(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】ウイルスベクターの調製手段及び方法並びにその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 7/02 20060101AFI20241113BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20241113BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20241113BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20241113BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
C12N7/02 ZNA
C12N15/864 100Z
A61K35/76
A61K48/00
A61P21/00
(21)【出願番号】P 2020544560
(86)(22)【出願日】2018-11-01
(86)【国際出願番号】 US2018058744
(87)【国際公開番号】W WO2019094253
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2021-10-29
(32)【優先日】2017-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504389991
【氏名又は名称】ノバルティス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196966
【氏名又は名称】植田 渉
(72)【発明者】
【氏名】カスパー,ブライアン ケー.
(72)【発明者】
【氏名】ハットフィールド,ジェームス マイケル
(72)【発明者】
【氏名】バレイディア,ジョゼフ
(72)【発明者】
【氏名】カスパー,アラン アルマン
(72)【発明者】
【氏名】ホッジ,ロバート エミル
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/128407(WO,A1)
【文献】特表2015-525783(JP,A)
【文献】特表2013-517798(JP,A)
【文献】国際公開第2016/004319(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/005430(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 7/00 - 7/08
C12N 15/00 - 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
AAVウイルスベクターの製造方法であって、
a.接着細胞を培養すること;
b.前記接着細胞に1つ又は複数のプラスミドをトランスフェクトして前記AAVウイルスベクターの産生を可能にすること;
c.前記接着細胞を溶解させて前記AAVウイルスベクターを単離すること;
d.前記(c)の細胞ライセートを酸性化及び清澄化すること;
e.前記(d)の産物を陽イオン交換クロマトグラフィー(CEX)を用いて精製すること;
f.前記(e)の産物を第1のタンジェンシャルフローろ過(TFF)ステップを用いてろ過すること;
g.前記(f)の産物を塩化セシウム(CsCl)緩衝液中で超遠心すること;及び
h.前記(g)の産物から前記AAVウイルスベクターを回収すること
を含む方法。
【請求項2】
a.前記AAVがAAV9である、及び/又は
b.前記AAVが自己相補的(scAAV)である、及び/又は
c.前記接着細胞がHEK293細胞である、及び/又は
d.トランスフェクションステップ(b)が、アデノウイルスヘルパープラスミド(pHELP)、並びにAAV rep遺伝子及びAAV cap遺伝子をコードするプラスミドを前記接着細胞に接触させることを含み、及び/又は
e.トランスフェクションステップ(b)が、生存運動ニューロン(SMN)タンパク質をコードするポリヌクレオチド、MeCP2タンパク質をコードするポリヌクレオチド、又はSOD1 shRNAをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドを前記接着細胞に接触させることを含み、及び/又は
f.前記AAVウイルスベクターが配列番号1のヌクレオチド配列を含むDNAを含む、及び/又は
g.トランスフェクションステップが、トランスフェクション剤ポリエチレンイミン(PEI)を前記接着細胞に接触させることを含む、及び/又は
h.トランスフェクションステップが、血清、カルシウム、グルタミンのいずれも含有しないトランスフェクション培地を前記接着細胞に接触させることを含む、及び/又は
i.溶解するステップが、ベンゾナーゼ及びTWEENを補足した溶解緩衝液を使用することを含む、及び/又は
j.ステップ(c)の細胞ライセートを前記(d)の酸性化ステップ前に凍結することを更に含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(a)が、細胞培養培地の連続循環を提供することができる大規模バイオリアクターに前記細胞を播種することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記播種密度が8,000~12,000細胞/cm
2である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記AAV rep遺伝子がrep2であり、前記AAV cap遺伝子がcap9である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
i.SMN1タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む前記プラスミドが、修飾AAV2 ITR、ニワトリβ-アクチン(CB)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)前初期エンハンサー、修飾SV40後期16sイントロン、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化シグナル、及びAAV2 ITRを含む、及び/又は
ii.前記ポリヌクレオチドが配列番号2のSMNタンパク質をコードする、
請求項2に記載の方法。
【請求項7】
細胞培養ライセートからの精製されたAAVウイルスベクターの製造方法であって、
a.前記細胞ライセートを酸性化及び清澄化するステップ;
b.前記(a)の産物を陽イオン交換クロマトグラフィー(CEX)を用いて精製するステップ;
c.前記(b)の産物を第1のタンジェンシャルフローろ過(TFF)ステップでろ過するステップ;
d.前記(c)の産物を2~4M塩化セシウム(CsCl)緩衝液を用いて超遠心するステップ;
e.前記(d)の産物から前記AAVウイルスベクターを収集するステップ;及び
f.前記(e)の産物を第2のタンジェンシャルフローろ過(TFF)ステップでろ過するステップ
を含む方法。
【請求項8】
a.酸性化ステップが、前記細胞ライセートを3.0~4.0のpHに酸性化することを含む、及び/又は
b.前記超遠心が40,000~50,000rpmで実施される、及び/又は
c.前記CsCl緩衝液が3M CsCl、トリス、MgCl
2、及びポロキサマー188を含み、pH7.5~8.5である、及び/又は
d.前記細胞ライセートが酸性化ステップの前にTweenと共にインキュベートされる、及び/又は
e.前清澄化ステップが、前記細胞ライセートをデプスフィルタでろ過することを含む、及び/又は
f.前記CEXがスルホニル樹脂を含む、及び/又は
g.少なくとも1つのTFFステップが、300kDa MWの分子量カットオフのセルロース膜を使用することを含む、及び/又は
h.空のウイルスカプシドの数が、前記超遠心した細胞ライセートから前記AAVウイルスベクターを収集した後の総ウイルスカプシドの7%未満、5%未満、3%未満、又は1%未満である、
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
a.2回目のTFFステップ後に収集される前記AAVウイルスベクターが、トリス、MgCl
2、NaCl、及びポロキサマー188を含む溶液中に貯蔵され、pHがpH7.5~8.5である、及び/又は
b.2回目のTFF後に収集される前記AAVウイルスベクターが、30μg/g未満又は20μg/g未満のCsClを含有する、及び/又は
c.2回目のTFF後に収集されるAAVウイルスベクターの濃度が3×10
13vg/ml以上である、
請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
a.産生されるAAV収率が、製造バッチ当たり5×10
15vg超、又は8×10
15vg超又は1×10
16vg超である、及び/又は
b.前記AAVベクターが、生存運動ニューロン(SMN)タンパク質をコードするポリヌクレオチド、MeCP2タンパク質をコードするポリヌクレオチド、又はSOD1 shRNAをコードするポリヌクレオチドを含む、
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
医薬組成物を生産する方法であって、前記方法が、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法
にしたがってAAVウイルスベクターを製造すること、及び前記AAVウイルスベクター
を含む医薬組成物を生産することを含み、前記医薬組成物が、1×10
13vg/mL当たり2.0×10
5pg/mL未満の残留宿主細胞DNAを含み、
トリス緩衝液、MgCl
2、NaCl、及びポロキサマー188を含む水性医薬製剤である、
方法。
【請求項12】
前記医薬組成物が、以下のうちの少なくとも1つ:
a.1.0×10
13vg当たり0.09ng未満のベンゾナーゼ、
b.30μg/g(ppm)未満のセシウム、
c.20~80ppmのポロキサマー188、
d.1.0×10
13vg当たり0.22ng未満のBSA、
e.1.0×10
13vg当たり6.8×10
5pg未満の残留プラスミドDNA、
f.1.0×10
13vg当たり1.1×10
5pg未満の残留hcDNA、
g.1.0×10
13vg当たり4ng未満のrHCP、
h.pH7.7~8.3、
i.390~430mOsm/kg、
j.容器当たり600個未満の≧25μmサイズの粒子、
k.容器当たり6000個未満の≧10μmサイズの粒子、
l.1.7×10
13~2.3×10
13vg/mLのゲノム力価、
m.1.0×10
13vg当たり3.9×10
8~8.4×10
10IUの感染力価、
n.1.0×10
13vg当たり100~300μgの全タンパク質、
o.70~130%の相対効力、及び
p.5%未満の空のカプシド
を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
a.1~8×10
13AAV9ウイルスベクターゲノム/mL(vg/mL);
b.7%未満の空のウイルスカプシド;
c.1×10
13vg/mL当たり100ng/mL未満の宿主細胞タンパク質;及び
d.1×10
13vg/mL当たり2.0×10
5pg/mL未満の残留宿主細胞DNA
を含む医薬組成物であって、
e.トリス緩衝液、MgCl
2、NaCl、及びポロキサマー188を含む水性医薬製剤であり、かつ
前記1~8×10
13AAV9ウイルスベクターゲノム/mLの少なくとも80%が機能性である、医薬組成物。
【請求項14】
a.前記AAV9ウイルスベクターが、生存運動ニューロン(SMN)タンパク質をコードするポリヌクレオチド、MeCP2タンパク質をコードするポリヌクレオチド、又はSOD1 shRNAをコードするポリヌクレオチドを含む、及び/又は
b.前記AAV9ウイルスベクターが、修飾AAV2 ITR、ニワトリβ-アクチン(CB)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)前初期エンハンサー、修飾SV40後期16sイントロン、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化シグナル、及び非修飾AAV2 ITRを含む、及び/又は
c.前記AAV9ウイルスベクターが配列番号1のヌクレオチド配列を含むDNAを含む、及び/又は
d.組成物が、1.7~2.3×10
13AAV9vg/mLを含む、
請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記水性医薬製剤が保存剤を含まない、請求項13又は14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記SMNタンパク質をコードするポリヌクレオチドが、配列番号2のSMNタンパク質をコードする、請求項14又は15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
(i)前記トリス緩衝液濃度が10~30nMである、
(ii)前記製剤のpHが7.7~8.3である、
(iii)前記MgCl
2濃度が0.5~1.5mMである、
(iv)前記NaCl濃度が100~300mMである、
(v)前記製剤が、0.005%w/vのポロキサマー188を含む、又は
(vi)前記水性医薬製剤が、390~430mOsm/kgのオスモル濃度を有する、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項18】
それを必要としている患者におけるI型脊髄性筋萎縮症(SMA)の治療のための請求項14~17のいずれか一項に記載の医薬組成物であって、前記患者が、
a.9ヵ月齢以下であり;
b.少なくとも2.6kgの体重であり;
c.両アレル性SMN1ヌル突然変異又は欠失を有し;及び
d.SMN2の少なくとも1つの機能性コピーを有する、医薬組成物。
【請求項19】
a.前記ウイルスベクターが1~2.5×10
14vg/kgの用量で投与される、及び/又は
b.前記患者が8.5kg以下の体重である、及び/又は
c.前記患者がSMN2遺伝子の少なくとも1つのコピーのエクソン7にc.859G>C置換を有しない、及び/又は
d.前記組成物が6ヵ月齢より前に、又は筋緊張低下、運動技能遅滞、定頸不全、円背姿勢及び関節過度可動性から選択される1つ以上のSMA症状が発生する前に前記患者に投与される、及び/又は
e.前記ウイルスベクターが、5~20mL/kg、10~20mL/kg、又は5.5~6.5mL/kgのトリス緩衝生理食塩水で投与される、及び/又は
f.有効性がCHOP-INTEND尺度を用いて決定される、及び/又は
g.2.6~3.0kgの体重の患者について16.5mLの用量、3.1~3.5kgの体重の患者について19.3mLの用量、3.6~4.0kgの体重の患者について22.0mLの用量、4.1~4.5kgの体重の患者について24.8mLの用量、4.6~5.0kgの体重の患者について27.5mLの用量、5.1~5.5kgの体重の患者について30.3mLの用量、5.6~6.0kgの体重の患者について33.0mLの用量、6.1~6.5kgの体重の患者について35.8mLの用量、6.6~7.0kgの体重の患者について38.5mLの用量、7.1~7.5kgの体重の患者について41.3mLの用量、7.6~8.0kgの体重の患者について44.0mLの用量、及び8.1~8.5kgの体重の患者について46.8mLの用量からなる群より選択される用量容積で投与される、及び/又は
h.前記組成物が、髄腔内又は静脈内注入によってそれを必要としている患者に投与される、
請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記ウイルスベクターが45~75分かけて注入される、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
請求項13~20のいずれか一項に記載の医薬組成物を含むバイアルを含む、I型脊髄性筋萎縮症(SMA)の治療のためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表
本願は、EFS-WebからASCII形式で提出された配列表を含み、この配列表は本明細書によって全体として参照により援用される。2018年10月31日に作成された前記ASCII複製物は、名称がAVEX-003001WO_ST25.txtであり、14,639バイトのサイズである。
【0002】
関連出願
本願は、2017年11月8日に出願された米国仮特許出願第62/583,035号明細書に対する優先権を主張するものであり、その内容は全体として参照により本明細書に援用される。
【0003】
本開示は、ウイルス粒子の調製及び精製方法並びにそれを含む組成物及び使用に関する。
【背景技術】
【0004】
アデノ随伴ウイルス(AAV)はパルボウイルス科(parvoviridae)のメンバーである。AAVゲノムは、約4.7キロベース(kb)を含む、且つ非構造Rep(複製)及び構造Cap(カプシド)タンパク質をコードする2つの主要なオープンリーディングフレームからなる線状一本鎖DNA分子で構成されている。AAVコード領域には、約145ヌクレオチド長の、DNA複製開始時にプライマーとして機能するヘアピン構造に折り畳まれることができる分断されたパリンドローム配列を含む2つのシス作用性逆方向末端反復(ITR)配列が隣接する。DNA複製におけるその役割に加えて、ITR配列は、ウイルス組込み、宿主ゲノムからのレスキュー、及び成熟ビリオンへのウイルス核酸のカプシド化に必要であることが示されている(Muzyczka,(1992)Curr.Top.Micro.Immunol.158:97-129)。
【0005】
複数のAAV血清型が存在し、多様な組織向性を提供する。既知の血清型には、例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10及びAAV11が含まれる。AAV9については、米国特許第7,198,951号明細書及びGao et al.,J.Virol.,78:6381-6388(2004)(これらは本明細書によって全体として参照により援用される)に記載されている。AAV6及びAAV8の送達の進歩により、単純な全身性静脈内又は腹腔内注射後に骨格筋及び心筋をこれらの血清型によって形質導入することが可能になっている。Pacak et al.,Circ.Res.,99(4):3-9(2006)及びWang et al.,Nature Biotech.23(3):321-8(2005)を参照のこと。しかしながら、AAVを使用して中枢神経系内にある細胞型を標的とするには、外科的脳実質内注射が必要となっている。Kaplitt et al.,“Safety and tolerability of gene therapy with an adeno-associated virus(AAV) borne GAD gene for Parkinson’s disease:an open label,phase I trial.”Lancet,369:2097-2105;Marks et al.,“Gene delivery of AAV2-neurturin for Parkinson’s disease:a double-blind,randomized,controlled trial.”Lancet Neurol 9:1164-1172;及びWorgall et al.,“Treatment of late infantile neuronal ceroid lipofuscinosis by CNS administration of a serotype 2 adeno-associated virus expressing CLN2 cDNA.”Hum Gene Ther,19(5):463-74を参照のこと。
【0006】
AAV血清型2型(AAV2)ゲノムのヌクレオチド配列は、Srivastava et al.,J Virol,45:555-564(1983)に提示され、Ruffing et al.,J Gen Virol,75:3385-3392(1994)によって訂正されたとおりである。ITR内には、ウイルスDNA複製(rep)、カプシド化/パッケージング及び宿主細胞染色体組込みを指図するシス作用配列が含まれる。3つのAAVプロモーター(その相対マッピング位置からp5、p19、及びp40と呼ばれる)が、rep及びcap遺伝子をコードする2つのAAV内部オープンリーディングフレームの発現をドライブする。2つのrepプロモーター(p5及びp19)が、単一のAAVイントロンの差次的スプライシング(ヌクレオチド2107及び2227における)と共に、rep遺伝子から4つのrepタンパク質(rep78、rep68、rep52、及びrep40)の産生をもたらす。repタンパク質は複数の酵素的特性を備え、最終的にはそれらがウイルスゲノムの複製に関与する。cap遺伝子はp40プロモーターから発現し、3つのカプシドタンパク質VP1、VP2、及びVP3をコードする。選択的スプライシング部位及び非コンセンサス翻訳開始部位が、これらの3つの関連するカプシドタンパク質の産生に関与する。単一のコンセンサスポリアデニル化部位が、AAVゲノムのマッピング位置95に位置する。AAVのライフサイクル及び遺伝学については、Muzyczka,Current Topics in Microbiology and Immunology,158:97-129(1992)にレビューされている。
【0007】
AAVに由来するベクターは、(i)筋線維及びニューロンを含めた多様な非分裂及び分裂細胞型に感染(形質導入)することが可能であり;(ii)ウイルス構造遺伝子を欠いているため、ウイルス感染に対する天然の宿主細胞応答、例えばインターフェロン媒介性応答がなくなり;(iii)野生型ウイルスはこれまでヒトにおけるいかなる病理とも関連付けられたことがなく;(iv)宿主細胞ゲノムへの組込み能を有する野生型AAVと対照的に、複製欠損AAVベクターは概してエピソームとして残り、従って癌遺伝子の挿入突然変異誘発又は活性化のリスクが限定され;及び(v)他のベクター系と対照的に、AAVベクターは顕著な免疫応答を引き起こさず(iiを参照)、従って治療用トランス遺伝子の長期発現を(その遺伝子産物が拒絶されないならば)もたらすという理由で、遺伝子材料の送達に特に魅力的である。
【0008】
自己相補的アデノ随伴ベクター(scAAV)は、天然に存在するアデノ随伴ウイルス(AAV)から遺伝子療法における使用向けに操作されたウイルスベクターである。scAAVは、コード領域が分子内二本鎖DNA鋳型を形成するように設計されているため「自己相補的」と称される。典型的なAAVゲノムは一本鎖DNA鋳型であるため、標準的なAAVゲノムライフサイクルの律速段階は第2鎖合成を伴う。しかしながら、scAAVゲノムにはこれは当てはまらない。感染時、細胞媒介性の第2鎖合成を待つのでなく、むしろscAAVの2つの相補的な半分が会合して、いつでも複製及び転写できる状態の1つの二本鎖DNA(dsDNA)単位を形成することになる。
【発明の概要】
【0009】
例えば、空のカプシドが少なく、宿主細胞タンパク質が少なく、及び/又は夾雑DNAが少ないながらも高い効力を保持しているAAV医薬製品の規模拡張性のある製造及び精製方法を開発することが依然として必要とされている。
【0010】
本開示は、AAV粒子調製物を含めた精製ウイルス粒子調製物の調製方法を提供する。
【0011】
一部の実施形態において、本開示は、(a)1~8×1013AAV9ウイルスベクターゲノム/mL(vg/mL)、(b)約7%未満の空のウイルスカプシド、(c)1×1013vg/mL当たり約100ng/mL未満の宿主細胞タンパク質、及び(d)1×1013vg/mL当たり約5×106pg/mL未満の残留宿主細胞DNAを含む医薬組成物を提供し、ここで1~8×1013AAV9ウイルスベクターゲノム/mLの少なくとも約80%は機能性である。
【0012】
一実施形態において、AAV9ウイルスベクターは、生存運動ニューロン(SMN)タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む。一実施形態において、AAV9ウイルスベクターは、メチルCpG結合タンパク質2(MECP2)タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む。一実施形態において、AAV9ウイルスベクターは、スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)を標的とする低分子ヘアピンRNA(shRNA)をコードするポリヌクレオチドを含む。一実施形態において、AAV9ウイルスベクターは、修飾AAV2 ITR、ニワトリβ-アクチン(CB)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)前初期エンハンサー、修飾SV40後期16sイントロン、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化シグナル、及び非修飾AAV2 ITRを含む。
【0013】
本開示は、医薬製剤を提供する。一部の実施形態において、水性医薬製剤は、(a)生存運動ニューロン(SMN)タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むAAV9ウイルスベクター、(b)トリス緩衝液、(c)塩化マグネシウム、(d)塩化ナトリウム、及び(e)ポロキサマー(例えば、ポロキサマー188)を含み、ここで医薬組成物は保存剤を含まない。製剤の一実施形態において、AAV9ウイルスベクターは、修飾AAV2 ITR、ニワトリβ-アクチン(CB)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)前初期エンハンサー、修飾SV40後期16sイントロン、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化シグナル、及び非修飾AAV2 ITRを更に含む。製剤の一実施形態において、トリス緩衝液濃度は約10~30nM、例えば約20mMである。一実施形態において、製剤のpHは約7.7~約8.3、例えば約pH8.0(例えば、USP<791>(全体として参照により援用される)により測定したとき)である。製剤の一実施形態において、塩化マグネシウム濃度は約0.5~1.5mM、例えば約1mMである。製剤の一実施形態において、塩化ナトリウム濃度は約100~300mM、例えば約200mMである。一実施形態において、製剤は約0.005%w/vポロキサマー188を含む。
【0014】
本開示の別の態様は、SMNタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むAAV9ウイルスベクター(例えば、本明細書に開示されるとおりの組成物又は製剤)を髄腔内又は静脈内経路によって患者に投与することを含む、それを必要としている患者におけるI型脊髄性筋萎縮症(SMA)の治療方法に関し、ここで患者は、(a)9ヵ月齢以下であり、(b)少なくとも約2.6kgの体重であり、(c)両アレル性SMN1ヌル突然変異又は欠失を有し、及び(d)SMN2の少なくとも1つの機能性コピーを有する。一実施形態において、AAV9ウイルスベクターは、修飾AAV2 ITR、ニワトリβ-アクチン(CB)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)前初期エンハンサー、修飾SV40後期16sイントロン、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化シグナル、及び非修飾AAV2 ITRを含む。ある実施形態において、患者の体重は約8.5kg以下である。一実施形態において、患者はSMN2遺伝子の少なくとも1つのコピーのエクソン7にc.859G>C置換を有しない。ある実施形態において、治療は6ヵ月齢より前に患者に投与される。ある実施形態において、治療は、筋緊張低下、運動技能遅滞、定頸不全、円背姿勢及び関節過度可動性から選択される1つ以上のSMA症状が発症する前に患者に投与される。一実施形態において、患者は、投与前にELISA結合イムノアッセイによって決定したとき1:100以下の抗AAV9抗体力価を有する。
【0015】
本明細書にはまた、本明細書に開示されるとおりのアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを含む組成物又は製剤を患者に投与することを含む、疾患発症を伴う又は伴わない脊髄性筋萎縮症(SMA)I型小児患者の治療方法も開示される。
【0016】
本開示はまた、メチルCpG結合タンパク質2(MECP2)タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むAAV9ウイルスベクターを髄腔内又は静脈内経路によって患者に投与することを含む、それを必要としている患者におけるレット症候群の治療方法にも関する。
【0017】
本開示はまた、スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)を標的とする低分子ヘアピンRNA(shRNA)をコードするポリヌクレオチドを含むAAV9ウイルスベクターを髄腔内又は静脈内経路によって患者に投与することを含む、それを必要としている患者における筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療方法にも関する。
【0018】
本開示の別の態様は、I型SMAに罹患している患者の治療方法に関し、この方法は、(a)患者の体重を決定するステップ、(b)AAV9ウイルスベクター医薬組成物のバイアルが入ったキットを入手するステップ、及び(c)バイアルからのAAV9ウイルスベクターを患者に投与するステップを含み、ここで各バイアル中のウイルスベクター濃度は約2.0×1013vg/mLであり、AAV9ウイルスベクターは、SMNタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み;及びここでキットは以下の本数のバイアルを含む。
【0019】
【0020】
一実施形態において、本キットは、突然変異AAV2 ITR、ニワトリβ-アクチン(CB)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)前初期エンハンサー、修飾SV40後期16sイントロン、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化シグナル、及びAAV2 ITRを含むAAV9ウイルスベクターを含む。一実施形態において、AAVウイルスベクターは、約1.0×1014~2.5×1014vg/kgの用量で注入によって投与される。
【0021】
本開示の別の態様は、生存運動ニューロン(SMN)タンパク質をコードするポリヌクレオチドをAAV9ウイルスベクターが含む組成物又は(a)生存運動ニューロン(SMN)タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むAAV9ウイルスベクター、(b)トリス緩衝液、(c)塩化マグネシウム、(d)塩化ナトリウム、及び(e)ポロキサマー(例えば、ポロキサマー188)を含む製剤が入ったバイアルを含む、I型脊髄性筋萎縮症(SMA)に罹患している患者の治療用キットに関する。
【0022】
本開示の別の態様は、生存運動ニューロン(SMN)タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、且つpH7.7~8.3、例えば約8.0の20mMトリス、1mM MgCl2、200mM NaCl、0.005%w/vポロキサマー188中に約2.0×1013vg/mLの濃度で製剤化された約5.5mL又は約8.3mLのAAV9ウイルスベクターが入ったバイアルを含むキットに関する。
【0023】
本開示の別の態様は、ある容積の組成物であって、生存運動ニューロン(SMN)タンパク質をコードするポリヌクレオチドをAAV9ウイルスベクターが含む組成物又は(a)生存運動ニューロン(SMN)タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むAAV9ウイルスベクター、(b)トリス緩衝液、(c)塩化マグネシウム、(d)塩化ナトリウム、及び(e)ポロキサマー(例えば、ポロキサマー188)を含む製剤を静脈内注入によってそれを必要としている患者に投与することを含む、I型SMAの治療方法に関する。
【0024】
本開示の別の態様は、AAVウイルスベクターの製造方法に関する。一実施形態において、AAVウイルスベクターの製造方法は、(a)接着細胞を培養するステップ、(b)接着細胞に1つ又は複数のプラスミドをトランスフェクトしてAAVウイルスベクターの産生を可能にするステップ、(c)接着細胞を溶解させてAAVウイルスベクターを単離するステップ、(d)(c)の細胞ライセートを酸性化及び清澄化するステップ、(e)(d)の産物を陽イオン交換クロマトグラフィー(CEX)を用いて精製するステップ、(f)(e)の産物をタンジェンシャルフローろ過(TFF)を用いてろ過するステップ、(g)(f)の産物を塩化セシウム(CsCl)緩衝液中で超遠心するステップ;及び(h)(g)の産物からAAVウイルスベクターを収集するステップを含む。
【0025】
本開示の別の態様は、細胞培養ライセートからのAAVウイルスベクターの精製方法に関し、この方法は、(a)細胞ライセートを酸性化及び清澄化するステップ、(b)(a)の産物を陽イオン交換クロマトグラフィー(CEX)を用いて精製するステップ、(c)(b)の産物をタンジェンシャルフローろ過でろ過するステップ、(d)(c)の産物を2~4M塩化セシウム(CsCl)緩衝液を用いて超遠心するステップ、(e)(d)の産物からAAVウイルスベクターを収集するステップ、(f)(e)の産物をタンジェンシャルフローろ過でろ過するステップを含む。ある実施形態において、本方法は工業規模で実施される。ある実施形態において、本方法は、製造バッチ当たり5×1015vg超、又は8×1015vg超又は1×1016vg超の収率を生じる。
【0026】
本開示の別の態様は、本明細書に開示される方法のいずれかにより調製されるとおりのSMNタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むAAV9ウイルスベクターを投与することによる、SMA1型を有する患者の治療方法に関する。
【0027】
本開示の別の態様は、本明細書における方法のいずれかにより調製されるとおりのMECP2タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むAAV9ウイルスベクターを投与することによる、レット症候群を有する患者の治療方法に関する。
【0028】
本開示の別の態様は、本明細書における方法のいずれかにより調製されるとおりのSOD1を標的とするshRNAをコードするポリヌクレオチドを含むAAV9ウイルスベクターを投与することによる、ALSを有する患者の治療方法に関する。
【0029】
本開示の別の態様は、本明細書における方法のいずれかにより製造される、SMNタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むAAV9ウイルスベクターに関する。
【0030】
本開示の別の態様は、本明細書における方法のいずれかにより製造される、SMNタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むAAV9ウイルスベクターを含む医薬組成物に関する。
【0031】
本開示の別の態様は、SMNタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むAAV9ウイルスベクターと、トリス緩衝液と、塩化マグネシウム溶液と、塩化ナトリウム溶液とを含む水性医薬組成物に関し、ここで医薬組成物は保存剤を含まず、及びここで組成物は、本明細書における方法のいずれかにより製造される。
【0032】
本開示の別の態様は、本明細書における方法のいずれかにより製造される、MECP2タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むAAV9ウイルスベクターに関する。
【0033】
本開示の別の態様は、本明細書における方法のいずれかにより製造される、MECP2タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むAAV9ウイルスベクターを含む医薬組成物に関する。
【0034】
本開示の別の態様は、本明細書における方法のいずれかにより製造される、SOD1を標的とするshRNAをコードするポリヌクレオチドを含むAAV9ウイルスベクターに関する。
【0035】
本開示の別の態様は、(a)修飾AAV2 ITRと、ニワトリβ-アクチン(CB)プロモーターと、サイトメガロウイルス(CMV)前初期エンハンサーと、修飾SV40後期16sイントロンと、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化シグナルと、非修飾AAV2 ITRとを含む自己相補的AAV9ウイルスベクター、(b)pH8.0の20mMトリス、(c)1mM MgCl2、(d)200mM NaCl、及び(e)0.005%ポロキサマー188を含む医薬組成物を静脈内投与することによる、それを必要としている患者におけるI型SMAの治療方法に関し、ここで患者は体重が2.6kg~8.5kgである。一実施形態において、本組成物は保存剤を含まない。
【0036】
一実施形態において、患者は、(a)9ヵ月齢以下であり、(b)少なくとも約2.6kgの体重であり、(c)両アレル性SMN1ヌル突然変異又は欠失を有し、及び(d)SMN2の少なくとも1つの機能性コピーを有する。
【0037】
本開示の別の態様は、(a)修飾AAV2 ITRと、ニワトリβ-アクチン(CB)プロモーターと、サイトメガロウイルス(CMV)前初期エンハンサーと、修飾SV40後期16sイントロンと、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化シグナルと、非修飾AAV2 ITRとを含む自己相補的AAV9ウイルスベクター、(b)pH8.0の20mMトリス、(c)1mM MgCl2、(d)200mM NaCl、及び(e)0.005%ポロキサマー188を含む医薬組成物の静脈内投与に好適な、又はそれ用に製造される組成物に関する。
【0038】
一部の実施形態において、本明細書には組成物又は製剤が開示され、ここで本組成物又は製剤は、以下のうちの少なくとも1つ:(a)1.0×1013vg当たり約0.09ng未満のベンゾナーゼ、(b)約30μg/g(ppm)未満のセシウム、(c)約20~80ppmのポロキサマー188、(d)1.0×1013vg当たり約0.22ng未満のBSA、(e)1.0×1013vg当たり約6.8×105pg未満の残留プラスミドDNA、(f)1.0×1013vg当たり約1.1×105pg未満の残留hcDNA、及び(g)1.0×1013vg当たり約4ng未満のrHCPを含む。
【0039】
一部の実施形態において、本開示は、ワーキングセルバンクに由来する中間体(例えば、凍結中間体)を産生する上流工程を提供し、ここで上流工程は、(a)細胞を培養するステップ、(b)培養細胞にプラスミド(例えば3つのプラスミド)をトランスフェクトするステップ、(c)培養期間後に細胞から拡大したウイルス粒子を回収するステップ、(d)ウイルス粒子をろ過によって精製して任意のインタクトな細胞又は細胞デブリを除去するステップ、(e)ステップ(d)からの溶出液をタンジェンシャルフローろ過に供するステップ、及び(g)任意選択で、得られた精製ウイルス粒子中間調製物を凍結するステップを含む。一部の実施形態において、上流工程は、更なる処理ステップ、特に、g.、最終医薬製品を産生する更なる精製及び製剤化ステップと組み合わされる。
【0040】
一実施形態において、ワーキングセルバンクはHEK293細胞を含む。他の実施形態において、当該技術分野で利用可能な、且つ本明細書に開示される方法における使用に好適な別の細胞型又は誘導体が使用される。
【0041】
一実施形態において、トランスフェクションステップはポリエチレンイミンを利用する。一実施形態において、トランスフェクションステップは、トランス遺伝子プラスミド、例えばpSMN、pAAVプラスミド及びpHELPプラスミドを使用した三重ベクタートランスフェクションを含む。
【0042】
一実施形態において、本工程は、トランスフェクト細胞を溶解緩衝液及び界面活性剤で溶解させることを更に含む。
【0043】
一実施形態において、回収ステップは、産物を例えば50~200U/mlの濃度、例えば75~150U/mlの濃度のベンゾナーゼなどのエンドヌクレアーゼで処理して残留宿主細胞DNAを低減することを含む。
【0044】
一実施形態において、精製ステップは、デプスろ過と、続く大型分子夾雑物及び細胞デブリを除去するフィルタ、例えば0.45ミクロンフィルタであって、しかしベクターゲノムがそこを通過することは許容するフィルタでのろ過とを含む。任意の好適なデプスフィルタを使用し得る。
【0045】
一実施形態において、タンジェンシャルフローろ過(「TFF」)はステップ(d)の溶出液の5~15倍、例えば6~10倍濃縮及び少なくとも4ダイアボリューム(diavolume)、例えば6ダイアボリュームのダイアフィルトレーション又は10ダイアボリューム、又は12ダイアボリューム、又は15ダイアボリュームのダイアフィルトレーションを実現する。任意の好適なTFFフィルタを使用し得る。ある実施形態において、TFF膜はセルロース膜である。ある実施形態において、TFF膜は300kDaカットオフを有する。
【0046】
第二に、本開示は、中間体(例えば凍結中間体)をろ過済み原薬に処理する下流工程を提供する。下流工程ステップには、酸性化及び清澄化ステップ(ろ過を用いる)と、それに続く陽イオン交換クロマトグラフィー、タンジェンシャルフローろ過、CsCl超遠心及び更なるタンジェンシャルフローろ過ステップが含まれ、これにより精製されたAAV粒子が薬学的に許容可能な担体中に懸濁されているろ過済み原薬が産生される。
【0047】
一実施形態において、酸性化及び清澄化ステップは、デプスろ過と、続く大型分子夾雑物及び細胞デブリを除去するフィルタ、例えば0.45ミクロンフィルタでのろ過とを含む。一部の実施形態において、pH調整が制御される。このステップの一部として、一実施形態では、デタージェント、例えばTweenが添加される。一部の実施形態において、Tweenの添加速度及びTweenの濃度範囲が制御される。
【0048】
一実施形態において、陽イオン交換クロマトグラフィーは、0.2ミクロン細孔径の複合スルホニル樹脂を使用した膜ベースのクロマトグラフィー樹脂を含む。
【0049】
一実施形態において、塩化セシウム(CsCl)超遠心ステップは、2~4M CsCl、例えば約3M CsClを使用する。
【0050】
別の実施形態において、CsCl超遠心ステップは約40~50kRPMで約20~25時間実施される。別の実施形態において、CsCl超遠心ステップは約45kRPMで約22時間実施される。
【0051】
一実施形態において、タンジェンシャルフローろ過(「TFF」)はステップ(d)の溶出液の5~15倍、例えば6~10倍濃縮及び少なくとも4ダイアボリューム、例えば6ダイアボリュームのダイアフィルトレーション又は10ダイアボリューム、又は12ダイアボリューム、又は15ダイアボリュームのダイアフィルトレーションを実現する。ある実施形態において、TFF膜は300kDaカットオフを有する。
【0052】
一実施形態において、溶出液は検出レベル未満のセシウム(Cs)である。別の実施形態において、Csの検出レベルは50百万分率(per million)(ppm)未満である。別の実施形態において、Csの検出レベルは約50~70ppmである。別の実施形態において、Csの検出レベルは約70~90百万分率(ppm)である。別の実施形態において、Csの検出レベルは約90~110百万分率(ppm)である。別の実施形態において、Csの検出レベルは約110~130百万分率(ppm)である。別の実施形態において、Csの検出レベルは約130~150百万分率(ppm)である。別の実施形態において、Csの検出レベルは150百万分率(ppm)未満である。
【0053】
これらの精製方法を用いると、1×1013ベクターゲノム(「vg」)/ml当たり5×106pg/ml未満の残留宿主細胞DNA(hcDNA)、例えば1×1013vg/mL当たり1.2×106pg/mL未満のhcDNAを含む高収率ウイルス調製物、例えばAAV調製物(例えば、AAV9-SMN)を調製することができる。従って、7.5×1015vgの投与を受ける5kgの患者であれば、5kg用量当たり最大でも1.2×106pg/mL × 7.5×1015vg/(1×1013vg/mL)=8.4×107pgのhcDNA=84,000ngのhcDNAを取り込むに過ぎないことになる。一実施形態において、調製物は、1.0×1013vg当たり5.0×105pg未満の残留宿主細胞DNA、1.0×1013vg当たり2.0×105pg未満の残留宿主細胞DNA、1.0×1013vg当たり1.1×105pg未満の残留宿主細胞DNA、1.0×1013vg当たり1.0×105pg未満の残留宿主細胞DNA、1.0×1013vg当たり0.9×105pg未満の残留宿主細胞DNA、1.0×1013vg当たり0.8×105pg未満の残留宿主細胞DNA、又は間にある任意の濃度を含む。
【0054】
一実施形態において、AAVは、AAV2由来のITRを有する複製欠損AAV9、例えばscAAV9である。別の実施形態において、AAVベクターはSMNトランス遺伝子を担持する。ある実施形態において、SMNコードDNAはGenBank受託番号NM_000344.2に示される。SMN DNAの保存的ヌクレオチド置換もまた企図される(例えば、GenBank受託番号NM_000344.2に示されるとおりの、625位におけるグアニンからアデニンへの変更)。
【0055】
本開示の別の態様は、(a)静脈内(「IV」)注射又は(b)髄腔内(「IT」)投与のいずれかに好適な製剤におけるAAV粒子を含む医薬組成物に関する。
【0056】
別の実施形態において、本医薬組成物は、10%未満の空のカプシド、8%未満の空のカプシド、7%未満の空のカプシド、5%未満の空のカプシド、3%未満の空のカプシド、又は1%未満の空のカプシドを有する。一部の実施形態において、本医薬組成物は約5%未満の空のカプシドを有する。一実施形態において、空のカプシドの数は検出限界未満である。一部の実施形態において、空のカプシドは治療利益なしに有害反応(例えば、免疫反応、炎症反応、肝臓反応、及び/又は心臓反応)を生じさせ得るため、医薬組成物は低量の空のカプシドを有することが有利である。
【0057】
別の実施形態において、前記医薬組成物中の残留宿主細胞タンパク質(「rHCP」)は、1×1013vg/ml当たり100ng/ml以下のrHCP、例えば、1×1013vg/ml当たり40ng/ml以下のrHCP又は1×1013vg/ml当たり1~50ng/mlのrHCPである。一実施形態において、本明細書に開示される医薬組成物は、1.0×1013vg当たり10ng未満のrHCP、又は1.0×1013vg当たり5ng未満のrHCP、1.0×1013vg当たり4ng未満のrHCP、又は1.0×1013vg当たり3ng未満のrHCP、又は間にある任意の濃度を含む。
【0058】
別の実施形態において、前記医薬組成物中の残留宿主細胞DNA(「hcDNA」)は、1×1013vg/ml当たり5×106pg/ml以下のhcDNA、1×1013vg/ml当たり1.2×106pg/ml以下のrHDNA、又は1×1013vg/ml当たり1×105pg/mlのrHDNA~1×1013vg/ml当たり1.2×106pg/mlである。一実施形態において、前記医薬組成物中の残留宿主細胞DNAは、1.0×1013vg当たり5.0×105pg未満、1.0×1013vg当たり2.0×105pg未満、1.0×1013vg当たり1.1×105pg未満、1.0×1013vg当たり1.0×105pg未満のhcDNA、1.0×1013vg当たり0.9×105pg未満のhcDNA、1.0×1013vg当たり0.8×105pg未満のhcDNA、又は間にある任意の濃度である。
【0059】
ある実施形態において、前記医薬組成物中の残留プラスミドDNAは、1×1013vg/ml当たり1.7×106pg/ml以下、又は1×1013vg/ml当たり1×105pg/ml~1×1013vg/ml当たり1.7×106pg/mlである。一実施形態において、前記医薬組成物中の残留プラスミドDNAは、1.0×1013vg当たり10.0×105pg未満、1.0×1013vg当たり8.0×105pg未満、又は1.0×1013vg当たり6.8×105pg未満である。
【0060】
ある実施形態において、本明細書に開示される医薬組成物は、1.0×1013vg当たり0.5ng未満、1.0×1013vg当たり0.3ng未満、1.0×1013vg当たり0.22ng未満、又は1.0×1013vg当たり0.2ng未満、又は間にある任意の濃度のウシ血清アルブミン(BSA)を含む。一実施形態において、前記医薬組成物中のベンゾナーゼは、1.0×1013vg当たり0.2ng未満、1.0×1013vg当たり0.1ng未満、1.0×1013vg当たり0.09ng未満、1.0×1013vg当たり0.08ng未満又は間にある任意の濃度である。一実施形態において、前記医薬組成物中のポロキサマー188は、約10~150ppm、約15~100ppm、又は約20~80ppmである。一実施形態において、前記医薬組成物中のセシウムは、50μg/g(ppm)未満、30μg/g(ppm)未満又は20μg/g(ppm)未満、又は間にある任意の濃度である。
