(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】潤滑性フィラーおよび潤滑性組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 171/06 20060101AFI20241113BHJP
C01B 33/18 20060101ALI20241113BHJP
C10M 103/00 20060101ALI20241113BHJP
C10N 20/06 20060101ALN20241113BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20241113BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20241113BHJP
【FI】
C10M171/06
C01B33/18 C
C10M103/00
C10N20:06 Z
C10N30:06
C10N40:02
(21)【出願番号】P 2020142365
(22)【出願日】2020-08-26
【審査請求日】2023-05-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】郷田 隼
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-122132(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0157846(US,A1)
【文献】特開2020-128548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M;C01B;C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子の表面が炭素材料で被覆された潤滑性フィラーであって、
該
シリカ粒子の平均粒子径(D90)が0.5μm以上、5.0μm以下である、
潤滑性フィラー。
【請求項2】
濃度20質量%となるように分散媒に分散させた分散体を摩擦試験に供したときの往復摺動回数1000回時の平均動摩擦係数μ(20,1000)が0.04未満である、請求項1に記載の潤滑性フィラー。
【請求項3】
濃度5質量%となるように分散媒に分散させた分散体を摩擦試験に供したときの往復摺動回数1000回時の平均動摩擦係数μ(5,1000)が0.04未満である、請求項2に記載の潤滑性フィラー。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれかに記載の潤滑性フィラーを含む、潤滑性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑性フィラーおよび潤滑性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
相対的に擦れあいながら滑り合う部分(摺動部)が、多くの機械に備えられている。このような機械においては、通常、摺動部における低摩擦化が求められる。このような摺動部における低摩擦化のために、従来、各種の潤滑性組成物が用いられている。
【0003】
従来、黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、二硫化モリブデン(MoS2)などの固体潤滑剤を配合した潤滑性組成物が知られている。
【0004】
しかし、従来の固体潤滑剤は、潤滑性組成物とした場合に、動的摩擦係数の低減に限界がある。具体的には、現状、汎用されている固体潤滑剤においては、潤滑性組成物とした場合に、後述するような摩擦評価条件において発現される動摩擦係数が0.04というレベルに留まっている(例えば、非特許文献1など)。このため、潤滑性組成物とした場合に、0.04よりもさらに低いレベルの動摩擦係数を発現できるような、固体潤滑剤が求められている。
【0005】
最近、本出願人は、省資源化や省エネルギー化のトレンドを踏まえ、低コストで大量生産が可能な、軽量な炭素材料で被覆された炭素材料コート無機粒子や中空炭素微粒子などの潤滑性フィラーを報告し(特許文献1)、この潤滑性フィラーの産業上の利用可能性として、軽量で、優れた潤滑性、優れた電気伝導性、優れた熱伝導性、優れた抗酸化性を持つようなフィラー等について言及した(特許文献1の「産業上の利用可能性」)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2020/054833号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【文献】新版「固体潤滑ハンドブック」日本トライボロジー学会固体潤滑研究会編、2010年3月2日第1版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、潤滑性組成物とした場合に、0.04よりもさらに低いレベルの動摩擦係数を発現できる、潤滑性フィラーを提供することにある。また、そのような潤滑性フィラーを含む潤滑性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願人は、特許文献1に記載の潤滑性フィラーを参考に、潤滑性組成物とした場合に0.04よりもさらに低いレベルの動摩擦係数を発現できるような固体潤滑剤を設計できないか検討を行った。そして、無機粒子の表面を炭素材料で被覆された潤滑性フィラーを設計してみたところ、該無機粒子の平均粒子径(D90、全粒子のうち小さいものから数えて90%が含まれる最大径の値)を特定の大きさに制御すると、顕著に低い動摩擦係数を発現できることを見いだし、しかも、0.04よりもさらに低いレベルの動摩擦係数を発現できることが判った。
【0010】
本発明の実施形態による潤滑性フィラーは、
無機粒子の表面が炭素材料で被覆された潤滑性フィラーであって、
該無機粒子の平均粒子径が0.5μm以上である。
【0011】
一つの実施形態においては、上記潤滑性フィラーは、
濃度20質量%となるように分散媒に分散させた分散体を摩擦試験に供したときの往復摺動回数1000回時の平均動摩擦係数μ(20,1000)が0.04未満である。
【0012】
一つの実施形態においては、上記潤滑性フィラーは、濃度5質量%となるように分散媒に分散させた分散体を摩擦試験に供したときの往復摺動回数1000回時の平均動摩擦係数μ(5,1000)が0.04未満である。
【0013】
本発明の実施形態による潤滑性組成物は、本発明の実施形態による潤滑性フィラーを含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、潤滑性組成物とした場合に、0.04よりもさらに低いレベルの動摩擦係数を発現できる、潤滑性フィラーを提供できる。また、そのような潤滑性フィラーを含む潤滑性組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態による潤滑性フィラーを製造する途中で生成し得る有機無機複合体を示す概略断面図である。
【
図2】本発明の実施形態による潤滑性フィラーの一例であるコアシェル粒子を示す概略断面図である。
【
図3】実施例1、2における摩擦試験における往復摺動回数と平均動摩擦係数との関係を示す測定結果図である。
【
図4】実施例3、4における摩擦試験における往復摺動回数と平均動摩擦係数との関係を示す測定結果図である。
【
図5】実施例5、6、7における摩擦試験における往復摺動回数と平均動摩擦係数との関係を示す測定結果図である。
【
図6】比較例1、2における摩擦試験における往復摺動回数と平均動摩擦係数との関係を示す測定結果図である。
【
図7】実施例8における摩擦試験における往復摺動回数と平均動摩擦係数との関係を示す測定結果図である。
【
図8】実施例9における摩擦試験における往復摺動回数と平均動摩擦係数との関係を示す測定結果図である。
【
図9】実施例10における摩擦試験における往復摺動回数と平均動摩擦係数との関係を示す測定結果図である。
【
図10】実施例11における摩擦試験における往復摺動回数と平均動摩擦係数との関係を示す測定結果図である。
【
図11】実施例12における摩擦試験における往復摺動回数と平均動摩擦係数との関係を示す測定結果図である。
【
図12】参考例1における摩擦試験における往復摺動回数と平均動摩擦係数との関係を示す測定結果図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書においては、潤滑性フィラーが有する「炭素材料」を「炭素材料部分」と称することがある。また、本明細書においては、潤滑性フィラーが有する「無機粒子」を、「無機粒子部分」と称することがある。
【0017】
≪≪≪1.潤滑性フィラー≫≫≫
本発明の実施形態による潤滑性フィラーは、無機粒子の表面が炭素材料で被覆された潤滑性フィラーであって、該無機粒子の平均粒子径が0.5μm以上である。
【0018】
本発明の実施形態による潤滑性フィラーが発現する効果は、転がり摩擦によるところが大きいため、粒度分布をもつ粒子であれば各粒径成分のうち大きな成分ほど転がり摩擦に寄与していると考えられる。このため、本発明の実施形態による潤滑性フィラーについての平均粒子径としては、全粒子のうち小さいものから数えて90%が含まれる最大径の値であるD90を採用する。
【0019】
本発明の実施形態による潤滑性フィラーにおいて、無機粒子の平均粒子径(D90)は0.5μm以上であり、好ましくは1.0μm以上であり、より好ましくは1.5μm以上であり、さらに好ましくは2.0μm以上であり、特に好ましくは2.3μm以上である。無機粒子の平均粒子径(D90)の上限値は、好ましくは10.0μm以下であり、より好ましくは5.0μm以下であり、さらに好ましくは3.0μm以下であり、特に好ましくは2.7μm以下である。無機粒子の平均粒子径(D90)を上記のような特定の範囲内に制御すれば、本発明の実施形態による潤滑性フィラーは、従来の固体潤滑剤、代表的には、黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、二硫化モリブデン(MoS2)などを潤滑性組成物とした場合に発現できる動摩擦係数の限界値(黒鉛が0.06レベル、PTFEが0.04レベル、MoS2が0.04レベル)を超えた、従来にない優れた低摩擦を発現できる。無機粒子の平均粒子径(D90)が上記範囲を外れると、従来の固体潤滑剤、代表的には、黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、二硫化モリブデン(MoS2)などを潤滑性組成物とした場合に発現できる動摩擦係数と同等以下の低摩擦化しか発現できないおそれがある。
【0020】
無機粒子の平均粒子径(D90)は、体積基準の粒度分布における平均粒子径(D90)であり、レーザー回折散乱法で測定することが好ましい。
【0021】
本発明の実施形態による潤滑性フィラーとしては、球状粒子であることが好ましい。球状粒子であれば、転がり摩擦により、より効果を発揮し得る。球状粒子としては、特に、丸み状粒子、真球状粒子が好ましい。
【0022】
本発明の実施形態による潤滑性フィラーは、潤滑性組成物とした場合に、非常に優れた潤滑性を発現できる。具体的には、従来の固体潤滑剤を潤滑性組成物とした場合に発現できる動摩擦係数の限界値として一般に知られる0.04のレベルに比べて低いレベルの動摩擦係数を発現できる。
【0023】
本発明の実施形態による潤滑性フィラーは、濃度20質量%となるように分散媒に分散させた分散体を摩擦試験に供したときの往復摺動回数1000回時の平均動摩擦係数μ(20,1000)が0.04未満である。摩擦試験の詳細は後述する。
【0024】
上記μ(20,1000)が0.04未満であることは、1000回という高い往復摺動回数で行っていることを考慮すると、従来の固体潤滑剤、代表的には、黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、二硫化モリブデン(MoS2)などを潤滑性組成物とした場合に発現できる動摩擦係数の限界値(黒鉛が0.06レベル、PTFEが0.04レベル、MoS2が0.04レベル)を超えた、従来にない優れた低摩擦を発現できることを意味する。
【0025】
上記μ(20,1000)は、好ましくは0.035以下であり、より好ましくは0.03以下であり、さらに好ましくは0.025以下であり、さらに好ましくは0.02以下であり、さらに好ましくは0.015以下であり、特に好ましくは0.010以下であり、最も好ましくは0.005以下である。上記μ(20,1000)の下限値は、低ければ低いほどよく、現実的には、0.001以上である。
【0026】
本発明の実施形態による潤滑性フィラーは、濃度5質量%となるように分散媒に分散させた分散体を摩擦試験に供したときの往復摺動回数1000回時の平均動摩擦係数μ(5,1000)が、好ましくは0.04未満であり、より好ましくは0.035以下であり、さらに好ましくは0.03以下であり、さらに好ましくは0.025以下であり、さらに好ましくは0.02以下であり、特に好ましくは0.015以下であり、最も好ましくは0.010以下である。上記μ(5,1000)の下限値は、低ければ低いほどよく、現実的には、0.001以上である。上記μ(5,1000)が上記範囲内にあることは、分散体の濃度が5質量%という低濃度であること、および、1000回という高い往復摺動回数で行っていることを考慮すると、従来の固体潤滑剤、代表的には、黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、二硫化モリブデン(MoS2)などを潤滑性組成物とした場合に発現できる動摩擦係数の限界値(黒鉛が0.06レベル、PTFEが0.04レベル、MoS2が0.04レベル)を超えた、従来にないより優れた低摩擦を発現できることを意味する。
【0027】
本発明の実施形態による潤滑性フィラーは、濃度0.5質量%となるように分散媒に分散させた分散体を摩擦試験に供したときの往復摺動回数1000回時の平均動摩擦係数μ(0.5,1000)が、好ましくは0.04未満であり、より好ましくは0.035以下であり、さらに好ましくは0.03以下であり、さらに好ましくは0.025以下であり、さらに好ましくは0.02以下であり、特に好ましくは0.015以下であり、最も好ましくは0.010以下である。上記μ(0.5,1000)の下限値は、低ければ低いほどよく、現実的には、0.001以上である。上記μ(0.5,1000)が上記範囲内にあることは、分散体の濃度が0.5質量%という超低濃度であること、および、1000回という高い往復摺動回数で行っていることを考慮すると、従来の固体潤滑剤、代表的には、黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、二硫化モリブデン(MoS2)などを潤滑性組成物とした場合に発現できる動摩擦係数の限界値(黒鉛が0.06レベル、PTFEが0.04レベル、MoS2が0.04レベル)を超えた、従来にないより一層優れた低摩擦を発現できることを意味する。
【0028】
上記の摩擦試験の条件は、本発明の実施形態による潤滑性フィラーの好適な使用条件の一つに過ぎない。これ以外の条件でもまた、本発明の実施形態による潤滑性フィラーは好適に使用できる。
【0029】
本発明の実施形態による潤滑性フィラーは、単独で高い潤滑特性を示すが、分散媒のような液体もしくはグリースのような半液体状態として使用することも好ましい。その場合は、分散媒を使用して半液体状態とすることが好ましい。
【0030】
分散媒としては、本発明の実施形態による潤滑性フィラーを良好に分散させることができれば、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な分散媒を採用できる。
【0031】
基板および接触子の材質は固いものほど耐摩耗性に優れるが、本発明の実施形態による潤滑性フィラーを用いれば、比較的柔らかい金属も使用できる。基材としては、金属の他、セラミックスも使用できる。
【0032】
荷重および加圧としては、軽くて低圧であるほど摩擦係数が小さく、耐摩耗性に優れると考えられるが、本発明の潤滑性フィラーを用いれば、より高圧の条件でも好適に使用できる。荷重および加圧としては、具体的には、1kPa以上が好ましく、1MPa以上がより好ましい。
【0033】
本発明の実施形態による潤滑性フィラーは、無機粒子の表面が炭素材料で被覆されたものである。
【0034】
本発明の実施形態による、無機粒子の表面が炭素材料で被覆された潤滑性フィラーの炭素材料の層の厚みは、好ましくは0.3nm以上であり、より好ましくは0.5nm以上である。無機粒子の特性を損なわないためには、炭素材料の層の厚みは、好ましくは10nm以下であり、より好ましくは5nm以下である。
【0035】
本発明の実施形態による潤滑性フィラーにおいて、無機粒子の表面を炭素材料で被覆する方法としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な方法を採用し得る。
【0036】
本発明の実施形態による潤滑性フィラーは、好ましくは、下記の2つの実施形態の潤滑性フィラーである。しかしながら、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明の実施形態による潤滑性フィラーは、下記の2つの実施形態以外のものであってもよい。
【0037】
(好ましい実施形態1)
加熱によって同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きる化合物(A)と無機粒子を含む組成物を加熱する加熱工程(I)と、該加熱工程(I)の後、該化合物(A)の加熱によって生成する炭素材料の一部を除去する炭素材料除去工程とを含み、必要に応じて、炭素材料除去工程の後、さらに加熱する加熱工程(II)を含む方法によって得られる潤滑性フィラー。
【0038】
(好ましい実施形態2)
溶媒(S)に可溶な可溶性炭素材料と、無機粒子とを、該溶媒(S)中で混合する混合工程(I)を含む方法によって得られる潤滑性フィラー。
【0039】
以下、本発明の実施形態による潤滑性フィラーについて、好ましい実施形態1と好ましい実施形態2とに分けて説明する。
【0040】
≪≪1-1.潤滑性フィラーの好ましい実施形態1≫≫
潤滑性フィラーの好ましい実施形態1は、加熱によって同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きる化合物(A)と無機粒子を含む組成物を加熱する加熱工程(I)と、該加熱工程(I)の後、該化合物(A)の加熱によって生成する炭素材料の一部を除去する炭素材料除去工程とを含み、必要に応じて、炭素材料除去工程の後、さらに加熱する加熱工程(II)を含む方法によって得られる潤滑性フィラーである。
【0041】
加熱によって同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きる化合物(A)と無機粒子を含む組成物を加熱する加熱工程(I)により、該組成物中の該化合物(A)が加熱されて炭素材料となり、マトリックスとしての炭素材料中に複数の無機粒子が分散した有機無機複合体となる。
【0042】
図1に示すように、上記加熱工程(I)により、マトリックスとしての炭素材料10中に複数の無機粒子20が分散した有機無機複合体100が得られ、炭素材料10と無機物粒子20との界面には、代表的には、炭素材料が無機粒子20の表面に存在する官能基と結合を形成して生じた炭素材料の領域(炭素材料結合領域)30が存在している。この場合、例えば、炭素材料が溶媒に可溶である場合には、有機無機複合体100を、炭素材料を溶解する溶媒によって処理する炭素材料除去工程を行い、必要に応じてさらに加熱工程(II)を行うことによって、
図2に示すように、無機粒子20の表面に炭素材料結合領域(溶媒によって溶解しない領域)30がコーティングされたコアシェル粒子(コア部分:無機粒子、シェル部分:炭素材料結合領域)200が得られ得る。加熱工程(II)を行った場合に得られるコアシェル粒子200は、高炭素化コアシェル粒子となる。
【0043】
図1におけるマトリックスとしての炭素材料10や
図2における炭素材料結合領域(溶媒によって溶解しない領域)30が、本発明の実施形態による潤滑性フィラーにおける炭素材料に相当する。本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは、本発明の実施形態による潤滑性フィラーは、
図2に示すコアシェル粒子200(高炭素化コアシェル粒子である場合も含む)であり、この場合、無機粒子20の表面に存在する炭素材料結合領域(溶媒によって溶解しない領域)30が、本発明の実施形態による潤滑性フィラーにおける炭素材料に相当する。
【0044】
≪1-1-1.無機粒子≫
無機粒子は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な無機粒子を採用し得る。
【0045】
無機粒子は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0046】
無機粒子としては、好ましくは、無機酸化物粒子、無機窒化物粒子、無機硫化物粒子、無機炭化物粒子、不溶性塩粒子からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0047】
<1-1-1-1.無機酸化物粒子>
