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特許7587497改善された分極および低磁気損失を有する、高周波電気モータ用途のための電気鋼帯または鋼板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】改善された分極および低磁気損失を有する、高周波電気モータ用途のための電気鋼帯または鋼板
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241113BHJP
   C22C 38/34 20060101ALI20241113BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20241113BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20241113BHJP
   H01F 3/02 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/34
C21D8/12 A
H01F1/147 175
H01F3/02
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021524159
(86)(22)【出願日】2019-11-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-17
(86)【国際出願番号】 EP2019080537
(87)【国際公開番号】W WO2020094787
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-11-01
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2018/080598
(32)【優先日】2018-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510041496
【氏名又は名称】ティッセンクルップ スチール ヨーロッパ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】ThyssenKrupp Steel Europe AG
【住所又は居所原語表記】Kaiser-Wilhelm-Strasse 100,47166 Duisburg Germany
(73)【特許権者】
【識別番号】501186597
【氏名又は名称】ティッセンクルップ アクチェンゲゼルシャフト
【住所又は居所原語表記】ThyssenKrupp Allee 1 45143 Essen Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ヴィドヴィチ,アントン
(72)【発明者】
【氏名】テルガー,カール
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー,オラフ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンクラー,ニーナ・マリア
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-021241(JP,A)
【文献】特開2011-246810(JP,A)
【文献】特開2001-158948(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0060725(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0073803(KR,A)
【文献】特開2003-253404(JP,A)
【文献】特開2013-010982(JP,A)
【文献】特開2001-049402(JP,A)
【文献】特開2006-144036(JP,A)
【文献】特表2015-515539(JP,A)
【文献】特開2007-016278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/12, 9/46
H01F 1/12- 1/38, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の組成を有する無方向性電磁鋼帯または無方向性電磁鋼板であって(いずれの数値も重量%単位)、