【0061】
ある実施形態において、本明細書に開示される医薬組成物は、例えばSDS-PAGEにより決定したとき、10%未満、8%未満、7%未満、6%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、又は間にある任意のパーセンテージの総不純物を含む。一実施形態において、総純度は、例えばSDS-PAGEにより決定したとき、90%超、92%超、93%超、94%超、95%超、96%超、97%超、98%超、又は間にある任意のパーセンテージである。本医薬組成物の一実施形態において、非単一不特定関連不純物は、例えばSDS-PAGEにより測定した(measrued)とき、5%超、4%超、3%超又は2%超、又は間にある任意のパーセンテージである。一実施形態において、本医薬組成物は、85%超、86%超、87%超、88%超、89%超、90%超、91%超、91.9%超、92%超、93%超、又は間にある任意のパーセンテージの全カプシドに対する中身の詰まったカプシドのパーセンテージ(例えば、分析的超遠心法により測定したときピーク1+ピーク2)を含む。本医薬組成物の一実施形態において、分析的超遠心法によりピーク1で測定した中身の詰まったカプシドのパーセンテージは、20~80%、25~75%、30~75%、35~75%、又は37.4~70.3%である。本医薬組成物の一実施形態において、分析的超遠心法によりピーク2で測定した中身の詰まったカプシドのパーセンテージは、20~80%、20~70%、22~65%、24~62%、又は24.9~60.1%である。
【0062】
一実施形態において、本明細書に開示される医薬組成物は、1.0~5.0×1013vg/mL、1.2~3.0×1013vg/mL又は1.7~2.3×1013vg/mLのゲノム力価を含む。
【0063】
一実施形態において、本明細書に開示される医薬組成物は、5CFU/mL未満、4CFU/mL未満 3CFU/mL未満、2CFU/mL未満、又は1CFU/mL未満、又は間にある任意の濃度のバイオバーデンを呈する。一実施形態において、USP、例えばUSP<85>(全体として参照により援用される)に基づくエンドトキシンの量は、1.0EU/mL未満、0.8EU/mL未満又は0.75EU/mL未満である。
【0064】
一実施形態において、USP、例えばUSP<785>(全体として参照により援用される)に基づく本明細書に開示される医薬組成物のオスモル濃度は、350~450mOsm/kg、370~440mOsm/kg又は390~430mOsm/kgである。一実施形態において、本医薬組成物は、容器当たり1200個未満の25μmより大きい粒子、容器当たり1000個未満の25μmより大きい粒子、容器当たり600個未満の25μmより大きい粒子、容器当たり500個未満の25μmより大きい粒子、又は間にある任意の値だけ含有する。一実施形態において、本医薬組成物は、容器当たり10000個未満の10μmより大きい粒子、容器当たり8000個未満の10μmより大きい粒子、又は容器当たり6000個未満の10μmより大きい粒子を含有する。
【0065】
一実施形態において、本医薬組成物は、0.5~5.0×1013vg/mL、1.0~4.0×1013vg/mL、1.5~3.0×1013vg/mL又は1.7~2.3×1013vg/mLのゲノム力価を有する。
【0066】
一実施形態において、本明細書に開示される医薬組成物は、以下のうちの1つ以上:1.0×1013vg当たり約0.09ng未満のベンゾナーゼ、約30μg/g(ppm)未満のセシウム、約20~80ppmのポロキサマー188、1.0×1013vg当たり約0.22ng未満のBSA、1.0×1013vg当たり約6.8×105pg未満の残留プラスミドDNA、1.0×1013vg当たり約1.1×105pg未満の残留hcDNA、1.0×1013vg当たり約4ng未満のrHCP、pH7.7~8.3、約390~430mOsm/kg、容器当たり約600個未満の≧25μmサイズの粒子、容器当たり約6000個未満の≧10μmサイズの粒子、約1.7×1013~2.3×1013vg/mLのゲノム力価、1.0×1013vg当たり約3.9×108~8.4×1010IUの感染力価、1.0×1013vg当たり約100~300μgの全タンパク質、約7.5×1013vg/kg用量のウイルスベクターによるΔ7SMAマウスの≧24日の生存期間中央値、インビトロ細胞ベースアッセイに基づく約70~130%の相対効力、及び/又は約5%未満の空のカプシドを含む。
【0067】
様々な実施形態において、本明細書で考察されるウイルス粒子のいずれか(例えば、AAV SMN、AAV MECP2、又はAAV SOD1ウイルス粒子)を含む本明細書に開示される医薬組成物は、参照標準の±20%の間、±15%の間、±10%の間、又は±5%の間の効力を保持している。一部の実施形態において、効力は好適なインビトロ細胞アッセイ又はインビボ動物モデルを用いて測定される。例えば、効力又は%機能性AAV SMNウイルス粒子は、SMAの動物モデル、例えばSMAΔ7マウス、又は好適な細胞株、例えばSMAΔ7マウスの皮質から単離された(islated)初代神経前駆細胞(NPC)を使用した定量的細胞ベースアッセイを用いて決定されてもよい。一実施形態において、効力は、Foust et al.,Nat.Biotechnol.,28(3),pp.271-274(2010)の方法を用いて参照標準に対するものとして評価される。任意の好適な参照標準を使用し得る。効力又は%機能性AAV MeCP2は、好適なインビトロ細胞アッセイ又はインビボ動物モデル、例えば、Guy et al.,“Reversal of neurological defects in a mouse model of Rett syndrome.”Science,315(5815):1143-7にあるようなMecp2ノックアウトマウスを用いて評価されてもよい。効力又は%機能性AAV SOD1は、好適なインビトロ細胞アッセイ又はインビボ動物モデル、例えば、Gurney et al.,“Motor neuron degeneration in mice that express a human Cu,Zn superoxide dismutase mutation.”Science,264(5166):1772-5にあるようなSOD1変異マウスを用いて評価されてもよい。一実施形態において、本医薬組成物は、7.5×1013vg/kg用量を与えたSMAΔ7マウスにおける生存期間中央値により決定したとき、15日超、20日超、22日超又は24日超のインビボ効力を有する。ある実施形態において、本医薬組成物は、細胞ベースアッセイにより試験したとき、参照標準及び/又は好適な対照と比べて50~150%、60~140%又は70~130%のインビボ相対効力を有する。
【0068】
一実施形態において、静脈内(「IV」)製剤は、7.5~8.5のpH、約1~8×1013ウイルスベクターゲノム/mL(vg/mL)、又は2×1013vg/ml~6×1013vg/mlのゲノム力価、及び任意選択で384~448mOsm/kgのオスモル濃度を有する。一実施形態において、IV製剤は、pH8.0のトリス緩衝液中にMgCl2、NaCl、pluronic F68を含む。
【0069】
一実施形態において、IV投与には、SMNトランス遺伝子を担持するAAV-9ベクターが、適切なセッティング(例えば、インターベンション用特別室、手術室、専用手技室)において無菌条件下で、末梢肢静脈(腕又は脚)に挿入された静脈内カテーテルから指示用量を単回投与され、約30~60分かけてゆっくりと注入される。
【0070】
別の実施形態において、本明細書における開示は、患者へのrAAV9及び非イオン性低浸透圧性造影剤の髄腔内(「IT」)送達を含む、ポリヌクレオチドをそれを必要としている患者の中枢神経系に送達する組成物及び方法を提供し、ここでrAAV9は、そのポリヌクレオチドを含む自己相補的ゲノムを含む。ポリヌクレオチドは、例えば、脳、脊髄、グリア細胞、アストロサイト及び/又は下位運動ニューロンに送達される。非イオン性低浸透圧性造影剤は、例えば、イオビトリドール、イオヘキソール、イオメプロール、イオパミドール、イオペントール、イオプロミド、イオベルソール又はイオキシランである。一部の実施形態において、ポリヌクレオチドは生存運動ニューロン(SMN)ポリヌクレオチドである。一実施形態において、造影剤は、イオヘキソール、例えばイオヘキソール180(Omnipaque 180として販売されており、180mg/mLの有機ヨウ素当量の388mgイオヘキソールを含有する)である。
【0071】
一実施形態において、IT投与には、SMNトランス遺伝子を担持するscAAV9ベクターが通常生理食塩水で希釈され、腰椎髄腔内注射による注射のX線撮影でのモニタリングについて小児への使用が承認され、且つその適応表示がある適切な高比重造影剤(Omnipaque 180など)と予め混合される。SMNトランス遺伝子を担持するAAV-9ベクター+造影剤及び/又は生理食塩水を含む水性組成物の総容積は、5mLを超えないものとなる。造影剤及びSMNトランス遺伝子を担持するscAAV-9ベクターは、共製剤化され、共包装され、又は包装されて個別に患者施設に届けられてもよい。
【0072】
患者は、PICU患者室又は他の適切なセッティング(例えば、インターベンション用特別室、手術室、専用手技室)において無菌条件下、救急重症者処置管理にすぐに移すことのできる状態で、SMNトランス遺伝子を担持するscAAV-9ベクターの投与を髄腔内注射によって受ける。施設は、先端面取り部を硬膜線維と平行にして挿入された無傷針を使用し得る;これは、硬膜の損傷を大幅に低減して、結果的に小児の場合を含めた腰椎穿刺後の脳脊髄液漏出リスクを低下させることが示されている(Ebinger et al.,“Headache and Backache After Lumbar Puncture in Children and Adolescents:A Prospective Study.”Pediatrics,113(6):1588-1592;Kiechl-Kohlendorfer et al.,“Cerebrospinal Fluid Leakage After Lumbar Puncture in Neonates:Incidence and Sonographic Appearance.”American Journal of Roentgenology,181(1):231-234)。
【0073】
IT注射を受けるいずれの患者も、鎮静/麻酔が推奨される。方法及び投薬法は、各施設の麻酔科医の裁量によることになるが、手技中及び手技後にトレンデレンブルグ体位をとらせても痛覚が消失して動かないことを確実にするのに十分な程度の鎮静又は不安緩解を取り入れるべきである。患者はIT療法薬の投与後15分間は頭部を下方に30°傾けてトレンデレンブルグ体位をとり、頸部及び脳領域への分布を促すことになる。
【0074】
患者が側臥位をとり、スタイレット付きのカテーテルが腰椎穿刺によってくも膜下腔のL3~L4又はL4~L5棘間腔に挿入される。くも膜下カニューレ挿入は、カテーテルから澄明な脳脊髄液(CSF)が流れることで確認される。CSFは除去され、施設内ガイドラインに従い廃棄されることになる。予め混合された造影剤溶液中にあるSMNトランス遺伝子を担持するscAAV-9ベクターは、くも膜下腔に直接注入される。
【0075】
一実施形態において、本開示は、本明細書に開示される医薬組成物の静脈内又は髄腔内送達を含む、それを必要としている患者における神経学的疾患の治療方法を提供し、ここでパルボウイルスは自己相補的rAAV9ゲノムを含み、操作されたトランス遺伝子はSMNポリヌクレオチドを含み、及び疾患はSMAである。
【0076】
別の実施形態において、本開示は、本明細書に開示される医薬組成物を造影剤と共に髄腔内送達することを含む、それを必要としている患者における神経学的疾患の治療方法を提供し、ここでパルボウイルスは自己相補的rAAV9ゲノムを含み、操作されたトランス遺伝子はSMNポリヌクレオチドを含み、疾患はSMAであり、及び造影剤はomnipaque 180である。
【0077】
別の実施形態において、本開示は、本明細書に開示される医薬組成物を造影剤と共に髄腔内送達することを含む、それを必要としている患者におけるII型、III型、又はIV型SMAの治療方法を提供し、ここでパルボウイルスは自己相補的rAAV9ゲノムを含み、操作されたトランス遺伝子はSMNポリヌクレオチドを含み、及び造影剤はomnipaque 180である。
【0078】
別の実施形態において、本開示は、本明細書に開示される医薬組成物の静脈内送達を含む、それを必要としている患者におけるI型SMAの治療方法を提供し、ここでパルボウイルスは自己相補的rAAV9ゲノムを含み、及び操作されたトランス遺伝子はSMNポリヌクレオチドを含む。一部の実施形態において、患者は0~9ヵ月齢である。一部の実施形態において、患者は0~6ヵ月齢である。他の実施形態において、小児患者は最大約8kgの体重である。一部の実施形態において、小児患者は約8.5kg以下である。一部の実施形態において、小児患者は約2.6kg以上である。
【0079】
別の実施形態において、本開示は、バイアル内の本明細書に開示される医薬組成物の静脈内投与を含む、それを必要としている患者におけるI型SMAの治療用キットを提供する。一部の実施形態において、患者の体重が測定され、患者の体重に基づき用量が計算される。
【0080】
特に定義しない限り、本明細書で使用される全ての科学技術用語は、本開示が属する技術分野の当業者が一般に理解するのと同じ意味を有する。
【0081】
本明細書で使用されるとき、単語の単数形にはまた、文脈上特に明確に指示されない限り、その単語の複数形も含まれる;例えば、用語「a」、「an」、及び「the」は、単数形又は複数形であると理解され、用語「又は」は包含的と理解される。例として、「要素(an element)」は、1つ以上の要素を意味する。
【0082】
本明細書全体を通じて語句「~を含む(comprising)」、又は「~を含む(comprises)」などの変化形は、明記される要素、整数又はステップ、又は一群の要素、整数若しくはステップを包含するが、任意の他の要素、整数又はステップ、又は一群の要素、整数若しくはステップを除外しないことを含意するものと理解されるであろう。本明細書全体を通じて語句「~からなる(consisting of)」、又は「~からなる(consists of)」などの変化形は、明記される要素、整数又はステップ、又は一群の要素、整数若しくはステップを包含し、且つ任意の他の要素、整数又はステップ、又は一群の要素、整数若しくはステップを除外することを含意するものと理解されるであろう。本明細書全体を通じて語句「~から本質的になる(consisting essentially of)」、又は「~から本質的になる(consists essentially of)」などの変化形は、明記される要素、整数又はステップ、又は一群の要素、整数若しくはステップ、及びその開示及び/又は特許請求の範囲の基本的な且つ新規の特徴に実質的に影響を及ぼさない任意の他の要素、整数又はステップ、又は一群の要素、整数若しくはステップを包含することを含意するものと理解されるであろう。
【0083】
約とは、明記される値の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%、又は0.01%以内と理解することができる。パーセンテージ値に関連して使用されるとき、「約」は、±1%以内(例えば、「約5%」は、4%~6%以内と理解することができる)、又は±0.5%以内(例えば、「約5%」は、4.5%~5.5%以内と理解することができる)と理解することができる。文脈から特に明らかでない限り、本明細書に提供される数値は全て、用語「約」によって修飾される。
【0084】
本開示の実施又は試験においては、本明細書に記載されるものと同様の又は等価な方法及び材料を使用し得るが、好適な方法及び材料を以下に記載する。本明細書において言及される刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献は全て、全体として参照により援用される。本明細書に引用される参考文献は、特許請求される本開示の先行技術であると認めるものではない。矛盾が生じた場合、定義を含め、本明細書が優先するものとする。加えて、材料、方法、及び例は例示に過ぎず、限定することを意図するものではない。本開示の他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0085】
本開示の様々な目的及び利点並びに更なる完全な理解は、付属の図面を併せて考慮したとき以下の詳細な説明及び添付の特許請求の範囲を参照することにより明らかであり、より容易に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【
図1-1】
図1はpSMN、pHELP及びpAAVのプラスミドマップである。
図1Aは、pSMNのプラスミドマップを示す。pSMNは、前初期サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサーエレメントを伴うニワトリ-β-アクチンハイブリッドプロモーターの制御下でヒト生存運動ニューロン(SMN)cDNAを発現する組換え自己相補的AAV DNAゲノムに関する情報をコードするプラスミドである。SMN cDNAは完全長の機能タンパク質をコードする。発現カセットは、シミアンウイルス40(SV40)に由来する修飾イントロン配列及びウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化シグナルを含有する。この発現カセット(CMV-CB-SV40-SMN-BGHpA)にはAAV2由来の逆方向末端反復配列(ITR)が隣接する。左のITRは、自己相補的AAVゲノムを優先的にパッケージングするように修飾される。ITR間にある、且つITRを含む領域は、一緒になって、創薬製品(the find drugs product)の製造時に組換えAAV9カプシドにパッケージングされる。組換えAAVゲノムへのパッケージングが意図されない重要なpSMN成分として、カナマイシン耐性(KanR)をコードするオープンリーディングフレーム及びpUCに由来する複製起点(ori)が含まれる。ori及びKanR領域はプラスミド製造に有用である。
【
図1-2】
図1Bは、pHELPプラスミドのプラスミドマップを示す。pHELPプラスミドは、組換えアデノ随伴ウイルス産生に必要なトランス作用性アデノウイルス成分を含有する。pHELPプラスミドは、AAV複製に重要な因子を提供するアデノウイルスゲノムの領域、即ち、E2A、E4、及びVA RNAを含有する。rAVV複製に関わるアデノウイルスE1機能は、宿主293細胞のトランスフェクションによって提供される。しかしながら、pHELPプラスミドは他のアデノウイルス複製又は構造遺伝子を含有しない。このプラスミド中に存在するアデノウイルス配列は、アデノウイルスゲノムの僅か約28%(9,280/35,938)に相当するに過ぎず、逆方向末端反復配列など、複製に決定的に重要なシスエレメントを含有しない。従って、かかる産生系から感染性アデノウイルスは生じないものと思われる。
【
図1-3】
図1Cは、AAVプラスミドのプラスミドマップを示す。野生型AAVゲノムは、rep及びcapオープンリーディングフレームに隣接する逆方向末端反復配列と呼ばれる2つの非コード構造エレメントを含有する。rep及びcapは、それぞれ、ウイルス複製及びカプシドタンパク質をコードする。組換えアデノ随伴ウイルスベクターの産生においては;これらのウイルス性ITRはシスで用いられる唯一のエレメントであり、一方でウイルス性オープンリーディングフレームはトランスで供給される。接着性HEK293細胞の一過性トランスフェクションを用いるAAVの作製方法は、異なる遺伝エレメントを分割してプラスミドを分けることにより、それらのエレメントのシス/トランスの役割に対応する。pAAV2/9プラスミドは、AAV2 rep遺伝子及びAAV9 cap遺伝子のオープンリーディングフレームを含有する。
【
図2】特別に優れた接着性に関するHEK293細胞の選択及びプレマスターセルバンク(MCB)バンク化の工程フローチャートを示す。
【
図3】特別に優れた接着性に関するHEK293細胞の選択及びプレプレマスターセルバンク(MCB)バンク化のための細胞処理詳細の要約を示す。
【
図6】120分の時点まで添加したTween 20によるXMuLVの不活性化を示す。
【
図7】120分の時点まで添加したTween 20によるPRVの不活性化を示す。
【
図8】細胞播種密度実験におけるHEK293細胞拡大工程フローを示す。
【
図9-1】成長及び代謝産物プロファイルを示す。HEK 293細胞をバイオリアクター(pH7.23、37.0℃、55%溶存酸素(DO))に12,000及び8,000細胞/cm
2でデュプリケートで播種した。播種後4日(12,000細胞/cm
2)及び5日(8,000細胞/cm
2)の時点で細胞にDNAプラスミド/PEIをトランスフェクトした。播種後8日(12,000細胞/cm
2)及び9日(8,000細胞/cm
2)でバイオリアクターを回収した。Nova BioFlexでpH及び代謝産物の読取り値を毎日読み取った。
【
図10】細胞播種密度(8000又は12000細胞/cm
2)及び4つの異なるトランスフェクション時間長さ(20分、1時間又は2時間)の関数としてのウイルスゲノム産生を示す。
【
図11】製造工程全体を通じて異なるろ過ステップでサンプリングした中間体のウイルス力価を示す。
【
図12】TFF1ステップにおけるウイルスベクターの回収及び宿主細胞タンパク質(HCP)の除去を示す。
【
図13】細胞播種密度実験におけるHEK293細胞拡大工程フローを示す。
【
図14-1】HEK 293細胞をバイオリアクター(pH7.23、37.0℃、55%DO)に8,000細胞/cm
2、9,350細胞/cm
2、10,700細胞/cm
2、12,050細胞/cm
2でデュプリケートで播種したことを示す。播種5日後に細胞にDNAプラスミド/PEI(1:1m/m)をトランスフェクトした。NOVA BioProfile 400を使用してpH及び代謝産物分析を実施した。
【
図15-1】バイオリアクターでの4つの出発播種密度からの原薬産生を示す。ウイルス力価及び単位表面積当たりに回収されたベクターゲノムの比較。
【
図16】第1相(工程A)及び第3相試験(工程B)製造工程を示す。
【
図17-1】同等性及び製造の一貫性の結果を示す表を提供する-工程A(第1相)及び工程B(第3相)産物。工程B産物には、工程Aと比較したとき更なる利益があることが示される。
【
図18】工程A(第1相ロットNCHAAV9SMN0613)及び工程B(第3相ロット600156)のペアワイズ比較を用いて工程Aと工程Bとの間の同等性を示す。工程B産物には、工程Aと比較したとき更なる利益があることが示される。
【
図19】工程B(第3相)ロット600156及び600307のペアワイズ比較による製造の一貫性の評価を示す。
【
図20】リアルタイム貯蔵条件≦-60℃で12ヵ月間貯蔵したNCHロットNCHAAV9SMN0613の安定性プロファイルを示す。
【
図21】第1相材料(NCHAAV9SMN0613)の沈降係数(秒×10
-13)を示し、空のカプシド(7%)が約60×10
-13秒の沈降係数、及び完全なカプシドが約80~150×10
-13秒の沈降係数範囲であることを示す。
【
図22】第3相材料(600156)の沈降係数(秒×10
-13)を示し、空のカプシド(2%)が約60×10
-13秒の沈降係数、及び完全なカプシドが約80~150×10
-13秒の沈降係数範囲であることを示す。
【
図23】第3相材料(600307)の沈降係数(秒×10
-13)を示し、空のカプシド(4%)が約60×10
-13秒の沈降係数、及び完全なカプシドが約80~150×10
-13秒の沈降係数範囲であることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0087】
AAV遺伝子療法の開発を動物モデルを越えて臨床試験へと及び/又は治療使用に向けて前進させるため、ヒトでの使用に好適なウイルス材料を産生可能な規模拡張性のある工程を開発した。
【0088】
一部の実施形態において、「ベクター」とは、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、染色体、ウイルス、ビリオンなど、適切な調節エレメントと結び付けられたとき複製能を有する、且つ細胞間で遺伝子配列を移すことのできる任意の遺伝エレメントが意味される。従って、この用語には、クローニング及び発現媒体、並びにウイルスベクターが含まれる。
【0089】
一部の実施形態において、「AAVベクター」とは、限定なしに、AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8及びAAV-9を含めたアデノ随伴ウイルス血清型に由来するベクターが意味される。AAVベクターは、AAV野生型遺伝子のうちの1つ以上、例えばrep及び/又はcap遺伝子が全体として又は部分的に欠失しているが、機能性の隣接ITR配列は保持している。機能性ITR配列は、AAVビリオンのレスキュー、複製及びパッケージングに必要である。従って、AAVベクターは、本明細書では、ウイルスの複製及びパッケージングをシスで提供する配列(例えば機能性ITR)を少なくとも含むものと定義される。ITRは野生型ヌクレオチド配列である必要はなく、その配列が機能性のレスキュー、複製及びパッケージングを提供する限りにおいて、例えばヌクレオチドの挿入、欠失又は置換によって改変されてもよい。一実施形態において、ベクターは、AAV-2由来のITRを有するAAV-9ベクターである。また、「AAVベクター」とは、標的細胞の核へのベクター核酸の送達に効率的な媒体を提供するタンパク質外殻又はカプシドも意味される。
【0090】
一部の実施形態において、「scAAV」とは、自己相補的アデノ随伴ウイルス(scAAV)が意味され、これは、遺伝子療法における使用のため天然に存在するアデノ随伴ウイルス(AAV)から操作されたウイルスベクターである。scAAVは、コード領域が分子内二本鎖DNA鋳型を形成するように設計されているため「自己相補的」と称される。
【0091】
一部の実施形態において、用語「ベクター関連不純物」は、真正の組換えAAV粒子以外のあらゆる種類のAAV粒子を指す。ベクター関連不純物には、空のAAVカプシド(「エンプティ」、又は「空の粒子」とも称される)、及び意図されるベクターゲノム以外のポリヌクレオチド配列を含有するAAV粒子(「AAVカプシド化核酸不純物」又は「AAVカプシド化DNA不純物」とも称される)が含まれる。
【0092】
一部の実施形態において、「組換えウイルス」とは、例えば粒子への異種核酸構築物の付加又は挿入によって遺伝的に改変されたウイルスが意味される。「組換え」は「r」と省略されてもよく、例えばrAAVは組換えAAVを指し得る。用語「AAV」は、本明細書で使用されるとき、「組換えAAV」又は「rAAV」を包含することが意図される。
【0093】
一部の実施形態において、「AAVビリオン」とは、野生型(wt)AAVウイルス粒子(AAVカプシドタンパク質外被と結び付いた線状一本鎖AAV核酸ゲノムを含む)など、完全なウイルス粒子が意味される。この点で、任意の1つのAAVビリオン中にいずれかの相補的方向の一本鎖AAV核酸分子、例えば「センス」鎖又は「アンチセンス」鎖がパッケージングされることができ、両方の鎖が等しく感染性である。
【0094】
一部の実施形態において、用語「組換えAAVビリオン」、「rAAVビリオン」、「AAVベクター粒子」、「完全なカプシド」、及び「完全な粒子」は、本明細書では、両側にAAV ITRが隣接する目的の異種ヌクレオチド配列をカプシド化するAAVタンパク質外殻を含む感染性の複製欠損ウイルスとして定義される。rAAVビリオンは、AAVベクターを指定する配列、AAVヘルパー機能及びアクセサリー機能がそこに導入された好適な宿主細胞において産生される。このようにして、宿主細胞は、続く遺伝子送達のための感染性組換えビリオン粒子へのAAVベクター(目的の組換えヌクレオチド配列を含有する)のパッケージングをもたらすAAVポリペプチドをコードする能力を持つようになる。
【0095】
一部の実施形態において、用語「空のカプシド」、及び「空の粒子」は、AAVタンパク質外殻を含むが、両側にAAV ITRが隣接する目的の異種ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド構築物を全体として又は部分的に欠いているAAVビリオンを指す。
【0096】
用語「宿主細胞」は、AAVヘルパー構築物、AAVベクタープラスミド、アクセサリー機能ベクター、又は他のトランスファーDNAのレシピエントとして使用することができる、又はそれとして使用されている、例えば、微生物、酵母細胞、昆虫細胞、及び哺乳類細胞を意味する。この用語には、トランスフェクトされた元の細胞の子孫が含まれる。従って、「宿主細胞」は、本明細書で使用されるとき、概して外因性DNA配列をトランスフェクトされた細胞を指す。自然、偶発的、又は意図的突然変異に起因して、単一の親細胞の子孫が必ずしも形態の点又はゲノム若しくは全DNA相補体の点で元の親と完全に同一とは限らないことが理解される。
【0097】
別の実施形態において、用語「AAVヘルパー機能」は、発現してAAV遺伝子産物を供与することのできる、ひいてはその産物がトランスで生産的AAV複製のために機能するAAV由来のコード配列を指す。従って:AAVヘルパー機能には、主要なAAVオープンリーディングフレーム(ORF)、rep及びcapの両方が含まれる。Rep発現産物は、とりわけ:AAVのDNA複製起点の認識、結合及びニッキング;DNAヘリカーゼ活性;及びAAV(又は他の異種)プロモーターからの転写の調節など、多くの機能を備えることが示されている。Cap発現産物は必須のパッケージング機能を提供する。AAVヘルパー機能は、本明細書では、AAVベクターから失われているAAV機能をトランスで補完するために使用される。
【0098】
一実施形態において、用語「AAVヘルパー構築物」は、概して、目的のヌクレオチド配列の送達用形質導入ベクターの産生に使用されることになるAAVベクターから欠失しているAAV機能を提供するヌクレオチド配列を含む核酸分子を指す。AAVヘルパー構築物は、AAV rep及び/又はcap遺伝子の一過性発現を付与してAAV複製に必要なAAV機能の欠落を補完するため一般に用いられている;しかしながら、ヘルパー構築物はAAV ITRを欠いており、それ自体は複製もパッケージングもできない。AAVヘルパー構築物は、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、ウイルス、又はビリオンの形態であってもよい。Rep及びCap発現産物の両方をコードする一般に用いられているプラスミドpAAV/Ad及びplM29+45など、幾つものAAVヘルパー構築物が記載されている。例えば、Samulski et al.(1989)J.Virol.63:3822-3828;及びMcCarty et al.(1991)J.Virol.65:2936-2945を参照のこと。Rep及び/又はCap発現産物をコードする幾つもの他のベクターが記載されている。例えば、米国特許第5,139,941号明細書及び同第6,376,237号明細書を参照のこと。
【0099】
別の実施形態において、用語「トランスフェクション」は、細胞による外来DNAの取込みを指して使用され、細胞は、細胞膜の内側に外因性DNAが導入されているとき、「トランスフェクト」されている。幾つものトランスフェクション技法が当該技術分野において概して公知である。例えば、Graham et al.(1973)Virology,52:456、Sambrook et al.(1989)Molecular Cloning,a laboratory manual,Cold Spring Harbor Laboratories,New York、Davis et al.(1986)Basic Methods in Molecular Biology,Elsevier、及びChu et al.(1981)Gene 13:197を参照のこと。かかる技法を用いて1つ以上の外因性DNA部分を好適な宿主細胞に導入することができる。
【0100】
本明細書で使用されるとき、用語「細胞株」は、インビトロでの連続的又は持続的成長及び分裂能力を有する細胞集団を指す。更に、かかるクローン集団の貯蔵又は移送中に核型に自然の又は誘導性の変化が起こり得ることが当該技術分野において公知である。従って、言及される細胞株に由来する細胞は、祖先細胞又は培養物と厳密に同一ではないこともあり、言及される細胞株には、かかる変異体が含まれる。一部の実施形態において、用語「HEK293細胞」、「293細胞」又はこれらの文法上の等価語は、ここでは同義的に使用され、本明細書に開示される方法において使用される宿主/パッケージング細胞株を指す。
【0101】
一部の実施形態において、用語「溶出液」は、文脈により、物質を溶出させるために使用される緩衝液を指すと理解されてもよい。一部の実施形態において、用語「溶出液」は、文脈により、溶出した物質、例えば、先行する精製ステップからの、例えばアッセイ又は更なる精製に望ましい産物又は物質を指すと理解されてもよい。
【0102】
一部の実施形態において、本明細書に記載される方法は、医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理規則(good manufacturing practice:GMP)を用いて工業規模で実施される。GMPは、医薬品品質を確保するための規制実践、例えば連邦医薬品局(Federal Drug Agency:FDA)によって施行されるものである。GMP規則は製造工程の管理を確立する。現行のGMP規則の例はFDAにより発表されている。一部の実施形態において、本明細書に記載される方法は、工業規模でのAAVウイルスベクターの産生にGMP手順を利用する。これまで、遺伝子療法用のAAVウイルスベクターの工業規模産生は、規模拡張性の問題が理由で難題であった。従って、一部の実施形態において、本明細書に記載される方法は、AAVウイルスベクターを例えば接着細胞において工業規模で、且つヒトへの投与に十分な純度レベルで産生することにより利点を付与した。用語「工業規模」は、例えば収率が製造バッチ当たり5×1015vg超、又は8×1015vg超又は1×1016vg超であるような、ベンチ規模よりも大きい、例えば商業規模での細胞におけるウイルスベクターの産生方法を指す。
【0103】
上流工程
一部の実施形態では、上流工程を用いてワーキングセルバンクに由来する中間体が産生され、ここで上流工程は、(a)細胞、例えば接着細胞を培養するステップ、(b)培養した細胞、例えば接着細胞に3つのプラスミドをトランスフェクトするステップ、(c)培養期間後に例えば全細胞溶解によって細胞から拡大後のウイルス粒子を回収するステップ、(d)ウイルス粒子をろ過によって精製して任意のインタクトな細胞又は細胞デブリを除去するステップ、(e)ステップ(d)からの溶出液をタンジェンシャルフローろ過に供するステップ、及び(f)任意選択で、得られた精製ウイルス粒子中間調製物を凍結するステップを含む。一部の実施形態において、中間調製物は凍結されてもよい。他の実施形態において、中間調製物は下流処理前に凍結されなくてもよい。一部の実施形態において、本明細書に開示される上流工程で調製されたAAVは、本明細書に記載されるとおりの、SOD1を標的とするshRNAをコードするAAV、MECP2をコードするポリヌクレオチドを含むAAV、又はSMNをコードするポリヌクレオチドを含むAAVである。一部の実施形態において、上流工程は、GMPに基づき工業規模で行われる。
【0104】
1.細胞株トランスフェクション及び培養
一態様において、本明細書にはrAAVゲノムが開示される。このrAAVゲノムは、ポリペプチド(限定はされないが、SMNポリペプチドを含む)をコードする、又は突然変異タンパク質若しくはそれらの遺伝子の調節配列に向けられるsiRNA、shRNA、アンチセンス、及び/又はmiRNAをコードするポリヌクレオチドに隣接する1つ以上のAAV ITRを含む。ポリヌクレオチドは、標的細胞において機能性の転写調節DNA、具体的にはプロモーターDNA、エンハンサーDNA及びポリアデニル化シグナル配列DNAに作動可能に連結され、遺伝子カセットを形成する。遺伝子カセットはまた、哺乳類細胞で発現したときにRNA転写物のプロセシングを促進するためイントロン配列も含み得る。
【0105】
一部の実施形態において、rAAV(例えばrAAV9)ゲノムは、限定はされないが、脊髄及び脳外傷/傷害を含めた神経系傷害、脳卒中、及び脳癌に加えて、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病を含めた神経変性障害の治療用の栄養因子又は保護因子をコードする。既知の神経系成長因子の非限定的な例としては、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン-3(NT-3)、ニューロトロフィン-4/5(NT-4/5)、ニューロトロフィン-6(NT-6)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、線維芽細胞成長因子ファミリー(例えば、FGF1~15)、白血病抑制因子(LIF)、インスリン様成長因子ファミリーの特定のメンバー(例えば、IGF-1)、ニュールツリン、パーセフィン、骨形態形成タンパク質(BMP)、イムノフィリン、形質転換成長因子(TGF)成長因子ファミリー、ニューレグリン、上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、血管内皮成長因子ファミリー(例えばVEGF165)、フォリスタチン、Hif1などが挙げられる。また、概して、本明細書で企図される栄養因子又は保護因子の各々を調節するジンクフィンガー転写因子も企図される。更なる実施形態において、神経免疫機能を調節するための方法が、限定はされないが、ミクログリア及びアストログリア活性化の例えばNFkB阻害による阻害、又はsiRNA、shRNA、アンチセンス、若しくはmiRNAによる神経保護のためのNFkB(種々の細胞型におけるNFkB及び関連する経路の二重作用)を含め、企図される。更に別の実施形態において、rAAV(例えばrAAV9)ゲノムはアポトーシス阻害因子(例えば、bcl2、bclxL)をコードする。脊髄損傷の治療のための、栄養因子又は脊髄損傷調節タンパク質又は軸索成長阻害因子の抑制因子(例えば、Nogoの抑制因子[Oertle et al.,The Journal of Neuroscience,23(13):5393-5406(2003)]をコードするrAAV(例えばrAAV9)の使用もまた企図される。
【0106】
パーキンソン病などの神経変性障害の治療のため、rAAV(例えばrAAV9)ゲノムは、様々な実施形態において、芳香族酸ドーパデカルボキシラーゼ(AADC)、チロシンヒドロキシラーゼ、GTPシクロヒドロラーゼ1(gtpch1)、アポトーシス阻害因子(例えば、bcl2、bclxL)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、抑制性神経伝達物質-アミノ酪酸(GABA)、又はドーパミン生合成に関与する酵素をコードする。更なる実施形態において、rAAV(例えばrAAV9)ゲノムは、例えばパーキン及び/又はシヌクレインの修飾因子をコードし得る。
【0107】
アルツハイマー病などの神経変性障害の治療のため、一部の実施形態において、アセチルコリン産生を増加させる方法が企図される。一部の実施形態において、コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)のレベルを増加させる方法又はアセチルコリンエステラーゼ(AchE)の活性を阻害する方法が企図される。
【0108】
rAAV(例えばrAAV9)ゲノムは、一部の実施形態において、ハンチントン病などの神経変性障害の治療のための、突然変異ハンチントンタンパク質(htt)発現を低下させる方法に用いられるsiRNA、shRNA、アンチセンス、及び/又はmiRNAをコードする。
【0109】
rAAV(例えばrAAV9)ゲノムは、様々な実施形態において、ALSなどの神経変性障害の治療用に用いられるsiRNA、shRNA、アンチセンス、及び/又はmiRNAをコードする。治療は、TNF-α、一酸化窒素、パーオキシナイトライト、及び/又は一酸化窒素シンターゼ(NOS)など、疾患の分子マーカーの発現低下をもたらす。
【0110】
一部の実施形態において、ベクターは、ALSについてのスーパーオキシドジスムターゼ(SOD、例えばSOD-1)、又はALS若しくはパーキンソン病についてのGDNF若しくはIGF1などの神経栄養因子など、突然変異タンパク質に向けられる低分子ヘアピンRNA(shRNA)をコードする。
【0111】
一実施形態において、本明細書に記載される方法及び材料は、ALSの治療に用いられてもよい。ALSは、脳及び脊髄における進行性の運動ニューロン喪失を生じる神経変性疾患であり、発話、摂食、運動及び最終的には呼吸能力の喪失を含む症状を伴う。この疾患は、典型的には診断から3~5年以内に死亡する。ALS原因の90~95%は原因不明だが、一部のALSはスーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)遺伝子の遺伝子突然変異によって引き起こされ、ここでは突然変異が毒性の優性機能獲得を引き起こす。マウス研究では、SOD1ノックアウトによって疾患が起こらなくなることが示され、従って突然変異体SOD1のレベルをノックダウンする療法が、疾患症状を軽減するものと考えられる。
【0112】
一部の実施形態において、AAVベクターは、ALSについてのSOD1を標的とするshRNAをコードする。SOD1に対するshRNAをコードする例示的AAV、例えばscAAV9構築物が、国際公開第2015031392号パンフレット及び米国特許出願公開第2016272976号明細書(これらの内容は本明細書によって全体として援用される)に提供される。一部の実施形態において、SOD1に対するshRNAをコードするAAV構築物は、本明細書に開示される方法を用いて調製されてもよい。一部の実施形態において、このようなAAV構築物がALSの治療に使用されてもよい。一部の実施形態において、SOD1 AAVは、10%未満、例えば、7%、5%、4%、3%、2%、又は1%未満の空のカプシドを呈する。一部の実施形態において、SOD1 AAVは、低量の、例えば本明細書でAAVベクターの調製及び精製に関して考察されるレベルの残留宿主細胞タンパク質、宿主細胞DNA、プラスミドDNA、及び/又はエンドトキシンを呈する。本明細書で使用されるとき、「AVXS-301」はscAAV9ベクターの非限定的な例であり、即ち、抗ヒトSOD1 shRNAをコードするポリヌクレオチド(例えばpSOD1sh)、修飾AAV2 ITR、ヒトH1プロモーター、及び非修飾AAV2 ITRを含む。修飾及び非修飾ITRは、抗ヒトSOD1 shRNA発現カセットに対していずれの向き(即ち、5’側又は3’側)になってもよい。
【0113】
本明細書で使用されるとき、「pSOD1sh」ベクタープラスミドは、スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)遺伝子の発現を標的とする低分子ヘアピンRNA(shRNA)をコードするポリヌクレオチド、即ち抗SOD1 shRNAカセットを含み、ここでこのカセットには、例えばpSOD1shをコードするポリヌクレオチドの「左」及び「右」の、アデノ随伴ウイルス逆方向末端反復(ITR)配列が隣接する。一部の実施形態において、pSOD1shをコードするポリヌクレオチドは、ヒトSOD1 mRNAを特異的に標的とする低分子ヘアピンRNAに転写される。一部の実施形態において、pSOD1shをコードするポリヌクレオチドを囲むITR配列は、天然、変異体、又は修飾AAV ITR配列である。一部の実施形態において、少なくとも1つのITR配列が、天然、変異体又は修飾AAV2 ITR配列である。一部の実施形態において、ITRは、pSOD1shをコードするポリヌクレオチドに隣接する。一部の実施形態において、2つのITR配列が両方ともに、天然、変異体又は修飾AAV2 ITR配列である。一部の実施形態において、「左」のITRが、自己相補的ゲノムの産生を可能にする修飾AAV2 ITR配列であり、「右」のITRが天然AAV2 ITR配列である。一部の実施形態において、「右」のITRが、自己相補的ゲノムの産生を可能にする修飾AAV2 ITR配列であり、「左」のITRが天然AAV2 ITR配列である。一部の実施形態において、pSOD1shベクターは、例えばMyslinksiにより記載されるとおりの、ヒトH1 RNAプロモーターのセグメントを更に含む。Myslinkski et al.“An unusually compact external promoter for RNA polymerase III transcription of the human H1RNA gene.”Nucleic Acids Research,29(12):2502-2509。一部の実施形態において、pSOD1shベクターは、発現カセットのサイズを増加させるため、ランダムなプラスミド骨格のセグメントで作られるユニークなスタッファー配列を更に含む。一部の実施形態において、pSOD1shベクターは、抗ヒトSOD1 shRNA、修飾AAV2 ITR、ヒトH1プロモーター、及び非修飾AAV2 ITRをコードするポリヌクレオチドを含む。
【0114】
一実施形態において、本明細書に記載される方法及び材料は、レット症候群などの神経発達障害の治療に使用されてもよい。レット症候群は、初めは乳児期に認識されるまれな神経学的障害であり、90~95%の症例でX染色体上のMECP2遺伝子の突然変異によって起こる。Ruthie et al.,“Rett syndrome is caused by mutations in X-linked MECP2,encoding methyl-CpG-binding protein 2.”Nature Genetics,23:185-188。X染色体のコピーを1つしか有しない男児は、典型的には生後間もなく死亡するが、X染色体のコピーを2つ有する女児は、通常この遺伝子の機能性コピーを1つ有する。6~18ヵ月で症状が現れ始め、手もみ又は手絞り、手叩き、手こすり、手洗い、又は手を口に入れるなどの特徴的症状を伴う。この疾患は進行性で、自閉症様行動、不規則呼吸、摂食及び嚥下困難、発育遅延及び発作が含まれ得る重大な能力障害を伴う。MECP2遺伝子の既知の突然変異は200種あり、疾患の重症度は、X染色体不活性化及び遺伝子量補正のレベルに応じて患者毎に大きく異なる。マウス研究では、MECP2突然変異がニューロンの死滅を引き起こさないことが示され、これが神経変性障害でないことが示唆される。Guy et al,“Reversal of Neurological Defects in a Mouse Model of Rett Syndrome.”Science,315(5815)”1143-1147。
【0115】
レット症候群に関する実施形態のため、rAAV(例えばrAAV9)ゲノムは、例えば、メチルシトシン結合タンパク質2(MeCP2)をコードし得る。MeCP2をコードするポリヌクレオチドを含む例示的AAV、例えばscAAV9構築物が、米国特許第9,415,121号明細書(この内容は本明細書によって全体として援用される)に提供される。一部の実施形態において、MeCP2をコードするポリヌクレオチドを含むAAV構築物は、本明細書に開示される方法を用いて調製されてもよい。一部の実施形態において、このようなAAV構築物がレット症候群の治療に使用されてもよい。一部の実施形態において、MeCP2 AAVは、10%未満、例えば、7%、5%、4%、3%、2%、又は1%未満の空のカプシドを呈する。一部の実施形態において、MeCP2 AAVは、低量の、例えば本明細書でAAVベクターの調製及び精製に関して考察されるレベルの残留宿主細胞タンパク質、宿主細胞DNA、プラスミドDNA、及び/又はエンドトキシンを呈する。
【0116】
本明細書で使用されるとき、「AVXS-201」はscAAV9ベクターの非限定的な例であり、即ち、MECP2 cDNA発現カセットを含むポリヌクレオチド(例えばpMECP2)、修飾AAV2 ITR、マウスMecp2プロモーター、修飾SV40イントロン(intro)、最小ポリアデニル化シグナル、及び非修飾AAV2 ITRを含む。修飾及び非修飾ITRは、MECP2 cDNA発現カセットに対していずれの向き(即ち、5’側又は3’側)になってもよい。
【0117】
本明細書で使用されるとき、「pMECP2」ベクタープラスミドは、MECP2タンパク質をコードするポリヌクレオチド、修飾AAV2 ITR、マウスMecp2プロモーター、修飾SV40イントロン(intro)、最小ポリアデニル化シグナル、及び非修飾AAV2 ITRを含む。一部の実施形態において、pMECP2は、MECP2タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクター構築物、即ちMECP2 cDNA発現カセットであり、ここでこのカセットには、例えばMECP2遺伝子をコードするポリヌクレオチドの「左」及び「右」の、アデノ随伴ウイルス逆方向末端反復(ITR)配列が隣接する。一部の実施形態において、MECP2をコードするポリヌクレオチドは、ヒトMECP2配列、例えば、天然に存在するヒトMECP2配列又はそのアイソフォーム、変異体、若しくは突然変異体である。一部の実施形態において、ITR配列は、天然、変異体、又は修飾AAV ITR配列である。一部の実施形態において、少なくとも1つのITR配列が、天然、変異体又は修飾AAV2 ITR配列である。一部の実施形態において、2つのITR配列が両方ともに、天然、変異体又は修飾AAV2 ITR配列である。一部の実施形態において、「左」のITRが、自己相補的ゲノムの産生を可能にする修飾AAV2 ITR配列であり、「右」のITRが天然AAV2 ITR配列である。一部の実施形態において、「右」のITRが、自己相補的ゲノムの産生を可能にする修飾AAV2 ITR配列であり、「左」のITRが天然AAV2 ITR配列である。一部の実施形態において、pMECP2ベクターは、マウスMecp2プロモーターの全てではないがセグメントを更に含む。一部の実施形態において、pMECP2ベクターはシミアンウイルス40(SV40)イントロンを更に含む。一部の実施形態において、pMECP2ベクターは、例えば、Levitt et al.,“Definition of an efficient synthetic poly(A) site.”Genes & Development,3:1019-1025により定義されるとおりの、最小ポリアデニル化シグナルを更に含む。
