(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】車両用ディスクブレーキ
(51)【国際特許分類】
F16D 65/847 20060101AFI20241113BHJP
F16D 65/092 20060101ALI20241113BHJP
F16D 55/228 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
F16D65/847
F16D65/092 D
F16D55/228
(21)【出願番号】P 2021551696
(86)(22)【出願日】2020-10-08
(86)【国際出願番号】 JP2020038095
(87)【国際公開番号】W WO2021070892
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2023-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2019187275
(32)【優先日】2019-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019187276
(32)【優先日】2019-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【氏名又は名称】木戸 良彦
(72)【発明者】
【氏名】波多腰 弦一
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 裕昭
(72)【発明者】
【氏名】河田 俊介
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-149674(JP,A)
【文献】特開2007-192409(JP,A)
【文献】特開昭62-137434(JP,A)
【文献】実開昭62-122933(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2006/0266600(US,A1)
【文献】特開2009-257514(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0000735(US,A1)
【文献】特表昭58-501836(JP,A)
【文献】特開2003-336674(JP,A)
【文献】特開平09-203427(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 65/847
F16D 65/092
F16D 55/228
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクロータを挟んで対向配置され、ピストンを収容するシリンダ孔を備えた一対の作用部を、ディスクロータの外周を跨ぎ、天井開口部を備えたブリッジ部で連結して形成したキャリパボディと、前記ディスクロータを挟んで車体内側に配置される内側摩擦パッドと、車体外側に配置される外側摩擦パッドとを備え、前記内側摩擦パッド及び前記外側摩擦パッドは、金属製の裏板にライニングを取り付けてそれぞれ形成される車両用ディスクブレーキにおいて、
前記裏板に、前記天井開口部に挿入される放熱片を
一体に突設させたことを特徴とする車両用ディスクブレーキ。
【請求項2】
前記内側摩擦パッドの前記放熱片は、ディスク半径方向外側面が、前記天井開口部に配置され、前記ブリッジ部のディスク半径方向外側面より内側に収まる長さに形成されることを特徴とする請求項1記載の車両用ディスクブレーキ。
【請求項3】
前記外側摩擦パッドの前記放熱片は、ディスク半径方向外側面が、前記天井開口部よりもディスク半径方向外側に突出する長さに形成されることを特徴とする請求項1又は2記載の車両用ディスクブレーキ。
【請求項4】
前記天井開口部はブリッジ部のディスク周方向に複数形成され、前記放熱片は、前記天井開口部に応じて、複数形成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の車両用ディスクブレーキ。