無機酸化物粒子は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。なお、2種以上の無機酸化物粒子が採用される例としては、例えば、2種以上の無機酸化物粒子が単に併用(混合など)されている場合や、2種以上の無機酸化物粒子が結着している場合などが挙げられる。
【0048】
無機酸化物粒子の分解温度は、本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは800℃以上であり、より好ましくは850℃以上であり、さらに好ましくは900℃以上であり、特に好ましくは950℃以上である。
【0049】
無機酸化物粒子としては、全体が酸化された金属粒子だけでなく、その一部が酸化された金属粒子、好ましくは、その表面の少なくとも一部が酸化された金属粒子も含まれる。金属は、一般に、酸素の存在下によって、その一部、好ましくは、その表面の少なくとも一部が酸化され得るからである。
【0050】
無機酸化物粒子に採用され得る金属としては、好ましくは、酸化されやすい金属であり、例えば、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、アルミニウム(Al)、錫(Sn)、ランタン(La)、イットリウム(Y)、セリウム(Ce)、ケイ素(シリコン、Si)などが挙げられ、より好ましくは、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ケイ素(シリコン、Si)である。このような金属は、酸化されやすく、全体が酸化されているか、その一部、好ましくは、その表面の少なくとも一部が酸化されている。
【0051】
無機酸化物粒子としては、具体的には、例えば、
(1)全体が酸化された金属粒子、
(2)その一部が酸化された金属粒子(好ましくは、その表面の少なくとも一部が酸化された金属粒子)、
(3)構成する金属元素が2種以上である複合酸化物粒子、
(4)構成する金属元素が1種からなる酸化物(単一金属酸化物ともいう)または複合酸化物にさらに異種元素(金属元素、酸素以外の窒素やフッ素等の非金属元素など)が固溶した、いわゆる、固溶体酸化物粒子、
などが挙げられる。
【0052】
上記の(1)「全体が酸化された金属粒子」または(2)「その一部が酸化された金属粒子(好ましくは、その表面の少なくとも一部が酸化された金属粒子)」としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化クロム、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化マンガン、酸化インジウム、酸化ガリウム、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化亜鉛、酸化カドミウム、酸化アルミニウム、酸化錫、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化セリウム、酸化ケイ素などが挙げられ、好ましくは、酸化マグネシウム、酸化チタン(チタニア)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素(シリカ)である。
【0053】
上記の(3)「構成する金属元素が2種以上である複合酸化物粒子」としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な複合酸化物粒子を採用し得る。このような複合酸化物粒子としては、代表的には、2種以上の金属を含む酸化物粒子であり、例えば、ペロブスカイト構造の複酸化物粒子、スピネル構造の複酸化物粒子などが挙げられる。
【0054】
ペロブスカイト構造の複酸化物粒子としては、代表的には、ABO3(A、Bは異なる元素を表す)で表される酸化物の粒子であり、このような酸化物としては、例えば、灰チタン石(ペロブスカイト、CaTiO3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr、Ti)O3)、ジルコン酸バリウム(BaZrO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)などが挙げられる。
【0055】
スピネル構造の複酸化物粒子としては、例えば、スピネル(MgAl2O4)粒子、チタン酸リチウム(LiTi2O4)粒子、クリソベリル(BeAl2O4)粒子などが挙げられる。
【0056】
上記の(4)「構成する金属元素が1種からなる酸化物(単一金属酸化物ともいう)または複合酸化物にさらに異種元素(金属元素、酸素以外の窒素やフッ素等の非金属元素など)が固溶した、いわゆる、固溶体酸化物粒子」としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な固溶体酸化物粒子を採用し得る。このような固溶体酸化物粒子としては、代表的には、単一金属酸化物または複合酸化物に異種金属元素および/または酸素以外の非金属元素(窒素やフッ素等)が固溶した粒子である。
【0057】
本発明の効果をより発現させ得る点で、無機酸化物粒子は、好ましくは、表面に官能基を有する無機酸化物粒子である。このような官能基としては、例えば、M-OHのようなヒドロキシル性官能基;M-O-Mのようなエーテル性官能基を含む酸素官能基;M-NH2、M-NH-Mのようなアミン性官能基を含む窒素官能基;M-SH、M-S-Mのようなチオール性官能基を含む硫黄官能基;その他、ケイ素官能基、ホウ素官能基、リン官能基など;等が挙げられる(Mは、官能基が結合する対象を概念的に示したものであり、無機酸化物粒子そのものや、無機酸化物粒子を構成する金属元素や有機基など、官能基が結合できる任意の適切な対象を示す)。これらの官能基は、無機酸化物粒子に各種化合物を用いて表面処理する等で容易に形成できる。無機酸化物粒子として表面に官能基を有する無機酸化物粒子を採用すれば、無機酸化物粒子の表面に存在する官能基が炭素材料と容易に結合を形成し得るため、炭素材料で被覆された無機酸化物粒子を得ることができる。無機酸化物粒子としては、好ましくは、表面に酸素官能基を有する無機酸化物粒子である。
【0058】
表面に官能基を有する無機酸化物粒子としては、好ましくは、シリカ粒子、アルミナ粒子、チタニア粒子、酸化マグネシウム粒子、ポリ酸粒子、その表面の少なくとも一部が酸化された金属粒子、複合酸化物粒子、固溶体酸化物粒子からなる群から選ばれる少なくとも1種である。表面に官能基を有する無機酸化物粒子として、シリカ粒子、アルミナ粒子、チタニア粒子、酸化マグネシウム粒子、ポリ酸粒子、その表面の少なくとも一部が酸化された金属粒子、複合酸化物粒子、固溶体酸化物粒子からなる群から選ばれる少なくとも1種を採用すれば、無機酸化物粒子の表面に存在する官能基が炭素材料とより容易に結合を形成し得る。
【0059】
ポリ酸粒子を構成するポリ酸としては、イソポリ酸、ヘテロポリ酸が挙げられる。
【0060】
イソポリ酸としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切なイソポリ酸を採用し得る。このようなイソポリ酸としては、例えば、モリブテン、バナジウム、タングステン、ニオブ、チタン、タンタル、クロム、マンガン、レニウム、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、スズ、チタン、ジルコニウム、ロジウム、イリジウム、オスミウム、亜鉛等の無機元素を主体とする無機酸およびそれらの塩が挙げられ、代表的には、モリブデン酸、バナジウム酸、タングステン酸、ニオブ酸、チタン酸、タンタル酸などが挙げられる。
【0061】
ヘテロポリ酸としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切なヘテロポリ酸を採用し得る。このようなヘテロポリ酸としては、例えば、イソポリ酸またはその金属塩にヘテロ原子を導入したものが挙げられる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素、硫黄、リン、アンモニウム、カリウム、ナトリウム、ケイ素などが挙げられる。ヘテロポリ酸は水和物であってよい。
【0062】
ヘテロポリ酸としては、具体的には、例えば、タングステンを含むイソポリ酸にヘテロ原子を導入してなるタングステン系ヘテロポリ酸や、モリブデンを含むイソポリ酸にヘテロ原子を導入してなるモリブデン系ヘテロポリ酸などが挙げられる。
【0063】
タングステン系ヘテロポリ酸としては、例えば、リンタングステン酸、ケイタングステン酸、コバルトタングステン酸、ゲルマノタングステン酸、ホウタングステン酸、リンバナドタングステン酸、リンタングストモリブデン酸などが挙げられる。
【0064】
モリブデン系ヘテロポリ酸としては、例えば、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸、リンバナドモリブデン酸などが挙げられる。
【0065】
<1-1-1-2.無機窒化物粒子>
無機窒化物粒子としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な無機窒化物粒子を採用し得る。このような無機窒化物粒子としては、例えば、窒化ホウ素粒子、窒化炭素粒子、窒化アルミニウム粒子、窒化ガリウム粒子などが挙げられ、好ましくは、窒化ホウ素粒子、窒化アルミニウム粒子である。
【0066】
無機窒化物粒子は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0067】
本発明の効果をより発現させ得る点で、無機窒化物粒子は、好ましくは、表面に官能基を有する無機窒化物粒子である。このような官能基としては、例えば、M-OHのようなヒドロキシル性官能基;M-O-Mのようなエーテル性官能基を含む酸素官能基;M-NH2、M-NH-Mのようなアミン性官能基を含む窒素官能基;M-SH、M-S-Mのようなチオール性官能基を含む硫黄官能基;その他、ケイ素官能基、ホウ素官能基、リン官能基など;等が挙げられる(Mは、官能基が結合する対象を概念的に示したものであり、無機窒化物粒子そのものや、無機窒化物粒子を構成する金属元素や有機基など、官能基が結合できる任意の適切な対象を示す)。これらの官能基は、無機窒化物粒子に各種化合物を用いて表面処理する等で容易に形成できる。無機窒化物粒子として表面に官能基を有する無機窒化物粒子を採用すれば、無機窒化物粒子の表面に存在する官能基が炭素材料と容易に結合を形成し得るため、炭素材料で被覆された無機窒化物粒子を得ることができる。
【0068】
<1-1-1-3.無機硫化物粒子>
無機硫化物粒子としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な無機硫化物を採用し得る。このような無機硫化物粒子としては、例えば、硫化銅粒子、硫化亜鉛粒子、硫化カドミウム粒子などが挙げられる。
【0069】
無機硫化物粒子は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0070】
本発明の効果をより発現させ得る点で、無機硫化物粒子は、好ましくは、表面に官能基を有する無機硫化物粒子である。このような官能基としては、例えば、M-OHのようなヒドロキシル性官能基;M-O-Mのようなエーテル性官能基を含む酸素官能基;M-NH2、M-NH-Mのようなアミン性官能基を含む窒素官能基;M-SH、M-S-Mのようなチオール性官能基を含む硫黄官能基;その他、ケイ素官能基、ホウ素官能基、リン官能基など;等が挙げられる(Mは、官能基が結合する対象を概念的に示したものであり、無機硫化物粒子そのものや、無機硫化物粒子を構成する金属元素や有機基など、官能基が結合できる任意の適切な対象を示す)。これらの官能基は、無機硫化物粒子に各種化合物を用いて表面処理する等で容易に形成できる。無機硫化物粒子として表面に官能基を有する無機硫化物粒子を採用すれば、無機硫化物粒子の表面に存在する官能基が炭素材料と容易に結合を形成し得るため、炭素材料で被覆された無機硫化物粒子を得ることができる。
【0071】
<1-1-1-4.無機炭化物粒子>
無機炭化物粒子としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な無機炭化物粒子を採用し得る。このような無機炭化物粒子としては、例えば、炭化ケイ素粒子、炭化タングステン粒子、炭化カルシウム粒子などが挙げられる。
【0072】
無機炭化物粒子は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0073】
本発明の効果をより発現させ得る点で、無機炭化物粒子は、好ましくは、表面に官能基を有する無機炭化物粒子である。このような官能基としては、例えば、M-OHのようなヒドロキシル性官能基;M-O-Mのようなエーテル性官能基を含む酸素官能基;M-NH2、M-NH-Mのようなアミン性官能基を含む窒素官能基;M-SH、M-S-Mのようなチオール性官能基を含む硫黄官能基;その他、ケイ素官能基、ホウ素官能基、リン官能基など;等が挙げられる(Mは、官能基が結合する対象を概念的に示したものであり、無機炭化物粒子そのものや、無機炭化物粒子を構成する金属元素や有機基など、官能基が結合できる任意の適切な対象を示す)。これらの官能基は、無機炭化物粒子に各種化合物を用いて表面処理する等で容易に形成できる。無機炭化物粒子として表面に官能基を有する無機炭化物粒子を採用すれば、無機炭化物粒子の表面に存在する官能基が炭素材料と容易に結合を形成し得るため、炭素材料で被覆された無機炭化物粒子を得ることができる。
【0074】
<1-1-1-5.不溶性塩粒子>
【0075】
不溶性塩粒子としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な不溶性塩粒子を採用し得る。このような不溶性塩粒子としては、好ましくは、有機溶媒に不溶な金属含有塩粒子であり、例えば、リン酸鉄リチウム粒子などの金属リン酸塩粒子、金属硫酸塩粒子などが挙げられ、好ましくは、リン酸鉄リチウム粒子である。
【0076】
不溶性塩粒子は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0077】
≪1-1-2.有機無機複合体≫
潤滑性フィラーの好ましい実施形態1において、加熱によって同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きる化合物(A)と無機粒子を含む組成物を加熱する加熱工程(I)により、該組成物中の該化合物(A)が加熱されて炭素材料となり、マトリックスとしての炭素材料中に複数の無機粒子が分散した有機無機複合体となる。有機無機複合体は、炭素材料と無機粒子を含む。
【0078】
炭素材料は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0079】
無機粒子は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0080】
加熱工程(I)における加熱温度は、化合物(A)の縮合反応温度がT℃であるときに、好ましくは、(T-150)℃以上である。
【0081】
加熱工程(I)においては、加熱によって同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きる化合物(A)と無機粒子を含む組成物を加熱する。化合物(A)と無機粒子との配合割合は、無機物100質量%に対して、化合物(A)が、好ましくは0.01質量%~1000000質量%であり、より好ましくは0.1質量%~100000質量%であり、特に好ましくは1質量%~1000質量%である。化合物(A)と無機粒子との配合割合が上記範囲内にあれば、構造がより精密に制御された有機無機複合体をより温和な条件でより簡便に製造し得る。これらの無機粒子と化合物(A)の配合割合は、目的とする有機無機複合体の物性に応じて、任意に調整することができる。例えば、無機粒子と化合物(A)の配合割合を調整することにより、得られる有機無機複合体の物性、形態(例えば、溶媒への溶解性や、炭素成分または無機成分の形状(粒子状や非粒子状)、炭素成分または無機成分のサイズなど)を制御することができる。
【0082】
加熱によって同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きる化合物(A)と無機粒子を含む組成物中には、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な他の成分が含まれていてもよい。このような他の成分としては、例えば、溶媒、触媒、母材、担体などが挙げられる。
【0083】
加熱工程(I)で加熱する組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な方法で調製すればよい。このような方法としては、例えば、化合物(A)と無機粒子とを、任意の適切な方法(例えば、破砕、粉砕など)で固体状態のまま混合する方法が挙げられる。また、化合物(A)と無機粒子と溶剤と、必要に応じて溶剤以外の他の成分とを、任意の適切な方法(例えば、超音波処理など)で混合し、任意の適切な方法(例えば、真空乾燥)によって溶剤を除去する方法などが挙げられる。また、必要に応じて、解砕を行ってもよい。
【0084】
加熱工程(I)における加熱温度は、化合物(A)の縮合反応温度がT℃であるときに、好ましくは(T-150)℃以上であり、より好ましくは(T-150~T+50)℃であり、さらに好ましくは(T-130~T+45)℃であり、さらに好ましくは(T-100~T+40)℃であり、特に好ましくは(T-80~T+35)℃であり、最も好ましくは(T-50~T+30)℃である。有機無機複合体を製造する際においては、無機粒子の触媒能や、無機粒子上の官能基と炭素材料の反応性が高いことから、化合物(A)の縮合反応温度と比べて比較的低温から反応が進行して炭素化が進み得る。加熱温度を上記範囲に調整することにより、溶媒への可溶性を有する有機無機複合体や、構造がより精密に制御された有機無機複合体をより温和な条件でより簡便に製造し得る。
【0085】
化合物(A)の縮合反応温度は、TG-DTA分析によって決定できる。具体的には、下記の通りである。
(1)化合物(A)として1種の化合物を用いる場合には、化合物(A)のTG-DTA分析を、窒素ガス雰囲気下、40℃から、昇温速度10℃/分で昇温し、DTAの最も低温側のピークトップ温度を化合物(A)の縮合反応温度(T℃)と決定する。
(2)化合物(A)として2種以上の化合物の混合物を用いる場合には、該混合物のTG-DTA分析を、窒素ガス雰囲気下、40℃から、昇温速度10℃/分で昇温し、DTAの最も低温側のピークトップ温度を化合物(A)(2種以上の化合物の混合物)の縮合反応温度(T℃)と決定する。
(3)ただし、1種の化合物や2種以上の化合物の混合物としての化合物(A)に、例えば、溶媒や水分や水和水等の不純物が含まれている場合は、該不純物の脱離に伴うDTAピーク(不純物ピークと称することもある)が縮合反応温度よりも低温で観測されることがある。このような場合には、上記の不純物ピークは無視して、その化合物(A)の縮合反応温度を決定する。通常は、上記の不純物ピークは無視した上で、DTAの最も低温側のピークトップ温度を、その化合物(A)の縮合反応温度と決定する。
【0086】
TG-DTA分析は、例えば、以下の装置、条件により行うことができる。
測定装置:示差熱熱重量同時測定装置(セイコーインスツルメンツ社製、TG/DTA6200)
化合物(A)の縮合反応温度の決定は、下記のように行うことができる。
(1)化合物(A)として1種の化合物を用いる場合には、化合物(A)のTG-DTA分析を、窒素ガス雰囲気下、40℃から、昇温速度10℃/分で昇温し、DTAの最も低温側のピークトップ温度を化合物(A)の縮合反応温度(T℃)と決定する。
(2)化合物(A)として2種以上の化合物の混合物を用いる場合には、該混合物のTG-DTA分析を、窒素ガス雰囲気下、40℃から、昇温速度10℃/分で昇温し、DTAの最も低温側のピークトップ温度を化合物(A)(2種以上の化合物の混合物)の縮合反応温度(T℃)と決定することができる。
(3)ただし、1種の化合物や2種以上の化合物の混合物としての化合物(A)に、例えば、溶媒や水分や水和水等の不純物が含まれている場合は、該不純物の脱離に伴うDTAピーク(不純物ピークと称することもある)が縮合反応温度よりも低温で観測されることがある。このような場合には、上記の不純物ピークは無視して、その化合物(A)の縮合反応温度を決定することができる。具体的には、上記の不純物ピークは無視した上で、DTAの最も低温側のピークトップ温度を、その化合物(A)の縮合反応温度と決定することができる。
【0087】
有機無機複合体の酸化開始温度は、空気雰囲気下、40℃から、昇温速度10℃/分で行い、DTAの立ち上がり温度のうち、最も低温側のDTAの立ち上がり温度より推定することができる。
【0088】
加熱工程(I)における加熱温度は、具体的な加熱温度として、好ましくは200℃~500℃であり、より好ましくは220℃~400℃であり、さらに好ましくは230℃~350℃であり、最も好ましくは250℃~300℃である。加熱温度を上記範囲に調整することにより、溶媒への可溶性を有する有機無機複合体や、構造がより精密に制御された有機無機複合体をより温和な条件でより簡便に製造し得る。特に、加熱工程(I)における加熱温度がこのように低いため、有機無機複合体をより温和な条件で工業的に製造可能である。
【0089】
