(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】λ/4型電波吸収体用抵抗膜部材
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20241113BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20241113BHJP
H01Q 17/00 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
H05K9/00 M
B32B7/025
H01Q17/00
(21)【出願番号】P 2021092898
(22)【出願日】2021-06-02
【審査請求日】2024-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2020096036
(32)【優先日】2020-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中尾 幸子
(72)【発明者】
【氏名】澤田石 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】武藤 勝紀
【審査官】中田 誠二郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-147999(JP,A)
【文献】特開2003-078276(JP,A)
【文献】特開2017-112373(JP,A)
【文献】特開2014-090162(JP,A)
【文献】特開2019-176161(JP,A)
【文献】特開2004-312696(JP,A)
【文献】特開2008-268173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
B32B 7/025
H01Q 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体、抵抗膜、及び金属層を含み、
前記金属層が、前記支持体の抵抗膜側とは反対側の面上、前記支持体と前記抵抗膜の間、及び前記抵抗膜の支持体側とは反対側の面上からなる群より選択される少なくとも1種の位置に配置されており、且つ
支持体側から79GHzの電波を入射した際の透過減衰量(S21)の絶対値が10dB以下である、
λ/4型電波吸収体用抵抗膜部材。
【請求項2】
前記金属層が融点500℃以下の金属を含有する、請求項1に記載のλ/4型電波吸収体用抵抗膜部材。
【請求項3】
前記金属層がインジウム、亜鉛、鉛、カドミウム、スズ及びビスマスより構成される群より選択される少なくとも1つの金属を含有する、請求項1又は2に記載のλ/4型電波吸収体用抵抗膜部材。
【請求項4】
前記金属層がインジウム含有金属層である、請求項1又は2に記載のλ/4型電波吸収体用抵抗膜部材。
【請求項5】
前記金属層の厚みが10~100nmである、請求項1~4のいずれかに記載のλ/4型電波吸収体用抵抗膜部材。
【請求項6】
支持体の抵抗膜側とは反対側の表面における表面平滑性(Ra)が5nm以下である、請求項1~5のいずれかに記載のλ/4型電波吸収体用抵抗膜部材。
【請求項7】
前記金属層が前記支持体の抵抗膜側とは反対側の面上に配置されており、且つ前記支持体側の表面における表面抵抗が1.0×10
6 Ω/□以上である、請求項1~6のいずれかに記載のλ/4型電波吸収体用抵抗膜部材。
【請求項8】
前記金属層が前記支持体と前記抵抗膜の間及び/又は前記抵抗膜の支持体側とは反対側の面上に配置されており、且つ前記支持体の全光線透過率が5%以上である、請求項1~6のいずれかに記載のλ/4型電波吸収体用抵抗膜部材。
【請求項9】
請求項1~8いずれかに記載のλ/4型電波吸収体用抵抗膜部材を含む、λ/4型電波吸収体。
【請求項10】
請求項9に記載のλ/4型電波吸収体を含む、ミリ波レーダー。
【請求項11】
請求項9に記載のλ/4型電波吸収体を、反射部の少なくとも一部として有する、照明器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、λ/4型電波吸収体用抵抗膜部材等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やスマートフォン等の携帯通信機器の普及が急速に進んでおり、また自動車等において多くの電子機器が搭載されるようになり、これらから発生する電波・ノイズを原因とする電波障害、他の電子機器の誤動作等の問題が多発している。このような電波障害、誤動作等を防止する方策として、各種の電波吸収体が検討されている。例えば、特許文献1には、60~90GHzの周波数帯域において、電磁波吸収量が20dB以上である周波数帯域の帯域幅が2GHz以上である電磁波吸収体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動化運転技術の急速な普及により、電磁波センサー制御及び自家中毒の抑制のため、ミリ波吸収体の需要が高まりつつある。ミリ波吸収体は、センサーの設置位置によっては、自動車のライトにも貼付して使用されることがある。このような場合、電波吸収性とともに、意匠性(反射部に貼付しても目立たないこと)や光を反射することも求められる。しかし反射板のような金属色を単純に付与する構成(例えば表面にアルミニウム層をメッキにより形成したり、金属塗料を塗布したり)では、電波をも反射してしまい、電波吸収性が低下してしまうことがあった。
【0005】
本発明は、電波入射面側から見た場合に金属色を呈し(例えば、照明器具の反射部の少なくとも一部を構成する場合であっても意匠性に優れ)、且つ良好な電波吸収性を有する電波吸収体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、支持体、抵抗膜、及び金属層を含み、前記金属層が、前記支持体の抵抗膜側とは反対側の面上、前記支持体と前記抵抗膜の間、及び前記抵抗膜の支持体側とは反対側の面上からなる群より選択される少なくとも1種の位置に配置されており、且つ支持体側から79GHzの電波を入射した際の透過減衰量(S21)の絶対値が10dB以下である、λ/4型電波吸収体用抵抗膜部材、であれば、上記課題を解決できることを見出した。本発明者はこの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0007】
項1. 支持体、抵抗膜、及び金属層を含み、
前記金属層が、前記支持体の抵抗膜側とは反対側の面上、前記支持体と前記抵抗膜の間、及び前記抵抗膜の支持体側とは反対側の面上からなる群より選択される少なくとも1種の位置に配置されており、且つ
支持体側から79GHzの電波を入射した際の透過減衰量(S21)の絶対値が10dB
以下である、λ/4型電波吸収体用抵抗膜部材.
項2. 前記金属層が融点500℃以下の金属を含有する、項1に記載のλ/4型電波吸収体用抵抗膜部材.
項3. 前記金属層がインジウム、亜鉛、鉛、カドミウム、スズ及びビスマスより構成される群より選択される少なくとも1つの金属を含有する、項1又は2に記載のλ/4型電波吸収体用抵抗膜部材.
