IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士紡ホールディングス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-研磨パッド及び研磨パッドの製造方法 図1
  • 特許-研磨パッド及び研磨パッドの製造方法 図2
  • 特許-研磨パッド及び研磨パッドの製造方法 図3
  • 特許-研磨パッド及び研磨パッドの製造方法 図4
  • 特許-研磨パッド及び研磨パッドの製造方法 図5a
  • 特許-研磨パッド及び研磨パッドの製造方法 図5b
  • 特許-研磨パッド及び研磨パッドの製造方法 図6a
  • 特許-研磨パッド及び研磨パッドの製造方法 図6b
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】研磨パッド及び研磨パッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/20 20120101AFI20241113BHJP
   B24B 37/24 20120101ALI20241113BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20241113BHJP
   C08J 5/14 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
B24B37/20
B24B37/24 C
H01L21/304 622F
C08J5/14 CFF
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021056759
(22)【出願日】2021-03-30
(65)【公開番号】P2022153965
(43)【公開日】2022-10-13
【審査請求日】2024-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149799
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】立野 哲平
(72)【発明者】
【氏名】栗原 浩
(72)【発明者】
【氏名】山口 さつき
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼見沢 大和
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-69497(JP,A)
【文献】特開2019-69498(JP,A)
【文献】特開2020-49620(JP,A)
【文献】特表2005-532176(JP,A)
【文献】特開2022-56422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/00 - 37/34
H01L 21/304
C08J 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する研磨層を備える研磨パッドであって、
前記研磨層は、前記研磨層内に中空体を形成する中空微小球体を含み、
前記研磨層の断面は、10~14μmの平均開孔径を有し、
1μmの範囲を1階級として表される、前記研磨層の断面の開孔径ヒストグラムにおいて、
25μm以上の開孔数の総和は、前記断面の全開孔数に対して5%以下であり、
25μm以上の各階級の開孔面積の総和は、前記断面の合計開孔面積に対して、20%以下である、研磨パッド。
【請求項2】
30μm以上の各階級の開孔数の総和は、前記研磨面の全開孔数に対して3%以下であり、30μm以上の各階級の開孔面積の総和は、前記研磨面の合計開孔面積に対して、10%以下である、請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記中空微小球体は、6μm以下のメジアン径(D50)を有する未膨張中空微小球体由来のものである、請求項1又は2に記載の研磨パッド。
【請求項4】
被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する研磨層を備える研磨パッドの製造方法であって、
前記研磨層は、前記研磨層内に中空体を形成する中空微小球体を含み、
前記研磨層の断面は、10~14μmの平均開孔径を有し、
1μmの範囲を1階級として表される、前記研磨層の断面の開孔径ヒストグラムにおいて、
25μm以上の開孔数の総和は、前記断面の全開孔数に対して5%以下であり、
25μm以上の各階級の開孔面積の総和は、前記断面の合計開孔面積に対して、20%以下であり、
前記研磨層は、ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物と、硬化剤と、6μm以下のメジアン径(D50)を有する未膨張中空微小球体とを混合し、反応させることにより形成する、製造方法。
【請求項5】
前記反応は、140度の温度を超えないように温度制御下で実施する、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
研磨パッドと砥粒とを用いて、被研磨物を研磨する研磨方法であって、
前記研磨パッドは、被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する研磨層を備え、
前記研磨層は、前記研磨層内に中空体を形成する中空微小球体を含み、
前記研磨層の断面は、10~14μmの平均開孔径を有し、
1μmの範囲を1階級として表される、前記研磨層の断面の開孔径ヒストグラムにおいて、
25μm以上の開孔数の総和は、前記断面の全開孔数に対して5%以下であり、
25μm以上の各階級の開孔面積の総和は、前記断面の合計開孔面積に対して、20%以下であり、
前記砥粒は、0.01~0.2μmの直径を有し、
前記砥粒の存在下で、前記研磨パッドの研磨面に前記被研磨物を接触させ、前記研磨パッド及び研磨被研磨物のいずれか一方又は両方を回転させることにより、研磨を実施する、研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨パッドに関する。詳細には、本発明は、光学材料、半導体ウエハ、半導体デバイス、ハードディスク用基板等の研磨に好適に用いることができる研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
光学材料、半導体ウエハ、半導体デバイス、ハードディスク用基板の表面を平坦化するための研磨法として、化学機械研磨(chemical mechanical polishing,CMP)法が一般的に用いられている。
【0003】
