(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】保持装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20241113BHJP
H02N 13/00 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H02N13/00 D
(21)【出願番号】P 2020187135
(22)【出願日】2020-11-10
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(72)【発明者】
【氏名】山本 考史
(72)【発明者】
【氏名】石井 竜馬
(72)【発明者】
【氏名】井田 大達
【審査官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-101711(JP,A)
【文献】特開2007-258615(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0223175(US,A1)
【文献】特開2020-088052(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H02N 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面と、第1の方向にて前記第1の面とは反対側に設けられる第2の面と、内部に設けられた内部電極と、前記内部電極に電気的に接続された端子パッドとを備える板状部材と、
前記端子パッドに接合された電極端子と、
前記電極端子の外周面を覆う絶縁部材と、
前記電極端子及び前記絶縁部材が配置される貫通孔を備え、前記板状部材の前記第2の面に接合された金属製のベース部材と、を有し、
前記板状部材の前記第1の面上に対象物を保持する保持装置において、
前記板状部材の前記第2の面には、前記第1の面側に凹み、前記端子パッドが配置された有底孔が形成されており、
前記有底孔の底部又は開口部側面には、前記第1の方向と直交する第2の方向へ、前記有底孔の開口部側面よりも外側に拡がる空洞部が形成され
、
前記空洞部の前記第1の方向における最大寸法は、前記有底孔の前記第1の方向における寸法の1/2以下である
ことを特徴とする保持装置。
【請求項2】
請求項
1に記載する保持装置において、
前記空洞部は、前記第1の方向において、前記端子パッドが配置された面を含んでいることを特徴とする保持装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する保持装置において、
前記空洞部は、
前記底部に形成され、前記有底孔の開口部から前記底部へ向かうにつれて、前記第2の方向における寸法が徐々に大きくなるテーパ部を有する
ことを特徴とする保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対象物を保持する保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
保持装置として、例えば、特許文献1に記載された静電チャックが知られている。この静電チャックは、表面(保持面)に対象物を保持するセラミックス板(板状部材)と、セラミックス板に接合された金属製のベース部材とを備えており、セラミックス板の内部に、チャック電極やヒータ電極などの内部電極が配置されている。そして、この静電チャックは、内部電極への給電のための構成を備えている。すなわち、ベース部材の内部に、ベース部材におけるセラミックス板に対向する表面(以下、「上面」という)に開口する端子用貫通孔が形成されており、端子用貫通孔内に、柱状の電極端子が配置されている。また、セラミックス板におけるベース部材に対向する表面(以下、「下面」という)の内の所定の領域には、内部電極に導通する電極パッド(端子パッド)が配置されている。
【0003】