【請求項5】
前記放熱片のディスク半径方向外側面は、前記内側摩擦パッド及び前記外側摩擦パッドを前記キャリパボディに組み付けた状態で、前記ブリッジ部のディスク半径方向外側面の形状に沿った形状に形成されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の車両用ディスクブレーキ。
【請求項6】
前記放熱片は、面取り部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の車両用ディスクブレーキ。
【請求項7】
一対の前記作用部は、ディスク周方向に複数の前記シリンダ孔がそれぞれ併設され、前記ブリッジ部は、車両前進時におけるディスク回入側に形成されるディスク回入側ブリッジ部と、車両前進時におけるディスク回出側に形成されるディスク回出側ブリッジ部と、前記ディスク回入側ブリッジ部と前記ディスク回出側ブリッジ部の中間部に形成される中間ブリッジ部とを有するとともに、前記中間ブリッジ部と前記ディスク回入側ブリッジ部との間、及び、前記中間ブリッジ部と前記ディスク回出側ブリッジ部との間に、前記天井開口部がそれぞれ設けられ、
少なくとも一方の前記作用部の、前記中間ブリッジ部の延長線上に、ディスク半径方向外側面とディスクロータ側面とに開口する通気孔を形成したことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の車両用ディスクブレーキ。
【請求項8】
併設された前記シリンダ孔にそれぞれ収容されるピストンと、前記裏板と、前記作用部のディスクロータ側面との間に通気空間部を備え、前記通気孔は、前記通気空間部に連通することを特徴とする請求項7記載の車両用ディスクブレーキ。
【請求項9】
前記作用部のディスクロータ側面に、ディスク半径方向内側端部から前記通気孔に亘る通気溝を形成したことを特徴とする請求項7又は8記載の車両用ディスクブレーキ。
【請求項10】
前記通気孔は、前記作用部のディスク半径方向外側面から前記ディスクロータ側面に向けて、ディスクロータの側面に対して鈍角に形成されることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項記載の車両用ディスクブレーキ。
【請求項11】
前記通気孔は、一対の前記作用部にそれぞれ形成されることを特徴とする請求項7乃至10のいずれか1項記載の車両用ディスクブレーキ。
【請求項12】
車体内側に配置される前記作用部に形成する前記通気孔は、車体外側に配置される前記作用部に形成する前記通気孔よりも大径に形成されることを特徴とする請求項11記載の車両用ディスクブレーキ。
【請求項13】
前記キャリパボディは、ディスク半径方向内側を車体前方に向けて車体に取り付けられることを特徴とする請求項7乃至12のいずれか1項記載の車両用ディスクブレーキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ディスクブレーキに関し、詳しくは、制動熱を外気に放熱する構造を備えた車両用ディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用ディスクブレーキでは、制動時に摩擦パッドのライニングとディスクロータとの摺接によって発生する制動熱によって、作動液の温度が上昇することを防止するために、裏板とライニングとの間に中板を配置し、裏板と中板との重接部に設けられる微細な間隙を介して、制動熱の放出を図ったものや(例えば、特許文献1参照。)、裏板とシム板との間に断熱効果のあるインシュレータを配置し、ピストンに制動熱が伝わらないようにしたものがあった(例えば、特許文献2参照。)。
【0003】
また、ディスクロータの外周を跨ぐブリッジ部から2分割して形成したキャリパ半体を締結ボルトで連結した分割型キャリパボディを備えた車両用ディスクブレーキでは、2分割したキャリパ半体の分割面に、通気孔を備えたスペーサを介装し、通気孔を介して、ディスクロータと摩擦パッドとの摺接部分に走行風を供給するとともに、ディスクロータと摩擦パッドとの摺接により発生する制動熱を外気に放出させ、作動液の温度が上昇することを防止するものがあった(例えば、特許文献3及び4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開平5-94541号公報
