(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】ガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 23/00 20060101AFI20241113BHJP
C03C 3/21 20060101ALI20241113BHJP
G02B 1/00 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
C03C23/00 Z
C03C3/21
G02B1/00
(21)【出願番号】P 2021519371
(86)(22)【出願日】2020-04-30
(86)【国際出願番号】 JP2020018279
(87)【国際公開番号】W WO2020230649
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2023-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2019089773
(32)【優先日】2019-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】池西 幹男
(72)【発明者】
【氏名】丹野 義剛
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-201041(JP,A)
【文献】特開2021-148966(JP,A)
【文献】特表2020-517833(JP,A)
【文献】特開2014-156394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 23/00
C03C 3/21
G02B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長1100nm及び780nmにおける△ODが0.04以上の領域を含む着色層を有するガラス
:
前記△ODは以下のように算出される:
着色層を有するガラスについて、波長1100nm又は780nmにおけるODをOD1、厚さをT1とする。研磨等によりその着色層を厚さ方向に所定量除去したときの、同じ波長におけるODをOD2、厚さをT2とする。このとき、ΔOD=(OD1-OD2)/(T1-T2)。
【請求項2】
波長1100nm及び780nmにおける着色層のODが1.0以上である、請求項1に記載のガラス。
【請求項3】
透過率が小さい部分と大きい部分とを有する、請求項1に記載のガラス。
【請求項4】
着色層の透過率が、着色層が形成されていない部分の透過率よりも小さい、請求項1に記載のガラス。
【請求項5】
着色層の組成が、着色層が形成されていない部分の組成とが同一である、請求項1~
4の何れかに記載のガラス。
【請求項6】
ガラス成分としてBiイオンを含有する、請求項1~
5のいずれかに記載のガラス。
【請求項7】
リン酸塩ガラスである、請求項1~
6のいずれかに記載のガラス。
【請求項8】
P
5+の含有量が10カチオン%~50%であり、
P
5+の含有量に対するB
3+の含有量のカチオン比[B
3+/P
5+]が0.70以下であり、
Si
4+の含有量が10カチオン%以下であり、
Tiイオン、Nbイオン、WイオンおよびBiイオンの合計含有量[Ti+Nb+W+Bi]が1カチオン%~80カチオン%」である、請求項
7に記載のガラス。
【請求項9】
Tiイオンの含有量が1カチオン%~45カチオン%であり、
Nbイオンの含有量が1カチオン%~45カチオン%であり、
Wイオンの含有量が30カチオン%以下であり、
Biイオンの含有量が40カチオン%以下である、請求項
8に記載のガラス。
【請求項10】
屈折率が1.70以上である、請求項1~
9いずれかに記載のガラス。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれかに記載のガラスからなる光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色層を有するガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には酸化性雰囲気中または非酸化性雰囲気中でガラスを熱処理することによりガラスの透過率を変化させる発明が開示されている。しかしながら、特許文献1にはガラスに着色層を形成することは開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、着色層を有するガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)着色層を有するガラス。
【0006】
(2)透過率が小さい部分と大きい部分とを有する、(1)に記載のガラス。
【0007】
(3)ガラス成分としてBiイオンを含有する、(1)または(2)に記載のガラス。
【0008】
(4)リン酸塩ガラスである、(1)~(3)のいずれかに記載のガラス。
【0009】
(5)屈折率が1.70以上である、(1)~(4)いずれかに記載のガラス。
【0010】
(6)上記(1)~(5)のいずれかに記載のガラスからなる光学素子。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、着色層を有するガラスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施態様の一例を示す模式図である。
【
図2】本発明の実施態様の一例を示す模式図である。
【
図3-1】本発明の実施態様の一例を示す模式図である。
【
図3-2】
図3-1の実施態様を説明するための模式図である。
【
図4】本発明の実施態様の一例を示す模式図である。
【
図5-1】実施例1-1におけるサンプルと、参考のための物差しを示す画像である。
【
図5-2】実施例1-2におけるサンプルと、参考のための物差しを示す画像である。
【
図6-1】実施例1-1におけるサンプルの、着色層を有する部分の透過率を示すグラフである。
【
図6-2】実施例1-2におけるサンプルの、着色層を有する部分の透過率を示すグラフである。
【
図6-3】実施例1-3におけるサンプルの、着色層を有する部分の透過率を示すグラフである。
【
図7-1】実施例2-1におけるサンプルの、着色層を有する部分の透過率を、金属膜の膜厚別に示すグラフである。
【
図7-2】実施例2-2におけるサンプルの、着色層を有する部分の透過率を、金属膜の膜厚別に示すグラフである。
【
図8】実施例2-1および2-2におけるサンプルの、金属膜の膜厚とODとの関係を熱処理時間別に示すグラフである。
【
図9】実施例5におけるサンプルと、参考のための物差しを示す画像である。
【
図10】実施例7におけるサンプルの、着色層を有する部分の断面の顕微鏡写真である。
【
図11】実施例7におけるサンプルについて、横軸を厚さ方向の除去量としたときの、OD(波長1100nm)を示すグラフである。グラフ中の数値は、ΔODである。
【
図12】実施例7におけるサンプルについて、横軸を厚さ方向の除去量としたときの、OD(波長780nm)を示すグラフである。グラフ中の数値は、ΔODである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態では、カチオン%表示での各成分の含有比率に基づいて本発明に係るガラスを説明する。したがって、以下、各含有量は特記しない限り、「%」は「カチオン%」を意味する。
【0014】
カチオン%表示とは、全てのカチオン成分の含有量の合計を100%としたときのモル百分率をいう。また、合計含有量とは、複数種のカチオン成分の含有量(含有量が0%である場合も含む)の合計量をいう。また、カチオン比とは、カチオン%表示において、カチオン成分同士の含有量(複数種のカチオン成分の合計含有量も含む)の割合(比)をいう。
【0015】
