(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 20/14 20160101AFI20241113BHJP
B60K 6/485 20071001ALI20241113BHJP
B60K 6/54 20071001ALI20241113BHJP
B60L 1/00 20060101ALI20241113BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20241113BHJP
B60R 16/03 20060101ALI20241113BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20241113BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20241113BHJP
H02J 7/10 20060101ALI20241113BHJP
H02J 7/14 20060101ALI20241113BHJP
H02J 7/34 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
B60W20/14
B60K6/485
B60K6/54
B60L1/00 L
B60L50/16
B60R16/03 J
B60W10/08 900
H02J7/00 P
H02J7/00 302C
H02J7/10 B
H02J7/14 C ZHV
H02J7/34 B
(21)【出願番号】P 2020150942
(22)【出願日】2020-09-09
【審査請求日】2023-08-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 貴博
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-057202(JP,A)
【文献】特開2019-129665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 20/14
H02J 7/14
H02J 7/00
H02J 7/10
H02J 7/34
B60L 50/16
B60L 1/00
B60K 6/485
B60W 10/08
B60K 6/54
B60R 16/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される車両用制御装置であって、
エンジンに連結される発電機と、前記発電機に接続される第1蓄電体と、を備える第1電源系と、
前記第1蓄電体と並列に前記発電機に接続される第2蓄電体と、前記第2蓄電体に接続される電気機器と、を備える第2電源系と、
前記第1蓄電体の端子電圧が所定の上限電圧を上回る場合、または前記第2蓄電体の端子電圧が所定の上限電圧を上回る場合に、前記発電機の発電電圧を下げる発電制御部と、
を有し、
前記第2蓄電体の上限電圧として、第1電圧と、前記第1電圧よりも高い第2電圧と、があり、
前記発電制御部は、
前記発電機が回生発電状態であるか否かを判定し、かつ前記電気機器が作動状態と停止状態との何れであるかを判定し、
前記発電機が回生発電
状態であり、かつ前記電気機器が作動
状態である場合に、前記第2蓄電体の上限電圧を
前記第2電圧から前記第1電圧に
切り替え、
前記発電機が回生発電
状態であり、かつ前記電気機器が停止
状態である場合に、前記第2蓄電体の上限電圧を前記第1電圧
から前記第2電圧に
切り替える、
車両用制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用制御装置において、
前記第2蓄電体の上限電圧である前記第1電圧は、前記第1蓄電体の上限電圧よりも低い、
車両用制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用制御装置において、
前記電気機器は、ヘッドライトである、
車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、モータジェネレータ、オルタネータ或いはISG(Integrated Starter Generator)等の発電機が設けられている。これらの発電機は、車両のエネルギー効率を向上させる観点から、減速走行時に回生発電状態に制御される(特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-158134号公報
【文献】特開2017-73972号公報