【文献】特許第4250117号公報
【文献】実公平6-50668号公報
【文献】特許第4318575号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、車両性能の向上に伴って制動エネルギーが増加することから、摩擦パッドのライニングを厚くする傾向にある。しかし、上述の特許文献1のものでは、裏板に中板を取り付けることから、裏板及び中板の厚さにより、ライニングの厚さを厚くし難かった。また、特許文献2のものでは、インシュレータやシム板は薄板で形成されることから、ライニングの厚さは確保しやすいものの、ピストンと裏板との間にインシュレータやシム板が介装されることにより、ブレーキフィーリングが低下する虞があった。
【0006】
また、上述の特許文献3のものは、部品点数が増加するとともに、キャリパボディの重量が増大する虞があった。さらに、特許文献4のものでは、摩擦パッドの裏板と、併設されたピストンとの間に形成された通気空間部を通る走行風が、キャリパボディのブリッジ部から外部に抜けて行かない虞があった。
【0007】
そこで本発明は、ライニングの厚さを確保し、ブレーキフィーリングを良好に保ちながら、ライニングとディスクロータとの摺接によって発生する制動熱を良好に外気に放出させることができる車両用ディスクブレーキを提供することを目的としている。さらに、分割型キャリパボディを備えた車両用ディスクブレーキにあっては、キャリパボディの軽量化を図りながら、摩擦パッドの裏板と併設されたピストンとの間に形成された通気空間部に走行風を供給するとともに、ディスクロータと摩擦パッドとの摺接により発生する制動熱を外気に放出させること目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の車両用ディスクブレーキは、ディスクロータを挟んで対向配置され、ピストンを収容するシリンダ孔を備えた一対の作用部を、ディスクロータの外周を跨ぎ、天井開口部を備えたブリッジ部で連結して形成したキャリパボディと、前記ディスクロータを挟んで車体内側に配置される内側摩擦パッドと、車体外側に配置される外側摩擦パッドとを備え、前記内側摩擦パッド及び前記外側摩擦パッドは、金属製の裏板にライニングを取り付けてそれぞれ形成される車両用ディスクブレーキにおいて、前記裏板に、前記天井開口部に挿入される放熱片を一体に突設させたことを特徴としている。
【0009】
また、前記内側摩擦パッドの前記放熱片は、ディスク半径方向外側面が、前記天井開口部に配置され、前記ブリッジ部のディスク半径方向外側面より内側に収まる長さに形成されると好ましい。
【0010】
さらに、前記外側摩擦パッドの前記放熱片は、ディスク半径方向外側面が、前記天井開口部よりもディスク半径方向外側に突出する長さに形成されると好ましい。
【0011】
また、前記天井開口部はブリッジ部のディスク周方向に複数形成され、前記放熱片は、前記天井開口部に応じて、複数形成されると好適である。
【0012】
さらに、前記放熱片のディスク半径方向外側面は、前記内側摩擦パッド及び前記外側摩擦パッドを前記キャリパボディに組み付けた状態で、前記ブリッジ部のディスク半径方向外側面の形状に沿った形状に形成されるとよい。
【0013】
また、前記放熱片は、面取り部が形成されていると好ましい。
【0014】
さらに、一対の前記作用部は、ディスク周方向に複数の前記シリンダ孔がそれぞれ併設され、前記ブリッジ部は、車両前進時におけるディスク回入側に形成されるディスク回入側ブリッジ部と、車両前進時におけるディスク回出側に形成されるディスク回出側ブリッジ部と、前記ディスク回入側ブリッジ部と前記ディスク回出側ブリッジ部の中間部に形成される中間ブリッジ部とを有するとともに、前記中間ブリッジ部と前記ディスク回入側ブリッジ部との間、及び、前記中間ブリッジ部と前記ディスク回出側ブリッジ部との間に、前記天井開口部がそれぞれ設けられ、少なくとも一方の前記作用部の、前記中間ブリッジ部の延長線上に、ディスク半径方向外側面とディスクロータ側面とに開口する通気孔を形成すると好適である。