項4. 前記金属層がインジウム含有金属層である、項1~3のいずれかに記載のλ/4型電波吸収体用抵抗膜部材.
項5. 前記金属層の厚みが10~100nmである、項1~4のいずれかに記載のλ/4型電波吸収体用抵抗膜部材.
項6. 支持体の抵抗膜側とは反対側の表面における表面平滑性(Ra)が5nm以下である、項1~5のいずれかに記載のλ/4型電波吸収体用抵抗膜部材.
項7. 前記金属層が前記支持体の抵抗膜側とは反対側の面上に配置されており、且つ前記支持体側の表面における表面抵抗が1.0×106 Ω/□以上である、項1~6のいずれかに記載のλ/4型電波吸収体用抵抗膜部材.
項8. 前記金属層が前記支持体と前記抵抗膜の間及び/又は前記抵抗膜の支持体側とは反対側の面上に配置されており、且つ前記支持体の全光線透過率が5%以上である、項1~6のいずれかに記載のλ/4型電波吸収体用抵抗膜部材.
項9. 項1~8いずれかに記載のλ/4型電波吸収体用抵抗膜部材を含む、λ/4型電波吸収体.
項10. 項9に記載のλ/4型電波吸収体を含む、ミリ波レーダー.
項11. 項9に記載のλ/4型電波吸収体を、反射部の少なくとも一部として有する、照明器具.
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電波入射面側から見た場合に金属色を呈し(例えば、照明器具の反射部の少なくとも一部を構成する場合であっても意匠性に優れ)、且つ良好な電波吸収性を有する電波吸収体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】金属層が前記支持体の抵抗膜側とは反対側の面上にのみ配置されている場合の、本発明の抵抗膜部材の一例を示す概略断面図である。
【
図2】金属層が支持体と抵抗膜の間にのみ配置されている場合の、本発明の抵抗膜部材の一例を示す概略断面図である。
【
図3】金属層が抵抗膜の支持体側とは反対側の面上にのみ配置されている場合の、本発明の抵抗膜部材の一例を示す概略断面図である。
【
図4】本発明のλ/4型電波吸収体の一例を示す概略断面図である。
【
図5】上方の図は、本発明のλ/4型電波吸収体用部材の一例を示す概略断面図である。下方は、該部材が接するように配置される、反射層として機能し得る被着体の一例を示す概略断面図である。
【
図6】本発明のλ/4型電波吸収体の用途の一例(粘着剤を介して、筐体、又は照明器具の反射板上に配置されてなる形態の一例)を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0011】
1.抵抗膜部材
本発明は、その一態様において、支持体、抵抗膜、及び金属層を含み、前記金属層が、前記支持体の抵抗膜側とは反対側の面上、前記支持体と前記抵抗膜の間、及び前記抵抗膜の支持体側とは反対側の面上からなる群より選択される少なくとも1種の位置に配置されており、且つ支持体側から79GHzの電波を入射した際の透過減衰量(S21)の絶対値が10dB以下である、λ/4型電波吸収体用抵抗膜部材(本明細書において、「本発明の抵抗膜部材」と示すこともある。)、に関する。抵抗膜部材とは、他の層(典型的には、誘電体層を及び反射層)を積層することによりλ/4型電波吸収体を形成するための部材である。以下に、これについて説明する。
【0012】
<1-1.支持体>
支持体により、抵抗膜を保護することができ、抵抗膜部材としての耐久性、さらには該部材を備える電波吸収体としての耐久性を高めることが可能である。支持体は、シート状のものである限り、特に制限されない。支持体としては、特に制限されないが、例えば樹脂基材が挙げられる。
【0013】
樹脂基材は、樹脂を素材として含む基材であって、シート状のものである限り、特に制限されない。樹脂基材は、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、樹脂以外の成分が含まれていてもよい。例えば、比誘電率を調整する観点から金属酸化物(例えば、酸化チタン等)等の粒子が含まれていてもよい。樹脂基材中の樹脂の合計量は、例えば80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0014】
樹脂としては、特に制限されず、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリスチレン樹脂、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂、ポリビニルブチラール(PVB)等のポリビニルアセタール樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリサルホン(PSF)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂等が挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上の組合せで使用することができる。
【0015】
これらの中でも、生産性や強度、後述の全光線透過率の制御が容易となる観点から、好ましくはポリエステル系樹脂、より好ましくはポリエチレンテレフタレートが挙げられる。
【0016】
支持体の比誘電率は、特に制限されない。支持体の比誘電率は、例えば1~20、好ましくは1~15、より好ましくは1~10、さらに好ましくは1~5である。
【0017】
支持体の比誘電率は、後述の誘電体層の比誘電率と同様にして測定することができる。
【0018】
支持体の全光線透過率は、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは30%以上、よりさらに好ましくは60%以上、とりわけ好ましくは80%以上、とりわけさらに好ましくは85%以上である。支持体の全光線透過率がより高いことによって、金属層が前記支持体と前記抵抗膜の間及び/又は前記抵抗膜の支持体側とは反対側の面上にのみ配置されている場合であっても、金属色をより良好に呈し、且つより良好な光反射性を発揮することができる。なお、上記場合は、すなわち、電波入射面(=照明器具の反射部の少なくとも一部を構成する場合の光入射面)側に支持体が存在し、支持体の電波入射面側と反対側に金属層が存在する場合である。該全光線透過率の上限は、特に制限されず、例えば100%、95%である。支持体の全光線透過率を制御する方法は特に限定されるものではないが、例えば、支持体が含む樹脂の種類を調整する方法、樹脂以外の成分の含有量を調整する方法、厚みを調整する方法、表面平滑性を調整する方法等が挙げられる。
【0019】
