(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】硬X線光電子分光システム
(51)【国際特許分類】
G01N 23/2273 20180101AFI20241113BHJP
H01J 37/05 20060101ALI20241113BHJP
H01J 49/48 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
G01N23/2273
H01J37/05
H01J49/48
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019127641
(22)【出願日】2019-07-09
【審査請求日】2022-05-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS 89,073105(2018)
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514141754
【氏名又は名称】シエンタ・オミクロン・アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】トマス・ウィール
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・リリェンバリ
(72)【発明者】
【氏名】ポール・パルムグレーン
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-212076(JP,A)
【文献】特表2009-536717(JP,A)
【文献】富塚 仁、外2名,XPSにおける深さ方向分析の新しい展開,Journal of Surface Analysis,日本,The Surface Analysis Society of Japan,2019年04月01日,第25巻第1号,第25頁~第33頁,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsa/25/1/25_25/_pdf/-char/en
【文献】Claudio Klein,Atomic resolution data collection with the PILATUS3 R 1M detector ona metaljet X-ray source,Application Note,ドイツ,marXperts,2018年05月29日,https://www.marxperts.com/pdf/mar.AN29May18.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-G01N 23/2276
G01B 15/00-G01B 15/08
H01J 40/00-H01J 49/48
H01J 37/00-H01J 37/36
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬X線光電子分光(HAXPES)システムであって、
光子ビームを提供するX線管(10)であって、前記光子ビームは、X線モノクロメータ(20)を介して、照射される試料から電子を励起させるように、前記システムを通るように方向付けられる、X線管(10)を備え、
前記X線管(10)は、モノクロメータ真空チャンバ(70)に接続され、前記モノクロメータ真空チャンバ(70)において、前記X線モノクロメータ(20)は、前記光子ビームを単色化して前記光子ビームを前記試料上に集束させるように構成され、
前記モノクロメータ真空チャンバは、
単色化X線の位置合わせができるように、可撓性の蛇腹を介して分析真空チャンバ(45)に接続され、
前記照射される試料は、前記分析真空チャンバの内部にマウントされ、
前記分析真空チャンバは、電子エネルギー分析器(50)に接続され、前記電子エネルギー分析器(50)は、前記分析真空チャンバに装着され、
前記X線管(10)から提供される前記光子ビームは、6keVを越えるエネルギーを有するとともに、発散しており、
前記X線モノクロメータ(20)は、発散している前記光子ビームの単色化及び集束の両方を行うように配置された、湾曲した光学要素を備え、
X線源の光子エネルギーが9.25keVであって、Ga合金からの特性Kα放射から生じる、硬X線光電子分光(HAXPES)システム。
【請求項2】
前記湾曲した光学要素は、湾曲した結晶である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記湾曲した光学要素は、400mm~700mmのローランド円をなす半径を有する、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記電子エネルギー分析器は、半球型電子エネルギー分析器タイプのものである、請求項1~3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
