(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】酸素供給用リザーバ及び酸素供給システム
(51)【国際特許分類】
A61M 16/10 20060101AFI20241113BHJP
A61M 16/20 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
A61M16/10 A
A61M16/20 G
(21)【出願番号】P 2021076116
(22)【出願日】2021-04-28
【審査請求日】2024-02-29
(73)【特許権者】
【識別番号】390022541
【氏名又は名称】アトムメディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】田邉 佳史
(72)【発明者】
【氏名】小林 心一
(72)【発明者】
【氏名】白井 充
【審査官】村上 勝見
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第07328703(US,B1)
【文献】特開2004-036893(JP,A)
【文献】米国特許第04572177(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 16/10
A61M 16/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から供給された酸素を貯留するとともに、貯留した前記酸素を患者に供給可能な携帯型の酸素供給用リザーバであって、
互いに嵌合可能でかつ合成樹脂により形成され、第1ケース及び第2ケースの2つのケースで構成されたハウジングと、
前記ハウジングに設けられ、往復運動可能に構成された膜体と、を備え、
前記膜体は、前記第1ケースと前記第2ケースを互いに嵌合させたときに、前記第1ケースと前記第2ケースとの間に挟持されるように構成されており、
前記ハウジングには、
前記ハウジングの内部に設けられ、前記
第2ケースと前記膜体とによって画定された空間である酸素貯留部と、
前記ハウジングの外部から供給された酸素を前記酸素貯留部に取り入れる取入口と、
前記酸素貯留部に貯留された前記酸素が前記ハウジングの外部へと送り出される送出口と、が設けられており、
前記酸素貯留部内の圧力が過剰に高まったときに、前記酸素貯留部に貯留された前記酸素を前記取入口及び前記送出口とは異なる流路から前記ハウジングの外部に逃がす圧力開放部をさらに備え
、
前記膜体の外縁部における少なくとも一部の領域は、前記酸素貯留部内の圧力が過剰に高まったときにのみ、前記膜体によって前記第1ケースが押し上げられ、この際に前記第2ケースとの間で隙間が形成されるように構成されており、
前記隙間が、前記圧力開放部として機能することを特徴とする記載の酸素供給用リザーバ。
【請求項2】
前記
第1ケース及び前記第2ケースにはそれぞれ、互いに係合可能な爪部及び孔部が設けられており、
前記孔部に前記爪部を係合させることにより、前記
第1ケース及び前記第2ケースを嵌合可能に構成されていることを特徴とする請求項
1に記載の酸素供給用リザーバ。
【請求項3】
前記
第1ケース及び前記第2ケースにはそれぞれ、互いに嵌合可能な凸条及び溝部が設けられており、
前記溝部に前記凸条を嵌合させることにより、前記
第1ケース及び前記第2ケースを嵌合可能に構成されていることを特徴とする請求項
1に記載の酸素供給用リザーバ。
【請求項4】
前記ハウジングには、前記膜体の外縁部における前記一部の領域を前記ハウジングに向けて押圧する押圧部が設けられており、
前記押圧部は、前記ハウジングの内面のうち前記一部の領域に対応する位置から突出していることを特徴とする請求項
1に記載の酸素供給用リザーバ。
【請求項5】
前記膜体は、ダイヤフラムからなることを特徴とする請求項1から
4のいずれか一項に記載の酸素供給用リザーバ。
【請求項6】
患者に酸素を供給する酸素供給装置と、
請求項1から
5のいずれか一項に記載の酸素供給用リザーバと、
前記患者に装着可能なプロングと、
前記酸素供給装置と前記酸素供給用リザーバとを接続する第1チューブと、