全光線透過率は、ヘーズメーター(日本電飾社製「NDH-4000」、又はその同等品)を用いて、JIS K7105に基づいて、測定することができる。
【0020】
支持体の表面平滑性(Ra)(特に、支持体の抵抗膜側とは反対側の表面における表面平滑性(Ra))は、好ましくは5nm以下、より好ましくは3nm以下、さらに好ましくは2nm以下、よりさらに好ましくは1.5nm以下である。該Raがより低いことによって、電波及び光の乱反射を抑制し、電波吸収性及び光反射性をより良好に発揮することができる。
【0021】
表面平滑性(Ra)は、
原子間力顕微鏡(島津製作所社製SPM9700、又はその同等品)を用いて、市販の走査型プローブ顕微鏡用マイクロカンチレバー(オリンパス社、OMCL-NCHR-10、バネ定数42N/m)を用いて、所定のダイナミックモードで1μm×1μm平方の測定面を探針で走査して得られる512×512画素の形状像から、株式会社島津製作所製SPM-9700の解析ソフトを用いて求めることが出来る。
【0022】
上記した全光線透過率及び/又は表面平滑性を満たす観点から、支持体における金属酸化物等の粒子の含有量は一定以下(例えば0~15質量%、好ましくは0~10質量%、より好ましくは0~5質量%、さらに好ましくは0~1質量%)であることが好ましい。
【0023】
支持体の厚みは、特に制限されない。支持体の厚みは、例えば5μm以上500μm以下、好ましくは10μm以上300μm以下、より好ましくは20μm以上300μm以下である。
【0024】
支持体の層構成は特に制限されない。支持体は、1種単独の支持体から構成されるものであってもよいし、2種以上の支持体が複数組み合わされたものであってもよい。
【0025】
<1-2.抵抗膜>
抵抗膜は、電波吸収体において抵抗層として機能し得る層を含む限り特に制限されない。
【0026】
抵抗膜の抵抗値は、特に制限されない。抵抗膜の抵抗値(表面抵抗値)は、例えば100~800Ω/□である。該範囲の中でも、より好ましくは150~750Ω/□、さらに好ましくは200~600Ω/□である。
【0027】
抵抗膜の抵抗値は、表面抵抗計(MITSUBISHI CHEMICALANALYTECH社製、商品名「Loresta-AX」)を用いて、4端子法により測定することができる。また、抵抗値は、誘電体等が積層され抵抗膜を直接測定できない場合は、非接触抵抗計(製品名「EC-80P、ナプソン社製、又はその同等品)を用いて渦電流法により測定することができる。
【0028】
抵抗膜の厚みは、λ/4型電波吸収体を構成した際に電波吸収性を発揮し得る抵抗値となるものである限り特に制限されない。抵抗膜の厚みは、例えば1nm以上200nm以下、好ましくは2nm以上100nm以下、より好ましくは2nm以上50nm以下である。
【0029】
抵抗膜の全光線透過率は、好ましくは10%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは80%以上である。抵抗膜の全光線透過率がより高いことによって、金属層が前記抵抗膜の支持体側とは反対側の面上にのみ配置されている場合であっても、金属色をより良好に呈し、且つより良好な光反射性を発揮することができる。なお、上記場合は、すなわち、電波入射面(=照明器具の反射部の少なくとも一部を構成する場合の光入射面)側に抵抗膜が存在し、抵抗膜の電波入射面側と反対側に金属層が存在する場合である。該全光線透過率の上限は、特に制限されず、例えば100%、95%である。
【0030】
抵抗膜の層構成は特に制限されない。抵抗膜は、1種単独の層から構成されるものであってもよいし、2種以上の層が複数組み合わされたものであってもよい。
【0031】
<1-2-1.抵抗層>
抵抗層の抵抗値は、特に制限されない。抵抗層の抵抗値は、例えば100~800Ω/□である。該範囲の中でも、より好ましくは150~750Ω/□、さらに好ましくは200~600Ω/□である。
【0032】
抵抗層の厚みは、λ/4型電波吸収体を構成した際に電波吸収性を発揮し得る抵抗値となるものである限り特に制限されない。抵抗層の厚みは、例えば1nm以上200nm以下、好ましくは2nm以上100nm以下、より好ましくは2nm以上50nm以下である。
【0033】
抵抗層の層構成は特に制限されない。抵抗層は、1種単独の抵抗層から構成されるものであってもよいし、2種以上の抵抗層が複数組み合わされたものであってもよい。
【0034】
<1-2-1-1.酸化インジウム含有抵抗層>
抵抗層としては、例えば酸化インジウム等の抵抗層材料を含有する抵抗層が挙げられる。好ましい一態様において、抵抗層材料としては、酸化インジウムに他の材料(ドーパント)がドープされてなる材料を含有することが好ましい。他の材料としては、特に制限されないが、例えば酸化スズ及び酸化亜鉛、並びにそれらの混合物等が挙げられる。
【0035】
酸化インジウムに酸化スズがドープされてなる材料の中でも、好ましくは、酸化インジウム(III)(In2O3)に酸化スズ(IV)(SnO2)をドープしたもの(酸化インジウムスズ)(tin-doped indium oxide;ITO)が挙げられる。非晶質構造が極めて安定であり、高温多湿の環境下においても抵抗層の表面抵抗の変動を抑えることができる点から、ITO中のSnO2含有量は、好ましくは1~40重量%、より好ましくは2~35重量%である。
【0036】
抵抗層中の上記抵抗層材料の含有量は、例えば50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0037】
<1-2-1-2.モリブデン含有抵抗層>
抵抗層としては、耐久性、表面抵抗の調整が容易である観点から、モリブデンを含有する抵抗層が好ましく用いられる。モリブデンの含有量の下限は特に限定されないが、より耐久性を高める観点から、5重量%が好ましく、7重量%がより好ましく、9重量%が更に好ましく、11重量%がより更に好ましく、13重量%が特に好ましく、15重量%が非常に好ましく、16重量%が最も好ましい。また、上記モリブデンの含有量の上限は、表面抵抗値の調整の容易化の観点から、30重量%が好ましく、25重量%がより好ましく、20重量%が更に好ましい。
【0038】
上記抵抗層は、モリブデンを含有している場合、さらにニッケル及びクロムを含有することがより好ましい。抵抗層にモリブデンに加えてニッケル及びクロムを含有することでより耐久性に優れた電波吸収体とすることができる。ニッケル、クロム及びモリブデンを含有する合金としては、例えば、ハステロイB-2、B-3、C-4、C-2000、C-22、C-276、G-30、N、W、X等の各種グレードが挙げられる。
