(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】フッ化ビニリデン重合体組成物およびその製造方法、樹脂組成物、電極合剤、ならびにこれらを含む電極およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 27/16 20060101AFI20241113BHJP
C08K 5/3415 20060101ALI20241113BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20241113BHJP
C08F 14/22 20060101ALI20241113BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241113BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20241113BHJP
H01M 4/04 20060101ALI20241113BHJP
H01M 4/02 20060101ALI20241113BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20241113BHJP
【FI】
C08L27/16
C08K5/3415
C08L101/00
C08F14/22
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/04 A
H01M4/02 Z
H01M4/13
(21)【出願番号】P 2020198127
(22)【出願日】2020-11-30
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 民人
(72)【発明者】
【氏名】上遠野 正孝
(72)【発明者】
【氏名】岡田 佳余子
(72)【発明者】
【氏名】長澤 善幸
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/173373(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/154449(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/054273(WO,A1)
【文献】特開2005-350621(JP,A)
【文献】特表2011-527375(JP,A)
【文献】国際公開第2020/054274(WO,A1)
【文献】特開2016-033913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/00- 27/24
C08L 101/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
H01M 4/00- 4/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が130℃以上であるフッ化ビニリデン重合体
と、界面活性剤と、を含むフッ化ビニリデン重合体組成物であって、
前記フッ化ビニリデン重合体組成物と、N-メチル-2-ピロリドンとを混合して、前記フッ化ビニリデン重合体の含有率が6質量%であるフッ化ビニリデン重合体分散液を調製したとき、
平行平板型レオメータにより、せん断速度100s
-1で測定されるN-メチル-2-ピロリドンの30℃における粘度に対する、平行平板型レオメータにより、せん断速度100s
-1で測定される前記フッ化ビニリデン重合体分散液の30℃における粘度の比が20以下であり、
前記フッ化ビニリデン重合体分散液を攪拌してから、15分間静置前後の前記フッ化ビニリデン重合体分散液の上部40体積%の領域の前記フッ化ビニリデン重合体の含有率の変化率が、2質量%以下である、
フッ化ビニリデン重合体組成物。
【請求項2】
前記フッ化ビニリデン重合体が、フッ化ビニリデン由来の構造単位を90質量%以上含む、
請求項1に記載のフッ化ビニリデン重合体組成物。
【請求項3】
前記界面活性剤が、疎水基が非パーフルオロ系であり、
かつ親水基がイオン性である界面活性剤
である、
請求項1または2に記載のフッ化ビニリデン重合体組成物。
【請求項4】
前記フッ化ビニリデン重合体および前記界面活性剤の合計量100質量部に対して、前記界面活性剤の量が0.001質量部以上3質量部以下である、
請求項
1に記載のフッ化ビニリデン重合体組成物。
【請求項5】
前記フッ化ビニリデン重合体分散液を25℃から80℃まで昇温速度5℃/分で加熱しながら、平行平板型レオメータにて前記フッ化ビニリデン重合体分散液のせん断粘度を、せん断速度100s
-1で測定したとき、
30℃におけるせん断粘度の5倍のせん断粘度となる温度が、35℃以上60℃以下である、
請求項1~4のいずれか一項に記載のフッ化ビニリデン重合体組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のフッ化ビニリデン重合体組成物と、
他の樹脂と、
を含み、
前記他の樹脂は、前記フッ化ビニリデン重合体以外のフッ化ビニリデン系重合体、ポリアクリロニトリル、ニトリルゴム、ポリ(メタ)アクリル酸およびそのエステル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ならびにセルロースエーテルからなる群より選択される少なくとも一種の重合体である、
樹脂組成物。
【請求項7】
未処理フッ化ビニリデン重合体が水に分散したラテックスを得る工程と、
前記ラテックス中に、疎水基が非パーフルオロ系であり、親水基がイオン性である界面活性剤が存在する状態で、前記ラテックスを前記未処理フッ化ビニリデン重合体の融点未満、前記融点-20℃以上の温度(ただし100℃以上)で加熱する工程と、
を含
み、
前記未処理フッ化ビニリデン重合体は、フッ化ビニリデン重合体の調製後、乾燥を意図しない加熱処理を行っておらず、かつ他の成分との混合がなされていないものである、
フッ化ビニリデン重合体組成物の製造方法。
【請求項8】
前記ラテックスを得る工程後、前記加熱する工程前に、前記界面活性剤を添加する工程をさらに有する、
請求項7に記載のフッ化ビニリデン重合体組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか一項に記載のフッ化ビニリデン重合体組成物と、
活物質と、
分散媒と、
を含む、電極合剤。
【請求項10】
請求項6に記載の樹脂組成物と、
活物質と、
分散媒と、
を含み、
前記樹脂組成物中の前記重合体が、前記分散媒に溶解している、電極合剤。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか一項に記載のフッ化ビニリデン重合体組成物、または請求項6に記載の樹脂組成物と、
活物質と、
を含む合剤層を有する、電極。
【請求項12】
請求項1~5のいずれか一項に記載のフッ化ビニリデン重合体組成物、または請求項6に記載の樹脂組成物と、活物質と、分散媒とを混合し、電極合剤を得る工程と、
前記電極合剤を集電体上に塗布して乾燥する工程と、
を含み、
前記電極合剤を調製してから塗布するまでの間、前記電極合剤の温度を60℃以下に保持する、
電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化ビニリデン重合体組成物およびその製造方法、樹脂組成物、電極合剤、ならびにこれらを含む電極およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池等の電極において、集電体に活物質を結着するための結着剤として、ポリフッ化ビニリデン(以下、「PVDF」とも称する)が広く使用されている。このような電極はPVDF、活物質、およびN-メチル-2-ピロリドン(以下、「NMP」とも称する)等の溶媒を含む電極合剤を集電体上に塗布し、溶媒を除去することで形成される。このとき、溶媒の除去が不十分であると、電池性能の低下を招きやすい。ただし、溶媒の十分な除去には時間がかかる、という生産コスト上の課題があった。
【0003】
そこで、PVDF等と混合するNMP量低減によるコスト削減、および乾燥時間短縮による生産性向上が考えられる。しかしながら、一般的なPVDFはNMPに膨潤・溶解しやすい。そのため、電極合剤の粘度が上昇しやすく、電極合剤の塗布性を担保するために、NMP量の低減は難しかった。