前記酸素供給用リザーバと前記プロングとを接続する第2チューブと、を備えることを特徴とする酸素供給システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者に酸素を供給する酸素供給システムを構成する酸素供給用リザーバ及び酸素供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸素供給装置から供給された酸素を一時的に貯留するリザーバを備える酸素供給システムが知られている。このような酸素供給システムでは、呼気時に酸素供給装置から供給された酸素を一時的にリザーバに貯留することができるため、患者により高濃度の酸素を投与することができる。このようなリザーバとして、患者の首にペンダントのように掛けられて使用されるペンダントタイプのリザーバが知られている(例えば、特許文献1参照。)
【0003】
この特許文献1に開示されたリザーバには、ハウジング内部にダイヤフラムが収容されており、ダイヤフラムの往復運動によりハウジング内に酸素を貯留し又は貯留された酸素を外部に排出することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示のリザーバでは、何らかの理由でチューブが閉塞されてしまうとハウジング内に酸素が貯留され続けることとなるため、リザーバの内圧が上昇し、リザーバに接続されるチューブが外れたり、リザーバ自体が破損したりすることが懸念される。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、リザーバの内圧が上昇した場合でも、チューブが外れたりリザーバ自体が破損したりすることを抑制できる酸素供給用リザーバ及び酸素供給システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の酸素供給用リザーバは、外部から供給された酸素を貯留するとともに、貯留した前記酸素を患者に供給可能な携帯型の酸素供給用リザーバであって、ハウジングと、前記ハウジングに設けられ、往復運動可能に構成された膜体と、を備え、前記ハウジングには、前記ハウジングの内部に設けられ、前記ハウジングと前記膜体とによって画定された空間である酸素貯留部と、前記ハウジングの外部から供給された酸素を前記酸素貯留部に取り入れる取入口と、前記酸素貯留部に貯留された前記酸素が前記ハウジングの外部へと送り出される送出口と、が設けられており、前記酸素貯留部内の圧力が過剰に高まったときに、前記酸素貯留部に貯留された前記酸素を前記取入口及び前記送出口とは異なる流路から前記ハウジングの外部に逃がす圧力開放部をさらに備える。
【0008】
本発明では、外部から供給された酸素が酸素貯留部に貯留され、該酸素貯留部内の圧力が過剰に高まったときに、圧力開放部から酸素貯留部内の酸素を外部に逃がしてハウジング内部の圧力を開放できる。このため、酸素供給用リザーバの内圧が上昇した場合でも、酸素供給用リザーバに接続されたチューブが外れたり、酸素供給用リザーバ自体が破損したりすることを抑制できる。
【0009】
本発明の酸素供給用リザーバの好ましい態様としては、前記膜体の外縁部における少なくとも一部の領域は、前記酸素貯留部内の圧力が過剰に高まったときにのみ、前記ハウジングとの間で隙間が形成されるように構成されており、前記隙間が、前記圧力開放部として機能するとよい。
【0010】
上記態様では、ハウジングと膜体との間に形成される隙間を介して、ハウジング内の過剰圧力を開放することができる。また、圧力開放部を構成するための専用部品等を必要とせず、ハウジングと膜体の2部品で圧力開放部を構成していることから、部品点数及び製造コストの増加を抑えることができる。
【0011】
本発明の酸素供給用リザーバの好ましい態様としては、前記ハウジングには、前記膜体の外縁部における前記一部の領域を前記ハウジングに向けて押圧する押圧部が設けられており、前記押圧部は、前記ハウジングの内面のうち前記一部の領域に対応する位置から突出しているとよい。
【0012】
上記態様では、押圧部がいわゆる弁として機能することとなる。具体的には、酸素貯留部内の圧力が通常かそれよりも低いときには、ハウジングと膜体との間に形成される隙間から酸素が漏れ出てしまわないように押圧部が膜体を押圧する一方、酸素貯留部内の圧力が過剰に高まったときには、ハウジングと膜体との間に形成される隙間から酸素を逃がして過度な内圧上昇を抑えるように機能する。
【0013】
