(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】粘着テープ、及び、半導体ウエハの製造方法
(51)【国際特許分類】
C09J 7/38 20180101AFI20241113BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20241113BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20241113BHJP
C09J 133/04 20060101ALI20241113BHJP
H01L 21/02 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J11/06
C09J11/08
C09J133/04
H01L21/02 B
(21)【出願番号】P 2020201957
(22)【出願日】2020-12-04
【審査請求日】2023-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2019221424
(32)【優先日】2019-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】下地頭所 彰
(72)【発明者】
【氏名】緒方 雄大
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-106013(JP,A)
【文献】国際公開第2020/184310(WO,A1)
【文献】特開2003-73629(JP,A)
【文献】特開昭62-288676(JP,A)
【文献】特開2010-132755(JP,A)
【文献】特開2021-31676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
H01L 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の面に粘着剤層を有する粘着テープであって、
前記粘着剤層は、
粘着ポリマーと、シリコーン系グラフト共重合体と、架橋剤と、重合開始剤とを含有し、280℃、1時間加熱後の重量減少率が15重量%以下であり、
前記粘着ポリマーは、アクリル系ポリマーであり、分子内にラジカル重合性の不飽和結合を有し、
前記シリコーン系グラフト共重合体は、前記粘着ポリマーと架橋可能な官能基を有し、
前記粘着テープは、貼付面積10mm×10mmでの150℃、10分間加熱後におけるガラスに対する面剥離強度が15~50Nである
ことを特徴とする粘着テープ。
【請求項2】
前記粘着ポリマーは、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定した分子量5万以下の成分の含有量が前記粘着ポリマー総量のうち10重量%以下であることを特徴とする請求項
1記載の粘着テープ。
【請求項3】
前記粘着剤層は、スズ成分含有量がスズ換算で0.05重量%以下であることを特徴とする請求項1
又は2記載の粘着テープ。
【請求項4】
前記粘着ポリマーは、重量平均分子量が50万以上であることを特徴とする請求項
1、2又は3記載の粘着テープ。
【請求項5】
前記シリコーン系グラフト共重合体は、前記粘着ポリマーと架橋可能な官能基を有するモノマーに由来する構成単位を1~40重量%含有することを特徴とする請求項
1、2、3又は4記載の粘着テープ。
【請求項6】
前記シリコーン系グラフト共重合体の含有量が、前記粘着ポリマー100重量部に対して0.1~10重量部であることを特徴とする請求項
1、2、3、4又は5記載の粘着テープ。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5
又は6記載の粘着テープを用いた半導体ウエハの製造方法であって、
前記粘着テープ上に半導体ウエハを仮固定する仮固定工程と、
前記半導体ウエハの表面に250℃以上の加熱を伴う処理を施す半導体ウエハ処理工程と、
前記半導体ウエハから前記粘着テープを剥離する粘着テープ剥離工程とを有する
ことを特徴とする半導体ウエハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被着体の加工工程中は高温でも剥離しにくく、工程終了後には容易に剥離できる粘着テープに関する。また、本発明は、該粘着テープを用いた半導体ウエハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップの製造工程において、ウエハや半導体チップの加工時の取扱いを容易にし、破損を防止するために粘着テープが用いられている。例えば、高純度なシリコン単結晶等から切り出した厚膜ウエハを所定の厚さにまで研削して薄膜ウエハとする場合、厚膜ウエハに粘着テープを貼り合わせた後に研削が行われる。また、粘着テープを介してウエハや半導体チップ等の被着体を支持板に固定し、支持板に固定された被着体に処理を施すことも行われる。
【0003】
このような粘着テープには、加工工程中にウエハや半導体チップ等の被着体を強固に固定できるだけの高い接着性とともに、工程終了後にはウエハや半導体チップ等の被着体を損傷することなく剥離できることが求められる(以下、「高接着易剥離」ともいう。)。
高接着易剥離を実現した粘着テープとして、特許文献1には紫外線等の光を照射することにより硬化して粘着力が低下する光硬化型粘着剤を用いた粘着テープが開示されている。粘着剤として光硬化型粘着剤を用いることで、加工工程中には確実に被着体を固定できるとともに、紫外線等を照射することにより容易に剥離することができる。
また、特許文献2には、非シリコーン系粘着剤に、この粘着剤のベースポリマーと架橋反応しうる官能基を持ったシリコーン系グラフト共重合体を含有させた再剥離型粘着剤が開示されている。特許文献2には、接着力の上昇に対する抑制効果に優れるシリコーン系グラフト共重合体を用いることで、再剥離性を改善したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-32946号公報
【文献】特開平2-123182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年、ウエハや半導体チップ等の被着体に粘着テープを貼り合わせた状態で従来以上の高温、具体的には例えば250℃以上もの高温での加熱を伴う処理を施すことが増えており、このような高温では粘着テープが剥離してしまうという問題が生じている。
本発明は、被着体の加工工程中は高温でも剥離しにくく、工程終了後には容易に剥離できる粘着テープを提供することを目的とする。また、本発明は、該粘着テープを用いた半導体ウエハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくとも一方の面に粘着剤層を有する粘着テープであって、前記粘着剤層は、280℃、1時間加熱後の重量減少率が15重量%以下であり、前記粘着テープは、貼付面積10mm×10mmでの150℃、10分間加熱後におけるガラスに対する面剥離強度が15~50Nである粘着テープである。
以下に本発明を詳述する。
【0007】
本発明者らは、250℃以上もの高温では、粘着剤層に含まれる粘着ポリマー由来のアウトガスが被着体との界面に発生し、このアウトガスが粘着テープの剥離の原因となっていることを見出した。本発明者らは、このようなアウトガスによる粘着テープの剥離を抑制するために検討を行った結果、粘着剤層の加熱後の重量減少率と、特定の方法で測定した面剥離強度とを特定範囲に調整することで、高温での粘着テープの剥離を抑制することができ、また、工程終了後には粘着テープを容易に剥離できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明の粘着テープは、少なくとも一方の面に粘着剤層を有する。
本発明の粘着テープは、上記粘着剤層を有してさえいれば、他の層を有していてもよい。また、本発明の粘着テープは、基材を有するサポートタイプであってもよく、基材を有さないノンサポートタイプであってもよい。本発明の粘着テープが基材を有する場合は、基材の少なくとも一方の面に上記粘着剤層を有していればよく、片面粘着テープであっても両面粘着テープであってもよい。本発明の粘着テープが基材を有する両面粘着テープである場合は、基材の少なくとも一方の面に上記粘着剤層を有してさえいれば、基材の他方の面にも上記粘着剤層と同様の粘着剤層を有していてもよいし、基材の他方の面には上記粘着剤層とは別の組成及び物性を有する粘着剤層を有していてもよい。
