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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】水分量検出装置
(51)【国際特許分類】
   A01D 41/127 20060101AFI20241113BHJP
【FI】
A01D41/127 130
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021108474
(22)【出願日】2021-06-30
(65)【公開番号】P2023006079
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】森原 浩之
(72)【発明者】
【氏名】林 壮太郎
(72)【発明者】
【氏名】寺西 陽之
【審査官】小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-326331(JP,A)
【文献】特開2007-271321(JP,A)
【文献】特開2006-246831(JP,A)
【文献】特許第6451513(JP,B2)
【文献】特開2020-034254(JP,A)
【文献】特開昭62-079342(JP,A)
【文献】特開平05-126774(JP,A)
【文献】特開昭62-287140(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01D 41/127
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粒に含まれる水分量を検出する装置であって、
穀粒を受け入れるケースと、
前記ケース内に互いに近接して配置される一対の電極ローラと、
前記電極ローラを回転させるモータと、
前記モータにより前記一対の電極ローラを回転させる駆動制御部と、
前記一対の電極ローラの回転により前記電極ローラ間で穀粒が圧砕されるときに、前記電極ローラ間の電気抵抗値に応じた信号を出力する信号出力部と、
前記信号出力部から出力される信号の電圧値を平均化する平均化処理を行い、予め作成された検量線を用いて、平均化された前記電圧値に応じた水分量を取得する水分量取得部と、を含み、
前記検量線は、前記水分量取得部による前記平均化処理と同一内容の平均化処理を行うことにより作成され、
前記駆動制御部は、前記ケース内に穀粒が貯まった状態で、前記モータにより前記一対の電極ローラを連続回転させ、
前記水分量取得部は、前記一対の電極ローラの回転中における一定期間に前記信号出力部から出力される信号を水分量の取得に使用する、水分量検出装置。
【請求項2】
穀粒を受け入れるケースと、前記ケース内に互いに近接して配置される一対の電極ローラとを備え、1粒の穀粒が前記一対の電極ローラ間で圧搾される方式ではなく、前記ケース内に貯まった穀粒が前記一対の電極ローラ間で圧搾される方式を採用し、穀粒に含まれる水分量を検出する装置であって、
前記電極ローラを回転させるモータと、
前記モータにより前記一対の電極ローラを回転させる駆動制御部と、
前記一対の電極ローラの回転により前記電極ローラ間で穀粒が圧砕されるときに、前記電極ローラ間の電気抵抗値に応じた信号を出力する信号出力部と、
前記信号出力部から出力される信号の電圧値を平均化する平均化処理を行い、予め作成された検量線を用いて、平均化された前記電圧値に応じた水分量を取得する水分量取得部と、を含み、
前記検量線は、前記水分量取得部による前記平均化処理と同一内容の平均化処理を行うことにより作成され、
前記駆動制御部は、前記ケース内に穀粒が貯まった状態で、前記モータにより前記一対の電極ローラを連続回転させ、
前記水分量取得部は、前記一対の電極ローラの回転中における一定期間に前記信号出力部から出力される信号を水分量の取得に使用する、水分量検出装置。
【請求項3】
前記水分量取得部は、前記平均化処理の内容を前記穀粒のサイズに応じて切り替える、請求項1またはに記載の水分量検出装置。
【請求項4】
前記水分量取得部は、前記穀粒のサイズが所定の小サイズである場合、前記平均化処理において、前記信号出力部から出力される信号の電圧値をサンプリングし、そのサンプリングした値からサンプル平均値および標準偏差を算出し、前記サンプル平均値および前記標準偏差を用いる演算式に従った演算を行うことにより、平均化された前記電圧値を算出する、請求項に記載の水分量検出装置。
【請求項5】
前記小サイズは、籾および小麦のサイズである、請求項に記載の水分量検出装置。
【請求項6】
