BR)や、ブタジエンゴムの活性末端に縮合アルコキシシラン化合物を有するブタジエンゴム(シリカ用変性BR)等が挙げられる。このような変性BRとしては、例えば、ZSエラストマー(株)製のBR1250H(スズ変性)、S変性ポリマー(シリカ用変性)等が挙げられる。
【0026】
BRの重量平均分子量(Mw)は、耐摩耗性およびグリップ性能等の観点から30万以上が好ましく、40万以上がより好ましく、45万以上がさらに好ましい。また、Mwは、架橋均一性等の観点から、200万以下が好ましく、100万以下がより好ましい。なお、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ-M)による測定値を基に、標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0027】
BRのゴム成分中の含有量は、15質量%以上であるが、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。BRのゴム成分中の含有量が、15質量%未満の場合は、耐摩耗性能が不十分となる傾向がある。また、BRのゴム成分中の含有量は、40質量%以下であり、35質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。BRのゴム成分中の含有量が、40質量%を超える場合は、ウェット路面でのグリップ性能が不十分となる傾向がある。
【0028】
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては特に限定されず、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等、タイヤ工業において一般的なものを使用でき、具体的にはN110、N115、N120、N125、N134、N135、N219、N220、N231、N234、N293、N299、N326、N330、N339、N343、N347、N351、N356、N358、N375、N539、N550、N582、N630、N642、N650、N660、N683、N754、N762、N765、N772、N774、N787、N907、N908、N990、N991等を好適に用いることができ、これ以外にも自社合成品等も好適に用いることができる。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0029】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、耐候性や補強性の観点から50m2/g以上が好ましく、80m2/g以上がより好ましい。また、カーボンブラックのN2SAは、低燃費性、分散性、破壊特性および耐久性の観点から250m2/g以下が好ましく、220m2/g以下がより好ましい。なお、本明細書におけるカーボンブラックのN2SAは、JIS K 6217-2「ゴム用カーボンブラック基本特性-第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」のA法に準じて測定される値である。
【0030】
カーボンブラックのゴム成分100質量部に対する含有量は1質量部以上であり、3質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。カーボンブラックの含有量が1質量部未満であると、耐候性が確保できず、紫外線によるクラックが発生する可能性がある。また、カーボンブラックのゴム成分100質量部に対する含有量は40質量部以下であり、30質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましい。カーボンブラックの含有量が40質量部を超えると、十分な低燃費性能を実現できなくなる可能性がある。
【0031】
(シリカ)
一の実施形態では、シリカが使用される。シリカを配合することにより、低燃費性、耐摩耗性、ウェットグリップ性能を向上できる。シリカとしては、特に限定されるものではなく、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水シリカ)、湿式法により調製されたシリカ(含水シリカ)等、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。なかでもシラノール基が多いという理由から、湿式法により調製された含水シリカが好ましい。シリカは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
シリカのBET比表面積は、耐久性や破断時伸びの観点から、80m2/g以上が好ましく、100m2/g以上がより好ましく、150m2/g以上がさらに好ましく、180m2/g以上が特に好ましい。また、シリカのBET比表面積は、低燃費性および加工性の観点から、300m2/g以下が好ましく、250m2/g以下がより好ましい。なお、本明細書におけるシリカのBET比表面積は、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される値である。
【0033】
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、50質量部以上であり、55質量部以上が好ましく、60質量部以上がより好ましい。シリカの含有量が50質量部未満であると、シリカを配合することによる低燃費性の向上効果が十分に得られない傾向、耐摩耗性能の向上効果が十分に得られない傾向、また、ウェット路面でのグリップ性能が十分に得られない可能性がある。シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、150質量部以下であり、115質量部以下が好ましく、100質量部以下がより好ましい。シリカの含有量が150質量部を超えると、シリカのゴムへの分散性の悪化により、低燃費性能および耐摩耗性能が低下する傾向、ゴムの加工性の悪化、特に粘度が高くなり過ぎて加工が困難になる可能性がある。
【0034】
一の実施形態に係るトレッド用ゴム組成物には、前記成分以外にも、従来タイヤ工業で一般に使用される配合剤、例えば、カーボンブラックおよびシリカ以外の補強用充填剤、シランカップリング剤、オイル、粘着付与樹脂、ワックス、加工助剤、各種老化防止剤、軟化剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、硫黄等の加硫剤、各種加硫促進剤等を適宜含有することができる。
【0035】
(その他の補強用充填剤)
カーボンブラックおよびシリカ以外の補強用充填剤としては、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、アルミナ、クレー、タルク等、従来からトレッド用ゴム組成物において用いられているものを配合することができる。
