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  • 特許-封止用グリーンシート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】封止用グリーンシート
(51)【国際特許分類】
   C03C 8/24 20060101AFI20241113BHJP
   H01M 8/0282 20160101ALI20241113BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20241113BHJP
【FI】
C03C8/24
H01M8/0282
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021057235
(22)【出願日】2021-03-30
(65)【公開番号】P2022154285
(43)【公開日】2022-10-13
【審査請求日】2023-09-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 一将
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-203627(JP,A)
【文献】特開2018-020947(JP,A)
【文献】特開2020-167093(JP,A)
【文献】特開2020-164377(JP,A)
【文献】特開2007-254213(JP,A)
【文献】特開2011-168480(JP,A)
【文献】特開2019-006642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 -14/00
H01M 8/0282
H01M 8/12
H01M 8/24
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス粉末と、ジルコニア粉末と、有機物とを含む封止用グリーンシートであって、
前記ガラス粉末100質量部に対する前記ジルコニア粉末の含有率は、5質量部以上25質量部以下であり、
前記ガラス粉末の軟化点は600℃以上750℃以下であり、
前記ガラス粉末の30℃から500℃までの熱膨張係数と、前記ジルコニア粉末の30℃から500℃までの熱膨張係数との差が、0.9×10 -6 -1 以下であり、
前記ガラス粉末は、酸化物換算のモル比で以下の組成:
SiO 8~30mol%、
Al 0.5~10mol%、
5~30mol%、
ZnO 5~10mol%、
RO 50~75mol%
(ここで、RはMg、Ca、Ba、Srからなる群から選択される少なくとも1種の元素)
を含み、アルカリ金属元素を含有しない若しくは不可避的に含有したとしても前記酸化物換算のモル比で0.5mol%未満である、封止用グリーンシート。
【請求項2】
前記封止用グリーンシートから作製される直径16mm、厚さ1.5mmの円板状の試験片に対し、該試験片の厚み方向から7.5kPaの荷重をかけながら、大気雰囲気において750℃の温度で2時間焼成したときの該試験片の厚さ方向の圧縮率が、0.9%以上10.5%以下である、請求項1に記載の封止用グリーンシート。
【請求項3】
前記ガラス粉末は、前記酸化物換算のモル比において、BaOを19mol%以上含む、請求項1または2に記載の封止用グリーンシート。
【請求項4】
前記ガラス粉末の30℃から500℃までの熱膨張係数は、9.7×10-6-1以上11.4×10-6-1以下である、請求項1~の何れか一項に記載の封止用グリーンシート。
【請求項5】
前記有機物として、アクリル系バインダを含む、請求項1~の何れか一項に記載の封止用グリーンシート。
【請求項6】
前記ジルコニア粉末として、イットリア、カルシア、マグネシア、スカンジアおよびセリアからなる群から選ばれる少なくとも1種によって安定化された安定化ジルコニア粉末を含む、請求項1~の何れか一項に記載の封止用グリーンシート。
【請求項7】
さらに、水系溶媒を含む、請求項1~の何れか一項に記載の封止用グリーンシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止用グリーンシートに関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)の単セルは、酸化物イオン伝導体を含んだ緻密な固体電解質を介して、多孔質な燃料極(アノード)と多孔質な空気極(カソード)とが対向された構造を有する。SOFCの両電極にはガスを供給するためのガス管が接続され、かかるガス管を通じて、燃料極には燃料ガス(例えば水素ガス)が、空気極には酸素含有ガス(例えば空気)が供給される。このようなSOFCにおいて、それぞれの電極でガスが混合してしまうと、発電性能の低下等の不具合が生じ得る。そのため、ガス管と単セルとの間が高気密に封止されることが好ましく、かかる封止には、例えばガラスを主成分とするガラス組成物(例えば、封止用グリーンシート)が用いられている(例えば、特許文献1~5参照)。
【0003】
SOFCは、実用的には複数個の単セルを重ね合わせて複層化したスタックなどとして使用される。かかるスタックでは、単セル同士を接続するためにインターコネクタが用いられており、インターコネクタは単セル間を電気的に接続すると共に、ガスを分離するセパレータとしての役割を担っている。封止用グリーンシートは、単セルとインターコネクタとの間に設置され、かかる間に封止部を形成する。これにより、単セルとインターコネクタとが接合され、ガスを封止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6546137号公報
【文献】特開2020-167093号公報
【文献】特許第5128203号公報
【文献】特許第5280963号公報