前記水分量取得部は、前記穀粒のサイズが所定の大サイズである場合、前記平均化処理において、前記信号出力部から出力される信号の電圧値のピーク値を一定区間ごとに取得して、その取得したピーク値の平均値を平均化された前記電圧値として算出する、請求項のいずれか一項に記載の水分量検出装置。
【請求項7】
前記大サイズは、大麦のサイズである、請求項に記載の水分量検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穀粒に含まれる水分量を検出する水分量検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンバインでは、圃場に植立している穀稈の株元が刈取装置により刈られ、その刈られた穀稈が刈取装置から脱穀装置に搬送されて、脱穀装置で穀稈が脱穀される。穀稈から外れた籾などの穀粒は、脱穀装置からグレンタンクの上部に設けられた排出部に搬送され、その排出部からグレンタンク内に排出される。
【0003】
コンバインには、穀粒に含まれる水分量を測定する水分センサ(水分計)をグレンタンク内に備えるものがある。水分センサは、排出部から排出される穀粒を受け入れることができる位置に配置される。水分センサは、たとえば、電気抵抗式の水分センサであり、一対の電極ローラを備えている。水分センサ内に受け入れられた穀粒は、一対の電極ローラの回転により、電極ローラ間に巻き込まれて、電極ローラ間で圧砕される。電極ローラ間に穀粒の圧砕物が挟まれた状態で、電極ローラ間の電気抵抗値が測定され、その電気抵抗値から穀粒に含まれる水分量が求められる(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6451513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、電気抵抗式の水分センサを用いた構成には、穀粒に含まれる水分量の検出精度が低いという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、穀粒に含まれる水分量を精度よく検出できる、水分量検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、本発明に係る水分量検出装置は、穀粒に含まれる水分量を検出する装置であって、穀粒を受け入れるケースと、ケース内に互いに近接して配置される一対の電極ローラと、電極ローラを回転させるモータと、モータにより一対の電極ローラを回転させる駆動制御部と、一対の電極ローラの回転により電極ローラ間で穀粒が圧砕されるときに、電極ローラ間の電気抵抗値に応じた信号を出力する信号出力部と、信号出力部から出力される信号の電圧値を平均化する平均化処理を行い、予め作成された検量線を用いて、平均化された電圧値に応じた水分量を取得する水分量取得部とを含み、検量線は、水分量取得部による平均化処理と同一内容の平均化処理を行うことにより作成されている。
【0008】
この構成によれば、一対の電極ローラの回転により電極ローラ間で穀粒が圧砕され、その穀粒の圧砕物(圧砕された穀物)が電極ローラ間に挟まっている状態で、電極ローラ間の電気抵抗値に応じた信号が信号出力部から出力される。たとえば、その信号にノイズが混入していると、信号の電圧値が電極ローラ間の電気抵抗値に対応しないので、信号の電圧値から穀粒に含まれる水分量を正しく取得できない。
【0009】
そこで、信号出力部から出力される信号の電圧値に対する平均化処理が行われ、その平均化処理により平均化された電圧値に応じた水分量が検量線を用いて取得される。そのため、信号出力部から出力される信号にノイズが混入していても、平均化処理によりノイズの影響を排除することができる。ところが、平均化処理を考慮せずに作成された検量線を電圧値からの水分量の取得に用いると、平均化処理の前後で電圧値が変化するため、その変化による誤差が水分量に表れる場合がある。電圧値から水分量を取得するのに用いられる検量線は、水分量の取得の際に行われる平均化処理と同一内容の平均化処理を行うことにより作成されている。これにより、平均化処理により平均化された電圧値から穀粒に含まれる水分量を精度よく取得することができる。
【0010】
よって、穀粒に含まれる水分量を精度よく検出することができる。
【0011】
駆動制御部は、ケース内に穀粒が貯まった状態で、モータにより一対の電極ローラを連続回転させ、水分量取得部は、一対の電極ローラの回転中における一定期間に信号出力部から出力される信号を水分量の取得に使用してもよい。
【0012】
