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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】点火器およびガス発生器
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/264 20060101AFI20241113BHJP
   B01J 7/00 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
B60R21/264
B01J7/00 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021032490
(22)【出願日】2021-03-02
(65)【公開番号】P2022133677
(43)【公開日】2022-09-14
【審査請求日】2024-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127203
【弁理士】
【氏名又は名称】奈良 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】矢島 一輝
(72)【発明者】
【氏名】筥崎 智弘
(72)【発明者】
【氏名】中野 智之
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-067570(JP,A)
【文献】特開2003-182506(JP,A)
【文献】特表2019-519431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/264
B01J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
点火薬を内包しており、抵抗体が接続された一対の電極ピンを有した塞栓によって開口部が嵌合される有底筒状の第1カップ状部材と、
前記第1カップ状部材の外部を覆う有底筒状の第2カップ状部材と、
前記一対の電極ピンと、前記塞栓と、前記第1カップ状部材と、前記第2カップ状部材と、を一体的に保持する保持部と、
を備え、
前記第2カップ状部材は、成型後の伸び率を10%未満に調整するための伸び率調整材を含有した、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂からなることを特徴とする点火器。
【請求項2】
前記第2カップ状部材と前記保持部とは一体成型されたものであり、
前記第2カップ状部材は、前記保持部と同じ材料からなることを特徴とする請求項1に記載の点火器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の点火器を備えたガス発生器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点火器と、車両等衝突時に乗員を保護する乗員保護装置に組み込まれるガス発生器とに関し、特に、自動車等に装備されるエアバッグ装置に組み込まれるものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の乗員の保護の観点から、乗員保護装置であるエアバッグ装置が普及している。エアバッグ装置は、車両等衝突時に生じる衝撃から乗員を保護する目的で装備されるものであり、車両等衝突時に瞬時にエアバッグを膨張および展開させることにより、エアバッグがクッションとなって乗員の体を受け止めるものである。
【0003】
ガス発生器は、このエアバッグ装置に組み込まれ、車両等衝突時にコントロールユニットからの通電によって点火器を発火し、点火器において生じる火炎によりガス発生剤を燃焼させて多量のガスを瞬時に発生させ、これによりエアバッグを膨張および展開させる機器である。
【0004】
ガス発生器には、種々の構造のものが存在するが、運転席側エアバッグ装置や助手席側エアバッグ装置等に、特に好適に利用できるガス発生器として、外径が比較的大きい短尺略円柱状のディスク型ガス発生器がある。
【0005】
ディスク型ガス発生器は、軸方向の両端が閉塞された短尺略円筒状のハウジングを有し、ハウジングの周壁部に複数のガス噴出口が設けられるとともに、ハウジングに組付けられた点火器に面するようにハウジングの内部に伝火薬が収容され、さらに当該伝火薬を囲うようにハウジングの内部にガス発生剤が充填され、当該ガス発生剤の周囲をさらに囲うようにフィルタがハウジングの内部に収容されてなるものである。
【0006】
このディスク型ガス発生器の具体的な構成が開示された文献としては、下記特許文献1がある。
【0007】
特に、この下記特許文献1の図4には、点火器の外周面にカップ状部材を配置し、Oリングを介してカップ状部材を押圧し、点火器と孔部との間をシールするものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平10-310023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したカップ状部材においては、上述のシール性および絶縁性を保持しつつも、点火器から伝火薬への伝火を阻害しないことが望ましい。このことにより、短時間のうちにガス発生器内部のガス発生剤を効率よく燃焼させ、エアバッグへガスを噴出させることができるからである。しかしながら、上述したカップ状部材においては、点火器の作動時に、点火器の点火剤(火薬)を内包する別のカップ状部材の破断に追従していくらか伸びてから破断するが、この伸びが大きいと、点火器から伝火薬への伝火を阻害する要因になってしまうことが本願発明者の研究によって判明した。
【0010】