【文献】特表2008-529256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記スタックでは、封止用グリーンシートは単セルとインターコネクタの間に設置されているため、かかる封止用グリーンシートによって形成された封止部には常に荷重がかかった状態となる。そのため、封止部の強度が不足している場合、かかる荷重により封止部が押しつぶされて流動してしまうため、封止部の接合機能とガス封止機能が損なわれ得る。そのため、封止部は荷重がかかった状態であっても、設置された位置から流動して広がらない程度の形状維持性(耐荷重性)を有することが望ましい。また、SOFCは高温(例えば800℃以上)で作動させるため、封止部は室温から高温まで幅広い範囲の温度変化に晒され得る。このとき、封止部に温度変化による応力が生じるため、封止部にクラックが生じ、封止性が損なわれ得る。そのため、封止部は、高温まで昇温し、室温まで降温するヒートサイクルに晒された場合であっても、封止性を維持する性能(「ヒートサイクル性」ともいう)を有することが望ましい。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、耐荷重性およびヒートサイクル性に優れた封止部を実現する封止用グリーンシートを提供することにある。また、本教示によれば封止用グリーンシートに用いられるガラス粉末が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、封止用グリーンシートによって形成される封止部に耐荷重性およびヒートサイクル性を付与するために、封止用グリーンシートに含まれるガラス粉末の軟化点に着目し、検討を行った。ガラス粉末の軟化点が高い場合には、高温下においても封止部の強度が高く維持され、耐荷重性に優れるが、一方でヒートサイクルによって生じる応力の緩和が不十分となり、クラックが生じ易くなる。一方で、ガラス粉末の軟化点が低い場合には、高温下において封止部の流動性が高くなるため、ヒートサイクルによって生じる応力が緩和できるが、荷重がかかる環境下では、封止部が荷重により押しつぶされてしまうため、封止性が損なわれ得る。そこで、本発明者が鋭意検討した結果、封止用グリーンシートに含まれるガラス粉末の軟化点を適切な範囲とし、フィラーとしてジルコニア粉末を所定の割合で添加することで、封止部の耐荷重性とヒートサイクル性を両立できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
ここで開示される封止用グリーンシートは、ガラス粉末と、ジルコニア粉末と、有機物とを含み、上記ガラス粉末100質量部に対する上記ジルコニア粉末の含有率は、5質量部以上25質量部以下である。また、上記ガラス粉末は、酸化物換算のモル比で以下の組成:
SiO 8~30mol%、
Al 0.5~10mol%、
5~30mol%、
ZnO 5~10mol%、
RO 50~75mol%
(ここで、RはMg、Ca、Ba、Srからなる群から選択される少なくとも1種の元素)
を含み、アルカリ金属元素を実質的に含有しないことを特徴とする。
【0009】
上記ガラス粉末の組成では、ROが50mol%~75mol%の大きな割合を占めていることにより、ガラス粉末の軟化点が適切に調整され、ヒートサイクルによって生じる応力を緩和することができる。また、かかる組成のガラス粉末に対し、フィラーとしてのジルコニア粉末の含有率を上記範囲とすることで、ヒートサイクル性を維持しながら耐荷重性を付与することができる。これにより、耐荷重性およびヒートサイクル性に優れた封止用グリーンシートが実現される。
【0010】
ここに開示される封止用グリーンシートの好ましい一態様では、上記ガラス粉末の軟化点は600℃以上750℃以下である。これにより、室温から高温(例えば850℃程度)までのヒートサイクルに晒された場合であっても、優れたヒートサイクル性を発揮することができる。
【0011】
ここに開示される封止用グリーンシートの好ましい一態様では、上記ガラス粉末の30℃から500℃までの熱膨張係数と、前記ジルコニア粉末の30℃から500℃までの熱膨張係数との差が、0.9×10-6-1以下である。これにより、ガラス粉末とジルコニア粉末の温度変化に伴う体積変化率の差が小さいため、ヒートサイクルによって生じる応力をより緩和することができる。
【0012】
ここに開示される封止用グリーンシートの好ましい一態様では、上記封止用グリーンシートから作製される直径16mm、厚さ1.5mmの円板状の試験片に対し、該試験片の厚さ方向から7.5kPaの荷重をかけながら、大気雰囲気において750℃の温度で2時間焼成したときの該試験片の厚み方向の圧縮率が、0.9%以上10.5%以下である。これにより、封止部を荷重のかかる位置に配置した際にも高い封止性を発揮することができる。
【0013】
ここに開示される封止用グリーンシートの好ましい一態様では、上記ガラス粉末は、上記酸化物換算のモル比において、BaOを19mol%以上含む。また、好ましい一態様では、上記ガラス粉末の30℃から500℃までの熱膨張係数は、9.7×10-6-1以上11.4×10-6-1以下である。ガラス粉末の熱膨張係数が上記範囲であれば、金属部材などの比較的熱膨張係数の高い被封止部材と熱膨張係数を整合させることができるため、封止性をより高めることができる。また、BaOのモル比が上記範囲であることで、ガラス粉末の熱膨張係数を好適に調整することができる。
【0014】
ここに開示される封止用グリーンシートの好ましい一態様では、上記有機物として、アクリル系バインダを含む。これにより、封止用グリーンシートの保管時の品質安定性が高められ、例えば長期保管後であっても封止用グリーンシートの形状を安定的に保持することができる。
【0015】
