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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】バリア機能性組成物及び経口用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20241113BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20241113BHJP
   A23L 33/15 20160101ALI20241113BHJP
   A61K 8/33 20060101ALI20241113BHJP
   A61K 8/65 20060101ALI20241113BHJP
   A61K 8/67 20060101ALI20241113BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20241113BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20241113BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20241113BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
A23L33/105
A23L33/18
A23L33/15
A61K8/33
A61K8/65
A61K8/67
A61K8/49
A61K8/9789
A61Q19/00
A61Q19/08
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022184449
(22)【出願日】2022-11-17
(65)【公開番号】P2024073315
(43)【公開日】2024-05-29
【審査請求日】2022-12-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公益財団法人日本薬学会の「日本薬学会第142年会Web要旨集」で、タイトル「コラーゲンペプチド、ビタミンCおよびMelissa officinalis抽出物の複合配合による皮膚培養細胞に対するアンチエイジング効果の検討」を2022年3月4日に公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公益財団法人日本薬学会の「日本薬学会第142年会Web要旨集」で、タイトル「コラーゲンペプチド、ビタミンCおよびMelissa officinalis抽出物の経口摂取による肌状態改善効果の検討」を2022年3月4日に公開
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】324001723
【氏名又は名称】株式会社ディーエイチシー
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】行方(工藤) 倫子
(72)【発明者】
【氏名】中村(小林) 久美子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 あかね
(72)【発明者】
【氏名】福田(中島) 野枝
(72)【発明者】
【氏名】山浦 信明
(72)【発明者】
【氏名】影山 将克
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-202967(JP,A)
【文献】特開2012-110239(JP,A)
【文献】特開2004-238365(JP,A)
【文献】特開2017-128538(JP,A)
【文献】特開2009-242309(JP,A)
【文献】特開2022-167197(JP,A)
【文献】特開2017-075118(JP,A)
【文献】国際公開第2020/158912(WO,A1)
【文献】特開2017-101003(JP,A)
【文献】パーフェクトアスタコラーゲン ドリンク,Amazon.co.jp [online],2022年09月02日,<URL:https://www.amazon.co.jp/dp/B0BCJDNP2F?th=1>,[2024年01月17日検索]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/
A61K 8/
A61K 36/53
A61Q 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロスマリン酸もしくはロスマリン酸含有エキス、コラーゲンペプチド及びビタミンCを含有することを特徴とする、ヒト表皮角化細胞におけるFLGの遺伝子発現の促進用バリア機能性組成物。
【請求項2】
カフェ酸もしくはカフェ酸含有エキス、コラーゲンペプチド及びビタミンCを含有することを特徴とする、ヒト表皮角化細胞におけるFLGの遺伝子発現の促進用バリア機能性組成物。
【請求項3】
ヘスペレチン、ヘスペレチン含有エキス、ヘスペリジン及びヘスペリジン含有エキスからなる群のうち少なくとも1種、並びにコラーゲンペプチド及びビタミンCを含有することを特徴とする、ヒト表皮角化細胞におけるFLGの遺伝子発現の促進用バリア機能性組成物。
【請求項4】
ロスマリン酸もしくはロスマリン酸含有エキス、カフェ酸もしくはカフェ酸含有エキス、ヘスペレチンもしくはヘスペレチン含有エキス及びヘスペリジンもしくはヘスペリジン含有エキスからなる群のうち少なくとも2種、並びにコラーゲンペプチドとビタミンCを含有することを特徴とする、ヒト表皮角化細胞におけるFLGの遺伝子発現の促進用バリア機能性組成物。
【請求項5】
レモンバームエキス、コラーゲンペプチド及びビタミンCを含有することを特徴とする、ヒト表皮角化細胞におけるFLGの遺伝子発現の促進用バリア機能性組成物。
【請求項6】