本発明の酸素供給用リザーバの好ましい態様としては、前記ハウジングは、互いに嵌合可能な2つのケースで構成されており、前記2つのケースを互いに嵌合させたときに、前記2つのケースの間に前記膜体が挟持されるように構成されているとよい。
【0014】
上記態様では、2つのケースの間に膜体を挟み込むことで、本発明を比較的容易に実現できる。
【0015】
本発明の酸素供給用リザーバの好ましい態様としては、前記2つのケースにはそれぞれ、互いに係合可能な爪部及び孔部が設けられており、前記孔部に前記爪部を係合させることにより、前記2つのケースを嵌合可能に構成されているとよい。
【0016】
上記態様では、孔部に爪部を係合させることで2つのケースを強く固定することができる。
【0017】
本発明の酸素供給用リザーバの好ましい態様としては、前記2つのケースにはそれぞれ、互いに嵌合可能な凸条及び溝部が設けられており、前記溝部に前記凸条を嵌合させることにより、前記2つのケースを嵌合可能に構成されていてもよい。
【0018】
上記態様では、溝部に凸条を嵌合させることで2つのケースを強く固定することができる。
【0019】
本発明の酸素供給用リザーバの好ましい態様としては、前記膜体は、ダイヤフラムからなるとよい。
上記態様では、比較的簡易な構成でもって本発明を実現できる。
【0020】
本発明の酸素供給システムは、患者に酸素を供給する酸素供給装置と、本発明の酸素供給用リザーバと、前記患者に装着可能なプロングと、前記酸素供給装置と前記酸素供給用リザーバとを接続する第1チューブと、前記酸素供給用リザーバと前記プロングとを接続する第2チューブと、を備える。
【0021】
本発明では、酸素供給装置から供給された酸素が酸素貯留部に貯留され、該酸素貯留部内の圧力が高まったときに、圧力開放部から酸素貯留部内の酸素を外部に排出して内部の圧力を開放できる。このため、酸素供給用リザーバの内圧が上昇した場合でも、各チューブが外れたりリザーバ自体が破損したりすることを抑制でき、患者により適切に酸素を供給できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、酸素供給用リザーバの内圧が上昇した場合でも、チューブが外れたり酸素供給用リザーバ自体が破損したりすることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る酸素供給システムを示す概略図である。
【
図2】第1実施形態の酸素供給用リザーバの斜視断面図である。
【
図3】第1実施形態の酸素供給用リザーバの分解斜視図である。
【
図4】第1実施形態の酸素供給用リザーバの底面図である。
【
図5】
図4に示すA1-A1線で切断した酸素供給用リザーバの断面図である。
【
図6】
図4に示すB1-B1線で切断した酸素供給用リザーバの断面図である。
【
図7】
図6に示す酸素供給用リザーバの要部を拡大して示す断面図である。
【
図8】本発明の第2実施形態に係る酸素供給用リザーバを示す斜視図である。
【
図9】第2実施形態の酸素供給用リザーバの底面図である。
【
図10】
図9に示すC1-C1線で切断した酸素供給用リザーバの断面図である。
【
図11】
図10に示す酸素供給用リザーバの要部を拡大して示す断面図である。
【
図12】本発明の第3実施形態に係る酸素供給用リザーバを示す斜視図である。
【
図13】
図12に示す酸素供給用リザーバの要部を説明するために示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の酸素供給システム及びこれに用いられる酸素供給用リザーバの各実施形態について、図面を用いて説明する。
【0025】
[第1実施形態]
本実施形態の酸素供給システム100は、患者Pに酸素を供給するシステムである。この酸素供給システム100は、
図1に示すように、酸素供給装置10と、酸素供給装置10から供給された酸素を貯留可能な携帯型の酸素供給用リザーバ20と、酸素供給装置10と酸素供給用リザーバ20とを接続する第1チューブ11と、患者Pに装着されたプロング13と、酸素供給用リザーバ20とプロング13とを接続する第2チューブ12と、を備えている。
【0026】
この酸素供給装置10が駆動すると、第1チューブ11を介して酸素供給用リザーバ20に酸素が供給される。この酸素供給用リザーバ20は、供給された酸素を貯留するとともに、貯留した酸素を第2チューブ12及びプロング13を介して患者Pに供給する。