3.20~3.40のSi、
0.85~1.10のAl、
0.07~0.18のMn、
0.01~0.04のP、
0.0003~0.0030のS、
0.0005~0.0025のN、
0.0010~0.0050のC、
0.0015~0.0040のTi、
0.01~0.08のCr、
合計で最大0.05のNb+Mo+V、
1重量%未満の不可避不純物、および
残部がFe;
50℃で0.62~0.65μΩmの比電気抵抗を有し、
50Hzおよび100A/mでの分極と1Tおよび400Hzでの磁気損失との比(分極/磁気損失)の100倍が、少なくとも6.8であることを特徴とする、無方向性電磁鋼帯または無方向性電磁鋼板。
【請求項2】
400Hzおよび100A/mでの分極と1Tおよび400Hzでの磁気損失との比(分極/磁気損失)の100倍が、少なくとも6.0であることを特徴とする、請求項1に記載の無方向性電磁鋼帯または無方向性電磁鋼板。
【請求項3】
いずれの場合も0.280~0.31mmの鋼板厚さで、1.5Tの分極Jおよび50Hzで2.3W/kg以下;1.0Tの分極および400Hzで14.2W/kg以下;1.0Tの分極および700Hzで33W/kg以下;1.0Tの分極および1000Hzで58W/kg以下の損失値を有し、
いずれの場合も0.255~0.280mmの鋼板厚さで、1.5Tの分極および50Hzで2.2W/kg以下;1.0Tの分極および400Hzで13.6W/kg以下;1.0Tの分極および700Hzで32W/kg以下;1.0Tの分極および1000Hzで55W/kg以下の損失値を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の無方向性電磁鋼帯または無方向性電磁鋼板。
【請求項4】
0.255~0.31mmの最終厚さを有することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼帯または無方向性電磁鋼板。
【請求項5】
C、S、NおよびTiの合計が、0.0090重量%以下であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼帯または無方向性電磁鋼板。
【請求項6】
いずれの場合も0.280~0.31mmの鋼板厚さで、2500A/mの変調での分極Jが少なくとも1.53Tであり;5000A/mの変調での分極Jが少なくとも1.63であり;および/または10000A/mの変調での分極Jが少なくとも1.75Tであり、
いずれの場合も0.255~0.280mmの鋼板厚さで、2500A/mの変調での分極Jが少なくとも1.52Tであり;5000A/mの変調での分極Jが少なくとも1.62であり;および/または10000A/mの変調での分極Jが少なくとも1.75であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼帯または無方向性電磁鋼板。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼帯または無方向性電磁鋼板を製造するためのプロセスであって、
(A)熱間圧延され、熱間鋼帯焼鈍された鋼帯または鋼板を1.5~2.5mmの厚さで提供するプロセス工程と、
(B)工程(A)から得られた前鋼帯または前記板を0.255~0.31mmの厚さまで冷間圧延して、冷間圧延鋼帯または冷間圧延鋼板を得るプロセス工程と、
(C)工程(B)から得られた前記冷間圧延鋼帯または前記冷間圧延鋼板を最終熱処理するプロセス工程と、
(D)非酸化性雰囲気中で、1K/s~10K/sの通常の平均冷却速度で、工程(C)から得られた前記最終熱処理された冷間圧延鋼帯または冷間圧延鋼板を500℃の下限温度まで冷却するプロセス工程と、
を少なくとも含み、
工程(B)から得られた前記冷間圧延鋼帯または前記冷間圧延鋼板が、工程(C)では、少なくとも40K/sの加熱速度で860~940℃の温度に最初に加熱され、続いて、3~20K/sの加熱速度で1050~1070℃の温度に加熱されることを特徴とするプロセス。
【請求項8】
工程(C)が、10N/mm以下の鋼帯張力で行われることを特徴とする、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
工程(C)が、少なくとも70体積%の水素を含有する熱処理雰囲気中で行われることを特徴とする、請求項7または8に記載のプロセス。
