(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】エレベータ設備
(51)【国際特許分類】
B66B 11/02 20060101AFI20241113BHJP
B66B 1/14 20060101ALI20241113BHJP
B66B 13/14 20060101ALI20241113BHJP
B66B 5/02 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
B66B11/02 F
B66B1/14 B
B66B11/02 E
B66B13/14 H
B66B5/02 R
(21)【出願番号】P 2020174454
(22)【出願日】2020-10-16
【審査請求日】2023-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003403
【氏名又は名称】ホーチキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079359
【氏名又は名称】竹内 進
(72)【発明者】
【氏名】松熊 秀成
【審査官】山田 拓実
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-137537(JP,A)
【文献】国際公開第2020/188798(WO,A1)
【文献】特開2010-163231(JP,A)
【文献】特開2011-001181(JP,A)
【文献】特開平09-089330(JP,A)
【文献】特開2014-028673(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0032589(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105800426(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 1/00-1/52
B66B 5/02
B66B 11/00-13/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の各階乗場の何れかに移動停止して乗降を可能とするかごと、
前記かごの出入口に設けられ、前記各階乗場の何れかに移動停止した場合に開放される内扉と、
前記各階乗場に設けられ、前記かごが移動停止した場合に前記内扉と連動して開放される外扉と、
前記かごに設けられた換気装置と
、
前記かごが前記各階乗場の何れかに移動停止して待機状態にある場合に、前記内扉及び前記外扉を開放状態に保つ処理手段
と、
を
備え、
前記処理手段は、所定の運用時間が経過するごとに所定時間の待機状態を生成し、当該待機状態にある場合に、前記内扉及び前記外扉を開放状態に保つことを特徴とするエレベータ設備。
【請求項2】
請求項1記載のエレベータ設備に於いて、
前記処理手段は、所定容積分の前記かご内の空気を換気するまでのあいだ、前記内扉及び前記外扉を開放状態に保つことを特徴とするエレベータ設備。
【請求項3】
請求項2記載のエレベータ設備に於いて、
前記処理手段は、少なくとも前記かごの内容積に相当する量の空気を換気するまでのあいだ、前記内扉及び前記外扉を開放状態に保つことを特徴とするエレベータ設備。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載のエレベータ設備に於いて、
前記処理手段は、前記内扉及び前記外扉を開放状態に保っているあいだ、前記換気装置の換気量を所定量に増加させることを特徴とするエレベータ設備。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載のエレベータ設備に於いて、
前記処理手段は、
前記待機状態にある場合に、
乗場釦又は前記かご内の目的階釦の操作があっても、当該待機状態を所定時間確保することを特徴とするエレベータ設備。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載のエレベータ設備に於いて、
前記かご内へ、所定の病原体を不活化させる波長帯域の光を照射する光照射源を設けたことを特徴とするエレベータ設備。
【請求項7】
請求項6記載のエレベータ設備に於いて、
前記かご内へ照射する光は、波長222nmを含み、254nm及び264nmを除く所定波長帯域の紫外線であることを特徴とするエレベータ設備。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れかに記載のエレベータ設備に於いて、
