(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】生分解性紙容器
(51)【国際特許分類】
B65D 1/00 20060101AFI20241113BHJP
B65D 1/34 20060101ALI20241113BHJP
B65D 65/46 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
B65D1/00 111
B65D1/34 BRQ
B65D65/46 BSG
(21)【出願番号】P 2020151886
(22)【出願日】2020-09-10
【審査請求日】2023-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2019164584
(32)【優先日】2019-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000222141
【氏名又は名称】東洋アルミエコープロダクツ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591012392
【氏名又は名称】日本マタイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】左近 貴浩
(72)【発明者】
【氏名】野口 雅史
(72)【発明者】
【氏名】山本 勲
(72)【発明者】
【氏名】吉益 信彦
(72)【発明者】
【氏名】近澤 将弥
(72)【発明者】
【氏名】泊里 昌治
【審査官】佐藤 正宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-188812(JP,A)
【文献】特開2018-021148(JP,A)
【文献】特開2017-030755(JP,A)
【文献】特表2002-519222(JP,A)
【文献】特開2019-108158(JP,A)
【文献】特開2009-149351(JP,A)
【文献】特開2004-115054(JP,A)
【文献】特開2006-225043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 1/00
B65D 1/34
B65D 65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材及びその紙基材の片面又は両面にポリ乳酸樹脂含有層を含む積層体が成形されてなる容器であって、
(1)紙基材の目付量が150~500g/m
2であり、
(2)ポリ乳酸樹脂含有層の厚みが10~55μmであり、
(3)前記ポリ乳酸樹脂含有層に含まれるポリ乳酸樹脂の生分解度が30~70%であ
り、
(4)前記ポリ乳酸樹脂含有層におけるポリ乳酸樹脂の含有量が98~100質量%である、
ことを特徴とする生分解性紙容器。
【請求項2】
前記ポリ乳酸樹脂は、D-乳酸が1~10重量%及び残部がL-乳酸である共重合組成である、請求項1に記載の生分解性紙容器。
【請求項3】
電子レンジによる加熱に供される、請求項1又は2に記載の生分解性紙容器。
【請求項4】
前記ポリ乳酸樹脂含有層は、少なくとも容器内面に積層されている、請求項1~3のいずれかに記載の生分解性紙容器。
【請求項5】
容器が、a)底面部、b)その底面部の周縁と接続して上方に立ち上がる側壁部、c)前記側壁部の上端と接続されて略水平方向に伸びるフランジ部及びd)前記フランジ部の外周端に接続された縁巻部から構成されていることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の生分解性紙容器。
【請求項6】
生分解性紙容器を製造する方法であって、
(1)目付量が150~500g/m
2の紙基材の少なくとも一方の面にTダイ押出機で生分解度が30~70%であるポリ乳酸樹脂を
98~100質量%含有する組成物を厚さが10~55μmとなるように積層することにより積層体を得る工程、及び
(2)前記積層体をプレス成形により凹部を有する容器形状に成形する工程