【請求項10】
工程(C)が、-10℃以下の露点で行われることを特徴とする、請求項7から9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
熱間圧延され、熱間鋼帯焼鈍された前記鋼帯または前記鋼板が、工程(B)のために、1.5~2.5mmの厚さで提供されることを特徴とする、請求項7から10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
工程(A)が、連続鋳造プラントによる従来の製造経路によって、または薄スラブ製造によって行われることを特徴とする、請求項7から11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
工程(D)が、70%を超える比較的高い水素含有量を含む非酸化性雰囲気中で行われることを特徴とする、請求項7から12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
工程(C)における最初の加熱が、880~920℃の温度であることを特徴とする、請求項7から13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項15】
請求項1から6のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼帯または無方向性電磁鋼板からなる電気用途向け部品。
【請求項16】
回転電機の鉄心、電動乗り物またはハイブリッド乗り物の電気モータ、又は発電機である、請求項15に記載の電気用途向け部品。
【請求項17】
回転電機の鉄心、電動乗り物またはハイブリッド乗り物の電気モータ、又は発電機における、請求項1から6のいずれか一項に記載の前記無方向性電磁鋼帯または無方向性電磁鋼板の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3.2~3.4のSi、0.85~1.1のAl、0.07~0.2のMn、0.01~0.04のP、0.0003~0.0030のS、0.0005~0.0025のN、0.0010~0.0050のC、0.0015~0.0040のTi、0.01~0.08のCr、合計で最大0.05のNb+Mo+V、総量が最大1.0重量%の残部Feおよび不可避不純物という組成(いずれの数値も重量%単位)を有する無方向性電磁鋼帯または鋼板(non-oriented electrical steel strip or sheet)において、50℃で0.62~0.65μΩmの比電気抵抗を有することを特徴とする無方向性電磁鋼帯または鋼板、その製造プロセス、ならびに回転電機の鉄心、特に、電気モータ、例えば、電動乗り物またはハイブリッド乗り物、および発電機におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
無方向性(NO:non-oriented)電磁鋼帯または鋼板は、回転電機の鉄心、すなわちモータおよび発電機の磁束を増加させるために使用される。次世代の高効率電機、例えば、電動乗り物用の高速回転を有する電気モータは、高周波数での低い磁気損失と、高い透磁率を有する高い磁気分極または誘導とを有する特定のタイプのNO電磁鋼帯または鋼板を必要とする。
【0003】
ここで当該タイプの電磁鋼帯または鋼板から製造された部品は、今日利用可能なNO電磁鋼帯または鋼板のタイプによっては満たされ得ないことが多い上述の磁気特性を必要とする。無方向性電磁鋼帯およびその製造プロセスは、従来技術から既に知られている。
【0004】
欧州特許第2612942号は、鉄および不可避不純物を除いて、1.0~4.5重量%のSi、最大2.0重量%のAl、最大1.0重量%のMn、最大0.01重量%のC、最大0.01重量%のN、最大0.012重量%のS、0.1~0.5重量%のTiおよび0.1~0.3重量%のPを含有する鋼から構成された無方向性電磁鋼帯または鋼板であって、Ti含有量/P含有量の比が、いずれの場合も重量%単位で、1.0≦Ti含有量/P含有量≦2.0を満たす無方向性電磁鋼帯または鋼板を開示している。無方向性電磁鋼帯または鋼板、およびそのような鋼板または鋼帯から製造された電気用途向け部品は、強度の向上と、同時に良好な磁気特性とを示す。欧州特許第2612942号によるNO電磁鋼帯または鋼板は、上述の組成を有する鋼からなる熱間圧延鋼帯を冷間圧延して冷間圧延鋼帯を得、この冷間圧延鋼帯を続いて最終熱処理に供することによって製造される。欧州特許第2612942号による電磁鋼帯または鋼板の低周波数での分極率と機械的特性とは、依然として改善が必要である。