そこで、本発明は、上述した問題を解決すべくなされたものであり、シール性および絶縁性を保持しつつも、カップ状部材の作動時の伸びを調整して伝火薬への伝火の阻害を従来よりも抑制した点火器、および、ガス発生器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1) 本発明の点火器は、点火薬を内包しており、抵抗体が接続された一対の電極ピンを有した塞栓によって開口部が嵌合される有底筒状の第1カップ状部材と、前記第1カップ状部材の外部を覆う有底筒状の第2カップ状部材と、前記一対の電極ピンと、前記塞栓と、前記第1カップ状部材と、前記第2カップ状部材と、を一体的に保持する保持部と、
を備え、前記第2カップ状部材は、成型後の伸び率を10%未満に調整するための伸び率調整材を含有した、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂からなることを特徴とする。
【0012】
(2) 上記(1)の点火器においては、前記第2カップ状部材と前記保持部とは一体成型されたものであり、前記保持部は、前記第2カップ状部材と同じ材料からなることが好ましい。
【0013】
(3) 本発明は、上記(1)または(2)の点火器を備えたガス発生器である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シール性および絶縁性を保持しつつも、カップ状部材の作動時の伸びを調整して伝火薬への伝火の阻害を抑制した点火器、および、ガス発生器とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係るディスク型ガス発生器の概略断面図である。
図2図1のディスク型ガス発生器のスクイブカバーの上視図である。
図3図1のディスク型ガス発生器のスクイブカバーの開裂を説明するための模式一部断面図である。
図4図1のディスク型ガス発生器の変形例を示す概略断面図である。
図5】検証試験のうち実施例1の結果を示すグラフである。
図6】検証試験のうち実施例2の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。以下に示す実施の形態は、自動車のステアリングホイール等に搭載されるエアバッグ装置に好適に組み込まれるディスク型ガス発生器に本発明を適用したものである。なお、以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する部分に図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0017】
図1は、本発明の実施形態におけるディスク型ガス発生器100の概略図である。まず、この図1を参照して、本実施の形態におけるディスク型ガス発生器100の構成について説明する。
【0018】
図1に示すように、ディスク型ガス発生器100は、軸方向の一端および他端が閉塞された短尺略円筒状のハウジングを有しており、このハウジングの内部に設けられた収容空間に、内部構成部品としての保持部30、点火器40、カップ状部材50、伝火薬59、ガス発生剤61、下側支持部材70、上側支持部材80、クッション材85およびフィルタ90等が収容されてなるものである。また、ハウジングの内部に設けられた収容空間には、上述した内部構成部品のうちのガス発生剤61が主として収容された燃焼室60が位置している。
【0019】
ハウジングは、下部側シェル10および上部側シェル20を含んでいる。下部側シェル10および上部側シェル20の各々は、たとえば圧延された金属製の板状部材をプレス加工することによって形成されたプレス成形品からなる。下部側シェル10および上部側シェル20を構成する金属製の板状部材としては、たとえばステンレス鋼や鉄鋼、アルミニウム合金、ステンレス合金等からなる金属板が利用され、好適には440[MPa]以上780[MPa]以下の引張応力が印加された場合にも破断等の破損が生じないいわゆる高張力鋼板が利用される。
【0020】
下部側シェル10および上部側シェル20は、それぞれが有底略円筒状に形成されており、これらの開口面同士が向き合うように組み合わされて接合されることによってハウジングが構成されている。下部側シェル10は、底板部11と周壁部12とを有しており、上部側シェル20は、天板部21と周壁部22とを有している。
【0021】
下部側シェル10の周壁部12の上端は、上部側シェル20の周壁部22の下端に挿入されることで圧入されている。さらに、下部側シェル10の周壁部12と上部側シェル20の周壁部22とが、それらの当接部またはその近傍において接合されることにより、下部側シェル10と上部側シェル20とが固定されている。ここで、下部側シェル10と上部側シェル20との接合には、電子ビーム溶接やレーザ溶接、摩擦圧接等が好適に利用できる。
【0022】
これにより、ハウジングの周壁部のうちの底板部11寄りの部分は、下部側シェル10の周壁部12によって構成されており、ハウジングの周壁部のうちの天板部21寄りの部分は、上部側シェル20の周壁部22によって構成されている。また、ハウジングの軸方向の一端および他端は、それぞれ下部側シェル10の底板部11および上部側シェル20の天板部21によって閉塞されている。
【0023】
下部側シェル10の底板部11の中央部には、天板部21側に向かって突出する突状筒部13が設けられており、これにより下部側シェル10の底板部11の中央部には、窪み部14が形成されている。突状筒部13は、保持部30を介して点火器40が固定される部位であり、窪み部14は、保持部30に雌型コネクタ部34を設けるためのスペースとなる部位である。
【0024】
突状筒部13は、有底略円筒状に形成されており、その天板部21側に位置する軸方向端部には、平面視した状態において非点対称形状(たとえばD字状、樽型形状、長円形状等)の開口部15が設けられている。当該開口部15は、点火器40の一対の端子ピン42が挿通される部位である。
【0025】
