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特許7587475燃焼処理施設、及び燃焼処理施設の運転方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】燃焼処理施設、及び燃焼処理施設の運転方法
(51)【国際特許分類】
   F23J 15/00 20060101AFI20241113BHJP
   F23G 5/50 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
F23J15/00 A ZAB
F23G5/50 N
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021089811
(22)【出願日】2021-05-28
(65)【公開番号】P2022182313
(43)【公開日】2022-12-08
【審査請求日】2024-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000133032
【氏名又は名称】株式会社タクマ
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】倉田 昌明
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 全一
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0061537(US,A1)
【文献】特表2021-533989(JP,A)
【文献】特開昭62-225231(JP,A)
【文献】特開2001-198438(JP,A)
【文献】特開2010-234321(JP,A)
【文献】米国特許第05237939(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23J 15/00
F23G 5/50
B01D 53/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転中の燃焼炉と休炉中の燃焼炉とを含む複数の燃焼炉と、前記燃焼炉のそれぞれに対応して設けられる排ガス処理設備とを備える燃焼処理施設であって、
前記排ガス処理設備は、
排ガスに還元剤を注入する還元剤注入手段と、
前記還元剤注入手段による還元剤の注入によって脱硝処理された後の排ガス中の残留NOx濃度を計測するNOx濃度計と、
前記燃焼炉のそれぞれの燃焼状態に基づいて、前記燃焼炉のそれぞれから排出される排ガス中のNOx濃度の予測値を所定の予測式を用いて算出する予測値算出手段と、
前記予測値算出手段によって算出される予測値に基づいて、前記還元剤注入手段による還元剤の注入量をフィードフォワード制御するとともに、前記NOx濃度計によって計測される脱硝処理された後の排ガス中の残留NOx濃度に基づいて、前記還元剤注入手段による還元剤の注入量をフィードバック制御する還元剤注入量制御手段と、
を備え、
前記燃焼炉のうち、運転中の燃焼炉に対応する前記排ガス処理設備における前記還元剤注入手段によって還元剤が注入される前の排ガスを、休炉中の燃焼炉に対応する前記排ガス処理設備における前記NOx濃度計に導入する排ガス導入手段と、
前記排ガス導入手段によって排ガスが導入されたNOx濃度計の計測値と、前記予測値算出手段によって算出される予測値とに基づいて前記予測式を補正する補正手段と、
を備える燃焼処理施設。
【請求項2】
前記還元剤注入量制御手段は、前記補正手段によって補正された前記予測式を用いて前記予測値算出手段により算出される予測値に基づいて、前記還元剤注入手段による還元剤の注入量をフィードフォワード制御するとともに、前記NOx濃度計によって計測される、脱硝処理された後の排ガス中の残留NOx濃度に基づいて、前記還元剤注入手段による還元剤の注入量をフィードバック制御する請求項1に記載の燃焼処理施設。
【請求項3】
運転中の燃焼炉と休炉中の燃焼炉とを含む複数の燃焼炉と、前記燃焼炉のそれぞれに対応して設けられる排ガス処理設備とを備える燃焼処理施設の運転方法であって、