経口で摂取できる請求項1乃至請求項5のうちいずれか一項に記載のバリア機能性組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリア機能性成分を有するバリア機能性組成物、該バリア機能性組成物を含有する経口用組成物(栄養補助食品)、及びバリア機能性組成物を有効成分として含有する食品に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明においてバリア機能とは皮膚のバリア機能を指し、乾燥によって体内の水分が皮膚外へ蒸発するのを防いだり、異物が肌に侵入するのを防いだりすることで、生体内の恒常性、すなわち皮膚内部環境を保つ大変重要な役割を持っている。これまでの研究では、表皮の角質層だけではなく、表皮顆粒層に存在するタイトジャンクション(Tight Junction)が皮膚のバリア機能に重要な役割を担うことが分かってきた。タイトジャンクションストランドの骨格を構成するのは細胞膜タンパク質のクローディン(Claudin)やオクルディン(Occludin)である。クローディンやオクルディンが減少したことにより、タイトジャンクションの構造が崩れ、物質の透過をバリアする機能が妨げられることで、乾燥肌、皮膚炎など様々な皮膚症状が現れることが知られている。
そして、クローディンやオクルディンの産生を促進することにより、顆粒層に存在する表皮角化細胞のタイトジャンクション形成が促されて皮膚のバリア機能及び水分保持機能が高まり、肌荒れや乾燥肌等の皮膚症状を予防又は改善することができると考えられる。クローディンは現在までに、ヒトやマウスにおいては27種類のファミリーが確認されている。
【0003】
また、天然保湿因子の主成分であるアミノ酸は、ケラトヒアリン顆粒に由来するフィラグリン(Filaggrin)が角質層内で分解されて産生される。このフィラグリンは、角質層直下の顆粒層に存在する表皮角化細胞でプロフィラグリンとして発現する。その後、直ちにリン酸化され、ケラトヒアリン顆粒に蓄積し、脱リン酸、加水分解を経てフィラグリンへと分解される。その後、フィラグリンは角質層に移行して、ケラチンフィラメントの凝集効率を高め、角質細胞の内部構築に関与することが報告されている。
近年、このフィラグリンが皮膚の水分保持に非常に重要かつ必要不可欠であること、及び乾燥などの条件によってフィラグリンの合成能が低下し、角質層におけるアミノ酸量が低下することが報告されている。
したがって、表皮角化細胞においてプロフィラグリンmRNAの発現促進を通じて、フィラグリンの合成を促進することによって角質層内のアミノ酸量を増大させ、角質層の水分環境を改善し、皮膚のバリア機能を強化することができると期待される。
【0004】
また真皮は表皮の内側にある組織で、水分以外の大部分はコラーゲン線維、エラスチン及びヒアルロン酸などのムコ多糖類並びに線維芽細胞で構成されている。肌のハリや弾力は、真皮のコラーゲン線維やエラスチン、ヒアルロン酸によって保たれている。
皮膚の中でも真皮の線維成分は90%を占めており、主に線維芽細胞が産生している。中でもI型コラーゲンは真皮を構成するコラーゲン線維の80%を占めている。ヒアルロン酸は皮膚真皮層では線維芽細胞の周辺空間に広く分布し、表皮層では密接に隣接した細胞間隙に局在し、真皮の線維芽細胞あるいは表皮の角化細胞で産生される。そのうちヒトのヒアルロン酸合成酵素(hyaluronan synthase,HAS)は3種類(HAS1,HAS2,HAS3)あるが、線維芽細胞では主にHAS2が発現していることが知られている。
【0005】
今までの研究では、様々な植物エキス(イラクサ葉の抽出物、オウゴン根の抽出物、シ
ソ葉の抽出物、メリッサ葉の抽出物、甘草葉の抽出物など)、植物を麹菌で発酵させた発酵液(ヨモギ属植物発酵液、タチジャコウソウ発酵液、コウスイハッカ発酵液など)や精油(ユーカリ油)が皮膚バリア機能を改善することが知られている(特許文献1、2、3、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-256244
【文献】特開2008-255051
【文献】特開2020-164486
【非特許文献】
【0007】
【文献】「ユーカリ油に表皮バリア機能を亢進する作用を解明」、https://www.rohto.co.jp/research/researchnews/technologyrelease/2021/0602_01/、2021年6月2日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
紫外線、乾燥、血行不良や栄養不足は肌の加齢を促進し、ハリや弾力、水分を失わせ、シワやたるみの原因となる。近年、アンチエイジングに注目した数多くの研究が進んでいる。しかしながら、新規素材と従来知られる美容成分との複合配合によって生じる促進効果の詳細については深く言及されていない。
【0009】
そこで本発明の目的は、皮膚バリア機能を高める成分を特定し、バリア機能性成分とコラーゲンペプチド及びビタミンCとの複合配合により肌のバリア機能に対して、相乗効果を発揮するバリア機能性組成物、該バリア機能性組成物を含有する経口用組成物又は食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討した結果、バリア機能性成分を特定し、少なくともコラーゲンペプチド及びビタミンCと組み合わせることにより、バリア機能性成分の効果、そしてレモンバームエキスのバリア機能をさらに向上させる方法を見出し、以下の発明を完成させた。
すなわち本発明は以下を包含する。
1.ロスマリン酸もしくはロスマリン酸含有エキス、コラーゲンペプチド及びビタミンCを含有するバリア機能性組成物に関する。
2.カフェ酸もしくはカフェ酸含有エキス、コラーゲンペプチド及びビタミンCを含有するバリア機能性組成物に関する。
3.ヘスペレチン、ヘスペレチン含有エキス、ヘスペリジン及びヘスペリジン含有エキスからなる群のうち少なくとも1種、並びにコラーゲンペプチド及びビタミンCを含有するバリア機能性組成物に関する。
4.ロスマリン酸もしくはロスマリン酸含有エキス、カフェ酸もしくはカフェ酸含有エキス、ヘスペレチンもしくはヘスペレチン含有エキス及びヘスペリジンもしくはヘスペリジン含有エキスからなる群のうち少なくとも2種、並びにコラーゲンペプチドとビタミンCを含有するバリア機能性組成物に関する。