前記処理手段は、前記内扉及び前記外扉の開放中に、火災報知設備から火災信号を受信した場合、前記内扉及び前記外扉を閉鎖させることを特徴とするエレベータ設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病原体の感染を抑制防止する対策が施されたエレベータ設備に関する。
【背景技術】
【0002】
ウィルスや細菌等の病原体による各種感染症の感染原因には、第1に接触感染があり、第2に飛沫感染があることが知られている。
【0003】
接触感染とは、例えば感染者がくしゃみや咳を手で押さえた後、その手で周りの物に触れて病原体が付き、別の人がその物に触って病原体が手に付着し、その手で口や鼻を触って粘膜から感染することをいう。主な感染場所としては、例えば電車やバスのつり革、ドアノブ、スイッチなどがある。
【0004】
また、飛沫感染とは、例えば感染者のくしゃみや咳、つばなどの病原体含む飛沫が放出され、別の人がそれを口や鼻から吸い込み感染することをいう。主な感染場所としては、例えば、学校や劇場、満員電車などの人が多く集まる場所などがある。
【0005】
このようなウィルスや細菌等の病原体を原因とする各種感染症への感染を予防するため、例えばマスクの着用、人と人との距離の確保、手洗い等による手指衛生、手が触れる物品等の除菌、消毒が推奨されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-151475号公報
【文献】特開2017-121984号公報
【文献】特開2020-092968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、飛沫感染が発生する場所として、エレベータのかご内での感染が問題となっている。エレベータ内は換気が悪く、感染者が乗った場合には、感染者の咳やくしゃみ等による飛沫感染以外に、飛沫が乾燥した軽くなった病原体を含む飛沫核等がエレベータ内の空気中に浮遊したままとなり、感染のリスクが高いという問題がある。飛沫とは、水分を含んだ直径5マイクロメートル以上の粒子であり、飛沫核とは、飛沫が乾燥して小さくなった5マイクロメートル以下の粒子のことである。
【0008】
本発明は、空気中を浮遊する病原体を含む飛沫核等による感染を抑制防止して安心安全を確保するエレベータ設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(エレベータ設備)
本発明は、エレベータ設備であって、
建物の各階乗場の何れかに移動停止して乗降を可能とするかごと、
かごの出入口に設けられ、各階乗場の何れかに移動停止した場合に開放される内扉と、
各階乗場に設けられ、かごが移動停止した場合に内扉と連動して開放される外扉と、
かごに設けられた換気装置と、
を備えたエレベータ設備であって、
かごが各階乗場の何れかに移動停止して待機状態にある場合に、内扉及び外扉を開放状態に保つ処理手段を設けたことを特徴とする。
【0010】
ここで、待機状態とは、かごが乗場に停止した後に、乗場の乗場釦又はかご内の目的階釦が操作されて、かごが移動を開始する前までの状態を意味し、自動運転時に制御盤からの指示で、かごが移動を開始する前までの状態を含む概念である。
【0011】
(待機状態で所定換気量となるまで扉開放を保つ制御)
処理手段は、所定容積分のかご内の空気を換気するまでのあいだ、内扉及び外扉を開放状態に保つ。
【0012】
(扉開放時の換気量)
処理手段は、少なくともかごの内容積に相当する量の空気を換気するまでのあいだ、内扉及び外扉を開放状態に保つ。
【0013】
(扉開放中の強制換気)
処理手段は、内扉及び外扉を開放状態に保っているあいだ、換気装置の換気量を所定量に増加させる。
【0014】
(定期的な待機状態の生成による扉開放)
処理手段は、所定の運用時間が経過するごとに、所定時間の待機状態を生成し、当該待機状態にある場合に、内扉及び外扉を開放状態に保つ。
【0015】
(光照射による病原体の不活化)
エレベータ装置は、更に、かご内へ、所定の病原体を不活化させる波長帯域の光を照射する光照射源を設ける。
【0016】
(222nm紫外線の照射)
かご内へ照射する光は、波長222nmを含み、254nm及び264nmを除く所定波長帯域の紫外線である。
【0017】
(火災時の扉強制閉鎖)
処理手段は、内扉及び外扉の開放中に、火災報知設備から火災信号を受信した場合、内扉及び外扉を閉鎖させる。
【発明の効果】
【0018】
(エレベータ設備の効果)
本発明のエレベータ設備によれば、かごが各階乗場の何れかに移動停止した場合、従来は、開いた内扉及び外扉(以下、単に「扉」という)を所定時間後に閉じて待機しているが、本発明にあっては、待機中は扉を開放した状態に保つことで、かごは外部に開いた開放空間となり、感染者が排出して空気中を浮遊している病原体を含む飛沫核等は、開放空間での換気装置による換気によって効率良く短時間にかご内から排除され、次の乗ってくる利用者に対する感染を抑制防止することを可能とする。