【0118】
一部の実施形態において、本明細書に開示されるrAAVゲノムは、AAV rep及びcap DNAを欠いている。rAAVゲノム中のAAV DNA(例えばITR)は、限定はされないが、AAV血清型AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10及びAAV-11を含め、その組換えウイルスが由来し得る任意のAAV血清型由来であってよい。これらのAAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列は当該技術分野において公知である。例えば、AAV-1の完全ゲノムはGenBank受託番号NC_002077に提供され;AAV-2の完全ゲノムはGenBank受託番号NC 001401及びSrivastava et al.,Virol.,45:555-564{1983)に提供され:AAV-3の完全ゲノムはGenBank受託番号NC_1829に提供され;AAV-4の完全ゲノムはGenBank受託番号NC_001829に提供され;AAV-5ゲノムはGenBank受託番号AF085716に提供され;AAV-6の完全ゲノムはGenBank受託番号NC_001862に提供され;AAV-7及びAAV-8ゲノムの少なくとも一部は、それぞれ、GenBank受託番号AX753246及びAX753249に提供され;AAV-9ゲノムは、Gao et al.,J.Virol.,78:6381-6388(2004)に提供され;AAV-10ゲノムは、Mol.Ther.,13(1):67-76(2006)に提供され;及びAAV-11ゲノムは、Virology,330(2):375-383(2004)に提供される。
【0119】
本明細書で使用されるとき、「pSMN」ベクタープラスミドは、SMNタンパク質をコードするポリヌクレオチド、即ち、SMN cDNA発現カセットを含み、ここでこのカセットには、例えばSMN遺伝子をコードするポリヌクレオチドの「左」及び「右」の、アデノ随伴ウイルス逆方向末端反復(ITR)配列が隣接する。一部の実施形態において、SMNをコードするポリヌクレオチドは、ヒトSMN配列、例えば、天然に存在するヒトSMN配列又はそのアイソフォーム、変異体、若しくは突然変異体である。一部の実施形態において、ITR配列は、天然、変異体、又は修飾AAV ITR配列である。一部の実施形態において、少なくとも1つのITR配列が、天然、変異体、又は修飾AAV2 ITR配列である。一部の実施形態において、2つのITR配列が両方ともに、天然、変異体、又は修飾AAV2 ITR配列である。一部の実施形態において、「左」のITRが、自己相補的ゲノムの産生を可能にする修飾AAV2 ITR配列であり、「右」のITRが天然AAV2 ITR配列である。一部の実施形態において、「右」のITRが、自己相補的ゲノムの産生を可能にする修飾AAV2 ITR配列であり、「左」のITRが天然AAV2 ITR配列である。一部の実施形態において、pSMNプラスミドはCMVエンハンサー/ニワトリβ-アクチン(「CB」)プロモーターを更に含む。一部の実施形態において、pSMNプラスミドはシミアンウイルス40(SV40)イントロンを更に含む。一部の実施形態において、pSMNプラスミドはウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化(ポリA)終結シグナルを更に含む。上記で考察される成分のうちの1つ以上に使用され得る例示的配列を以下の表1に示す。一部の実施形態において、以下の表1に示される全ての配列が使用される。一部の実施形態において、「AVXS-101」は、表1の全ての配列を使用する、且つ用語pSMNの範囲内に含まれるベクター構築物の非限定的な例である。
【0120】
一部の実施形態において、pSMNベクターは、SMN cDNA発現カセット、修飾AAV2 ITR、ニワトリβ-アクチン(CB)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)前初期エンハンサー、修飾SV40後期16sイントロン、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化シグナル、及び非修飾AAV2 ITRを含み得る。修飾及び非修飾ITRは、SMN cDNA発現カセットに対していずれの向き(即ち、5’側又は3’側)になってもよい。
【0121】
一部の実施形態において、例えば、本明細書に記載される製造工程中、ベクター構築物配列は、例えばAAV9ビリオンにカプシド化される。これらの実施形態において、カプシド化は、安定した機能性のトランス遺伝子、例えば完全に機能性のヒトSMNトランス遺伝子、MECP2トランス遺伝子、又は抗SOD1 shRNAを送達する能力を有する非複製性の組換えAAV9カプシドにおけるカプシド化である。一部の実施形態において、カプシドは、VP2及びVP3が2つのトランケート型のVP1となり、全てが共通のC末端配列を有するような選択的スプライシングによって産生される60個のウイルスタンパク質(VP1、VP2、VP3)を例えば1:1:10の比で含む。一部の実施形態において、この製造工程の産物、例えば薬物製品は、安定した完全に機能性のヒトSMNトランス遺伝子、MECP2トランス遺伝子、又は抗SOD1 shRNAを送達するため非複製性の組換えAAV9カプシドを含み得る。一部の実施形態において、カプシドは、VP2及びVP3が2つのトランケート型のVP1となり、全てが共通のC末端配列を有するような選択的スプライシングによって産生される60個のウイルスタンパク質(VP1、VP2、VP3)を1:1:10の比で含む。
【0122】
一部の実施形態において、機能性ウイルスベクターの量は、好適なインビトロ細胞アッセイ又はインビボ動物モデルを用いて測定したときの機能性vg/mLの%によって決定される。例えば、機能性AAV SMNの%は、SMAの動物モデル、例えばSMAΔ7マウスを使用した相対効力によるか、又は好適な細胞株、例えばSMAΔ7マウスの皮質から単離された初代神経前駆細胞(NPC)を使用した定量的細胞ベースアッセイによりアッセイされてもよい。機能性AAV MeCP2の%は、好適なインビトロ細胞アッセイ又はインビボ動物モデル、例えばMecp2ノックアウトマウスを用いてアッセイされてもよい。機能性AAV SOD1の%は、好適なインビトロ細胞アッセイ又はインビボ動物モデル、例えばSOD1変異マウスを用いてアッセイされてもよい。
【0123】
例示的ベクター構築物、例えばAVXS-101のDNA配列を表1に示す。
【0124】
【0125】
別の態様において、AVXS-101ベクター構築物のDNA配列は配列番号1に提供される:
【化1】
【化2】
【0126】
一部の実施形態において、pSMNプラスミドによってコードされるSMNタンパク質のアミノ酸配列は以下を含む:
【化3】
【0127】
一部の実施形態において、AAVカプシドタンパク質VP1、VP2、VP3は同じ転写物に由来する。これらは選択的な開始部位を有するが、カルボキシ末端は共有する。以下では、VP1特異的アミノ酸配列を黒色で示し、太字にする。VP1及びVP2に共通するアミノ酸配列には下線を付し、斜体にする。3つ全てのカプシドタンパク質に共通するアミノ酸は太字及び斜体である。
【化4】
【0128】
一実施形態において、AAVカプシドタンパク質は、配列番号3に示されるアミノ酸配列をコードする転写物に由来する。
【0129】
別の態様において、本明細書には、rAAVゲノムを含むDNAプラスミドが開示される。このDNAプラスミドは、AAV9カプシドタンパク質を有する感染性ウイルス粒子にrAAVゲノムをアセンブルするためAAVのヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス、E1欠失アデノウイルス又はヘルペスウイルス)と共に感染許容性細胞に移される。rAAV粒子の産生技法は当該技術分野において標準的であり、この技法においては、パッケージングしようとするAAVゲノム、rep及びcap遺伝子、並びにヘルパーウイルス機能が細胞に提供される。一部の実施形態において、rAAVの産生には、単一の細胞(本明細書ではパッケージング細胞と称される)の中に存在する以下の成分:rAAVゲノム、rAAVゲノムと別個の(即ち、そこにない)AAV rep及びcap遺伝子、及びヘルパーウイルス機能が関わる。シュードタイプrAAVの産生については、例えば、国際公開第01/83692号パンフレット(参照により全体として本明細書に援用される)に開示されている。様々な実施形態において、AAVカプシドタンパク質を修飾することにより組換えベクターの送達を促進し得る。カプシドタンパク質の修飾は、概して当該技術分野において公知である。例えば、米国特許出願公開第2005/0053922号明細書及び米国特許出願公開第2009/0202490号明細書(これらの開示は全体として参照により本明細書に援用される)を参照のこと。
【0130】
rAAV産生の一般的原理については、例えば、Carter,1992,Current Opinions in Biotechnology,1533-539;及びMuzyczka,1992,CUM Topics in Microbial.and Immunol.,158:97-129)にレビューされている。様々な手法が、Ratschin et al.,Mol.Cell.Biol.4:2072(1984);Hennonat et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6466(1984);Tratschin et al.,Mol.Cell.Biol.5:3251(1985);McLaughlin et al.,J.Virol.,62:1963(1988);及びLebkowski et al.,1988 Mol.Cell.Biol.,7:349(1988).Samulski et al.(1989,J.Virol.,63:3822-3828);米国特許第5,173,414号明細書;国際公開第95/13365号パンフレット及び対応する米国特許第5,658,776号明細書;国際公開第95/13392号パンフレット;国際公開第96/17947号パンフレット;PCT/US98/18600号明細書;国際公開第97/09441号パンフレット(PCT/US96/14423号明細書);国際公開第97/08298号パンフレット(PCT/US96/13872号明細書);国際公開第97/21825号パンフレット(PCT/US96/20777号明細書);国際公開第97/06243号パンフレット(PCT/FR96/01064号明細書);国際公開第99/11764号パンフレット;Perrin et al.(1995)Vaccine 13:1244-1250;Paul et al.(1993)Human Gene Therapy 4:609-615;Clark et al.(1996)Gene Therapy 3:1124-1132;米国特許第5,786,211号明細書;米国特許第5,871,982号明細書;及び米国特許第6,258,595号明細書に記載されている。前述の文献は、特にrAAV産生に関連するこれらの文献の節に重点を置いて、本明細書により全体として参照により本明細書に援用される。
【0131】
パッケージング細胞の例示的作成方法は、AAV粒子産生に必要な全ての成分を安定に発現する細胞株を作り出すことである。例えば、AAV rep及びcap遺伝子を欠いているrAAVゲノム、rAAVゲノムと別個のAAV rep及びcap遺伝子、及びネオマイシン耐性遺伝子などの選択可能マーカーを含むプラスミド(又は複数のプラスミド)が細胞のゲノムに組み込まれる。AAVゲノムは、GCテール法(Samulski et al.,1982,Proc.Natl.Acad.S6.USA,79:2077-2081)、制限エンドヌクレアーゼ切断部位を含む合成リンカーの付加(Laughlin et al.,1983,Gene,23:65-73)又は直接的に、平滑末端ライゲーション(Senapathy & Carter,1984,J.Biol.Chem.,259:4661-4666)などの手順によって細菌プラスミドに導入されている。次にパッケージング細胞株にアデノウイルスなどのヘルパーウイルスを感染させる。この方法の利点は、細胞を選択可能であり、rAAVの大規模産生に好適なことである。好適な方法の他の例では、プラスミドよりむしろアデノウイルス又はバキュロウイルスを利用してrAAVゲノム及び/又はrep及びcap遺伝子がパッケージング細胞に導入される。
【0132】
従って本明細書における開示は、様々な実施形態において、感染性rAAVを産生するパッケージング細胞を提供する。パッケージング細胞は、懸濁液中で培養される非接着細胞であっても、又は接着細胞であってもよい。一実施形態において、HeLa細胞、HEK 293細胞及びPerC.6細胞(コグネイト293株)など、任意の好適なパッケージング細胞株を使用することができる。一実施形態において、細胞株はHEK 293細胞である。
【0133】
ウイルスベクター産生収率を増加させるため、接着細胞を培養し、培養フラスコへの接着性の改善に関して選択してもよい。一部の実施形態において、後続のバイオリアクター播種ステップにおけるトランスフェクション効率及び細胞数が改善する。継代培養時、当該技術分野において公知の方法により細胞が細胞培養表面から剥がされ得る。例えば、細胞は、掻き取ることによるか、又はプロテアーゼを含む溶液中でインキュベートすることによって浮き上がらせてもよい。例示的実施形態では、HEK293細胞をPBSで洗浄し、トリプシンによって室温で約2分間解離させてもよい。血清を含有する成長培地を加えることにより解離を停止させてもよく、懸濁液のピペッティングを繰り返すことにより細胞集塊を解離させてもよい。次に細胞懸濁液をペレット化してもよく、単離されたペレットを好適な完全成長培地に再懸濁してもよい。次に細胞を新規細胞培養チャンバに播種して接着させてもよい。然る時間後に表面に接着しない細胞は、細胞培養培地が完全に成長培地に入れ替わる前に、細胞培養培地と共に穏やかに吸引することにより除去してもよい。一部の実施形態において、細胞を接着させておく時間は、約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、約6時間又は約7時間であってもよい。細胞が拡大したら、この工程を繰り返して、培養フラスコに強力に接着する細胞の画分を増加させてもよい。一部の実施形態において、この工程は少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、少なくとも5回、又は任意の好適な回数だけ繰り返される。例示的実施形態において、HEK293細胞は75cm2フラスコに播種し、37℃インキュベーターにおいて4時間接着させた後、接着が弱い細胞を吸引によって除去し、細胞培養培地を交換する。例示的実施形態において、強力な接着性の細胞を選択する工程は、3回の細胞培養継代にわたって繰り返される。
【0134】
他の実施形態において、rAAV9(即ち、感染性カプシド化rAAV9粒子)は、本明細書に開示されるrAAVゲノムを含む。一態様において、rAAVゲノムは自己相補的ゲノムである。
【0135】
別の態様において、「rAAV SMN」と称されるrAAV9など、rAAVが提供される。一部の実施形態において、rAAV SMNゲノムは順番に、第1のAAV2 ITR、サイトメガロウイルスエンハンサーを伴うニワトリ-βアクチンプロモーター、SV40イントロン、SMNをコードするポリヌクレオチド、ウシ成長ホルモン由来のポリアデニル化シグナル配列、及び第2のAAV2 ITRを有する。一部の実施形態において、SMNをコードするポリヌクレオチドは、例えば、GenBank受託番号MN_000344.2、GenBank受託番号NM_017411、又は任意の他の好適なヒトSMNアイソフォームに示される又はそれに由来するヒトSMN遺伝子である。例示的SMN配列は、以下の配列を含む:
【化5】
【0136】
SMN DNAの保存的ヌクレオチド置換もまた企図される(例えば、GenBank受託番号NM_000344.2の625位におけるグアニンからアデニンへの変更)。一部の実施形態において、ゲノムはAAV rep及びcap DNAを欠いており、即ちゲノムのITR間にAAV rep又はcap DNAがない。企図されるSMNポリペプチドとしては、限定はされないが、NCBIタンパク質データベース番号NP_000335.1に示されるヒトSMN1ポリペプチドが挙げられる。実施形態において、SMN DNAは、ヒトSMNポリペプチド(例えば、Uniprot受託番号Q16637、アイソフォーム1(Q16637-1)によって特定されるヒトSMNタンパク質)をコードするポリヌクレオチドを含む。また、SMN1修飾因子ポリペプチドプラスチン-3(PLS3)も企図される[Oprea et al.,Science 320(5875):524-527(2008)]。他のポリペプチドをコードする配列がSMN DNAと置き換えられてもよい。
【0137】
トランスフェクション前、細胞は、フラスコ又は好適なバイオリアクター、又は両方において好適な培養培地中で拡大させる。一部の実施形態において、細胞は、細胞培養培地の連続循環を提供するバイオリアクターにおいて拡大させてもよい。一実施形態において、細胞は、200m2、333m2、又は500m2 iCELLisバイオリアクターにおいて拡大させる。一つの培養培地は、5~10%FBS、4.5g/Lグルコース、4mM L-グルタミンを含有するDMEMである。一部の実施形態では、接着細胞を再循環培地バッグ内の培地に加え、バイオリアクター中に循環させる。一部の実施形態では、細胞培養培地又は任意の他の培地は、蠕動ポンプを使用してバイオリアクター中に連続的に再循環させる。細胞はフラスコ又はバイオリアクター内に培養及びトランスフェクションに好適な密度で播種され得る。播種密度は細胞型及びトランスフェクションまでの時間に依存し得る。一部の実施形態において、細胞は約8000~16000細胞/cm2で播種される。ある実施形態において、HEK293細胞は8000~12,000細胞/cm2で播種される。
【0138】
形質導入細胞を対象に形質導入及び再導入する好適な方法は、当該技術分野において公知である。一実施形態において、細胞はインビトロで、例えば適切な培地中にrAAVを細胞と合わせ、目的のDNAを担持する細胞に関してサザンブロット及び/又はPCRなどの従来技法を用いるか、又は選択可能マーカーの使用によってスクリーニングすることにより形質導入することができる。
【0139】
一部の実施形態において、パッケージング細胞株には3つのプラスミド:AAVベクター中にパッケージングしようとするベクター配列をコードする又はそれを含むプラスミド(例えば、pSMN、pMECP2トランス遺伝子、又はpSOD1sh)、pHELP及びpAAV2/9がトランスフェクトされる。トランスフェクションは、限定はされないが、電気穿孔、例えばリポフェクタミン、カチオン性ポリマー及びカチオン性脂質によるリポフェクションを含め、当該技術分野において公知の技法のいずれを用いても実施してもよい。任意の好適なトランスフェクション培地を使用し得る。トランスフェクション工程の一実施形態では、接着ヒト胎児腎臓(HEK293)細胞に三重DNAプラスミドポリエチレンイミン(PEI)共沈殿物がトランスフェクトされる。一実施形態において、scAAV9.CB.SMNベクター(CBプロモーターとSMNをコードするポリヌクレオチドとを含む自己相補的AAV9ベクター)が、大規模接着細胞バイオリアクターにおけるPEI共沈殿物を用いた接着HEK293細胞中への三重DNAプラスミドトランスフェクションを用いて産生される。一実施形態において、細胞拡大に使用されるDMEM成長培地は、変法DMEMトランスフェクション培地に置き換えられる。この培地はカルシウム及びL-グルタミン不含で配合される。一実施形態において、トランスフェクション培地は、FBS不含、カルシウム不含、L-グルタミン不含及び4.5g/Lグルコース含有DMEMである。一部の実施形態において、血清不含(例えば、FBS不含)のトランスフェクション培地はトランスフェクションの有効性を向上させる。ある実施形態において、トランスフェクション培地はOptiMEM(Invitrogen/Thermo Fisher)である。一実施形態では、3つのプラスミド(pSMN、pHELP及びpAAV2/9)をトランスフェクション培地中でPEIと共に混合して反応させる。一部の実施形態において、3つのプラスミドは約1:1:1のモル比で共に混合される。一部の実施形態において、プラスミド及びPEIは1:1のDNA:PEI重量比で混合される。一部の実施形態において、プラスミド及びPEIは1:1未満のDNA:PEI重量比で混合される。ある実施形態において、pSMN、pHELP及びpAAV2/9は1:1:1のモル比でOptiMEM培地中に混合される。かかる実施形態において、PEIは、DNA:PEIが重量基準で1:1となるように加えられる。一部の実施形態において、反応は0~60分間、又は10~45分間、又は20~30分間生じさせる。ある実施形態において、反応は15~30分間生じさせる。
【0140】
ある実施形態において、本開示は、AAVベースのウイルスベクターの製造方法を提供し、この方法は、(i)工業規模のバイオリアクターにおいて接着HEK293細胞を培養するステップ、(2)接着細胞にプラスミドを60分未満にわたってトランスフェクトしてAAVベクターの産生を可能にするステップ、及び任意選択で更なる処理、精製、製剤化及び充填ステップを適用して医薬製品を作製するステップを含む。この工程の一実施形態において、scAAV9.CB.SMNベクターは、ポリエチレンイミン(「PEI」)共沈殿物を用いた三重DNAプラスミドトランスフェクションを用いて作製される。ある実施形態において、このトランスフェクションに利用される3つのプラスミドは、pSMN、pAAV2/9、及びpHELPである。
【0141】
トランスフェクションは、パッケージング細胞株をDNA-PEI共沈物と接触させることにより実施されてもよい。一部の実施形態では、トランスフェクション培地中のDNA-PEI共沈物が培地再循環バッグに充填される。一部の実施形態では、トランスフェクション培地中のDNA-PEI共沈物がバイオリアクター内を循環し、成長培地に完全に取って代わる。一部の実施形態では、トランスフェクション培地中のDNA-PEI共沈物をバイオリアクター内で接着細胞に接触させる。一部の実施形態では、トランスフェクション培地中のDNA-PEI共沈物をバイオリアクター内で最長2時間にわたって接着細胞に接触させる。一部の実施形態では、トランスフェクションは1~2時間にわたって行う。一部の実施形態では、トランスフェクションは、1時間未満、例えば、10分、20分、30分、40分又は50分にわたって行う。一部の実施形態では、トランスフェクションは1~2時間にわたって行う。一部の実施形態では、トランスフェクションは、バイオリアクター中に完全成長培地を再循環させてトランスフェクション培地を完全に入れ替えることにより停止させる。
【0142】
2.拡大したウイルス粒子の回収
トランスフェクション後に好適な細胞拡大時間が経った後、一部の実施形態では、細胞を溶解させてウイルス粒子を回収する。一部の実施形態において、細胞は細胞溶解工程の開始前にリアクターから解離される。一部の実施形態において、細胞はインサイチューで溶解させる。任意選択で、ウイルス粒子は溶解させることなく回収される。一部の実施形態において、エンドヌクレアーゼが最終目標濃度まで加えられ、例えばバイオリアクター内を循環する。エンドヌクレアーゼは、DNA及びRNAの両方を分解するものであってよい。一実施形態において、エンドヌクレアーゼは、商品名ベンゾナーゼ(Benzonase)(登録商標)(EMD Millipore)で販売されているセラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)由来の遺伝子操作されたエンドヌクレアーゼである(Eaves,G.N.et al.J.Bact.1963,85,273-278;Nestle,M.et al.J.Biol.Chem.1969,244,5219-5225)。この酵素は、pNUC1産生プラスミドを含有する株K12の突然変異体である大腸菌(E.coli)株W3110から産生及び精製される(米国特許第5,173,418号明細書、本明細書によって全体として参照により援用される)。構造的に、このタンパク質は、2つの重要なジスルフィド結合を有する約30kDaサブユニットの同一の245アミノ酸の二量体である。ベンゾナーゼ(Benzonase)(登録商標)はあらゆる形態のDNA及びRNA(一本鎖、二本鎖、線状及び環状)を分解し、多種多様な作業条件で有効であり、核酸を2~5塩基長の5’-一リン酸末端オリゴヌクレオチドに消化する。ベンゾナーゼ(Benzonase)(登録商標)は、現行の医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理規則(current good manufacturing practice:cGMP)に基づき作製され、従って、工業規模のタンパク質及び/又はウイルス粒子精製工程で使用することができる。cGMP条件下で作製される他のエンドヌクレアーゼも、同様に本願に開示される精製方法において使用することができる。一実施形態において、ベンゾナーゼは、50~200U/ml、例えば75~150U/ml、例えば約100U/mLの最終濃度となるようにバイオリアクターに加えられる。一部の実施形態において、ベンゾナーゼを加えると、バイオリアクターにおける高いvg産生が実現しつつ宿主細胞DNAが著しく減少する。
【0143】
一部の実施形態において、エンドヌクレアーゼは、リアクターに溶解緩衝液を加える前に混合させておく。一部の実施形態において、細胞溶解溶液は、接着細胞と最長1時間、最長2時間、最長3時間、最長4時間又は最長5時間混合させておく。一部の実施形態において、溶解緩衝液は、好適な緩衝液中に塩化マグネシウム及び/又はTween-20を含み得る。例示的実施形態において、溶解緩衝液は、500mM HEPES、10%Tween 20、20mM MgCl2、pH8.0である。溶解反応を停止させるため、ベンゾナーゼ反応をクエンチする塩ショ糖液(SSS)を加えてもよい。一部の実施形態では、リンス緩衝液を含む回収バッグにSSSを加え、15分間混合する。一部の実施形態において、バイオリアクターはバイオリアクターリンス緩衝液でリンスされ、次にリンス液が回収物収集バッグに、クエンチされた細胞溶解溶液及び溶解した細胞内容物と共に収集され、これらが全て一緒になってバルク回収物を含む。一部の実施形態において、バイオリアクターリンス緩衝液は、トリス、MgCl2、NaCl、Tween-20及びショ糖を含み得る。例示的実施形態において、バイオリアクターリンス緩衝液は、20mMトリス、1mM MgCl2、500mM NaCl、1%Tween-20w/v及び1%ショ糖w/v、pH8.1を含む。
【0144】
3.ウイルス粒子の精製
回収後、バルク回収物ウイルス粒子は、典型的にはろ過によって濃縮及び精製されてもよい。一実施形態において、ウイルス粒子は、デプスろ過と、それに続く大型分子夾雑物及び細胞デブリを除去するフィルタ、例えば0.45μmフィルタであって、しかしベクターゲノムがそこを通過することは許容するフィルタでのろ過によってろ過される。任意の好適なデプスフィルタを使用し得る。
【0145】
当該技術分野において理解されるとおり、デプスろ過とは、大量の大型粒子(例えば、インタクトな細胞又は細胞デブリ)を含有する溶液を、かかる条件下で急速に詰まり得る膜ろ過と比較して多孔質ろ過剤を使用して清澄化することを指す。様々な細孔径の種々のデプスろ過剤が、Millipore、Pall、General Electric、及びSartoriousなど、種々の製造者から市販されている。
【0146】
デプスろ過の目標流速は、フィルタ入口圧力を規格の範囲内に保つため下げられてもよい。全てのバルク回収物がろ過された後、デプスフィルタは、特定の実施形態では、続く第1のタンジェンシャルフローろ過ステップ(「TFF1」)に使用されるダイアフィルトレーション緩衝液でチェーシング(chase)されてもよい。デプスフィルタプール液は混合される。次にデプスフィルタプール液を0.45μmフィルタでろ過することにより、バルク回収物材料が更に清澄化されてもよい。次に0.45μmフィルタはTFF1緩衝液でチェーシング(chase)される。
【0147】
4.タンジェンシャルフローろ過
様々な実施形態において、タンジェンシャルフローろ過が、例えばタンジェンシャルフローろ過を用いたバルク回収物の濃縮、並びに塩及びタンパク質の除去に用いられる。タンジェンシャルフローろ過(TFF)(クロスフローろ過CFFとも称される)は当業者に周知であり、広範囲の状況下でのその実施のための機器及びプロトコルが、限定はされないが、Pall Corporation、Port Washington,NY及びSpectrum Labs、Rancho Dominguez,CAを含め、種々の製造者から市販されている。概して、TFFは、膜の表面を横切る保持液の再循環を伴い得る。この穏やかなクロスフロー供給液が、特定の実施形態では、膜の汚れを最小限に抑え、高いろ過率を維持し、且つ高い産物回収率をもたらす。一実施形態において、TFFステップは、本明細書に例示されるとおり、フラットシートシステムで実現されてもよい。フラットシートシステムは大規模産生で使用されてもよく、ここでかかるシステムは、ウイルス粒子に過剰な剪断力がかかることを防ぐ手段(例えば、オープンフローチャネル)を備える。或いは、TFFステップは、本明細書に例示されるとおり、中空糸システムで実現されてもよい。一実施形態において、TFFシステムの分子量カットオフ(MWCO)は200~400kDa、例えば約300kDaである。
【0148】
一実施形態において、TFF1ステップは、300kDa MWカットオフ再生セルロース膜カセットを使用して実施される。このカセットはフラッシュされ、NaOH溶液で衛生化され、及びTFF1緩衝液で平衡化される。一実施形態において、TFF1緩衝液は、20mMトリス、1mM MgCl2、500mM NaCl、1%ショ糖、pH8.1を含む。
【0149】
一部の実施形態において、TFF1ステップの濃縮相は、清澄化された回収物の容積が約10分の1に減少するように選択される。目標保持液容積に達した後、ダイアフィルトレーション作業が開始されてもよい。保持液のダイアフィルトレーションは、一部の実施形態では、約6ダイアボリュームのTFF1緩衝液で行うことができる。一部の実施形態において、保持液のダイアフィルトレーションは、約5~20、又は10~15、又は12ダイアボリュームのTFF1緩衝液で行われる。6ダイアボリュームの透過液全流量が達成された後、保持液は再び濃縮され、回収されてもよい。中間原薬の産物回収率を増加させるため、膜のリンス、例えば2回の連続的なリンスが実行されてもよい。
【0150】
5.中間産物
一部の実施形態において、次に中間原薬はドライアイス上又はフリーザー内で凍結され、次に≦-60℃の貯蔵場所に移されてもよい。他の実施形態において、下流工程の前に中間産物を凍結する必要はない。
【0151】
一部の実施形態において、更なる処理のため(例えば、例えば本明細書に記載されるとおりの下流工程による精製(purfication)のため)、複数の中間産物原体ロットが共にプールされる。複数の中間産物原体ロットは凍結及び貯蔵前にプールされてもよい。他の実施形態において、複数の中間産物原体ロットは、凍結及び貯蔵されたロットを解凍した後にプールされてもよい。
【0152】
下流工程
一部の実施形態では、下流工程を用いて中間産物(例えばプールされた中間産物)がろ過済み原薬に処理される。一部の実施形態において、下流工程ステップには、(a)酸性化及び清澄化(例えば、ろ過を用いる)、(b)陽イオン交換クロマトグラフィー、(c)タンジェンシャルフローろ過(「TFF2」)、(d)CsCl超遠心、(e)ウイルスベクターの収集及び(f)更なるタンジェンシャルフローろ過(「TFF3」)が含まれ、これにより精製されたAAV粒子が薬学的に許容可能な担体中に懸濁されているろ過済み原薬が産生される。一部の実施形態において、下流工程は、TFF1中間体の産生後に以下の製造ステップ:TFF1中間体の解凍及びプール、酸性化及び清澄化、陽イオン交換クロマトグラフィー(CEX)、タンジェンシャルフローろ過(TFF2)、CsCl超遠心による完全なカプシド/空のカプシドの分離、タンジェンシャルフローろ過(TFF3)による濃縮/緩衝液交換、TFF3プール材料ろ過による原薬の生成、原薬の希釈及びろ過による薬物製品の産生、薬物製品の貯蔵及びバイアルへの薬物製品の充填を含む。
【0153】
一部の実施形態において、本明細書に開示される下流工程を用いて、本明細書に記載されるとおりAAV SMN、AAV MECP2、又はSOD1を標的とするshRNAをコードするAAVを含む中間体が処理されてもよい。
【0154】
1.中間体の酸性化及び清澄化
中間体が凍結される実施形態では、下流工程はTFF1中間材料を解凍することから始まる。デタージェント、例えばTween 20を使用して、酸性pH下でのバルクの宿主細胞タンパク質及びDNAのフロキュレーションを促進してもよい。次にデタージェントを含有するTFF1中間体のpHを降下させてもよい。次に、pHの降下時に形成された凝集物及び沈殿物が、デプスフィルタ並びに大型分子夾雑物及び細胞デブリを除去するフィルタ、例えば0.45μmフィルタであって、しかしベクターゲノムがそこを通過することは許容するフィルタで溶液をろ過することにより除去されてもよい。任意の好適なデプスフィルタを使用し得る。
【0155】
一実施形態において、Tween 20は、10~20%Tween 20の最終濃度に達するようにTFF1中間溶液にゆっくりと加えられる。一部の実施形態において、Tween 20を加えた後の目標組成は、20mMトリス、1mM MgCl2、500mM NaCl、1%ショ糖m/v、pH8.1中36%のTween 20溶液である。一部の実施形態において、Tween 20は約1~6時間の時間をかけてゆっくりと加えられる。一部の実施形態において、Tween 20は3~6時間かけてゆっくりと加えられる。一部の実施形態において、Tween 20は4時間かけてゆっくりと加えられる。一部の実施形態において、Tween 20/TFF1中間溶液は室温で一晩インキュベートさせておく。一部の実施形態において、Tween 20/TFF1中間溶液は室温で8~20時間インキュベートさせておく。例示的実施形態において、Tween 20/TFF1中間溶液は室温で12~20時間インキュベートさせておく。
【0156】
インキュベーション後、任意の好適な酸を加えることにより、Tween 20を含有するTFF1中間体のpHを降下させてもよい。一部の実施形態では、1Mグリシン、pH2.5を加えて3.5±0.1の目標pHを達成する。一部の実施形態において、目標pHはpH3.0~4.0、約pH3.3~3.7、約pH3.4~3.6、又は約pH3.5である。pHが許容範囲内になったら、溶液を任意のサイズのフィルタに通過させてもよい。例示的実施形態において、デプスフィルタ(例えば、Clarisolve POD)、それと直列の0.45μmフィルタ(例えば、Opticap XL10 Duraporeフィルタ)又は0.8/0.45μm PESフィルタが使用される。
【0157】
2.陽イオン交換クロマトグラフィー
様々な実施形態において、陽イオン交換(CEX)捕捉クロマトグラフィーステップを用いて、例えば、ウイルスカプシドが宿主細胞タンパク質、宿主細胞DNA、宿主細胞脂質、Tween 20及び他の工程関連不純物と分離される。陽イオン交換クロマトグラフィーの原理は当該技術分野において周知であるが、簡潔に言えば、この方法は、単離しようとする正電荷粒子と使用される負電荷樹脂との間の電荷間相互作用に頼るものである。一般に、初めにpH及び伝導性が安定するまで数ダイアボリュームの緩衝液を流すことによりカラムを平衡化させる。次にサンプルをロードし、ローディング緩衝液でカラムを洗浄する。最後に、溶出緩衝液を使用してカラムから目的のサンプルを溶出させ、サンプルを含有する画分を収集する。目的のサンプルの存在は、溶出液の吸光度測定によって検出することができる。
【0158】
一実施形態において、CEXステップには、CIMmultus S03-8000先端複合材料カラム(スルホニル)(2μm細径)クロマトグラフィーカラムが利用される。一実施形態において、溶出ピークは、OD280における急激な上昇から開始して収集される。OD280は、伝導性が80~85mS/cmになると上昇し始め得る。CEX溶出物は常法どおり収集されてもよく、2画分で収集されてもよい。一実施形態において、第1の画分はOD280における急激な上昇から開始され、1.5コレクション容積(CV)が収集される。別の実施形態において、第2の画分は第1の画分の直後に開始され、1.0CVが収集される。これらの2つの画分がプールされ、次にpH8.0±0.30に中和される。一実施形態において、中和緩衝液は、20℃の1.0M トリス、pH9.1±0.1を含む。
【0159】
3.タンジェンシャルフローろ過2
一部の実施形態では、濃縮、タンパク質不純物の除去、及び続くCsCl超遠心ステップに適切な緩衝液への緩衝液交換のため、タンジェンシャルフローろ過ステップ(TFF2)が用いられる。任意の好適なTFF膜を使用し得る。ある実施形態において、TFF2ステップには、300kD MWCO再生セルロース膜が利用される。
【0160】
一部の実施形態において、このステップの濃縮相は、CEX溶出物の容積が減少するように設計される。一実施形態では、保持液がダイアフィルトレーション緩衝液で2倍希釈され、保持液がその初期容積まで濃縮される。一実施形態では、ダイアフィルトレーション緩衝液は、20mMトリス、2mM MgCl2、150mM NaCl、0.2%ポロキサマー188、1%ショ糖を含有するpH8.1±0.1、20℃のTFF2 NaClダイアフィルトレーション緩衝液である。かかる実施形態において、この工程は、新しい緩衝液によるダイアフィルトレーションが完了するまで繰り返されてもよい。一実施形態では、保持液がCsCl含有ダイアフィルトレーション緩衝液で2倍希釈され、保持液がその初期容積まで濃縮される。ある実施形態では、CsCl含有ダイアフィルトレーション緩衝液は、20mMトリス、2mM MgCl2、3M CsCl、0.2%ポロキサマー188を含有するpH8.1±0.1、20℃のTFF2 CsClダイアフィルトレーション緩衝液である。かかる実施形態において、この工程は、新しい緩衝液によるダイアフィルトレーションが完了するまで繰り返されてもよい。CsClダイアフィルトレーションの完了後、次に保持液は、システムのホールドアップ容積に依存する規定の容積まで濃縮されてもよい。一部の実施形態において、TFF2システムからの産物回収率を最大化するため、膜のリンス、例えば2回の連続的なリンスが実行される。
【0161】
4.CsCl超遠心
インビボ遺伝子形質導入にAAVが使用される一部の実施形態において、rAAVの最終産物は不純物及び空の粒子を最小限しか含有しない。AAVベクターの2つの精製方法は、イオジキサノール勾配又はCsCl勾配のいずれかを用いた超遠心である。これらの2つの方法を比較する一研究では、CsClと比較してイオジキサノールではより高いベクター純度のAAVベクターが得られたが、空のウイルスカプシドがより多かったことが実証された。Strobel et al.“Comparative Analysis of Cesium Chloride-and Iodixanol-Based Purification of Recombinant Adeno-Associated Viral Vectors for Preclinical Applications.”Human Gene Therapy Methods,26(4):147-157。CsClの使用が空のウイルスカプシド量の低下につながるとしても、CsClは細胞にとって毒性であり得るとともに、残留CsClの除去に複数回の精製ステップが必要となり得るため、イオジキサノール(約1日)のようなより短時間の方法と比較して長い工程所要時間(約3.5日)につながり得る。別の研究では、残留CsClを除去するためのステップの多さにより、高頻度でrAAVの劇的な損失が生じて低い収率及び回収率につながり、多くの場合にこの方法の他の利益が打ち消されることが示されている。Hermens et al.“Purification of Recombinant Adeno-Associated Virus by Iodixanol Gradient Ultracentrifugation Allows Rapid and Reproducible Preparation of Vector Stocks for Gene Transfer in the Nervous System.”Human Gene Therapy,10:1885-1891。更に、これらの2つの方法は実験室では前臨床サンプルの作製に上手く機能するが、これらには規模拡張性がなく、従って市販用製品の大規模産生には好適でない。例えば、Tomono et al.,“Ultracentrifugation-free chromatography-mediated large-scale purification of recombinant adeno-associated virus serotype 1(rAAV1).”Molecular Therapy-Methods & Clinical Development,3:15058を参照のこと(「塩化セシウム(CsCl)又はイオジキサノール密度超遠心法を用いた精製方法は大規模産生には好適でない」)。
【0162】
一部の実施形態において、例えば空のカプシドを完全なカプシドと分離するため、超遠心ステップが用いられる。予想外にも、本明細書に開示されるCsCl超遠心方法は規模拡張性があり、精製AAVベクターの大規模産生に好適であった。超遠心は分析的超遠心によって実施されてもよく、勾配緩衝液の使用を伴い得る。勾配緩衝液の例としては、限定はされないが、CsCl、ショ糖、イオジキサノール及び当該技術分野において公知の他のものが挙げられる。遠心は、所望のg力に達する能力を有する任意の遠心機、例えば、タイプ50.2 Tiロータ又は等価なロータを備えた自動Optima XPN 100超遠心システム又は等価なシステムで実施することができる。超遠心後、空のカプシドと完全なカプシドとがチューブ内で異なるバンドに分かれ、特異的バンドから材料を抜き取ることによってこれを抽出し得る。一部の実施形態において、TFF2精製後のろ過済み材料が241,600~302,000g(50.2 Tiロータにおける約40,000~50,000rpm)で遠心される。一部の実施形態において、TFF2精製後のろ過済み材料が一晩遠心される。一部の実施形態において、TFF2精製後のろ過済み材料が16~24時間遠心される。一部の実施形態において、TFF2精製後のろ過済み材料が20~24時間遠心される。一部の実施形態において、TFF2精製後のろ過済み材料が15~25℃で遠心される。ある実施形態において、TFF2精製後のろ過済み材料が302,000g(50.2 Tiロータにおける50,000rpm)で20℃において17時間遠心される。一部の実施形態において、CsCl遠心用の緩衝液は、以下の成分であって、(a)CsClを含み、(b)MgCl2、(c)ポロキサマー188及び(d)トリスのうちの1つ以上を更に含む成分うちの1つ以上を有し得る。一部の実施形態において、CsCl用の緩衝液は、(a)、(b)、(c)及び(d)の全てを含み得る。一部の実施形態において、CsCl用の緩衝液はpH7.5~8.5、又はpH7.9~8.2である。ある実施形態において、CsCl遠心に好適な緩衝液は、20mMトリス、2mM MgCl2、3M CsCl、0.2%ポロキサマー188、pH8.1±0.10である。遠心ステップの完了後、超遠心機からチューブが取り出されてもよい。一部の実施形態において、一番上のバンド、バンドAが、空のカプシドを含有する。一部の実施形態において、上から二番目以降のバンド、バンドB、C及びDが完全なカプシドダブレットバンドを含む。一部の実施形態において、AAVウイルスベクターはシリンジを使用して収集される。ある実施形態において、バンドB、C及びDは、30mLシリンジに取り付けられた18G針をバンドDのほんの少し下からチューブの中央まで挿入することによって取り出される。他の実施形態(embodiements)において、当該技術分野において公知の及び/又は本明細書に記載されるとおりの技法を用いてバンドが完全なカプシド又は空のカプシドの存在に関してアッセイされてもよく、及び完全なカプシドを含有するバンドが収集されてもよい。
【0163】
空のウイルスカプシドと空でないウイルスカプシドとの比は、標準的な実験技法によって測定することができる。一部の実施形態において、測定は吸光度測定によって行われる。一部の実施形態において、測定はUV吸光度測定によって行われる。一部の実施形態において、カプシドタンパク質の総量及びDNAの総量は、UV吸光度測定から決定することができる。一部の実施形態において、測定は光屈折率測定によって行われる。一部の他の実施形態において、測定は分析的超遠心法によって行われる。
【0164】
一実施形態において、超遠心後に収集されるAAVウイルスベクターは、空のカプシドを8%未満、空のカプシドを7%未満、5%未満、3%未満、又は1%未満有する。一実施形態において、超遠心後に収集されるAAVウイルスベクターは空のカプシドを1~10%有する。一実施形態において、超遠心後に収集されるAAVウイルスベクターは空のカプシドを2~8%有する。一実施形態において、空のカプシドの数は検出限界を下回る。別の実施形態において、空のカプシドの割合は、全カプシドに対する割合として決定される。
【0165】
5.タンジェンシャルフローろ過3によるろ過済み原薬の生成
一部の実施形態では、CsClの除去、及び完全なベクターカプシドの濃縮のため、タンジェンシャルフローろ過ステップ(TFF3)が用いられる。タンジェンシャルフローろ過は、好適な膜を使用して実施し得る。一実施形態において、300kDa MWCO再生セルロース膜が使用される。膜によってベクターカプシドが保持され得る。TFF3作業の濃縮相は、残留CsClの濃度及び超遠心プールの容積が減少するように設計されてもよい。一部の実施形態において、目標保持液容積に達した後、ダイアフィルトレーションが開始される。保持液のダイアフィルトレーションは、最大10ダイアボリュームの好適なTFF3緩衝液で行われる。一実施形態において、好適なTFF3緩衝液は、以下の成分であって、(a)トリス、(b)MgCl2、(c)NaCl、又は(d)ポロキサマー188を含む成分のうちの1つ以上を含み得る。一実施形態において、好適なTFF3緩衝液は、(a)、(b)、(c)及び(d)の全てを含み得る。一実施形態において、TFF3緩衝液はpH7.5~8.5、pH7.7~8.3、又はpH8.0である。ある実施形態において、好適なTFF3緩衝液は、20℃の20mMトリス、1mM MgCl2、200mM NaCl、0.001%ポロキサマー188、pH8.0±0.1を含む。別の実施形態において、好適なTFF3緩衝液は、20℃の20mMトリス、1mM MgCl2、200mM NaCl、0.005%ポロキサマー188、pH8.0±0.1を含む。一実施形態において、濃縮された保持液を0.2μm Pall Supor(登録商標)EKV滅菌用グレードフィルタ(Mini Kleenpak)フィルタを使用してろ過すると、ろ過済み原薬が産生される。一部の実施形態において、本明細書に記載される方法では、製造バッチ当たり5×1015vg超、又は8×1015vg超又は1×1016vg超のrAAVが得られる。
【0166】
医薬組成物
本明細書に開示される方法により精製されるウイルス(例えばAAV)粒子は、ヒト対象に投与することができる十分な純度で高収率で産生され得る。一部の実施形態において、ウイルスベクターは、約1~8×1013ウイルスベクターゲノム/mL(vg/mL)、又は約1.7~2.3×1013vg/mLの濃度で製剤化される。一部の実施形態において、ウイルスベクターは、約1.9~2.1×1013vg/mLの濃度で製剤化される。一部の実施形態において、ウイルスベクターは、約2.0×1013vg/mLの濃度で製剤化される。
【0167】