CMP法について、図1を用いて説明する。図1のように、CMP法を実施する研磨装置1には、研磨パッド3が備えられ、当該研磨パッド3は、保持定盤16に保持された被研磨物8に当接するとともに、研磨を行う層である研磨層4と研磨層4を支持するクッション層6を含む。研磨パッド3は、被研磨物8が押圧された状態で回転駆動され、被研磨物8を研磨する。その際、研磨パッド3と被研磨物8との間には、スラリー9が供給される。スラリー9は、水と各種化学成分や硬質の微細な砥粒の混合物(分散液)であり、その中の化学成分や砥粒が流されながら、被研磨物8との相対運動により、研磨効果を増大させるものである。スラリー9は溝又は孔を介して研磨面に供給され、排出される。
【0004】
ところで、半導体デバイスの研磨に用いられる研磨パッドは、通常、ポリウレタン等の合成樹脂から形成された研磨層を有し、この研磨層の内部には空隙が形成されている。この空隙は研磨層の表面で開孔しているため、研磨スラリーに含まれる砥粒が研磨中に保持されることにより、研磨対象物の研磨が進行する。このような空隙の形成方法としては、樹脂中に中空微小球体を混在させる方法が従来公知である。近年、より精密な研磨を実現するために中空微小球体の小径化や均一化の検討がなされている。
【0005】
特許文献1には、平均粒径が20μm以下の未膨張タイプの中空微小球体を含む高密度で研磨レートに優れる研磨パッドが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、中空微小球体などの固相発泡剤及び不活性ガスなどの気相発泡剤を用いることで広い孔分布を有し研磨性能を調整可能な研磨パッドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-069497号公報
【文献】特開2019-069507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載の研磨パッドは、研磨層の断面で測定される開孔径の分布において25μm以上の開孔の割合が多く、この開孔に研磨屑等が滞留してしまいディフェクト性能が十分ではない場合があった。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、良好な研磨レート及びディフェクト性能を両立可能とする研磨パッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意研究の結果、所定の中空微小球体を用いることにより、良好な研磨レート及びディフェクト性能を両立する研磨パッドを見出した。すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] 被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する研磨層を備える研磨パッドであって、
前記研磨層は、前記研磨層内に中空体を形成する中空微小球体を含み、
前記研磨層の断面は、10~14μmの平均開孔径を有し、
1μmの範囲を1階級として表される、前記研磨層の断面の開孔径ヒストグラムにおいて、
25μm以上の開孔数の総和は、前記断面の全開孔数に対して5%以下であり、
25μm以上の各階級の開孔面積の総和は、前記断面の合計開孔面積に対して、20%以下である、研磨パッド。
[2] 30μm以上の各階級の開孔数の総和は、前記研磨面の全開孔数に対して3%以下であり、30μm以上の各階級の開孔面積の総和は、前記研磨面の合計開孔面積に対して、10%以下である、[1]に記載の研磨パッド。
[3] 前記中空微小球体は、6μm以下のメジアン径(D50)を有する未膨張中空微小球体由来のものである、[1]又は[2]に記載の研磨パッド。
[4] 被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する研磨層を備える研磨パッドの製造方法であって、
前記研磨層は、前記研磨層内に中空体を形成する中空微小球体を含み、
前記研磨層の断面は、10~14μmの平均開孔径を有し、
1μmの範囲を1階級として表される、前記研磨層の断面の開孔径ヒストグラムにおいて、
25μm以上の開孔数の総和は、前記断面の全開孔数に対して5%以下であり、
25μm以上の各階級の開孔面積の総和は、前記断面の合計開孔面積に対して、20%以下であり、
前記研磨層は、ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物と、硬化剤と、6μm以下のメジアン径(D50)を有する未膨張中空微小球体とを混合し、反応させることにより形成する、製造方法。
[5] 前記反応は、140度の温度を超えないように温度制御下で実施する、[4]に記載の製造方法。
[6] 研磨パッドと砥粒とを用いて、被研磨物を研磨する研磨方法であって、
前記研磨パッドは、被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する研磨層を備え、
前記研磨層は、前記研磨層内に中空体を形成する中空微小球体を含み、
前記研磨層の断面は、10~14μmの平均開孔径を有し、
1μmの範囲を1階級として表される、前記研磨層の断面の開孔径ヒストグラムにおいて、
25μm以上の開孔数の総和は、前記断面の全開孔数に対して5%以下であり、
25μm以上の各階級の開孔面積の総和は、前記断面の合計開孔面積に対して、20%以下であり、
前記砥粒は、0.01~0.2μmの直径を有し、
前記砥粒の存在下で、前記研磨パッドの研磨面に前記被研磨物を接触させ、前記研磨パッド及び研磨被研磨物のいずれか一方又は両方を回転させることにより、研磨を実施する、研磨方法。
【発明の効果】
【0011】
所定の中空微小球体を含む研磨層を備える研磨パッドは、良好な研磨レートをもたらし、かつ、優れたディフェクト性能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、研磨装置1の斜視図である。
図2図2は、研磨パッドの断面図である。
図3図3は、実施例1及び比較例1の研磨パッドの研磨層の拡大写真と、開孔径ヒス
トグラムである。
図4図4は、実施例2及び比較例2の研磨パッドの研磨層の拡大写真と、開孔径ヒス
トグラムである。
図5a]図5aは、実施例1、2及び比較例1、2の研磨パッドを用いて金属銅膜を研磨したときの研磨レートの変化を示す。
図5b]図5bは、実施例1、2及び比較例1、2を用いて金属銅膜を研磨したときのディフェクト数である。
図6a]図6aは、実施例1、2及び比較例1、2の研磨パッドを用いて酸化珪素膜を研磨したときの研磨レートの変化を示す。
図6b]図6bは、実施例1、2及び比較例1、2を用いて酸化珪素膜を研磨したときのディフェクト数である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、発明を実施するための形態に限定されるものではない。