ここに開示される封止用グリーンシートの一態様では、さらに、水系溶媒を含む。ここに開示される技術によれば、水系溶媒を使用しても、優れた耐荷重性とヒートサイクル性とを有した封止用グリーンシートが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】SOFCシステムを模式的に示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、ここで開示される技術の好適な実施形態について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、封止用グリーンシートの構成など)以外の事柄であって実施に必要な事柄(例えば、SOFCの一般的な製造プロセスやSOFCシステムの構成など)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここで開示される技術の内容は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において、「A~B(ただし、A、Bが任意の値)」とは、「A以上B以下」を意味するものであり、Aを上回る範囲かつBを下回る範囲を包含する。
【0018】
本明細書において、「グリーンシート」とは、完全な未焼成の状態のシート(生シート)の他に、例えば100℃以下の温度で乾燥したシート(乾燥シート)や、150℃以下の温度で仮焼成したシート(仮焼成シート)をも包含し得る用語である。また、本明細書において「熱膨張係数」とは、熱機械分析装置を用いて測定した平均線膨張係数をいう。例えば、JIS R 3102(1995)に準じて、10℃/分の一定速度で試料を昇温したときの平均線膨張係数をいう。また、以下の説明において、特に断りのない限り、「熱膨張係数」は30℃から500℃まで昇温したときの平均線膨張係数のことをいう。
【0019】
<封止用グリーンシート>
ここで開示される封止用グリーンシートは、2つ以上の被封止部材間に配置して焼成することにより、被封止部材間に封止部を形成するためのものである。この封止用グリーンシートは、必須の構成成分として、ガラス粉末と、ジルコニア粉末と、有機物とを含んでいる。その他の性状については特に限定されず、種々の基準に照らして任意に決定し得る。例えば種々の成分を配合したりその組成を変更したりすることができる。なお、本明細書において「粉末」とは、カレット状、パウダー状、フリット状などを包含する用語である。
【0020】
ガラス粉末は、無機バインダとして機能する成分であり、被封止部材間の密着性や接合性を高める働きをする。また、ここで開示されるガラス粉末は、高温下(例えば750℃~900℃)で適度な流動性を有するため、封止用グリーンシートにより形成される封止部に適度な強度と流動性とを付与することができる。これにより、高温下であっても封止部の耐荷重性を維持しながら、室温から高温までのヒートサイクルにより封止部へ生じる応力を緩和することができる。
【0021】
高温下(例えば750℃~900℃)で適度な流動性を封止部に付与するため、ガラス粉末の軟化点は、750℃以下であることが好ましく、740℃以下がより好ましく、例えば730℃以下であってよい。また、ガラス粉末の軟化点が低すぎる場合、高温下(例えば750℃~900℃)で流動性が高くなりすぎるため、耐荷重性が著しく損なわれてしまう。そのため、ガラス粉末の軟化点は、例えば、600℃以上が好ましく、620℃以上がより好ましく、例えば640℃以上であってよい。
なお、本明細書において、「軟化点」とは、ガラスが自重で軟化変形し始める温度として把握される温度であって、ガラスが約107.6dPa・sの粘度となる温度である。この軟化点は、JIS R 3103-1(2001)に準じて測定することができる。
【0022】
ガラス粉末の熱膨張係数(CTE:Coefficient of thermal expansion)は、特に限定されるものではないが、一例では、ガラス粉末の熱膨張係数と被封止部材の熱膨張係数とが同程度(例えば、両者の差が2×10-6-1以下)であるとよい。これにより、封止部と被封止部材の体積変化の差が小さくなるため、封止部の密着性および接合性が向上する。ガラス粉末の熱膨張係数は、例えば、9×10-6-1以上であって、9.7×10-6-1以上であってよく、10.3×10-6-1以上であってよい。また、ガラス粉末の熱膨張係数は、例えば、12×10-6-1以下であって、11.4×10-6-1以下であってよく、10.8×10-6-1以下であってよい。
【0023】
ここに開示されるガラス粉末は、構成成分として少なくともSiO、Al、B、ZnOおよびRO(RはMg、Ca、Ba、Srからなる群から選択される少なくとも1種の元素)を含む。このようにガラス粉末が多成分系で構成されることにより、耐化学性が向上する。また、アルカリ金属元素(Li、Na、Ka、Rb、CsおよびFr)を実質的に含まないことを特徴とする。
【0024】
ケイ素成分(典型的にはSiO)は、ガラスの骨格を構成する成分であり、熱的安定性が高く、ガラスの軟化点を調整する成分である。ガラス粉末全体を酸化物換算のモル比で100mol%としたとき、SiOは、例えば、8mol%以上であることが好ましく、例えば、12mol%以上であってよく、15mol%以上であってよい。また、SiOは、30mol%以下であることが好ましく(例えば、29.4mol%以下)、25mol%以下であってよく、20mol%以下であってよい。これにより、ガラス粉末の軟化点を好適に調整することができる。
【0025】
アルミニウム成分(典型的にはAl)は、ガラス粉末が溶融したとき(ガラス粉末が軟化点以上の温度であるとき)の流動性を制御し、付着安定性にも関与する成分である。ガラス粉末全体を酸化物換算のモル比で100mol%としたとき、Alは、0.5mol%以上であることが好ましく、1mol%以上であってよく、2mol%以上であってよい。また、Alは、例えば10mol%以下であることが好ましく、例えば、5mol%以下であってよく、例えば、2.5mol%以下であってよい。かかる範囲によれば、ガラス粉末が溶融したときの流動性が好適に制御され、封止部の耐荷重性およびヒートサイクル性を向上させることができる。
【0026】