5.レモンバームエキス、コラーゲンペプチド及びビタミンCを含有するバリア機能性組成物に関する。
6.前記1乃至前記5のうちいずれか一項に記載のバリア機能性組成物からなる経口用組成物に関する。
7.前記1乃至前記5のうちいずれか一項に記載のバリア機能性組成物を有効成分として含有する食品に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のバリア機能性組成物は、それ自体においてあるいはそれを含む食品又は経口用組成物において、生体内の内部環境を外部環境から隔絶し、生体内の恒常性を確保することができるという効果を発揮する。
より具体的には、下記の実施例より明らかなように、本発明のバリア機能性組成物は、ヒト皮膚線維芽細胞(Normal Human Dermal Fibroblasts:NHDF)においてコラーゲン量やヒアルロン酸量を増加させることで皮膚のシワ、弾力の改善に寄与し、また、同時に正常ヒト表皮角化細胞(Normal Human Epidermal Keratinocytes:NHEK)にも作用し、皮膚のバリア機能の強化、キメ改善、保湿の機能を有する。
さらに、バリア機能性組成物からなる経口用組成物又は該バリア機能性組成物を有効成分として含有する食品は、これらを摂取することにより、各成分が皮膚に対して総合的に働きかけ、コラーゲンの密度を上げ、肌水分量が増えることで自然老化によって低下した皮膚の構造を強化することができる。さらに皮膚粘弾性及びキメなどの各項目が大きく改善され、これによる表皮バリア機能の向上などさらなるアンチエイジング効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、NHEKにおける植物エキスのバリア機能効果を示す図である。AとBはそれぞれレモンバームエキスの添加によるFLG及びCLDN1の遺伝子発現の変化を示すグラフである。Cは甘草葉エキスの添加によるFLGの遺伝子発現の変化を示すグラフである。
図2図2は、NHEKにおけるバリア機能効果を有する植物(レモンバーム)エキス含有成分のバリア機能を検証する図である。A、B、C及びDはそれぞれロスマリン酸の添加、カフェ酸の添加、ヘスペレチンの添加、及びシナロシドの添加によるNHEKにおけるFLGの遺伝子発現の変化を示すグラフである。
図3図3は、NHEKにおけるバリア機能効果を有する植物(レモンバーム)エキス含有成分のバリア機能を検証するため、CLDN1の局在を示した免疫蛍光染色の写真である。白い矢印はCLDN1の局在を示す。
図4図4は、NHEKにおけるロスマリン酸、カフェ酸及びヘスペレチンのバリア機能の相乗効果を検証した図である。Aはロスマリン酸、及びロスマリン酸とコラーゲンペプチドとビタミンCの混合液によるFLGの遺伝子発現の変化を示すグラフである。Bはロスマリン酸、及びロスマリン酸とコラーゲンペプチドとビタミンCの混合液によるCLDN1の局在を示した免疫蛍光染色の写真である。白い矢印はCLDN1の局在を示す。C及びDはそれぞれカフェ酸、及びカフェ酸とコラーゲンペプチドとビタミンCの混合液によるFLGの遺伝子発現の変化、並びにヘスペレチン、及びヘスペレチンとコラーゲンペプチドとビタミンCの混合液によるFLGの遺伝子発現の変化を示すグラフである。
図5図5は、NHEKにおけるコラーゲンペプチド、ビタミンC、及びコラーゲンペプチドとビタミンCの混合液それぞれについてFLG及びCLDN1の遺伝子発現を示した図である。AはFLG、BはCLDN1の変化を示すグラフである。
図6図6は、NHEKにおけるコラーゲンペプチド、ビタミンC、及びコラーゲンペプチドとビタミンCの混合液それぞれによるCLDN1の局在を示した免疫蛍光染色の写真である。
図7図7は、NHEKにおけるレモンバームエキスによるバリア機能の相乗効果を検証した図である。Aはレモンバームエキス、及びレモンバームエキスとコラーゲンペプチドとビタミンCの混合液によるFLGの遺伝子発現の変化を示すグラフである。Bはレモンバームエキス、及びレモンバームエキスとコラーゲンペプチドとビタミンCの混合液によるCLDN1の局在を示した免疫蛍光染色の写真である。白い矢印はCLDN1の局在示す。
図8図8は、植物エキスによるバリア機能効果を検証した図である。AとBはそれぞれ甘草葉エキス、及び甘草葉エキスとコラーゲンペプチドとビタミンCの混合液によるFLGの遺伝子発現の変化、並びにユーカリ葉油、及びユーカリ葉油とコラーゲンペプチドとビタミンCの混合液によるFLGの遺伝子発現の変化を示すグラフである。
図9図9は、NHEKにおける植物エキスのバリア機能効果を検証するため、CLDN1の局在を示した免疫蛍光染色の写真である。白い矢印はCLDN1の局在を示す。
図10図10は、NHDFにおけるレモンバームエキスとコラーゲンペプチドとビタミンCの混合液によるI型コラーゲン産生能及びヒアルロン酸産生能を検証した図である。AとBはそれぞれ混合液によるCOL1A1及びHAS2の発現の増加を示すウエスタンブロッティングの結果である。
図11図11は、レモンバームエキスとコラーゲンペプチドとビタミンCの混合液による三次元皮膚モデルでの検証結果である。AとBはそれぞれFLG及びHAS3の遺伝子発現の変化を示すグラフである。Cはメラニン産生への影響を評価した目視観察写真及びメラニン含有量の定量グラフである。
図12図12は、レモンバームエキスとコラーゲンペプチドとビタミンCの混合液の経口摂取による肌状態改善を示した結果である。Aは経口摂取後0週間、2週間、4週間時点でのコラーゲン密度を表すグラフと、頬のコラーゲン密度画像である。Bはコルネオメーター(Corneometer、登録商標)による経口摂取後0週間、2週間、4週間時点での肌水分量の変化を表すグラフである。
図13図13は、レモンバームエキスとコラーゲンペプチドとビタミンCの混合液の経口摂取による肌状態改善を示した結果である。AとBはそれぞれ経口摂取後0週間、2週間、4週間時点での皮膚粘弾性を表すグラフと頬のキメを表す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、バリア機能性成分やレモンバームエキスと、コラーゲンペプチドとビタミンCとを含み、混合することにより肌のバリア機能に対して相乗効果を発揮するバリア機能性組成物、該バリア機能性組成物からなる経口用組成物及び該バリア機能性組成物を有効成分として含む食品を提供する。
