(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】カテーテル挿入器具、カテーテル装置
(51)【国際特許分類】
A61B 1/00 20060101AFI20241113BHJP
A61B 1/018 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
A61B1/00 650
A61B1/018 515
(21)【出願番号】P 2022156206
(22)【出願日】2022-09-29
【審査請求日】2023-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】594170727
【氏名又は名称】日本ライフライン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】吉川 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大川 靖洋
(72)【発明者】
【氏名】中神 一樹
【審査官】渡戸 正義
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-515305(JP,A)
【文献】特開2014-124264(JP,A)
【文献】特開2003-079565(JP,A)
【文献】特開2022-120311(JP,A)
【文献】特開2003-088496(JP,A)
【文献】特表2020-517408(JP,A)
【文献】特表2013-507229(JP,A)
【文献】特開2015-039599(JP,A)
【文献】国際公開第2021/146621(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00 - 1/32
A61M 25/00 - 25/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトの先端側に取り付けられ、当該シャフトの基端側から供給される流体によって拡張可能なバルーンと、当該バルーンの先端部と基端部の間の中間部の外周に巻かれ、当該中間部における前記バルーンの拡張を制限する拘束部材と、を備えるカテーテルを、弁が設けられる内視鏡の挿入口に挿入するためのカテーテル挿入器具であって、
その先端側において、前記拘束部材の外周の少なくとも一部を支持する拘束部材支持構造と、
前記拘束部材支持構造より基端側に設けられ、前記弁を保持する弁保持構造と、
を備えるカテーテル挿入器具。
【請求項2】
シャフトの先端側に取り付けられ、当該シャフトの基端側から供給される流体によって拡張可能なバルーンと、当該バルーンの先端部と基端部の間の中間部の外周に巻かれ、当該中間部における前記バルーンの拡張を制限する拘束部材と、を備えるカテーテルを、弁が設けられる内視鏡の挿入口に挿入するためのカテーテル挿入器具であって、
その先端側において、前記拘束部材の外周の少なくとも一部を支持する拘束部材支持構造を備え、
前記拘束部材支持構造の基端部には、
前記バルーンの表面から突出する前記拘束部材の基端部が接触
して引っ掛かりうる基端支持部が設けられる、
カテーテル挿入器具。
【請求項3】
挿入方向視において、前記基端支持部は、前記拘束部材支持構造の周方向の両側に設けられる、請求項2に記載のカテーテル挿入器具。
【請求項4】
シャフトの先端側に取り付けられ、当該シャフトの基端側から供給される流体によって拡張可能なバルーンと、当該バルーンの先端部と基端部の間の中間部の外周に巻かれ、当該中間部における前記バルーンの拡張を制限する拘束部材と、を備えるカテーテルを、弁が設けられる内視鏡の挿入口に挿入するためのカテーテル挿入器具であって、
その先端側において、前記拘束部材の外周の少なくとも一部を支持する拘束部材支持構造を備え、
前記シャフトにおける前記バルーンより基端側には突起が設けられ、
前記拘束部材支持構造より基端側には、前記拘束部材が前記拘束部材支持構造によって支持されている際に、
前記シャフトの表面から突出する前記突起の基端部が接触
して引っ掛かりうる突起支持部が設けられる、
カテーテル挿入器具。
【請求項5】
挿入方向視において、前記突起支持部の一部および前記拘束部材支持構造の一部は、互いに反対の周方向位置に設けられる、請求項4に記載のカテーテル挿入器具。
【請求項6】
前記突起支持部より先端側では前記カテーテルの外周の一部を覆い、前記突起支持部より基端側では前記カテーテルの外周の全部を覆う、請求項4に記載のカテーテル挿入器具。
【請求項7】
前記突起支持部より先端側に設けられ、当該突起支持部との間の範囲に前記弁を保持する弁保持構造を備える、請求項4に記載のカテーテル挿入器具。
【請求項8】
シャフトの先端側に取り付けられ、当該シャフトの基端側から供給される流体によって拡張可能なバルーンと、当該バルーンの先端部と基端部の間の中間部の外周に巻かれ、当該中間部における前記バルーンの拡張を制限する拘束部材と、を備えるカテーテルを、弁が設けられる内視鏡の挿入口に挿入するためのカテーテル挿入器具であって、
その先端側において、前記拘束部材の外周の少なくとも一部を支持する拘束部材支持構造を備え、
前記拘束部材支持構造は、前記拘束部材の外周を挟持する複数の挟持部を備える、
カテーテル挿入器具。
【請求項9】
弁が設けられる内視鏡の挿入口にカテーテルを挿入するためのカテーテル挿入器具であって、
先端側では前記カテーテルの外周の一部を覆い、基端側では前記カテーテルの外周の全部を覆
い、
前記先端側は、前記カテーテル挿入器具の中心軸に平行な断面によって割られた構造を備える、
カテーテル挿入器具。
【請求項10】
シャフトの先端側に取り付けられ、当該シャフトの基端側から供給される流体によって拡張可能なバルーンと、当該バルーンの先端部と基端部の間の中間部の外周に巻かれ、当該中間部における前記バルーンの拡張を制限する拘束部材と、を備えるカテーテルと、
弁が設けられる内視鏡の挿入口に前記カテーテルを挿入するためのカテーテル挿入器具と、
を備え、
前記カテーテル挿入器具は、その先端側において、前記カテーテルの外周の一部を覆い、前記拘束部材の外周の一部を支持する拘束部材支持構造と、前記拘束部材支持構造より基端側に設けられ、前記弁を保持する弁保持構造と、を備える、