この構成によれば、1粒の穀粒が一対の電極ローラ間で圧搾されて、電極ローラ間の電気抵抗値に応じた信号が取得される方式ではなく、ケース内に貯まった穀粒が一対の電極ローラ間で圧搾されて、電極ローラ間の電気抵抗値に応じた信号が出力される。そのため、ケース内の穀粒に藁や虫などの異物が混入しても、その異物による電気抵抗値の変化の影響が小さい。したがって、穀粒に含まれる水分量をより精度よく検出することができる。
【0013】
また、信号出力部から信号が安定して出力される期間を一定期間に設定し、その一定期間に信号出力部から出力される信号を水分量の取得に使用することにより、平均化処理により平均化される電圧値が安定するので、穀粒に含まれる水分量をより高精度に検出することができる。
【0014】
水分量取得部は、平均化処理の内容を穀粒のサイズに応じて切り替えてもよい。
【0015】
具体的には、水分量取得部は、穀粒のサイズが所定の小サイズである場合、たとえば、穀粒が籾または小麦である場合、平均化処理において、信号出力部から出力される信号の電圧値をサンプリングし、そのサンプリングした値からサンプル平均値および標準偏差を算出し、サンプル平均値および標準偏差を用いる演算式に従った演算を行うことにより、平均化された電圧値を算出してもよい。
【0016】
一方、水分量取得部は、穀粒のサイズが所定の大サイズである場合、たとえば、穀粒が大麦である場合、平均化処理において、信号出力部から出力される信号の電圧値のピーク値を一定区間ごとに取得して、その取得したピーク値の平均値を平均化された電圧値として算出することが好ましい。
【0017】
大麦などの大サイズの穀粒は、籾や小麦などの小サイズの穀粒と比べて、一対の電極ローラ間に入りにくい。そのため、穀粒が電極ローラ間に間欠的に入り、大サイズの穀粒が電極ローラの間に入る前後で、電極ローラ間の電気抵抗値が変化し、電気抵抗値に応じた信号の電圧値が変化する。信号出力部から出力される信号の電圧値のピーク値を一定区間ごとに取得することにより、電極ローラ間で穀粒が圧砕されているときの電極ローラ間の電気抵抗値に応じた信号の電圧値を取得することができる。その結果、穀粒に含まれる水分量をより一層精度よく検出することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、穀粒に含まれる水分量を精度よく検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る水分量検出装置が搭載されるコンバインの右側面図である。
図2】コンバインのグレンタンクを右前側から見た斜視図である。
図3】コンバインのグレンタンクを右前側から見た斜視図であり、水分センサ収容部が前側に露出した状態を示す。
図4】水分センサをグレンタンク内から見た斜視図である。
図5】コンバインの電気的構成の要部を示すブロック図である。
図6】ローラ駆動制御の流れを示すフローチャートである。
図7】水分量取得処理の流れを示すフローチャートである。
図8】小サイズの穀粒が電極ローラ間で圧砕されるときに信号出力部から出力される信号の電圧値(信号電圧)の時間変化の一例を示す図である。
図9】大サイズの穀粒が電極ローラ間で圧砕されるときに信号出力部から出力される信号の電圧値(信号電圧)の時間変化の一例を示す図である。
図10】信号出力部から出力される信号の電圧値(信号電圧)と穀物の水分量との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0021】
<コンバインの全体構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る水分量検出装置が搭載されるコンバイン1の右側面図である。
【0022】
コンバイン1は、圃場を走行しながら穀稈の刈り取りおよび穀稈からの脱穀を行う収穫機の一例である。コンバイン1は、圃場などの不整地を走破する能力を有する走行装置として、左右一対のクローラ2を採用しており、その左右一対のクローラ2に支持される機体3には、キャビン4およびグレンタンク5が設けられている。
【0023】
キャビン4は、クローラ2の前端部上に配置されている。キャビン4は、その内部に運転者が搭乗する空間を提供し、その空間内には、たとえば、運転者が着座する運転席や操作レバーおよび操作ペダルなどの操作部材が配置されている。キャビン4の右側面には、開閉可能なドア6が設けられており、運転者は、ドア6を開いて、キャビン4内に乗り込むことができる。
【0024】
グレンタンク5は、クローラ2上でキャビン4の後方に配置されている。
【0025】