半球型の前記電子エネルギー分析器は、半球型の前記電子エネルギー分析器の入射スリットがX線のフットプリントのエネルギー分散面に本質的に位置合わせされるように、前記分析真空チャンバに装着される、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記X線管は、液体ガリウムを励起する電子銃を備え、前記電子銃は、60kVを超える管電圧を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記湾曲した光学要素を高い温度に加熱するように配置された加熱装置をさらに備える、請求項1~6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
実験室ベースのシステムである、請求項1~7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記湾曲した光学要素は、550mmのローランド円をなす半径を有する、請求項3に記載のシステム。
【請求項10】
前記電子銃は、少なくとも70kVの管電圧を有する、請求項6に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光子を提供するように構成される単色微小焦点X線源を有する硬X線光電子分光(HAXPES)システムにおける配置構成に関する。HAXPESとはこの実験技術について確立された頭字語であるが、HAXPESは、光電子を励起するために、6keVを越える光子エネルギーを有するX線を使用する。励起した光電子は、たとえば材料の化学環境及び材料の電子構造に関連する特性を調べるために分析される。
【背景技術】
【0002】
今まで、様々な科学的目的及び工業的目的のためのHAXPES実験の大部分が、世界中で、シンクロトロンに位置する僅か約20の既存のビームラインで行われてきた。世界中のこれら少数のシンクロトロンは、非常に大規模な施設であり、国の研究所に属する。利用可能なビームライン及び関連器具が少なく、それらを動作させるためのコストが膨大で、これに関連してアクセスが限定的であることによって、HAXPES技術のアウトプットの量及び開発上の努力が制限されてきた。HAXPESがシンクロトロンに限定される主な理由は、X線エネルギーが増加するにつれて、光イオン化断面積が劇的に減少することである。上記の光イオン化の減少を打ち消すためには、相対的に見て非常に大きい受光角を有する極めて効率的な光電子分析器と組み合わせた、可能な限り最高のX線強度が必要となる。
【0003】
HAXPESは、すべての他の実験技術と同様に、ある種の制限で悩まされるものであるが、表面処理の必要なしにバルク材料、埋まった層及び界面、並びに試料を調べることができるなど、この技術を追究する強い動機がある。これらの測定は、光子エネルギーの増加に伴い情報深度が増加することによって可能となる。
【0004】
多数の潜在的な用途とあいまった、上述した、HAXPES施設への広範囲のアクセスの欠如が、本明細書に記載される実験室ベースのHAXPESシステムを開発する強い動機である。今まで、実験室システムの開発は、特に高強度単色X線源及び広角度高エネルギー分析器の可用性が限られていることによって、妨げられてきた。したがって、これまでには、5.4keVの著しく低い最大光子エネルギーを有する非常に少数のシステム(CrKα)しか開発されてきていない。
【0005】
はるかに高い光子エネルギーに加えて、本発明による実験室ベースのHAXPESシステムは、3つの別個の真空チャンバ、すなわち、(1)単色光学要素を収容するモノクロメータチャンバ、(2)電子銃及び液体ガリウムのジェットを収容するX線管、及び(3)光電子エネルギー分析器、及び分析する試料を真空システムの中に導入するファストエントリーロードロックを収容する分析チャンバを備える。
【0006】
最初に述べたように、本明細書で記載される実験室ベースのHAXPESシステム以前には、同様の高励起エネルギーでの光電子分光実験のためのX線を作るために、シンクロトロン光源が使用されてきた。そのような実験は、通常、別の部屋に配置され、危険な放射線レベルのため実験中はアクセス可能でない。したがって、実験の制御は、通常は遠隔で行われる。これらの高励起エネルギーが典型的に使用される他のタイプの機器は、X線回折計の中にある。このタイプの実験は、通常、キャビネットの中に密閉され、すべての器具が収容されて、そのサイズ及び厚さによって放射線保護を形成する。
【0007】