カテーテル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はカテーテル挿入器具等に関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテルは、検査や治療のために体内に挿入される医療用の管である。特に、体内で拡張可能なバルーンを備えるカテーテルはバルーンカテーテルと呼ばれ、血管、気管、消化管、総胆管、膵管等の体内の管状器官やそれらの接続部(出入口)、検査や治療のために体内に形成される孔(例えば胃や十二指腸球部から総胆管に穿刺される孔)等における被拡張部や狭窄部を拡張するために使用される。
【0003】
特許文献1では、狭窄部を確実に拡張するために、弾性を有するバンド部がバルーンの中間部の外周に設けられる。バルーンはバンド部の両側のショルダー部から拡張を開始し、両ショルダー部の間のバンド部がくびれたウエスト部を形成する。拡張対象の狭窄部は、先に拡張したショルダー部によって両側から支持されるため、ウエスト部に面した位置に留まることができる。この状態でバルーンが更に拡張すると、弾性変形して拡張するバンド部によって狭窄部が確実に拡張される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような狭窄部を拡張するためのバルーンカテーテルは、内視鏡の鉗子チャンネルを通じて目的部位の近くまで挿入されることもある。典型的な内視鏡におけるバルーンカテーテルの挿入口(鉗子チャンネルの入口)には、先端側または体内側からの体液等の逆流を防止するための逆止弁(逆流防止弁または鉗子栓とも表される)が設けられる。特許文献1のバルーンカテーテルを内視鏡の逆止弁に挿入する場合、バルーンの外周に設けられたバンド部が逆止弁に引っ掛かることで、位置ずれや脱落の恐れがある。
【0006】
本開示はこうした状況に鑑みてなされたものであり、カテーテルを効果的に内視鏡の挿入口の弁に挿入できるカテーテル挿入器具等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示のある態様のカテーテル挿入器具は、シャフトの先端側に取り付けられ、当該シャフトの基端側から供給される流体によって拡張可能なバルーンと、当該バルーンの先端部と基端部の間の中間部の外周に巻かれ、当該中間部におけるバルーンの拡張を制限する拘束部材と、を備えるカテーテルを、弁が設けられる内視鏡の挿入口に挿入するためのカテーテル挿入器具であって、その先端側において、拘束部材の外周の少なくとも一部を支持する拘束部材支持構造を備える。
【0008】
この態様では、カテーテル挿入器具の拘束部材支持構造によって、バルーンの外周に巻かれた拘束部材が支持されるため、カテーテルを内視鏡の挿入口の弁に挿入する際の拘束部材の位置ずれや脱落が効果的に防止される。
【0009】
本開示の別の態様も、カテーテル挿入器具である。このカテーテル挿入器具は、弁が設けられる内視鏡の挿入口にカテーテルを挿入するためのカテーテル挿入器具であって、先端側ではカテーテルの外周の一部を覆い、基端側ではカテーテルの外周の全部を覆う。
【0010】
この態様では、カテーテル挿入器具において内視鏡の挿入口の弁に挿入される先端側が、カテーテルの外周の一部のみを覆うことで、弁を通過する構造(カテーテル挿入器具の先端側およびカテーテル)の総断面積を低減できる。一般的に、内視鏡の弁を通過可能な構造のサイズ(総断面積)は限られているため、本態様によればカテーテル挿入器具およびカテーテルを容易に弁に挿入でき、弁の破損等のリスクも低減できる。また、本態様によれば、カテーテル挿入器具(先端側)の占める断面積を(基端側に比べて)小さくできるため、その分カテーテルを太く(断面積を大きく)することも可能になる。一方、カテーテル挿入器具の基端側は、カテーテルの外周の全部を覆うため、カテーテルがカテーテル挿入器具に確実に保持される。なお、本態様のカテーテル挿入器具は、バルーンカテーテルに限らない任意のカテーテルに使用できる。
【0011】
本開示の更に別の態様は、カテーテル装置である。この装置は、シャフトの先端側に取り付けられ、当該シャフトの基端側から供給される流体によって拡張可能なバルーンと、当該バルーンの先端部と基端部の間の中間部の外周に巻かれ、当該中間部におけるバルーンの拡張を制限する拘束部材と、を備えるカテーテルと、弁が設けられる内視鏡の挿入口にカテーテルを挿入するためのカテーテル挿入器具と、を備える。カテーテル挿入器具は、その先端側において、カテーテルの外周の一部を覆い、拘束部材の外周の一部を支持する拘束部材支持構造を備える。
【0012】
なお、以上の構成要素の任意の組合せや、これらの表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラム等に変換したものも、本開示に包含される。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、カテーテルを効果的に内視鏡の挿入口の弁に挿入できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】乳頭を拡張対象とするEPBDの概要を模式的に示す。
【
図2】本実施形態に係るバルーンカテーテルの外観を示す側面図である。
【
図3】本実施形態に係るバルーンカテーテルの外観を示す側面図である。
【
図4】本実施形態に係るバルーンカテーテルの断面図である。
【
図5】バルーンカテーテルを内視鏡の挿入口に挿入するためのカテーテル挿入器具を模式的に示す斜視図である。
【
図6】カテーテル挿入器具を使用してバルーンカテーテルを内視鏡の挿入口に挿入する際の様子を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態(以下では実施形態とも表す)について詳細に説明する。説明および/または図面においては、同一または同等の構成要素、部材、処理等に同一の符号を付して重複する説明を省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明の簡易化のために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施形態に記載される全ての特徴やそれらの組合せは、必ずしも本発明の本質的なものであるとは限らない。