前記排ガス処理設備は、
排ガスに還元剤を注入する還元剤注入手段と、
前記還元剤注入手段による還元剤の注入によって脱硝処理された後の排ガス中の残留NOx濃度を計測するNOx濃度計と、
前記燃焼炉のそれぞれの燃焼状態に基づいて、排ガス中のNOx濃度の予測値を所定の予測式を用いて算出する予測値算出手段と、
前記予測値算出手段によって算出される予測値に基づいて、前記還元剤注入手段による還元剤の注入量をフィードフォワード制御するとともに、前記NOx濃度計によって計測される脱硝処理された後の排ガス中の残留NOx濃度に基づいて、前記還元剤注入手段による還元剤の注入量をフィードバック制御する還元剤注入量制御手段と、
を備え、
前記燃焼炉のうち、運転中の燃焼炉に対応する前記排ガス処理設備における前記還元剤注入手段によって還元剤が注入される前の排ガスを、休炉中の燃焼炉に対応する前記排ガス処理設備における前記NOx濃度計に導入する排ガス導入工程と、
前記排ガス導入工程において排ガスが導入されたNOx濃度計の計測値と、前記予測値算出手段によって算出される予測値とに基づいて前記予測式を補正する補正工程と、
を包含する燃焼処理施設の運転方法。
【請求項4】
前記補正工程において補正された前記予測式を用いて前記予測値算出手段により算出される予測値に基づいて、前記還元剤注入手段による還元剤の注入量をフィードフォワード制御するとともに、前記NOx濃度計によって計測される、脱硝処理された後の排ガス中の残留NOx濃度に基づいて、前記還元剤注入手段による還元剤の注入量をフィードバック制御する還元剤注入量制御工程をさらに包含する請求項3に記載の燃焼処理施設の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転中の燃焼炉と休炉中の燃焼炉とを含む複数の燃焼炉と、各燃焼炉に対応して設けられる排ガス処理設備とを備える燃焼処理施設、及びその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、廃棄物等を燃焼する燃焼処理施設において、燃焼に伴い発生した排ガス中に含まれる窒素酸化物(NOx)の排出量を制御する場合、脱硝触媒の存在下で脱硝処理された後の排ガス中の残留NOx濃度をNOx濃度計により計測し、この計測値に応じてアンモニア等の還元剤の注入量をフィードバック制御することが一般的である。
【0003】
上記のようなフィードバック制御の場合、NOx濃度計での計測に要する時間や、脱硝処理反応に要する時間等に起因して制御遅れが生じるため、還元剤の注入量が安定せず、必要量に対し過不足が生じていた。
【0004】
そこで、脱硝処理される前の排ガス中のNOx濃度を計測するNOx濃度計を設け、このNOx濃度計の計測値に基づいて、排ガス中のNOx濃度の予測値算出用の予測式を補正し、補正後の予測式を用いて算出された予測値に基づいて還元剤の注入量を制御するフィードフォワード制御を、上記のフィードバック制御と組み合わせて還元剤の注入量を制御することが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-192501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術では、上記のようなフィードバック制御とフィードフォワード制御とによって還元剤の注入量を最適に制御することが可能であるものの、フィードバック制御のために用いられるNOx濃度計の他に、フィードフォワード制御に関わるNOx濃度の予測値算出用の予測式を補正するために、NOx濃度計が別途必要となる。このため、設備費の増加を招くことになる。特に、燃焼処理施設において、燃焼炉の設置基数が増えるほど、設備費の増加が顕著になる。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、NOx濃度計を増設することなく、フィードフォワード制御に関わるNOx濃度の予測値算出用の予測式を補正することができる燃焼処理施設、及び燃焼処理施設の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明に係る燃焼処理施設の特徴構成は、