特に動作及び安全性に関係するセットアップに対する要求に起因して、サイズ及び最大光子エネルギーの増加に伴いHAXPESシステムの構造についての複雑さが増す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、コンパクトな形態における最大光子エネルギーの増加に関連する、HAXPESシステム設計における難点に対処する必要がある。
【0009】
現存する実験技術及び関連機器に関連する上記の問題及び障害の少なくとも一部を緩和することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、X線管、X線モノクロメータ、及び試料を含む硬X線光電子分光(HAXPES)システム、特に実験室ベースのシステムによって達成される。X線管が光子ビームを提供し、当該ビームは、X線モノクロメータを介して、照射される試料から電子を励起させるように、上記システムを通るように方向付けられる。X線管は、モノクロメータ真空チャンバに接続され、モノクロメータ真空チャンバのにおいて、X線モノクロメータは、ビームを単色化して当該ビームを試料上に集束させるように構成される。モノクロメータ真空チャンバは、分析真空チャンバに接続され、照射される試料は、分析真空チャンバの内部にマウントされ、分析真空チャンバは、電子エネルギー分析器に接続される。電子エネルギー分析器は、分析真空チャンバに装着される。
【0011】
さらに、X線管から提供される光子ビームは、6keVを越えるエネルギーを有するとともに、発散している。X線モノクロメータはまた、発散している光子ビームの単色化及び集束の両方を行うように配置された、湾曲した光学要素を備える。
【0012】
光子ビームの単色化及び集束の両方を行う湾曲した光学要素を利用することによって、より小型の照射システムを実現することができる。これによって、より小型のHAXPESシステムを実現することができる。加えて、本概念を利用することによって、使用する構成要素をより少なくすることができ、それによって、より頑丈なシステムを設計することができる。小型システムを有することによって、モノクロメータ真空チャンバをより小さくし、それによって、構造を簡略化し、何もない容積を抑制することができる。
【0013】
本発明による実験室ベースのHAXPESシステムは、たとえば、9.25keVの光子エネルギーを与える単色微小焦点GaKαX線源を備えることができる。このX線源のエネルギーレベルにより、本発明によるHAXPESシステムは、本技術分野で知られている他の比較可能なあらゆるシステムと差別化される。
【0014】
さらに、本発明はまた、励起エネルギーが9.25keVである高エネルギーの単色GaのX線源を利用した実験室ベースのHAXPESシステムの設計の改善及び新分野の適用可能性に関する。
【0015】
効率的で安定なモノクロメータを有する強力なX線管と、広い受光角を有する電子エネルギー分析器の組合せによって、優れた性能がもたらされる。本明細書に記載される分光計の基本的な特徴は、最小エネルギー分解能が465meVである測定結果を提供することができる点である。
【0016】
バルク試料及びヘテロ構造の試料の測定を含む、科学的関連性の試料から得られたデータは、エネルギー分解能と強度の両方の点で、高品質なデータを集めることができることを示している。
【0017】
本発明によるHAXPESシステムはさらに、以前はシンクロトロンでのみアクセス可能であった硬X線エネルギー源で集められたデータを送出する。このシステムからの結果は、独立した完全なデータセットを生成することが可能であり、また、たとえば実験室における予備実験を通してエネルギー依存性のシンクロトロン作業をサポートするなど、他の実験のサポートも可能である。実際には、これは、改善したシステムが多用途であり、垂直方向にも水平方向にも適用可能であり、現在及び将来に関連する複数の科学分野で非常に重要となることを意味する。
【0018】
実施形態では、湾曲した光学要素は、湾曲した結晶であり得る。
【0019】
湾曲した結晶は、結晶格子からのコヒーレント散乱及び非コヒーレント散乱についての角度を与えるブラッグの法則による回折プロセスを通して動作することができる。ブラッグ回折は、X線源からの放射線が結晶格子の原子によって散乱されて強め合う干渉を受けると生じる。
【0020】
しかしながら、特定の波長及び/又はエネルギーのX線放射を単色化するように結晶が結晶格子として動作する状態のまま当該結晶をどれだけ曲げることができるかの程度には限界がある。結晶が曲がりすぎると、X線ビームは、もはや結晶を格子とは見なくなる。しかしながら、結晶が十分に曲がらないと、結晶がX線ビームを集束させることができなくなる場合がある。加えて、システムのサイズが、不格好に大きくなり、嵩張って、実用的でなくなるおそれがある。