【0027】
なお、
図1では図示を省略しているが、酸素供給用リザーバ20には、紐などを通す挿通部24が設けられており(
図3参照)、酸素供給用リザーバ20をペンダントのように患者Pの首からぶら下げて使用することができる。なお、
図1に示すように、酸素供給用リザーバ20を患者Pの首からぶら下げて使用する場合、挿通部24が上に位置し、後述する第1ケース30が正面を向くこととなる。
【0028】
[酸素供給用リザーバの構成]
酸素供給用リザーバ20は、
図2~
図4に示すように、平面視略円形のハウジング21と、ハウジング21内に配置され、往復運動可能に構成された膜体60と、ハウジング21内に配置されるカバー50とを備える。ハウジング21の外周には、上述した挿通部24が形成されている。
【0029】
ハウジング21は、
図2及び
図3に示すように、それぞれ嵌合可能に形成された第1ケース30及び第2ケース40の2つのケースで構成されている。ハウジング21には、ハウジング21内に設けられた酸素貯留部22と、第2ケース40に配置され、第1チューブ11が接続される取入口25と、第2ケース40に配置され、第2チューブ12が接続される送出口26とが設けられている。以下、各構成について詳細に説明する。
【0030】
第1ケース30は、例えば合成樹脂等により形成されている。この第1ケース30は、
図3に示すように、平面視円形状のドーム部31と、ドーム部31の外周縁から垂下する(下方に延びる)第1側面部32とを有する。ドーム部31は、側面から見たときに、中央部が最も高く半径方向外側に向かうに従ってその高さが小さくなるドーム形状であり、長尺状の長孔311が略放射状に複数形成されている。また、第1ケース30の内部には、
図2に示すように、膜体60により区画された空間S1が形成されている。
【0031】
第1側面部32の半径方向内側には、膜体60の外縁部62を第2ケース40に向けて押圧する押圧部33が形成されている。押圧部33は、図示による説明は省略するが、第1ケース31の内面からリング状に突出している。また、第1側面部32には、
図3及び
図4に示すように、第2ケース40の孔部461に係合する4つの爪部34がそれぞれ等間隔を開けて(ハウジング21の中心位置に対して略90度となる配置間隔で)形成されている。爪部34の先端部341は、
図2及び
図5に示すように半径方向外側に屈曲しており、その屈曲部分が孔部461の段差部分と係合するように構成されている。
【0032】
第2ケース40は、第1ケース30と同様に、例えば合成樹脂等により形成されている。この第2ケース40は、
図2に示すように、底面部41と、底面部41の外周縁から上方に延びる第2内側側面部42と、第2内側側面部42に連続して形成され、半径方向外側に延びる延出部43と、延出部43に連続して形成され、延出部43の外周縁から上方に延びる第2外側側面部45と、底面部41に形成された流路47とを有している。延出部43には、第1ケース30に向けて突出する突出部44が形成されている。この突出部44は、第1ケース30の押圧部33に対して半径方向外側に位置しており、押圧部33とともに膜体60を挟持する。
【0033】
突出部44と第2外側側面部45との間には、
図2及び
図6に示すように、第1ケース30の第1側面部32を収容するための収容溝部46が形成されている。収容溝部46には、
図2及び
図5に示すように、爪部34が係合する孔部461が4つ形成されている。4つの孔部461は、4つの爪部34と同様にそれぞれ等間隔を開けて(ハウジング21の中心位置に対して略90度となる配置間隔で)形成されている。孔部461は、収容溝部46を構成する壁面のうち半径方向外側の壁面の一部が切りかかれて形成され、この切り欠き部分に爪部34の先端部341が引っ掛かる。
【0034】
流路47は、
図2及び
図3に示すように、底面部41に形成され、酸素供給装置10から供給された酸素がこの流路47を流通する。この流路47は、二手に分離される形状(平面視略Y字状)とされており、流路端部に1つの取入口25と2つの送出口26が配置されている。また、流路47が分岐する手前の部位(取入口25と送出口26との中間位置)の両側には、取入口25から供給された酸素を貯留するための貯留壁473が形成されている。
【0035】