運転中の燃焼炉と休炉中の燃焼炉とを含む複数の燃焼炉と、前記燃焼炉のそれぞれに対応して設けられる排ガス処理設備とを備える燃焼処理施設であって、
前記排ガス処理設備は、
排ガスに還元剤を注入する還元剤注入手段と、
前記還元剤注入手段による還元剤の注入によって脱硝処理された後の排ガス中の残留NOx濃度を計測するNOx濃度計と、
前記燃焼炉のそれぞれの燃焼状態に基づいて、前記燃焼炉のそれぞれから排出される排ガス中のNOx濃度の予測値を所定の予測式を用いて算出する予測値算出手段と、
前記予測値算出手段によって算出される予測値に基づいて、前記還元剤注入手段による還元剤の注入量をフィードフォワード制御するとともに、前記NOx濃度計によって計測される脱硝処理された後の排ガス中の残留NOx濃度に基づいて、前記還元剤注入手段による還元剤の注入量をフィードバック制御する還元剤注入量制御手段と、
を備え、
前記燃焼炉のうち、運転中の燃焼炉に対応する前記排ガス処理設備における前記還元剤注入手段によって還元剤が注入される前の排ガスを、休炉中の燃焼炉に対応する前記排ガス処理設備における前記NOx濃度計に導入する排ガス導入手段と、
前記排ガス導入手段によって排ガスが導入されたNOx濃度計の計測値と、前記予測値算出手段によって算出される予測値とに基づいて前記予測式を補正する補正手段と、
を備えることにある。
【0009】
本構成の燃焼処理施設によれば、休炉中の燃焼炉に対応する排ガス処理設備におけるNOx濃度計に、運転中の燃焼炉に対応する排ガス処理設備における還元剤が注入される前の排ガスが、排ガス導入手段によって導入される。これにより、運転中の燃焼炉における還元剤が注入される前の排ガス中のNOx濃度を、休炉中の燃焼炉に対応する排ガス処理設備におけるNOx濃度計を利用して正確に計測することができる。そして、補正手段は、このNOx濃度計の計測値と、予測値算出手段によって算出される予測値とに基づいて予測式を補正する。このようにして、燃焼炉のそれぞれから排出される排ガス中のNOx濃度の予測値を算出するための予測式が、補正手段によって補正される。従って、NOx濃度計を増設することなく、フィードフォワード制御に関わるNOx濃度の予測値算出用の予測式を補正することにより、排ガス処理前及び排ガス処理後のNOx濃度を正確に求めることができる。
【0010】
本発明に係る燃焼処理施設において、
前記還元剤注入量制御手段は、前記補正手段によって補正された前記予測式を用いて前記予測値算出手段により算出される予測値に基づいて、前記還元剤注入手段による還元剤の注入量をフィードフォワード制御するとともに、前記NOx濃度計によって計測される、脱硝処理された後の排ガス中の残留NOx濃度に基づいて、前記還元剤注入手段による還元剤の注入量をフィードバック制御することが好ましい。
【0011】
本構成の燃焼処理施設によれば、補正手段によって補正された予測式を用いて予測値算出手段により算出される精度の高いNOx濃度の予測値に基づいて、還元剤注入手段による還元剤の注入量がフィードフォワード制御されるとともに、NOx濃度計によって計測される、脱硝処理された後の排ガス中の残留NOx濃度に基づいて、還元剤注入手段による還元剤の注入量がフィードバック制御されるので、還元剤の注入量を、必要量に対し過不足なく安定的に制御することができる。
【0012】
次に、上記課題を解決するための本発明に係る燃焼処理施設の運転方法の特徴構成は、
運転中の燃焼炉と休炉中の燃焼炉とを含む複数の燃焼炉と、前記燃焼炉のそれぞれに対応して設けられる排ガス処理設備とを備える燃焼処理施設の運転方法であって、
前記排ガス処理設備は、
排ガスに還元剤を注入する還元剤注入手段と、
前記還元剤注入手段による還元剤の注入によって脱硝処理された後の排ガス中の残留NOx濃度を計測するNOx濃度計と、
前記燃焼炉のそれぞれの燃焼状態に基づいて、排ガス中のNOx濃度の予測値を所定の予測式を用いて算出する予測値算出手段と、
前記予測値算出手段によって算出される予測値に基づいて、前記還元剤注入手段による還元剤の注入量をフィードフォワード制御するとともに、前記NOx濃度計によって計測される脱硝処理された後の排ガス中の残留NOx濃度に基づいて、前記還元剤注入手段による還元剤の注入量をフィードバック制御する還元剤注入量制御手段と、
