IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

7587359位置合わせ装置、マークの位置を求める方法、プログラム、リソグラフィ装置、および物品製造方法
<>
  • -位置合わせ装置、マークの位置を求める方法、プログラム、リソグラフィ装置、および物品製造方法 図1
  • -位置合わせ装置、マークの位置を求める方法、プログラム、リソグラフィ装置、および物品製造方法 図2
  • -位置合わせ装置、マークの位置を求める方法、プログラム、リソグラフィ装置、および物品製造方法 図3
  • -位置合わせ装置、マークの位置を求める方法、プログラム、リソグラフィ装置、および物品製造方法 図4
  • -位置合わせ装置、マークの位置を求める方法、プログラム、リソグラフィ装置、および物品製造方法 図5
  • -位置合わせ装置、マークの位置を求める方法、プログラム、リソグラフィ装置、および物品製造方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】位置合わせ装置、マークの位置を求める方法、プログラム、リソグラフィ装置、および物品製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 9/00 20060101AFI20241113BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20241113BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20241113BHJP
   G06T 5/40 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
G03F9/00 H
G06T1/00 305Z
G06T7/00 610Z
G06T5/40
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020108077
(22)【出願日】2020-06-23
(65)【公開番号】P2022003373
(43)【公開日】2022-01-11
【審査請求日】2023-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中森 貴也
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-313710(JP,A)
【文献】特開2001-195583(JP,A)
【文献】特開2002-134400(JP,A)
【文献】特開平09-115815(JP,A)
【文献】特開2006-058149(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0035579(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20-7/24、9/00-9/02
H01L 21/68
G06T 5/00、7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に形成されたマークを検出することにより前記基板の位置合わせを行う位置合わせ装置であって、
前記基板を保持して移動するステージと、
前記ステージによって保持された前記基板に形成された前記マークを撮像して前記マークの画像を得る撮像部と、
前記画像を処理して前記マークの位置を求める処理を行う処理部と、を有し、
前記処理部は、
前記撮像部により前記マークを撮像して得られた複数の第1画像のそれぞれに対してコントラスト強調処理を行い、前記複数の第1画像のそれぞれよりも階調が粗い第2画像を得て、
複数の前記第2画像を積算して生成された、前記第2画像よりも階調が細かい第3画像に基づいて前記マークの位置を求める、
ことを特徴とする位置合わせ装置。
【請求項2】
前記コントラスト強調処理は、前記複数の第1画像のそれぞれについて、ヒストグラムにおける輝度領域を拡張するヒストグラム拡張処理であることを特徴とする請求項1に記載の位置合わせ装置。
【請求項3】
前記ヒストグラム拡張処理は、前記複数の第1画像のそれぞれについて、
最大画素値および最小画素値を求め、
前記最大画素値がそれよりも大きい値に変換され、前記最小画素値がそれよりも小さい値に変換される輝度変換式を求め、
各画素の画素値を前記輝度変換式に従って変換する処理を含む、ことを特徴とする請求項2に記載の位置合わせ装置。
【請求項4】
前記コントラスト強調処理は、前記複数の第1画像のそれぞれについて、ヒストグラムのレベルを平坦化するヒストグラム平坦化処理である、ことを特徴とする請求項1に記載の位置合わせ装置。
【請求項5】
前記第1画像は、前記ステージを止めた状態で前記撮像部により撮像して得られる、ことを特徴とする請求項1に記載の位置合わせ装置。
【請求項6】