以下、具体的に説明するが、本発明は、以下の具体的態様に限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で任意に変形することができる。
【0014】
[皮膚バリア機能を改善できる植物エキスの構成成分]
いくつかの植物エキスは皮膚バリア機能に関連する可能性があると言われている。発明者らはさらに、このようなバリア機能を有する植物エキスの成分について詳しく分析した。
本願発明の詳細な説明では、レモンバームエキスの構成成分について記載したが、同じ化合物であれば、その由来に限らず、同様の機能を発揮できる。
【0015】
レモンバームは、メリッサ、コウスイハッカとも呼ばれ、学名はMelissa officinalisであり、シソ科の多年生植物で、食品、飲料の香り付けや、ハーブや精油として民間医療に用いられてきた。鎮静、抗うつ、抗菌効果等があるとされるが、科学的な検証はほとんど進んでいない。そしてレモンバームエキスの作製に、原料として使用するレモンバームの部位は特に限定しない。例えば、葉、茎、根、花、果実、果皮、果核、全草、これらの混合物などが挙げられ、中でも、葉が好ましい。
【0016】
レモンバーム葉の抽出物(レモンバームエキス)には、ロスマリン酸、カフェ酸、ヘスペレチン、m-クマル酸、ナリンギン、ルテオリン、ヘスペリジン、ナリンゲニン、シナロシド、ピラカントシド等が含まれていることが知られ、その主要成分は、ロスマリン酸
(96.45±0.13mg/g)として同定された(LWT(2008)41,391-399、Planta Med.(1999) 65(6) 576-8)。
【0017】
ロスマリン酸
ロスマリン酸は、水溶性の天然フェノール酸化合物であり、ローズマリーやレモンバーム、シソなどのシソ科の植物に主に存在する。また、フリーラジカルによる細胞の損傷を防ぎ、がんや動脈硬化のリスクを軽減する強力な抗酸化活性を持つ天然の抗酸化物質であり、強力な抗炎症作用をもつため、薬学、食品、化粧品などの分野で重要な応用価値を示している。さらに、天然植物由来の機能性成分のため、健康志向を背景に可食性素材として注目されている。
【0018】
カフェ酸
カフェ酸は、コーヒー、ヒノキ、アーティチョーク、ハニーサックルなどのさまざまな植物に広く分布しているポリフェノールの一種である。リラックス効果や、抗がん作用、抗ウイルス・抗菌作用、抗酸化作用、脂質と血糖調節など薬理学的効果が認められている。
【0019】
ヘスペレチンとヘスペリジン
ヘスペレチンは、果物、花など植物に広く含まれている天然のフラボノイドである。抗酸化作用、抗がん作用、抗アレルギー作用、血中コレステロール値の改善などが期待されていて、医学、農学、食品など多くの分野で広く使用されている。ヘスペリジンは、ヘスペレチンのルチノース配糖体であり、ポリフェノールの一種に分類される。みかん等の柑橘類に多く含まれ、抗酸化作用や末梢血管の強化作用が知られている。
また、ヘスペレチンは主にヘスペリジンの加水分解に由来し、ヘスペリジンと同一の生理機能を有している。レモンバームエキスにおいてはヘスペレチンとヘスペリジンが両方含まれている。
【0020】
ルテオリンとシナロシド
ルテオリンはさまざまな植物に含まれる天然フラボノイドの一種である。尿酸値の上昇の抑制、抗酸化作用、抗ウイルス・抗菌作用、抗アレルギー作用、抗炎症作用などさまざまな薬理活性があるとされている。
シナロシドは、ルテオリン-7-O-グルコシドとも呼ばれ、ルテオリンのグルコース配糖体である。同じくフラボノイドの一種であり、抗酸化作用、抗ウイルス・抗菌作用がある。
【0021】
ナリンゲニン
ナリンゲニンはフラバノンに分類されるフラボノイド類の一種である。トマトやグレープフルーツ等の柑橘類を含むさまざまな果物やハーブに含まれていることが知られている。抗菌作用、抗ウイルス作用、抗炎症作用、抗酸化作用、抗がん作用などの効果があり、医療、食品、その他の分野で広く使用されている。
【0022】
[植物エキスのバリア機能の検証]
これまでの研究から正常ヒト表皮角化細胞において、クローディンがバリア機能に非常に重要であることが分かってきた。そしてフィラグリンは皮膚バリア機能に重要な役割を果たす角層に存在するタンパク質である。したがって、クローディンファミリーの1種であるクローディン1(CLDN1)及びフィラグリン(FLG)の遺伝子発現の変化を調べることにより、バリア機能に対する影響を評価することができる。
【0023】
例えば、図1で示されるように、NHEKではFLG及びCLDN1の遺伝子発現がレモンバームエキスの濃度依存的に亢進する様子がみられた。またバリア機能を有する植物
エキスとして知られる甘草葉エキスの添加によってもFLGの発現が確認されている。
【0024】
[バリア機能性成分]
レモンバームエキスに含まれるいくつかの成分について、バリア機能に作用するかを調べた。
図2はNHEKにおけるレモンバームエキス含有成分のバリア機能を検証した図である。ロスマリン酸、カフェ酸、ヘスペレチン、シナロシドの4種の添加により、FLGの遺伝子発現が増加したことを確認した。図3はNHEKにおけるレモンバームエキス含有成分のバリア機能を検証するため、免疫蛍光染色法にてCLDN1の局在を示した写真である。ロスマリン酸、カフェ酸、ナリンゲニン、ヘスペレチン、ルテオリンいずれにおいても、CLDN1の細胞膜への局在が確認できた。
よって、上記の成分はバリア機能に作用することが分かる。
【0025】
ここで、本発明において適用されるバリア機能性成分は典型的には、該成分を皮膚細胞に添加することにより細胞内FLGもしくはCLDN1の遺伝子発現の濃度依存的な亢進、又は免疫蛍光染色法でCLDN1の細胞膜への局在がみられるか否かで確認することができる。ロスマリン酸、カフェ酸、ナリンゲニン、ヘスペレチン、ルテオリン等の各成分は、本発明のバリア機能性成分に該当するものである。