【0036】
(水酸化アルミニウム)
水酸化アルミニウムとしては、タイヤ工業において一般的なものを使用することができ、例えば、昭和電工(株)製のハイジライト(登録商標)、ナバルテック社製のアピラール(登録商標)等が挙げられる。なお、本実施形態における水酸化アルミニウムには、アルミナ水和物も含む。
【0037】
水酸化アルミニウムの窒素吸着比表面積(N2SA)は、ウェットグリップ性能の観点から、4m2/g以上が好ましく、5m2/g以上が好ましく、6m2/g以上がより好ましい。また、水酸化アルミニウムのN2SAは、水酸化アルミニウムの分散性、再凝集防止、耐摩耗性能の観点から、50m2/g以下が好ましく、45m2/g以下がより好ましく、40m2/g以下がさらに好ましい。なお、本明細書における水酸化アルミニウムのN2SAは、ASTM D3037-81に準じてBET法で測定される値である。
【0038】
水酸化アルミニウムの平均粒子径(D50)は、水酸化アルミニウムの分散性、再凝集防止、耐摩耗性能の観点から、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましく、0.3μm以上がさらに好ましい。また、水酸化アルミニウムの平均粒子径(D50)は、耐摩耗性能の観点から、3.0μm以下が好ましく、2.0μm以下がより好ましい。なお、本明細書における平均粒子径(D50)とは、粒子径分布測定装置により求めた粒子径分布曲線の積算質量値50%の粒子径である。
【0039】
水酸化アルミニウムを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、3質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、10質量部以上がさらに好ましい。水酸化アルミニウムの含有量を3質量部以上とすることにより、ウェットグリップ性能が良好なものとなる傾向がある。また、水酸化アルミニウムを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましい。水酸化アルミニウムの含有量を30質量部以下とすることにより、耐摩耗性が良好なものとなる傾向がある。
【0040】
(シランカップリング剤)
一の実施形態に係るトレッド用ゴム組成物は、シリカを含有するため、シランカップリング剤を併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、特に限定されず、タイヤ工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができる。シランカップリング剤の具体例としては、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリメトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド等のスルフィド基を有するシランカップリング剤;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、エボニック・デグザ社製のSi363、モメンティブ社製のNXT-Z30、NXT-Z45、NXT-Z60等のメルカプト基を有するシランカップリング剤;3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-ヘキサノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリメトキシシラン等のチオエステル基を有するシランカップリング剤;ビニルトリエトキシシラン等のビニル基を有するシランカップリング剤;3-アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤;γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のグリシドキシ基を有するシランカップリング剤;3-ニトロプロピルトリメトキシシラン等のニトロ基を有するシランカップリング剤;3-クロロプロピルトリメトキシシラン等のクロロ基を有するシランカップリング剤等が挙げられ、メルカプト基を有するシランカップリング剤が好ましい。これらのシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
メルカプト基を有するシランカップリング剤は、下記式(1)で表される化合物、および/または下記式(2)で表される結合単位Aと下記式(3)で表される結合単位Bとを含む化合物であることが好ましい。
【化4】
(式中、R101~R103は、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~12のアルキル基、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~12のアルコキシ基、または-O-(R111-O)z-R112(z個のR111は、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~30の2価の炭化水素基を表す。z個のR111は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。R112は、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~30のアルキル基、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数2~30のアルケニル基、炭素数6~30のアリール基、または炭素数7~30のアラルキル基を表す。zは、1~30の整数を表す。)で表される基を表す。R101~R103はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。R104は、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~6のアルキレン基を表す。)
【化5】
【化6】
