(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】航空機用空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 9/18 20060101AFI20241113BHJP
B60C 9/08 20060101ALI20241113BHJP
B60C 9/22 20060101ALI20241113BHJP
B60C 9/20 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
B60C9/18 H
B60C9/08 D
B60C9/22 G
B60C9/20 C
(21)【出願番号】P 2020192348
(22)【出願日】2020-11-19
【審査請求日】2023-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100164448
【氏名又は名称】山口 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】市原 永司
(72)【発明者】
【氏名】河内 直人
(72)【発明者】
【氏名】田村 純太朗
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-088590(JP,A)
【文献】特開2004-256097(JP,A)
【文献】特開平09-226313(JP,A)
【文献】特開平11-139111(JP,A)
【文献】特開平10-193915(JP,A)
【文献】特開2002-211208(JP,A)
【文献】特開2007-137119(JP,A)
【文献】特開平05-193306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/18
B60C 9/08
B60C 9/22
B60C 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部と、
前記一対のビード部間にトロイダル状に跨る1枚以上のカーカスプライからなるカーカスと、
前記カーカスのクラウン部のタイヤ径方向外側に配置された3層以上のベルト層からなるベルトと、を備えた、航空機用空気入りタイヤであって、
前記ベルトは、
第1のベルトコードがゴム被覆されたリボン状の第1のストリップ部材がタイヤ周方向にらせん状に巻回された状態である、1層以上のスパイラルベルト層と、
第2のベルトコードがゴム被覆されたリボン状の第2のストリップ部材が、一方のタイヤ幅方向端から他方のタイヤ幅方向端に向かって延在し、他方のタイヤ幅方向端で折り返されて、他方のタイヤ幅方向端から一方のタイヤ幅方向端に向かって延在し、一方のタイヤ幅方向端で折り返されて、一方のタイヤ幅方向端から他方のタイヤ幅方向端に向かって延在することが繰り返されるように、タイヤ周方向にらせん状に巻回された状態である、2層以上のジグザグベルト層と、を有し、
前記ジグザグベルト層は、1層以上の内側ジグザグベルト層と、前記内側ジグザグベルト層よりもタイヤ径方向外側に配置された1層以上の外側ジグザグベルト層と、を有し、
前記ベルト層は、タイヤ径方向内側から、前記内側ジグザグベルト層、前記スパイラルベルト層、及び前記外側ジグザグベルト層の順に配置され、
前記ベルト層のうち、前記内側ジグザグベルト層が、タイヤ幅方向の最大幅を有
し、
前記ジグザグベルト層の前記第2のベルトコードの弾性率は、前記スパイラルベルト層の前記第1のベルトコードの弾性率よりも小さいことを特徴とする、航空機用空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記1層以上の内側ジグザグベルト層のいずれの層のタイヤ幅方向の幅も、前記スパイラルベルト層及び前記外側ジグザグベルト層のうちタイヤ幅方向の最大幅を有する前記ベルト層のタイヤ幅方向の幅よりも大きい、請求項1に記載の航空機用空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ジグザグベルト層の前記第2