カバー50は、例えば合成樹脂等により形成され、
図2及び
図5に示すように、流路47を覆うように第2ケース40の内部に配置される。このカバー50には、貯留壁473に対向する位置に2つの連通孔51が形成されている。このため、第1チューブ71及び取入口25を通じて流路47内に供給された酸素は、貯留壁473及び連通孔51を介して酸素貯留部22に流入する。
【0036】
膜体60は、
図3に示すように、平面視円形状の合成樹脂製ダイヤフラムからなる。この膜体60は、
図5に示すように、中央部61が第1ケース30側に突出した(盛り上がった)形状とされており、外縁部62が第1ケース30と第2ケース40により挟持されている。具体的には、膜体60の上面が半径方向内側から押圧部33により押圧されるとともに、膜体60の下面が半径方向外側から突出部44により押圧され、膜体60の外縁部62が潰された状態で第1ケース30と第2ケース40により固定される。なお、
図2及び
図5に示すように、膜体60の外周端(外縁部62の端部)の厚みは、膜体60の他の部分の厚みよりも厚く形成されている。そして、膜体60の外周端が押圧部33よりも外側に位置するように、膜体60が押圧部33に押圧されている。
【0037】
これら第1ケース30、膜体60、カバー50、第2ケース40は、
図3に示す順に重ねられ、第1ケース30を第2ケース40に装着することにより酸素供給用リザーバ20とされる。
【0038】
[酸素貯留部の構成]
酸素貯留部22は、第2ケース40と膜体60とにより区画された空間である。上述したように、取入口25から取り入れられた酸素が酸素貯留部22に流入することで、膜体60は、第1ケース30側に膨らむ。この膜体60は、ダイヤフラムにより形成されているため、所定量の酸素が酸素貯留部22内に貯留されるまでは酸素貯留部22内部の圧力がそれほど高まることはない。しかしながら、所定量(規定された量)を超えて酸素が酸素貯留部22内に流入すると、膜体60が限界まで延びた状態となり、酸素貯留部22内部の圧力が過剰に高まる。本実施形態では、酸素貯留部22内の圧力が過剰に高まったときに、酸素貯留部22に貯留された酸素をハウジング21の外部に逃がす圧力開放部70を備えている。
【0039】
[圧力開放部の構成]
圧力開放部70は、酸素貯留部22内の圧力が過剰に高まったときに、膜体60が第1ケース30を押し上げ、この際に形成される第2ケース40と膜体60との間の隙間である。具体的には、酸素貯留部22内の圧力が高まり所定の圧力を超えると、膜体60が第1ケース30を持ち上げる。このとき、爪部34の先端部341が孔部461に係合している部分では第1ケース30が持ち上がらないが、それ以外の部分(爪部34と孔部461が係合していない部分)においては、第2ケース40に対して第1ケース30が持ち上がるように変形することにより、第2ケース40と膜体60との間に隙間が形成され(
図7参照)、この隙間から、第1ケース30の第1側面部32と第2ケース40の第2外側側面部45との境界部分や孔部461を介して酸素が外部に逃げる。なお、第2ケース40と膜体60との間に形成される隙間は、酸素貯留部22内の圧力が過剰に高まったときには形成されるが、酸素貯留部22内の圧力が通常かそれよりも低いときには形成されない。つまり、酸素貯留部22内の圧力が通常かそれよりも低いときは、第2ケース40と膜体60とが密着しているため、酸素貯留部22は取入口25及び送出口26への経路を除き密閉されている。
【0040】
本実施形態では、酸素供給装置10から供給された酸素が酸素貯留部22に貯留され、酸素貯留部22内の圧力が過剰に高まったときに、圧力開放部70(第2ケース40と膜体60との間に形成される隙間70)から酸素貯留部22内の酸素を外部に逃がして酸素貯留部22内部の圧力を開放できる。このため、酸素供給用リザーバ20の内圧が上昇した場合でも、酸素供給用リザーバ20に接続された第1チューブ71及び第2チューブ72が外れたり、酸素供給用リザーバ20自体が破損したりすることを抑制できる。
【0041】
本実施形態では、膜体60の外縁部62には、酸素貯留部22内の圧力が過剰に高まったときにのみ、ハウジング21(第2ケース40)との間で隙間70が形成されるように構成されている。このため、圧力開放部を構成するための専用部品等を必要とせず、ハウジング21と膜体60の2部品で圧力開放部を構成していることから、部品点数及び製造コストの増加を抑えることができる。