また、コンバイン1の機体3には、刈取装置7および脱穀装置(図示せず)が設けられている。刈取装置7は、クローラ2の前側に配置されており、コンバイン1の前進に伴って、圃場に植立されている穀稈を刈り取る。脱穀装置は、グレンタンク5の左側に配置されており、刈取装置7に刈り取られた穀稈の株元側を脱穀フィードチェーンによって後側に搬送し、穀稈の穂先側を扱室に供給して脱穀する。そして、穀稈から外れた穀粒が脱穀装置からグレンタンク5に搬送されて、グレンタンク5に穀粒が貯留される。グレンタンク5には、アンローダ8が接続されており、グレンタンク5に貯留された穀粒は、アンローダ8により搬出して機外に排出することができる。
【0026】
<水分センサ>
図2および図3は、グレンタンク5を右前側から見た斜視図である。
【0027】
グレンタンク5は、側壁11により前後左右が取り囲まれて、その側壁11に取り囲まれる空間が天壁12および底壁13により上下から閉鎖された容器状をなしている。グレンタンク5内には、図示されていないが、たとえば、側壁11の左側部分の上部で前後方向の中央部に、排出部が設けられている。排出部には、上下方向に延びる軸線を中心に回転する回転羽根が設けられている。穀粒は、脱穀装置から排出部に搬送されて、回転する回転羽根により掃き飛ばされ、排出部から右前側に向けて飛び出す。
【0028】
側壁11の前側部分、つまり前側壁14には、図3に示されるように、後側に凹んだ水分センサ収容部15が形成されている。水分センサ収容部15には、水分センサ16が収容されている。水分センサ収容部15は、通常、図2に示されるように、前側壁14の外面に取り付けられる蓋17によって覆われている。図3には、蓋17が外された状態が示されている。
【0029】
図4は、水分センサ16をグレンタンク5内から見た斜視図である。
【0030】
水分センサ16は、箱型のセンサケース21を備えている。センサケース21の後面には、センサケース21内に穀粒を受け入れるための受入口22が形成されている。受入口22は、左右対称の形状であり、上側に開いたV字状の下辺23と、下辺23の左上端から上下方向(鉛直方向)に対して左側に相対的に小さい角度で傾斜して上方に延びる第1左辺24と、第1左辺24の上端から上下方向に対して左側に相対的に大きい角度で傾斜して上方に延びる第2左辺25と、下辺23の右上端から上下方向に対して右側に相対的に小さい角度で傾斜して上方に延びる第1右辺26と、第1右辺26の上端から上下方向に対して右側に相対的に大きい角度で傾斜して上方に延びる第2右辺27とを有している。第1左辺24、第2左辺25、第1右辺26および第2右辺27から前側に、それぞれ平面が延びており、これらの平面は、穀粒をセンサケース21内に案内する案内面として機能する。
【0031】
センサケース21内には、受入口22の後側のローラ収容空間に、一対の電極ローラ31,32が設けられている。電極ローラ31,32は、それぞれ互いに平行をなして前後方向に延びるローラ軸33,34を一体的に有している。電極ローラ31,32の周面は、左右方向に近接して並んでいる。電極ローラ31の周面と電極ローラ32の周面との間には、籾のサイズに応じた間隔、たとえば、籾の幅(長手方向と直交する方向の長さ)よりもやや小さい間隔が空けられている。電極ローラ31,32の周面には、微小な凹凸が多数形成されている。
【0032】
センサケース21内には、モータ35(図5参照)が設けられており、そのモータ35の動力により、一対の電極ローラ31,32は、正転および逆転する。電極ローラ31,32の正転では、グレンタンク5内から見て、左側の電極ローラ31が時計回りに回転し、右側の電極ローラ32が反時計回りに回転する。電極ローラ31,32の逆転では、グレンタンク5内から見て、左側の電極ローラ31が反時計回りに回転し、右側の電極ローラ32が時計回りに回転する。
【0033】
また、前側壁14の内面には、案内部材36が取り付けられている。案内部材36は、平板をV字状に折り曲げた形状をなし、その折れ線が前側ほど下側に位置し、前端(下端)がセンサケース21の受入口22の下辺23から前側に延びる平面上に位置するように配置されている。
【0034】
グレンタンク5内の排出部から飛散する穀粒の一部は、センサケース21の位置に到達し、センサケース21の受入口22からセンサケース21内に直接受け入れられる。また、案内部材36上に到達した穀粒は、案内部材36上をセンサケース21に向けて流動し、案内部材36から落下して、受入口22からセンサケース21内に受け入れられる。受入口22からセンサケース21内に受け入れられた穀粒は、電極ローラ31,32上に貯まる。そして、電極ローラ31,32が正転すると、穀粒が電極ローラ31,32間に挟まれて圧砕される。