【文献】特開2018-182943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、発電機の回生電力を増加させるためには、発電機の発電電圧を高めることが必要であるが、発電機に接続される様々な電気機器を適切に機能させる観点から、発電機には所定の上限電圧が設定されている。すなわち、発電機の回生電力は上限電圧によって制限されることから、上限電圧を適切に設定することによって回生電力を高めることが求められている。
【0005】
本発明の目的は、発電機の回生電力を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両用制御装置は、車両に搭載される車両用制御装置であって、エンジンに連結される発電機と、前記発電機に接続される第1蓄電体と、を備える第1電源系を有する。前記車両用制御装置は、前記第1蓄電体と並列に前記発電機に接続される第2蓄電体と、前記第2蓄電体に接続される電気機器と、を備える第2電源系を有する。前記車両用制御装置は、前記第1蓄電体の端子電圧が所定の上限電圧を上回る場合、または前記第2蓄電体の端子電圧が所定の上限電圧を上回る場合に、前記発電機の発電電圧を下げる発電制御部を有する。前記第2蓄電体の上限電圧として、第1電圧と、前記第1電圧よりも高い第2電圧と、がある。前記発電制御部は、前記発電機が回生発電状態であるか否かを判定し、かつ前記電気機器が作動状態と停止状態との何れであるかを判定する。前記発電制御部は、前記発電機が回生発電状態であり、かつ前記電気機器が作動状態である場合に、前記第2蓄電体の上限電圧を前記第2電圧から前記第1電圧に切り替える。前記発電制御部は、前記発電機が回生発電状態であり、かつ前記電気機器が停止状態である場合に、前記第2蓄電体の上限電圧を前記第1電圧から前記第2電圧に切り替える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、発電制御部は、発電機が回生発電し、かつ電気機器が停止する場合に、第2蓄電体の上限電圧を第1電圧よりも高い第2電圧に設定する。これにより、発電機の発電電圧を高めることができ、発電機の回生電力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施の形態である車両用制御装置が搭載された車両の構成例を示す概略図である。
【
図2】電源回路の一例を簡単に示した回路図である。
【
図3】車両用制御装置が備える制御系の一例を示す図である。
【
図4】スタータジェネレータを燃焼発電状態に制御したときの電流供給状況の一例を示す図である。
【
図5】スタータジェネレータを発電停止状態に制御したときの電流供給状況の一例を示す図である。
【
図6】スタータジェネレータを回生発電状態に制御したときの電流供給状況の一例を示す図である。
【
図7】スタータジェネレータを力行状態に制御したときの電流供給状況の一例を示す図である。
【
図8】電圧制限制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。
【
図9】(A)はヘッドライト点灯中における端子電圧の使用許可領域の一例を示す図であり、(B)はヘッドライト消灯中における端子電圧の使用許可領域の一例を示す図である。
【
図10】電源回路における各部位の電圧の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
[車両構成]
図1は本発明の一実施の形態である車両用制御装置10が搭載された車両11の構成例を示す概略図である。
図1に示すように、車両11には、エンジン12およびトランスミッション13からなるパワートレイン14が搭載されている。エンジン12のクランク軸15には、ベルト機構16を介してスタータジェネレータ(発電機)17が連結されている。また、エンジン12にはトルクコンバータ18を介してトランスミッション13が連結されており、トランスミッション13にはデファレンシャル機構19等を介して車輪20が連結されている。つまり、スタータジェネレータ17と車輪20とは、トルクコンバータ18やトランスミッション13等からなる動力伝達経路21を介して互いに連結されている。
【0011】