【0026】
[バリア機能性組成物]
本発明のバリア機能性組成物は、上記バリア機能性成分に加えて、さらにコラーゲンペプチド及びビタミンCを少なくとも含有する。バリア機能性成分とコラーゲンペプチド及びビタミンCとの複合配合により、バリア機能の相乗効果が確認できる。
バリア機能の相乗効果は、例えば、バリア機能性成分のみの場合と対比して、バリア機能性成分とコラーゲンペプチドとビタミンCを含有する混合物は、CLDN1及びFLGの遺伝子発現で倍増する変化が現れる。
【0027】
[コラーゲンペプチド]
コラーゲンは、主に脊椎動物の真皮、靱帯、腱、骨、軟骨などを構成するタンパク質であり、ヒトの体内では少なくとも29種類の異なるコラーゲンが存在することが報告されている。2本のα1鎖と1本のα2鎖の計三本のポリペプチド鎖が3重らせん構造を形成したI型コラーゲンが体内に最も多い。本発明におけるコラーゲンは、いずれの種類のコラーゲンであってもよく、その由来も特に限定しないが、動物(牛、豚、鳥等)、魚類(ティラピア等)のコラーゲンが好ましい。
コラーゲンペプチドは、天然のコラーゲンを加水分解し、さらに状況に応じて酵素分解、酸分解又はアルカリ分解を加えて低分子化することにより得られる。また、合成により製造されたコラーゲンペプチドもある。本発明バリア機能性組成物に含まれるコラーゲンペプチドは、上記公知の方法によって製造可能である。好ましくは重量平均分子量が100~20000である。
【0028】
[ビタミンC]
ビタミンCは人間にとって必須の栄養素であり、最も広く使用されているビタミンの1つである。体の免疫力を高め、コラーゲンの合成、コレステロールの代謝に関与し、抗酸化などの作用もある。ビタミンCは体内で作ることができないため、新鮮な野菜や果物から摂取するか、栄養強化目的等で食品や飲料水に一般的に使用されている。天然由来または合成品(誘導体化されたものも含む)ビタミンCを使用することもできる。
【0029】
[バリア機能性組成物からなる経口用組成物]
本発明は、さらにバリア機能性組成物からなる経口用組成物を提供する。バリア機能の効果を阻害しない限り、上記バリア機能性組成物は、さらに他の栄養成分例えば、アミノ
酸類、糖類、タンパク質、脂肪酸類、ビタミン類、ミネラル類等、及び/又は健康食品素材を含むことが可能である。
【0030】
健康食品素材としては、ビタミンB誘導体、テアニン、γ-アミノ酪酸(GABA)、アンセリン、大豆ペプチド、チオレドキシン、小麦グルテン加水分解物、グルタミン、ミルクペプチド、ω-3脂肪酸(ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸など)、ホスファチジルセリン、アスタキサンチン、ピクノジェノール、フラバンジェノール、クレアチン、カルニチン、α-リポ酸、ポリフェノール類、緑茶カテキン、サポニン、N-アセチルグルコサミン、リグナン類(セサミンなど)、ハーブ類、生薬類、きのこ類、藻類、食物繊維、果汁及び果実粉末、乳酸菌、ビフィズス菌、麹菌、酵母などが挙げられる。これらは1種又は2種類以上適宜組み合わせて用いることが出来る。
【0031】
ハーブ類としては、例えばラフマ、エゾウコギ、ワサビ、イタリアンパセリ、エリキャンペーン、オリーブ、オレガノ、カールドン、カモミール、カレープラント、キャットニップ、キャラウェイ、クリスマスローズ、クリムソンクローバ、コーンフラワー、コモンマロウ、サラダバーネット、サントリナ、シナモン、ジャスミン、ステビア、セージ、セイヨウボダイジュ、センテッドゼラニウム、セントジョーンズワート、ソープワート、ソロモンズシール、タイム、タンジー、チャービル、チャイブ、ナスタチウム、ナツメ、バジル、ハニーサックル、ヒソップ、フラックス、フェンネル、フォックスグローブ、ブラックリーホーリーホック、フレンチマリーゴールド、ベトニー、ヘリオトロープ、ベルガモット、ヘンプアグリモニー、ヘンルーダ、ポットマリーゴールド、ボリジ、ホワイトホアハウンド、マートル、マーレイン、マジョラム、ミント、ヤロウ、ラベンダー、レディースベッドストロー、レモングラス、レモンバーベナ、ローズ、ローズマリー、ロケット、ワイルドストロベリー、ワイルドパンジー、ワスレナグサなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0032】
生薬類としては、例えばイチョウ、ウイキョウ、ウコン、カンゾウ、カンレンソウ、キキョウ、キクカ、キンギンカ、クコシ、クジン、ケイケットウ、ケイシ、ロホウボウなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0033】
きのこ類としては、マツタケ、マイタケ、シイタケ、エノキ、シメジ、エリンギ、ブナハリタケなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0034】
藻類としては、スピルリナ、クロレラ、ユーグレナなどの加工物(エキス、乾燥粉砕末、発酵物など)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0035】
食物繊維としては、難消化性デキストリン、マルトデキストリン、イソマルトデキストリン、乾燥おから、大豆食物繊維、リンゴ食物繊維などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0036】
果汁としては、オレンジ、マンゴー、グレープフルーツ、ぶどう、ピーチ、パイナップル、リンゴ、ザクロ、なし、いちご、アセロラ、キウイフルーツなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
果実粉末としては、バナナ粉末、マンゴー粉末、リンゴ粉末、キウイ粉末、クランベリー粉末、マルベリー粉末、ブルーベリー粉末、レモン果汁粉末、オレンジ果汁粉末、ピーチ果汁粉末、グレープフルーツ果汁粉末、パイナップル果汁粉末、ザクロ果汁粉末、アサイー粉末、アセロラパウダーなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0037】
