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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】ランスパイプ
(51)【国際特許分類】
   F27D 3/18 20060101AFI20241113BHJP
   C21C 7/072 20060101ALI20241113BHJP
   F27D 3/16 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
F27D3/18
C21C7/072 A
F27D3/16 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021196623
(22)【出願日】2021-12-03
(65)【公開番号】P2023082744
(43)【公開日】2023-06-15
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112140
【弁理士】
【氏名又は名称】塩島 利之
(74)【代理人】
【識別番号】100119297
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 正男
(72)【発明者】
【氏名】久保 智恵
(72)【発明者】
【氏名】大田 紘高
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-159460(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0098984(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 3/18
C21C 7/072
F27D 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶鋼処理、溶銑予備処理、又は合金の製錬に用いられ、芯管を耐火物で覆うランスパイプにおいて、
吐出孔に向かって断面積が小さくなるレジューサと、
前記芯管と前記レジューサとの間に設けられ、前記芯管よりも断面積が小さい直管と、を備え
前記直管に前記レジューサの大径部が直接連結されるランスパイプ。
【請求項2】
前記レジューサの小径部の先端から前記吐出孔までの通路が前記耐火物によって形成されることを特徴とする請求項1に記載のランスパイプ。
【請求項3】
前記レジューサの小径部の先端から前記吐出孔までの通路が前記レジューサの前記小径部の先端と前記耐火物との間に金属製のリング状部材を介在させた状態で前記耐火物によって形成されることを特徴とする請求項1に記載のランスパイプ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属中にガス又はガスと共に処理剤を吹き込むためのランスパイプに関する。
【背景技術】
【0002】
溶銑の予備処理、溶鋼の精錬、又は合金の製錬等のために、溶融金属中にガス又はガスと共に処理剤(以下、ガス等という)を吹き込むランスパイプが使用される(例えば特許文献1参照)。ランスパイプは、芯管と、芯管を覆う耐火物と、を備える。ランスパイプの下端部には、吐出孔が設けられる。芯管にガス等を導入すると、吐出孔から溶融金属中にガス等が吹き込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-79259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のランスパイプにおいては、ランスパイプの吐出孔から溶融金属中にガス等を吹き込むとき、吐出孔へ溶融金属が浸入する場合があるという課題がある。吐出孔に溶融金属が浸入すると、溶融金属がガスにより冷却され凝固するため、吐出孔が少なくとも部分的に閉鎖して、ガス等の流量が低下してしまう。
【0005】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、吐出孔に溶融金属が浸入するのを防止できるランスパイプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、溶鋼処理、溶銑予備処理、又は合金の製錬に用いられ、芯管を耐火物で覆うランスパイプにおいて、吐出孔に向かって断面積が小さくなるレジューサと、前記芯管と前記レジューサとの間に設けられ、前記芯管よりも断面積が小さい直管と、を備え、前記直管に前記レジューサの大径部が直接連結されるランスパイプである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、芯管とレジューサとの間に直管を設けるので、レジューサの先端から吐出孔までの距離を短くすることができる。レジューサの先端から吐出孔までの距離を短くすると、ガス等の流速を速めるレジューサ効果によって、吐出孔における中心流速Uと外側(内面近傍)流速Uの比(U/U)が大きくなる(言い換えれば、差(U-U)が小さくなる)。このため、吐出孔の断面変化点(吐出孔の出口)に渦流が発生するのを軽減でき、吐出孔に溶融金属が巻き込まれるのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態のランスパイプの縦断面図である。
図2図1のII部拡大図である。
図3図3(a)は比較例のランスパイプの断面図を示し、図3(b)は比較例のランスパイプのシミュレーションの結果を示す。
図4図4(a)は実施例のランスパイプの断面図を示し、図4(b)は実施例のランスパイプのシミュレーションの結果を示す。
図5図5(a)はレジューサの先端から吐出孔までの距離d、吐出孔の直径Φ、流速比(U/U)を表す模式図であり、図5(b)はdとU/Uとの関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施形態のランスパイプを詳細に説明する。ただし、本発明のランスパイプは種々の形態で具体化することができ、本明細書に記載される実施形態に限定されるものではない。本実施形態は、明細書の開示を十分にすることによって、当業者が発明を十分に理解できるようにする意図をもって提供されるものである。
【0010】