【0016】
本開示に係るカテーテル挿入器具は、バルーンカテーテルに限らない任意のカテーテルに使用できる。また、バルーンカテーテルは、体内の任意の箇所の被拡張部や狭窄部(例えば、血管、気管、消化管、総胆管、膵管等の体内の管状器官やそれらの接続部、検査や治療のために体内に形成される孔)の拡張に使用できるが、本実施形態では、被拡張部としての乳頭(ファーター乳頭または十二指腸乳頭部)を拡張する内視鏡的乳頭バルーン拡張術(EPBD:endoscopic papillary balloon dilatation)あるいは内視鏡的乳頭大口径バルーン拡張術(EPLBD:endoscopic papillary large balloon dilation)を例に説明する。
【0017】
図1は、乳頭91を拡張対象とするEPBDの概要を模式的に示す。鉗子チャンネル11およびカメラ12を備える内視鏡10が、口から十二指腸90内に挿入されている。鉗子チャンネル11を通じて体内に挿入されるバルーンカテーテル1の管状のシャフト2の先端側(十二指腸90側または体内側)には、その基端側(口側または体外側)から供給される滅菌蒸留水や生理食塩水に適宜造影剤を混合した拡張流体によって拡張可能なバルーン3が取り付けられている。なお、検査や治療の目的に照らして適切な場合は、拡張流体としてその他の液体や空気等の気体を使用してもよい。
【0018】
検査や治療の目的部位またはそこに通じる経路としての総胆管92や膵管93の内部には、鉗子チャンネル11を通じて小径のガイドワイヤ6が予め挿入されている。十二指腸90と総胆管92および膵管93の間には被拡張部または開口部としての乳頭91が存在するが、その開口径に比べて十分に小径なガイドワイヤ6は乳頭91内を通過して総胆管92または膵管93の内部に進入できる。この際、内視鏡10およびバルーンカテーテル1の操作者は、内視鏡10の側面において乳頭91に対向するように配置されるカメラ12から得られる画像を確認しながら、ガイドワイヤ6を安全に乳頭91内に挿入できる。
【0019】
バルーンカテーテル1の管状のシャフト2の内部には、基端部から先端部まで貫通してガイドワイヤ6が挿通可能な長尺のワイヤルーメン(孔)が形成されている。ガイドワイヤ6が乳頭91を経由して総胆管92または膵管93の内部に挿入されている状態で、シャフト2のワイヤルーメンの先端部をガイドワイヤ6の体外側の基端部から挿入することによって、図示のようにガイドワイヤ6によって案内されるシャフト2の先端部のバルーン3が乳頭91に向かう。図示の状態から更にシャフト2をガイドワイヤ6に沿って進行させ、乳頭91の位置に到達したバルーン3を拡張流体によって拡張させて乳頭91を内側から押し広げる。このように、通常はオッディ括約筋(または胆膵管膨大部括約筋)によって狭窄されている乳頭91が広がるため、例えば総胆管92内にできた総胆管結石を乳頭91から効果的に取り出せる。
【0020】
乳頭91を拡張した後に不要になったバルーン3は、拡張流体を体外側に排出することで収縮され、鉗子チャンネル11を通じてシャフト2と共に体外に取り出される。このようにバルーンカテーテル1が体外に取り出された後、必要に応じて総胆管結石を乳頭91から十二指腸90内または体外に取り出す等の別の医療処置のための別の鉗子または胆道鏡等の医療器具が、拡張された乳頭91内に鉗子チャンネル11およびガイドワイヤ6を通じて挿入される。
【0021】
図2および
図3は、本実施形態に係るバルーンカテーテル1の外観を示す側面図である。これらの図において右側(体外側)から左側(体内側)に向かって体内に挿入される長尺の管状のシャフト2の体内側の先端部(左端部)にはバルーン3が取り付けられている。
図2は完全収縮状態にあるバルーン3を示し、
図3は完全収縮状態と完全拡張状態の間の一部拡張状態にあるバルーン3を示す。
【0022】
可撓性のシャフト2の基端側、具体的にはシャフト2のうちバルーン3が取り付けられない部分の断面は、
図2のA-A断面を示す
図4Aのように二つのルーメン、すなわち、バルーン拡張ルーメン21Aおよびワイヤルーメン22Aに区画されている。図示の例では、大径の略円状の拡張流体管21と、その内側に収納される小径の略円状のガイドワイヤ管22が、一体的に形成されている。バルーン拡張ルーメン21Aは、拡張流体管21の内周とガイドワイヤ管22の外周によって区画される空間であり、ワイヤルーメン22Aは、ガイドワイヤ管22の内周によって区画される空間である。
【0023】
バルーン拡張ルーメン21Aは、シャフト2の体外側の基端部(
図2および
図3の右端部)に設けられるマニホールド7のバルーン拡張ポート71と連通している。バルーン拡張ポート71を通じて給排される拡張流体は、バルーン拡張ルーメン21Aを介してバルーン3内との間で流通する。具体的には、バルーン拡張ポート71を通じて拡張流体が体内側に供給されると、バルーン拡張ルーメン21Aを介してバルーン3内に拡張流体が流入するためバルーン3が拡張する。また、バルーン拡張ポート71を通じて拡張流体が体外側に排出されると、バルーン拡張ルーメン21Aを介してバルーン3内から拡張流体が流出するためバルーン3が収縮する。
【0024】
図示は省略するが、バルーン拡張ルーメン21Aを形成する拡張流体管21は先細形状となっており、その小径の開口端がバルーン3の内部空間21Bに挿入されている。この開口端を通じて拡張流体管21(バルーン拡張ルーメン21A)は、バルーン3の内部空間21Bとの間で拡張流体を流通させる。バルーン3の内部空間21Bは、
図2または
図3のB-B断面、C-C断面、D-D断面をそれぞれ示す
図4B、
図4C、
図4Dにおいて、バルーン3の内周とガイドワイヤ管22の外周によって区画される空間として示されている。
【0025】
ワイヤルーメン22Aは、シャフト2の体外側の基端部(
図2および
図3の右端部)に設けられるマニホールド7のガイドワイヤポート72と連通している。また、ワイヤルーメン22Aを形成するガイドワイヤ管22は、バルーン3の内部空間21Bで終端する拡張流体管21と異なり、バルーン3の内部空間21Bを先端側(