【0004】
これに対し、特許文献1や特許文献2には、NMPに対する溶解性を低減したフッ化ビニリデン重合体が提案されている。これらの文献では、フッ化ビニリデン重合体の結晶性を高めることで、NMPに対する膨潤・溶解性を低減し、電極合剤におけるNMP使用量を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-041065号公報
【文献】国際公開第2020/054274号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、NMPに対する膨潤・溶解性が低いフッ化ビニリデン重合体を用いて合剤層を形成した場合、得られる電極表面の平滑性が低くなりやすいことが明らかとなった。本発明は、当該課題を鑑みてなされたものである。N-メチル-2-ピロリドンに対して膨潤したり溶解したりし難く、さらに表面が平滑な電極を形成可能なフッ化ビニリデン重合体組成物、樹脂組成物、電極合剤、およびその製造方法等の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、融点が130℃以上であるフッ化ビニリデン重合体を含むフッ化ビニリデン重合体組成物であって、前記フッ化ビニリデン重合体組成物と、N-メチル-2-ピロリドンとを混合して、前記フッ化ビニリデン重合体の含有率が6質量%であるフッ化ビニリデン重合体分散液を調製したとき、平行平板型レオメータにより、100s-1のせん断速度で測定したN-メチル-2-ピロリドンの30℃における粘度に対する、平行平板型レオメータにより、100s-1のせん断速度で測定した前記フッ化ビニリデン重合体分散液の30℃における粘度の比が20以下であり、前記フッ化ビニリデン重合体分散液を攪拌してから、15分間静置前後の前記フッ化ビニリデン重合体分散液の上部40体積%の領域の前記フッ化ビニリデン重合体の含有率の変化率が、2質量%以下である、フッ化ビニリデン重合体組成物を提供する。
【0008】
本発明は、上記フッ化ビニリデン重合体組成物と、他の樹脂と、を含み、前記他の樹脂は、前記フッ化ビニリデン重合体以外のフッ化ビニリデン系重合体、ポリアクリロニトリル、ニトリルゴム、ポリ(メタ)アクリル酸およびそのエステル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ならびにセルロースエーテルからなる群より選択される少なくとも一種の重合体である、樹脂組成物も提供する。
【0009】
本発明は、未処理フッ化ビニリデン重合体が水に分散したラテックスを得る工程と、前記ラテックス中に、疎水基が非パーフルオロ系であり、かつ親水基がイオン性である界面活性剤が存在する状態で、前記ラテックスを前記未処理フッ化ビニリデン重合体の融点未満、前記融点-20℃以上の温度(ただし100℃以上)で加熱する工程と、を含む、フッ化ビニリデン重合体組成物の製造方法も提供する。
【0010】
本発明は、上記フッ化ビニリデン重合体組成物と、活物質と、分散媒と、を含む、電極合剤も提供する。さらに、本発明は、上記樹脂組成物と、活物質と、分散媒と、を含み、前記樹脂組成物中の前記重合体が、前記分散媒に溶解している、電極合剤も提供する。
【0011】
本発明は、上記フッ化ビニリデン重合体組成物、または上記樹脂組成物と、活物質と、を含む合剤層を有する、電極も提供する。
【0012】
本発明は、上記フッ化ビニリデン重合体組成物または上記樹脂組成物と、活物質と、分散媒とを混合し、電極合剤を得る工程と、前記電極合剤を集電体上に塗布して乾燥する工程と、を含み、前記電極合剤を調製してから塗布するまでの間、前記電極合剤の温度を60℃以下に保持する、電極の製造方法も提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のフッ化ビニリデン重合体組成物は、N-メチル-2-ピロリドンに対して膨潤・溶解し難く、電極合剤の分散媒(NMP)使用量を抑制することができる。また、当該フッ化ビニリデン重合体組成物によれば、表面が平滑な電極を形成可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.フッ化ビニリデン重合体組成物
本発明のフッ化ビニリデン重合体組成物は、融点が130℃以上であるフッ化ビニリデン重合体を少なくとも含む組成物であればよい。当該組成物は、通常、25℃で固体状であることが好ましい。なお、本明細書において、組成物が25℃で固体状であるとは、組成物の主な構成成分が25℃で固体状であることを意味し、本発明の目的および効果を損なわない範囲において、液体状の成分(例えば界面活性剤等)を一部に含んでいてもよい。
【0015】
当該フッ化ビニリデン重合体組成物は、例えば二次電池の電極の合剤層の結着剤等として特に有用である。ただし、フッ化ビニリデン重合体組成物の用途は、結着剤に限定されない。
【0016】
前述のように、一般的なフッ化ビニリデン重合体とNMPとを含む電極合剤では、フッ化ビニリデン重合体がNMPに膨潤・溶解しやすく、少量のNMPで低粘度の電極合剤を得ることが難しかった。これに対し、フッ化ビニリデン重合体を、NMPに膨潤・溶解し難くする技術が提案されている。しかしながら、当該フッ化ビニリデン重合体を用いた電極合剤を塗布し、合剤層を形成すると、得られる電極表面の平滑性が低くなりやすかった。
【0017】
本発明者らが鋭意検討したところ、上述の特許文献1や特許文献2に記載のNMPへの膨潤・溶解性が低いフッ化ビニリデン重合体は、NMP中で沈降しやすいことが明らかとなった。NMP中で沈降しやすいということは、分散したフッ化ビニリデン重合体の粒子が大きいことを意味する。ここで、フッ化ビニリデン重合体粒子を含む電極合剤を集電体に塗布すると、当該電極合剤を固化させるまでの間に活物質が沈降し、フッ化ビニリデン重合体粒子は相対的に浮上する傾向にあると想定される。そして、集電体上に塗布された電極合剤を加熱すると、通常フッ化ビニリデン重合体粒子は、NMPによって膨潤し、その後、膨潤状態から溶解状態へ移行する。フッ化ビニリデン重合体粒子が溶解状態となると、フッ化ビニリデン重合体が電極合剤中に広く分散されると考えられる。しかしながら、上述の粒子径の大きいフッ化ビニリデン重合体粒子は、電極合剤を固化させる加熱の際に、NMPへの膨潤による電極合剤の中での体積変化が大きい。そして、膨潤状態から溶解状態に移行する前にNMPが揮発する。したがって、電極表面近傍に浮上したフッ化ビニリデン重合体が広く分散する前に電極合剤が固化するため、重合体粒子径に相当する大きさの空隙が合剤層の表面に生じやすかった。そのため、電極表面の平滑性が低くなっていた。
【0018】
これに対し、以下の物性を満たすフッ化ビニリデン重合体組成物は、合剤層の形成に使用するNMPに膨潤・溶解し難く、さらに当該フッ化ビニリデン重合体組成物を用いて合剤層を形成すると、表面平滑性の高い電極が得られることが見出された。具体的には、本発明のフッ化ビニリデン重合体組成物は、NMPと混合して、フッ化ビニリデン重合体の含有率が6質量%であるフッ化ビニリデン重合体分散液を25℃にて調製したとき、NMPの30℃における粘度Yに対する、フッ化ビニリデン重合体分散液の30℃における粘度Xの比(X/Y)が20以下となる。上記粘度の比(X/Y)が20以下であることは、フッ化ビニリデン重合体組成物が30℃においてNMPに膨潤・溶解し難いことを意味する。つまり、フッ化ビニリデン重合体組成物およびNMPを含む電極合剤を調製した際に、30℃においてはその粘度が高まり難い。したがって、電極合剤中のNMP量を低減でき、NMPのコストが削減され、生産性向上可能となる。上記粘度の比(X/Y)は、10以下がより好ましく、5以下がさらに好ましい。
【0019】
なお、上記NMPの30℃における粘度Y、およびフッ化ビニリデン重合体分散液の30℃における粘度Xは、それぞれ平行平板型レオメータ(パラレルプレート:50mm、ギャップ間距離:0.5mm)を使用し、せん断速度100s-1で測定される。
【0020】
