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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】含窒素脂環式化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 211/70 20060101AFI20241113BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20241113BHJP
【FI】
C07D211/70
C07B61/00 300
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020061995
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021161035
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 裕介
(72)【発明者】
【氏名】平田 俊介
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-073999(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0100274(US,A1)
【文献】Francisco Martinez-Espinar et al.,NHC-stabilised Rh nanoparticles: Surface study and application in the catalytic hydrogenation of aromatic substrates,Journal of Catalysis,2017年,354巻,113-127頁
【文献】実験化学講座17 有機化合物の反応I(上),丸善株式会社,1957年02月25日,PP.559-571
【文献】HOFMANN, Thomas et al.,2-Oxopropanal, Hydroxy-2-propanone, and 1-Pyrroline-Important Intermediates in the Generation of the Roast-Smelling Food Flavor Compounds 2-Acetyl-1-pyrroline and 2-Acetyltetrahydropyridine,Journal of Agricultural and Food Chemistry ,1998年,46(6),,2270-2277
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 211/70
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式で示されるステップA~C:
ステップA:化合物(1)を還元する工程、
ステップB:ステップAで得られる化合物(2)の水酸基の酸化とα、β不飽和結合の形成とを行う工程、及び、
ステップC:ステップBで得られる化合物(3)、(4)、又はその両方を含む反応混合物から、化合物(3)、(4)、又はその両方を精製する工程、
を含む、化合物(3)、(4)、又はその両方の製造方法であり、
【化1】
(式中、Rは、水素原子、又は、炭素数1~3の低級アルキル基、を示す。
nは、1~4の整数を示す。
mは、0~n+2の整数を示す。
は、それぞれ独立して、炭素数1~3の低級アルキル基、炭素数1~3の低級アルコキシル基、又は、炭素数1~3の低級アルキルチオ基を示す。mが2以上の場合、Rは、同一、又は、異なる。mが2以上の場合、複数のRは、共に、炭素数4~8の環構造を形成していてもよい。)
ステップBにおいて、酸化剤として二酸化マンガンを含む、
ステップCにおいて、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ベンジルアルコール、及び、トリエチルシトレートからなる群より選択される1以上の溶媒を添加して、化合物(3)、(4)、又はその両方と前記溶媒との共沸留出溶液として得る工程を含む、
製造方法。
【請求項2】
下式で示されるステップB~C:
ステップB:化合物(2)の水酸基の酸化とα、β不飽和結合の形成とを行う工程、及び、
ステップC:ステップBで得られる化合物(3)、(4)、又はその両方を含む反応混合物から、化合物(3)、(4)、又はその両方を精製する工程、
を含む、化合物(3)、(4)、又はその両方の製造方法であり、
【化2】
(式中、Rは、水素原子、又は、炭素数1~3の低級アルキル基、を示す。
nは、1~4の整数を示す。
mは、0~n+2の整数を示す。