【0021】
実施形態では、湾曲した結晶は、基板上に配置され得る。結晶よりも頑丈な組成及び/又は設計を有することができる基板を有することによって、製造及び取扱を改善することができる。
【0022】
実施形態では、湾曲した光学要素は、Si-642を含むことができる。
【0023】
実施形態では、湾曲した光学要素は、400mm~700mm、好ましくは550mmのローランド円をなす半径を有することができる。
【0024】
実施形態では、湾曲した光学要素は、500mm~600mm、好ましくは550mmのローランド円をなす半径を有することができる。
【0025】
実施形態では、湾曲した光学要素は、540mm~560mm、好ましくは550mmのローランド円をなす半径を有することができる。
【0026】
第1の半径を有する湾曲した光学要素についてのローランド円の半径は、第1の半径の半分であり得る。したがって、湾曲した光学要素についてのローランド円の直径は、湾曲した光学要素の半径に等しくなる。
【0027】
実施形態では、電子エネルギー分析器は、電子エネルギー分析器の入射スリットが、X線のフットプリント(footprint)のエネルギー分散面に本質的に位置合わせされるように、分析真空チャンバに装着され得る。
【0028】
実施形態では、電子エネルギー分析器は、半球型電子エネルギー分析器タイプのものであってよい。半球型電子エネルギー分析器及びその構造の詳細については、当技術分野で既知であると考えられる。
【0029】
実施形態では、半球型分析器は、半球型分析器の入射スリットが、X線のフットプリントのエネルギー分散面に本質的に位置合わせされるように、分析真空チャンバに装着され得る。フットプリントとの用語は、ある面のうちビームによって照射される部分を指す。
【0030】
実施形態では、X線源の光子エネルギーは、9.25keVであり得る。これは、Ga合金からの特性Kα放射から生じる。
【0031】
「Ga」との用語は、化学元素ガリウムを指す。
【0032】
実施形態では、X線管は、液体ガリウムを励起する電子銃を備えることができ、電子銃は、60kV超、好ましくは少なくとも70kVの管電圧を有することができる。電子銃は、電子放射体の一例であり、電子ビームを生成できる電気構成要素である。管電圧は、電子を加速するために、X線管のカソードとアノードとにわたって接続され得る。X線管中の電子銃の利用の詳細については、当技術分野で既知であると考えられる。
【0033】
実施形態では、システムは、光学要素を高い温度に加熱するように配置された加熱装置をさらに備えることができる。
【0034】
X線管はX線源の例であると理解される。
【0035】
上述の実施形態を組み合わせることができると理解される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】実験室ベースのHAXPESシステムの正面概略図である。
【
図2】
図1のシステムを図示する、上から見た概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は、効率的な構造において向上した機能性によりガスを測定するために使用可能であり、従来技術の問題を克服又は少なくとも緩和し、とりわけ信頼性上の恩恵を提供する。
【0038】
本発明について、例示的な実施形態の以下の具体的で非限定的な詳細な説明において、添付図面を参照しながら説明する。
【0039】
図1及び
図2はそれぞれ、実験室ベースのHAXPESシステムのプロトタイプの正面概略図及び上面概略図を示し、システムは、ベース100上に戴置される。いくつかの特徴が正面斜視図から最も良好に見られ、いくつかは上面斜視図から最も良好に見られる。示される特徴は、ポンピングシステム2を含み、ポンピングシステム2は、制御システム、放射線安全システム、及び、X線管10などのX線源の3つの次元での調整を行うためのテーブル8に接続される。X線源は、X線モノクロメータ20を照射し、X線モノクロメータ20から、単色化したX線ビームが試料上に向けられる。試料は、ロードロック30を介して真空システムへと導入されたものである。マニピュレータ35は、XYZ機能及び±180°回転機能を備えるとともに、好ましくは加熱機能も備え、カメラシステム40は、正確な配向及び試料のナビゲーションのために設けられる。上述の各部品が分析真空チャンバ45に接続され、試料は、分析の間、分析真空チャンバ45の中に配置される。電子分析器50、好ましくは半球型電子エネルギー分析器タイプの電子分析器50が設けられる。X線源のエネルギー分解能をマッチさせるとともにできるだけ多くの光電子信号を集めるためには、非常に大きい受光角を有する半球型電子分析器が好ましい解決策となる。しかしながら、十中八九これらの目的にはエネルギー分解能が不十分と思われる場合であっても、セクタ半球状型や円筒形の鏡分析器、逆電位分析器など他のタイプの分析器も排除することはできない。