【0035】
また、電極ローラ31,32の逆転時には、電極ローラ31,32の各周面にブラシ(図示せず)が当接し、電極ローラ31,32の周面(表面)が清掃される。
【0036】
電極ローラ31,32が収容されるローラ収容空間は、その底面が開放されている。したがって、受入口22からセンサケース21内に受け入れられた穀粒および電極ローラ31,32の周面から掻き落とされた穀粒の圧砕物は、電極ローラ31,32上を除いて、ローラ収容空間には溜まらず、ローラ収容空間から水分センサ16の下側に設けられている戻し通路37を通してグレンタンク5内に排出される。
【0037】
<コンバインの電気的構成>
図5は、コンバイン1の電気的構成の要部を示すブロック図である。
【0038】
コンバイン1には、ECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)41が搭載されている。ECU41は、マイコン(マイクロコントローラ)を備えており、マイコンには、たとえば、CPU、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリおよびDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリが内蔵されている。
【0039】
ECU41は、グレンタンク5内に収容された穀物の水分量を検出するための機能処理部として、駆動制御部42、水分量取得部43および補正部44を実質的に有している。これらの機能処理部は、プログラム処理によってソフトウエア的に実現されるか、論理回路などのハードウェアにより実現されるか、または、それらの組合せにより実現される。
【0040】
駆動制御部42は、電極ローラ31,32の正転および逆転のために、モータ35を制御する。
【0041】
水分量取得部43には、水分センサ16に備えられている信号出力部45の出力信号が入力される。信号出力部45は、電極ローラ31,32の正転により電極ローラ31,32間で穀粒が圧砕されるときに、電極ローラ31,32間の電気抵抗値に応じた電圧値の信号を出力する。この信号は、たとえば、電極ローラ31,32間に一定電圧が印加されている状態で電極ローラ31,32間に流れる電流値であり、電極ローラ31,32間の電気抵抗値が小さいほど、信号出力部45から出力される信号の電圧値が大きくなり、電極ローラ31,32間の電気抵抗値が大きいほど、信号出力部45から出力される信号の電圧値が小さくなる。水分量取得部43は、信号出力部45から出力される信号の電圧値を平均化する平均化処理を行い、不揮発性メモリに記憶されている籾・小麦用検量線46または大麦用検量線47を用いて、平均化された電圧値に応じた水分量を取得する。平均化処理、籾・小麦用検量線46および大麦用検量線47の内容については、後述する。
【0042】
補正部44には、水分センサ16に設けられている温度センサ48の検出信号が入力される。温度センサ48は、センサケース21内で電極ローラ31,32の上方に配置され、電極ローラ31,32上に貯まった穀粒の温度に応じた電圧値の検出信号を出力する。
【0043】
<ローラ駆動制御>
図6は、ローラ駆動制御の流れを示すフローチャートである。
【0044】
グレンタンク5内に収容された穀物の水分量を検出するため、ECU41の駆動制御部42により、水分センサ16の一対の電極ローラ31,32の駆動を制御するローラ駆動制御が行われる。
【0045】
ローラ駆動制御では、グレンタンク5内に排出(搬送)される穀粒の水分量の検出の開始タイミングが到来したか否かが判断される(ステップS11)。
【0046】
グレンタンク5内への穀粒の排出が一定時間にわたって継続すると、穀粒の水分量の検出の開始タイミングが到来したと判断されて(ステップS11のYES)、モータ35の正転駆動が開始される(ステップS12)。モータ35の正転駆動により、電極ローラ31,32が正転する。グレンタンク5内への穀粒の排出が一定時間にわたって継続していたことにより、水分センサ16のセンサケース21内(電極ローラ31,32上)には、所定量(所定の粒数)以上の穀粒が貯まっている。電極ローラ31,32が正転すると、穀粒が電極ローラ31,32間に挟まれて圧砕される。電極ローラ31,32が正転している間、電極ローラ31,32間に一定電圧が印加されて、水分センサ16の信号出力部45から、電極ローラ31,32間の電気抵抗値に応じた電圧値の信号が出力される。
【0047】
電極ローラ31,32の正転開始後、水分量の検出の終了タイミングが到来したか否かが判断される(ステップS13)。