ガラス成分の含有量は、公知の方法、例えば、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)等の方法で定量できる。また、本明細書および本発明において、構成成分の含有量が0%とは、この構成成分を実質的に含まないことを意味し、該成分が不可避的不純物レベルで含まれることを許容する。
【0016】
また、本明細書では、屈折率は、特記しない限り、黄色ヘリウムのd線(波長587.56nm)における屈折率ndをいう。
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳しく説明する。
【0018】
本実施形態に係るガラスは、着色層を有する。着色層は、ガラスが着色された部分であり、好ましくはガラス表面から内に向かって層状に存在する。
【0019】
本実施形態に係るガラスにおいて、着色層は、ガラス表面の全てを覆うように(ガラスの全表面に)存在してもよく、ガラス表面の一部を覆うように(ガラス表面の一部に)存在してもよい。
【0020】
着色層はガラスに入射する光に関し透過率の小さい部分である。したがって、本実施形態に係るガラスにおいて、ガラスに入射する光のうち、着色層に入射する光は一部または全部が吸収され、着色層に入射しない光に比べて透過光の強度が減衰する。すなわち、本実施形態に係るガラスは、透過率が小さい部分と大きい部分を有することができる。
【0021】
本実施形態に係るガラスでは、着色層は、研削または研磨により除去できる。本実施形態に係るガラスでは、着色層を除去した後のガラスの透過率は、着色層を除去する前の透過率よりも大きくなる。
【0022】
本実施形態では、例えば、向かい合う2つの面を有するガラスの場合、着色層2は、
図1のようにガラス本体1の一方の面側のみに設けてもよく、
図2のように両方の面側に設けてもよい。
【0023】
また、
図3-1に示すように、ガラス表面に選択的に着色層を形成することにより、着色層がある部分で光を遮り、着色層がない部分で光を透過することができる。そして、例えば、着色層を特定のパターン状に形成することにより、ガラスにスリットや絞り、ピンホールなどの機能を付与することができる。
【0024】
図3-1において、光の経路Aでは途中に着色層2がないため、光は一方の面から他方の面に通過する。経路Bでは途中に着色層2があるため、光は着色層2で吸収され、また、着色層2は非着色部と同一の組成であるためガラス内部に屈折率差が存在せず、着色層2と非着色部の境で光が反射することもない。この場合、光の透過については、
図3-2のように着色層2をガラスの厚み方向全体に設けた場合と同じ効果が得られる。なお、周知のように、ガラスの表面ではガラスの屈折率、およびガラスと接する媒質(例えば空気)の屈折率により入射角と屈折角との関係が定まる。この関係を考慮してガラス表面の着色層を形成する領域、スリットの幅、絞りの直径などを決めればよい。
【0025】
後記するように本実施形態に係るガラスは光学素子に使用することができる。光学素子に使用する観点からは、本実施形態に係るガラスが光学ガラスであることが好ましい。ただし、本実施形態に係るガラスは、着色層の装飾性を活かして、装飾品、小型電子機器の外装等として使用できるから、光学ガラスに限定されるものではない。
【0026】
本実施形態に係るガラスにおいて、着色層と非着色部とでは、ガラス成分組成は同じである。ただし、着色層と非着色部とでは、ガラス成分(カチオン)の価数が異なる場合がある。
【0027】
着色層の着色は、好ましくはガラス成分に起因する還元色であり、より好ましくは遷移金属に起因する還元色である。遷移金属としては、例えばTi、Nb、WおよびBiが挙げられる。したがって、本実施形態に係るガラスは、ガラス成分として、好ましくは、Tiイオン、Nbイオン、Wイオン、およびBiイオンからなる群から選択される少なくとも1つのイオンを含み、より好ましくは、Biイオンを含む。
【0028】
(着色層の厚み)
着色層の厚みは特に制限されないが、好ましくは1~300μmであり、より好ましくは20~200μmで、更に好ましくは30~150μmである。
【0029】
(OD)
本実施形態に係るガラスにおいて、可視域(400nm~760nmの波長域)から赤外域にかけての波長域における着色層の分光透過率は、波長が長くなるにつれて増加傾向を示す。一方、着色層のODは、波長が長くなるにつれて減少傾向を示す。ODとは、光学密度または光学濃度(optical density)であり、下記式で示すように、入射光強度I0と透過光強度Iの比の常用対数に負号(マイナス)を付けた数値として表される。
OD=-log10(I/Io)
【0030】
本実施形態に係るガラスが、着色層と、可視域の透過率の大きい非着色部とからなる場合、着色層のODは大きい一方で、非着色部のODは小さくなる。ODの測定において、測定光が着色層と非着色部との両方を通過する場合、非着色部のODは十分小さいので、着色層のODが支配的となる。
【0031】
本実施形態に係るガラスにおいて、着色層を有する部分の波長1100nmにおけるODは、好ましくは1.0以上であり、より好ましくは1.5以上である。一方、非着色部の波長1100nmにおけるODは、好ましくは0.15以下であり、より好ましくは0.1以下である。
【0032】
通常、CCDやC-MOSセンサーなどの光学センサーの感度域は可視域から1100nm付近にまで及ぶ。上記範囲のODを有する着色層を設けることで、光学センサーの感度域全域にわたり遮光できるガラスが得られる。したがって、本実施形態に係るガラスは、可視域から1100nmの波長域の光線に対し、透過率を制御できるものであることが好ましい。
【0033】
なお、向かい合う2つの面を有するガラスにおいて、着色層をその両面に設ける場合のODは、同じ着色層を片面のみに設ける場合の約2倍となる。
【0034】
また、本実施形態に係るガラスでは、可視域から近赤外域にかけての波長域において、波長の増加とともにODは減少する。そのため、着色層を有する部分おいて、たとえば波長780nmにおけるODは、波長1100nmにおけるODよりも大きくなる。
【0035】
したがって、遮光したい波長領域がある場合には、その波長領域における長波長側の波長でのODが高くなるように設計する。可視光のみを遮光するガラスを設計する場合は、可視光領域の長波長側(例えば、780nm)においてODが高くなるように設定すればよい。また、可視域から近赤外域を遮光するガラスを設計する場合には、近赤外域の波長(例えば波長1100nm)においてODが高くなるように設定すればよい。ODは、着色層の厚さや着色の程度を調整することにより制御できる。
【0036】
(ΔOD)
上述のとおり、本実施形態に係るガラスが、着色層と、可視域の透過率の大きい非着色部とからなる場合、着色層のODは大きい一方で、非着色部のODは小さくなる。すなわち、着色層を厚さ方向に少しずつ除去していくと、その除去量に応じてODは変化する。
【0037】
本実施形態に係る着色層を有するガラスについて、所定波長におけるODをOD1、厚さをT1とする。研磨等によりその着色層を厚さ方向に所定量除去したときの、同じ波長におけるODをOD2、厚さをT2とする。このとき、単位厚さあたりのODの変化量ΔODは、下記式で算出される。
ΔOD=(OD1-OD2)/(T1-T2)
【0038】
波長1100nm以上でのODにおいて、ΔODを測定する場合は、着色層を厚さ方向に5~20μmずつ除去することが好ましい。また、波長1100nm未満におけるODにおいて、ΔODを測定する場合は、着色層を厚さ方向に3~10μmずつ除去することが好ましい。そして、OD測定と着色層の除去とを繰り返し、着色層の除去量に応じたΔODを算出する。たとえば、着色層の除去を繰り返して、着色層の厚さ方向における除去量が合計20μmとなるとき、上記式において(T1-T2)は20となる。
【0039】
着色層の除去を繰り返した結果、目視により着色層が確認できなくなってから、着色層があった部分について、最終的にさらに50μm程度除去されるように、除去をさらに2~3回繰り返す。除去するたびにODおよびガラスの厚さを測定し、ΔODを算出する。
【0040】