【0014】
<<研磨パッド>>
本発明の研磨パッドは、良好な研磨レートをもたらし、かつ、優れたディフェクト性能を有する。本明細書において、「パーティクル(Particle)」とは、被研磨物の表面に付着した、研磨スラリー等に含まれる細かい粒子が残留したものを意味し、「パッド屑(Pad Debris)」とは、被研磨物の表面に付着した、研磨工程中に研磨パッドにおける研磨層の表面が摩耗して発生する研磨層の屑を意味し、「スクラッチ(Scratch)」とは、被研磨物の表面についた傷を意味する。本明細書において、「ディフェクト」とは、上述のパーティクル、パッド屑、スクラッチ等を含めた欠陥の総称のことをいう。
【0015】
研磨パッド3の構造について図2(a)を用いて説明する。研磨パッド3は、図2(a)のように、研磨層4と、クッション層6とを含む。研磨パッド3の形状は円盤状が好ましいが、特に限定されるものではなく、また、大きさ(径)も、研磨パッド3を備える研磨装置1のサイズ等に応じて適宜決定することができ、例えば、直径10cm~2m程度とすることができる。
なお、本発明の研磨パッド3は、好ましくは図2(a)に示すように、研磨層4がクッション層6に接着層7を介して接着されている。
研磨パッド3は、クッション層6に配設された両面テープ等によって研磨装置1の研磨定盤10に貼付される。研磨パッド3は、研磨装置1によって被研磨物8を押圧した状態で回転駆動され、被研磨物8を研磨する(図1参照)。
【0016】
<研磨層>
(構成)
研磨パッド3は、被研磨物8を研磨するための層である研磨層4を備える。研磨層4を構成する材料は、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、及びポリウレタンポリウレア樹脂を好適に用いることができ、より好ましくはポリウレタン樹脂を用いることができる。
研磨層4の大きさ(径)は、研磨パッド3と同様であり、直径10cm~2m程度とすることができ、研磨層4の厚みは、通常1~5mm程度とすることができる。
研磨層4は、研磨装置1の研磨定盤10と共に回転され、その上にスラリー9を流しながら、スラリー9の中に含まれる化学成分や砥粒を、被研磨物8と一緒に相対運動させることにより、被研磨物8を研磨する。
研磨層4は、中空微小球体4Aが分散されている。中空微小球体4Aが分散されていることにより、研磨層4が摩耗されると中空微小球体4Aが研磨面に露出され研磨面に微少な空隙が生じる。この微少な空隙がスラリーを保持することで被研磨物8の研磨をより進行させることができる。
【0017】
研磨層4は、後述する中空微小球体4Aを含むウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物(プレポリマー)と、硬化剤(鎖伸長剤)とを混合した混合液を注型し硬化させた発泡体をスライスすることで形成されている。すなわち、研磨層4は、乾式成型されている。
【0018】
(中空微小球体)
本発明の研磨パッドにおける研磨層4に含有される中空微小球体4Aは、研磨層4の研磨面又は研磨層4の断面に中空体として確認できる。研磨層4に含有される中空微小球体4Aは、通常、2~200μmの直径(または開口径)を有する。中空微小球体4Aの形状は、球状、楕円状、及びこれらに近い形状のものが挙げられる
本発明の研磨層4は、中空微小球体により形成される断面又は研磨面の開孔の平均開孔径は、10~14μmである。平均開孔径がこの数値範囲であることで、スラリー(又はスラリー中に含まれる砥粒)を適切に保持することができ、良好な研磨レートを達成することができる。平均開孔径を10μm未満とするのは、特殊な中空微小球体を用いたり、製造や取扱いが難しいという問題があり、コストがかかってしまい現実的ではない。また、14μmより大きい場合はディフェクトの原因となる可能性がある。
【0019】
さらに、本発明の研磨パッドの研磨層4の断面又は研磨面の開孔は、特定の開孔径分布を有する。
開孔径分布を表すために、本明細書では、1μmの範囲ごとに1階級として表される開孔径ヒストグラムを用いる。本明細書において、測定された開孔径の1μmごとに区切った範囲(例示すると、20.0μm以上、21・0μm未満など)を階級とする。
【0020】
本発明では、25μm以上の開孔数の総和は、研磨層の断面の全開孔数に対して5%以下である。25μm以上の開孔数の総和は、断面の全開孔数に対して5%以下であれば、25μm以上の開孔が少ない上、開口数の偏りがないため、これが良好なディフェクト性能に影響すると考えられる。また、好ましくは、25μm以上の各階級の開孔数の総和は、研磨層の断面の全開孔数に対して5%以下である。25μm以上の各階級の開孔数の総和とは、言い換えると、25μm以上、26μm未満の開孔数の総和は、研磨層の断面の全開孔数に対して5%以下であり、また、26μm以上、27μm未満の開孔数の総和も、研磨層の断面の全開孔数に対して5%以下であることを示し、さらに27μm以上の各階級についても同様のことが言える開孔数であることを示す。なお、30μm以上の各階級の開孔数の総和は、断面の全開孔数に対して3%以下であることが好ましい。
【0021】
また、本発明では、25μm以上の各階級の開孔面積の総和は、断面の合計開孔面積に対して、20%以下である。25μm以上の各階級の開孔面積の総和は、断面の合計開孔面積に対して、20%以下であると、研磨屑等を開孔中に保持する可能性が低くなるため、これも良好なディフェクト性能に影響すると考えられる。なお、より研磨屑等を保持する可能性が高くなる30μm以上の開孔について、30μm以上の各階級の開孔面積の総和は、断面の合計開孔面積に対して、10%以下であることが好ましい。
【0022】
中空微小球体4Aは、市販のバルーンを用いることができ、既膨張タイプのもの、及び、未膨張タイプのものが使用可能である。未膨張タイプのものは、加熱膨張性微小球状体であり、熱により加熱膨張させることができる。
【0023】
本発明では、研磨層4を形成するウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物(プレポリマー)及び硬化剤を混合させるときに、未膨張中空微小球体を一緒に混合させることが好ましい。未膨張中空微小球体を用いることにより、中空微小球体4Aの直径(開孔径)を小さくすることができる。
なお、未膨張中空微小球体を用いる場合は、未膨張中空微小球体を含有させた後にプレポリマーと硬化剤との反応を実施するため、反応熱により、未膨張状態よりも直径が大きくなる傾向にあり、また、温度によっては想定より直径が大きくなる場合がある。それを抑制するために、反応温度を高くなりすぎないように制御し、所定の温度以上にならないようにすることが好ましい。反応温度は、未膨張中空微小球体に含まれるガス成分に依存するが、好ましくは、140度以下であることが好ましく、100度以下であることがさらに好ましい。