は、それぞれ独立して、炭素数1~3の低級アルキル基、炭素数1~3の低級アルコキシル基、又は、炭素数1~3の低級アルキルチオ基を示す。mが2以上の場合、Rは、同一、又は、異なる。mが2以上の場合、複数のRは、共に、炭素数4~8の環構造を形成していてもよい。)
ステップBにおいて、酸化剤として二酸化マンガンを含む、
ステップCにおいて、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ベンジルアルコール、及び、トリエチルシトレートからなる群より選択される1以上の溶媒を添加して、化合物(3)、(4)、又はその両方と前記溶媒との共沸留出溶液として得る工程を含む、
製造方法。
【請求項3】
下式で示されるステップC:
ステップC:化合物(3)、(4)、又はその両方を含む反応混合物から、化合物(3)、(4)、又はその両方を精製する工程、
を含む、化合物(3)、(4)、又はその両方の製造方法であり、
【化3】
(式中、Rは、水素原子、又は、炭素数1~3の低級アルキル基、を示す。
nは、1~4の整数を示す。
mは、0~n+2の整数を示す。
は、それぞれ独立して、炭素数1~3の低級アルキル基、炭素数1~3の低級アルコキシル基、又は、炭素数1~3の低級アルキルチオ基を示す。mが2以上の場合、Rは、同一、又は、異なる。mが2以上の場合、複数のRは、共に、炭素数4~8の環構造を形成していてもよい。)
ステップCにおいて、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ベンジルアルコール、及び、トリエチルシトレートからなる群より選択される1以上の溶媒を添加して、化合物(3)、(4)、又はその両方と前記溶媒との共沸留出溶液として得る工程を含む、
製造方法。
【請求項4】
は、メチル基、又は、エチル基である、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
は、メチル基である、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
nは、1又は2である、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
nは、2である、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
mは、1~n+2の整数であり、Rは、メチル基、又は、エチル基である、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
は、メチル基であり、nは、1又は2であり、mは、0又は1であり、Rは、メチル基である、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
は、メチル基であり、nは、2であり、mは、0である、請求項1~いずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2-アセチルテトラヒドロピリジン等を含む含窒素脂環式化合物の製造方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2-アセチルテトラヒドロピリジンは、下記に示される構造(1、2)を有する食品の香料成分として知られている。なお、下記構造1、2で一定の平衡状態にあるものと解されている。
【0003】
【化1】
【0004】
従来の2-アセチルテトラヒドロピリジンの合成法は、G.Buchiらによる方法(非特許文献1)が知られているが、安全性やコスト面の他、製造工程においても効率的なものとは言い難い。具体的には、G.Buchiらの方法は、炭酸銀を用いて2ステップで2-アセチルテトラヒドロピリジンを合成する方法であるが、第2ステップの酸化反応において、非常に高価な炭酸銀を用いており、環境や人体に非常に有害なベンゼン(沸点:80.1℃)で還流させて、反応時間もほぼ一日かかるなどの難点がある。このように従来の合成方法はいずれも効率的とは言えず、工業的に生産する方法としては問題点があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】J.Org。Chem.,36(4),609-610(1971)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に照らし、2-アセチルテトラヒドロピリジン等を含む含窒素脂環式化合物のより安全で効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、以下に示す新規の製造方法の開発に成功し、当該製造方法により2-アセチルテトラヒドロピリジン等の含窒素脂環式化合物のより効率的な合成方法の提供を達成できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、下記に記載の態様を含む。