ここで、セラミックス板の下面に沿って電極パッドからベース部材に至るまでの沿面距離が短いと、電極パッドとベース部材との間の短絡が発生するおそれがある。そこで、沿面距離を長くするために、この静電チャックでは、セラミックス板の第2の表面(ベース部材に対向する側の表面)における第1の領域(セラミックス板の厚み方向から見て端子用貫通孔に重なる領域)に、厚み方向において電極パッドが配置された位置より内部電極側に凹んだ凹部と、厚み方向において電極パッドが配置された位置より内部電極から離れる側に突出した凸部と、の少なくとも一方を、厚み方向から見て電極パッドを取り囲むように連続的に形成している。これにより、この静電チャックでは、セラミックス板の第2の表面に沿って電極パッドからベース部材に至るまでの沿面距離を長くして、電極パッドとベース部材との間の短絡の発生を抑制するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の静電チャックでは、凹部が形成された部分はセラミックス板の厚さが減少するため、凹部付近に内部電極が配置された場合、孔底面と内部電極との距離が短くなるので、絶縁破壊が生じるおそれがある。また、凹部が形成された部分では、セラミックス板の体積が減少するため熱伝達が悪くなり、保持面において凹部の直上部分が局所的に高温となって、保持面の温度を均一に制御することが困難となり、保持面における均熱性が低下するおそれがある。
【0006】
そこで、本開示は上記した問題点を解決するためになされたものであり、端子パッドからベース部材までの沿面距離を長くして端子パッドとベース部材との間における絶縁性を向上させるととともに、保持面における均熱性を向上させることができる保持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本開示の一形態は、
第1の面と、第1の方向にて前記第1の面とは反対側に設けられる第2の面と、内部に
設けられた内部電極と、前記内部電極に電気的に接続された端子パッドとを備える板状部
材と、
前記端子パッドに接合された電極端子と、
前記電極端子の外周面を覆う絶縁部材と、
前記電極端子及び前記絶縁部材が配置される貫通孔を備え、前記板状部材の前記第2の
面に接合された金属製のベース部材と、を有し、
前記板状部材の前記第1の面上に対象物を保持する保持装置において、
前記板状部材の前記第2の面には、前記第1の面側に凹み、前記端子パッドが配置され
た有底孔が形成されており、
前記有底孔の底部又は開口部側面には、前記第1の方向と直交する第2の方向へ、前記
有底孔の開口部側面よりも外側に拡がる空洞部が形成され、
前記空洞部の前記第1の方向における最大寸法は、前記有底孔の前記第1の方向における寸法の1/2以下であることを特徴とする。
【0008】
この保持装置では、端子パッドを配置する有底孔の底部又は開口部側面に、第1の方向(軸方向)と直交する第2の方向(径方向)へ、有底孔の開口部側面(つまり内周面)よりも外側に拡がる空洞部が形成されているため、端子パッドからベース部材までの沿面距離を長くすることができる。そのため、端子パッドとベース部材との間における絶縁性を向上させることができる。
【0009】
また、空洞部は、第2の方向(径方向)外側へ拡がるように形成されているため、従来装置のように有底孔の配置領域において板状部材の厚みが減少することがない。そのため、内部電極(端子パッドの最も近くに配置されるものであり、例えば、ヒータ電極やヒータ電極に電極を供給するためのランドパターンである導電層など)と端子パッドとの間で絶縁破壊が発生することを防止することができる。
【0010】
ここで、第1の面(保持面)において、有底孔の配置領域(有底孔の直上位置)は、他の領域よりも体積が小さいため高温になりやすい。そして、従来装置のように有底孔の配置領域において板状部材の厚み(体積)が減少すると、第1の面の有底孔の配置領域において、局所的に高温となる温度特異点が非常に発生し易くなる。
【0011】
これに対して、この保持装置では、空洞部は、第2の方向(径方向)外側へ拡がるように形成されているため、有底孔の配置領域において板状部材の厚み(体積)が減少することがない。そのため、有底孔の配置領域において、板状部材の体積減少による熱伝達の悪化が生じない。従って、第1の面(保持面)において、局所的に高温となる温度特異点の発生を抑制することができ、第1の面における均熱性を向上させることができる。
【0013】
ここで、空洞部の第1の方向(軸方向)における最大寸法を大きくすれば、端子パッドからベース部材までの沿面距離を長くすることはできるが、有底孔周辺における板状部材の体積減少が大きくなる。そして、有底孔周辺において、板状部材の体積減少が大きくなってしまうと、熱伝達が悪化するため、第1の面(保持面)において、局所的に高温となる温度特異点が発生するおそれがある。
【0014】
そこで、このように空洞部の第1の方向における最大寸法を規定することにより、要求される(短絡を生じさせない)沿面距離を確保しつつ、有底孔周辺における板状部材の体積減少を抑制して、有底孔周辺において、局所的に高温となる温度特異点の発生を防ぐことができ、第1の面における均熱性を向上させることができる。