または、着色層の除去を繰り返した結果、ODが0.15未満になってから、着色層があった部分を厚さ方向にさらに10μm以上ずつ、複数回除去する。厚さ方向に10μm以上除去するたびに、ODおよびガラスの厚さを測定し、ΔODを算出する。
【0041】
本実施形態に係るガラスでは、波長1100nmおよび780nmにおいて、ΔODが、好ましくは0.04以上、0.05以上、0.07以上、0.09以上、0.12以上、0.15以上、0.18以上、0.20以上、0.25以上、0.30以上、0.34以上、または0.35以上である場合に、着色層が残存していると評価できる。また、波長1100nmおよび780nmにおいて、ΔODが、好ましくは0.025以下、0.023以下、0.020以下、0.017以下、0.015以下、または0.010以下である場合に、着色層が除去されたと評価できる。
【0042】
本実施形態に係るガラスでは、着色層と非着色部との境界は明瞭である。ここで、着色層と非着色部との境界とは、着色層のおける着色の程度が弱くなってから、着色が十分に低減するまでの領域である。着色の程度は、所定波長におけるODにより評価できる。したがって、境界付近において着色の程度が変化する様子は、上記ΔODにより確認できる。すなわち、ΔODにより、着色層の除去量に応じてODが大きく変化する領域を確認できれば、その領域を着色層と非着色部との境界とすることができる。
【0043】
本実施形態に係るガラスでは、厚さ方向において、着色層と非着色部との境界は数十μmの範囲内とすることができる。そのため、光学顕微鏡などで本実施形態に係るガラスの断面を観察したとき、着色層と非着色部との境界を比較的明瞭に視認することができる。
【0044】
したがって、本実施形態に係るガラスでは、たとえば、ΔODが0.04以上の領域を、着色層と非着色部との境界とみることができる。また、ΔODが0.04以上、0.05以上、0.07以上、0.09以上、0.12以上、0.15以上、0.18以上、0.20以上、0.25以上、0.30以上、0.34以上、または0.35以上の領域を、着色層と非着色部との境界としてもよい。そして、本実施形態に係るガラスでは、その領域の厚さは、好ましくは40μm以下であり、さらには、30μm以下、20μm以下、10μm以下、5μm以下の順により好ましい。
【0045】
(屈折率)
本実施形態に係るガラスにおいて、屈折率ndは、好ましくは1.70以上であり、さらには1.73以上、1.75以上、1.76以上、1.77以上、1.78以上、1.79以上、1.80以上の順により好ましい。屈折率ndの上限は、特に限定されないが、通常2.5であり、好ましくは2.3である。
【0046】
図4は、向かい合う2つの面を有するガラスにおいて、着色層を形成していない部分がスリットとして機能するように、両面の相対する部分にそれぞれ所定の間隔で複数の着色層を設けたものである。このような場合に、ガラスの屈折率が低いと、スリット部分に入射する光線の入射角が大きい(光線が浅い角度で入射する)場合に、経路Cのように光線が隣のスリットを透過して、
図3-2に示す素子と同様の効果が得られなくなるおそれがある。上記範囲のようにガラスの屈折率が高いと、経路Bのようにガラスの裏面に形成された着色層により光線が吸収され、光線が隣のスリットを透過することがないため、スリットの間隔を狭くすることができる。
【0047】
(平均線膨張係数)
本実施形態に係るガラスにおいて、平均線膨張係数は、好ましくは50×10-7K-1以上であり、さらには、60×10-7K-1以上、70×10-7K-1以上、75×10-7K-1以上、80×10-7K-1以上、85×10-7K-1以上、90×10-7K-1以上の順により好ましい。平均線膨張係数の上限は、特に限定されないが、通常200×10-7K-1であり、好ましくは150×10-7K-1である。平均線膨張係数を上記範囲とすることで、化学強化を施した場合にガラスの強度を高めることができる。
【0048】
平均線膨張係数の測定方法は、日本光学硝子工業会規格JOGIS 08-2003「光学ガラスの熱膨張の測定法」に従う。ただし、丸棒状の試料の直径は5mmとする。
【0049】
(耐酸性重量減少率Da)
本実施形態に係るガラスにおいて、耐酸性重量減少率Daの等級は、好ましくは1~2等級であり、より好ましくは1等級である。
【0050】
耐酸性重量減少率Daは、日本光学硝子工業会規格JOGIS06-2009の規定に従って測定する。具体的には、比重に相当する重量の粉末ガラス(粒度425~600μm)を白金かごに入れ、それを0.01mol/L硝酸水溶液の入った石英ガラス製丸底フラスコ内に浸漬し、沸騰水浴中で60分間処理し、その処理前後での重量減少率(%)を測定する。耐酸性重量減少率Daによる等級を表Aに示す。
【0051】
【0052】
(ガラス組成)
本実施形態に係るガラスの組成について、以下に非制限的な例を示す。
【0053】
本実施形態に係るガラスは、リン酸塩ガラスであることが好ましい。リン酸塩ガラスとは、ガラスのネットワーク形成成分として主にP5+を含有するガラスをいう。ガラスのネットワーク形成成分として、P5+、B3+、Si4+、Al3+等が知られている。ここで、ガラスのネットワーク形成成分として主にリン酸塩を含むとは、P5+の含有量が、B3+、Si4+、Al3+のいずれの含有量よりも多いことを意味する。リン酸塩ガラスであることで、着色層における着色の程度を高めることができる。
【0054】
本実施形態に係るガラスにおいて、P5+の含有量の下限は、好ましくは10%であり、さらには13%、15%、17%、20%の順により好ましい。また、P5+の含有量の上限は、好ましくは50%であり、さらには45%、40%、38%、35%、33%、30%の順により好ましい。
【0055】
P5+は、ガラスのネットワーク形成成分である。一方、P5+を過剰に含むと熔融性が悪化する。そのため、P5+の含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0056】
本実施形態に係るガラスにおいて、B3+の含有量の上限は、好ましくは30%であり、さらには25%、20%、15%、13%、10%の順により好ましい。また、B3+の含有量の下限は、好ましくは0.1%であり、さらには0.5%、1%、3%、5%の順により好ましい。B3+の含有量は0%であってもよい。
【0057】
B3+は、ガラスのネットワーク形成成分であり、ガラスの熔融性を改善する働きを有する。一方、B3+の含有量が多すぎると、化学的耐久性が低下する傾向がある。そのため、B3+の含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0058】
本実施形態に係るガラスにおいて、P5+の含有量に対するB3+の含有量のカチオン比[B3+/P5+]の上限は、好ましくは0.70であり、さらには0.60、0.55、0.50の順により好ましい。カチオン比[B3+/P5+]は0であってもよい。
【0059】
本実施形態に係るガラスにおいて、Si4+の含有量の上限は、好ましくは10%であり、さらには7%、5%、3%、2%、1%の順により好ましい。また、Si4+の含有量の下限は、好ましくは0.1%であり、さらには0.2%、0.3%、0.4%、0.5%の順により好ましい。Si4+の含有量は0%であってもよい。
【0060】
Si4+は、ガラスのネットワーク形成成分であり、ガラスの熱的安定性、化学的耐久性、耐候性を改善する働きを有する。一方、Si4+の含有量が多すぎると、ガラスの熔融性が低下し、ガラス原料が熔け残る傾向がある。そのため、Si4+の含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0061】
本実施形態に係るガラスにおいて、Al3+の含有量の上限は、好ましくは10%であり、さらには7%、5%、3%、1%の順により好ましい。Al3+の含有量は0%であってもよい。
【0062】