【0015】
また、併設された前記シリンダ孔にそれぞれ収容されるピストンと、前記裏板と、前記作用部のディスクロータ側面との間に通気空間部を備え、前記通気孔は、前記通気空間部に連通するとよい。
【0016】
さらに、前記作用部のディスクロータ側面に、ディスク半径方向内側端部から前記通気孔に亘る通気溝を形成すると好ましい。
【0017】
前記通気孔は、前記作用部のディスク半径方向外側面から前記ディスクロータ側面に向けて、ディスクロータの側面に対して鈍角に形成されると好適である。
【0018】
前記通気孔は、一対の前記作用部にそれぞれ形成されると好ましい。
【0019】
車体内側に配置される前記作用部に形成する前記通気孔は、車体外側に配置される前記作用部に形成する前記通気孔よりも大径に形成されるとよい。
【0020】
前記キャリパボディは、ディスク半径方向内側を車体前方に向けて車体に取り付けられると好適である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の車両用ディスクブレーキによれば、天井開口部を介して裏板に形成した放熱片が外気に触れることから、制動熱を良好に外気に放出させることができる。また、放熱片が形成されることにより、放熱片を備えていない従来の摩擦パッドに比べ、裏板の板厚を厚くすることなく裏板の体積を増やすことができ、制動熱を吸収するための熱容量を確保することができる。
【0022】
また、内側摩擦パッドの放熱片は、ディスク半径方向外側面が天井開口部内に配置される長さに形成されることにより、摩擦パッドを組み付けたキャリパボディを車体に取り付ける際に、内側摩擦パッドの放熱片がホイール等の車体側の部材に干渉する虞がない。
【0023】
さらに、外側摩擦パッドの放熱片は、ディスク半径方向外側面が天井開口部よりもディスク半径方向外側に突出する長さに形成されることにより、放熱片の表面積を大きくして、放熱性の向上を図ることができる。また、裏板の板厚を厚くすることなく裏板の体積をさらに増やすことができ、制動熱を吸収するための熱容量を確保することができる。
【0024】
また、天井開口部をブリッジ部のディスク周方向に複数形成し、放熱片を天井開口部に応じて複数形成することにより、より放熱性の向上を図ることができる。さらに、裏板の板厚を厚くすることなく裏板の体積を良好に増やすことができ、制動熱を吸収するための熱容量を確保することができる。
【0025】
また、放熱片のディスク半径方向外側面を、内側摩擦パッド及び前記外側摩擦パッドを組み付けた状態で、ブリッジ部のディスク半径方向外側面の形状に沿った形状に形成することにより、摩擦パッドの着脱性を良好に保ちながら、放熱性の向上を図ることができるとともに、摩擦パッドをキャリパボディに組み付けた状態で、すっきりとした見栄えの外観とすることができる。
【0026】
さらに、放熱片に面取り部を形成したことにより、放熱片の表面積を増大させて放熱性を向上させるとともに、摩擦パッドの組付性の向上を図ることができる。
【0027】
また、一対の作用部は、ディスク周方向に複数のシリンダ孔を備え、ブリッジ部は、ディスク回入側ブリッジ部と、ディスク回出側ブリッジ部と、中間ブリッジ部とを有するとともに、中間ブリッジ部とディスク回入側ブリッジ部との間、及び、中間ブリッジ部とディスク回出側ブリッジ部との間に、天井開口部がそれぞれ設けられ、少なくとも一方の作用部の、中間ブリッジ部の延長線上に、ディスク半径方向外側面とディスクロータ側面とに開口する通気孔を形成したことにより、分割型のキャリパボディやモノコック構造のキャリパボディ等、キャリパボディの構造タイプに関わらず、通気孔により、外気を導入してディスクブレーキを冷却することができる。さらに、通気孔を介して制動熱を外気に放出することができ、作動液の温度が上昇することを防止できる。また、中間ブリッジ部の延長線上に位置する各作用部の周囲は、制動時に掛かる応力が他の部分に比べて低いことから、通気孔を作用部の中間ブリッジ部の延長線上に形成してもキャリパボディの剛性を確保することができ、さらに、キャリパボディの軽量化を図ることができる。