【0015】
上記した保持装置において、
前記空洞部は、前記第1の方向において、前記端子パッドが配置された面を含んでいることが好ましい。
【0016】
このように空洞部を有底孔の底部に形成することにより、空洞部が有底孔の開口部側面に形成する場合に比べ、端子パッドから開口部側面に到達するまでの沿面距離が延びるため、端子パッドとベース部材との間における絶縁性をより向上させることができる。
【0017】
上記した保持装置において、
前記空洞部は、前記底部に形成され、前記有底孔の開口部から前記底部へ向かうにつれて、前記第2の方向における寸法が徐々に大きくなるテーパ部を有することが好ましい。
【0018】
こうすることにより、有底孔周辺における板状部材の体積減少を更に抑制するでき、温度傾斜が緩やかになるため、有底孔周辺において、局所的に高温となる温度特異点の発生を確実に防ぐことができ、第1の面における均熱性をより向上させることができる。
【0019】
また、有底孔及び空洞部に接着剤(シリコーン系樹脂等)を充填する場合には、空洞部に対してスムーズに隙間無く接着剤を充填することができる。これにより、空洞部の熱伝導率を高めることができるため、有底孔周辺において、局所的に高温となる温度特異点の発生をより確実に防ぐことができ、空洞部を設けたことによる第1の面における均熱性の低下を効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、端子パッドからベース部材までの沿面距離を長くして端子パッドとベース部材との間における絶縁性を向上させるととともに、保持面における均熱性を向上させることができる保持装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第1実施形態の静電チャックの概略斜視図である。
【
図2】第1実施形態の静電チャックのXZ断面の概略構成図である。
【
図3】空洞部付近(
図2のX1部)の拡大図である。
【
図4】導電層を備える静電チャックにおける空洞部付近の拡大図である。
【
図5】第2実施形態の静電チャックにおける空洞部付近の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第1実施形態]
本開示に係る実施形態である保持装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。本実施形態では、対象物である半導体ウエハWを保持する静電チャック1を例示して説明する。本実施形態の静電チャック1について、
図1~
図3を参照しながら説明する。
【0023】
本実施形態の静電チャック1は、半導体ウエハW(対象物)を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば、半導体製造装置の真空チャンバー内で半導体ウエハWを固定するために使用される。
図1に示すように、静電チャック1は、板状部材10と、ベース部材20と、板状部材10とベース部材20とを接合する接合層40とを有する。
【0024】
なお、以下の説明においては、説明の便宜上、
図1に示すようにXYZ軸を定義する。ここで、Z軸は、静電チャック1の軸線方向(
図1において上下方向)の軸であり、X軸とY軸は、静電チャック1の径方向の軸である。そして、Z軸方向は、本開示の「第1の方向」の一例であり、径方向(X軸方向とY軸方向)は、本開示の「第2の方向」の一例である。
【0025】
板状部材10は、
図1に示すように、円盤状の部材であり、材料としてはセラミックスを用いてもよい。セラミックスとしては、様々なセラミックスが用いられるが、強度や耐摩耗性、耐プラズマ性等の観点から、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ、Al
2O
3)または窒化アルミニウム(AlN)を主成分とするセラミックスが用いられることが好ましい。なお、ここでいう主成分とは、含有割合の最も多い成分(例えば、体積含有率が90vol%以上の成分)を意味する。
【0026】
また、板状部材10の直径は、上段部が例えば150~300mm程度であり、下段部が例えば180~350mm程度である。板状部材10の厚さは、例えば2~6mm程度である。なお、板状部材10の熱伝導率は、10~50W/mK(より好ましくは、18~30W/mK)の範囲内が望ましい。
【0027】