加熱工程(I)における加熱時間は、具体的な加熱時間として、好ましくは0.1時間~120時間であり、より好ましくは0.5時間~100時間であり、さらに好ましくは1時間~50時間であり、最も好ましくは2時間~24時間である。加熱時間を上記範囲に調整することにより、溶媒への可溶性を有する有機無機複合体や、構造がより精密に制御された有機無機複合体をより温和な条件でより簡便に製造し得る。
【0090】
有機無機複合体中の炭素材料の含有割合は、質量割合として、好ましくは0.01質量%~99.99質量%であり、特に好ましくは0.1質量%~99.9質量%である。有機無機複合体中の炭素材料の含有割合が上記範囲内にあれば、有機無機複合体を温和な条件で工業的に製造可能であり、有機無機複合体を材料として、本発明の実施形態による潤滑性フィラーを工業的に製造することができる。
【0091】
有機無機複合体中の無機粒子の含有割合は、質量割合として、好ましくは0.01質量%~99.99質量%であり、特に好ましくは0.1質量%~99.9質量%である。有機無機複合体中の無機粒子の含有割合が上記範囲内にあれば、有機無機複合体を温和な条件で工業的に製造可能であり、有機無機複合体を材料として、本発明の実施形態による潤滑性フィラーを工業的に製造することができる。
【0092】
有機無機複合体は、C1sXPS分析による、全結合、すなわち、C-C結合とC=C結合とC-H結合とC-O結合(アルコール由来のC-O結合、エーテル由来のC-O結合、エポキシ由来のC-O結合等含む)とC=O結合(カルボニル由来のC=O結合、カルボキシル由来のC=O結合、エステル由来のC=O結合、ラクトン由来のC=O結合等含む)の合計量に対する、全炭素酸素結合、すなわち、C-O結合とC=O結合の合計量の割合が、好ましくは10%以上であり、より好ましくは20%以上であり、さらに好ましくは25%以上である。上記割合の上限は、好ましくは35%以下である。有機無機複合体において、C1sXPS分析による、C-C結合とC=C結合とC-H結合とC-O結合とC=O結合の合計量に対する、C-O結合とC=O結合の合計量の割合が、上記範囲内にあれば、有機無機複合体は、従来知られている単純な炭素材料と異なり、溶解性等の様々な物性をもつ。
【0093】
C1sXPS分析は、例えば、光電子分光装置(AXIS-ULTRA、島津製作所製)を用いて、以下の条件により行うことができる。
ソース:Mg(デュアルノード)
エミッション:10mA
アノード:10kV
アナライザー:Pass Energy:40
測定範囲:C1s:296~270eV
積算回数:10回
解析条件:C1s軌道に由来するピークを官能基ごとに、下記に記載のエネルギーでピーク分離し、各面積から割合を算出した。官能基の種類は(1)-COO-、ラクトン、および一部のケトン@288.3eV、(2)C=Oおよびエポキシ基@286.2eV、(3)C-OHおよびC-O-C@285.6eV、(4)6員環性C=C@284.3eV、(5)C-C、C-Hおよび5員環性C=C@283.6eVの5ピークで分離する。割合算出上、(4)と(5)はまとめて計算してもよい。C1sXPSに係る部分の%は原子%を意味する。
【0094】
有機無機複合体は、C1sXPS分析による、全炭素酸素結合、すなわち、C-O結合(アルコール由来のC-O結合、エーテル由来のC-O結合、エポキシ由来のC-O結合等含む)とC=O結合(カルボニル由来のC=O結合、カルボキシル由来のC=O結合、エステル由来のC=O結合、ラクトン由来のC=O結合等含む)の合計量に対する、エーテル由来のC-O結合(すなわち、C-O-C結合)とアルコール由来のC-O結合(すなわち、C-OH結合)の合計量の割合が、好ましくは50%以上であり、より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは65%以上であり、特に好ましくは70%以上であり、最も好ましくは75%以上である。上記割合の上限は、好ましくは90%以下である。有機無機複合体において、C1sXPS分析による、C-O結合とC=O結合の合計量に対する、エーテル由来のC-O結合とアルコール由来のC-O結合の合計量の割合が、上記範囲内にあれば、有機無機複合体は、炭素材料部分の構造制御率を高め得るとともに、構造がより精密に制御され得る。なお、構造制御率とは、全結合数に対して、所望とする反応に由来する結合の割合を示す。全結合数がC-O結合とC=O結合の合計量に対応し、所望とする反応に由来する結合が、エーテル由来のC-O結合とアルコール由来のC-O結合の合計量に対応する。構造制御率が高いということは、言い換えると、所望とする反応に由来する結合が多く、所望としない反応に由来する結合が少ないということである。所望としない反応に由来する結合が分解反応に由来するC=O結合であり、構造制御率が少ないほど分解反応が抑制されており、このような有機無機複合体は、構造がより精密に制御されていると言える。
【0095】
有機無機複合体は、C1sXPS分析による、全結合、すなわち、C-C結合とC=C結合とC-H結合とC-O結合(アルコール由来のC-O結合、エーテル由来のC-O結合、エポキシ由来のC-O結合等含む)とC=O結合(カルボニル由来のC=O結合、カルボキシル由来のC=O結合、エステル由来のC=O結合、ラクトン由来のC=O結合等含む)の合計量に対する、エーテル由来のC-O結合(すなわち、C-O-C結合)とアルコール由来のC-O結合(すなわち、C-OH結合)の合計量の割合が、好ましくは15%以上であり、より好ましくは17%以上であり、さらに好ましくは20%以上である。上記割合の上限は、好ましくは30%以下である。有機無機複合体において、C1sXPS分析による、全結合の合計量に対する、エーテル由来のC-O結合(すなわち、C-O-C結合)とアルコール由来のC-O結合(すなわち、C-OH結合)の合計量の割合が、上記範囲内にあれば、有機無機複合体は、構造がより精密に制御された有機無機複合体であると言える。
【0096】
有機無機複合体は、特に好ましくは、C1sXPS分析による、全結合、すなわち、C-C結合とC=C結合とC-H結合とC-O結合(アルコール由来のC-O結合、エーテル由来のC-O結合、エポキシ由来のC-O結合等含む)とC=O結合(カルボニル由来のC=O結合、カルボキシル由来のC=O結合、エステル由来のC=O結合、ラクトン由来のC=O結合等含む)の合計量に対する、全炭素酸素結合、すなわち、C-O結合とC=O結合の合計量の割合が、上記範囲内にあって、且つ、C1sXPS分析による、全炭素酸素結合、すなわち、C-O結合(アルコール由来のC-O結合、エーテル由来のC-O結合、エポキシ由来のC-O結合等含む)とC=O結合(カルボニル由来のC=O結合、カルボキシル由来のC=O結合、エステル由来のC=O結合、ラクトン由来のC=O結合等含む)の合計量に対する、エーテル由来のC-O結合(すなわち、C-O-C結合)とアルコール由来のC-O結合(すなわち、C-OH結合)の合計量の割合が、上記範囲内にある態様である。このような態様であれば、有機無機複合体は、炭素材料部分の溶解性をより高め得るとともに、炭素材料部分の構造制御率をより高め得る。また、このような態様であれば、有機無機複合体は、構造がより一層精密に制御され得る。
【0097】
有機無機複合体は、特に好ましくは、C1sXPS分析による、全結合、すなわち、C-C結合とC=C結合とC-H結合とC-O結合(アルコール由来のC-O結合、エーテル由来のC-O結合、エポキシ由来のC-O結合等含む)とC=O結合(カルボニル由来のC=O結合、カルボキシル由来のC=O結合、エステル由来のC=O結合、ラクトン由来のC=O結合等含む)の合計量に対する、全炭素酸素結合、すなわち、C-O結合とC=O結合の合計量の割合が、上記範囲内にあって、且つ、C1sXPS分析による、全結合、すなわちC-C結合とC=C結合とC-H結合とC-O結合(アルコール由来のC-O結合、エーテル由来のC-O結合、エポキシ由来のC-O結合等含む)とC=O結合(カルボニル由来のC=O結合、カルボキシル由来のC=O結合、エステル由来のC=O結合、ラクトン由来のC=O結合等含む)の合計量に対する、エーテル由来のC-O結合(すなわち、C-O-C結合)とアルコール由来のC-O結合(すなわち、C-OH結合)の合計量の割合が、上記範囲内にある態様である。このような態様であれば、有機無機複合体は、炭素材料部分の溶解性をより高め得るとともに、炭素材料部分の構造制御率をより高め得る。また、このような態様であれば、有機無機複合体は、構造がより一層精密に制御され得る。
【0098】
有機無機複合体は、最も好ましくは、C1sXPS分析による、全結合、すなわち、C-C結合とC=C結合とC-H結合とC-O結合(アルコール由来のC-O結合、エーテル由来のC-O結合、エポキシ由来のC-O結合等含む)とC=O結合(カルボニル由来のC=O結合、カルボキシル由来のC=O結合、エステル由来のC=O結合、ラクトン由来のC=O結合等含む)の合計量に対する、全炭素酸素結合、すなわち、C-O結合とC=O結合の合計量の割合が、上記範囲内にあって、且つ、C1sXPS分析による、全炭素酸素結合、すなわち、C-O結合(アルコール由来のC-O結合、エーテル由来のC-O結合、エポキシ由来のC-O結合等含む)とC=O結合(カルボニル由来のC=O結合、カルボキシル由来のC=O結合、エステル由来のC=O結合、ラクトン由来のC=O結合等含む)の合計量に対する、エーテル由来のC-O結合(すなわち、C-O-C結合)とアルコール由来のC-O結合(すなわち、C-OH結合)の合計量の割合が、上記範囲内にあって、且つ、C1sXPS分析による、全結合、すなわちC-C結合とC=C結合とC-H結合とC-O結合(アルコール由来のC-O結合、エーテル由来のC-O結合、エポキシ由来のC-O結合等含む)とC=O結合(カルボニル由来のC=O結合、カルボキシル由来のC=O結合、エステル由来のC=O結合、ラクトン由来のC=O結合等含む)の合計量に対する、エーテル由来のC-O結合(すなわち、C-O-C結合)とアルコール由来のC-O結合(すなわち、C-OH結合)の合計量の割合が、上記範囲内にある態様である。このような態様であれば、有機無機複合体は、炭素材料部分の溶解性をより高め得るとともに、炭素材料部分の構造制御率をさらにより高め得る。また、このような態様であれば、有機無機複合体は、構造がさらにより一層精密に制御され得る。
【0099】
有機無機複合体は、空気雰囲気下、40℃から、10℃/分の昇温条件によってTG-DTA分析を行ったときの、DTAの立ち上がり温度で示される酸化開始温度が、好ましくは200℃以上であり、より好ましくは250℃以上であり、最も好ましくは300℃以上である。有機無機複合体において、空気雰囲気下、40℃から、10℃/分の昇温条件によってTG-DTA分析を行ったときの、DTAの立ち上がり温度で示される酸化開始温度が、上記範囲内にあれば、有機無機複合体は、酸化安定性が高く、すなわち構造が制御され、骨格構造が保たれているために耐酸化性(耐分解性)が高くなる。仮に、C=O結合が生成するような骨格の開裂が生じていると、骨格の安定性が下がり、耐酸化性(耐分解性)が低くなってしまうというおそれがある。
【0100】
有機無機複合体中の炭素材料の存在は、X線光電子分光法(C1sXPS)により容易に確認できる。
【0101】
有機無機複合体中の炭素材料は、好ましくは、それらの構造内にベンゼン環由来のハニカム構造(グラフェン構造)を有する。グラフェン構造は、ラマン分光分析によってその有無の確認ができる。
【0102】
ラマン分光分析は、例えば、以下の装置、条件により測定できる。
測定装置:顕微ラマン(日本分光NRS-3100)
測定条件:532nmレーザー使用、対物レンズ20倍、CCD取り込み時間1秒、積算64回(分解能=4cm-1)
【0103】
なお、ラマン分光分析においてG’バンド、D+D’バンドは重なって現れることがあり、D+D’バンドが、特に、ショルダーを持つブロードなピークとして分析されることがある。この場合はショルダーピークの変曲点をG’バンドのピークとみなす。
【0104】
有機無機複合体中の炭素材料は、不純物となる金属成分の含有量が、炭素原子100原子%に対し、好ましくは0.1原子%以下であり、より好ましくは0.01原子%以下であり、特に好ましくは実質的にゼロである。有機無機複合体中の炭素材料の中の不純物となる金属成分の含有量は、蛍光X線元素分析法(XRF)により確認することができる。
【0105】
有機無機複合体中の炭素材料は、それを構成する元素として、炭素を必須とし、炭素以外の元素を含んでいてもよい。このような炭素以外の元素としては、好ましくは、酸素、水素、窒素、硫黄、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素から選ばれる少なくとも1種の元素であり、より好ましくは、酸素、水素、窒素、硫黄から選ばれる少なくとも1種の元素であり、さらに好ましくは、酸素、水素、窒素から選ばれる少なくとも1種の元素であり、特に好ましくは、酸素、水素から選ばれる少なくとも1種の元素である。
【0106】
有機無機複合体中の炭素材料を構成する元素のうち、水素以外の元素の総量を100原子%としたとき、炭素は、好ましくは60原子%以上であり、より好ましくは70原子%以上であり、さらに好ましくは75原子%以上である。炭素材料を構成する元素のうち、水素以外の元素の総量を100原子%としたとき、炭素以外の元素は、好ましくは10原子%以上である。上記割合は、有機無機複合体中の炭素材料をX線光電子分光法(C1sXPS)により定量することによって確認することができる。
【0107】
有機無機複合体中の炭素材料は、好ましくは、
(i)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてGバンド(一般的に1550cm-1~1650cm-1の範囲内)およびDバンド(一般的に1300cm-1~1400cm-1の範囲内)にピークを有し、
(ii)溶媒に可溶である炭素系化合物を含む。
【0108】
有機無機複合体中の炭素材料は、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいて、Gバンド(一般的に1550cm-1~1650cm-1の範囲内)にピークを示す。炭素材料が、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてGバンド(一般的に1550cm-1~1650cm-1の範囲内)にピークを有することは、炭素材料がグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有していることを意味している。Gバンドは、強度が高く、シャープであれば、よりきれいなグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有しているといえる。
【0109】
有機無機複合体中の炭素材料は、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいて、Dバンド(一般的に1300cm-1~1400cm-1の範囲内)にピークを有する。グラフェン構造の欠陥に由来する構造を有する炭素材料は、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいて、Dバンド(一般的に1300cm-1~1400cm-1の範囲内)にピークを示す。炭素材料が、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおけるDバンド(一般的に1300cm-1~1400cm-1の範囲内)にピークを有することは、その炭素材料がグラフェン構造の欠陥に由来する構造またはグラフェン構造の欠陥に由来する構造に類似の構造を有していることを意味している。Dバンドは、強度が低ければ、よりきれいなグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有しているといえる。Dバンドが確認できるということは、有機無機複合体中の炭素材料が官能基を有することを意味しており、これにより、溶媒に対する溶解性を高め得る。
【0110】
有機無機複合体中の炭素材料は、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいて、G′バンド(一般的に2650cm-1~2750cm-1の範囲内)にピークを示す。炭素材料が、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてG′バンド(一般的に2650cm-1~2750cm-1の範囲内)にピークを有することは、炭素材料がグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有していることを意味している。G′バンドの強度は、グラフェン構造が1層のときに最も強く、グラフェン構造の積層数が増えるにつれて徐々に小さくなる。G′バンドは、グラフェン構造の積層数が増えるにつれて徐々に強度が小さくなっても、ピークは観察することができる。G′バンドにピークを有することは、有機無機複合体中の炭素材料がグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有しているといえる。G′バンドは、2Dバンドとも呼ばれることがある。
【0111】
有機無機複合体中の炭素材料は、好ましくは、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてD+D′バンド(一般的に2800cm-1~3000cm-1の範囲内)にピークを有する。グラフェン構造の欠陥に由来する構造を有する炭素材料は、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいて、D+D′バンド(一般的に2800cm-1~3000cm-1の範囲内)にピークを示す。炭素材料が、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてD+D′バンド(一般的に2800cm-1~3000cm-1の範囲内)にピークを有することは、その炭素材料がグラフェン構造の欠陥に由来する構造またはグラフェン構造の欠陥に由来する構造に類似の構造を有していることを意味している。D+D′バンドは、強度が低ければ、よりきれいなグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有しているといえる。D+D′バンドは、D+Gバンドとも呼ばれることがある。D+D′バンドが確認できるということは、有機無機複合体中の炭素材料が官能基を有することを意味しており、これにより、溶媒に対する溶解性を高め得る。
【0112】
有機無機複合体中の炭素材料において、官能基を含むことと共に、グラフェン構造の一部に欠陥を有している場合、この欠陥が、炭素材料の溶媒への溶解性の発現に寄与し得る。
【0113】
有機無機複合体中の炭素材料は、上記のように、従来公知の炭素材料とは異なり、グラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有し、有機無機複合体中の炭素材料の溶媒への溶解性がより優れる(例えば、溶媒に溶解する炭素材料の成分がより多くなったり、炭素材料が溶解できる溶媒の種類がより増えたりする)。
【0114】
有機無機複合体中の炭素材料に含まれる炭素系化合物の分子量は、好ましくは1000~1300000であり、より好ましくは5000~1000000であり、さらに好ましくは10000~700000であり、特に好ましくは15000~500000であり、最も好ましくは20000~300000である。有機無機複合体中の炭素材料に含まれる炭素系化合物の分子量が上記範囲内にあれば、上記(i)の特徴と相まって、有機無機複合体中の炭素材料の溶媒への溶解性がより優れる(例えば、溶媒に溶解する炭素材料の成分がより多くなったり、炭素材料が溶解できる溶媒の種類がより増えたりする)。有機無機複合体中の炭素材料に含まれる炭素系化合物の分子量が1300000を超えると、有機無機複合体中の炭素材料の溶媒への溶解性が悪くなるおそれがある。有機無機複合体中の炭素材料に含まれる炭素系化合物の分子量が1000未満であると、有機無機複合体中の炭素材料としての特徴が薄れるおそれがある。
【0115】
分子量の測定は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、東ソー株式会社製HLC-8220GPC)を用いて、各炭素材料が0.02質量%となるようにN,N-ジメチルホルムアミド(0.1%LiBr含有)に混合し、1時間超音波処理後、PTFE製濾紙(0.45μm)に通して前処理したのち、濾液をN,N-ジメチルホルムアミド(0.1%LiBr含有)を展開溶媒に使用し、ポリスチレン換算で算出することができる。炭素材料中の最大分子量はピークの立ち上がり点から算出すればよい。
【0116】
有機無機複合体中の炭素材料中の炭素系化合物の含有割合は、好ましくは50質量%~100質量%であり、より好ましくは70質量%~100質量%であり、さらに好ましくは90質量%~100質量%であり、特に好ましくは95質量%~100質量%であり、最も好ましくは実質的に100質量%である。有機無機複合体中の炭素材料中の炭素系化合物の含有割合が上記範囲内にあれば、上記(i)、(ii)の特徴と相まって、有機無機複合体中の炭素材料の溶媒への溶解性がより優れる(例えば、溶媒に溶解する炭素材料の成分がより多くなったり、炭素材料が溶解できる溶媒の種類がより増えたりする)。
【0117】