を備え、
前記燃焼炉のうち、運転中の燃焼炉に対応する前記排ガス処理設備における前記還元剤注入手段によって還元剤が注入される前の排ガスを、休炉中の燃焼炉に対応する前記排ガス処理設備における前記NOx濃度計に導入する排ガス導入工程と、
前記排ガス導入工程において排ガスが導入されたNOx濃度計の計測値と、前記予測値算出手段によって算出される予測値とに基づいて前記予測式を補正する補正工程と、
を包含することにある。
【0013】
本構成の燃焼処理施設の運転方法によれば、排ガス導入工程において、休炉中の燃焼炉に対応する排ガス処理設備におけるNOx濃度計に、運転中の燃焼炉に対応する排ガス処理設備における還元剤注入手段によって還元剤が注入される前の排ガスが導入される。これにより、運転中の燃焼炉における還元剤が注入される前の排ガス中のNOx濃度を、休炉中の燃焼炉に対応する排ガス処理設備におけるNOx濃度計を利用して正確に計測することができる。補正工程においては、このようにして計測されたNOx濃度値と、予測値算出手段によって算出される予測値とに基づいて予測式が補正される。従って、NOx濃度計を増設することなく、フィードフォワード制御に関わるNOx濃度の予測値算出用の予測式を補正することにより、排ガス処理前及び排ガス処理後のNOx濃度を正確に求めることができる。
【0014】
本発明に係る燃焼処理施設の運転方法において、
前記補正工程において補正された前記予測式を用いて前記予測値算出手段により算出される予測値に基づいて、前記還元剤注入手段による還元剤の注入量をフィードフォワード制御するとともに、前記NOx濃度計によって計測される、脱硝処理された後の排ガス中の残留NOx濃度に基づいて、前記還元剤注入手段による還元剤の注入量をフィードバック制御する還元剤注入量制御工程をさらに包含することが好ましい。
【0015】
本構成の燃焼処理施設の運転方法によれば、補正工程において補正された予測式を用いて予測値算出手段により算出される精度の高いNOx濃度の予測値に基づいて、還元剤注入手段による還元剤の注入量がフィードフォワード制御されるとともに、NOx濃度計によって計測される、脱硝処理された後の排ガス中の残留NOx濃度に基づいて、還元剤注入手段による還元剤の注入量がフィードバック制御されるので、還元剤の注入量を、必要量に対し過不足なく安定的に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る燃焼処理施設の概略構成を示すブロック図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る燃焼処理施設において、排ガス導入工程を実施する際の態様の一例を示す要部ブロック図である。
図3図3は、本発明の一実施形態に係る燃焼処理施設において、制御装置により実施される補正工程の手順を示すフローチャートである。
図4図4は、本発明の一実施形態に係る燃焼処理施設において、制御装置により実施される還元剤注入量制御工程の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について、図面を参照しながら説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることは意図しない。
【0018】
<燃焼処理施設の概略構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る燃焼処理施設1の概略構成を示すブロック図である。図1に示す燃焼処理施設1は、例えば、都市ごみ等の廃棄物やバイオマス燃料等の被燃焼物を燃焼する第一燃焼炉10A、及び第二燃焼炉10Bと、第一燃焼炉10Aに対応して設けられる第一排ガス処理設備20Aと、第二燃焼炉10Bに対応して設けられる第二排ガス処理設備20Bとを備えている。
【0019】
<燃焼炉>
第一燃焼炉10Aと第二燃焼炉10Bとは、基本的に同じ構成である。燃焼炉10A,10Bとしては、炉の形式は限定されるものではないが、例えば、ストーカ式燃焼炉や流動床式燃焼炉等を挙げることができる。
【0020】