【0019】
(待機状態で所定換気量となるまで扉開放を保つ制御の効果)
また、かごが移動停止して待機状態にある場合、所定容積分のかご内の空気、例えば、少なくともかごの内容積に相当する量の空気を換気するまでのあいだ、扉を開放状態に保つことで、待機状態でかご内に浮遊する病原体を含む飛沫核等を効率良く且つ十分に排除するとともに、かご内の換気が終了すると扉を閉鎖した待機状態となることでセキュリティが確保され、従来の一定時間後に扉を開放するという動きに対し、少し長く扉が開いていると感じるが、ほとんど違和感を持つことなく利用することを可能とする。
【0020】
(扉開放中の強制換気による効果)
また、扉を開放状態に保っているあいだ、換気装置の換気量を所定量に増加させることで、扉を開放した状態での十分な量の換気を短時間で行うことを可能とする。
【0021】
(定期的な待機状態の生成による扉開放の効果)
また、処理手段は、人による利用が多いために待機状態が殆ど発生しない場合にも、所定の運用時間が経過するごとに、所定時間の待機状態を生成し、当該待機状態にある場合に、扉を開放状態に保つことで、エレベータの利用効率は下がるが、病原体の感染防止を優先した運用を可能とする。
【0022】
(光照射による病原体の不活化)
また、第1及び第2発明のエレベータ装置は、更に、かご内へ、所定の病原体を不活化させる波長帯域の光を照射する光照射源を設けたことで、かご内の照射範囲(照射エリア)に付着した病原体やかご内の空間に浮遊する病原体を不活化させ、エレベータを利用する人に対する安全性を確保しながら感染症に感染する可能性を低減抑制し、安全で快適なエレベータの利用環境を構築可能とする。
【0023】
(222nm紫外線の照射による効果)
また、かご内へ照射する光は、波長222nmを含み、254nm及び264nmを除く所定波長帯域の紫外線としたことで、人が照射を受けても安全であり且つ病原体を確実に不活化させることを可能とする。
【0024】
(火災時の扉強制閉鎖による効果)
また、エレベータ設備の処理手段は、扉の開放中に、火災報知設備から火災信号を受信した場合、扉を閉鎖させることで、扉開放に伴う換気に優先して、火災に伴う煙に対しかご内を遮煙することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】エレベータ設備の実施形態を示した説明図である。
【
図2】待機状態で扉を開放状態に保つエレベータ設備の第1実施形態の制御動作を示したフローチャートである。
【
図3】待機状態で扉を換気に必要なあいだ開放状態に保つエレベータ設備の第2実施形態の制御動作を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明に係るエレベータ設備の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態により、この発明が限定されるものではない。
【0027】
[実施形態の基本的な概念]
実施形態は、概略的に、エレベータ設備に関するものである。エレベータ設備とは、人が乗降可能なかごを、建物の各階乗場に移動する設備であり、その構造、構成、及び種類は任意であるが、一例として、駆動方式としてロープ式と油圧式があり、ロープ式には、釣合い重りを用いたトランクション式とドラム(胴巻)にロープを巻き付ける胴巻式があり、トラクション式が主流となっている。
【0028】
本実施形態のエレベータ設備は、かご、内扉、外扉、換気装置、処理手段を備えるものであり、それ以外の構成は、公知のエレベータ設備と同様である。
【0029】
「かご」とは、各階乗場から人が乗って目的とする他の階の乗場に移動するものである。また「内扉」とは、かごの出入口に設けられ、各階乗場の何れかに停止した場合に開放される扉である。また、「外扉」とは、各階乗場に設けられ、かごが移動停止した場合に内扉と連動して開放される扉である。また、「換気装置」とは、かごに設けられ、かご内を換気する装置である。
【0030】
「処理手段」とは、かごが各階乗場の何れかに移動停止して待機状態にある場合、内扉及び外扉を開放状態に保つものである。
【0031】
また、処理手段は、待機状態にある場合、少なくともかご内の所定容積分の空気を換気するまでのあいだ、内扉及び外扉を開放状態に保つものである。更に、処理手段は、内扉及び外扉を開放状態に保っているあいだ、換気装置の換気量を所定量に増加させるものである。
【0032】