図1、
図2に示すように、板状部材10は、半導体ウエハWを保持する保持面11と、板状部材10の厚み方向(Z軸方向に一致する方向、上下方向)について保持面11とは反対側に設けられる下面12とを備えている。なお、保持面11は本開示の「第1の面」の一例であり、下面12は本開示の「第2の面」の一例である。
【0028】
板状部材10の内部には、
図2、
図3に示すように、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン等)により形成されたチャック電極13が設けられている。Z軸方向視でのチャック電極13の形状は、例えば略円形である。チャック電極13に対して図示しない電源から電圧が印加されることによって、静電引力が発生し、この静電引力によりウエハWが板状部材10の保持面11に吸着固定される。
【0029】
また、板状部材10の内部には、
図2に示すように、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン等)により形成された抵抗発熱体で構成されたヒータ電極14が設けられている。Z軸方向視でのヒータ電極14の形状は、例えば略螺旋状である。
【0030】
なお、ヒータ電極14の線幅は、例えば、0.1~10mm程度、ヒータ電極14の厚さ(Z軸方向の寸法)は、例えば、0.02~3mm程度である。このようなヒータ電極14に図示しない電源から電圧が印加されることによって、ヒータ電極14が発熱し、保持面11が加熱されることにより、保持面11の保持された半導体ウエハWが加熱される。
【0031】
そして、板状部材10の下面12には、有底孔15が形成されている。この有底孔15は、円形凹部であり、Z軸方向視で、後述するベース部材20の貫通孔25に重なる領域が、保持面11側へ凹んだ形状をなしている。また、有底孔15の直径は、例えば7~8mmである。この有底孔15の底部15bには、端子パッド30が配置されている。Z軸方向視における端子パッド30の形状は、例えば、略円形である。本実施形態では、例えば、
図2に示すように、一方の端子パッド30は、ビア31を介して、チャック電極13に電気的に接続され、他方の端子パッド30は、ビア31を介して、ヒータ電極14に電気的に接続されている。端子パッド30及びビア31は、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン等)により形成されている。なお、端子パッド30は、
図2、
図3に示すように、厚さ方向(Z軸方向)の全体が板状部材10から露出している。但し、端子パッド30の下面が板状部材10から露出している限りにおいて、端子パッド30における厚さ方向の一部分又は全体が、板状部材10に埋設されていてもよい。
【0032】
また、有底孔15の底部15bには、空洞部16が形成されている。すなわち、空洞部16は、Z軸方向において、端子パッド30が配置された面を含んでいる。この空洞部16は、有底孔15の内周面15aよりも径方向外側へ拡がる円環状の空間であり、有底孔15の開口部から底部15bへ向かうにつれて、径方向における寸法が徐々に大きくなるテーパ部16aを有している。すなわち、空洞部16は、断面が三角形の円環状空間である。また、空洞部16の直径は、例えば9~10mmである。このような空洞部16が形成されていることにより、端子パッド30からベース部材20までの沿面距離CDを長くすることができる。
【0033】
ベース部材20は、
図1に示すように円柱状、詳しくは、直径の異なる2つの円柱が、大きな直径の円柱状の上面部の上に小さな直径の円柱状の下面部が載せられるようにして、同軸に(中心軸を共通にして)重ねられて形成された段付きの円柱状である。このベース部材20は、金属(例えば、アルミニウムやアルミニウム合金等)により形成されていることが好ましいが、金属以外であってもよい。
【0034】
そして、
図1、
図2に示すように、ベース部材20は、上面21と、ベース部材20(板状部材10)のZ軸方向について上面21とは反対側に設けられる下面22と、を備えている。なお、上面21は本開示の「第3の面」の一例であり、下面22は本開示の「第4の面」の一例である。
【0035】
ベース部材20の直径は、上段部が例えば150mm~300mm程度であり、下段部が例えば180mm~350mm程度である。また、ベース部材20の厚さ(Z軸方向の寸法)は、例えば20mm~50mm程度である。なお、ベース部材20(アルミニウムを想定)の熱伝導率は、板状部材10よりも大きく、180~250W/mK(好ましくは、230W/mK程度)の範囲内が望ましい。