一部の実施形態では、ウイルスベクターの産生工程において、核酸材料を含有しない空のウイルスカプシドが生成され得る。低量の空のウイルスカプシドを含む医薬組成物(pharmacuetical composition)は、未成熟な免疫系を有する患者、例えば乳児が、治療利益なしに不必要に抗原性物質(空のカプシド、宿主細胞タンパク質、宿主細胞DNA)に曝露されることを回避するため有利であり得る。一部の実施形態において、かかる医薬組成物は、インフュージョンリアクション又は広域免疫応答の可能性を低減し得るとともに、治療有効性を改善し得る。ゲノム材料を有する完全なウイルスカプシドと比較すると、空のカプシドは密度が異なるため、これらの2つの種は勾配遠心法か、又は当該技術分野において公知の他の方法によって分離することが可能である。一部の実施形態において、空のカプシドは超遠心法によって分離される。一部の実施形態において、空のカプシドはCsCl勾配超遠心法によって分離される。他の実施形態において、空のカプシドはイオジキサノール勾配超遠心法によって分離される。一部の実施形態において、空のカプシドはショ糖勾配超遠心法によって分離される。
【0168】
空のウイルスカプシドと空でないウイルスカプシドとの比は、標準的な実験技法によって測定することができる。一部の実施形態において、比は吸光度測定によって測定される。一部の実施形態において、比はUV吸光度測定によって測定される。一部の実施形態において、カプシドタンパク質の総量及びDNAの総量はUV吸光度測定によって決定することができる。一部の実施形態において、測定は光屈折率測定によって決定される。一部の他の実施形態において、測定は分析的超遠心法によって決定される。
【0169】
高レベルの空のカプシドは、ウイルスベクター治療の有効性に難題を突きつけ得る。一実施形態において、医薬組成物は、10%未満の空のカプシド、8%未満の空のカプシド、7%未満、約5%未満、3%未満、1%未満の空のカプシドを有する。別の実施形態において、医薬組成物は1~10%の空のカプシドを有する。別の実施形態において、医薬組成物は2~8%の空のカプシドを有する。別の実施形態において、医薬組成物は、6%以下の空のカプシド、5%の空のカプシド、4%の空のカプシド、3%の空のカプシド、2%の空のカプシド、又はそれ未満を有する。ある実施形態において、空のカプシドの数は検出限界を下回る。別の実施形態において、空のカプシドの割合は、全カプシドに対する割合として、例えばAUCを用いて決定される。一部の実施形態において、空のカプシドがこのように低い割合であることにより、例えば、より高い割合の空のカプシドを有する組成物と比較したとき、患者への投与後の治療の有効性が改善され、及び/又は有害事象(例えば、炎症反応、肝傷害)が減少する。一部の実施形態において、本明細書に開示されるウイルスベクターの調製方法は、先行方法、例えば、接着細胞及び/又は本明細書に記載される精製方法を使用しないもののレベルと比較したとき、これらの改善された空のカプシド割合をもたらす。
【0170】
ウイルスベクターの産生工程において、ウイルスベクターの生成に使用される接着細胞(例えばHEK293細胞)からの残留タンパク質は、完全に分離して取り除くことはできない可能性もある。残留宿主細胞タンパク質には、免疫応答を誘発する恐れがある。残留宿主細胞の量は、ウイルスカプシドタンパク質と残留宿主細胞タンパク質とを区別できる任意の標準的な実験技法によって測定することができる。一部の実施形態において、残留宿主細胞タンパク質の量は、サイズ排除又はイオン交換クロマトグラフィーによって測定することができる。一部の実施形態において、測定は、親細胞特異抗体を用いたウエスタンブロットによって行うことができる。一実施形態において、残留宿主細胞タンパク質の量は酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって測定することができる。一部の実施形態において、残留宿主細胞タンパク質の量は市販のELISAキットによって測定することができる。一部の実施形態において、残留宿主細胞タンパク質の量は、Cygnus Technologies HEK293 HCP ELISAキットによって測定することができる。
【0171】
別の実施形態において、前記医薬組成物中の残留宿主細胞タンパク質は、1×1013vg/ml当たり5×106pg/ml以下、1×1013vg/mL当たり1.2×106pg/ml以下又は1×1013vg/ml当たり1×105pg/ml~1×1013vg/ml当たり1.2×106pg/ml又は1×1013vg/ml当たり40ng/ml以下である。ある実施形態において、医薬組成物は、1.0×1013vg当たり5、4、3、2、1ng以下又はそれより少ない残留宿主細胞タンパク質を含む。一実施形態において、医薬組成物は、1.0×1013vg当たり4ng以下の残留宿主細胞タンパク質を含む。
【0172】
ウイルスベクターの産生工程において、接着細胞(例えばHEK293細胞)からの残留宿主細胞DNA又はウイルスベクターの生成のためにトランスフェクトされた残留プラスミドDNAは、完全には除去できない可能性もある。精製工程(例えば、酸性化、清澄化、タンジェンシャルフローろ過等)では、バルクの残留宿主細胞又はプラスミドDNAが除去される。一実施形態において、残留宿主細胞又はプラスミドDNAの量の測定は、PCRによって実施される。別の実施形態において、残留宿主細胞又はプラスミドDNAの量の測定は、宿主細胞又はプラスミド配列に特異的なプライマーによる定量的PCR(qPCR)によって実施される。別の実施形態において、残留宿主細胞又はプラスミドDNAの量の測定は、デジタルドロップレットPCR(ddPCR)によって実施される。一実施形態において、プラスミドDNAの量は、プラスミドのカナマイシン耐性遺伝子領域に特異的なプライマーによるqPCRアッセイを用いて決定される。別の実施形態において、残留宿主細胞DNAの量は、市販のqPCRアッセイキット、例えば、ThermoFisherによるresDNASEQ(登録商標)ヒト残留DNA定量化キット、Bioradによる残留DNA定量化スーパーミックス、又は任意の等価な製品により決定される。残留宿主細胞又はプラスミドDNAの量を低減すると、治療転帰(therapeutic outcomoes)を改善することができ、本明細書に開示される治療における使用のためにかかる組成物が精製及び/又は選択されてもよい。
【0173】
ある実施形態において、前記医薬組成物中の残留宿主細胞DNAは、1×1013vg/ml当たり1.7×106pg/ml以下、1×1013vg/ml当たり1×105pg/ml~1×1013vg/ml当たり1.2×106pg/mlである。ある実施形態において、前記医薬組成物中の残留宿主細胞DNAは、1.0×1013vg当たり3×105、2×105、1.1×105、1×105pg以下であるか、又はそれより少ない。実施形態において、前記医薬組成物中の残留宿主細胞DNAは1.0×1013vg当たり1.1×105pg以下である。
【0174】
別の実施形態において、前記医薬組成物中の残留プラスミドDNAは、1×1013vg/ml当たり1.7×106pg/ml以下、1×1013vg/ml当たり1×105pg/ml~1×1013vg/ml当たり1.7×106pg/mlである。別の実施形態において、前記医薬組成物中の残留プラスミドDNAは1.0×1013vg当たり6.8×105pg以下である。
【0175】
ある実施形態において、医薬組成物中の残留宿主細胞DNAは1.0×1013vg当たり1.1×105pg以下であり、及び前記医薬組成物中の残留プラスミドDNAは、1.0×1013vg当たり6.8×105pg以下である。
【0176】
ある実施形態において、医薬組成物中の残留宿主細胞DNAは1.0×1013vg当たり1.1×105pg以下であり、及び前記医薬組成物中の残留プラスミドDNAは1.0×1013vg当たり6.8×105pg以下であり、及び前記医薬組成物中の残留宿主細胞タンパク質は1.0×1013vg当たり4ng以下である。
【0177】
一部の実施形態において、医薬組成物中のエンドトキシンの量は、1.0×1013vg/mL当たり約1EU/mL未満、1.0×1013vg/mL当たり約0.75EU/mL未満、1.0×1013vg/mL当たり約0.5EU/mL未満、1.0×1013vg/mL当たり約0.4EU/mL未満、1.0×1013vg/mL当たり約0.35EU/mL未満、1.0×1013vg/mL当たり約0.3EU/mL未満、1.0×1013vg/mL当たり約0.25EU/mL未満、1.0×1013vg/mL当たり約0.2EU/mL未満、1.0×1013vg/mL当たり約0.15EU/mL未満、1.0×1013vg/mL当たり約0.1EU/mL未満、1.0×1013vg/mL当たり約0.05EU/mL未満、又は、1.0×1013vg/mL当たり約0.02EU/mL未満である。エンドトキシンの量の決定方法は、例えばリムルスアメボサイトライセート(LAL)試験など、当該技術分野において公知である。実施形態において、エンドトキシンは、米国薬局方(Pharmacopiea)(「USP」)<85>(全体として参照により本明細書に援用される)に従いアッセイされる。
【0178】
一実施形態において、医薬組成物中のウシ血清アルブミン(BSA)は、1.0×1013vg当たり0.5ng未満、1.0×1013vg当たり0.3ng未満、又は1.0×1013vg当たり0.22ng未満である。一実施形態において、前記医薬組成物中のベンゾナーゼは、1.0×1013vg当たり0.2ng未満、1.0×1013vg当たり0.1ng未満、又は1.0×1013vg当たり0.09ng未満である。
【0179】
一実施形態において、本明細書に開示される医薬組成物は、以下のうちの1つ以上を含む:1.0×1013vg当たり約0.09ng未満のベンゾナーゼ、約30μg/g(ppm)未満のセシウム、約20~80ppmのポロキサマー188、1.0×1013vg当たり約0.22ng未満のBSA、1.0×1013vg当たり約6.8×105pg未満の残留プラスミドDNA、1.0×1013vg当たり約1.1×105pg未満の残留hcDNA、1.0×1013vg当たり約4ng未満のrHCP、pH7.7~8.3、約390~430mOsm/kg、容器当たり約600個未満の≧25μmサイズの粒子、容器当たり約6000個未満の≧10μmサイズの粒子、約1.7×1013~2.3×1013vg/mLのゲノム力価、1.0×1013vg当たり約3.9×108~8.4×1010IUの感染力価、1.0×1013vg当たり約100~300μgの全タンパク質、約7.5×1013vg/kg用量のウイルスベクターによるΔ7SMAマウスの≧24日の生存期間中央値、インビトロ細胞ベースアッセイに基づく約70~130%の相対効力、及び/又は約5%未満の空のカプシド。
【0180】
一実施形態において、本明細書に開示される医薬組成物は、以下のうちの1つ以上、例えば全てを含む:pH7.7~8.3(例えば、USP<791>により測定したとき)、約390~430mOsm/kg(例えば、USP<785>により測定したとき)、容器当たり約600個未満の≧25μmサイズの粒子(例えば、USP<787>により測定したとき)、容器当たり約6000個未満の≧10μmサイズの粒子(例えば、USP<787>により測定したとき)、約1.7×1013~2.3×1013vg/mLのゲノム力価、1.0×1013vg当たり約3.9×108~8.4×1010IUの感染力価、1.0×1013vg当たり約100~300μgの全タンパク質、例えば本明細書に記載されるとおりの例えばインビボ機能性(functionalitiy)試験において、約7.5×1013vg/kg用量のウイルスベクターによるΔ7SMAマウスの≧24日の生存期間中央値、インビトロ細胞ベースアッセイに基づく約70~130%の相対効力、及び/又は約5%未満の空のカプシド。実施形態において、本明細書に開示される医薬組成物は、95%以上の総純度を含む(例えばSDS-PAGEにより決定したとき)。実施形態において、本明細書に開示される医薬組成物は、非単一不特定関連不純物を2%超のレベルで含む(例えばSDS-PAGEにより決定したとき)。実施形態において、本明細書に開示される医薬組成物は、0.75EU/mL以下のエンドトキシンレベルを含む(例えば、USP<85>により測定したとき)。実施形態において、本明細書に開示される医薬組成物は、例えばUSP<71>により測定したとき、無菌性試験で増殖がないとの試験結果が出る。
【0181】
高レベルの残留宿主細胞タンパク質、宿主細胞DNA、プラスミドDNA、及び/又はエンドトキシンは、ウイルスベクター治療の有効性に難題を突きつけ得る。一部の実施形態において、残留宿主細胞タンパク質、宿主細胞DNA、プラスミドDNA、及び/又はエンドトキシンがこのように低量(low amouns)であることにより、例えばより高量を有する組成物と比較したとき、患者への投与後の治療の有効性が改善され、及び/又は有害事象(例えば、炎症反応、肝傷害)が減少する。一部の実施形態において、本明細書に開示されるウイルスベクターの調製方法は、先行方法、例えば、接着細胞及び/又は本明細書に記載される精製方法を使用しないもののレベルと比較したとき、これらの改善されたレベルをもたらす。一部の実施形態において、本明細書における方法はまた、低量(low amouns)の残留宿主細胞タンパク質、宿主細胞DNA、プラスミドDNA、及び/又はエンドトキシンに加えて、空のカプシドの割合が低下したウイルスベクターの調製も可能にする。
【0182】
一部の実施形態において、TFF後、例えば2回目のTFF後の残留セシウムの量は約50μg/gを下回る。一部の実施形態において、TFF後、例えば2回目のTFF後の残留セシウムの量は約30μg/gを下回る。一部の実施形態において、TFF後、例えば2回目のTFF後の残留セシウムの量は約20μg/gを下回る。一部の実施形態において、医薬組成物中の残留セシウムは30μg/g(ppm)以下である。一部の実施形態において、残留CsClの量は、質量分析法、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)、及び/又は別の好適な方法によって測定されてもよい。一部の実施形態において、2回目のTFF後の残留セシウムの量は、例えばICP-MSを用いて、定量限界を下回る。
【0183】
一部の実施形態において、2回目のTFF後に収集されるAAVウイルスベクターの濃度は、約5×1012vg/ml以上、約1×1013vg/ml以上、又は約3×1013vg/ml以上である。
【0184】
一実施形態において、本医薬組成物は、以下のうちの1つ以上を有する:1.0×1013vg当たり0.09ng未満のベンゾナーゼ、30μg/g(ppm)未満のセシウム、約20~80ppmのポロキサマー188、1.0×1013vg当たり0.22ng未満のBSA、1.0×1013vg当たり6.8×105pg未満の残留プラスミドDNA、1.0×1013vg当たり1.1×105pg未満の残留hcDNA、及び1.0×1013vg当たり4ng未満のrHCP。
【0185】
別の実施形態において、本医薬組成物は、参照標準の±20%の間、±15%の間、±10%の間、又は±5%の間の効力を保持している。一実施形態において、効力は、Foust et al.,Nat.Biotechnol.,28(3),pp.271-274(2010)の方法を用いて、参照標準に対するものとして評価される。任意の好適な参照標準を使用し得る。一実施形態において、本医薬組成物は、SMAΔ7マウスによって試験したとき、あるインビボ効力を有する。ある実施形態において、7.5×1013vg/kg用量を与えた被験マウスが、15日超、20日超、22日超又は24日超の生存期間中央値を有する。一実施形態において、本医薬組成物は、細胞ベースアッセイによって試験したとき参照標準及び/又は好適な対照と比べて50~150%、60~140%又は70~130%であるインビトロ相対効力を有する。
【0186】
本開示により精製されたウイルス粒子(virus particle)(例えば、ウイルス粒子(viral particle))を公知の方法により製剤化して、薬学的に有用な組成物を調製することができる。本開示の組成物は、当該技術分野において公知の技法を用いて、哺乳類対象、例えばヒトへの投与用に製剤化することができる。詳細には送達系は、筋肉内、皮内、粘膜、皮下、静脈内、髄腔内、注射用デポー型装置又は局所投与用に製剤化されてもよい。
【0187】
送達系が溶液又は懸濁液として製剤化されるとき、送達系は許容可能な担体中、例えば水性担体中にある。例えば、水、緩衝用水、0.8%生理食塩水、0.3%グリシン、ヒアルロン酸など、種々の水性担体を使用し得る。これらの組成物は、従来の周知の滅菌技法によって滅菌されてもよく、又は滅菌ろ過されてもよい。結果として生じる水性溶液は、そのまま使用するため包装されてもよく、又は凍結乾燥されてもよく、ここで凍結乾燥調製物は、投与前に滅菌溶液と組み合わされる。
【0188】
組成物、例えば医薬組成物は、生理的条件を近似するため、例えば、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、ソルビタンモノラウレート、オレイン酸トリエタノールアミン等、pH調整剤及び緩衝剤、等張化剤、湿潤剤などの薬学的に許容可能な補助物質を含有し得る。一部の実施形態において、医薬組成物は保存剤を含む。一部の他の実施形態において、医薬組成物は保存剤を含まない。
【0189】
ウイルスベクター、例えば、本明細書に開示される組成物及び製剤中にあるウイルスベクターのゲノム力価は、幾つもの標準的な方法で決定することができる。ウイルスベクターに特異的なプライマーによるPCRは相対測定を提供できるが、より少量のサンプル及び絶対測定には定量的PCR(qPCR)が用いられ得る。ドロップレットデジタルPCR(ddPCR)は、水-油エマルション滴技術をベースとするデジタルPCRの実施方法である。サンプルが数万個の液滴に分割され、各個別の液滴で鋳型分子のPCR増幅が行われる。検量線を作成したり、又は高い増幅効率のプライマーを有したりする必要がないため、ddPCRは典型的には、従来のPCRベースの技法ほど多くのサンプルを使用しない。一実施形態において、ウイルスベクターのゲノム力価はPCRを用いて決定される。別の実施形態において、ウイルスベクターのゲノム力価はqPCRを用いて決定される。別の実施形態において、ウイルスベクターのゲノム力価はddPCを用いて決定される。ddPCRを用いたウイルスゲノム力価の決定方法については、例えば、Lock et al.,“Absolute Determination of Single-Stranded and Self-Complementary Adeno-Associated Viral Vector Genome Titers by Droplet Digital PCR,”Human Gene Therapy Methods,25(2):115-125に記載されている。
【0190】
一部の実施形態において、PCRベースの方法は、SMN遺伝子を標的とする特異的に設計されたプライマー及びプローブを使用してカプシド化AAV9ウイルスゲノムを検出及び定量化する。他の実施形態において、PCRベースの方法は、ニワトリβ-アクチンプロモーターを標的とする特異的に設計されたプライマー及びプローブを使用してカプシド化AAV9ウイルスゲノムを検出及び定量化する。他の実施形態において、PCRベースの方法は、CMVエンハンサーを標的とする特異的に設計されたプライマー及びプローブを使用してカプシド化AAV9ウイルスゲノムを検出及び定量化する。他の実施形態において、PCRベースの方法は、ITR配列を標的とする特異的に設計されたプライマー及びプローブを使用してカプシド化AAV9ウイルスゲノムを検出及び定量化する。他の実施形態において、PCRベースの方法は、ウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナルを標的とする特異的に設計されたプライマー及びプローブを使用してカプシド化AAV9ウイルスゲノムを検出及び定量化する。
【0191】
一部の実施形態において、本医薬組成物は約pH7.7~8.3であり、390~430mOsm/kgのオスモル濃度を有する。一部の実施形態において、pHは、pHメーターを使用して測定される。一部の実施形態において、pHは、米国薬局方(USP)、例えば<791>(全体として参照により援用される)による標準セットに基づき温度補償付きマイクロ電極を使用して電位差測定法で測定される。一部の実施形態において、オスモル濃度は、USP、例えばUSP<785>(全体として参照により援用される)に基づき凝固点降下法を用いて測定される。一部の実施形態において、オスモル濃度は、蒸気圧降下浸透圧計を使用して測定される。他の実施形態において、オスモル濃度は、膜浸透圧計を使用して測定される。
【0192】
一実施形態において、静脈内製剤は、7.5~8.5のpH、2×1013vg/ml~6×1013vg/mlのゲノム力価、及び384~448mOsm/kgのオスモル濃度を有する。別の実施形態において、静脈内製剤は、7.5~8.5のpH、1.5×1013vg/ml~3.5×1013vg/mlのゲノム力価、及び384~448mOsm/kgのオスモル濃度を有する。別の実施形態において、静脈内製剤は、7.5~8.5のpH、1.8×1013vg/ml~2.2×1013vg/mlのゲノム力価、及び384~448mOsm/kgのオスモル濃度を有する。ある実施形態において、IV製剤は約0.1~2.0mM MgCl2を含む。ある実施形態において、IV製剤は約100~300mM NaClを含む。ある実施形態において、IV製剤は約0.001%~0.01%w/vポロキサマー188を含む。ある実施形態において、IV製剤は、例えば7.5~8.5のpHの、10~30mMトリス緩衝液中の水性製剤である。
【0193】
ある実施形態において、IV製剤は、pH8.0の20mMトリス緩衝液中、1mM MgCl2、200mM NaCl、0.005%w/vポロキサマー188を含む。実施形態において、IV製剤は、約1×1013~3×1013vg/mL又は1.7×1013~2.3×1013vg/mLのゲノム力価を含む。
【0194】
医薬組成物の使用
他の実施形態において、本明細書には、ポリヌクレオチドを含むゲノムを有するrAAV9を投与することを含む、患者の中枢神経系へのポリヌクレオチドの送達方法が開示される。一部の実施形態において、送達は、ポリヌクレオチドを含むゲノムを有するrAAV9を投与することを含む、患者の中枢神経系へのポリヌクレオチドの髄腔内送達である。一部の実施形態において、非イオン性低浸透圧性造影剤もまた患者に投与される。非イオン性低浸透圧性造影剤は、患者の中枢神経系において標的細胞の形質導入を増加させる。一部の実施形態において、rAAV9ゲノムは自己相補的ゲノムである。他の実施形態において、rAAV9ゲノムは一本鎖ゲノムである。
【0195】
一部の実施形態において、ポリヌクレオチドは脳領域に送達される。送達に企図される脳の部位としては、限定はされないが、運動皮質及び脳幹が挙げられる。一部の実施形態において、ポリヌクレオチドは脊髄に送達される。一部の実施形態において、ポリヌクレオチドは下位運動ニューロンに送達される。本開示の実施形態は、rAAV9を利用してポリヌクレオチドを神経及びグリア細胞に送達する。一部の実施形態において、グリア細胞は、ミクログリア細胞、オリゴデンドロサイト又はアストロサイトである。一部の実施形態において、rAAV9を使用してポリヌクレオチドがシュワン細胞に送達される。
【0196】
使用には、例えば、SMA及びALSなどの下位運動ニューロン疾患並びにポンペ病、リソソーム蓄積障害、多形性膠芽腫及びパーキンソン病の治療が含まれる。リソソーム蓄積障害としては、限定はされないが、アクチベーター欠損症/GM2ガングリオシドーシス、α-マンノシドーシス、アスパルチルグルコサミン尿症、コレステリルエステル蓄積症、慢性ヘキソサミニダーゼA欠損症、シスチン蓄積症、ダノン病、ファブリー病、ファーバー病、フコシドーシス、ガラクトシアリドーシス、ゴーシェ病(I型、II型、III型)、GM1ガングリオシドーシス(乳児型、乳児後期型/若年型、成人型/慢性)、I細胞病/ムコリピドーシスII、乳児遊離シアル酸蓄積症/ISSD、若年型ヘキソサミニダーゼA欠損症、クラッベ病(乳児発症型、遅発型)、異染性白質ジストロフィー、ムコ多糖症障害(偽性ハーラー・ポリジストロフィー/ムコリピドーシスIIIA、MPS I型ハーラー症候群、MPS I型シャイエ症候群、MPS I型ハーラー・シャイエ症候群、MPS II型ハンター症候群、サンフィリポ症候群A型/MPS III A型、サンフィリポ症候群B型/MPS III B型、サンフィリポ症候群C型/MPS III C型、サンフィリポ症候群D型/MPS III D型、モルキオA型/MPS WA型、モルキオB型/MPS IVB型、MPS IX型ヒアルロニダーゼ欠損症、MPS VI型マロトー・ラミー、MPS VII型スライ症候群、ムコリピドーシスI/シアリドーシス、ムコリピドーシスIIIC、ムコリピドーシスIV型)、多種スルファターゼ欠損症、ニーマン・ピック病(A型、B型、C型)、神経セロイドリポフスチン症(CLN6疾患(非定型乳児後期型、遅発バリアント、早期若年型)、バッテン・シュピールマイアー・フォークト/若年型NCL/CLN3疾患、フィンランドバリアント乳児後期型CLN5、ヤンスキー・ビールショースキー病/乳児後期型CLN2/TPP1疾患、クーフス/成人発症型NCL/CLN4疾患、北部てんかん/乳児後期バリアントCLN8、サンタブオリ・ハルチア(Santavuori-Haltia)/乳児型CLN1/PPT疾患、β-マンノシドーシス、ポンペ病/II型糖原病、ピクノディスオストーシス、サンドホフ病/成人発症型/GM2ガングリオシドーシス、サンドホフ病/GM2ガングリオシドーシス-乳児型、サンドホフ病/GM2ガングリオシドーシス-若年型、シンドラー病、サラ病/シアル酸蓄積症、テイ・サックス/GM2ガングリオシドーシス、ウォルマン病が挙げられる。
【0197】
更なる実施形態において、本方法及び材料の使用は、レット症候群、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病などの神経系疾患の治療、又は脊髄及び脳外傷/傷害を含めた神経系傷害、脳卒中、及び脳癌の治療に適応される。一実施形態において、本方法及び材料の使用は、脊髄性筋萎縮症(SMA)の治療に適応される。
【0198】
SMAには4種類あり、これらは従来、発症年齢及び最も高い獲得運動機能によって分類されている。いずれの形態のSMAも、常染色体劣性遺伝であり、生存運動ニューロン1(SMN1)遺伝子の突然変異によって引き起こされる。ヒトはまた、SMN2と呼ばれるSMN遺伝子の第2のほぼ同一のコピーも保有する。Lefebvre et al.“Identification and characterization of a spinal muscular atrophy-determining gene.”Cell,80(1):155-65。Monani et al.“Spinal muscular atrophy:a deficiency in a ubiquitous protein;a motor-neuron specific disease.”Neuron,48(6):885-896。SMN1及びSMN2遺伝子は両方ともにSMNタンパク質を発現するが、SMN2はエクソン7に翻訳的にサイレントな突然変異を含み、これがSMN2転写物におけるエクソン7の取込みを非効率にする。従って、SMN2は、完全長SMNタンパク質及びエクソン7を欠くトランケート型のSMNの両方を、トランケート型を優勢型として産生する。結果として、SMN2によって産生される機能性完全長タンパク質の量は、SMN1によって産生される量と比べてはるかに(70~90%だけ)少ない。Lorson et al.“A single nucleotide in the SMN gene regulates splicing and is responsible for spinal muscular atrophy.”PNAS,96(11)6307-6311。Monani et al,“A single nucleotide difference that alters splicing patterns distinguishes the SMA gene SMN1 from the copy gene SMN2.”Hum Mol Genet 8(7):1177-1183。SMN2はSMN1遺伝子の損失を完全に補償することはできないが、軽症型のSMAの患者は概してSMN2コピー数がより高い。Lefebvre et al.,“Correlation between severity and SMN protein level in spinal muscular atrophy.”Nat Genet 16(3):265-269。Park et al.,“Spinal muscular atrophy:new and emerging insights from model mice.”Curr Neurol Neurosci Rep 10(2):108-117。注意すべきは、SMN2コピー数が唯一の表現型修飾因子ではないことである。詳細には、SMN2遺伝子のエクソン7におけるc.859G>C変異体が、正の疾患修飾因子と報告されている。この特定の突然変異を有する患者は、重症度の低い疾患表現型を有する。Prior et al.,“A positive modified of spinal muscular atrophy in the SMN2 gene.”Am J Hum Genet 85(3):408-413。
【0199】
I型SMA(乳児発症型又はウェルドニッヒ・ホフマン病とも称される)は、出生時に又は6ヵ月齢までにSMA症状が発現する場合である。この型では、乳児は典型的には、筋緊張が低く(筋緊張低下)、泣声が弱く、及び呼吸窮迫を有する。こうした乳児は多くの場合に嚥下及び吸啜困難を有し、支持なしでの座位保持が可能という発達マイルストーンに到達しない。こうした乳児は多くの場合に、筋緊張低下、運動技能遅滞、定頸不全、円背姿勢及び関節過度可動性から選択されるSMA症状のうちの1つ以上を示す。典型的には、こうした乳児は、各5番染色体上に1つずつ、2つのコピーのSMN2遺伝子を有する。全新規SMA症例の半数超が、SMA I型である。
【0200】
II型又は中間型SMAは、その発症が7~18ヵ月齢の間で、小児が独力で起立又は歩行できるようになる前であるSMAの場合である。2型SMAの小児は、概して少なくとも3個のSMN2遺伝子を有する。遅発型SMA(III型及びIV型SMA、軽症型SMA、成人発症型SMA及びクーゲルバーグ・ウェランダー病としても知られる)は、様々なレベルの脱力を生じる。III型SMAは、その発症が18ヵ月より後であり、小児は独力で起立又は歩行できるが、補助を必要とし得る。IV型SMAは、その発症が成人であり、人はその成人期以降に歩行が可能である。III型又はIV型SMAの人は、概して4~8個のSMN2遺伝子を有し、それらからかなりの量の完全長SMNタンパク質が産生され得る。
【0201】
一実施形態において、用語「治療」は、本明細書に開示されるとおりのrAAVを含む組成物の有効用量、又は有効な複数用量をそれを必要としている動物(ヒトを含む)に静脈内投与するか、又は髄腔内経路によって投与するステップを含む。障害/疾患の発症前にこの用量が投与される場合、投与は予防的である。障害/疾患の発症後にこの用量が投与される場合、投与は治療的である。実施形態において、有効用量は、治療下の障害/疾患状態に関連する少なくとも1つの症状を緩和する(消失させるか、又は低減するかのいずれかの)用量、障害/疾患状態への進行を減速させる又は防止する用量、障害/疾患状態の進行を減速させる又は防止する用量、疾患の程度を減じる用量、疾患の(部分的な又は全面的な)寛解をもたらす用量、及び/又は生存を延長させる用量である。治療に企図される疾患状態の例は、本明細書に示される。
【0202】
一実施形態において、本開示のrAAVを含む組成物は、それを必要としているSMA I型の患者に静脈内投与される。別の実施形態において、本開示のrAAVを含む組成物は、それを必要としているSMA II型、III型、又はIV型の患者に髄腔内投与される。
【0203】
本明細書には、AAV9ウイルスベクターを髄腔内又は静脈内経路によって投与することによる、それを必要としている患者におけるI型SMAの治療方法が開示される。一部の実施形態において、患者は0~9ヵ月齢である。一部の他の実施形態において、患者は0~6ヵ月齢である。患者I型SMAの治療にウイルスベクターが使用される一部の実施形態では、患者の体重が決定される。一部の実施形態において、患者は8.5kg未満の体重である。一部の実施形態において、患者は2.6kg超の体重である。一部の実施形態において、患者は2.6~8.5kgの体重である。
【0204】
一部の実施形態において、患者はSMN1遺伝子の1つのコピーに突然変異、例えばヌル突然変異を有する(コードされるSMN1を非機能性にする任意の突然変異を包含する)。一部の実施形態において、患者はSMN1遺伝子の2つのコピーに突然変異、例えばヌル突然変異を有する。一部の実施形態において、患者は、SMN1遺伝子の全てのコピーに突然変異、例えばヌル突然変異を有する。一部の実施形態において、患者はSMN1遺伝子の1つのコピーに欠失を有する。一部の実施形態において、患者はSMN1遺伝子の2つのコピーに欠失を有する。一部の実施形態において、患者は両アレル性SMN1突然変異を有し、即ち、染色体の両方のアレルにSMN1の欠失又は置換のいずれかを有する。一部の実施形態において、患者はSMN2遺伝子の機能性コピーを少なくとも1つ有する。一部の実施形態において、患者はSMN2遺伝子の機能性コピーを少なくとも2つ有する。一部の実施形態において、患者はSMN2遺伝子の機能性コピーを少なくとも2つ有する。一部の実施形態において、患者はSMN2遺伝子の機能性コピーを少なくとも3つ有する。一部の実施形態において、患者はSMN2遺伝子の機能性コピーを少なくとも4つ有する。一部の実施形態において、患者はSMN2遺伝子の機能性コピーを少なくとも5つ有する。一部の実施形態において、患者はSMN2遺伝子の少なくとも1つのコピーのエクソン7にc.859G>C置換を有しない。一部の実施形態において、SMN1又はSMN2遺伝子の遺伝子配列は、全ゲノムシーケンシングによって決定されてもよい。他の実施形態において、SMN1又はSMN2遺伝子の遺伝子配列及びコピー数は、ハイスループットシーケンシングによって決定されてもよい。一部の実施形態において、SMN1又はSMN2遺伝子の遺伝子配列及びコピー数は、マイクロアレイ解析によって決定されてもよい。一部の実施形態において、SMN1又はSMN2遺伝子の遺伝子配列及びコピー数は、サンガーシーケンシングによって決定されてもよい。一部の実施形態において、SMN1又はSMN2遺伝子のコピー数は、蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)によって決定されてもよい。
【0205】
一部の実施形態において、患者は1つ以上のSMA症状を示す。SMA症状には、筋緊張低下、運動技能遅滞、定頸不全、円背姿勢及び関節過度可動性が含まれ得る。一部の実施形態において、定頸不全は、肩(前面及び背面)を支えながら患者にあぐら座位をとらせることにより決定される。定頸は、患者が上体を起こした状態を保持する能力によって評価される。一部の実施形態において、患者が仰臥位にあるときの自発運動が観察され、患者が肘、膝、手及び足を表面から持ち上げる能力によって運動技能が評価される。一部の実施形態において、患者の握力は、患者の手掌に指を入れ、患者をその肩が表面から浮くまで引き上げることにより測定される。筋緊張低下及び握力は、患者がどれだけ早く/長く把握を維持するかによって測定される。一部の実施形態において、定頸は、患者の頭部を最大限可能なまで回旋させておき、患者が頭部を正中線に向かって戻す能力を測定することにより評価される。一部の実施形態において、肩の姿勢は、頭部及び体幹を支えながら患者を座らせ、腕の長さだけ離れたところにある肩の高さの刺激物を取ろうと患者が肘又は肩を屈曲させて手を伸ばすかどうかを観察することにより評価されてもよい。一部の実施形態において、肩の姿勢はまた、患者に側臥位をとらせ、腕の長さだけ離れたところにある肩の高さの刺激物を取ろうと患者が肘又は肩を屈曲させて手を伸ばすかどうかを観察することにより評価されてもよい。一部の実施形態において、運動技能は、患者の足を撫でたとき、くすぐったとき又はつねったときに患者がその股関節部又は膝を屈曲させるかどうかを観察することにより評価される。一部の実施形態において、公知の臨床尺度、例えばCHOP INTENDにより、肩屈曲、肘屈曲、股関節の内転、頸部屈曲、頭部伸展、頸部伸展、及び/又は脊柱の内屈が評価されてもよい。公知の臨床尺度、例えばCHOP INTENDに基づき他のSMA症状が判定されてもよい。
【0206】
一部の実施形態において、患者は、本明細書に記載される検査のうちの1つを用いて決定されるとおりの、I型SMAの症状(例えば、1つ以上の症状)を示した後に治療される。一部の実施形態において、患者は、I型SMAの症状を示す前に治療される。一部の実施形態において、患者は、症候性となる前に、遺伝子検査に基づきI型SMAと診断される。
【0207】
本明細書では、併用療法もまた企図される。併用は、本明細書で使用されるとき、同時に行われる治療又は逐次的に行われる治療のいずれも含む。方法の併用には、特定の標準的医学治療(例えば、ALSにおけるリルゾール)の追加が、新規療法との併用と同じく含まれ得る。例えば、他のSMA療法には、プレmRNAに改変・結合してそのスプライシングパターンを改変するアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)が含まれる。Singh.et al.,“A multi-exon-skipping detection assay reveals surprising diversity of splice isoforms of spinal muscular atrophy genes.”Plos One,7(11):e49595。一実施形態において、ヌシネルセン(米国特許第8,361,977号明細書及び同第8,980,853号明細書(参照により本明細書に援用される))が使用されてもよい。ヌシネルセンは、SMN2プレmRNAのイントロン6、エクソン7又はイントロン7を標的とする承認済みのASOであり、完全長SMNタンパク質が一層効率的に産生されるようにSMN2のスプライシングを調節する。一部の実施形態において、AAV9ウイルスベクターを含む治療方法は、筋エンハンサーと併用して投与される。一部の実施形態において、AAV9ウイルスベクターを含む治療方法は、神経保護剤と併用して投与される。一部の実施形態において、AAV9ウイルスベクターを含む治療方法は、SMNを標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドベースの薬物と併用して投与される。一部の実施形態において、AAV9ウイルスベクターを含む治療方法は、ヌシネルセンと併用して投与される。一部の実施形態において、AAV9ウイルスベクターを含む治療方法は、ミオスタチン阻害薬と併用して投与される。一部の実施形態において、AAV9ウイルスベクターを含む治療方法は、スタムルマブと併用して投与される。
【0208】
それを必要としている出生後の個体への送達が企図されるが、胎児への子宮内送達もまた企図される。
【0209】
ウイルスベクターを含む医薬組成物を使用したI型SMA患者の治療方法が企図される。一部の実施形態において、ウイルスベクターは約1~8×1013AAV9ウイルスベクターゲノム/mL(vg/mL)の濃度で製剤化される。一部の実施形態において、ウイルスベクターは約1.7~2.3×1013vg/mLの濃度で製剤化される。一部の実施形態において、ウイルスベクターは約1.9~2.1×1013vg/mLの濃度で製剤化される。一部の実施形態において、ウイルスベクターは約2.0×1013vg/mLの濃度で製剤化される。
【0210】
患者のI型SMAの治療にウイルスベクターが使用される一部の実施形態において、AAVウイルスベクター(例えばAAV SMN)は約1.0~2.5×1014vg/kgの用量で患者に投与される。患者のI型SMAの治療にウイルスベクターが使用される一部の実施形態において、AAVウイルスベクターは約1.1×1014vg/kgの用量で患者に投与される。患者のI型SMAの治療にウイルスベクターが使用される一部の実施形態において、AAVウイルスベクターは約45~70分かけて患者に注入される。患者のI型SMAの治療にウイルスベクターが使用される一部の実施形態において、AAVウイルスベクターは約60分かけて患者に注入される。患者のI型SMAの治療にウイルスベクターが使用される一部の実施形態において、AAVウイルスベクターは、輸液ポンプ、蠕動ポンプ又は当該技術分野において公知の任意の他の機器を使用して患者に注入される。患者のI型SMAの治療にウイルスベクターが使用される一部の実施形態において、AAVウイルスベクターはシリンジポンプを使用して患者に注入される。
【0211】
投与されるrAAVウイルスベクターの力価は、例えば、詳細なrAAV、投与方法、治療目標、個体、及び標的とされる1つ又は複数の細胞型に応じて変わることになり、当該技術分野において標準的な方法によって決定されてもよい。rAAVの力価は、1ml当たり約1×106、約1×107、約1×108、約1×109、約1×1010、約1×1011、約1×1012、約1×1013、約1×1014、又はそれ以上のDNアーゼ耐性粒子(DRP)の範囲であり得る。投薬量はまた、ベクターゲノム(vg)の単位で表されてもよい。ゲノム力価は、本願、Lock et al.に記載されるとおりのddPCR、又は当該技術分野において公知の任意の他の方法を用いて決定することができる。
【0212】
投薬量はまた、ヒトへの投与タイミングに基づき変わり得る。rAAVのこれらの投薬量は、成人では約1×1011vg/kg、約1×1012vg/kg、約1×1013vg/kg、約1×1014vg/kg、約1×1015vg/kg、約1×1016vg/kg、又はそれ以上の体重1キログラム当たりのベクターゲノムの範囲であり得る。新生児については、rAAVの投薬量は、約1×1011vg/kg、約1×1012vg/kg、約3×1012vg/kg、約1×1013vg/kg、約3×1013vg/kg、約1×1014vg/kg、約3×1014vg/kg、約1×1015vg/kg、約3×1015vg/kg、約1×1016vg/kg、約3×1016vg/kg、又はそれ以上の体重1キログラム当たりのベクターゲノムの範囲であり得る。
【0213】
投薬量はまた、ヒトへの投与タイミングに基づき変わり得る。rAAVのこれらの投薬量は、成人で約1×1011vg/kg/週、約1×1012vg/kg/週、約1×1013vg/kg/週、約1×1014vg/kg/週、約1×1015vg/kg/週、約1×1016vg/kg/週、又はそれ以上の体重1キログラム当たりのベクターゲノムの範囲であり得る。新生児については、rAAVの投薬量は、約1×1011vg/kg/週、約1×1012vg/kg/週、約3×1012vg/kg/週、約1×1013vg/kg/週、約3×1013vg/kg/週、約1×1014vg/kg/週、約3×1014vg/kg/週、約1×1015vg/kg/週、約3×1015vg/kg/週、約1×1016vg/kg/週、約3×1016vg/kg/週、又はそれ以上の1週間体重1キログラム当たりのベクターゲノムの範囲であり得る。成人で1×1011vg/1.5kg/週、約1×1012vg/1.5kg/週、約1×1013vg/1.5kg/週、約1×1014vg/1.5kg/週、約1×1015vg/1.5kg/週、約1×1016vg/1.5kg/週、又はそれ以上の体重1キログラム当たりのベクターゲノムのrAAVの投薬量。新生児については、rAAVの投薬量は、約1×1011vg/1.5kg/週、約1×1012vg/1.5kg/週、約3×1012vg/kg/週、約1×1013vg/1.5kg/週、約3×1013vg/1.5kg/週、約1×1014vg/1.5kg/週、約3×1014vg/1.5kg/週、約1×1015vg/1.5kg/週、約3×1015vg/1.5kg/週、約1×1016vg/1.5kg/週、約3×1016vg/1.5kg/週、又はそれ以上の1週間体重1.5キログラム当たりのベクターゲノムの範囲であり得る。
【0214】
ある実施形態において、用量は、患者体重1kg当たり約1.1×1014ベクターゲノム(vg/kg)である。ある実施形態において、5kgの患者であれば、0.5×1014~5.0×1014ベクターゲノムの総用量を受けることになる。ある実施形態において、ウイルスベクターはトリス緩衝生理食塩水中に入れて投与される。ある実施形態において、ウイルスベクターは、約5~20mL/kg、約10~20mL/kg、又は約5.5~6.5mL/kgのトリス緩衝生理食塩水中に入れて投与される。
【0215】
用量は、幾つもの標準的な方法で決定することができる。ウイルスベクターに特異的なプライマーによるPCRは相対測定を提供できるが、より少量のサンプル及び絶対測定にはqPCRが用いられ得る。ddPCRは、水-油エマルション滴技術をベースとするデジタルPCRの実施方法である。Baker et al.,“Digital PCR hits its stride.”Nature Methods,9(6):541-544。Sykes et al.,“Quantitation of targets for PCR by use of limiting dilution.”Biotechniques,13(3)444-449。サンプルが数万個の液滴に分割され、各個別の液滴で鋳型分子のPCR増幅が行われる。検量線を作成したり、又は高い増幅効率のプライマーを有したりする必要がないため、ddPCRは典型的には、従来のPCRベースの技法ほど多くのサンプルを使用しない。市販のddPCR機の例としては、限定はされないが、BioRad QX100 ddPCR及びRainDance Raindrop Digital PCRが挙げられる。一実施形態において、用量はPCRを用いて決定される。別の実施形態において、用量はqPCRを用いて決定される。別の実施形態において、用量はデジタルドロップレットPCR(ddPCR)を用いて決定される。一部の実施形態において、PCRベースの方法は、SMN遺伝子を標的とする特異的に設計されたプライマー及びプローブを使用してカプシド化AAV9ウイルスゲノムを検出及び定量化する。他の実施形態において、PCRベースの方法は、ニワトリβ-アクチンプロモーターを標的とする特異的に設計されたプライマー及びプローブを使用してカプシド化AAV9ウイルスゲノムを検出及び定量化する。他の実施形態において、PCRベースの方法は、CMVエンハンサーを標的とする特異的に設計されたプライマー及びプローブを使用してカプシド化AAV9ウイルスゲノムを検出及び定量化する。他の実施形態において、PCRベースの方法は、ITR配列を標的とする特異的に設計されたプライマー及びプローブを使用してカプシド化AAV9ウイルスゲノムを検出及び定量化する。他の実施形態において、PCRベースの方法は、ウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナルを標的とする特異的に設計されたプライマー及びプローブを使用してカプシド化AAV9ウイルスゲノムを検出及び定量化する。
【0216】
一態様において、2.0×1013vg/mlを薬物製品の目標濃度として用いて、以下の表に従い用量が投与される。
【0217】
【0218】
一部の実施形態において、AAVウイルスベクターを含む医薬組成物は約20~70分、例えば約45~70分かけて患者に注入される。一部の実施形態において、AAVウイルスベクターを含む医薬組成物は約60分かけて患者に注入される。一部の実施形態において、AAVウイルスベクターを含む医薬組成物は、輸液ポンプ、蠕動ポンプ又は当該技術分野において公知の任意の他の機器を使用して患者に注入される。一部の実施形態において、AAVウイルスベクターを含む医薬組成物はシリンジポンプを使用して患者に注入される。
【0219】
治療に適している患者のプレスクリーニング、並びに本明細書に(herien)開示される判定基準により同定された患者への治療の投与もまた企図される。AAVは、細胞性及び体液性の両方の免疫応答を生じさせ得る。結果として、AAVベースの遺伝子療法に対する潜在的患者の一部は、AAVに対する既存の抗体を持っている。Jeune et al.,“Pre-existing anti-Adeno-Associated Virus antibodies as a challenge in AAV gene therapy.”Hum Gene Ther Methods,24(2):59-67。Boutin et al.,“Prevalence of serum IgG and neutralizing factors against adeno-associated virus(AAV)types 1,2,5,6,8,and 9 in the healthy population:implications for gene therapy using AAV vectors.”Hum Gene Ther,21:704-712。極めて低いレベルの抗体であっても形質導入の成功を妨げ得るため、先行する抗AAV抗体は、AAV遺伝子療法の普遍的適用への深刻な障害となる。一部の実施形態において、AAVウイルスベクターの投与前に患者の抗AAV9抗体力価のレベルが決定される。一部の実施形態において、患者の抗AAV9抗体力価のレベルは、ELISA結合イムノアッセイによって決定される。一部の実施形態において、患者は、治療の投与前にELISA結合イムノアッセイによって決定したとき1:100以下の抗AAV9抗体力価を有する。一部の実施形態において、患者は、治療の投与前にELISA結合イムノアッセイによって決定したとき1:50以下の抗AAV9抗体力価を有する。一部の実施形態において、患者は、治療後にELISA結合イムノアッセイによって決定したとき1:100を上回る抗AAV9抗体力価を有し、1~8週間にわたって、又は力価が1:100未満に低下するまでモニタされる。一部の実施形態において、患者は、治療後にELISA結合イムノアッセイによって決定したとき1:100を上回る抗AAV9抗体力価を有し、1~8週間にわたって、又は力価が1:50未満に低下するまでモニタされる。