【0005】
欧州特許第2840157号は、鉄および不可避不純物を除いて、2.0~4.5重量%のSi、0.03~0.3重量%のSi、最大2.0重量%のAl、最大1.0重量%のMn、最大0.01重量%のC、最大0.01重量%のN、最大0.001重量%のSおよび最大0.015重量%のPを含有する鋼から製造された、特に電気用途向けの無方向性電磁鋼帯または鋼板であって、三元Fe-Si-Zr析出物が電磁鋼帯または鋼板の構造中に存在する無方向性電磁鋼帯または鋼板を開示している。欧州特許第2840157号はまた、最終熱処理を含む、そのような電磁鋼帯および鋼板の製造プロセスを開示している。欧州特許第2840157号による電磁鋼帯の低電界強度での分極率と機械的特性とは、依然として改善が必要である。
【0006】
国際公開第00/65103号は、0.06重量%未満のC、0.03~2.5重量%のSi、0.4重量%未満のAl、0.05~1重量%のMnおよび0.02重量%未満のSを含有する中間鋼材を熱間圧延して3.5mm未満の厚さを有する熱間圧延鋼帯を得、続いて酸洗し、酸洗後に圧延して0.2~1mmの厚さを有する冷間圧延鋼帯を得る、無方向性電磁鋼帯の製造プロセスを開示している。国際公開第00/65103号による電磁鋼帯の機械的特性および磁気特性も同様に改善することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】欧州特許第2612942号
【文献】欧州特許第2840157号
【文献】国際公開第00/65103号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術に照らして、本発明の目的は、無方向性(non-oriented)の電磁鋼帯(electrical steel strip)または鋼板(steel sheet)、およびそのような鋼帯または鋼板から製造された電気用途向け部品を提供することであり、この無方向性電磁鋼帯または鋼板は、100~20A/mの比較的低い変調範囲では、400Hz、700Hzおよび1000Hzの比較的高い周波数で非常に高い分極値と同時に低い磁気損失とを示す。
【0009】
さらに、示された合金に適合した最終熱処理の結果として、低い変調範囲における改善された分極値と組み合わせて、低い周波数および比較的高い周波数の両方で特に低い磁気損失を示すそのようなNO電磁鋼帯または鋼板を製造するためのプロセスが提供されることになっていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これらの目的は、
3.2~3.4のSi、
0.85~1.1のAl、
0.07~0.18のMn、
0.01~0.04のP、
0.0003~0.0030のS、
0.0005~0.0025のN、
0.0010~0.0050のC、
0.0015~0.0040のTi、
0.01~0.08のCr、
合計で最大0.05のNb+Mo+V、
総量が最大1.0重量%の残部Feおよび不可避不純物
という組成(いずれの数値も重量%単位)を有し、50℃で0.62~0.65μΩmの比電気抵抗を有する、本発明の無方向性電磁鋼帯または鋼板によって達成される。
【0011】
さらに、本発明の目的は、
(A)好ましくは連続鋳造プラントによる従来の製造経路によって、または薄スラブ製造によって、熱間圧延され、熱間鋼帯焼鈍された(hot strip annealed)無方向性電磁鋼帯または鋼板を1.5~2.5mmの厚さで提供するプロセス工程と、
(B)工程(A)から得られた電磁鋼帯または鋼板を0.255~0.31mmの厚さまで冷間圧延して、冷間圧延鋼帯を得るプロセス工程と、
(C)工程(B)から得られた冷間圧延鋼帯を最終熱処理して、無方向性電磁鋼帯または鋼板を得るプロセス工程と、
(D)特に70%を超える比較的高い水素含有量を含む非酸化性雰囲気中で、1K/s~10K/sの通常の平均冷却速度で、工程(C)から得られた最終熱処理された冷間圧延鋼帯を500℃の下限温度まで冷却するプロセス工程と、
を少なくとも含む、本発明による無方向性電磁鋼帯または鋼板を製造するためのプロセスであって、