【0039】
上記抵抗層がモリブデン、ニッケル及びクロムを含有する場合、モリブデンの含有量が5重量%以上、ニッケルの含有量が40重量%以上、クロムの含有量が1重量%以上であることが好ましい。モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量が上記範囲であることで、より耐久性に優れた電波吸収体とすることができる。上記モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量は、モリブデン含有量が7重量%以上、ニッケル含有量が45重量%以上、クロム含有量が3重量%以上であることがより好ましい。上記モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量は、モリブデン含有量が9重量%以上、ニッケル含有量が47重量%以上、クロム含有量が5重量%以上であることが更に好ましい。上記モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量は、モリブデン含有量が11重量%以上、ニッケル含有量が50重量%以上、クロム含有量が10重量%以上であることがより更に好ましい。上記モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量は、モリブデン含有量が13重量%以上、ニッケル含有量が53重量%以上、クロム含有量が12重量%以上であることが特に好ましい。上記モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量は、モリブデン含有量が15重量%以上、ニッケル含有量が55重量%以上、クロム含有量が15重量%以上であることが非常に好ましい。上記モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量は、モリブデン含有量が16重量%以上、ニッケル含有量が57重量%以上、クロム含有量が16重量%以上であることが最も好ましい。また、上記ニッケルの含有量は、80重量%以下であることが好ましく、70重量%以下であることがより好ましく、65重量%以下であることが更に好ましい。上記クロム含有量は、50重量%以下であることが好ましく、40重量%以下であることがより好ましく、35重量%以下であることが更に好ましい。
【0040】
上記抵抗層は、上記モリブデン、ニッケル及びクロム以外の金属を含有してもよい。そのような金属としては、例えば、鉄、コバルト、タングステン、マンガン、チタン等が挙げられる。上記抵抗層がモリブデン、ニッケル及びクロムを含有する場合、上記モリブデン、ニッケル及びクロム以外の金属の合計含有量の上限は、抵抗層の耐久性の観点から、好ましくは45重量%、より好ましくは40重量%、更に好ましくは35重量%、より更に好ましくは30重量%、特に好ましくは25重量%、非常に好ましくは23重量%である。上記モリブデン、ニッケル及びクロム以外の金属の合計含有量の下限は、例えば1重量%である。
【0041】
上記抵抗層が鉄を含有する場合、抵抗層の耐久性の観点から、含有量の好ましい上限は25重量%、より好ましい上限は20重量%、更に好ましい上限は15重量%であり、好ましい下限は1重量%である。上記抵抗層がコバルト及び/又はマンガンを含有する場合、抵抗層の耐久性の観点から、それぞれ独立して、含有量の好ましい上限は5重量%、より好ましい上限は4重量%、更に好ましい上限は3重量%であり、好ましい下限は0.1重量%である。上記抵抗層がタングステンを含有する場合、抵抗層の耐久性の観点から、含有量の好ましい上限は8重量%、より好ましい上限は6重量%、更に好ましい上限は4重量%であり、好ましい下限は1重量%である。
【0042】
上記抵抗層は、ケイ素及び/又は炭素を含有してもよい。抵抗層がケイ素及び/又は炭素を含有する場合、上記ケイ素及び/又は炭素の含有量は、それぞれ独立して、1重量%以下であることが好ましく0.5重量%以下であることがより好ましい。また、抵抗層がケイ素及び/又は炭素を含有する場合、上記ケイ素及び/又は炭素の含有量は、0.01重量%以上であることが好ましい。
【0043】
<1-2-2.バリア層>
耐久性の観点から、抵抗膜はバリア層を含むことが好ましい。バリア層は、抵抗層の少なくとも一方の表面上に配置される。バリア層について以下に詳述する。
【0044】
バリア層は、抵抗層を保護し、その劣化を抑えることができる層である限り、特に制限されない。バリア層の素材としては、例えば金属化合物、半金属化合物、好ましくは金属又は半金属の酸化物、窒化物、窒化酸化物等が挙げられる。バリア層は、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、上記素材以外の成分が含まれていてもよい。その場合、バリア層中の上記素材量は、例えば80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0045】
バリア層が含む金属元素としては、例えばチタン、アルミニウム、ニオブ、コバルト、ニッケル等が挙げられる。バリア層が含む半金属元素としては、例えばケイ素、ゲルマニウム、アンチモン、ビスマス等が挙げられる。
【0046】
上記酸化物としては、例えばMOX[式中、Xは式:n/100≦X≦n/2(nは金属又は半金属の価数である)を満たす数であり、Mは金属元素又は半金属元素である。]で表される化合物が挙げられる。
【0047】
上記窒化物としては、例えばMNY[式中、Yは式:n/100≦Y≦n/3(nは金属又は半金属の価数である)を満たす数であり、Mは金属元素又は半金属元素である。]で表される化合物が挙げられる。
【0048】
上記窒化酸化物としては、例えばMOXNY[式中、XとYは、n/100≦X、n/100≦Y、かつ、X+Y≦n/2(nは金属又は半金属の価数である)であり、Mは金属元素又は半金属元素である。]で表される化合物が挙げられる。
【0049】
上記酸化物又は窒化酸化物の酸化数Xに関しては、例えばMOx又はMOxNYを含む層の断面を、FE-TEM-EDX(例えば、日本電子社製「JEM-ARM200F」)により元素分析し、MOx又はMOxNYを含む層の断面の面積当たりのMとOとの元素比率からXを算出することにより、酸素原子の価数を算出することができる。
【0050】