複数の前記2画像は、前記撮像部により前記マークを複数回撮像して得られた前記複数の1画像のそれぞれに対してコントラスト強調処理を行うことにより得られる、ことを特徴とする請求項1に記載の位置合わせ装置。
【請求項7】
基板に形成されたマークの位置を求める方法であって、
前記基板の前記マークを撮像して得られた複数の第1画像のそれぞれに対してコントラスト強調処理を行い、前記複数の第1画像のそれぞれよりも階調が粗い第2画像を得る工程と、
複数の前記第2画像を積算して生成された、前記第2画像よりも階調が細かい第3画像を得る工程と、
前記第3画像に基づいて前記マークの位置を求める工程と、
を有することを特徴とする方法。
【請求項8】
コンピュータに請求項7に記載の方法の各工程を実行させるためのプログラム。
【請求項9】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の位置合わせ装置を備え、
前記位置合わせ装置のステージによって保持された基板に、原版のパターンを転写するように構成されている、ことを特徴とするリソグラフィ装置。
【請求項10】
請求項9に記載のリソグラフィ装置を用いて基板にパターンを形成する工程と、
前記パターンが形成された基板を加工する工程と、を有し、前記加工された基板から物品を製造することを特徴とする物品製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置合わせ装置、マークの位置を求める方法、プログラム、リソグラフィ装置、および物品製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造用の露光装置等のリソグラフィ装置において、原版に描画された回路パターンを基板に露光する際、原版と基板とを精密に位置合わせ(以下、アライメント)する必要がある。
【0003】
アライメントは通常、計測光学系(以下、アライメントスコープ)によって、基板上に形成されたアライメント用マークおよびパターンを観察し、撮像したパターンの画像信号を処理することによって行われる。パターン位置計測のための画像信号処理には、パターンマッチングが広く用いられている。パターンマッチングは、計測対象の画像信号とテンプレートパターンとの間で相関度演算を行い、最も相関度の高いマッチング点を求める手法である。
【0004】
一方、露光前に基板に塗布されるフォトレジストの厚みや塗布むら、露光前の半導体製造プロセスによっては、位置計測の対象とするパターンをアライメントスコープで精度よく観察することが困難となる場合がある。アライメントスコープの観察精度が低下する原因としては、撮像されるパターンの画像信号のコントラストの低下が挙げられる。ここで、コントラストが低下した状態とは、画像の輝度分布が、利用している階調の範囲内で、ある輝度の周辺に偏っていることをいう。コントラストが低いパターン画像信号を用いた位置計測においては、画像のエッジの情報量が少なく、コントラストが良いパターン画像信号を用いた場合に比べて、パターンマッチングの位置計測精度が著しく低下する場合がある。パターンマッチングによる位置計測精度が低下することにより、基板と原版のアライメント精度が低下しうる。
【0005】
この場合、パターン画像信号のコントラストを信号処理によって向上させることにより、位置計測精度を向上させることができる。コントラスト向上のための処理手法として、ヒストグラム拡張が一般的に知られている(特許文献1)。ヒストグラム拡張は、偏った輝度分布を、利用している階調の範囲内で引き延ばす方法であり、信号のコントラスト向上が期待できる。特許文献2では、ヒストグラム平坦化を行うことで、画像のコントラストが低い場合においても、演算の精度を低下させずにアライメントを行う手法が提案されている。また、ヒストグラム拡張には、画像信号の階調が粗くなる問題点があるが、特許文献3においては、ヒストグラムの拡張範囲を限定して、ヒストグラム拡張によって階調が粗くなることを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭61-45667号公報
【文献】特許第3506200号公報
【文献】特許第4532640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および特許文献2では、ヒストグラム拡張を行って画像のコントラストを向上させる際、利用している階調の範囲内で輝度が断続的に分布するようになり、演算に利用可能な階調を実質的に低下させている。上記処理は、演算精度を保ちながら意図的に階調を落としたい場合には有効であるが、演算精度向上に対しては有効ではない。
【0008】
特許文献3では、ヒストグラム拡張の上限および下限を設定して、階調の低下を抑制している。一方、ヒストグラム拡張範囲に制限を設けるため、画像信号のコントラストを最大限向上させているとは言えない。
【0009】