点火器40は、火炎を発生させるためのものであり、点火部41と、上述した一対の端子ピン42と、スクイブカバー43(第2カップ状部材)と、を備えている。点火部41は、その内部に、作動時において着火して燃焼することで火炎を発生する点火薬と、この点火薬を着火させるための抵抗体とを含んでいる。一対の端子ピン42は、点火薬を着火させるために点火部41に接続されている。スクイブカバー43は、点火器40のシールおよび絶縁のために設けられたものであって、図2に示したように、頂上部には、スリット状の脆弱部43aと、脆弱部43aの間の非脆弱部43bと、が設けられている。脆弱部43aは、非脆弱部43bと比べて、点火器40の作動時において開裂または溶融しやすくなっている。
【0026】
なお、スクイブカバー43は、点火器40の作動時における伸び率が、0%より大きく10%未満(好ましくは0%より大きく5%未満、より好ましくは0%より大きく3%未満)となるように調整するために、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂に伸び率調整材を含有させたものをカップ状に成型してなるものである。なお、伸び率は、JIS K7161-2(2014年)に定められた方法で試験を行い、下記計算式により算出した。
【0027】
伸び率[%]=(破断するまでの試験片の最大長さ-初期状態の試験片の長さ)×100/初期状態の試験片の長さ
【0028】
ここで、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、などが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル、ナイロン6、ナイロン66、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンサルファイド、などが挙げられる。伸び率調整材としては、黒鉛鋳鉄品(FCV)、アルミダイカストなどの鋳鉄類、アルミナ、ガラス、炭化ケイ素、窒化ケイ素などのセラミックス類などが挙げられるが、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂の伸び率を変化させることができるものであれば、どのようなものでもよい。
【0029】
点火部41は、カップ状に形成されたスクイブカップ(第1カップ状部材)と、当該スクイブカップの開口端を閉塞し、一対の端子ピン42が挿通されてこれを保持する塞栓とを備えており、スクイブカップ内に挿入された一対の端子ピン42の先端を連結するように抵抗体(ブリッジワイヤ)が取付けられ、この抵抗体を取り囲むようにまたはこの抵抗体に近接するようにスクイブカップ内に点火薬が装填された構成を有している。
【0030】
ここで、抵抗体としては一般にニクロム線等が利用され、点火薬としては一般にZPP(ジルコニウム・過塩素酸カリウム)、ZWPP(ジルコニウム・タングステン・過塩素酸カリウム)、鉛トリシネート等が利用される。なお、上述したスクイブカップおよび塞栓は、一般に金属製またはプラスチック製である。
【0031】
衝突を検知した際には、端子ピン42を介して抵抗体に所定量の電流が流れる。抵抗体に所定量の電流が流れることにより、抵抗体においてジュール熱が発生し、点火薬が燃焼を開始する。燃焼により生じた高温の火炎は、点火薬を収納しているスクイブカップを破裂させる。抵抗体に電流が流れてから点火器40が作動するまでの時間は、抵抗体にニクロム線を利用した場合に一般に2[ms]以下である。
【0032】
点火器40は、突状筒部13に設けられた開口部15に端子ピン42が挿通するように下部側シェル10の内側から挿入された状態で底板部11に取付けられている。具体的には、底板部11に設けられた突状筒部13の内周囲には、樹脂成形部からなる保持部30が設けられており、点火器40は、当該保持部30によって保持されることにより、底板部11に固定されている。
【0033】
保持部30は、型を用いた射出成形(より特定的にはインサート成形)によって形成されるものであり、下部側シェル10の底板部11に設けられた開口部15を経由して底板部11の内表面の一部から外表面の一部にまで達するように絶縁性の流動性樹脂材料を底板部11に付着させてこれを固化させることによって形成されている。
【0034】
射出成形によって形成される保持部30の原料としては、硬化後において耐熱性や耐久性、耐腐食性等に優れた樹脂材料が好適に選択されて利用される。その場合、エポキシ樹脂等に代表される熱硬化性樹脂に限られず、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂(たとえばナイロン6やナイロン66等)、ポリプロピレンスルフィド樹脂、ポリプロピレンオキシド樹脂等に代表される熱可塑性樹脂を利用することも可能である。これら熱可塑性樹脂を原材料として選択する場合には、成形後において保持部30の機械的強度を確保するためにこれら樹脂材料にガラス繊維等をフィラーとして含有させることが好ましい。しかしながら、熱可塑性樹脂のみで十分な機械的強度が確保できる場合には、上述の如くのフィラーを添加する必要はない。
【0035】
保持部30は、下部側シェル10の底板部11の内表面の一部を覆う内側被覆部31と、下部側シェル10の底板部11の外表面の一部を覆う外側被覆部32と、下部側シェル10の底板部11に設けられた開口部15内に位置し、上記内側被覆部31および外側被覆部32にそれぞれ連続する連結部33とを有している。
【0036】
また、保持部30は、内側被覆部31、外側被覆部32および連結部33のそれぞれの底板部11側の表面において底板部11に固着している。また、保持部30は、点火器40の点火部41の下方端寄りの部分の側面および下面と、点火器40の端子ピン42の上方端寄りの部分の表面とにそれぞれ固着している。
【0037】