Al3+は、ガラスの化学的耐久性、耐候性を改善する働きを有する。一方、Al3+の含有量が多すぎると、ガラスの熱的安定性が低下し、ガラス転移温度Tgが上昇して、熔融性が低下しやすい。そのため、Al3+の含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0063】
本実施形態に係るガラスにおいて、P5+、B3+、Si4+およびAl3+の合計含有量[P5++B3++Si4++Al3+]の下限は、好ましくは10%であり、さらには15%、18%、20%、23%、25%の順により好ましい。また、合計含有量[P5++B3++Si4++Al3+]の上限は、好ましくは60%であり、さらには50%、45%、40%、37%、35%の順により好ましい。
【0064】
本実施形態に係るガラスは、ガラス成分として、好ましくは遷移金属を有し、より好ましくはTiイオン、Nbイオン、BiイオンおよびWイオンからなる群から選択される少なくとも1つのガラス成分を有し、さらに好ましくはBiイオンを含有する。
【0065】
本実施形態に係るガラスにおいて、Tiイオンの含有量の下限は、好ましくは1%であり、さらには2%、3%の順により好ましい。また、Tiイオンの含有量の上限は、好ましくは45%であり、さらには40%、35%、30%、25%、20%、15%、12%の順により好ましい。ここで、Tiイオンは、Ti4+、Ti3+の他、価数の異なる全てのTiイオンを含むものとする。
【0066】
Tiイオンは、Nbイオン、WイオンおよびBiイオンと同様に、高屈折率化に大きく寄与し、また、ガラスの着色を増大する働きを有する。一方、Tiイオンの含有量が多すぎると、ガラスの熔融性が低下し、ガラス原料が熔け残る傾向がある。そのため、Tiイオンの含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0067】
本実施形態に係るガラスにおいて、Nbイオンの含有量の下限は、好ましくは1%であり、さらには5%、10%、15%の順により好ましい。また、Nbイオンの含有量の上限は、好ましくは45%であり、さらには40%、35%、30%、25%、23%、20%の順により好ましい。Nbイオンは、Nb5+の他、価数の異なる全てのNbイオンを含むものとする。
【0068】
Nbイオンは、高屈折率化に寄与し、ガラスの着色を増大する成分である。また、ガラスの熱的安定性および化学的耐久性を改善する働きを有する。一方、Nbイオンの含有量が多すぎると、ガラスの熱的安定性が低下する傾向がある。そのため、Nbイオンの含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0069】
本実施形態に係るガラスにおいて、Wイオンの含有量の上限は、好ましくは30%であり、さらには25%、20%、15%、13%の順により好ましい。また、Wイオンの含有量の下限は、好ましくは0.5%であり、さらには1%、2%、3%の順により好ましい。Wイオンは、W6+の他、価数の異なる全てのWイオンを含むものとする。
【0070】
Wイオンは、高屈折率化に寄与し、また、ガラスの着色を増大する働きを有する。そのため、Wイオンの含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0071】
本実施形態に係るガラスにおいて、Biイオンの含有量の上限は、好ましくは40%であり、さらには35%、30%、28%、25%の順により好ましい。また、Biイオンの含有量の下限は、好ましくは0.5%であり、さらには1%、2%、2.5%の順により好ましい。Biイオンは、Bi3+の他、価数の異なる全てのBiイオンを含むものとする。
【0072】
Biイオンは、高屈折率化に寄与し、また、ガラスの着色を増大する働きを有する。そのため、Biイオンの含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0073】
本実施形態に係るガラスにおいて、Tiイオン、NbイオンおよびWイオンの合計含有量[Ti+Nb+W]の下限は、好ましくは1%であり、さらには5%、10%、15%、20%、23%の順により好ましい。また、合計含有量[Ti+Nb+W]の上限は、好ましくは60%であり、さらには55%、50%、45%、40%、38%、35%の順により好ましい。
【0074】
本実施形態に係るガラスにおいて、Tiイオン、Nbイオン、WイオンおよびBiイオンの合計含有量[Ti+Nb+W+Bi]の上限は、好ましくは80%であり、さらには75%、70%、68%、65%の順により好ましい。また、合計含有量[Ti+Nb+W+Bi]の下限は、好ましくは1%であり、さらには5%、10%、15%、20%、23%、25%の順により好ましい。
【0075】
本実施形態に係るガラスにおいて、P5+、B3+およびSi4+の合計含有量に対するTiイオン、Nbイオン、WイオンおよびBiイオンの合計含有量のカチオン比[(Ti+Nb+W+Bi)/(P5++B3++Si4+)]の下限は、好ましくは0.1であり、さらには0.3、0.5、0.6、0.7の順により好ましい。また、カチオン比[(Ti+Nb+W+Bi)/(P5++B3++Si4+)]の上限は、好ましくは4.0であり、さらには3.5、3.0、2.7、2.5の順により好ましい。
【0076】
本実施形態に係るガラスにおいて、Ta5+の含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには3%、2%、1%の順により好ましい。Ta5+の含有量は0%であってもよい。
【0077】
Ta5+は、ガラスの熱的安定性を改善する働きを有する。一方、Ta5+の含有量が多すぎると、ガラスが低屈折率化し、また熔融性が低下する傾向がある。そのため、Ta5+の含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0078】
本実施形態に係るガラスにおいて、Li+の含有量の上限は、好ましくは35%であり、さらには30%、27%、25%、23%、20%の順により好ましい。また、Li+の含有量の下限は、好ましくは1%であり、さらには2%、3%、5%、8%の順により好ましい。Li+の含有量は0%であってもよい。
【0079】
本実施形態に係るガラスにおいて、Na+の含有量の上限は、好ましくは40%であり、さらには35%、30%、25%、20%、18%の順により好ましい。また、Na+の含有量の下限は、好ましくは0.5%であり、さらには1%、1.5%、3%、5%の順により好ましい。Na+の含有量は0%であってもよい。
【0080】
ガラスがLi+またはNa+を含有することで、ガラスに化学強化を施すことが容易となる。一方、Li+またはNa+の含有量が多すぎると、ガラスの熱的安定性が低下するおそれがある。そのため、Li+およびNa+の各含有量はそれぞれ上記範囲であることが好ましい。
【0081】
本実施形態に係るガラスにおいて、Li+およびNa+の合計含有量[Li++Na+]の上限は、好ましくは45%であり、さらには43%、40%、38%の順により好ましい。また、合計含有量[Li++Na+]の下限は、好ましくは1%であり、さらには5%、10%、15%、20%の順により好ましい。
【0082】
本実施形態に係るガラスにおいて、K+の含有量の上限は、好ましくは20%であり、さらには15%、13%、10%、8%、5%、3%の順により好ましい。また、K+の含有量の下限は、好ましくは0.1%であり、さらには0.5%、1.0%、1.2%の順により好ましい。K+の含有量は0%であってもよい。
【0083】
K+は、ガラスの熱的安定性を改善する働きを有する。一方、K+の含有量が多すぎると、熱的安定性が低下する傾向がある。したがって、K+の含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0084】
本実施形態に係るガラスにおいて、Rb+の含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには3%、1%、0.5%の順により好ましい。Rb+の含有量は0%であってもよい。
【0085】