本発明は、例えば、マーク位置計測の精度の向上に有利な位置合わせ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面によれば、基板に形成されたマークを検出することにより前記基板の位置合わせを行う位置合わせ装置であって、前記基板を保持して移動するステージと、前記ステージによって保持された前記基板に形成された前記マークを撮像して前記マークの画像を得る撮像部と、前記画像を処理して前記マークの位置を求める処理を行う処理部と、を有し、前記処理部は、前記撮像部により前記マークを撮像して得られた複数の第1画像のそれぞれに対してコントラスト強調処理を行い、前記複数の第1画像のそれぞれよりも階調が粗い第2画像を得て、複数の前記第2画像を積算して生成された、前記第2画像よりも階調が細かい第3画像に基づいて前記マークの位置を求める、ことを特徴とする位置合わせ装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、例えば、マーク位置計測の精度の向上に有利な位置合わせ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】露光装置の構成を示す図。
図2】アライメント処理のフローチャート。
図3】コントラスト強調処理のフローチャート。
図4】コントラスト強調処理を説明する図。
図5】ヒストグラム拡張処理を説明する図。
図6】コントラスト強調処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0014】
<第1実施形態>
本発明の一側面は、基板に形成されたマークを検出することにより基板の位置合わせを行う位置合わせ装置に関する。本発明に係る位置合わせ装置は、露光装置やインプリント装置等のリソグラフィ装置における原版と基板との位置合わせに適用されうるが、加工装置、検査装置、顕微鏡等の他の装置にも適用可能である。以下では、本発明に係る位置合わせ装置が露光装置に適用された例を説明する。
【0015】
図1は、第1実施形態における露光装置100の構成を示す図である。露光装置100は、基板Wを保持する基板チャックWCと、基板チャックWCを支持して基板Wを所定の位置にアライメントする基板ステージWSとを備える。露光装置100は、更に、原版Rのパターンを基板Wに転写するための露光光を射出する照明光学系ILと、露光光を基板W上に投影する投影光学系POとを備える。原版Rには回路パターンが描画されており、原版Rは、不図示の原版ステージによって支持されている。露光装置100は、更に、基板Wと原版Rの位置を計測するアライメント検出系Aを備える。アライメント検出系Aは、基板ステージWSによって保持された基板Wに形成されたマークを撮像してマークの画像を得る撮像部を含みうる。
【0016】
アライメント処理装置APは、アライメント検出系A(撮像部)により得られた画像を処理してマークの位置を求める処理を行う処理部として機能する。アライメント処理装置APは、後述の位置検出処理を実行して基板Wに形成されたマークのパターンPの位置を検出する。制御装置CPは、露光処理を統括的に制御する。アライメント処理装置APおよび制御装置CPはそれぞれ、CPUとメモリとを含むコンピュータによって実現されうる。なお、アライメント処理装置APと制御装置CPは、独立した装置構成ではなくてもよい。例えば、アライメント処理装置APの機能は、制御装置CPが担う構成であってもよい。
【0017】
一例において、アライメント処理装置APがアライメント検出系Aを用いて原版Rと基板Wの相対的な位置を検出し、その検出結果に基づいて基板ステージWSを制御することにより、アライメントが行われる。その後、制御装置CPは、照明光学系ILを制御して露光光を射出し、原版Rに描画されたパターンを、投影光学系POを通して基板ステージWSに載置された基板W上に露光する。
【0018】
次に、アライメント検出系Aによる原版Rと基板Wのアライメントについて説明する。光源LSからの照明光は、ビームスプリッタBSによって反射し、基板Wに形成されたマークのパターンPを照明する。パターンPからの回折光は、結像光学系LOによって所定の倍率に拡大され、センサS上にパターンPの像を形成する。センサSは形成された像を画像信号に光電変換し、アライメント処理装置APに入力する。アライメント処理装置APは、後述の位置検出処理によってパターンPの位置を計測する。以上のパターン位置計測を基板W上の複数点にわたって行い、計測したパターン位置情報を基に、基板ステージWSの位置を原版Rに対して合わせる。
【0019】
次に、本実施形態の位置計測処理フローについて説明する。図2は、実施形態におけるアライメント処理のフローチャートである。S102で、制御装置CPは、不図示の基板搬送装置を制御して、基板Wを基板ステージWS上に搬入する。S103で、制御装置CPは、パターンPのプリアライメント位置(予め制御装置CPにおけるメモリに記憶されている)まで基板ステージWSを移動する。S104で、アライメント処理装置APは、基板ステージWSを止めた状態でアライメント検出系Aを制御して、基板WのマークのパターンPの領域を含む同一位置を複数回撮像する。この複数回の撮像により得られた複数の画像を、「パターン画像群1」とよぶ。パターン画像群1は、例えばアライメント処理装置APのメモリに格納される。