【0009】
本発明の粘着テープの上記粘着剤層は、280℃、1時間加熱後の重量減少率の上限が15重量%である。
上記加熱後の重量減少率が15重量%以下であれば、上記粘着剤層に含まれる粘着ポリマー由来のアウトガスの発生量が低下し、高温でも粘着テープが剥離しにくくなる。上記加熱後の重量減少率の好ましい上限は12重量%、より好ましい上限は10重量%である。上記加熱後の重量減少率の下限は特に限定されず、0重量%に近いほど高温でも粘着テープが剥離しにくくなるため好ましい。
なお、加熱後の重量減少率は、以下の方法により測定できる。
粘着剤層を基材から剥離させ、粘着剤層のみからなる測定サンプルを得る。得られた測定サンプルの重量を測定する。窒素雰囲気下(窒素フロー、流量50mL/分)、示差熱熱重量同時測定装置(例えば、日立ハイテクサイエンス社製、TG-DTA;STA7200)を用いて、昇温速度10℃/minで測定サンプルを25℃から280℃まで加熱し、280℃に達してから1時間加熱する。放冷後、重量減少量を測定し、得られた重量減少量と加熱前の重量とから重量減少率を算出する。
【0010】
上記加熱後の重量減少率を上記範囲に調整する方法は特に限定されず、上記粘着剤層に含まれる粘着ポリマー、離型剤、架橋剤等の種類、組成、物性、含有量等を調整すればよい。なかでも、粘着ポリマーとしてリビングラジカル重合により得られたアクリル系ポリマー又は定温フリーラジカル重合により得られたアクリル系ポリマーを用いる方法が好ましい。
具体的には上記加熱後の重量減少率を減らす方法として、例えば、粘着ポリマーを再沈殿等で精製することで後述する低分子量成分及びスズ成分含有量を減らす方法、粘着ポリマー又は離型剤中の架橋可能な官能基を増加して架橋を増やす方法、架橋剤の含有量を増加してより高い密度で架橋させる方法等が挙げられる。
【0011】
本発明の粘着テープは、貼付面積10mm×10mmでの150℃、10分間加熱後におけるガラスに対する面剥離強度の下限が15N、上限が50Nである。
上記面剥離強度は、上記粘着剤層(即ち、上記加熱後の重量減少率が上記範囲を満たす粘着剤層)をガラスに貼り付けて測定されるものである。上記面剥離強度が15N以上であれば、高温でも粘着テープが剥離しにくくなる。上記面剥離強度が50N以下であれば、工程終了後には粘着テープを容易に剥離できる。上記面剥離強度の好ましい下限は20N、好ましい上限は45Nであり、より好ましい下限は25N、より好ましい上限は40Nである。
なお、面剥離強度は、以下の方法により測定できる。
粘着テープを10mm×10mmに裁断する。室温23℃、相対湿度50%の環境下、裁断した粘着テープを、2kgの圧着ゴムローラーを用いて10mm/secの速度でガラス(例えば、松浪ガラス工業社製、大型スライドガラス白縁磨No.2)に貼り付ける。次いで、150℃、10分間の加熱処理を行う。放冷後、以下の
図1に示す粘着テープの面剥離強度の測定方法に従って、粘着テープのガラスに対する面剥離強度(最大荷重)を測定する。
【0012】
図1に、粘着テープの面剥離強度の測定方法を模式的に示す図を示す。
室温23℃、相対湿度50%の環境下、ガラス2に貼り付けた粘着テープ1の背面に、測定用両面粘着テープ3(積水化学工業社製、製品名#560、又はその同等品)の一方の面を貼り付ける。粘着テープ1及び測定用両面粘着テープ3を貼付した面が上を向くようにガラス2を固定し、測定用両面粘着テープ3の他方の面を引張試験機の治具4に貼付し固定する。引張試験機(島津製作所社製、AG-IS又はその同等品)を用いて剥離速度300mm/minで90℃方向(図中、矢印方向)に引張試験を行い、面剥離強度を測定する。なお、面剥離強度は、評価測定中における最大の剥離強度を意味する。
【0013】
上記面剥離強度を上記範囲に調整する方法は特に限定されず、上記粘着剤層に含まれる粘着ポリマー、離型剤、架橋剤、重合開始剤等の種類、組成、物性、含有量等を調整すればよい。なかでも、粘着ポリマーとしてリビングラジカル重合により得られたアクリル系ポリマー又は定温フリーラジカル重合により得られたアクリル系ポリマーを用いる方法、離型剤としてシリコーン系グラフト共重合体を用いる方法、シリコーン系グラフト共重合体の含有量を特定範囲に調整する方法等が好ましい。
具体的には上記面剥離強度を高める方法として、例えば、後述するシリコーン系グラフト共重合体の含有量を減らす方法、粘着ポリマーの重量平均分子量を下げる方法、重合開始剤の含有量を減らす方法、架橋剤の含有量を減らす方法等が挙げられる。上記面剥離強度を下げる方法として、例えば、後述するシリコーン系グラフト共重合体の含有量を増やす方法、粘着ポリマーの重量平均分子量を上げる方法、架橋剤の含有量を増やす方法等が挙げられる。
【0014】
本発明の粘着テープの上記粘着剤層のスズ成分含有量は特に限定されないが、スズ換算での好ましい上限が0.05重量%である。上記粘着剤層に含まれるスズ成分とは、主に、上記粘着剤層に含まれる粘着ポリマーがアクリル系ポリマーである場合に、アクリル系ポリマーを製造する際に使用する触媒及び/又はアクリル系ポリマーの側鎖に後述するラジカル重合性の不飽和結合を導入する際に使用する触媒に由来するものである。上記スズ成分含有量が0.05重量%以下であれば、高温でスズ成分が触媒となってアクリル系ポリマーのアルキルエステル部分が分解され、アウトガスとなることを抑制することができるため、高温でも粘着テープがより剥離しにくくなる。上記スズ成分含有量のより好ましい上限は0.03重量%である。上記スズ成分含有量の下限は特に限定されず、0重量%に近いほど高温でも粘着テープが剥離しにくくなるため好ましい。
なお、スズ成分含有量は、ICP発光分光分析装置(Agilent社製、5110 ICP-OES又はその同等品)により測定することができる。
【0015】
上記スズ成分含有量を上記範囲に調整する方法は特に限定されないが、上記粘着剤層に含まれる粘着ポリマーがアクリル系ポリマーである場合に、アクリル系ポリマーを製造する際に使用する触媒の添加量を調整する方法、粘着ポリマーを再沈殿等で精製する方法等が挙げられる。
【0016】
上記粘着剤層は、上記加熱後の重量減少率と、上記面剥離強度とを上記範囲に調整することができれば特に限定されないが、粘着ポリマーと、シリコーン系グラフト共重合体と、架橋剤と、重合開始剤とを含有することが好ましい。
【0017】
上記粘着ポリマーは、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定した分子量5万以下の成分(以下、「低分子量成分」ともいう)の含有量は特に限定されないが、上記粘着ポリマー総量のうちの好ましい上限が10重量%である。上記低分子量成分の含有量が10重量%以下であれば、上記粘着ポリマー由来のアウトガスの発生量がより低下し、高温でも粘着テープがより剥離しにくくなる。上記低分子量成分の含有量のより好ましい上限は5重量%である。上記低分子量成分の含有量の下限は特に限定されず、0重量%に近いほど高温でも粘着テープが剥離しにくくなるため好ましい。
上記低分子量成分の含有量を上記範囲に調整する方法は特に限定されず、上記粘着ポリマーの種類、組成、物性、含有量等を調整すればよい。なかでも、粘着ポリマーとしてリビングラジカル重合により得られたアクリル系ポリマー又は定温フリーラジカル重合により得られたアクリル系ポリマーを用いる方法が好ましい。
【0018】
上記粘着ポリマーの重量平均分子量は特に限定されないが、好ましい下限は50万、好ましい上限は150万である。上記重量平均分子量が上記範囲内であれば、上記粘着剤層の柔軟性が高くなり、被着体に対する密着性が向上するため、高温でも粘着テープがより剥離しにくくなる。上記重量平均分子量のより好ましい下限は80万、より好ましい上限は120万である。
上記重量平均分子量を上記範囲に調整するには、例えば、上記粘着ポリマーの組成、重合方法、重合条件等を調整すればよい。
【0019】
なお、低分子量成分の含有量及び重量平均分子量は、以下の方法により測定できる。
粘着ポリマーの溶液をフィルター(材質:ポリテトラフルオロエチレン、ポア径:0.2μm)で濾過する。