図2および
図3の左端側)に貫通する。このように、バルーンカテーテル1の管状のシャフト2の内部には、基端部のガイドワイヤポート72から先端部の開口端221まで貫通して、ガイドワイヤ6が挿通可能な長尺のワイヤルーメン22Aが形成されている。
図1に関して前述したように、ガイドワイヤ6が乳頭91を経由して総胆管92または膵管93の内部に挿入されている状態で、ワイヤルーメン22Aの開口端221をガイドワイヤ6の体外側の基端部から挿入することによって、ガイドワイヤ6によって案内されるシャフト2の先端部のバルーン3が乳頭91に向かう。
【0026】
バルーン3の乳頭91に対する位置決めを確実に行うために、バルーン3内に供給される拡張流体に混合される造影剤や、好ましくはバルーン3の後述する中間部32の両端部(312、332)に対応する軸方向位置においてシャフト2(ガイドワイヤ管22)の外周に設けられる一対の造影マーカ222、223が利用される。EPBDの手技中に撮影されるX線等による造影画像によって、バルーン3の乳頭91に対する位置や、バルーン3の拡張の様子をリアルタイムで確認できる。
【0027】
図4Bや
図4Cに示されるように、バルーン3はシャフト2の先端部を構成するガイドワイヤ管22の外周に、折り畳まれた完全収縮状態で取り付けられる。なお、
図4Bおよび
図4Cでは、完全収縮状態にあるバルーン3の内周とガイドワイヤ管22の外周の間の内部空間21Bが誇張されているが、実際は無視できるほど小さい。このように、完全収縮状態にあるバルーン3の内周とガイドワイヤ管22の外周はほとんど隙間無く接触している。
【0028】
図3に示されるように、バルーン3は拡張態様または拡張形態の異なる三つの部分、すなわち先端から基端に向かう順に、先端側テーパ部31、中間部32、基端側テーパ部33を備える。先端側テーパ部31は、ガイドワイヤ管22の外周と略同径の先端部311から基端側の中間部32に向かって最大拡張径が大きくなるテーパ状に形成され、基端側テーパ部33は、ガイドワイヤ管22(および先細形状の拡張流体管21を合わせたシャフト2)の外周と略同径の基端部331から先端側の中間部32に向かって最大拡張径が大きくなるテーパ状に形成される。
【0029】
図示の例では、シャフト2の先端(開口端221)と基端(ガイドワイヤポート72)を結ぶ方向(以下では軸方向、挿入方向、長さ方向、左右方向とも表し、当該方向の寸法を長さとも表す)において、先端側テーパ部31の長さと基端側テーパ部33の長さが略等しいが、これらは有意に異なっていてもよい。また、図示の例では、軸方向に直交する任意の方向(以下では径方向、拡張方向、直交方向とも表し、当該方向の寸法を径や拡張径とも表す)において、先端部311と基端部331からそれぞれ等しい距離だけ軸方向に離れた点における先端側テーパ部31の拡張径と基端側テーパ部33の拡張径が略等しい(換言すれば、先端側テーパ部31と基端側テーパ部33の傾きが略等しい)が、これらは有意に異なっていてもよい。先端側テーパ部31の基端部312の最大拡張径と基端側テーパ部33の先端部332の最大拡張径が略等しい図示の例では、両部を軸方向に連結する中間部32が略一定の最大拡張径を有する直管部となる(但し、
図3では、後述する弾性バンド4のために中間部32がくびれ形状になっている)。
【0030】
図3や
図4Bに示されるように、中間部32の少なくとも一部の外周には拘束部材としての環状の弾性バンド4が巻かれており、中間部32におけるバルーン3の拡張を制限する。弾性バンド4は、ゴム等のエラストマその他の任意の弾性材料によって形成される。図示の例では、軸方向に一定の幅または長さを有する帯状の弾性バンド4が、中間部32の中央部322の外周に巻かれている。中間部32において中央部322より先端側の先端側直管部321は、弾性バンド4によって拡張が制限されないため、略一定の最大拡張径まで容易に拡張できる。同様に、中間部32において中央部322より基端側の基端側直管部323は、弾性バンド4によって拡張が制限されないため、略一定の最大拡張径まで容易に拡張できる。一方、中間部32の中央部322は、弾性バンド4によって拡張が制限されるため、バルーン3内(内部空間21B)の拡張流体の圧力が所定値未満(例えば2atm未満)の場合の拡張径は、容易に拡張できる先端側直管部321および基端側直管部323の拡張径より有意に(例えば20%以上)小さくなる。
【0031】
以上のようなバルーン3は、弾性バンド4によって、乳頭91(
図1)等の被拡張部に対して効果的に位置決めされる。例えば、ガイドワイヤ6(
図1)にガイドされて、中間部32または中央部322が乳頭91の位置に到達したバルーン3は、バルーン拡張ポート71を通じて供給される拡張流体によって拡張を開始する。
図3に示されるように、バルーン3のうち弾性バンド4が設けられない部分(具体的には、先端側テーパ部31、先端側直管部321、基端側直管部323、基端側テーパ部33)は、それぞれ容易に拡張できる。一方で、乳頭91付近の中央部322は、弾性バンド4によって拡張が制限される。この結果、バルーン3は、中間部32における中央部322がくびれ部となったくびれ形状に拡張する。
【0032】
くびれ部としての中央部322付近の乳頭91は、バルーン3において先に大きく拡張した両端部(特に、中央部322に隣接する先端側直管部321および基端側直管部323)によって両側から支持されるため、中央部322(くびれ部)に面した位置に留まれる。すなわち、バルーン3の中央部322(くびれ部)が、被拡張部としての乳頭91に対して確実に位置決めされる。更に、くびれ形状に拡張させたバルーン3内に、バルーン拡張ポート71およびバルーン拡張ルーメン21Aから拡張流体を継続的に供給すると、中央部322(くびれ部)が両端部に遅れて拡張することで被拡張部としての乳頭91が拡張される。この際、中央部322におけるくびれは、バルーン3の内部空間21Bの拡張流体の量および/または圧力の増加に応じて縮小し(低減され)、最終的には実質的に消失する(つまり、中間部32が実質的にくびれ部のない略直管状に拡張する。但し、乳頭91自体の最大拡張径が小さい場合は中央部322にくびれが残存しうる)。
【0033】