これにより、開口部15は、端子ピン42と保持部30とによって完全に埋め込まれた状態となり、当該部分におけるシール性が確保されることでハウジングの内部の空間の気密性が確保されている。なお、開口部15は、図示していないが、平面視非点対称形状に形成されているため、当該開口部15を連結部33で埋め込むことにより、これら開口部15および連結部33は、保持部30が底板部11に対して回転してしまうことを防止する回り止め機構としても機能する。
【0038】
保持部30の外側被覆部32の外部に面する部分には、雌型コネクタ部34が形成されている。この雌型コネクタ部34は、点火器40とコントロールユニット(不図示)とを結線するためのハーネスの雄型コネクタ(図示せず)を受け入れるための部位であり、下部側シェル10の底板部11に設けられた窪み部14内に位置している。
【0039】
この雌型コネクタ部34内には、点火器40の端子ピン42の下方端寄りの部分が露出して配置されている。雌型コネクタ部34には、雄型コネクタが挿し込まれ、これによりハーネスの芯線と端子ピン42との電気的導通が実現される。
【0040】
また、保持部30によって覆われることとなる部分の底板部11の表面の所定位置に予め接着剤層が設けられてなる下部側シェル10を用いて上述した射出成形を行なうこととしてもよい。当該接着剤層は、上記底板部11の所定位置に予め接着剤を塗布してこれを硬化させること等により、その形成が可能である。
【0041】
このようにすれば、底板部11と保持部30との間に硬化した接着剤層が位置することになるため、樹脂成形部からなる保持部30をより強固に底板部11に固着させることが可能になる。したがって、底板部11に設けられた開口部15を囲うように上記接着剤層を周方向に沿って環状に設けることとすれば、当該部分においてより高いシール性を確保することが可能になる。
【0042】
ここで、底板部11に予め塗布しておく接着剤としては、硬化後において耐熱性や耐久性、耐腐食性等に優れた樹脂材料を原料として含むものが好適に利用され、たとえばシアノアクリレート系樹脂やシリコーン系樹脂を原料として含むものが特に好適に利用される。なお、上述の樹脂材料以外にも、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、ポリエステル系樹脂、アルキド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン系樹脂、アクリロニトリルスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリブチレンテレフタラート系樹脂、ポリエチレンテレフタラート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンスルファイド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルサルフォン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、液晶ポリマー、スチレン系ゴム、オレフィン系ゴム等を原料として含むものが、上述した接着剤として利用可能である。
【0043】
なお、ここでは、樹脂成形部からなる保持部30を射出成形することで下部側シェル10に対する点火器40の固定を可能にした場合の構成例を例示したが、下部側シェル10に対する点火器40の固定に他の代替手段を用いることも可能である。
【0044】
底板部11には、突状筒部13、保持部30および点火器40を覆うようにカップ状部材50が組付けられている。
【0045】
カップ状部材50は、保持部30および点火器40を覆うように設けられている。カップ状部材50は、底板部11側の端部が開口した略円筒形状を有しており、内部に伝火薬59が収容された伝火室57を含んでいる。カップ状部材50は、その伝火室57がスクイブカバー43および点火部41に面するように燃焼室60内に配置されている。また、カップ状部材50は、開口端側にフランジ状に延出された先端部54を有しており、この先端部54は底板部11と下側支持部材70とによって挟み込まれた状態で固定されている。このカップ状部材50は、点火器40が作動することによって伝火室内部の伝火薬59が着火された場合に、その内部の空間の圧力上昇や発生した熱の伝導に伴って破裂、変形または溶融するものである。
【0046】
カップ状部材50の材質としては、ステンレス鋼や鉄鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレスやステンレス合金等の金属製の部材や、エポキシ樹脂等に代表される熱硬化性樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂(たとえばナイロン6やナイロン66等)、ポリプロピレンスルフィド樹脂、ポリプロピレンオキシド樹脂等に代表される熱可塑性樹脂等の樹脂製の部材からなるものが好適に利用される。特に、アルミニウムよりも機械的強度が比較的に高い、アルミニウム合金、または、ステンレス鋼、鉄鋼等の鉄系金属材料が好ましい。
【0047】
なお、カップ状部材50の固定方法としては、上述した下側支持部材70を用いた固定方法に限られず、他の固定方法を利用してもよい。
【0048】
伝火室に充填された伝火薬59は、点火器40が作動することによって生じた火炎によって点火され、燃焼することによって熱粒子を発生する。伝火薬59としては、ガス発生剤61を確実に燃焼開始させることができるものであることが必要であり、一般的には、B/KNO、B/NaNO、Sr(NO等に代表される金属粉/酸化剤からなる組成物や、水素化チタン/過塩素酸カリウムからなる組成物、B/5-アミノテトラゾール/硝酸カリウム/三酸化モリブデンからなる組成物等が用いられる。
【0049】
伝火薬59は、粉状のものや、バインダによって所定の形状に成形されたもの等が利用される。バインダによって成形された伝火薬59の形状としては、たとえば顆粒状、円柱状、シート状、球状、単孔円筒状、多孔円筒状、タブレット状など種々の形状がある。