【0220】
高い抗AAV抗体力価を解消する一つの手法は、免疫抑制薬の使用である。シクロスポリンAとの併用でのモノクローナル抗CD20抗体リツキシマブは、抗AAV力価を下げるのに有効であることが示されている。Mingozzi et al.,“Pharmacological modulation of humoral immunity in a nonhuman primate model of AAV gene transfer for hemophilia B.”Mol Ther,20:1410-1416。別の手法は、ベクター投与前に中和抗体を枯渇させるためのプラスマフェレーシスの使用である。Monteilhet et al.,“A 10 patient case report on the impact of plasmapheresis upon neutralizing factors against adeno-associated virus(AAV)types 1,2,6,and 8.”Mol Ther,19(11):2084-2091。プラスマフェレーシスでは、患者から血液が抜き取られ、血漿及び血液細胞が遠心又は中空糸ろ過のいずれかによって分離される。次に血液細胞が処理済みの血漿又は生理食塩水中4.5%ヒトアルブミンなどの補液のいずれかと共に患者に戻される。治療的アフェレーシスの一般的な用途は、望ましくない免疫グロブリンの除去であるが、この場合、プラスマフェレーシスは、抗AAV抗体を枯渇させるための魅力的な手法に相当する。一部の実施形態において、患者は、治療前又は治療後にELISA結合イムノアッセイによって決定したとき1:100を上回る抗AAV9抗体力価を有し、プラスマフェレーシスで処置される。一部の実施形態において、患者は、治療前又は治療後にELISA結合イムノアッセイによって決定したとき1:50を上回る抗AAV9抗体力価を有し、プラスマフェレーシスで処置される。
【0221】
AAV9に対する既存の母体抗体は、母乳又は子宮内での経胎盤移行によって乳児患者に移行し得る。一部の実施形態において、患者は、治療前又は治療後にELISA結合イムノアッセイによって決定したとき1:100を上回る抗AAV9抗体力価を有し、人工栄養に切り換えられる。一部の実施形態において、患者は、治療前又は治療後にELISA結合イムノアッセイによって決定したとき1:50を上回る抗AAV9抗体力価を有し、人工栄養に切り換えられる。
【0222】
治療の投与前及び投与後には、患者の状態がモニタされ得る。AAVベースの治療を受けた患者の一部は血小板減少症を起こしており、これは、低血小板数によって特徴付けられる状態である。血小板減少症は、血球計算器で希釈血液サンプルを使用して全血球数によって検出することができる。血小板減少症はまた、患者の血液(薄層塗抹標本又は末梢血スメア)で調製したスライドを顕微鏡下で観察することによっても検出することができる。正常ヒト血小板数は150,000細胞/ml~約450,000細胞/mlの範囲である。
【0223】
一部の実施形態において、患者は投与前に約67,000細胞/ml超の血小板数を有し、又は約100,000細胞/ml超、又は約150,000細胞/ml超を有する。一部の実施形態において、患者は投与前に約150,000細胞/ml未満の血小板数を有し、又は約100,000細胞/ml未満、又は約67,000細胞/ml未満を有し、1~8週間にわたって、又は血小板数が約67,000細胞/ml超、又は約100,000細胞/ml超、又は約150,000細胞/ml超に増加するまでモニタされる。ウイルスベクターの投与後の血小板数が約67,000細胞/ml未満である一部の実施形態において、患者は血小板輸血で治療されてもよい。一部の実施形態において、患者はウイルスベクターの投与前に血小板減少症を有しない。一部の実施形態において、患者はウイルスベクターの投与後に血小板減少症を有し、約1~8週間にわたって、又は患者が血小板減少症を有しなくなるまでモニタされる。一部の実施形態において、患者はウイルスベクターの投与後に血小板減少症を有し、血小板輸血で治療される。
【0224】
患者の状態のモニタリングはまた、血小板、血清タンパク質電気泳動、血清γグルタミルトランスフェラーゼ(GGT)、アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)及びアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、総ビリルビン、グルコース、クレアチンキナーゼ(CK)、クレアチニン、血中尿素窒素(BUN)、電解質、アルカリホスファターゼ及びアミラーゼのレベルを測定する標準的な血液検査も伴い得る。トロポニンIレベルは心臓の健康の一般的な尺度であり、レベルの上昇は心臓の損傷又は心臓関連病態を反映する。一部の実施形態において、トロポニン-Iレベルはウイルスベクターの投与後にモニタされる。一部の実施形態において、患者はウイルスベクターの投与前に約0.3、0.2、0.15、又は0.1μg/ml未満のトロポニン-Iレベルを有し得る。一部の実施形態において、患者はウイルスベクターの投与前に約0.176μg/ml未満のトロポニン-レベルを有し得る。一部の実施形態において、患者はウイルスベクターの投与後に約0.176μg/ml超のトロポニン-レベルを有し得る。一部の実施形態において、患者はウイルスベクターの投与後にトロポニン-Iレベルが約0.176μg/ml未満になるまで心モニタリングを受ける。
【0225】
アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)及びアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)及び総ビリルビンは肝機能の一般的な尺度であり、一方、クレアチニンは腎機能を追う。AST、ALT又は総ビリルビンのレベルの上昇は、肝機能不全を指示し得る。一部の実施形態において、患者はウイルスベクターの投与前に正常な肝機能を有する。一部の実施形態において、患者はウイルスベクターの投与前に約8~40U/L未満の肝トランスアミナーゼレベルを有する。一部の実施形態において、患者はウイルスベクターの投与前に約8~40U/L未満のAST又はALTレベルを有する。一部の実施形態において、患者はウイルスベクターの投与前に3.0mg/dL未満のビリルビンレベルを有する。一部の実施形態において、患者はウイルスベクターの投与前に1.8mg/dL未満のクレアチニンレベルを有する。一部の実施形態において、患者はウイルスベクターの投与前に8~18g/dLのヘモグロビン(Hgb)レベルを有する。一部の実施形態において、患者はウイルスベクターの投与前に20000/mm3未満の白血球(WBC)数を有する。
【0226】
治療方法の有効性は、治療前及び治療後に種々の運動技能検査を用いて決定されてもよい。詳細には、I型SMA患者の運動技能を判定するため、フィラデルフィア小児病院乳児神経筋疾患検査(Children’s Hospital of Philadelphia Infant Test of Neuromuscular Disorders:CHOP INTEND)が開発された。Glanzman et al.,“The Children’s Hospital of Philadelphia Infant Test of Neuromuscular Disorders(CHOP INTEND):Test development and reliability.”Neuromuscular Disorders,20(3):155-161。CHOP INTEND検査は、平均年齢11.5ヵ月(1.4~37.9ヵ月)の26人のI型SMA乳児についての乳児運動能力検査(Test of Infant Motor Performance:TIMP)及び新たに考案されたSMAの運動評価であるフィラデルフィア小児病院SMA強度検査(Children’s Hospital of Philadelphia Test of Strength in SMA:CHOP TOSS)による判定を受けて開発された。治療有効性の検査はCHOP INTEND検査に限定されず、限定はされないが、TIMP、CHOP TOSS、ピーボディ発達運動尺度(Peabody Development Motor Scales)、ブラゼルトン新生児行動評価(Brazelton Neonatal Behavior Assessment)検査、運動マイルストーン発達調査(Motor Milestone Development Survey)、インタラクティブビデオ判定によって捉えた能力(Ability Captured Through Interactive Video Evaluation:ACTIVE)、ベイリー乳幼児発達尺度(Bayley Scale of Infant Development)及び複合運動活動電位(CMAP)測定を含め、当該技術分野において公知の他の運動技能検査もまた含まれ得る。
【0227】
一部の実施形態では、CHOP INTEND尺度を用いて治療前ベースライン検査が実施される。一実施形態において、治療の有効性は、フォローアップビジットの間にCHOP INTEND尺度を用いて決定される。一部の実施形態において、CHOP INTENDは、定頸、立ち直り反射、支持ありでの座位、仰臥位及び腹臥位における体幹運動の尺度を含む。一部の実施形態において、CHOP INTENDは、補助しながらの寝返り動作時、腹位懸垂及び支持ありでの立位における抗重力運動の尺度を含む。
【0228】
AAVベクターが関わる多くの遺伝子療法研究では、AAVベクターに対する抗原特異的T細胞応答が観察されており、これは遺伝子導入後2~4週間と予想し得る。かかる抗原特異的T細胞応答の一つの可能性のある帰結は、形質導入細胞のクリアランス及びトランス遺伝子の発現欠損である。AAVベースの療法に対する宿主免疫応答を弱めるため、患者に免疫抑制薬が与えられてもよい。一部の実施形態において、患者にはウイルスベクターの投与前にグルココルチコイドが与えられてもよい。一部の実施形態において、患者にはウイルスベクターの投与前にコルチコステロイドが与えられてもよい。一部の実施形態において、患者にはウイルスベクターの投与前に経口ステロイド薬が与えられてもよい。経口ステロイド薬の例としては、限定はされないが、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、ベタメタゾン(bethamethasone)、デキサメタゾン及びヒドロコルチゾンが挙げられる。一部の実施形態において、経口ステロイド薬はプレドニゾロンである、又はそれを含む。一部の実施形態において、患者はウイルスベクター投与の少なくとも24時間前に予防的ステロイド薬を開始する。一部の実施形態において、患者には経口ステロイド薬がウイルスベクター投与後少なくとも30日間にわたって与えられる。一部の実施形態において、経口ステロイド薬は1日1回投与される。一部の実施形態において、経口ステロイド薬は1日2回投与される。一部の実施形態において、経口ステロイド薬は約0.1~10mg/kg、例えば約1mg/kgの用量で与えられる。一部の実施形態において、経口ステロイド薬は約0.1~10mg/kg/日、例えば約1mg/kg/日の用量で与えられる。一部の実施形態において、ウイルスベクターの投与後にAST及びALTのレベルがモニタされる。かかる実施形態において、経口ステロイド薬治療は、AST及びALTレベルが例えば臨床標準及び当該技術分野において公知の方法により決定したときの正常上限の2倍、又は約120IU/Lを超えたときに投与される。一部の実施形態において、経口ステロイド薬治療は、AST及びALTレベルが例えば臨床標準及び当該技術分野において公知の方法により決定したときの正常上限の2倍、又は約120IU/Lを超えている限り、30日超にわたって投与される。コルチコステロイドによる持続的治療の間、副腎のコルチゾール産生が自然に低下する。コルチコステロイド治療を急に中止すると、体がコルチゾール欠乏を来し得る。経口ステロイド薬が患者に少なくとも30日間与えられる一部の実施形態において、ステロイド用量はスケジュールに沿って徐々に漸減される。一部の実施形態において、経口ステロイド薬用量は、AST及びALTレベルが例えば臨床標準及び当該技術分野において公知の方法により決定したときの正常上限の2倍、又は約120IU/Lを下回ったとき、漸減される。一部の実施形態において、漸減は、2週間にわたって0.5mg/kg/日、それに続き更に2週間にわたって0.25mg/kg/日に段階的に減らすことを含む。一部の他の実施形態において、経口ステロイド薬の漸減は医師の裁量により行われる。
【0229】
キット
本明細書における開示はまた、それを必要としている患者におけるSMAの治療用キットも提供し、ここで本キットは、本明細書に開示されるSMNポリヌクレオチドを含むウイルスベクターの有効な量又は用量を含む医薬組成物の1用量以上を含み、SMAの型(本明細書に更に開示されるとおり)に応じて、本キットは、造影剤(-例えば、omnipaque 180)、並びに医薬調製物又は組成物及び造影剤の使用方法に関する説明書を更に含む。
【0230】
一部の実施形態において、本キットは、ウイルスベクター医薬組成物のバイアルを含む。一部の実施形態において、ウイルスベクター医薬組成物は約1.7~2.3×1013vg/mLの濃度である。一部の実施形態において、ウイルスベクター医薬組成物は約1.9~2.1×1013vg/mLの濃度である。一部の実施形態において、ウイルスベクター医薬組成物は約2.0×1013vg/mLの濃度である。一部の実施形態において、バイアルは約5.9mLのウイルスベクター医薬組成物を含む。一部の実施形態において、バイアルは約8.7mLのウイルスベクター医薬組成物を含む。一部の実施形態において、本キットは、5.9mLバイアルを含まないか、少なくとも1本の5.9mLバイアル、少なくとも2本の5.9mLバイアル又は少なくとも3本の5.9mLバイアルを含む。一部の実施形態において、本キットは、8.7mLバイアルを含まないか、少なくとも1本の8.7mLバイアル、少なくとも2本の8.7mLバイアル、少なくとも3本の8.7mLバイアル、少なくとも4本の8.7mLバイアル、少なくとも5本の8.7mLバイアル、少なくとも6本の8.7mLバイアルを含む。
【0231】
本キットが患者のI型SMAの治療に使用される一部の実施形態では、患者の体重が決定される。本キットが患者のI型SMAの治療に使用される一部の実施形態において、患者の体重は少なくとも約2.6kgである。本キットが患者のI型SMAの治療に使用される一部の実施形態において、患者の体重は約8.5kg以下である。本キットが患者のI型SMAの治療に使用される一部の実施形態において、患者の体重は約2.6~8.5kgである。本キットが患者のI型SMAの治療に使用される一部の実施形態では、キット内のバイアルからのAAVウイルスベクターが患者に投与される。本キットが患者のI型SMAの治療に使用される一部の実施形態において、キット内のバイアルからのAAVウイルスベクターは約1.0~2.5×1014vg/kgの用量で患者に投与される。本キットが患者のI型SMAの治療に使用される一部の実施形態において、キット内のバイアルからのAAVウイルスベクターは約1.1×1014vg/kgの用量で患者に投与される。本キットが患者のI型SMAの治療に使用される一部の実施形態において、キット内のバイアルからのAAVウイルスベクターは約45~70分かけて患者に注入される。本キットが患者のI型SMAの治療に使用される一部の実施形態において、キット内のバイアルからのAAVウイルスベクターは約60分かけて患者に注入される。本キットが患者のI型SMAの治療に使用される一部の実施形態において、キット内のバイアルからのAAVウイルスベクターは、輸液ポンプ、蠕動ポンプ又は当該技術分野において公知の任意の他の機器を使用して患者に注入される。本キットが患者のI型SMAの治療に使用される一部の実施形態において、キット内のバイアルからのAAVウイルスベクターはシリンジポンプを使用して患者に注入される。
【0232】
一実施形態において、ベクターは静脈内又は髄腔内投与される。一実施形態において、ベクターは静脈内投与される。一実施形態において、ベクターはomnipaque 180と共に静脈内投与される。別の実施形態において、ベクターはomnipaque 180と共に髄腔内投与される。
【0233】
別の態様において、本明細書では、rAAVで患者の標的細胞(限定はされないが、神経又はグリア細胞を含む)に形質導入する方法が企図される。
【0234】
本明細書に開示されるrAAVで患者の細胞に形質導入すると、rAAVによってコードされるポリペプチド又はRNAの持続発現が起こり得る。従って本開示は、rAAV(例えば、SMNタンパク質をコードする)を動物又はヒト患者に投与/送達する方法を提供する。このような方法は、1つ以上のrAAVで神経及び/又はグリア細胞に形質導入することを含む。形質導入は、組織特異的調節エレメントを含む遺伝子カセットで行われてもよい。例えば、ニューロン内での特異的発現又はアストロサイトでの特異的発現を可能にするプロモーター。例としては、ニューロン特異的エノラーゼ及びグリア線維性酸性タンパク質プロモーターが挙げられる。摂取された薬物の制御下にある誘導性プロモーターもまた開発されてもよい。
【0235】
一部の態様において、本開示のベクターを本明細書に記載されるとおりの造影剤と組み合わせて使用したとき、造影剤と組み合わせて使用しないときの本開示のベクターの形質導入と比べて細胞の形質導入は増加することが企図される。様々な実施形態において、本開示のベクターを本明細書に記載されるとおりの造影剤と組み合わせて使用したとき、造影剤と組み合わせて使用しないときの本開示のベクターの形質導入と比べて細胞の形質導入は少なくとも約1%、又は少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約120%、少なくとも約150%、少なくとも約180%、少なくとも約200%、少なくとも約250%、少なくとも約300%、少なくとも約350%、少なくとも約400%、少なくとも約450%、少なくとも約500%又はそれ以上増加する。更なる実施形態において、細胞の形質導入は、本開示のベクターを本明細書に記載されるとおりの造影剤と組み合わせて使用したとき、造影剤と組み合わせて使用しないときの本開示のベクターの形質導入と比べて約10%~約50%、又は約10%~約100%、又は約5%~約10%、又は約5%~約50%、又は約1%~約500%、又は約10%~約200%、又は約10%~約300%、又は約10%~約400%、又は約100%~約500%、又は約150%~約300%、又は約200%~約500%増加する。
【0236】
本開示はまた、本開示のベクター及び造影剤をそれを必要としている患者の中枢神経系に髄腔内投与すると、本開示のベクターを造影剤なしに投与したときの患者の生存と比べて患者の生存が増加する態様も提供する。様々な実施形態において、本開示のベクター及び造影剤は、それを必要としている患者の中枢神経系に個別に髄腔内投与される。他の実施形態において、ベクター及び造影剤は共製剤化され、中枢神経系又はそれを必要としている患者に髄腔内投与される。他の実施形態において、ベクター及び造影剤は、中枢神経系又はそれを必要としている患者への髄腔内投与用に同じパッケージで提供される。様々な実施形態において、本開示のベクター及び造影剤をそれを必要としている患者の中枢神経系に投与すると、本開示のベクターを造影剤なしに投与したときの患者の生存と比べて、患者の生存が少なくとも約1%、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%又はそれ以上増加する。
【0237】
一部の態様において、本開示のベクターを造影剤と組み合わせて使用したとき、及び患者にトレンデレンブルグ体位(Trendelenberg position)(頭低位)をとらせたとき、細胞の形質導入が更に増加することが企図される。一部の実施形態において、例えば、患者は、髄腔内ベクター注入中又は注入後に、頭低位となるよう約1度~約30度、約15~約30度、約30~約60度、約60~約90度、又は約90~最大約180度)傾けられる。様々な実施形態において、細胞の形質導入は、本明細書に記載されるとおり本開示のベクターを造影剤及びトレンデレンブルグ体位(Trendelenberg position)と組み合わせて使用したとき、造影剤及びトレンデレンブルグ体位(Trendelenberg position)と組み合わせて使用しないときの本開示のベクターの形質導入と比べて少なくとも約1%、又は少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約120%、少なくとも約150%、少なくとも約180%、少なくとも約200%、少なくとも約250%、少なくとも約300%、少なくとも約350%、少なくとも約400%、少なくとも約450%、少なくとも約500%又はそれ以上増加する。更なる実施形態において、細胞の形質導入は、本明細書に記載されるとおり本開示のベクターを造影剤及びトレンデレンブルグ体位(Trendelenberg position)と組み合わせて使用したとき、造影剤及びトレンデレンブルグ体位(Trendelenberg position)と組み合わせて使用しないときの本開示のベクターの形質導入と比べて約10%~約50%、又は約10%~約100%、又は約5%~約10%、又は約5%~約50%、又は約1%~約500%、又は約10%~約200%、又は約10%~約300%、又は約10%~約400%、又は約100%~約500%、又は約150%~約300%、又は約200%~約500%増加する。
【0238】
本開示はまた、本開示のベクター及び造影剤をトレンデレンブルグ体位(Trendelenberg position)をとったそれを必要としている患者の中枢神経系に髄腔内投与すると、患者の生存が、本開示のベクターを造影剤及びトレンデレンブルグ体位(Trendelenberg position)なしに投与したときの患者の生存と比べて更に増加する態様も提供する。様々な実施形態において、本開示のベクター及び造影剤をトレンデレンブルグ体位(Trendelberg position)をとったそれを必要としている患者の中枢神経系に投与すると、患者の生存が、本開示のベクターを造影剤及びトレンデレンブルグ体位(Trendelenberg position)なしに投与したときの患者の生存と比べて少なくとも約1%、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%又はそれ以上増加する。
【0239】
本開示及び添付の特許請求の範囲で使用されるとおり、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈上特に明確に指示されない限り複数形の指示対象を含む。任意選択の、又は任意選択で、とは、続いて記載される事象又は状況が起こっても又は起こらなくてもよく、及びその記載に事象又は状況が起こる場合と、それが起こらない場合とが包含されることを意味する。例えば、任意選択で組成物が組み合わせを含み得るという語句は、その組成物が異なる分子の組み合わせを含んでもよく、又は組み合わせを含まなくてもよいことを意味し、その記載に組み合わせ及び組み合わせ無し(即ち、組み合わせ中の個々のメンバー)の両方が包含されることになる。範囲は、本明細書では、約一つの特定の値から、及び/又は約別の特定の値までとして表され得る。かかる範囲が表されるとき、別の態様は、一つの特定の値から、及び/又は他の特定の値までを含む。同様に、先行する約の使用により値が近似値として表されるとき、その特定の値が別の態様を形成することは理解されるであろう。更に、範囲の各々の端点は、他方の端点に対して有意であるとともに、他方の端点と独立にも有意であることが理解されるであろう。
【0240】
本開示は、限定するものと解釈されてはならない以下の例によって更に例示される。本願全体を通じて引用される全ての参考文献、特許、及び公開特許出願の内容、並びに図は、あらゆる目的から全体として参照により本明細書に援用される。
【実施例】
【0241】
以下の例は例示であり、上記に記載される本開示の範囲を限定するものではないと考えられるべきである。
【0242】
実施例1-プレGMPマスターセルバンクの作成
方法
解凍:単一細胞バイアル(1×106細胞)を37℃の水浴中で約1分間解凍し、5mLの予め温めた完全成長培地に内容物を希釈した。細胞をT-25cm2フラスコに移し、37℃のインキュベーターで4日間、培養培地を予め温めた完全成長培地と毎日交換しながら成長させた。
【0243】
接着性増加に関する選択:以下の技法を用いて細胞を培養して、強く接着する細胞を選択した。25cm
2フラスコ内で細胞が95%コンフルエンシーに達した後、細胞を継代培養した。細胞を5mLのPBSで洗浄し、次に0.5~1mLのHyQTaseによって室温で約2分間解離した。5mL完全成長培地を加えることにより解離を停止させ、繰り返しピペッティングして細胞集塊を解離させた。次に細胞懸濁液を200×gで4分間遠心した。上清を廃棄し、細胞ペレットを10mLの完全成長培地に再懸濁した。細胞を75cm
2フラスコに移した。37℃のインキュベーターで4時間インキュベートした後、細胞培養培地を吸引することにより接着の弱い細胞を洗い流して接着の弱い細胞及び非接着細胞を取り除いた。培養培地を10mLの予め温めた完全成長培地と交換した。この工程により、目視検査によれば細胞数の最大35%だけ細胞量が減少した。細胞を更に2日間インキュベートした後、再び継代培養した。播種4時間後の培地交換からなるこの選択工程を3回実施した後、選択された細胞集団を拡大した(
図2及び
図3)。最終選択ステップでは、細胞は25mLの最終容積として2×175cm
2フラスコに播種した。播種4時間後の最後の培地交換後に細胞損失の減少があったことが認められた。
【0244】
細胞拡大:続いて細胞が2×175cm2フラスコ内でコンフルエントになった後、細胞を拡大した。細胞を15mL PBSで洗浄し、次に3mL HyQTaseで解離し、室温で約2分間インキュベートした。10mLの完全成長培地を加えることにより解離を停止させた。次に細胞懸濁液を遠心し、上清の吸引後に2つの細胞ペレットを生じさせた。各ペレットを8mLの完全成長培地に再懸濁し、この濃縮細胞懸濁液の2mLを8×175cm2フラスコに加えた。これらのフラスコは、20mLの完全成長培地を合計22mLの細胞懸濁液及び1:4の分割比となるように加えることによって調製した。次の拡大ステップも同じ手順を用いたが、以下の点は変更した:4×175cm2フラスコは1:2の分割比で拡大し、及び4×175cm2フラスコは1:3の分割比で拡大した。これにより合計20×175cm2フラスコとなった。
【0245】
回収:20×175cm2フラスコから細胞を回収した。細胞を15mLのPBSで洗浄し、次に先述のとおり3mL HyQTaseで解離した。10mLの完全成長培地を加えることにより細胞解離を停止させ、4×175cm2フラスコからの細胞懸濁液を1×50mLチューブに加えて50mLチューブに収集した。これにより、各40mLの細胞懸濁液の5×50mLチューブとなった。チューブを遠心して細胞ペレットを作り、上清を吸引し、細胞を10mLの完全成長培地で再懸濁すると、50mLの細胞懸濁液となった。
【0246】
この容積を、各チューブにつき合計25mLの細胞懸濁液として2×50mLチューブに分割した。1:2希釈したこのサンプルを使用することにより、血球計算器及びトルイジン(Toludine)(トリパン)ブルーを使用してチューブ細胞当たりの生細胞数を計算した。チューブ1サンプルは生細胞数が1.99×106細胞/mLで、3.98×106細胞/mLの細胞濃度が得られ、及びチューブ2サンプルは生細胞数が2.4×106細胞/mL(合計1×108細胞)で、4.8×106細胞/mLの細胞濃度が得られた(合計1.2×108細胞)。従って、合計2.2×108細胞が回収された。両方のチューブを再び遠心し(6分、200×g)、ペレットをそれぞれ10mL(チューブ1)及び12mL(チューブ2)の凍結用培地中に再懸濁して細胞濃度を1×107細胞/mLに調整した。これらの2つの細胞懸濁液をプールし、22本の滅菌クライオバイアルに1mLアリコート(各々1×107細胞が入っている)を充填した(表3)。
【0247】
【0248】
次に、充填したバイアルを新鮮なイソプロパノールと共に凍結チャンバに一晩移し、-80℃のフリーザー内で制御された速度で凍結させた。次に凍結バイアルを液体窒素槽内の気相式液体窒素に移した。GMP施設にバンク化されることになる10本のバイアルをドライアイス上に移した。
【0249】
ATCCからのHEK293細胞を解凍し、3継代で接着性増加に適合させることに成功した後、拡大し、シードバンクのバンク化に成功した。このシードバンクを成長及び外来病原体(マイコプラズマ、真菌及び細菌)の存在に関して試験した。試験により、このシードバンクがGMP施設におけるマスターセルバンク化に好適であることが示された。
【0250】
実施例2-上流工程
上流工程(例えば、
図4を参照のこと)を用いてワーキングセルバンクに由来する中間体を産生した。ここで上流工程は、(a)接着細胞を培養するステップ、(b)培養細胞に
図1に示されるとおりの3つのプラスミド(例えば、本明細書に記載されるAAV SMNを含む)をトランスフェクトしてAAVウイルスベクターの産生を可能にするステップ、(c)接着細胞を溶解させてAAVウイルスベクターを単離するステップ、(d)ウイルス粒子をろ過によって精製して任意のインタクトな細胞又は細胞デブリを除去するステップ、及び(e)精製された(d)の産物をタンジェンシャルフローろ過に供するステップ、及び(f)得られた精製ウイルス粒子中間調製物を凍結するステップを含む。代替的実施形態において、本明細書に開示される上流工程によって調製されたAAVは、本明細書に開示されるとおりのSOD1を標的とするshRNA又はMECP2をコードする。
【0251】
(a)接着細胞の培養
HEK293細胞を解凍し、CO2インキュベーターを用いて使い捨てフラスコ内で7継代にわたって拡大した。解凍した細胞を細胞拡大成長培地で洗浄し、遠心し、新鮮な細胞拡大成長培地に再懸濁した。この再懸濁細胞を、細胞拡大成長培地が入ったフラスコに播種し、インキュベートした。
【0252】
細胞がコンフルエントになったところで、細胞をDPBSで洗浄し、TrypLE Select酵素溶液でフラスコから取り出した。細胞拡大成長培地を加えて酵素(enyme)溶液を中和し、懸濁細胞を分割して、細胞拡大成長培地が入った新しいフラスコに再播種した。この拡大工程を7回繰り返した。繰り返しの最終回では、懸濁細胞はフラスコに再播種せず、代わりに細胞スラリーをバイオリアクターに接種して更に拡大させた。
【0253】
接種に先立ち、接種用にiCELLis 500/200m2又はiCELLis 500/333m2接着細胞バイオリアクターを調製した。調製作業には、使い捨てバイオリアクターの荷解き、現物検査、漏れ試験、管類アセンブリの取り付け、及びプローブ平衡化が含まれた。細胞拡大成長培地を入れてバイオリアクターを平衡化させた。pH(pH6.9~7.5)、温度(35℃~39℃)、及び溶存酸素(40~125%)が規定の範囲内にあることを確認後、バイオリアクターに4800~7000細胞/cm2(200m2リアクターについて)又は5000~12000細胞/cm2(333m2リアクターについて)の目標播種密度で播種した。再循環培地バッグ中の培地に前のステップからの細胞スラリーを加え、バイオリアクター内に循環させた。
【0254】
(b)接着細胞のトランスフェクション
バイオリアクター接種時点から4、5又は6日後、接着HEK293細胞に三重DNAプラスミドPEI共沈殿物をトランスフェクトした。このトランスフェクションに利用した3つのプラスミドは、pSMN、pAAV2/9、及びpHELPである。細胞拡大に使用したDMEM成長培地をバイオリアクターから取り出し、トランスフェクション培地に交換する。大規模接着細胞バイオリアクターにおいてポリエチレンイミン(「PEI」)共沈殿物を用いた接着性ヒト胎児腎臓(HEK293)細胞への三重DNAプラスミドトランスフェクションを用いてscAAV9.CB.SMNベクターを作製する。このベクタープラスミドpSMNは、ヒト生存運動ニューロンタンパク質(SMN)のcDNAを含む。このトランスフェクションに利用した3つのプラスミドは、pSMN(222mg)、pAAV2/9(333mg)、及びpHELP(444mg)である。これらのプラスミドは1:1:1のモル比でトランスフェクトされてもよい。トランスフェクション培地は、PEI-プラスミド共沈殿物を加える前に、バイオリアクター温度が>30℃になるまでバイオリアクター内で平衡化させた。PEI-プラスミド共沈殿工程は、トランスフェクション培地にプラスミドを加えること、及び0.2μろ過して反応バッグに入れることを伴う。PEIをトランスフェクション培地に加え、次に反応バッグに加えた。PEI-プラスミド比は、重量基準で約1:1である。PEI-プラスミド反応物を手動で混合して均一懸濁液を形成した。及び反応は15~30分の時間にわたって行う。この反応時間の終わりに、PEI-プラスミド共沈殿物を反応バッグからバイオリアクターに移した。このPEI-プラスミド共沈殿物をバイオリアクター内で1~2時間(別の継続期間が実施例7に記載される)にわたって混合させた後、撹拌を再開した。次の培地交換前にトランスフェクション培地をバイオリアクターに18~24時間再循環させた。
【0255】
バイオリアクター6日目、トランスフェクションから18~24時間後、バイオリアクターを排液し、トランスフェクション培地再循環培地バッグをトランスフェクション後培地に交換した。トランスフェクション後培地をバイオリアクター中で再循環させながらバイオリアクターに再充填した。7日目、6日目の培地交換から18~24時間後、再循環バッグ中のトランスフェクション後培地を新鮮なトランスフェクション後培地バッグに交換した。このステップの間、バイオリアクターは排液しなかった。培地の再循環は、通常9日目である回収まで継続する。
【0256】
(c)トランスフェクト接着細胞の溶解
バイオリアクター内で9日後、リアクターから最終的な回収前サンプルを採取し、全細胞溶解工程を開始した。バイオリアクターに100U/mLの最終濃度となるようにベンゾナーゼを加えた。ベンゾナーゼをリアクター内で混合させて、そのリアクターに溶解緩衝液を加えた。溶解緩衝液をリアクター内で15~25℃で2時間混合した後、バイオリアクターの内容物を回収バッグに移した。ベンゾナーゼ反応をクエンチする塩ショ糖液(SSS)を回収バッグに加え、15分間混合した。次にバイオリアクターをバイオリアクターリンス緩衝液で15分間リンスし、次にリンス液を回収物収集バッグに、クエンチした細胞溶解溶液と共に収集した。収集バッグにリンス液が加わった後、内容物を15分間混合し、バルク回収物サンプルを採取した。
【0257】
(d)ろ過及びタンジェンシャルフローろ過によるウイルス粒子の調製
混合したバルク回収物をPODデプスフィルタでろ過して収集バッグに入れた。全てのバルク回収物がろ過された後、デプスフィルタをTFF1緩衝液でチェーシング(chase)した。デプスフィルタプール液を混合し、サンプリングした。次にデプスフィルタプール液を0.45μmフィルタでろ過してバルク回収物材料を更に清澄化した。次に0.45μmフィルタをTFF1緩衝液でチェーシング(chase)した。
【0258】
TFF1ステップについては、5.0m2の300kDa MWカットオフ再生セルロース膜カセットをフラッシュし、NaOH溶液で衛生化し、TFF1緩衝液で平衡化した。この作業の濃縮相は、清澄化された回収物の容積が約10分の1に減少するように設計した。目標保持液容積に達した後、ダイアフィルトレーション作業を開始する。6ダイアボリュームのTFF1緩衝液で保持液のダイアフィルトレーションを行った。或いは、保持液のダイアフィルトレーションは、6ダイアボリュームより多いTFF1緩衝液、例えば10ダイアボリューム(divolume)、12ダイアボリューム、又は15ダイアボリュームで行った。6ダイアボリュームの透過液総流量が達成された後、保持液を再び濃縮し、収集バッグに回収した。2回の連続的な膜リンスを実行してTFFシステムからの産物回収率を最大化し、中間原薬が産生された。
【0259】
(e)中間体の凍結
LFHフード内でTFF1中間体をアリコートに分けて1又は2リットル滅菌PETGボトルに入れ、次にドライアイス上又はフリーザー内で凍結し、-60℃の貯蔵場所に移した。
【0260】
【0261】
実施例3-下流工程
下流工程(例えば、
図5を参照のこと)を用いてTFF1中間体をろ過済み原薬に処理した。一部の実施形態において、本明細書に開示される下流工程を用いて、本明細書に記載されるとおりのAAV SMN、AAV MECP2、又はSOD1を標的とするshRNAをコードするAAVを含む中間体を処理し得る。下流工程ステップには、(a)中間体を(ろ過を用いて)酸性化及び清澄化するステップ、(b)陽イオン交換クロマトグラフィーを用いて精製するステップ、(c)タンジェンシャルフローろ過(「TFF2」)でろ過するステップ、(d)CsCl緩衝液を用いて超遠心することにより中身の詰まったカプシドと空のウイルスカプシドとを分離するステップ、(e)AAVウイルスベクターを収集するステップ、及び(d)収集されたAAVウイルスベクターを第2のタンジェンシャルフローろ過(「TFF3」)ステップでろ過するステップが含まれる。
【0262】
(a)酸性化及び清澄化
上流工程からのTFF1中間材料(それ以前に凍結した場合には室温に解凍する)をミキサでバッグに送り込んだ。プールしたTFF1中間体を混合し、サンプルを採取して力価を決定した。プールしたTFF1中間体は、11~14%のTween 20を添加することにより直ちに処理した。Tween 20は、酸性pH条件下でのバルクの宿主細胞タンパク質及びDNAのフロキュレーションを促進するために使用した。この混合物を12~20時間インキュベートさせておいた。次に酸性化緩衝液(1Mグリシン)を加えることによりpHをpH3.3~3.7に下げた。次に、溶液を1.1m2 Clarisolve及び2.2m2 Millistak+C0HCデプスフィルタ及び0.45μmポリッシングフィルタでろ過することにより、pHを下げた後に形成された沈殿物を取り除いた。この工程により、酸性化及び清澄化されたTFF中間体が生じた。
【0263】
(b)陽イオン交換クロマトグラフィーによる精製
陽イオン交換(CEX)クロマトグラフィーステップを用いてウイルスカプシドをタンパク質、DNA、及び他の工程不純物、例えば、宿主細胞脂質、TWEEN 20と分離した。このステップには、自動プロセスクロマトグラフィーシステムを用いて操作されるCIMmultus S03-8000先端複合材料カラム(スルホニル)(0.2μm細径)クロマトグラフィーカラム(8.0L)を利用した。緩衝液及び溶液について、以下の表に記載する。
【0264】
【0265】
酸性化及び清澄化したTFF中間体(即ち、CEXロード)を清浄化及び平衡化したCEXカラムにロードした。条件は、ウイルスベクターがモノリスカラムに結合するようなものであった。CEX A緩衝液でカラムから未結合の材料を洗浄した。CEX A緩衝液中のCEX B緩衝液の勾配によって樹脂から産物を溶出させた。画分1の収集は、溶出勾配の始まりから開始して10カラム容積(CV)eaにわたった、2.3~2.7CVの規定容積。クロマトグラフィーカラムは各バッチ後に廃棄した(即ち、クロマトグラフィーカラムは再利用しなかった)。次にCEX産物溶出物(画分2)を中和緩衝液を用いて7.7~8.3のpHに中和した。
【0266】
(c)タンジェンシャルフローろ過(TFF2)によるろ過
TFF2ステップでは、ウイルスベクターを濃縮し、タンパク質不純物を除去し、緩衝液をCsCl超遠心ステップに適切な緩衝液に交換した。中和したCEX溶出物を、0.3m2の300kDa MWCO再生セルロース膜を装着したTFFシステムを用いて処理した。
【0267】
中和したCEX溶出物の容積を目標保持液容積に減少させた。目標保持液容積に達した後、不連続TFFモード(バッチモード)でダイアフィルトレーションを開始した。保持液をTFF2 NaClダイアフィルトレーション緩衝液で2倍希釈し、保持液をその初期容積まで濃縮した。TFF2 NaClダイアフィルトレーション緩衝液によるダイアフィルトレーションが完了するまでこれを繰り返した。次に保持液をTFF2 CsClダイアフィルトレーション緩衝液で2倍希釈し、保持液をその初期容積まで濃縮した。TFF2 NaClダイアフィルトレーション緩衝液によるダイアフィルトレーションが完了するまでこれを繰り返した。
【0268】
中和したCEX溶出物の物理的力価、システムのホールドアップ容積、システムのフラッシュ容積、及び保持液密度に基づき保持液を最終重量に更に濃縮して所望の目標ベクター濃度を達成し、回収して収集バッグに入れた。TFF2 CsClダイアフィルトレーション緩衝液でシステムのフラッシュサイクルを1回行った後、産物をブローダウンしてTFFシステムからの産物回収率を最大化した。TFF2保持液のサンプル(これは保持液及びフラッシュ液を含有する)を物理的力価測定のため採取した。TFF2膜カセットは各バッチ後に廃棄した(即ち、TFF膜は再利用しなかった)。
【0269】
【0270】
(d)CsCl超遠心
超遠心ステップの目的は、塩化セシウム勾配超遠心法を利用することにより完全なカプシドから空のカプシドを除去することであった。超遠心チューブにTFF2保持液を加え、チューブを密封した。タイプ50.2 Tiロータ又は等価なロータを備えた自動Optima XPN 100超遠心システム又は等価なシステムなど、超遠心機にチューブを置いた。充填したチューブを20℃において45,000rpmで22時間遠心した。
【0271】
(e)AAVウイルスベクターの収集
遠心ステップの完了後、超遠心機からチューブを取り出し、バイオセーフティキャビネットに置いた。産物の入ったチューブを廃棄物容器の上にあるリングスタンドにマウントした。ランプをチューブの真下に位置決めして、空のカプシドバンド(バンドA、一番上のバンド)、完全なカプシドのダブレットバンド(バンドB及びバンドC、ダブレットの上及び下のバンド)、及びダブレットの下の一番下のバンド(バンドD)を可視化した。シリンジに取り付けた針でチューブに穴をあけてチューブをベントし、針によってバンドB、C、及びDを取り取り出した。収集された材料を収集バッグに移した。収集された超遠心プール(UCプール)をTFF2緩衝液で希釈して、TFF2ロード材料中で一貫した出発CsCl濃度に至らせた。希釈したUCプールはTFF3ステップで処理される。CsCl超遠心ステップ用の緩衝液を以下の表に挙げる。
【0272】
【0273】
(f)タンジェンシャルフローろ過(TFF3)によるろ過
TFF3ステップでは、CsClを除去し、最終製剤化緩衝液を用いて完全なベクターを濃縮した。50cm2の300kDa MWCO再生セルロース膜と併せてタンジェンシャルフローろ過システムを利用した。膜によってウイルスベクターが保持された。
【0274】
希釈後UCプールの容積を目標保持液容積に減少させた。目標容積に達した後、一定の保持液容積での連続ダイアフィルトレーションを開始した。TFF3緩衝液で保持液のダイアフィルトレーションを行った。ダイアフィルトレーションの保持液のサンプルを物理的力価測定のため採取した。透過液重量を目標とすることにより保持液を更に濃縮し、この重量は、1)ダイアフィルトレーション終了時のTFFシステム中の保持液容積、2)希釈後UCプールの物理的力価、3)目標原薬(DS)濃度、4)システムフラッシュ液及びフィルタフラッシュ液の合計容積、及び5)TFF3緩衝液の密度により計算した。TFF3膜カセットは各バッチ後に廃棄した(即ち、カセットは再利用しない)。
【0275】
【0276】
TFF3緩衝液によるTFF膜の2回連続20mLリンスを実施して、TFFシステムからベクターを回収した。0.2mm Pall Supor(登録商標)EKV滅菌用グレードフィルタ(Mini Kleenpak)によってリンス液を回収した。TFF3緩衝液でフィルタのリンスを実施して、フィルタに残る任意のベクターを回収し、ろ過後TFF3プール(即ち、原薬DS)の最終容積を調整した。DSをアリコートに分けて125又は250mL PETGボトルに入れ、<-60℃で凍結した。
【0277】
実施例4-製剤化及び充填
薬物製品(DP)は、単回用量、保存剤不含、無菌、澄明~やや不透明、及び無色~淡白色の、2.0×1013vg/mlの目標濃度の非複製性自己相補的AAV9ベクターの静脈内注入液であった。DPは、20mMトリス、1mM MgCl2、200mM NaCl、0.005%w/vポロキサマー188を含んだ。この溶液のpH範囲は7.7~8.3であった。
【0278】
【0279】
滅菌した既製の10ml Crystal Zenith(CZ)バイアルにDPを充填し、滅菌した既製のクロロブチル(chrlorobutyl)ゴム栓で栓をして、滅菌した20mmフリップオフアルミニウムシールで密封した。バイアルには5.5mL又は8.3mLのいずれかの名目充填容積を充填した。目標過充填は0.4mLであり、バイアルは5.9±0.1mL又は8.7±0.1mLとなるように充填した。
【0280】
実施例5-効力アッセイ
薬物製品の相対効力を定量的インビボアッセイを用いて測定した。このアッセイでは、確立されたSMA疾患マウスモデルを使用した。つがいのSMAΔ7マウス系統(Jackson Laboratories、#005025)は、表現型は正常であるが、その子孫の約25%が、標的となるSMN遺伝子突然変異に関してホモ接合であり、SMA様表現型を示す。これらのマウスは5日目までに筋脱力の徴候を示し、その翌週には歩行異常を生じて転び易くなる。Jackson Laboratoriesは、SMA様表現型を有する動物の平均生存期間を約15±2日と報告している。パイロット試験では、SMA様表現型を有する未治療の動物について16.3日の生存期間中央値が実証された(幾何平均;n=3試験;試験当たり10匹のマウス)。
【0281】
生物学的に活性な薬物製品を静脈内(IV)注入によって投与すると、用量(vg/kg)の関数である生存期間の増加が得られる。標準物質(先行ベクターバッチ)と比べた薬物製品効力を測定した。薬物製品及び標準物質の力価(ベクターゲノム/mL;vg/mL)をドロップレットデジタルポリメラーゼ連鎖反応(ddPCR)によって決定した。ベクターを生理食塩水に希釈して、SMA様表現型を有するマウスに投与されることになる3つの指定用量レベルの各々を実現した。
【0282】
アッセイの結果は、そのアッセイが適合性を満たす場合、受入れ可能と考えられる。アッセイ適合性は、以下からなる:
1.陰性対照サンプルの受入れ限界(15±2日、生存期間中央値)
2.陽性対照サンプルの受入れ限界(>40日、生存期間中央値)
3.参照標準生存期間中央値用量反応曲線に関する受入れ限界
【0283】
本試験においては、先行ベクターバッチ(以下、先行バッチ)を使用して、0.9%生理食塩水を使用した0(ゼロ)用量(未治療群)を含む5つの異なる用量レベルで薬物製品(以下、サンプルバッチ)を投与したときのSMAΔ7マウスの生存期間中央値(日)の間の線形相関を決定した。
【0285】
先行バッチ参照標準の線形回帰曲線を薬物製品サンプルバッチ線形回帰曲線と比較することにより、薬物製品サンプルバッチの相対効力を確立した。これは、各線形回帰線(即ち、参照標準及び試験物質)のy切片及び傾きの比を用いることにより達成された。パーセント相対効力計算は、以下の式(1)に記述される: %RP=[(試験物質のy切片/傾き)÷(参照標準のy切片/傾き)]×100(1)
【0286】
第1相臨床試験に使用した先行バッチを参照標準バッチとして使用し、100%の効力を割り当てた。
【0288】
Δ7マウスモデルを使用して、薬物製品を含めたSMA療法の有効性を実証した。TFF3緩衝溶液(媒体)治療対照動物は信頼できるベースライン対照を提供し、それからの生存期間中央値の増加として製品効力を測定することができる。薬物製品による開発作業では、投与用量(vg/kg)を対数変換して、治療されたSMAΔ7新生仔マウスの生存期間中央値(日数単位)に対してプロットしたとき線形相関でマウスモデルの生存に影響を及ぼすドロップレットデジタルPCR(ddPCR)を用いたゲノム力価によって決定される3つの用量(媒体治療用量を除く)が同定された。低力価、中間力価、及び高力価標準については、表11の標準力価(vg/mL)を参照のこと。加えて、検量線ゼロ点並びに陰性対照の両方にTFF緩衝液(媒体)溶液が使用される。≧40日の生存期間を実証する用量(生存期間中央値の倍増を実証する用量より高い)もまた、陽性対照として含めた。
【0289】
【0290】
用量溶液調製(希釈スキーム例については表12を参照のこと。
陰性対照-TFF3緩衝溶液(薬物製品最終製剤化緩衝液)を陰性対照として使用する
陽性対照-試験物質ロットはTFF3緩衝溶液を使用して1.10×1014vg/kgで調製する。希釈スキーム例については表12を参照のこと。
参照標準溶液-参照標準ロットは、TFF3緩衝溶液を使用して表11に説明される3つの濃度で調製する。
【0291】
【0292】
試験物質調製-TFF3緩衝溶液を使用して試験物質を希釈した。希釈は、50μlの最終総容積中、マウス当たり表11に説明される試験用量(vg/kg)が生じるように計算した。希釈はその時点で12匹のマウスについて行い、治療されたマウスの最低寿命を≧40日の生存期間中央値(日)に増加させることを目標とした陽性対照としての1つの追加の容積を含んだ。
【0293】
対照サンプルの受入れ限界
陰性対照(未治療マウス)-陰性対照群のアッセイ受入れ限界は、SMAΔ7マウスが15±2日の生存期間中央値を達成することであった。加えて、10日以内に死亡するマウスはいずれも、分析から除外することになる。