を含むことを特徴とする生分解性紙容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な生分解性紙容器に関する。特に、電子レンジ等で加熱調理される使い捨て容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の低減化を図るため、土壌分解できる生分解性プラスチックを主原料とした各種の使い捨て容器の流通が促進されている。公知の生分解性プラスチックを使用する利点として、自然界の自浄作用により水と二酸化炭素に分解され、すべて消滅し、地中に残存しないことが挙げられる。この点において、廃棄物処理の面から極めて好ましいことに加え、仮に焼却処分に供された場合においても、ポリエチレン等の合成樹脂に比べて燃焼カロリーが約1/2以下と低く、廃棄コストの低減が図れることも挙げられる。
【0003】
使い捨て紙容器の代表例としては、紙を基材とし、その少なくとも一方の面にプラスチック素材を積層した「プラスチック層/紙」の積層体を原紙とした飲料用紙コップ、熱湯で加熱調理する即席麺用紙カップ等が広く知られている。これらの原紙のプラスチック層に用いられているプラスチック素材の大半は非生分解性プラスチックである。これら非生分解性プラスチックが、生分解性プラスチックに置きかえられない理由として、コスト面、生産性のみならず、耐熱性が不十分である点が挙げられる。このため、耐熱性を向上させた生分解性材料を用いた容器が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、樹脂製シートを内面に備えた紙基材からなる底部と胴部を備えた紙容器において、前記樹脂製シートが一軸ないし二軸方向に延伸した熱接着性を有する生分解性プラスチックからなることを特徴とする紙容器が開示されている。
【0005】
また特許文献2には、非木材繊維(葦、ケナフ、さとうきび、とうもろこし)を原料とした成型食品容器の内面に植物系を主原料とした生分解可能なフィルムを接着したもので構成される生分解性容器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-26143号公報
【文献】特開2008-18703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本願発明者らの研究によれば、例えば特許文献1のような紙容器では、グラタン等に用いられる市販のホワイトソースを入れて電子レンジで加熱したところ、耐熱性が劣るために生分解性樹脂層が紙基材から剥がれたり、生分解性樹脂層に大きな気泡が生じてしまい、加熱調理には耐え難いことが確認されている。
【0008】
また、紙コップのような底面と側面とが分かれた積層体を貼り合わせた構造であれば生分解性樹脂層と紙基材との層間剥離等の問題は生じにくいが、1枚の積層体をプレス成形等の加工により一体的に容器形状に加工する場合、成形時に積層体が引っ張られたり、絞り込まれたりすることで強い力がかけられるので、生分解性樹脂層と紙基材との接着性等に起因して生分解性樹脂が紙基材から剥がれたり、ピンホール又は破れが発生するおそれがある。
【0009】
従って、本発明の主な目的は、紙基材と生分解性樹脂層との接着性、成形性に優れるとともに高い耐熱性も兼ね備えた生分解性紙容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の層構成をもつ容器が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の生分解性紙容器に係る。
1. 紙基材及びその紙基材の片面又は両面にポリ乳酸樹脂含有層を含む積層体が成形されてなる容器であって、
(1)紙基材の目付量が150~500g/m2であり、
(2)ポリ乳酸樹脂含有層の厚みが10~55μmである、
ことを特徴とする生分解性紙容器。
2. 前記ポリ乳酸樹脂含有層に含まれるポリ乳酸樹脂の生分解度が30~70%である、前記項1に記載の生分解性紙容器。
3. 前記ポリ乳酸樹脂含有層におけるポリ乳酸樹脂の含有量が80~100重量%である、前記項1又は2に記載の生分解性紙容器。
4. 前記ポリ乳酸樹脂含有層は、少なくとも容器内面に積層されている、前記項1~3のいずれかに記載の生分解性紙容器。
5. 容器が、a)底面部、b)その底面部の周縁と接続して上方に立ち上がる側壁部、c)前記側壁部の上端と接続されて略水平方向に伸びるフランジ部及びd)前記フランジ部の外周端に接続された縁巻部から構成されていることを特徴とする、前記項1~4のいずれかに記載の生分解性紙容器。
6. 生分解性紙容器を製造する方法であって、
(1)目付量が150~500g/m2の紙基材の少なくとも一方の面にTダイ押出機でポリ乳酸樹脂含有組成物を厚さが10~55μmとなるように積層することにより積層体を得る工程、及び
(2)前記積層体をプレス成形により凹部を有する容器形状に成形する工程