のベルトコードは、ナイロンからなり、前記スパイラルベルト層の前記第1のベルトコードは、アラミドからなる、請求項1又は2に記載の航空機用空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機用空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、航空機用空気入りタイヤとして、一対のビードコアと、両ビードコア間にトロイダルに伸びる一枚以上のカーカスプライからなるラジアルカーカスを備え、トレッド部のラジアルカーカスの半径方向外側に、トレッド補強部材としてベルト層を有し、ベルト層が、リボン状の有機繊維を略周方向(タイヤ赤道面に対して5°以下の傾斜角度)で巻いた、スパイラルベルト層、及び、スパイラルベルト層のタイヤ径方向外側に配置された、リボン状の有機繊維をタイヤ赤道面に対して5~30°程度の角度で傾斜させて巻き付け、ベルトの両端部で折り返しながら巻いた、ジグザグベルト層からなり、ジグザグベルト層の幅が、スパイラルベルト層の幅よりも小さいものとした構造が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで近年、環境意識の高まりにより、航空機用空気入りタイヤにおいても、タイヤの長寿命化が強く求められている。タイヤの長寿命化には、摩耗性能の改良が有効である。この点、特許文献1に記載の技術では、上記ジグザグベルト層の幅は、スパイラルベルト層の幅よりも小さいものとしているため、タイヤに横力が入った際に、ジグザグベルト層の面内の剪断変形が大きくなってしまう。このため、航空機が旋回する際に、タイヤが横方向に大きく変形し、旋回時の摩耗性能が悪化することが課題となっていた。
【0005】
これに対し、上記のベルト構造において、単にジグザグベルト層の幅を大きくすると、ジグザグベルト層のベルト端近辺で、タイヤ外表面からジグザグベルト層までの距離が小さくなってしまい、早期にジグザグベルト層が露出することになる。また、ジグザグベルト層をスパイラルベルト層よりもタイヤ径方向内側に配置することも考えられるが、この場合、大きな張力を負担しているスパイラルベルト層がタイヤ径方向の最外層に位置することとなり、尖った異物がタイヤに刺さった際、ベルトコードが損傷しやすくなる懸念がある。
【0006】
そこで、本発明は、航空機の旋回時の摩耗性能を向上し、タイヤの摩耗時にベルトが露出しにくいようにし、さらに、ベルトが異物からの損傷を受けにくいようにすることによって、タイヤの長寿命化を達成することのできる、航空機用空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨構成は、以下の通りである。
(1)一対のビード部と、
前記一対のビード部間にトロイダル状に跨る1枚以上のカーカスプライからなるカーカスと、
前記カーカスのクラウン部のタイヤ径方向外側に配置された3層以上のベルト層からなるベルトと、を備えた、航空機用空気入りタイヤであって、
前記ベルトは、
第1のベルトコードがゴム被覆されたリボン状の第1のストリップ部材がタイヤ周方向にらせん状に巻回された状態である、1層以上のスパイラルベルト層と、
第2のベルトコードがゴム被覆されたリボン状の第2のストリップ部材が、一方のタイヤ幅方向端から他方のタイヤ幅方向端に向かって延在し、他方のタイヤ幅方向端で折り返されて、他方のタイヤ幅方向端から一方のタイヤ幅方向端に向かって延在し、一方のタイヤ幅方向端で折り返されて、一方のタイヤ幅方向端から他方のタイヤ幅方向端に向かって延在することが繰り返されるように、タイヤ周方向にらせん状に巻回された状態である、2層以上のジグザグベルト層と、を有し、
前記ジグザグベルト層は、1層以上の内側ジグザグベルト層と、前記内側ジグザグベルト層よりもタイヤ径方向外側に配置された1層以上の外側ジグザグベルト層と、を有し、
前記ベルト層は、タイヤ径方向内側から、前記内側ジグザグベルト層、前記スパイラルベルト層、及び前記外側ジグザグベルト層の順に配置され、
前記ベルト層のうち、前記内側ジグザグベルト層が、タイヤ幅方向の最大幅を有することを特徴とする、航空機用空気入りタイヤ。