有機無機複合体中の炭素材料は、好ましくは、XRD分析によって得られるXRDスペクトルチャートにおいて、20°~30°の範囲内にピークを示す。炭素材料は、グラフェン構造が積層した構造(グラフェン積層構造)を有することも、好ましい実施形態の一つである。積層構造を有することで、有機無機複合体中の炭素材料はより強固になり得るとともに、より安定なものとなり得る。
【0118】
XRD測定は、例えば、全自動水平型X線回折装置(リガク社製、SMART LAB)を用いて、以下の条件により測定することができる。
CuKα1線:0.15406nm
走査範囲:10°-90°
X線出力設定:45kV-200mA
ステップサイズ:0.020°
スキャン速度:0.5°min-1-4°min-1
【0119】
なお、XRD測定は、試料をグローブボックス中にて気密試料台に装填することにより、不活性雰囲気を保った状態で行えばよい。
【0120】
有機無機複合体中の炭素材料は、好ましくは、バルク状態で存在し得る。一般には、バルク状態の物質が備える性質が、その物質の固有の性質である。すなわち、バルク状態の物質は、その物質のもつ基本的な性質、例えば、沸点、融点、粘度、密度などの値を決定できる。ある物質の物性といえば、バルク部分が持つ性質を指す。バルク状態の例としては、粒子、ペレット、フィルム等である。粒子の存在状態としては、例えば、粉体が挙げられる。フィルムとしては、自立したフィルムであることが好ましい。
【0121】
<1-1-2-1.化合物(A)>
実施形態1において、化合物(A)は、加熱によって同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きるので、化合物(A)と無機粒子を含む組成物を加熱する加熱工程(I)によって、代表的には、化合物(A)は炭素材料となり得る。
【0122】
化合物(A)は、好ましくは、23℃環境下で固体であって融点を有する。融点を有することで、焼成の過程で融解し、分子間での反応が良好に進行する。仮に融点を有さない場合、焼成の過程で融解しないので、分子の位置が固定され、分子間での反応が促進されにくく、炭素材料化しにくい。このような化合物(A)を採用することにより、縮合反応を促進し、分解反応を抑制したり、炭素材料の溶媒への溶解性がより優れる(例えば、溶媒に溶解する炭素材料の成分がより多くなったり、炭素材料が溶解できる溶媒の種類がより増えたりする)。
【0123】
化合物(A)は、縮合に寄与しない骨格が芳香族構造であることが好ましい。骨格が芳香族であることによって、得られる炭素材料の炭素成分がより安定になり得る。このような芳香族構造としては、例えば、ベンゼン、ナフタレンのような炭素原子からなる芳香族構造;ピリジン、ピリミジン、フラン、チオフェンのような炭素原子およびヘテロ原子(窒素や酸素など)からなるヘテロ芳香族構造;などが好ましく、これらの中でも、ベンゼン、ピリジンのような六員環構造をもつ芳香族構造およびヘテロ芳香族構造がより好ましい。
【0124】
化合物(A)の分子量は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な分子量を採用し得る。このような分子量としては、本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは500以下であり、より好ましくは75~450であり、さらに好ましくは80~400であり、最も好ましくは100~350である。
【0125】
化合物(A)の縮合反応温度は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な縮合反応温度を採用し得る。このような縮合反応温度としては、本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは450℃以下であり、より好ましくは400℃以下であり、さらに好ましくは200℃~370℃であり、特に好ましくは250℃~350℃である。
【0126】
化合物(A)の、窒素ガス雰囲気下、40℃から、10℃/分の昇温条件によってTG-DTA分析を行ったときの、温度50℃における初期質量M50に対する温度500℃における質量M500の質量比(M500/M50)は、本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは0.2以上であり、より好ましくは0.2~0.9であり、最も好ましくは0.3~0.8である。上記の質量比(M500/M50)が上記範囲内に収まる化合物(A)を用いることで、加熱後に得られる有機無機複合体中に炭素材料が十分に残り得る。
【0127】
[1-1-2-1-1.化合物(A)の好ましい実施態様1]
化合物(A)の好ましい実施態様1は、加熱によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物である。芳香族環上にラジカルが発生した芳香族化合物が、同一分子間および/または異種分子間で縮合反応を起こし、炭素材料となり得る。
【0128】
加熱によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物としては、好ましくは、加熱によって気体(常温常圧において気体状態である気体)を発生する芳香族化合物である。
【0129】
加熱によって気体を発生する芳香族化合物としては、芳香族化合物であって、加熱を行うことによって気体が発生するものであれば、任意の適切な芳香族化合物を採用し得る。このような常温常圧において気体状態である気体としては、好ましくは、CO、CO2、N2、O2、H2、NO2から選ばれる少なくとも1種である。
【0130】
加熱によってCOおよび/またはCO2を発生する芳香族化合物としては、例えば、「-C(=O)-」および/または「-O-C(=O)-」構造を有する芳香族化合物(例えば、芳香族ケトン誘導体、芳香族エステル誘導体、酸無水物など)などが挙げられる。
【0131】
加熱によってCOおよび/またはCO2を発生する芳香族化合物としては、例えば、下記のような化合物が挙げられる。
【0132】
【0133】
加熱によってN2を発生する芳香族化合物としては、例えば、「-NH-NH-」構造や「-N=N-」構造や、「-N3」構造を有する芳香族化合物(例えば、芳香族アゾ化合物、芳香族アジド化合物、トリアゾール置換芳香族化合物、テトラゾール置換芳香族化合物、トリアジンまたはその誘導体、テトラジンまたはその誘導体、芳香族ヒドラジン誘導体など)などが挙げられる。
【0134】
加熱によってN2を発生する芳香族化合物としては、例えば、下記のような化合物が挙げられる。なお、下記の化合物において、Rは、水素原子、または、置換基を有していてもよいアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基を表す。
【0135】
【0136】
加熱によってO2を発生する芳香族化合物としては、例えば、「-O-O-」構造を有する芳香族化合物(例えば、芳香族炭素酸化物、芳香族過酸化物など)などが挙げられる。
【0137】
加熱によってO2を発生する芳香族化合物としては、例えば、下記のような化合物が挙げられる。なお、下記の化合物において、Rは、水素原子、または、置換基を有していてもよいアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基を表す。
【0138】
【0139】
加熱によってH2を発生する芳香族化合物としては、例えば、「-CH2-」構造を有する縮合多環式芳香族化合物(例えば、フェナレン系化合物など)などが挙げられる。
【0140】
加熱によってH2を発生する芳香族化合物としては、例えば、下記のような化合物が挙げられる。
【0141】
【0142】
加熱によってNO2を発生する芳香族化合物としては、例えば、「-NO2」構造を有する芳香族化合物(例えば、芳香族ニトロ化合物など)などが挙げられる。
【0143】
加熱によってNO2を発生する芳香族化合物としては、例えば、下記のような化合物が挙げられる。
【0144】
【0145】
加熱によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物は、加熱による分解性を有し、骨格の少なくとも一部がかい離・分解することによって気体分子(好ましくは、CO、CO2、N2、O2、H2、NO2から選ばれる少なくとも1種)が生成し、残った芳香族環上にラジカルが生成する化合物である。このような芳香族化合物を用いることにより、反応触媒を必要とすることなく、自身の分解のみによる反応が起こるため、化学反応の副生成物や反応触媒が炭素材料に存在してしまって致命的な不純物となることを抑制でき、より高品質な炭素材料を得ることができる。また、このような芳香族化合物を用いることにより、可燃性ガスを使用することなく、比較的温和な温度環境下において、炭素材料を得ることができる。また、このような芳香族化合物は、触媒作用を必要としない高反応性を有し得る。
【0146】
[1-1-2-1-2.化合物(A)の別の好ましい実施態様2]
化合物(A)の別の好ましい実施態様2は、縮合反応によって、2種以上の基から1つの中性分子が形成されて脱離する化合物である。この実施形態2においては、1つの化合物が2種以上の基を有している場合であってもよいし、2つ以上の化合物のそれぞれの有する基を組み合わせて2種以上の基となる場合であってもよい。このような化合物(A)が、同一分子間および/または異種分子間で縮合反応を起こし、炭素材料となり得る。
【0147】
縮合反応としては、2種以上の基から1つの中性分子が形成されて脱離することによる縮合反応であれば、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な縮合反応を採用し得る。このような縮合反応とすることにより、比較的低温で反応を行うことが可能となり得る。このような縮合反応としては、例えば、
(a)-H基と-OH基とからH2Oが形成されて脱離することによる縮合反応、
(b)-H基と-OR基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからROHが形成されて脱離することによる縮合反応、
(c)-H基と-X基(XはハロゲンまたはCN)とからHXが形成されて脱離することによる縮合反応、
(d)-H基と-NH2基とからNH3が形成されて脱離することによる縮合反応、
(e)-H基と-NHR基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからRNH2が形成されて脱離することによる縮合反応、
(f)-H基と-NR1R2基(R1、R2は任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからR1R2NHが形成されて脱離することによる縮合反応、
(g)-H基と-SH基とからH2Sが形成されて脱離することによる縮合反応、
(h)-H基と-SR基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからRSHが形成されて脱離することによる縮合反応、
(i)-H基と-OOCR基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからRCOOHが形成されて脱離することによる縮合反応、
(j)-H基と-OSO(OH)基とからH2SO3が形成されて脱離することによる縮合反応、
(k)-H基と-OSO2R基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからRSO2(OH)が形成されて脱離することによる縮合反応、
(l)-H基と-OSO2(OR)基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからROSO3Hが形成されて脱離することによる縮合反応、
(m)-H基と-OSO2(OH)基とからH2SO4が形成されて脱離することによる縮合反応、
などが挙げられる。特に、脱離した中性成分が該脱離温度(焼成温度)で気体成分であると、炭素材料に取り込まれることなく、気相部にあるため、不純物となりにくい。
【0148】
縮合反応として、-H基と-OH基とからH2Oが形成されて脱離することによる縮合反応(上記(a))を代表例として説明する。
【0149】
実施態様2における化合物(A)の一つの実施態様(実施態様(X)と称することがある)は、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)または2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)であり、該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数の半数が-OH基であり、もう半数が-H基である。
【0150】
実施態様(X)においては、
(i)化合物(A)が、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)である場合、
(ii)化合物(A)が、2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)である場合、
の2つの場合のいずれかを採り得る。
【0151】
実施態様(X)において、「骨格の構造形成に寄与していない置換基」とは、上記(i)の場合の「1個の炭素6員環構造からなる骨格」または上記(ii)の場合の「2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格」の該骨格の構造形成に寄与していない置換基を意味する。例えば、上記(i)の場合として、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)が後に示す化学式(a1-1)で表される場合、1個の炭素6員環構造からなる骨格の構造形成に寄与していない置換基は6個の-OH基と6個の-H基であり、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)が後に示す化学式(a1-2)で表される場合、1個の炭素6員環構造からなる骨格の構造形成に寄与していない置換基は3個の-OH基と3個の-H基である。また、例えば、上記(ii)の場合として、2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)が後に示す化学式(a2-1)で表される場合、2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格の構造形成に寄与していない置換基は6個の-OH基と6個の-H基である。
【0152】
実施態様(X)においては、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)の該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数の半数が-OH基であり、もう半数が-H基であり、2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)の該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数の半数が-OH基であり、もう半数が-H基である。このような置換基の構成を有することにより、化合物(A)は、加熱により、同一分子同士および/または異なる分子間で効果的に脱水反応が起き得る。
【0153】
実施態様(X)において採用し得る化合物(A)としては、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)または2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)であり、該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数の半数が-OH基であり、もう半数が-H基である化合物であれば、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な化合物を採用し得る。このような化合物(A)としては、例えば、下記のような化合物が挙げられる。
【0154】
【0155】
実施態様(X)において採用し得る化合物(A)の中でも、-H基と-OH基とからH2Oが形成されて脱離することによる縮合反応が起こりやすいと推察され、低温で反応が進行しやすいと推察される点で、フロログルシノール(化合物(a1-2))、ヘキサヒドロキシトリフェニレン(HHTP)(化合物(a2-1))が好ましい。
【0156】
実施態様2における化合物(A)の別の一つの実施態様(実施態様(Y)と称することがある)は、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)および/または2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)から選ばれる2種以上であり、該化合物(a1)の骨格の構造形成に寄与していない置換基の数および該化合物(a2)の骨格の構造形成に寄与していない置換基の数の合計の半数が-OH基であり、もう半数が-H基である。
【0157】
実施態様(Y)においては、
(i)化合物(A)が、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)から選ばれる2種以上からなる場合、
(ii)化合物(A)が、2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)から選ばれる2種以上からなる場合、
(iii)化合物(A)が、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)から選ばれる1種以上と2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)から選ばれる1種以上とからなる場合、
の3つの場合のいずれかを採り得る。
【0158】
実施態様(Y)において、「化合物(a1)の骨格の構造形成に寄与していない置換基の数および化合物(a2)の骨格の構造形成に寄与していない置換基の数の合計」とは、下記のような意味である。すなわち、上記(i)の場合、2種以上の化合物(a1)のそれぞれにおける「1個の炭素6員環構造からなる骨格」の該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数を、全て合計した数を意味する。上記(ii)の場合、2種以上の化合物(a2)のそれぞれにおける「2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格」の該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数を、全て合計した数を意味する。上記(iii)の場合、1種以上の化合物(a1)のそれぞれにおける「1個の炭素6員環構造からなる骨格」の該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数と、1種以上の化合物(a2)のそれぞれにおける「2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格」の該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数とを、全て合計した数を意味する。
【0159】
実施態様(Y)において、例えば、上記(i)の場合として、2種以上の化合物(a1)が下記の化学式(a1-5)および化学式(a1-6)で表される場合、化学式(a1-5)で表される化合物の1個の炭素6員環構造からなる骨格の構造形成に寄与していない置換基は2個の-OH基と4個の-H基であり、化学式(a1-6)で表される化合物の1個の炭素6員環構造からなる骨格の構造形成に寄与していない置換基は4個の-OH基と2個の-H基であり、それらの合計は、6個の-OH基と6個の-H基である。また、例えば、上記(iii)の場合として、1種以上の化合物(a1)が下記の化学式(a1-5)および化学式(a1-7)で表され、1種以上の化合物(a2)が下記の化学式(a2-3)で表される場合、化学式(a1-5)で表される化合物の1個の炭素6員環構造からなる骨格の構造形成に寄与していない置換基は2個の-OH基と4個の-H基であり、化学式(a1-7)で表される化合物の1個の炭素6員環構造からなる骨格の構造形成に寄与していない置換基は6個の-OH基であり、化学式(a2-3)で表される化合物の2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格の構造形成に寄与していない置換基は2個の-OH基と6個の-H基である。
【0160】
【0161】
【0162】
このような化合物(A)を用いることにより、反応触媒を必要とすることなく、自身の脱水反応による反応が起こるため、化学反応の副生成物や反応触媒が炭素材料中に存在してしまって致命的な不純物となることを抑制でき、より高品質な炭素材料を得ることができる。また、このような化合物(A)を用いることにより、可燃性ガスを使用することなく、比較的温和な温度環境下において、炭素材料を得ることができる。また、このような化合物(A)は、触媒作用を必要としない高反応性を有し得る。
【0163】
実施態様2における化合物(A)の好ましい実施形態として、分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物が挙げられる。