本実施形態に係るガラスにおいて、Cs+の含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには3%、1%、0.5%の順により好ましい。Cs+の含有量は0%であってもよい。
【0086】
Rb+およびCs+は、ガラスの熔融性を改善する働きを有する。一方、これらの含有量が多すぎると、屈折率ndが低下し、また熔解中にガラス成分の揮発が増加するおそれがある。そのため、Rb+およびCs+の各含有量は、それぞれ上記範囲であることが好ましい。
【0087】
本実施形態に係るガラスにおいて、Mg2+の含有量の上限は、好ましくは15%であり、さらには10%、5%、3%、1%の順により好ましい。Mg2+の含有量は0%であってもよい。
【0088】
本実施形態に係るガラスにおいて、Ca2+の含有量の上限は、好ましくは15%であり、さらには10%、5%、3%、1%の順により好ましい。Ca2+の含有量は0%であってもよい。
【0089】
本実施形態に係るガラスにおいて、Sr2+の含有量の上限は、好ましくは15%であり、さらには10%、5%、3%、1%の順により好ましい。Sr2+の含有量は0%であってもよい。
【0090】
本実施形態に係るガラスにおいて、Ba2+の含有量の上限は、好ましくは25%であり、さらには20%、18%、15%、10%、5%の順により好ましい。Ba2+の含有量は0%であってもよい。
【0091】
Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+は、いずれもガラスの熱的安定性、熔融性を改善させる働きを有する。一方、これらの含有量が多すぎると、高屈折率性が損なわれ、また、ガラスの熱的安定性が低下するおそれがある。そのため、これらガラス成分の各含有量は、それぞれ上記範囲であることが好ましい。
【0092】
本実施形態に係るガラスにおいて、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+の合計含有量[Mg2++Ca2++Sr2++Ba2+]の上限は、好ましくは30%であり、さらには25%、20%、18%、15%、10%、5%の順により好ましい。
【0093】
本実施形態に係るガラスにおいて、Zn2+の含有量の上限は、好ましくは15%であり、さらには10%、8%、5%、3%、1%の順により好ましい。また、Zn2+の含有量の下限は、好ましくは0.1%であり、さらには0.3%、0.5%の順により好ましい。Zn2+の含有量は0%であってもよい。
【0094】
Zn2+は、ガラスの熱的安定性を改善する働きを有する。一方、Zn2+の含有量が多すぎると、熔融性が悪化するおそれがある。そのため、Zn2+の含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0095】
本実施形態に係るガラスにおいて、Zr4+の含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには3%、2%、1%の順により好ましい。Zr4+の含有量は0%であってもよい。
【0096】
Zr4+は、ガラスの熱的安定性を改善する働きを有する。一方、Zr4+の含有量が多すぎると、ガラスの熱的安定性および熔融性が低下する傾向がある。そのため、Zr4+の含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0097】
本実施形態に係るガラスにおいて、Ga3+の含有量の上限は、好ましくは3%であり、さらには2%、1%の順により好ましい。また、Ga3+の含有量の下限は、好ましくは0%である。Ga3+の含有量は0%であってもよい。
【0098】
本実施形態に係るガラスにおいて、In3+の含有量の上限は、好ましくは3%であり、さらには2%、1%の順により好ましい。また、In3+の含有量の下限は、好ましくは0%である。In3+の含有量は0%であってもよい。
【0099】
本実施形態に係るガラスにおいて、Sc3+の含有量の上限は、好ましくは3%であり、さらには2%、1%の順により好ましい。また、Sc3+の含有量の下限は、好ましくは0%である。Sc3+の含有量は0%であってもよい。
【0100】
本実施形態に係るガラスにおいて、Hf4+の含有量の上限は、好ましくは3%であり、さらには2%、1%の順により好ましい。また、Hf4+の含有量の下限は、好ましくは0%である。Hf4+の含有量は0%であってもよい。
【0101】
本実施形態に係るガラスにおいて、Lu3+の含有量の上限は、好ましくは3%であり、さらには2%、1%の順により好ましい。また、Lu3+の含有量の下限は、好ましくは0%である。Lu3+の含有量は0%であってもよい。
【0102】
本実施形態に係るガラスにおいて、Ge4+の含有量の上限は、好ましくは3%であり、さらには2%、1%の順により好ましい。また、Ge4+の含有量の下限は、好ましくは0%である。Ge4+の含有量は0%であってもよい。
【0103】
本実施形態に係るガラスにおいて、La3+の含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%の順により好ましい。また、La3+の含有量の下限は、好ましくは0%である。La3+の含有量は0%であってもよい。
【0104】
本実施形態に係るガラスにおいて、Gd3+の含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%の順により好ましい。また、Gd3+の含有量の下限は、好ましくは0%である。Gd3+の含有量は0%であってもよい。
【0105】
本実施形態に係るガラスにおいて、Y3+の含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには4%、3%の順により好ましい。また、Y3+の含有量の下限は、好ましくは0%である。Y3+の含有量は0%であってもよい。
【0106】
本実施形態に係るガラスにおいて、Yb3+の含有量の上限は、好ましくは3%であり、さらには2%、1%の順により好ましい。また、Yb3+の含有量の下限は、好ましくは0%である。Yb3+の含有量は0%であってもよい。
【0107】
本実施形態に係るガラスのカチオン成分は、主として上述の成分、すなわち、P5+、B3+、Si4+、Al3+、Tiイオン、Nbイオン、Wイオン、Biイオン、Ta5+、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Zn2+、Zr4+、Ga3+、In3+、Sc3+、Hf4+、Lu3+、Ge4+、La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+で構成されていることが好ましく、上述の成分の合計含有量は、95%よりも多くすることが好ましく、98%よりも多くすることがより好ましく、99%よりも多くすることがさらに好ましく、99.5%よりも多くすることが一層好ましい。
【0108】
本実施形態に係るガラスは、アニオン成分として、F-およびO2-以外の成分を含んでいてもよい。F-およびO2-以外のアニオン成分として、Cl-、Br-、I-を例示できる。しかし、Cl-、Br-、I-は、いずれもガラスの熔融中に揮発しやすい。これらの成分の揮発によって、ガラスの特性が変動する、ガラスの均質性が低下する、熔融設備の消耗が著しくなる等の問題が生じる。したがって、Cl-の含有量は、5アニオン%未満であることが好ましく、より好ましくは3アニオン%未満、さらに好ましくは1アニオン%未満、特に好ましくは0.5アニオン%未満、一層好ましくは0.25アニオン%未満である。また、Br-およびI-の合計含有量は、5アニオン%未満であることが好ましく、より好ましくは3アニオン%未満、さらに好ましくは1アニオン%未満、特に好ましくは0.5アニオン%未満、一層好ましくは0.1アニオン%未満、より一層好ましくは0アニオン%である。
【0109】
なお、アニオン%とは、全てのアニオン成分の含有量の合計を100%としたときのモル百分率である。
【0110】