(式中、xは0以上の整数、yは1以上の整数である。R201は、水素原子、ハロゲン原子、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~30のアルキル基、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数2~30のアルケニル基、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数2~30のアルキニル基、または該アルキル基の末端の水素原子が水酸基もしくはカルボキシル基で置換されたものを表す。R202は、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~30のアルキレン基、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数2~30のアルケニレン基、または、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数2~30のアルキニレン基を表す。R201とR202とで環構造を形成してもよい。)
【0042】
以下、上記式(1)で表される化合物について説明する。
【0043】
101~R103は、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~12のアルキル基、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~12のアルコキシ基、または-O-(R111-O)z-R112で表される基を表す。所望の効果が良好に得られるという点から、R101~R103は、少なくとも1つが-O-(R111-O)z-R112で表される基であることが好ましく、2つが-O-(R111-O)z-R112で表される基であり、かつ、1つが直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~12のアルコキシ基であることがより好ましい。
【0044】
101~R103の直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~12(好ましくは炭素数1~5)のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基、ノニル基等が挙げられる。
【0045】
101~R103の直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~12(好ましくは炭素数1~5)のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、iso-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基等が挙げられる。
【0046】
101~R103の-O-(R111-O)z-R112において、R111は、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~30(好ましくは炭素数1~15、より好ましくは炭素数1~3)の2価の炭化水素基を表す。該炭化水素基としては、例えば、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~30のアルキレン基、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数2~30のアルケニレン基、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数2~30のアルキニレン基、炭素数6~30のアリーレン基等が挙げられる。なかでも直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~30のアルキレン基が好ましい。
【0047】
111の直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~30(好ましくは炭素数1~15、より好ましくは炭素数1~3)のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、オクタデシレン基等が挙げられる。
【0048】
111の直鎖もしくは分岐鎖の炭素数2~30(好ましくは炭素数2~15、より好ましくは炭素数2または3)のアルケニレン基としては、例えば、ビニレン基、1-プロペニレン基、2-プロペニレン基、1-ブテニレン基、2-ブテニレン基、1-ペンテニレン基、2-ペンテニレン基、1-ヘキセニレン基、2-ヘキセニレン基、1-オクテニレン基等が挙げられる。
【0049】
111の直鎖もしくは分岐鎖の炭素数2~30(好ましくは炭素数2~15、より好ましくは炭素数2または3)のアルキニレン基としては、例えば、エチニレン基、プロピニレン基、ブチニレン基、ペンチニレン基、ヘキシニレン基、ヘプチニレン基、オクチニレン基、ノニニレン基、デシニレン基、ウンデシニレン基、ドデシニレン基等が挙げられる。
【0050】
111の炭素数6~30(好ましくは炭素数6~15)のアリーレン基としては、例えば、フェニレン基、トリレン基、キシリレン基、ナフチレン基等が挙げられる。
【0051】
zは、1~30の整数であり、2~20が好ましく、3~7がより好ましく、5または6がさらに好ましい。
【0052】
112は、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~30のアルキル基、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数2~30のアルケニル基、炭素数6~30のアリール基または炭素数7~30のアラルキル基を表す。なかでも直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~30のアルキル基が好ましい。
【0053】
112の直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~30(好ましくは炭素数3~25、より好ましくは炭素数10~15)のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。
【0054】
112の直鎖もしくは分岐鎖の炭素数2~30(好ましくは炭素数3~25、より好ましくは炭素数10~15)のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、1-オクテニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、オクタデセニル基等が挙げられる。
【0055】
112の炭素数6~30(好ましくは炭素数10~20)のアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基等が挙げられる。
【0056】
112の炭素数7~30(好ましくは炭素数10~20)のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
【0057】