を含むことを特徴とする生分解性紙容器の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、紙基材と生分解性樹脂層との接着性及び成形性に優れるとともに高い耐熱性も兼ね備えた生分解性紙容器を提供することができる。
【0013】
特に、特定の目付量の紙基材と特定のポリ乳酸樹脂含有層との組み合わせにより、電子レンジ等で容器ごと加熱されても、容器自体(特にポリ乳酸樹脂含有層)の変質又は劣化が生じにくいため、内容物の種類(加熱タイプ・非加熱タイプ)を選ばない。
【0014】
また、紙基材とポリ乳酸樹脂含有層との接着性にも優れるため、加熱時に層間剥離等の障害が生じにくい。さらに、成形時に生じ得るピンホール等の発生を未然に回避することができるので、一体成形タイプの容器として高い信頼性を確保することができる。
【0015】
本発明の製造方法によれば、溶融したポリ乳酸樹脂含有組成物を特定の紙基材上に溶融押し出しして積層体を製造した後、その積層体を成形することから、特に上記のように紙基材と生分解性樹脂層との接着性が良好な容器を効率的に製造することができる。
【0016】
このような特徴をもつ本発明の容器は、各種の製品を収容する容器として用いることができ、特に容器及び内容物ともに加熱(特に電子レンジによる加熱)に供される容器として好適に用いることができる。より具体的には、コンビニエンスストア、スーパーマーケット等の調理商品(弁当、惣菜類、グラタン、カレーライス、パスタ、どんぶり類、ラーメン、うどん、スープ、シチュー、コーヒー、ジュース等の飲食料等)等に用いられる食器として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の容器を製造するために用いられる積層体の層構成を示す。
【
図2】本発明の実施形態に係る容器の断面構成を示す。
【
図3】本発明の実施形態に係る容器の断面構成を示す。
【
図5】実施例で作製した紙容器のイメージ図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.生分解性紙容器
本発明の生分解性紙容器(本発明容器)は、紙基材及びその紙基材の片面又は両面にポリ乳酸樹脂含有層を含む積層体が成形されてなる容器であって、
(1)紙基材の目付量が150~500g/m2であり、
(2)ポリ乳酸樹脂含有層の厚みが10~50μmである、
ことを特徴とする。
【0019】
本発明容器を構成する積層体は、紙基材及びその紙基材の片面又は両面にポリ乳酸樹脂含有層を含む積層体である。例えば、
図1には積層体の一例を示す。
図1Aの積層体10は、紙基材11の片面にポリ乳酸樹脂含有層12が積層されている。
図1Bの積層体10’は、紙基材11の両面にポリ乳酸樹脂含有層12,12’が積層されている。積層体10又は10’においては、本発明の効果を妨げない範囲内において、紙基材とポリ乳酸樹脂含有層との層間に他の層(例えば接着剤層、シーラント層、印刷層等)が適宜形成されていても良い。さらに、本発明の効果を妨げない範囲内において、ポリ乳酸樹脂含有層が紙基材と接していない面の他方の面に、必要に応じて他の層が配置されていても良い。同様に、本発明の効果を妨げない範囲内において、紙基材がポリ乳酸樹脂含有層と接していない面の他方の面に、必要に応じて他の層が配置されていても良い。
【0020】
上記の積層体の合計厚みは、特に限定されず、使用形態、用途、内容物の種類等に応じて適宜設定でき、例えば160~700μm程度の範囲内とすることができるが、これに限定されない。
【0021】
また、本発明容器では、前記積層体を成型する場合、ポリ乳酸樹脂含有層は容器内面に配置されるように成形することが好ましい。本発明容器の一例の断面図を
図2に示す。
図2では、前記の積層体10を凹状(カップ状)に成形したものであり、ポリ乳酸樹脂含有層12が容器内面(内層)に配置され、紙基材11は外側に配置されている。すなわち、容器に充填された内容物がポリ乳酸樹脂含有層12に直に接触するように配置されている。この場合、内容物がポリ乳酸樹脂含有層に接触しても、ポリ乳酸樹脂含有層により内容物が紙基材に触れないようになっているので、少なくとも使用中は容器の形状を効果的に保持することができる。
【0022】
本発明容器の別の実施形態を
図3に示す。