スタータジェネレータ17は、発電機および電動機として機能する所謂ISG(Integrated Starter Generator)である。このスタータジェネレータ17は、クランク軸15に駆動される発電機として機能するだけでなく、クランク軸15を駆動する電動機として機能する。例えば、アイドリングストップ制御においてエンジン12を再始動させる場合や、発進時や加速時においてエンジン12を補助する場合に、スタータジェネレータ17は力行状態に制御され、スタータジェネレータ17は電動機として駆動される。スタータジェネレータ17は、ステータコイルを備えたステータ22と、フィールドコイルを備えたロータ23と、を有している。また、スタータジェネレータ17には、ステータコイルやフィールドコイルの通電状態を制御するため、インバータ、レギュレータ、マイコンおよび各種センサ等からなるISGコントローラ24が設けられている。ISGコントローラ24によってフィールドコイルやステータコイルの通電状態を制御することにより、スタータジェネレータ17の発電電圧、発電トルク、力行トルク等を制御することができる。
【0012】
[電源回路]
車両11に搭載される電源回路30について説明する。
図2は電源回路30の一例を簡単に示した回路図である。
図2に示すように、電源回路30は、スタータジェネレータ17に電気的に接続されるリチウムイオンバッテリ(第1蓄電体)31と、これと並列にスタータジェネレータ17に電気的に接続される鉛バッテリ(第2蓄電体)32と、を備えている。なお、リチウムイオンバッテリ31を積極的に放電させるため、リチウムイオンバッテリ31の端子電圧は、鉛バッテリ32の端子電圧よりも高く設計されている。また、リチウムイオンバッテリ31を積極的に充放電させるため、リチウムイオンバッテリ31の内部抵抗は、鉛バッテリ32の内部抵抗よりも小さく設計されている。
【0013】
スタータジェネレータ17の正極端子17aには正極ライン33が接続され、リチウムイオンバッテリ31の正極端子31aには正極ライン34が接続され、鉛バッテリ32の正極端子32aには正極ライン35を介して正極ライン36が接続される。これらの正極ライン33,34,36は、接続点37を介して互いに接続されている。また、スタータジェネレータ17の負極端子17bには負極ライン38が接続され、リチウムイオンバッテリ31の負極端子31bには負極ライン39が接続され、鉛バッテリ32の負極端子32bには負極ライン40が接続される。これらの負極ライン38,39,40は、基準電位点41を介して互いに接続されている。
【0014】
図1に示すように、鉛バッテリ32の正極ライン35には、正極ライン42が接続されている。この正極ライン42には、各種アクチュエータや各種コントローラ等の電気機器43からなる電気機器群44が接続されている。また、電気機器群44を構成する電気機器43の1つとして、前照灯つまり照明装置であるヘッドライト45が設けられている。このヘッドライト45には、バルブ46を点灯させる通電スイッチ47が設けられるとともに、通電スイッチ47を制御する照明コントローラ48が設けられている。さらに、鉛バッテリ32の負極ライン40には、バッテリセンサ49が設けられている。バッテリセンサ49は、鉛バッテリ32の充放電電流や端子電圧を検出する機能を有するとともに、充放電電流等から鉛バッテリ32の充電状態であるSOC(State of Charge)を検出する機能を有している。なお、バッテリセンサ49は、図示しない電位検出ラインを介して鉛バッテリ32の正極端子32aにも接続されている。
【0015】
電源回路30には、リチウムイオンバッテリ31およびスタータジェネレータ17からなる第1電源系51が設けられており、鉛バッテリ32および電気機器43からなる第2電源系52が設けられている。そして、第1電源系51と第2電源系52との間に設けられる正極ライン36を介して、リチウムイオンバッテリ31と鉛バッテリ32とは互いに並列接続されている。この正極ライン36には、過大電流によって溶断する電力ヒューズ53が設けられるとともに、オン状態とオフ状態とに制御される第1スイッチSW1が設けられている。また、リチウムイオンバッテリ31の正極ライン34には、オン状態とオフ状態とに制御される第2スイッチSW2が設けられている。
【0016】
スイッチSW1をオン状態に制御することにより、第1電源系51と第2電源系52とを互いに接続することができる一方、スイッチSW1をオフ状態に制御することにより、第1電源系51と第2電源系52とを互いに切り離すことができる。また、スイッチSW2をオン状態に制御することにより、スタータジェネレータ17とリチウムイオンバッテリ31とを互いに接続することができる一方、スイッチSW2をオフ状態に制御することにより、スタータジェネレータ17とリチウムイオンバッテリ31とを互いに切り離すことができる。これらのスイッチSW1,SW2は、MOSFET等の半導体素子によって構成されるスイッチであっても良く、電磁力等を用いて接点を機械的に開閉させるスイッチであっても良い。なお、スイッチSW1,SW2は、リレーやコンタクタ等とも呼ばれている。