得られた濾液をゲル浸透クロマトグラフ(例えば、Waters社製、2690 Separations Model)に供給して、移動相溶媒をテトラヒドロフランとして、サンプル流量1ミリリットル/min、カラム温度40℃の条件でGPC測定を行う。粘着ポリマーのポリスチレン換算分子量を測定して、低分子量成分の含有量及び重量平均分子量を求める。カラムとしては、例えば、GPC KF-806L(昭和電工社製)を用い、検出器としては、示差屈折計を用いる。低分子量成分の含有量は、測定により得られたGPCチャートにおける各分子量の積分比により算出することができる。
【0020】
上記粘着ポリマーは、極性官能基を有することが好ましい。
上記粘着ポリマーが上記極性官能基を有することで、後述するシリコーン系グラフト共重合体が上記粘着ポリマーと架橋可能な官能基を有する場合には、架橋剤を介してシリコーン系グラフト共重合体が上記粘着ポリマーと結合する。これにより、シリコーン系グラフト共重合体がブリードアウトすることによる被着体の汚染をより低減することができる。
上記極性官能基は特に限定されず、例えば、カルボキシル基、水酸基、グリシジル基、アミド基、ニトリル基等が挙げられる。なかでも、カルボキシル基、水酸基が好ましく、カルボキシル基がより好ましい。
【0021】
上記粘着ポリマーは、分子内にラジカル重合性の不飽和結合を有することが好ましい。
上記粘着ポリマーが上記ラジカル重合性の不飽和結合を有することで、重合開始剤の存在下で熱や光等の刺激によって上記粘着剤層が硬化して弾性率が上昇し、粘着力が低下するため、工程終了後には粘着テープをより容易に剥離でき、糊残りをより抑えることができる。また、上記粘着ポリマーが上記ラジカル重合性の不飽和結合を有することで、他の重合性官能基を有する場合よりも架橋点の極性が下がり、上記粘着剤層の硬化時に架橋密度が上がることから、上記粘着剤層の弾性率がより上昇し、工程終了後には粘着テープをより容易に剥離でき、糊残りをより抑えることができる。
【0022】
上記粘着ポリマーに上記ラジカル重合性の不飽和結合を導入する方法は特に限定されず、例えば、上記粘着ポリマーを合成する際にラジカル重合性の不飽和結合を有するモノマーを用いる方法、上記粘着ポリマーの前駆体ポリマーに、ラジカル重合性の不飽和結合を有する化合物を反応させる方法等が挙げられる。
【0023】
上記粘着ポリマーとして、具体的には例えば、アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ウレタン系ポリマー、ゴム系ポリマー等が挙げられる。なかでも、耐熱性及び耐候性に優れ、幅広い被着体に適用可能であり、上記加熱後の重量減少率と、上記面剥離強度とを上記範囲に調整しやすいことから、アクリル系ポリマーが好ましい。
【0024】
上記粘着ポリマーが上記アクリル系ポリマーである場合、上記極性官能基を有するためには、上記アクリル系ポリマーが上記極性官能基を有するモノマーに由来する構成単位を有することが好ましい。
上記極性官能基がカルボキシル基である場合、カルボキシル基を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。上記極性官能基が水酸基である場合、水酸基を有するモノマーとしては、例えば、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。上記極性官能基がグリシジル基である場合、グリシジル基を有するモノマーとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。上記極性官能基がアミド基である場合、アミド基を有するモノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等が挙げられる。上記極性官能基がニトリル基である場合、ニトリル基を有するモノマーとしては、例えば、アクリロニトリル等が挙げられる。これらの極性官能基を有するモノマーは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
上記アクリル系ポリマーが上記カルボキシル基を有するモノマーに由来する構成単位を有する場合、その含有量は特に限定されないが、好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は10重量%である。上記含有量が0.1重量%以上であれば、上記アクリル系ポリマーがシリコーン系グラフト共重合体と架橋剤を介して充分に結合できるため、被着体の汚染をより低減することができる。上記含有量が10重量%以下であれば、上記粘着剤層が硬くなりすぎず、糊残りをより抑制することができる。
【0026】
上記アクリル系ポリマーが上記水酸基を有するモノマーに由来する構成単位を有する場合、その含有量は特に限定されないが、好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は30重量%である。上記含有量が0.1重量%以上であれば、上記アクリル系ポリマーがシリコーン系グラフト共重合体と架橋剤を介して充分に結合できるため、被着体の汚染をより低減することができる。上記含有量が30重量%以下であれば、高温でも粘着テープがより剥離しにくくなる。
【0027】
上記アクリル系ポリマーは、上記極性官能基を有するモノマーに由来する構成単位に加えて、他のラジカル重合性モノマーに由来する構成単位を有していてもよい。上記他のラジカル重合性モノマーとして、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、ビニル化合物等が挙げられる。
【0028】
上記(メタ)アクリル酸エステルは特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等も挙げられる。
これらの(メタ)アクリル酸エステルは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
上記ビニル化合物は特に限定されず、例えば、スチレン、酢酸ビニル等が挙げられる。これらのビニル化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
上記粘着ポリマーが上記アクリル系ポリマーである場合、上記ラジカル重合性の不飽和結合を有するためには、上記アクリル系ポリマーに存在する極性官能基に対して、該極性官能基と反応する官能基とラジカル重合性の不飽和結合とを有する化合物(以下、「官能基含有不飽和化合物」ともいう)を反応させることが好ましい。
なお、上記アクリル系ポリマーに存在する極性官能基のうち全ての極性官能基が上記官能基含有不飽和化合物と反応してしまうと、上記アクリル系ポリマーは極性官能基を有することができなくなる。このため、上記官能基含有不飽和化合物の種類、反応条件等を適宜調整することにより、反応性を調整する必要がある。
【0031】
上記官能基含有不飽和化合物は特に限定されず、上記アクリル系ポリマーに存在する極性官能基に応じて適宜選択することができる。
上記アクリル系ポリマーに存在する極性官能基がカルボキシル基の場合は、エポキシ基とラジカル重合性の不飽和結合とを有する化合物、イソシアネート基とラジカル重合性の不飽和結合とを有する化合物等が用いられる。上記アクリル系ポリマーに存在する極性官能基がヒドロキシル基の場合は、イソシアネート基とラジカル重合性の不飽和結合とを有する化合物等が用いられる。上記アクリル系ポリマーに存在する極性官能基がエポキシ基の場合は、カルボキシル基とラジカル重合性の不飽和結合とを有する化合物、アミド基とラジカル重合性の不飽和結合とを有する化合物等が用いられる。上記アクリル系ポリマーに存在する極性官能基がアミノ基の場合は、エポキシ基とラジカル重合性の不飽和結合とを有する化合物等が用いられる。
【0032】
上記アクリル系ポリマーは、モノマー混合物を共重合して得られる。上記モノマー混合物を共重合して上記アクリル系ポリマーを得るには、上記モノマー混合物を、重合開始剤の存在下にてラジカル反応させればよい。上記モノマー混合物をラジカル反応させる方法、即ち、重合方法としては、従来公知の方法が用いられ、例えば、溶液重合(沸点重合又は定温重合)、乳化重合、懸濁重合、塊状重合等が挙げられる。上記モノマー混合物をラジカル反応させる際の反応方式としては、例えば、リビングラジカル重合、フリーラジカル重合等が挙げられる。