【0040】
図2を特に参照すると、
図1のようなシステムが示されているが、上面から描かれている。
【0041】
本発明による実験室ベースのHAXPESシステムは、3つの別個の真空チャンバ、すなわち、X線管、モノクロメータチャンバ、及び分析チャンバからなる。その一部は上で簡単に議論した。半球型電子エネルギー分析器は、好ましくはその入射スリットを水平面に向けて、分析チャンバに取り付けられる。X線管は、発散している光子ビームを提供し、当該X線管は、モノクロメータ真空チャンバに接続される。モノクロメータ真空チャンバの中で、X線モノクロメータは、発散しているビームを単色化して当該ビームを試料上に集束させるように構成される。また、モノクロメータ真空チャンバは、分析真空チャンバに接続される。照射される試料が分析真空チャンバの内部にマウントされ、分析真空チャンバは、電子エネルギー分析器に接続される。また、電子エネルギー分析器は、分析真空チャンバに装着される。本質的なシステムパラメータは、真空システム、安全性インターロック、ベークアウト設定、及びモノクロメータ結晶温度のうちの少なくとも1つの調整を可能にする、プログラマブル論理コントローラ(PLC)のユーザインターフェースを通して制御される。
【0042】
発散している光子ビームの単色化及び集束の両方を行うために、X線モノクロメータは、湾曲した光学要素を備えることができる。湾曲した光学要素は、たとえば、550mmのローランド円をなす半径を有するように配置された湾曲した結晶であってよい。
【0043】
電子エネルギー分析器は、電子エネルギー分析器の入射スリットが、X線のフットプリントのエネルギー分散面に本質的に位置合わせされるように、分析真空チャンバに装着され得る。
【0044】
X線源の光子エネルギーは、たとえば9.25keVであり得る。これは、Ga合金からの特性Kα放射から生じる。X線管は、液体ガリウムを励起する電子銃を備えることができ、電子銃は、60kV超、好ましくは少なくとも70kVの管電圧を有することができる。
【0045】
システムはまた、光学要素を高い温度に加熱するように配置された加熱装置を備えることができる。
【0046】
真空システム及びロードロックの設計のより詳細な概要は、真空システムが、ロードロック、分析チャンバ、及びモノクロメータチャンバ上にそれぞれ位置する、3つの別個のターボポンプを備えることを示す。ロードロック及びモノクロメータチャンバは、80Ls-1ターボポンプ(Pfeiffer HiPace 80)を有することができ、分析チャンバは、300Ls-1ターボポンプ(Pfeiffer HiPace 300)を有する。ターボポンプはすべて、1つの6.2m3h-1オイルフリーバッキングポンプ(Edwards nXDS6i)を共有することができ、自動弁によって分離可能である。この効率的な構成は、ポンプ、弁、及び計器を含む全真空システムのPLC制御を通して可能にされている。加えて、分析チャンバは、チタン製サブリメーションポンプ(VACGEN ST22)を収容することができる。
【0047】
ロードロックは、<1×10-7mbarの標準移送圧力を有し、この標準移送圧力は、上で例示した真空システム構成によって、通常は30分以内に達成される。ロードロックには、ロードロックから分析真空チャンバへと試料を移送するために使用される直線状磁気結合移送アームが装備されている。ロードロックはまた、当技術分野の科学者によく知られている、Omicron製フラグ型サンプルプレート上にマウントされた最大5つの試料を担持できるマルチサンプル格納ホルダを有する。
【0048】
分析真空チャンバは、ミューメタルから作ることができ、典型的には<5×10-10mbarの基本圧力を有する。試料は、ロードロックから、分析チャンバの4軸マニピュレータ(VACGEN Omniax 200)上に移送可能である。マニピュレータの回転運動によって、微小角入射(grazing incidence)幾何配置など、様々な試料角度での測定が可能になる。半球型電子エネルギー分析器(Scienta Omicron EW4000)が分析チャンバに水平に装着され、入射スリットは、水平に位置合わせされる。
【0049】
モノクロメータチャンバは、好ましくは、可撓性の蛇腹94を介して分析チャンバに接続されて、単色化X線の正確な位置合わせを可能にする。カプトン(登録商標)窓68、96が、分析チャンバから、モノクロメータの真空容量を分離する。分析チャンバには、限定しないが電荷中和器、スパッタ銃(たとえば、ガスクラスタイオンビーム源)、及び追加X線管(たとえば、単色化AlKα)など、さらなる機器のための余分のポートが装備される。