【0028】
さらに、併設されたピストンと、内側摩擦パッドの裏板又は外側摩擦パッドの裏板と、作用部のディスクロータ側面との間に形成される通気空間部を、通気孔に連通させたことにより、走行風を通気空間部に導入して、通気空間部を良好に冷却することができるとともに、通気孔を介して通気空間部の制動熱を良好に外気に放出させることができる。
【0029】
また、作用部のディスクロータ側面に、ディスク半径方向内側端部から通気孔に亘る通気溝をそれぞれ形成したことにより、通気溝及び通気孔を介して、走行風を、通気空間部に良好に導入することができるとともに、制動熱を外気に良好に放出させることができる。
【0030】
また、通気孔を、作用部のディスク半径方向外側面からディスクロータ側面に向けて、ディスクロータの側面に対して鈍角に形成することにより、通気空間部に導入される外気の流れや、制動熱を外気に放出させる制動熱の流れを良くすることができる。
【0031】
さらに、通気孔を一対の作用部にそれぞれ形成することにより、摩擦パッドとディスクロータとが摺接する部分に外気を導入して、より確実に冷却することができるとともに、制動熱を通気孔を介して、より確実に外気に放出させることができる。
【0032】
また、車体内側に配置される作用部に形成する通気孔を、車体外側に配置される作用部に形成した通気孔よりも大径に形成することにより、制動熱の籠もりやすい車体内側の摩擦パッドの裏板と、併設されたピストンとの間に形成された通気空間部に外気を良好に導入することができるとともに、籠もった制動熱を外気に良好に放出させることができる。
【0033】
さらに、キャリパボディは、ディスク半径方向内側を車体前方に向けて車体に取り付けることにより、走行風をより効果的に通気空間部に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の一形態例を示す車両用ディスクブレーキの正面図である。
【
図2】同じく車両用ディスクブレーキの平面図である。
【
図3】同じく車両用ディスクブレーキの底面図である。
【
図4】同じく車両用ディスクブレーキの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1乃至
図8は本発明の車両用ディスクブレーキの一形態例を示す図である。なお、矢印Aは、車両前進時に車輪と一体に回転するディスクロータの回転方向であり、以下で述べるディスク回出側及びディスク回入側とは車両前進時におけるものとする。さらに、矢印Bは、車体前方を示す。
【0036】
本形態例の車両用ディスクブレーキ1は、車輪と一体に回転するディスクロータ2と、該ディスクロータ2の一側部で車体に取り付けられるモノコック構造ピストン対向型のキャリパボディ3と、ディスクロータ2の両側部に配設されるキャリパボディ3の作用部3a,3b間に、ディスクロータ2を挟んで対向配置される内側摩擦パッド4及び外側摩擦パッド5とを備えている。
【0037】
キャリパボディ3は、一対の作用部3a,3bと、これら一対の作用部3a,3bをディスク外周側で跨ぐブリッジ部3cとを一体に備え、ブリッジ部3cは、ディスク回入側ブリッジ部3dと、ディスク回出側ブリッジ部3eと、ディスク回入側ブリッジ部3dとディスク回出側ブリッジ部3eとの間に設けられる中間ブリッジ部3fとを有し、ディスク回入側ブリッジ部3dと中間ブリッジ部3fとの間には第1天井開口部3gが、ディスク回出側ブリッジ部3eと中間ブリッジ部3fとの間には第2天井開口部3hがそれぞれ形成されている。各作用部3a,3bには、ピストン6をそれぞれ収容するシリンダ孔3iが2個ずつ対向して設けられ、各ピストン6とシリンダ孔3iとの間には、液圧室7がそれぞれ画成されている。
【0038】