【0033】
上記アクリル系ポリマーは、リビングラジカル重合により得られたアクリル系ポリマー(以下、「リビングラジカル重合アクリル系ポリマー」ともいう)であることが好ましい。リビングラジカル重合は、重合反応が停止反応又は連鎖移動反応等の副反応で妨げられることなく分子鎖が生長していく重合である。リビングラジカル重合では、生長末端ラジカルが失活することなく、また、反応中に新しくラジカル種が発生することもなく、反応が進行する。その反応途中では、全ての分子鎖が均一にモノマーと反応しながら重合し、全ての分子鎖の組成は均一に近づく。
従って、リビングラジカル重合によれば、フリーラジカル重合と比較してより均一な分子量及び組成を有するポリマーが得られ、低分子量成分の生成を抑えることができるため、上記加熱後の重量減少率を上記範囲に調整しやすくなる。また、低分子量成分の生成を抑えることができると、上記粘着剤層の凝集力が高くなり、上記面剥離強度も上記範囲に調整しやすくなる。これらの結果、高温でも粘着テープがより剥離しにくくなる。
【0034】
一方、フリーラジカル重合では、反応中に連続的にラジカル種が発生してモノマーに付加し、重合が進行する。そのためフリーラジカル重合では、反応の途中で生長末端ラジカルが失活した分子鎖や、反応中に新しく発生したラジカル種により生長した分子鎖が生成する。
従って、フリーラジカル重合によれば、リビングラジカル重合と比較するとポリマーの組成が不均一となり、比較的低分子量のポリマーも含まれる。
【0035】
上記リビングラジカル重合においては、種々の重合方式を採用してもよい。例えば、鉄、ルテニウムや銅触媒及びハロゲン系開始剤を用いてよく(ATRP)、TEMPOを用いてよく、有機テルル重合開始剤を用いてよい。なかでも、有機テルル重合開始剤を用いることが好ましい。有機テルル重合開始剤を用いたリビングラジカル重合は、他のリビングラジカル重合とは異なり、水酸基やカルボキシル基のような極性官能基を有するラジカル重合性モノマーをいずれも保護することなく、同一の開始剤で重合して均一な分子量及び組成を有するポリマーを得ることができる。このため、極性官能基を有するラジカル重合性モノマーを容易に共重合することができる。
【0036】
上記有機テルル重合開始剤は、リビングラジカル重合に一般的に用いられるものであれば特に限定されず、例えば、有機テルル化合物、有機テルリド化合物等が挙げられる。
上記有機テルル化合物として、例えば、(メチルテラニル-メチル)ベンゼン、(1-メチルテラニル-エチル)ベンゼン、(2-メチルテラニル-プロピル)ベンゼン、1-クロロ-4-(メチルテラニル-メチル)ベンゼン、1-ヒドロキシ-4-(メチルテラニル-メチル)ベンゼン、1-メトキシ-4-(メチルテラニル-メチル)ベンゼン、1-アミノ-4-(メチルテラニル-メチル)ベンゼン、1-ニトロ-4-(メチルテラニル-メチル)ベンゼン、1-シアノ-4-(メチルテラニル-メチル)ベンゼン、1-メチルカルボニル-4-(メチルテラニル-メチル)ベンゼン、1-フェニルカルボニル-4-(メチルテラニル-メチル)ベンゼン、1-メトキシカルボニル-4-(メチルテラニル-メチル)ベンゼン、1-フェノキシカルボニル-4-(メチルテラニル-メチル)ベンゼン、1-スルホニル-4-(メチルテラニル-メチル)ベンゼン、1-トリフルオロメチル-4-(メチルテラニル-メチル)ベンゼン、1-クロロ-4-(1-メチルテラニル-エチル)ベンゼン、1-ヒドロキシ-4-(1-メチルテラニル-エチル)ベンゼン、1-メトキシ-4-(1-メチルテラニル-エチル)ベンゼン、1-アミノ-4-(1-メチルテラニル-エチル)ベンゼン、1-ニトロ-4-(1-メチルテラニル-エチル)ベンゼン、1-シアノ-4-(1-メチルテラニル-エチル)ベンゼン、1-メチルカルボニル-4-(1-メチルテラニル-エチル)ベンゼン、1-フェニルカルボニル-4-(1-メチルテラニル-エチル)ベンゼン、1-メトキシカルボニル-4-(1-メチルテラニル-エチル)ベンゼン、1-フェノキシカルボニル-4-(1-メチルテラニル-エチル)ベンゼン、1-スルホニル-4-(1-メチルテラニル-エチル)ベンゼン、1-トリフルオロメチル-4-(1-メチルテラニル-エチル)ベンゼン、1-クロロ-4-(2-メチルテラニル-プロピル)ベンゼン、1-ヒドロキシ-4-(2-メチルテラニル-プロピル)ベンゼン、1-メトキシ-4-(2-メチルテラニル-プロピル)ベンゼン、1-アミノ-4-(2-メチルテラニル-プロピル)ベンゼン、1-ニトロ-4-(2-メチルテラニル-プロピル)ベンゼン、1-シアノ-4-(2-メチルテラニル-プロピル)ベンゼン、1-メチルカルボニル-4-(2-メチルテラニル-プロピル)ベンゼン、1-フェニルカルボニル-4-(2-メチルテラニル-プロピル)ベンゼン、1-メトキシカルボニル-4-(2-メチルテラニル-プロピル)ベンゼン、1-フェノキシカルボニル-4-(2-メチルテラニル-プロピル)ベンゼン、1-スルホニル-4-(2-メチルテラニル-プロピル)ベンゼン、1-トリフルオロメチル-4-(2-メチルテラニル-プロピル)ベンゼン、2-(メチルテラニル-メチル)ピリジン、2-(1-メチルテラニル-エチル)ピリジン、2-(2-メチルテラニル-プロピル)ピリジン、2-メチルテラニル-エタン酸メチル、2-メチルテラニル-プロピオン酸メチル、2-メチルテラニル-2-メチルプロピオン酸メチル、2-メチルテラニル-エタン酸エチル、2-メチルテラニル-プロピオン酸エチル、2-メチルテラニル-2-メチルプロピオン酸エチル、2-メチルテラニルアセトニトリル、2-メチルテラニルプロピオニトリル、2-メチル-2-メチルテラニルプロピオニトリル等が挙げられる。これらの有機テルル化合物中のメチルテラニル基は、エチルテラニル基、n-プロピルテラニル基、イソプロピルテラニル基、n-ブチルテラニル基、イソブチルテラニル基、t-ブチルテラニル基、フェニルテラニル基等であってもよく、また、これらの有機テルル化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
上記有機テルリド化合物として、例えば、ジメチルジテルリド、ジエチルジテルリド、ジ-n-プロピルジテルリド、ジイソプロピルジテルリド、ジシクロプロピルジテルリド、ジ-n-ブチルジテルリド、ジ-sec-ブチルジテルリド、ジ-tert-ブチルジテルリド、ジシクロブチルジテルリド、ジフェニルジテルリド、ビス-(p-メトキシフェニル)ジテルリド、ビス-(p-アミノフェニル)ジテルリド、ビス-(p-ニトロフェニル)ジテルリド、ビス-(p-シアノフェニル)ジテルリド、ビス-(p-スルホニルフェニル)ジテルリド、ジナフチルジテルリド、ジピリジルジテルリド等が挙げられる。これらの有機テルリド化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、ジメチルジテルリド、ジエチルジテルリド、ジ-n-プロピルジテルリド、ジ-n-ブチルジテルリド、ジフェニルジテルリドが好ましい。
【0038】
なお、本発明の効果を損なわない範囲内で、上記有機テルル重合開始剤に加えて、重合速度の促進を目的として重合開始剤としてアゾ化合物を用いてもよい。
上記アゾ化合物は、ラジカル重合に一般的に用いられるものであれば特に限定されない。上記アゾ化合物として、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、1-[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)、ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、ジメチル-1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1’-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(N-シクロヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル]プロパン}二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]四水和物、2,2’-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)等が挙げられる。これらのアゾ化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