【0017】
図1に示すように、電源回路30には、バッテリモジュール54が設けられている。このバッテリモジュール54は、リチウムイオンバッテリ31を有するとともに、スイッチSW1,SW2を有している。また、バッテリモジュール54は、マイコンや各種センサ等からなるバッテリコントローラ55を有している。さらに、バッテリモジュール54には、リチウムイオンバッテリ31の充放電電流、端子電圧および温度等を検出するバッテリセンサ56が設けられている。また、バッテリコントローラ55は、バッテリセンサ56から送信される充放電電流等に基づいて、リチウムイオンバッテリ31の充電状態であるSOC(State of Charge)を算出する機能を有している。
【0018】
[制御系]
図3は車両用制御装置10が備える制御系の一例を示す図である。
図1および
図3に示すように、車両用制御装置10は、マイコン等からなるメインコントローラ60を有している。メインコントローラ60には、ISGコントローラ24に制御信号を出力してスタータジェネレータ17を制御するISG制御部(発電制御部)61が設けられており、バッテリコントローラ55に制御信号を出力してスイッチSW1,SW2を制御するスイッチ制御部62が設けられている。また、メインコントローラ60には、エンジンコントローラ63に制御信号を出力してエンジン12を制御するエンジン制御部64が設けられている。メインコントローラ60や前述した各コントローラ24,48,55,63は、CANやLIN等の車載ネットワーク65を介して互いに通信自在に接続されている。
【0019】
メインコントローラ60に接続されるセンサとして、アクセルペダルの操作状況を検出するアクセルセンサ70、ブレーキペダルの操作状況を検出するブレーキセンサ71、および車両11の走行速度を検出する車速センサ72等がある。また、照明コントローラ48に接続されるセンサ類として、ヘッドライト45の点灯モードを選択する際に乗員によって操作されるライトスイッチ73があり、周囲の明るさを検出する受光センサ74がある。なお、ヘッドライト45の点灯モードとしては、ヘッドライト45を消灯させるOFFモード、ヘッドライト45を点灯させるONモード、受光センサ74の検出信号に基づいてヘッドライト45を自動点灯させるAUTOモード等がある。つまり、ライトスイッチ73によってONモードが選択された場合や、AUTOモードが選択された状況のもとで周囲が暗くなった場合には、照明コントローラ48によってヘッドライト45が点灯される。
【0020】
また、メインコントローラ60には、エンジンコントローラ63からエンジン12の運転状況が入力され、ISGコントローラ24からスタータジェネレータ17の作動状況が入力され、バッテリコントローラ55からリチウムイオンバッテリ31のSOCやスイッチSW1,SW2の作動状況が入力される。さらに、メインコントローラ60には、照明コントローラ48からヘッドライト45の点灯状況が入力され、バッテリセンサ49から鉛バッテリ32の端子電圧VPbが入力され、バッテリコントローラ55からリチウムイオンバッテリ31の端子電圧VLiが入力される。
【0021】
[スタータジェネレータ発電制御]
スタータジェネレータ17の発電制御について説明する。メインコントローラ60のISG制御部61は、ISGコントローラ24に制御信号を出力し、スタータジェネレータ17を発電状態に制御する。例えば、ISG制御部61は、リチウムイオンバッテリ31のSOCが低下すると、スタータジェネレータ17の発電電圧を上げて燃焼発電状態に制御する一方、リチウムイオンバッテリ31のSOCが上昇すると、スタータジェネレータ17の発電電圧を下げて発電停止状態に制御する。
【0022】
図4はスタータジェネレータ17を燃焼発電状態に制御したときの電流供給状況の一例を示す図である。なお、スタータジェネレータ17の燃焼発電状態とは、エンジン動力によってスタータジェネレータ17を発電させる状態、つまりエンジン12内で燃料を燃焼させてスタータジェネレータ17を発電させる状態である。例えば、リチウムイオンバッテリ31のSOCが所定値を下回る場合には、リチウムイオンバッテリ31を充電するため、エンジン動力によってスタータジェネレータ17を発電させる。このように、スタータジェネレータ17を燃焼発電状態に制御する際には、スタータジェネレータ17の発電電圧が、鉛バッテリ32およびリチウムイオンバッテリ31の端子電圧よりも上げられる。これにより、