ホウ素成分(典型的にはB)は、ガラス粉末の軟化点の調整に寄与する成分である。ガラス粉末全体を酸化物換算のモル比で100mol%としたとき、Bは、5mol%以上であることが好ましく(例えば7mol%以上)、10mol%以上であってよく、15mol%以上であってよい。また、Bは、例えば30mol%以下であることが好ましく(例えば、29.7mol%以下)、25mol%以下であってよく、例えば、20mol%以下であってよい。かかる範囲によれば、ガラス粉末の軟化点が好適に調整され、封止部の耐荷重性およびヒートサイクル性を向上させることができる。
【0027】
亜鉛成分(典型的にはZnO)は、ガラス粉末の溶融時の流動性を調整し、封止部の気密性や安定性を向上させる成分である。ガラス粉末全体を酸化物換算のモル比で100mol%としたとき、ZnOは、5mol%以上であることが好ましく、6mol%以上であってよい。また、ZnOは、10mol%以下が好ましく、8mol%以下がより好ましく、例えば、7mol%以下であってよい。かかる範囲によれば、ガラス粉末の高温粘性が好適に調整され、封止部の耐荷重性およびヒートサイクル性を好適に実現し得る。
【0028】
第2族元素成分(典型的にはRO:MgO、CaO、BaOおよびSrOからなる群から選択される少なくとも1種)は、ガラス粉末の熱的安定性を向上させ、ガラス粉末の軟化点および熱膨張係数を調整する成分である。ガラス粉末は、ガラス粉末全体を酸化物換算のモル比で100mol%としたとき、ROを50mol%以上含んでおり、例えば52mol%以上含んでもよく、55mol%以上含んでもよい。これにより、ガラス粉末の軟化点および熱膨張係数が好適に調整される。また、特に限定されるものではないが、ROは、例えば75mol%以下であって、65mol%以下であってよく、60mol%以下であり得る。また、ROは、MgO、CaO、BaOおよびSrOの何れか1種で構成され得るが、好ましくは2種、より好ましくは3種以上で構成される。一好適例では、ROは、MgO、CaOおよびBaOから構成されている。ROが多成分で構成されることにより、ガラス粉末の熱膨張係数および軟化点をより好適に調整できると共に、耐化学性を向上させることができる。
【0029】
MgOは、ガラス粉末が溶融したときの粘度の調整に寄与する成分である。ガラス粉末は、MgOを含有しなくてもよいが、含有することが好ましい。MgOを含有し、ROが2種以上の酸化物で構成される場合、ガラス粉末全体を酸化物換算のモル比で100mol%としたとき、MgOは5mol%以上であることが好ましく(例えば、5.6mol%以上)、10mol%以上であってよい。また、特に限定されるものではないが、MgOは、例えば、25mol%以下であって、また例えば、15mol%以下であってよく、12mol%以下であり得る。かかる範囲であれば、ガラス粉末が溶融したときの粘度が好適に調整され、封止部の耐荷重性およびヒートサイクル性が向上し得る。
【0030】
CaOは、ガラスの硬度を向上させ、耐摩耗性および耐荷重性を向上させ得る成分である。ガラス粉末は、CaOを含有しなくてもよいが、含有することが好ましい。CaOを含有し、ROが2種以上の酸化物で構成される場合には、ガラス粉末全体を酸化物換算のモル比で100mol%としたとき、CaOは5mol%以上であることが好ましく、10mol%以上であってよく、20mol%以上であってよい。また、特に限定されるものではないが、CaOは、35mol%以下が好ましく(例えば、30.1mol%以下)、例えば、25mol%以下であってよい。かかる範囲であれば、封止部の耐荷重性および耐摩耗性が好適に向上し得る。
【0031】
BaOは、高い耐熱性や高温耐久性を向上させ得る成分である。ガラス粉末は、BaOを含有しなくてもよいが、含有することが好ましい。BaOを含有し、ROが2種以上の酸化物で構成される場合には、ガラス粉末全体を酸化物換算のモル比で100mol%としたとき、BaOは19mol%以上であることが好ましく(例えば、19.6mol以上)、25mol%以上であってよい。また、特に限定されるものではないが、BaOは、45mol%以下であることが好ましく、40mol%以下がより好ましく、例えば、35mol%以下であってよい。かかる範囲であれば、ガラス粉末の熱膨張係数や軟化点が好適に調整され得る。
【0032】
アルカリ金属元素の酸化物(例えば、LiO、NaO、KO等)は、ガラス転移点を低下させ、ガラス溶融時の流動性を高める成分である。かかる成分がガラス粉末に含まれると、高温環境下において流動性が高くなりすぎるため、耐荷重性が損なわれてしまう。そのため、ガラス粉末は、アルカリ金属元素を実質的に含まないことが好ましい。ここで、「実質的に含まない」とは、不可避的に混入することを許容され得ることをいう。換言すれば、ガラス粉末全体を酸化物換算のモル比で100mol%としたときに、アルカリ金属元素は酸化物換算のモル比で0.5mol%未満であって、より好ましくは0.3mol%以下、さらに好ましくは0.1mol%以下であり、特に好ましくは0mol%である(即ち、含有しない)。
【0033】
また、ガラス粉末は、ここで開示される技術の効果を損なわない範囲で、上述の成分以外にも任意の添加成分を含み得る。添加成分としては、例えば、Cu、Fe、Ni、Zr、La、Sn、Ti等が挙げられる。
【0034】
ガラス粉末の平均粒径は特に限定されないが、典型的にはナノメートルサイズ~ミクロンサイズである。平均粒径が0.1μm以上、例えば0.5μm以上であると、封止用グリーンシートの成形時の取扱性や作業性を向上することができる。また、平均粒径が概ね40μm以下、例えば30μm以下であると、封止温度を低めに設定することができ、焼成時の熱収縮(熱応力による歪み)をよりよく抑えることができる。なお、本明細書において「平均粒径」とは、レーザー回折・光散乱法で測定した体積基準の粒度分布において、微粒子側から累積50%に相当する粒径(粒子径)をいう。
【0035】
