(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】ダブルニット編地、その製造方法及びこれを含む衣類
(51)【国際特許分類】
D04B 1/00 20060101AFI20241113BHJP
D04B 1/14 20060101ALI20241113BHJP
D02G 3/04 20060101ALI20241113BHJP
D02G 1/02 20060101ALI20241113BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20241113BHJP
A41D 31/04 20190101ALI20241113BHJP
【FI】
D04B1/00 B
D04B1/14
D02G3/04
D02G1/02 101
A41D31/00 502C
A41D31/00 503D
A41D31/00 503G
A41D31/04 Z
(21)【出願番号】P 2022000427
(22)【出願日】2022-01-05
【審査請求日】2024-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】390018153
【氏名又は名称】日本毛織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】濱崎 聡
(72)【発明者】
【氏名】池田 潔
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-002495(JP,A)
【文献】特開2014-114512(JP,A)
【文献】特開2020-190044(JP,A)
【文献】実開平04-073991(JP,U)
【文献】米国特許第06006550(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B 1/00- 1/28
21/00-21/20
D02G 1/00- 3/48
A41D31/00-31/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リブ組織のダブルニット編地であって、
地糸は黒原着ポリエステルマルチフィラメント仮撚糸であり、
表側にループを形成する表糸1は黒原着ポリエステルマルチフィラメント仮撚糸、表糸2はポリエステルマルチフィラメント仮撚糸であり、
裏側にループを形成する裏糸は、獣毛繊維とポリエステル短繊維を含む実撚混紡紡績糸であることを特徴とするダブルニット編地。
【請求項2】
前記実撚混紡紡績糸のメートル番手は50~85番(繊度200~118decitex)である請求項1に記載のダブルニット編地。
【請求項3】
前記ダブルニット編地は反染めされている請求項1に記載のダブルニット編地。
【請求項4】
前記編地を100質量%としたとき、獣毛繊維の混率は5~25質量%である請求項1~
3のいずれか1項に記載のダブルニット編地。
【請求項5】
前記リブ組織のダブルニット編地は28ゲージ以上の丸編機で編成されている請求項1~
4のいずれか1項に記載のダブルニット編地。
【請求項6】
前記地糸と、表糸1と、表糸2と、裏糸2本は順番に配置している請求項1~5のいずれか1項に記載のダブルニット編地。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のダブルニット編地の製造方法であって、
前記地糸の黒原着ポリエステルマルチフィラメント仮撚糸、表糸1の黒原着ポリエステルマルチフィラメント仮撚糸、表糸2のポリエステルマルチフィラメント仮撚糸から選ばれる少なくとも一つの仮撚糸は、2段ヒーターで仮撚された糸である
ことを特徴とするダブルニット編地の製造方法。
【請求項8】
請求項1~
6のいずれか1項に記載のダブルニット編地を含む衣類。
【請求項9】
前記衣類は制服、ユニフォーム、学生服、ジャケット、詰襟服、ブレザー、スラックス、スカート又はアウター衣類である請求項8に記載の衣類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結束紡績糸を含むダブルニット編地、その製造方法及びこれを含む衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からアウター生地には織物が使われるのが一般的であった。織物は高密度織物に織製することが容易で、温かく、強度も高い特徴もある。近年、編地をアウター衣類にする提案がされている。編地は伸び率が高く、動作が楽で着心地が良く、糸と編地構成を工夫することにより、織物に近い物性が得られる。特許文献1にはポリエステル仮撚糸を主成分とし、耐摩耗強度の高い編地が提案されている。特許文献2にはポリエステル仮撚糸を主成分とし、耐摩耗強度の高い編地に撥水加工することが提案されている。特許文献3にはポリエステル仮撚糸を追撚して使用することが提案されている。特許文献4には特定の繊度のポリエステル仮撚糸を使用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-002495号公報