【0009】
[1]下式で示されるステップA~C:
ステップA:化合物(1)を還元する工程、
ステップB:ステップAで得られる化合物(2)の水酸基の酸化とα、β不飽和結合の形成とを行う工程、及び、
ステップC:ステップBで得られる化合物(3)、(4)、又はその両方を含む反応混合物から、化合物(3)、(4)、又はその両方を精製する工程、
を含む、化合物(3)、(4)、又はその両方の製造方法:
【化2】
(式中、Rは、水素原子、又は、炭素数1~3の低級アルキル基、を示す。
nは、1~4の整数を示す。
mは、0~n+2の整数を示す。
は、それぞれ独立して、炭素数1~3の低級アルキル基、炭素数1~3の低級アルコキシル基、又は、炭素数1~3の低級アルキルチオ基を示す。mが2以上の場合、Rは、同一、又は、異なる。mが2以上の場合、複数のRは、共に、炭素数4~8の環構造を形成していてもよい。)。
【0010】
[2]下式で示されるステップA~B:
ステップA:化合物(1)を還元する工程、及び、
ステップB:ステップAで得られる化合物(2)の水酸基の酸化とα、β不飽和結合の形成とを行う工程、
を含む、化合物(3)、(4)、又はその両方の製造方法:
【化3】
(式中、Rは、水素原子、又は、炭素数1~3の低級アルキル基、を示す。
nは、1~4の整数を示す。
mは、0~n+2の整数を示す。
は、それぞれ独立して、炭素数1~3の低級アルキル基、炭素数1~3の低級アルコキシル基、又は、炭素数1~3の低級アルキルチオ基を示す。mが2以上の場合、Rは、同一、又は、異なる。mが2以上の場合、複数のRは、共に、炭素数4~8の環構造を形成していてもよい。)。
【0011】
[3]下式で示されるステップB~C:
ステップB:化合物(2)の水酸基の酸化とα、β不飽和結合の形成とを行う工程、及び、
ステップC:ステップBで得られる化合物(3)、(4)、又はその両方を含む反応混合物から、化合物(3)、(4)、又はその両方を精製する工程、
を含む、化合物(3)、(4)、又はその両方の製造方法:
【化4】
(式中、Rは、水素原子、又は、炭素数1~3の低級アルキル基、を示す。
nは、1~4の整数を示す。
mは、0~n+2の整数を示す。
は、それぞれ独立して、炭素数1~3の低級アルキル基、炭素数1~3の低級アルコキシル基、又は、炭素数1~3の低級アルキルチオ基を示す。mが2以上の場合、Rは、同一、又は、異なる。mが2以上の場合、複数のRは、共に、炭素数4~8の環構造を形成していてもよい。)。
【0012】
[4]下式で示されるステップB:
ステップB:化合物(2)の水酸基の酸化とα、β不飽和結合の形成とを行う工程、
を含む、化合物(3)、(4)、又はその両方の製造方法:
【化5】
(式中、Rは、水素原子、又は、炭素数1~3の低級アルキル基、を示す。
nは、1~4の整数を示す。
mは、0~n+2の整数を示す。
は、それぞれ独立して、炭素数1~3の低級アルキル基、炭素数1~3の低級アルコキシル基、又は、炭素数1~3の低級アルキルチオ基を示す。mが2以上の場合、Rは、同一、又は、異なる。mが2以上の場合、複数のRは、共に、炭素数4~8の環構造を形成していてもよい。)。
【0013】
[5]下式で示されるステップC:
ステップC:化合物(3)、(4)、又はその両方を含む反応混合物から、化合物(3)、(4)、又はその両方を精製する工程、
を含む、化合物(3)、(4)、又はその両方の製造方法。
【0014】
[6]ステップBにおいて、酸化剤として二酸化マンガンを含む、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
【0015】
[7]ステップCにおいて、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ベンジルアルコール、トリエチルシトレート、及び、トリアセチンからなる群より選択される1以上の溶媒を添加して、化合物(3)、(4)、又はその両方と前記溶媒との共沸留出溶液として得る工程を含む、[1]、[3]、又は[5]に記載の製造方法。
【0016】
[8]Rは、メチル基、又は、エチル基である、[1]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
【0017】
[9]nは、1又は2である、[1]~[8]のいずれかに記載の製造方法。
【0018】
[10]mは、1~n+2の整数であり、Rは、メチル基、又は、エチル基である、[1]~[9]のいずれかに記載の製造方法。
【0019】