ジルコニア(ZrO)粉末は、高耐熱性のフィラーであり、封止部の形状維持性(耐荷重性)を向上させる成分である。封止用グリーンシートは、ジルコニア粉末を含むことにより、荷重のかかる環境下であっても、荷重方向に圧縮され難くなるため、耐荷重性を良好に発揮することができる。
【0036】
ジルコニア粉末の熱膨張係数は特に限定されないが、ガラス粉末と同程度であることが好ましい。例えば、ジルコニア粉末の熱膨張係数と、ガラス粉末の熱膨張係数との差が、0.9×10-6-1以下であることが好ましく(例えば、0.8×10-6-1以下)、例えば0.6×10-6-1以下であってよく、0.3×10-6-1以下であってよい。かかる範囲であれば、ジルコニア粉末とガラス粉末の温度変化に伴う体積変化の差が小さいため、ヒートサイクルによって生じる応力をより緩和することができる。
【0037】
ジルコニア粉末としては、ジルコニア質を含むものであればよく、特に限定されない。例えば、二酸化ジルコニウム、ジルコンサンド、ジルコンフラワー、脱珪ジルコニア、電融ジルコニアなどとして市販されているものを適宜選択して使用することができる。また、イットリア、カルシア、マグネシア、スカンジア、およびセリアのうちの少なくとも1つで安定化された安定化ジルコニア、すなわち、イットリア安定化ジルコニア(YSZ;Yttria stabilized zirconia)、カルシア安定化ジルコニア(CSZ;Calcia stabilized zirconia)、マグネシア安定化ジルコニア(MSZ;Magnesia stabilized zirconia)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ;Scandia stabilized zirconia)、セリア安定化ジルコニア(CeSZ;Ceria stabilized zirconia)などを使用することができる。なお、安定化ジルコニアは部分的に安定化した部分安定化ジルコニアであってもよい。
【0038】
このなかでも、ジルコニア粉末として安定化ジルコニアが使用されることが好ましい。安定化ジルコニアは、高温における安定性が高く、ここに開示されるガラス粉末と同程度の熱膨張係数を有し得るため、封止部にクラックが生じ難くなる。一好適例としては、安定化ジルコニア粉末としてYSZが使用される。YSZの熱膨張係数は、例えば、10×10-6-1~11×10-6-1程度であり得るため、ここで開示されるガラス粉末の熱膨張係数との差が小さい。この結果、温度による体積変化の差が小さくなり、クラックが生じるのを好適に防止することができる。
【0039】
ジルコニア粉末の平均粒径は特に限定されないが、典型的にはガラス粉末の平均粒径と同等かそれ以下であることが好ましい。これにより、均質な封止部を好適に実現することができる。一例として、平均粒径が、概ね30μm以下、典型的には20μm以下、例えば2μm~15μm程度であるとよい。
【0040】
ジルコニア粉末は、封止部の耐荷重性を向上させることができるが、ジルコニア粉末の含有率が高すぎる場合には、高温下で封止部が適度な流動性を有することができなくなる。これにより、ヒートサイクルによって生じる応力の緩和が不十分となり、封止部にクラックが生じ易くなる。そのため、ガラス粉末100質量部に対するジルコニア粉末の含有率は、25質量部以下が適切であり、20質量部以下が好ましい。また、ジルコニア粉末の含有率が低い場合には、封止部の耐荷重性が不十分となり得る。そのため、ジルコニア粉末の含有率は、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、15質量部以上がさらに好ましい。
【0041】
有機物としては特に限定されず、一般的な封止材料に添加し得ることが知られている各種成分を1種または2種以上適宜選択して使用することができる。有機物の一例として、有機バインダ、分散剤、増粘剤、界面活性剤、可塑剤、消泡剤、酸化防止剤、防腐剤、帯電防止剤、pH調整剤、着色剤、有機溶媒などが挙げられる。なかでも、被封止部材に封止用グリーンシートを付与する際の取扱性や作業性を向上する観点からは、有機バインダを含むことが好ましい。また、作業効率を向上(典型的には乾燥時間を短縮)する観点からは、有機溶媒を含まないことが好ましい。
【0042】
有機バインダは、封止用グリーンシートの形状一体性を高める成分である。有機バインダとしては、例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、アミン系樹脂、アルキド系樹脂、セルロース系高分子などが挙げられる。なかでも、アクリル系樹脂を含むことが好ましい。アクリル系樹脂を含むことにより、被封止部材に対する封止用グリーンシートの粘着性を高めて、封止部形成時の取扱性や作業性を向上することができる。また、保管時の品質安定性を高めて、例えば長期保管後にも封止用グリーンシートの形状を安定的に保持することができる。アクリル系樹脂としては、アルキル(メタ)アクリレートを主モノマー(単量体全体の50質量%以上を占める成分)として含む重合体や、かかる主モノマーと当該主モノマーに共重合性を有する副モノマーとを含む共重合体が挙げられる。なお、本明細書中において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートを意味する用語である。
【0043】
有機物は、焼成時に燃え抜け得る成分であるため、封止用グリーンシート中の含有率が高すぎる場合、封止部の緻密性が損なわれ、封止性が損なわれ得る。そのため、ガラス粉末100質量部に対する有機物の含有率は、例えば、35質量部以下とすることが適切であり、25質量部以下であってよく、20質量部以下であるとよい。また、特に限定されるものではないが、作業性の観点から、有機物の含有率は、例えば、10質量部以上であって、15質量部以上であり得る。
【0044】