【0042】
本実施形態では、上述した押圧部33が設けられており、押圧部33がいわゆる弁として機能することとなる。具体的には、酸素貯留部22内の圧力が通常かそれよりも低いときには、第2ケース40と膜体60との間に形成される隙間70から酸素が漏れ出てしまわないように押圧部33が膜体60を押圧する一方、酸素貯留部22内の圧力が過剰に高まったときには、第2ケース40と膜体60との間に形成される隙間70から酸素を逃がして過度な内圧上昇を抑えるように機能する。
【0043】
本実施形態では、ハウジング21は、互いに嵌合可能な第1ケース30及び第2ケース40で構成されており、第1ケース30及び第2ケース40を互いに嵌合させたときに、第1ケース30及び第2ケース40の間に膜体60が挟持されるように構成されている。これにより、上述した優れた効果を有する酸素供給用リザーバ20を比較的容易に実現できる。
【0044】
本実施形態では、孔部461に爪部34を係合させることにより、第1ケース30及び第2ケース40を強く固定することができる。
【0045】
本実施形態では、膜体60がダイヤフラムからなるので、比較的簡易な構成でもって、上述した優れた効果を有する酸素供給用リザーバ20を実現できる。
【0046】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る酸素供給用リザーバについて、図面を用いて説明する。
図8は、本実施形態の酸素供給用リザーバ20Aを示す斜視図であり、
図9は、
図8に示す酸素供給用リザーバ20Aの底面図であり、
図10は、
図9に示すC1-C1線で切断した酸素供給用リザーバ20Aの断面図であり、
図11は、
図10に示す酸素供給用リザーバの要部を拡大して示す断面図である。
【0047】
本実施形態の酸素供給用リザーバ20Aは、第1ケース30Aと第2ケース40Aとの装着部分の構成及び圧力開放部の構成が第1実施形態の酸素供給用リザーバ20と異なる。なお、以下の説明では、第1実施形態の酸素供給用リザーバ20と同一又は略同じ構成については、同じ符号で示し、説明を省略又は簡略化して説明する。
【0048】
酸素供給用リザーバ20Aのハウジング21Aは、
図8、
図10及び
図11に示すように、第1ケース30A及び第2ケース40Aの2つのケースで構成されている。第1ケース30Aの第1側面部32Aには、周方向にわたって半径方向外側に突出する凸条321が形成されている。この凸条321は、下側(ハウジング21Aの底側)が傾斜面(テーパ形状)となっており、上側が段差形状である。
【0049】
第2ケース40Aの第2外側側面部45Aには、
図10及び
図11に示すように、凸条321に係合する溝部451が形成されている。この溝部451は、断面視凹円弧状に形成され、
図10及び
図11における縦方向の長さは、凸条321の縦方向の長さの略2倍程度に設定されている。
【0050】
これら凸条321及び溝部451は、第1側面部32Aの外周面及び第2外側側面部45Aの外周面に連続して形成されているため、第1ケース30A及び第2ケース40Aの全周が密着した状態となる。
【0051】
また、第2ケース40Aの外周であって、延出部43と第2外側側面部45との境界部分には、ハウジング21Aの外部に連通する通気孔462が形成されている。この通気孔462は、
図9に示すように、第2ケース40Aの中心を挟んで対向する位置に(ハウジング21Aの中心位置に対して略180度となる配置間隔で)2つ形成されている。この通気孔462は、
図9~
図11に示すように、延出部43と第2外側側面部45Aとの接続部を切り欠いたものであり、平面視略矩形状である。
これらの通気孔462は、半径方向に沿った幅(以下、「(通気孔の)奥行」と表現する。)が例えば3mmに設定されており、周方向に沿った幅(以下、単に「(通気孔の)幅」と表現する。)が例えば3mmに設定されている。
【0052】
本実施形態では、
図11に示すように、酸素貯留部22内の圧力が過剰に高まると、膜体60が第1ケース30Aを持ち上げて、第2ケース40Aと膜体60との間に圧力開放部として機能する隙間70が形成され、この隙間70から通気孔462を介して酸素が外部に逃げるように構成されている。
【0053】