また実施形態のエレベータ設備は、所定の病原体を不活化させる波長帯域の光をかご内に照射する光照射源を備えるものである。ここで、「光照射源」とは、かご内の空間や病原体が付着しやすい場所に対して、所定のウィルス又は細菌等の病原体を不活化させる波長帯域の光を照射するものである。また、「不活化」とは、病原体を死滅させる、減数させる、生存期間を短縮する、増殖を抑える、弱体化する、又は、人体への感染力を低下させることを含む。また、「所定の病原体を不活化させる波長帯域の光」とは、波長帯域100~280nmの紫外線C波(UV-C)に属する所定波長帯域の紫外線のうち、人に対し安全であり、ウィルスや細菌などの病原体に対する不活化効果が高い、波長222nmを含む所定波長帯域の紫外線を含む概念であり、例えば200~230nmの波長帯域の紫外線である。
【0033】
また、光照射源からの光の照射による不活化の対象とする病原体は任意であるが、例えばウィルスとしてはコロナウィルス、ロタウィルス、アデノウィルス、ポリオウィルス、インフルエンザウィルス等が挙げられ、また、細菌としては赤痢菌、コレラ菌、レジオネラ菌、緑膿菌、チフス菌、パラチフス菌、ネズミチフス菌等が挙げられる。これら以外にも、光の照射により不活化可能なウィルス及び細菌類が対象となり得る。
【0034】
また、処理手段は、待機状態で内扉及び外扉の開放中に、火災報知設備から火災信号を受信した場合、内扉及び外扉を閉鎖して、火災による煙に対し、かご内を遮煙するものである。
【0035】
以下、具体的な実施形態を説明する。以下に示す実施形態では、「エレベータ設備」がトラクション式であり、「処理手段」がエレベータ設備の制御盤であり、「光照射源」が「波長222nmを含む波長帯(人体に安全)の紫外線照射源」である場合について説明する。
【0036】
[実施形態の具体的内容]
(エレベータ設備の構成)
図1は本実施形態のエレベータ設備を示した説明図であり、その構造、構成、種類は任意であるが、一例として、トランクション式のエレベータ設備としている。
【0037】
図1に示すように、本実施形態のエレベータ設備は、昇降路10、かご12、内扉14、外扉16、換気装置20及び紫外線照射源25を備えるものであり、n階建ての建物に設置した場合を例にとっている。
【0038】
かご12は、人を搭載する入れ物であり、その構造や構成は任意であるが、出入口が開口された箱型の筐体であり、出入口に両開き構造の内扉14が設けられ、内扉14は扉駆動部14aにより開閉されるものである。かご12は、建物に設置された昇降路10の上部の機械室11に設置された巻上機22により移動される。
【0039】
巻上機22はモータ駆動され、巻上機22の綱車26を介して降ろされたロープ24の一端にかご12が吊下げられ、ロープ24の他端はそらせ車28を介して降ろされ、釣合おもり30が固定されている。内扉14はかご12が各階乗場18-1~18-nの何れかに移動停止した場合に開放され、人の乗り降りを可能とする。停止位置の検出は、公知のように、リミットスイッチで行われる。以下の説明では、乗場18-1~18-nを区別する必要がない場合は、乗場18又は各階乗場18という場合がある。
【0040】
昇降路10の下部にはピット32が設けられ、ここに緩衝器34が配置されている。緩衝器34はかご12が落下したときの衝撃を吸収して安全に停止させるものである。
【0041】
建物の各階乗場18には両開き構造の外扉16が設けられ、扉駆動部16aにより開閉される。外扉16は、かご12が各階乗場18の何れかに移動して停止した場合に、内扉14の開放に連動して開放され、人の乗り降りを可能とする。
【0042】
また、かご12の天井側には換気装置20と紫外線照射源25が配置されている。換気装置20の構造、構成、種類は任意であるが、例えば、換気ファン装置が設けられ、外気をかご12内に吹き出すインレット方式、かご12内の空気を外部に排出するアウトレット方式、両者を組み合わせた循環方式があるが、任意であり、例えば、インレット方式とする。
【0043】
紫外線照射源25は、所定の病原体を不活化させ、人に安全な波長222nmを含む、例えば200~230nmの波長帯域の紫外線を照射するものであり、照射源の構造、構成、種類は任意であるが、一例としてエキシマランプが使用される。
【0044】
また、かご12には、目的階先端釦、扉の開閉釦、緊急呼出釦、階表示を備えた公知のかご内操作表示部が設けられ、また、各階乗場18には、上り下りを選択する乗場釦、階表示を備えた公知の乗場操作表示部が設けられるが、図示を省略している。
【0045】
機械室11には制御盤15が設置される。制御盤15はエレベータ設備の運用に必要な制御を行うものであり、その構成や機能は任意であるが、例えば、CPU、メモリ、各種の入出力ポート等を備えたコンピュータ回路で構成され、CPUによるプログラムの実行により実現される本実施形態の処理手段としての機能も備える。