【0050】
ハウジングの内部の空間のうち、上述したカップ状部材50が配置された部分を取り巻く空間には、ガス発生剤61が収容された燃焼室60が位置している。具体的には、上述したように、カップ状部材50は、ハウジングの内部に形成された燃焼室60内に突出して配置されており、このカップ状部材50の頂壁部の外側表面に面する部分に設けられた空間ならびに側壁部の外側表面に面する部分に設けられた空間が燃焼室60として構成されている。これにより、カップ状部材50の外側表面には、これに隣接してガス発生剤61が配置されることになる。
【0051】
また、ガス発生剤61が収容された燃焼室60をハウジングの径方向に取り巻く空間には、ハウジングの内周に沿ってフィルタ90が配置されている。フィルタ90は、円筒状の形状を有しており、その中心軸がハウジングの軸方向と実質的に合致するように配置されている。
【0052】
ガス発生剤61は、点火器40が作動することによって生じた熱粒子によって着火され、燃焼することによってガスを発生させる薬剤である。ガス発生剤61としては、非アジド系ガス発生剤を用いることが好ましく、一般に燃料と酸化剤と添加剤とを含む成形体としてガス発生剤61が形成される。
【0053】
燃料としては、たとえばトリアゾール誘導体、テトラゾール誘導体、グアニジン誘導体、アゾジカルボンアミド誘導体、ヒドラジン誘導体等またはこれらの組み合わせが利用される。具体的には、たとえばニトログアニジンや硝酸グアニジン、シアノグアニジン、5-アミノテトラゾール等が好適に利用される。
【0054】
酸化剤としては、たとえば塩基性硝酸銅や塩基性炭酸銅等の塩基性金属水酸化物、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸カリウム等の過塩素酸塩、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、アンモニアから選ばれたカチオンを含む硝酸塩等が利用される。硝酸塩としては、たとえば硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等が好適に利用される。
【0055】
添加剤としては、バインダやスラグ形成剤、燃焼調整剤等が挙げられる。バインダとしては、たとえばポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースの金属塩、ステアリン酸塩等の有機バインダや、合成ヒドロタルサイト、酸性白土等の無機バインダが好適に利用可能である。また、この他にも、バインダとしては、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、ニトロセルロース、微結晶性セルロース、グアガム、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、デンプン等の多糖誘導体や、二硫化モリブデン、タルク、ベントナイト、ケイソウ土、カオリン、アルミナ等の無機バインダも好適に利用可能である。スラグ形成剤としては、窒化珪素、シリカ、酸性白土等が好適に利用可能である。燃焼調整剤としては、金属酸化物、フェロシリコン、活性炭、グラファイト等が好適に利用可能である。
【0056】
ガス発生剤61の成形体の形状には、顆粒状、ペレット状、円柱状等の粒状のもの、ディスク状のものなど様々な形状のものがある。また、円柱状のものでは、成形体内部に貫通孔を有する有孔状(たとえば単孔筒形状や多孔筒形状等)の成形体も利用される。これらの形状は、ディスク型ガス発生器100が組み込まれるエアバッグ装置の仕様に応じて適宜選択されることが好ましく、たとえばガス発生剤61の燃焼時においてガスの生成速度が時間的に変化する形状を選択するなど、仕様に応じた最適な形状を選択することが好ましい。また、ガス発生剤61の形状の他にもガス発生剤61の線燃焼速度、圧力指数などを考慮に入れて成形体のサイズや充填量を適宜選択することが好ましい。
【0057】
フィルタ90は、たとえばステンレス鋼や鉄鋼等の金属線材を巻き回して焼結したものや、金属線材を編み込んだ網材をプレス加工することによって押し固めたもの等が利用できる。網材としては、具体的にはメリヤス編みの金網や平織りの金網、クリンプ織りの金属線材の集合体等が利用できる。
【0058】
また、フィルタ90として、孔あき金属板を巻き回したもの等を利用することもできる。この場合、孔あき金属板としては、たとえば、金属板に千鳥状に切れ目を入れるとともにこれを押し広げて孔を形成して網目状に加工したエキスパンドメタルや、金属板に孔を穿つとともにその際に孔の周縁に生じるバリを潰すことでこれを平坦化したフックメタル等が利用される。この場合において、形成される孔の大きさや形状は、必要に応じて適宜変更が可能であり、同一金属板上において異なる大きさや形状の孔が含まれていてもよい。なお、金属板としては、たとえば鋼板(マイルドスチール)やステンレス鋼板が好適に利用でき、またアルミニウム、銅、チタン、ニッケルまたはこれらの合金等の非鉄金属板を利用することもできる。
【0059】
フィルタ90は、燃焼室60にて発生したガスがこのフィルタ90中を通過する際に、ガスが有する高温の熱を奪い取ることによってガスを冷却する冷却手段として機能するとともに、ガス中に含まれる残渣(スラグ)等を除去する除去手段としても機能する。したがって、ガスを十分に冷却しかつ残渣が外部に放出されないようにするためには、燃焼室60内にて発生したガスが確実にフィルタ90中を通過するようにすることが必要である。なお、フィルタ90は、ハウジングの周壁部を構成する下部側シェル10の周壁部12および上部側シェル20の周壁部22との間で所定の大きさの間隙部28が形成されることとなるように、当該周壁部12,22から離間して配置されている。
【0060】