上記窒化物又は窒化酸化物の窒素化数Yに関しては、例えばMNY又はMOxNYを含む層の断面を、FE-TEM-EDX(例えば、日本電子社製「JEM-ARM200F」)により元素分析し、MNY又はMOxNYを含む層の断面の面積当たりのMとNとの元素比率からYを算出することにより、窒素原子の価数を算出することができる。
【0051】
バリア層の素材の具体例としては、SiO2、SiOx、Al2O3、MgAl2O4、CuO、CuN、TiO2、TiN、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)等が挙げられる。
【0052】
バリア層の厚みは、特に制限されない。バリア層の厚みは、例えば1nm以上200nm以下、好ましくは1nm以上100nm以下、より好ましくは1nm以上20nm以下である。
【0053】
バリア層の層構成は特に制限されない。バリア層は、1種単独のバリア層から構成されるものであってもよいし、2種以上のバリア層が複数組み合わされたものであってもよい。
【0054】
<1-3.金属層>
金属層は、基材上に直接又は他の層を介して配置されている層である。本発明の電波λ/4型電波吸収体用抵抗膜部材の一つの態様(例えば
図1)において、金属層は、支持体の抵抗膜側とは反対側の面上に配置されている層である。本発明のλ/4型電波吸収体用抵抗膜部材の他の態様(例えば
図2、
図3)において、金属層は、支持体と抵抗膜の間及び/又は抵抗膜の支持体側とは反対側の面上に配置される層である。
【0055】
金属層は、金属を素材として含む層である限り、特に制限されない。金属層は、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、金属以外の成分が含まれていてもよい。その場合、金属層中の金属量は、例えば80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0056】
金属層を構成する金属としては、良好な金属色を発揮でき、且つ本発明の抵抗膜部材が後述の本発明の特性を満たすことができる限り特に制限されず、例えばインジウム、亜鉛、鉛、カドミウム、スズ、ビスマス、アンチモン、アルミニウム、クロム、銀、ニッケル等が挙げられる。これらの中でも、本発明の特性に制御することが容易となる観点等から、好ましくは融点500℃以下の金属(例えばインジウム、亜鉛、鉛、カドミウム、スズ、ビスマス)等が挙げられ、より好ましくはインジウムが挙げられる。金属は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせ(例えば合金)であってもよい。
【0057】
本発明の一つの好ましい態様においては、金属層が融点500℃以下の金属を含有する。金属層中の融点500℃以下の金属元素の含有量は、例えば25質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらにより好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、非常に好ましくは99質量%以上である。
【0058】
本発明の一つのより好ましい態様においては、金属層としてインジウム含有金属層を採用することが望ましい。インジウム含有金属層は、インジウムを素材として含む層である限り、特に制限されない。インジウム含有金属層は、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、インジウム以外の成分が含まれていてもよい。その場合、インジウム含有金属層中のインジウム元素の含有量は、例えば25質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらにより好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、非常に好ましくは99質量%以上であり、通常100質量%未満である。インジウム含有量を25質量%以上とすることにより、耐久性をより向上させることができる。
【0059】
インジウム含有金属層は、インジウム若しくはインジウムを含む合金から構成されてもよく、またはこれらの混合物から構成されてもよい。
【0060】
インジウムと合金を形成し得る金属としては、例えばスズ、鉛、亜鉛、ビスマス等が挙げられる。インジウムを含む合金を採用する場合、本発明の特性の観点及び耐久性の観点から、融点が500℃以下であり、且つインジウムの含有量が25%以上であることが好ましい。
【0061】
金属層は、島構造を有することが好ましい。
【0062】
上記島状構造の面積は、2000nm2以上1μm2以下であることが好ましい。上記下限値以上であることで、一層良好な金属光沢・メタル感(インジウム金属層を採用する場合は、特にインジウム独特の金属光沢)がある積層体を得ることができる。上記上限値以下であることで、高周波数の電波の反射がより一層抑制され、λ/4型電波吸収体とした際に電波の反射をより抑制することができる。
【0063】
上記島状構造の面積は2500nm2以上、250000nm2以下であることがより好ましい。
【0064】
高周波数の電波の反射をより一層抑制することができることからとなる観点からは、金属層は、溝を有することが好ましい。上記溝を有する場合、上記溝の幅は、特に限定されないが、好ましくは0.5nm以上、より好ましくは1nm以上、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下である。上記溝の幅が上記下限以上であると、高周波数の電波の反射をより一層抑制することができる。上記溝の幅が上記上限以下であると、金属光沢・メタル感が一層向上する。
【0065】
溝部における金属層の厚みは1nm以下であることが好ましく、実質的に0nmであることが好ましい。上記島状構造は、例えば走査型電子顕微鏡を用いて観察することができ、溝部における金属層の厚みは、例えば走査型電子顕微鏡を用いて断面を観察することで、測定できる。
【0066】
金属層の厚みは、本発明の抵抗膜部材が後述の本発明の特性を満たすことができる限り特に制限されない。金属層の厚みの下限は、例えば1nm、好ましくは5nm、より好ましくは10nm、さらにより好ましくは15nmである。金属層の厚みが1nm以上であることによって金属色を発揮することが容易となる。また、金属層の厚みの上限は、例えば150nm、好ましくは100nm、より好ましくは90nm、さらにより好ましくは80nmである。金属層の厚みが150nm以下であることによって、後述の本発明の特性を制御することが容易となる。
【0067】