乳酸菌は、その死菌、生菌、発酵物も含まれる。例えばエンテロコッカス・フェカリス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・アシドフィリス、ラクトバチルス・プラン
タラム、ラクトバチルス・パラカゼイ、ラクトバチルス・ラムノーサス、ラクトコッカス・ラクティス、ラクトバチルス・ブレビスなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
ビフィズス菌は、その死菌、生菌、発酵物も含まれる。例えば、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ロンガムなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
麹菌は、その死菌、生菌、発酵物も含まれる。例えば穀物麹が挙げられる。
酵母は、その死菌、生菌、発酵物、エキスも含まれる。
【0038】
本発明のバリア機能性組成物には、さらにビタミンB、ビタミンC、ビタミンE、それらの誘導体及び本願バリア機能性成分以外の抗酸化物質及び/又は抗酸化酵素を含有することができる。
抗酸化物質としては特に限定はされないが、例えば、プロブコール、リコペン、アスタキサンチン、カロテノイド類、フラボノイド類、ポリフェノール類、グルタチオン、セレンなどが挙げられる。これらは1種又は2種以上の混合物として使用してもよい。
【0039】
抗酸化酵素としては、特に限定はされないが、例えば、スーパーオキサイドディスムターゼ(SOD)、グルタチオンペルオキシダーゼ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、グルタチオン還元酵素、カタラーゼ、アスコルビン酸ペルオキシダーゼなどが挙げられる。これらは1種又は2種以上の混合物として使用してもよい。
【0040】
本発明のバリア機能性組成物からなる経口用組成物には、以上例示したような抗酸化物質、抗酸化酵素、健康食品素材を1種又は2種類以上適宜組み合わせて用いることが出来る。
【0041】
該経口用組成物の形態として、顆粒、粉末、カプセル及び錠剤形態が挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
本発明の経口用組成物におけるバリア機能性成分、コラーゲンペプチド、及びビタミンCの配合量について、例えば1日の摂取量当たり、1種のバリア機能性成分の配合量は0.01~700mgの範囲になるように、コラーゲンペプチドの配合量は100~20000mgの範囲になるように、ビタミンCの配合量は10~1000mgの範囲になるように配合する。
【0043】
本発明の経口用組成物におけるレモンバームエキス、コラーゲンペプチド、及びビタミンCの配合量について、例えば1日の摂取量当たり、レモンバームエキスの配合量は1~500mgの範囲になるように、コラーゲンペプチドの配合量は100~20000mgの範囲になるように、ビタミンCの配合量は10~1000mgの範囲になるように配合する。
【0044】
ビタミンCの成人1日の許容量は2000mgである。それに対して、バリア機能性成分、レモンバームエキス及びコラーゲンペプチドに許容量が設定されない。ビタミンCの1日の摂取量は許容量を超えない限り、服用回数は特に限定されないが、1日1回以下摂取するのが望ましい。
【0045】
[バリア機能性組成物を有効成分として含有する食品]
本発明のバリア機能性組成物を有効成分として含有する食品としては、バリア機能性組成物を食品としたもの又は食品に配合したものなどが挙げられ、一般食品の形態をとることができる。提供又は配合される食品の種類に特に制限はなく、例えば、ゼリー飲料、清涼飲料水、スープ、乳製品、調味料などの液状(流動状)食品や、米飯、パン、麺類、菓
子類などの固形状食品に配合することも可能である。用途に応じて、飲料、バー、顆粒、粉末、カプセル及び錠剤形態に成形して用いることができるが、これらに限定されない。
また、本発明の効果を阻害しない範囲において、必要に応じて、賦形剤、結着剤、増粘安定剤、乳化剤、着色料、香料、調味料、酸味料、甘味料等と適宜混合してもよい。
上記食品に対して、バリア機能性組成物又はレモンバームエキスの添加量は前記経口用組成物の配合量と同様である。ビタミンCの成人1日の許容量は2000mgであるが、バリア機能性成分及びコラーゲンペプチドに許容量が設定されない。
【実施例
【0046】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0047】
略記号:
pep:コラーゲンペプチド
VC:アスコルビン酸(ビタミンC)
LB:レモンバームエキス
甘草:甘草葉エキス
ユ:ユーカリ葉油
RA:ロスマリン酸
CA:カフェ酸
Hst:ヘスペレチン
【0048】
(レモンバームエキスの抽出)
レモンバームエキスの抽出物は、一般に植物の抽出に用いられている方法を利用し、抽出処理を施すことにより容易に得ることができる。抽出原料の形態としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、採取後直ちに乾燥し粉砕したものを用いるのが好ましい。抽出に用いる溶媒としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば水、有機溶媒、又はこれらの混合溶媒を室温又は溶媒の沸点以下の温度で用いることが好ましい。あるいは、例えばレモンバームエキスパウダーMF(丸善製薬株式会社)などの市販品を使用してもよい。
【0049】
(細胞培養)
細胞及び培地類は全てThermo Fisher Scientific社製を購入した。NHEKの培地はEpiLifeTM Medium, with 60 μl calciumにHuman Keratinocyte Growth Supplement(HKGS)を添加して用いた。NHDFの培地はMedium 106にLow Serum Growth Supplement(LSGS)を添加して用いた。いずれの細胞も37℃、5% COの条件下で培養した。