図3の容器20は、a)底面部B、b)その底面部の周縁と接続して上方に立ち上がる側壁部S及びc)前記側壁部の上端と接続されて略水平方向に伸びるフランジ部Fから構成されている。本発明では、このように凹部(カップ)を構成する周壁の全周に水平方向かつ外向きに張り出すフランジ部を備えた容器であることが好ましい。こうした構造であることで、容器としての強度が高くなるだけでなく、加熱調理後に内容物が熱くなっても容易にフランジ部を手指でつかむことができ、紙容器を持ち運ぶことができる。
【0023】
図3の容器のフランジ部Fは、さらに加工して縁巻部を形成することができる。
図4にはフランジ部Fの拡大図を示す。
図4Aでは、略水平方向に伸びるフランジ部Fが形成されている。これに対し、
図4Bに示すように、フランジ部の端縁部を加工することで縁巻部Rが形成されている。すなわち、本発明は、a)底面部、b)その底面部の周縁と接続して上方に立ち上がる側壁部、c)前記側壁部の上端と接続されて略水平方向に伸びるフランジ部及びd)前記フランジ部の外周端に接続された縁巻部から構成されている容器も包含する。このように、縁巻部を設けることにより、容器の強度等をより高めることができる。
【0024】
本発明容器は、前記a)~c)又は前記a)~d)が一体的な構造を有することが好ましい。例えば、前記a)~c)又は前記a)~d)が別々の部材で構成されておらず、継ぎ目のない構造であることが好ましい。このような構造は、前記の積層体をプレス成形法等に従って容器形状に一体的に成形することによって作製することができる。
【0025】
本発明容器は、内容物を収容できる形状であれば特に限定されず、特に食品(調理された食品)を収容できるように凹状に成型された容器であることが好ましい。従って、例えば、トレー、皿、お椀、紙コップ等として使用することができる。以下、本発明容器の構成部材(紙基材、ポリ乳酸樹脂含有層等)について説明する。
【0026】
(1)紙基材
紙基材は、ポリ乳酸樹脂含有層を支持する基材となると同時に、容器としての剛性を担保する役割を有する。
【0027】
紙基材は、その目付量が150~500g/m2のものを用いる。目付量が150g/m2未満であると、食材を充填した際、剛性が劣るがゆえに喫食容器としての強度が不十分であり、目付量が500g/m2を超えると、成形性が著しく低下し、高コストとなるだけでなく、喫食容器等としてはオーバースペックとなる。
【0028】
紙基材は、上記のような目付量を有する限りは特に制限されず、公知又は市販の紙容器で採用されている各種の紙基材を採用することができる。例えば、所望の用途に応じて、純白ロール紙、クラフト紙、パーチメント紙、アイボリー紙、マニラ紙、カード紙、カップ紙等を用いることができる。また、紙として、再生紙を用いることもできる。
【0029】
紙基材の厚みは、上記の目付量を満たす限り、制限されない。例えば、150~600μm程度の厚みとすることができるが、これに限定されない。
【0030】
(2)ポリ乳酸樹脂含有層
ポリ乳酸樹脂含有層は、主として、内容物の紙基材への浸透を防止又は抑制する機能を果たし、ひいては容器の保形性に寄与するものである。
【0031】
ポリ乳酸樹脂含有層中のポリ乳酸樹脂の含有量は、特に限定されないが、通常は80~100質量%であり、特に90~98質量%であることが好ましい。従って、例えば98~100質量%とすることもできる。
【0032】
本発明において、ポリ乳酸樹脂含有層中の主成分としてポリ乳酸樹脂を採用する理由の一つは、その特異な生分解機構にある。その生分解機構は、加水分解(より詳しくは温度60℃以上、湿度80%以上、pH8以上の環境因子)により分子量が10000程度まで分解が進行した後、微生物により分解が加速され、最終的に二酸化炭素と水にまで分解されると考えられる。このことは、ポリ乳酸樹脂は、高温・高湿条件下に一定期間曝されない限り、非生分解性プラスチックと同様に安定していることを示している。従って、例えば食品容器として用いる場合は、最終消費者が喫食に至る一般流通過程において供用期間又は製品寿命を可能な限り長く保持しつつ、かつ、廃棄の段階ではなるべく速やかに環境負荷の少ない廃棄特性を得ることができる。この点において、本発明の容器は、例えばワンウェイ(使い捨て)の喫食容器等として好適に用いることができる。
【0033】
ポリ乳酸樹脂は、乳酸(L-乳酸(L体)及びD-乳酸(D体)の少なくとも1種)がエステル結合によって重合してなるホモポリマー又はコポリマーのほか、乳酸と他の共重合成分(例えばグリコール酸等の酸成分)とが重合してなるコポリマーのいずれであっても良い。特に、本発明では、乳酸(L-乳酸及びD-乳酸の少なくとも1種)が重合してなるホモポリマー又はコポリマーであることが好ましい。本発明では、これらのポリ乳酸樹脂は、1種又は2種以上で用いることができる。