【0036】
また、
図2に示すように、ベース部材20には、冷媒(例えば、フッ素系不活性液体や水等)を流すための冷媒流路23が形成されている。そして、冷媒流路23は、ベース部材20の下面22に設けられた不図示の供給口と排出口とに接続しており、供給口からベース部材20に供給された冷媒が、冷媒流路23内を流れて排出口からベース部材20の外へ排出される。このようにして、ベース部材20の冷媒流路23内に冷媒を流すことにより、ベース部材20が冷却され、これにより、接合層40を介して板状部材10が冷却される。
【0037】
そして、ベース部材20には、上面21と下面22との間を厚み方向(Z軸方向、
図2において上下方向)に貫通する円筒形状の貫通孔25が形成されている。貫通孔25には、電極端子35と、絶縁部材36とが配置されている。
【0038】
ここで、電極端子35は、Z軸方向に延びる柱状の端子であり、本実施形態では、例えば断面(面方向に平行な断面)形状が円形である。電極端子35の上端は、端子パッド30まで達しており、電極端子35は、例えば金属ろう材によって端子パッド30に接合されている。
【0039】
絶縁部材36は、ベース部材20と電極端子35との間を絶縁するものである。この絶縁部材36は、電極端子35と貫通孔25の表面との間に介在するように、電極端子35を連続的に取り囲んでいる。絶縁部材36は、例えば、樹脂やセラミックス等の絶縁材料により構成されている。本実施形態では、絶縁部材36の熱伝導率は、板状部材10の熱伝導率より低い(すなわち、板状部材10の熱伝導率は、絶縁部材36の熱伝導率より高い)。
【0040】
なお、絶縁部材36の周り、具体的には、絶縁部材36と電極端子35との間や、絶縁部材36と板状部材10との間、絶縁部材36とベース部材20との間、及び空洞部16には、接着剤70が充填されている(
図3参照)。接着剤70は、例えばシリコーン系樹脂やアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等の接着剤により構成されており、絶縁部材36を電極端子35や板状部材10、ベース部材20に接合する。
【0041】
接合層40は、
図1、
図2に示すように、板状部材10の下面12とベース部材20の上面21との間に配置され、板状部材10とベース部材20とを接合している。この接合層40を介して、板状部材10の下面12とベース部材20の上面21とが熱的に接続されている。
【0042】
この接合層40は、例えばシリコーン系樹脂やアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等の接着材により構成されている。なお、接合層40の厚さ(Z軸方向の寸法)は、例えば0.1~1.0mm程度である。また、接合層40の熱伝導率は、例えば1.0W/mKである。なお、接合層40(シリコーン系樹脂を想定)の熱伝導率は、0.1~2.0W/mK(好ましくは、0.5~1.5W/mK)の範囲内が望ましい。
【0043】
また、接合層40には、
図3に示すように、接合層40をZ軸方向に貫通する貫通孔45が形成されている。この貫通孔45を介して、ベース部材20の貫通孔25と有底孔15とが連通している。つまり、ベース部材20に形成された貫通孔25と板状部材10に形成された有底孔15とは、接合層40に形成された貫通孔45を介して互いに連通した一体の孔を構成している。
【0044】
上記のような構成を有する静電チャック1では、有底孔15の底部15bに径方向へ拡がる空洞部16を有するため、端子パッド30が配置された位置からベース部材20に至るまでの沿面距離CDを長くすることができる。これにより、本実施形態の静電チャック1によれば、端子パッド30とベース部材20との間の短絡の発生を抑制することができ、端子パッド30とベース部材20との間における絶縁性を向上させることができる。これにより、静電チャック1における絶縁破壊の発生を防止することができる。
【0045】
そして、沿面距離CDを長くするために設けた空洞部16は、従来装置のようにZ軸方向ではなく径方向に設けられているので、板状部材10の厚み(体積)が減少しない。すなわち、有底孔15の底部15bと端子パッド30に最も近い内部電極(本実施形態では、ヒータ電極14)との距離が変化しない(短くならない)。そのため、端子パッド30と内部電極(本実施形態では、ヒータ電極14)の間の短絡の発生を抑制することができ、静電チャック1における絶縁破壊の発生を防止することができる。