【0024】
(溝加工)
本発明の研磨層4の被研磨物8側の表面には、溝加工を設けることができる。溝は、特に限定されるものではなく、研磨層4の周囲に連通しているスラリー排出溝、及び研磨層4の周囲に連通していないスラリー保持溝のいずれでもよく、また、スラリー排出溝とスラリー保持溝の両方を有してもよい。スラリー排出溝としては、格子状溝、放射状溝などが挙げられ、スラリー保持溝としては、同心円状溝、パーフォレーション(貫通孔)などが挙げられ、これらを組み合わせることもできる。
【0025】
<クッション層>
(構成)
本発明の研磨パッド3は、クッション層6を有する。クッション層6は、研磨層4の被研磨物8への当接をより均一にすることが望ましい。クッション層6の材料としては、樹脂を含浸させた含浸不織布、合成樹脂やゴム等の可撓性を有する材料、気泡構造を有する発泡体等のいずれから構成されていてもよい。例えば、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリブタジエン、シリコーン等の樹脂や天然ゴム、ニトリルゴム、ポリウレタンゴム等のゴムなどが挙げられる。密度及び圧縮弾性率の調整の観点で、含浸不織布が好ましく、不織布に含浸させる材料にポリウレタンを用いることが好ましい。
【0026】
また、クッション層6は、スポンジ状の微細気泡を有するポリウレタン樹脂製のものも好ましく用いられる。
【0027】
本発明の研磨パッド3におけるクッション層6の圧縮弾性率、密度、気泡は特に限定されるものではなく、公知の特性値を有するクッション層6を用いることができる。
【0028】
<接着層>
接着層7は、クッション層6と研磨層4を接着させるための層であり、通常、両面テープ又は接着剤から構成される。両面テープ又は接着剤は、当技術分野において公知のもの(例えば、接着シート)を使用することができる。
研磨層4およびクッション層6は、接着層7で貼り合わされている。接着層7は、例えば、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系から選択される少なくとも1種の粘着剤で形成することができる。例えば、アクリル系粘着剤が用いられ、厚みが0.1mmに設定することができる。
【0029】
<<研磨パッドの製造方法>>
本発明の研磨パッド3の製造方法について説明する。
【0030】
<研磨層の材料>
研磨層の材料としては、特に限定されるものではないが、主成分としてはポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、及びポリウレタンポリウレア樹脂が好ましく、ポリウレタン樹脂がより好ましい。具体的な主成分の材料としては、例えば、ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物(プレポリマー)と硬化剤とを反応させて得られる材料を挙げることができる。
【0031】
以下、研磨層4の材料の製造方法については、ウレタン結合含有イソシアネート化合物と硬化剤を用いた例を用いて説明する。
【0032】
ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物と硬化剤とを用いた研磨層4の製造方法としては、例えば、少なくともウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物、添加剤、硬化剤を準備する材料準備工程;少なくとも、ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物、添加剤、硬化剤を混合して成形体成形用の混合液を得る混合工程;前記成形体成形用混合液から研磨層を成形する硬化工程、を含む製造方法が挙げられる。
【0033】
以下、材料準備工程、混合工程、成形工程に分けて、それぞれ説明する。
【0034】
<材料準備工程>
本発明の研磨層4の製造のために、ポリウレタン樹脂成形体(硬化樹脂)の原料として、ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物、硬化剤を準備する。ここで、ウレタン結合含有ポリイソシアネートは、ポリウレタン樹脂成形体を形成するための、プレポリマー(ウレタンプレポリマー)である。研磨層4をポリウレア樹脂成型体やポリウレタンポリウレア樹脂成形体にする場合は、それに応じたプレポリマーを用いる。
【0035】
以下、各成分について説明する。
【0036】
(ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物)
ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物(ウレタンプレポリマー)は、下記ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とを、通常用いられる条件で反応させることにより得られる化合物であり、ウレタン結合とイソシアネート基を分子内に含むものである。また、本発明の効果を損なわない範囲内で、他の成分がウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物に含まれていてもよい。
【0037】
ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物としては、市販されているものを用いてもよく、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とを反応させて合成したものを用いてもよい。前記反応に特に制限はなく、ポリウレタン樹脂の製造において公知の方法及び条件を用いて付加重合反応すればよい。例えば、40℃に加温したポリオール化合物に、窒素雰囲気にて撹拌しながら50℃に加温したポリイソシアネート化合物を添加し、30分後に80℃まで昇温させ更に80℃にて60分間反応させるといった方法で製造することができる。
【0038】
(ポリイソシアネート化合物)
本明細書において、ポリイソシアネート化合物とは、分子内に2つ以上のイソシアネート基を有する化合物を意味する。