【0008】
ここで、本明細書において、各ベルト層のタイヤ幅方向の幅は、航空機用空気入りタイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした状態(以下、基準状態ともいう)でのタイヤ幅方向断面におけるタイヤ幅方向の幅をいうものとする。
【0009】
本明細書において、「適用リム」とは、米国のTRA(The Tire and Rim Association, Inc.)が発行する、最新版のAIRCRAFT YEAR BOOKまたは最新版のEDI(Engineering Design Information for Aircraft Tires)(本明細書における数値の記載は、2017年度版を使用)に記載されているまたは将来的に記載される、適用サイズにおける標準リム(Design Rim)を指すが、上記規格に記載のないサイズの場合は、タイヤに適用されるリムをいう。
また、「規定内圧」とは、上記規格に記載されている、適用サイズ・プライレーティングにおける単輪の最大負荷能力に対応する空気圧(最高空気圧)を指し、上記規格に記載のないサイズの場合は、「規定内圧」は、タイヤを装着する車両毎に規定される最大負荷能力に対応する空気圧(最高空気圧)をいうものとする。
【0010】
(2)前記1層以上の内側ジグザグベルト層のいずれの層のタイヤ幅方向の幅も、前記スパイラルベルト層及び前記外側ジグザグベルト層のうちタイヤ幅方向の最大幅を有する前記ベルト層のタイヤ幅方向の幅よりも大きい、上記(1)に記載の航空機用空気入りタイヤ。
【0011】
(3)前記ジグザグベルト層の前記第2のベルトコードの弾性率は、前記スパイラルベルト層の前記第1のベルトコードの弾性率よりも小さい、上記(1)又は(2)に記載の航空機用空気入りタイヤ。
ここで、本明細書における、ベルトコードの弾性率は、規格番号 JIS L 1017:2002(化学繊維タイヤコード試験方法)に準拠して、コード単線が0.5%伸びた時の傾き(s-s曲線)から算出したコード単線の弾性率(cN/dtex)にコード単線の太さ(dtex)を掛け、さらにタイヤに配置されたコードの、1cm幅あたりのコード単線の打ち込み本数を掛けた1cm幅あたりのコード弾性率(N/cm)を指す。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、航空機の旋回時の摩耗性能を向上し、タイヤの摩耗時にベルトが露出しにくいようにし、さらに、ベルトが異物からの損傷を受けにくいようにすることによって、タイヤの長寿命化を達成することのできる、航空機用空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる航空機用空気入りタイヤのタイヤ幅方向断面図である。
【
図3】スパイラルベルト層について説明するための図である。
【
図4】ジグザグベルト層について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の航空機用空気入りタイヤ(以下、単にタイヤとも称する)の実施形態について、図面を参照して詳細に例示説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態にかかる航空機用空気入りタイヤのタイヤ幅方向断面図である。
図2は、
図1のベルト部分の拡大図である。
図1、
図2は、タイヤ1を適用リム40に装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした、基準状態でのタイヤ幅方向断面を示している。
図2は、タイヤ赤道面CLを境界とするタイヤ幅方向の一方の半部の一部の断面図であるが、本例では他方の半部についても同様の構成である。
【0016】
図1に示すように、このタイヤ1は、一対のビード部5と、一対のビード部5間にトロイダル状に跨る1枚以上のカーカスプライからなるカーカス7と、カーカス7のクラウン部7bのタイヤ径方向外側に配置された3層以上のベルト層10と、を備えている。ベルト層10のタイヤ径方向外側にはトレッドゴム38からなるトレッド部3が配置されており、トレッド部3には、一対のサイドウォール部4が連なっている。