【0020】
S105で、アライメント処理装置APは、パターン画像群1に対してコントラスト強調処理を実行するか否かを判定する。例えば、コントラスト強調処理を実行するか否かの設定値がデフォルトで規定されており、その設定値はユーザによる操作によって変更されうる。コントラスト強調処理を実行する場合は、S106で、アライメント処理装置APはパターン画像群1に対してコントラスト強調処理を実行する。コントラスト強調処理によって得られた画像を、「パターン画像3」とよぶ。パターン画像3は、例えばアライメント処理装置APのメモリに格納される。なお、コントラスト強調処理を実行しない場合は、アライメント処理装置APは、パターン画像群1から所定の1枚の画像を選択する、または、パターン画像群1のうちの所定の複数枚を合成することにより、パターン画像3を得る。
【0021】
S107で、アライメント処理装置APは、パターン画像3に対して、予めアライメント処理装置APのメモリに記憶されているテンプレートを用いてパターンマッチング(テンプレートマッチング)処理を実行する。パターンマッチング処理は、基板WのマークのパターンPの理想形状が離散的な複数の特徴点で表されたテンプレートを用いて、パターン画像3内でパターンPの位置を探索し、パターンPの位置を求める処理である。具体的には、相関度(類似度)が最大となる位置が探索され、その位置がプリアライメント位置(計測値)として決定される。求められたパターンPのプリアライメント位置の情報は、制御処理装置CPに転送される。
【0022】
S108で、制御処理装置CPは、プリアライメント位置の情報に基づいて、基板ステージWSを、ファインアライメント計測を行う位置に移動する。その後、S109で、アライメント処理装置APは、基板Wのファインアライメントを実行し、算出されるパターンPの位置情報から、基板Wの位置情報を求める。
【0023】
以上のアライメント処理の終了後、制御装置CPは、ファインアライメントにより算出された基板Wの位置情報と、原版Rの位置情報とに基づいて、基板ステージWSを移動し、露光を行う。
【0024】
なお、本発明におけるコントラスト強調処理およびパターンマッチング処理は、上記のようにプリアライメント位置の算出処理においてのみ行われるとは限らない。コントラスト強調処理およびパターンマッチング処理は、ファインアライメントにおいて行われてもよい。また、プリアライメントは必ずしも行われる必要はなく、プリアライメントを行わずにファインアライメントが行われてもよい。
【0025】
また、本実施形態における位置計測演算は、必ずしも画像のパターンマッチング処理でなくともよく、パターン画像の位置計測を行うことができる位置計測演算であればよい。例えば、コントラスト強調処理が行われた画像を、非計測方向(例えば位置計測方向と直交する方向)に積算して得られる一次元信号に対して、一次元信号パターンとのマッチングにより位置計測演算を行ってもよい。
【0026】
次に、図3のフローチャートを参照して、S106におけるコントラスト強調処理を説明する。S202で、アライメント処理装置APは、S104で得られたパターン画像群1のうち、後述のヒストグラム拡張処理が済んでいるパターン画像の枚数をカウントする。S203で、アライメント処理装置APは、S202でカウントされた画像枚数から、パターン画像群1の全てにヒストグラム拡張処理を実行したか否かを判定する。
【0027】
ヒストグラム拡張処理が実行されていないパターン画像がある場合は、S204で、アライメント処理装置APは、そのうちの1枚のパターン画像内の最大画素値および最小画素値を算出する。S205で、アライメント処理装置APは、算出された最大画素値および最小画素値に基づいて、パターン画像のヒストグラム拡張を行う。
【0028】
その後、S202で再度、アライメント処理装置APは、ヒストグラム拡張処理済みのパターン画像の枚数をカウントし、パターン画像群1の全てに対してヒストグラム拡張処理が行われるまで上記処理を繰り返す。これにより、パターン画像群1に対してヒストグラム拡張処理が行われた画像群であるパターン画像群2が生成される。
【0029】
S203でパターン画像群1の全てに対してヒストグラム拡張処理が実行されたと判定された後、S206で、アライメント処理装置APは、パターン画像群2を合成して合成画像を生成する。合成画像の生成は、例えば、パターン画像群2の全ての画像の各画素の画素値を積算することにより行われうる。あるいは、合成画像の生成は、パターン画像群2のうちの所定の複数枚の画像の各画素の画素値を積算することにより行われてもよい。
【0030】