ここで、本発明のフッ化ビニリデン重合体組成物は、30℃においてNMPに溶解しないことが好ましいが、後述のように、60℃を超える温度では、NMPに膨潤・溶解しやすいことが好ましい。したがって、30℃におけるフッ化ビニリデン重合体組成物の膨潤性や溶解性を確認する場合、すなわち上記粘度測定の際には、フッ化ビニリデン重合体分散液の調製から粘度測定終了まで、フッ化ビニリデン重合体分散液の温度を60℃以下に維持することが好ましい。上記分散液の温度は50℃以下に維持することがさらに好ましく、40℃以下に維持することがより好ましい。
【0021】
また、本発明のフッ化ビニリデン重合体組成物は、上述のフッ化ビニリデン重合体分散液を25℃で攪拌してから、直径1cmの円筒容器に高さ5cmの分散液を15分間静置したとき、静置前後のフッ化ビニリデン重合体分散液の上部40体積%の領域のフッ化ビニリデン重合体の含有率の変化率が2質量%以下となる。静置前後の含有率の変化は、NMP中におけるフッ化ビニリデン重合体組成物の沈降しやすさを表し、その変化率が小さいほど、フッ化ビニリデン重合体組成物がNMP中で沈降し難いといえる。そして、本発明のフッ化ビニリデン重合体組成物では、上記変化率が2質量%以下であるため、フッ化ビニリデン重合体組成物とNMPとを含む電極合剤中で沈降し難く、フッ化ビニリデン重合体組成物の粒径が小さいといえる。したがって、当該フッ化ビニリデン重合体組成物を含む電極合剤を塗布して加熱したときに、フッ化ビニリデン重合体組成物が、過度にNMPに膨潤することなく、溶解状態へ移行するため、乾燥時の電極の体積変化が小さい。その結果、得られる合剤層、ひいては電極の表面平滑性が良好になる。上記含有率の変化率は1.7質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がさらに好ましい。
【0022】
フッ化ビニリデン重合体分散液の含有率の変化は、以下のように測定する。直径1cmの円筒容器に高さ5cmのフッ化ビニリデン重合体分散液を入れ、25℃で、マグネチックスターラーで10分間攪拌する。そして、攪拌処理を行っている状態にあるフッ化ビニリデン重合体分散液を、撹拌を続けた状態で一部を採取して分散液中のフッ化ビニリデン重合体の含有率を測定する(静置前のフッ化ビニリデン重合体の含有率W1)。その後、当該フッ化ビニリデン重合体分散液を25℃で15分間静置する。そして、当該フッ化ビニリデン重合体分散液の上部40体積%の領域のフッ化ビニリデン重合体分散液を分取して、フッ化ビニリデン重合体の含有率を測定する(静置後のフッ化ビニリデン重合体の含有率W2)。そして、下式によって含有率の変化率を算出する。
【数1】
分散液の含有率を測定する方法としては、例えば、分取した分散液を窒素循環させた130℃の恒温槽に2時間静置して乾燥させた際の、乾燥前後の重量の比から求めることができる。
【0023】
ここで、本発明のフッ化ビニリデン重合体組成物は、フッ化ビニリデン重合体のみで構成されていてもよいが、フッ化ビニリデン重合体の周囲に、特定の界面活性剤が存在してもよい。フッ化ビニリデン重合体組成物が、フッ化ビニリデン重合体とともに特定の界面活性剤を含むと、沈降が抑制されやすくなる。以下、フッ化ビニリデン重合体組成物中の成分や、その調製方法等について、詳しく説明する。
【0024】
(1)フッ化ビニリデン重合体
本発明のフッ化ビニリデン重合体組成物が含むフッ化ビニリデン重合体は、フッ化ビニリデン由来の構造単位を含み、かつ融点が130℃以上である化合物である。当該フッ化ビニリデン重合体は、フッ化ビニリデンの単独重合体であってもよく、フッ化ビニリデンと他の単量体との共重合体であってもよい。ただし、フッ化ビニリデン重合体の融点を130℃以上にするとの観点で、フッ化ビニリデン重合体の全構造単位に対するフッ化ビニリデン由来の構造単位の量は90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましく、フッ化ビニリデンの単独重合体であることが特に好ましい。フッ化ビニリデンと組み合わせる他の単量体の種類にもよるが、通常、フッ化ビニリデン重合体中のフッ化ビニリデン由来の構造単位の量が多くなると、融点が高まりやすくなる。上記フッ化ビニリデン由来の構造単位の質量分率は、フッ化ビニリデン重合体を19F-NMRで分析することにより特定することができる。
【0025】
ここで、フッ化ビニリデンと共重合可能な他の単量体の例には、フッ化ビニリデン以外の含フッ素単量体、エチレンおよびプロピレン等の炭化水素系単量体;(メタ)アクリル酸アルキル化合物、マレイン酸モノメチルおよびマレイン酸ジメチル等の不飽和二塩基酸誘導体;カルボン酸無水物基含有単量体;等が含まれる。例えば、アクリロイロキシエチルコハク酸、メタクリロイロキシエチルコハク酸、アクリロイロキシプロピルコハク酸、メタクリロイロキシプロピルコハク酸、アクリロイロキシエチルフタル酸、メタクリロイロキシエチルフタル酸、2-カルボキシエチル(メタ)アクリル酸等を用いてもよい。
【0026】
含フッ素単量体の例には、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ヘキサフルオロエチレン、フルオロアルキルビニルエーテル、およびパーフルオロメチルビニルエーテルに代表されるパーフルオロアルキルビニルエーテル等が含まれる。
【0027】
また、フッ化ビニリデン重合体の融点は130℃以上であればよいが、140℃以上175℃以下がより好ましく、150℃以上175℃以下がさらに好ましい。フッ化ビニリデン重合体の融点は、フッ化ビニリデン重合体の結晶性に依存し、結晶性が高いと、融点が高くなる。
【0028】
上記フッ化ビニリデン重合体の融点は、示差走査熱量計(DSC)による熱量測定によって特定できる。具体的には、フッ化ビニリデン重合体を、30℃から230℃まで、5℃/分で昇温(1回目の昇温)し、230℃から30℃まで5℃/分で降温(1回目の冷却)し、さらに30℃から230℃まで、5℃/分で昇温(2回目の昇温)して、DSCにより融解ピークを特定する。そして、1回目の昇温で観察される最大融解ピーク温度Tm1を、フッ化ビニリデン重合体の融点として特定する。
【0029】
また、上記フッ化ビニリデン重合体は、DSCによる熱量測定における1回目の昇温で得られる示差走査熱量測定曲線におけるピーク面積ΔHが45.0J/g以上であることが好ましく、47.0J/g以上であることがより好ましい。フッ化ビニリデン重合体のΔHが上記範囲であると、フッ化ビニリデン重合体の結晶成分量が多くなり、25℃においてフッ化ビニリデン重合体組成物がNMPに膨潤・溶解しにくくなる。
【0030】
ここで、フッ化ビニリデン重合体の重量平均分子量は、10万~1000万であることが好ましく、20万~500万であることがより好ましく、30万~200万がさらに好ましい。上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される、ポリスチレン換算値である。
【0031】
フッ化ビニリデン重合体組成物において、上記フッ化ビニリデン重合体は、粒子状であることが好ましい。フッ化ビニリデン重合体組成物を25℃でNMP等の溶媒に分散させた場合、当該分散液中でのフッ化ビニリデン重合体は、一次粒子であることが多い。当該分散液について動的光散乱法で決定される、フッ化ビニリデン重合体の粒子の平均一次粒子径は5μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましく、1μm以下がさらに好ましい。一方、上記平均一次粒子径は、0.01μm以上が好ましく、0.05μm以上がより好ましく、0.1μm以上がさらに好ましい。フッ化ビニリデン重合体の粒子の平均一次粒子径が5μm以下であるとNMP中に分散した時の沈降を抑制することができ、その粒子を用いた電極の表面平滑性が良好になりやすい。
【0032】
上記平均一次粒子径は、動的光散乱法の正則化解析によって算出される。例えば、BECKMAN COULTER社製 DelsaMaxCOREを使用して、JIS Z8828に準拠して、分散媒を水、測定温度を25℃として測定できる。また、正則化解析によって得られる最も大きいピークを平均一次粒子径とする。
【0033】
ここで、フッ化ビニリデン重合体組成物中のフッ化ビニリデン重合体の量は、97質量%以上99.9質量%以下が好ましく、98質量%以上99.9質量%以下がより好ましい。フッ化ビニリデン重合体の量が当該範囲であると、フッ化ビニリデン重合体組成物を電極の合剤層の形成に用いた際、合剤層と集電体との接着性を良好にできる。