【0017】
ビード部5にはビードコア6が埋設されている。図示例では、ビードコア6は、環状のケーブルビードからなる。図示例では、ビードコア6は、断面円形状である。ビードワイヤは、例えば、高炭素の鋼線を用いることができる。また、本例では、ビードコア6のタイヤ径方向外側に、ビードフィラ61が配置されている。ビードフィラ61は、タイヤ径方向内側から外側に向かって、タイヤ幅方向の幅が先細りする、断面略三角形状をなしているが、ビードフィラ61は、様々な断面形状とすることができる。ビードフィラ61には、例えば、1種類以上の任意の既知の硬ゴムを用いることができる。
【0018】
カーカス7は、1枚以上(例えば4~7枚)のカーカスプライ7aからなる。本例では、カーカス7は、ラジアルカーカスである。
【0019】
カーカス7は、1枚以上のカーカスプライ7aが重ねられたものであって、例えば4~7枚のカーカスプライ7aが重ねられてその両端部が、ビードコア6の周囲にタイヤ径方向内側から外側に巻き上げられて固定されている。本実施形態のタイヤ1では、ナイロンコードからなるカーカスプライ7aが7層重ねられている。
【0020】
また、カーカス7のクラウン部7bのタイヤ径方向外側に、3層以上のベルト層からなるベルト10が設けられている。ベルト10の外周面にはトレッドゴム38が貼り付けられてトレッド部3とされる。
【0021】
ベルト10は、1層以上のスパイラルベルト層12と、2層以上のジグザグベルト層11、13とを有している。ジグザグベルト層は、1層以上の内側ジグザグベルト層11と、内側ジグザグベルト層11よりもタイヤ径方向外側に配置された1層以上の外側ジグザグベルト層13と、を有する。ベルト層は、タイヤ径方向内側から、内側ジグザグベルト層11、スパイラルベルト層12、及び外側ジグザグベルト層13の順に配置されている。図示例では、ベルト10は、2層の内側ジグザグベルト層11a、11b、4層のスパイラルベルト層12a、12b、12c、12d、及び2層の外側ジグザグベルト層13a、13bの、合計8層のベルト層からなる。ただし、ベルト層の層数は、上記に限定されるものではなく、例えば、内側ジグザグベルト層の層数を1~4層とし、スパイラルベルト層の層数を1~8とし、外側ジグザグベルト層の層数を1~4層とすることができる。軽量化の観点からはベルト層の総層数は、10層以下であることが好ましい。
【0022】
ここで、スパイラルベルト層12について説明する。
図3は、スパイラルベルト層について説明するための図である。
図3に示すように、スパイラルベルト層12は、第1のベルトコード12bがゴム被覆されたリボン状の第1のストリップ部材12aがタイヤ周方向にらせん状に巻回された状態のものである。
【0023】
第1のベルトコード12bとしては、アラミドのような芳香族ポリアミドによる有機繊維コードが用いることができ、または、ナイロンのような脂肪族ポリアミド、または、アラミドのような芳香族ポリアミドとナイロンのような脂肪族ポリアミドとの組み合わせで作製されるハイブリッド繊維コードを用いることもできる。
【0024】
脂肪族ポリアミド繊維と芳香族ポリアミド繊維とのハイブリッドコードとしては、脂肪族ポリアミド繊維からなるヤーンと芳香族ポリアミド繊維からなるヤーンとを撚り合わせたものでもよく、予め脂肪族ポリアミド繊維と芳香族ポリアミド繊維を複合化したヤーンに撚りを加えたものでもよい。
【0025】
スパイラルベルト層12は、生タイヤのカーカス7のクラウン部7bに、ストリップ部材12aが、隣接するストリップ部材12aとの間に隙間が生じないように、タイヤ幅方向に所定量ずれながら、タイヤ周方向にらせん巻きされて形成される。第1のベルトコード12bのタイヤ周方向に対する傾斜角度は、例えば5°以下となる。
【0026】
スパイラルベルト層12が複数層からなる場合、ストリップ部材12aは、スパイラルベルト層12の幅方向端縁12cまで巻かれると折り返されて、外周面に次の層として巻き始められ、他方の幅方向端縁12cに向かって巻き付けられ、これにより積層されていく。