工程(B)から得られた冷間圧延鋼帯が、工程(C)では、少なくとも40K/sの加熱速度で860~940℃、好ましくは880~920℃の温度に最初に加熱され、続いて、3~20K/sの加熱速度で1050~1070℃の温度に加熱されるプロセスによって、そのような電磁鋼帯または鋼板から製造された部品によって、ならびに回転電機の鉄心、特に、電気モータ、例えば、電動乗り物またはハイブリッド乗り物、および発電機にこの無方向性電磁鋼帯または鋼板を使用することによって達成される。
【0012】
本発明の無方向性電磁鋼帯または鋼板は、100~200A/mで改善された分極Jと、0.8~1.2Tの範囲で改善された透磁率とを有する。同時に、例えば50Hzの低周波数および400~1000Hzの高周波数の両方での磁気損失は、従来技術の材料と比較して低下する。この挙動は、本発明によれば、正確に適合された合金組成と、製造中の特別に適合された熱処理とによって達成される。
【0013】
本発明は、
3.20~3.40のSi、好ましくは3.25~3.35のSi、
0.85~1.1のAl、好ましくは0.95~1.05のAl、
0.07~0.18のMn、好ましくは0.14~0.16のMn、
0.01~0.04のP、好ましくは0.015~0.02のP、
0.0003~0.0030のS、好ましくは0.0005~0.002のS、
0.0005~0.0025のN、好ましくは0.001~0.002のN、
0.0010~0.0050のC、好ましくは0.0015~0.0025のC、
0.0015~0.0040のTi、好ましくは0.0017~0.0035のTi、
0.01~0.08のCr、好ましくは0.02~0.06、特に好ましくは0.02~0.04のCr、
合計で最大0.05のNb+Mo+V、
総量が最大1.0重量%の残部Feおよび不可避不純物
という組成(いずれの数値も重量%単位)を有し、50℃で0.62~0.65μΩmの比電気抵抗を有する無方向性電磁鋼帯または鋼板を提供する。
【0014】
本発明の目的では、不可避不純物は、例えば、C、S、N、Ti、Cr、Ni、Cu、As、PbおよびBiである。
【0015】
本発明の無方向性電磁鋼帯または鋼板は、50℃で0.62~0.65μΩmの比電気抵抗を有する。比電気抵抗を決定する方法は、それ自体当業者に公知である。例えば、DIN EN 60404-13:2008-05“Magnetic materials-part 13:Methods of measurement of resistivity,density and stacking factor of electrical steel strip and sheet”に準拠した4点測定によって比電気抵抗を決定する方法は、それ自体当業者に公知である。
【0016】
比電気抵抗が比較的高いと、周波数が高くなるにつれて生じる渦電流損失が低下することから、磁気損失が低下する。
【0017】
本発明の目的では、電磁鋼帯とは、本発明による材料が鋼帯の形態で存在すること、すなわち、鋼帯の長さが幅よりも著しく大きいことを意味する。本発明の目的では、電磁鋼板とは、本発明による材料が鋼板の形態で存在することを意味し、これらの鋼板の幅および長さは、それらがそこから好ましく得られる鋼帯の幅および長さによる以外は、サイズに関して制限されない。好ましい実施形態では、本発明の電磁鋼板は、切断またはスタンピングによって本発明の電磁鋼帯から得られる。本発明の電磁鋼板は、例えば、電気モータのステータまたはロータに使用するために適切な形状にすることができる。
【0018】
さらに、本発明は、C、S、NおよびTiの合計が0.0090重量%以下である、本発明による無方向性電磁鋼帯または鋼板を提供する。
【0019】
本発明による本発明の無方向性電磁鋼帯または鋼板は、0.255~0.31mmの最終厚さを有する。本発明の目的では、「最終厚さ」は、すなわち、後に例えば電気モータにも使用される形態である、冷間圧延後の無方向性電磁鋼帯または鋼板の厚さを意味する。
【0020】
本発明は、さらに好ましくは、本発明の無方向性電磁鋼帯または鋼板であって、その製造中に1050~1070℃、好ましくは1055~1065℃の最高温度で熱処理工程が行われる無方向性電磁鋼帯または鋼板を提供する。この特定の製造方法は、100~200A/mで改善された分極Jと、0.8~1.2Tの範囲で改善された透磁率とを有する対応する電磁鋼帯または鋼板を提供する。同時に、磁気損失は、従来技術の材料と比較して、例えば50Hzの低周波数および400~1000Hzの高周波数の両方で低下する。