【0034】
(2)界面活性剤
上述のように、フッ化ビニリデン重合体組成物は、特定の界面活性剤をさらに含んでいてもよい。当該界面活性剤は、フッ化ビニリデン重合体の周囲全てを覆っていてもよく、一部のみを覆っていてもよい。なお、当該界面活性剤は、上述のフッ化ビニリデン重合体の重合に使用する界面活性剤と同一であってもよく、異なるものであってもよい。
【0035】
ここで、フッ化ビニリデン重合体組成物が含む界面活性剤は、疎水基が非パーフルオロ系であり、かつ親水基がイオン性である化合物が好ましい。フッ化ビニリデン重合体の周囲に、このような界面活性剤が存在すると、フッ化ビニリデン重合体組成物とNMP等の溶媒とを混合したときに、沈降し難くなり、表面が平滑な電極が得やすくなる。
【0036】
ここで、界面活性剤の疎水基は、非パーフルオロ系であればよく、例えばアルキル基、アルキルベンゼン基、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が含まれる。これらの中でもフッ化ビニリデン重合体との親和性や入手容易性等の観点で、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ラウリル基等が好ましい。
【0037】
一方、親水基はイオン性の基であれば特に制限されず、その例には、カルボキシ基や、スルホ基、硫酸基等のアニオン性の基、および第4級アンモニウム基、アルキルアミン等のカチオン性の基が含まれる。これらの中でも、加熱工程におけるラテックスの安定性という観点で、硫酸基が好ましい。
【0038】
親水基がアニオン性である界面活性剤の具体例には、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸等が含まれる。
【0039】
親水基がカチオン性である界面活性剤の具体例には、ステアリルアミンアセテート、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド等が含まれる。フッ化ビニリデン重合体組成物は、上記界面活性剤を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。これらの中でもアニオン性の界面活性剤がより好ましい。
【0040】
フッ化ビニリデン重合体組成物が含む界面活性剤の量は、フッ化ビニリデン重合体と界面活性剤との合計量に対して、0.001質量%以上3質量%以下が好ましく、0.01質量%以上2質量%以下がより好ましい。界面活性剤の量が3質量%以下であると、フッ化ビニリデン重合体組成物を電極の合剤層の形成に用いた際、合剤層と集電体との接着性を良好にできる。界面活性剤の量は、1H NMRによって測定される。
【0041】
(3)フッ化ビニリデン重合体組成物の物性
本発明のフッ化ビニリデン重合体組成物は、上述の物性(フッ化ビニリデン重合体分散液の粘度、および静置時の含有率の変化)を満たせばよいが、フッ化ビニリデン重合体組成物と、NMPとを混合して、フッ化ビニリデン重合体の含有率が6質量%であるフッ化ビニリデン重合体分散液を調製したとき、フッ化ビニリデン重合体分散液が以下のせん断粘度をさらに満たすことが好ましい。具体的には、上記フッ化ビニリデン重合体分散液を、平行平板型レオメータ(パラレルプレート:50mm、ギャップ間距離:0.5mm)を使用して25℃から80℃まで5℃/分の昇温速度で加熱しながら、100s-1のせん断速度で各温度におけるせん断粘度を測定したとき、30℃におけるせん断粘度の5倍のせん断粘度に達する温度が、35℃以上60℃以下であることが好ましい。30℃におけるせん断粘度の5倍のせん断粘度に達する温度は、40℃以上60℃以下がより好ましく、45℃以上60℃以下がさらに好ましい。フッ化ビニリデン重合体分散液のせん断粘度が上記範囲であると、フッ化ビニリデン重合体組成物が低温(35℃未満)ではNMPに膨潤・溶解し難くなり、温度が上昇するとNMPに膨潤・溶解しやすくなる。したがって、このようなフッ化ビニリデン重合体組成物を電極合剤に用いると、電極合剤作製時(35℃未満)の電極合剤の粘度を低い値に保つことができるため、NMPの使用量を抑制でき、生産性向上できるとともに、合剤乾燥時には、フッ化ビニリデン重合体組成物は溶媒に膨潤・溶解し、所望の接着性を得ることができる。
【0042】
なお、上記フッ化ビニリデン重合体分散液の30℃におけるせん断粘度は、3mPa・s以上100mPa・s以下が好ましく、3mPa・s以上20mPa・s以下がより好ましい。上記フッ化ビニリデン重合体分散液の30℃におけるせん断粘度が上記範囲であると、フッ化ビニリデン重合体組成物を含む電極合剤の低温(35℃未満)での粘度上昇を抑え、電極の塗布性を維持しながら分散媒(NMP)の使用量を抑制することができる。
【0043】
(4)フッ化ビニリデン重合体組成物の製造方法
上述の物性を満たすフッ化ビニリデン重合体組成物は、例えば以下の方法で製造できる。ただし、上述のフッ化ビニリデン重合体組成物の製造方法は、以下の方法に限定されない。
【0044】
上述のフッ化ビニリデン重合体組成物の製造方法は、未処理フッ化ビニリデン重合体が水に分散したラテックスを得る工程(以下、「ラテックス調製工程」とも称する)と、当該ラテックス中に、疎水基が非パーフルオロ系であり、親水基がイオン性である界面活性剤が存在する状態で、ラテックスを未処理フッ化ビニリデン重合体の融点未満、当該融点-20℃以上の温度で加熱する工程(以下、「加熱工程」とも称する)と、を含む。さらに、加熱後のラテックスから水を除去する工程(以下、「乾燥工程」とも称する)を含むことが好ましい。また、ラテックス調製工程後、加熱工程前に、疎水基が非パーフルオロ系であり、親水基がイオン性である界面活性剤をラテックスに添加する工程(以下、「界面活性剤添加工程」とも称する)を行うことが好ましい。また、必要に応じて、これら以外の工程をさらに含んでいてもよい。
【0045】
(ラテックス調製工程)
ラテックス調製工程では、未処理フッ化ビニリデン重合体が水に分散したラテックスを調製する。本明細書において、未処理フッ化ビニリデン重合体とは、一般的な方法によって調製されたフッ化ビニリデン重合体を指し、フッ化ビニリデン重合体の調製後、乾燥を意図しない加熱処理を行っておらず、かつ他の成分との混合等がなされていないものをいう。当該未処理フッ化ビニリデン重合体は、上述のフッ化ビニリデン重合体と実質的に同様の組成を有する。ただし、当該未処理フッ化ビニリデン重合体を後述の加熱工程等で加熱することによって、その結晶状態等が変化するため、上述のフッ化ビニリデン重合体とは、物性等が異なる。
【0046】
未処理フッ化ビニリデン重合体は、フッ化ビニリデンの単独重合体であってもよく、フッ化ビニリデンと他の単量体との共重合体であってもよい。また、未処理フッ化ビニリデン重合体の融点(以下、「Tm」とも称する)は130℃以上が好ましく、140℃以上175℃以下がより好ましく、150℃以上175℃以下がさらに好ましい。未処理フッ化ビニリデン重合体の融点は、上述のフッ化ビニリデン重合体の融点の測定方法と同様に測定できる。
【0047】
また、当該未処理フッ化ビニリデンおよび水を含むラテックスの調製方法としては、市販の未処理フッ化ビニリデン重合体を公知の分散方法によって水に分散させてもよい。また、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法もしくはマイクロサスペンション重合法等で調製した未処理フッ化ビニリデン重合体を、公知の分散方法によって水に分散させてもよい。未処理フッ化ビニリデン重合体は、凍結粉砕や分級等によって微粉化処理してから、水と混合してもよい。
【0048】
一方、フッ化ビニリデンと、必要に応じて他の単量体とを、水中で乳化重合法により重合し、これをラテックスとして用いてもよい。乳化重合法では、フッ化ビニリデンと、必要に応じて他の単量体と、水と、乳化剤とを混合し、当該混合液に水に可溶な重合開始剤を添加し、フッ化ビニリデンと他の単量体等とを重合させる。乳化剤や重合開始剤には、公知の化合物を使用できる。
【0049】