フィルタ90に対面する部分の上部側シェル20の周壁部22には、複数個のガス噴出口23が設けられている。この複数個のガス噴出口23は、フィルタ90を通過したガスをハウジングの外部に導出するためのものである。
【0061】
また、上部側シェル20の周壁部22の内周面には、上記複数個のガス噴出口23を閉鎖するようにシール部材としての金属製のシールテープ24が貼り付けられている。このシールテープ24としては、片面に粘着部材が塗布されたアルミニウム箔等が好適に利用でき、当該シールテープ24によって燃焼室60の気密性が確保されている。
【0062】
燃焼室60のうち、底板部11側に位置する端部近傍には、下側支持部材70が配置されている。下側支持部材70は、環状の形状を有しており、フィルタ90と底板部11との境目部分を覆うように、これらフィルタ90と底板部11とに実質的に宛がわれて配置されている。これにより、下側支持部材70は、燃焼室60の上記端部近傍において、底板部11とガス発生剤61との間に位置している。
【0063】
下側支持部材70は、底板部11の内底面に沿うように底板部11に宛がわれた円環板状の基部71と、フィルタ90の底板部11寄りの内周面に当接する当接部72と、基部71から天板部21側に向けて立設された筒状の立設部73とを有している。当接部72は、基部71の外縁から延設されており、立設部73は、基部71の内縁から延設されている。立設部73は、下部側シェル10の突状筒部13の外周面と、保持部30の内側被覆部31の外周面とを覆っている。
【0064】
下側支持部材70は、フィルタ90をハウジングに固定するための部材であるとともに、作動時において、燃焼室60にて発生したガスがフィルタ90の内部を経由することなくフィルタ90の下端と底板部11との間の隙間から流出してしまうことを防止する流出防止手段としても機能する。そのため、下側支持部材70は、たとえば金属製の板状部材をプレス加工等することによって形成されており、好適には普通鋼や特殊鋼等の鋼板(たとえば、冷間圧延鋼板やステンレス鋼板等)からなる部材にて構成される。
【0065】
燃焼室60のうち、天板部21側に位置する端部には、上側支持部材80が配置されている。上側支持部材80は、略円盤状の形状を有しており、フィルタ90と天板部21との境目部分を覆うように、これらフィルタ90と天板部21とに宛がわれて配置されている。これにより、上側支持部材80は、燃焼室60の上記端部近傍において、天板部21とガス発生剤61との間に位置している。
【0066】
上側支持部材80は、天板部21に当接する基部81と、当該基部81の周縁から立設された当接部82とを有している。当接部82は、フィルタ90の天板部21側に位置する軸方向端部の内周面に当接している。
【0067】
上側支持部材80は、フィルタ90をハウジングに固定するための部材であるとともに、作動時において、燃焼室60にて発生したガスがフィルタ90の内部を経由することなくフィルタ90の上端と天板部21との間の隙間から流出してしまうことを防止する流出防止手段としても機能する。そのため、上側支持部材80は、たとえば金属製の板状部材をプレス加工等することによって形成されており、好適には普通鋼や特殊鋼等の鋼板(たとえば、冷間圧延鋼板やステンレス鋼板等)からなる部材にて構成される。
【0068】
この上側支持部材80の内部には、燃焼室60に収容されたガス発生剤61に接触するように円盤状のクッション材85が配置されている。これにより、クッション材85は、燃焼室60の天板部21側の部分において天板部21とガス発生剤61との間に位置することになり、ガス発生剤61を底板部11側に向けて押圧している。
【0069】
クッション材85は、成形体からなるガス発生剤61が振動等によって粉砕されてしまうことを防止する目的で設けられるものであり、好適にはセラミックスファイバの成形体やロックウール、発泡樹脂(たとえば発泡シリコーン、発泡ポリプロピレン、発泡ポリエチレン、発泡ウレタン等)、クロロプレンおよびEPDMに代表されるゴム等からなる部材にて構成される。
【0070】
次に、図1を参照して、本実施の形態におけるディスク型ガス発生器100の組立作業の要領について説明する。
【0071】
まず、下部側シェル10においては、樹脂成形部からなる保持部30として射出成形されることによって、点火器40が固定される。そして、内部に伝火薬59が収容されたカップ状部材50の側壁部を、下部側シェル10の保持部30に圧入することにより固定する。
【0072】
そして、フィルタ90の内側にガス発生剤61を充填し、クッション材85を介装した上側支持部材80をフィルタ90の上端部分に内挿する。この後、ガス噴出口23がシールテープ24によって閉塞された上部側シェル20を下部側シェル10に対してかぶせ、下部側シェル10と上部側シェル20とを溶接する。以上により、図1に示す構造のガス発生器100の組み立てが完了する。
【0073】
ここで、本実施の形態におけるディスク型ガス発生器100においては、カップ状部材50に開口が設けられていないため、カップ状部材50の内部に設けられた伝火室57に伝火薬59を充填する工程が非常に容易に行える。これは、ディスク型ガス発生器100の作動時において、カップ状部材の一部が、破裂、変形または溶融するようにカップ状部材50自体が機械的強度の低い脆弱な部材にて構成されているためである。すなわち、開口を有するカップ状部材を用いた場合に必要であった、伝火薬59を充填するためにカップ状部材50に設けられた開口を閉塞する作業、例えば、アルミテープや閉塞板が不要になるため、製造工程を大幅に簡素化することができる。
【0074】
図3は、本実施の形態におけるディスク型ガス発生器の動作を説明するための概略断面図である。次に、この図3と前述の図1とを参照して、本実施の形態におけるディスク型ガス発生器100の動作について説明する。なお、図3は模式断面図であり、説明の便宜のため、点火器40周辺の一部の部材を示し、その他の部材は省略している。