本実施形態に係るガラスは、基本的に上記成分により構成されることが好ましいが、本発明の作用効果を妨げない範囲において、その他の成分を含有させることも可能である。
【0111】
例えば、本実施形態に係るガラスは、さらに、ガラスに近赤外光吸収特性を付与するために、ガラス成分として適量の銅(Cu)を含有してもよい。その他にも、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Pr,Nd、Pm、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ce等を含有してもよい。これらは、ガラスの着色を増大させ、蛍光の発生源となり得る。
【0112】
また、本発明において、不可避的不純物の含有を排除するものではない。
【0113】
<その他の成分組成>
Pb、As、Cd、Tl、Be、Seは、いずれも毒性を有する。そのため、本実施形態のガラスはこれら元素をガラス成分として含有しないことが好ましい。
【0114】
U、Th、Raはいずれも放射性元素である。そのため、本実施形態のガラスはこれら元素をガラス成分として含有しないことが好ましい。
【0115】
Sb3+、Sn4+、およびCe4+は清澄剤として機能する、任意に添加可能なガラス成分である。このうち、Sb3+は、清澄効果の大きな清澄剤である。
【0116】
Sb3+の含有量は、Sb2O3に換算し、外割りの質量%表示とする。ここで外割り表示とはSb3+、Sn4+、およびCe4+以外のカチオン成分の含有比率をSb2O3と同様、酸化物に換算し、Sb3+、Sn4+、およびCe4+以外の全てのカチオン成分の含有比率の合計が100質量%になるようにしたときのSb2O3の含有量を質量%で表示することである。Sb2O3の含有量は、好ましくは2質量%未満、より好ましくは1質量%未満、さらに好ましくは0.5質量%未満、一層好ましくは0.2質量%未満、0.1質量%未満、0.05質量%未満である。Sb2O3の含有量を上記範囲とすることによりガラスの清澄性を改善できる。
【0117】
Sn4+およびCe4+の各含有量も、酸化物換算し外割り表示とする。すなわち、Sb3+、Sn4+、およびCe4+以外のカチオン成分の含有比率を酸化物に換算し、Sb3+、Sn4+、およびCe4+以外の全てのカチオン成分の含有比率の合計が100質量%になるようにしたときのSnO2の含有量、CeO2の含有量を質量%で表示する。SnO2およびCeO2の各含有量は、それぞれ好ましくは2質量%未満、より好ましくは1質量%未満、さらに好ましくは0.5質量%未満、一層好ましくは0.1質量%未満である。SnO2およびCeO2の各含有量は0質量%であってもよい。SnO2およびCeO2の各含有量をそれぞれ上記範囲とすることによりガラスの清澄性を改善できる。
【0118】
(ガラスの製造)
本実施形態に係るガラスは、着色の無いガラスを調製し、そこに着色層を形成することで得られる。着色の無いガラスは、公知のガラス製造方法に従って作製すればよい。例えば、複数種の化合物を調合し、十分混合してバッチ原料とし、バッチ原料を熔融容器中に入れて熔融、清澄、均質化した後に熔融ガラスを成形し、徐冷してガラスを得る。あるいは、バッチ原料を熔融容器中に入れて粗熔解(ラフメルト)する。粗熔解によって得られた熔融物を急冷、粉砕してカレットを作製する。さらにカレットを熔融容器中に入れて加熱、再熔融(リメルト)して熔融ガラスとし、さらに清澄、均質化した後に熔融ガラスを成形し、徐冷してガラスを得ることもできる。熔融ガラスの成形、徐冷には、公知の方法を適用すればよい。
【0119】
さらに、本実施形態に係るガラスの製造工程には、熔融ガラス中の水分量を高める工程が含まれてもよい。熔融ガラス中の水分量を高める工程としては、熔融雰囲気に水蒸気を付加する工程、熔融物内に水蒸気を含むガスをバブリングする工程が挙げられる。その中でも、熔融雰囲気に水蒸気を付加する工程を含むことが好ましい。熔融ガラス中の水分量を高める工程を含むことで、ガラスのβOH値を高めることができる。βOH値を高めることで、より透明性の高いガラスが得られる。
【0120】
(着色層の形成)
着色層は、ガラス表面に金属膜を貼付し、還元雰囲気において熱処理をすることで形成できる。
【0121】
金属膜を構成する金属としては、雰囲気中の水素イオンを吸蔵し、さらに水素イオンおよび電子の授受によりガラスに含まれるガラス成分を還元する働きを有する金属が好ましい。ガラス成分の中でも遷移金属を還元する働きを有する金属がより好ましい。具体的には、Ni、Au、Ag、Pt、PdおよびPt-Pd合金等が挙げられる。
【0122】
ガラス表面に金属膜を貼付する方法としては、ガラス表面に金属膜が密着するように貼付できれば特に制限されないが、例えば、蒸着、スパッタリング、メッキ、または金属ペーストやメッキ液の塗布等が挙げられる。
【0123】
還元雰囲気は、還元力を有するガスを含んでいればよい。還元力を有するガスとしては、例えば水素が挙げられる。よって、還元雰囲気として水素含有ガスを用いることが好ましく、水素を含有するフォーミングガスを用いてもよい。フォーミングガスとは、水素と窒素とからなる混合ガスであり、通常、水素を3~5体積%程度含む。
【0124】
熱処理では、ガラス転移温度Tgより200℃低い温度(Tg-200)以上、軟化点温度以下で加熱する。熱処理時間は、目的とする着色の程度、着色層の範囲、着色層の厚み等によって適宜調整できる。
【0125】
熱処理後、金属膜をガラス表面から剥離する。剥離する方法としては、特に制限されないが、研磨や溶解して除去する方法等が挙げられる。
【0126】
還元雰囲気における熱処理によって、金属膜と接触しているガラス表面から内部にわたって、着色層が形成される。
【0127】
上記方法により着色層が形成されるメカニズムは、特に限定されないが、以下にように考えられる。
本実施形態において形成される着色層の着色は、ガラス成分に起因する還元色と考えられ、特に遷移金属に起因する還元色であると考えられる。通常、ガラス成形体を、水素を3~5体積%程度の低濃度で含む雰囲気中で熱処理しても、ガラスはほとんど還元色を呈しない。しかし、上記金属膜は、雰囲気中の水素イオンを吸蔵するため、ガラスの金属膜と接触する部分は、金属膜と接触していない部分と比べて、水素イオンが多く供給され、その結果、還元反応が速く進行する。そのため、ガラスの金属膜と接触する部分は濃く着色する。金属膜による水素イオンの吸蔵量は大きく、金属膜の吸蔵により雰囲気中の水素濃度が低下するほどである。このこともあって、金属膜と接触していない部分は還元反応が進行しにくい。
【0128】
ここで、着色の要因となるガラス成分の還元反応は、金属膜と接触する部分からあらゆる方向に進行する。すなわち、着色層は、ガラスの断面から観察すると、金属膜と接触するガラス表面から厚さ方向に形成され、ガラスの表面から観察すると、金属膜と接触する部分から放射状に形成される。
【0129】
上記方法によれば、より濃く着色された着色層を形成できる。したがって、着色層の厚みが小さくても、透過率は十分に低減できる。着色層の厚みが小さい場合、ガラスの表面から観察される、金属膜と接触していた部分から放射状に形成される着色層の範囲も小さくなる。つまり、本実施形態によれば、着色層の形成条件を調整することで、ガラス表面から観察した場合に、金属膜と略同形状の着色層を形成できる。
【0130】
(光学素子等の製造)
本実施形態に係るガラスからなる光学素子は、着色の無い光学素子を調製し、そこに着色層を形成することで得られる。着色の無い光学素子は、公知の製造方法に従って作製すればよい。例えば、熔融ガラスを鋳型に流し込んで板状に成形し、ガラス素材を作製する。得られたガラス素材を適宜、切断、研削、研磨し、プレス成形に適した大きさ、形状のカットピースを作製する。カットピースを加熱、軟化して、公知の方法でプレス成形(リヒートプレス)し、光学素子の形状に近似する光学素子ブランクを作製する。光学素子ブランクをアニールし、公知の方法で研削、研磨して光学素子を作製する。
【0131】
作成した光学素子に、上記方法により着色層を形成できる。また、光学素子を作製する途中の段階で着色層を形成してもよい。