【文献】特開2020-084401号公報
【文献】特開2020-133085号公報
【文献】特開2021-139067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来技術は、獣毛繊維を含む紡績糸に問題があり、高ゲージの編機にかかりにくいという問題があった。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、獣毛繊維を含む紡績糸の混率の最適化を図り、高ゲージの編機にかかりやすいダブルニット編地、その製造方法及びこれを含む衣類を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のダブルニット編地は、リブ組織のダブルニット編地であって、地糸は黒原着ポリエステルマルチフィラメント仮撚糸であり、表側にループを形成する表糸1は黒原着ポリエステルマルチフィラメント仮撚糸、表糸2はポリエステルマルチフィラメント仮撚糸であり、裏側にループを形成する裏糸は、獣毛繊維とポリエステル短繊維を含む実撚混紡紡績糸であることを特徴とする。
【0007】
本発明のダブルニット編地の製造方法は、前記のダブルニット編地の製造方法であって、前記地糸の黒原着ポリエステルマルチフィラメント仮撚糸、表糸1の黒原着ポリエステルマルチフィラメント仮撚糸、表糸2のポリエステルマルチフィラメント仮撚糸から選ばれる少なくとも一つの仮撚糸は、2段ヒーターで仮撚された糸であることを特徴とする。
本発明の衣類は、前記のダブルニット編地を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のダブルニット編地は、リブ組織のダブルニット編地であって、地糸は黒原着ポリエステルマルチフィラメント仮撚糸であり、表側にループを形成する表糸1は黒原着ポリエステルマルチフィラメント仮撚糸、表糸2はポリエステルマルチフィラメント仮撚糸であり、裏側にループを形成する裏糸は、獣毛繊維とポリエステル短繊維を含む実撚混紡紡績糸であることにより、高ゲージ編機の工程通過性を向上できる。前記実撚混紡紡績糸は糸造が強固であることから、高ゲージ編機の工程通過性を向上でき、制服、ユニフォーム、学生服、ジャケット、詰襟服、ブレザー、スラックス、スカート又はアウター衣類などを効率よく生産できる。また、前記実撚混紡紡績糸は糸造が強固であることから、編地の構成糸として多数本配分できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態における編地の供給糸の順番と編み組織を示す模式的説明図である。
【
図2】
図2は本発明の一実施形態における編地の表面写真(倍率150倍)である。
【
図3】
図3は本発明の一実施形態における編地の裏面写真(倍率150倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のダブルニット編地は、リブ組織のダブルニット編地である。編糸は、ダイヤル針とシリンダー針の位置がずれているリブゲーティングで編まれる。本発明ではリブゲーティングで編まれる編組織をリブ組織と呼ぶ。リブ組織にするとより高い針密度で編み立てることができ、高密度の編地とすることができる。リブ組織とは、表目と裏目が縦方向に交互に配置され、あばら(rib)のような隆起(畔)が配列される編み組織である。
【0011】
リブ組織は地糸と、表側にループを形成する糸(表糸)と、裏側にループを形成する糸(裏糸)によって構成される。本発明は、下記の糸を使用する。
A 地糸は黒原着ポリエステルマルチフィラメント仮撚糸
B 表糸1は黒原着ポリエステルマルチフィラメント仮撚糸
C 表糸2はポリエステルマルチフィラメント仮撚糸
D 裏糸は、獣毛繊維とポリエステル短繊維を含む実撚混紡紡績糸
地糸及び表糸1に黒原着ポリエステルマルチフィラメント仮撚糸を使用すると、表面側の柄糸となり、全体を濃色に染めたときにも黒色がはっきりし、見栄えが良くなる。