-O-(R111-O)z-R112で表される基の具体例としては、例えば、-O-(C24-O)5-C1123、-O-(C24-O)5-C1225、-O-(C24-O)5-C1327、-O-(C24-O)5-C1429、-O-(C24-O)5-C1531、-O-(C24-O)3-C1327、-O-(C24-O)4-C1327、-O-(C24-O)6-C1327、-O-(C24-O)7-C1327等が挙げられる。なかでも-O-(C24-O)5-C1123、-O-(C24-O)5-C1327、-O-(C24-O)5-C1531、-O-(C24-O)6-C1327が好ましい。
【0058】
104の直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~6(好ましくは炭素数1~5)のアルキレン基としては、例えば、R111の直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~30のアルキレン基と同様の基を挙げることができる。
【0059】
上記式(1)で表される化合物としては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシランや、下記式で表される化合物(エボニック・デグザ社製のSi363)等が挙げられ、下記式で表される化合物を好適に使用することができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【化7】
【0060】
次に、上記式(2)で示される結合単位Aと上記式(3)で示される結合単位Bとを含む化合物について説明する。
【0061】
上記式(2)で示される結合単位Aと上記式(3)で示される結合単位Bとを含む化合物は、ビス-(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のポリスルフィドシランに比べ、加工中の粘度上昇が抑制される。これは結合単位Aのスルフィド部分がC-S-C結合であるため、テトラスルフィドやジスルフィドに比べ熱的に安定であることから、ムーニー粘度の上昇が少ないためと考えられる。
【0062】
また、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシランに比べ、スコーチ時間の短縮が抑制される。これは、結合単位Bはメルカプトシランの構造を持っているが、結合単位Aの-C715部分が結合単位Bの-SH基を覆うため、ポリマーと反応しにくく、スコーチが発生しにくいためと考えられる。
【0063】
上述した加工中の粘度上昇を抑制する効果や、スコーチ時間の短縮を抑制する効果を高めることができるという点から、上記構造のシランカップリング剤において、結合単位Aの含有量は、30モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、99モル%以下が好ましく、90モル%以下がより好ましい。また、結合単位Bの含有量は、1モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上がさらに好ましく、70モル%以下が好ましく、65モル%以下がより好ましく、55モル%以下がさらに好ましい。また、結合単位AおよびBの合計含有量は、95モル%以上が好ましく、98モル%以上がより好ましく、100モル%が特に好ましい。なお、結合単位A、Bの含有量は、結合単位A、Bがシランカップリング剤の末端に位置する場合も含む量である。結合単位A、Bがシランカップリング剤の末端に位置する場合の形態は特に限定されず、結合単位A、Bを示す式(2)、(3)と対応するユニットを形成していればよい。
【0064】
201のハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等が挙げられる。
【0065】
201の直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~30のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、へキシル基、へプチル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。該アルキル基の炭素数は1~12が好ましい。
【0066】
201の直鎖もしくは分岐鎖の炭素数2~30のアルケニル基としては、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、1-オクテニル基等が挙げられる。該アルケニル基の炭素数は2~12が好ましい。
【0067】
201の直鎖もしくは分岐鎖の炭素数2~30のアルキニル基としては、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、へプチニル基、オクチニル基、ノニニル基、デシニル基、ウンデシニル基、ドデシニル基等が挙げられる。該アルキニル基の炭素数は2~12が好ましい。
【0068】
202の直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~30のアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、オクタデシレン基等が挙げられる。該アルキレン基の炭素数は1~12が好ましい。
【0069】
202の直鎖もしくは分岐鎖の炭素数2~30のアルケニレン基としては、ビニレン基、1-プロペニレン基、2-プロペニレン基、1-ブテニレン基、2-ブテニレン基、1-ペンテニレン基、2-ペンテニレン基、1-ヘキセニレン基、2-ヘキセニレン基、1-オクテニレン基等が挙げられる。該アルケニレン基の炭素数は2~12が好ましい。
【0070】
202の直鎖もしくは分岐鎖の炭素数2~30のアルキニレン基としては、エチニレン基、プロピニレン基、ブチニレン基、ペンチニレン基、ヘキシニレン基、へプチニレン基、オクチニレン基、ノニニレン基、デシニレン基、ウンデシニレン基、ドデシニレン基等が挙げられる。該アルキニレン基の炭素数は2~12が好ましい。
【0071】
上記式(2)で示される結合単位Aと上記式(3)で示される結合単位Bとを含む化合物において、結合単位Aの繰り返し数(x)と結合単位Bの繰り返し数(y)の合計の繰り返し数(x+y)は、3~300の範囲が好ましい。この範囲内であると、結合単位Bのメルカプトシランを、結合単位Aの-C715が覆うため、スコーチ時間が短くなることを抑制できるとともに、シリカやゴム成分との良好な反応性を確保することができる。
【0072】
上記式(2)で示される結合単位Aと上記式(3)で示される結合単位Bとを含む化合物としては、例えば、モメンティブ社製のNXT-Z30、NXT-Z45、NXT-Z60等を使用することができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0073】