なお、以上では拘束部材として中間部32の外周の少なくとも一部(中央部322)を囲む環状および/または帯状の一つの弾性部材としての弾性バンド4を例示したが、拘束部材はこれに限定されない。例えば、拘束部材は、中間部32の外周の少なくとも一部に巻かれる複数の弾性リングでもよいし、中間部32の外周の少なくとも一部に螺旋状に巻かれるニッケルチタン合金(NiTi)製等のコイルスプリングでもよい。なお、これらの弾性部材は、拡張流体の圧力によって拡張する際に収縮方向への有意な弾性力を発生させる部材であれば十分であり、拡張流体が排出された後に完全に元の状態(径)に戻ることまでは要求されない。従って、拡張流体が排出された後に多少の変形(すなわち塑性変形)が弾性部材に残存してもよい。また、拘束部材は弾性を備えないまたは限られた弾性を備える部材でもよい。例えば、拡張するバルーン3によって塑性変形して拡張可能だが、一旦拡張した後は収縮できない金属製等の塑性部材を拘束部材として使用してもよい。また、実質的に変形不能であり、バルーン3内の拡張流体の圧力が所定値以上になると破断する剛性部材を拘束部材として使用してもよい。
【0034】
また、弾性部材または塑性部材としての拘束部材が所定の径まで弾性変形または塑性変形した後に、更にバルーン3内の拡張流体の圧力を高めると拘束部材が破断するようにしてもよい。このように拘束部材を失った中央部322は最大拡張径まで自動的に拡張するため、中間部32は全体として略一定の最大拡張径まで拡張した直管状となる。なお、次に説明する被覆部材5が塑性変形した塑性部材や破断した剛性部材を含む拘束部材を外周から被覆するため、拘束部材がバルーン3および/またはシャフト2から脱落することを防止できる。このように拘束部材の体内への脱落が防止されるため、医療用では一般的ではない材料によって拘束部材を形成することも可能になる。なお、X線を透過しない材料によって拘束部材(弾性バンド4等)を形成することによって、ガイドワイヤ管22の外周に設けられる造影マーカ222、223と同様の造影機能を拘束部材に持たせてもよい。
【0035】
被覆部材5は、バルーン3の中央部322では
図4Bに示されるように弾性バンド4の外周を被覆し、バルーン3のそれ以外の部分では
図4Cや
図4Dに示されるようにバルーン3の外周を被覆する。被覆部材5は、ポリウレタン等の任意の弾性材料によって形成される長尺管状の弾性チューブである。
図3において、被覆部材5(不図示)の先端部は、バルーン3の先端部311から先端側に延在するガイドワイヤ管22の外周を被覆した状態で、熱可塑性エラストマ製等の短尺の固着チューブ51によって固着される。また、被覆部材5の基端部は、バルーン3の基端部331から基端側に延在するシャフト2(拡張流体管21)の外周を被覆した状態で、熱可塑性エラストマ製等の短尺の固着チューブ52によって固着される。先端側の小径のガイドワイヤ管22と基端側の大径の拡張流体管21の径の違いのため、固着チューブ51の径は固着チューブ52の径より小さい。
図2に示されるように、固着チューブ52は、シャフト2におけるバルーン3より基端側に突起(以下では、突起52とも表す)を形成する。換言すれば、突起52は、それより先端側の小径部(小径のガイドワイヤ管22等によって構成される)と、それより基端側の大径部(大径の拡張流体管21等によって構成される)の間に段差を形成する。
【0036】
このように、弾性バンド4およびバルーン3より長い被覆部材5の両端部は弾性バンド4より先端側および基端側でシャフト2の外周に固定される。なお、被覆部材5は設けられなくてもよく、その場合は弾性バンド4およびバルーン3が外周に露出する。また、被覆部材5はバルーン3より短くてもよく、その両端部が弾性バンド4より先端側および基端側でバルーン3の外周に固定されてもよい。例えば、被覆部材5の両端部は、先端側テーパ部31および基端側テーパ部33の外周に固定されてもよいし、先端側直管部321および基端側直管部323の外周に固定されてもよい。また、バルーンカテーテル1においてバルーン3より先端側に、医療処置や測定等のための電極や、バルーンカテーテル1またはシャフト2の先端部を構成する先端チップ(開口端221が形成される部材)が設けられる場合があり、被覆部材5の先端部はこのような電極や先端チップの外周に固定されてもよい。
【0037】
これらの場合、被覆部材5は、弾性バンド4の外周と共に、当該弾性バンド4が巻かれていないバルーン3の外周も被覆するため、弾性バンド4その他の拘束部材のバルーン3からの脱落や位置ずれを防止できる。また、被覆部材5が、弾性バンド4およびバルーン3の外周と共に、当該バルーン3が取り付けられていないシャフト2の外周も被覆する場合、弾性バンド4その他の拘束部材のバルーン3およびシャフト2からの脱落や位置ずれを防止できるだけでなく、バルーンカテーテル1の取り出し時に被覆部材5の弾性によってバルーン3を効果的に収縮させられる。
【0038】
以上のように、被覆部材5は両端部においてシャフト2および/またはバルーン3の外周に固着されるが、両端部以外ではバルーン3および/または弾性バンド4の外周に固着されない。従って、
図4Bに示されるように被覆部材5によって外側から被覆される弾性バンド4は、被覆部材5の内周と接着されていない。同様に、弾性バンド4は、内側のバルーン3(中央部322)の外周と接着されていない。しかし、弾性バンド4は、被覆部材5の弾性によって外側からバルーン3に対して押圧されているため、所期の位置(中央部322)に留まることができ、バルーン3からの位置ずれや脱落が防止される。特許文献1ではバンド部がバルーンに溶着されていたが、本実施形態では弾性バンド4をバルーン3(および被覆部材5)に接着する必要がないため、バルーンカテーテル1を経済的に製造できる。また、特許文献1のようにバンド部がバルーンに溶着されていると、その溶着箇所においてバルーンおよびバンド部の所期の拡張が阻害される恐れがある。本実施形態では、弾性バンド4およびバルーン3が溶着または接着されていないため、それぞれが互いを阻害することなく所期の拡張を行うことができる。
【0039】
弾性を備える被覆部材5は、バルーン3が拡張していない
図2の状態では、バルーン3および/または弾性バンド4を外側から押圧することで、バルーン3を完全収縮状態に保持する。