【0046】
なお、本実施形態では、保持面11の均熱化を図るために、ヒータ電極14への給電経路としてのランドパターンである導電層を備えていないが、
図4に示すように、導電層60を備えている場合には、導電層60が有底孔15の底部15bと端子パッド30に最も近い内部電極となる。この場合、端子パッド30と導電層60とがビア31を介して電気的に接続され、導電層60とヒータ電極14とがビア32を介して電気的に接続される。このように導電層60を備える場合に、空洞部16を設けても板状部材10の厚みが減少しないため、有底孔15の底部15bと導電層60との距離が変化しない(短くならない)ので、端子パッド30と導電層60との間の短絡の発生を抑制することができる。なお、導電層60は、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン等)により形成されている。
【0047】
ここで、保持面11において、有底孔15の配置領域(有底孔15の直上位置)は、他の領域よりも高温になりやすい。有底孔15の配置領域には、貫通孔25及び貫通孔45が存在するため、他の領域よりも熱伝達が悪く冷却され難いからである。そして、従来装置のように、有底孔15の配置領域において板状部材10の厚みが更に減少すると、保持面11の有底孔15の配置領域において、局所的に高温となる温度特異点が非常に発生し易くなる。
【0048】
ところが、本実施形態の静電チャック1では、空洞部16は、径方向外側へ拡がるように形成されているため、有底孔15の配置領域において板状部材10の厚みが減少することがない。そのため、保持面11において、有底孔15の配置領域で、板状部材10の体積減少による熱伝達の悪化が生じない。従って、保持面11において、有底孔15の配置領域付近で、局所的に高温となる温度特異点の発生を抑制することができるため、保持面11における均熱性を向上させることができる。
【0049】
そして、空洞部16が有底孔15の開口部から底部15bへ向かうにつれて、径方向における寸法が徐々に大きくなるテーパ部16aを有するため、有底孔15の周辺における板状部材10の体積減少を更に抑制することができる。そのため、保持面11において有底孔15の周辺で、局所的に高温となる温度特異点の発生を確実に防ぐことができ、保持面11における均熱性をより向上させることができる。
【0050】
また、空洞部16がテーパ部16aを有するため、絶縁部材36を電極端子35や板状部材10、ベース部材20に接合する接着剤70を、空洞部16に対してスムーズに隙間無く充填することができる。これにより、空洞部16の熱伝導率を高めることができるため、保持面11において有底孔15の周辺で、局所的に高温となる温度特異点の発生をより確実に防ぐことができ、空洞部16を設けたことによる保持面11における均熱性の低下を効果的に抑制することができる。
【0051】
なお、空洞部16のZ軸方向又は径方向における最大寸法を大きくすれば、端子パッド30からベース部材20までの沿面距離CDが長くなる一方、有底孔15の周辺における板状部材10の体積減少が大きくなってしまう。そして、有底孔15の周辺において、板状部材10の体積減少が大きくなってしまうと、熱伝達が悪化するため、保持面11において、局所的に高温となる温度特異点が発生するおそれがある。
【0052】
そのため、空洞部16のZ軸方向における最大寸法は、有底孔15のZ軸方向における寸法の1/2以下であることが好ましい。また、有底孔15の径方向における寸法は、空洞部16の径方向における最大寸法の1/2以上かつ1以下であることが好ましい。このように空洞部16のZ軸方向における最大寸法、及び有底孔15の径方向における寸法を規定することにより、要求される(短絡を生じさせない)沿面距離を確保しつつ、有底孔15の周辺における板状部材10の体積減少を抑制して、保持面11において有底孔15の周辺で、局所的に高温となる温度特異点の発生を防ぐことができ、保持面11における均熱性を向上させることができる。
【0053】
以上のように、本実施形態の静電チャック1によれば、有底孔15の底部15bに、径方向へ有底孔15の内周面15aよりも外側に拡がる空洞部16が形成されている。そのため、有底孔15の配置領域において、板状部材10の厚みを減少させることなく、端子パッド30からベース部材20までの沿面距離CDを長くすることができる。これにより、端子パッド30とベース部材20との間における絶縁性、及び端子パッド30と内部電極との間における絶縁性を向上させるとともに、保持面11における均熱性を向上させることができる。