【0012】
前記実撚混紡紡績糸は、獣毛繊維とポリエステル短繊維を含むリング紡績糸である。獣毛繊維とポリエステル短繊維の混紡割合は質量割合で90:10~10:90が好ましく、より好ましくは80:20~20:80であり、さらに好ましくは70:30~30:70であり、特に好ましくは60:40~40:60である。リング紡績糸の撚り数は、下記の式における撚り係数K=60~100が好ましい。
撚り係数K=t/√S、
但し、tは撚り数(回/メートル)、
Sはメートル番手
【0013】
前記実撚混紡紡績糸には、さらに制電繊維を加えてもよい。これにより、寒い時期の帯電防止ができる。制電繊維は、紡績糸に対して0.1~1質量%の範囲加えることが好ましく、更に好ましくは0.3~0.7質量%の範囲である。制電繊維は、例えばKBセーレン社製“ベルトロン”、クラレ社製“クラカーボ”、炭素繊維、金属繊維等がある。
【0014】
前記実撚混紡紡績糸に含まれるポリエステル短繊維は黒原着繊維としてもよい。これにより裏面側(肌側)の柄糸となり、全体を濃色に染めたときにも黒色がはっきりし、見栄えが良くなる。ポリエステル短繊維は、繊維長70~110mmにバイアスカットするのが好ましい。
【0015】
前記地糸の黒原着ポリエステルマルチフィラメント仮撚糸、表糸1の黒原着ポリエステルマルチフィラメント仮撚糸、及び表糸2はポリエステルマルチフィラメント仮撚糸から選ばれる少なくとも一つの仮撚糸は、2段ヒーターで仮撚された糸であるのが好ましい。これにより寸法安定性が高くなり、スナールの発生も低くなる。
【0016】
前記編地を100質量%としたとき、獣毛繊維の混率は5~25質量%であるのが好ましく、より好ましくは10~22質量%である。獣毛を含むと吸放湿性、消臭性が高く、着心地も良好となる。
【0017】
前記リブ組織のダブルニット編地は28ゲージ以上の丸編機で編成されているのが好ましい。28ゲージ以上の丸編機であれば高密度の編地とすることができる。中でも28ゲージ、32ゲージ、36ゲージの丸編機が好ましい。中でも36ゲージの丸編機は高密度編地に適している。ここで36ゲージとは、1インチに36本の編み針を有することをいう。
【0018】
本発明においては、前記地糸と、表糸1と、表糸2と、裏糸2本の本数は均等であるのが好ましい。例えば供給糸口が20個の場合、4種類の糸を均等にかつ順番に供給する。これにより均整な編地を形成できる。
【0019】
本発明の編地は、制服、ユニフォーム、学生服、ジャケット、詰襟服、ブレザー、スラックス、スカート又はアウター衣類等に有用である。本発明の編地は、撥水加工、吸水加工、吸水速乾加工、抗菌・抗ウィルス加工などの後加工をすることもできる。
【0020】
獣毛繊維は、羊の毛であるウール(メリノ・ウールの場合、繊維長30~150mm)、山羊の毛であるモヘヤ(繊維長100~300mm)、カシミヤ(繊維長40~90mm)ラクダの毛であるキャメル(繊維長50~70mm)、アルパカ(繊維長100~200mm)、ビキューナ(繊維長20~70mm)、ウサギの毛であるアンゴララビット(繊維長100~130mm)等を使用できる。このうち好ましいのは最も汎用性があるウールである。ウールと他の獣毛繊維とを混紡してもよい。
【0021】
前記実撚混紡紡績糸は、リング紡績機によって製造する。実撚りをかけるので、糸構造は強固となり、生地の摩擦強力及び抗ピリング性は低下しない。この実撚混紡紡績糸のメートル番手は50~85番(繊度200~118decitex)が好ましく、さらに好ましくは60~80番(繊度:167~125decitex)である。この範囲であれば、高密度編地に適している。この実撚混紡紡績糸は、芯にポリエステルマルチフィラメント糸を配置し、鞘に短繊維を配置した長短複合紡績糸であってもよい。
【0022】
本発明の編物の単位面積あたりの質量(目付)は150~400g/m2とするのがよい。好ましくは180~350g/m2、より好ましくは200~300g/m2である。前記範囲であれば、軽くて着心地の良い衣服とすることができる。
【0023】
次に本発明の芯鞘構造糸を製造するための装置と方法について図面を用いて説明する。以下の図面において、同一符号は同一物を示す。
図1は本発明の一実施形態における編地の供給糸の順番と編み組織を示す模式的説明図である。
図1において、各供給糸口F1~F20の下側が表側(外気側)であり、上側が裏側(肌側)である。地糸は表側と裏側にループを形成し、裏糸は裏側にループを形成し、表糸は表側にループを形成する。地糸(B)、裏糸(A)、裏糸(A、)表糸1(C)、表糸2(D)をこの順番に供給糸口に供給するのが好ましい。