封止用グリーンシートは、上記3成分(ガラス粉末、ジルコニア粉末、有機物)から構成されていてもよく、上記3成分に加えてその他の任意成分を含んでいてもよい。その他の任意成分としては、例えば、ジルコニア粉末以外の種々のフィラーや焼結助剤などの無機物が挙げられる。
【0045】
また、封止用グリーンシートは、溶媒として水系溶媒を含んでもよい。ここに開示される技術では、水系溶媒を用いた場合あっても、耐荷重性およびヒートサイクル性に優れた封止部を実現することができる。上述のとおり、封止用グリーンシートは有機物として有機溶媒を含み得るが、有機溶媒は消防法等を遵守した安全管理が必要となり、運用コストが高くなり得る。その一方で、水系溶媒はよりコストを抑え安全な製造な可能とし、環境負荷を低減することができるため、水系溶媒を好ましく用いることができる。水系溶媒としては、イオン交換水(脱イオン水)、純水、超純水、蒸留水等の水を好ましく用いることができる。また、水系溶媒は、水と均一に混合し得る非水系溶媒(例えば、低級アルコール、低級ケトン等の水に溶解する溶媒)を必要に応じて含有してもよい。この場合、水系溶媒の95体積%以上が水であることが好ましく、99体積%以上が水であることが好ましい。なお、水系溶媒の添加量は、封止用グリーンシートの成形性を考慮して適宜調節することができるため、特に制限されない。
【0046】
封止用グリーンシートの平均厚みは特に限定されないが、概ね50μm~2000μm、典型的には100μm~1500μm程度である。平均厚みが所定値以上であると、機械的強度を向上することができる。また、平均厚みが所定値以下であると、体積変化を小さく抑えることができ、耐久性を向上することができる。
【0047】
<封止用グリーンシートの作製方法>
封止用グリーンシートは、例えば次のようにして作製することができる。なお、封止用グリーンシートの作製方法はこれに限定されるものではない。
まず、ガラス粉末と、ジルコニア粉末と、有機物(例えば、有機バインダ、分散剤、離型剤など)と、その他の任意成分とを用意し、これらの材料を混合して、組成物を調製する。組成物の調製は、例えばボールミルなどの混合機に上記材料を投入し、均質に撹拌することによって行うことができる。
【0048】
次に、得られた組成物を所定の大きさに造粒(成形)して、所謂、そぼろ状の造粒粒子を得る。造粒の方法については特に限定されず、例えば、噴霧造粒法(スプレードライ法)、転動造粒法、流動層造粒法、撹拌造粒法、圧縮造粒法、押出造粒法、破砕造粒法などを採用することができる。一好適例では、噴霧造粒法を採用する。具体的には、上記組成物を液状に調製して、乾燥雰囲気中に噴霧し、乾燥させることで造粒(成形)する。この手法では、噴霧される液滴に含まれる粒子が概ね1つの塊になって造粒される。このため、液滴の大きさによって造粒粒子の大きさや質量などを容易に調整することができる。
【0049】
次に、上記得られた造粒粒子をシート状に成形する。成形方法としては、ロール成形法を好適に採用することができる。
なお、一般的なシート成形法であるドクターブレード法では、上述したような組成物に有機溶媒を添加してスラリーを調製し、これをドクターブレードと呼ばれる板状の刃を用いて成形した後、有機溶媒を乾燥させる。このため、スラリーにはある程度の粘性を持たせる必要があり、必然的に有機物(典型的には、有機溶媒、有機バインダ、増粘剤)の含有量が多くなる。これによって、焼成前の乾燥に要する時間が長くなったり、乾燥時に環境衛生上の問題を生じたりすることがあり得る。
【0050】
これに対して、ロール成形法では、回転するロールで原料の粉体を圧縮し、シート状に成形する。このため、粉末状やそぼろ状の原料を直接ロール成形機に投入することができる。すなわち、原料をスラリー状に調製する必要がない。ロール成形法では、例えば、反対方向に回転する一対のロールの間に造粒粒子を供給し、この一対のロール間で造粒粒子を圧縮することにより、シート状に成形する。したがって、ロール成形法によれば、有機物の含有量を抑えて、作業効率を向上することができる。また、ロール成形法では、有機溶媒に代えて水系溶媒を用いた場合であっても、封止用グリーンシートを好適に製造することができるため、製造コストの削減や環境衛生の改善にもつなげることができる。さらに、均質性に優れた封止用グリーンシートを安定的に成形することができる。
【0051】
<封止用グリーンシートの用途>
封止用グリーンシートは、被封止部材に貼り付けた後、焼成することによって、封止部の形成に使用することができる。このため、被封止部材にペーストを付与する方法に比べて、作業者の利便性を向上することができる。封止用グリーンシートは、同種部材間または異種部材間の電気的・物理的な封止接合、例えば、複数の金属部材間の封止接合、複数のセラミック部材間の封止接合、セラミック部材と金属部材との封止接合などに好適に用いることができる。一例では、金属部材とセラミック部材との間(封止部分)に封止用グリーンシートを配置して、封止用グリーンシートに含まれるガラス粉末の軟化点以上の温度域、概ね600℃以上、例えば700℃~900℃で焼成する。これにより、金属部材とセラミック部材との間に封止部を形成することができる。なお、ここで開示される封止用グリーンシートは耐荷重性に優れているため、高い荷重(例えば7.5kPa程度)がかかった状態で焼成された場合であっても、高い封止性を有する封止部を形成することができる。
【0052】
金属部材の具体例としては、SOFCの単セルにガスを供給するためのガス管や、SOFCの単セル間に配置され、該単セル同士を電気的に接続するインターコネクタなどが挙げられる。金属部材の材質としては、ステンレス鋼、アルミニウム、クロム、鉄、ニッケル、銅、銀、マンガン、およびこれらの合金などが挙げられる。それら金属部材の熱膨張係数は、10×10-6-1~15×10-6-1程度であり得る。