【0294】
陽性対照(目標臨床用量で治療される群)-陽性対照群のアッセイ受入れ限界は、治療されたマウスの寿命が最低でも≧40日の生存期間中央値であることであった。加えて、10日以内に死亡するマウスはいずれも、分析から除外することになる。
【0295】
参照標準用量反応曲線の受入れ限界
投与用量(vg/mL)に対して生存期間中央値(日)をプロットする参照標準線形用量反応曲線について、アッセイ適合性判定基準が決定されることになる。
【0297】
y切片/傾き比-参照標準及び試験物質についての投与用量(vg/kg)に対する生存期間中央値(日)の線形回帰曲線を決定する。各線形回帰について傾きに対するy切片の比を計算する。
【0298】
結果報告
相対効力結果の定性的報告-アッセイ毎にアッセイ適合性判定基準を判定した後、陽性対照材料について一点での生存期間中央値(日)読取りが≧40日にあることを決定する。陽性対照群の生存期間中央値が≧40日である場合、判定基準不適合が満たされる場合にはその試験物質は処分され得る。
【0299】
相対効力結果の定量的報告-アッセイ毎にアッセイ適合性判定基準を判定した後、試験物質の相対効力を定量的に決定する。陽性対照が≧40日に達し、且つ7.5×1013vg/kgの上側標準用量に相当するマウス群について31±3日の生存期間中央値が達成されたら、試験物質の相対効力を報告し得る。試験物質のパーセント相対効力(%RP)は、生存期間中央値(日)用量反応の線形回帰のy切片及び傾きを用いて以下のとおり計算されることになる:
%RP=100%×[(試験物質y切片/傾き)÷(参照標準y切片/傾き)]
【0300】
実施例6:界面活性剤不活性化試験
低pH及びtweenの影響を分けるため、pH7.6及び4~8%Tween-20を有する原薬TFF1中間体のサンプルを界面活性剤不活性化試験に使用した。TFF1中間体のTween-20濃度は、酸性化前にTFF1中間体にTween-20を添加したときの完全工程と比べて約2.5分の1である。この低いTween-20濃度は、原薬工程で界面活性剤によって促される不活性化についての最悪条件と考えられた。界面活性剤処理によるウイルス不活性化ステップについての試験物質は、4~8%Tween-20を含有するTFF-1中間体であった。界面活性剤処理ステップによるウイルス不活性化能力を判定するため、XMuLV及びPRVを各々使用して、デュプリケート実験において試験物質をウイルスでスパイクした。ウイルスはプラーク形成感染力アッセイを用いて定量化した。
【0301】
TFF1製造ステップでは、4~8%Tween-20の界面活性剤濃度範囲が生じる。TFF1中間体をプールし、そのTFF1中間体に16~20℃の作業温度で更なる12%のTween-20を12~20時間の時間にわたって混合しながら追加した。4~8%Tween-20の濃度及び16.0℃±0.1℃の制御された温度でウイルス除去工程を実施した。16時間の典型的な工程所要時間に対し、この不活性化工程の所要時間は120分であった。
【0302】
不活性化工程のため、試験物質の容積を測定し、目標温度に平衡化し、次にウイルスでスパイクすることにより、不活性化負荷を調製した。スパイクした不活性化負荷のサンプルを6時点で取り出して、時間の経過:<1分、15分、30分、60分、90分、及び120分に伴う不活性化の動態を実証した。収集後、各サンプルを成長培地に希釈してウイルス不活性化を停止させ、ウイルスに関してアッセイした。90分及び120分におけるアッセイ感度を高めるため、これらの時点サンプルの大容積もまた、ウイルスに関してアッセイした。このステップについては試験物質中にTween-20が存在するため、不活性化負荷の力価は、スパイク用ウイルスの力価及びスパイクしたウイルスの容積から計算した。
【0303】
界面活性剤処理(Tween-20)によるウイルス不活性化の有効性は、90分の時点における両方のウイルスの4log10より高いLRV値からも明らかなとおり、有効であることが示された。界面活性剤処理による不活性化の動態は、
図6及び
図7に、Tween-20界面活性剤処理中の120分の経過にわたるウイルス不活性化速度のグラフとして示す。
【0304】
実施例7:高い播種密度、早いトランスフェクション及び回収並びにDNA/PEI混合回数が原薬の産生に及ぼす効果
高い播種密度、1日早いトランスフェクション及び回収並びにDNA/PEI混合回数がDSの産生に及ぼす効果を判定した。各条件につき、1.6m2バイオリアクターにおいてデュプリケートで判定した。
【0305】
材料及び方法
細胞のスケールアップ
HEK 293細胞を解凍し、10%FBSを補足したDMEMに再懸濁した。細胞を室温において209×gで5分間遠心し、次に上清を除去し、新鮮DMEM+10%FBSを加えた。生細胞密度及び生存率に関して細胞をカウントし、2×T175cm
2フラスコに播種して、培養物が約90%コンフルエンシーに達するまで3日間、37.0℃、5%CO
2でインキュベートした。細胞継代毎に使用済みの培地を取り除き、フラスコを0.08mL/cm
2のPBS(-CaCl
2、-MgCl
2)で洗浄し、次にフラスコをTrypLE Select(0.04mL/cm
2)で処理し、37.0℃、5%CO
2で2~3分間インキュベートした。DMEM+10%FBS(0.04mL/cm
2)でトリプシンをクエンチした。
図8の図に従い細胞を拡大し、播種した。
【0306】
細胞接種及びモニタリング
バイオリアクターにHEK 293細胞を、成長培地(高グルコースDMEM+10%オーストラリア産FBS+1:100ペニシリンストレプトマイシン(Pen Strep)中8,000細胞/cm2及び12,000細胞/cm2の目標密度で、デュプリケートで撹拌しながら接種した。工程パラメータは、pH7.23、37.0℃、55%溶存酸素(DO)及び2cm/sの線速度に設定した。播種の24時間後、DMEM成長培地(0.188mL/cm2)の再循環をオンにして再循環速度(12.5mL/分)に至らせた。オフラインpH、代謝産物、及び栄養素に関して採取される毎日のサンプルは、Nova BioFlexを使用して読み取った。播種後4日目(12,000細胞/cm2)、5日目(8,000細胞/cm2)及び9日目、3つのファイバーを取り出し、1:1:1v/vのPBS、A100及びB100溶液(ChemoMetec)で溶解させ、全核数に関してカウントして(NucleoCounter NC-200)、培養物の成長をモニタした。
【0307】
トランスフェクション
細胞接種後4日目(12,000細胞/cm2)及び5日目(8,000細胞/cm2)、再循環を停止させて、各バイオリアクター内の細胞にプラスミドDNA及びポリエチレンイミン(PEI)をトランスフェクトした。DNA及びPEIは1:1mg/mgの比で混合した。プラスミドDNAは、pSMNプラスミド、pAAV2/9プラスミド及びpHELPプラスミドを1:1.5:2の質量比でトランスフェクトし、DMEM-/-培地;高グルコース、-CaCl2、-L-グルタミンに加え、0.2μMろ過し、逆さにすることにより混合した。PEIはDMEM-/-培地に加え、逆さにすることにより混合した。次にDNAにPEIを加え、逆さにすることにより混合し、8,000細胞/cm2(対照)及び12,000細胞/cm2について室温で20分間インキュベートした。他の2つの8,000細胞/cm2条件についてはDNA/PEIを1時間及び2時間インキュベートした。このDNA/PEI複合混合物を使用して、4条件の各々につき2つのバイオリアクターをトランスフェクトした。各バイオリアクターにDNA/PEI複合物を加え、工程パラメータで2時間インキュベートした。トランスフェクションの2時間後、再循環ループを再びオンにした。
【0308】
トランスフェクション後培地交換
トランスフェクションの24時間後、バイオリアクター及び再循環ループ内の全ての培地を取り除き、OptiMEM+1:100Pen Strep(0.132mL/cm2)に交換し、工程パラメータで24時間再循環させた。トランスフェクションの48時間後、再循環からのみ全ての培地を取り除き、OptiMEM+1:100Pen Strep(12mL/分)に交換し、工程パラメータで再循環させた。
【0309】
回収
細胞接種後8日目(12,000細胞/cm2)及び9日目(8,000細胞/cm2)、ベンゾナーゼ(100U/mL)を加え、溶解緩衝液(50mM HEPES、1%Tween 20)でチェーシング(chase)し、工程パラメータで2時間インキュベートした。バイオリアクターを排液し、ショ糖塩溶液(500mM NaCl、1%w/vショ糖)を加え、それらを逆さにすることにより混合した。バイオリアクターをバイオリアクターリンス緩衝液(500mM NaCl、1%w/vショ糖、20mMトリス塩基、1%v/v Tween 20、1mM MgCl2.6H2O)によって約15分間、工程パラメータで洗浄した。バイオリアクターを排液し、バイオリアクターリンス緩衝液を粗バルク回収物と共にプールし、逆さにすることにより混合し、ddPCRアッセイ用にサンプリングした。
【0310】
デプスろ過及びタンジェンシャルフローろ過
細胞接種後8日目(12,000細胞/cm2)及び9日目(対照8,000細胞/cm2)、各条件について(n=2バイオリアクター)バイオリアクターを回収し、サンプリングし、粗ライセートをプールした。次にプールしたライセートをMillistak C0HC Pod、270cm2フィルタ及びMillipak 40、0.45μm、Durapore、200cm2ポリッシュフィルタ(EMD Millipore)で清澄化した。C0HC+0.45後にサンプルを採取し、-80.0℃で凍結した。次に清澄化したライセートをタンジェンシャルフローPellicon(登録商標)2限外ろ過モジュールPLCMK C 0.1m2フィルタ(EMD Millipore)によって濃縮した。最終産物のダイアフィルトレーションには少なくとも6ダイアボリュームを使用した。TFF1ろ過後サンプルを入手し、-80.0℃で凍結した。サンプルは全て、AAV2/9力価及び宿主細胞タンパク質に関して分析にかけた。
【0311】
バイオリアクターにおいてプラスミドを使用してDSを産生した。データはデュプリケートの各条件を表し、表14に示すバイオリアクター番号及び条件に対応する。
【0312】
【0313】
細胞成長:播種日(0日目)に細胞をカウントし、播種後4日目(12,000細胞/cm2)、5日目(8,000細胞/cm2)及び9日目に核をカウントした。データは、全てのリアクター内の細胞が0日目~5日目の間に指数関数的に成長したことを示している。トランスフェクション後、9日目の核数は、バイオリアクター221で5日目~9日目に総核数が2.0倍に増加したことを示唆している。他のリアクター(222~228)はいずれも、5日目~9日目に有意な成長を呈しなかった。バイオリアクター221における成長の増加は、総核数カウントに使用される個々のファイバー上で細胞の分布が不均一なことに基づくアーチファクトであり得る。
図9A~
図9Eに示される代謝産物データに基づけば、全てのバイオリアクター内の細胞が同様に成長した可能性がある。
【0314】
pH、栄養素及び代謝産物:全てのバイオリアクター培養物でグルコース消費の傾向が同じであったことから、バイオリアクター221の成長曲線の増加にも関わらず、細胞はグルコースを同様の速度で消費したことが示唆される。最初の3日間、12,000細胞/cm2で播種したバイオリアクターのpHは平均7.06であり、8,000細胞/cm2では平均7.18であった。pHは栄養素代謝の増加に伴いやや下がり、アンモニウムイオンレベルが高くなると同時に9日目までに上昇した。乳酸塩は5日目(バイオリアクター221、223、224、225、227)及び6日目(バイオリアクター222、226、228)まで上昇し、次に産生の終わりが近付くにつれ横這いになったことから、この段階でのエネルギー源としての乳酸塩の利用が示唆される。
【0315】
産生力価
回収材料からのウイルスゲノムをデジタルドロップレット(ddPCR)によって測定した。12,000細胞/cm
2で播種したバイオリアクターでは力価は約1.5倍の高さであり、平均力価測定値が6.37E+10vg/mL(n=2)であったのに対し、8,000細胞/cm
2で播種した対照バイオリアクターは平均力価測定値が4.33E+10vg/mLであった(n=2)。力価データから、高い密度での播種、1日早いトランスフェクション及び回収が、より高いDS産生収率を支持することが示唆される。DNA/PEIを20分間インキュベートした対照(4.33E10vg/mL n=2)と比較して、1時間インキュベートしたDNA/PEIについての力価収率は1.4分の1の平均力価測定値の低下を呈し(3.17E10vg/mL n=2)、2時間インキュベーションについては、平均力価測定値は1.6分の1の低下であった(2.67E10vg/mL n=2)。データから、インキュベーション時間が長いほど力価の低下につながることが示唆される。これは、DNA及びPEIが、HEK293細胞の効率的なトランスフェクションが可能でない大型の複合体を形成することに起因し得る。陽性対照としての既知の工程における産生と比較したときの、1mL当たりのウイルス産生及び表面積値を
図10に示す。
【0316】
清澄化及び濃縮ステップの各ステップで測定されたウイルス力価を
図11に示す。TFF1ステップの間の各ステップにおける残留宿主細胞タンパク質を
図12A~
図12Bに示す。
【0317】
実施例8:播種密度が原薬の産生に及ぼす効果
播種密度がDSの産生に及ぼす効果を判定した。4つの播種密度を判定し、バイオリアクターにおいて各播種密度につきデュプリケートとした。
【0318】
細胞のスケールアップ
HEK 293細胞を解凍し、10%FBSを補足したDMEMに再懸濁した。細胞を室温において209×gで5分間遠心し、次に上清を除去し、新鮮DMEM+10%FBSを加えた。生細胞密度及び生存率に関して細胞をカウントし、2×T175cm
2フラスコに播種して、培養物が約90%コンフルエンシーに達するまで4日間、37.0℃、5%CO
2でインキュベートした。細胞継代毎に使用済みの培地を取り除き、フラスコを0.08mL/cm
2のPBS(-CaCl
2、-MgCl
2)で洗浄し、次にフラスコをTrypLE Select(0.04mL/cm
2)で処理し、37.0℃、5%CO
2で2~3分間インキュベートした。DMEM+10%FBS(0.04mL/cm
2)でトリプシンをクエンチした。
図13の図に従い細胞を拡大し、播種した。
【0319】
細胞接種及びモニタリング
バイオリアクターにHEK 293細胞を、700ml成長培地(高グルコースDMEM+10%オーストラリア産FBS+1:100Pen Strep)中4つの目標密度:8,000細胞/cm2、9,350細胞/cm2、10,700細胞/cm2及び12,050細胞/cm2で、各々デュプリケートで撹拌しながら接種した。工程パラメータは、pH7.23、37.0℃、55%溶存酸素(DO)及び2cm/sの線速度に設定した。播種の24時間後、DMEM成長培地(総容積はこのとき0.188mL/cm2)の再循環をオンにして再循環速度(12.5mL/分)に至らせた。オフラインpH、代謝産物、及び栄養素に関して毎日サンプルを採取し、Nova BioProfile 400を使用して読み取った。播種後5日目及び9日目に3つのファイバーを取り出し、1:1:1v/vのPBS、A100及びB100溶液(ChemoMetec)で溶解させ、全核数に関してカウントして(NucleoCounter NC-200)、培養物の成長をモニタした。
【0320】
トランスフェクション
細胞接種後5日目、再循環を停止させて、各バイオリアクターチャンバ内の(再循環ボトルでない)培地を600ml DMEM-/-培地(高グルコース、-CaCl2、-Lグルタミン)に交換した。各リアクターにプラスミドDNA及びポリエチレンイミン(PEIpro)を1:1の質量比でトランスフェクトした。プラスミドDNAを1:1.5:2の質量比(pSMN-3.56mg、pAAV2/9-5.34mg、及びpHELP-7.1mg)で混合し、300mL DMEM-/-培地に加え、0.2μMろ過し、逆さにすることにより混合した。PEI(16mL)を300mL DMEM-/-培地に加え、逆さにすることにより混合した。PEI及びDNA混合物を合わせ、逆さにすることにより混合し、室温で20分間インキュベートした。各600ml PEI/DNA複合混合物を使用して2つのバイオリアクターをトランスフェクトし、各対応する播種密度について繰り返した。PEI/DNA複合体を各バイオリアクターに加え、工程パラメータで2時間インキュベートした。トランスフェクションの2時間後、再循環ループを再びオンにした(12.5mL/分)。
【0321】
トランスフェクション後培地交換
トランスフェクションの24時間後、バイオリアクター及び再循環ループ内の全ての培地を取り除き、OptiMEM(0.132mL/cm2)に交換して、工程パラメータで24時間再循環させた(12.5mL/分)。トランスフェクションの48時間後、再循環ボトル内の培地を新鮮なOptiMEMに入れ替え、工程パラメータで再循環させた(12mL/分)。
【0322】
回収
細胞接種後9日目、ベンゾナーゼ(100U/mL)を加え、溶解緩衝液(50mM HEPES、1%Tween 20)でチェーシング(chase)し、工程パラメータで2時間インキュベートした。バイオリアクターを排液し、ショ糖塩溶液(500mM NaCl、1%w/vショ糖)を加え、逆さにすることにより混合した。バイオリアクターをバイオリアクターリンス緩衝液(500mM NaCl、1%w/vショ糖、20mMトリス塩基、1%v/v Tween 20、1mM MgCl2.6H2O)で15分間、工程パラメータで洗浄した。バイオリアクターを排液し、バイオリアクターリンス緩衝液を粗バルク回収物と共にプールし、逆さにすることにより混合し、ddPCRアッセイ用にサンプリングした。
【0323】
バイオリアクターにおいてプラスミドを使用して原薬を産生した。リアクターに様々な密度で播種し、同じスケジュールでトランスフェクトし、回収した(それぞれ、播種後5日目、9日目)。データは、以下の表15に示されるとおり、各播種密度のデュプリケートを表す。
【0324】
【0325】
細胞成長:播種日(0日目)に細胞をカウントし、播種後5及び9日目に核をカウントした。データは、全てのリアクター内の細胞が0日目~5日目の間に指数関数的に成長したことを示している。出発播種密度の差にも関わらず、核数が示すところによれば、5日目に群間で細胞数に大きな差はない。トランスフェクション後、9日目の核数は、リアクターのうちの5つ(221、224、225、226、228)で5日目~9日目に総核数が倍増したことを示唆している。2つのリアクター(222、223)では、
図14Aに示されるとおり、総核数が1.4倍に増加した。リアクター227では5日目~9日目に総核数が3.8倍に増加した。この差は、カウントに使用される個々のファイバー間で細胞の分布が不均一なことに基づくアーチファクトであり得る。
図14B~
図14Eに示される代謝産物データに基づけば、全てのリアクター内の細胞が同様に成長した可能性がある。
【0326】
pH、栄養素及び代謝産物:全てのバイオリアクター培養物でグルコース消費(
図14B)の傾向が同じであったことから、出発播種密度の差にも関わらず、細胞はグルコースを同様の速度で消費したことが示唆される。最初の3日間、全ての培養物でオフラインpH(
図14C)は一貫したままであり(pH7.25)、栄養素代謝の増加に伴い下がり、8日目の後にアンモニウムイオンレベルが高くなると同時に上昇した(
図14E)。乳酸塩(
図14D)は6日目まで上昇し、次に産生の終わりが近付くにつれ横這いになったことから、この段階でのエネルギー源としての乳酸塩の利用が示唆される。異なる出発密度で播種したリアクター間において代謝産物プロファイルに有意差は認められなかった。これは、出発播種密度の差が最小限で、<1.2倍の差であることに起因する可能性がある。
【0327】
産生力価
回収材料からのウイルスゲノムをデジタルドロップレット(ddPCR)によって測定した。8,000細胞/cm
2及び10,070細胞/cm
2の出発播種密度間で力価は同等であり、それぞれ、平均3.99E+10±2.1E+09vg/mL(n=2)及び3.70E+10±7.4E+09vg/mL(n=2)であった。理由を特定できないが、9,350細胞/cm2で播種したリアクターは5.02E+08vg/mL(n=2)の平均力価測定値を呈し、隣接密度で播種したリアクターの平均力価と比べて約2log低かった。この差は、この播種密度での生産性の欠如というよりむしろ、トランスフェクション又は回収中に特定できない操作ミスがあった結果と思われる。12,050細胞/cm
2で播種したレプリケートリアクターは互いの2倍の差を実証し、一方のリアクターは低播種密度について観察される範囲内、3.2E+10vg/mlであったのに対し、第2のリアクターでは僅か1.4E+10vg/mlの力価しか生じたに過ぎなかった。1mL当たりのウイルス産生及び表面積値を
図15Aに示す。
【0328】
図15Bに示されるとおり、播種密度及びDSの産生を判定した。8E+03~10E+03細胞/cm
2の範囲で播種したHEK 293細胞は、一貫した成長プロファイル、pH、グルコース消費、乳酸塩及びアンモニア発生を示した。加えて、同等の力価が生じたことから、やや高い播種密度であっても産生に悪影響はないことが示唆される。対照的に、12×10
3細胞/cm
2の高い密度で播種したリアクターは、他の条件と比較して平均力価が低いことを含め、デュプリケート間でより高いばらつきを呈したことから、この実験で用いられた手法が産生に最適でない可能性があることが示唆される。これらの結果から、バイオリアクター実験については細胞を8×10
3~1×10
4細胞/cm
2の範囲の密度で播種することが支持される。
【0329】
実施例9:同等性評価
第1相臨床試験(工程A)に使用したAVXS-101薬物製品とピボタル臨床試験(工程B)に使用した薬物製品との間の同等性を主要目的として評価し、副次目的は、薬物製品ロット600156及び600307を比較することにより、工程Bを用いる製造の一貫性を評価することであった。
図16は、第1相(工程A)及び第3相試験(工程B)製造工程フロー及びそれらの違いを表す。
【0330】
同等性評価は、ネーションワイド小児病院(Nationwide Children’s Hospital:NCH)で製造された第1相臨床薬物製品ロットNCHAAV9SMN0613及びAveXisで製造された薬物製品ロット600156を使用して実施した。
【0331】
製品
表16に要約するとおり、以下の材料ロットを判定した。この評価には、工程Aを用いた第1相臨床薬物製品ロットNCHAAV9SMN0613及び工程Bを用いたAVXS-101薬物製品ロット600156から得られた品質特性の直接比較が含まれた。加えて、スケールアップ工程の再現性及び一貫性に関してロット600156の出荷時試験結果をロット600307と共に総合的に判定した。
【0332】
【0333】
【0334】
同等性及び製造の一貫性評価
同等であると評価されたための工程A及び工程B材料、並びに工程B材料は一貫性があると評価された。工程B材料はまた、更なる利益、例えば工業規模産生上の利益を有することも決定された。
【0335】
試験方法
pH
ロットNCHAAV9SMN0613(工程A)、ロット600156(工程B)及びロット600307(工程B)に関してpH分析を実施した。いずれの工程の結果も、7.9~8.0の範囲であった。これにより、工程A及び工程B材料のpHが同等であったこと、及び工程B材料に一貫性があることが実証された。
【0336】
外観
ロットNCHAAV9SMN0613(工程A)、ロット600156(工程B)及びロット600307(工程B)に関して目視検査により外観を調べた。工程Aと工程Bとの外観結果の明らかな違いは、ベクター濃度(ゲノム力価)が異なることに起因した。ロットNCH AAV9SMN0613は工程Bロットよりもベクター濃度が低かった。結果として、ロットNCH AAV9SMN0613は希釈度が高くなり、より澄明な無色の溶液につながった一方、工程Bロットについての無色~白色のやや不透明な観察結果は、1mL当たりの溶液中のウイルス粒子濃度が約4倍であることに起因する。
【0337】
濃度が異なることを考慮すると、工程A及び工程B材料の外観は同等であると評価され、工程B材料には一貫性があると評価された。
【0338】
オスモル濃度
ロットNCHAAV9SMN0613(工程A)、ロット600156(工程B)及びロット600307(工程B)に関して凝固点降下によりオスモル濃度を調べた。いずれの工程の結果も、410~415mOSm/kgの範囲であった。これにより、工程A及び工程B材料のオスモル濃度が同等であったこと、及び工程B材料に一貫性があったことが実証された。
【0339】
サブビジブル粒子
ロットNCHAAV9SMN0613(工程A)、ロット600156(工程B)及びロット600307(工程B)に関して光遮蔽法によりサブビジブル粒子を調べた。いずれの工程の結果も、USPモノグラフの注射用薬物製品に関する推奨限界値を十分に下回った。これにより、工程A及び工程B材料のサブビジブル粒子数が同等であったこと、及び工程B材料に一貫性があったことが実証された。
【0340】
ゲノム力価
ロットNCHAAV9SMN0613(工程A)、ロット600156(工程B)及びロット600307(工程B)に関してddPCRによりゲノム力価を調べた。AVXS-101ロットのゲノム力価は製造時の目標濃度に基づき変動することが予想された。工程B(3.7×1013vg/mL及び4.0×1013vg/ml)によって生じたゲノム力価は、工程A(1.1×1013vg/mL)のゲノム力価の少なくとも3倍であったため、従ってAVXS-101の大規模製造には工程Bの方が優れた方法であった。
【0341】
感染力価
ロットNCHAAV9SMN0613(工程A)、ロット600156(工程B)及びロット600307(工程B)に関してTCID50により感染力価を調べた。工程B(1.3×1010IU/mL及び6.7×109IU/ml)では工程A(5.9×1010IU/mL)と比べて平均して66%高い感染力価が生じた。これは、例えば、rAAV、例えばAVXS-101の大規模製造に有利であり得る。
【0342】
全タンパク質
ロットNCHAAV9SMN0613(工程A)、ロット600156(工程B)及びロット600307(工程B)に関してマイクロBCAにより全タンパク質を調べた。1.0×1013vg/mLに対して正規化すると、いずれの工程の結果も、167~179μg/mLの範囲であった。正規化した全タンパク質値により、工程A及び工程B材料が同等であったこと、及び工程B材料に一貫性があったことが実証された。
【0344】
ウエスタンブロットによるアイデンティティ
ロットNCHAAV9SMN0613(工程A)、ロット600156(工程B)及びロット600307(工程B)に関してウエスタンブロットによりアイデンティティを調べた。主バンド(VP1、VP2、及びVP3)のブロットプロファイル及び見かけの分子量値は工程A及び工程B材料について同等であると評価され、及び工程B材料に一貫性があったこともまた評価された。
【0345】
AUCによる%空のカプシド
ロットNCHAAV9SMN0613(工程A)、ロット600156(工程B)及びロット600307(工程B)に関してAUCにより%空のカプシドを調べた。ロットNCHAAV9SMN0613(工程A)の結果は7%であった。ロット600156及び600307(工程B)の結果は、それぞれ2%及び4%であった。工程B(2%及び4%)では、産生された空のカプシドはAUCにより測定したとき工程A(7%)の約2分の1であった。従って、工程Bは、低濃度の空のカプシドを含む改良された組成物を産生可能であった。
【0346】
SDS-PAGEによるアイデンティティ及び純度
ロットNCHAAV9SMN0613(工程A)、 ロット600156(工程B)及びロット600307(工程B)に関してSDS-PAGEによりアイデンティティ及び純度を調べた。いずれの工程の%総純度も≧98%であり、3つのカプシドタンパク質の各々の結合パターン並びに見かけの分子量は高度に一貫性があった。これらの結果により、工程A及び工程B材料が同等であったこと、及び工程B材料に一貫性があったことが実証された。
【0347】
残留宿主細胞タンパク質
ロットNCHAAV9SMN0613(工程A)、ロット600156(工程B)及びロット600307(工程B)に関してELISAにより残留宿主細胞タンパク質を調べた。試験した全てのロットの結果が、アッセイのLOQ(8ng/mL)未満であった。これらの結果により、工程A及び工程B材料が同等であったこと、及び工程B材料に一貫性があったことが実証された。
【0348】
残留ウシ血清アルブミン(BSA)
ロットNCHAAV9SMN0613(工程A)、ロット600156(工程B)及びロット600307(工程B)に関して残留BSAを調べた。試験した全てのロットの結果が、アッセイのLOQ(0.50ng/mL)未満であった。これらの結果は、工程A及び工程B材料が同等であること、及び工程B材料に一貫性があることを実証している。
【0349】
残留ベンゾナーゼ
ロットNCHAAV9SMN0613(工程A)、ロット600156(工程B)及びロット600307(工程B)に関してELISAにより残留ベンゾナーゼを調べた。試験した全てのロットの結果が、アッセイのLOQ(0.20ng/mL)未満であった。これらの結果は、工程A及び工程B材料が同等であること、及び工程B材料に一貫性があることを実証している。
【0350】
残留宿主細胞DNA
ロットNCHAAV9SMN0613(工程A)、ロット600156(工程B)及びロット600307(工程B)に関してqPCRにより残留宿主細胞DNAを調べた。1.0×1013vg/mLに対して正規化すると、工程Aの結果は3.7×105pg/mLであった一方、工程Bの結果は、それぞれ0.76×105pg/mL及び0.68×105pg/mLであった。従って、工程Bでは、大幅に低い残留hcDNAのウイルスベクターが産生された。これは、例えば、rAAV、例えばAVXS-101の大規模製造に有利であり得る。
【0351】
統計的分析
定量的品質特性に関して統計的分析を実施した。比較は以下に挙げるとおりの工程Aロット(NCHAAV9SMN0613)と各工程Bロット(600156及び600307)との間でペアワイズで実施した。これらの結果は
図18及び
図19に示す。
【0352】
これらの試験は、工程Bが優れたウイルスベクター産生方法であることを示している。工程Bは、一貫してより多量のウイルスベクターを産生したとともに(ゲノム力価及び感染力価により測定したとき)、不純物がより少なく(残留hcDNAがより少なかった)、空のカプシドが少なかった。
【0353】
次世代シーケンシング
次世代シーケンシング(NGS)もまた実施して、工程BからのAVXS-101薬物製品第3相材料のアイデンティティを確立し(ゲノム配列を決定及び/又は確認し)、それについて配列変異体(部分集団)が存在したかどうかを評価した。資金援助者から提供された参照配列(pscSMN)に対する配列データセットのアラインメントにより、変異体検出を可能にするゲノムの全長にわたる完全な(100%の)幅及び十分な深さのカバレッジが明らかになった。合計4つの軽微な変異位置が認められたが、しかしながらこれらは、真の変異体というよりむしろ、AAVの配列決定が困難な領域(例えば、その高いGC含量及びパリンドローム配列のために配列決定が困難なことで有名な逆方向末端反復(ITR))の範囲内でのシーケンシングエラーに相当するように見える。シーケンシング結果については表17を参照のこと。
【0354】
【0355】
第1相ロットNCHAAV9SMN0613安定性プロファイル
ロットNCHAAV9SMN0613を≦-60℃で12ヵ月間貯蔵した。各時点でロットを分析した。好ましくない傾向は認められない。
図20に、現在までの安定性結果を示す。
【0356】
第1相臨床試験に使用したAVXS-101に関して同等性試験を完了した。評価は、ネーションワイド小児(Nationwide Children’s)で製造された第1相臨床薬物製品ロットNCHAAV9SMN0613及びAveXisで製造されたAVXS-101薬物製品ロット600156を使用して実施した。加えて、工程Bロット600156及び600307を使用して製造の一貫性を判定した。同等性評価(工程A対工程B)及び製造の一貫性(工程Bロット600156対600307)の両方について、本試験では、新規改良された工程及び分析的方法を用いてAVXS-101臨床試験材料のアイデンティティ、品質、純度を判定し、同等性及び製造の一貫性のロバストな評価を可能にした。
【0357】
定量的品質特性に関して統計的分析を実施した。比較は工程AロットNCHAAV9SMN0613と工程Bロット600156との間でペアワイズで実施した。工程Aと比べて工程Bの方が、より高純度でより多量のウイルスベクターを産生した良好な方法であった。例えば、工程Aと比較したとき、工程Bによって産生されたウイルスベクターは、感染力価が高く、ゲノム力価(genomic tier)が8%高く、10μm径超のサブビジブル粒子が92%少なく、25μm径超のサブビジブル粒子が50%少なく、空のカプシドが100%少なく、及び残留hcDNAが11%少なかった。結果は全て、各品質特性の試験限界と比べて一貫性があった。
【0358】
更に、工程Bを用いた製造の一貫性を確立するため、ロット600156及び600307を使用してペアワイズ比較を実施した。工程Bロット600156と600307との間のこの初期ペアワイズ比較の結果は、製造の一貫性を呈している。同様に結果は全て、各品質特性の試験限界と比べて一貫性があった。
【0359】
この結果判定に基づけば、工程Aを用いた第1相臨床薬物製品ロットNCHAAV9SMN0613及び工程Bを用いたAVXS-101薬物製品ロット600156から得られた品質特性により、工程Bではより多量のウイルスベクター及び純度の向上が生じたことが実証された。これは、例えばrAAVの大規模製造に有利であり得る。加えて、工程Bから生成されたこれらの2つの材料ロット(ロット600156及び600307)は再現性があり、更に製造の一貫性を呈することが見出された。
【0360】
実施例10:分析的超遠心(AUC)分析
第1相(工程A、ロットNCHAAV9SMN0613)及び第3相(工程B、ロット600156及び600307)からの材料をAUC方法を用いて分析した。NCHAAV9SMN0613、600156、及び600307のAUCプロファイル(デュプリケートで分析した)をそれぞれ、
図21、
図22、及び
図23に示す。
【0361】
各材料のAUC分析は、空のカプシド含有量がそれぞれ2%及び4%である第3相材料(工程B、ロット600156及び600307)と比較したとき、上昇した空のカプシド含有量(7%)を示す第1相材料(工程A、ロットNCHAAV9SMN0613)では、空のカプシドと完全なカプシドとについて同様の沈降係数を呈する。これは、工程BにおけるCsCl勾配超遠心製造ステップが、工程Aに用いられているイオジキサノール勾配超遠心製造ステップと比較して、空のカプシドを完全なカプシドとより有効に分離可能であることに起因する。
【0362】
臨床的及び商業的体裁を用いるAVXS-101産生ロットは、超遠心を用いたCsCl勾配精製工程に供したとき、ネーションワイド小児病院(Nationwide Children’s Hospital)で産生された第1相臨床試験材料(NCHAAV9SMN0613)及びAveXisによる各々の後続の生産ロットの両方において一貫してカプシドの3つの可視的バンドを呈する。工程Aを用いた第1相臨床薬物製品ロットNCHAAV9SMN0613及び工程Bを用いたAVXS-101薬物製品ロット600156のAUCプロファイルに基づけば、これらの材料は同等と考えられる。加えて、工程Bから生成された2つの材料ロット(ロット600156及び600307)のAUCプロファイルは一貫性があると評価された。
【0363】
実施例11-上流工程
上流工程を用いてワーキングセルバンクに由来する中間体を産生した。ここで上流工程は、(a)細胞を培養するステップ、(b)培養細胞に
図1に示されるとおりの3つのプラスミドをトランスフェクトするステップ、(c)培養期間後に細胞から拡大したウイルス粒子を回収するステップ、(d)ウイルス粒子をろ過によって精製して任意のインタクトな細胞又は細胞デブリを除去するステップ、(e)ステップ(d)からの溶出液をタンジェンシャルフローろ過に供するステップ、及び(f)得られた精製ウイルス粒子中間調製物を凍結するステップを含む。
【0364】
トランスフェクション前、フラスコ又は好適なバイオリアクター、又は両方において細胞を好適な培養培地中で拡大した。1つの培養培地は、10%FBS、4.5g/Lグルコース、4mM L-グルタミン含有DMEMである。一実施形態では、最初にフラスコ内で接着細胞を成長させて、次にiCELLisバイオリアクターに移してバイオリアクター内で接着細胞を更に拡大させる。
【0365】
細胞拡大後、接着HEK293細胞に三重DNAプラスミドPEI共沈殿物をトランスフェクトした。このトランスフェクションに利用される3つのプラスミドは、pSMN、pAAV2/9、及びpHELPである。細胞拡大に使用したDMEM成長培地を変法DMEMトランスフェクション培地に交換する。DMEMトランスフェクション培地は、FBS不含、カルシウム不含、L-グルタミン不含で、且つ4.5g/Lグルコースを含有した。大規模接着細胞バイオリアクターにおいてPEI共沈殿物を用いた接着HEK293細胞への三重DNAプラスミドトランスフェクションを用いてscAAV9.CB.SMNベクターを作製した。このベクタープラスミドpSMNはヒトSMNのcDNAを含有する。このトランスフェクションに利用した3つのプラスミドは、pSMN(222mg)、pAAV2/9(333mg)、及びpHELP(444mg)である。トランスフェクション培地は、PEI-プラスミド共沈殿物を加える前に、バイオリアクター温度が>30℃になるまでバイオリアクター内で平衡化させた。PEI-プラスミド共沈殿工程には、プラスミドをトランスフェクション培地に加えること、及び0.2μろ過して反応バッグに入れることが含まれた。PEIをトランスフェクション培地に加え、次に反応バッグに入れた。PEI-プラスミド反応物を手動で混合して均一懸濁液を形成した。及びこの反応は15~30分の時間にわたって行う。この反応時間の終わりに、バイオリアクターにPEI-プラスミド共沈殿物を加えた。このPEI-プラスミド共沈殿物をバイオリアクター内で1~2時間にわたって混合させた後、再循環を再開した。次の培地交換前にDMEM成長培地をバイオリアクターに18~24時間再循環させた。
【0366】
rAAV SMNゲノム(配列番号1のヌクレオチド980~3336)は順番に、AAV2 ITR、サイトメガロウイルスエンハンサーを伴うニワトリβ-アクチンプロモーター、SV40イントロン、(GenBank受託番号NM_000344.2)に示されるSMNコードDNA、ウシ成長ホルモン由来のポリアデニル化シグナル配列及びもう一つのAAV2 ITRを有する。SMN DNAの保存的ヌクレオチド置換もまた企図される(例えば、GenBank受託番号NM_000344.2の625位におけるグアニンからアデニンへの変更)。ゲノムはAAV rep及びcap DNAを欠いており、即ちゲノムのITR間にAAV rep又はcap DNAはない。企図されるSMNポリペプチドとしては、限定はされないが、NCBIタンパク質データベース番号NP_000335.1に示されるヒトSMN1ポリペプチドが挙げられる。rAAV9 SMNベクターについては、Foust et al.,Nature Biotechnology 28(3):271-274(2010)に記載され、ここでベクターゲノム挿入物の配列は、配列番号1のヌクレオチド980~3336として示される)。
【0367】
バイオリアクター6日目、トランスフェクションの18~24時間後、バイオリアクターを排液し、DMEM再循環培地バッグを200リットルの新鮮OptiMEMトランスフェクション後培地に交換した。バイオリアクターに64リットルを再充填し、バイオリアクターにおける再循環を再開した。7日目、6日目の培地交換から18~24時間後、再循環バッグ(約135リットル)中のOptiMEMトランスフェクション後培地を新鮮なOptiMEM培地バッグに交換した。このステップの間、バイオリアクターは排液しなかった。培地の再循環は、9日目の回収まで継続した。
【0368】
バイオリアクター内で9日後、リアクターから最終的な回収前サンプルを採取し、細胞溶解工程を開始した。バイオリアクターに100U/mLの最終濃度となるようにベンゾナーゼを加えた。ベンゾナーゼをリアクター内で混合させた後、リアクターに7.1リットルの溶解溶液を加えた。最初の回収ステップ前に、溶解溶液をリアクター内で2時間混合した。2時間の溶解の終了時、バイオリアクターの内容物を回収バッグに移した。回収バッグに8.9リットルの塩ショ糖液(SSS)を加え、15分間混合した。このSSS溶液により回収培地中のベンゾナーゼがクエンチされた。次にバイオリアクターをバイオリアクターリンス緩衝液でリンスした。バイオリアクターのリンスには、バイオリアクターに64リットルのバイオリアクターリンス緩衝液を加え、15分間混合した。次にリンス液を共通の回収物収集バッグに移した。収集バッグにリンス液が加わった後、内容物を15分間混合し、バルク回収物サンプルを採取した。
【0369】
混合したバルク回収物をデプスフィルタでろ過して収集バッグに入れた。全てのバルク回収物がろ過された後、デプスフィルタを50リットルのTFF1ダイアフィルトレーション緩衝液でチェーシング(chase)した。デプスフィルタプール液を混合し、サンプリングした。次にデプスフィルタプール液を0.45μmフィルタでろ過してバルク回収物材料を更に清澄化した。次に0.45μmフィルタを6リットルのTFF1緩衝液でチェーシング(chase)する。
【0370】
TFF1ステップについては、5.0m2の300kDaMWカットオフ再生セルロース膜カセットをフラッシュし、NaOH溶液で衛生化し、及びTFF1緩衝液で平衡化した。この作業の濃縮相は、清澄化された回収物の容積が約10分の1に減少するように設計した。目標保持液容積に達した後、ダイアフィルトレーション作業を開始する。6ダイアボリュームのTFF1緩衝液で保持液のダイアフィルトレーションを行った。6ダイアボリュームの透過液総流量が実現した後、保持液を再び濃縮し、収集バッグに回収した。2回の連続的な膜リンスを実行してTFFシステムからの産物回収率を最大化し、中間原薬が産生された。LFHフード内でTFF1中間体をアリコートに分けて1又は2リットル滅菌PETGボトルに入れ、次にドライアイス上又はフリーザー内で凍結し、-60℃の貯蔵場所に移した。
【0371】
【0372】
実施例12-下流工程
下流工程を用いて中間体をろ過済み原薬に処理した。下流工程ステップには、酸性化及び清澄化ステップ(ろ過を用いる)と、それに続く陽イオン交換クロマトグラフィー、タンジェンシャルフローろ過(「TFF2」)、CsCl超遠心及び更なるタンジェンシャルフローろ過ステップ(「TFF3」)が含まれ、これにより精製されたAAV粒子が薬学的に許容可能な担体中に懸濁されているろ過済み原薬が産生された。具体的には、下流工程は、TFF1中間体の産生後に以下の製造ステップを含んだ:TFF1中間体の解凍及びプール、酸性化及び清澄化、陽イオン交換クロマトグラフィー(CEX)、タンジェンシャルフローろ過(TFF2)、CsCl超遠心による完全なカプシド/空のカプシドの分離、タンジェンシャルフローろ過(TFF3)による濃縮/緩衝液交換、TFF3プール材料ろ過による原薬の生成、原薬の希釈及びろ過による薬物製品の産生、薬物製品の貯蔵及びバイアルへの薬物製品の充填。
【0373】
TFF1中間材料を解凍し、穏やかに混合した。Tween 20を使用して、酸性pH下でのバルクの宿主細胞タンパク質及びDNAのフロキュレーションを促進した。CEXクロマトグラフィーのため、15%Tween 20を含有するTFF1中間体プールのpHを下げた(pH3.5)。次に、溶液をデプスフィルタ及び0.45μmフィルタでろ過することにより、pHを下げた後に形成された沈殿物を取り除いた。
【0374】
Tween 20(20mMトリス、1mM MgCl2、500mM NaCl、1%ショ糖m/v、pH8.1中36%Tween 20溶液)をTFF1中間溶液に4時間かけてゆっくりと加え、20%Tween 20の最終濃度を実現した。室温(RT)で一晩インキュベートした後、TFF1中間体/Tweenスパイクプールの1kg当たり約4gの1Mグリシン pH2.5を加えることによりTween 20含有TFF1中間体のpHを下げて、3.5±0.1の目標pHを実現した。pHが許容範囲内になった後、溶液をClarisolve PODデプスフィルタ、それと直列の0.45μm Opticap XL10 Duraporeフィルタ又は0.8/0.45μ PESフィルタに通過させて、続いてこれらのフィルタをCEX緩衝液AでPODフィルタのホールドアップ容積の2倍+ポリッシングフィルタの1ホールドアップ容積だけフラッシュした。
【0375】
陽イオン交換(CEX)捕捉クロマトグラフィーステップを用いてウイルスカプシドをタンパク質、DNA及び他の工程不純物と分離した。このステップには、自動プロセスクロマトグラフィーシステムを用いて操作されるCIMmultus S03-8000先端複合材料カラム(スルホニル)(細孔2μm)クロマトグラフィーカラム(8.0L)を利用した。緩衝液及び溶液については、以下の表に記載する。
【0376】
【0377】
清澄化し、酸性化したTFF1中間体のタンパク質含有量により、CEXカラム負荷を決定した。CEXカラムのタンパク質負荷は、最大カラム容量の70%に設定した。
【0378】
溶出ピークをOD280における急激な上昇から開始して手動で収集した。OD280は伝導性が80~85mS/cmのとき上昇した。CEX溶出物(産物)の近似容積は約20リットル又は2.5CV(カラム容積)であった。CEX溶出物は2つの画分で収集した。第1の画分はOD280における急激な上昇から開始し、1.5CVにわたって収集した。第2の画分は第1の画分の直後に開始し、1.0CVにわたって収集した。これらの2つの画分をpH9.0中和緩衝液を使用してpH8.0±0.30に中和した。
【0379】
TFF2ステップでは、濃縮し、タンパク質不純物を除去し、緩衝液をCsCl超遠心ステップに適切な緩衝液に交換した。タンジェンシャルフローろ過システムを0.4m2(2回のCEXサイクル)又は0.2m2(1回のCEXサイクル)300k MWCO再生セルロース膜と併せて利用した。
【0380】
この作業の濃縮相は、CEX溶出物の容積を減少させた。目標保持液容積に達した後、不連続TFFモード(バッチモード)でダイアフィルトレーションを開始した。保持液を2倍希釈し、不連続TFFモードで8ダイアボリュームのTFF2 NaClダイアフィルトレーション緩衝液及びその後8ダイアボリュームのTFF2 CsClダイアフィルトレーション緩衝液によるダイアフィルトレーションにかけた。CsClダイアフィルトレーションが完了した後、保持液をシステムのホールドアップ容積に依存する規定の容積に濃縮した。2回の連続的な膜リンスを実行してTFF2システムからの産物回収率を最大化した。
【0381】
保持液供給速度は、透過液への20%の変換速度(500mLの保持液供給高速当たり100mlの透過液流速)として5L/m2/分(0.1m2カセット当たり500mL/分)に設定した。透過液流速は、透過液チューブ上のクランプによって、保持液供給流速の20%の透過液流速が維持されるように制御した。
【0382】
【0383】
塩化セシウム勾配超遠心法を利用することにより、超遠心法を用いて完全なカプシドから空のカプシドを除去し得る。CsCl超遠心ステップには、タイプ50.2 Tiロータ又は等価なロータを備えた自動Optima XPN 100超遠心システム又は等価なシステムを使用した。超遠心チューブにTFF2精製後のろ過済み材料を、溶液に気泡が混入しないようにチューブ壁の内側に沿ってゆっくりと加えた。充填されたチューブを携帯型ヒートシーラで密封し、20℃において302,000g(50.2 Tiロータで50,000rpm)で17時間遠心した。遠心ステップの完了後、超遠心機からチューブを取り出し、バイオセーフティキャビネットに置いた。産物の入ったチューブを廃棄物容器の上にあるリングスタンドにマウントした。ランプをチューブの真下に位置決めして、空のカプシドバンド(バンドAが一番上のバンドである)、完全なカプシドのダブレットバンド(バンドB及びC、ダブレットの上及び下のバンド)、及びダブレットの下の一番下のバンドをチューブ上にマークした。30mLシリンジに取り付けられた18G針をバンドDのほんの少し下からチューブの中央まで挿入することにより、バンドB、C、及びDを取り出した。収集された材料を滅菌1L PETGボトルに移した。全ての遠心チューブからの材料を滅菌1L PETGボトルにプールして超遠心機(UC)プールを作製した。CsCl超遠心ステップ用の緩衝液を以下の表に挙げる。
【0384】
【0385】
TFF3ステップでは、CsClを除去し、最終製剤化緩衝液を使用して充填ベクターを濃縮した。タンジェンシャルフローろ過システムを2つの50cm2 300k MWCO再生セルロース膜と併せて利用した。TFF3作業の濃縮相は、残留CsClの濃度及びUCプールの容積が減少するように設計した。目標保持液容積に達した後、ダイアフィルトレーションを開始した。10ダイアボリュームのTFF3緩衝液で保持液のダイアフィルトレーションを行った。ダイアフィルトレーションが完了した後、濃縮された保持液を0.2μm Pall Supor(登録商標)EKV滅菌用グレードフィルタ(Mini Kleenpak)フィルタに通して二次コニカルチューブに移した。