上記リビングラジカル重合アクリル系ポリマーの分子量分布(Mw/Mn)は特に限定されないが、好ましい下限は1.05、好ましい上限は2.5である。上記分子量分布(Mw/Mn)が上記範囲内であれば、上記加熱後の重量減少率と、上記面剥離強度とを上記範囲に調整しやすくなり、高温でも粘着テープがより剥離しにくくなる。上記分子量分布(Mw/Mn)のより好ましい下限は1.1、より好ましい上限は2.0である。
【0040】
上記アクリル系ポリマーは、定温フリーラジカル重合により得られたアクリル系ポリマー(以下、「定温フリーラジカル重合アクリル系ポリマー」ともいう)であってもよい。
上述したように、フリーラジカル重合によれば、リビングラジカル重合と比較するとポリマーの組成が不均一となり、比較的低分子量のポリマーも含まれる。ただし、フリーラジカル重合のなかでも定温フリーラジカル重合によれば、沸点フリーラジカル重合と比較して低分子量成分の生成を抑えることができるため、上記加熱後の重量減少率と、上記面剥離強度とを上記範囲に調整しやすくなり、高温でも粘着テープがより剥離しにくくなる。
【0041】
上記モノマー混合物をラジカル反応させる際には、分散安定剤を用いてもよい。上記分散安定剤として、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
上記モノマー混合物をラジカル反応させる際に重合溶媒を用いる場合、該重合溶媒は特に限定されない。該重合溶媒として、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、トルエン、キシレン等の非極性溶媒や、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド等の高極性溶媒を用いることができる。これらの重合溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、重合温度は、重合速度の観点から0~110℃が好ましい。
【0042】
上記シリコーン系グラフト共重合体は、シロキサン結合を含有するグラフト鎖を有する共重合体である。
上記粘着剤層が上記シリコーン系グラフト共重合体を含有することで、上記シリコーン系グラフト共重合体が分子移動して上記粘着剤層の表面に集まり、上記粘着剤層の表面が疎水的となる。これにより、上記粘着剤層と被着体とが相互作用しにくくなることから、上記面剥離強度を上記範囲に調整しやすくなるとともに加熱による上記粘着剤層の接着亢進を低減することができ、工程終了後には粘着テープをより容易に剥離でき、糊残りをより抑えることができる。
【0043】
上記シリコーン系グラフト共重合体は特に限定されないが、シリコーンマクロモノマーに由来する構成単位を有することが好ましい。
上記シリコーンマクロモノマーは、シロキサン結合含有基を有するモノマーであれば特に限定されず、例えば、アクリル系シリコーンマクロモノマー、スチレン系シリコーンマクロモノマー等が挙げられる。なかでも、耐熱性及び耐候性に優れることから、アクリル系シリコーンマクロモノマーが好ましく、下記一般式(1)又は(2)に示す構造を有するアクリル系シリコーンマクロモノマーがより好ましい。
【0044】
【0045】
ここで、Rは(メタ)アクリロイル基含有官能基を表し、X及びYはそれぞれ独立して、0以上の整数を表す。
Rとしては、例えば、(メタ)アクリロイル基が挙げられる。X及びYの上限は特に限定されないが、X及びYは通常5000以下であり、500以下が好ましく、200以下がより好ましい。
【0046】
上記シリコーンマクロモノマーの重量平均分子量は特に限定されないが、好ましい下限は500、好ましい上限は5万である。上記重量平均分子量が上記範囲内であれば、上記シリコーン系グラフト共重合体によって形成される疎水的な表面層が厚くなることから、加熱による上記粘着剤層の接着亢進をより低減することができ、工程終了後には粘着テープをより容易に剥離でき、糊残りを抑えることができる。上記重量平均分子量のより好ましい下限は1000、より好ましい上限は2万である。
【0047】
上記シリコーンマクロモノマーに由来する構成単位の含有量は特に限定されないが、上記シリコーン系グラフト共重合体中の好ましい下限は1重量%、好ましい上限は90重量%である。上記含有量が上記範囲内であれば、加熱による上記粘着剤層の接着亢進をより低減することができ、工程終了後には粘着テープをより容易に剥離でき、糊残りを抑えることができる。上記含有量のより好ましい下限は5重量%、より好ましい上限は80重量%であり、更に好ましい下限は10重量%、更に好ましい上限は60重量%である。
【0048】
上記シリコーン系グラフト共重合体は、上記粘着ポリマーと架橋可能な官能基を有することが好ましい。
上記シリコーン系グラフト共重合体が上記粘着ポリマーと架橋可能な官能基を有することで、架橋剤を介して上記シリコーン系グラフト共重合体が上記粘着ポリマーと結合する。これにより、上記シリコーン系グラフト共重合体がブリードアウトすることによる被着体の汚染を低減することができる。
【0049】
上記粘着ポリマーと架橋可能な官能基は、上記シリコーン系グラフト共重合体のグラフト鎖に存在してもよく、主鎖に存在してもよく、グラフト鎖及び主鎖に存在してもよい。
上記粘着ポリマーと架橋可能な官能基は特に限定されず、上記粘着ポリマーに存在する官能基に合わせて適宜決定され、例えば、カルボキシル基、水酸基、グリシジル基、アミド基、ニトリル基等が挙げられる。なかでも、カルボキシル基、水酸基が好ましく、カルボキシル基がより好ましい。
【0050】
上記シリコーン系グラフト共重合体は、上記粘着ポリマーと架橋可能な官能基を有するためには、上記粘着ポリマーと架橋可能な官能基を有するモノマーに由来する構成単位を有することが好ましい。
上記粘着ポリマーと架橋可能な官能基を有するモノマーは特に限定されず、上記粘着ポリマーとしてのアクリル系ポリマーの場合に用いられる上述したような極性官能基を有するモノマーと同様のモノマーを用いることができる。
【0051】
上記粘着ポリマーと架橋可能な官能基を有するモノマーに由来する構成単位の含有量は特に限定されないが、上記シリコーン系グラフト共重合体中の好ましい下限は1重量%、好ましい上限は40重量%である。上記含有量が上記範囲内であれば、上記シリコーン系グラフト共重合体が上記粘着ポリマーと充分に結合しながらも、上記粘着ポリマー同士でも充分な架橋構造を構築することができるため、高温でも粘着テープがより剥離しにくくなり、工程終了後には粘着テープをより容易に剥離できる。上記含有量のより好ましい下限は3重量%、より好ましい上限は30重量%、更に好ましい上限は20重量%、更により好ましい上限は15重量%である。
【0052】
また、上記粘着ポリマーと架橋可能な官能基は、ラジカル重合性の不飽和結合であってもよい。この場合、上記シリコーン系グラフト共重合体が上記ラジカル重合性の不飽和結合を有するためには、上記シリコーン系グラフト共重合体に存在する官能基に対して、該官能基と反応する官能基とラジカル重合性の不飽和結合とを有する化合物を反応させることが好ましい。このような化合物は特に限定されず、上記粘着ポリマーとしてのアクリル系ポリマーの場合に用いられる上述したような官能基含有不飽和化合物と同様の化合物を用いることができる。
【0053】
上記シリコーン系グラフト共重合体は、上記シリコーンマクロモノマーに由来する構成単位及び上記粘着ポリマーと架橋可能な官能基を有するモノマーに由来する構成単位に加えて、更に、(メタ)アクリル酸エステル、ビニル化合物、他の極性官能基を有するモノマー等に由来する構成単位を有していてもよい。
上記(メタ)アクリル酸エステル及び上記ビニル化合物は特に限定されず、上記粘着ポリマーとしてのアクリル系ポリマーの場合に用いられる上述したような(メタ)アクリル酸エステルと同様のモノマーを用いることができる。なかでも、適度な粘着力を付与できることから、2-エチルヘキシルアクリレートが好ましい。
【0054】