本実施形態では、溝部451に凸条321を係合させることにより、第1ケース30A及び第2ケース40Aを強く固定することができる。
【0054】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態に係る酸素供給用リザーバについて、図面を用いて説明する。
図12は、本実施形態に係る酸素供給用リザーバ20Bを示す斜視図である。
図13は、
図12に示す酸素供給用リザーバ20Bの要部を説明するために示す断面図である。
【0055】
本実施形態の酸素供給用リザーバ20Bは、第1ケース30Bの構成が第2実施形態の酸素供給用リザーバ20Aと異なる。なお、以下の説明では、第2実施形態の酸素供給用リザーバ20Aと同一又は略同じ構成については、同じ符号で示し、説明を省略又は簡略化して説明する。
【0056】
酸素供給用リザーバ20Bの第1ケース30Bは、
図12及び
図13に示すように、ドーム部31Bに形成された複数の長孔311の一部に、2つの異形孔312が配置されている。各異形孔312は平面視略L字状であって、2つの異形孔312が線対称となるように配置されている。
【0057】
異形孔312は、ハウジング21Bの中心に対して挿通部24とは反対側の位置に配置されている。酸素供給用リザーバ20Bをペンダントのように患者の首からぶら下げると、挿通部24が上に位置するのに対して、異形孔312は下に位置する。
【0058】
異形孔312を構成する縁部のうち外周に近い位置の縁部分313は、ハウジング21Bの側面に対して傾斜している。具体的には、ドーム部31Bの内面から外面に向けて異形孔312の開口面積が広がるように、縁部分313が傾斜している。
【0059】
本実施形態においても、第2実施形態の
図11に示した場合と同様に、酸素貯留部22内の圧力が過剰に高まると、膜体60が第1ケース30Bを持ち上げて、第2ケース40Aと膜体60との間に圧力開放部として機能する隙間が形成され、この隙間から通気孔462を介して酸素が外部に逃げるように構成されている。
【0060】
異形孔312は、ハウジング21Bの中心に対して挿通部24とは反対側の位置に配置されている。酸素供給用リザーバ20Bをペンダントのように患者の首からぶら下げると、挿通部24が上に位置するのに対して、異形孔312は下に位置する。このため、例えば入浴時に酸素供給用リザーバ20Bを使用した際に、第1ケース30Bと膜体60により区画された空間S1に水が入ったとしても、異形孔312が水抜き用の孔となって第1ケース30Bの外に水を排出することができる。
【0061】
また、異形孔312を構成する縁部のうち外周に近い位置の縁部分313が、ハウジング21Bの側面に対して傾斜しているため、酸素供給用リザーバ20Bをペンダントのように患者の首からぶら下げたときに、空間S1に侵入した水を効率よく外部に排出することができる。
【0062】
なお、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能であり、例えば次のような変更も可能である。
例えば、第1実施形態では、爪部34及び孔部461を4つずつ設けることとしたが、これに限らず、3つ以下であってもよい。また、5つ以上にすることも可能であるが、その数は隣り合う爪部34及び孔部461間に適切に隙間が形成される範囲であれば自由に設定可能である。
【0063】
上記第2及び第3実施形態では、通気孔462を2か所に形成することとしたが、これに限らず、1か所であってもよいし、3か所以上であってもよい。
【0064】
上記第2及び第3実施形態では、通気孔462が、延出部43と第2外側側面部45との境界部分に形成されている場合を例示して説明したが、これに限定されない。例えば、延出部43のうち、延出部43と第2外側側面部45との境界部分よりも内側であって、突出部44よりも外側となる位置(第1側面部32Aの直下)に、通気孔が設けられていてもよい。
【0065】
上記実施形態では、膜体の外縁部とハウジングとの間に形成される隙間が、膜体の全周にわたって形成される場合を例示して説明したが、これに限らず、膜体の外縁部における一部の領域にのみ隙間が形成される構成であってもよい。例えば、上記実施形態で説明したハウジングから第1ケースを取り除き、第2ケースの上端面を覆うように膜体を配置したうえで、膜体の外縁部のうち一部の領域に、酸素貯留部内の圧力が過剰に高まったときに第2ケースとの間で隙間が形成されるよう、第2ケースと膜体とを接着させてもよい。