セラミック部材の具体例としては、SOFCのアノードやカソード、インターコネクタなどが挙げられる。セラミック部材の材質としては、アルミナ、フォルステライト、チタニア、イットリア、ジルコニア、安定化ジルコニアなどが挙げられる。セラミック部材は、いずれか1種のセラミックの単体であってもよいし、2種以上のセラミックが複合化された複合材料(例えば、ムライト、ステアタイト、アルミナジルコニアなど)であってもよい。それらセラミック部材の熱膨張係数は、6×10-6-1~8×10-6-1程度であり得る。
【0053】
ここに開示される封止用グリーンシートによれば、各種部材間を高気密に封止することができ、荷重のかかる環境下であっても長期にわたって安定して高い気密性を維持することができる。例えば高温域で使用したり、常温域~高温域でヒートサイクルを繰り返したりする場合であっても、高い長期耐久性や耐ヒートサイクル性を実現することができる。したがって、ここに開示される封止用グリーンシートは、例えば高温域に晒され得る部品や、高温作動型の装置、具体的には、SOFCや蓄電素子などの各種発電システム、およびそれらを製造するための製造装置、ゴミ焼却装置、排ガス除去装置などの環境装置、車両用の排ガス処理装置、エンジン燃焼試験装置、真空系乾燥装置、半導体装置などの構築に好適に用いることができる。例えば、SOFCの単セルまたは上記単セルが複数個電気的に接続されてなるSOFCのスタックの構築に好ましく用いることができる。言い換えれば、ここに開示される技術により、封止用グリーンシートの焼成体で構成されている封止部を備えたSOFCの単セルまたはスタックが提供される。
【0054】
図1は、SOFCシステム30を模式的に示す分解斜視図である。以下、図1を参照しながら説明する。以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明し、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さなど)は必ずしも実際の寸法関係を反映するものではない。SOFCシステム30は、従来公知の製造方法に準じて製造することができる。
【0055】
SOFCシステム30は、複数のSOFCの単セル10A、10Bと、複数のインターコネクタ20、20Aとを備えている。SOFCシステム30は、単セル10A、10Bが金属製のインターコネクタ20Aを介して積み重ねられたスタック構造を有する。単セル10A、10Bは、層状の固体電解質14の両面が、層状の燃料極(アノード)12と層状の空気極(カソード)16とで挟まれたサンドイッチ構造を備えている。固体電解質14は、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)やガドリニアドープセリア(GDC:Gadolinia doped ceria)などの酸化物イオン伝導体である。燃料極12は、例えば、ニッケル(Ni)や、ニッケルとYSZとのサーメットである。空気極16は、例えば、ランタンコバルトネート(LaCoO)系やランタンマンガネート(LaMnO)系のペロブスカイト型酸化物である。単セル10A、10Bでは、燃料極12が固体電解質14や空気極16に比べて厚めに形成されている。単セル10A、10Bは、燃料極12が支持体としての機能を有する、所謂、燃料極支持型(ASC:Anode-Supported Cell)である。
【0056】
図面中央に配されるインターコネクタ20Aは、その両面を単セル10A、10Bで挟まれており、一方の対向面22が単セル10Aの空気極16と対向し、他方の対向面26が単セル10Bの燃料極12と対向している。インターコネクタ20Aの対向面22、26と、それぞれ対応する単セル10A,10Bの燃料極12あるいは空気極16の対向面との間には、ここに開示される封止用グリーンシートの焼成体(図示せず)が配置され、封止部が形成されている。
【0057】
インターコネクタ20Aの対向面22には複数の溝が形成されており、供給された酸素含有ガス(典型的には空気)が流れる酸素含有ガス流路24を構成している。また、対向面26にも複数の溝が形成されており、供給された燃料ガス(典型的にはHガス)が流れるための燃料ガス流路28を構成している。インターコネクタ20Aでは、酸素含有ガス流路24と燃料ガス流路28とが直交している。
【0058】
SOFCシステム30の作動時には、燃料ガス流路28に燃料ガス(ここでは水素(H)ガス)が、酸素含有ガス流路24に酸素(O)含有ガス(ここでは空気(Air))が、それぞれ供給される。SOFCシステム30では、空気極16において酸素が還元され、酸化物イオンとなる。該酸化物イオンが固体電解質14を介して燃料極12に到達して、燃料ガスを酸化し、電子を放出する。これにより電気エネルギーが発生する。
【0059】
なお、図1に示すSOFCの単セル10A、10Bは平型(Planar)であるが、これには限定されず、他にも種々の形状とすることができる。例えば、従来公知の多角形型、円筒型(Tubular)、あるいは円筒の周側面を垂直に押し潰した扁平円筒型(Flat Tubular)などを採用することができる。また、平型のSOFCとしては、ここで開示される燃料極支持型(ASC)の他にも、例えば固体電解質を厚くした電解質支持型(ESC:Electrolyte-Supported Cell)や、空気極を厚くした空気極支持型(CSC:Cathode-Supported Cell)などを採用することができる。その他、燃料極の下側(固体電解質から離れる側)に多孔質な金属シートを入れた、メタルサポートセル(MSC:Metal-Supported Cell)とすることもできる。また、SOFCのサイズも特に限定されない。
【0060】
以下、ここに開示される技術に関する試験例を説明するが、ここに開示される技術をかかる試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0061】
<試験1>