ストーカ式燃焼炉は、炉内に配置されたストーカを動かし、ストーカ下部より燃焼空気を送り、被燃焼物を乾燥・燃焼・後燃焼させる形式の燃焼炉である。ここで、ストーカとしては、例えば、階段式ストーカとトラベリングストーカとがある。階段式ストーカは、可動火格子と固定火格子とが交互に階段状に配列されたものであり、乾燥段を形成する乾燥ストーカ、燃焼段を形成する燃焼ストーカ、及び後燃焼段を形成する後燃焼ストーカが、被燃焼物送り方向の上流側から下流側に向けて順に区分けされている。一方、トラベリングストーカは、炉内において被燃焼物を移動させる方向に所定間隔を存して配される駆動輪及び従動輪に、複数の火格子を互いに回動自在に環状に連結してなる環状火格子体を巻き掛け装着して構成されている。トラベリングストーカにおいては、環状火格子体が周回運動するように駆動され、環状火格子体で受け止めた被燃焼物投入機からの被燃焼物を移動させながら環状火格子体上で燃焼させるように構成されている。流動床式燃焼炉は、けい砂等の粒子層の下部から加圧された空気を分散供給して、蓄熱したけい砂等を流動させながら、その中で被燃焼物を燃焼させる形式の燃焼炉である。
【0021】
燃焼炉10A,10Bは、酸素濃度計13、及び温度計15を備えている。酸素濃度計13は、二次燃焼空気が供給される図示されない二次燃焼室内の酸素濃度を計測する。温度計15は、同二次燃焼室内の温度を計測する。酸素濃度計13としては、例えば、ガス分子が赤外線の特定の波長の光を吸収するという原理を用い、測定対象ガス分子によって吸収されたレーザー光の減衰量が、測定対象ガス濃度と相関関係にあることを利用して測定するレーザー式酸素濃度計を用いることができる。一方、温度計15としては、例えば、二次燃焼室に燃焼状態の監視用としてもともと備わっている熱線式の温度計を兼用することができる。
【0022】
第一排ガス処理設備20Aと第二排ガス処理設備20Bとは、基本的に同じ構成である。排ガス処理設備20A,20Bは、燃焼炉10A,10Bでの燃焼に伴い発生した排ガスの排ガス流れ上流側から下流側に向けて、次の記載順で配設される、ボイラ21、エコノマイザ23、減温塔25、バグフィルタ27、再加熱器29、脱硝触媒31、誘引ファン33、及び煙突35を備え、これらの機器の相互間がダクト(煙道)によって接続されている。排ガス処理設備20A,20Bにおいては、誘引ファン33の作動による誘引作用により、燃焼炉10A,10Bから排出された排ガスが、ボイラ21、エコノマイザ23、減温塔25、バグフィルタ27、再加熱器29、及び脱硝触媒31のそれぞれにこの記載順で導入される。
【0023】
ボイラ21では、排ガスの熱を利用して蒸気を発生させ、エコノマイザ23では、ボイラ21に供給する水を排ガスの余熱を利用して加熱し、減温塔25では、エコノマイザ23からの排ガスを所定温度まで冷却する。減温塔25で冷却された排ガスは、バグフィルタ27に導入される。バグフィルタ27で除塵処理された後の排ガスは、再加熱器29によって所定温度まで昇温された後に、脱硝触媒31に導入される。脱硝触媒31で脱硝処理された排ガスは、誘引ファン33を通過した後に、煙突35を介して大気中に放出される。
【0024】
<脱硝触媒>
脱硝触媒31としては、例えば、ハニカム形状のセラミックスや酸化チタン等を担体として、活性触媒成分であるバナジウムや、モリブデン、タングステン等が添加されて構成される選択還元型触媒が挙げられる。選択還元型の脱硝触媒31は、窒素酸化物(NOx)を還元する作用を有する還元剤が供給された排ガス中に存在する窒素酸化物と還元剤との反応を促進させるものであり、排ガス中の窒素酸化物を窒素と水とに分解する等によってNOxを除去、低減するために有効に機能する。
【0025】
<還元剤注入装置(還元剤注入手段)>