なお、乳化重合法は、ソープフリー乳化重合法、ミニエマルション重合法等であってもよい。ソープフリー乳化重合法とは、上記のような通常の乳化剤を用いることなく乳化重合する方法である。また、ミニエマルション重合法とは、超音波発振器等を用いて強いせん断力をかけて、フッ化ビニリデン等の単量体の油滴をサブミクロンサイズまで微細化し、重合を行なう方法である。このとき、微細化された単量体の油滴を安定化させるために、公知のハイドロホーブを混合液に添加する。
【0050】
ここで、上記いずれの乳化重合法においても、得られる未処理フッ化ビニリデン重合体の重合度を調節するために、連鎖移動剤を用いてもよい。また、必要に応じてpH調整剤を用いてもよい。
【0051】
また、必要に応じて沈降防止剤、分散安定剤、腐食防止剤、防カビ剤、湿潤剤等の他の任意成分を用いてもよい。これらの任意成分の添加量は、重合に用いられる全単量体の総量を100質量部に対して、5ppm~10質量部が好ましく、10ppm~7質量部がより好ましい。
【0052】
ここで、ラテックス中の未処理フッ化ビニリデン重合体の含有率は、5質量%以上70質量%以下が好ましく、10質量%以上60質量%以下がより好ましい。未処理フッ化ビニリデン重合体の含有率が5質量%以上であると、後述の乾燥工程を効率よく行うことができる。一方、70質量%以下であると、ラテックスが安定しやすくなる。
【0053】
ラテックス中の未処理フッ化ビニリデン重合体の動的光散乱法で決定される平均一次粒子径は5μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましく、1μm以下がさらに好ましい。一方、上記平均一次粒子径は、0.01μm以上が好ましく、0.05μm以上がより好ましく、0.1μm以上がさらに好ましい。ラテックス中の未処理フッ化ビニリデン重合体の平均一次粒子径は、上述のフッ化ビニリデン重合体の平均一次粒子径と同様に特定できる。
【0054】
(界面活性剤添加工程)
上述のラテックス調製工程で調製されたラテックスに、界面活性剤を添加する界面活性剤添加工程を行ってもよい。添加する界面活性剤は、疎水基が非パーフルオロ系であり、かつ親水基がイオン性である化合物とする。界面活性剤は、1種のみ添加してもよく、2種以上添加してもよい。乳化重合法で作製したラテックスが、疎水基が非パーフルオロ系であり、かつ親水基がイオン性である界面活性剤を十分な量含み、加熱処理工程前のラテックス中に上記の界面活性剤が存在していれば、必ずしも界面活性剤添加工程は必要ない。ラテックス中に、上記界面活性剤が存在すると、後の加熱工程における安定性が向上して適切な処理が可能となり、得られるフッ化ビニリデン重合体組成物をNMPに分散させたとき、沈降し難くなる。
【0055】
界面活性剤の添加量は、ラテックス中の未処理フッ化ビニリデン重合体の総量100質量部に対して、0.001質量部以上3質量部以下が好ましく、0.01質量部以上2質量部以下がより好ましい。界面活性剤の量が過度に多くなると、得られるフッ化ビニリデン重合体組成物を合剤層に使用したときに、合剤層と集電体との接着性が低下することがあるが、3質量部以下であると、上記接着性への影響は少ない。一方で、0.1質量部以上であると、熱処理時にラテックスが安定しやすくなる。なお、本工程で添加した界面活性剤のうち、余剰の成分については、後述の加熱処理工程後の透析等によって除去してもよい。
【0056】
界面活性剤を添加するときの、ラテックスの温度は、15℃以上120℃以下が好ましく、15℃以上100℃以下がより好ましい。さらに、界面活性剤の添加中や添加後、ラテックスを十分に攪拌することが好ましい。ラテックスの温度が15℃以上であると、作業性が良好になる。また、ラテックスの温度が120℃以下であると、ラテックスが安定しやすく、さらに添加する界面活性剤を加圧しなくてもよい、という利点がある。
【0057】
(加熱工程)
加熱工程では、上述のラテックス中に、上述の界面活性剤が存在する状態で、未処理フッ化ビニリデン重合体の融点(Tm)未満、Tm-20℃以上の温度(ただし100℃以上)に加熱する。加熱温度は、Tm-5℃以下、Tm-15℃以上がより好ましく、Tm-8℃以下、Tm-12℃以上がさらに好ましい。
【0058】
上記温度による加熱によって、未処理フッ化ビニリデン重合体の表面の一部が結晶化し、NMPに対する膨潤・溶解性が低下する。すなわち、上述のようにフッ化ビニリデン重合体組成物をNMPに分散させたときに粘度が高まり難くなる。
【0059】
加熱時間は、10秒以上20時間以下が好ましく、1分以上10時間以下がより好ましく、10分以上5時間以下がさらに好ましい。加熱処理時間が当該範囲であると、未処理フッ化ビニリデン重合体の結晶状態が十分に変化しやすく、上述の物性を満たすフッ化ビニリデン重合体が得られる。
【0060】
加熱方法は特に制限されず、上記ラテックスを攪拌せずに行ってもよく、攪拌しながら行ってもよい。加熱装置も特に制限されない。上述のラテックスを、オートクレーブ等を用いて加圧下で加熱してもよい。
【0061】
また、上記加熱処理後、ラテックス中に含まれる余剰の界面活性剤を透析、塩析、酸析等によって除去してもよい。例えば透析は、セルロース製の透析膜に加熱処理後のラテックスを注入し、透析膜と共に純水で満たされた水槽に浸し、一定時間ごとに水槽の純水を交換することによって行うことができる。
【0062】
(乾燥工程)
乾燥工程では、上記加熱後のラテックスから水を除去する。水の除去方法は特に制限されないが、ラテックス中のフッ化ビニリデン重合体組成物の物性等に影響を及ぼさない温度で乾燥させることが好ましい。乾燥工程は、大気圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。当該乾燥によって、上述のフッ化ビニリデン重合体組成物が得られる。また、水を除去するための装置は特に制限されず、棚段式乾燥器、コニカルドライヤー、流動層乾燥器、気流乾燥器、噴霧乾燥器、凍結乾燥機等を用いることができる。
【0063】
2.樹脂組成物
上述のフッ化ビニリデン重合体組成物は、そのまま、後述の合剤層を形成するための電極合剤に用いてもよい。一方で、上述のフッ化ビニリデン重合体組成物と、後述の合剤層調製時に溶解する、他の樹脂とを含む樹脂組成物を調製し、これを、合剤層を形成するための電極合剤に用いてもよい。上記フッ化ビニリデン重合体組成物と、他の樹脂とを含む樹脂組成物を電極合剤に用いることで、電極合剤の粘度が所望の範囲に調整されやすくなる。
【0064】
他の樹脂は、フッ化ビニリデン重合体組成物とは異なる、後述の合剤層調製時に用いる溶媒に溶解する樹脂であればよい。その例には、上記フッ化ビニリデン重合体以外のフッ化ビニリデン系重合体、ポリアクリロニトリル、ニトリルゴム、ポリ(メタ)アクリル酸およびそのエステル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ならびにセルロースエーテル等が含まれる。他の樹脂は、これらを1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0065】
他の樹脂は粒子状であることが好ましく、レーザー回折散乱法で決定されるメディアン径は0.1μm以上500μm以下が好ましく、0.5μm以上200μm以下がより好ましい。当該メディアン径は、レーザー回折散乱法によって測定できる。例えば、マイクロトラック・ベル製のマイクロトラックMT3300EXII(測定範囲0.02~2000μm)および自動試料循環器を使用し、分散媒として水を用いて測定できる。また測定に際し、他の樹脂粒子をエタノールによって湿潤させてから水に分散させてもよい。
【0066】
さらに、他の樹脂の量は、フッ化ビニリデン重合体組成物の量100質量部に対して5質量部以上2000質量部以下が好ましく、30質量部以上300質量部以下がさらに好ましい。
【0067】
また、上記フッ化ビニリデン重合体組成物と他の樹脂との混合方法は特に制限されず、例えば乾式混合してもよく、湿式混合してもよい。さらに、フッ化ビニリデン重合体組成物と他の樹脂とを混合後、ローラーコンパクター、ファーマパクター、チルソネーター、スプレードライヤーや流動層造粒装置等によって、所望の大きさの粒子に加工してもよい。
【0068】
3.電極
上述のフッ化ビニリデン重合体組成物もしくは樹脂組成物は、二次電池等の電極の合剤層の結着剤として使用できる。電極は、例えば、集電体と、当該集電体上に配置された合剤層とを含む。このとき、合剤層の形成に、上述のフッ化ビニリデン重合体組成物もしくは樹脂組成物を用いることができる。なお、当該電極は、正極用であってもよく、負極用であってもよい。