【0048】
電極ローラ31,32の正転開始から一定の動作時間が経過すると、穀粒の水分量の検出の終了タイミングが到来したと判断される(ステップS13のYES)。そして、モータ35が一旦停止された後、モータ35が逆転駆動される(ステップS14)。モータ35の逆転駆動により、電極ローラ31,32が逆転し、電極ローラ31,32の周面が清掃される。モータ35の逆転駆動が一定の清掃時間にわたって続けられると、清掃の終了が判断されて(ステップS15のYES)、モータ35が停止される。モータ35の停止により、電極ローラ31,32が停止し(ステップS16)、ローラ駆動制御が終了となる。
【0049】
<水分量取得処理>
図7は、水分量取得処理の流れを示すフローチャートである。
【0050】
電極ローラ31,32が正転している間、水分センサ16の信号出力部45から、電極ローラ31,32間の電気抵抗値に応じた電圧値の信号が出力される。信号出力部45から出力される信号がECU41の水分量取得部43に入力されると、水分量取得部43により、水分量取得処理が開始される。
【0051】
水分量取得処理では、水分量の検出対象の穀粒のサイズが所定の小サイズであるか否かが判断される(ステップS21)。小サイズは、籾および小麦のサイズが想定されている。したがって、穀粒のサイズが小サイズであるか否かの判断は、穀粒が籾または小麦であるか否かの判断と同義である。コンバイン1は、たとえば、籾、小麦および大麦の収穫に使用することができ、脱穀装置による脱穀の制御を収穫対象の穀物に応じて変更する必要があるので、コンバイン1の運転開始前に、ユーザにより、収穫対象の穀物が籾、小麦および大麦のいずれであるかが運転台に設けられたメータパネル(図示せず)上で設定される。水分量取得部43では、その設定内容に基づいて、水分量の検出対象の穀粒のサイズが小サイズであるか否かが判断される。
【0052】
水分量の検出対象の穀粒のサイズが小サイズである場合(ステップS21のYES)、つまり水分量の検出対象の穀粒が籾または小麦である場合、平均アルゴリズムによる平均化処理が行われる(ステップS22)。
【0053】
図8は、小サイズの穀粒が電極ローラ31,32間で圧砕されるときに信号出力部45から出力される信号の電圧値(信号電圧)の時間変化の一例を示す図である。
【0054】
電極ローラ31の周面と電極ローラ32の周面との間には、籾のサイズに応じた間隔が空けられているので、籾または小麦などの小サイズの穀粒は、電極ローラ31,32間に入りやすい。そのため、電極ローラ31,32の正転時には、電極ローラ31,32上の穀粒が電極ローラ31,32間に連続的に巻き込まれて圧砕される。したがって、図9に示されるように、信号出力部45から出力される信号の電圧値が立ち上がってから、電極ローラ31,32上から穀粒がなくなるまでの間、その電圧値の変動が小さい。
【0055】
その特性を考慮して、平均アルゴリズムによる平均化処理では、電極ローラ31,32の正転中における一定期間に信号出力部45から水分量取得部43に入力される信号の電圧値が所定のサンプリング周期でサンプリングされる。一定期間は、信号出力部45から信号が安定して出力される期間、たとえば、電極ローラ31,32の正転開始後、0.2秒間が経過してから5.2秒間が経過するまでの期間に設定される。そして、そのサンプリングした値からサンプル平均値および標準偏差が算出され、次式に従った演算が行われることにより、信号出力部45から出力される信号の電圧値を平均化した値(平均化された電圧値)が算出される。
【0056】
平均化された電圧値=サンプル平均値+標準偏差×S
ただし、S:定数
【0057】
その後、図7に示されるように、籾・小麦用検量線46を用いて、平均化処理により平均化された電圧値が水分量(水分値)に換算される(ステップS23)。水分量は、たとえば、重量基準の水分含有率(%)である。その換算により水分量が取得されると、水分量取得処理が終了される。
【0058】
籾・小麦用検量線46は、水分センサ16を用いた実験により作成される。すなわち、水分センサ16の電極ローラ31,32上に所定量の小サイズの穀粒(籾または小麦)が投入される。穀粒の水分量は、別の水分センサを用いて検出済みであり、既知である。電極ローラ31,32が正転されて、電極ローラ31,32間の電気抵抗値に応じた電圧値の信号が信号出力部45から出力されると、前述の平均アルゴリズムによる平均化処理が行われて、その平均化処理により平均化された電圧値が取得される。そして、その電圧値と既知である穀粒の水分量とが対応づけられる。以上の実験が水分量の異なる同種の穀粒を用いて繰り返されることにより、平均アルゴリズムによる平均化処理により平均化された電圧値と穀粒に含まれる水分量との関係を示す籾・小麦用検量線46が作成される。