図4に黒塗りの矢印で示すように、スタータジェネレータ17から、リチウムイオンバッテリ31、電気機器群44および鉛バッテリ32等に対して電流が供給され、リチウムイオンバッテリ31や鉛バッテリ32が緩やかに充電される。
【0023】
図5はスタータジェネレータ17を発電停止状態に制御したときの電流供給状況の一例を示す図である。例えば、リチウムイオンバッテリ31のSOCが所定値を上回る場合には、リチウムイオンバッテリ31を積極的に放電させるため、エンジン動力を用いたスタータジェネレータ17の発電が休止される。このように、スタータジェネレータ17を発電停止状態に制御する際には、スタータジェネレータ17の発電電圧が、鉛バッテリ32およびリチウムイオンバッテリ31の端子電圧よりも下げられる。これにより、
図5に黒塗りの矢印で示すように、リチウムイオンバッテリ31から電気機器群44に電流が供給されるため、スタータジェネレータ17の発電を停止させることができ、エンジン12負荷を軽減することができる。なお、発電停止状態におけるスタータジェネレータ17の発電電圧としては、リチウムイオンバッテリ31を放電させる発電電圧であれば良い。例えば、スタータジェネレータ17の発電電圧を0Vに制御しても良く、スタータジェネレータ17の発電電圧を0Vよりも高く制御しても良い。
【0024】
前述したように、メインコントローラ60は、SOCに基づきスタータジェネレータ17を燃焼発電状態や発電停止状態に制御しているが、車両減速時には多くの運動エネルギーを回収して燃費性能を高めることが求められる。そこで、減速走行時には、スタータジェネレータ17の発電電圧が引き上げられ、スタータジェネレータ17は回生発電状態に制御される。これにより、スタータジェネレータ17の発電電力を増加させることができるため、運動エネルギーを積極的に電気エネルギーに変換して回収することができ、車両11のエネルギー効率を高めて燃費性能を向上させることができる。なお、スタータジェネレータ17は、ブレーキペダルが踏み込まれる減速走行時に回生発電状態に制御されるだけでなく、アクセルペダルの踏み込みが解除される減速走行時つまりコースト走行時にも回生発電状態に制御される。
【0025】
ここで、
図6はスタータジェネレータ17を回生発電状態に制御したときの電流供給状況の一例を示す図である。スタータジェネレータ17を回生発電状態に制御する際には、前述した燃焼発電状態よりもスタータジェネレータ17の発電電圧が上げられる。これにより、
図6に黒塗りの矢印で示すように、スタータジェネレータ17から、リチウムイオンバッテリ31や鉛バッテリ32に対して大きな電流が供給されるため、リチウムイオンバッテリ31や鉛バッテリ32は急速に充電される。また、リチウムイオンバッテリ31の内部抵抗は、鉛バッテリ32の内部抵抗よりも小さいことから、発電電流の大部分はリチウムイオンバッテリ31に供給される。
【0026】
なお、
図4~
図6に示すように、スタータジェネレータ17を燃焼発電状態、回生発電状態および発電停止状態に制御する際に、スイッチSW1,SW2はオン状態に保持されている。つまり、車両用制御装置10においては、スイッチSW1,SW2の切替制御を行うことなく、スタータジェネレータ17の発電電圧を制御するだけで、リチウムイオンバッテリ31の充放電を制御することが可能である。これにより、簡単にリチウムイオンバッテリ31の充放電を制御することができるだけでなく、スイッチSW1,SW2の耐久性を向上させることができる。
【0027】
[スタータジェネレータ力行制御]
スタータジェネレータ17の力行制御について説明する。メインコントローラ60のISG制御部61は、例えば、アイドリングストップ制御においてエンジン12を再始動させる場合に、スタータジェネレータ17を力行状態に制御する。ここで、
図7はスタータジェネレータ17を力行状態に制御したときの電流供給状況の一例を示す図である。
図7に示すように、アイドリングストップ制御におけるエンジン再始動時に、スタータジェネレータ17を力行状態に制御する際には、スイッチSW1がオン状態からオフ状態に切り替えられる。これにより、リチウムイオンバッテリ31からスタータジェネレータ17に大電流が供給される場合であっても、電気機器群44に対する瞬間的な電圧低下を防止することができ、電気機器群44等を正常に機能させることができる。
【0028】
なお、