【0034】
ポリ乳酸樹脂が実質的に乳酸のみから構成されている場合、モノマーとしてはa)実質的にL体のみの場合、b)実質的にD体のみの場合、c)L体及びD体の両者を含む場合が挙げられるが、本発明ではL体及びD体の両者を含むコポリマーが好ましく、特にD体が1~10質量%含まれるコポリマーがより好ましい。一般に、L体のポリ乳酸樹脂の方が機械特性の面で優れた特性を有するが、L体だけで構成されると構造が脆くなり、加工性が悪くなるおそれがある。具体的には、D体が1~10質量%の範囲でポリ乳酸がランダム共重合していると、柔らかくなるとともに、結晶化度が下がり、融点が低下する。これにより、脆さが低減し、容器としての加工性、機械特性、耐熱性等の物性のバランスがとれる。従って、本発明では、D体が1~10質量%及び残部がL体である共重合組成であることが好ましい。
【0035】
また、本発明では、メルトフローレート(MFR:210℃、2.16kg荷重)が1~30g/10min、特に3~20g/10minであるポリ乳酸樹脂が好ましい。これにより、積層体を製造する際の加工安定性がよりいっそう向上する。MFRが1/10min未満であると、押出時における押出機のモーター負荷の増大により、押出機が停機するおそれがある。また、MFRが30g/10minを超えると、高温押出時にネックインの増大、サージング発生等により加工性が低下することがある。
【0036】
これらの特徴を有するポリ乳酸樹脂自体は、公知又は市販のものを使用することができる。例えば市販品としてNature Works社製「2003D」、「2500HP」、「4060D」等を挙げることができる。
【0037】
ポリ乳酸樹脂含有層には、本発明の効果を妨げない範囲内で他の成分が添加されていても良い。例えば、アジピン酸エステル混合物、ロジン系混合物、ポリグリセリン脂肪酸エステル等のように、耐熱性等の諸物性を向上させる添加剤が挙げられる。本発明では、添加剤が積極的に添加されていないポリ乳酸樹脂、すなわち純度の高いポリ乳酸樹脂でポリ乳酸樹脂含有層が形成されていることが好ましい。従って、例えばポリ乳酸樹脂の含有量が99~100質量%であるポリ乳酸樹脂含有層を好適に採用することができる。
【0038】
本発明において、ポリ乳酸樹脂含有層に含まれるポリ乳酸樹脂の生分解度は、特に限定されないが、通常は30~70%程度であることが好ましく、特に35~55%であることがより好ましい。生分解度が30%未満であると、生分解性が劣り、容器としての使用後に自然環境下に廃棄しても迅速に分解されないおそれがある。一方で、生分解度が70%を超えると、分解されやすく、容器としての使用中にも分解が進行するおそれがある。こうしたポリ乳酸樹脂の生分解度は、ポリ乳酸樹脂含有層中のポリ乳酸樹脂の直鎖構造と分岐構造の割合や官能基の有無により適宜調整することができる。従って、ポリ乳酸樹脂の生分解度は30%以上70%以下に制御することによって、安定性と、環境負荷の少ない廃棄特性(すなわち、速やかな分解性)とをより確実に両立することができる。
【0039】
なお、ここでいう生分解機構は、一般に日本産業規格JIS K6953-1,-2に定める生分解性試験により数値化される。ここで得られる数値は「生分解度」とも称され、微生物の働きにより有機物が一定の期間に分解される割合を百分率で示したものであり、環境中での分解されやすさの指標である。ここで、本発明における生分解度は、上記JISに準拠しているが、分解初期の傾向を観察するために試験日数を12日間と規定し、当該試験日数での生分解度(分解性)を示す。
【0040】
ポリ乳酸樹脂含有層の厚みは、特に限定されないが、通常は10~55μmとし、特に10~50μmとし、その中でも特に15~45μmとすることが好ましい。厚みが10μm未満であると、熱容量の観点から耐熱性が不十分であることに加え、紙への投錨効果が得られず、電子レンジ加熱調理の際デラミネーションを誘発することとなる。厚みが55μmを超えると押出しラミネートの加工適性が著しく低下し、高コストとなることに加え、例えば後述するようなプレス成形加工における容器成形加工性も著しく低下させることとなる。
【0041】