【0059】
一方、水分量の検出対象の穀粒のサイズが大サイズであり、小サイズでない場合(ステップS21のNO)、つまり水分量の検出対象の穀粒が大麦である場合、ピークアルゴリズムによる平均化処理が行われる(ステップS24)。
【0060】
図9は、大サイズの穀粒が電極ローラ31,32間で圧砕されるときに信号出力部45から出力される信号の電圧値(信号電圧)の時間変化の一例を示す図である。
【0061】
大麦などの大サイズの穀粒は、籾や小麦などの小サイズの穀粒と比べて、電極ローラ31,32間に入りにくい。そのため、穀粒が電極ローラ31,32間に間欠的に入り、大サイズの穀粒が電極ローラの間に入る前後で、電極ローラ間の電気抵抗値が変化する。したがって、図10に示されるように、信号出力部45から出力される信号の電圧値が大きく変動する。
【0062】
その特性を考慮して、ピークアルゴリズムによる平均化処理では、電極ローラ31,32の正転中における一定期間に信号出力部45から水分量取得部43に入力される信号が対象とされて、一定区間ごと(たとえば、1秒間ごと)に電圧値のピーク値(極大値)が取得される。そして、その取得されたピーク値の単純平均値が信号出力部45から出力される信号の電圧値を平均化した値(平均化された電圧値)として算出される。
【0063】
その後、図7に示されるように、大麦用検量線47を用いて、平均化処理により平均化された電圧値が水分量(水分値)に換算される(ステップS25)。この換算により水分量が取得されると、水分量取得処理が終了される。
【0064】
大麦用検量線47は、水分センサ16を用いた実験により作成される。すなわち、水分センサ16の電極ローラ31,32上に所定量の大サイズの穀粒、つまり大麦が投入される。穀粒の水分量は、別の水分センサを用いて検出済みであり、既知である。電極ローラ31,32が正転されて、電極ローラ31,32間の電気抵抗値に応じた電圧値の信号が信号出力部45から出力されると、前述のピークアルゴリズムによる平均化処理が行われて、その平均化処理により平均化された電圧値が取得される。そして、その電圧値と既知である穀粒の水分量とが対応づけられる。以上の実験が水分量の異なる同種の穀粒を用いて繰り返されることにより、ピークアルゴリズムによる平均化処理により平均化された電圧値と穀粒に含まれる水分量との関係を示す大麦用検量線47が作成される。
【0065】
<補正処理>
図10は、信号出力部45から出力される信号の電圧値(信号電圧)と穀物の水分量との関係の一例を示す図である。
【0066】
電極ローラ31,32間の電気抵抗値は、電極ローラ31,32間で圧砕される穀粒の温度により変化する。すなわち、電極ローラ31,32間で圧砕される穀粒の温度が上がるにつれて、電極ローラ31,32間の電気抵抗値が小さくなる。そのため、信号出力部45から出力される信号の電圧値と穀物に含まれる水分量との関係は、図10に示されるように、穀物の温度が高いほど電圧値が大きくなる側にシフトする。
【0067】
ECU41の補正部44により、籾・小麦用検量線46および大麦用検量線47が穀物の温度に応じたシフト量でシフトされる。そして、ECU41の水分量取得部43による水分量取得処理では、補正部44によるシフト(補正)後の籾・小麦用検量線46または大麦用検量線47を用いて、平均化処理により平均化された電圧値が水分量に換算される。これにより、平均化処理により平均化された電圧値またはその電圧値の換算により取得される水分量が穀物の温度に応じて補正されることになる。
【0068】
<作用効果>
以上のように、一対の電極ローラ31,32の回転により電極ローラ31,32間で穀粒が圧砕され、その穀粒の圧砕物(圧砕された穀物)が電極ローラ31,32間に挟まっている状態で、電極ローラ31,32間の電気抵抗値に応じた信号が信号出力部45から出力される。たとえば、信号出力部45から出力される信号にノイズが混入していると、信号の電圧値が電極ローラ31,32間の電気抵抗値に対応しないので、信号の電圧値から穀粒に含まれる水分量を正しく取得できない。
【0069】