【0021】
例えば、本発明は、1.5Tの分極P、および50Hzで、いずれの場合も0.280~0.310mmの鋼板厚さで2.3W/kg以下の損失値と、いずれの場合も0.255~0.280mmの鋼板厚さで2.2W/kg以下の損失値とを有する、本発明の無方向性電磁鋼帯または鋼板を提供する。
【0022】
本発明は、好ましくは、1.0Tの分極P、および400Hzで、いずれの場合も0.280~0.310mmの鋼板厚さで14.2W/kg以下の損失値と、いずれの場合も0.255~0.280mmの鋼板厚さで13.55W/kg以下の損失値とを有する、本発明による無方向性電磁鋼帯または鋼板を提供する。
【0023】
本発明は、好ましくは、1.0Tの分極P、および700Hzで、いずれの場合も0.280~0.310mmの鋼板厚さで33W/kg以下の損失値と、いずれの場合も0.255~0.280mmの鋼板厚さで31.5W/kg以下の損失値とを有する、本発明による無方向性電磁鋼帯または鋼板を提供する。
【0024】
本発明は、好ましくは、1.0Tの分極P、および1000Hzで、いずれの場合も0.280~0.310mmの鋼板厚さで58W/kg以下の損失値と、いずれの場合も0.255~0.280mmの鋼板厚さで55W/kg以下の損失値とを有する、本発明による無方向性電磁鋼帯または鋼板を提供する。
【0025】
さらに、本発明の無方向性電磁鋼帯または鋼板では、50Hzおよび100A/mでの分極Jと1Tおよび400Hzでの磁気損失Pとの比が、特に有利であり、すなわち高い。この比は、以下の式(1)によって表される:
100*J100A/m、50Hz/P1.0T、400Hz (1)
本発明は、好ましくは、50Hzおよび100A/mでの分極Jと1Tおよび400Hzでの磁気損失Pとの比の100倍が少なくとも6.8、好ましくは少なくとも7.0である、本発明による無方向性電磁鋼帯または鋼板を提供する。
【0026】
さらに、本発明による無方向性電磁鋼帯または鋼板では、400Hzおよび100A/mでの分極Jと1Tおよび400Hzでの磁気損失Pとの比の100倍が、有利であり、すなわち高い。この比は、以下の式(2)によって表される:
100*J100A/m 400Hz/P1.0T 400Hz (2)
本発明は、好ましくは、400Hzおよび100A/mでの分極Jと1Tおよび400Hzでの磁気損失Pとの比が少なくとも6.0、好ましくは少なくとも6.1である、本発明による無方向性電磁鋼帯または鋼板を提供する。
【0027】
さらに、本発明による無方向性電磁鋼帯または鋼板は、好ましくは、いずれの場合も0.280~0.310mmの鋼板厚さで、2500A/mの変調で少なくとも1.53T、5000A/mで少なくとも1.63および/または10000A/mで少なくとも1.75の分極Jと、いずれの場合も0.255~0.280mmの鋼板厚さで、2500A/mの変調で少なくとも1.52T、5000A/mで少なくとも1.62および/または10000A/mで少なくとも1.75の分極Jとを有する。
【0028】
本発明はまた、
(A)好ましくは連続鋳造プラントによる従来の製造経路によって、熱間圧延され、熱間鋼帯焼鈍された無方向性電磁鋼帯または鋼板を1.5~2.5mmの厚さで提供するプロセス工程と、
(B)工程(A)から得られた電磁鋼帯または鋼板を0.255~0.310mmの厚さまで冷間圧延して、冷間圧延鋼帯を得るプロセス工程と、
(C)工程(B)から得られた冷間圧延鋼帯を最終熱処理して、無方向性電磁鋼帯または鋼板を得るプロセス工程と、
(D)特に70%を超える比較的高い水素含有量を含む非酸化性雰囲気中で、1K/s~10K/sの通常の平均冷却速度で、工程(C)から得られた最終熱処理された冷間圧延鋼帯を500℃の下限温度まで冷却するプロセス工程と、
を少なくとも含む、本発明による無方向性電磁鋼帯または鋼板を製造するためのプロセスであって、
工程(B)から得られた冷間圧延鋼帯が、工程(C)では、少なくとも40K/sの加熱速度で860~940℃、好ましくは880~920℃の温度に最初に加熱され、続いて、3~20K/sの加熱速度で1050~1070℃、好ましくは1055~1065℃の温度に加熱されるプロセスを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明のプロセスの個々の工程を以下に詳細に説明する。
【0030】