車体外側に配置される一方の作用部3aのディスク周方向両側部には、ディスク半径方向の取付ボス部3j,3jが形成され、各取付ボス部3jにはディスク半径方向の取付ボルト挿通孔3kがそれぞれ形成され、該取付ボルト挿通孔3kに挿通した取付ボルト(図示せず)を車体側に設けたキャリパ取付部にねじ込むことにより、キャリパボディ3が車体に取り付けられる。
【0039】
一方の作用部3aには、
図5に示されるように、外側摩擦パッド5を収容する摩擦パッド収容部8が形成され、該摩擦パッド収容部8は、第1天井開口部3gよりもキャリパボディ内側で、且つ、第1天井開口部3gよりもディスク回入側に形成される回入側トルク受け面8aと、第2天井開口部3hよりもキャリパボディ内側で、且つ、第2天井開口部3hよりもディスク回出側に形成される回出側トルク受け面8bと、外側摩擦パッド5のディスク半径方向内側面を支持するキャリパボディ3とは別体のパッド支持部材(図示せず)とを備えている。
【0040】
また、
図7及び
図3に示すように、一方の作用部3aには、中間ブリッジ部3fの延長線上に位置するディスク半径方向外側面3mとディスクロータ側面3nとに開口する第1通気孔9が形成され、該第1通気孔9は、ディスクロータ2の側面に対して鈍角に形成される。さらに、一方の作用部3aのディスクロータ側面3nには、シリンダ孔3i,3iの中間位置のディスク半径方向内側端部から第1通気孔9に亘る第1通気溝9aが形成され、該第1通気溝9aと第1通気孔9とを介して、走行風W1を、外側摩擦パッド5の裏板5bと、併設されたピストン6,6と、ディスクロータ側面3nとの間に形成される通気空間部E1に供給するとともに、制動熱を外気に放出する。
【0041】
車体内側に配置される他方の作用部3bは、
図6に示されるように、内側摩擦パッド4を収容する摩擦パッド収容部10が形成され、該摩擦パッド収容部10は、前記一方の作用部3aに形成した摩擦パッド収容部8と同様に、第1天井開口部3gよりもキャリパボディ内側で、且つ、第1天井開口部3gよりもディスク回入側に形成される回入側トルク受け面10aと、第2天井開口部3hよりもキャリパボディ内側で、且つ、第2天井開口部3hよりもディスク回出側に形成される回出側トルク受け面10bと、内側摩擦パッド4のディスク半径方向内側面を支持するキャリパボディ3とは別体のパッド支持部材(図示せず)とを備えている。
【0042】
また、
図7及び
図3に示されるように、他方の作用部3bには、中間ブリッジ部3fの延長線上に位置するディスク半径方向外側面3pとディスクロータ側面3qとに開口し、前記第1通気孔9よりも大径の第2通気孔11が形成され、該第2通気孔11は、ディスクロータ2の側面に対して鈍角に形成される。さらに、他方の作用部3bのディスクロータ側面3qには、シリンダ孔3i,3iの中間位置のディスク半径方向内側端部から第2通気孔11に亘る第2通気溝11aが形成され、該第2通気溝11aと第2通気孔11とを介して、走行風W1を、内側摩擦パッド4の裏板4bと、併設されたピストン6,6と、ディスクロータ側面3qとの間に形成される通気空間部E2に供給するとともに、制動熱を外気に放出する。さらに、ディスク回入側ブリッジ部3dのディスク半径方向外側面3rと、中間ブリッジ部3fのディスク半径方向外側面3sと、ディスク回出側ブリッジ部3eのディスク半径方向外側面3tとは、内側摩擦パッド4とディスクロータ2との摺接面の延長線上から、車体内側となる他方の作用部側に向けて、漸次、ディスク半径方向内側に緩やかに傾斜して形成されている。
【0043】
内側摩擦パッド4と外側摩擦パッド5は、ディスクロータ2の側面に摺接するライニング4a,5aと、該ライニング4a,5aを貼着又は焼結して取り付ける金属製の裏板4b,5bとから成っている。裏板4b,5bのディスク半径方向外側には、ディスク半径方向外側に突出し、第1天井開口部3gと第2天井開口部3hとに挿入される一対の放熱片4c,4d,5c,5dがそれぞれ一体に突設されている。
【0044】