【0050】
(植物エキス処理、バリア機能性成分処理及びタンパク質抽出)
細胞は6ウェル培養プレートに1ウェルあたり1×10細胞を播種し、37℃、5%
COの条件下で一晩培養した。その後、所定濃度の植物エキスや有効成分を添加し、所定の条件下にて静置培養した。植物エキスや有効成分で処理し終わった細胞は、リン酸緩衝液で2回洗浄後、次の操作へ移行した。
タンパク質抽出は、抽出用緩衝液(25mM Tris-HCl(pH7.5)、150mM NaCl、1% NP-40、1% デオキシコール酸ナトリウム(sodiumdeoxycholate)、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)及びプロテアーゼ阻害剤により細胞を溶解させ、タンパク質抽出液を得た。
【0051】
(ウエスタンブロッティング)
タンパク質抽出液は、SDS-Polyacrylamide gel electrophoresis(SDS-PAGE)のために専用の緩衝液で希釈し、5分間95℃で煮沸した。得られた試料は、10%濃度のポリアクリルアミド(Polyacrylamide)を含むゲルを使用したSDS-PAGEにより分離し、さらにセミドライブロッター(Bio-Rad社製)を用いてPolyvinylidene difluoride膜(PVDF膜)に転写した。転写膜は5%スキムミルクを含むリン酸緩衝液中で1時間室温にてブロッキングを行った。その後PVDF膜は、Tween 20を含有するTris-Buffered Saline(TBS-T)にて3回洗浄し、所定の濃度に希釈したCOL1A1(ミリポア社製)またはHAS2(サンタクルーズバイオテクノロジー社製)の抗体を用いて4℃にて一晩反応させた。TBS-Tにて3回洗浄したPVDF膜は、所定の濃度に希釈したHorseradish peroxidase(HRP)で標識された2次抗体(サンタクルーズバイオテクノロジー社製またはアブカム社製)で室温にて1時間反応させた。TBS-Tにて3回洗浄後、検出試薬であるECL Plus ウエスタンブロッティング検出システム(cytiva社製)と検出機器であるLAS-3000(cytiva社製)を用いてシグナルの検出を行った。なお、Actinは標準タンパク質としてActin抗体(アブカム社製)を用いて同様に検出した。
【0052】
(リアルタイム定量PCR法による遺伝子発現量の測定)
各種細胞から、RNeasy Mini Kit(QIAGEN社製)を用いて回収サンプルよりRNAを抽出した。操作はメーカー推奨の方法に従って行った。こうして得られたRNAより、PrimeScript II 1st strand cDNA Synthesis Kit(タカラバイオ社製)を用いてcDNAを調製した。操作はメーカー推奨の方法に従って行った。
FLG、CLDN1、HAS3の各遺伝子発現の評価は、プローブ法によるリアルタイム定量PCR(qPCR)にて行った。プローブはプレデザインされたTaqMan Gene Expression Assays(Thermo Fisher Scientific社製)を使用し、FLGはHs00856927_g1、CLDN1はHs00221623_m1、HAS3はHs00193436_m1、内在性コントロールはβアクチン(ACTB)Hs01060665_g1を用い、Applied Biosystems 7500 Real Time PCR System(Thermo Fisher Scientific社製)を測定機器として使用した。全ての操作はメーカー推奨の方法に従って行った。
【0053】
(免疫蛍光染色)
あらかじめコラーゲンコートカバーグラスを入れた培養ディッシュにNHEK細胞を播種し、EpiLife培地にて24時間の前培養を行った。その後、最終濃度が所定の濃度となるように各種成分や植物エキスを添加し、さらに72時間培養した。培養終了後、回収したカバーガラスは4%パラホルムアルデヒドのリン酸緩衝液に入れ、室温にて15分間放置することで細胞固定を行った。カバーガラスをリン酸緩衝液で3回洗浄した後、0.1%の濃度のTritonTMX-100を含有するリン酸緩衝液に入れ、室温にて10分間放置することで透過処理を行った。リン酸緩衝液で3回洗浄した後、3%のウシ血清アルブミン(BSA)含有のリン酸緩衝液に入れ、室温にて1時間放置することでブロッキングを行った。その後1%BSAを含有するリン酸緩衝液で所定の濃度に希釈したClaudin-1抗体(インビトロジェン社製)を添加し4℃で一晩反応させた。リン酸緩衝液で3回洗浄した後、1%BSAを含有したリン酸緩衝液で蛍光標識された2次抗体(Thermo Fisher Scientific社製)を所定の濃度に希釈し、室温にて1時間反応させた。次に、核の染色を行うために、PBSで3回洗浄した後、2μg/mlの4’,6-diamidino-2-phenylindole(DAPI)(同仁化学社製)含有のリン酸緩衝液に入れて5分間放置した。リン酸緩衝液で3回洗浄した後、フルオロマウント(ダイアグノスティック・バイオシステムズ社製)を用いて封
入した。乾燥後に共焦点レーザー顕微鏡(TCS SP2 AOBS、ライカマイクロシステムズ社製)にて細胞形態の観察を行った。
【0054】
(三次元皮膚モデル)
三次元皮膚モデルはNHEKおよびヒト皮膚色素細胞(Normal human dermal melanocyte,NHEM)から構成されたMatTec社製のMEL-300モデル(blackドナー由来)を用いた。操作はメーカー推奨の方法に従って行った。経口摂取を想定した試験系につき、被験物質は培地に添加し、一定期間培養後、遺伝子変動、タンパク質局在、メラニン量の各項目を検証した。また、用いる三次元皮膚モデルは公知の方法(J.Invest.Dermatol.,104(1),107-112,1995)にて作製し、用いることもできる。
【0055】
(メラニン定量)