上記シリコーン系グラフト共重合体の重量平均分子量は特に限定されないが、好ましい上限は40万である。上記重量平均分子量が40万以下であれば、上記シリコーン系グラフト共重合体が上記粘着剤層内で動きやすくなり、上記粘着剤層の表面に集まりやすくなることから、加熱による上記粘着剤層の接着亢進をより低減することができ、工程終了後には粘着テープをより容易に剥離でき、糊残りを抑えることができる。上記重量平均分子量のより好ましい上限は30万、更に好ましい上限は25万、特に好ましい上限は20万であり、通常1万以上である。
【0055】
上記シリコーン系グラフト共重合体の製造方法は特に限定されず、モノマー混合物を共重合して得ることができる。上記モノマー混合物を共重合してシリコーン系グラフト共重合体を得る方法は特に限定されず、上記粘着ポリマーとしてのアクリル系ポリマーの場合と同様の方法を用いることができる。
【0056】
上記シリコーン系グラフト共重合体の含有量は特に限定されないが、上記シリコーン系グラフト共重合体は上記粘着剤層の表面に集まりやすいため、従来のシリコーン化合物よりも少ない量で用いることができる。
上記シリコーン系グラフト共重合体の含有量の上記粘着ポリマー100重量部に対する好ましい下限は0.1重量部、好ましい上限は10重量部である。上記含有量が0.1重量部以上であれば、上記面剥離強度を上記範囲に調整しやすくなるとともに加熱による上記粘着剤層の接着亢進をより低減することができ、工程終了後には粘着テープをより容易に剥離でき、糊残りを抑えることができる。上記含有量が10重量部以下であれば、高温でも粘着テープがより剥離しにくくなり、また、上記粘着剤層の白濁を抑えることもできる。上記含有量のより好ましい下限は0.5重量部、より好ましい上限は5重量部であり、更に好ましい下限は1重量部である。
【0057】
上記粘着剤層が上記架橋剤を含有することで、上記粘着ポリマーを架橋することで上記粘着剤層の凝集力を調整しやすくなり、上記面剥離強度を上記範囲に調整しやすくなる。これにより、高温でも粘着テープがより剥離しにくくなり、工程終了後には粘着テープをより容易に剥離できる。
また、上記粘着剤層が上記架橋剤を含有することで、上記シリコーン系グラフト共重合体が上記粘着ポリマーと架橋可能な官能基を有する場合には、上記架橋剤を介して上記シリコーン系グラフト共重合体が上記粘着ポリマーと結合する。これにより、上記シリコーン系グラフト共重合体がブリードアウトすることによる被着体の汚染を低減することができる。
【0058】
上記架橋剤は特に限定されず、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤等が挙げられる。なかでも、上記粘着剤層の凝集力が高まることから、イソシアネート系架橋剤が好ましい。
【0059】
上記架橋剤の含有量は特に限定されないが、より適度な凝集力とする観点及び上記粘着ポリマーと上記シリコーン系グラフト共重合体とを充分に結合させる観点から、上記粘着ポリマー100重量部に対する好ましい下限が0.01重量部、好ましい上限が1重量部であり、より好ましい下限が0.1重量部、より好ましい上限が0.5重量部である。
【0060】
上記粘着剤層が上記重合開始剤を含有することで、上記粘着ポリマーが上記ラジカル重合性の不飽和結合を有する場合には、上記重合開始剤の存在下で熱や光等の刺激によって上記粘着剤層が硬化して弾性率が上昇し、粘着力が低下するため、工程終了後には粘着テープをより容易に剥離でき、糊残りを抑えることができる。
上記重合開始剤は特に限定されず、例えば、光重合開始剤、熱重合開始剤等が挙げられる。なかでも、被着体に加熱を伴う処理を施す際の熱によって上記粘着剤層を硬化させることができるため別途上記粘着剤層を硬化させる工程を必要としないこと、また、光を通さない被着体に用いた場合であっても硬化が可能であることから、熱重合開始剤が好ましい。
【0061】
上記光重合開始剤は特に限定されず、例えば、250~800nmの波長の光を照射することにより活性化されるものが挙げられる。このような光重合開始剤として、例えば、アセトフェノン誘導体化合物、ベンゾインエーテル系化合物、ケタール誘導体化合物、フォスフィンオキシド誘導体化合物ビス(η5-シクロペンタジエニル)チタノセン誘導体化合物、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、クロロチオキサントン、ドデシルチオキサントン、ジメチルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、α-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシメチルフェニルプロパン等が挙げられる。
上記アセトフェノン誘導体化合物として、例えば、メトキシアセトフェノン等が挙げられる。上記ベンゾインエーテル系化合物として、例えば、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等が挙げられる。上記ケタール誘導体化合物として、例えば、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジエチルケタール等が挙げられる。これらの光重合開始剤は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0062】
上記熱重合開始剤は特に限定されず、例えば、熱により分解し、重合反応を開始する活性ラジカルを発生するものが挙げられる。具体的には例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエール、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド等が挙げられる。
【0063】
上記重合開始剤の含有量は特に限定されず、上記粘着ポリマー及び上記重合開始剤の種類に応じて適宜決定されるが、上記粘着ポリマー100重量部に対する好ましい下限が0.1重量部、好ましい上限が10重量部であり、より好ましい下限が1重量部、より好ましい上限が8重量部である。
【0064】
上記粘着剤層は、ヒュームドシリカ等の無機フィラー、可塑剤、樹脂、界面活性剤、ワックス、微粒子充填剤、酸化防止剤、ガス発生剤等の公知の添加剤を含有してもよい。
【0065】
上記粘着剤層の厚みは特に限定されないが、好ましい下限は5μm、好ましい上限は100μmである。上記粘着剤層の厚みが上記範囲内であれば、粘着テープを充分な粘着力で被着体に貼り付けることができ、工程終了後には糊残りを抑えることができる。上記粘着剤層の厚みのより好ましい下限は10μm、より好ましい上限は60μmである。
【0066】
本発明の粘着テープがサポートタイプである場合、上記基材を構成する材料は特に限定されないが、耐熱性を有する材料であることが好ましい。耐熱性を持つ材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、超高分子量ポリエチレン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、液晶ポリマー等が挙げられる。なかでも、耐熱性に優れることから、ポリイミドが好ましい。
【0067】
上記基材の厚みは特に限定されないが、好ましい下限は15μm、好ましい上限は250μmである。上記基材の厚みが上記範囲内であれば、取り扱い性に優れる粘着テープとすることができる。上記基材の厚みのより好ましい下限は25μm、より好ましい上限は125μmである。
【0068】
本発明の粘着テープを製造する方法は特に限定されず、例えば、以下のような方法が挙げられる。
まず、粘着ポリマーの溶液にシリコーン系グラフト共重合体、架橋剤、重合開始剤及び必要に応じて他の添加剤を加えて混合することで粘着剤溶液を得る。次いで、離型フィルム上に粘着剤溶液を塗工し、乾燥させて粘着剤層を形成する。得られた粘着剤層を基材と貼り合わせて粘着テープを製造する。
【0069】
本発明の粘着テープの用途は特に限定されないが、半導体チップ、表示装置(OLED、液晶表示装置等)等の電子部品の製造において用いられることが好ましい。より具体的には、電子部品の製造において、粘着テープ上にウエハや半導体チップ等の被着体を仮固定したり、粘着テープを介してウエハや半導体チップ等の被着体を支持板に仮固定したりした後、仮固定された被着体に処理を施す際に用いられることが好ましい。
本発明の粘着テープは、被着体の加工工程中は高温でも剥離しにくく、工程終了後には容易に剥離できることから、ウエハや半導体チップ等の被着体に粘着テープを貼り合わせた状態で従来以上の高温、具体的には例えば250℃以上もの高温での加熱を伴う処理を施す際にも好適に用いることができる。