また、ポリ乳酸樹脂含有層として、ポリ乳酸樹脂含有層が1層(単層)で構成されているものでも良いが、ポリ乳酸樹脂含有層の2層以上が積層されたものでも良い。例えば、ポリ乳酸樹脂含有層が共押出しにより2層以上の層構成であると、それぞれの層に異なる原料を用いることができるため、例えば紙基材と接する側の層には紙基材との密着性に優れるポリ乳酸樹脂含有層を配置、かつ、紙基材と接する側とは反対側の層には表面の耐熱性、低温シール性等の機能を有するポリ乳酸樹脂含有層を配置することにより、紙基材との密着性、容器としての耐熱性をより確実に両立させることができる。また、共押しによる2層以上の構成とすることにより、層間で溶融粘度のバランスをコントロールすることが可能となり、ネックインの増大又はサージングの発生を抑制し、溶融膜の安定性、高速化等が期待される。
【0042】
ポリ乳酸樹脂含有層は、未延伸の層であることが好ましい。延伸された層(フィルム)を用いると、所望の耐熱性が得られなくなるおそれがある。例えば、予め延伸されたポリ乳酸樹脂含有フィルムと紙基材とをドライラミネートで貼合する方法で得られた積層体は、所望の耐熱性等が得られないことがある。
【0043】
(3)その他の層
本発明容器は、上述した紙基材とポリ乳酸樹脂含有層のほか、加熱調理又は生分解を完全に阻害しない範囲で任意の層又は成分を適宜含んでも良い。例えば紙基材とポリ乳酸樹脂含有層との間、あるいは紙基材の表面に内容物又は紙容器に関する情報、模様、イラスト等の意匠を付与するための印刷層等を備えても良い。また、フランジ部にシーラント層を備えても良い。
【0044】
また、紙基材の少なくとも一方の面にポリ乳酸樹脂含有層が積層されていれば、ポリ乳酸樹脂含有層は片面に積層されていても両面に積層されていても良く、ポリ乳酸樹脂含有層が紙基材の片面にのみ積層されている場合にはポリ乳酸樹脂含有層が積層される面は紙容器の内容物を収納する側の面であってもその裏面であっても良いが、好ましくは紙容器の内容物を収納する側の面にポリ乳酸樹脂含有層が積層されていることが好ましい。これにより内容物が水分又は油分を含むものであっても、紙基材に内容物の一部が染み込むことを抑制することができる。また、紙容器に内容物が付着してとりづらくなることを低減することができる。
【0045】
本発明容器は、その材質が生分解性の材料から構成されているため、特に使い捨て容器(食器)として好適に用いることができる。
【0046】
対象となる内容物は、特に限定されず、食品のほか、種々の製品に適用することができる。食品としては、飲食料(弁当、惣菜類、ドリア、グラタン、カレー、パスタ、うどん、そば、どんぶり類、ラーメン、スープ、シチュー、アイスクリーム等の調理食品又は加工食品、水、コーヒー、お茶、ビール、ワイン、ジュース等の飲料)が例示される。従って、例えばファストフード商品、テイクアウト商品等の飲食料用容器ほか、商業施設、病院、学校、アウトドア活動等での飲食に用いられる飲食料用容器等として幅広く用いることができる。
【0047】
本発明容器は、耐熱性にも優れているので、加熱に供される食品を収容するための容器として好適に用いることができる。とりわけ、電子レンジによる加熱に供される容器にも有利に用いることができる。従って、本発明容器は、例えば市販の電子レンジにおいて500~1000W程度で1~5分間程度の加熱にも耐えることができる。
【0048】
2.生分解性紙容器の製造方法
本発明容器の製造方法は、特に制限されないが、例えば以下の方法を採用することができる。すなわち、生分解性紙容器を製造する方法であって、
(1)目付量が150~500g/m2の紙基材の少なくとも一方の面にTダイ押出機でポリ乳酸樹脂含有組成物を厚さが10~55μmとなるように積層することにより積層体を得る工程(積層工程)、及び
(2)前記積層体をプレス成形により凹部を有する容器形状に成形する工程(成形工程)
を含むことを特徴とする生分解性紙容器の製造方法を好適に採用することができる。
【0049】
積層工程
積層工程では、目付量が150~500g/m2の紙基材の少なくとも一方の面にTダイ押出機でポリ乳酸樹脂含有組成物を厚さが10~55μm(好ましくは10~50μmとし、より好ましくは15~45μm)となるように積層することにより積層体を作製する。
【0050】
Tダイ押出機は、溶融したポリ乳酸樹脂含有組成物と紙基材とを同時にシート状に押出しすることができるものであれば良く、公知又は市販の装置を用いることもできる。Tダイ押出機にて押出しされた積層体は、紙基材及びその紙基材の片面又は両面にポリ乳酸樹脂含有層を含む積層体として得られる。
【0051】