上記の例において、コントラスト強調処理は、パターン画像群1のそれぞれについてヒストグラムにおける輝度領域を拡張するヒストグラム拡張処理である。図4には、本実施形態のコントラスト強調処理であるヒストグラム拡張処理によって、パターン画像群1(またはそのうちの複数枚の画像)から、高コントラストのパターン画像3を生成する工程における、画像ヒストグラムの変化が示されている。ヒストグラム拡張が行われる前の複数枚(図4ではN枚)のパターン画像群1はそれぞれコントラストが低く、輝度分布がある輝度に偏ったヒストグラムになっている。例えば、N=5で、画像の階調は0~255の8bit階調とし、各画像の画素1の画素値がそれぞれ19,19,23,18,18であり、画素2の画素がそれぞれ19,22,17,22,19であるとする。また、5枚の画像の最大画素値はそれぞれ43,43,44,44,45であり、最小画素値はそれぞれ8,9,9,9,7であるとする。各画像の同一画素で画素値がばらつく理由は、撮像時に生じるノイズが原因である。
【0031】
N枚のパターン画像群1の各々に対してヒストグラム拡張処理を行うと、ヒストグラムが引き延ばされ、コントラストが向上したN枚のパターン画像群2が生成される。一方、個々の画像のヒストグラムは、輝度が断続的に分布しており、階調が粗くなっている。上記具体例においては、後述の線形変換によるヒストグラム拡張を行うと、5枚のパターン画像群2の画素1の画素値はそれぞれ、例えば80,75,102,18,65となり、画素2の画素値はそれぞれ80,97,58,94,80となる。1枚目の画素1、画素2の画素値はヒストグラム拡張前、ヒストグラム拡張後で同じになる。したがって、ヒストグラム拡張後の輝度は断続的に分布するようになり、階調が粗くなる。一方、ノイズの影響で2枚目以降は異なる画素値をとる。最後に、N枚のヒストグラム拡張処理実行後のパターン画像群を積算することで、コントラストが高く、階調が細かいパターン画像3が得られる。
【0032】
上記具体例においては、パターン画像群2の画素1の平均値は79であり、画素2の平均値は82となり、1枚目では同じ画素値であった画素同士が異なる画素値になる。上記2画素同士の例について、全画素で同じことが言える。積算後の各画素の画素値は、積算後の同一画素における画素値の、ノイズによるばらつきを反映しており、積算前には同じ画素値であった画素同士が、積算後に異なる画素値をとるようになるため、コントラストが高く、階調が細かい画像が生成される。
【0033】
なお、上記の例では複数の画像の数を表すNを5としたが、これは説明を簡単にするための例示にすぎない。
【0034】
次に、図3のS204、S205に示すヒストグラム拡張処理について、画素値を直接、線形変換する方法を例にとって説明する。
【0035】
まず、入力された画像の注目領域の、最大画素値と最小画素値が算出される。次に、例えば、算出された最大画素値が当該画像の階調の最大値に、算出された最小画素値が当該画像の階調の最小値に変換される輝度変換式が求められる。そして、当該画像の各画素の画素値が、算出された輝度変換式に従って変換される。ただし、変換後の最大画素値と最小画素値は、利用している階調の最大値と最小値を必ずしもとらなくてよい。最大画素値がそれよりも大きい値に変換され、最小画素値がそれよりも小さい値に変換される輝度変換式が求められればよい。
【0036】
図5の(A)、(B)、(C)には、輝度変換式によって、入力画像の輝度が変換される様子が示されている。図5において、(A)は入力画像のヒストグラム、(B)はヒストグラム拡張処理後の出力画像のヒストグラムであり、横軸は輝度、縦軸はある輝度が画像内に出現する頻度を示している。(C)は、入力画像と出力画像の輝度値を対応付ける輝度変換式の特性を示すグラフであり、縦軸が入力画像の輝度値、横軸が出力画像の輝度値に対応する。
【0037】
なお、上記したヒストグラム拡張処理はコントラスト強調処理の一例であり、本発明は上記のヒストグラム拡張処理に限定するものではない。上記ヒストグラム拡張処理に代えて、ヒストグラムのレベルを平坦化するヒストグラム平坦化処理が用いられてもよい。
【0038】
<第2実施形態>
上述の第1実施形態では、二次元信号のパターンマッチング処理が行われることを前提としていたが、第2実施形態では、一次元信号のパターンマッチング処理が行われることを前提とする。そのため、第2実施形態では、図2のS104において、基板WのマークのパターンPの画像を複数枚撮像する替わりに、単一の画像(以下「パターン画像4」)を撮像する処理が行われる。また、図2のS106のコントラスト強調処理として、図3に示す処理の替わりに、図6のフローチャートに示す処理が行われる。本実施形態では、単一のパターン画像4から計測方向の一次元信号を生成し、パターンPのXY位置を計測することで、原版Rと基板Wとのアライメントが行われる。なお、本実施形態におけるヒストグラム拡張処理は、第1実施形態で説明したヒストグラム拡張処理において、処理対象を二次元の画像信号から一次元信号に置き換えた処理である。
【0039】
図6のフローチャートを参照して、本実施形態におけるS106のコントラスト強調処理を説明する。この処理においては、パターンPの第1方向およびそれと直交する第2方向(例えば、X方向およびY方向)それぞれの、位置計測用の一次元信号を生成し、それぞれの一次元信号に対してヒストグラム拡張処理が行われる。以下では、ここで生成される一次元信号の方向(X方向/Y方向)を「信号生成方向」という。