図3は本発明の一実施形態における編地の表面写真(倍率150倍)である。
図4は本発明の一実施形態における編地の裏面写真(倍率150倍)である。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を用いてさらに具体的に説明する。本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
本発明の実施例における測定方法は、下記以外はJIS又は業界規格にしたがって測定した。
<製編性>
大口生産時の製編性について、下記の基準で評価した。
A:糸切れ少なく問題なく大口生産が可能
B:製編は可能であるが、糸切れが多く生産性に難あり
C:糸切れ多く、生産不可
【0025】
(実施例1)
1.使用繊維
(1)裏糸(A):実撚混紡紡績糸、メートル番手72番単糸(繊度139decitex)を使用した。混紡割合は、実撚混紡紡績糸を100質量%としたとき、ウール50質量%、ポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維50質量%であった。ウールの平均直径は21μm、平均繊維長80mmのメリノ種ウールを使用した。PET短繊維の繊度は3.3decitex、平均繊維長89mmのバイアスカット品を使用した。この実撚混紡紡績糸の撚り係数Kは81.3であった。
(2)地糸(B):ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント仮撚糸(黒原着糸)、総繊度84decitex、36フィラメント、2段ヒーター仮撚糸を使用した。
(3)表糸1(C):ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント仮撚糸(黒原着糸)、総繊度84decitex、36フィラメント、2段ヒーター仮撚糸を使用した。
(4)表糸2(D):ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント仮撚糸(酸化チタンを0.5質量%含むセミダル糸)、総繊度110decitex、48フィラメント、2段ヒーター仮撚糸を使用した。
2.編地の編成
福原精機36ゲージ、編口径33インチの丸編み機を用いて
図1に示す編み組織で編み立てた。供給糸は、地糸(B)、裏糸(A)、裏糸(A、)表糸1(C)、表糸2(D)をこの順番に供給糸口から供給した。
得られた編地は、分散染料(ポリエステル用)と含金染料(ウール用)を使用し、室温(25℃)から120℃まで40分かけて昇温し、120℃の熱水で40分間浸漬して濃紺に染色し、洗浄した。その後、撥水加工剤を使用して撥水加工した。撥水性はJIS L1092.7.2の規定に従い測定したところ初期4級であった。
【0026】
(実施例2)
後処理の撥水加工に変えて、抗菌・抗ウィルス加工処理をした。抗菌・抗ウィルス加工処理剤は、倉敷紡績社製、商品名”クレンゼ”を使用して加工処理した。
【0027】
(比較例1)
裏糸(A)として、ウール100%のリング紡績糸、メートル番手72番単糸を使用した以外は実施例1と同様に実施した。
【0028】
(比較例2)
裏糸(A)として、ウール100%のリング紡績糸、メートル番手90番単糸(繊度111decitex)を使用した以外は実施例1と同様に実施した。しかしこのウール100%リング紡績糸は36ゲージ、編口径33インチの丸編み機の編み針通過性が悪く、編み立てできなかった。製編性評価はCであった。
【0029】
(比較例3)
ウール混率19.5質量%、ポリエチレンテレフタレート(PET)黒原着短繊維3.3decitex、80質量%、制電繊維0.5質量%のリング紡績混紡糸メートル番手60番双糸を用いて、2/2綾組織織物を作成した。得られた織物は実施例1と同条件で染色した。
以上の結果をまとめて表1及び表2示す。
【0030】
【0031】
【0032】
表1及び表2から明らかなとおり、実施例1、2の編地は製編性が良好であった。この編地を学生服に縫製して着用試験をしたところ、織物に比べて伸縮性があり、動作もしやすく、透け感もなく、肘などの変質も少なく、家庭洗濯によるウォッシャブル性もよく、ノーアイロンで着用できた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の編地は、制服、ユニフォーム、学生服、ジャケット、詰襟服、ブレザー、スラックス、スカート又はアウター衣類等に好適である。