(1)集電体
負極および正極用の集電体は、電気を取り出すための端子である。集電体の材質としては、特に限定されるものではなく、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス鋼、鋼、ニッケル、チタン等の金属箔あるいは金属網等を用いることができる。また、他の媒体の表面に上記金属箔あるいは金属網等を施したものであってもよい。
【0069】
(2)電極合剤および合剤層
一方、合剤層は、上述のフッ化ビニリデン重合体組成物もしくは樹脂組成物と、活物質と、溶媒と、を混合して、電極合剤を調製し、当該電極合剤を集電体上に塗布し、乾燥させた層とすることができる。合剤層は、上記集電体の一方の面のみに形成されていてもよく、両方の面に配置されていてもよい。
【0070】
合剤層は、例えば上述のフッ化ビニリデン重合体組成物(もしくはこれを含む樹脂組成物)と、活物質とを含んでいればよく、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。他の成分の例には、導電助剤や各種添加剤等が含まれる。
【0071】
合剤層の総量に対する、フッ化ビニリデン重合体組成物の量は、0.2質量%以上20質量%以下が好ましく、0.4質量%以上10質量%以下がより好ましく、0.6質量%以上4質量%以下がさらに好ましい。フッ化ビニリデン重合体組成物の量が当該範囲であると、例えば合剤層と集電体との接着性が良好になりやすい。
【0072】
合剤層が含む活物質は、特に限定されるものではなく、例えば、従来公知の負極用の活物質(負極活物質)または正極用の活物質(正極活物質)を用いることができる。
【0073】
上記負極活物質の例には、人工黒鉛、天然黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、活性炭、又はフェノール樹脂およびピッチ等を焼成炭化したもの等の炭素材料;Cu、Li、Mg、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Cd、Ag、Zn、Hf、ZrおよびY等の金属・合金材料;ならびにGeO、GeO2、SnO、SnO2、PbO、PbO2等の金属酸化物等が含まれる。
【0074】
一方、正極活物質の例には、リチウムを含むリチウム系正極活物質が含まれる。リチウム系正極活物質の例には、LiCoO2、LiNixCo1-xO2(0<x≦1)等の一般式LiMY2(Mは、Co、Ni、Fe、Mn、Cr、およびV等の遷移金属のうち1種または2種以上、Yは、OおよびS等のカルコゲン元素)で表わされる複合金属カルコゲン化合物;LiMn2O4等のスピネル構造をとる複合金属酸化物;およびLiFePO4等のオリビン型リチウム化合物;等が含まれる。
【0075】
合剤層の総量に対する、活物質の量は、90質量%以上99.9質量%以下が好ましく、92質量%以上99質量%以下がより好ましく、94質量%以上99質量%以下がさらに好ましい。活物質の量が当該範囲であると、例えば十分な充放電容量が得られ、電池性能が良好になりやすい。
【0076】
また、導電助剤は、活物質同士、または活物質と集電体との間の導電性をより高めることができる化合物であれば特に制限されない。導電助剤の例には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、黒鉛粉末、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、およびカーボンファイバー等が含まれる。
【0077】
導電助剤の量は、その種類や電池の種類に応じて任意に設定できる。導電性の向上および導電助剤の分散性をともに高める観点から、一例において、活物質、フッ化ビニリデン重合体組成物、および導電助剤の合計量に対して、0.1質量%15質量%以下が好ましく、0.1質量%以上7質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上5質量%以下がさらに好ましい。
【0078】
添加剤の例には、リン化合物、硫黄化合物、有機酸、アミン化合物、およびアンモニウム化合物等の窒素化合物;有機エステル、各種シラン系、チタン系およびアルミニウム系のカップリング剤;等が含まれる。これらは、本発明の目的および効果を損なわない範囲の量とする。
【0079】
ここで、合剤層の厚みは特に限定されるものではなく、任意の厚みとすることができる。通常、片面当たり30~600μmが好ましく、50~500μmがより好ましく、70~350μmがさらに好ましい。また、電極合剤層の目付量は、通常50~1000g/m2が好ましく、100~500g/m2がより好ましい。
【0080】
(合剤層の形成方法)
上記合剤層は、上述のフッ化ビニリデン重合体組成物もしくは樹脂組成物と、活物質と、溶媒(分散媒)と、必要に応じて導電助剤や各種添加剤とを混合した電極合剤を調製する工程と、当該電極合剤を集電体上に塗布する工程と、これを乾燥させる工程と、を行うことで形成できる。
【0081】
上記電極合剤は、フッ化ビニリデン重合体組成物もしくは樹脂組成物と、活物質と、溶媒(分散媒)と、必要に応じて導電助剤や各種添加剤とを一度に混合して調製してもよく、一部の成分を先に混合し、後から残りの成分を混合して調製してもよい。このことき、合剤層用組成物の温度が過度に上昇しないように、温調装置を備えた混合機によって混合することが好ましい。
【0082】
また、溶媒(分散媒)は、上記フッ化ビニリデン重合体組成物もしくは樹脂組成物中のフッ化ビニリデン重合体組成物と、活物質とを分散させることが可能であり、かつフッ化ビニリデン重合体組成物もしくは樹脂組成物中のフッ化ビニリデン重合体組成物を融点未満に加熱した場合には、フッ化ビニリデン重合体組成物を溶解させることが可能であればよい。通常、NMP等の非プロトン性極性溶媒が好ましく、NMPであることが好ましい。溶媒の量は、上述の活物質の量100質量部に対して20質量部以上150質量部以下が好ましく、20質量部以上100質量部以下がより好ましく、20質量部以上45質量部以下がさらに好ましく、20質量部以上35質量部以下が特に好ましい。上述のフッ化ビニリデン重合体組成物は、NMPに対する膨潤・溶解性が低い。そのため、溶媒の量を、150質量部以下にしても、電極合剤の粘度を所望の範囲に収めることができる。なお、上記樹脂組成物を用いて電極合剤を用いた場合、電極合剤中のフッ化ビニリデン重合体組成物以外の重合体は、溶媒に溶解し、分散安定剤として機能する。
【0083】
電極合剤の粘度は、0.5Pa・s以上50Pa・s以下が好ましく、2Pa・s以上30Pa・s以下がより好ましい。電極合剤の粘度は、E型粘度計等によって測定される。電極合剤の粘度が0.5Pa・s以上であると、電極合剤を塗工して電極を得るときの液だれ・電極の塗工ムラ・塗工後の乾燥遅延を防止することができ、電極作製の作業性が良好になりやすい。また、電極合剤の粘度が50Pa・s以下であると、電極の塗布性が良好になりやすい。
【0084】
また、電極合剤の塗布方法は、特に限定されず、ドクターブレード法、リバースロール法、コンマバー法、グラビヤ法、エアーナイフ法、ダイコート法およびディップコート法等を適用することができる。
【0085】
ここで、上記電極合剤の調製から、塗布までの間、電極合剤の温度を60℃以下に保持することが好ましい。電極合剤の温度は、0℃以上50℃以下に維持することがより好ましく、5℃以上40℃以下に維持することがさらに好ましい。上述のように、フッ化ビニリデン重合体組成物は、25℃ではNMP等の溶媒(分散媒)に膨潤・溶解し難いものの、温度が上昇すると、溶解しやすくなる。そこで、電極合剤の調製から、塗布までの間、電極合剤の温度を60℃以下に保持することで、電極合剤の粘度を所望の範囲に維持できる。
【0086】
また、電極合剤の塗布後、任意の温度で加熱し、溶媒(分散媒)を乾燥させる。乾燥は、異なる温度で複数回行ってもよい。乾燥の際には、圧力を印加してもよい。加熱温度は60℃以上200℃以下が好ましく、80℃以上150℃以下がより好ましい。加熱温度を当該範囲とすると、電極合剤中のフッ化ビニリデン重合体組成物が溶媒(分散媒)に溶解し、流動性が高まる。そして、所望の接着性を有する電極を得ることができる。加熱時間は、30秒以上200分以下が好ましく、60秒以上150分以下がより好ましい。