本発明のプロセスの工程(A)は、好ましくは連続鋳造プラントによる従来の製造経路によって、または薄スラブ製造によって、熱間圧延された無方向性電磁鋼帯または鋼板を1.5~2.5mmの厚さで提供することを含む。
【0031】
本発明のプロセスの工程(A)で提供される熱間圧延された無方向性電磁鋼帯または鋼板は、上述の組成を有する。本発明のプロセスの工程(A)における熱間圧延された無方向性電磁鋼帯の提供は、好ましくは、連続鋳造プラントによる従来の製造経路によって、または薄スラブ製造によって行われる。
【0032】
本発明に従って提供される熱間圧延鋼帯の製造は、大部分は従来通りに行うことができる。この目的のために、本発明に従って規定された組成に対応する組成を有する鋼溶融物を最初に溶融および鋳造して、従来の製造の場合にはスラブまたは薄スラブであり得る中間材料を得ることができる。
【0033】
このように製造された中間材料を、続いて、1020~1300℃の中間材料温度にすることができる。この目的のために、中間材料は、必要に応じて再加熱されるか、鋳造の熱を利用してそれぞれの目標温度に維持される。
【0034】
次いで、このように加熱された中間材料を熱間圧延して、典型的には1.5~2.5mmの厚さを有する熱間圧延鋼帯を得ることができる。熱間圧延は、それ自体公知の方法で、1000~1150℃の仕上列の初期熱間圧延温度で開始し、700~920℃、特に780~850℃の最終熱間圧延温度で終了する。
【0035】
続いて、得られた熱間圧延鋼帯をリール温度まで冷却し、巻き取ってコイルを得ることができる。リール温度は、理想的には、続いて行われる冷間圧延時に問題が回避されるように選択される。実際には、リール温度は、この目的のために、例えば700℃以下である。
【0036】
工程(A)から得られた熱間圧延電磁鋼帯または鋼板は、本発明のプロセスの工程(B)で直接使用することができる。本発明のプロセスの好ましい実施形態では、本発明は、工程(A)の後の工程(A’)で、すなわち工程(B)の前に、ベル炉内での熱処理が700~800℃の温度、好ましくは720~760℃の温度で行われる、本発明によるプロセスを提供する。したがって、熱間圧延され、熱間鋼帯焼鈍された無方向性電磁鋼帯または鋼板は、好ましい実施形態では、工程(B)のために、好ましくは連続鋳造プラントによる従来の製造経路によって、または薄スラブ製造によって、1.5~2.5mmの厚さで提供される。
【0037】
本発明のプロセスの工程(B)は、工程(A)から得られた電磁鋼帯または鋼板を0.255~0.310mmの厚さまで冷間圧延して、冷間圧延鋼帯を得ることを含む。
【0038】
本発明のプロセスの工程(B)は、一般に、当業者に公知のあらゆる方法によって行うことができる。
【0039】
工程(B)から得られた冷間圧延鋼帯は、本発明のプロセスの工程(C)に直接移送することができる。
【0040】
本発明のプロセスの工程(C)は、工程(B)から得られた冷間圧延鋼帯を最終熱処理して無方向性電磁鋼帯または鋼板を得ることを含み、工程(B)から得られた冷間圧延鋼帯は、工程(C)では、少なくとも40K/sの加熱速度で860~940℃、好ましくは880~920℃の温度まで最初に加熱され、続いて3~20K/sの加熱速度で1050~1070℃、好ましくは1055~1065℃の温度まで加熱される。
【0041】
本発明のプロセスの工程(C)における最終熱処理は、言及した少なくとも2つのサブ工程を含み、追加の加熱および/または冷却工程を経ていてもよい。
【0042】
工程(B)から得られた冷間圧延鋼帯は、工程(C)では、少なくとも3~20K/sの加熱速度で860~940℃、好ましくは880~920℃の温度まで最初に加熱される。
【0043】
本発明のプロセスの工程(C)は、原則として、当業者に公知の任意の装置、特に連続炉、特に好ましくは横型連続炉内で行うことができる。
【0044】
本発明のプロセスの好ましい実施形態では、工程(C)は低い鋼帯張力で行われる。これは、熱処理工程中に冷間圧延鋼帯に小さな力しか加えられないため、長手方向および横方向の磁気損失の異方性が極めて低いままであるという利点を有する。したがって、本発明は、好ましくは、工程(C)が10N/mm以下の鋼帯張力で行われる、本発明のプロセスを提供する。
【0045】