【0164】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物としては、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な、分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物を採用し得る。
【0165】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物において、該フェノール性ヒドロキシル基が結合する芳香環は炭化水素芳香環であることが好ましい。フェノール性ヒドロキシル基が結合する芳香環がヘテロ芳香環であっても本発明の効果を発揮し得るが、環構造がより安定な炭化水素芳香環であるほうが、得られる炭素材料がより安定となり得る。なお、ヘテロ芳香環とは、炭素によって環構造が構成されている炭化水素芳香環とは異なり、炭素と炭素以外の元素によって環構造が構成されている芳香環を意味する。
【0166】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物は、フェノール性ヒドロキシル基以外の置換基を有していてもよい。このような置換基としては、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な置換基を採用し得る。このような置換基としては、本発明の効果をより高める点では、ヒドロキシル基のみであることが好ましい。ヒドロキシル基以外の置換基が存在しても本発明の効果は発揮され得るが、ヒドロキシル基以外の置換基が存在しないほうが、副反応を防ぎやすく、より炭素材料化しやすい。なお、ここにいうフェノール性ヒドロキシル基以外の置換基としての「ヒドロキシル基」は、フェノール性ではないヒドロキシル基を意味する。なお、当然のことであるが、置換基とは、水素基(-H)に代わって置き換えられた基である。
【0167】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物を構成する元素としては、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な元素を採用し得る。このような元素としては、本発明の効果を高める点では、炭素、酸素、水素のみであることが好ましい。炭素、酸素、水素以外の元素が存在しても本発明の効果は発揮され得るが、炭素、酸素、水素以外の元素が存在しないほうが、副反応を防ぎやすく、より炭素材料化しやすい。
【0168】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物としては、本発明の効果をより発揮させ得るため、該化合物の縮合反応温度が200℃~450℃の範囲であることが好ましく、200~400℃の範囲であることがより好ましい。これにより、効果的に炭素材料化することができる。
【0169】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。2種以上の場合でも、分子間での縮合反応温度は上述の範囲内であることが好ましい。
【0170】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物としては、例えば、一般式(1)~(11)に示す化合物が挙げられる。
【0171】
【0172】
一般式(1)~(11)のそれぞれにおいて、Xは水素原子または水酸基を表し、Xの中の3つ以上が水酸基(フェノール性ヒドロキシル基)である。
【0173】
ここで、フェノール性ヒドロキシル基とは、芳香環に結合した水酸基を意味する。すなわち、一般式(1)においては、芳香環に結合した6つのXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(2)においては、芳香環に結合した6つのXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(3)においては、芳香環に結合した10個のXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(4)においては、芳香環に結合した11個のXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(5)においては、芳香環に結合した9つのXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(6)においては、芳香環に結合した9つのXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(7)においては、芳香環に結合した10個のXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(8)においては、芳香環に結合した11個のXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(9)においては、芳香環に結合した9つのXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(10)においては、芳香環に結合した9つのXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(11)においては、芳香環に結合した12個のXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基である。
【0174】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物の中でも、-H基と-OH基とからH2Oが形成されて脱離することによる縮合反応が起こりやすいと推察され、反応が進行しやすいと推察される点で、好ましくは、フロログルシノール、ヘキサヒドロキシトリフェニレンであり、より好ましくは、フロログルシノールである。
【0175】
[1-1-2-1-3.化合物(A)のさらに別の好ましい実施態様3]
化合物(A)のさらに別の実施態様3は、実施態様1と実施態様2の双方を同時に採用する態様である。すなわち、実施態様3は、加熱によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物であり、かつ縮合反応によって、2種以上の基から1つの中性分子が形成されて脱離する化合物である。このような化合物(A)が、同一分子間および/または異種分子間で縮合反応を起こし、炭素材料となり得る。
【0176】
実施態様3の具体的な構造としては、例えば、化合物(a3-1)が挙げられる。化合物(a3-1)は、加熱により二酸化炭素分子が脱離し、芳香族環上にラジカル(反応活性点)が生じるとともに、ヒドロキシル基と水素基が分子間で脱水し縮合反応が起こる。
【0177】
【0178】
このような化合物(A)を用いることにより、反応触媒を必要とすることなく、自身の脱水反応による反応が起こるため、化学反応の副生成物や反応触媒が炭素材料中に存在してしまって致命的な不純物となることを抑制でき、より高品質な炭素材料を得ることができる。また、このような化合物(A)を用いることにより、可燃性ガスを使用することなく、比較的温和な温度環境下において、炭素材料を得ることができる。また、このような化合物(A)は、触媒作用を必要としない高反応性を有し得る。
【0179】
≪1-1-3.実施形態1による潤滑性フィラーの詳細≫
図1に示すように、マトリックスとしての炭素材料10中に複数の無機粒子20が分散した有機無機複合体100は、無機粒子の表面が炭素材料で被覆された潤滑性フィラーと言えるので、実施形態1による潤滑性フィラーに相当し得る。また、
図2に示すように、無機粒子20の表面に炭素材料結合領域(溶媒によって溶解しない領域)30がコーティングされたコアシェル粒子(コア部分:無機粒子、シェル部分:炭素材料結合領域)200や、該シェル部分が高炭素化された高炭素化コアシェル粒子は、無機粒子の表面が炭素材料で被覆された潤滑性フィラーと言えるので、実施形態1による潤滑性フィラーに相当し得る。
【0180】
図1に示す有機無機複合体100においては、炭素材料10と無機物粒子20との界面に、代表的には、炭素材料が無機粒子20の表面に存在する官能基と結合を形成して生じた炭素材料の領域(炭素材料結合領域)30が存在している。この場合、例えば、炭素材料が溶媒に可溶である場合には、有機無機複合体100を、炭素材料を溶解する溶媒によって処理する炭素材料除去工程を行い、必要に応じてさらに加熱工程(II)を行うことによって、
図2に示すように、無機粒子20の表面に炭素材料結合領域(溶媒によって溶解しない領域)30がコーティングされたコアシェル粒子(コア部分:無機粒子、シェル部分:炭素材料結合領域)200が得られ得る。加熱工程(II)を行った場合に得られるコアシェル粒子200は、高炭素化コアシェル粒子となる。
【0181】
図1におけるマトリックスとしての炭素材料10や
図2における炭素材料結合領域(溶媒によって溶解しない領域)30は、実施形態1による潤滑性フィラーにおける炭素材料に相当する。本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは、本発明の実施形態による潤滑性フィラーは、
図2に示すコアシェル粒子200(高炭素化コアシェル粒子である場合も含む)であり、この場合、無機粒子20の表面に存在する炭素材料結合領域(溶媒によって溶解しない領域)30が、実施形態1による潤滑性フィラーにおける炭素材料に相当する。
【0182】
炭素材料が溶媒に可溶である場合には、有機無機複合体を、炭素材料を溶解する溶媒によって処理する炭素材料除去工程を行い、必要に応じてさらに加熱工程(II)を行うことによって、
図2に示すように、無機粒子20の表面に炭素材料結合領域(溶媒によって溶解しない領域)30がコーティングされたコアシェル粒子(コア部分:無機粒子、シェル部分:炭素材料結合領域)200として本発明の実施形態による潤滑性フィラーが得られ得る。加熱工程(II)を行うことによって得られるコアシェル粒子は、シェル部分が高炭素化され、高炭素化コアシェル粒子(コア部分:無機粒子、シェル部分:高炭素化物)となる。
【0183】
無機粒子の表面に被覆された炭素材料は、代表的には、有機無機複合体を製造する際において、加熱工程(I)の後、化合物(A)の加熱によって生成する炭素材料の一部を除去する炭素材料除去工程に付すことによって製造し得る。
【0184】
炭素材料除去工程においては、有機無機複合体に含まれる炭素材料を溶解する溶媒によって処理する。これにより、
図2に示すように、無機粒子20の表面に炭素材料結合領域(溶媒によって溶解しない領域)30がコーティングされたコアシェル粒子(コア部分:無機粒子、シェル部分:炭素材料結合領域)200が得られ得る。このコアシェル粒子は、実施形態1による潤滑性フィラーに相当し得る。
【0185】
有機無機複合体に含まれる炭素材料を溶解する溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、クロロホルム、ジクロロメタン等が挙げられ、好ましくは、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、クロロホルムであり、より好ましくはN,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンである。
【0186】
炭素材料除去工程を行った後に加熱工程(II)を行うことにより、上述のように、シェル部分が高炭素化され、高炭素化コアシェル粒子(コア部分:無機粒子、シェル部分:高炭素化物)が得られ得る。この高炭素化コアシェル粒子は、実施形態1による潤滑性フィラーに相当し得る。実施形態1による潤滑性フィラーが高炭素化コアシェル粒子である場合、強度や耐熱性が向上し得る。
【0187】
加熱工程(II)における加熱温度は、コア部分の無機粒子が耐えられる温度内であれば、本発明の効果が損なわれない範囲で、任意の適切な加熱温度を採用し得る。このような加熱温度としては、好ましくは500℃~3000℃であり、より好ましくは600℃~2500℃であり、最も好ましくは700℃~2000℃である。加熱工程(II)における加熱温度を上記範囲に調整することにより、シェル部分を効果的に高炭素化させることができる。
【0188】
加熱工程(II)における加熱時間は、具体的な加熱時間として、好ましくは0.1時間~120時間であり、より好ましくは0.5時間~100時間であり、さらに好ましくは1時間~50時間であり、最も好ましくは2時間~24時間である。加熱時間を上記範囲に調整することにより、シェル部分を効果的に高炭素化させることができる。
【0189】
≪≪1-2.潤滑性フィラーの別の好ましい実施形態2≫≫
潤滑性フィラーの好ましい実施形態2は、溶媒(S)に可溶な可溶性炭素材料と、無機粒子とを、該溶媒(S)中で混合する混合工程(I)を含む方法によって得られる潤滑性フィラーである。
【0190】
実施形態2においては、可溶性炭素材料と無機粒子とを溶媒(S)中で混合する。実施形態2においては、可溶性炭素材料やその前駆体である有機化合物と無機粒子とを共存させた状態において焼成しなくても、可溶性炭素材料と無機粒子とを溶媒(S)中で単に混合することによって、潤滑性フィラーが得られる。すなわち、実施形態2においては、可溶性炭素材料と無機粒子とを共存させた状態において焼成する必要がなく、焼成に必要となる熱エネルギーを削減できるので、潤滑性フィラーを温和な条件で簡便に製造することができる。
【0191】
実施形態2において得られる潤滑性フィラーの好ましい態様としては、代表的には、下記の4つの態様の潤滑性フィラーである。しかしながら、本発明の効果を損なわない範囲で、実施形態2において得られる潤滑性フィラーは、下記の4つの態様以外のものであってもよい。
(i)無機粒子部分と炭素材料部分(該無機粒子部分の最表面と強固に相互作用して該無機粒子部分表面に存在している炭素材料部分のみの態様、または、該炭素材料部分および可溶性炭素材料除去工程(IIb)によって除去し得る炭素材料部分との両方を含む態様)とを有する潤滑性フィラーが溶媒(S)中に分散している、潤滑性フィラー分散体。
(ii)上記(i)の潤滑性フィラー分散体に対して、溶媒除去工程(IIa)を行って得られる、無機粒子部分と炭素材料部分(該無機粒子部分の最表面と強固に相互作用して該無機粒子部分表面に存在している炭素材料部分のみの態様、または、該炭素材料部分および可溶性炭素材料除去工程(IIb)によって除去し得る炭素材料部分との両方を含む態様)とを有する潤滑性フィラー(代表的には、後述する「有機無機複合体」)。
(iii)上記(ii)の潤滑性フィラー(代表的には、後述する「有機無機複合体」)に対して、可溶性炭素材料除去工程(IIb)を行って得られる、無機粒子部分と炭素材料部分(実質的に、該無機粒子部分の最表面と強固に相互作用して該無機粒子部分表面に存在している炭素材料部分のみ)とを有する潤滑性フィラー(代表的には、後述する「コアシェル粒子」)。
(iv)上記(iii)の潤滑性フィラー(代表的には、後述する「コアシェル粒子」)に対して、さらに加熱する加熱工程(III)を行って得られる、潤滑性フィラー(代表的には、後述する「高炭素化コアシェル粒子」)。
【0192】
実施形態2による潤滑性フィラーは、最終的に、任意の適切な状態を取り得る。このような状態としては、例えば、溶媒中に分散した状態の分散体であってもよいし、溶媒を除去した状態の固形物(例えば、粒子状物、繊維状物、薄膜状物、板状物など)であってもよい。
【0193】
実施形態2による潤滑性フィラーに含まれる炭素材料部分としては、代表的には、
(i)原料である可溶性炭素材料、
(ii)原料である可溶性炭素材料由来の炭素材料であって、無機粒子の最表面と強固に相互作用して該無機粒子表面に存在している炭素材料、
(iii)上記(ii)の炭素材料が加熱工程(III)によって高炭素化した高炭素化炭素材料、
などが挙げられる。
【0194】
可溶性炭素材料と無機粒子とを溶媒(S)中で混合する混合工程(I)によって、代表的には、無機粒子を含む塊状の潤滑性フィラーが得られ得る(この場合、解砕などによって粒子状の潤滑性フィラーを得ることができ得る)。また、可溶性炭素材料と無機粒子との配合割合を調整することにより、可溶性炭素材料と無機粒子とを溶媒(S)中で混合する混合工程(I)によって、粒子状の潤滑性フィラーが得られる場合もある。
【0195】
混合工程(I)においては、溶媒(S)に可溶な可溶性炭素材料と、無機粒子とを、該溶媒(S)中で混合する。
【0196】
混合の方法としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な混合方法を採用し得る。このような混合方法としては、例えば、可溶性炭素材料と無機材料と溶媒(S)とを、任意の適切な方法(例えば、超音波処理など)で混合する方法が挙げられる。この場合、可溶性炭素材料や無機粒子は、任意の適切な処理(例えば、解砕、破砕、粉砕など)を行って混合してもよい。
【0197】
混合の温度としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な混合温度を採用し得る。このような混合温度としては、本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは0℃~100℃であり、より好ましくは10℃~90℃であり、さらに好ましくは20℃~80℃である。上記の温度範囲にあることで、可溶性炭素材料を十分に迅速に溶解して無機粒子と混合し得る。
【0198】
混合の際には、本発明の効果を損なわない範囲で、可溶性炭素材料と無機粒子と溶媒(S)以外の、任意の適切な他の成分が含まれていてもよい。
【0199】
可溶性炭素材料と無機粒子との配合割合は、無機粒子100質量%に対して、可溶性炭素材料が、好ましくは0.01質量%~1000000質量%であり、より好ましくは0.1質量%~100000質量%であり、特に好ましくは1質量%~1000質量%である。可溶性炭素材料と無機粒子との配合割合が上記範囲内にあれば、潤滑性フィラーをより温和な条件でより簡便に製造し得る。これらの可溶性炭素材料と無機粒子との配合割合は、目的とする潤滑性フィラーの物性に応じて、任意に調整することができる。例えば、可溶性炭素材料と無機粒子との配合割合を調整することにより、得られる潤滑性フィラーの物性、形態(例えば、溶媒への溶解性や、炭素材料部分または無機粒子部分の形状(粒子状や非粒子状)、炭素材料部分または無機粒子部分のサイズなど)を制御することができる。また、可溶性炭素材料の配合割合が多い方が迅速に無機粒子と複合化し、可溶性炭素材料の配合割合が少ない方が後の可溶性炭素材料除去工程(IIb)で除去しやすい。
【0200】
≪1-2-1.無機粒子≫
無機粒子は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な無機粒子を採用し得る。
【0201】
無機粒子は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0202】
無機粒子としては、例えば、無機酸化物粒子、無機窒化物粒子、無機硫化物粒子、無機炭化物粒子、不溶性塩粒子からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0203】
無機酸化物粒子については、前述の<1-1-1-1.無機酸化物粒子>の項における説明を援用し得る。
【0204】
無機窒化物粒子については、前述の<1-1-1-2.無機窒化物粒子>の項における説明を援用し得る。
【0205】
無機硫化物粒子については、前述の〔1-1-1-3.無機硫化物粒子〕の項における説明を援用し得る。
【0206】
無機炭化物粒子については、前述の<1-1-1-4.無機炭化物粒子>の項における説明を援用し得る。
【0207】
不溶性塩粒子については、前述の<1-1-1-5.不溶性塩粒子>の項における説明を援用し得る。
【0208】
実施形態2において、無機粒子としては、表面の特徴を勘案すると、好ましくは、例えば、塩基性表面を有する無機粒子、π-π相互作用可能な表面を有する無機粒子などが挙げられる。
【0209】
塩基性表面を有する無機粒子は、可溶性炭素材料が酸基(例えば、フェノール性ヒドロキシル基)を有する場合に、酸-塩基相互作用によって、該可溶性炭素材料とより強固に結びつき得る。
【0210】
π-π相互作用可能な表面を有する無機粒子は、可溶性炭素材料がπ電子を有する場合に、π-π相互作用によって、該可溶性炭素材料とより強固に結びつき得る。
【0211】
塩基性表面を有する無機粒子としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な塩基性表面を有する無機粒子を採用し得る。このような塩基性表面を有する無機粒子としては、例えば、アルミナ、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム等の無機物、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合物、ベンゾグアナミン・メラミン・ホルムアルデヒド縮合物、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物等の有機物などの塩基性表面を有する物質からなる無機粒子が挙げられる。なお、塩基性表面を有する無機粒子としては、上記のような塩基性表面を有する物質を少なくとも表面に有する無機粒子を好ましく採用し得る。