【0070】
本発明の粘着テープを用いた半導体ウエハの製造方法であって、上記粘着テープ上に半導体ウエハを仮固定する仮固定工程と、上記半導体ウエハの表面に250℃以上の加熱を伴う処理を施す半導体ウエハ処理工程と、上記半導体ウエハから上記粘着テープを剥離する粘着テープ剥離工程とを有する半導体ウエハの製造方法もまた、本発明の1つである。
【0071】
上記250℃以上の加熱を伴う処理は特に限定されず、例えば、リフロー工程、スパッタリング工程、蒸着工程、エッチング工程、化学気相成長(CVD)工程、物理気相成長(PVD)工程、レジスト塗布工程、パターニング工程、モールド工程等の加熱処理又は発熱を伴う処理が挙げられる。上記250℃以上の加熱を伴う処理の温度の上限は特に限定されないが、例えば350℃である。
上記半導体ウエハから上記粘着テープを剥離する方法は特に限定されず、例えば、ピール剥離、レーザー剥離等が挙げられる。
上記半導体ウエハから上記粘着テープを剥離する粘着テープ剥離工程にかえて、ニードルピックアップによる剥離等の上記半導体ウエハを上記粘着テープから剥離する半導体ウエハ剥離工程としてもよい。
【発明の効果】
【0072】
本発明によれば、被着体の加工工程中は高温でも剥離しにくく、工程終了後には容易に剥離できる粘着テープを提供することができる。また、本発明によれば、該粘着テープを用いた半導体ウエハの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【
図1】粘着テープの面剥離強度の測定方法を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0074】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0075】
(合成例1(リビングラジカル重合アクリル系ポリマーの合成))
Tellurium(40メッシュ、金属テルル、アルドリッチ社製)6.38g(50mmol)をテトラヒドロフラン(THF)50mLに懸濁させ、これに1.6mol/Lのn-ブチルリチウム/ヘキサン溶液(アルドリッチ社製)34.4mL(55mmol)を、室温でゆっくり滴下した。この反応溶液を金属テルルが完全に消失するまで攪拌した。この反応溶液に、エチル-2-ブロモ-イソブチレート10.7g(55mmol)を室温で加え、2時間攪拌した。反応終了後、減圧下で溶媒を濃縮し、続いて減圧蒸留して、黄色油状物の2-メチル-2-n-ブチルテラニル-プロピオン酸エチルを得た。
【0076】
アルゴン置換したグローブボックス内で、反応容器中に、得られた2-メチル-2-n-ブチルテラニル-プロピオン酸エチル19μL、V-65(2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、富士フイルム和光純薬社製)8.8mg、酢酸エチル1mLを投入した後、反応容器を密閉し、反応容器をグローブボックスから取り出した。続いて、反応容器にアルゴンガスを流入しながら、反応容器内に、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)を除く表1に示すモノマー混合物の合計100g、重合溶媒として酢酸エチル66.5gを投入し、60℃で20時間重合反応を行い、ポリマー含有溶液を得た。
反応容器に、得られたポリマー100重量部に対し、ヒドロキノン10ppmを投入して60℃に加熱した。続いて、上記反応器内に、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)8重量部を60分かけて反応容器内に滴下し、更に60℃で120分間反応することにより、リビングラジカル重合アクリル系ポリマー(合成例1)含有溶液を得た。
得られたリビングラジカル重合アクリル系ポリマー含有溶液をテトラヒドロフラン(THF)によって50倍に希釈した。得られた希釈液をフィルター(材質:ポリテトラフルオロエチレン、ポア径:0.2μm)で濾過した。得られた濾液をゲル浸透クロマトグラフ(Waters社製、2690 Separations Model)に供給して、サンプル流量1ミリリットル/min、カラム温度40℃の条件でGPC測定を行い、リビングラジカル重合アクリル系ポリマーのポリスチレン換算分子量を測定した。これにより、低分子量成分の含有量、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を求めた。カラムとしては、GPC KF-806L(昭和電工社製)を用い、検出器としては、示差屈折計を用いた。
【0077】
(合成例2(リビングラジカル重合アクリル系ポリマーの合成))
V-65(2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、富士フイルム和光純薬社製)投入量を20mgに変更した以外は合成例1と同様にして、リビングラジカル重合アクリル系ポリマーを得た。
【0078】
(合成例3(リビングラジカル重合アクリル系ポリマーの合成))
モノマー混合物の組成を表1に示すように変更した以外は合成例1と同様にして、リビングラジカル重合アクリル系ポリマーを得た。
【0079】
(合成例4(定温フリーラジカル重合アクリル系ポリマーの合成))
温度計、攪拌機、冷却管を備えた反応器を用意し、この反応器内に、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)を除く表1に示すモノマー混合物の合計100重量部、酢酸エチル60重量部、トルエン60重量部を加えた。この反応器を60℃に加熱した。続いて、上記反応器内に、重合開始剤としてV-60(2,2’-アゾビスイソブチロニトリル)0.15重量部を投入し、60℃で8時間重合反応を行い、ポリマー含有溶液を得た。反応容器に、得られたポリマー100重量部に対し、ヒドロキノン10ppmを投入して60℃に加熱した。続いて、反応容器内に、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)8重量部を60分かけて反応容器内に滴下し、更に60℃で120分間反応することにより、定温フリーラジカル重合アクリル系ポリマー(合成例4)含有溶液を得た。
合成例1と同様にして、低分子量成分の含有量、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
【0080】
(合成例5(沸点フリーラジカル重合アクリル系ポリマーの合成))
温度計、攪拌機、冷却管を備えた反応器を用意し、この反応器内に、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)を除く表1に示すモノマー混合物の合計100重量部、酢酸エチル80重量部を加えた。この反応器を加熱して還流を開始した。続いて、上記反応器内に、重合開始剤としてV-60(2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、富士フイルム和光純薬社製)0.05重量部を投入し、還流下で重合を開始させた。次に、重合開始から2時間後にもV-60(2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、富士フイルム和光純薬社製)0.15重量部を投入した。還流下で、重合開始から8時間重合反応を行い、ポリマー含有溶液を得た。
反応容器に、得られたポリマー100重量部に対し、ヒドロキノン10ppmを投入して60℃に加熱した。続いて、反応容器内に、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)8重量部を60分かけて反応容器内に滴下し、更に60℃で120分間反応することにより、沸点フリーラジカル重合アクリル系ポリマー(合成例5)含有溶液を得た。
合成例1と同様にして、低分子量成分の含有量、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
【0081】
(合成例6~9(リビングラジカル重合アクリル系ポリマーの合成))