本発明のプロセスの工程(C)は、好ましくは、還元雰囲気中で行われる。本発明のプロセスの工程(C)は、少なくとも70体積%、特に少なくとも85体積%の水素を含有する熱処理雰囲気中で行われることが特に好ましい。水素とは別に、窒素も熱処理雰囲気中に存在し得る。窒素は、表面の窒化の結果として、磁気特性の低下をもたらす。
【0046】
本発明のプロセスの工程(C)は、好ましくは低露点で行われる。本発明のプロセスの工程(C)は、好ましくは-10℃以下、特に好ましくは-20℃以下の露点で行われる。
【0047】
本発明のプロセスの工程(D)は、工程(C)から得られた最終熱処理された冷間圧延鋼帯を、1K/s~10K/sの通常の平均冷却速度で、特に70%を超える比較的高い割合の水素を含む非酸化性雰囲気中で、500℃の下限温度まで冷却することを含む。
【0048】
本発明のプロセスの工程(D)の後、本発明による無方向性電磁鋼帯は、原則として、記載された用途で使用することができる形態で存在する。工程(D)から得られた無方向性電磁鋼帯は、追加のプロセス工程、例えば、電磁鋼板の洗浄、巻取り、切断および/またはスタンピングなどに供されていてもよい。
【0049】
したがって、本発明はまた、適切な組成を有し、上述のようにプロセス工程(A)~(D)を少なくとも含む本発明によるプロセスで製造される、上述の本発明の無方向性電磁鋼帯または鋼板を提供する。
【0050】
本発明はまた、本発明による無方向性電磁鋼帯または鋼板から製造された電気用途向け部品、特に、回転電機の鉄心、特に、電気モータ、例えば、電動乗り物またはハイブリッド乗り物、および発電機を提供する。そのような部品を製造するための対応するプロセス、例えば、スタンピング、切断、レーザ切断、接着結合などは、それ自体当業者に公知である。
【0051】
本発明はまた、回転電機の鉄心、特に、電気モータ、例えば、電動乗り物またはハイブリッド乗り物、および発電機における、本発明による無方向性電磁鋼帯または鋼板の使用を提供する。
【0052】
本発明によれば、磁気損失Pは、当業者に公知のあらゆる方法によって、特にDIN EN 60404-2:2009-01:Magnetic material-part 2:Methods of measurement of the magnetic properties of electrical steel strip and sheet by means of an Epstein frame”に準拠した、特にエプスタインフレームによって、決定することができる。ここでは、適切な電磁鋼板を長手方向および横方向の鋼帯に切断し、エプスタインフレーム内の混合試験片として測定する。
【0053】
本明細書に記載の無方向性電磁鋼帯は、長手方向および横方向では、1.5Tおよび50Hzでの磁気損失値の異方性が20%未満である。
【0054】
[実施例]
以下の実施例は、本発明を説明するのに役立つ。使用した鋼組成を表1に示す。
【表1】
【0055】


本発明による実施例10~20および22~33、ならびに比較試験片V1~V9およびV21を製造した。この目的のために、表1による組成を溶融した後に、いずれの場合も得られたスラブを熱間圧延し、(場合により)熱間圧延鋼帯ベル炉熱処理に740℃で供し、酸洗した。続いて、この材料を0.255~0.310mmの最終厚さまで冷間圧延し(表2および表3を参照)、次いで、最終熱処理に供した。表2および表3に示す熱処理温度で、比較試験片V1~V9およびV21、ならびに本発明による実施例10~20および22~33を最終熱処理した。得られた厚さは、同様に表2および表3に示されている。
【0056】
いずれの場合も最終熱処理後の試験片について、特有の磁気特性、すなわちJ 100A/m 50Hz、J 100A/m 400Hz、J 2500A/m、J 5000A/m、J 10000A/m、P1.5T 50Hz、P1.0T 400Hz、P1.0T 700HzおよびP1.0T 1000Hzを決定した。さらに、以下の比を決定した:
100A/m、50Hz/P1.0T 400Hz (1)
100A/m 400Hz/P1.0T 400Hz (2)
【表2】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の無方向性電磁鋼帯または鋼板は、100~200A/mで改善された分極と、0.8~1.2Tで改善された透磁率と、同時に50Hzの低周波数および400~1000Hzの高周波数で低下した磁気損失とを示す。したがって、これは、回転電機、特に、電気モータおよび発電機に有利に使用することができる。