[11]Rは、メチル基であり、nは、1又は2であり、mは、0又は1であり、Rは、メチル基である、[1]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
【0020】
[12]Rは、メチル基であり、nは、2であり、mは、0である、[1]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の2-アセチルテトラヒドロピリジン等を含む含窒素脂環式化合物の製造方法は、従来法に比して、人体や環境に対してより安全に行え、製造における作業時間やコストを大幅に減少させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0023】
本発明の化合物(3)、(4)、又はその両方の製造方法は、
下式で示されるステップA~C:
ステップA:化合物(1)を還元する工程、
ステップB:ステップAで得られる化合物(2)の水酸基の酸化とα、β不飽和結合の形成とを行う工程、及び、
ステップC:ステップBで得られる化合物(3)、(4)、又はその両方を含む反応混合物から、化合物(3)、(4)、又はその両方を精製する工程、
を含む:
【化6】
(式中、Rは、水素原子、又は、炭素数1~3の低級アルキル基、を示す。
nは、1~4の整数を示す。
mは、0~n+2の整数を示す。
は、それぞれ独立して、炭素数1~3の低級アルキル基、炭素数1~3の低級アルコキシル基、又は、炭素数1~3の低級アルキルチオ基を示す。mが2以上の場合、Rは、同一、又は、異なる。mが2以上の場合、複数のRは、共に、炭素数4~8の環構造を形成していてもよい。)。
【0024】
本発明は、2-アセチルテトラヒドロピリジン等を含む、化合物(3)又は(4)で示される含窒素脂環式化合物の新規な製造法を提供する。
【0025】
【化7】
(式中、Rは、水素原子、又は、炭素数1~3の低級アルキル基、を示す。
nは、1~4の整数を示す。
mは、0~n+2の整数を示す。
は、それぞれ独立して、炭素数1~3の低級アルキル基、炭素数1~3の低級アルコキシル基、又は、炭素数1~3の低級アルキルチオ基を示す。mが2以上の場合、Rは、同一、又は、異なる。mが2以上の場合、複数のRは、共に、炭素数4~8の環構造を形成していてもよい。)。
【0026】
本発明において、Rは、水素原子、又は、炭素数1~3の低級アルキル基、を示す。
【0027】
上記Rで示される炭素数1~3の低級アルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、及び、イソプロピル基等をあげることができる。
【0028】
また、本発明において、nは、1~4の整数を示す。
【0029】
また、本発明において、mは、0~n+2の整数を示す。
【0030】
また、本発明において、Rは、それぞれ独立して、炭素数1~3の低級アルキル基、炭素数1~3の低級アルコキシル基、又は、炭素数1~3の低級アルキルチオ基を示す。mが2以上の場合、Rは、同一、又は、異なる。mが2以上の場合、複数のRは、共に、炭素数4~8の環構造を形成していてもよい。
【0031】
上記Rで示される炭素数1~3の低級アルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、及び、イソプロピル等をあげることができる。
【0032】
また、上記Rで示される炭素数1~3の低級アルコキシル基として、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロピロキシ基、及び、イソプロピロキシ基等をあげることができる。
【0033】
また、上記Rで示される炭素数1~3の低級アルキルチオ基(アルキルスルファニル基)として、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピロキシ基、及び、イソプロピロキシ基等をあげることができる。
【0034】
また、上記Rによる炭素数4~8の環構造として、例えば、シクロブチル環構造、メチルシクロブチル環構造、ジメチルシクロブチル環構造、シクロペンチル環構造、メチルシクロペンチル環構造、エチルシクロペンチル環構造、ジメチルシクロペンチル環構造、エチルメチルシクロペンチル環構造、シクロヘキシル環構造、メチルシクロヘキシル環構造、ジメチルシクロヘキシル環構造、シクロヘプチル環構造、メチルシクロヘプチル環構造、シクロオクチル環構造をあげることができる。
【0035】
また、例えば、Rは、メチル基であり、nは、2であり、mは、0である場合、化合物(1)又は(2)は、2-アセチルテトラヒドロピリジンである。なお、下記構造1、2で一定の平衡状態にあるものと解されている。
【0036】
【化8】
【0037】