2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)を滴下する前に、反応容器内に表1に記載のスズ触媒(ジラウリン酸ジオクチルスズ又はジラウリン酸ジブチルスズ)を添加した以外は合成例1と同様にして、リビングラジカル重合アクリル系ポリマーを得た。
【0082】
【0083】
2EHA:2-(エチルヘキシル)アクリレート
AAc:アクリル酸
4HBA:4-ヒドロキシブチルアクリレート
MOI:2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート
【0084】
(合成例10(シリコーン系グラフト共重合体の合成))
温度計、攪拌機、冷却管を備えた反応器を用意した。この反応器内に、表2に示すモノマー混合物の合計100重量部、酢酸エチル80重量部を加えた。この反応器を加熱して還流を開始した。続いて、上記反応器内に、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(富士フイルム和光純薬社製、V-60)0.1重量部を添加し、還流下で重合を開始させた。次に、重合開始から2時間後にも、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(富士フイルム和光純薬社製、V-60)を0.1重量部ずつ添加して重合反応を継続させた。そして、重合開始から7時間後に、シリコーン系グラフト共重合体(合成例10)の酢酸エチル溶液を得た。
合成例1と同様にして、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
【0085】
(合成例11~13、15(シリコーン系グラフト共重合体の合成))
モノマー混合物の組成を表2に示すように変更した以外は合成例10と同様にして、シリコーン系グラフト共重合体を得た。
【0086】
(合成例14(シリコーン系グラフト共重合体の合成))
反応容器に、合成例13で得られたポリマー100重量部に対し、ヒドロキノン10ppmを投入して60℃に加熱した。続いて、反応容器内に、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)5重量部を60分かけて反応容器内に滴下し、更に60℃で120分間反応することにより、シリコーン系グラフト共重合体(合成例14)含有溶液を得た。
【0087】
【0088】
2EHA:2-(エチルヘキシル)アクリレート
AAc:アクリル酸
4HBA:4-ヒドロキシブチルアクリレート
MOI:2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート
シリコーンマクロモノマー:片末端メタクリロイル変性ポリジメチルシロキサン(信越化学工業社製、重量平均分子量4600)
【0089】
(実施例1)
(1)粘着テープの製造
リビングラジカル重合アクリル系ポリマー(合成例1)含有溶液に、その不揮発分100重量部に対して酢酸エチルを加えて攪拌し、表3に示すように離型剤、熱重合開始剤及び架橋剤を添加して攪拌し、不揮発分30重量%の粘着剤溶液を得た。得られた粘着剤溶液を、片面にコロナ処理を施した厚さ25μmのポリイミドフィルム上に、乾燥皮膜の厚さが40μmとなるようにドクターナイフで塗工し、110℃、5分間加熱して塗工溶液を乾燥させた。その後、40℃、3日間静置養生を行い、粘着テープを得た。
【0090】
(2)加熱後の重量減少率の測定
粘着剤層のみからなる測定サンプルを得た後、重量を測定した。窒素雰囲気下(窒素フロー、流量50mL/分)、示差熱熱重量同時測定装置(日立ハイテクサイエンス社製、TG-DTA;STA7200)を用いて、昇温速度10℃/minで測定サンプルを25℃から280℃まで加熱し、280℃に達してから1時間加熱した。放冷後、重量減少量を測定し、得られた重量減少量と加熱前の重量とから重量減少率を算出した。
【0091】
(3)面剥離強度の測定
粘着テープを10mm×10mmに裁断した。室温23℃、相対湿度50%の環境下、裁断した粘着テープを、2kgの圧着ゴムローラーを用いて10mm/secの速度でガラス(松浪ガラス工業社製、大型スライドガラス白縁磨No.2)に貼り付けた。次いで、150℃、10分間の加熱処理を行った。放冷後、以下の
図1に示す粘着テープの面剥離強度の測定方法に従って、粘着テープのガラスに対する面剥離強度を測定した。
【0092】
図1に、粘着テープの面剥離強度の測定方法を模式的に示す図を示す。
室温23℃、相対湿度50%の環境下、ガラス2に貼り付けた粘着テープ1の背面に、測定用両面粘着テープ3(積水化学工業社製、#560)の一方の面を貼り付けた。粘着テープ1及び測定用両面粘着テープ3を貼付した面が上を向くようにガラス2を固定し、測定用両面粘着テープ3の他方の面を引張試験機の治具4に貼付し固定した。引張試験機(島津製作所社製、AG-IS)を用いて剥離速度300mm/minで90℃方向(図中、矢印方向)に引張試験を行い、面剥離強度を測定した。なお、面剥離強度は、評価測定中における最大の剥離強度を意味する。
測定用両面粘着テープ3としては、積水化学工業社製、#560を用いた。
【0093】
(4)スズ成分含有量の測定
粘着テープの粘着剤層をICP発光分光分析装置(Agilent社製、5110 ICP-OES)に供給して測定を行い、粘着剤層のスズ成分含有量を測定した。
【0094】
(実施例2~14、比較例1~6)
粘着剤層の組成を表3に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、粘着テープを得た。
なお、実施例11及び12では、粘着剤層が光硬化型であるため、面剥離強度の測定において、加熱処理前にガラス側から超高圧水銀灯を20mW/cm2の強度で150秒間照射した。
【0095】
<評価>
実施例及び比較例で得られた粘着テープについて、以下の方法により評価を行った。結果を表3に示した。
【0096】
(1)高温での粘着テープの剥離の評価(280℃)
粘着テープを25mm幅に裁断した。室温23℃、相対湿度50%の環境下、裁断した粘着テープを、2kgの圧着ゴムローラーを用いて10mm/secの速度でガラス(松浪ガラス工業社製、大型スライドガラス白縁磨 No.2)に貼り付けた。次いで、150℃、10分間の加熱処理を行った。続いて、280℃、60分間の加熱処理を1回行った。放冷後、粘着テープの状態を目視で観察した。10分以内で粘着テープが剥がれた場合を×、10分を超えて60分以内で粘着テープが剥がれた場合を〇、60分を超えても粘着テープが剥がれなかった場合を◎と示した。
【0097】
(2)初期粘着力の評価
粘着テープを25mm幅に裁断した。室温23℃、相対湿度50%の環境下、裁断した粘着テープを、2kgの圧着ゴムローラーを用いて10mm/secの速度でガラス(松浪ガラス工業社製、大型スライドガラス白縁磨 No.2)に貼り付けた。30分間放置した後、JIS Z0237:2009に準拠し、粘着テープを300mm/minの速度で引き剥がして180度剥離強度を測定した。
【0098】
(3)加熱後粘着力の評価
粘着テープを25mm幅に裁断した。室温23℃、相対湿度50%の環境下、裁断した粘着テープを、2kgの圧着ゴムローラーを用いて10mm/secの速度でガラス(松浪ガラス工業社製、大型スライドガラス白縁磨 No.2)に貼り付けた。次いで、280℃、60分間の加熱処理を1回行った。放冷後、JIS Z0237:2009に準拠し、粘着テープを300mm/minの速度で引き剥がして180度剥離強度を測定した。加熱後粘着力が1.0N/inch以上の場合を○、1.0N/inch未満の場合を◎と示した。
【0099】
【0100】
シリコーンジアクリレート:EBECRYL350(ダイセル・オルネクス社製)
熱重合開始剤:パーブチルO(日油社製)
光重合開始剤:Omnirad369(IGM Resins社製)
イソシアネート系架橋剤:コロネートL(日本ポリウレタン社製)
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明によれば、被着体の加工工程中は高温でも剥離しにくく、工程終了後には容易に剥離できる粘着テープを提供することができる。また、本発明によれば、該粘着テープを用いた半導体ウエハの製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0102】
1 粘着テープ
2 ガラス
3 測定用両面粘着テープ
4 治具