【0132】
作製した光学素子の光学機能面には使用目的に応じて、反射防止膜、全反射膜などをコーティングしてもよい。
【0133】
本発明の一態様によれば、上記ガラスからなる光学素子を提供することができる。光学素子の種類としては、球面レンズ、非球面レンズ等のレンズ、プリズム等を例示することができる。レンズの形状としては、両凸レンズ、平凸レンズ、両凹レンズ、平凹レンズ、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ等の諸形状を例示することができる。光学素子は、上記ガラスからなるガラス成形体を加工する工程を含む方法により製造することができる。加工としては、切断、切削、粗研削、精研削、研磨等を例示することができる。
【0134】
光学素子の一例として、CCDやC-MOSセンサーのようなイメージセンサーの受光面に斜入射する光を遮光するための光学素子を示すことができる。従来、イメージセンサーの受光面に斜入射光を遮断するために、イメージセンサーのカバーガラス表面の斜入射光を遮断したい部分に黒色インクを塗布し、遮光性を持たせる方法が用いられている。この方法では、黒色インクが塗布されている部分と黒色インクが塗布されていない部分の境界において、黒色インクの表面で光の反射が生じ、迷光となってイメージセンサーの画質が低下するという問題がある。また、インクは温度が上昇すると脱ガスを生じ、カバーガラス表面の曇りの原因となる。これに対し、本実施形態のガラスを用い、斜入射光を遮りたい箇所に着色層を設け、カバーガラスとすることにより、迷光の問題や脱ガスによる曇りの問題を解消することができる。
【0135】
また、本発明の一態様によれば、着色層の装飾性を活かして、装飾品、小型電子機器の外装等として使用できる。
【実施例】
【0136】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0137】
表1に示すガラス組成を有するガラスサンプルを以下の手順で作製し、各種評価を行った。
【0138】
【0139】
[ガラスの製造]
ガラスの構成成分に対応する酸化物、水酸化物、メタリン酸塩、炭酸塩、および硝酸塩を原材料として準備し、得られるガラスの組成が、表1に示す各組成となるように上記原材料を秤量、調合して、原材料を十分に混合した。得られた調合原料(バッチ原料)を、白金坩堝に投入し、1100~1450℃で2~3時間加熱して熔融ガラスとした。熔融ガラスを攪拌して均質化を図り、清澄してから、熔融ガラスを適当な温度に予熱した金型に鋳込んだ。鋳込んだガラスを、ガラス転移温度Tg付近で1時間程度熱処理し、炉内で室温まで放冷した。長さ40mm、幅10mm、厚さ1.0mmの大きさに加工し、40mm×10mmとなる2つ面を精密研磨(光学研磨)して、ガラスサンプルを得た。
【0140】
[ガラス成分組成の確認]
得られたガラスサンプルについて、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)で各ガラス成分の含有量を測定し、表1に示す各組成のとおりであることを確認した。
【0141】
[光学特性の測定]
得られたガラスサンプルについて、屈折率nd、比重およびガラス転移温度Tgを測定した。結果を表1に示す。
【0142】
(i)屈折率nd
JIS規格 JIS B 7071-1の屈折率測定法により、屈折率ndを測定した。
【0143】
(ii)比重
比重は、アルキメデス法により測定した。
【0144】
(iii)ガラス転移温度Tg
ガラス転移温度Tgは、MACサイエンス社製の熱機械分析装置(TMA4000S)を使用し、昇温速度4℃/分にて測定した。
【0145】
[平均線膨張係数]
平均線膨張係数の測定方法は、日本光学硝子工業会規格JOGIS 08-2003「光学ガラスの熱膨張の測定法」に従い測定した。丸棒状の試料の直径を5mmとした。結果を表1に示す。
【0146】
[耐酸性重量減少率Da]
日本光学硝子工業会規格JOGIS06-2009の規定に従い、得られたガラスサンプルを比重に相当する重量の粉末ガラス(粒度425~600μm)にし、白金かごに入れ、それを0.01mol/L硝酸水溶液の入った石英ガラス製丸底フラスコ内に浸漬し、沸騰水浴中で60分間処理し、その処理前後での重量減少率(%)を測定した。その重量減少率を等級で評価した。結果を表1に示す。
【0147】
実施例1:ガラス組成の異なるサンプルにおける着色層の形成
(実施例1-1)
得られたガラスサンプルのうち、No.1のガラス組成を有するガラスサンプルの光学研磨面の一方の面に、スパッタリングによりパターン状にPt-Pd膜を成膜した(スパッタリング時の電流15mA、成膜時間900sec)。
【0148】
Pt-Pd膜を形成したガラスサンプルを、還元雰囲気としてフォーミングガス(水素3体積%、窒素97体積%)を0.2L/minの流量で供給しながら400℃で5時間熱処理した。
Pt-Pd膜を研磨により剥離した。着色層を有するガラスサンプルを得た。得られたガラスサンプルを
図5-1に示す。
【0149】
[透過率の測定]
波長300~2500nmにおける外部透過率を測定した。外部透過率は、ガラスサンプルの厚み方向に光を入射したときの、入射光強度に対する透過光強度の百分率[透過光強度/入射光強度×100]で定義される。なお、外部透過率には試料表面における光線の反射損失も含まれる。結果を
図6-1に示す。図中、破線は着色層を有する部分の透過率であり、実線は同じ部分の着色層形成前の透過率である。
【0150】
[ODの測定]
着色層を有する部分について、波長1100nmにおける入射光強度I0および透過光強度Iを測定し、下記式によりOD(光学密度)を算出した。同じ部分について、着色層形成前のODも同様に算出した。結果を表2に示す。
OD=-log10(I/I0)
【0151】
(実施例1-2)
No.2のガラス組成を有するガラスサンプルを用いた他は、実施例1-1と同様にして、着色層を有するガラスサンプルを得た。得られたガラスサンプルを
図5-2に示す。
実施例1-1と同様に透過率を測定した。結果を
図6-2に示す。
実施例1-1と同様にODを測定した。結果を表2に示す。
【0152】
(実施例1-3)
No.3のガラス組成を有するガラスサンプルを用いて430℃で9時間熱処理した他は、実施例1-1と同様にして、着色層を有するガラスサンプルを得た。
実施例1-1と同様に透過率を測定した。結果を
図6-3に示す。
実施例1-1と同様にODを測定した。結果を表2に示す。
【0153】
【0154】
(実施例1-4)
表6に示すガラス組成を有するガラスサンプルを、上記と同様の手順で作製した。上記と同様にガラス成分組成を確認し、屈折率nd、比重、ガラス転移温度Tgを測定した。また、表6に示す水素濃度(体積%)、流量でフォーミングガスを供給して、表6に示す処理温度、処理時間で熱処理した他は、実施例1-1と同様にして着色層を有するガラスサンプルを得た。実施例1-1と同様にODを測定した。結果を表6に示す。
【0155】
【0156】
実施例2:膜厚の異なる金属膜による着色層の形成
(実施例2-1)
No.3のガラス組成を有するガラスサンプルの光学研磨面の一方の面に、成膜条件を調整して、膜厚がそれぞれ28nm、256nm、288nm、420nmであるPt-Pd膜を形成した。
【0157】
Pt-Pd膜を形成したガラスサンプルを、還元雰囲気としてフォーミングガス(水素3体積%、窒素97体積%)を0.2L/minの流量で供給しながら400℃で4時間熱処理した。
Pt-Pd膜を研磨により除去し、着色層を有するガラスサンプルを得た。
【0158】
着色層を有する部分について、実施例1-1と同様に透過率を測定した。Pt-Pd膜の膜厚と透過率との関係を
図7-1に示す。
着色層を有する部分について、実施例1-1と同様にODを測定した。Pt-Pd膜の膜厚とODとの関係を
図8に示す。
【0159】
(実施例2-2)
No.3のガラス組成を有するガラスサンプルの光学研磨面の一方の面に、成膜条件を調整して、膜厚がそれぞれ437nm、695nm、778nm、892nmであるPt-Pd膜を形成した。