【0386】
膜の連続的なリンスを実行してTFF3システムからベクターを回収した。先にTFF3保持液を保持した一次コニカルチューブにTFF3緩衝液を加えた。この材料をセルロース膜を通じて再循環させた。再循環後、フラッシュ液を0.2μm Pall Supor(登録商標)EKV滅菌用グレードフィルタ(Mini Kleenpak)フィルタに通して二次コニカルチューブに移した。TFF3濃縮物及び部分的プールを混合して、≧4.5×1013vg/mLの原薬(プールされたTFF3保持液+2回のリンス液)の最終ベクター濃度を実現した。
【0387】
膜の連続的なリンスを実行してTFF3システムからの産物回収率を最大化した。先にTFF3保持液及び初期フラッシュ材料を保持した一次コニカルチューブにTFF3緩衝液を加えた。この材料をセルロース膜を通じて再循環させた。二次コニカルチューブにおいて決められた重量が実現するまで、二次フラッシュ液を0.2μm Pall Supor(登録商標)EKV滅菌用グレードフィルタ(Mini Kleenpak)フィルタに通して二次コニカルチューブに移した。この最終濃縮溶液が、原薬(DS)と称される。
【0388】
【0389】
DSをPall Supor(登録商標)EKV滅菌用グレードフィルタ(Mini Kleenpak)でろ過し、滅菌使い捨てアセンブリを使用して滅菌1Lガラスボトルに入れた。TFF3プールのろ過前に、蠕動ポンプを使用してTFF3緩衝液をフィルタに通過させ、廃棄物フラッシュバッグに廃棄することにより、フィルタをフラッシュした。次に蠕動ポンプを使用してフラッシュ済みのフィルタで原薬(DS)をろ過し、1L滅菌ガラスボトルに収集した。5×1013vg/mLの目標としたDS濃度に基づき、DSを保持する二次コニカルチューブにTFF3緩衝液を加え、3.5×1013vg/mLの目標濃度となるようにフィルタに通して希釈薬物製品(「DP」)を調製した。
【0390】
DPの調製のためのフィルタフラッシュ及びDS希釈に使用されるTFF3緩衝液は、以下の配合を含む。
【0391】
【0392】
5mLの滅菌した既製のCrystal Zenith(CZ)バイアルにDPを充填し、滅菌した既製の栓で栓をして、滅菌した既製のシールで密封した。
【0393】
実施例13-効力アッセイ
薬物製品の相対効力を定量的インビボアッセイを用いて測定した。このアッセイでは、確立されたSMA疾患マウスモデルを使用した。つがいのSMAΔ7マウス系統(Jackson Laboratories、#005025)は、表現型は正常であるが、その子孫の約25%が、標的となるSMN遺伝子突然変異に関してホモ接合であり、SMA様表現型を示す。これらのマウスは5日目までに筋脱力の徴候を示し、その翌週には歩行異常を生じて転び易くなる。Jackson Laboratoriesは、SMA様表現型を有する動物の平均生存期間を約15±2日と報告している。パイロット試験では、SMA様表現型を有する未治療の動物について16.3日の生存期間中央値が実証された(幾何平均;n=3試験;試験当たり10匹のマウス)。
【0394】
生物学的に活性な薬物製品を静脈内(IV)注入によって投与すると、用量(vg/kg)の関数である生存期間の増加が得られる。標準物質(先行ベクターバッチ)と比べた薬物製品効力を測定した。薬物製品及び標準物質の力価(ベクターゲノム/mL;vg/mL)をドロップレットデジタルポリメラーゼ連鎖反応(ddPCR)によって決定した。ベクターを生理食塩水に希釈して、SMA様表現型を有するマウスに投与されることになる3つの指定用量レベルの各々を実現した。
【0395】
アッセイの結果は、そのアッセイが適合性を満たす場合、受入れ可能と考えられる。アッセイ適合性は、以下からなる:
4.陰性対照サンプルの受入れ限界(15±2日、生存期間中央値)
5.陽性対照サンプルの受入れ限界(>40日、生存期間中央値)
6.参照標準生存期間中央値用量反応曲線の受入れ限界
【0396】
本試験においては、先行ベクターバッチ(以下、先行バッチ)を使用して、0.9%生理食塩水を使用した0(ゼロ)用量(未治療群)を含む5つの異なる用量レベルで薬物製品を投与したときのSMAΔ7マウスの生存期間中央値(日)の間の線形相関を決定した。
【0398】
これは、各線形回帰線(即ち、参照標準及び試験物質)のy切片及び傾きの比を用いることにより達成された。パーセント相対効力計算は、以下の式(1)に記述される:
%RP=[(試験物質のy切片/傾き)÷(参照標準のy切片/傾き)]×100(1)
【0401】
Δ7マウスモデルを使用して、薬物製品を含めたSMA療法薬の有効性を実証した。未治療又は生理食塩水治療対照動物は信頼できるベースライン対照を提供し、それからの生存期間中央値の増加として製品効力を測定することができる。薬物製品による開発作業では、投与用量(vg/kg)を対数変換して、治療されたSMAΔ7新生仔マウスの生存期間中央値(日数単位)に対してプロットしたとき線形相関でマウスモデルの生存に影響を及ぼすドロップレットデジタルPCR(ddPCR)を用いたゲノム力価によって決定される3つの用量(媒体治療用量を除く)が同定された。低力価、中間力価、及び高力価標準については、表26の標準力価(vg/mL)を参照のこと。加えて、検量線ゼロ点並びに陰性対照の両方にTFF緩衝液(媒体)溶液が使用される。≧40日の生存期間を実証する用量(生存期間中央値の倍増を実証する用量より高い)もまた、陽性対照として含めた。
【0402】
【0403】
用量溶液調製(希釈スキーム例については表26を参照のこと。
陰性対照-0.9%生理食塩水を陰性対照として使用する
陽性対照-試験物質ロットは生理食塩水を使用して1.5×1014vg/kgで調製する。
参照標準溶液-参照標準ロットは、生理食塩水を使用して表25に説明される3つの濃度で調製する。
【0404】
【0405】
試験物質調製-生理食塩水を使用して試験物質を希釈した。希釈は、マウス当たり50μlの最終総容積中、表26に説明される試験用量(vg/kg)が生じるように計算した。希釈はその時点で10匹のマウスについて行い、治療されたマウスの最低寿命を≧40日の生存期間中央値(日)に増加させることを目標とした陽性対照としての1つの追加の容積を含んだ。
【0406】
対照サンプルの受入れ限界
陰性対照(未治療マウス)-陰性対照群のアッセイ受入れ限界は、SMAΔ7マウスが15±2日の生存期間中央値を達成することであった。加えて、10日以内に死亡するマウスはいずれも、分析から除外することになる。群に8匹以上のマウスが使用される場合、10日以内の死亡について最大2匹のマウスを除外し得る。
【0407】
陽性対照(目標臨床用量で治療される群)-陽性対照群のアッセイ受入れ限界は、治療されたマウスの寿命が最低でも≧40日の生存期間中央値であることであった。加えて、10日以内に死亡するマウスはいずれも、分析から除外することになる。群に8匹以上のマウスが使用される場合、10日以内の死亡について最大2匹のマウスを除外し得る。
【0408】
参照標準用量反応曲線の受入れ限界
投与用量(vg/mL)に対して生存期間中央値(日)をプロットする参照標準線形用量反応曲線について、アッセイ適合性判定基準が決定されることになる。
【0410】
Y切片/傾き比-参照標準及び試験物質についての投与用量(vg/kg)に対する生存期間中央値(日)の線形回帰曲線を決定する。各線形回帰について傾きに対するy切片の比を計算する。
【0411】
結果報告
相対効力結果の定性的報告-アッセイ毎にアッセイ適合性判定基準を判定した後、陽性対照材料について一点での生存期間中央値(日)読取りが≧40日にあることを決定する。陽性対照群の生存期間中央値が≧40日である場合、判定基準不適合が満たされる場合にはその試験物質は処分され得る。
【0412】
相対効力結果の定量的報告-アッセイ毎にアッセイ適合性判定基準を判定した後、試験物質の相対効力を定量的に決定する。陽性対照が≧40日に達し、且つ7.5×1013vg/kgの上側標準用量に相当するマウス群について31±3日の生存期間中央値が達成されたら、その試験物質の相対効力を報告し得る。試験物質のパーセント相対効力(%RP)は、生存期間中央値(日)用量反応の線形回帰のy切片及び傾きを用いて以下のとおり計算されることになる:
%RP=100%×[(試験物質y切片/傾き)÷(参照標準y切片/傾き)]
【0413】
実施例14-脊髄性筋萎縮症のための単回用量遺伝子置換療法:用量研究
脊髄性筋萎縮症(SMA)は、生存運動ニューロン1をコードする遺伝子(SMN1)の喪失又は機能不全によって生じる重篤な小児単一遺伝子疾患である。この疾患の発生率は10,000人の出生に約1人であり、保因者頻度は54人に1人である。SMAは下位運動ニューロンの変性及び喪失によって特徴付けられ、これが筋萎縮につながる。この疾患は、発症年齢及びマイルストーン獲得に基づき4つの亜型(1~4)に分けられる。SMA1型(SMA1)は最も重症型であり、乳児死亡の最も多い遺伝的原因である。SMAには2つの形態のSMNがある;SMN1は、SMNタンパク質の機能的産生に関与する主要な遺伝子である。SMN2はスプライシングの間にエクソン7を優先的に除外し、結果として、SMN1と比較すると機能性SMNタンパク質をごく一部しか産生しない。従って、SMN2コピー数は疾患表現型を修飾し、SMN2の2つのコピーの存在がSMA1に関連する。SMN1両アレル欠失及び2コピーのSMN2を有する乳児は、SMA1のリスクが97%である。
【0414】
SMA1の自然歴(歴史的コホート)の最近の研究では、この疾患を有する乳児の間での症状発現時の年齢中央値が1.2ヵ月(範囲、0~4ヵ月)であり、この疾患は、筋緊張低下、乳児期早期からの重度の脱力、及び支持なしでの座位不能によって特徴付けられることが示された。2コピーのSMN2を有するSMA1乳児では、死亡時又は少なくとも14日連続で1日少なくとも16時間の非侵襲的換気(持続的換気と等価と考えられる)が必要となる時点の年齢中央値は10.5ヵ月であった。罹患小児の1つのコホートでは、13.6ヵ月時点で持続的換気補助なしに生存したのは僅か25%であり、20ヵ月までにこの補助なしに生存したのは8%であった。2コピーのSMN2を有する患者に関する国立衛生研究所(National Institutes of Health)の支援を受けた別の前向き多施設歴史的研究(NeuroNEXT)は、8ヵ月の気管開口術なしの生存期間中央値を示した(95%信頼区間、6~17)。全てのSMA1患者が出生後に呼吸及び嚥下機能が急激に低下し、最終的には、十分な栄養を維持し及び誤嚥に伴う呼吸器リスクを低減するため、(経鼻胃チューブ又は胃瘻チューブからの)機械的栄養補助が必要になる。症状の発現が3ヵ月齢までに起こるSMA1患者について、ほとんどの患者は12ヵ月齢までに栄養補助が必要となる。
【0415】
SMA1患者はまた、CHOP INTEND(フィラデルフィア小児病院乳児神経筋疾患検査)尺度で測定したとき、運動機能の主要なマイルストーンを獲得せず、機能低下がある(CHOP INTENDは0~64の範囲をとり、ここではスコアが高いほど良好な運動機能であることを指し、四肢の抗重力運動など、運動機能の僅かな変化に感受性があるツールである)。34人のSMA1患者の歴史的分析では、1人を除く全ての患者が6ヵ月齢以降は少なくとも40のスコアに達しなかった。NeuroNEXTコホートでは、CHOP INTENDスコアは6ヵ月齢~12ヵ月齢の間に平均10.7点下がった。
【0416】
運動ニューロンのSMNタンパク質レベルを増加させる治療戦略は、SMN2の有効性を亢進させることに重点が置かれてきた。一つの手法は、SMN2におけるエクソン7スプライシングを阻害するために開発されたアンチセンスオリゴヌクレオチドであるヌシネルセン(Ionis Pharmaceuticals/Biogen)の中枢神経系送達とされている。この薬物は、重症SMAのマウスモデルにおいて脱力を改善し、罹患マウスの平均寿命を16日から25日に増加させることが示されている。2016年12月にヌシネルセンはSMAの治療に食品医薬品局(Food and Drug Administration)によって承認された。この薬物は、生後2ヵ月以内における4負荷用量後の反復髄腔内注射を用いて投与される。
【0417】
可能性のある別のSMA1治療は遺伝子療法であり、これは、自己相補的アデノ随伴ウイルス血清型9型(scAAV9)(この組換えウイルスのコード領域は分子内二本鎖DNA[又は自己相補的]鋳型を形成する)でSMNのコピーを送達する単回静脈内投与として与えられる。この手法によって運動ニューロン及び末梢組織におけるSMN発現が誘導されており、それがマウスモデルにおけるSMAの効果を抑え、このモデルの平均生存期間を15日から低用量(体重1キログラム当たり6.7×1013vg)では28.5日及びより高用量のベクター(1キログラム当たり2.0×1014及び3.3×1014vg)では250日を超えるまでに延長させている。
【0418】
SMNタンパク質が遍在的に発現し、且つSMA1が、多くの細胞型(例えば、心臓、膵臓、及び骨格筋)と共に、複数の系(例えば、自律神経系及び腸管神経系、心血管系、及び膵臓)に発症することを踏まえると、血液脳関門を越え、且つ脊髄のあらゆる領域にある中枢神経系ニューロンを標的とすることに加え、AAV9媒介性遺伝子療法の全身投与が有利であり得る。ハイブリッドサイトメガロウイルスエンハンサー-ニワトリβアクチンプロモーターと組み合わせたこのベクターの自己相補的特徴が、SMNの迅速且つ持続的な発現を可能にする。2014年4月、本発明者らは、ニワトリβ-アクチンプロモーターの制御下にあるヒト生存運動ニューロン遺伝子(hSMN)の送達を伴う単回用量のscAAV9(scAAV9.CB.hSMN)(AVXS-101)の投与を受けたSMA1乳児が関わる遺伝子置換療法の試験を開始した。
【0419】
方法
患者及び試験手順:本試験の目的上、患者は全て、SMA1の遺伝子確定診断、ホモ接合性SMN1エクソン7欠失、及び2コピーのSMN2を有した。SMN2のエクソン7にc.859G→C疾患修飾因子を有する患者は除外した。選択された患者は、出生直後から6ヵ月齢までに、運動技能遅滞、定頸不全、円背姿勢及び関節過度可動性を伴う臨床評価によって決定されるとおりの筋緊張低下によって特徴付けられる疾患の発現を示していた者であった。活動性ウイルス感染症(HIV又はB型若しくはC型肝炎の血清陽性を含む)又は不必要な遺伝子導入リスクをもたらす併発疾患を有する患者は本試験から除外した。侵襲的換気補助(陽圧法を伴う気管切開術)が必要な患者又はスクリーニングビジット時にパルスオキシメトリ<95%飽和の患者もまた除外した。
【0420】
患者は、投与される遺伝子療法の用量に基づく2つのコホートに登録した。コホート1の患者は低用量(1キログラム当たり6.7×1013vg)の投与を受け、5ヵ月にわたって登録した;コホート2の患者は高用量(1キログラム当たり2.0×1014vg)の投与を受け、1年にわたって登録した。投与後30日目、コホート1の患者1に対するIFN-γ ELISpotアッセイによりT細胞応答が検出され、AAV9カプシドに対して>50である106個の末梢血単核球(PBMC)当たりのスポット形成細胞(SFC)の急増が示された(正常、106個のPBMC当たり<50SFC)。プレドニゾロンを2mg/kgで開始し、35日間、T細胞応答及び血清トランスアミナーゼが低下するまで維持した。結果として、この実験プロトコルは修正され、患者2~15は1日1キログラム当たり1mgの用量の経口プレドニゾロンの投与を遺伝子ベクターの投与24時間前から開始して約30日間受けた。治療は、プレドニゾロンを維持しながら、AST及びALT酵素が120IU/Lのレベルを下回り且つT細胞応答が106個のPBMC当たり100SFCを下回るまで継続した後、臨床上の判断に基づきプレドニゾロンを漸減することになった。
【0421】
ベクターは通常生理食塩水(1キログラム当たり約10~20ml)に入れて送達し、これは約60分間で静脈内注入した。一部の患者は登録時点で胃瘻造設術又は経鼻胃チューブを用いた経腸栄養が必要であったが、その選択は親又は主治医の意向に基づいた。本試験に登録後は、栄養補助が必要な全ての患者に胃瘻チューブの留置を行い、試験中、チューブは抜去しなかった。
【0422】
アウトカム:主要アウトカムは、グレード3以上の任意の治療関連有害事象を基準とする安全性の決定であった。副次アウトカムは、死亡までの時間又は持続的換気補助の必要性であった。後者は、急性の可逆的疾患がない又は周術期状態でない中での、少なくとも14日間連続で1日少なくとも16時間の呼吸補助として定義した。探索的アウトカムには、運動マイルストーンの獲得(特に、支持なしでの座位)及びCHOP INTENDスコアが含まれた。
【0423】
SMAにおけるCHOP INTEND尺度の適用においては、40点を超えるスコアの維持が臨床的に有意味と見なされている。支持なしでの座位は、以下の判定基準により判定し、等級分けした:ベイリー乳幼児発達尺度(Bayley Scales of Infant and Toddler Development)粗大運動下位検査の項目22による、少なくとも5秒間の支持なしでの座位(「支持なしでの座位」);世界保健機関(World Health Organization:WHO)判定基準による、少なくとも10秒間の支持なしでの座位(「WHO判定基準に従う支持なしでの座位」);及び上述のベイリー尺度(Bayley Scales)の項目26による、少なくとも30秒間の支持なしでの座位(「自力での機能的座位」)。主要な運動マイルストーンは、インタラクティブビデオ判定によって捉えた能力-ミニ(Ability Captured Through Interactive Video Evaluation-mini:ACTIVE-mini)によって独立した評価者が患者のビデオ記録を調べることにより確認した。複合筋活動電位(CMAP)はベースライン時及び注入後6ヵ月毎に表面電極から記録した。筋肉の病理学的状態は電気インピーダンスミオグラフィー(EIM)によって定量化した。
【0424】
統計的分析:全ての患者において安全性分析を実施し、これらの患者はまた、一次生存分析(上記及びプロトコルに定義するとおり)並びにCHOP INTEND尺度のベースラインから1ヵ月及び3ヵ月までの変化の分析にも含まれた。かかるベースラインから各試験ビジットまでの変化は、反復測定混合効果モデルを用いて分析した。混合モデルは、コホート及びビジットの固定効果並びにベースラインスコアの共変量を含んだ。コホート2ではマイルストーンの獲得並びに栄養及び換気補助を分析した。統計的分析は、SASソフトウェア、バージョン9.4を使用して実施した。歴史的コホートとの比較は全て、もっぱら記述的とした。
【0425】
結果
患者:スクリーニングを受けた16人の患者のうち、1人は抗AAV9抗体力価の持続的上昇(>1:50)が理由で除外した。本試験に組み入れた15人の患者のうち、3人が低用量コホート1に登録し、12人が高用量コホート2に登録した。治療時点での患者の平均年齢は、コホート1で6.3ヵ月(範囲、5.9~7.2)、及びコホート2で3.4ヵ月(範囲、0.9~7.9)であった(表28)。
【0426】
【0427】
生存及び持続的換気:試験終了時、全ての患者が少なくとも20ヵ月齢に達しており、持続的機械換気は不要であった;その最新の肺評価時における年齢中央値はコホート1で30.8ヵ月、及びコホート2で25.7ヵ月であった。対照的に、歴史的コホートの患者で持続的機械換気が不要であったのは8%に過ぎなかった。コホート1の1人の患者は、29ヵ月齢の時点で流涎過多のため持続的換気を必要とした。唾液腺結紮後、非侵襲的換気を使用する必要性が1日15時間に25%低下した。
【0428】
運動機能評価:コホート1及び2の全ての患者においてCHOP INTEND尺度に関してベースラインからのスコア増加があり、試験中、その変化が維持された。コホート2の患者は平均増加が1ヵ月時点で9.8点及び3ヵ月時点で15.4点であった(両方の比較についてP<0.001);11人の患者は40点を超えるスコアを達成し、維持した。2017年8月7日の試験カットオフ時、コホート1の患者は16.3点の平均ベースラインから平均7.7点増加し、コホート2の患者は28.2点の平均ベースラインから平均24.6点増加した。
【0429】
コホート2における運動マイルストーン:コホート2の12人の患者のうち合計11人が少なくとも5秒間、10人が少なくとも10秒間、及び9人が少なくとも30秒間の支持なしでの座位が可能であった(表31)。合計11人が定頸を獲得し、9人が寝返りでき、並びに2人がずり這い、つかまり立ち、単独立位、及び独歩が可能であった。11人の患者は発話能力を達成した。歴史的コホートの患者でこれらの運動マイルストーンのいずれかを獲得した者はおらず、発話能力を獲得した者もほぼいなかった。
【0430】
【0431】
コホート2における肺及び栄養状態:コホート2の12人の患者の中で、10人はベースライン時に非侵襲的換気が不要であったのに対し、最終回のフォローアップビジット時に換気補助を受けていなかったのは7人であった(表29)。ベースライン時、7人の患者は経腸栄養が不要であったが、その中の1人は後に、恐らくは脊柱側彎症手術に関連して遺伝子置換療法後に胃瘻チューブの留置が必要になった。遺伝子置換療法前に経腸栄養を受けていた5人の患者のうち、最終回のフォローアップ時には、12人中11人の患者が自力での嚥下能力を獲得又は保持しており、4人が経口摂取可能であった。
【0432】
安全性:試験終了時点で、2つのコホートの13人の患者に合計56件の重篤有害事象が認められた。治験責任医師らは、有害事象共通用語規準(Common Terminology Criteria for Adverse Events)に従い、検査値に基づけばこれらの事象のうち2件の事象が治療関連グレード4事象であると決定した(表30)。コホート1の患者1には血清アミノトランスフェラーゼ値の上昇(アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)について正常範囲上限の31倍及びアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)について上限の14倍)があったが、他の肝機能異常(即ち、総ビリルビン及び間接ビリルビン並びにアルカリホスファターゼ)はなく、臨床症状はなかった。上記に記載したとおり、これらの上昇はプレドニゾロン治療によって軽減され、プレドニゾロン治療は続いて残りの患者にも投与された。コホート2の1人の患者は、血清ALT及びAST値の上昇(ALTについて正常範囲上限の35倍及びASTについて37倍)を軽減するために追加的なプレドニゾロンが必要であった。241件の非重篤有害事象のうち、2人の患者における3件が治療関連と見なされ、無症候性の血清アミノトランスフェラーゼ値上昇からなったが(ALT及びAST、両方ともに正常範囲上限の10倍未満)、これらは追加のプレドニゾロン治療なしに解消された(表0.肝機能検査に他の異常はなかった。15人の患者のうち14人は、SMA1小児において高頻度で死亡又は気管開口術の必要性を招くことになる呼吸器疾患を有した。
【0433】
【0434】
【0435】
SMNをコードするDNAを含有するアデノ随伴ウイルスベクターをSMA1患者において単回静脈内注入すると、この疾患の歴史的コホートと比べて生存が延びた。15人の患者全てが、2つのSMN2コピーを有するSMA1患者についての10.5ヵ月というこれまでに報告されている持続的換気なしでの生存の年齢中央値を超えた。また全ての患者が、典型的には僅か8%のこの疾患の患者が持続的換気なしに生存するに過ぎない時点である20ヵ月のベンチマークも超えた。コホート2の12人の患者のうち4人は、1人を除き全員が、歴史的コホートでは報告されたことのない運動機能マイルストーンを獲得した。達成された運動機能は、摂食(手から口へ)、座位、及び発話に反映されるとおり、臨床的に有意味であった。登録時に補助ケアが不要であった患者の大半は、最終回のフォローアップビジット時に栄養補助(7人中6人の患者)及び換気補助(10人中7人の患者)なしであった。2つのコホートにおいて、患者はCHOP INTEND尺度のスコアがベースラインから増加した。コホート2における最初の1ヵ月以内の平均増加は9.8点であり、これはNeuroNEXT研究における歴史的コホートで6~12ヵ月齢の間に平均10点超低下したのと対照的であった。
【0436】
SMNΔ7マウスモデルにおけるSMN遺伝子置換療法の前臨床試験では、恐らくは運動ニューロンがまだインタクトな時点での早期治療による生存及び運動機能の改善が示された。本発明者らの早期治療試験における臨床所見は、前臨床試験におけるその方向性を反映したものであった。早期治療後、2人の患者がずり這い、起立、及び歩行が支持なしで可能であった。これらの患者は両者ともSMAの家族歴を有し、恐らくはそれが早期診断に寄与した。本発明者らの試験における2つのコホートの患者は全て、運動機能が改善し続けているが、前臨床及び臨床データは、SMAに関する早期治療及び新生児検診の利益を示唆している。
【0437】
AAV遺伝子置換療法によって引き起こされる重篤有害事象は、2人の患者における治療約3週間後の血清アミノトランスフェラーゼ値の上昇に限られ、他の肝酵素異常はなかった;他の2人の患者に、重篤有害事象の定義についてのカットオフ(即ち、正常範囲の>10倍)に達しない上昇があった。肝酵素の上昇はプレドニゾロン治療によって軽減された。1人の患者は抗AAV9抗体が存在したためスクリーニングを通過しなかったが、これは、小児及び若年成人で抗AAV9血清陽性率が低く、40歳を超える人で抗AAV9血清陽性率が高くなることを示唆する集団研究と一致している。しかしながら、ウイルスに対する抗体の存在はAAV遺伝子置換療法の制約であり得る。
【0438】
本試験では、歴史的コホートを対照とした単一群設計を用いたが、これは、疾患の自然歴が十分に特徴付けられていて且つ致死性であるときの限られた数の選択肢のうちの1つである。既発表の歴史的研究と同様の均一サンプルを登録するため、本発明者らは、両アレル性SMN1突然変異及び2つのSMN2コピーを有した症候性のSMA1患者のみを組み入れるように登録を制限し、SMN2のエクソン7にc.859G→C遺伝的修飾因子を有する患者は、この遺伝的修飾因子がより軽症の表現型の疾患を予測するものであるため登録しなかった。しかしながら、この遺伝子置換療法が症候性の患者、又は特定のゲノム亜型を有する患者に限定される必要はない。
【0439】
結論として、SMNをコードするDNAを含有するアデノ随伴ウイルスベクターの高用量をSMA1患者において単回静脈内注入すると、生存が延び、運動機能が改善し、及びCHOP INTEND尺度のスコアがこれまでにこの疾患で観察されたことのないレベルにまで増加した。かかる改善により、歴史的研究のものと比べて補助ケアが必要な患者の割合が低下した。最長2年のフォローアップの中で、効果の減少又は運動機能の臨床的後退が報告されたことはなかった。数人の患者に一過性及び無症候性のアミノトランスフェラーゼ値の上昇があった。SMA1患者における遺伝子置換療法の長期安全性及び耐久性を評価するには、更なる試験が必要である。
【0440】
実施例15-scAAV9.CB.hSMNの薬物動態
従来の臨床薬物動態試験は、遺伝子置換療法製品には適用できない。しかしながら、体液及び排泄物として体外に排出されるベクターの量を評価するscAAV9.CB.hSMNベクター排出試験は、従来の薬物動態試験に代えて遺伝子置換療法に用い得る尺度である。
【0441】
臨床試験中、複数の時点で、scAAV9.CB.hSMNの注入後のベクター排出を調べた。唾液、尿及び便のサンプルを30日目まで毎週、次に12ヵ月目まで毎月、その後3ヵ月毎に採取した。ドロップレットデジタルポリメラーゼ連鎖反応による18ヵ月目のビジットまでのscAAV9.CB.hSMNベクター排出分析に、5人の患者からのサンプルを使用した。scAAV9.CB.hSMNベクター排出に関して分析した5人の患者全てに、1.1×1014vg/kgの治療用量を投与した。
【0442】
注入後の排出サンプル中にscAAV9.CB.hSMNを検出可能であった。尿及び唾液中のscAAV9.CB.hSMN濃度は、注入後1日目に体内初期濃度の0.1%~0.01%であり、その後、濃度は定量限界未満に下がった。便中では、注入後1日目に体内初期濃度の10%~30%のレベルを検出可能であった。1人の患者は、注入後14日目に便中に体内初期濃度の280%のピーク濃度を示した。対照的に、データを利用可能であった3人の患者は、注入後14日目に体内初期濃度の<1%の濃度を示し、濃度は注入後30日間にわたって約4log減少した(10,000分の1)。総じて、scAAV9.CB.hSMNは主に便で体外に除去され、便中では注入後60日目までに定量限界を下回った。
【0443】
実施例16-非臨床毒性試験
動物薬理学:Δ7 SMAマウス疾患モデル(SMN Δ7マウス)におけるscAAV9.CB.hSMNベクターの注入後、未治療SMN Δ7マウスと比較して体重が増加し、正向反射行動が改善し、生存が用量依存的に有意に延長し、及びSMA関連心臓障害が正常化した。
【0444】
動物毒性学:マウスにおける静脈内注入後、ベクター及びトランス遺伝子は広く分布し、最も高い発現が概して心臓及び肝臓に見られ、実質的な発現が脳及び脊髄に見られた。ピボタル優良試験所基準(Good Laboratory Practice:GLP)準拠3ヵ月マウス毒性試験において、毒性の主な標的器官は心臓及び肝臓であった。scAAV9.CB.hSMNベクター関連の心室所見は用量依存性の炎症、浮腫及び線維化を含み、心房所見は炎症及び血栓症を含んだ。肝所見は、肝細胞肥大、クッパー細胞活性化、及び散在性肝細胞壊死を含んだ。マウスにおけるscAAV9.CB.hSMNベクター関連の心及び肝所見について無有害作用量(NoAEL)は特定されず、最大耐量は、1.1×1014vg/kgの推奨治療用量に対して約1.4倍の安全域を与えて、1.5×1014vg/kgと定義された。マウスで観察された所見を霊長類に適用できるかどうかは、現時点では不明である。
【0445】
実施例17-小児患者における脊髄性筋萎縮症
本試験は、遺伝子検査によって両アレル性SMN1欠失、2コピーの生存運動ニューロン2(SMN2)、エクソン7におけるc.859G>C修飾の陰性所見が確認された、且つ臨床症状の発症が6ヵ月齢未満であるSMA1型患者におけるscAAV9.CB.hSMNベクターの安全性及び有効性を判定する第1相試験であった。0.9~7.9ヵ月齢の患者においてscAAV9.CB.hSMNベクターを単回用量注入時に静脈内送達した。2つのコホートに投与した:コホート1(n=3)は、本試験に用いられる低用量の投与を受け、コホート2(n=12)は、本試験に用いられる高用量(治療用量:1.1×1014vg/kg)の投与を受けた。報告される試験アウトカムはコホート2を反映し、scAAV9.CB.hSMNベクター注入後24ヵ月までの全患者のフォローアップを含む。
【0446】
死亡率及び無イベント生存率
生存及びイベントまでの時間分析がscAAV9.CB.hSMNベクターの有効性を裏付ける。コホート2では、全12人の患者(100%)が24ヵ月齢超で無イベントであったのに対し、自然歴研究では僅か8%の患者であった。これは、未治療の患者と比較したときの、scAAV9.CB.hSMNベクターを注入した患者についての全生存の有意且つ臨床的に有意味な増加を示している。注入後2年の時点で患者の死亡報告はなかった。
【0447】
運動発達マイルストーン
運動発達マイルストーンを調べた;全15人の患者についての評価をビデオで記録して、運動発達マイルストーンの獲得を確認できるようにした。コホート2の患者は、一貫して主要な運動発達マイルストーンを獲得し、維持した。投与後24ヵ月のフォローアップの時点で、11人の患者(91.7%)はその≧3秒の頸定保持及び≧5秒の支持なしでの座位が可能であり、10人の患者(83.3%)は≧10秒の支持なしでの座位が可能であり、9人の患者(75.0%)は≧30秒の支持なしでの座位が可能であり、及び2人の患者は各々(16.7%)、単独立位、支持ありでの歩行及び独歩が可能であった。本試験の進行中の観察的長期フォローアップに現在登録されているコホート2患者は、その運動発達マイルストーンを維持しており、一部は追加的な運動マイルストーンを獲得している。
【0448】
【0449】
肺
ベースライン時に非侵襲的換気(NIV)を使用していなかったコホート2の10人の患者のうち、7人は24ヵ月のフォローアップ時にNIVの日常使用がなかった。ほぼ全ての患者が、SMA1型小児において典型的に気管開口術又は死亡を招く共通の小児呼吸器疾患を起こした。全ての患者が、気管開口術又は持続的換気の必要性なしに呼吸器科入院を乗り切った。
【0450】
栄養
栄養確保もまた観察した。コホート2において、7人の患者は遺伝子置換療法前に経腸栄養を受けていなかった。これらの7人の患者のうち1人は、脊柱側彎症手術からの回復が困難であったことを受けて創傷治癒を促進するため栄養補助を有したが、経口摂取もあった。遺伝子置換療法前に経腸栄養を受けていたコホート2の5人の患者のうち4人は、試験終了時に経口摂取可能であった;従って、コホート2の12人の患者のうち合計11人が経口摂取可能で、6人は経口摂取のみであった。
【0451】
運動機能(CHOP-INTEND)
治療用量の投与を受けている患者は、1ヵ月目及び3ヵ月目までに統計的に有意な運動機能の改善を実現した;フィラデルフィア小児病院乳児神経筋疾患検査(CHOP-INTEND)のベースラインからの平均増加は、それぞれ9.8点(n=12、P<0.001)及び15.4点(n=12、P<0.001)であった。
【0452】
scAAV9.CB.hSMNベクターを注入した患者において、運動機能の改善は時間が経っても持続した。12人中11人(91.7%)のコホート2患者が24ヵ月時点で≧50のCHOP-INTENDスコアを実現した。早期の介入及び投与が応答に正の影響を及ぼすように見える。一般臨床診療では、6ヵ月齢以上の未治療SMA1型小児がCHOP-INTENDで40点のスコアを上回ることはない。更に、前向き自然歴の一部として追跡された未治療乳児では、6~12ヵ月齢の間に10.7点の平均低下が報告された。
【0453】
実施例18-qPCRを用いたAAV9ウイルスベクター中の残留宿主細胞DNAの測定
方法
この方法は、AAV原薬、例えばAVXS-101、及び工程間サンプル中の残留hcDNAのqPCRによる定量化に用いた。1プレート当たり最大6つのサンプルを試験した。qPCRアッセイはTaqManプローブを使用して実施した。TaqManプローブは、5’末端に結合した蛍光発生レポーター色素と、3’末端に結合した非蛍光性消光剤とを有する。プローブがインタクトな間は、消光剤がレポーター色素に近接しているため、レポーター色素が発する蛍光は大幅に減少する。プローブが切断されるとレポーター色素と消光剤とが分離し、レポーター蛍光が増加する。
【0454】
ヒトゲノム内の反復配列に結合するように設計された隣接フォワード及びリバースプライマーを反応混合物に加え、サンプル及び標準中に存在する標的配列にアニーリングさせた。TaqMan蛍光発生プローブはプライマー部位間にアニーリングした。鋳型変性、プライマーアニーリング及び産物伸長の連続サイクルにより、標的配列を増幅した。増幅サイクルの伸長ステップの間、Taq DNAポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性によってプローブからレポーター色素が放出され、消光剤から色素が遊離して、鋳型の量に比例した蛍光発光が生じた。
【0455】
qPCR機器によって96ウェルプレートの各ウェルの蛍光を測定した。追加のPCRサイクルを通じて標的配列の増量を行った。及び結果は、プローブからより多くのレポーター色素が放出され、連続PCRサイクル毎に蛍光が高まったというものである。蛍光シグナルが所定の閾値に達するために必要な増幅サイクル回数を測定する。このサイクルは、閾値サイクル又はCT値と称される。サンプル又は標準ウェル中の出発DNA濃度が高いほど、閾値蛍光レベルに達するために必要なPCRサイクルの回数が減り、CT値が低くなる。各標準時点について測定されるCT値に対してlog10(DNA濃度)をプロットすることにより、検量線を決定する。CT値を使用して、サンプルの個々のCT値を使用し且つDNA値について解くことにより、サンプル中に存在するDNAの量を決定する。
【0456】
初めにWakoDNA抽出キット(Wako、295-50201)を使用してサンプルを調製した。簡潔に言えば、試験用サンプルを十分に混合し、1000倍希釈した。希釈したサンプルを4本のチューブに分割し(各500μL)、それらのチューブのうちの2本に50μLの水を加え(スパイクなしレプリケート)、一方で他の2本のチューブに50μLの30,000pg/mL DNA標準を加えた(スパイクあり対照)。各チューブに20μLのN-ラウロイルサルコシン酸ナトリウム溶液を加えて5秒間ボルテックスし、次に短時間遠心することにより、タンパク質可溶化を実施した。グリコーゲン及びPellet Paint(Novagen、70748)を含有するNaI溶液を、それが2000:5:4の比のNaI:グリコーゲン:Pellet Paintとなるように調製した。各チューブに500μLのNaI混合物を加え、53℃±1℃で15分間インキュベートした。チューブを加熱から外し、900μLのイソプロパノールと混合し、室温で15分間インキュベートした。次にチューブを18℃において10,000gで15分間遠心し、上清をデカントした。残りのペレットを800μLの洗浄溶液Aで洗浄し、スピンし、2回再ペレット化した。最後に、グリコーゲンを含有する1500μLの冷イソプロパノール洗浄溶液でペレットを洗浄し、スピンし、再ペレット化した。最終ペレット化物を500μLヌクレアーゼフリー水に再懸濁した。
【0457】
resDNA SEQヒト定量キット(Applied Biosystems,A26366)を使用してqPCRを実施した。キットに指示されるとおり2×Environmentalマスターミックス、10×ヒトDNAアッセイミックス及び陰性対照を組み合わせることにより、反応混合物を調製した。20μL反応混合物を10μLの調製サンプルと混合し、PCRプレート上の各ウェルに加えた。各サンプルにつきトリプリケートでプレーティングした。プレートを光学粘着フィルムで密封した。熱サイクルでは、初めに融解を95℃で10分間実施し、次にサンプルを95℃で15秒間と60℃で1分間との間のサイクルに40サイクルかけた。
【0458】
log単位のDNA量([pg/mL])に対するCT値をプロットすることにより、検量線を作成した。以下の式によって与えられる直線にデータをフィッティングした:
CT値=m×log10(x)+b
式中、x=標準の濃度、pg/mL単位であり、mは傾きであり、及びbはy切片である。宿主細胞DNAの濃度は、上記の式を用いてウェルのCT値から逆算し、次に希釈係数によって補正した。
【0459】
結果
qPCRにより測定された残留宿主細胞DNAは、先行ベクターバッチについて3.7×105pg/mL、AVXS-101ロット600156について0.76×105pg/mL、AVXS1-101ロット600307について0.68×105pg/mL、及びAVXS-201 DSについて1.3×105pg/mLであった。
【0460】
実施例19-ELISAによるAAV9ウイルスベクター中の残留宿主細胞タンパク質(HCP)の測定
方法
市販の酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)キットを使用して、AVXS-101サンプル中の宿主細胞タンパク質(HCP)濃度を測定した。Cygnus Technologiesヒト胎児腎臓293HCP ELISAキットは、固相2部位酵素イムノアッセイである。これは直接サンドイッチ法に基づくもので、2つのポリクローナル抗体がHCPの別個の抗原決定基に対して向けられる。インキュベーションの間に、サンプル中のHCPが、マイクロプレートウェルに結合した抗HCP抗体及び溶液中のペルオキシダーゼコンジュゲート抗HCP抗体と結合した。
【0461】
インキュベーション期間後、ウェルを洗浄して全ての未結合の酵素コンジュゲート抗体を除去した。次にウェルに3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)基質溶液を加えた。結合したペルオキシダーゼコンジュゲートが基質の色変化反応を触媒した。酸を加えることによりこの反応を停止させると、450nmで分光光度法により(spectrophotmetrically)読み取ることのできる比色エンドポイントが得られた。加水分解された基質の量は、存在するHCPの濃度に正比例した。
【0462】
試験するサンプルを本方法の範囲4ng/mL~200ng/mLに適合するように希釈した。次に各サンプルをSDBで2倍希釈し(110μLサンプル及び110μL SDB)、混合した。一貫性を確かめるため、スパイクした対照もまた作製した。スパイクした対照では、110μLの各サンプルを27.5μLの200ng/mL HCP標準及び82.5μLのSDBと混合した。最後に、50μLの各標準、対照又は試験サンプルを96ウェルプレートのウェルに加え、100μLの抗HEK 293-HRPコンジュゲートと混合した。条件は全て、トリプリケートでプレーティングした。プレートをシールテープで密封し、室温において400~600rpmで2時間振盪した。インキュベーション後、ウェル内の溶液をプレートを逆さまにして振り払い、吸収性タオルで拭き取ることにより取り除いた。ウェルを洗浄瓶で洗浄し、手早く拭き取って軽く叩き、洗浄溶液をウェルに浸らせないようにした。この洗浄を4回繰り返し、最終回の洗浄後、逆さまにして約20秒間静置させることにより排液した。最後に、プレートの各ウェルに100μLのTMB基質を加え、撹拌なしに室温で20~30分間インキュベートした。100μLの停止液を各ウェルに加えることにより、反応を停止させた。このプレートを停止液を加えてから45分以内にプレートリーダーに装填し、プレートを450nm及び650nmで読み取った。
【0463】
片対数グラフ中に標準の平均吸光度を標準の理論上のHCP濃度に対してプロットして、以下の式に基づき4パラメータロジスティック(4PL)当てはめ曲線を作成した:
Y=[(A-D)/(1+(X/C)^B)]+D
式中、Aは下方漸近線であり、Bはヒル勾配であり、Cは2つの漸近線間の中点吸光度値に対応する濃度(ng/mL)であり、Dは上方漸近線であり、Xはサンプル濃度(ng/mL)であり、及びYは吸光度である。次にこの検量線を用いることにより、SoftMax Proソフトウェアを使用してスパイクありサンプル対照及びスパイクなし試験サンプルのHCP濃度を決定した。この試験は、検量線のr2が≧0.98であり、200ng/mL標準の平均補正後吸光度が≧1.0ODであり、0ng/mL標準の平均補正後吸光度が≦0.2ODであり、及び3ウェルレプリケートにわたる補正後吸光度の変動係数が≦15%であった場合に限り受け入れるものとした。各サンプルのHCP最終濃度は、以下の式を用いて計算した:
HCP濃度サンプル(ng/mL)=希釈係数×平均HCP濃度計測値(ng/mL)。
【0464】
結果
ELISAによって測定された残留宿主細胞タンパク質は、先行ベクターバッチ、AVXS-101ロット600156、AVXS1-101ロット600307及びAVXS-201 DSについて定量限界(8ng/mL)未満であった。
【0465】
実施例20-ELISAによるAAV9ウイルスベクター中の残留ベンゾナーゼの測定
方法
市販の酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)キットを使用して、AAV産物、例えばAVXS-101中の残留ベンゾナーゼ濃度を測定した。MerckベンゾナーゼエンドヌクレアーゼELISAキットIIは、固相2部位酵素イムノアッセイである。これは直接サンドイッチ法に基づくもので、2つのポリクローナル抗体がベンゾナーゼの別個の抗原決定基に対して向けられる。インキュベーションの間に、サンプル中のベンゾナーゼが、マイクロプレートウェルに結合した抗ベンゾナーゼ抗体及び溶液中のペルオキシダーゼコンジュゲート抗ベンゾナーゼ抗体と結合した。
【0466】
インキュベーション期間後、ウェルを洗浄して全ての未結合の酵素コンジュゲート抗体を除去した。次にウェルに3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)基質溶液を加えた。結合したペルオキシダーゼコンジュゲートが基質の色変化反応を触媒した。酸を加えることによりこの反応を停止させると、450nmで分光光度法により読み取ることのできる比色エンドポイントが得られた。加水分解された基質の量は、存在するベンゾナーゼの濃度に正比例する。
【0467】
簡潔に言えば、175μLのサンプルを175μLのPBSTと合わせることにより、サンプルを2倍希釈した。並行して、175μLのサンプルを35μLの10ng/mLベンゾナーゼ標準及び140μLのPBSTと合わせることにより、ベンゾナーゼでスパイクしたサンプル対照もまた調製した。キットからのプレコートしたELISAストリップをストリップ支持体にマウントし、各ウェルにつき100μLの各試験混合物をロードした。ブランクについては、サンプルの代わりに100μLのPBSTをロードした。各条件はトリプリケートでロードした。プレートを密封し、プレートシェーカー(450rpm)で撹拌しながら室温で2時間±5分インキュベートした。インキュベーション後、内容物を廃棄し、イムノウォッシャーを使用して約350μLのPBSTを加えることによりプレートを洗浄し、1分間インキュベートし、次に逆さにして吸収性タオルに載せて軽く叩いた。合計3回の洗浄を実施した後、各ウェルに100μLの希釈HRPコンジュゲート抗体を加えた。プレートを密封し、プレートシェーカー(450rpm)で撹拌しながら室温で1時間±5分インキュベートした。インキュベーション後、内容物を廃棄し、イムノウォッシャーを使用して約350μLのPBSTを加えることによりプレートを洗浄し、1分間インキュベートし、次に逆さにして吸収性タオルに載せて軽く叩いた。合計3回の洗浄を実施した後、各ウェルに100μLのTMB基質を加えた。プレートを密封し、内容物を暗所下で撹拌なしに室温で15~40分間インキュベートした。各ウェルに100μLの0.2N H2SO4停止液を加えることにより反応を停止させた。停止液を加えてから45分以内に分光光度計を使用して450nmでプレートの吸光度を測定した。
【0468】
片対数グラフ中に標準の平均吸光度を標準の理論上のベンゾナーゼ濃度に対してプロットして、以下の式に基づき4パラメータロジスティック(4PL)当てはめ曲線を作成した:
Y=[(A-D)/(1+(X/C)^B)]+D
式中、Aは下方漸近線であり、Bはヒル勾配であり、Cは2つの漸近線間の中点吸光度値に対応する濃度(ng/mL)であり、Dは上方漸近線であり、Xはサンプル濃度(ng/mL)であり、及びYは吸光度である。次にこの検量線を用いることにより、SoftMax Proソフトウェアを使用してスパイクありサンプル対照及びスパイクなし試験サンプルのHCP濃度を決定した。この試験は、検量線のr2が≧0.98であり、2.5ng/mL標準の平均補正後吸光度が≧1.0ODであり、0.10ng/mL標準の平均補正後吸光度がPBSTブランクの平均ODよりも高く、及び3ウェルレプリケートにわたる補正後吸光度の変動係数が≦15%であった場合に限り受け入れるものとした。各サンプルのHCP最終濃度は、以下の式を用いて計算した:
ベンゾナーゼ濃度サンプル(ng/mL)=希釈係数×平均ベンゾナーゼ濃度測定値(ng/mL)。
【0469】
結果
ELISAによって測定された残留ベンゾナーゼ濃度は、先行ベクターバッチ、AVXS-101ロット600156、AVXS1-101ロット600307及びAVXS-201 DSについて定量限界(0.2ng/mL)未満であった。
【0470】
実施例21-マイクロBCAアッセイによるAAV9ウイルスベクター中のタンパク質濃度の測定
方法
2mg/mLウシ血清アルブミン(Thermo Fisher Scientific、23209)参照タンパク質標準及びマイクロBCAタンパク質アッセイキット(Thermo Fisher Scientific、23235)を使用して、例えばAVXS-101の、工程間、原薬及び薬物製品サンプル中のタンパク質の量をマイクロBCAプレートアッセイにより測定した。このアッセイは、全タンパク質の比色検出及び定量化のためのデタージェント適合性ビシンコニン酸(BCA)製剤に基づく。BCAは、アルカリ性環境でタンパク質によってCu2+が減少すると形成されるCu1+を検出する。BCAの2つの分子が1つの第一銅イオン(Cu1+)とキレート化することにより紫色呈色反応産物が形成され、これは562nmで、タンパク質濃度の増加と線形関係にある強い吸光度を呈する。
【0471】
簡潔に言えば、希釈剤(20倍希釈の製剤緩衝液、200mM NaCl、20mMトリス、1mM MgCl2、0.001%w/v Pluronic F-68、pH8.0)に2mg/mL BSAの段階希釈を実施することにより標準を調製した。AVXS-101の試験サンプルもまた水に20倍希釈し、希釈剤中に段階希釈物を作製した。目標濃度は約7.5μg/mLである。キットからの25部のマイクロBCA試薬A、24部の試薬B及び1部の試薬Cを混合することにより、ワーキング試薬(WR)を調製した。150μLの各標準及び試験サンプルを96ウェルプレートにトリプリケートでロードし、150μLのWRと混合した。プレートを密封し、プレートシェーカー上で30秒間、300rpmで振盪した。次にプレートを振盪なしに37℃±2℃で2時間インキュベートした。インキュベーション後、プレートを1000rpmで2分間遠心して凝縮物を収集し、インキュベーション後にプレートを15~60分間冷却した。プレートをプレートリーダーにおいて562nmで読み取り、データをSoftMax Proで分析した。
【0472】