排ガス処理設備20A,20Bは、還元剤注入装置40をさらに備えている。還元剤注入装置40は、脱硝触媒31の排ガス流れ上流側において再加熱器29と脱硝触媒31とを接続するダクト37内を流れる排ガスに還元剤を注入する。還元剤注入装置40は、還元剤タンク41、還元剤注入管43、圧送ポンプ45、及び流量調整弁47を備えている。還元剤タンク41には、還元剤が貯留されている。還元剤としては、例えば、アンモニア水、気体のアンモニア等を用いることができる。本例では、還元剤としてアンモニア水を用いる。還元剤注入管43は、還元剤タンク41とダクト37とを連通状態に接続する。還元剤注入管43には、還元剤タンク41からダクト37に向かって、圧送ポンプ45、及び流量調整弁47がこの記載順にそれぞれ介設されている。圧送ポンプ45は、還元剤タンク41に貯留されている還元剤をダクト37に向けて圧送する。流量調整弁47は、後述する制御装置60(還元剤注入量制御部65)からの制御信号に応じて還元剤注入管43を流れる還元剤の流量を調整する。還元剤注入装置40においては、圧送ポンプ45の作動により、還元剤タンク41に貯留されている還元剤を流量調整弁47の開度に応じた流量に調整して圧送し、ダクト37内における流路全面に対し下流側に向けて還元剤を排ガス中に噴出することにより、ダクト37内を流れる排ガスの全体に亘って還元剤を拡散し混入することができる。
【0026】
<NOx濃度計>
排ガス処理設備20A,20Bは、NOx濃度計(連続分析計)50をさらに備えている。NOx濃度計50は、脱硝触媒31の排ガス流れ下流側において脱硝触媒31と誘引ファン33とを接続するダクト39内を流れる排ガス、すなわち還元剤注入装置40によって還元剤が注入され、且つ脱硝触媒31を通過することで脱硝処理された後の排ガス中の残留NOx濃度を計測する。NOx濃度計50としては、例えば、サンプリングガスと参照ガスとの赤外線吸収差を電気信号に変換する赤外線ガス分析計を用いることができる。
【0027】
<制御装置>
燃焼処理施設1は、還元剤注入装置40による還元剤の注入量を制御する制御装置60をさらに備えている。制御装置60は、還元剤注入装置40を制御可能なコンピュータを主体に構成されるものであり、所定プログラムを実行することにより、設定部61、予測値算出部63、還元剤注入量制御部65、補正部67のそれぞれの機能が発揮される。
【0028】
設定部61は、図示されない設定器の操作によって設定された、到達すべきNOx濃度値を制御の目標値として設定する。
【0029】
<予測値算出部(予測値算出手段)>
予測値算出部63は、燃焼炉10A,10Bの燃焼状態に基づいて、すなわち酸素濃度計13によって計測される二次燃焼室内の酸素濃度と、温度計15によって計測される同二次燃焼室内の温度とに基づいて、排ガス中のNOx濃度(サーマルNOx濃度)の予測値を所定の予測式〔F(x)〕を用いて算出する。
【0030】
<還元剤注入量制御部(還元剤注入量制御手段)>
還元剤注入量制御部65は、予測値算出部63によって算出される予測値に基づいて、還元剤注入装置40による還元剤の注入量をフィードフォワード制御するとともに、NOx濃度計50によって計測される脱硝処理された後の排ガス中の残留NOx濃度に基づいて、還元剤注入装置40による還元剤の注入量をフィードバック制御する。
【0031】
<補正部(補正手段)>
補正部67は、後述する排ガス導入管70によって排ガスが導入されたNOx濃度計50の計測値と、予測値算出部63によって算出される予測値とに基づいて、予測式〔F(x)〕を補正する。本例では、排ガス導入管70によって排ガスが導入されたNOx濃度計50の計測値と、予測値算出部63によって算出される予測値との比率又は差分に応じた補正係数αを予測式〔F(x)〕に乗算することによって予測式〔F(x)〕を補正する。
【0032】
<排ガス導入工程>
次に、燃焼処理施設1において実施される排ガス導入工程について説明する。図2は、本発明の一実施形態に係る燃焼処理施設1において、排ガス導入工程を実施する際の態様の一例を示す要部ブロック図である。図2に示す例では、第一燃焼炉10A、及び第二燃焼炉10Bのうち、第一燃焼炉10Aが運転中の状態で、第二燃焼炉10Bが休炉中の状態である。このような状態において、排ガス導入工程を実施する際には、運転中の第一燃焼炉10Aに対応して設けられる第一排ガス処理設備20Aにおけるダクト37と、休炉中の第二燃焼炉10Bに対応して設けられる第二排ガス処理設備20BにおけるNOx濃度計50とを排ガス導入管70(本発明の「排ガス導入手段」に相当する。)