図7に示した例では、スタータジェネレータ17を力行状態に制御する際に、スイッチSW1をオフ状態に切り替えているが、これに限られることはなく、スイッチSW1をオン状態に保持したままスタータジェネレータ17を力行状態に制御しても良い。例えば、発進時や加速時にエンジン12を補助するモータアシスト制御においては、前述したエンジン再始動時に比べてスタータジェネレータ17の消費電力が小さいため、スタータジェネレータ17の力行時にはスイッチSW1がオン状態に保持される。このように、消費電力の小さなモータアシスト制御においては、スイッチSW1をオン状態に保持したとしても、鉛バッテリ32からスタータジェネレータ17に大電流が流れることはなく、電気機器群44の電源電圧を安定させることができる。
【0029】
[電圧制限制御]
続いて、回生発電時にスタータジェネレータ17の発電電圧を制限する電圧制限制御について説明する。
図8は電圧制限制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。また、
図9(A)はヘッドライト点灯中における端子電圧VLi,VPbの使用許可領域の一例を示す図であり、
図9(B)はヘッドライト消灯中における端子電圧VLi,VPbの使用許可領域の一例を示す図である。なお、
図8および
図9に示すように、鉛バッテリ32の上限電圧として2つの上限電圧Pbm1,Pbm2が設定されており、リチウムイオンバッテリ31の上限電圧として1つの上限電圧Limが設定されている。後述するように、鉛バッテリ32の上限電圧Pbm1はヘッドライト45を適切に制御する観点から設定されており、鉛バッテリ32の上限電圧Pbm2は鉛バッテリ32を保護する観点から設定されており、リチウムイオンバッテリ31の上限電圧Limはリチウムイオンバッテリ31を保護する観点から設定されている。なお、鉛バッテリ32の上限電圧Pbm1は、リチウムイオンバッテリ31の上限電圧Limよりも低く設定されている。
【0030】
前述したように、アクセルペダルの踏み込みが解除される減速走行時や、ブレーキペダルが踏み込まれる減速走行時には、スタータジェネレータ17が回生発電状態に制御される。つまり、エンジン12が燃料カット状態に制御される減速走行時には、スタータジェネレータ17の発電電圧が引き上げられ、スタータジェネレータ17が回生発電状態に制御される。ここで、スタータジェネレータ17の回生電力を増加させるためには、スタータジェネレータ17の発電電圧を高めることが重要である。しかしながら、スタータジェネレータ17の発電電圧は、正極ライン33~36,42を介してリチウムイオンバッテリ31、鉛バッテリ32および電気機器43に印加されるため、リチウムイオンバッテリ31等を保護する観点から、後述する電圧制限制御によってスタータジェネレータ17の発電電圧は制限されている。
【0031】
以下、メインコントローラ60のISG制御部61によって実行される電圧制限制御について説明する。
図8に示すように、ステップS10では、スタータジェネレータ17が回生発電状態であるか否かが判定される。ステップS10において、スタータジェネレータ17が回生発電状態であると判定された場合には、ステップS11に進み、ヘッドライト45が点灯中であるか否かが判定される。
【0032】
ステップS11において、ヘッドライト45が点灯中であると判定された場合には、ステップS12に進み、鉛バッテリ32の端子電圧VPbが上限電圧(第1電圧)Pbm1を下回るか否かが判定される。ステップS12において、端子電圧VPbが上限電圧Pbm1(例えば14.3V)を下回ると判定された場合には、ステップS13に進み、スタータジェネレータ17の発電電圧が上げられる。ステップS13においては、リチウムイオンバッテリ31の端子電圧VLiが上限電圧Lim(例えば15.0V)を下回り、かつ鉛バッテリ32の端子電圧VPbが上限電圧Pbm1を下回る状況を維持しつつ、スタータジェネレータ17の発電電圧が上げられる。一方、ステップS10において、スタータジェネレータ17が回生発電状態ではないと判定された場合や、ステップS12において、鉛バッテリ32の端子電圧VPbが上限電圧Pbm1以上であると判定された場合には、ステップS14に進み、リチウムイオンバッテリ31の端子電圧VLiが上限電圧Limを下回り、かつ鉛バッテリ32の端子電圧VPbが上限電圧Pbm1を下回るように、スタータジェネレータ17の発電電圧が下げられる。
【0033】