試験1では、例1~例12の12種類の封止用グリーンシートを作製した。具体的には、各例において、表1に示すガラス組成を有するガラス粉末(平均粒径25μm)と、ジルコニア粉末(イットリア安定化ジルコニア、平均粒径2μm、熱膨張係数(CTE)10.5×10-6-1)と、有機物(ジャパンコーティングレジン株式会社製のアクリル系バインダ(ESZ-4366-02)、可塑剤としてグリセリン、離型剤として中京油脂株式会社製のセロゾール920)を準備した。各例において、ガラス粉末100質量部に対して、ジルコニア粉末が10質量部、有機物が16質量部となるように混合し、混合粉末を得た。次に、得られた混合粉末に水を加え、ポットミルで24時間混錬し、水系スラリーを調製した。その後、得られた水系スラリーをスプレードライにて造粒し、平均粒径が30μm程度の造粒粉を得た。そして、得られた造粒粉をロール成形によってシート状(厚さ:1.5mm)に加圧成型することで例1~12の封止用グリーンシートを得た。なお、各例の封止用グリーンシートに含まれるガラス粉末の物性(熱膨張係数(CTE)、転移点(Tg)、軟化点(Ts))は表1に示すとおりである。また、ガラス粉末の熱膨張係数とジルコニア粉末の熱膨張係数との差(△CTE)を表1に示す。
【0062】
〔Heガスリーク評価試験〕
得られた封止用グリーンシートから直径16mm、厚さ1.5mmの円板状の試験片を作製した。次に、中央に開口部を有するドーナツ状の測定用治具(SUS403製)を準備し、当該治具の開口部を塞ぐように試験片を設置した。そして、試験片上にNCA―1箔を介してアルミナ板を設置し、該アルミナ板上に重さを調整したるつぼを設置することで、試験片の厚み方向に7.5kPaの荷重がかかるようにした。そして、この状態のまま電気炉にて、750℃の大気雰囲気下で焼成処理を2時間実施した。これにより、測定治具の開口部を封止する封止部を形成した。
【0063】
次に、上面が開口した円筒状の測定部を有するガスリーク評価装置を準備し、当該円筒状の測定部の上面を塞ぐように、封止部が形成された測定用治具を取り付けた。そして、測定部の内部にHeガスを供給して圧力を5kPaまで上昇させた後、当該測定部の内圧を測定しながら1分間保持した。そして、測定期間中の圧力降下量に基づいてHeガスリーク量(Pa・m・sec-1)を算出した。このときのHeガスリーク量の評価を表1の「初回接合時」に示す。なお、Heガスリーク量が1×10-5Pa・m・sec-1以下の場合を「〇」と評価し、1×10-5Pa・m・sec-1より多い場合を「×」と評価した。
【0064】
〔熱サイクル試験〕
次に、初回接合時のHeガスリーク量を測定した封止部が形成された測定用治具に熱サイクル試験を実施し、熱サイクル(ヒートサイクル)後の封止性を評価した。熱サイクル試験は、当該封止部を形成するときと同様にして、封止部の厚み方向に7.5kPaの荷重をかけながら実施した。当該封止部が形成された測定用治具を電気炉にて、大気雰囲気下で室温から850℃まで昇温し、1時間維持した。その後、850℃から室温まで降温した。この室温から850℃までの昇温および降温を1サイクルとし、合計10サイクル実施した。その後、上述のガスリーク試験と同様にして、Heガスリーク量を測定した。このときのHeガスリーク量の評価を表1の「熱サイクル試験後」に示す。なお、評価基準は「初回接合時」と同様である。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示すように、例1~7では熱サイクル試験の前後共にHeガスリーク量が少なかった。この試験では、荷重(7.5kPa)をかけながら試験片を焼成して封止部を形成しているため、初回接合時のHeガスリーク評価試験の評価が「〇」であったものは、耐荷重性を有することがわかる。また、例1~7では、ヒートサイクル試験後にHeガスリーク試験の評価が「〇」であったため、所定の組成(SiO、Al、B、ZnOおよびRO)を所定の範囲で有するガラス粉末と、ジルコニア粉末とを併用することにより、優れたヒートサイクル性が実現されることがわかる。
【0067】
<試験2>
試験2では、ガラス粉末に対するジルコニア粉末の添加量について検討した。例1に用いたガラス粉末100質量部に対し、試験1で用いたジルコニア粉末を0、3、5、10、15、20、25および30質量部となるように準備した。これ以外は、試験1と同様にしてグリーンシートを作製し、ジルコニア粉末の添加量が互いに異なる例1および例13~19の封止用グリーンシートを得た。得られた封止用グリーンシートを用いて、試験1と同様にして、Heガスリーク評価試験および熱サイクル試験を実施した。この結果を表2に示す。また、各例において、7.5kPaの荷重下で焼成した後の試験片(封止部)の厚みを測定し、厚み方向の圧縮率((焼成前の厚み-焼成後の厚み)/焼成前の厚み×100)を求めた。この結果を表2に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
表2に示すように、例1および例15~18では、熱サイクル試験の前後共にHeガスリーク量が少なかった。これにより、ガラス粉末100質量部に対して、ジルコニア粉末が5質量部以上25質量部以下含まれることで、優れた耐荷重性およびヒートサイクル性が実現されることがわかる。例13および例14では、初回接合時からHeガスリーク評価試験の結果が「×」であることから、ジルコニア粉末の添加量が少ないためにグリーンシートの強度が弱く、焼成処理中の荷重により、厚みが保てなかったことが原因だと考えられる。一方で、例19では、ジルコニア粉末の添加量が多するために柔軟性が不足し、温度変化による応力によりクラックが生じたため、Heガスリーク評価試験の結果が「×」になったと考えられる。このことから、封止用グリーンシートの厚み方向の圧縮率は、0.9%~10.5%の範囲内であることが適切であることがわかる。
【0070】
以上、ここに開示される技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0071】
10A、10B SOFCの単セル
12 燃料極(アノード)
14 固体電解質
16 空気極(カソード)
20、20A インターコネクタ
30 SOFCシステム
図1