紙基材の両面にポリ乳酸樹脂含有層を形成する場合は、a)溶融したポリ乳酸樹脂含有組成物が紙基材の両面に接するように押出しする方法、b)紙基材の片面にポリ乳酸樹脂含有層を予め形成した後、さらに紙基材の他面に接溶融したポリ乳酸樹脂含有組成物が接するように押出しする方法等のいずれも採用することができる。
【0052】
ポリ乳酸樹脂含有組成物は、ポリ乳酸樹脂のほか、必要に応じて添加剤が含まれる。これらのポリ乳酸樹脂及び添加剤としては、前記「1.生分解性紙容器」で説明したものを挙げることができる。
【0053】
成形工程
成形工程では、前記積層体をプレス成形により凹部を有する容器形状に成形する。
【0054】
プレス成形の方法は、特に限定されず、公知又は市販の紙容器の成形で採用されている方法及び条件を採用することができる。また、公知又は市販のプレス成形機を用いて実施することもできる。例えば、積層体を温度60~120℃の加熱下でプレス成形機に供し、容器形状に成形すれば良い。
【0055】
容器形状は、内容物が収容できるような凹状であれば限定されず、内容物の種類、用途、使用目的等に応じて適宜設定することができる。例えば、コップ形状、カレー皿形状等のいずれも採用することができる。また、容器の大きさも、特に限定されず、用途等に応じて適宜設定することができる。
【0056】
また、成形工程では、さらに本発明容器にフランジ部、縁巻部を設ける工程も追加することができる。これらも公知又は市販の成形機を用いることによって実施することができる。
【実施例】
【0057】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0058】
実施例1
縦243cm×横184cmの目付量260g/m2の紙の一方に対し、市販のTダイ押出機で市販のポリ乳酸樹脂(Nature Works製「2003D」、D体含有量:2~3.5質量%)、MFR:6(g/10min・210℃, 2.16kg)、生分解度36%)を30μm厚みとなるように溶融押出しして、紙基材の片面にポリ乳酸樹脂含有層が積層された原紙(積層体)を作製した。
【0059】
実施例2
ポリ乳酸樹脂含有層を10μm厚みとした以外は、実施例1と同様にして原紙を作製した。
【0060】
実施例3
ポリ乳酸樹脂含有層を20μm厚みとした以外は、実施例1と同様にして原紙を作製した。
【0061】
実施例4
ポリ乳酸樹脂含有層を40μm厚みとした以外は、実施例1と同様にして原紙を作製した。
【0062】
実施例5
紙を150g/m2とした以外は、実施例1と同様にして原紙を作製した。
【0063】
実施例6
紙を450g/m2とした以外は、実施例1と同様にして原紙を作製した。
【0064】
実施例7
紙を150g/m2とし、ポリ乳酸樹脂含有層を20μm厚みとした以外は、実施例1と同様にして原紙を作製した。
【0065】
実施例8
紙を150g/m2とし、ポリ乳酸樹脂含有層を40μm厚みとした以外は、実施例1と同様にして原紙を作製した。
【0066】
実施例9
紙を450g/m2とし、ポリ乳酸樹脂含有層の厚みを20μmとした以外は、実施例1と同様にして原紙を作製した。
【0067】
実施例10
紙を450g/m2とし、ポリ乳酸樹脂含有層を40μm厚みとした以外は、実施例1と同様にして原紙を作製した。
【0068】
実施例11
ポリ乳酸樹脂を「4060D」(Nature Works製、D体含有量:3~5質量%)、MFR:10(g/10min・210℃, 2.16kg)、生分解度53%)とした以外は、実施例1と同様にして原紙を作製した。
【0069】
実施例12
ポリ乳酸樹脂をトタルコービオン製L175、D体含有量:1質量%以下)、MFR:8(g/10min・210℃, 2.16kg)、生分解度11%)とした以外は、実施例1と同様にして原紙を作製した。
【0070】
実施例13
ポリ乳酸樹脂をトタルコービオン製LX175、D体含有量:4質量%以下)、MFR:6(g/10min・210℃, 2.16kg)、生分解度21%)とした以外は、実施例1と同様にして原紙を作製した。
【0071】
比較例1
ポリ乳酸樹脂含有層の厚みを5μmとした以外は、実施例1と同様にして原紙を作製した。
【0072】
比較例2
ポリ乳酸樹脂含有層を60μm厚みとした以外は、実施例1と同様にして原紙を作製した。
【0073】
比較例3
紙を100g/m2とした以外は、実施例1と同様にして原紙を作製した。
【0074】
比較例4
紙を550g/m2とした以外は、実施例1と同様にして原紙を作製した。
【0075】
比較例5
縦243cm×横184cmの目付量260g/m2の紙単体を試験に供した。なお、紙単体の生分解度は78%であった。