また、ステップS11において、ヘッドライト45が消灯中であると判定された場合には、ステップS15に進み、鉛バッテリ32の端子電圧VPbが上限電圧(第2電圧)Pbm2を下回るか否かが判定される。ステップS12において、端子電圧VPbが上限電圧Pbm2(例えば15.0V)を下回ると判定された場合には、ステップS16に進み、スタータジェネレータ17の発電電圧が上げられる。ステップS16においては、リチウムイオンバッテリ31の端子電圧VLiが上限電圧Limを下回り、かつ鉛バッテリ32の端子電圧VPbが上限電圧Pbm2を下回る状況を維持しつつ、スタータジェネレータ17の発電電圧が上げられる。一方、ステップS15において、鉛バッテリ32の端子電圧VPbが上限電圧Pbm2以上であると判定された場合には、ステップS17に進み、リチウムイオンバッテリ31の端子電圧VLiが上限電圧Limを下回り、かつ鉛バッテリ32の端子電圧VPbが上限電圧Pbm2を下回るように、スタータジェネレータ17の発電電圧が下げられる。
【0034】
前述した
図8のステップS13,S14に示すように、ヘッドライト45が点灯している場合つまり電気機器43が作動している場合には、鉛バッテリ32の端子電圧VPbが上限電圧Pbm1(例えば14.3V)を超えないように、スタータジェネレータ17の発電電圧が制御される。つまり、
図9(A)に示すように、ヘッドライト45が点灯している場合には、鉛バッテリ32の端子電圧VPbが上限電圧Pbm1を超えないように、スタータジェネレータ17の発電電圧が制御される。これにより、スタータジェネレータ17が回生発電状態に制御される場合であっても、点灯中のヘッドライト45に対して過度な電圧が印加されることがなく、ヘッドライト45の照度を適切に制御することができる。また、ヘッドライト45に対して過度な電圧が印加されることがなく、ヘッドライト45をフィラメント切れ等から保護することができる。さらに、リチウムイオンバッテリ31の端子電圧VLiが上限電圧Limを超えないように、スタータジェネレータ17の発電電圧が制御されるため、リチウムイオンバッテリ31を過度な発電電圧から保護することができる。
【0035】
一方、
図8のステップS16,S17に示すように、ヘッドライト45が消灯している場合つまり電気機器43が停止している場合には、鉛バッテリ32の端子電圧VPbが上限電圧Pbm2(例えば15.0V)を超えないように、スタータジェネレータ17の発電電圧が制御される。つまり、
図9(B)に示すように、ヘッドライト45が消灯している場合には、鉛バッテリ32の端子電圧VPbが上限電圧Pbm2を超えないように、スタータジェネレータ17の発電電圧が制御される。これにより、鉛バッテリ32を過度な発電電圧から保護しつつ、スタータジェネレータ17の発電電圧を高めることができるため、スタータジェネレータ17の回生電力を増加させることができる。また、リチウムイオンバッテリ31の端子電圧VLiが上限電圧Limを超えないように、スタータジェネレータ17の発電電圧が制御されるため、リチウムイオンバッテリ31を過度な発電電圧から保護することができる。
【0036】
これまで説明したように、スタータジェネレータ17の発電電圧を制御するISG制御部61は、リチウムイオンバッテリ31の端子電圧VLiが所定の上限電圧Limを上回る場合、または鉛バッテリ32の端子電圧VPbが所定の上限電圧Pbm1,Pbm2を上回る場合に、スタータジェネレータ17の発電電圧を下げる。また、スタータジェネレータ17が回生発電し、かつ電気機器43であるヘッドライト45が点灯される場合に、鉛バッテリ32の上限電圧を上限電圧Pbm1に設定する。一方、スタータジェネレータ17が回生発電し、かつ電気機器43であるヘッドライト45が消灯される場合に、鉛バッテリ32の上限電圧を上限電圧Pbm1よりも高い上限電圧Pbm2に設定する。これにより、ヘッドライト点灯時にはヘッドライト45の照度を適切に制御することができ、ヘッドライト消灯時にはスタータジェネレータ17の回生電力を増加させることができる。
【0037】
[回生発電状態における電圧降下状況]
図10は電源回路30における各部位の電圧の一例を示す図である。
図10の配線距離を示す横軸には、スタータジェネレータ17の正極端子17aの位置が符号P1で示され、接続点37の位置が符号P2で示され、リチウムイオンバッテリ31の正極端子31aの位置が符号P3で示され、鉛バッテリ32の正極端子32aの位置が符号P4で示されている。また、
図10には、スタータジェネレータ17の正極端子17aから接続点37に至るまで配線経路における電圧降下、つまり正極ライン33における電圧降下が線L1a,L1bで示されており、接続点37からリチウムイオンバッテリ31の正極端子31aに至るまでの配線経路における電圧降下、つまり正極ライン34における電圧降下が線L2a,L2bで示されている。また、接続点37から鉛バッテリ32の正極端子32aに至るまでの配線経路における電圧降下、つまり正極ライン35,36における電圧降下が線L3a,L3bで示されている。なお、破線で示した線L1a,L2a,L3aは、ヘッドライト点灯中の回生発電時における各部位の電圧を示しており、実線で示した線L1b,L2b,L3bは、ヘッドライト消灯中の回生発電時における各部位の電圧を示している。