【0040】
S302で、アライメント処理装置APは、S104で得られたパターン画像4の信号生成方向(第1方向、例えばX方向)に関して、所定の画素範囲内におけるヒストグラム拡張処理済みの画素列数をカウントする。S303で、アライメント処理装置APは、S302でカウントされたヒストグラム拡張処理済みの画素列数が規定数に達したか否かを判定する。
【0041】
カウントされたヒストグラム拡張処理済みの画素列数が規定数に達していない場合は、S304およびS305におけるヒストグラム拡張処理が実行される。S304では、アライメント処理装置APは、所定の画素範囲内における、ヒストグラム拡張処理を行っていない1列の画素列(注目画素列)内の最大画素値および最小画素値を算出する。S305で、アライメント処理装置APは、算出された最大画素値および最小画素値に基づいて、注目画素列のヒストグラム拡張を行う。
【0042】
その後、S302で再度、アライメント処理装置APは、ヒストグラム拡張処理済みの画素列数をカウントし、規定数の画素列に対してヒストグラム拡張処理が行われるまで上記処理を繰り返す。これにより、撮像により得られたパターン画像4の所定の画素範囲内に対して第1方向(X方向)の画素列ごとにヒストグラム拡張処理が行われた画像信号群であるパターン画像信号群5が生成される。
【0043】
なお、ヒストグラム拡張処理の内容は第1実施形態と同様であり、第1方向(X方向)の複数の画素列および第2方向(Y方向)の複数の画素列のそれぞれについて、S304で最大画素値および最小画素値が求められる。次に、最大画素値がそれよりも大きい値に変換され、最小画素値がそれよりも小さい値に変換される輝度変換式が求められる。その後、各画素の画素値が輝度変換式に従って変換される。また、上記ヒストグラム拡張処理に代えて、ヒストグラムのレベルを平坦化するヒストグラム平坦化処理が用いられてもよい。
【0044】
S303でパターン画像4の所定の画素範囲内に対してヒストグラム拡張処理が実行されたと判定された後、S306が実行される。S306では、アライメント処理装置APは、パターン画像信号群5を非信号生成方向(第2方向、例えばY方向)に積算して、信号生成方向の一次元の画像信号である第1画像信号(「パターン画像信号6」という。)を生成する。
【0045】
その後、S307で、アライメント処理装置APは、全ての信号生成方向(X方向およびY方向)に対して信号の生成が完了したか否かを判定する。全ての信号生成方向に対して信号生成が終了していなければ、S308で、アライメント処理装置APは、信号生成方向を変更して、上記処理(S302~S306)を、全ての信号生成方向の信号生成が終了するまで繰り返す。以上により、最終的に、X方向およびY方向の位置計測用の一次元信号が生成される。これにより、ヒストグラム拡張処理が行われた第2方向(Y方向)の複数の画素列の画像信号が第1方向(X方向)に積算されて得た一次元の画像信号である第2画像信号が生成される。
【0046】
その後、第1実施形態で説明したように、処理はS107に進む。S107では、第1画像信号および第2画像信号に基づいてマークの位置を求める処理が行われる。
【0047】
なお、S306で行う非信号生成方向への一次元信号群の積算は、必ずしもS303で既定の画素列数に達したことを判定した後に行われなくてもよい。例えば、S305でヒストグラム拡張された画素列を逐次積算して生成した信号を、最終的な計測信号としてもよい。
【0048】
<物品製造方法の実施形態>
本発明の実施形態に係る物品製造方法は、例えば、半導体デバイス等のマイクロデバイスや微細構造を有する素子等の物品を製造するのに好適である。本実施形態の物品製造方法は、基板に塗布された感光剤に上記の露光装置を用いて潜像パターンを形成する工程(基板を露光する工程)と、かかる工程で潜像パターンが形成された基板を現像する工程とを含む。更に、かかる製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等)を含む。本実施形態の物品製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0049】
(他の実施形態)
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0050】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0051】
100:露光装置、W:基板、R:原版、WC:基板チャック、WS:基板ステージ、A:アライメント検出系、IL:照明光学系、PO:投影光学系、BS:ビームスプリッタ、LS:光源、AP:アライメント処理装置、CP:制御処理装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6