図3に示されるように、バルーン3内(内部空間21B)に拡張流体が供給されて、バルーン3および/または弾性バンド4が拡張すると、それらに追従して被覆部材5が弾性変形して拡張する。
【0040】
バルーン3、弾性バンド4、被覆部材5の所期の拡張態様を実現するために、バルーン3は弾性バンド4より弾性率が大きく、弾性バンド4は被覆部材5より弾性率が大きく構成される。弾性率(ヤング率とも呼ばれる)は変形のしにくさを表すため、バルーン3は弾性バンド4より変形しにくく、弾性バンド4は被覆部材5より変形しにくい。すなわち、被覆部材5、弾性バンド4、バルーン3の順で変形しやすい。最も変形しやすい被覆部材5は、内側のバルーン3および/または弾性バンド4が拡張すると、それらに略完全に追従して拡張する。
【0041】
図5は、以上のようなバルーンカテーテル1を、内視鏡10の挿入口(鉗子チャンネル11の基端側の入口)に挿入するためのカテーテル挿入器具8を模式的に示す斜視図である。
図6は、カテーテル挿入器具8を使用してバルーンカテーテル1を内視鏡10の挿入口に挿入する際の様子を模式的に示す側面図である。以下では、主に
図5を参照しながらカテーテル挿入器具8の各部の構成について説明するが、バルーンカテーテル1の挿入態様に言及する際は
図6も併せて参照する。
【0042】
カテーテル挿入器具8は、ポリエチレン等の任意の材料によって形成される。挿入方向または軸方向に長尺のカテーテル挿入器具8の径方向の中央部には、バルーンカテーテル1のシャフト2および
図2のような収縮状態のバルーン3を挿通可能なカテーテル挿通路が挿入方向に形成されている。カテーテル挿入器具8の先端側の先端部81はカテーテル挿通路を通るバルーンカテーテル1(
図5では不図示)の外周の一部を覆い、基端側の基端部82は当該バルーンカテーテル1の外周の全部を覆う。先端部81および基端部82のそれぞれの挿入方向の長さは、以下で記述されるカテーテル挿入器具8の作用および/または効果の少なくとも一部を実現できる限り任意である。特に、カテーテル挿入器具8の作用および/または効果の多くを実現しうる先端部81の長さは自ずと制約が多いが、基端部82の長さは自由度が高い。そこで、基端部82を先端部81に比べて大幅に長くすることも可能である。この場合、カテーテル挿入器具8の長さの大半は基端部82によって占められる。
【0043】
ここで「外周の一部」とは、外周の0%より大きく100%より小さい任意の部分である。図示の例では、カテーテル挿入器具8の先端部81が、カテーテル挿通路を通るバルーンカテーテル1の外周の略半分(以下では便宜的に下半分または南半球とも表す)を囲む略半割構造(中心軸を含む断面によって管を略半分に割った構造)になっている。なお、例えば(全)管状の先端部81がカテーテル挿通路を通るバルーンカテーテル1の外周の全部を覆ってもよいし、例えば略半割構造の基端部82が当該バルーンカテーテル1の外周の一部を覆ってもよい。
【0044】
カテーテル挿入器具8の先端部81の先端側には、
図6に示されるように、カテーテル挿通路を通るバルーンカテーテル1の弾性バンド4等の拘束部材の外周の少なくとも一部を直接的または間接的に支持する拘束部材支持構造83が設けられる。なお、前述の例のように、弾性バンド4の外周が被覆部材5によって被覆される場合には、拘束部材支持構造83は、被覆部材5を介して間接的に弾性バンド4の外周を支持する。弾性バンド4を確実に保持するために、拘束部材支持構造83の挿入方向の長さは、弾性バンド4の挿入方向(軸方向)の長さより大きくするのが好ましい。但し、弾性バンド4の基端部が後述する基端支持部84によって支持されるため、拘束部材支持構造83の挿入方向の長さが弾性バンド4より小さくても、拘束部材支持構造83は基端支持部84と共に弾性バンド4を支持できる。前述の通り、図示の例における先端部81は全体的には略半割構造になっているが、拘束部材支持構造83は、挿入方向視(軸方向視)において、カテーテル挿通路を通るバルーンカテーテル1の外周の半分より小さい周方向範囲を覆う。すなわち、拘束部材支持構造83については、略半割構造になっていない。
【0045】
このように、略半割構造になっていない先端側の拘束部材支持構造83と、略半割構造になっている先端部81の基端側の残りの部分の間に、一種の段差が形成されて基端支持部84が構成される。拘束部材支持構造83の基端部に設けられる基端支持部84は、
図6に示されるように、弾性バンド4の基端部を基端側から支持する。具体的には、例えば
図2において収縮状態のバルーン3の表面から径方向に僅かに突出する弾性バンド4の基端部が、段差状の基端支持部84に引っ掛かることで基端側から支持される。先端部81の略半割構造の先端でもある基端支持部84は、挿入方向視において、略半割構造になっていない拘束部材支持構造83の周方向の両側に設けられる。すなわち、基端支持部84は、挿入方向視において、拘束部材支持構造83を周方向の両側に延長した構成となっている。
【0046】
カテーテル挿入器具8の先端部81の基端側には、
図6に示されるように、内視鏡10の挿入口に設けられる逆止弁等の弁13を基端側(厳密には、後述する突起支持部86との間)に保持する弁保持構造85が設けられる。具体的には、弁保持構造85は、略半割管状の先端部81の基端側において、その外周面から径方向に僅かに突出した突起である。このような突起状の弁保持構造85は、略半割管状の先端部81の外周の一部または全部を周方向に囲む部分環状(略半環状)に形成される。
図6に示されるように、カテーテル挿入器具8の先端部81が内視鏡10の挿入口の弁13に挿入された後、弁13(すなわち、内視鏡10全体)とカテーテル挿入器具8が挿入方向に大きく位置ずれしないように、弁保持構造85が後述する突起支持部86との間の限られた挿入方向範囲(軸方向範囲)に弁13を保持する。
【0047】
カテーテル挿入器具8の先端部81に設けられる拘束部材支持構造83、基端支持部84、弁保持構造85より基端側には、
図6に示されるように弾性バンド4等の拘束部材が拘束部材支持構造83(および基端支持部84)によって支持されている際に、