【0027】
次に、内側ジグザグベルト層11及び外側ジグザグベルト層13について説明する。
図4は、ジグザグベルト層について説明するための図である。
図4では、内側ジグザグベルト層11を例にとって示しているが、外側ジグザグベルト層13についても同様である。ジグザグベルト層11は、第2のベルトコード11bがゴム被覆されたリボン状の第2のストリップ部材11aが、一方のタイヤ幅方向端11cから他方のタイヤ幅方向端11cに向かって延在し、他方のタイヤ幅方向端11cで折り返されて、他方のタイヤ幅方向端11cから一方のタイヤ幅方向端11cに向かって延在し、一方のタイヤ幅方向端11cで折り返されて、一方のタイヤ幅方向端11cから他方のタイヤ幅方向端11cに向かって延在することが繰り返されるように、タイヤ周方向にらせん状に巻回された状態のものである。
【0028】
第2のベルトコード11bとしては、アラミドのような芳香族ポリアミドによる有機繊維コードが用いることができ、または、ナイロンのような脂肪族ポリアミド、または、アラミドのような芳香族ポリアミドとナイロンのような脂肪族ポリアミドとの組み合わせで作製されるハイブリッド繊維コードを用いることもできる。
【0029】
脂肪族ポリアミド繊維と芳香族ポリアミド繊維とのハイブリッドコードとしては、脂肪族ポリアミド繊維からなるヤーンと芳香族ポリアミド繊維からなるヤーンとを撚り合わせたものでもよく、予め脂肪族ポリアミド繊維と芳香族ポリアミド繊維を複合化したヤーンに撚りを加えたものでもよい。
【0030】
図2に戻って、本実施形態のタイヤでは、ベルト層のうち、内側ジグザグベルト層11(本例では、内側ジグザグベルト層11b)が、タイヤ幅方向の最大幅W1を有している。特に、本例では、1層以上の内側ジグザグベルト層のいずれの層11a、11bのタイヤ幅方向の幅も、スパイラルベルト層12及び外側ジグザグベルト層13のうちタイヤ幅方向の最大幅を有するベルト層(本例ではスパイラルベルト層12b)のタイヤ幅方向の幅W2よりも大きい。
以下、本実施形態の航空機用空気入りタイヤの作用効果について説明する。
【0031】
本実施形態の航空機用空気入りタイヤでは、まず、本実施形態のタイヤでは、ベルト層のうち、内側ジグザグベルト層11(本例では、内側ジグザグベルト層11b)が、タイヤ幅方向の最大幅を有しているため、内側ジグザグベルト層11、ひいてはベルト10の面内剪断剛性を大きく確保して、航空機の旋回時のタイヤの幅方向の変形を抑制し、旋回時の摩耗性能を向上させることができる。そして、そのようなタイヤ幅方向の最大幅W1を有する内側ジグザグベルト層11bは、外側ジグザグベルト層13及びスパイラルベルト層12よりもタイヤ径方向内側に配置されているため、タイヤ外表面からの距離を確保することができ、摩耗進展時に内側ジグザグベルト層11bが露出しにくくなる。さらには、タイヤ径方向最外側には、スパイラルベルト層ではなく張力の負担の小さい外側ジグザグベルト層13が配置されているため、尖った異物からの損傷を受けにくくなる。
以上のように、本実施形態の航空機用空気入りタイヤによれば、航空機の旋回時の摩耗性能を向上し、タイヤの摩耗時にベルトが露出しにくいようにし、さらに、ベルトが異物からの損傷を受けにくいようにすることによって、タイヤの長寿命化を達成することができる。
【0032】
ここで、1層以上の内側ジグザグベルト層のいずれの層のタイヤ幅方向の幅も、スパイラルベルト層及び外側ジグザグベルト層のうちタイヤ幅方向の最大幅を有するベルト層のタイヤ幅方向の幅W2よりも大きいことが好ましい。内側ジグザグベルト層、ひいてはベルトの面内剪断剛性をさらに大きく確保して、航空機の旋回時のタイヤの幅方向の変形をさらに抑制し、旋回時の摩耗性能をさらに向上させることができるからである。
【0033】