標準の平均吸光度と標準の理論上のタンパク質濃度を片対数プロットでプロットし、二次式の当てはめを作成した。二次式の当てはめは、以下の式に基づく:
Y=A+Bx+Cx2
式中、A、B、Cは曲線当てはめパラメータであり、xはサンプル濃度、μg/mL単位であり、及びYは吸光度、OD単位である。この試験は、検量線のr2が≧0.98であり、ブランクの平均吸光度が最も低い標準(1μg/mL)の平均吸光度未満であり、各標準の3ウェルレプリケートにわたる吸光度の変動係数が≦10%であった場合に限り受け入れるものとした。次にこの検量線を用いて、試験サンプル中のタンパク質濃度を決定した。最終的なタンパク質濃度は、以下の式を用いて計算した:
全タンパク質濃度(μg/mL)=希釈係数×平均タンパク質濃度計測値(μg/mL)。
【0473】
結果
マイクロBCAによって測定された全タンパク質濃度は、先行ベクターバッチについて1.0×1013vg/mL当たり167μg/mL、AVXS-101ロット600156について1.0×1013vg/mL当たり179μg/mL、AVXS1-101ロット600307について1.0×1013vg/mL当たり176μg/mL、AVXS-201 DPについて1.0×1013vg/mL当たり182μg/mL及びAVXS-301 DPについて1.0×1013vg/mL当たり418μg/mLであった。
【0474】
実施例22-AVXS-101、AVXS-201及びAVXS-301の純度及び出荷規格
実施例1~4からのAVXS-101原薬及びAVXS-101薬物製品を純度に関して試験した。表32及び表33は、これらの製品の規格及び出荷判定基準を示す。
【0475】
【0476】
【0477】
AVXS-101に関する記載、例えば実施例1~4の記載と同じ工程を用いてAVXS-201及びAVXS-301を製造し、精製することができる。バイオリアクターで産生された各製品のバッチの規格及び出荷判定基準を表34~表36に示す。
【0478】
【0479】
【0480】
【0481】
AVXS-201及びAVXS-301について実現した高純度は、本願に記載されるとおりのAAVウイルスベクターの産生及び精製方法が異なるペイロードのAAVウイルスベクターにわたって幅広い適用性を示すことを示している。
【0482】
添付の図面を参照しながら実施形態を説明したが、本開示は詳細な実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲に定義されるとおりの本開示及び実施形態の範囲又は趣旨から逸脱することなく当業者によってそれらに様々な変更及び修正がなされ得ることが理解されるべきである。
【0483】
例示的実施形態のリスト
1.医薬組成物であって、
(a)トランス遺伝子で操作された1~8×1013ベクターゲノム/mlのパルボウイルス;
(b)5.0%未満の空のカプシド;
(c)1×1013vg/ml当たり40ng/ml未満の残留宿主細胞タンパク質;
(d)1×1013vg/ml当たり1.2×106pg/ml未満の残留宿主細胞DNA
を含み;及び、
(e)1~8×1013ベクターゲノム/mlの少なくとも80%が機能性である、組成物。
【0484】
2.残留プラスミドDNAの量が1×1013vg当たり1.7×106pg未満を含む、実施形態1の組成物。
【0485】
3.パルボウイルスのベクターゲノム/mlの量が1.8~2.2×1013ベクターゲノム/mlを含む、実施形態1の組成物。
【0486】
4.哺乳類宿主細胞培養物からAAV粒子を精製して凍結中間原薬を形成する方法であって、
(a)組換えAAVビリオンをトランスフェクトされた細胞を培養するステップ;
(b)培養期間後に細胞から拡大したウイルス粒子を回収するステップ;
(c)ウイルス粒子をろ過によって精製して任意のインタクトな細胞又は細胞デブリを除去するステップ;
(d)ステップ(c)からの溶出液をタンジェンシャルフローろ過に供するステップ;及び、
(e)得られた精製ウイルス粒子中間調製物を凍結するステップ
を含む方法。
【0487】
5.回収ステップ中にエンドヌクレアーゼが使用される、実施形態4の方法。
【0488】
6.エンドヌクレアーゼがベンゾナーゼである、実施形態5の方法。
【0489】
7.精製ステップがデプスろ過と、それに続く大型分子夾雑物及び細胞デブリを除去するフィルタでのろ過を用いる、実施形態4の方法。
【0490】
8.タンジェンシャルフローろ過ステップがセルロース膜を使用する、実施形態4の方法。
【0491】
9.哺乳類宿主細胞培養物からAAV粒子のサンプルを精製して薬物製品を形成する方法であって、
(a)酸性化及び清澄化ステップ;
(b)陽イオン交換クロマトグラフィーステップ;
(c)タンジェンシャルフローろ過ステップ;
(d)CsCl超遠心によって空のカプシドを除去するステップ;及び、
(e)タンジェンシャルフローろ過ステップ
を含む方法。
【0492】
10.酸性化及び清澄化ステップが、サンプルをpH3.5に調整することを含み、宿主細胞タンパク質及びDNAがデタージェントによるフロキュレーションによって除去される、実施形態9の方法。
【0493】
11.陽イオン交換カラムがスルホニル樹脂を含む、実施形態9の方法。
【0494】
12.タンジェンシャルフローろ過ステップ(c)が300kDa MWの分子量カットオフのセルロース膜を使用し、陽イオン交換ステップの溶出物容積を少なくとも6分の1に低減する、実施形態9の方法。
【0495】
13.CsCl超遠心ステップがサンプル中の空のカプシドの少なくとも80%を除去し、デプスろ過と、それに続く0.45ミクロンフィルタでのろ過を用いる、実施形態9の方法。
【0496】
14.タンジェンシャルフローろ過ステップ(e)が300kDa MWの分子量カットオフのセルロース膜を使用する、実施形態9の方法。
【0497】
15.実施形態1~3のいずれか1つの医薬組成物の静脈内又は髄腔内送達を含む、それを必要としている患者における神経学的疾患の治療方法であって、パルボウイルスが自己相補的AAV9ゲノムを含み、及び操作されたトランス遺伝子がSMNポリヌクレオチドを含み、及び疾患がSMAである、方法。
【0498】
16.実施形態1~3のいずれか1つの医薬組成物の造影剤と合わせた髄腔内送達を含む、それを必要としている患者における神経学的疾患の治療方法であって、パルボウイルスが自己相補的AAV9ゲノムを含み、及び操作されたトランス遺伝子がSMNポリヌクレオチドを含み、疾患がSMAであり、及び造影剤がomnipaque 180である、方法。
【0499】
17.SMAがII型、III型又はIV型SMAである、実施形態15~16のいずれか1つの方法。
【0500】
18.実施形態1~3のいずれか1つの医薬組成物の造影剤と合わせた髄腔内送達を含む、それを必要としている患者におけるII型、III型、又はIV型SMAの治療方法であって、パルボウイルスが自己相補的AAV9ゲノムを含み、操作されたトランス遺伝子がSMNポリヌクレオチドを含み、及び造影剤がomnipaque 180である、方法。
【0501】
19.実施形態1~3のいずれか1つの医薬組成物の静脈内送達を含む、それを必要としている患者におけるI型SMAの治療方法であって、パルボウイルスが自己相補的AAV9ゲノムを含み、及び操作されたトランス遺伝子がSMNポリヌクレオチドを含む、方法。
【0502】
20.患者が0~9ヵ月齢である、実施形態19の方法。
【0503】
21.患者が0~6ヵ月齢である、実施形態20の方法。
【0504】
22.小児患者が最大約8kgの体重である、実施形態19の方法。
本発明の様々な実施形態を以下に示す。
1.a.1~8×10
13
AAV9ウイルスベクターゲノム/mL(vg/mL);
b.約7%未満の空のウイルスカプシド;
c.1×10
13
vg/mL当たり約100ng/mL未満の宿主細胞タンパク質;
d.1×10
13
vg/mL当たり約5×10
6
pg/mL未満の残留宿主細胞DNA
を含む医薬組成物であって;
及び前記1~8×10
13
AAV9ウイルスベクターゲノム/mLの少なくとも約80%が機能性である、組成物。
2.前記AAV9ウイルスベクターが、生存運動ニューロン(SMN)タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、上記1に記載の組成物。
3.前記AAV9ウイルスベクターが、メチルCpG結合タンパク質2(MECP2)タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、上記1に記載の組成物。
4.前記AAV9ウイルスベクターが、スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)を標的とする低分子ヘアピンRNA(shRNA)をコードするポリヌクレオチドを含む、上記1に記載の組成物。
5.前記AAV9ウイルスベクターが、修飾AAV2 ITR、ニワトリβ-アクチン(CB)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)前初期エンハンサー、修飾SV40後期16sイントロン、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化シグナル、及び非修飾AAV2 ITRを含む、上記2に記載の組成物。
6.前記ポリヌクレオチドが配列番号2のSMNタンパク質をコードする、上記2又は5に記載の組成物。
7.前記AAV9ウイルスベクターが配列番号1を含む、上記2、5、又は6のいずれかに記載の組成物。
8.1.7~2.3×10
13
AAV9vg/mLを含む、上記1~7のいずれかに記載の組成物。
9.1.9~2.1×10
13
AAV9vg/mLを含む、上記1~8のいずれかに記載の組成物。
10.約2×10
13
AAV9vg/mLを含む、上記1~9のいずれかに記載の組成物。
11.約5%未満の空のカプシドを含む、上記1~10のいずれかに記載の組成物。
12.約3%未満の空のカプシドを含む、上記1~11のいずれかに記載の組成物。
13.約1%未満の空のカプシドを含む、上記1~12のいずれかに記載の組成物。
14.1~2×10
14
vgのAAV9ウイルスベクターを含む又はそれからなる、上記1~13のいずれかに記載の組成物。
15.1.1×10
14
vgのAAV9ウイルスベクターを含む又はそれからなる、上記1~14のいずれかに記載の組成物。
16.1.7×10
14
vgのAAV9ウイルスベクターからなる、上記1~15のいずれかに記載の組成物。
17.機能性ウイルスベクターゲノムのパーセンテージが、インビトロ細胞アッセイ又はインビボ動物モデルを用いて測定される、上記1~16のいずれかに記載の組成物。
18.生存運動ニューロン(SMN)タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むAAV9ウイルスベクター、トリス緩衝液、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、及びポロキサマー(例えば、ポロキサマー188)を含む水性医薬製剤であって、前記医薬組成物が保存剤を含まない、製剤。
19.前記AAV9ウイルスベクターが、修飾AAV2 ITR、ニワトリβ-アクチン(CB)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)前初期エンハンサー、修飾SV40後期16sイントロン、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化シグナル、及び非修飾AAV2 ITRを更に含む、上記18に記載の製剤。
20.前記ポリヌクレオチドが配列番号2のSMNタンパク質をコードする、上記18又は19に記載の製剤。
21.前記AAV9ウイルスベクターが配列番号1を含む、上記18~20のいずれかに記載の製剤。
22.前記トリス緩衝液濃度が約10~30nM、例えば約20mMである、上記18~21のいずれかに記載の製剤。
23.前記製剤のpHが約7.7~約8.3、例えば約pH8.0(例えば、USP<791>により測定したとき)である、上記18~22のいずれかに記載の製剤。
24.前記塩化マグネシウム濃度が約0.5~1.5mM、例えば約1mMである、上記18~23のいずれかに記載の製剤。
25.前記塩化ナトリウム濃度が約100~300mM、例えば約200mMである、上記18~24のいずれかに記載の製剤。
26.約0.005%w/vのポロキサマー188を含む、上記18~25のいずれかに記載の製剤。
27.390~430mOsm/kgのオスモル濃度(例えば、USP<785>により測定したとき)を有する、上記18~26のいずれかに記載の製剤。
28.前記AAV9ウイルスベクターが、上記1~17のいずれかに記載の組成物中にある、上記18~27のいずれかに記載の製剤。
29.上記18~28のいずれかに記載の製剤又は上記2又は5~17のいずれかに記載の組成物を髄腔内又は静脈内経路によって患者に投与することを含む、それを必要としている患者におけるI型脊髄性筋萎縮症(SMA)の治療方法であって、前記患者が、
a.9ヵ月齢以下であり;
b.少なくとも約2.6kgの体重であり;
c.両アレル性SMN1ヌル突然変異又は欠失を有し;及び
d.SMN2の少なくとも1つの機能性コピーを有する、方法。
30.前記AAV9ウイルスベクターが、修飾AAV2 ITR、ニワトリβ-アクチン(CB)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)前初期エンハンサー、修飾SV40後期16sイントロン、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化シグナル、及び非修飾AAV2 ITRを含む、上記29に記載の方法。
31.前記ポリヌクレオチドが配列番号2のSMNタンパク質をコードする、上記29又は30に記載の方法。
32.前記AAV9ウイルスベクターが配列番号1を含む、上記29~31のいずれかに記載の方法。
33.前記ウイルスベクターを約1~2.5×10
14
vg/kgの用量で投与することを含む、上記29~32のいずれかに記載の方法。
34.前記ウイルスベクターを約1.1×10
14
vg/kgの用量で投与することを含む、上記29~33のいずれかに記載の方法。
35.ウイルスベクターゲノムの量が、ddPCRを用いて測定される、上記33又は34に記載の方法。
36.前記患者が約8.5kg以下の体重である、上記29~35のいずれかに記載の方法。
37.前記患者がSMN2遺伝子の少なくとも1つのコピーのエクソン7にc.859G>C置換を有しない、上記29~36のいずれかに記載の方法。
38.前記治療が6ヵ月齢より前に前記患者に投与される、上記29~37のいずれかに記載の方法。
39.前記治療が、筋緊張低下、運動技能遅滞、定頸不全、円背姿勢及び関節過度可動性から選択される1つ以上のSMA症状が発生する前に前記患者に投与される、上記29~38のいずれかに記載の方法。
40.前記患者が、投与前にELISA結合イムノアッセイによって決定したとき1:100以下の抗AAV9抗体力価を有する、上記29~39のいずれかに記載の方法。
41.前記患者が、投与前にELISA結合イムノアッセイによって決定したとき1:50以下の抗AAV9抗体力価を有する、上記29~40のいずれかに記載の方法。
42.前記患者が、投与後にELISA結合イムノアッセイによって決定したとき1:100を上回る抗AAV9力価を有し、約1~8週間にわたって、又は力価が1:100未満に低下するまでモニタされる、上記29~41のいずれかに記載の方法。
43.前記患者が、投与後にELISA結合イムノアッセイによって決定したとき1:100を上回る抗AAV9力価を有し、約1~8週間にわたって、又は力価が1:50未満に低下するまでモニタされる、上記29~42のいずれかに記載の方法。
44.前記患者が、投与前又は投与後にELISA結合イムノアッセイによって決定したとき1:100を上回る抗AAV9力価を有し、例えば投与前又は投与後に人工栄養に切り換えられる、上記29~39のいずれかに記載の方法。
45.前記患者が、投与前又は投与後にELISA結合イムノアッセイによって決定したとき1:50を上回る抗AAV9力価を有し、例えば投与前又は投与後に人工栄養に切り換えられる、上記29~39のいずれかに記載の方法。
46.前記患者が、投与後にELISA結合イムノアッセイによって決定したとき1:100を上回る抗AAV9力価を有し、プラスマフェレーシスを用いて治療される、上記29~45のいずれかに記載の方法。
47.前記患者が、投与後にELISA結合イムノアッセイによって決定したとき1:50を上回る抗AAV9力価を有し、プラスマフェレーシスを用いて治療される、上記29~46のいずれかに記載の方法。
48.前記患者が、投与前に約67,000細胞/mlより高い、又は約100,000細胞/mlより高い、又は約150,000細胞/mlより高い血小板数を有する、上記29~47のいずれかに記載の方法。
49.前記患者が、投与後に約67,000細胞/mlより低い、又は約100,000細胞/mlより低い、又は約150,000、細胞/mlより低い血小板数を有し、約1~8週間にわたって、又は血小板数が約67,000細胞/ml、又は約100,000細胞/mlを上回る、又は約150,000細胞/mlを上回るまでモニタされる、上記29~48のいずれかに記載の方法。
50.前記患者が、投与後に約67,000細胞/mlより低い血小板数を有し、血小板輸血で治療される、上記29~49のいずれかに記載の方法。
51.前記患者が投与前に血小板減少症を有しない、上記29~50のいずれかに記載の方法。
52.前記患者が投与後に血小板減少症を有し、約1~8週間にわたって、又は前記患者が血小板減少症を有しなくなるまでモニタされる、上記29~51のいずれかに記載の方法。
53.前記患者が投与後に血小板減少症を有し、血小板輸血で治療される、上記29~52のいずれかに記載の方法。
54.前記患者が前記ウイルスベクターの投与前に約0.176ug/ml未満のトロポニン-Iレベルを有する、上記29~53のいずれかに記載の方法。
55.前記患者の前記トロポニン-Iレベルが前記ウイルスベクターの投与後にモニタされる、上記29~54のいずれかに記載の方法。
56.投与後に前記患者のトロポニン-Iレベルが約0.176ug/ml未満になるまで心モニタリングが実施される、上記54又は55に記載の方法。
57.前記患者が投与前に正常な肝機能を有する、上記29~56のいずれかに記載の方法。
58.前記患者が投与前に約8~40U/L未満の肝トランスアミナーゼレベルを有する、上記57に記載の方法。
59.前記肝トランスアミナーゼが、アラニントランスアミナーゼ(AST)、アスパラギン酸トランスアミナーゼ(ALT)、及びこれらの組み合わせから選択される、上記58に記載の方法。
60.前記患者が、投与前に3.0mg/dL未満のビリルビンレベル、1.8mg/dL未満のクレアチニンレベル、8~18g/dLのHgbレベル、及び/又は約20000/mm
3
未満の白血球数を有する、上記29~59のいずれかに記載の方法。
61.前記ウイルスベクターがトリス緩衝生理食塩水中に入れて投与される、上記29~60のいずれかに記載の方法。
62.前記ウイルスベクターが、約5~20mL/kg、約10~20mL/kg、又は約5.5~6.5mL/kgのトリス緩衝生理食塩水で投与される、上記29~61のいずれかに記載の方法。
63.前記ウイルスベクターが約45~75分かけて注入される、上記29~62のいずれかに記載の方法。
64.前記ウイルスベクターが約60分かけて注入される、上記29~63のいずれかに記載の方法。
65.前記注入がシリンジポンプを含む、上記63又は64に記載の方法。
66.前記患者が前記ウイルスベクターの投与の少なくとも24時間前に経口ステロイド薬を投与される、上記29~65のいずれかに記載の方法。
67.前記患者が前記ウイルスベクターの投与後少なくとも30日間にわたって経口ステロイド薬を投与される、上記29~66のいずれかに記載の方法。
68.前記経口ステロイド薬が1日1回投与される、上記67に記載の方法。
69.前記経口ステロイド薬が1日2回投与される、上記67に記載の方法。
70.前記患者が、前記ウイルスベクターの投与後にALT及び/又はASTのレベルの上昇に関してモニタされ、前記経口ステロイド薬が30日後もAST及び/又はALTレベルが正常上限の2倍未満又は約120IU/L未満になるまで投与され続ける、上記66~69のいずれかに記載の方法。
71.前記患者が経口ステロイド薬を、AST及び/又はALTレベルが正常上限の2倍未満又は約120IU/L未満になるまで投与される、上記66~70のいずれかに記載の方法。
72.前記経口ステロイド薬が約1mg/kgの用量で投与される、上記66~70のいずれかに記載の方法。
73.AST及びALTが正常上限の2倍未満又は約120IU/L未満になった後、前記経口ステロイド薬投与を漸減させることを更に含む、上記66~71のいずれかに記載の方法。
74.前記漸減が、2週間で0.5mg/kg/日に至らせ、続いて更に2週間で0.25mg/kg/日に至らせる段階的増加を含む、上記73に記載の方法。
75.前記経口ステロイド薬を約1mg/kgの用量で30日間投与し、次に2週間で0.5mg/kg/日に至り、続いて更に2週間で0.25mg/kg/日に至るまで漸減させることを含む、上記66~73のいずれかに記載の方法。
76.前記経口ステロイド薬がプレドニゾロン又は等価薬である、上記66~75のいずれかに記載の方法。
77.前記患者に筋エンハンサー又は神経保護剤を投与することを含む、上記29~76のいずれかに記載の方法。
78.前記患者にSMNを標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドを投与することを含む、上記29~77のいずれかに記載の方法。
79.前記患者にヌシネルセンを投与することを含む、上記29~78のいずれかに記載の方法。
80.前記患者にスタムルマブを投与することを含む、上記29~79のいずれかに記載の方法。
81.有効性がCHOP-INTEND尺度を用いて決定される、上記29~80のいずれかに記載の方法。
82.疾患発症を伴う又は伴わない脊髄性筋萎縮症(SMA)I型小児患者の治療方法であって、上記2又は5~28のいずれかに記載のアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを含む組成物又は製剤を前記患者に投与することを含む、方法。
83.それを必要としている患者におけるレット症候群の治療方法であって、上記3又は8~17のいずれかに記載の組成物を髄腔内又は静脈内経路によって前記患者に投与することを含む、方法。
84.それを必要としている患者における筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療方法であって、上記4又は8~17のいずれかに記載の組成物を髄腔内又は静脈内経路によって前記患者に投与することを含む、方法。
85.I型SMAに罹患している患者の治療方法であって、
a.前記患者の体重を決定すること;
b.AAV9ウイルスベクター医薬組成物のバイアルが入ったキットを入手することであって、前記キットが以下の本数のバイアルを含み:
c.各バイアルのウイルスベクター濃度が約2.0×10
13
vg/mLであり;
d.前記AAV9ウイルスベクターが、SMNタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むこと;及び
e.前記バイアルから前記AAV9ウイルスベクターを前記患者に投与することを含む、方法。
86.前記AAV9ウイルスベクターが、突然変異AAV2 ITR、ニワトリβ-アクチン(CB)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)前初期エンハンサー、修飾SV40後期16sイントロン、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化シグナル、及びAAV2 ITRを含む、上記85に記載の方法。
87.前記ポリヌクレオチドが配列番号2のSMNタンパク質をコードする、上記85又は86に記載の方法。
88.前記AAV9ウイルスベクターが配列番号1を含む、上記85~87のいずれかに記載の方法。
89.前記AAVウイルスベクターが約1.0×10
14
~2.5×10
14
vg/kgの用量で注入によって投与される、上記85~88のいずれかに記載の方法。
90.前記AAVウイルスベクターが約1.1×10
14
vg/kgの用量で注入によって投与される、上記85~89のいずれかに記載の方法。
91.前記ウイルスベクターが約45~70分かけて注入される、上記89又は90に記載の方法。
92.前記ウイルスベクターが約60分かけて注入される、上記89~91のいずれかに記載の方法。
93.前記注入がシリンジポンプを含む、上記89~92のいずれかに記載の方法。
94.ウイルスベクターゲノムの量がddPCRを用いて測定される、上記85~93のいずれかに記載の方法。
95.AAV9ウイルスベクターの用量力価がddPCRによって測定される、上記85~94のいずれかに記載の方法。
96.以下の用量容積を投与することを含む、上記85~95のいずれかに記載の方法。
97.上記2又は5~17のいずれかに記載の組成物又は上記18~28のいずれかに記載の製剤が入ったバイアルを含む、I型脊髄性筋萎縮症(SMA)に罹患している患者の治療用キット。
98.生存運動ニューロン(SMN)タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、且つpH7.7~8.3、例えば約8.0で20mMトリス、1mM MgCl
2
、200mM NaCl、0.005%w/vポロキサマー188中約2.0×10
13
vg/mLの濃度で製剤化された約5.5mL又は約8.3mLのAAV9ウイルスベクターが入ったバイアルを含むキット。
99.前記AAV9ウイルスベクターが、突然変異AAV2 ITR、ニワトリβ-アクチン(CB)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)前初期エンハンサー、修飾SV40後期16sイントロン、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化シグナル、及びAAV2 ITRを含む、上記98に記載のキット。
100.前記ポリヌクレオチドが配列番号2のSMNタンパク質をコードする、上記98又は99に記載のキット。
101.前記AAV9ウイルスベクターが配列番号1を含む、上記98~100のいずれかに記載のキット。
102.ウイルスベクターゲノムの量がddPCRを用いて測定される、上記98~101のいずれかに記載のキット。
103.ある容積の上記2又は5~17のいずれかに記載の組成物又は上記18~28のいずれかに記載の製剤をそれを必要としている患者に静脈内注入によって投与することを含む、I型SMAの治療方法。
104.前記患者の体重が2.6~3.0kgである場合、前記容積が16.5mLである、上記103に記載の方法。
105.前記患者の体重が3.1~3.5kgである場合、前記容積が19.3mLである、上記103に記載の方法。
106.前記患者の体重が3.6~4.0kgである場合、前記容積が22.0mLである、上記103に記載の方法。
107.前記患者の体重が4.1~4.5kgである場合、前記容積が24.8mLである、上記103に記載の方法。
108.前記患者の体重が4.6~5.0kgである場合、前記容積が27.5mLである、上記103に記載の方法。
109.前記患者の体重が5.1~5.5kgである場合、前記容積が30.3mLである、上記103に記載の方法。
110.前記患者の体重が5.6~6.0kgである場合、前記容積が33.0mLである、上記103に記載の方法。
111.前記患者の体重が6.1~6.5kgである場合、前記容積が35.8mLである、上記103に記載の方法。
112.前記患者の体重が6.6~7.0kgである場合、前記容積が38.5mLである、上記103に記載の方法。
113.前記患者の体重が7.1~7.5kgである場合、前記容積が41.3mLである、上記103に記載の方法。
114.前記患者の体重が7.6~8.0kgである場合、前記容積が44.0mLである、上記103に記載の方法。
115.前記患者の体重が8.1~8.5kgである場合、前記容積が46.8mLである、上記103に記載の方法。
116.AAVウイルスベクターの製造方法であって、
a.接着細胞を培養すること;
b.前記接着細胞に1つ又は複数のプラスミドをトランスフェクトして前記AAVウイルスベクターの産生を可能にすること;
c.前記接着細胞を溶解させて前記AAVウイルスベクターを単離すること;
d.前記(c)の細胞ライセートを酸性化及び清澄化すること;
e.前記(d)の産物を陽イオン交換クロマトグラフィー(CEX)を用いて精製すること;
f.前記(e)の産物をタンジェンシャルフローろ過(TFF)を用いてろ過すること;
g.前記(f)の産物を塩化セシウム(CsCl)緩衝液中で超遠心すること;及び
h.前記(g)の産物から前記AAVウイルスベクターを回収すること
を含む方法。
117.前記AAVがAAV9である、上記116に記載の方法。
118.前記AAVが自己相補的(scAAV)である、上記116又は117に記載の方法。
119.前記接着細胞がHEK293細胞である、上記116~118のいずれかに記載の方法。
120.前記接着細胞が培養前に接着性に関して選択される、上記116~119のいずれかに記載の方法。
121.前記選択が、前記接着細胞を複数回継代培養することにより接着性に関して選択することを含む、上記116~120のいずれかに記載の方法。
122.前記接着細胞が培養用バイオリアクターに播種される、上記116~121のいずれかに記載の方法。
123.前記バイオリアクターが、細胞培養培地の連続循環を提供することができる大規模バイオリアクターである、上記122に記載の方法。
124.前記バイオリアクターが200m
2
又は333m
2
バイオリアクターである、上記122又は123に記載の方法。
125.前記バイオリアクターが500m
2
バイオリアクターである、上記122又は123に記載の方法。
126.前記接着細胞を再循環培地バッグ内の培地に加え、例えば蠕動ポンプを使用して前記バイオリアクターに循環させる、上記122~125のいずれかに記載の方法。
127.前記接着細胞が培養用バイオリアクターに播種される間、前記蠕動ポンプ輸送が継続される、上記126に記載の方法。
128.前記播種密度が約8,000~12,000細胞/cm
2
である、上記122~127のいずれかに記載の方法。
129.前記トランスフェクションステップが、前記再循環培地バッグにトランスフェクション培地を加えること、及び前記トランスフェクション培地を例えば蠕動ポンプを使用して前記バイオリアクターに循環させることを含む、上記122~128のいずれかに記載の方法。
130.前記循環、例えば蠕動ポンプ輸送が15~25℃で行われる、上記126~129のいずれかに記載の方法。
131.前記トランスフェクションステップが、アデノウイルスヘルパープラスミド(pHELP)を前記接着細胞に接触させることを含む、上記116~130のいずれかに記載の方法。
132.前記トランスフェクションステップが、AAV rep遺伝子をコードするプラスミドを前記接着細胞に接触させることを含む、上記116~131のいずれかに記載の方法。
133.前記トランスフェクションステップが、AAV cap遺伝子をコードするプラスミドを前記接着細胞に接触させることを含む、上記116~132のいずれかに記載の方法。
134.前記トランスフェクションステップが、同じプラスミド(pAAV)上にAAV rep遺伝子及びAAV cap遺伝子をコードするプラスミドを前記接着細胞に接触させることを含む、上記116~133のいずれかに記載の方法。
135.前記AAV rep遺伝子がrep2である、上記132又は134に記載の方法。
136.前記AAV cap遺伝子がcap9である、上記133又は134に記載の方法。
137.前記トランスフェクションステップが、トランスフェクション剤ポリエチレンイミン(PEI)を前記接着細胞に接触させることを含む、上記116~135のいずれかに記載の方法。
138.PEIと前記プラスミドのうちの少なくとも1つとの比が重量基準で1:1未満である、上記137に記載の方法。
139.PEIと前記プラスミドのうちの少なくとも1つとの比が重量基準で約1:1である、上記137に記載の方法。
140.前記トランスフェクションステップが、血清を含有しないトランスフェクション培地を前記接着細胞に接触させることを含む、上記116~139のいずれかに記載の方法。
141.前記トランスフェクションステップが、カルシウムを含有しないトランスフェクション培地を前記接着細胞に接触させることを含む、上記116~140のいずれかに記載の方法。
142.前記トランスフェクションステップが、グルタミンを含有しないトランスフェクション培地を前記接着細胞に接触させることを含む、上記116~141のいずれかに記載の方法。
143.前記トランスフェクションステップが10~60分間実施される、上記116~142のいずれかに記載の方法。
144.前記トランスフェクションステップが10~30分間実施される、上記116~143のいずれかに記載の方法。
145.前記トランスフェクションステップが30分未満の間実施される、上記116~144のいずれかに記載の方法。
146.前記トランスフェクションステップが20~30分間実施される、上記116~145のいずれかに記載の方法。
147.前記トランスフェクションステップが15~30分間実施される、上記116~146のいずれかに記載の方法。
148.前記溶解するステップが全細胞溶解を含む、上記116~147のいずれかに記載の方法。
149.前記溶解するステップが、エンドヌクレアーゼを補足した溶解緩衝液を使用することを含む、上記116~148のいずれかに記載の方法。
150.前記エンドヌクレアーゼがベンゾナーゼである、上記149に記載の方法。
151.前記溶解するステップが、TWEENを補足した溶解緩衝液を使用することを含む、上記116~150のいずれかに記載の方法。
152.前記溶解するステップが15~25℃で実施される、上記116~151のいずれかに記載の方法。
153.前記ステップ(c)の細胞ライセートを前記(d)の酸性化ステップ前に凍結することを更に含む、上記116~152のいずれかに記載の方法。
154.細胞培養ライセートからのAAVウイルスベクターの精製方法であって、
a.前記細胞ライセートを酸性化及び清澄化するステップ;
b.前記(a)の産物を陽イオン交換クロマトグラフィー(CEX)を用いて精製するステップ;
c.前記(b)の産物をタンジェンシャルフローろ過でろ過するステップ;
d.前記(c)の産物を2~4M塩化セシウム(CsCl)緩衝液を用いて超遠心するステップ;
e.前記(d)の産物から前記AAVウイルスベクターを収集するステップ;
f.前記(e)の産物をタンジェンシャルフローろ過でろ過するステップ
を含む方法。
155.前記酸性化ステップが、前記細胞ライセートを約3.0~4.0のpHに酸性化することを含む、上記116~154のいずれかに記載の方法。
156.前記酸性化ステップが、前記細胞ライセートを約3.3~3.7のpHに酸性化することを含む、上記116~155のいずれかに記載の方法。
157.前記酸性化ステップが、前記細胞ライセートを約3.4~3.6のpHに酸性化することを含む、上記116~156のいずれかに記載の方法。
158.前記酸性化ステップが、前記細胞ライセートを約3.5のpHに酸性化することを含む、上記116~157のいずれかに記載の方法。
159.前記超遠心が40,000~50,000rpmで実施される、上記116~158のいずれかに記載の方法。
160.前記超遠心が約43,000~46,000rpmで実施される、上記116~159のいずれかに記載の方法。
161.前記超遠心が15~25℃で実施される、上記116~160のいずれかに記載の方法。
162.前記超遠心が16~24時間実施される、上記116~161のいずれかに記載の方法。
163.前記超遠心が20~24時間実施される、上記116~162のいずれかに記載の方法。
164.前記CsClが約3Mの濃度である、上記116~168のいずれかに記載の方法。
165.前記細胞ライセートが前記酸性化ステップの前にTweenと共にインキュベートされる、上記116~164のいずれかに記載の方法。
166.前記細胞ライセートが前記酸性化ステップの前にTweenと共に約8~20時間インキュベートされる、上記116~165のいずれかに記載の方法。
167.前記清澄化ステップが、前記細胞ライセートをデプスフィルタでろ過することを含む、上記116~166のいずれかに記載の方法。
168.前記清澄化ステップが、前記細胞ライセートを0.45ミクロンフィルタでろ過することを含む、上記116~167のいずれかに記載の方法。
169.前記CEXがスルホニル樹脂を含む、上記116~168のいずれかに記載の方法。
170.少なくとも1つのTFFステップが、300kDa MWの分子量カットオフのセルロース膜を使用することを含み、前記陽イオン交換ステップの溶出物容積を少なくとも6分の1に低減する、上記116~169のいずれかに記載の方法。
171.少なくとも1つのTFFステップが、約300kDa MWの分子量カットオフのセルロース膜を使用することを含む、上記116~170のいずれかに記載の方法。
172.前記CsCl緩衝液が約3M CsClを含む、上記116~171のいずれかに記載の方法。
173.前記CsCl緩衝液が、トリス、MgCl
2
、及びポロキサマー188を含む、上記116~172のいずれかに記載の方法。
174.前記CsCl緩衝液が約20mMトリスを含む、上記116~173のいずれかに記載の方法。
175.前記CsCl緩衝液が約2mM MgCl
2
を含む、上記116~174のいずれかに記載の方法。
176.前記CsCl緩衝液が、ポロキサマー188、任意選択で約0.2%w/vポロキサマー188を含む、上記116~175のいずれかに記載の方法。
177.前記CsCl緩衝液が約pH7.5~8.5である、上記116~176のいずれかに記載の方法。
178.前記CsCl緩衝液が約pH7.9~8.2である、上記116~177のいずれかに記載の方法。
179.空のウイルスカプシドの数が、前記超遠心した細胞ライセートから前記AAVウイルスベクターを収集した後の総ウイルスカプシドの7%未満である、上記116~178のいずれかに記載の方法。
180.空のウイルスカプシドの数が、前記超遠心した細胞ライセートから前記AAVウイルスベクターを収集した後の総ウイルスカプシドの5%未満である、上記116~179のいずれかに記載の方法。
181.空のウイルスカプシドの数が、前記超遠心した細胞ライセートから前記AAVウイルスベクターを収集した後の総ウイルスカプシドの3%未満である、上記116~200のいずれかに記載の方法。
182.空のウイルスカプシドの数が、前記超遠心した細胞ライセートから前記AAVウイルスベクターを収集した後の総ウイルスカプシドの1%未満である、上記116~201のいずれかに記載の方法。
183.空のウイルスカプシドの数がAUCによって測定される、上記179~182のいずれかに記載の方法。
184.前記AAVウイルスベクターが、前記超遠心した細胞ライセートからシリンジを使用して収集される、上記116~183のいずれかに記載の方法。
185.前記2回目のTFFステップ後に収集される前記AAVウイルスベクターが、トリス、MgCl
2
、NaCl、及びポロキサマー188を含む溶液中に貯蔵される、上記116~184のいずれかに記載の方法。
186.前記溶液が約20mMトリスを含む、上記185に記載の方法。
187.前記溶液が約1mM MgCl
2
を含む、上記185又は186に記載の方法。
188.前記溶液が約200mM NaClを含む、上記185~187のいずれかに記載の方法。
189.前記溶液が約0.005%w/vポロキサマー188を含む、上記185~188のいずれかに記載の方法。
190.前記溶液が約pH7.5~8.5である、上記185~189のいずれかに記載の方法。
191.前記溶液が約pH7.7~8.3である、上記185~190のいずれかに記載の方法。
192.前記2回目のTFF後に収集される前記AAVウイルスベクターが、約30μg/g未満又は約20μg/g未満のCsClを含有する、上記116~191のいずれかに記載の方法。
193.前記2回目のTFF後に収集されるAAVウイルスベクターの濃度が約3×10
13
vg/ml以上である、上記116~192のいずれかに記載の方法。
194.宿主細胞タンパク質及び/又は宿主細胞DNAが、前記細胞ライセートからデタージェントによるフロキュレーションを用いて除去される、上記116~193のいずれかに記載の方法。
195.前記AAVウイルスベクターが、生存運動ニューロン(SMN)タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、上記116~194のいずれかに記載の方法。
196.前記AAVウイルスベクターが、突然変異AAV2 ITR、ニワトリβ-アクチン(CB)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)前初期エンハンサー、修飾SV40後期16sイントロン、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化シグナル、及びAAV2 ITRを含む、上記116~195のいずれかに記載の方法。
197.前記ポリヌクレオチドが配列番号2のSMNタンパク質をコードする、上記195又は196に記載の方法。
198.前記AAVウイルスベクターが配列番号1を含む、上記195又は196に記載の方法。
199.前記SMNタンパク質をコードする前記プラスミド、前記pAAVをコードする前記プラスミド、及び前記pHELPをコードする前記プラスミドが1:1:1の比でトランスフェクトされる、上記195~198のいずれかに記載の方法。
200.前記AAVウイルスベクターが、MECP2タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、上記116~194のいずれかに記載の方法。
201.前記AAVウイルスベクターが、SOD1を標的とするshRNAをコードするポリヌクレオチドを含む、上記116~194のいずれかに記載の方法。
202.上記116~199のいずれかに記載の方法により調製されるとおりのSMNタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むAAV9ウイルスベクターを投与することによる、SMA1型を有する患者の治療方法。
203.上記116~194又は200のいずれかに記載の方法により調製されるとおりのMECP2タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むAAV9ウイルスベクターを投与することによる、レット症候群を有する患者の治療方法。
204.上記116~194又は201のいずれかに記載の方法により調製されるとおりのSOD1を標的とするshRNAをコードするポリヌクレオチドを含むAAV9ウイルスベクターを投与することによる、ALSを有する患者の治療方法。
205.上記116~199のいずれかに記載の方法により製造される、SMNタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むAAV9ウイルスベクター。
206.上記116~199のいずれかに記載の方法により製造される、SMNタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むAAV9ウイルスベクターを含む医薬組成物。
207.SMNタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むAAV9ウイルスベクターと、トリス緩衝液と、塩化マグネシウム溶液と、塩化ナトリウム溶液とを含む水性医薬組成物であって、前記医薬組成物が保存剤を含まず、及び前記組成物が上記116~199のいずれかに記載の方法により製造される、組成物。
208.上記116~194又は200のいずれかに記載の方法により製造される、MECP2タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むAAV9ウイルスベクター。
209.上記116~194又は200のいずれかに記載の方法により製造される、MECP2タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むAAV9ウイルスベクターを含む医薬組成物。
210.上記116~194又は201のいずれかに記載の方法により製造される、SOD1を標的とするshRNAをコードするポリヌクレオチドを含むAAV9ウイルスベクター。
211.上記116~194又は201のいずれかに記載の方法により製造される、SOD1を標的とするshRNAをコードするポリヌクレオチドを含むAAV9ウイルスベクターを含む医薬組成物。
212.a.修飾AAV2 ITRと、ニワトリβ-アクチン(CB)プロモーターと、サイトメガロウイルス(CMV)前初期エンハンサーと、修飾SV40後期16sイントロンと、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化シグナルと、非修飾AAV2 ITRとを含む自己相補的AAV9ウイルスベクター;
b.pH8.0の20mMトリス;
c.1mM MgCl2;
d.200mM NaCl;及び
e.0.005%ポロキサマー188
を含む医薬組成物を静脈内投与することによる、それを必要としている患者におけるI型SMAの治療方法であって;
前記患者が2.6kg~8.5kgの体重である、方法。
213.前記組成物が保存剤を含まない、上記212に記載の方法。
214.前記患者が:
a.9ヵ月齢以下であり;
b.少なくとも約2.6kgの体重であり;
c.両アレル性SMN1ヌル突然変異又は欠失を有し;及び
d.SMN2の少なくとも1つの機能性コピーを有する、
上記212又は213に記載の方法。
215.a.修飾AAV2 ITRと、ニワトリβ-アクチン(CB)プロモーターと、サイトメガロウイルス(CMV)前初期エンハンサーと、修飾SV40後期16sイントロンと、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化シグナルと、非修飾AAV2 ITRとを含む自己相補的AAV9ウイルスベクター;
b.pH8.0の20mMトリス;
c.1mM MgCl2;
d.200mM NaCl;及び
e.0.005%ポロキサマー188
を含む医薬組成物の静脈内投与に好適な、又はそれ用に製造される組成物。
216.保存剤を含まない、上記215に記載の組成物。
217.工業規模で実施される、上記116~201のいずれかに記載の方法。
218.産生されるAAV収率が、製造バッチ当たり5×10
15
vg超、又は8×10
15
vg超又は1×10
16
vg超である、上記116~201又は217のいずれかに記載の方法。
219.以下のうちの少なくとも1つ:
a.1.0×10
13
vg当たり約0.09ng未満のベンゾナーゼ、
b.約30μg/g(ppm)未満のセシウム、
c.約20~80ppmのポロキサマー188、
d.1.0×10
13
vg当たり約0.22ng未満のBSA、
e.1.0×10
13
vg当たり約6.8×10
5
pg未満の残留プラスミドDNA、
f.1.0×10
13
vg当たり約1.1×10
5
pg未満の残留hcDNA、
g.1.0×10
13
vg当たり約4ng未満のrHCP、
h.約pH7.7~8.3、
i.約390~430mOsm/kg、
j.容器当たり約600個未満の≧25μmサイズの粒子、
k.容器当たり約6000個未満の≧10μmサイズの粒子、
l.約1.7×10
13
~2.3×10
13
vg/mLのゲノム力価、
m.1.0×10
13
vg当たり約3.9×10
8
~8.4×10
10
IUの感染力価、
n.1.0×10
13
vg当たり約100~300μgの全タンパク質、
o.約70~130%の相対効力、及び
p.約5%未満の空のカプシド
を含む、上記1~17、18~28、82~84、又は205~211のいずれかに記載の組成物又は製剤。
220.以下のうちの少なくとも1つ:
a.約pH7.7~8.3、
b.約390~430mOsm/kg、
c.容器当たり約600個未満の≧25μmサイズの粒子、
d.容器当たり約6000個未満の≧10μmサイズの粒子、
e.約1.7×10
13
~2.3×10
13
vg/mLのゲノム力価、
f.1.0×10
13
vg当たり約3.9×10
8
~8.4×10
10
IUの感染力価、
g.1.0×10
13
vg当たり約100~300μgの全タンパク質、
h.約20~80ppmのPluronic F-68含有量(conent)、
i.約70~130%の相対効力、
j.7.5×10
13
vg/kgの用量で24日以上のΔ7SMNマウスモデルにおける生存期間中央値(median survial)、
k.約5%未満の空のカプシド、
l.及び約95%以上の総純度、及び
m.約0.75EU/mL以下のエンドトキシン
を含む、上記1~17、18~28、82~84、又は205~211のいずれかに記載の組成物又は製剤。
221.以下のうちの少なくとも1つ:
a.1.0×10
13
vg当たり約0.09ng未満のベンゾナーゼ、
b.約30μg/g(ppm)未満のセシウム、
c.約20~80ppmのポロキサマー188、
d.1.0×10
13
vg当たり約0.22ng未満のBSA、
e.1.0×10
13
vg当たり約6.8×10
5
pg未満の残留プラスミドDNA、
f.1.0×10
13
vg当たり約1.1×10
5
pg未満の残留hcDNA、及び
g.1.0×10
13
vg当たり約4ng未満のrHCP
を含む、上記1~17、18~28、82~84、又は205~211のいずれかに記載の組成物又は製剤。
【配列表】