【0087】
上記電極合剤の塗布および乾燥後、さらにプレス処理を行ってもよい。プレス処理を行うことにより、電極密度を向上させることができる。
【実施例】
【0088】
以下において、実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。これらの実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0089】
1.フッ化ビニリデン重合体組成物の調製
[実施例1、3、5、7、および9、ならびに比較例2および4]
下記のラテックス調製工程、界面活性剤添加工程、加熱処理工程、および乾燥工程を実施して、フッ化ビニリデン重合体組成物を得た。各実施例または比較例の界面活性剤処理工程で添加する界面活性剤の種類、および加熱処理工程の温度を、表1に示す。
【0090】
[実施例2、4、6、8、および10、ならびに比較例3および5]
下記のラテックス調製工程、界面活性剤添加工程、加熱処理工程、透析工程、および乾燥工程を実施して、フッ化ビニリデン重合体組成物を得た。各実施例または比較例の界面活性剤処理工程で添加する界面活性剤の種類、および加熱処理工程の温度を、表1に示す。
【0091】
[比較例1]
下記のラテックス調製工程後、界面活性剤添加工程や加熱処理工程を行うことなく、乾燥工程を実施して、フッ化ビニリデン重合体組成物を得た。
【0092】
[比較例6~8]
下記のラテックス調製工程後、界面活性剤添加工程や加熱処理工程を行うことなく、乾燥工程を実施した。その後、粉体熱処理工程をさらに実施して、フッ化ビニリデン重合体組成物を得た。
【0093】
[比較例9]
下記のラテックス調製工程および界面活性剤添加工程後、加熱処理工程を行うことなく乾燥工程を実施して、フッ化ビニリデン重合体組成物を得た。
【0094】
[比較例10]
下記のラテックス調製工程後、界面活性剤処理工程を行うことなく、加熱処理工程、および乾燥工程を実施して、フッ化ビニリデン重合体組成物を得た。
【0095】
・ラテックス調製工程
オートクレーブにイオン交換水330質量部を入れ、30分間の窒素バブリングによって脱気を行った。次に、リン酸水素二ナトリウム0.1質量部、およびパーフルオロオクタン酸アンモニウム塩(PFOA)0.8質量部を仕込み、4.5MPaまで加圧して窒素置換を3回行った。その後、酢酸エチル0.05質量部、フッ化ビニリデン(VDF)30質量部を上記オートクレーブ中に添加した。撹拌しながら80℃まで昇温させた。5質量%過硫酸アンモニウム(APS)水溶液を、APS量が0.05質量部となるように添加し、重合を開始させた。この時の缶内圧力は2.5MPaとした。缶内圧力が重合開始時の2.5MPaで維持されるように重合開始直後からVDF70質量部を連続的に添加した。添加終了後、1.5MPaまで圧力が降下したところを重合完了とし、フッ化ビニリデン重合体Aを含むラテックスを得た。得られたラテックスの固形分含有率(フッ化ビニリデン重合体Aの含有率)は21.5質量%であった。なお、固形分含有率は、ラテックス約5gをアルミ製のカップに入れ、80℃で3時間乾燥させ、その乾燥前後の重量を測定することで算出した。
【0096】
・界面活性剤添加工程
25℃において、オートクレーブにフッ化ビニリデン重合体Aのラテックス800gを分取し、その中に表1に示す界面活性剤を、それぞれ表1に示す量(フッ化ビニリデン重合体に対する量)秤量して投入した。70gの純水を用いて秤量した容器の壁面についた試料を洗い流した。表1における界面活性剤の種類については、ALS(ラウリル硫酸アンモニウム)は花王社製ラテムル(登録商標)AD-25を表し、SLS(ラウリル硫酸ナトリウム)は花王社製エマール(登録商標)0を表し、POELEA(ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸)は花王社製AKYPO(登録商標)RLM45を表す。
【0097】
・加熱処理工程
界面活性剤を含むラテックスを、オートクレーブに入れ、密封し、500rpmで撹拌しながら、ジャケット式の温調装置にて表1に示す温度まで昇温した。その後、その処理温度を1時間保持した。処理終了後、ジャケット式の温調装置を取り外し、密封したまま30℃まで空冷にて降温した。30℃を下回ったところでオートクレーブを開放し、加熱処理済みラテックスを回収した。
【0098】
・透析工程
セルロース製の透析膜(積水メディカル社製、型番:521737、分画分子量:12000~14000)に加熱処理後のラテックスを注入し、透析膜と共に純水で満たされた水槽に浸した。一定時間(1~6時間)ごとに内部の純水を交換し2日間静置した。その後、透析膜から内部のラテックスを回収した。
【0099】
・乾燥工程
得られた(ラテックス調製工程後、界面活性剤添加工程後、加熱処理工程後、もしくは透析処理後の)ラテックスを300mLナスフラスコ中に約70mL投入し、液体窒素を用いて内容液を凍結させた。続いて、凍結乾燥機(東京理化器械製FDU-2110)に凍結させたナスフラスコを取り付け、内部を減圧状態として約8時間放置した。その後、凍結乾燥機からナスフラスコを取り出し、粉体を回収した。
【0100】
・粉体熱処理工程
ラテックス調製工程後、乾燥工程のみを経て得られたPVDF粉体を、SUS製のバット(30cm×21cm×2cm)に約8g薄く広げた。その後、アルミホイルでフタをし、処理温度に設定した熱風循環炉(エタック社製 爆発ベント付恒温槽HT210)に入れ、窒素による循環をしながら1時間静置した。その後、温度保持機能を停止して100℃まで降温した後に取り出し、室温まで降温して粉体を回収した。
【0101】
2.フッ化ビニリデン重合体組成物の評価
上記のように調製したフッ化ビニリデン重合体組成物について、以下の評価を行った。
【0102】
(1)フッ化ビニリデン重合体分散液の含有率の変化率
各実施例または各比較例で得られたフッ化ビニリデン重合体組成物0.9gと、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)14.1gとを混合して、フッ化ビニリデン重合体の含有率が6質量%であるフッ化ビニリデン重合体分散液を調製した。このとき、フッ化ビニリデン重合体分散液の温度が常に20~30℃の範囲となるように、混合した。
【0103】
その後、フッ化ビニリデン重合体分散液をマグネチックスターラーによって10分間25℃で攪拌した。攪拌処理を行っている状態にあるフッ化ビニリデン重合体分散液を、撹拌を続けた状態で一部を採取して分散液中のフッ化ビニリデン重合体の含有率を測定した(静置前のフッ化ビニリデン重合体の含有率W1)。その後、25℃で直径1cmの円筒容器に高さ5cmの当該フッ化ビニリデン重合体分散液を15分間静置した。そして、当該フッ化ビニリデン重合体分散液の上部40体積%の領域のフッ化ビニリデン重合体分散液を分取してフッ化ビニリデン重合体の含有率を測定した(静置後のフッ化ビニリデン重合体の含有率W2)。下式によって含有率の変化率を算出した。分散液中のフッ化ビニリデン重合体の含有率は、分取した分散液を窒素循環させた130℃の恒温槽に2時間静置して乾燥させた際の、乾燥前後の重量の比から算出した。結果を表2に示す。
【数2】
【0104】
(2)NMPの粘度に対するフッ化ビニリデン重合体分散液の粘度の比(X/Y)
含有率の変化率の測定時と同様に、フッ化ビニリデン重合体の含有率が6質量%であるフッ化ビニリデン重合体分散液を調製した。そして、NMPの30℃における粘度Yと、フッ化ビニリデン重合体分散液の30℃における粘度Xとを、TAインスツルメント社製G2レオメータ(パラレルプレート:50mm、ギャップ間距離:0.5mm)を使用し、せん断速度100s-1で30秒間測定した。そして、X/Yの値を求めた。結果を表2に示す。また、表2には、フッ化ビニリデン重合体分散液の30℃における粘度Xも示す。
【0105】
(3)30℃におけるせん断粘度の5倍のせん断粘度となる温度(増粘温度)