シランカップリング剤を含有させる場合のシリカ100質量部に対する含有量は、6質量部以上が好ましく、8質量部以上がより好ましく、10質量部以上がさらに好ましい。シランカップリング剤のシリカ100質量部に対する含有量を6質量部以上とすることにより、低燃費性等の改善効果が得られやすい傾向、シリカのゴム中への分散性を確保できる傾向がある。また、シランカップリング剤を含有させる場合のシリカ100質量部に対する含有量は、20質量部以下が好ましく、18質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましい。シランカップリング剤のシリカ100質量部に対する含有量を20質量部以下とすることにより、ゴム強度、耐摩耗性の低下を抑えることができる傾向がある。
【0074】
(オイル)
オイルとしては、例えば、アロマチックオイル、プロセスオイル、パラフィンオイル等の鉱物油等が挙げられる。なかでも、環境への負荷低減という理由からプロセスオイルを使用することが好ましい。
【0075】
オイルを含有させる場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、10質量部以上が好ましく、15質量部以上がより好ましく、20質量部以上がさらに好ましい。オイルの含有量を10質量部以上とすることにより、タイヤに必要な硬さの確保と、加工性を担保することができる傾向がある。また、オイルを含有させる場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、80質量部以下が好ましく、70質量部以下がより好ましく、60質量部以下がさらに好ましい。オイルの含有量を80質量部以下とすることにより、加工性を担保することができる傾向がある。
【0076】
(粘着付与樹脂)
粘着付与樹脂としては、シクロペンタジエン系樹脂、クマロン樹脂、石油系樹脂(脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂等)、フェノール系樹脂、ロジン誘導体等が挙げられ、芳香族系石油樹脂が好ましい。
【0077】
芳香族系石油樹脂としては、例えば、下記の芳香族ビニル系樹脂および芳香族ビニル系樹脂以外のC9系石油樹脂等が挙げられ、芳香族ビニル系樹脂が好ましい。
【0078】
芳香族ビニル系樹脂では、芳香族ビニル単量体(単位)として、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、1-ビニルナフタレン、3-ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、4-シクロヘキシルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン等が使用され、それぞれの単量体の単独重合体、2種以上の単量体の共重合体のいずれであってもよい。また、これらを変性させたものであってもよい。
【0079】
芳香族ビニル系樹脂としては、経済的で、加工しやすく、ウェットグリップ性能に優れているという理由から、α-メチルスチレンもしくはスチレンの単独重合体またはα-メチルスチレンとスチレンとの共重合体が好ましく、α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体がより好ましい。芳香族ビニル系樹脂としては、例えば、アリゾナケミカル社製のSYLVARES SA85、SA100、SA120、SA140、イーストマンケミカル社製のR2336等の市販品が好適に用いられる。α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体としては、例えば、アリゾナケミカル社製のSYLVATRAXX4401等が好適に用いられる。
【0080】
粘着付与樹脂の軟化点は、40℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましい。軟化点を40℃以上とすることにより、十分なグリップ性能が得られる傾向がある。また、該軟化点は120℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましい。軟化点を120℃以下とすることにより、十分なグリップ性能が得られる傾向がある。なお、本明細書における樹脂の軟化点は、JIS K 6220-1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0081】
粘着付与樹脂、特に芳香族ビニル系樹脂を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ウェットグリップ性能の観点、ドライグリップ性能の観点から、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、3質量部以上がさらに好ましく、4質量部以上が特に好ましい。また、粘着付与樹脂、特に芳香族ビニル系樹脂を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、耐摩耗性および低燃費性の観点、低温での脆化破壊の観点から50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、35質量部以下がさらに好ましく、10質量部以下が特に好ましい。
【0082】
(加工助剤)
加工助剤としては、例えば、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、アミドエステル、シリカ表面活性剤、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩とアミドエステルとの混合物、脂肪酸金属塩と脂肪酸アミドとの混合物等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、脂肪酸金属塩、アミドエステル、脂肪酸金属塩とアミドエステル若しくは脂肪酸アミドとの混合物が好ましく、脂肪酸金属塩と脂肪酸アミドとの混合物が特に好ましい。具体的には、例えば、ストラクトール社製のEF44、WB16等の脂肪酸石鹸系加工助剤が挙げられる。
【0083】
加工助剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の改善効果を発揮させる観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、加工助剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、耐摩耗性、破壊強度の観点から10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましい。