ポリイソシアネート化合物としては、分子内に2つ以上のイソシアネート基を有していれば特に制限されるものではない。例えば、分子内に2つのイソシアネート基を有するジイソシアネート化合物としては、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート(2,6-TDI)、2,4-トリレンジイソシアネート(2,4-TDI)、ナフタレン-1,4-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネー卜(MDI)、4,4’-メチレン-ビス(シクロヘキシルイソシアネート)(水添MDI)、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ビフェニルジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、キシリレン-1、4-ジイソシアネート、4,4’-ジフェニルプロパンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、プロピレン-1,2-ジイソシアネート、ブチレン-1,2-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,2-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,4-ジイソシアネート、p-フェニレンジイソチオシアネート、キシリレン-1,4-ジイソチオシアネート、エチリジンジイソチオシアネート等を挙げることができる。これらのポリイソシアネート化合物は、単独で用いてもよく、複数のポリイソシアネート化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
ポリイソシアネート化合物としては、2,4-TDI及び/又は2,6-TDIを含むことが好ましい。
【0040】
(プレポリマーの原料としてのポリオール化合物)
本明細書において、ポリオール化合物とは、分子内に2つ以上の水酸基(OH)を有する化合物を意味する。
プレポリマーとしてのウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物の合成に用いられるポリオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール(DEG)、ブチレングリコール等のジオール化合物、トリオール化合物等;ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(又はポリテトラメチレンエーテルグリコール)(PTMG)等のポリエーテルポリオール化合物を挙げることができる。これらの中でも、PTMGが好ましい。PTMGの数平均分子量(Mn)は、500~2000であることが好ましく、600~1300であることがより好ましく、650~1000であることがさらにより好ましい。
数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography:GPC)により測定することができる。なお、ポリウレタン樹脂からポリオール化合物の数平均分子量を測定する場合は、アミン分解等の常法により各成分を分解した後、GPCによって推定することもできる。
上記ポリオール化合物は単独で用いてもよく、複数のポリオール化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
(添加剤)
上記したように、研磨層4の材料として、酸化剤等の添加剤を必要に応じて添加することができる。
【0042】
(硬化剤)
本発明の研磨層4の製造方法では、混合工程において硬化剤(鎖伸長剤ともいう)をウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物などと混合させる。硬化剤を加えることにより、その後の成形体成形工程において、ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物の主鎖末端が硬化剤と結合してポリマー鎖を形成し、硬化する。
硬化剤としては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジアミン、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(MOCA)、4-メチル-2,6-ビス(メチルチオ)-1,3-ベンゼンジアミン、2-メチル-4,6-ビス(メチルチオ)-1,3-ベンゼンジアミン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス[3-(イソプロピルアミノ)-4-ヒドロキシフェニル]プロパン、2,2-ビス[3-(1-メチルプロピルアミノ)-4-ヒドロキシフェニル]プロパン、2,2-ビス[3-(1-メチルペンチルアミノ)-4-ヒドロキシフェニル]プロパン、2,2-ビス(3,5-ジアミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,6-ジアミノ-4-メチルフェノール、トリメチルエチレンビス-4-アミノベンゾネート、及びポリテトラメチレンオキサイド-di-p-アミノベンゾネート等の多価アミン化合物;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、3-メチル-1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチルトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、3-メチル-4,3-ペンタンジオール、3-メチル-4,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、トリメチロールメタン、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、ポリエチレングリコール、及びポリプロピレングリコール等の多価アルコール化合物が挙げられる。また、多価アミン化合物が水酸基を有していてもよく、このようなアミン系化合物として、例えば、2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等を挙げることができる。多価アミン化合物としては、ジアミン化合物が好ましく、例えば、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(メチレンビス-o-クロロアニリン)(以下、MOCAと略記する。)を用いることがさらに好ましい。
【0043】
研磨層4は、外殻を有し、内部が中空状である中空微小球体4Aを含む。上記したように、中空微小球体4Aの材料としては、市販のものを使用することができる。あるいは、常法により合成することにより得られたものを使用してもよい。中空微小球体4Aの外殻の材質としては、特に制限されないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、ポリヒドロキシエーテルアクリライト、マレイン酸共重合体、ポリエチレンオキシド、ポリウレタン、ポリ(メタ)アクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル及び有機シリコーン系樹脂、並びにそれらの樹脂を構成する単量体を2種以上組み合わせた共重合体が挙げられる。また、市販品の中空微小球体としては、以下に限定されないが、例えば、エクスパンセルシリーズ(アクゾ・ノーベル社製商品名)、マツモトマイクロスフェア(松本油脂(株)社製商品名)などが挙げられる。