【0075】
図1を参照して、ディスク型ガス発生器100が搭載された車両が衝突した場合には、車両に別途設けられた衝突検知手段によって衝突が検知され、これに基づいて車両に別途設けられたコントロールユニットからの通電によって点火器40が作動する。伝火室である空間S1に収容された伝火薬59は、点火器40が作動することによって生じた火炎によって点火されて燃焼を開始する。
【0076】
その際、点火器40が作動した直後においては、点火部41に装填されていた点火薬が急速に燃焼することによって点火部41のスクイブカップの破裂に伴ってスクイブカバー43が開裂し、当該点火薬が急速に燃焼することによって生じる推力が、伝火室57に充填された伝火薬59に伝播する。ここで、スクイブカバー43の開裂について、図3を用いて具体的に説明する。
【0077】
点火器40が作動すると、まず、図1の初期状態から、図3(a)に示したような状態となる。具体的には、スクイブカバー43の頂上部が膨張して、非脆弱部43bが盛り上がるとともに、脆弱部43aが伸びた状態になる。次に、脆弱部43aは、図3(b)に示したように、破壊され、いくつかの塊になった状態となる。すなわち、スクイブカバー43の頂上部が開裂した状態となる。
【0078】
次に、上記推力がカップ状部材50の内部に達することにより、比較的脆弱な部材からなるカップ状部材50には破裂、変形、又は溶融が生じる。このカップ状部材50の破裂、変形又は溶融は、点火薬が燃焼することによって生じる熱粒子による伝火薬59の着火よりも遅く発生する。ここで、カップ状部材50の伝火薬59は、点火薬が燃焼することによって生じる推力を受けてカップ状部材50の内部において飛散し、分散した状態となる。
【0079】
そのため、より短時間のうちにより点火器40から遠い位置にある伝火薬59についても熱粒子によって着火されてその燃焼を開始することになり、結果としてカップ状部材50の内部の空間の圧力上昇ならびに当該空間の温度上昇が大幅に促進されることとなる。
その結果、より短時間のうちにカップ状部材50が破裂、変形又は溶融することになり、伝火薬59が燃焼することによって生じた多量の熱粒子が、燃焼室60へと早期に流れ込むことになる。
【0080】
特に、図1ではカップ状部材50が鉄製又はステンレス製であってアルミニウムに比して強度が高いことから、伝火薬59の燃焼の初期段階では、カップ状部材50の破裂、変形又は溶融は生じない。この時、カップ状部材50の破裂、変形又は溶融が生じる所定時間が経過するまで、カップ状部材50の内圧は上昇する。そして、一定以上の内圧となってから、カップ状部材50が破裂、変形又は溶融することになる。そのため、カップ状部材50を鉄製又はステンレス製といった機械的強度の高い鉄系金属材料を使用して、機械的強度を上げることで、カップ状部材50の開裂時において十分に伝火薬59の燃焼を促進させ、ガス発生剤61へ燃焼が促進された状態でカップ状部材50を開裂させることができる。このようなカップ状部材50の機械的強度の向上は、アルミニウム等の強度の低い金属を使用した場合でも、厚みを厚くすることで実現可能である。その場合の厚みとしては、0.4mm以上1.5mm以下が好ましく、0.6mm以上1.2mm以下がより好ましい。
【0081】
このようにして、多量の熱粒子が燃焼室60に流れ込むことにより、燃焼室60に収容されたガス発生剤61が着火されて燃焼し、多量のガスが発生する。燃焼室60にて発生したガスは、フィルタ90の内部を通過し、その際、フィルタ90によって熱が奪われて冷却されるとともに、ガス中に含まれるスラグがフィルタ90によって除去されて間隙部28に流れ込む。
【0082】
ガス発生剤61が燃焼することで生じるハウジングの内部の空間の圧力上昇に伴い、上部側シェル20に設けられたガス噴出口23を閉鎖していたシールテープ24が開裂し、当該ガス噴出口23を介してガスがハウジングの外部へと噴出される。噴出されたガスは、ディスク型ガス発生器100に隣接して設けられたエアバッグの内部に導入され、当該エアバッグを膨張および展開する。
【0083】
以上において説明したように、上述した本発明の実施形態によれば、初期状態においてシール性および絶縁性を保持しつつも、作動後は、スクイブカバー43の頂上部がスムーズに破壊されることによって伝火薬59への伝火を円滑にすることができるので、ガス発生剤61の燃焼をより早期に開始させることが可能になる。その結果として点火器40が作動した時点からガス噴出口23を介して外部にガスが噴出され始める時点までの時間を従来に比して短縮化することができる。また、点火器40が作動した時点からガス噴出口23を介して外部にガスが噴出され始める時点までの時間が従来と同じに設定する場合、本発明のスクイブカバー43の材質変更によって、伝火薬59の量を従来よりも所定量減らすことが可能になる。これにより、コストを低減できる。
【0084】
また、脆弱部43aをスリット状の溝部とすることで、使用する樹脂の量を低減できるので、脆弱部43aを形成しない場合に比べてコストを低下することができる。
【0085】
以下、本発明の実施形態の変形例について説明するが、特に示さない限り、同様の機能を有した部位には同名称を用いるとともに、下二桁が同じ符号を用いている。また、上記実施形態と同様に部位については、説明を省略することがある。
【0086】
たとえば、図4に示したように、スクイブカバーと保持部とを一体化した点火器140を備えたガス発生器200としてもよい。本変形例によれば、上記実施形態と同様の効果を奏するだけでなく、よりシール性を向上できるとともに、部品点数の削減ができる。また、スクイブカバーを取り付ける工程がないので、その分、コストを低下することができる。
【0087】