【0054】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態では、空洞部の配置位置が第1実施形態とは異なる。すなわち、第2実施形態では、空洞部116を有底孔15の底部15bではなく、有底孔15の開口部側面である内周面15aに設けている。そこで、第1実施形態と同様の構成については同符号を付して説明を適宜省略し、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0055】
本実施形態の静電チャックでは、
図5に示すように、有底孔15の内周面15aに、径方向外側に拡がる空洞部116が形成されている。この空洞部116は、有底孔15の内周面15aよりも径方向外側へ拡がる円環状の空間である。そして、空洞部116は、テーパ部16aを有している。また、空洞部116内には、接着剤70が充填されている。
【0056】
このような空洞部116を形成しても、端子パッド30からベース部材20までの沿面距離CDを長くすることができる。これにより、本実施形態の静電チャックでも、端子パッド30とベース部材20との間の短絡の発生を抑制することができ、端子パッド30とベース部材20との間における絶縁性を向上させることができる。
【0057】
そして、沿面距離CDを長くするために設けた空洞部116は、従来装置のようにZ軸方向ではなく径方向に設けられているので、板状部材10の厚み(体積)が減少しない。すなわち、有底孔15の底部15bと端子パッド30に最も近い内部電極(本実施形態では、ヒータ電極14)との距離が変化しない(短くならない)。そのため、端子パッド30と内部電極(本実施形態では、ヒータ電極14)の間の短絡の発生を抑制することができる。このように本実施形態でも、静電チャックにおける絶縁破壊の発生を防止することができる。
【0058】
また、空洞部116がテーパ部16aを有するため、有底孔15の周辺における板状部材10の体積減少を更に抑制することができる。そのため、保持面11において有底孔15の周辺で、温度傾斜が緩やかになるので、局所的に高温となる温度特異点の発生を確実に防ぐことができ、保持面11における均熱性をより向上させることができる。
【0059】
さらに、空洞部116がテーパ部16aを有するため、接着剤70を、空洞部116に対してスムーズに隙間無く充填することができる。これにより、空洞部16の熱伝導率を高めることができるため、保持面11において有底孔15の周辺で、局所的に高温となる温度特異点の発生をより確実に防ぐことができ、空洞部116を設けたことによる保持面11における均熱性の低下を効果的に抑制することができる。
【0060】
以上のように、本実施形態の静電チャックによれば、有底孔15の内周面15aに、径方向へ有底孔15の内周面15aよりも外側に拡がる空洞部116が形成されている。そのため、有底孔15の配置領域において、板状部材10の厚みを減少させることなく、端子パッド30からベース部材20までの沿面距離CDを長くすることができる。これにより、端子パッド30とベース部材20との間における絶縁性、及び端子パッド30と内部電極との間における絶縁性を向上させるとともに、保持面11における均熱性を向上させることができる。
【0061】
なお、上記の実施形態は単なる例示にすぎず、本開示を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。例えば、上記の実施形態では、本開示を静電チャックに適用した場合を例示したが、本開示は、静電チャックに限られることなく、表面に対象物を保持する保持装置全般について適用することができる。
【0062】
また、上記の実施形態では、空洞部16,116にテーパ部16aを備える場合を例示したが、空洞部16,116はテーパ部16aを備えてなくてもよい。すなわち、空洞部16,116には、内周面15aよりも径方向外側へ拡がる横穴(断面が横長の長方形の円環状空間)であってもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 静電チャック
10 板状部材
11 保持面
12 下面
13 チャック電極
14 ヒータ電極
15 有底孔
15a 内周面
15b 底部
16 空洞部
16a テーパ部
20 ベース部材
25 貫通孔
30 端子パッド
35 電極端子
36 絶縁部材
116 空洞部
CD 沿面距離
W 半導体ウエハ