また、例えば、Rは、メチル基であり、nは、2であり、mは、1であり、Rは、3位のメチル基である場合、化合物(3)又は(4)は、2-アセチル-3-メチル-テトラヒドロピリジンである。なお、下記構造3、4で一定の平衡状態にあるものと解されている。
【0038】
【化9】
【0039】
また、例えば、Rは、エチル基であり、nは、2であり、mは、0である場合、化合物(5)又は(6)は、2-プロピオニルテトラヒドロピリジンである。なお、下記構造5、6で一定の平衡状態にあるものと解されている。
【0040】
【化10】
【0041】
また、本発明の化合物(3)、(4)、又はその両方(以下、「化合物(3)等」という場合もある。)の製造方法には、下式で示される方法が含まれる。
【化11】
(式中、Rは、水素原子、又は、炭素数1~3の低級アルキル基、を示す。
nは、1~4の整数を示す。
mは、0~n+2の整数を示す。
は、それぞれ独立して、炭素数1~3の低級アルキル基、炭素数1~3の低級アルコキシル基、又は、炭素数1~3の低級アルキルチオ基を示す。mが2以上の場合、Rは、同一、又は、異なる。mが2以上の場合、複数のRは、共に、炭素数4~8の環構造を形成していてもよい。)。
【0042】
なお、本発明の製造方法や各工程において、化合物(3)、(4)、又はその両方(「化合物(3)等」と記載している場合であっても、上述の2-アセチルテトラヒドロピリジンにおける上記構造1、2で一定の平衡状態にあるものだけでなく、例えば、実質的に化合物(3)または(4)の一方のみが得られうる化合物の場合も含む。
【0043】
上記製造方法は、下記の工程(ステップ)A~Cによって実施することができる。
【0044】
(工程A)
【化12】
(式中、Rは、水素原子、又は、炭素数1~3の低級アルキル基、を示す。
nは、1~4の整数を示す。
mは、0~n+2の整数を示す。
は、それぞれ独立して、炭素数1~3の低級アルキル基、炭素数1~3の低級アルコキシル基、又は、炭素数1~3の低級アルキルチオ基を示す。mが2以上の場合、Rは、同一、又は、異なる。mが2以上の場合、複数のRは、共に、炭素数4~8の環構造を形成していてもよい。)。
【0045】
工程A(ステップA)は、含窒素芳香環、及び、アルデヒド基又はケトン基を還元する工程であるが、例えば、RやRに還元されうる部位が含まれていてもよい。典型的な例としては、工程A(ステップA)により、化合物(2)として示されるように、脂環構造中のNH基と、当該N原子のβ位にヒドロキシ基とを有する化合物を得る工程である。
【0046】
工程Aにおける還元は、例えば、水素添加による還元や、適宜、公知の還元剤を用いて行うことができる。
【0047】
工程Aにおいて、上記還元は、例えば、溶媒の存在下で行うことができる。上記溶媒としては、目的の反応が進行すれば特に限定されず、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリジノン等の酸アミド類;クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタ等のハロゲン化炭化水素類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;スルホラン等のスルホン類;ヘキサメチルホスホルアミド等のリン酸アミド類等をあげることができる。これらは単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0048】
工程Aにおいて、上記還元は、適宜、公知の触媒を用いて行うことができる。上記触媒として、例えば、パラジウム、白金、レニウム、ルテニウム、ロジウムを活性炭素に担持させた触媒、ラネーニッケル、ラネー鉄などのラネー合金、クロムフリー銅触媒、又は、アルミナ担体であるロジウム-アルミナ等をあげることができる。これらは単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0049】
工程Aにおいて、上記還元での水素添加の圧力は、通常、常圧~数百気圧の任意の圧力で行われる。また、一般に、圧力を上げることによって反応を促進することが可能である。
【0050】
工程Aにおいて、上記還元での反応温度は、通常、0℃~100℃で行うことができるが、0~50℃でおこなってもよい。また、反応時間は、通常、1~48時間で行うことができるが、12~24時間で行ってもよい。また、一般に、温度を上げることによって反応を促進することが可能である。
【0051】
また、工程Aにおける還元終了後、必要に応じて、得られた反応液を減圧濃縮し、次いでシリカゲルを利用したクロマトグラフィー(たとえば、シリカゲル分集薄層クロマトグラフィー、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等)、蒸留、再結晶等の任意の精製操作に供してもよい。