図6に示されるように、内側摩擦パッド4のディスク回入側の放熱片4cは、内側摩擦パッド4をキャリパボディ3に組み付けた状態で、ディスク半径方向外側面4eが第1天井開口部3gに配置され、他方の作用部側のディスク半径方向外側面3r,3sよりも内側に収まる長さに形成されるとともに、ディスク半径方向外側面4eの形状は、他方の作用部側のディスク半径方向外側面3r,3sの形状に沿った形状に形成され、回出側から回入側に向けて、漸次、ディスク半径方向内側に傾斜して形成される。内側摩擦パッド4のディスク回出側の放熱片4dは、内側摩擦パッド4をキャリパボディ3に組み付けた状態で、ディスク半径方向外側面4fが第2天井開口部3hに配置され、他方の作用部側のディスク半径方向外側面3s,3tよりも内側に収まる長さに形成されるとともに、ディスク半径方向外側面4fの形状は、他方の作用部側のディスク半径方向外側面3s,3tの形状に沿った形状に形成され、回入側から回出側に向けて、漸次、ディスク半径方向内側に傾斜して形成される。また、双方の放熱片4c,4dは、ディスク回入側の角部と、ディスク回出側の角部と、ディスク回入側面と、ディスク回出側面とに、面取り部4gがそれぞれ形成されている。
【0045】
図1及び
図5に示されるように、外側摩擦パッド5のディスク回入側の放熱片5cは、外側摩擦パッド5をキャリパボディ3に組み付けた状態で、ディスク半径方向外側面5eが第1天井開口部3gに配置され、ディスク半径方向外側に突出する長さに形成されるとともに、ディスク半径方向外側面5eの形状は、一方の作用部側のディスク半径方向外側面3r,3sの形状に沿った形状に形成され、回出側から回入側に向けて、漸次、ディスク半径方向内側に傾斜して形成される。外側摩擦パッド5のディスク回出側の放熱片5dは、ディスク半径方向外側面5fが第2天井開口部3hに配置され、ディスク半径方向外側に突出する長さに形成されるとともに、ディスク半径方向外側面5fの形状は、一方の作用部側のディスク半径方向外側面3s,3tの形状に沿った形状に形成され、回入側から回出側に向けて、漸次、ディスク半径方向内側に傾斜して形成される。また、双方の放熱片5c,5dは、ディスク回入側の角部と、ディスク回出側の角部と、ディスク回入側面と、ディスク回出側面とに、面取り部5gが形成されている。
【0046】
本形態例の車両用ディスクブレーキ1は上述のように形成されることにより、第1天井開口部3g及び第2天井開口部3hを介して、内側摩擦パッド4及び外側摩擦パッド5に形成した放熱片4c,4d,5c,5dが外気に触れることから、制動時に内側摩擦パッド4及び外側摩擦パッド5とディスクロータ2との摺接で発生する制動熱を、良好に外気に放出させることができる。また、裏板4b,5bの板厚を厚くすることなく裏板4b,5bの体積を増やすことができ、制動熱を吸収するための熱容量を確保することができる。さらに、内側摩擦パッド4の放熱片4c,4dは、ディスク半径方向外側面4e,4fが第1天井開口部3g内、又は、第2天井開口部3h内に配置され、他方の作用部側のディスク半径方向外側面3r,3s,3tよりも内側に収まる長さに形成されることにより、内側摩擦パッド4及び外側摩擦パッド5を組み付けたキャリパボディ3を車体に取り付ける際に、内側摩擦パッド4の放熱片4c,4dがホイール等の車体側の部材に干渉する虞がない。さらに、外側摩擦パッド5の放熱片5c,5dは、ディスク半径方向外側面5e,5fが第1天井開口部3g、又は、第2天井開口部3hに配置されるとともに、ディスク半径方向外側に突出する長さに形成されていることから、放熱片5c,5dの表面積を大きくして放熱性の向上を図ることができ、また、制動熱を吸収するための熱容量を良好に確保することができる。
【0047】
また、放熱片4c,4d,5c,5dのディスク半径方向外側面4e,4f,5e,5fを、内側摩擦パッド4及び外側摩擦パッド5を組み付けた状態で、ディスク回入側ブリッジ部3dと中間ブリッジ部3fとディスク回出側ブリッジ部3eのディスク半径方向外側面3r,3s,3tの形状に沿った形状に形成することにより、内側摩擦パッド4及び外側摩擦パッド5のキャリパボディ3への着脱性を良好に保ちながら、放熱性の向上を図ることができる。さらに、内側摩擦パッド4,外側摩擦パッド5をキャリパボディ3に組み付けた状態で、すっきりとした見栄えの外観とすることができる。また、放熱片4c,4d,5c,5dに複数の面取り部4g,5gを形成したことにより、放熱片4c,4d,5c,5dの表面積を増大させて放熱性を向上させるとともに、摩擦パッドの組付性の向上を図ることができる。