図2等にも示されるバルーンカテーテル1の突起52(固着チューブ52)を基端側から支持する突起支持部86が設けられる。突起支持部86は、略半割管状の先端部81と全管状の基端部82の境界部または連結部である。このため、カテーテル挿入器具8は、突起支持部86より先端側(先端部81)ではバルーンカテーテル1の外周の一部を覆い、突起支持部86より基端側(基端部82)ではバルーンカテーテル1の外周の全部を覆う。
【0048】
挿入方向視または軸方向視では、薄肉かつ小径(外径)の略半割管状の先端部81の外周を、厚肉かつ大径(外径)の全管状の基端部82が囲んでいる。そして、全管状の基端部82の略円環状の基端面のうち、挿入方向視において略半割管状の先端部81が存在しない残りの略半分(以下では便宜的に上半分または北半球とも表す)が、突起支持部86として実質的に機能する。このように、北半球側に設けられる突起支持部86と、南半球側に設けられる拘束部材支持構造83を含む先端部81は、挿入方向視において互いに反対の周方向位置に設けられる。このような突起支持部86は、
図6に示されるように、バルーンカテーテル1の突起52の基端部を基端側から支持する。具体的には、例えば
図2においてシャフト2の表面から径方向に僅かに突出する突起52の基端部が、段差状の突起支持部86に引っ掛かることで基端側から支持される。
【0049】
図6に示されるように、突起支持部86と拘束部材支持構造83の先端(すなわち、先端部81およびカテーテル挿入器具8の先端)の間の挿入方向(左右方向)の距離(すなわち、先端部81の全長)は、バルーンカテーテル1における弾性バンド4の先端と突起52の基端の間の軸方向(左右方向)の距離以上とするのが好ましい。
図6の例では、突起支持部86と拘束部材支持構造83の先端の間の距離が、弾性バンド4の先端と突起52の基端の間の距離と略等しくなっている。この場合、拘束部材支持構造83による弾性バンド4の軸方向の略全長の支持、基端支持部84による弾性バンド4の基端部の支持、突起支持部86による突起52の基端部の支持が同時に実現される。
【0050】
このような拘束部材支持構造83、基端支持部84、突起支持部86による同時支持によって、内視鏡10の弁13に挿入される際のバルーンカテーテル1が、カテーテル挿入器具8に対して図示の所期の位置および姿勢で確実に保持される。具体的には、バルーンカテーテル1とカテーテル挿入器具8の軸が略一致し、バルーンカテーテル1の各構成(特に、弾性バンド4および突起52)の軸方向位置が、カテーテル挿入器具8の対応する各構成(特に、弾性バンド4に対応する拘束部材支持構造83/基端支持部84および突起52に対応する突起支持部86)の軸方向位置に略一致する。
【0051】
仮に、内視鏡10の弁13に挿入される際のバルーンカテーテル1の弾性バンド4が、拘束部材支持構造83および基端支持部84から外れてしまった場合であっても、突起52が突起支持部86から受ける先端側への抗力によって、バルーンカテーテル1が突起52を中心として
図6における反時計回り方向に回転するトルクまたはモーメントが生じるため、弾性バンド4が自然に拘束部材支持構造83および基端支持部84に収まる。このように、バルーンカテーテル1を
図6の所期の状態に自動的に復帰させるトルクまたはモーメントが生じるのは、前述のように、突起支持部86と拘束部材支持構造83等が挿入方向視において互いに反対の周方向位置(すなわち、北半球側と南半球側)に設けられるためである。なお、以上と同様の作用および/または効果は、内視鏡10の弁13から抜去される際のバルーンカテーテル1でも実現される。
【0052】
なお、突起支持部86と拘束部材支持構造83の先端の間の距離は、弾性バンド4の先端と突起52の基端の間の距離より小さくてもよい。この場合、拘束部材支持構造83および基端支持部84によって弾性バンド4が支持されている際には、突起52は基端部82内にあって突起支持部86に接触して(支持されて)いない。同様に、突起支持部86と拘束部材支持構造83の先端の間の距離は、弾性バンド4の先端と突起52の基端の間の距離より大きくてもよい。この場合、拘束部材支持構造83および基端支持部84によって弾性バンド4が支持されている際には、突起52は突起支持部86より先端側にあって接触して(支持されて)いない。このような場合の突起支持部86は、バルーンカテーテル1の弁13への挿入時には無用であるが、後述するバルーンカテーテル1の弁13からの抜去時には依然として有用である。
【0053】
前述のように、カテーテル挿入器具8の先端部81がバルーンカテーテル1(特に、弾性バンド4)と共に内視鏡10の弁13に挿入された後、弁保持構造85と突起支持部86の間の限られた挿入方向範囲に弁13が保持される。弁保持構造85と突起支持部86の間の挿入方向距離は、弁13の軸方向の長さまたは厚さ以上であればよい。また、弁13には、カテーテル挿入器具8の小径の先端部81は通過できるが、大径の基端部82は通過できない大きさの不図示の挿入口が挿入方向に形成されている。このため、弁保持構造85より基端側の軸方向範囲にある弁13が、突起支持部86より基端側に移動することが効果的に防止される。なお、弁13は例えば逆止弁であり、鉗子チャンネル11内における先端側または体内側からの体液等の逆流を防止する。
【0054】
本実施形態によれば、
図6に示されるように、カテーテル挿入器具8の拘束部材支持構造83や基端支持部84によって、バルーンカテーテル1のバルーン3の外周に巻かれた弾性バンド4が支持されるため、カテーテル挿入器具8と共にバルーンカテーテル1を内視鏡10の挿入口の弁13に挿入する際の弾性バンド4や被覆部材5の位置ずれや脱落が効果的に防止される。
【0055】
また、本実施形態によれば、カテーテル挿入器具8において内視鏡10の挿入口の弁13に挿入される先端部81が、バルーンカテーテル1の外周の一部(南半球)のみを覆うことで、弁13を通過する構造(カテーテル挿入器具8の先端部81およびバルーンカテーテル1)の総断面積を低減できる。一般的に、内視鏡10の弁13を通過可能な構造のサイズ(総断面積)は限られているため、本実施形態によればカテーテル挿入器具8およびバルーンカテーテル1を容易に弁に挿入でき、弁13の破損等のリスクも低減できる。また、本実施形態によれば、先端部81の占める断面積を基端部82に比べて小さくできるため、その分バルーンカテーテル1を太く(断面積を大きく)することも可能になる。つまり、先端部81の断面積が減る分、バルーンカテーテル1の外径を大きく(太く)しても弁13に挿入できる。一方、カテーテル挿入器具8の基端部82は、バルーンカテーテル1の外周の全部を覆うため、バルーンカテーテル1がカテーテル挿入器具8に確実に保持される。なお、この効果は、バルーンカテーテル1に限らない任意のカテーテルで実現されうる。