そこで、信号出力部45から出力される信号の電圧値に対する平均化処理が行われ、その平均化処理により平均化された電圧値に応じた水分量が籾・小麦用検量線46または大麦用検量線47を用いて取得される。そのため、信号出力部45から出力される信号にノイズが混入していても、平均化処理によりノイズの影響を排除することができる。ところが、平均化処理を考慮せずに作成された検量線を電圧値からの水分量の取得に用いると、平均化処理の前後で電圧値が変化するため、その変化による誤差が水分量に表れる場合がある。籾・小麦用検量線46は、実験により、信号出力部45から出力される信号の電圧値に平均アルゴリズムによる平均化処理を行い、その平均化処理により平均化された電圧値と穀粒の既知の水分量とを対応づけることにより作成される。また、大麦用検量線47についても、実験により、信号出力部45から出力される信号の電圧値にピークアルゴリズムによる平均化処理を行い、その平均化処理により平均化された電圧値と穀粒の既知の水分量とを対応づけることにより作成される。したがって、平均化処理により平均化された電圧値を穀粒に含まれる水分量に正確に換算できる。よって、穀粒に含まれる水分量を精度よく検出することができる。
【0070】
また、1粒の穀粒が一対の電極ローラ31,32間で圧搾されて、電極ローラ31,32間の電気抵抗値に応じた信号が取得される方式ではなく、センサケース21内に貯まった穀粒が一対の電極ローラ31,32間で圧搾されて、電極ローラ31,32間の電気抵抗値に応じた信号が出力される。そのため、センサケース21内の穀粒に藁や虫などの異物が混入しても、その異物による電気抵抗値の変化の影響が小さい。したがって、穀粒に含まれる水分量をより精度よく検出することができる。
【0071】
しかも、信号出力部45から信号が安定して出力される期間が一定期間に設定されて、その一定期間に信号出力部45から出力される信号が水分量の取得に使用されることにより、平均化処理により平均化される電圧値が安定するので、穀粒に含まれる水分量をより高精度に検出することができる。
【0072】
また、ピークアルゴリズムによる平均化処理では、一定区間ごと(たとえば、1秒間ごと)に電圧値のピーク値が取得される。これにより、電極ローラ31,32間で穀粒が圧砕されているときの電極ローラ31,32間の電気抵抗値に応じた信号の電圧値を取得することができる。その結果、穀粒に含まれる水分量をより一層精度よく検出することができる。
【0073】
また、電極ローラ31,32間の電気抵抗値は、電極ローラ31,32間で圧砕される穀粒の温度により変化する。すなわち、電極ローラ31,32間で圧砕される穀粒の温度が上がるにつれて、電極ローラ31,32間の電気抵抗値が小さくなる。そこで、信号出力部45から出力される信号の電圧値または水分量取得部43により取得された水分量が穀粒の温度に応じて補正される。その結果、穀粒に含まれる水分量を精度よく検出することができる。
【0074】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0075】
たとえば、前述の実施形態では、ECU41の補正部44により、籾・小麦用検量線46および大麦用検量線47が穀物の温度に応じたシフト量でシフトされ、そのシフト後の籾・小麦用検量線46または大麦用検量線47を用いて、平均化処理により平均化された電圧値が水分量に換算されることにより、平均化処理により平均化された電圧値またはその電圧値の換算により取得される水分量が穀物の温度に応じて補正されるとした。これに限らず、籾・小麦用検量線46または大麦用検量線47を用いて、平均化処理により平均化された電圧値が水分量に換算され、その換算後の水分量の値が穀物の温度に応じて補正されてもよい。また、平均化処理により平均化された電圧値が穀物の温度に応じて補正され、籾・小麦用検量線46または大麦用検量線47を用いて、その補正後の電圧値が水分量に換算されてもよい。
【0076】
また、前述の実施形態では、水分センサ16に温度センサ48が設けられて、温度センサ48により穀物の温度が検出されるとしたが、グレンタンク5内に温度センサが設けられて、その温度センサにより穀物の温度が検出されてもよい。
【0077】
さらには、ECU41の基板温度を検出する温度センサが設けられて、平均化処理により平均化された電圧値またはその電圧値の換算により取得される水分量が基板温度に応じて補正されてもよい。
【0078】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0079】
16:水分センサ(水分量検出装置)
31,32:電極ローラ
35:モータ
41:ECU(水分量検出装置)
42:駆動制御部
43:水分量取得部
44:補正部
45:信号出力部
46:籾・小麦用検量線
47:大麦用検量線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10