金属層の厚みは、蛍光X線分析により求めることができる。具体的には、走査型蛍光X線分析装置(例えば、リガク社製走査型蛍光X線分析装置 ZSX PrimusIII+又は、同等品)を用いて加速電圧は50kV、加速電流は50mA、積分時間は60秒として分析する。測定対象の金属成分のKα線のX線強度を測定し、ピーク位置に加えてバックグラウンド位置での強度も測定し、正味の強度が算出できるようにする。あらかじめ作成した検量線から、測定した強度値を厚みに換算することができる。同一のサンプルに5回分析を行い、その平均値を平均厚みとする。尚、金属層が島構造又は溝部を有する場合においては、金属層の最も大きい厚みを金属層の厚みとする。
【0068】
金属層の層構成は特に制限されない。金属層は、1層からなる単層であってもよいし、同一又は異なる組成を有する複数の層であってもよい。また、金属層は、その2つの主面の一方或いは両方において、表面が酸化皮膜等の皮膜で構成されていてもよい。
【0069】
<1-4.層構成>
本発明の抵抗膜部材において、各層は、電波吸収性能を発揮することができる順に配置される。支持体、及び抵抗膜は、この順に配置される。また、金属層は、支持体の抵抗膜側とは反対側の面上、支持体と抵抗膜の間、及び抵抗膜の支持体側とは反対側の面上からなる群より選択される少なくとも1種の位置に配置される。
【0070】
本発明の抵抗膜部材においては、支持体、抵抗膜、及び金属層以外に、他の層を含むものであってもよい。他の層は、支持体、抵抗膜、及び金属層それぞれの層の、どちらか一方の表面上に配置され得る。
【0071】
他の層としては、例えば、抵抗膜側の最表面上に配置される粘着剤層が挙げられる。この粘着剤層により、本発明の抵抗膜部材を、他の部材(例えば、誘電体層等)により容易に取り付けることが可能になる。
【0072】
粘着剤としては、特に制限されず、例えばアクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリオレフィン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、ポリアミド系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、フッ素系粘着剤等が挙げられる。
【0073】
<1-5.特性>
本発明の抵抗膜部材は、支持体側から79GHzの電波を入射した際の透過減衰量(S21)の絶対値が10dB以下である、という特性を備える。当該特性と本発明の抵抗膜部材の層構成等が相まって、電波入射面側から見た場合に金属色を呈し(例えば、照明器具の反射部の少なくとも一部を構成する場合であっても意匠性に優れ)、且つ良好な電波吸収性を発揮することができる。
【0074】
上記透過減衰量(S21)の絶対値は、好ましくは0~10dB、より好ましくは0~9dB、さらに好ましくは0~8dBである。
【0075】
上記透過減衰量(S21)は、次のようにして測定することができる。
PNAマイクロ波ネットワーク・アナライザ N5227A(キーサイト社製)、PNA-Xシリーズ2ポート用ミリ波コントローラ N5261A(キーサイト社製)、ホーンアンテナ FSS-07(HVS社製)を用いて電波吸収測定装置を構成する。この電波吸収測定装置を用いて、Sパラメータ法により、Sパラメータの透過減衰量(S21)を各周波数で測定することができる。
【0076】
本発明の抵抗膜部材は、金属層が前記支持体の抵抗膜側とは反対側の面上に配置されている場合、電波吸収性の観点から、好ましくは、支持体側の表面における表面抵抗が1.0×106 Ω/□以上である、という特性を備える。当該表面抵抗は、好ましくは1.0×106~1.0×1012Ω/□、より好ましくは5.0×106~1.0×1011Ω/□、さらに好ましくは1.0×107~1.0×1010Ω/□である。当該表面抵抗が1.0×106Ω/□以上であることによって、本発明の特性を制御することが容易となる。
【0077】
上記表面抵抗は、次のようにして測定することができる。すなわち表面抵抗計(MITUBISHI CHEMICAL ANALYTECH社製、商品名:Loresta-AX、または商品名:Hiresuta-UP)を用いて4端子法により測定することができる。
【0078】
<1-6.製造方法>
本発明のλ/4型電波吸収体は、その構成に応じて、様々な方法、例えば公知の製造方法に従って又は準じて得ることができる。例えば、支持体上に抵抗膜、誘電体層、及び反射層を順に積層させる工程を含む方法により、得ることができる。
【0079】
積層方法は特に制限されない。
【0080】
抵抗膜は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、化学蒸着法、パルスレーザーデポジション法等により行うことができる。これらの中でも、膜厚制御性の観点から、スパッタリング法が好ましい。スパッタリング法としては、特に限定されないが、例えば、直流マグネトロンスパッタ、高周波マグネトロンスパッタ及びイオンビームスパッタ等が挙げられる。また、スパッタ装置は、バッチ方式であってもロール・ツー・ロール方式であってもよい。
【0081】
2.電波吸収体
本発明は、その一態様において、本発明の抵抗膜部材を含む、λ/4型電波吸収体(本明細書において、「本発明のλ/4型電波吸収体」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0082】
本発明のλ/4型電波吸収体は、λ/4型電波吸収体として機能することができる限り、その構成は特に制限されない。典型的には、本発明の抵抗膜部材に加えて、誘電体層、及び反射層を有する。本発明のλ/4型電波吸収体においては、支持体、抵抗膜、誘電体層、及び反射層がこの順になるように配置されている。
【0083】
<2-1.誘電体層>
誘電体層は、電波吸収体において目的の波長に対して誘電体として機能し得るものである限り、特に制限されない。誘電体層としては、特に制限されないが、例えば粘着剤層、樹脂シート、発泡体層等が挙げられる。
【0084】
粘着剤層としては、粘着剤を含むものである限り、特に制限されない。粘着剤層は、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、粘着剤以外の成分が含まれていてもよい。その場合、樹脂シート中の樹脂の合計量は、例えば50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0085】