【0044】
中空微小球体4Aの形状は特に限定されず、例えば、球状及び略球状であってもよい。なお、上記したように、原料としては、未膨張中空微小球体を用いることが好ましい。
【0045】
樹脂に混合する前の中空微小球体の大きさによって、反応によって得られる研磨層4において、適切な開孔に揃えることができる。特に、未膨張タイプの中空微小球体は、既膨張タイプの中空微小球体に比べて小さいため好ましい。使用する前の未膨張タイプの中空微小球体は、平均径として、好ましくは2~20μm、より好ましくは5~10μmのものを用いることが好ましい。さらに好ましくは、中空微小球体の累積分布が50%となるメジアン径(D50)が6μm以下のものを用いることが好ましい。なお、平均粒径・メジアン径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えばスペクトリス(株)製、マスターサイザ-2000)により測定することができる。
また、具体的な市販の中空微小球体を用いる場合、当該中空微小球体を分級することによって、所望の範囲の大きさの揃った中空微小球体にすることができる。
分級する方法としては、本発明は特に限定されるものではないが、篩、遠心分離風力分級、乾式気流分級などにより実施することができる。
【0046】
中空微小球体4Aの材料は、ウレタンプレポリマー100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは1~7質量部、さらにより好ましくは1~5質量部となるように添加する。
【0047】
また、上記の成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲において、従来使用されている発泡剤を、中空微小球体4Aと併用してもよく、下記混合工程中に前記各成分に対して非反応性の気体を吹き込んでもよい。該発泡剤としては、水の他、炭素数5又は6の炭化水素を主成分とする発泡剤が挙げられる。該炭化水素としては、例えば、n-ペンタン、n-ヘキサンなどの鎖状炭化水素や、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素が挙げられる。
【0048】
<混合工程>
混合工程では、前記準備工程で得られた、ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物(ウレタンプレポリマー)、添加剤、硬化剤、中空微小球体を混合機内に供給して攪拌・混合する。混合工程は、上記各成分の流動性を確保できる温度に加温した状態で行われるが、加熱しすぎると、中空微小球体が、膨張してしまい、所定の開孔分布を有さなくなってしまうため、注意が必要である。
【0049】
<成形工程>
成形体成形工程では、前記混合工程で調製された成形体成形用混合液を30~100℃に予熱した棒状の型枠内に流し込み一次硬化させた後、100~150℃程度で10分~5時間程度加熱して二次硬化させることにより硬化したポリウレタン樹脂(ポリウレタン樹脂成形体)を成形する。このとき、ウレタンプレポリマー、硬化剤が反応してポリウレタン樹脂を形成することにより該混合液は硬化する。
ウレタンプレポリマーは、粘度が高すぎると、流動性が悪くなり混合時に略均一に混合することが難しくなる。温度を上昇させて粘度を低くするとポットライフが短くなり、却って混合斑が生じて得られる発泡体に含まれる中空微小球体の大きさにバラツキが生じる。特に、反応温度が高すぎると、未膨張タイプの中空微小球体を用いた場合、必要以上に膨張してしまい、所望の開孔を得られなくなる。反対に粘度が低すぎると混合液中で気泡が移動してしまい、中空微小球体が略均等に分散した発泡体を得ることが難しくなる。このため、プレポリマーは、温度50~80℃における粘度を500~4000mPa・sの範囲に設定することが好ましい。このことは、例えば、プレポリマーの分子量(重合度)を変えることで粘度を設定することができる。プレポリマーは、50~80℃程度に加熱され流動可能な状態とされる。
【0050】
成形工程では、必要により注型された混合液を型枠内で反応させ発泡体を形成させる。このとき、プレポリマーと硬化剤との反応によりプレポリマーが架橋硬化する。
【0051】
成形体を得た後、シート状にスライスして複数枚の研磨層4を形成する。スライスには、一般的なスライス機を使用することができる。スライス時には成形体の下層部分を保持し、上層部から順に所定厚さにスライスされる。スライスする厚さは、例えば、1.3~2.5mmの範囲に設定されている。厚さが50mmの型枠で成型した発泡体では、例えば、発泡体の上層部および下層部の約10mm分をキズ等の関係から使用せず、中央部の約30mm分から10~25枚の研磨層4が形成される。硬化成型ステップで内部に中空微小球体4Aが略均等に形成された発泡体が得られる。
【0052】
得られた研磨層4の研磨面に、必要により溝加工を施してもよい。本発明においては、溝加工の方法及びその形状は特に限定されない。
【0053】
このようにして得られた研磨層4は、その後、研磨層4の研磨面とは反対側の面に両面テープが貼り付けられる。両面テープに特に制限はなく、当技術分野において公知の両面テープの中から任意に選択して使用することが出来る。
【0054】
<クッション層6の製造方法>
クッション層6は、樹脂を含浸してなる含浸不織布で構成することが好ましい。含浸不織布の材料の樹脂としては、好ましくは、ポリウレタン及びポリウレタンポリウレア等のポリウレタン系、ポリアクリレート及びポリアクリロニトリル等のアクリル系、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル及びポリフッ化ビニリデン等のビニル系、ポリサルホン及びポリエーテルサルホン等のポリサルホン系、アセチル化セルロース及びブチリル化セルロース等のアシル化セルロース系、ポリアミド系並びにポリスチレン系などが挙げられる。不織布の密度は、樹脂含浸前の状態(ウェッブの状態)で、好ましくは0.3g/cm以下であり、より好ましくは0.1~0.2g/cmである。また、樹脂含浸後の不織布の密度は、好ましくは0.7g/cm以下であり、より好ましくは0.25~0.5g/cmである。樹脂含浸前及び樹脂含浸後の不織布の密度が上記上限以下であることにより、加工精度が向上する。また、樹脂含浸前及び樹脂含浸後の不織布の密度が上記下限以上であることにより、基材層に研磨スラリーが浸透することを低減することができる。不織布に対する樹脂の付着率は、不織布の重量に対する付着させた樹脂の重量で表され、好ましくは50重量%以上であり、より好ましくは75~200重量%である。不織布に対する樹脂の付着率が上記上限以下であることにより、所望のクッション性を有することができる。