【0052】
このようにして、工程Aにより、化学式(1)から、化合物(2)を得ることができる。
【0053】
(工程B)
【化13】
(式中、Rは、水素原子、又は、炭素数1~3の低級アルキル基、を示す。
nは、1~4の整数を示す。
mは、0~n+2の整数を示す。
は、それぞれ独立して、炭素数1~3の低級アルキル基、炭素数1~3の低級アルコキシル基、又は、炭素数1~3の低級アルキルチオ基を示す。mが2以上の場合、Rは、同一、又は、異なる。mが2以上の場合、複数のRは、共に、炭素数4~8の環構造を形成していてもよい。)。
【0054】
工程B(ステップB)は、化合物(2)(工程Aを含む場合には、工程Aで得られる化合物(2)を用いることができるが、他の方法で得られた化合物(2)を、適宜、併用してもよい。)を水酸基の酸化とα,β不飽和結合の形成とを行う工程(本明細書において、水酸基の酸化とα,β不飽和結合の形成を合わせて、「酸化」と称する場合もある。)である。
【0055】
工程Bに用いられる酸化(α、β不飽和結合の形成を含む場合も含む。)は、例えば、化合物(2)を、酸化作用のある金属試薬等の酸化剤と反応させることによって、実施することができる。
【0056】
工程Bにおいて、上記酸化剤は、反応に悪影響を及ぼさない限り特に限定されるものではなく、化合物(2)をα,β不飽和結合の形成と水酸基の酸化を行うものであれば公知の酸化剤を用いることができる。上記酸化剤としては、例えば、二酸化マンガン、過マンガン酸カリウム、二クロム酸カリウム、クロム酸、クロロクロム酸ピリジニウム(PCC)、ニクロム酸ピリジニウム(PDC)、ジメチルスルフォキシドと塩化オキザリル、酸化マグネシウム等をあげることができる。なかでも、例えば、二酸化マンガンを、好適な酸化剤としてあげることができる。これらは単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0057】
化合物(3)、(4)として2-アセチルテトラヒドロピリジンを製造する場合を例にあげると、工程Bにおいて、酸化剤として二酸化マンガンを含むことが特に好ましい。例えば、二酸化マンガンを酸化剤として用いることにより、従来法に比して、目的化合物の製造を人体や環境に対してより安全に行え、より温和な反応条件下で行えるとともに、コストを大幅に減少させることが可能となる。より具体的には、酸化剤としての触媒だけを取ってみても、富士写真フイルム和光純薬株式会社の市販品カタログによると、従来法で酸化剤として用いられる炭酸銀は10g:5,500円、500g:100,000円であるのに対し、本発明に用いることが可能な二酸化マンガン(酸化マンガン(IV))は500g:2,400円にすぎず、非常に低廉に製造できることがわかる。加えて、反応温度もより低温下で行うことができ、また反応時間も実施例に示すように従来法に比べて1/10以下の反応時間で行うことができ、この点でも製造コストが大きく低減出来ているとともに、より温和な反応条件下で行うことができる。
【0058】
工程Bにおいて、上記酸化は、例えば、溶媒の存在下で行うことができる。上記溶媒としては、目的の反応が進行すれば特に限定されず、例えば、水、トリフルオロトルエン、フルオロベンゼン、フルオロヘキサン等のフッ素系溶媒;芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ニトロベンゼン等)や脂肪族炭化水素(例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等)等の炭化水素系溶媒;1,2-ジオキサン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒;エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノール等のアルコール系溶媒;アセトアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等のアミド系溶媒;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;塩化メチル、ジクロロメタン、トリクロロメタン(クロロホルム)、1,2-ジクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエチレン、1-クロロブタン等のハロゲン化炭化水素等をあげることができる。これらは単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0059】