粘着剤としては、特に制限されず、例えばアクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリオレフィン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、ポリアミド系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、フッ素系粘着剤等が挙げられる。これらの中でも、耐候性が高いという観点から、アクリル系粘着剤が好ましい。
【0086】
樹脂シートは、樹脂を素材として含むシート状のものである限り、特に制限されない。樹脂シートは、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、樹脂以外の成分が含まれていてもよい。その場合、樹脂シート中の樹脂の合計量は、例えば50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0087】
樹脂としては、特に制限されず、例えばエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、塩化ビニル、ウレタン、アクリル、アクリルウレタン、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコーン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリスチレン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、エポキシ等の合成樹脂や、ポリイソプレンゴム、ポリスチレン・ブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレン・プロピレンゴムおよびシリコーンゴム等の合成ゴム材料を樹脂成分として用いることが好ましい。これらは1種単独でまたは2種以上の組合せで使用することができる。
【0088】
誘電体層は、粘着性を備えるものであってもよい。このため、粘着性を有しない誘電体を粘着剤層により他の層に積層させる場合、該誘電体と粘着剤層とを合わせたものが「誘電体層」となる。隣接する層と積層し易いという観点から、誘電体層は、好ましくは粘着剤層を含む。
【0089】
誘電体層の比誘電率は、特に制限されない。誘電体層の比誘電率は、例えば1~20、好ましくは1~15、より好ましくは1~10、さらに好ましくは1~5である。
【0090】
誘電体層の比誘電率は、ネットワークアナライザー、空洞共振器などを用いて10GHzにおける比誘電率を空洞共振器摂動法により測定することができるによって測定することができる。
【0091】
誘電体層の厚みは、特に制限されない。誘電体層の厚みは、例えば100~1000μm、好ましくは200~800μm、より好ましくは300~700μm、さらに好ましくは350~650μmである。
【0092】
誘電体層の厚みは、Nikon DIGIMICRO STANDMS-11C+Nikon DIGIMICRO MFC-101によって測定することができる。
【0093】
誘電体層の層構成は特に制限されない。誘電体層は、1種単独の誘電体層から構成されるものであってもよいし、2種以上の誘電体層が複数組み合わされたものであってもよい。例えば、粘着性を有しない誘電体とその両面に配置された粘着剤層とからなる3層構造の誘電体層、粘着性を有する誘電体からなる1層構造の誘電体層等が挙げられる。
【0094】
<2-2.反射層>
反射層は、電波吸収体において電波の反射層として機能し得るものである限り、特に制限されない。反射層としては、特に制限されないが、例えば金属膜が挙げられる。
【0095】
金属膜は、金属を素材として含む層である限り、特に制限されない。金属膜は、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、金属以外の成分が含まれていてもよい。その場合、金属膜中の金属の合計量は、例えば30質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらにより好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、非常に好ましくは99質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0096】
金属としては、特に制限されず、例えばアルミニウム、銅、鉄、銀、金、クロム、ニッケル、モリブデン、ガリウム、亜鉛、スズ、ニオブ、インジウム等が挙げられる。また、金属化合物、例えばITO等も、金属膜の素材として使用することができる。これらは1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0097】
反射層の厚みは、特に制限されない。反射層の厚みは、例えば1μm以上500μm以下、好ましくは2μm以上200μm以下、より好ましくは5μm以上100μm以下である。
【0098】
反射層の層構成は特に制限されない。反射層は、1種単独の反射層から構成されるものであってもよいし、2種以上の反射層が複数組み合わされたものであってもよい。
【0099】
<2-3.層構成>
本発明のλ/4型電波吸収体においては、支持体、抵抗膜、金属層、誘電体層、及び反射層以外に、他の層を含むものであってもよい。他の層は、支持体、抵抗膜、金属層、誘電体層、及び反射層それぞれの層の、どちらか一方の表面上に配置され得る。
【0100】
他の層としては、例えば、反射層の誘電体層側とは反対側の面上に配置される粘着剤層が挙げられる。この粘着剤層により、本発明のλ/4型電波吸収体を、他の部材(例えば、自動車内のデバイス、照明器具の反射板等)により容易に取り付けることが可能になる。この観点から、本発明のλ/4型電波吸収体は、反射層の誘電体層側とは反対側の面上に粘着剤層が配置されていることが好ましい。
【0101】
粘着剤としては、特に制限されず、例えばアクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリオレフィン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、ポリアミド系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、フッ素系粘着剤等が挙げられる。
【0102】
<2-4.製造方法>
本発明のλ/4型電波吸収体は、その構成に応じて、様々な方法、例えば公知の製造方法に従って又は準じて得ることができる。例えば、本発明の抵抗膜部材の抵抗膜側表面上に、誘電体層、及び反射層を順に積層させる工程を含む方法により、得ることができる。