【0160】
Pt-Pd膜を形成したガラスサンプルを、還元雰囲気としてフォーミングガス(水素3体積%、窒素97体積%)を0.2L/minの流量で供給しながら400℃で9時間熱処理した。
Pt-Pd膜を研磨により除去し、着色層を有するガラスサンプルを得た。
【0161】
実施例2-1と同様に透過率を測定した。Pt-Pd膜の膜厚と透過率との関係を
図7-2に示す。
実施例2-1と同様にODを測定した。Pt-Pd膜の膜厚とODとの関係を
図8に示す。
【0162】
図7-1、
図7-2、
図8より、着色層を有する部分の透過率およびODは、金属膜の膜厚ではなく、熱処理時間に依存することがわかった。
【0163】
実施例3:種類の異なる金属膜による着色層の形成
(実施例3-1)
No.3のガラス組成を有するガラスサンプルの光学研磨面に、Pt-Pd膜の代わりに膜厚が15nm、300nmのAu膜を形成し、450℃で7時間熱処理した他は、実施例1-1と同様にして、着色層を有するガラスサンプルを得た。
着色層を有する部分について、実施例1-1と同様にODを測定した。
【0164】
(実施例3-2)
No.3のガラス組成を有するガラスサンプルの光学研磨面に、Pt-Pd膜を形成する代わりにAgペーストを塗布し、430℃で10時間熱処理した他は、実施例1-1と同様にして、着色層を有するガラスサンプルを得た。
実施例3-1と同様にODを測定した。結果を表3に示す。
【0165】
【0166】
(実施例3-3)
No.3のガラス組成を有するガラスサンプルの光学研磨面に、Pt-Pd膜の代わりに、真空蒸着機を用いて膜厚が約15nmのNi膜を形成し、430℃で7時間熱処理した他は、実施例1-1と同様にして、着色層を有するガラスサンプルを得た。実施例3-1と同様にODを測定した。結果を表9に示す。
【0167】
(実施例3-4)
No.14のガラス組成を有する厚さ0.4mmのガラスサンプルの光学研磨面に、Pt-Pd膜の代わりに、市販のPdメッキ液を塗布し室温で乾燥させてPdメッキ膜を形成し、410℃で15時間熱処理した他は、実施例1-1と同様にして、着色層を有するガラスサンプルを得た。実施例3-1と同様にODを測定した。結果を表9に示す。
【0168】
【0169】
実施例4:着色層を形成したガラスの断面観察
(実施例4-1)
No.3のガラス組成を有するガラスサンプルの光学研磨面の一方の面に、Pt-Pd膜を形成した。また、同じサンプルの光学研磨面の一部を1000番(#1000)の研磨剤を使用して研磨し、その部分にもPt-Pd膜を形成した。
【0170】
フォーミングガス(水素3体積%、窒素97体積%)を0.2L/minの流量で供給しながら400℃で5時間熱処理した。
Pt-Pd膜を研磨により除去し、着色層を有するガラスサンプルを得た。
【0171】
着色層の厚みを測定した。結果を表4に示す。また、着色層を有する部分の断面の顕微鏡写真を表4に示す。表4の顕微鏡写真において、右側がガラスであり、中央の黒い部分が着色層である。
【0172】
(実施例4-2)
No.3のガラス組成を有するガラスサンプルの光学研磨面の一方の面に、Au膜を形成した。
450℃で7時間熱処理した他は実施例4-1と同様にして、着色層を有するガラスサンプルを得た。
【0173】
着色層の厚みおよび着色層を有する部分の断面の顕微鏡写真を表4に示す。
着色層を有する部分について実施例1-1と同様にODを測定した。結果を表4に示す。
【0174】
(実施例4-3)
No.3のガラス組成を有するガラスサンプルの光学研磨面の一方の面に、Au膜を形成した。Au膜の成膜時間を実施例4-2よりも長くした他は、実施例4-2と同様にして、着色層を有するガラスサンプルを得た。
【0175】
着色層の厚みおよび着色層を有する部分の断面の顕微鏡写真を表4に示す。
実施例4-2と同様にODを測定した。結果を表4に示す。
【0176】
(実施例4-4)
No.3のガラス組成を有するガラスサンプルの光学研磨面の両面にPt-Pd膜を形成した他は、実施例4-2と同様にして、着色層を有するガラスサンプルを得た。
【0177】
着色層の厚みおよび着色層を有する部分の断面の顕微鏡写真を表4に示す。
実施例4-2と同様にODを測定した。結果を表4に示す。
【0178】
【0179】
1000番(#1000)の研磨剤を使用して研磨した面は、光学研磨面よりも表面粗さが大きい。表4からは、ガラスの表面粗さにより形成される着色層の厚みが変化することがわかった。
【0180】
実施例5:ドットパターンを有する着色層の形成
No.3のガラス組成を有するガラスサンプルの光学研磨面に、Pt-Pd膜をドットパターン状に形成した。詳細は以下のとおりである。
【0181】
ガラス表面を覆うことができる程度に平坦性が高く、ドットパターン状の開口部を有する金属板を用意した。ガラスサンプルの光学研磨面にその金属板を密着させ、そのドットパターン状の開口部に合わせてPt-Pd膜を形成した。
【0182】
金属板を剥離し、ドットパターン状に形成したPt-Pd膜を有するガラスサンプルを、実施例1-3と同様に熱処理して、着色層を有するガラスサンプルを得た。
得られたガラスサンプルを
図9に示す。
【0183】
実施例6:着色層の除去による透過率の変化
No.3のガラス組成を有するガラスサンプルについて、厚さが750μmとなるように加工した他は、実施例1-3と同様にして、着色層を有するガラスサンプルを得た。
【0184】
着色層を有する部分の断面を顕微鏡で観察し、着色層の厚さが110μmであることを確認した。また、着色層を有する部分について実施例1-1と同様にODを測定した。結果を表5に示す。
【0185】
得られたガラスサンプルについて、ガラスサンプルの厚さが660μmとなるように、着色層を有する面から研磨し、同じ部分についてODを測定した。結果を表5に示す。
【0186】
同様に、ガラスサンプルの厚さが610μm、500μm、380μmとなるように研磨し、同じ部分についてODを測定した。また、研磨前(研磨取り代無し、すなわち研磨による除去無し)のODからの変化量を算出した。OD結果を表5に示す。なお、表5において、「研磨取り代」とは研磨による除去量であり、厚さで表示している。
【表5】
【0187】
表5によれば、ガラスサンプルの研磨取り代(研磨による除去量)が140μmを超えると、ODの変化量は小さくなる。ガラスサンプルは、研磨により着色層を取り除かれると、非着色部(着色の無い透明な領域)のみとなる。そのため、それ以上研磨により厚みを小さくしてもODはほとんど変化しない結果となった。すなわち、研磨によるOD変化量の結果から、ガラスサンプルの着色層の厚さは90μm超140μm未満であると推定される。これは、断面の顕微鏡観察に基づく着色層の厚さ(110μm)と一致する。なお、研磨取り代(研磨による除去量)が140~370μmの範囲のODの増減はわずかであり、測定誤差であると考えられる。
【0188】
実施例7:着色層の除去による透過率の変化(2)
No.3のガラス組成を有するガラスサンプルについて、厚さが1mmとなるように加工した他は、実施例1-1と同様にして、着色層を有するガラスサンプルを得た。
【0189】
着色層を有する部分の断面を顕微鏡で観察し、着色層の厚さが55μm程度であることを確認した。着色層を有する部分の断面の顕微鏡写真を
図10に示す。また、着色層を有する部分について、実施例1-1と同様にして、波長1100nmおよび780nmにおけるODを測定した。さらに、着色層を有する部分を、厚さ方向に7μm、17μm、32μm、52μm、71μm、83μm除去したときのODを測定した。このときの、ODの実測値、着色層を除去する前と比較したODの変化量(OD1-OD2)、およびΔODを、表7、8に示す。また、横軸を厚さ方向の除去量としたときのODの実測値を、グラフを
図11、12に示す。なお、ΔODは、以下の式にて算出した。
ΔOD=(OD1-OD2)/(除去量[μm])
【0190】
【0191】
【符号の説明】
【0192】
1 ガラス本体
2 着色層