工程Bにおいて、上記酸化での反応温度は特に限定されないが、例えば、1~80℃をあげることができ、10~50℃であってもよい。また、反応時間は、反応温度及び圧力に応じて適宜調整することができ、例えば0.5~10時間程度、好ましくは1~6時間、より好ましくは1~3時間である。
【0060】
工程Bにおいて、上記酸化での上記酸化試薬の使用割合は、特に制限されないが、化合物(2)1molに対して、例えば、通常0.1~100等量、好ましくは0.5~50等量、より好ましくは1~10等量である。
【0061】
また、工程Bにおける還元終了後、必要に応じて、得られた反応液を減圧濃縮し、次いでシリカゲルを利用したクロマトグラフィー(たとえば、シリカゲル分集薄層クロマトグラフィー、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等)、蒸留、再結晶等の任意の精製操作に供してもよいが、工程Cによる精製を用いることが好ましい。
【0062】
このようにして、工程Bにより、化学式(2)から、化合物(3)、(4)、又はその両方を含む反応混合物を得ることができる。
【0063】
(工程C)
工程Cは、下式で示されるステップC:
ステップC:化合物(3)、(4)、又はその両方を含む反応混合物から、化合物(3)、(4)、又はその両方を精製する工程、
を含む、化合物(3)、(4)、又はその両方の製造方法である。
【0064】
工程C(ステップC)は、化合物(3)、(4)、又はその両方(工程Bを含む場合には、工程Bで得られる化合物(3)等)を用いることができるが、他の方法で得られた化合物(3)等を、適宜、併用してもよい。)精製する工程である。
【0065】
化合物(3)、(4)、又はその両方を含む反応混合物は、化合物(3)と(4)の少なくとも一方を含む混合物であればよい。上記反応混合物は、例えば、工程Bを含む場合には、工程Bで得られる化合物(3)等を含む反応生成物をそのまま用いてもよく、化合物(2)の副生成物のみならず、その他反応残渣や不純物成分等を含んでいてもよい。
【0066】
工程Cは、当該工程のみ単独で行ってもよく、適宜、工程Bと連続的に行ってもよい。より具体的には、例えば、工程Bの反応後の反応混合物に対して、連続的に工程Cの作業を行う方法をあげることができる。また、工程Bと工程Cの間に、希釈や簡易精製操作等の公知の工程を適宜介してもよい。
【0067】
工程Cにおいて、例えば、共沸蒸留により精製することが好ましい。上記共沸蒸留において、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ベンジルアルコール、トリエチルシトレート、及び、トリアセチンからなる群より選択される1以上の溶媒を共沸溶媒として添加して、化合物(3)、(4)、又はその両方と前記溶媒との共沸留出溶液として得る工程を含むことが好ましい。
【0068】
化合物(3)、(4)として2-アセチルテトラヒドロピリジンを精製する場合を例にあげると、共沸溶媒例として、例えば、プロピレングリコールを用いることが特に好ましい。これは、当該作用機序による場合のみに本発明の権利を限定する意図ではないが、目的化合物である2-アセチルテトラヒドロピリジンは高濃度下等では不安定であるものの、プロピレングリコールと共沸蒸留させた後も2-アセチルテトラヒドロピリジンが高濃度とならないように希釈効果等をもたらすことにより、2-アセチルテトラヒドロピリジンを効率よく精製・回収できていると推測している。
【0069】
工程Cにおいて、上記共沸溶媒は、化合物(3)、(4)の総重量に対して、例えば、3~30倍程度の量を加えておこなうことができ、10~20倍程度とすることもできる。
【0070】
また、工程Cにおける精製終了後、必要に応じて、得られた反応液を減圧濃縮し、次いでシリカゲルを利用したクロマトグラフィー(たとえば、シリカゲル分集薄層クロマトグラフィー、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等)、再結晶等の任意の精製操作に供してもよい。
【0071】
このようにして、工程Cにより、化合物(3)、(4)、又はその両方を含む反応混合物から、化合物(3)、(4)、又はその両方を精製することができる。
【0072】
(2-アセチルテトラヒドロピリジン等)
このようにして得られる2-アセチルテトラヒドロピリジン等の含窒素脂環式化合物には、その化合物の種類に応じて固有の香気を有しているものがあり、香気成分物質として有用である。
【0073】
本発明の製造方法を用いて得られた2-アセチルテトラヒドロピリジン等の含窒素脂環式化合物には、飲食品の香料組成物として用いることができうる。例えば、飲食品に配合する2-アセチルテトラヒドロピリジンの割合は、使用する含窒素脂環式化合物の種類や飲食品の種類によって異なるが、例えば、飲食品組成物100重量%中に、10-12~10-4重量%(10-3~10ppb)、好ましくは10-6~10-1重量%(1~10ppb)の割合をあげることができる。