によって接続する。ここで、排ガス導入管70の一端側は、ダクト37における還元剤注入管43が接続されている位置よりも排ガス流れ上流側の位置に接続されている。排ガス導入管70の他端側は、第二排ガス処理設備20BにおけるNOx濃度計50の所定部分に接続されている。ここで、排ガス導入管70には、任意の構成である開閉弁71が介設されている。排ガス導入工程は、開閉弁71を閉状態から開状態に切り換えることにより行われる。開閉弁71が開状態に切り換えられると、ダクト37内を流れる排ガスの一部が、排ガス導入管70を介して、第二排ガス処理設備20BにおけるNOx濃度計50に導入される。このとき、NOx濃度計50に導入される排ガスは、第一排ガス処理設備20Aにおける還元剤注入装置40によって還元剤が注入される前の排ガスである。
【0033】
<補正工程>
次に、燃焼処理施設1において実施される補正工程について説明する。図3は、本発明の一実施形態に係る燃焼処理施設1において、制御装置60により実施される補正工程の手順を示すフローチャートである。図3において、記号「S」はステップを表す(図4においても同様)。図2及び図3を用いて補正工程について説明する。
【0034】
<S1~S5>
まず、補正部67は、排ガス導入工程において排ガスが導入されたNOx濃度計50の計測値を読み込む(S1)。次いで、補正部67は、予測値算出部63が、酸素濃度計13の計測値や、温度計15の計測値、燃焼用空気量、被燃焼物発熱量等に基づき所定の予測式〔F(x)〕を用いて算出した予測値を読み込む(S2)。そして、補正部67は、ステップS1で読み込んだNOx濃度計の計測値と、ステップS2で読み込んだ予測値とを比較し(S3)、両者の比率又は差分に応じて定められる補正係数αを予測式〔F(x)〕に乗じて、〔αF(x)〕に補正する(S4)。そして、予測値算出部63は、補正後の〔αF(x)〕を最新の予測式〔F(x)〕として更新する(S5)。なお、他の補正方法としては、排ガス導入工程(排ガス導入管70)によって排ガスが導入されたNOx濃度計50の計測値と、運転中の燃焼炉10Aに関する各種運転データ(酸素濃度計13、温度計15の計測値等)とに基づいて回帰式を作成し、予測式〔F(x)〕の係数を補正する、という方法が挙げられる。
【0035】
<還元剤注入量制御工程>
次に、燃焼処理施設1において実施される還元剤注入量制御工程について説明する。図4は、本発明の一実施形態に係る燃焼処理施設1において、制御装置60により実施される還元剤注入量制御工程の手順を示すフローチャートである。図2及び図4を用いて還元剤注入量制御工程について説明する。
【0036】
<S11~S15>
還元剤注入量制御部65は、ステップS1~S5(図3参照)によって補正・更新された最新の予測式〔F(x)〕を用いて予測値算出部63により算出されるNOx濃度予測値、設定部61によって目標値(SV値)として設定されている目標NOx濃度値、排ガス量等のデータから必要な還元剤注入量を算出する(S11)。この算出は、例えば、以下の式(1)より行うことができる。
還元剤注入量 = (NOx濃度予測値-目標NOx濃度値)×排ガス量×(100-排ガス水分率)/100 ・・・(1)
次いで、還元剤注入量制御部65は、NOx濃度計50の計測値と目標NOx濃度値との差分をなくすように、ステップS11において算出された必要還元剤注入量を補正する(S12)。そして、還元剤注入量制御部65は、補正後の必要還元剤注入量となるような、流量調整弁47に対する操作量(MV値)を算出する(S13)。ステップS13で算出したMV値に基づく制御信号を流量調整弁47に送信する(S14)。目標NOx濃度値に達したか否かを判断し(S15)、目標NOx濃度値に達するまでステップS11~S15を繰り返し実行する。
【0037】