【0055】
<接合工程>
接合工程では、形成された研磨層4およびクッション層6を接着層7で貼り合わせる(接合する)。接着層7には、例えば、アクリル系粘着剤を用い、厚さが0.1mmとなるように接着層7を形成する。すなわち、研磨層4の研磨面と反対側の面にアクリル系粘着剤を略均一の厚さに塗布する。研磨層4の研磨面Pと反対側の面と、クッション層6の表面と、を塗布された粘着剤を介して圧接させて、研磨層4およびクッション層6を接着層7で貼り合わせる。そして、円形等の所望の形状に裁断した後、汚れや異物等の付着が無いことを確認する等の検査を行い、研磨パッド3を完成させる。
【0056】
<<研磨>>
上記の所定の中空微小球体を含む研磨層を備える研磨パッドは、良好な研磨レートをもたらし、かつ、優れたディフェクト性能を有する。本発明の研磨パッドが利用可能な被研磨物は、特に限定されるものではなく、金属、酸化物など様々な被研磨物に利用できる。好ましくは、金属銅、珪素酸化物などが挙げられる。
研磨をするときの研磨機の設定(研磨定盤回転数、圧力、時間等)は特に限定されるものではなく、被研磨物の状況やその他の環境等により適宜変更できるものである。
また、研磨の際には、スラリーを用いるが、本発明では砥粒を含むものを用いてもよい。砥粒の種類は特に制限されるものではなく、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、珪酸ジルコニウム、立方晶窒化ホウ素(CBN)、酸化第二鉄、酸化マンガン、酸化クロム、二酸化ケイ素、アルミナ、炭酸バリウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、酸化マグネシウム、雲母などが挙げられる。また、本発明の研磨パッドは断面に特定の開孔(すなわち、研磨面に特定の開孔)を有しているため、砥粒は0.01~0.2μmの直径を有することが好ましい。
【実施例
【0057】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0058】
各実施例及び比較例において、特段の指定のない限り、「部」とは「質量部」を意味するものとする。
【0059】
また、NCO当量とは、“(ポリイソシアネート化合物の質量(部)+ポリオール化合物の質量(部))/[(ポリイソシアネート化合物1分子当たりの官能基数×ポリイソシアネート化合物の質量(部)/ポリイソシアネート化合物の分子量)-(ポリオール化合物1分子当たりの官能基数×ポリオール化合物の質量(部)/ポリオール化合物の分子量)]”で求められるNCO基1個当たりのプレポリマー(PP)の分子量を示す数値である。
【0060】
(研磨層Aの製造)
2,4-トリレンジイソシアネート(TDI)、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(PTMG)及びジエチレングリコール(DEG)を反応させてなるNCO当量460のイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物)100部に、殻部分がアクリロニトリル-塩化ビニリデン共重合体からなり、殻内にイソブタンガスが内包された未膨張タイプの中空微小球体4.5部を添加混合し、混合液を得た。得られた混合液を第1液タンクに仕込み、保温した。次に、第1液とは別途に、硬化剤としてMOCA26.1部を第2液タンクに仕込み、第2液タンク内で保温した。第1液タンク、第2液タンクの夫々の液体を、注入口を2つ具備した混合機に夫々の注入口からプレポリマー中の末端イソシアネート基に対する硬化剤に存在するアミノ基及び水酸基の当量比を表わすR値が0.90となるように注入した。注入した2液を混合攪拌しながら80℃に予熱した成形機の金型へ注入した後、型締めをし、30分間、加熱し一次硬化させた。一次硬化させた成形物を脱型後、オーブンにて120℃で4時間二次硬化し、ウレタン成形物を得た。得られたウレタン成形物を25℃まで放冷した後に、再度オーブンにて120℃で5時間加熱してから1.3mmの厚みにスライスし、研磨層Aを得た。なお、比較するため2種類の中空微小球体を用いて、2種類の研磨層Aを得た。
【0061】
(研磨層Bの製造)
研磨層Aの製造で用いた第1液の混合液をNCO当量420のイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物)100部とし、研磨層Aの製造で用いた第2液をMOCA28.8部とした以外は、研磨層Aと同様の方法で作製し、研磨層Bを得た。なお、比較するため2種類の中空微小球体を用いたため、2種類の研磨層Bを得た。
【0062】
(クッション層の製造)
ポリエステル繊維からなる不織布をウレタン樹脂溶液(DIC社製、商品名「C1367」)に浸漬した。浸漬後、1対のローラ間を加圧可能なマングルローラを用いて樹脂溶液を絞り落として、不織布に樹脂溶液を略均一に含浸させた。次いで、室温の水からなる凝固液中に浸漬することにより、含浸樹脂を凝固再生させて樹脂含浸不織布を得た。その後、樹脂含浸不織布を凝固液から取り出し、さらに水からなる洗浄液に浸漬して、樹脂中のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を除去した後、乾燥させた。乾燥後、バフィング処理により表面のスキン層を除去し厚み1.3mmのクッション層を作製した。
【0063】
(実施例及び比較例)
研磨層A、Bおよびクッション層を厚さ0.1mmの両面テープ(PET基材の両面にアクリル系樹脂からなる接着層を備えるもの)で接合し、実施例及び比較例の研磨パッドを製造した。実施例1及び比較例1は研磨層Aを、実施例2及び比較例2は研磨層Bを用い、クッション層はいずれも同一のクッション層を用いた。また、使用した中空微小球体はそれぞれ表1に示すメジアン径を示すもの(樹脂と混合する前の中空微小球体、実施例1及び2は乾式気流分級により分級したもの、比較例1及び2は分級していないもの)を用いて研磨パッドとした。
【0064】
(密度)
研磨層の密度(g/cm)は、日本工業規格(JIS K 6505)に準拠して測定した。
(D硬度)
研磨層のD硬度は、日本工業規格(JIS-K-6253)に準拠して、D型硬度計を用いて測定した。ここで、測定試料は、少なくとも総厚さ4.5mm以上になるように、必要に応じて複数枚の研磨層を重ねることで得た。