含有率の変化率の測定時と同様に、フッ化ビニリデン重合体の含有率が6質量%であるフッ化ビニリデン重合体分散液を調製した。そして、フッ化ビニリデン重合体分散液の温度を25℃から80℃まで、毎分5℃の速度で昇温しながら、各温度における粘度を、TAインスツルメント製G2レオメータ(パラレルプレート:50mm、ギャップ間距離:0.5mm)にて、せん断速度100s-1で測定した。そして、各温度における粘度を30℃における粘度で除し、30℃におけるせん断粘度の5倍に達する温度を求めた。結果を表2に示す。
【0106】
(4)示差走査熱量分析測定(DSC測定)
フッ化ビニリデン重合体組成物について、メトラートレド社製DSC1を用い、JISK7122-1987に準じて示差走査熱量分析測定した。具体的には、アルミ製サンプルパンに試料約10mgを精秤し、50mL/minの流量で窒素を供給し、以下の条件で測定を実施した。
1回目の昇温:30℃から230℃まで毎分5℃の速度で昇温
1回目の冷却:230℃から30℃まで毎分5℃の速度で降温
2回目の昇温:30℃から230℃まで毎分5℃の速度で昇温
そして、1回目の昇温での最大融解ピーク温度をTm1、2回目の昇温での最大融解ピーク温度をTm2とした。また、1回目の昇温で得られる示差走査熱量測定曲線におけるピーク面積をΔHとした。結果を表3に示す。
【0107】
(5)残留界面活性剤量の測定
フッ化ビニリデン重合体組成物中の残留界面活性剤量を、以下の方法(1H NMR測定)により測定した。結果を表3に示す。
(1H NMR測定)
・装置
Bruker社製、AVANCE AC 400FT NMRスペクトルメーター
・測定条件
周波数:400MHz
測定溶媒:DMSO-d6
測定温度:25℃
1H NMRスペクトルで、主に界面活性剤のアルキル鎖末端に由来する0.85ppmに観測されるシグナルと、主としてフッ化ビニリデンに由来する2.24ppmおよび2.87ppmに観測されるシグナルとの積分強度に基づいて、各存在量を算出し、フッ化ビニリデン重合体組成物全体量に対する残留界面活性剤量の割合を算出した。
【0108】
3.電極の形成
(1)重合体Bの調製
内容量2リットルのオートクレーブにイオン交換水925g、メトローズ(登録商標)SM-100(信越化学工業社製)0.65g、50重量%ジイソプロピルペルオキシジカーボネート-フロン225cb溶液4.0g、フッ化ビニリデン421g、およびアクリロイロキシプロピルコハク酸0.22gの各量を仕込み、26℃まで1時間で昇温した。その後、26℃を維持し、3重量%アクリロイロキシプロピルコハク酸水溶液を0.19g毎分の速度で徐々に添加した。アクリロイロキシプロピルコハク酸は、初期に添加した量を含め、全量2.92gを添加した。重合は、アクリロイロキシプロピルコハク酸水溶液添加終了と同時に停止した。得られた重合体スラリーを脱水、水洗し、更に80℃で20時間乾燥して重合体Bを得た。重量平均分子量は80万、メディアン径(D50)が180μm、融点が169.3℃であった。
【0109】
(2)バインダー組成物の調製
25℃のNMP85質量部を三角フラスコに秤量した。実施例1~10、ならびに比較例7、8、および10のフッ化ビニリデン重合体組成物については、NMPをマグネチックスターラーにて撹拌しながら、それぞれ15質量部投入し、25℃で30分間撹拌して15質量%のバインダー組成物を調製した。
【0110】
一方、比較例1~6、および9のフッ化ビニリデン重合体組成物は、それぞれ6質量%となるようにNMP中に投入し、上記と同様に撹拌してバインダー組成物を調製した。
【0111】
(3)重合体B溶液の調製
25℃のNMP94質量部を三角フラスコに秤量し、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、上述の重合体Bを6質量部投入し、50℃で5時間加熱撹拌して重合体Bの溶液を調製した。
【0112】
(4)電極合剤の調製
正極活物質として日本化学工業社製のコバルト酸リチウム(C5H)を使用し、導電助剤としてイメリス・グラファイト&カーボン社製のカーボンブラック(SUPER P)を使用し、分散媒として純度99.8%のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を使用して、活物質を含む分散液を調製した。電極合剤中の固形分の配合比は、C5H:SUPER P:フッ化ビニリデン重合体組成物(PVDF):重合体B=100:2:1:1とした。PVDFには上述のバインダー組成物を使用した。
【0113】
具体的には、C5Hを20gとSUPER P0.4gをポリプロピレン容器に精秤し、シンキー製の混練機(泡取り練太郎)を用いて800rpmで1分間撹拌混合した。試料温度が25℃になるまで放冷した後、分散安定剤として重合体B溶液3.33gおよびNMP1.09gを追加して電極合剤の不揮発分含有率が83質量%になるように調整した。スパチュラで混ぜ合わせた後に泡取り練太郎を用いて2000rpmで3分間混練を行った(一次混練工程)。再度、試料温度が25℃になるまで放冷した後、攪拌後の液体にバインダー組成物を添加した。なお、バインダー組成物の添加量は、フッ化ビニリデン重合体組成物の含有率が15質量%であるバインダー組成物は1.33gとし、フッ化ビニリデン重合体組成物の含有率が6質量%であるバインダー組成物は3.33gとした。そしてさらに電極合剤の不揮発分含有率が表3に記載の値となるようにNMPの量を調整した。スパチュラで混ぜ合わせた後に泡取り練太郎を用いて800rpmで2分間混練を行い、電極合剤を得た(二次混練工程)。混練後の試料温度は28℃であった。合剤の調製後、電極合剤は25℃で保管した。電極合剤をE型粘度計(東機産業(株)製「RE―215型」)を使用し、25℃、せん断速度2s-1で300秒間測定し、300秒後の粘度値が4~9Pa・s程度であることを確認した。
【0114】
(5)電極の製造
得られた電極合剤をそれぞれ、厚さ15μmのアルミ箔上にバーコーターにて塗布し、乾燥させて電極を得た。電極の乾燥は、窒素循環の恒温槽において、110℃で30分間行った。片面目付量200±20g/m2の電極を評価用電極とした。
【0115】
4.電極の評価
得られた電極について、合剤層の剥離強度および電極の表面平滑性を以下の方法で評価した。結果を表3に示す。
【0116】
(1)合剤層の剥離強度
合剤層の剥離強度は、合剤層を形成した面とプラスチックの厚板(アクリル樹脂製、厚さ5mm)とを両面テープで張り合わせ、JISK6854-1に準じて90°剥離強度試験によって求めた。試験速度は10mm毎分とした。
【0117】
(2)電極表面の算術平均粗さ
FORMTRACER SV-C3200(ミツトヨ社製)を用いて、JIS B 0601:2013に基づいて、算術平均粗さRaを測定した。
基準長さ:2.5mm
測定速度:1.0mm/s
カットオフ:λc=2.5mm、λs=8μm
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
上記表1~表3に示されるように、N-メチル-2-ピロリドンの30℃における粘度Yに対する、フッ化ビニリデン重合体分散液(フッ化ビニリデン重合体含有率6質量%)の30℃における粘度Xの比が20以下であり、かつフッ化ビニリデン重合体分散液(フッ化ビニリデン重合体含有率6質量%)を15分間静置したときの、静置前後の上部40体積%の含有率の変化率が2質量%以下である場合には、合材層用組成物の不揮発成分量を75質量%以上にしても、剥離強度が高く、電極表面算術平均粗さが低かった(実施例1~10)。
【0122】
一方、フッ化ビニリデン重合体組成物がNMPに溶解してしまった場合(比較例1~6、および9)、電極表面の平滑性は良好になりやすいものの、合剤用組成物の粘度が高くなり、合剤用組成物の不揮発成分量を75質量%以上にすることはできなかった。さらに、フッ化ビニリデン重合体組成物がNMPに分散した場合であっても、フッ化ビニリデン重合体分散液(フッ化ビニリデン重合体含有率6質量%)を15分間静置したときの、静置前後の上部40体積%の含有率の変化率が2質量%超であると、電極表面の平滑性が低下しやすかった(比較例7、8、および10)。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明のフッ化ビニリデン重合体組成物は、N-メチル-2-ピロリドンに対して膨潤・溶解し難い。また、当該フッ化ビニリデン重合体組成物によれば、表面が平滑な電極を形成可能である。したがって、二次電池用の電極の作製等において非常に有用である。