また、ジグザグベルト層の第2のベルトコードの弾性率は、スパイラルベルト層の前記第1のベルトコードの弾性率よりも小さいことが好ましい。折り返し構造を有するジグザグベルト層の折り返し端においては大きな応力が発生して故障が生じやすいため、弾性率の小さいベルトコードを用いることで、応力を低下させて故障の発生を抑制することができるからである。外側ジグザグベルト層及び内側ジグザグベルト層の少なくとも一方の第2のベルトコードの弾性率が、スパイラルベルト層の第1のベルトコードの弾性率よりも小さいことが好ましいが、外側ジグザグベルト層及び内側ジグザグベルト層の両方の第2のベルトコードの弾性率が、スパイラルベルト層の第1のベルトコードの弾性率よりも小さいことが特に好ましい。例えば、このような弾性率の関係にするために、ジグザグベルト層の第2のベルトコードの材質をアラミドコードとし、スパイラルベルト層の第1のベルトコードの材質をナイロンコードとすることも好ましい。
【0034】
ここで、タイヤ幅方向の最大幅を有する内側ジグザグベルト層のタイヤ幅方向の幅W1は、スパイラルベルト層及び外側ジグザグベルト層のうちタイヤ幅方向の最大幅を有するベルト層のタイヤ幅方向の幅W2の102~110%であることが好ましい。102%以上とすることにより旋回時の摩耗性能をさらに向上させることができ、一方で、110%以下とすることにより軽量化を図ることができるからである。
【0035】
また、タイヤ幅方向の最大幅を有する内側ジグザグベルト層のタイヤ幅方向の幅W1は、トレッド幅の90~110%であることが好ましい。90%以上とすることにより旋回時の摩耗性能をさらに向上させることができ、一方で、110%以下とすることにより軽量化を図ることができるからである。トレッド幅とは、室温で、最大負荷荷重、規定内圧条件で接地させた際の接地端間のタイヤ幅方向の距離をいう。
【0036】
本例では、外側ジグザグベルト層13a、13bのタイヤ幅方向の幅は、いずれもスパイラルベルト層のうちタイヤ幅方向の幅が最小のスパイラルベルト層のタイヤ幅方向の幅より小さくなっている。これにより、摩耗進展時に外側ジグザグベルト層が露出しにくくすることができる。ただし、この場合に限られるものではなく、いずれか又は全てのスパイラルベルト層のタイヤ幅方向の幅が、外側ジグザグベルト層のいずれか又は全ての外側ジグザグベルト層のタイヤ幅方向の幅より小さくても良い。
【実施例】
【0037】
本発明の効果を確かめるため、タイヤサイズH44.5×16.5×R21である発明例タイヤ及び比較例タイヤを試作した。発明例タイヤ及び比較例タイヤは、ナイロンからなる5枚のカーカスプライからなるカーカスを有する。発明例タイヤは、タイヤ径方向内側から、2層の内側ジグザグベルト層、6層のスパイラルベルト層、2層の外側ジグザグベルト層を有するベルト構造とした。比較例タイヤは、6層のスパイラルベルト層のタイヤ径方向外側に2層のジグザグベルト層を有するベルト構造とした。発明例タイヤ及び比較例タイヤにおいて、ジグザグベルト層のベルトコードは、ナイロンコードとし、スパイラルベルト層のベルトコードはアラミドコードとした。タイヤ幅方向の最大幅を有する内側ジグザグベルト層のタイヤ幅方向の幅W1は、スパイラルベルト層及び外側ジグザグベルト層のうち、タイヤ幅方向の最大幅を有する層のタイヤ幅方向の幅W2の103%とした。
【0038】
発明例タイヤ及び比較例タイヤに対し、以下の試験を行った。
<旋回時の摩耗性能>
一般に、旋回時の摩耗性能はコーナリングパワーの2乗に比例することが知られているため、シミュレーションでコーナリングパワーを予測した。スリップアングルを2度付与した際の横力を計算した。
<摩耗時のベルトの露出の有無>
最も単純なモデルでは、ベルト露出までの走行距離は、トレッド表面からベルトまでの距離に比例すると考えられる。そこで、トレッド表面からベルトまでの距離(最短距離)を測定した。
【0039】
発明例タイヤでは、比較例対比で、コーナリングパワーが10%向上し、トレッド表面からベルトまでの距離は比較例と同等の結果となった。
【符号の説明】
【0040】
1:航空機用空気入りタイヤ、
3:トレッド部、
38:トレッドゴム、
4:サイドウォール部、
5:ビード部、
6:ビードコア、
61:ビードフィラ、
7:カーカス、
7a:カーカスプライ、
7b:クラウン部、
10:ベルト、
11:内側ジグザグベルト層、
12:スパイラルベルト層、
13:外側ジグザグベルト層、
40:適用リム