【0212】
π-π相互作用可能な表面を有する無機粒子としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切なπ-π相互作用可能な表面を有する無機粒子を採用し得る。このようなπ-π相互作用可能な表面を有する無機粒子としては、例えば、窒化ホウ素、黒鉛等の無機物、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合物、ベンゾグアナミン・メラミン・ホルムアルデヒド縮合物、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物等の有機物などのπ-π相互作用可能な表面を有する物質からなる無機粒子が挙げられる。なお、π-π相互作用可能な表面を有する無機粒子としては、上記のようなπ-π相互作用可能な表面を有する物質を少なくとも表面に有する無機粒子を好ましく採用し得る。
【0213】
≪1-2-2.可溶性炭素材料≫
可溶性炭素材料は、溶媒(S)に可溶な炭素材料である。ここで、炭素材料が溶媒(S)に可溶である場合とは、従来の炭素材料に比べて溶媒への溶解性に優れ、良好な取り扱い性を実現し得る場合である。
【0214】
炭素材料が溶媒(S)に可溶という態様としては、好ましくは、下記の実施態様を採りうる。
(実施態様1)炭素材料の全てが溶媒(S)に溶解する実施態様。すなわち、炭素材料が、溶媒(S)に溶解する成分(成分A)のみからなる実施態様。
(実施態様2)炭素材料の一部が溶媒(S)に溶解する態様。すなわち、炭素材料が、溶媒(S)に溶解する成分(成分A)と溶媒(S)に溶解しない成分(成分B)からなる実施態様。
【0215】
本発明において「溶媒(S)に可溶」とは、任意の適切な溶媒(S)に溶解する成分がある態様を意味する。このような溶媒(S)としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な溶媒を採用し得る。このような溶媒(S)としては、好ましくは、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、クロロホルム、ジクロロメタン等が挙げられる。すなわち、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、クロロホルム、ジクロロメタン、水(酸性、塩基性水を含む)からなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒に溶解する成分がある態様が好ましい。より好ましくは、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、クロロホルムからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒に溶解する成分がある態様であり、さらに好ましくは、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒に溶解する成分がある態様であり、特に好ましくは、N-メチルピロリドンに溶解する成分がある態様である。
【0216】
溶媒(S)は、1種の溶媒のみからなるものであってもよいし、2種以上の溶媒の混合溶媒であってもよい。
【0217】
炭素材料が溶媒(S)に可溶である一つの実施形態は、例えば、炭素材料が、溶媒(S)に可溶である炭素系化合物を含む実施形態である。
【0218】
溶媒(S)に可溶であるか否かの判定方法としては、例えば、炭素材料を溶媒(S)に対して0.001質量%となるように混合したのち、超音波処理を1時間行い、得られた液をPTFE製濾紙(孔径0.45μm)に通したとき、濾紙を通過した液に炭素系化合物が含まれるか否かで判定することができる。濾紙を通過した液に炭素系化合物が含まれる場合、炭素材料が溶媒に可溶である炭素系化合物を含むと判定される。上記PTFE製濾紙としては、例えば、ジーエルサイエンス株式会社製のGLクロマトディスク(型式13P)を用いることができる。
【0219】
可溶性炭素材料は、代表的には、加熱によって同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きる化合物(A)を加熱して得られる。
【0220】
可溶性炭素材料を得るための、化合物(A)の加熱温度は、化合物(A)の縮合反応温度がT℃であるときに、好ましくは(T-150)℃以上であり、より好ましくは(T-150~T+50)℃であり、さらに好ましくは(T-130~T+45)℃であり、さらに好ましくは(T-100~T+40)℃であり、特に好ましくは(T-80~T+35)℃であり、最も好ましくは(T-50~T+30)℃である。
【0221】
可溶性炭素材料は、上記のように、化合物(A)の縮合反応温度と比べて比較的低温から反応が進行して炭素化が進み得る。加熱温度を上記範囲に調整することにより、溶媒への可溶性により優れる可溶性炭素材料や、構造がより精密に制御された可溶性炭素材料をより温和な条件でより簡便に製造し得る。
【0222】
化合物(A)の縮合反応温度は、TG-DTA分析によって決定できる。具体的には、下記の通りである。
(1)化合物(A)として1種の化合物を用いる場合には、化合物(A)のTG-DTA分析を、窒素ガス雰囲気下、40℃から、昇温速度10℃/分で昇温し、DTAの最も低温側のピークトップ温度を化合物(A)の縮合反応温度(T℃)と決定する。
(2)化合物(A)として2種以上の化合物の混合物を用いる場合には、該混合物のTG-DTA分析を、窒素ガス雰囲気下、40℃から、昇温速度10℃/分で昇温し、DTAの最も低温側のピークトップ温度を化合物(A)(2種以上の化合物の混合物)の縮合反応温度(T℃)と決定する。
(3)ただし、1種の化合物や2種以上の化合物の混合物としての化合物(A)に、例えば、溶媒や水分や水和水等の不純物が含まれている場合は、該不純物の脱離に伴うDTAピーク(不純物ピークと称することもある)が縮合反応温度よりも低温で観測されることがある。このような場合には、上記の不純物ピークは無視して、その化合物(A)の縮合反応温度を決定する。通常は、上記の不純物ピークは無視した上で、DTAの最も低温側のピークトップ温度を、その化合物(A)の縮合反応温度と決定する。
【0223】
可溶性炭素材料を得るための、化合物(A)の加熱温度は、具体的な加熱温度として、好ましくは200℃~500℃であり、より好ましくは220℃~400℃であり、さらに好ましくは230℃~350℃であり、最も好ましくは250℃~300℃である。化合物(A)の加熱温度を上記範囲に調整することにより、溶媒への可溶性により優れる可溶性炭素材料や、構造がより精密に制御された可溶性炭素材料をより温和な条件でより簡便に製造し得る。
【0224】
可溶性炭素材料を得るための、化合物(A)の加熱時間は、具体的な加熱時間として、好ましくは0.1時間~120時間であり、より好ましくは0.5時間~100時間であり、さらに好ましくは1時間~50時間であり、最も好ましくは2時間~24時間である。加熱時間を上記範囲に調整することにより、溶媒への可溶性により優れる可溶性炭素材料や、構造がより精密に制御された可溶性炭素材料をより温和な条件でより簡便に製造し得る。
【0225】
<1-2-2-1.化合物(A)>
実施形態2において、化合物(A)は、好ましくは、23℃環境下で固体であって融点を有する。融点を有することで、焼成の過程で融解し、分子間での反応が良好に進行する。仮に融点を有さない場合、焼成の過程で融解しないので、分子の位置が固定され、分子間での反応が促進されにくく、炭素材料化しにくい。このような化合物(A)を採用することにより、縮合反応を促進し、分解反応を抑制したり、得られる可溶性炭素材料の溶媒への溶解性がより優れる(例えば、溶媒に溶解する成分がより多くなったり、溶解できる溶媒の種類がより増えたりする)。
【0226】
化合物(A)は、縮合に寄与しない骨格が芳香族構造であることが好ましい。骨格が芳香族であることによって、得られる可溶性炭素材料の炭素成分がより安定になり得る。このような芳香族構造としては、例えば、ベンゼン、ナフタレンのような炭素原子からなる芳香族構造;ピリジン、ピリミジン、フラン、チオフェンのような炭素原子およびヘテロ原子(窒素や酸素など)からなるヘテロ芳香族構造;などが好ましく、これらの中でも、ベンゼン、ピリジンのような六員環構造をもつ芳香族構造およびヘテロ芳香族構造がより好ましい。
【0227】
化合物(A)の分子量は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な分子量を採用し得る。このような分子量としては、本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは500以下であり、より好ましくは75~450であり、さらに好ましくは80~400であり、最も好ましくは100~350である。
【0228】
化合物(A)の縮合反応温度は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な縮合反応温度を採用し得る。このような縮合反応温度としては、本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは450℃以下であり、より好ましくは400℃以下であり、さらに好ましくは200℃~370℃であり、特に好ましくは250℃~350℃である。
【0229】
化合物(A)の、窒素ガス雰囲気下、40℃から、10℃/分の昇温条件によってTG-DTA分析を行ったときの、温度50℃における初期重量M50に対する温度500℃における重量M500の重量比(M500/M50)は、本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは0.2以上であり、より好ましくは0.2~0.9であり、最も好ましくは0.3~0.8である。上記の重量比(M500/M50)が上記範囲内に収まる化合物(A)を用いることで、可溶性炭素材料を十分に得ることができる。
【0230】
[1-2-2-1-1.化合物(A)の好ましい実施態様1]
化合物(A)の実施態様1は、加熱によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物である。芳香族環上にラジカルが発生した芳香族化合物が、同一分子間および/または異種分子間で縮合反応を起こし、可溶性炭素材料となり得る。
【0231】
加熱によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物としては、好ましくは、加熱によって気体(常温常圧において気体状態である気体)を発生する芳香族化合物である。
【0232】
加熱によって気体を発生する芳香族化合物としては、前述の[1-1-2-1-1.化合物(A)の好ましい実施態様1]の項における説明を援用し得る。
【0233】
加熱によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物は、加熱による分解性を有し、骨格の少なくとも一部がかい離・分解することによって気体分子(好ましくは、CO、CO2、N2、O2、H2、NO2から選ばれる少なくとも1種)が生成し、残った芳香族環上にラジカルが生成する化合物である。このような芳香族化合物を用いることにより、反応触媒を必要とすることなく、自身の分解のみによる反応が起こるため、化学反応の副生成物や反応触媒が炭素材料に存在してしまって致命的な不純物となることを抑制でき、より高品質な可溶性炭素材料を得ることができる。また、このような芳香族化合物を用いることにより、可燃性ガスを使用することなく、比較的温和な温度環境下において、可溶性炭素材料を得ることができる。また、このような芳香族化合物は、触媒作用を必要としない高反応性を有し得る。
【0234】
[1-2-2-1-2.化合物(A)の別の好ましい実施態様2]
化合物(A)の別の好ましい実施態様2は、縮合反応によって、2種以上の基から1つの中性分子が形成されて脱離する化合物である。この実施態様2においては、1つの化合物が2種以上の基を有している場合であってもよいし、2つ以上の化合物のそれぞれの有する基を組み合わせて2種以上の基となる場合であってもよい。このような化合物(A)が、同一分子間および/または異種分子間で縮合反応を起こし、可溶性炭素材料となり得る。
【0235】
縮合反応については、前述の[1-1-2-1-2.化合物(A)の別の好ましい実施態様2]の項における説明を援用し得る。
【0236】
[1-2-2-1-3.化合物(A)のさらに別の好ましい実施態様3]
化合物(A)のさらに別の好ましい実施態様3は、実施態様1と実施態様2の双方を同時に採用する形態である。すなわち、実施態様3は、加熱によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物であり、かつ縮合反応によって、2種以上の基から1つの中性分子が形成されて脱離する化合物である。このような化合物(A)が、同一分子間および/または異種分子間で縮合反応を起こし、可溶性炭素材料となり得る。
【0237】
実施態様3については、前述の[1-1-2-1-3.化合物(A)のさらに別の好ましい実施態様3〕の項における説明を援用し得る。
【0238】
≪1-2-3.他の工程≫
潤滑性フィラーの好ましい実施形態2においては、混合工程(I)の後、好ましくは、
(1)前記溶媒(S)の少なくとも一部を除去する溶媒除去工程(IIa)、
(2)前記可溶性炭素材料の少なくとも一部を除去する可溶性炭素材料除去工程(IIb)、
(3)さらに加熱する加熱工程(III)、
(4)前記無機粒子部分を除去する無機粒子除去工程(IV)、
からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0239】
実施形態2においては、混合工程(I)の後に、上記の工程(IIa)、(IIb)、(III)、(IV)以外に、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な工程を含んでいてもよい。このような工程としては、例えば、精製工程などが挙げられる。精製工程としては、例えば、精製対象物を、任意の適切な溶媒によって洗浄する工程などが挙げられる。このような溶媒としては、回収した溶媒でもよいが、洗浄効果を上げる点で、フレッシュな溶媒が好ましい。また、洗浄は、1回でもよいし、2回以上の複数回でもよい。なお、このような洗浄は、例えば、上記の工程(IIa)、(IIb)、(III)、(IV)の中において行われてもよい。
【0240】
実施形態2が、溶媒除去工程(IIa)、可溶性炭素材料除去工程(IIb)、加熱工程(III)、無機粒子除去工程(IV)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む場合、それらの順序は、目的とする潤滑性フィラーの態様に応じて、適宜設定し得る。
【0241】
目的とする潤滑性フィラーが、無機粒子部分と炭素材料部分(該無機粒子部分の最表面と強固に相互作用して該無機粒子部分表面に存在している炭素材料部分のみの態様、または、該炭素材料部分および可溶性炭素材料除去工程(IIb)によって除去し得る炭素材料部分との両方を含む態様)とを有する潤滑性フィラー(代表的には、後述する「有機無機複合体」)の場合には、混合工程(I)の後、好ましくは、溶媒除去工程(IIa)を行い、さらに、必要に応じて、可溶性炭素材料除去工程(IIb)を行うこともある。
【0242】
目的とする潤滑性フィラーが、無機粒子部分と炭素材料部分(実質的に、該無機粒子部分の最表面と強固に相互作用して該無機粒子部分表面に存在している炭素材料部分のみ)を有する潤滑性フィラー(代表的には、後述する「コアシェル粒子」)の場合には、混合工程(I)の後、好ましくは、溶媒除去工程(IIa)を行い、さらに、可溶性炭素材料除去工程(IIb)を行う。
【0243】
目的とする潤滑性フィラーが、炭素材料部分が高炭素化された潤滑性フィラー(代表的には、後述する「高炭素化コアシェル粒子」)の場合には、混合工程(I)の後、好ましくは、溶媒除去工程(IIa)を行い、さらに、可溶性炭素材料除去工程(IIb)を行い、その後、加熱工程(III)を行う。
【0244】
<1-2-3-1.溶媒除去工程(IIa)>
上述の通り、混合工程(I)によって、代表的には、無機粒子部分と炭素材料部分(該無機粒子の最表面と強固に相互作用して該無機粒子表面に存在している炭素材料部分のみの態様、または、該炭素材料部分および可溶性炭素材料除去工程によって除去しうる炭素材料部分との両方を含む態様)とを有する潤滑性フィラー(代表的には、後述する「有機無機複合体」)が得られ得る。この潤滑性フィラーは、混合工程(I)の直後においては、代表的には、溶媒(S)を含んでいる。すなわち、この潤滑性フィラーは、代表的には、分散体の態様であり得る。
【0245】
このようにして得られた潤滑性フィラー(代表的には、後述する「有機無機複合体」)に対して、溶媒(S)の少なくとも一部を除去する溶媒除去工程(IIa)を行ってもよい。
【0246】
溶媒除去工程(IIa)により、溶媒(S)の少なくとも一部を除去する。代表的には、溶媒除去工程(IIa)においては、溶媒(S)の実質的に全てを除去する。
【0247】
溶媒除去工程(IIa)において、溶媒(S)の少なくとも一部を除去する手段としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な溶媒除去手段を採用し得る。このような溶媒除去手段としては、例えば、蒸留、透析などが挙げられる。
【0248】
<1-2-3-2.可溶性炭素材料除去工程(IIb)>
実施形態2においては、混合工程(I)の後、可溶性炭素材料の少なくとも一部を除去する可溶性炭素材料除去工程(IIb)を行ってもよい。
【0249】
可溶性炭素材料除去工程(IIb)により、可溶性炭素材料の少なくとも一部を除去する。代表的には、可溶性炭素材料除去工程(IIb)においては、炭素材料部分の中で、無機粒子部分の最表面と強固に相互作用して該無機粒子部分表面に存在している炭素材料部分以外の、可溶性炭素材料除去工程(IIb)によって除去し得る炭素材料部分の少なくとも一部を除去する。代表的には、可溶性炭素材料除去工程(IIb)によって除去し得る炭素材料部分の実質的に全てを除去する。
【0250】
可溶性炭素材料除去工程(IIb)において、可溶性炭素材料の少なくとも一部を除去する手段としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な可溶性炭素材料除去手段を採用し得る。このような可溶性炭素材料除去手段としては、例えば、任意の適切な溶媒による洗浄などが挙げられる。洗浄は適切な溶媒で可溶部分を溶かし出した後、ろ過や遠心分離を行うことで達成できる。このような溶媒としては、回収した溶媒でもよいが、洗浄効果を上げる点で、フレッシュな溶媒が好ましい。また、洗浄は、1回でもよいし、2回以上の複数回でもよい。
【0251】
<1-2-3-3.加熱工程(III)>
実施形態2においては、混合工程(I)の後、加熱工程(III)を行ってもよい。
【0252】
加熱工程(III)により、代表的には、炭素材料部分が高炭素化される。
【0253】
加熱工程(III)における加熱温度としては、具体的な加熱温度として、好ましくは500℃~3000℃であり、より好ましくは600℃~2500℃であり、最も好ましくは700℃~2000℃である。加熱工程(III)における加熱温度を上記範囲に調整することにより、炭素材料部分を効果的に高炭素化させることができる。上記温度は無機粒子の耐熱温度以下であることが好ましい。
【0254】
加熱工程(III)における加熱時間は、具体的な加熱時間として、好ましくは0.1時間~120時間であり、より好ましくは0.5時間~100時間であり、さらに好ましくは1時間~50時間であり、最も好ましくは2時間~24時間である。加熱時間を上記範囲に調整することにより、炭素材料部分を効果的に高炭素化させることができる。
【0255】
<1-2-3-4.無機粒子除去工程(IV)>
実施形態2においては、混合工程(I)の後、無機粒子除去工程(IV)を行ってもよい。
【0256】
無機粒子除去工程(IV)により、無機粒子部分の少なくとも一部を除去する。代表的には、無機粒子除去工程(IV)により、無機粒子部分の実質的に全てを除去する。
【0257】
無機粒子除去工程(IV)において、無機粒子部分の少なくとも一部を除去する手段としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な無機粒子除去手段を採用し得る。このような無機粒子除去手段としては、例えば、任意の適切な溶剤による処理などが挙げられる。例えば、無機粒子部分が無機物部分の場合、炭素材料部分が溶解されずに無機物部分を溶解できる溶剤で除去する方法が挙げられる。上記のような溶解特性をもつ溶剤としては、特に限定はされないが、水系溶剤が好ましい。このように水系溶剤が好ましい理由としては、本発明の製造方法で製造される潤滑性フィラーに含まれる炭素材料部分は水に溶けにくく、一方、無機物部分は水(特に酸性水や塩基性水)に溶けるものが多いためである。水系溶剤としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸等の酸性水溶液;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の塩基性水溶液;などが挙げられる。また、無機粒子除去工程(IV)において、温度は、特に限定はされないが、水系溶剤の溶解特性を効果的に発現させ得る点で、好ましくは0℃~150℃であり、より好ましくは20℃~100℃である。さらに、無機粒子除去工程(IV)の物理的な処理としては、特に限定はされないが、除去性を効果的に発現させ得る点で、好ましくは、静置、撹拌、超音波処理、せん断操作であり、より好ましくは、撹拌、超音波処理、せん断操作である。