【0074】
2-アセチルテトラヒドロピリジン等の含窒素脂環式化合物を香料成分として含むことのできる飲食品としては、制限はされないが、たとえば、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、シャーベット、氷菓等の冷菓類;乳飲料、乳酸菌飲料、清涼飲料(果汁入りを含む)、炭酸飲料、果汁飲料、野菜飲料、野菜・果実飲料、スポーツ飲料、粉末即席飲料等の飲料類;ノンアルコールビールテイスト飲料等のビール様発泡性飲料類;リキュールなどのアルコール飲料;コーヒー飲料、緑茶、紅茶、ハーブティー等の茶飲料類;コンソメスープ、ポタージュスープ等のスープ類;カスタードプリン、ミルクプリン、果汁入りプリン等のプリン類、ゼリー、ババロア、及び、ヨーグルト等のデザート類;シロップ等;チューインガムや風船ガム等のガム類(板ガム、糖衣状粒ガム);マーブルチョコレート等のコーティングチョコレートの他、イチゴチョコレート、ブルーベリーチョコレート、及び、メロンチョコレート等の風味を付加したチョコレート等のチョコレート類;ハードキャンディー(ボンボン、バターボール、マーブル等を含む)、ソフトキャンディー(キャラメル、ヌガー、グミキャンディー、マシュマロ等を含む)、ドロップ、タフィ等のキャラメル類;ハードビスケット、クッキー、おかき、煎餅等の焼き菓子類;セパレートドレッシング、ノンオイルドレッシング、ケチャップ、たれ、ソースなどのソース類;ストロベリージャム、ブルーベリージャム、リンゴジャム、プレザーブ等のジャム類;ハム、ソーセージ、焼き豚等の畜肉加工品;魚肉ハム、魚肉ソーセージ、魚肉すり身、蒲鉾等の水産練り製品;チーズ等の酪農製品類;麺類;その他の食品類ないし飲料類、菓子類等をあげることができる。
【実施例
【0075】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。
【0076】
〔実施例1〕
(2-アセチルテトラヒドロピリジンの合成)
【化14】
【0077】
<工程(A)>
2-(1-ヒドロキシエチル)ピペリジン(化合物(2))の調製:還元
2-アセチルピリジン(化合物(1)、65.1g、0.54mоL)をメタノール53mLに溶解させ、次いでこれに3.38gのロジウム-アルミナ(Rh5%)を加えた。上記溶液を、5Mpaの水素雰囲気下、室温下で、24時間攪拌を行った後、セライトろ過によってロジウム-アルミナのろ別を行った。上記溶液を濃縮し、得られた残渣を減圧下、蒸留精製することによって、無色油状物質として、2-(1-ヒドロキシエチル)ピペリジン(化合物(2)、50.0g、0.39mоL、収率72%)を得た。
【0078】
<工程(B)>
2-アセチルテトラヒドロピリジン(化合物(3))の合成:酸化(水酸基の酸化とα、β不飽和結合の形成とを含む。)
上記工程(A)にて得られた2-(1-ヒドロキシエチル)ピペリジン(化合物(2)、50.0g、0.39mоL)をアセトン2700mLに溶解させた。上記溶液にニ酸化マンガン(酸化マンガン(IV))(336g、3.8mоL)を投入した後、該溶液を50℃にて1.5時間撹拌した。上記溶液において、セライトろ過によってニ酸化マンガンのろ別を行った後、減圧下にて溶媒留去を行い、2-アセチルテトラヒドロピリジン(化合物(3))の粗精製物45gを得た。
【0079】
<最終精製>
2-アセチルテトラヒドロピリジン(化合物(3))の精製:共沸蒸留
上記工程(B)にて得られた粗2-アセチルテトラヒドロピリジン(化合物(3)、45g)に対しプロピレングリコール855gを加えた後、該プロピレングリコール溶液に対して減圧蒸留を行った。上記蒸留の主留分として2-アセチルテトラヒドロピリジン5.2%を含むプロピレングリコール溶液486g(化合物(3)として25.3g、0.20mоL、収率51%)を得た。
【0080】
上記実施例から分かるように、上記工程(B)において、温和な温度条件下とすることが可能で、非特許文献1に記載の従来の製造方法に対しても、環境面でもベンゼンのような有害物質を使用することなく、作業時間の大幅な減少もなし得、かつ、安価で2-アセチルテトラヒドロピリジンを得ることが可能であった。また、上記工程(C)において、安定性の低い2-アセチルテトラヒドロピリジンを収率良く精製することが可能であった。加えて、上記工程(B)、最終工程、若しくはこの両方、又はこれらのいずれかと上記工程(A)との組み合わせた製造方法を用いることで、上記工程(B)及び/又は工程(C)の上記効果を有する種々の製造方法が可能であることが分かった。