【0084】
(老化防止剤)
老化防止剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アミン系、キノリン系、フェノール系、イミダゾール系の各化合物や、カルバミン酸金属塩等の老化防止剤を適宜選択して配合することができ、これらの老化防止剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なかでもアミン系老化防止剤が好ましく、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-シクロヘキシル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1-メチルヘプチル)-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1-エチル-3-メチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、N-4-メチル-2-ペンチル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジアリール-p-フェニレンジアミン、ヒンダードジアリール-p-フェニレンジアミン、フェニルヘキシル-p-フェニレンジアミン、フェニルオクチル-p-フェニレンジアミン等のp-フェニレンジアミン系がより好ましく、なかでもN-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンが特に好ましい。
【0085】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、老化防止効果を発揮させる観点から、0.5質量部以上が好ましく、0.8質量部以上がより好ましい。また、老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、老化防止剤に由来するゴムの茶変を防止する観点から2.0質量部以下が好ましく、1.5質量部以下がより好ましい。
【0086】
(軟化剤)
軟化剤としては、液状ポリマー、低温可塑剤等が挙げられる。可塑剤成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、耐摩耗性能とグリップ性能とをバランスよく向上できるという理由から液状ポリマーを使用することが好ましい。
【0087】
液状ポリマーとしては、例えば、液状SBR、液状BR、液状IR、液状SIR等が挙げられる。なかでも、特に耐久性能とグリップ性能とをバランスよく向上できるという理由から液状SBRを使用することが好ましい。
【0088】
低温可塑剤としては、例えば、ジオクチルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)、トリス(2エチルヘキシル)ホスフェート(TOP)、ビス(2エチルヘキシル)セバケート(DOS)等の液状成分が挙げられる。
【0089】
軟化剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、軟化剤として効果が十分に得られるという理由から、15~250質量部であることが好ましく、20~200質量部であることがより好ましい。
【0090】
その他、ワックス、酸化亜鉛、ステアリン酸は、従来タイヤ工業で使用されるものを用いることができる。
【0091】
(加硫剤)
加硫剤は特に限定されるものではなく、タイヤ工業において一般的なものを使用することができるが、硫黄原子を含むものが好ましく、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄等が挙げられる。
【0092】
加硫剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.5質量部以上が好ましく、0.8質量部以上がより好ましく、1.0質量部以上がさらに好ましい。また、加硫剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、3.0質量部以下であり、2.5質量部以下が好ましく、2.0質量部以下がより好ましい。
【0093】
(加硫促進剤)
加硫促進剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系もしくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、キサンテート系加硫促進剤が挙げられ、なかでも、所望の効果がより好適に得られる点から、スルフェンアミド系加硫促進剤およびチウラム系加硫促進剤が好ましく、これら2種を併用することがより好ましい。
【0094】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、CBS(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド)、TBBS(N-t-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド)、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N’-ジイソプロピル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド等が挙げられる。チアゾール系加硫促進剤としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアゾリルジスルフィド等が挙げられる。チウラム系加硫促進剤としては、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)等が挙げられる。グアニジン系加硫促進剤としては、ジフェニルグアニジン(DPG)、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、所望の効果がより好適に得られる点から、CBSおよびTBzTDの組み合わせが特に好ましい。
【0095】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましい。また、加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、8質量部以下が好ましく、7質量部以下がより好ましく、6質量部以下がさらに好ましい。加硫促進剤の含有量を上記範囲内とすることにより、破壊強度および伸びが確保できる傾向がある。
【0096】
(トレッド用ゴム組成物の製造方法)