本実施形態の燃焼処理施設1においては、第一燃焼炉10A、及び第二燃焼炉10Bのうちの休炉中の第二燃焼炉10Bに対応する第二排ガス処理設備20BにおけるNOx濃度計50に、運転中の第一燃焼炉10Aに対応する第一排ガス処理設備20Aにおける還元剤が注入される前の排ガスが、開閉弁71が開状態の排ガス導入管70を介して導入される。これにより、運転中の第一燃焼炉10Aにおける還元剤が注入される前の排ガス中のNOx濃度を、休炉中の第二燃焼炉10Bに対応する第二排ガス処理設備20BにおけるNOx濃度計50を利用して正確に計測することができる。このようにして、燃焼炉10Aから排出される排ガス中のNOx濃度の予測値を算出するための予測式が、補正部67によって補正される。従って、NOx濃度計50を増設することなく、フィードフォワード制御に関わるNOx濃度の予測値算出用の予測式〔F(x)〕を補正することにより、排ガス処理前及び排ガス処理後のNOx濃度を正確に求めることができる。
【0038】
本実施形態の燃焼処理施設1においては、補正部67によって補正されて予測値算出部63にて更新された最新の予測式〔F(x)〕を用いて予測値算出部63により算出される精度の高いNOx濃度の予測値(FF値)に基づいて、還元剤注入装置40による還元剤の注入量がフィードフォワード制御されるとともに、NOx濃度計50によって計測される、脱硝処理された後の排ガス中の残留NOx濃度(FB値)に基づいて、還元剤注入装置40による還元剤の注入量がフィードバック制御されるので、還元剤の注入量を、必要量に対し過不足なく安定的に制御することができる。
【0039】
本実施形態の燃焼処理施設1においては、還元剤注入装置40によって還元剤が注入された後の排ガスが脱硝触媒31を通過する際に、排ガス中のNOxと還元剤との反応が脱硝触媒31によって促進される。これにより、脱硝効率を格段に向上させることができる。
【0040】
以上、本発明の燃焼処理施設、及び燃焼処理施設の運転方法について、一実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【0041】
上記実施形態では、第一燃焼炉10Aが運転中で、第二燃焼炉10Bが休炉中である場合を例示したが、これとは逆に、第一燃焼炉10Aが休炉中で、第二燃焼炉10Bが運転中である場合も勿論ある。この場合、第一燃焼炉10Aを上記実施形態の第二燃焼炉10Bに、第二燃焼炉10Bを上記実施形態の第一燃焼炉10Aに、それぞれ置き換えて考えれば、上記実施形態と同様の要領にて同様の作用効果を得ることができる。
【0042】
上記実施形態では、燃焼処理施設1として、運転中の燃焼炉10Aと休炉中の燃焼炉10Bとを含む2基の燃焼炉10A,10Bと、燃焼炉10A,10Bのそれぞれに対応して設けられる排ガス処理設備20A,20Bとを備えるものを例示したが、これに限定されるものではない。運転中の燃焼炉と休炉中の燃焼炉とを含む3基以上の燃焼炉と、各燃焼炉に対応して設けられる排ガス処理設備とを備える燃焼処理施設においても、休炉中の燃焼炉に対応する排ガス処理設備におけるNOx濃度計を利用して、残りの燃焼炉における運転中の燃焼炉の予測式を、上記実施形態と同様の要領にて補正することができるとともに、還元剤注入量を制御することができる。
【0043】
上記実施形態では、排ガス導入工程を実施する際に、第一排ガス処理設備20Aにおけるダクト37と第二排ガス処理設備20BにおけるNOx濃度計50とを排ガス導入管70によって接続するようにしたが、排ガス導入管70を常設しておき、排ガス導入工程を実施しないときには開閉弁71を閉状態とし、排ガス導入工程を実施することきには開閉弁71を開状態とするようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の燃焼処理施設、及び燃焼処理施設の運転方法は、例えば、ごみ燃焼炉や、バイオマス燃焼炉等から排出される排ガス中に含まれるNOxを大気放出可能なレベルまで削減する用途において利用可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 燃焼処理施設
10A 第一燃焼炉(運転中)
10B 第二燃焼炉(休炉中)
20A 第一排ガス処理設備
20B 第二排ガス処理設備
31 脱硝触媒
40 還元剤注入装置(還元剤注入手段)
50 NOx濃度計
63 予測値算出部(予測値算出手段)
65 還元剤注入量制御部(還元剤注入量制御手段)
67 補正部(補正手段)
70 排ガス導入管(排ガス導入手段)
図1
図2
図3
図4