【0258】
≪1-2-4.実施形態2による潤滑性フィラーの詳細≫
潤滑性フィラーの好ましい実施形態2は、溶媒(S)に可溶な可溶性炭素材料と、無機粒子とを、該溶媒(S)中で混合する混合工程(I)を含む方法によって得られる潤滑性フィラーである。
【0259】
実施形態2による潤滑性フィラーは、炭素材料部分の膜厚の大きさを制御することによって各種用途に採用し得る。このような炭素材料部分の膜厚としては、例えば、具体的な態様を代表的な例として説明すると、
(態様1)可溶性炭素材料除去工程(IIb)によって、無機粒子部分の最表面と強固に相互作用して該無機粒子表面に存在している炭素材料部分以外の炭素材料部分を全て除去して得られる、潤滑性フィラーにおける炭素材料部分の膜厚、
(態様2)潤滑性フィラーが有する炭素材料部分の全てまたは一部を残した状態の該潤滑性フィラーにおける炭素材料部分の膜厚、
が挙げられる。
【0260】
上記(態様1)における炭素材料部分は、より具体的には、可溶性炭素材料除去工程(IIb)によって、無機粒子部分の最表面と強固に相互作用して該無機粒子表面に存在している炭素材料部分以外の炭素材料(代表的には、可溶性炭素材料)を全て除去して得られる、該無機粒子の最表面と強固に相互作用している炭素材料部分である。このような炭素材料部分の膜厚は薄く、炭素材料部分の構造にもよるが、好ましくは0.3nm~10nmであり、より好ましくは0.4nm~3nmである。炭素材料部分の膜厚をこのような範囲内に制御すれば、無機粒子と強固に相互作用した炭素材料部分を、各種用途に十分に利用し得る。
【0261】
なお、上記(態様1)において、代表的には、炭素材料部分の膜厚は薄いものの、可溶性炭素材料除去工程(IIb)によって適切な可溶性炭素材料除去方法を採用することによって、上限無く厚みを調整することも可能である。
【0262】
上記(態様2)における炭素材料部分の膜厚は、上記(態様1)における炭素材料部分の膜厚よりも代表的には厚いが、炭素材料膜としての機能をより発揮させ得るには、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下であり、さらに好ましくは10μm以下であり、最も好ましくは1μm以下である。上記(態様2)において、炭素材料部分の膜厚をこのような範囲に制御すれば、膜としての機能を十分に発揮し得る。
【0263】
なお、炭素材料部分の膜厚は、潤滑性フィラーの製造方法において用いる原料化合物(例えば、可溶性炭素材料、さらに詳細には、代表的には、化合物(A))の種類や、製造条件によっても、適切に制御し得る。
【0264】
このような炭素材料部分の膜厚は、種々の分析方法により確認することができる。このような分析方法としては、例えば、電子顕微鏡による直接観察による方法(方法A)や、元素分析や熱重量分析から算出される炭素量を無機粒子部分のマクロな表面積(有機分子が侵入できないようなミクロ構造の表面積を除く)と炭素材料部分の密度から推定する方法(方法B)が挙げられる。
【0265】
上記(方法A)としては、より具体的には、例えば、試料となる潤滑性フィラーの断面を透過型電子顕微鏡または走査型電子顕微鏡、好ましくは、エネルギー分散型X線分析装置を付帯した透過型電子顕微鏡または走査型電子顕微鏡を用いる方法が挙げられる。
【0266】
上記(方法B)において、無機粒子部分のマクロな表面積は、試料となる潤滑性フィラーの形状や含有される無機粒子部分の形状等から推定できる。
【0267】
上記(方法A)においては、例えば、試料が粒子である場合には、好ましくは、試料に含まれる個々の粒子について3箇所以上の厚みを測定し、その単純平均値をその粒子の膜厚とし、より好ましくは10個以上の粒子について膜厚を求め、その単純平均値を試料の平均膜厚とすることができる。このようにして得られた膜厚(平均膜厚)が、例えば、上述した制御したい所望の膜厚範囲となることが好ましい。
【0268】
上記(方法B)においては、分析された膜厚が試料の平均的な膜厚とみなせる。この(方法B)により分析された膜厚が、例えば、上述した制御したい所望の膜厚範囲となることが好ましい。
【0269】
実施形態2による潤滑性フィラーとしては、有機無機複合体、コアシェル粒子、高炭素化コアシェル粒子などが挙げられる。
【0270】
<1-2-4-1.有機無機複合体>
有機無機複合体は、代表的には、溶媒(S)に可溶な可溶性炭素材料と、無機粒子とを、該溶媒(S)中で混合する混合工程(I)によって得られ得る。
【0271】
混合の方法としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な混合方法を採用し得る。このような混合方法としては、例えば、可溶性炭素材料と無機粒子と溶媒(S)とを、任意の適切な方法(例えば、超音波処理など)で混合する方法が挙げられる。この場合、可溶性炭素材料や無機粒子は、任意の適切な処理(例えば、解砕、破砕、粉砕など)を行って混合してもよい。
【0272】
混合の際には、本発明の効果を損なわない範囲で、可溶性炭素材料と無機粒子と溶媒(S)以外の、任意の適切な他の成分が含まれていてもよい。
【0273】
可溶性炭素材料と無機粒子との配合割合は、無機粒子100質量%に対して、可溶性炭素材料が、好ましくは0.01質量%~1000000質量%であり、より好ましくは0.1質量%~100000質量%であり、特に好ましくは1質量%~1000質量%である。可溶性炭素材料と無機粒子との配合割合が上記範囲内にあれば、構造がより精密に制御された有機無機複合体をより温和な条件でより簡便に製造し得る。これらの可溶性炭素材料と無機粒子との配合割合は、目的とする有機無機複合体の物性に応じて、任意に調整することができる。例えば、可溶性炭素材料と無機粒子との配合割合を調整することにより、得られる有機無機複合体の物性、形態(例えば、溶媒への溶解性や、炭素材料部分または無機物部分の形状(粒子状や非粒子状)、炭素材料部分または無機粒子部分のサイズなど)を制御することができる。
【0274】
可溶性炭素材料は、代表的には、加熱によって同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きる化合物(A)を加熱して得られる。
【0275】
可溶性炭素材料は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0276】
無機粒子は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0277】
可溶性炭素材料については、≪1-2-2.可溶性炭素材料≫の項における説明を援用し得る。
【0278】
無機粒子については、≪1-2-1.無機粒子≫の項における説明を援用し得る。
【0279】
有機無機複合体は、炭素材料部分と無機粒子部分とを含む。炭素材料部分は、可溶性炭素材料を含み、代表的には、(i)無機粒子部分の最表面と強固に相互作用して該無機粒子部分表面に存在している炭素材料部分と、(ii)可溶性炭素材料除去工程(IIb)によって除去しうる炭素材料部分とを含む。
【0280】
図1に示すように、有機無機複合体100は、代表的には、マトリックスとしての炭素材料10中に複数の無機粒子20が分散したものであり、炭素材料10と無機粒子20との界面には、炭素材料が無機粒子20の表面に存在する官能基と結合を形成して生じた炭素材料の領域(炭素材料結合領域)30が存在している。そうすると、例えば、炭素材料が溶媒に可溶である場合には、有機無機複合体100を、炭素材料を溶解する溶媒によって処理すると、
図2に示すように、無機粒子20の表面に炭素材料結合領域(溶媒によって溶解しない領域)30がコーティングされたコアシェル粒子(コア部分:無機酸化物粒子、シェル部分:炭素材料結合領域)200が得られ得る。こうして得られるコアシェル粒子200からコア部分としての無機物粒子20を除去すると、炭素材料を有する中空炭素微粒子が得られ得る。
【0281】
有機無機複合体中の炭素材料部分の含有割合は、質量割合として、好ましくは0.01質量%~99.99質量%であり、特に好ましくは0.1質量%~99.9質量%である。有機無機複合体中の炭素材料部分の含有割合が上記範囲内にあれば、有機無機複合体は温和な条件で工業的に製造可能である。これらの炭素材料部分の含有割合は、目的とする物性に応じて、可溶性炭素材料除去工程(IIb)等により容易に任意の割合にすることが可能である。
【0282】
有機無機複合体中の無機粒子部分の含有割合は、質量割合として、好ましくは0.01質量%~99.99質量%であり、特に好ましくは0.1質量%~99.9質量%である。有機無機複合体中の無機粒子部分の含有割合が上記範囲内にあれば、有機無機複合体は温和な条件で工業的に製造可能である。これらの無機粒子部分の含有割合は、目的とする物性に応じて、可溶性炭素材料除去工程(IIb)等により容易に任意の割合にすることが可能である。
【0283】
有機無機複合体は、空気雰囲気下、40℃から、10℃/分の昇温条件によってTG-DTA分析を行ったときの、DTAの立ち上がり温度で示される酸化開始温度が、好ましくは200℃以上であり、より好ましくは250℃以上であり、最も好ましくは300℃以上である。有機無機複合体において、空気雰囲気下、40℃から、10℃/分の昇温条件によってTG-DTA分析を行ったときの、DTAの立ち上がり温度で示される酸化開始温度が、上記範囲内にあれば、本発明の潤滑性フィラーは、酸化安定性が高く、すなわち構造が制御され、骨格構造が保たれているために耐酸化性(耐分解性)が高くなる。仮に、C=O結合が生成するような骨格の開裂が生じていると、骨格の安定性が下がり、耐酸化性(耐分解性)が低くなってしまうというおそれがある。
【0284】
有機無機複合体は、炭素材料部分と無機粒子部分を含み、炭素材料部分は、可溶性炭素材料を含み、代表的には、(i)無機粒子部分の最表面と強固に相互作用して該無機粒子部分表面に存在している炭素材料部分と、(ii)可溶性炭素材料除去工程(IIb)によって除去しうる炭素材料部分とを含む。
【0285】
炭素材料部分は、C1sXPS分析により容易に炭素成分の存在が確認できる。また、炭素材料部分は、好ましくは、その構造内にベンゼン環由来のハニカム構造(グラフェン構造)を有する。グラフェン構造は、ラマン分光分析によってその有無の確認ができる。
【0286】
炭素材料部分は、不純物となる金属成分の含有量が合計で、通常、炭素原子100原子%に対し、好ましくは0.1原子%以下であり、より好ましくは0.01原子%以下であり、特に好ましくは実質的にゼロである。これらは、炭素材料部分を蛍光X線元素分析法(XRF)により分析することによって確認することができる。また、潤滑性フィラー(この項目では有機無機複合体)を蛍光X線元素分析法(XRF)により分析した場合、潤滑性フィラー(この項目では有機無機複合体)を構成する無機粒子部分に含まれる金属成分以外の金属成分の含有量が、炭素原子100原子%に対し、好ましくは0.1原子%以下であり、より好ましくは0.01原子%以下であり、特に好ましくは実質的にゼロである。例えば、無機粒子部分がアルミナである潤滑性フィラー(この項目では有機無機複合体)を蛍光X線元素分析法(XRF)にて分析した場合、アルミナに含まれる金属成分がアルミニウムのみの場合、アルミニウム以外の金属成分の含有量が、炭素原子100原子%に対し、好ましくは0.1原子%以下であり、より好ましくは0.01原子%以下であり、特に好ましくは実質的にゼロである。
【0287】
炭素材料部分は、その構成する元素として、炭素を必須とし、炭素以外の元素を含んでいてもよい。このような炭素以外の元素としては、好ましくは、酸素、水素、窒素、硫黄、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素から選ばれる少なくとも1種の元素であり、より好ましくは、酸素、水素、窒素、硫黄から選ばれる少なくとも1種の元素であり、さらに好ましくは、酸素、水素、窒素から選ばれる少なくとも1種の元素であり、特に好ましくは、酸素、水素から選ばれる少なくとも1種の元素である。炭素材料部分を構成する元素のうち水素以外の元素の総量を100原子%としたとき、炭素は、好ましくは60原子%以上であり、より好ましくは70原子%以上であり、さらに好ましくは75原子%以上である。また、炭素以外の元素は、好ましくは10原子%以上である。各元素の割合がこの範囲に入ることで、炭素材料部分でありながら良好な溶解性を発現することが可能となる。これらは、炭素材料部分をX線光電子分光法(C1sXPS)により定量することによって確認することができる。また、潤滑性フィラー(この項目では有機無機複合体)をX線光電子分光法(C1sXPS)により定量した場合、潤滑性フィラー(この項目では有機無機複合体)を構成する無機物部分に含まれる元素以外の元素の総量を100原子%としたとき、炭素は、好ましくは60原子%以上であり、より好ましくは70原子%以上であり、さらに好ましくは75原子%以上である。また、炭素以外の元素は、好ましくは10原子%以上である。
【0288】
有機無機複合体に含まれる炭素材料部分は、代表的には、(i)無機粒子部分の最表面と強固に相互作用して該無機粒子部分表面に存在している炭素材料部分と、(ii)可溶性炭素材料除去工程(IIb)によって除去しうる炭素材料部分とを含む。
【0289】
上記(i)の炭素材料部分と上記(ii)の炭素材料部分は、いずれも、溶媒に可溶であり得る。ここで、上記(i)の炭素材料部分は、無機粒子部分の最表面と強固に相互作用して該無機粒子部分表面に存在しているので、上記(ii)の炭素材料部分と比べると、溶媒に対する可溶性は低い傾向がある。また、上記(ii)の炭素材料は、可溶性炭素材料除去工程(IIb)によって除去しうる炭素材料部分であり、溶媒に対する可溶性は高い傾向がある。なお、ここでいう「溶媒」は、混合工程(I)で用いる溶媒(S)と同じである必要はない。
【0290】
有機無機複合体に含まれる炭素材料部分が溶媒に可溶という態様としては、好ましくは、下記の実施態様を採りうる。
(実施態様1)炭素材料部分の全てが溶媒に溶解する実施態様。すなわち、炭素材料部分が、溶媒に溶解する成分(成分A)のみからなる実施態様。
(実施態様2)炭素材料部分の一部が溶媒に溶解する態様。すなわち、炭素材料部分が、溶媒に溶解する成分(成分A)と溶媒に溶解しない成分(成分B)からなる実施態様。
【0291】
有機無機複合体に含まれる炭素材料部分が溶媒に可溶という態様としては、より好ましくは、上記の(実施態様2)である。すなわち、溶媒に溶解する成分(成分A)が、可溶性炭素材料除去工程(IIb)によって除去しうる炭素材料部分であり、溶媒に溶解しない成分(成分B)が、無機粒子部分の最表面と強固に相互作用して該無機粒子部分表面に存在している炭素材料部分である。
【0292】
溶媒としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な溶媒を採用し得る。このような溶媒としては、好ましくは、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、クロロホルム、ジクロロメタン等が挙げられる。すなわち、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、クロロホルム、ジクロロメタンからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒に溶解する成分がある態様が好ましい。より好ましくは、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、クロロホルムからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒に溶解する成分がある態様であり、さらに好ましくは、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒に溶解する成分がある態様であり、特に好ましくは、N-メチルピロリドンに溶解する成分がある態様である。
【0293】
溶媒は、1種の溶媒のみからなるものであってもよいし、2種以上の溶媒の混合溶媒であってもよい。
【0294】
炭素材料部分が溶媒に可溶である一つの実施形態は、例えば、炭素材料部分が、溶媒に可溶である炭素系化合物を含む実施形態である。
【0295】
溶媒に可溶であるか否かの判定方法としては、例えば、有機無機複合体を溶媒に対して0.001質量%となるように混合したのち、超音波処理を1時間行い、得られた液をPTFE製濾紙(孔径0.45μm)に通したとき、濾紙を通過した液に炭素系化合物が含まれるか否かで判定することができる。濾紙を通過した液に炭素系化合物が含まれる場合、炭素材料部分が溶媒に可溶である炭素系化合物を含むと判定される。上記PTFE製濾紙としては、例えば、ジーエルサイエンス株式会社製のGLクロマトディスク(型式13P)を用いることができる。
【0296】
炭素材料部分は、好ましくは、(i)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてGバンド(一般的に1550cm-1~1650cm-1の範囲内)にピークを示す。したがって、炭素材料部分が、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてGバンド(一般的に1550cm-1~1650cm-1の範囲内)にピークを有することは、炭素材料部分がグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有していることを意味している。Gバンドは、強度が高く、シャープであれば、よりきれいなグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有しているといえる。
【0297】
炭素材料部分は、好ましくは、(ii)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてDバンド(一般的に1300cm-1~1400cm-1の範囲内)にピークを示す。グラフェン構造の欠陥に由来する構造を有する炭素材料部分は、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいて、Dバンド(一般的に1300cm-1~1400cm-1の範囲内)にピークを示す。したがって、炭素材料部分が、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおけるDバンド(一般的に1300cm-1~1400cm-1の範囲内)にピークを有することは、その炭素材料部分が官能基を含むことや、グラフェン構造の欠陥に由来する構造またはグラフェン構造の欠陥に由来する構造に類似の構造を有していることを意味している。Dバンドは、強度が低ければ、よりきれいなグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有しているといえる。また、Dバンドが確認できるということは、本発明の製造方法で得られる潤滑性フィラーが官能基を有することを意味しており、これにより、溶媒に対する溶解性を高め得る。
【0298】
炭素材料部分は、好ましくは、(i)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてGバンド(一般的に1550cm-1~1650cm-1の範囲内)にピークを示し、さらに、(ii)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてDバンド(一般的に1300cm-1~1400cm-1の範囲内)にピークを示す。
【0299】
炭素材料部分は、好ましくは、(iii)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてG′バンド(一般的に2650cm-1~2750cm-1の範囲内)にピークを示す。したがって、炭素材料部分が、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてG′バンド(一般的に2650cm-1~2750cm-1の範囲内)にピークを有することは、炭素材料部分がグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有していることを意味している。G′バンドの強度は、グラフェン構造が1層のときに最も強く、グラフェン構造の積層数が増えるにつれて徐々に小さくなる。しかしながら、G′バンドは、グラフェン構造の積層数が増えるにつれて徐々に強度が小さくなっても、ピークは観察することができる。したがって、G′バンドにピークを有することは、炭素材料部分がグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有しているといえる。G′バンドは、2Dバンドとも呼ばれることがある。
【0300】