(開孔評価)
スライスして得られた研磨層について、研磨層断面の開孔の開孔径、開孔率、開孔数を調べた。開孔径、開孔率、開孔数については、レーザーマイクロスコープ(VK-X1000、KEYENCE製)で研磨層の表面の約0.6mm四方の範囲(溝の部分を除く)を400倍に拡大して観察し、得られた画像を画像処理ソフト(WinROOF2018 Ver4.0.2、三谷商事製)により二値化処理して開孔を確認した。また、各々の開孔の面積から円相当径及びその平均値(平均開孔径)を算出した。1μmの範囲ごとに1階級(例示すると、20.0μm以上、21・0μm未満など)として表される開孔径ヒストグラムを用いて表した。なお、開孔径のカットオフ値(下限)を5μmとし、ノイズ成分を除外した。結果を表1、図3及び図4に示す。なお、開孔径はレーザーマイクロスコープ画像における見える開孔の直径の平均値であり、開孔率は、単位面積(0.6ミリメートル四方)当たりの開孔している面積の割合であり、開孔数は、0.6ミリメートル四方あたりの開孔の個数を示す。また、25μm以上の個数・面積割合は、それぞれ25μm以上の開孔の全開孔における個数割合・開孔面積割合を示す。30μm以上の個数・面積割合についても同様である。
【0065】
【表1】
【0066】
表1から分かるように、同じ構成樹脂の研磨層を用いている実施例1、比較例1の組み合わせと、実施例2、比較例2の組み合わせは、それぞれ密度やD硬度などの物性はほぼ同一であるのに対し、樹脂混合前のメジアン径が小さい中空微小球体を用いた実施例1および実施例2は、比較例1および比較例2に対して、研磨層の平均開孔径が小さく(比較例が14μmより大きいのに対し、実施例1:12.7μm、実施例2:12.0μm)、25μm以上の開孔の個数割合が5%以下(比較例がいずれも10%より大きいのに対し、実施例1:2.83%、実施例2:2.60%)・面積割合が20%以下(比較例がいずれも20%より大きいのに対し、実施例1:12.7%、実施例2:14.2%)、30μ以上の開孔個数割合が3%以下(比較例がいずれも3%より大きいのに対し、実施例1:1.01%、実施例2:1.00%)・面積割合が10%以下(比較例がいずれも10%より大きいのに対し、実施例1:6.01%、実施例2:7.70%)と小さな値となっている。
また、図3および図4の断面写真からも分かるように、実施例1および2は、比較例1および2に対して、開孔が小さく・均一な大きさとなっている。さらに図3および図4のヒストグラムからは、実施例1および実施例2は、大きな開孔径の分布が少ない(25μm以上の開孔数の総和は研磨層の断面の全開孔数に対して5%以下であり、かつ25μm以上の各階級の開孔数の総和は研磨層の断面の全開孔数に対して5%以下、かつ30μm以上の各階級の開孔数の総和は研磨層の断面の全開孔数に対して3%以下)ことが分かる。
【0067】
(研磨性能評価)
得られた実施例1、2及び比較例1、2の研磨パッドを用いて、下記研磨条件について、金属膜基板および酸化膜基板及の研磨を実施した。
【0068】
(研磨条件)
使用研磨機:F-REX300X(荏原製作所社製)
Disk:B25(3M社製)およびA188(3M社製)
研磨剤温度:20℃
研磨定盤回転数:85rpm
研磨ヘッド回転数:86rpm
研磨圧力:3.5psi
研磨スラリー(金属膜):CSL-9044C(CSL-9044C原液:純水=重量比1:1の混合液を使用)(フジミコーポレーション製)
研磨スラリー(酸化膜):PL6115(PL6115原液:純水=重量比1:1の混合液を使用)
研磨スラリー流量:200ml/min
研磨時間:60秒
被研磨物(金属膜):Cu膜基板
被研磨物(酸化膜):TEOS(Tetra Ethyl Ortho Silicate)付きシリコンウエハ
パッドブレーク:35N 10分
コンディショニング:Ex-situ、35N、4スキャン
【0069】
(研磨レート)
研磨パッドを、研磨装置の所定位置にアクリル系接着剤を有する両面テープを介して設置し、上記研磨条件にて研磨加工を施した。そして、金属膜基板については研磨処理枚数が15枚目・25枚目・26枚目の基板の研磨レート(単位:オングストローム)を、酸化膜基板については研磨処理枚数が10枚目・15枚目・25枚目・50枚目・60枚目・75枚目・90枚目・100枚目の基板の研磨レート(単位:オングストローム)をそれぞれ測定した。金属膜基板の研磨結果を図5(a)に、酸化膜基板の研磨結果を図6(a)にそれぞれ示す。
【0070】
(ディフェクト)
金属膜基板については研磨処理枚数が27枚目・28枚目・50枚目の基板を、酸化膜基板については研磨処理枚数が10枚目・25枚目・37枚目・50枚目・60枚目・75枚目・90枚目・100枚目の基板を、それぞれ表面検査装置(KLAテンコール社製、Surfscan SP2XP)の高感度測定モードを用いて、大きさが90nm以上となるディフェクト(表面欠陥)を検出した。検出された各ディフェクトについて、レビューSEMを用いて撮影したSEM画像の解析を行い、「パーティクル(Particles)」・「パッド屑(Pad Debris)」・「スクラッチ(Scratch)」の各分類からそれぞれの個数を計測した。金属膜基板の研磨結果を図5(b)に、酸化膜基板の研磨結果を図6(b)にそれぞれ示す。
「パーティクル」・「パッド屑」・「スクラッチ」の各ディフェクトの数が少なければ少ない程、ディフェクトが少なく良好であるといえる。金属膜基板の研磨結果では、実施例・比較例間で「パーティクル」「パッド屑」に関しては差が見られなかったので、「スクラッチ」の個数を示している。また、酸化膜基板の研磨結果では、実施例1と比較例1の結果のみ示しているが、実施例2及び比較例2も同様の傾向であった。
【0071】
図5および図6に示す研磨結果から分かるように、金属膜研磨および酸化膜研磨のいずれにおいても、実施例1および実施例2の研磨パッドは同様の物性を示す比較例1および比較例2の研磨パッドと同等の研磨レートである一方、ディフェクトについては比較例に対して各ディフェクトの数が少ない。特に、金属膜研磨および酸化膜研磨の「スクラッチ」および酸化膜基板の「パーティクル」・「パッド屑」に関して比較例に対し大幅に減少していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、研磨パッドの製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【0073】
1 研磨装置
3 研磨パッド
4 研磨層
4A 中空微小球体
6 クッション層
7 接着層
8 被研磨物
9 スラリー
10 研磨定盤
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図6a
図6b