【0038】
前述したように、ヘッドライト45が点灯している場合には、鉛バッテリ32の上限電圧が上限電圧Pbm1に設定される。これにより、
図10に符号a1で示すように、ヘッドライト点灯時には、鉛バッテリ32の端子電圧が上限電圧Pbm1に抑えられ、鉛バッテリ32が電源であるヘッドライト45の印加電圧がほぼ上限電圧Pbm1に抑えられる。これにより、ヘッドライト45に印加される電圧が過度に上昇することがなく、ヘッドライト45の照度を適切に制御することができ、ヘッドライト45を過度な印加電圧から保護することができる。なお、
図10に符号a2で示すように、ヘッドライト点灯時には、スタータジェネレータ17の発電電圧は「Visg1」まで上昇している。
【0039】
一方、ヘッドライト45が消灯している場合には、鉛バッテリ32の上限電圧が上限電圧Pbm1よりも高い上限電圧Pbm2に設定される。これにより、
図10に符号b1で示すように、ヘッドライト消灯時には、上限電圧Pbm1を超えて鉛バッテリ32の端子電圧を上昇させることができる。つまり、図示する例では、符号b2で示すように、リチウムイオンバッテリ31の端子電圧が上限電圧Limに達するまで、スタータジェネレータ17の発電電圧を高めることができる。つまり、
図10に符号b3で示すように、ヘッドライト消灯時には、スタータジェネレータ17の発電電圧を「Visg1」よりも高い「Visg2」まで上昇させることができる。これにより、スタータジェネレータ17の発電電圧を高めることができるため、スタータジェネレータ17の回生電力を増加させることができ、車両11のエネルギー効率を高めることができる。
【0040】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。前述の説明では、電気機器43としてヘッドライト45を設けているが、このヘッドライト45としては、例えば、ハロゲンバルブを備えたヘッドライトであっても良く、LEDバルブを備えたヘッドライトであっても良く、HIDバルブを備えたヘッドライトであっても良い。また、前述の説明では、電気機器43の1つであるヘッドライト45を適切に制御する観点から、鉛バッテリ32の上限電圧Pbm1を設定しているが、電気機器43としてはヘッドライト45に限られることはない。例えば、ヘッドライト45以外の電気機器43を適切に制御する観点や、ヘッドライト45以外の電気機器43を保護する観点から、鉛バッテリ32の上限電圧Pbm1を設定しても良い。また、前述の説明では、上限電圧Limとして「15.0V」を例示し、上限電圧Pbm1として「14.3V」を例示し、上限電圧Pbm2として「15.0V」を例示しているが、これらの数値に限られることはない。なお、上限電圧Limと上限電圧Pbm2とを互いに異なる電圧値に設定しても良い。
【0041】
前述の説明では、メインコントローラ60のISG制御部61を発電制御部として機能させているが、これに限られることはなく、ISGコントローラ24等の他のコントローラを発電制御部として機能させても良い。また、前述の説明では、第1蓄電体としてリチウムイオンバッテリ31を用い、第2蓄電体として鉛バッテリ32を用いているが、これに限られることはなく、第1蓄電体や第2蓄電体として、他のバッテリやキャパシタを用いても良い。また、前述の説明では、発電機としてISGであるスタータジェネレータ17を用いているが、これに限られることはなく、発電機としてオルタネータを用いても良く、発電機としてモータジェネレータを用いても良い。また、図示する例では、リチウムイオンバッテリ31の正極ライン34にスイッチSW2を設けているが、これに限られることはない。例えば、
図2に一点鎖線で示すように、リチウムイオンバッテリ31の負極ライン39にスイッチSW2を設けても良い。
【符号の説明】
【0042】
10 車両用制御装置
11 車両
12 エンジン
17 スタータジェネレータ(発電機)
31 リチウムイオンバッテリ(第1蓄電体)
32 鉛バッテリ(第2蓄電体)
43 電気機器
45 ヘッドライト(電気機器)
51 第1電源系
52 第2電源系
61 ISG制御部(発電制御部)
VLi 端子電圧(第1蓄電体の端子電圧)
VPb 端子電圧(第2蓄電体の端子電圧)
Lim 上限電圧
Pbm1 上限電圧(第1電圧)
Pbm2 上限電圧(第2電圧)