【0066】
上記実施形態では、取入口が1つ、送出口が2つからなる場合(流路47が略Y字状である場合)を例示して説明したが、これに限らず、例えば取入口と送出口の両方が1つ(流路がI字状)など、他の構成であってもよい。
【0067】
上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。例えば、上記実施形態では、ハウジング(第1ケース及び第2ケース)等が合成樹脂を材料としている場合を例示して説明したが、例えば金属等、他の材料を用いてもよい。また、上記実施形態では、ハウジングが平面視略円形である場合を例示して説明したが、例えば平面視四角形(ひし形)等、他の形状であってもよい。
【実施例】
【0068】
以下、実施例及び比較例をもとに本発明の効果について説明する。実施例1~4の酸素供給用リザーバは、第2実施形態で説明した酸素供給用リザーバ20Aと同様に、酸素貯留部内の圧力が過剰に高まると、膜体が第1ケースを持ち上げて、第2ケースと膜体との間に圧力開放部として機能する隙間が形成されるものであって、第2ケースに設けられる通気孔の数と大きさ(開口面積)がそれぞれ異なっている。具体的に説明すると、実施例1の酸素供給用リザーバは、第2実施形態で説明した酸素供給用リザーバ20Aと同様に、第2ケースに2つの通気孔(幅3mm×奥行3mm)が設けられたものである。実施例2の酸素供給用リザーバは、通気孔の大きさは実施例1と同じで、通気孔の数を1つにしたものである。実施例3の酸素供給用リザーバは、通気孔の数は実施例1と同じで、各通気孔の幅を1.5mmに設定したものである。実施例4の酸素供給用リザーバは、通気孔の数は実施例1と同じで、各通気孔の奥行を5mmに設定したものである。また、比較例としては、第2実施形態で説明した酸素供給用リザーバ20Aをベースとし、第2ケースに設けられる2つの通気孔を削除するとともに、酸素貯留部内の圧力が過剰に高まったとしても、第2ケースと膜体との間に隙間が形成されないように構成されたものを用いた。
【0069】
実施例1~4及び比較例の酸素供給用リザーバのそれぞれについて、取入口にチューブを介して流量計(コフロック株式会社製)を接続するとともに、送出口にチューブを介してプロング(アトムメディカル株式会社製)を接続した。チューブとしては、アトムメディカル株式会社製で内径が4mmのものを使用した。これら実施例1~4及び比較例の酸素供給用リザーバに、酸素(0.4MPa 7L/min)を流し、プロング側のチューブを閉塞して、回路内に圧力計を接続することにより各酸素供給用リザーバの圧力上昇を測定した。実施例1~4及び比較例の測定結果を表1に示す。
【0070】
【0071】
実施例1~4では、内部圧力が上昇したときに酸素貯留部の酸素をハウジングの外部に逃がすことができたので、圧力上昇が65kPa以下となり、十分な性能を有することを確認できた。
一方、比較例では、耐圧が250~350kPaに達した段階で第1ケースが外れて膜体が破裂した。
【0072】
つまり、実施例1~4のように、酸素貯留部内の圧力が過剰に高まると、膜体が第1ケースを持ち上げて、第2ケースと膜体との間に圧力開放部として機能する隙間が形成された酸素供給用リザーバであれば、酸素供給用リザーバの内圧が上昇した場合でも、チューブが外れたり酸素供給用リザーバ自体が破損したりすることを抑制できることが確認できた。
【符号の説明】
【0073】
10…酸素供給装置
11…第1チューブ
12…第2チューブ
13…プロング
20,20A,20B…酸素供給用リザーバ
21,21A,21B…ハウジング
22…酸素貯留部
24…挿通部
30,30A,30B…第1ケース
31,31B…ドーム部
311…長孔
312…異形孔
313…異形孔の縁部分
32,32A…第1側面部
33…押圧部
34…爪部
341…先端部
40,40A…第2ケース
41…底面部
42…第2内側側面部
43…延出部
44…突出部
45,45A…第2外側側面部
451…溝部
46…収容溝部
461…孔部
462…通気孔
47…流路
50…カバー
51…連通孔
60…膜体
61…中央部
62…外縁部
70…圧力開放部(隙間)
100…酸素供給システム
P …患者
S1…空間(第1ケースと膜体により区画された空間)