【0046】
制御盤15は、運用開始時に、所定階の乗場18、例えば1階の乗場18-1を待機乗場としてかご12を停止しており、乗場18-2~18-nの何れか乗場釦の操作が行われると、操作された目的階にかご12を移動して停止し、内扉14及び外扉16を開放して人の乗り降りを可能とする。また、待機乗場から乗った人によりかご12内の目的階釦が操作されると、操作された目的階の乗場18にかご12を移動停止し、内扉14及び外扉16を開放して人の乗り降りを可能とする。これ以外にも、制御盤15は、各階乗場18ごとに移動停止する各階停止制御、特定の乗場、例えば最上階の乗場18-nに直接移動する直行運転制御、火災発生時に火災発生階以外の安全な乗場に移動停止して運転を停止する火災対応制御、所定震度を超える地震を検知した場合に、最も近い乗場18に移動停止して運転を停止する地震対応制御等を行うものである。
【0047】
本実施形態の処理手段として機能する制御盤15は、かご12が各階乗場18の何れかに移動停止して待機状態にある場合に、内扉14及び外扉16を開放状態に保つように制御するものである。ここで、待機状態とは、かご12が乗場18に停止した後に、別の乗場18の乗場釦又はかご12内の目的階釦が操作され、制御盤15が巻上機22を駆動してかご12の移動が開始されるまでの状態を意味する。
【0048】
制御盤15による待機状態での扉制御は、開放状態にあるあいだ内扉14及び外扉16を開放状態に保つ第1実施形態の扉制御と、待機状態で所定容量の換気が行われるあいだ内扉14及び外扉16を開放状態を保つ第2実施形態の扉制御がある。
【0049】
(第1実施形態の扉制御)
制御盤15による第1実施形態の扉制御は、かご12が各階乗場18の何れかに移動停止して待機状態にあるあいだ、内扉14及び外扉16を開放状態に保つ制御を行うものである。ここで、かご12に設けられた換気装置20は、運用中は常に動作して換気しており、内扉14を閉鎖した状態でのかご12の換気量は制約されているが、待機状態では内扉14及び外扉16が開放状態に保たれることで、かご12は外部に開口した開放空間となり、換気装置20による吹出し空気は扉開放状態にあるかご12内から外部へ流れ、十分な量の換気が効率良く行われる。このため、かご12に病原体の感染者が乗っていて、その感染者により病原体を含む飛沫核等が、かご12の空気中に浮遊していたとしても、換気により外部に排出されることで除去され、感染するリスクを低減可能とする。
【0050】
(第1実施形態の制御動作)
次に
図2のフローチャートを参照して制御盤
15による第1実施形態の扉制御を含むエレベータ設備の制御動作を説明する。
図2に示すように、制御盤
15は運転を開始するとかご12を待機階として定めた例えば1階の乗場18-1に停止してステップS1の待機状態とし、待機状態ではステップS2のように乗場18-1の外扉16及びかご12の内扉14を開放している。続いて、ステップS3で他の階の乗場釦又は待機しているかご12に人が乗ったときの目的階釦の操作を判別するとステップS4に進み、外扉16と内扉14を閉鎖し、ステップS5で巻上機22の駆動によりかご12を目的階の乗場へ移動し、ステップS6で目的階の乗場への到着が判別されるとステップS7に進み、内扉14と外扉16を開放して人の乗り降りを可能とし、移動停止した乗場で再びステップS1の待機状態となる。
【0051】
このように第1実施形態の制御動作では、各階乗場18の何れかにかご12を移動停止して待機状態になると、待機状態となってるあいだ内扉14及び外扉16が開放状態に保たれ、換気装置20によるかご12内の換気が効率良く行われ、かご12内に浮遊している病原体を含む飛沫核等を効率良く排出し、感染リスクを低減可能とする。
【0052】
(第2実施形態の制御動作)
次に
図3のフローチャートを参照して制御盤
15による第2実施形態の扉制御を含むエレベータ設備の制御動作を説明する。
図3に示すように、制御盤
15は運転を開始するとかご12を待機階として定めた例えば1階の乗場18-1に停止してステップS11の待機状態とし、待機状態ではステップS12のように停止した乗場の外扉16及びかご12の内扉14を開放している。続いて、ステップS13で待機状態を開始してから所定の換気量、例えば、かご12の内容積に対応した換気量が得られる所定の換気時間が経過するか否かを監視しており、所定の換気時間の経過を判別するとステップS14に進み、内扉14と外扉16を閉鎖して待機状態とする。ここで、所定の換気時間とは、かご12の内容積を喚起装置20の単位時間当たりの換気量(送風量)で除算して求めた時間に所定の余裕時間を加えた時間とする。