図1は本発明の一実施形態のランスパイプ1の縦断面図、図2図1のII部拡大図を示す。本実施形態のランスパイプ1は、例えば溶鋼処理用のランスパイプ1であり、LF処理に代表される二次精錬や、連続鋳造前の温度調整等に使用される。本実施形態のランスパイプ1は、溶銑予備処理用のランスパイプ1として使用することもできるし、合金の製錬用のランスパイプ1として使用することもできる。ランスパイプ1から吹き込むガスの種類は限定されるものではなく、Ar、O、N等のいずれでもよい。また、ランスパイプ1からガスと共に処理剤を吹き込んでもよい。
【0011】
図1に示すように、ランスパイプ1は、芯管2と、芯管2を覆う耐火物3と、を備える。芯管2は、上下方向に延びる。芯管2の内部には、ガス等が流れる通路2aが形成される。芯管2の上端部には、接続用フランジ4が設けられる。芯管2は、例えば鋼管である。耐火物3は、例えばキャスタブル等である。芯管2には、耐火物3を保持するためのスタッド等の保持金物を取り付けてもよい。
【0012】
図2に示すように、ランスパイプ1の下端部には、吐出孔7が設けられる。吐出孔7の構造(向き-孔数)は、水平-2孔である。吐出孔7の構造は、上記に限定されることはなく、様々に設定することができる。例えば、下向き-1孔、水平-1孔、斜め45°-4孔等に設定することができる。
【0013】
図2に示すように、芯管2の下端部には、直管8が連結される。直管8は、芯管2に対して直角方向に延びる。直管8は、その中心線が略直線状である。芯管2と直管8とは、溶接等の結合手段によって結合される。
【0014】
直管8の断面積は、吐出孔7に向かって略一定である。直管8の断面積は、芯管2の断面積よりも小さい。直管8は、例えば鋼管である。直管8には、吐出孔7に向かって断面積が小さくなるレジューサを用いることもできる。
【0015】
直管8の先端部には、吐出孔7に向かって断面積が小さくなるレジューサ9が連結される。レジューサ9は、大径部9aと小径部9bとを有する。直管8とレジューサ9の大径部9aとは、溶接等の結合手段によって結合される。直管8とレジューサ9の大径部9aとの間には、溶接を容易にするための金属製のリング状部材を介在させてもよい。レジューサ9は、例えば鋼製である。レジューサ9は、同心型でも偏心型でもよい。
【0016】
レジューサ9の小径部9bの先端から吐出孔7までの通路11は、実質的に耐火物3によって形成される。吐出孔7は、通路11の先端部に形成される。レジューサ9の小径部9bの先端と耐火物3との間には、金属製のリング状部材を介在させてもよい。実質的に耐火物によって形成されるとは、このような場合も含む。
【0017】
芯管2にガス等を導入すると、直管8を経由してレジューサ9にガス等が導入される。レジューサ9は、ガス等の流速を速める。流速が速められたガス等は、通路11を経由して吐出孔7から溶融金属中に吹き込まれる。
【0018】
本実施形態のランスパイプ1によれば、以下の効果を奏する。芯管2とレジューサ9との間に直管8を設けるので、レジューサ9の先端から吐出孔7までの距離を短くすることができる。レジューサ9の先端から吐出孔7までの距離を短くすると、ガス等の流速を速めるレジューサ効果によって、吐出孔7における中心流速Uと外側(内面近傍)流速Uの比(U/U)が大きくなる(言い換えれば、差(U-U)が小さくなる)。このため、吐出孔7の断面変化点(吐出孔7の出口)に渦流が発生するのを防止でき、吐出孔7に溶融金属が巻き込まれるのを防止できる。
【0019】
また、レジューサ9の小径部9bの先端から吐出孔7までの通路11を実質的に耐火物3によって形成するので、レジューサ9の小径部9bの先端に直管を設ける必要が無くなり、直管に溶融金属が付着したり、直管が溶けたりするのを防止できる。
【実施例
【0020】
(比較例)
図3に示す比較例と図4に示す実施例とで溶融金属の挙動をシミュレーションした。図3に示す比較例では、図3(a)に示すように、芯管2にレジューサ9を連結し、レジューサ9に直管8を連結した。溶融金属には溶鋼を用い、ガスにはArガスを用いた。ガス流量を800L/min、吐出孔7の直径Φを10mm、レジューサ9の先端から吐出孔7までの距離dを70mmに設定した。
【0021】
図3(b)は比較例のシミュレーション結果を示す。図3(b)に示すように、吐出孔7の断面変化点に渦流13が発生し、吐出孔7へ溶鋼が巻き込まれ、吐出孔7への溶鋼の浸入が確認された。比較例の中心流速Uと外側流速Uの比(U/U)は0.32であった。なお、外側流速Uは、吐出孔7の直径Φ×0.98の位置における流速である。
【0022】
(実施例1)
図4に示す実施例では、図4(a)に示すように、芯管2に直管8を連結し、直管8にレジューサ9を連結した。芯管2とレジューサ9との間に直管8を設けているので、レジューサ9の先端から吐出孔7までの距離dは短く、30mmであった。これ以外は、比較例1と同一のパラメータを使用した。
【0023】
図4(b)にシミュレーション結果を示す。図4(b)に示すように、吐出孔7への溶鋼の浸入は確認されなかった。実施例の中心流速Uと外側流速Uの比(U/U)は0.4であった。
【0024】
レジューサ9の先端から吐出孔7までの距離を短くすることで、ガスの流速を速めるレジューサ効果によって、中心流速Uと外側流速Uの比(U/U)を0.4まで大きくすることができ、これにより、吐出孔7の断面変化点での渦流の発生を防止でき、吐出孔7に溶鋼が巻き込まれるのを防止できた。
【0025】
(実施例2)
図5(b)に示すように、吐出孔7の直径Φを7mmに設定した場合と10mmに設定した場合とで、レジューサ9の先端から吐出孔7までの距離dと流速比(U/U)との関係を算出した。図5(a)はレジューサ9の先端から吐出孔7までの距離d、吐出孔7の直径Φ、流速比(U/U)を表す模式図である。
【0026】
図5(b)に示すように、Φが7mmの場合でも10mmの場合でも、dが小さくなればなるほど、流速比(U/U)が大きくなった。
【0027】
Φが10mmの場合、dが30mm以下であると、流速比(U/U)が0.4以上になった。
【0028】
Φが7mmの場合、dが70mm以下であると、流速比(U/U)が0.4以上になった。dが大きいと、耐火物3に亀裂が入るおそれがあるし、また流速比(U/U)が大きければ大きいほど、吐出孔7への溶鋼の浸入をより確実に防止できるので、Φが7mmの場合では、dを40mm以下にするのが望ましい。
図1
図2
図3
図4
図5