【0050】
考えられる限りでは、X線放射を提供するためのX線管は、Ga金属ジェットのアノードをベースとするExcillum MetalJet-D2+ 70kVである。Gaは閉じた金属ジェットループの中で再循環され、電子銃(70kV)によって生成されるスポットサイズが80×20μm2、強度250Wの電子ビームが当該Gaに命中する。次いで、X線が、湾曲した光学要素によって、単色化されて試料上に集束させられる。結晶は、高スペクトル分解能や高強度、長期安定性といった最適な性能を与えるために、一定の高い温度に保たれ得る。湾曲した光学要素は、たとえば、Si-642を含み得る湾曲した結晶であってよい。
【0051】
セットアップ全体が光学テーブル上に装着され、予め位置合わせされ得る。光学テーブルは、有利には、x、y、及びzに完全に調整可能である。この動きの自由度は、分析器の視野に対してX線スポットを正確に位置合わせするために必要である。
【0052】
この実験のセットアップで使用される上述のScienta Omicron EW4000半球型電子エネルギー分析器は、12keVの最大測定可能運動エネルギーを有する。このScienta Omicron EW4000半球型電子エネルギー分析器は、60°の大きな受光角を有し、高い測定強度を与える。半球の半径は200mmであり、作動距離は40mmである。2eV~1000eVの広範囲にわたるパスエネルギーが利用可能であり、通常は10eV~500eVのエネルギーが使用される。半球の入射スリットは、試料上のX線のフットプリントに対して水平であり、最大強度を与える。分析器は、寸法0.1mm~4mmにわたる、9つの真っ直ぐな入射スリットをさらに備えることができる。2D検出器セットアップは、マルチチャネルプレート(MCP)、蛍光スクリーン、及びCCDカメラからなる。検出器は、パスエネルギーの9.1%を同時にカバーする。
【0053】
上述の全構成要素、全設定、及び全実験構成は、実用が想定可能なものであり、これらは実際に機能することがわかっているが、単に例示として与えられている。これらのいずれも不変とされる必要はなく、各構成要素及び設定は、本発明のシステム又はその機能性に悪影響をおよぼすことなく、場合によって調整又は交換が可能であることを理解されたい。
【0054】
エネルギー分解能、X線のスポットサイズ対強度、X線の電力対強度、及び安定性に関するシステム性能が十二分に示された。システム性能及び科学的用途の概要についてのより徹底的な議論については、さらにRegoutzらのReview of Scientific Instruments,89,073105(2018)を参照されたい。
【0055】
周りの大気圧より低い圧力、真空ポンプによって得られる圧力を有するガスが使用される場合には、ガス粒子とX線との間の衝突数が減ること、ひいてはX線放射の吸収、特に低エネルギーのX線放射の吸収が少なくなることが期待され得る。また、実験機器の汚染、特にカプトン(登録商標)窓の汚染が抑制される。したがって、窓の寿命が延びることが期待され、このことは、少なくともシステムについてのサービス及びメンテナンスの必要性が減少する点で有利である。また、これにより、カプトン(登録商標)窓を封止するのに必要な厚さが潜在的に減るという追加の利点も得られる。これは、真空チャンバと間隙及び放射トラップを封止するハウジングとの圧力差によって、窓が内側に破裂するのを回避するために対応する材料厚が必要となるためである。厚さの減少によって、吸収が少なくなり、ひいては潜在的にX線放射束が高くなるという利点が与えられる。あるいは、圧力差がより小さい場合、様々な強度及び透過特性を有する他のX線窓材料を検討することができる。
【0056】
一方、周りの大気圧より高い圧力、加圧ポンプによって得られる圧力が使用される場合、ガスは、いわゆるパージによってハウジングの中に導入され得る。これにより、これまでのガスが導入されたガスによって置き換えられる。これは、不活性ガスとして窒素で空気を置き換える場合に有利であり得る。より高い圧力によって、ガスを導入前にフィルタ処理するためにフィルタ構成を使用することも可能になる。これにより、汚染が抑制され得る。
【0057】
さらに別の実施形態として、ガス圧力は、周りの空気、すなわちハウジングの外側の空気と同じ又は同様であってもよい。
【符号の説明】
【0058】
2 ポンピングシステム
8 テーブル
10 X線管
20 X線モノクロメータ
30 ロードロック
35 マニピュレータ
40 カメラシステム
45 分析真空チャンバ
50 電子分析器、電子エネルギー分析器
68 カプトン窓
70 モノクロメータ真空チャンバ
94 蛇腹
96 カプトン窓
100 ベース