また、本発明の実施形態および変形例における点火器は、たとえば、デュアルインフレータと呼ばれる2つの点火器が設けられているディスク型ガス発生器にも、本実施形態のディスク型ガス発生器100と同様に適用可能である。さらに、長尺円筒状の外形を有するいわゆるシリンダ型のガス発生器の点火器にも適用可能であるし、シートベルトのプリテンショナーに備える小型のガス発生器の点火器にも適用可能である。
【0088】
また、スクイブカバー43は、図1に示したものに限られない。たとえば、脆弱部43aを構成するスリットが放射状に設けられていれば、いくつのスリットからなるものであってもよい。たとえば、平面視十字状またはアスタリスク状にスリットが設けられた脆弱部としてもよい。また、スクイブカバー43の頂上部は、脆弱部43aが形成されていないフラットな面からなるものであってもよい。
【0089】
また、脆弱部43aの凹凸形状としては、上述したものに限らず、どのような形状のものであってもよい。たとえば、非脆弱部43bの一部を側に向けて膨出させて脆弱部43aを形成してもよいし、脆弱部43aの全体を凹部が生じるように湾曲させることとしてもよい。また、脆弱部43aに点列状または行列状に複数の凸部または凹部を設けることとしてもよい。
【0090】
また、上述した本発明の実施の形態およびその変形例においては、下部側シェルに突状筒部を設けた場合を例示したが、当該突状筒部が設けられない構成のガス発生器に本発明を適用することも当然に可能である。
【0091】
加えて、上述した本発明の実施の形態およびその変形例において示した特徴的な構成は、本発明の趣旨に照らして許容される範囲で当然に相互に組み合わせることが可能である。
【0092】
このように、今回開示した上記実施の形態およびその変形例はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【0093】
(検証試験)
次に、上述のディスク型ガス発生器100、200と同構成のディスク型ガス発生器(以下、順に、実施例1のガス発生器、実施例2のガス発生器、とする)をそれぞれ作成し、スクイブカバーの材質を変化させること、また、スクイブカバーと保持部とを一体化させることによって、60Lタンク試験において、どのような変化があるか検証試験を行った。なお、ここでの60Lタンク試験とは、上述のディスク型ガス発生器100、200と同構成のディスク型ガス発生器を-40℃±2℃の環境下において4時間以上調温してから、個別に60L容積の密閉されたタンク内に設置するとともに、これを動作させてタンク内圧の上昇を経時的に計測する試験である。また、本検証試験では、点火器が作動した時点から100msまでのガス圧を経時的に測定した。また、各ディスク型ガス発生器のガス発生剤の発生するガスのモル数は2mol、伝火薬のカップ状部材への充填量は1.2gである。また、本検証試験で、実施例1のガス発生器のスクイブカバーの材質は、ナイロン66にグラスファイバーを30重量%含有したもの、実施例2のガス発生器のスクイブカバーと保持部とが一体化している部分の材質も、ナイロン66にグラスファイバーを30重量%含有したもの、とした。また、実施例1での従来品のガス発生器(実施例1のガス発生器とスクイブカバーの材質が異なる以外、同構成)のスクイブカバーの材質はナイロン66、実施例2での従来品(実施例2のガス発生器とスクイブカバーと保持部とが一体化している部分の材質が異なる以外、同構成)のスクイブカバーと保持部とが一体化している部分の材質も、ナイロン66とした。なお、スクイブカバーの従来品に用いたナイロン66の伸び率は10%であった。また、本発明に係る実施例1,2のスクイブカバー(材質変更品)に用いた、ナイロン66にグラスファイバーを30重量%含有したものの伸び率は3%であった。
【0094】
(実施例1の結果)
図5に実施例1の結果を示す。ここで、HTは90℃の環境下での試験、RTは室温の環境下での試験のことである。また、図5中の「SQカバー」は、スクイブカバーの略である。実施例2においても同様である。なお、図5のグラフからは、実施例1のガス発生器について、点火器が作動した時点からガス圧が高まり始めるまでの時間t1が、従来品のガス発生器に比べて速いことがわかった。
【0095】
(実施例2の結果)
図6に実施例2の結果を示す。図6のグラフから、実施例2のガス発生器について、点火器が作動した時点からガス圧が高まり始めるまでの時間t1が、従来品のガス発生器に比べて速いことがわかる。
【0096】
このような実施例1、2の結果から、本発明に係るスクイブカバーを点火器に用いたガス発生器の場合、スクイブカバーを構成する材料の伸び率を従来品よりも低くすることで、点火器が作動した時点からガス圧が高まり始めるまでの時間t1を短縮化できることがわかった。すなわち、本発明に係るスクイブカバーを点火器に用いたガス発生器の出力性能は、従来品よりも良くなることがわかった。
【符号の説明】
【0097】
10、110 下部側シェル
11、111 底板部
12、112 周壁部
13、113 突状筒部
14、114 窪み部
15、115 開口部
20、120 上部側シェル
21、121 天板部
22、122 周壁部
23、123 ガス噴出口
24、124 シールテープ
28、128 間隙部
30、130 保持部
31、131 内側被覆部
32、132 外側被覆部
33、133 連結部
34、134 雌型コネクタ部
40、140 点火器
41、141 点火部
42、142 端子ピン
43、143 スクイブカバー
43a、143a 脆弱部
43b、143b 非脆弱部
50、150 カップ状部材
54、154 先端部
57、157 伝火室
59、159 伝火薬
60、160 燃焼室
61、161 ガス発生剤
70、170 下側支持部材
71、171 基部
72、172 当接部
73。173 立設部
80、180 上側支持部材
81、181 基部
82、182 当接部
85。185 クッション材
90、190 フィルタ
100、200 ガス発生器
S1、S2 空間

図1
図2
図3
図4
図5
図6