【0076】
試験例1
各実施例及び比較例の原紙をトムソン刃により打ち抜いて1枚のブランクシートを得た。このブランクシートを用いてプレス成形法により
図5に示すようなカレー皿用紙容器を作製した。
図5Aは容器全体を見た写真であり、
図5Bは容器を真上から見た写真であり、
図5Cは容器を真横から見た写真である。
【0077】
なお、当該容器は、後述する耐熱性評価試験で用いる市販のホワイトソース150gが十分に収容可能な程度の大きさとなるように設計した。この場合、いずれもポリ乳酸樹脂含有層を容器内面(内容物充填側)に配置されるように成形加工した。各実施例及び比較例の原紙又はその容器について、(1)耐熱性、(2)接着強度、(3)成形性ならびに(4)安定性及び分解性をそれぞれ評価した。その評価結果を表1にそれぞれ示す。なお、評価方法は、以下の通りである。
【0078】
(1)耐熱性
内容物として市販のホワイトソース(ハインツ製)150gを容器に充填し、シャープ製電子レンジ(型番:RE-MA1-N)にて600Wで3分間加熱した。加熱後、容器からホワイトソースを取り出し、容器のポリ乳酸樹脂含有層の沸き又は紙基材との剥離有無を目視確認した。沸き又は紙基材との剥離が見られないものは「○」、沸き又は紙基材との剥離が見られたものは「×」とした。ここで、「沸き」とは、電子レンジ加熱によるホワイトソース発熱温度にポリ乳酸樹脂含有層が耐えられず、溶融し、局所的に膨れる現象をいう。
【0079】
(2)接着強度
原紙を50mm巾×150mm長に切断し、日本計測システム株式会社製オートグラフ(R2KN-B)にて標点間距離200mm、剥離速度100mm/minにて180°剥離試験を実施し、紙基材自体において紙層間剥離しないものは「×」、紙層間剥離するものは「〇」とした。すなわち、前記「×」は、紙基材自体が剥離(破損)する前にポリ乳酸樹脂含有層と紙基材との層間で剥離したものであり、ポリ乳酸樹脂含有層と紙基材との接着性が低いことを意味する。他方、前記「○」は、ポリ乳酸樹脂含有層と紙基材との層間で剥離する前に紙基材自体が剥離(破損)したものであり、ポリ乳酸樹脂含有層と紙基材との接着性が高いことを意味する。
【0080】
(3)成形性
三菱ガス化学株式会社社製エージレスシールチェック液を容器内面に噴霧することによりピンホール又は破れの有無を確認した。エージレスチェック液噴霧3分後に容器裏面目視により、エージレスチェック液が浸透していないものは「○」、浸透したものは「×」とした。
【0081】
(4)安定性及び分解性
生分解測定装置(型式:MODA-CS,八幡物産製)を用い、日本産業規格JIS K6953-1,-2に定める生分解度試験に準拠し、その試験日数を12日間として分解性を示すCO2発生量(g)を測定した。測定用サンプルは、ポリ乳酸樹脂単体のフィルム(30μm)を用いた。測定手順は、500gのコンポスト中に3.5mm×3.5mmにカットしたポリ乳酸樹脂10gを混練し、上記JIS規格準拠の方法でテストを実施した。
(4-1)安定性:試験経過日数が5日時点でのCO2発生量(120時間)が10g以下のものは「〇」、10gを超えるものは「×」とした。一般に容器に収容される食品の最大消費期限が5日程度であることから、CO2発生量が10gを超えるものは、分解速度が過度に速く、食品容器として実用に適さないおそれがあるためである。
(4-2)分解性:試験経過日数が12日時点でのCO2発生量が10g以上20g以下であるものは「〇」とし、CO2発生量が10g未満である場合及びCO2発生量が20g超えである場合をともに「×」とした。10g未満であると分解性が損なわれており、20gを上回ると前述の通り食品容器として実用に適さないおそれがあるためである。
【0082】
【0083】
表1の結果からも明らかなように、本発明の生分解性紙容器は、ポリ乳酸樹脂含有層/紙基材の積層体を原紙としながらも、良好な耐熱性を有することに加え、紙基材とポリ乳酸樹脂含有層との接着性が良好であることがわかる。また、プレス成形によって、各実施例のような優れた容器が効率的に製造できることもわかる。特に、生分解度が30~60%程度の比較的高いポリ乳酸樹脂を用いた実施例1~11では、安定性及び分解性においても良好な結果を示していることがわかる。すなわち、JIS K6953-1,-2に定める生分解度試験による5日間のCO2発生量が10g以下であり、かつ、12日間のCO2発生量が10~20gという使い捨て容器等に適した物性を有することがわかる。