【0056】
続いて、
図6を参照しながら、バルーンカテーテル1およびカテーテル挿入器具8の挿入時と抜去時の動作について説明する。
【0057】
バルーンカテーテル1の挿入時には、
図6に示されるように、弾性バンド4が拘束部材支持構造83および基端支持部84によって支持された状態で、バルーンカテーテル1およびカテーテル挿入器具8が一体的に内視鏡10の弁13に挿入される。特に弾性バンド4が弁13を通過する際、その外周を覆う拘束部材支持構造83が、弁13の挿入口と弾性バンド4の接触を低減する。また、弾性バンド4が弁13の挿入口を通過する際に、弁13から基端側への力を受けたとしても、基端支持部84によって基端側から支持されるため、軸方向の位置ずれが効果的に防止される。更に、
図6に示されるように、挿入時にも突起52が突起支持部86によって基端側から支持される構成の場合には、バルーンカテーテル1全体のカテーテル挿入器具8に対する軸方向の位置ずれが効果的に防止される。
【0058】
図6に示されるように、弾性バンド4が弁13を先端側に通過し、更に弁13が突起状の弁保持構造85を基端側に通過した後は、弁13が弁保持構造85と突起支持部86の間の限られた軸方向範囲に保持される。換言すれば、カテーテル挿入器具8と内視鏡10の軸方向の相対移動が当該軸方向範囲によって制限される。以降は、バルーンカテーテル1のシャフト2を先端側に送り出すと、カテーテル挿入器具8は実質的に軸方向に移動せず、
図1に関して前述したように、バルーンカテーテル1のみが軸方向(先端側)に移動する。以上のようなバルーンカテーテル1の挿入が完了した後(あるいは、弾性バンド4が弁13を通過した後)は、カテーテル挿入器具8のみが弁13から基端側に引き抜かれてもよいし、次に説明する抜去のためにカテーテル挿入器具8が
図6の状態に維持されてもよい。
【0059】
バルーンカテーテル1の抜去時には、バルーンカテーテル1のシャフト2を基端側に引き抜くことで、
図6に示される状態に戻る。この時、バルーンカテーテル1の突起52の基端部が段差状の突起支持部86に接触する。これに加えて、バルーン3と共に収縮状態に戻った弾性バンド4の基端部が段差状の基端支持部84に接触する可能性もある。この状態から更にシャフト2を基端側に引き抜くと、突起52と突起支持部86の係合によって、カテーテル挿入器具8もバルーンカテーテル1と一体的に基端側に引き抜かれる。このため、カテーテル挿入器具8の突起状の弁保持構造85が、内視鏡10の弁13を基端側に乗り越えられる。このように、挿入時と同様の
図6に示される状態のまま、バルーンカテーテル1とカテーテル挿入器具8が一体的に内視鏡10の弁13から抜去される。
【0060】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。例示としての実施形態における各構成要素や各処理の組合せには様々な変形例が可能であり、そのような変形例が本発明の範囲に含まれることは当業者にとって自明である。
【0061】
図7は、カテーテル挿入器具8の変形例を示す。
図5のカテーテル挿入器具8と同様の構成要素には同一の符号を付して重複する説明を省略する。このカテーテル挿入器具8は、先端部81だけでなく基端部82もバルーンカテーテル1(
図7では不図示)の外周の一部を覆う。このため、カテーテル挿入器具8の挿入方向の全長に亘って、外周の略半分(上半分または北半球)が開放されている。基端部82が全管状の
図5のカテーテル挿入器具8と異なり、バルーンカテーテル1がカテーテル挿入器具8の基端から軸方向に挿入される必要がなく、カテーテル挿入器具8の開放された北半球側から径方向に取り付けられる。このように、本変形例のカテーテル挿入器具8によれば、バルーンカテーテル1の北半球側からの着脱を容易にできる。また、本変形例のカテーテル挿入器具8の基端部82には、基端に向かって内径が広がる拡開部87が形成されている。このため、基端部82におけるバルーンカテーテル1の取付性または着脱性が向上する。
【0062】
更に、本変形例のカテーテル挿入器具8の拘束部材支持構造83は、弾性バンド4等の拘束部材の対向する複数の外周部分を挟持する複数の挟持部831、832を備える。また、複数の挟持部831、832の基端部の間の南半球側には、
図5のカテーテル挿入器具8の基端支持部84と同様に、弾性バンド4の基端部を基端側から支持する基端支持部84が設けられる。すなわち、挿入方向視では、下部(南極部分)に設けられる基端支持部84の両側に、二つの挟持部831、832が設けられる。
図6のようにバルーンカテーテル1とカテーテル挿入器具8を一体的に内視鏡10の弁13に挿入する際、弾性バンド4の対向する二つの外周部分が二つの挟持部831、832によって確実に支持され、更に弾性バンド4の基端部が基端支持部84によって確実に支持される。
【0063】
なお、実施形態で説明した各装置や各方法の構成、作用、機能は、ハードウェア資源またはソフトウェア資源によって、あるいは、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働によって実現できる。ハードウェア資源としては、例えば、プロセッサ、ROM、RAM、各種の集積回路を利用できる。ソフトウェア資源としては、例えば、オペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【符号の説明】
【0064】
1 バルーンカテーテル、2 シャフト、3 バルーン、4 弾性バンド、8 カテーテル挿入器具、10 内視鏡、11 鉗子チャンネル、13 弁、52 突起、81 先端部、82 基端部、83 拘束部材支持構造、84 基端支持部、85 弁保持構造、86 突起支持部、87 拡開部、91 乳頭、322 中央部、831、832 挟持部。