トレッド用ゴム組成物の製造方法としては特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、オープンロール、バンバリーミキサー、ニーダー、密閉式混練機等のゴム混練装置を用いて上記各成分のうち、加硫剤および加硫促進剤以外の成分を混練し(混練工程1)、その後加硫剤および加硫促進剤を加えてさらに混練りして(混練工程2)未加硫のトレッド用ゴム組成物を得、その後加硫する(加硫工程)方法等により製造することができる。
【0097】
例えば、混練工程1で、排出温度150~160℃で1~10分間混練りした後、混練工程2で、オープンロール等を用いて加硫剤および加硫促進剤を添加し混練することができる。加硫工程は、例えば、150~170℃で10~35分間加硫することができる。
【0098】
(タイヤ)
一の実施態様に係るタイヤは、上記トレッド用ゴム組成物により構成されるトレッドを備えるものであり、乗用車用タイヤ、乗用車用高性能タイヤ、トラックやバス等の重荷重用タイヤ、二輪車用タイヤ、競技用タイヤ等タイヤ全般に用いることができる。なお、本明細書における高性能タイヤとは、グリップ性能に特に優れたタイヤであり、競技車両に使用する競技用タイヤをも含む概念である。
【0099】
(タイヤの製造方法)
上記トレッド用ゴム組成物から構成されるトレッドを備えたタイヤは、上記トレッド用ゴム組成物を用いて、通常の方法により製造できる。すなわち、ゴム成分に対して上記各成分を必要に応じて配合した未加硫のゴム組成物を、トレッドの形状にあわせて押出し加工し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成型することにより、未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、タイヤを製造することができる。
【実施例
【0100】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0101】
以下、実施例および比較例において用いた各種薬品をまとめて示す。
SBR1:TRINSEOのSLR6430(S-SBR、スチレン含量:40質量%、ビニル結合量:18モル%、Mw:146万、Tg:-39℃、ゴム成分100重量部に対しオイル分37.5重量部を含む油展品)
SBR2:後述の製造例1で合成した変性SBR(スチレン含量:38質量%、ビニル結合量:39モル%、Mw:80万、Tg:-25℃)
SBR3:後述の製造例2で製造した変性溶液重合SBR(スチレン含量:42質量%、ビニル結合量:36モル%、Mw:80万、Tg:-21℃)
SBR4:後述の製造例3で製造した変性溶液重合SBR(スチレン含量:30質量%、ビニル結合量:52モル%、Mw:25万、Tg:-23℃)
BR1:後述の製造例4で製造した変性BR(ビニル結合量:12モル%、シス1,4-含有率:38%、Mw:50万)
BR2:宇部興産(株)製のUBEPOL BR(登録商標)150B(ビニル結合量:1.5モル%、シス1,4-含有率97%、Mw:44万)
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN220(N2SA:111m2/g)
シリカ:エボニック・デグサ社製のウルトラシル 9000GR(BET:240m2/g、CTAB:200m2/g、pH:6.9)
シランカップリング剤:モメンティブ社製のNXT-Z45(結合単位Aと結合単位Bとの共重合体(結合単位A:55モル%、結合単位B:45モル%))
水酸化アルミニウム:昭和電工(株)製のH-43(N2SA:6.7m2/g、平均一次粒子径:800nm)
オイル:H&R(株)製のVivaTec400(TDAEオイル、Tg:-58℃)
粘着付与樹脂:アリゾナケミカル社製のSylvares SA85(α-メチルスチレン/スチレン樹脂、軟化点:85℃)
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355(パラフィン系)
加工助剤:Schill&Seilacher社製のストラクトールWB16(脂肪酸カルシウム塩、脂肪酸モノエタノールアミドおよび脂肪酸モノエタノールアミドのエステルとの混合物)
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
硫黄:細井化学工業(株)製のHK-200-5(5%オイル含有粉末硫黄)
・加硫促進剤(1):大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS))
・加硫促進剤(2):三新化学工業(株)製のサンセラーTBZTD(テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD))
【0102】
製造例1:SBR2の合成
内容積10リットルで、底部に入口、頭部に出口を有し、攪拌機およびジャケットを付けたオートクレーブを反応器として2基直列に連結し、ブタジエン、スチレン、シクロヘキサンを各々所定の比率で混合した。この混合溶液を、活性アルミナを充填した脱水カラムを経由し、不純物を除去するためにn-ブチルリチウムをスタティックミキサー中で混合した後、1基目の反応器底部より連続的に供給し、さらに極性物質として2,2-ビス(2-オキソラニル)プロパンを、重合開始剤としてn-ブチルリチウムを所定の速度でそれぞれ1基目の反応器底部より連続的に供給し、反応器内温を95℃に保持した。反応器頭部より重合体溶液を連続的に抜き出し、2基目の反応器へ供給した。2基目の反応器の温度を95℃に保ち、変性剤としてテトラグリシジル-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン(単量体)と、そのオリゴマー成分との混合物(以下、「変性剤A」という。)を所定の速度でシクロヘキサン1000倍希釈液として連続的に加えて変性反応を行なった。この重合体溶液を反応器から連続的に抜き出し、スタティックミキサーで連続的に酸化防止剤を添加し、さらにこの重合体溶液に重合体100質量部に対しジャパンエナジー製伸展油NC140を25質量部加えて混合した後、溶媒を除去しSBR2を得た。
【0103】
製造例2:SBR3の合成
窒素置換されたオートクレーブ反応器に、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、スチレン、および1,3-ブタジエンを仕込んだ。反応器の内容物の温度を20℃に調整した後、n-ブチルリチウムを添加して重合を開始した。断熱条件で重合し、最高温度は85℃に達した。重合転化率が99%に達した時点で1,3-ブタジエンを追加し、さらに5分重合させた後、N,N-ビス(トリメチルシリル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランを変性剤として加えて反応を行った。重合反応終了後、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールを添加した。次いで、重合体100質量部に対し伸展油を10質量部加えた後、スチームストリッピングにより脱溶媒を行い、110℃に調温された熱ロールにより乾燥した後、SBR3を得た。