【0053】
続いて、ステップS14で他の階の乗場釦の操作、又は、待機しているかご12に人が乗ったときの目的階釦の操作を判別するとステップS15に進み、外扉16と内扉14を閉鎖し、ステップS16で巻上機22の駆動によりかご12を目的階の乗場へ移動し、ステップS17で目的階の乗場への到着が判別されるとステップS18に進み、内扉14と外扉16を開放して人の乗り降りを可能とし、移動停止した乗場で再びステップS11の待機状態となる。
【0054】
このように第2実施形態の制御動作では、待機状態が開始したときから内扉14と外扉16を開放し、所定の換気時間が経過すると、かご12内に浮遊している病原体を含む飛沫核等が排出されたものとして内扉14と外扉16を閉鎖する。このため、待機状態で内扉14と外扉16を開放したままにしているとセキュリティの面で問題があることから、これを無くして待機階でのセキュリティを確保可能としている。即ち、感染リスクの低減とセキュリティの確保を両立可能としている。
【0055】
(換気装置の制御)
ここで、
図2及び
図3の制御動作のいずれについても、かご12を各階乗場18の何れかに移動停止した待機状態で内扉14と外扉16を開放状態に保つ場合、換気装置20の換気量を所定量に増加させて強制換気する制御を行うようにしてもよい。待機状態での強制換気制御は任意であるが、例えば、換気装置20によるファンの回転数を増加させる制御を行う。この場合、インレット方式の換気装置20は、換気装置20からの吹出しを受けても、かご12内にいる人が不快に感じされない程度に換気量を増加させる。一方、アウトレット方式の換気装置20は、かご12内への吹出しがないことから、駆動モータを所定の最大回転数に増加させることで、強力な換気を行うことを可能とする。これにより
図2の第1実施形態の扉制御では、待機状態での換気量を大きく増加させることができ、また、
図3の第2実施形態の扉制御では、所定の換気量となるまでの換気時間を短くし、セキュリティを高めることを可能とする。
【0056】
(火災時の遮煙制御)
また、
図2及び
図3の制御動作のいずれについても、待機状態で内扉14及び外扉16を開放状態に保っている場合に、建物に設置された火災報知設備で火災が検知されて制御盤25が火災信号を受信した場合は、開放状態にある内扉14及び外扉16を閉鎖する制御を行い、火災による煙がかご12内や昇降路10に入り、昇降路10を通って建物に内に拡散しないように遮煙する制御を行う。
【0057】
(時間帯に分けた第1及び第2実施形態の制御)
第1実施形態の扉制御は、病原体の排除を優先した制御であり、第2実施形態の扉制御は病原体の排除とセキュリティの確保を両立させた制御であることから、制御盤15は、第1及び第2実施形態の扉制御を、1日24時間の時間帯に分けて予め設定したタイムスケジュールに従って行うことを可能とする。
【0058】
第1及び第2実施形態の扉制御のタイムスケジュールは任意であるが、例えば、オフィスビル等の建物であれば、平日の昼間の時間帯は第1実施形態の扉制御とし、夜間の時間帯や休日、祭日は第2実施形態の扉制御とするものであり、建物の利用形態に応じて適宜のタイムスケジュールの設定が可能である。
【0059】
[本発明の変形例]
(強制待機)
上記の実施形態にあっては、エレベータ設備を利用する人による乗場釦やかご内の目的階釦の操作に対応したかごの各階乗場への移動停止の中で生じた待機状態で内扉と外扉を開放状態に保っているが、利用する人が多い場合には、かご内を換気するに十分な待機状態が発生することが少なく、かご内に浮遊している病原体を含む飛沫核等を十分に排除できない状態が続く可能性がある。
【0060】
この問題を解決するため、例えば、所定の運用時間ごとに、例えば30分に1回、或いは1時間に1回、又は、かごが上りから下りに移動方向が変わるとき等に、乗場釦やかご内の目的階釦の操作があっても、待機状態を所定時間確保し、そのあいだ内扉及び外扉を開放状態に保って換気する扉制御を行うようにする。これによりエレベータ設備の運転効率は低下するが、エレベータによる感染を抑制予防して安心安全を確保することを優先させる。このような扉制御は、例えば、病原体の感染率が増加した場合の対策の一つとして行うことが可能である。
【0061】
(その他)
また,本発明は、その目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【符号の説明】
【0062】
10:昇降路
12:かご
14:内扉
14a,16a:扉駆動部
15:制御盤
16:外扉
18,18-1~18-n:乗場(各階乗場)
20:換気装置
22:巻上機
24:ロープ
26:綱車
28:そらせ車
30:釣合おもり
32:ピット
34:緩衝器