炭素材料部分は、好ましくは、(i)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてGバンド(一般的に1550cm-1~1650cm-1の範囲内)にピークを示し、さらに、(ii)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてDバンド(一般的に1300cm-1~1400cm-1の範囲内)にピークを示し、さらに、(iii)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてG′バンド(一般的に2650cm-1~2750cm-1の範囲内)にピークを示す。
【0301】
炭素材料部分は、好ましくは、(iv)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてD+D′バンド(一般的に2800cm-1~3000cm-1の範囲内)にピークを示す。グラフェン構造の欠陥に由来する構造を有する炭素材料は、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいて、D+D′バンド(一般的に2800cm-1~3000cm-1の範囲内)にピークを示す。したがって、炭素材料部分が、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてD+D′バンド(一般的に2800cm-1~3000cm-1の範囲内)にピークを有することは、その炭素材料部分が官能基を含むことや、グラフェン構造の欠陥に由来する構造またはグラフェン構造の欠陥に由来する構造に類似の構造を有していることを意味している。D+D′バンドは、強度が低ければ、よりきれいなグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有しているといえる。D+D′バンドは、D+Gバンドとも呼ばれることがある。また、D+D′バンドが確認できるということもまた、本発明の製造方法で得られる潤滑性フィラーが官能基を有することを意味しており、これにより、溶媒に対する溶解性を高め得る。
【0302】
炭素材料部分は、好ましくは、(i)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてGバンド(一般的に1550cm-1~1650cm-1の範囲内)にピークを示し、さらに、(ii)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてDバンド(一般的に1300cm-1~1400cm-1の範囲内)にピークを示し、さらに、(iii)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてG′バンド(一般的に2650cm-1~2750cm-1の範囲内)にピークを示し、さらに、(iv)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてD+D′バンド(一般的に2800cm-1~3000cm-1の範囲内)にピークを示す。
【0303】
炭素材料部分は、好ましくは、溶媒に可溶である炭素系化合物を含む。
【0304】
一つの実施形態として、炭素材料部分は、例えば、(i)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてGバンド(一般的に1550cm-1~1650cm-1の範囲内)にピークを示し、さらに、(ii)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてDバンド(一般的に1300cm-1~1400cm-1の範囲内)にピークを示し、さらに、溶媒に可溶である炭素系化合物を含む。
【0305】
炭素材料部分において、官能基を含むことと共に、グラフェン構造の一部に欠陥を有している場合、この欠陥が、炭素材料部分の溶媒への溶解性の発現に寄与し得る。
【0306】
炭素材料部分は、上記のように、従来公知の炭素材料とは異なり、グラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有し、炭素材料部分の溶媒への溶解性がより優れる(例えば、溶媒に溶解する炭素材料部分の成分がより多くなったり、炭素材料部分が溶解できる溶媒の種類がより増えたりする)。
【0307】
炭素材料部分に含まれる炭素系化合物の分子量は、好ましくは1000~1300000であり、より好ましくは5000~1000000であり、さらに好ましくは10000~700000であり、特に好ましくは15000~500000であり、最も好ましくは20000~300000である。炭素材料部分に含まれる炭素系化合物の分子量が上記範囲内にあれば、炭素材料部分の溶媒への溶解性がより優れる(例えば、溶媒に溶解する炭素材料部分の成分がより多くなったり、炭素材料部分が溶解できる溶媒の種類がより増えたりする)。炭素材料部分に含まれる炭素系化合物の分子量が1300000を超えると、炭素材料部分の溶媒への溶解性が悪くなるおそれがある。炭素材料部分に含まれる炭素系化合物の分子量が1000未満であると、炭素材料部分としての特徴が薄れるおそれがある。これらの分子量は、後述する手法により分析できる。
【0308】
炭素材料部分中の炭素系化合物の含有割合は、好ましくは50質量%~100質量%であり、より好ましくは70質量%~100質量%であり、さらに好ましくは90質量%~100質量%であり、特に好ましくは95質量%~100質量%であり、最も好ましくは実質的に100質量%である。炭素材料部分中の炭素系化合物の含有割合が上記範囲内にあれば、炭素材料部分の溶媒への溶解性がより優れる(例えば、溶媒に溶解する炭素材料部分の成分がより多くなったり、炭素材料部分が溶解できる溶媒の種類がより増えたりする)。
【0309】
炭素材料部分は、好ましくは、XRD分析によって得られるXRDスペクトルチャートにおいて、20°~30°の範囲内にピークを示す。すなわち炭素材料部分は、グラフェン構造が積層した構造(グラフェン積層構造)を有することも、好ましい実施形態の一つである。積層構造を有することで、炭素材料部分はより強固になり得るとともに、より安定なものとなり得る。
【0310】
炭素材料部分のさらに好ましい形態は、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいて上述した形態(i)~(iv)のいずれの形態、あるいは組合せた形態;(i)および(ii)、(i)、(ii)および(iii)、(i)、(ii)、(iii)および(iv)を有し、且つ、XRD分析によって得られるXRDスペクトルチャートにおいて、20°~30°の範囲内にピークを示す形態である。
【0311】
有機無機複合体は、任意の適切な状態を取り得る。このような状態としては、例えば、溶媒中に分散した状態の分散体であってもよいし、溶媒を除去した状態の固形物(例えば、粒子状物、繊維状物、薄膜状物、板状物など)であってもよい。
【0312】
有機無機複合体は、好ましくは、バルク状態で存在し得る。一般には、バルク状態の物質が備える性質が、その物質の固有の性質である。すなわち、バルク状態の物質は、その物質のもつ基本的な性質、例えば、沸点、融点、粘度、密度などの値を決定できる。ある物質の物性といえば、バルク部分が持つ性質を指す。バルク状態の例としては、粒子、ペレット、フィルム等である。粒子の存在状態としては、例えば、粉体が挙げられる。フィルムとしては、自立したフィルムであることが好ましい。
【0313】
<1-2-4-2.コアシェル粒子>
コアシェル粒子は、代表的には、無機粒子部分と炭素材料部分(実質的に、該無機粒子部分の最表面と強固に相互作用して該無機粒子部分表面に存在している炭素材料部分のみ)とを有する潤滑性フィラーである。
【0314】
コアシェル粒子は、実施系頼2による潤滑性フィラーにおいて、代表的には、混合工程(I)の後、溶媒除去工程(IIa)を行って得られる、無機粒子部分と炭素材料部分(該無機粒子部分の最表面と強固に相互作用して該無機粒子部分表面に存在している炭素材料部分および可溶性炭素材料除去工程(IIb)によって除去し得る炭素材料部分との両方を含む)とを有する潤滑性フィラー(代表的には、有機無機複合体)に対して、可溶性炭素材料除去工程(IIb)を行って得られる。可溶性炭素材料除去工程(IIb)においては、有機無機複合体に含まれる炭素材料を溶解する溶媒によって処理する。これにより、
図2に示すように、無機粒子20の表面に炭素材料結合領域(溶媒によって溶解しない領域)30がコーティングされたコアシェル粒子(コア部分:無機物粒子、シェル部分:炭素材料結合領域)200が得られ得る。このようなコアシェル粒子は、実施形態2による潤滑性フィラーである。
【0315】
溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、クロロホルム、ジクロロメタン等が挙げられ、好ましくは、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、クロロホルムであり、より好ましくはN,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンであり、特に好ましくはN-メチルピロリドンである。
【0316】
<1-2-4-3.高炭素化コアシェル粒子>
高炭素化コアシェル粒子は、代表的には、コアシェル粒子の炭素材料部分が高炭素化された潤滑性フィラーである。
【0317】
高炭素化コアシェル粒子は、実施形態2による潤滑性フィラーにおいて、代表的には、コアシェル粒子(コア部分:無機粒子、シェル部分:炭素材料結合領域)に対して、加熱工程(III)を行って得られる。この加熱工程(III)により、シェル部分を高炭素化させ得る。これにより、高炭素化コアシェル粒子(コア部分:無機粒子、シェル部分:高炭素化物)が得られ得る。高炭素化することで、得られる潤滑性フィラーの強度や耐熱性を向上することができる。高炭素化コアシェル粒子は、実施形態2による潤滑性フィラーである。
【0318】
加熱工程(III)における加熱温度は、コアの無機粒子部分が耐えられる温度内であればよいが、具体的な加熱温度として、好ましくは500℃~3000℃であり、より好ましくは600℃~2500℃であり、最も好ましくは700℃~2000℃である。加熱工程(III)における加熱温度を上記範囲に調整することにより、シェル部分を効果的に高炭素化させることができる。
【0319】
加熱工程(III)における加熱時間は、具体的な加熱時間として、好ましくは0.1時間~120時間であり、より好ましくは0.5時間~100時間であり、さらに好ましくは1時間~50時間であり、最も好ましくは2時間~24時間である。加熱時間を上記範囲に調整することにより、シェル部分を効果的に高炭素化させることができる。
【0320】
≪≪≪2.潤滑性組成物≫≫≫
本発明の実施形態による潤滑性組成物は、本発明の実施形態による潤滑性フィラーを含む。
【0321】
本発明の実施形態による潤滑性組成物は、、本発明の実施形態による潤滑性フィラーを含んでいれば、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な他の成分を含み得る。
【0322】
本発明の実施形態による潤滑性組成物が含み得る他の成分としては、例えば、分散媒(基油とも呼ばれる。例えば、水、有機溶媒等で、低粘度なものや高粘度なものを含む)、分散安定剤、粘度調整剤、粘度指数向上剤、清浄分散剤、酸化防止剤、乳化剤などが挙げられる。特に、分散媒については、本発明の実施形態による潤滑性フィラーに対する摩擦試験に使用されているテトラエチレングリコールジメチルエーテル、セカンダリーアルコールエトキシレート、流動パラフィンは一例であり、低摩擦を発現するのであれば、どのような分散媒でも好適に使用できる。例えば、潤滑性フィラー(有機無機複合体に等しい)を良好に分散させうる分散能と、潤滑性フィラーの転がり摩擦を妨げない低抵抗性を持ちうる分散媒が、好適に使用できる。
【0323】
分散媒としては、具体的には、有機無機複合体を良好に分散するテトラエチレングリコールジメチルエーテル、ソフタノール等の分子内にポリオキシアルキレン部位を持つポリオキシアルキレン系分散媒、トリグリセリド部位を持つ植物精油、鉱物油、合成油(炭化水素系、エステル系、エーテル系、シリコーン系等)が好ましい。さらに、有機無機複合体が分散しにくい水等であっても、摺動時に摺動界面に潤滑性フィラーの層が形成できるのであれば、これら分散媒も好適に使用できる。すなわち分散しにくく、安定な分散体を形成しにくい組成物であっても、使用前に激しく振とうするなどすることで一時的な分散体とすることで使用可能である。また、分散媒は、低粘度であっても、高粘度であっても、好適に使用できる(例えば、潤滑油やグリース等)。さらに、分散媒としては、揮発性を有するものもまた好ましい。例えば、低沸点の溶剤を用いることで、潤滑性フィラーが塗料、スプレー、エアゾールなどの形態として摺動部に製膜乾燥することができる。乾燥後の膜は不揮発性の分散媒等が新たな潤滑性組成物として残るので、良好な摩擦特性を発揮する。
【0324】
本発明の実施形態による潤滑性組成物中の潤滑性フィラーの濃度は、用途や使用条件で好適な濃度が異なる。本発明の実施形態による潤滑性フィラーは、様々な濃度で使用できるため、いずれの濃度でも本発明の効果が発揮できるが、好ましくは0.01質量%以上99質量%以下であり、より好ましくは0.05質量%以上90質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以上50質量%以下である。また、本発明の実施形態による潤滑性組成物中のフィラー濃度は、組成物中に揮発性の成分がある場合は、揮発後の組成が上記範囲に入ることが好ましい。
【0325】
本発明の実施形態による潤滑性フィラーは、加熱により表面の炭素材料の層の炭素化度を調整することが可能である。本発明の実施形態による潤滑性フィラーを、適切な分散媒に対し、適切な炭素化度合いを調整することで、分散性を調整することができる。または、本発明の実施形態による潤滑性フィラーが分散しにくい分散媒であっても、適宜、分散安定剤(界面活性剤等)を適用することで、分散性を向上させることも可能である。
【実施例】
【0326】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。また、本明細書において、「質量」は「重量」と読み替えても良い。ただし、本明細書中のC1sXPSに係る部分の%は原子%を意味する。
た。
【0327】
<摩擦試験>
摩擦試験は、下記の条件で行い、各往復摺動における往路での動摩擦係数領域の平均値を平均動摩擦係数とした。試験対象の分散体は、サンプルとしての潤滑性フィラーを、分散媒を用いて所定の分散体濃度に調整して用いた。
温度:25℃
相対湿度:50%
試験機:株式会社トリニティーラボ製のTL201
分散媒:テトラエチレングリコールジメチルエーテル(東京化成工業製、以下、TEGD)、セカンダリーアルコールエトキシレート(日本触媒製、ソフタノール120、以下、SOFT)、または、流動パラフィン(富士フイルム和光純薬製、以下、PARA)
基板:SUS304
接触子:10mm×10mmのSUS304面接触子または6mmφSUS304点接触子
荷重:400g(面接触子で3.92kPa、点接触子で39.2MPa)
摺動距離:10mm
摺動速度:10mm/秒
摺動回数:1000往復(データ取り込み時間=10ミリ秒)
【0328】
<平均粒子径>
メタノールに無機粒子を1質量%濃度となるように入れ、超音波分散機により10分間かけて無機粒子を分散させ、測定用試料とした。この試料をレーザー回析/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製LA-920)を用いて計測した。得られた体積基準の粒度分布の算術平均値をもって平均粒子径とした。
【0329】
〔実施例1〕
平均粒子径0.5μmの球状シリカ粒子(日本触媒製):10gとフロログルシノール(東京化成工業製):1gを、アセトン中、超音波処理により分散混合し、乾燥させて、球状シリカ粒子とフロログルシノールの混合物を得た。この混合物を、窒素雰囲気下、撹拌しながら、300℃で2時間焼成した。得られた焼成体を、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中で、超音波処理および遠心分離を繰り返し、余分な炭素材料を取り除いた。その後、乾燥し、窒素雰囲気下、700℃で2時間焼成し、無機粒子の表面が炭素材料で被覆された潤滑性フィラー(1)を得た。分散体濃度を5質量%として摩擦試験(分散媒:TEGD、接触子:10mm×10mmのSUS304面接触子)を行った。
結果を、表1、
図3に示した。
【0330】
〔実施例2〕
分散体濃度を20質量%として摩擦試験を行った以外は、実施例1と同様に行った。
結果を、表1、
図3に示した。
【0331】
〔実施例3〕
平均粒子径0.5μmの球状シリカ粒子(日本触媒製)に代えて、平均粒子径1.0μmの球状シリカ粒子(日本触媒製)を用いた以外は、実施例1と同様に行って、潤滑性フィラー(2)を得た。分散体濃度を5質量%として摩擦試験(分散媒:TEGD、接触子:10mm×10mmのSUS304面接触子)を行った。
結果を、表1、
図4に示した。
【0332】
〔実施例4〕
分散体濃度を20質量%として摩擦試験を行った以外は、実施例3と同様に行った。
結果を、表1、
図4に示した。
【0333】
〔実施例5〕
平均粒子径0.5μmの球状シリカ粒子(日本触媒製)に代えて、平均粒子径2.5μmの球状シリカ粒子(日本触媒製)を用いた以外は、実施例1と同様に行って、潤滑性フィラー(3)を得た。分散体濃度を5質量%として摩擦試験(分散媒:TEGD、接触子:10mm×10mmのSUS304面接触子)を行った。
結果を、表1、
図5に示した。
【0334】
〔実施例6〕
分散体濃度を20質量%として摩擦試験を行った以外は、実施例5と同様に行った。
結果を、表1、
図5に示した。
【0335】
〔実施例7〕
分散体濃度を0.5質量%として摩擦試験を行った以外は、実施例5と同様に行った。
結果を、表1、
図5に示した。
【0336】
〔比較例1〕
平均粒子径0.5μmの球状シリカ粒子(日本触媒製)に代えて、平均粒子径0.2μmの球状シリカ粒子(日本触媒製)を用いた以外は、実施例1と同様に行って、潤滑性フィラー(C1)を得た。分散体濃度を5質量%として摩擦試験(分散媒:TEGD、接触子:10mm×10mmのSUS304面接触子)を行った。
結果を、表1、
図6に示した。
【0337】
〔比較例2〕
分散体濃度を20質量%として摩擦試験を行った以外は、比較例1と同様に行った。
結果を、表1、
図6に示した。
【0338】
〔実施例8〕
分散体濃度を5質量%として摩擦試験(分散媒:TEGD、接触子:6mmφSUS304点接触子)を行った以外は、実施例5と同様に行った。
結果を、表1、
図7に示した。
この結果から、面接触ではなく、より加圧条件である点接触子条件でも効果を発揮することがわかった。
【0339】
〔実施例9〕
分散媒をソフタノール120とした以外は、実施例5と同様に行った。
結果を、表1、
図8に示した。
【0340】
〔実施例10〕
分散媒を流動パラフィンとした以外は、実施例5と同様に行った。
結果を、表1、
図9に示した。
流動パラフィンは疎水性が強く、無機粒子が分散しにくい分散媒であるが、本発明の効果により、流動パラフィンの使用であっても効果を発揮することがわかった。
【0341】
〔実施例11〕
分散媒を水とした以外は実施例5と同様に行った。
結果を表1、
図10に示した。
水は極性が強く、炭素被覆無機粒子が分散しにくい分散媒であるが、本発明の効果により、水の使用であっても効果を発揮することがわかった。
【0342】
〔実施例12〕
実施例6と同様にして、潤滑性フィラー(3)のTEGD20%分散体を調製したのち、ここへ低沸点溶剤であるジクロロメタン(富士フイルム和光純薬社製、沸点40度)を加え、50倍に希釈した。この希釈分散体を、有機溶剤噴霧用スプレーを用いて摩擦試験用のSUS304基板にスプレーして乾燥させたのち、同様に摩擦試験(分散媒:TEGD、接触子:10mm×10mmのSUS304面接触子)を行った。
結果を表1、
図11に示した。
低沸点溶剤で希釈することで、スプレーを可能にし、広範囲に潤滑性組成物の薄膜を形成することができた。形成された薄膜もまた本発明の効果を発揮し、良好な摩擦特性を示した。
【0343】
〔参考例1〕
参考例として、炭素被覆していない粒子、すなわち平均粒子径2.5μmの球状シリカ粒子(日本触媒製)をそのまま用いて、分散体濃度を5質量%として摩擦試験(分散媒:TEGD、接触子:10mm×10mmのSUS304面接触子)を行った。
結果を表1、
図12に示した。
炭素被覆していない粒子であっても、転がり摩擦により、初期の摩擦特性は良好であるが、摺動回数を重ねることで摩擦特性が悪くなる(耐摩耗性が低い)ことがわかった。この結果から、炭素被覆することで、良好な摩擦特性(転がり摩擦+耐摩耗性)を発揮できることがわかった。
【0344】
【産業上の利用可能性】
【0345】
本発明の実施形態による潤滑性フィラーは、例えば、相対的に擦れあいながら滑り合う部分(摺動部)が備えられた各種機械における該摺動部の低摩擦化のために、好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0346】
10 炭素材料
20 無機粒子
30 炭素材料結合領域
100 有機無機複合体
200 コアシェル粒子