【0048】
さらに、一方の作用部3aに設けられた第1通気溝9aと第1通気孔9、及び、他方の作用部3bに設けられた第2通気溝11aと第2通気孔11とを介して、走行風W1を内側摩擦パッド4の裏板4bと併設されたピストン6,6とディスクロータ側面3qとの間に形成された通気空間部E1、及び、外側摩擦パッド5の裏板5bと併設されたピストン6,6とディスクロータ側面3nとの間に形成された通気空間部E2とに供給するとともに、第1通気溝9aと第1通気孔9、及び、第2通気溝11aと第2通気孔11とを介して制動熱を外気に放出することができ、作動液の温度が上昇することを防止できる。また、中間ブリッジ部3fの延長線上に位置する各作用部3a,3bの周囲は、制動時に掛かる応力が他の部分に比べて低いことから、第1通気孔9と第2通気孔11とを形成してもキャリパボディ3の剛性を確保することができ、さらに、キャリパボディ3の軽量化を図ることができる。
【0049】
また、第1通気孔9及び第2通気孔11は、ディスクロータ2の側面に対して鈍角に形成されていることから、通気空間部E1及び通気空間部E2に導入される走行風W1の流れや、制動熱を外気に放出させる制動熱の流れを良くすることができる。さらに、車体内側に配置される他方の作用部3bに形成される第2通気孔11を、車体外側に配置される一方の作用部3aに形成した第1通気孔9よりも大径に形成することにより、制動熱の籠もりやすい通気空間部E2に走行風W1を良好に導入させることができるとともに、籠もった制動熱を外気に良好に放出させることができる。さらに、キャリパボディ3は、ディスク半径方向内側を車体前方に向けて車体に取り付けることにより、走行風W1をより効果的に通気空間部E1,E2に供給することができる。
【0050】
尚、本発明は、上述の形態例に限るものではなく、ディスクブレーキを搭載する車体に応じて、放熱片の長さは任意である。また、キャリパボディに形成する天井開口部の数は任意で、放熱片は天井開口部の数に応じて適宜形成すればよい。さらに、放熱片のディスク半径方向外側面を、内側摩擦パッド及び外側摩擦パッドをキャリパボディに組み付けた状態で、ブリッジ部のディスク半径方向外側面の形状に沿った形状に形成しなくてもよく、また、放熱片に面取り部を形成していなくてもよい。
【0051】
また、通気孔を一方の作用部のみに設けるものでも差し支えなく、さらに、通気孔のみを設け、通気溝を設けなくてもよい。また、通気孔の径は、キャリパボディを車体に取り付ける位置に応じて、適宜決定すればよく、車体外側の通気孔の径を車体内側の通気孔の径よりも大径にするものに限らない。さらに、本発明は、モノコック構造ピストン対向型のキャリパボディを用いたディスクブレーキに限らず、分割型キャリパボディを用いた車両用ディスクブレーキにも適用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1…車両用ディスクブレーキ、2…ディスクロータ、3…キャリパボディ、3a,3b…作用部、3c…ブリッジ部、3d…ディスク回入側ブリッジ部、3e…ディスク回出側ブリッジ部、3f…中間ブリッジ部、3g…第1天井開口部、3h…第2天井開口部、3i…シリンダ孔、3j…取付ボス部、3k…取付ボルト挿通孔、3m,3p,3r,3s,3t…ディスク半径方向外側面、3n,3q…ディスクロータ側面、4…内側摩擦パッド、4a…ライニング、4b…裏板、4c,4d…放熱片、4e,4f…ディスク半径方向外側面、4g…面取り部、5…外側摩擦パッド、5a…ライニング、5b…裏板、5c,5d…放熱片、5e,5f…ディスク半径方向外側面、5g…面取り部、6…ピストン、7…液圧室、8…摩擦パッド収容部、8a…回入側トルク受け面、8b…回出側トルク受け面、9…第1通気孔、9a…第1通気溝、10…摩擦パッド収容部、10a…回入側トルク受け面、10b…回出側トルク受け面、11…第2通気孔、11a…第2通気溝