【0104】
製造例3:SBR4の合成
窒素置換されたオートクレーブ反応器に、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、スチレン、および1,3-ブタジエンを仕込んだ。反応器の内容物の温度を20℃に調整した後、n-ブチルリチウムを添加して重合を開始した。断熱条件で重合し、最高温度は85℃に達した。重合転化率が99%に達した時点で1,3-ブタジエンを追加し、さらに5分重合させた後、N,N-ビス(トリメチルシリル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランを変性剤として加えて反応を行った。重合反応終了後、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールを添加した。次いで、スチームストリッピングにより脱溶媒を行い、110℃に調温された熱ロールにより乾燥しSBR4を得た。
【0105】
製造例4:BR1の合成
<末端変性剤Bの作製>
窒素雰囲気下、100mLメスフラスコに3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン(アズマックス(株)社製)を23.6g入れ、さらに無水ヘキサン(関東化学(株)製)を加え全量を100mLにして変性剤Bを作製した。
【0106】
<変性BRの作製>
十分に窒素置換した30L耐圧容器にn-ヘキサンを18L、ブタジエンを2000g、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)を2mmolを加え、60℃に昇温した。次に、ブチルリチウムを10.3mL加えた後、50℃に昇温させ3時間撹拌した。次に、変性剤Bを11.5mL追加し30分間撹拌を行った。反応溶液にメタノール15mLおよび2,6-tert-ブチル-p-クレゾール0.1gを添加後、反応溶液を18Lのメタノールが入ったステンレス容器に入れて凝集体を回収した。得られた凝集体を24時間減圧乾燥させ、BR1を得た。
【0107】
実施例1~15および比較例1~8
表1または2に示す配合処方にしたがい、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を排出温度150~160℃になるまで1~10分間混練りし、混練物を得た。次に、2軸オープンロールを用いて、得られた混練物に硫黄および加硫促進剤を添加し、4分間、105℃になるまで練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を170℃で12分間プレス加硫することで、試験用ゴム組成物を作製した。なお、表1および2ではゴム成分が油展ゴムの場合には、オイル分を除いたゴム成分量をそれぞれ「SBR1」等のゴム成分の配合量として記載し、オイル分は別途配合するTDAEオイル分と合計して「オイル」の配合量として記載した。
【0108】
また、前記未加硫ゴム組成物を所定の形状の口金を備えた押し出し機でタイヤトレッドの形状に押し出し成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、170℃の条件下で12分間プレス加硫することにより、試験用タイヤ(サイズ:195/65R15)を製造した。
【0109】
各実施例および比較例により得られた加硫ゴム組成物および試験用タイヤについて、以下の評価を行った。その結果を表1または2に示す。
【0110】
<tanδ>
(株)上島製作所製スペクトロメーターを用いて、動的歪振幅0.5%、周波数10Hzで、測定温度0℃、15℃、30℃で加硫ゴム組成物のtanδを測定した。
【0111】
<ウェットグリップ性能>
(株)上島製作所製フラットベルト式摩耗試験機(FR5010型)を用いてウェットグリップ性能を評価した。各加硫ゴム組成物の幅20mm、直径100mmの円筒形のゴム試験片をサンプルとして用い、速度20km/時間、荷重4kgf、路面温度20℃の条件で、路面に対するサンプルのスリップ率を0~70%まで変化させ、その際に検出される摩擦係数の最大値を読みとった。そして、下記計算式により測定結果を指数表示した。指数が大きいほどウェットグリップ性能に優れる。
(ウェットグリップ性能指数)
=(各配合の摩擦係数の最大値)/(比較例1の摩擦係数の最大値)×100
【0112】
<耐摩耗性>
試験用タイヤを排気量2000ccの国産FR車に装着し、ドライアスファルト面のテストコースにて実車走行を行った。走行距離1万km後のタイヤトレッド部の溝深さを測定し、タイヤ溝深さが1mm減るときの走行距離を算出し、下記の式により指数表示した。指数が大きいほど耐摩耗性が良好である。
(耐摩耗性指数)=(各配合の走行距離)/(比較例1の走行距離)×100
【0113】
<低燃費性指数>
シート状の加硫ゴム組成物から幅4mm、長さ50mm、厚さ2mmの短冊状試験片を打ち抜き、試験に供した。(株)上島製作所製スペクトロメーターを用いて、動的歪振幅1%、周波数10Hz、温度50℃および22.5℃で加硫ゴムシートの損失正接(tanδ)を測定し、tanδの逆数の値について比較例1を100として指数表示した(低燃費性指数)。なお、50℃および22.5℃で得られた結果をそれぞれ低燃費指数AおよびBとした。数値が大きいほど転がり抵抗が小さく、低燃費性に優れる。
(低燃費性指数)=(比較例1のtanδ)/(各配合のtanδ)×100
【0114】
【表1】
【0115】
【表2】
【0116】
表1および2の結果より、SBRを60~85質量%およびブタジエンゴムを15~40質量%含むゴム成分100質量部に、カーボンブラックを1~40質量部、およびシリカを50~150質量部含有し、tanδ(0℃)≦0.60、tanδ(15℃)≦0.20、および|tanδ(15℃)-tanδ(30℃)|≦0.08を満たす実施例1~15では、BRの含有量が多い比較例5、BRの含有量が少ない比較例6、シリカの含有量が少ない比較例7、カーボンブラックを含まない比較例8ならびに同様の配合においてtanδ(0℃)≦0.60、tanδ(15℃)≦0.20、および|tanδ(15℃)-tanδ(30℃)|≦0.08の少なくともいずれかを満たさない比較例1~4と比べて、ウェットグリップ性能、耐摩耗性および低燃費性等の総合性能が向上していることが分かる。