【0103】
積層方法は特に制限されない。誘電体層や反射層は、例えば誘電体層が有する粘着性を利用して、積層することができる。
【0104】
3.用途
本発明のλ/4型電波吸収体は、不要な電波を吸収する性能を有するため、例えば光トランシーバや、次世代移動通信システム(5G)、近距離無線転送技術等における電波対策部材として好適に利用できる。また、その他の用途として自動車、道路、人の相互間で情報通信を行う高度道路交通システム(ITS)や自動車衝突防止システムに用いるミリ波レーダーにおいても、電波干渉抑制やノイズ低減の目的で用いることができる。本発明のλ/4型電波吸収体は、電波入射面側から見た場合に金属色を呈し、且つ、良好な電波吸収性を有するため、反射部を有する照明器具(例えば自動車のライト内)の反射部の少なくとも一部を構成する電波対策部材として好適に用いることもできる。
【0105】
本発明は、その一態様において、成形品と、前記成形品に取り付けられた本発明のλ/4型電波吸収体とを備える、電波吸収体付成形品、に関する。成形品としては、例えば上記各種用途において使用される部材等が挙げられる。本発明のλ/4型電波吸収体を成形品に取り付ける方法としては、特に制限されず、例えば粘着剤を介して取り付ける方法や、固定具により取り付ける方法が挙げられる。電波吸収体付成形品の好ましい一例としては、ミリ波レーダーが挙げられる。電波吸収体付成形品の別の好ましい一例としては、本発明のλ/4型電波吸収体を反射部の少なくとも1部として有する(例えば、本発明のλ/4型電波吸収体が、反射板上に配置されてなる)照明器具が挙げられる。
【0106】
本発明のλ/4型電波吸収体が対象とする電波の周波数は、好ましくは10~150GHz、より好ましくは20~120GHz、さらに好ましくは30~100GHz、さらにより好ましくは55~90GHz、特に好ましくは70~90GHzである。
【実施例】
【0107】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0108】
(1)電波吸収体の製造
(実施例1)
支持体1を真空装置内に設置し、5.0×10-4Pa以下となるまで真空排気した。続いて、アルゴンガスを導入して、DCマグネトロンスパッタリング法により、支持体1の表面上に、金属層としてIn層(平均厚み30nm)を形成して、支持体と金属層との積層体を得た。
【0109】
積層体の金属層とは反対側の表面上に、DCパルススパッタリングにより、表面抵抗値370Ω/□の抵抗膜を形成した。スパッタリングはハステロイC-276をターゲットに用い、出力0.4kW、Arガス流量100sccmで導入して圧力0.12Paとなるように調整して行った。次いで、形成した抵抗膜上に厚み450μm且つ比誘電率2.4のアクリル両面粘着テープからなる誘電体を積層し、更に誘電体上に厚さ12μmの銅からなる反射層を積層して、λ/4型電波吸収体を得た。
【0110】
(実施例2~6及び比較例1~3)
支持体の種類、金属層の素材、金属層の厚み、金属層の配置位置、金属層の有無、抵抗膜の素材等を下記表に記載の通り変更する以外は、実施例1と同様にしてλ/4型電波吸収体を得た。
【0111】
なお、使用した抵抗膜の素材、支持体の種類は以下の通りである。
抵抗膜の素材 ITO:インジウムスズ酸化物(SnO2含有量は2重量%)
抵抗膜の素材がITOの場合は、抵抗膜の形成方法は以下の通りである。
DCパルススパッタリングにより、ITO(インジウムスズ酸化物(SnO2含有量は2重量%)をターゲットに用い、ArとO2の比率を96:4に調整したガスを導入して、0.8Paになるように調整して出力5.5kWにて行い、表面抵抗値370Ω/□の抵抗膜を形成した。
支持体1:厚み125μm、白色ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(比誘電率3.4、表面平滑性(Ra)4nm、全光線透過率11%)(帝人フィルムソリューション社製、U2L92W)
支持体2:厚み125μm、PETフィルム(比誘電率3.1、表面平滑性(Ra)1nm、全光線透過率90%)(東洋紡社製、E5100)。
【0112】
(2)物性の測定
得られた電波吸収体の各種物性を測定した。
【0113】
(2-1)透過減衰量(S21)の測定
PNAマイクロ波ネットワーク・アナライザ N5227A(キーサイト社製)、PNA-Xシリーズ2ポート用ミリ波コントローラ N5261A(キーサイト社製)、ホーンアンテナ FSS-07(HVS社製)を用いて電波吸収測定装置を構成した。得られた電波吸収体から誘電体と反射層を剥がし取り、残りの部分について、この電波吸収測定装置を用いて、Sパラメータ法により、Sパラメータの透過減衰量(S21)を周波数79GHzで測定した。
【0114】
(2-2)表面抵抗の測定
得られた電波吸収体の支持体側表面の表面抵抗を、表面抵抗計(MITUBISHI CHEMICAL ANALYTECH社製、商品名:Loresta-AX、または商品名:Hiresuta-UP)を用いて4端子法により測定した。
【0115】
(3)性能の評価
得られた電波吸収体の各種性能を評価した。
【0116】
(3-1)電波吸収性の評価
ネットワークアナライザー MS4647B(アンリツ社製)、フリースペース材料測定置 BD1-26.A(キーコム社製)を用いて電波吸収測定装置を構成した。この電波吸収測定装置を用いて、得られたλ/4型電波吸収体の79GHzでの電波吸収量をJIS R1679に基づいて測定した。なお、λ/4型電波吸収体は、電波入射方向が垂直入射かつ支持体側からの入射となるようにセットした。電波吸収量が23dB以上の場合を◎、20dB以上23dB未満の場合を○、20dB未満の場合は×とした。
【0117】
(3-2)金属色の評価
得られたλ/4型電波吸収体の支持体の反射層に面する側とは反対側の表面とアルミ箔(12μm)を比較し、アルミ箔に近い色を呈するように見える場合を〇、そうでない場合を×とした。
【0118】
(3-3)光反射性の評価
分光光度計(日立製作所社製「U4100」)に付属の5°正反射ユニットを取り付け、正反射モードを用いて、入射角を5°として波長500~800nm(測定範囲)における反射スペクトルを測定した。波長500~800nmの範囲において10nmおきに得られた反射率の平均値を算出した。。
【0119】
(4)結果
結果を表1~2に示す。
【0120】
【0121】
【符号の説明】
【0122】
1 支持体
2 抵抗膜
3 金属層
4 誘電体層
5 反射層
6 粘着剤層
7 筐体、又は照明器具の反射板