前記三次元皮膚モデルのメラニン量は吸光度測定により定量した。まず、セルカルチャーインサートより細胞を回収し、リン酸緩衝液で2回洗浄した。回収した細胞は5%トリクロロ酢酸、エタノール/ジエチルエーテル(3/1)、ジエチルエーテルの順で洗浄し、55℃で1時間風乾した。その後、SOLVABLETM(PerkinElmer社製)を加え、80℃で30分間加熱溶解し、その上清は405nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダーで測定した。また、各サンプルの総タンパク質量も測定し、各サンプルのメラニン量はタンパク質量で補正し、細胞あたりのメラニン量を算出した。なお、総タンパク質の定量法はBCA法、Bladford法、Lowry法など、いずれの方法でもよく、また、補正方法はタンパク質量に限らずMTT assayなどによる細胞生存率等でも構わない。
【0056】
(経口摂取におけるヒト肌状態の検証)
30代~50代の女性17名を対象とし、4週間の非盲検試験を行った。被験者はコラーゲンペプチド、ビタミンC及びレモンバームエキスを使用したドリンクを1日1本継続飲用し、飲用開始前(飲用0週後)、飲用2週間後、飲用4週間後に肌状態の測定を実施した。ぬるま湯で洗顔後、環境試験室(温度25±2℃、湿度55±5%)で15分馴化した後、肌水分量、コラーゲン密度、皮膚粘弾性の測定、及び肌のキメ画像の撮影の4項目を行った。使用機器は、下記に記した。測定方法は、機器のプロトコールに従った。
コラーゲン密度:DermaLab(Cortex Technology社製)
肌水分量:Corneometer CM825(Courage+Khazaka社製)
皮膚粘弾性:Cutometer DUAL MPA580(Courage+Khazaka社製)
キメ画像:i-SCOPE USB2.0(Moritex社製)
【0057】
(統計解析)
統計解析はTuley-Kramer法による多重比較検定にて行った。P値が0.05未満であるときに、統計的に有意であるとみなした。
【0058】
[実施例1 バリア機能の相乗効果(バリア機能性成分)]
コラーゲンペプチドとビタミンCは皮膚細胞に対して弾力保持、美白など様々な美肌効果を発揮することが知られている。バリア機能性成分にさらにコラーゲンペプチドとビタミンCを添加した混合液ではバリア機能の相乗効果が確認された。
【0059】
図4で示されるように、ロスマリン酸とコラーゲンペプチドとビタミンCの混合液の場合は、ロスマリン酸のみの場合と比較して、FLGの遺伝子発現が2倍近く増加した(図4A)。免疫蛍光染色においても混合液の場合はCLDN1の局在がロスマリン酸のみの
場合と比較して亢進していることが示された(図4B)。
また、カフェ酸とコラーゲンペプチドとビタミンCの混合液、さらにヘスペレチンとコラーゲンペプチドとビタミンCの混合液の場合でも、それぞれカフェ酸とヘスペレチンのみの場合と比較して、FLGの遺伝子発現が亢進していることが示された(図4C図4D)。
【0060】
図5及び図6のように、NHEKに作用するFLG及びCLDN1の遺伝子発現、並びにCLDN1の細胞内局在は、コラーゲンペプチドとビタミンCを同時に添加しても変化しなかった。即ち、コラーゲンペプチド、ビタミンC、並びにコラーゲンペプチドとビタミンCの二者混合液は、細胞のバリア機能には直接的に作用しないと言える。
【0061】
即ち、皮膚細胞にバリア機能性成分、コラーゲンペプチド及びビタミンCを混合して添加した場合は、バリア機能性成分のみの場合と比べ、優れたバリア機能をもたらすことができると分かる。
【0062】
[実施例2 バリア機能の相乗効果(植物エキス)]
本願発明者らはバリア機能を有するレモンバームエキスとコラーゲンペプチドとビタミンCの三者混合液が、レモンバームエキスのみよりも、さらに優れたバリア機能を有することを確認した。この点は、図7で示されている。
図7Aはレモンバームエキス、及びレモンバームエキスとコラーゲンペプチドとビタミンCの混合液によるFLGの遺伝子発現の変化を示すグラフである。レモンバームエキスのみの場合、FLGの遺伝子発現は既にコントロールの10倍以上になっている。そして、レモンバームエキスとコラーゲンペプチドとビタミンCとの三者混合液の場合は、レモンバームエキスのみよりも、さらにFLGの遺伝子発現が2.5倍以上増加したことが確認された。また、バリア機能に関連するCLDN1の細胞膜への局在も、図7Bが示す免疫蛍光染色の写真から三者混合液による相乗効果が確認された。
【0063】
本願発明者らは、同じくバリア機能を有すると言われている他の植物エキスである甘草葉エキスやユーカリ葉油についても検証した。甘草葉エキスについては、単独添加の場合よりもコラーゲンペプチドやビタミンCとの三者混合液の方がFLGの遺伝子発現は減少した(図8A)。また、CLDN1の局在においても、コラーゲンペプチドとビタミンCの三者混合液によるバリア機能亢進は確認されなかった(図9)。
ユーカリ葉油については、単独添加でもFLG遺伝子の発現増加は認められず(図8B)、CLDN1の局在も確認されなかった(図9)。
また、甘草葉エキス及びユーカリ葉油中のロスマリン酸、カフェ酸及びヘスペレチン含有の有無について質量分析測定したところ、どちらにもこれらの成分が含まれていないことが確認された。
【0064】
すなわち、コラーゲンペプチドとビタミンCの同時添加により皮膚のバリア機能に対して明らかな相乗効果を発揮する植物エキスは、特定のものに限られる。
【0065】
[実施例3 コラーゲン産生能及びヒアルロン酸産生能の検証]
NHDFを用いて、レモンバームエキスとコラーゲンペプチドとビタミンCの混合液がこれらの産生能に与える影響を調べた。
図10AとBは、レモンバームエキス、コラーゲンペプチド、ビタミンCの三者混合液の添加により、COL1A1及びHAS2のタンパク質が増加したことを示すウエスタンブロッティングの結果である。NHDFにおけるコラーゲン産生量及びヒアルロン酸産生量の増加が確認された。
【0066】
[実施例4 三次元皮膚モデルでの検証]
三次元皮膚モデルはヒト皮膚組織と近似した構造を有しており安全性や有効性の評価に際してヒト皮膚の代わりに広く用いられている。三次元皮膚モデルを用いて、レモンバームエキスとコラーゲンペプチドとビタミンCの混合液が皮膚のバリア機能、ヒアルロン酸産生能に与える影響を調べた。
【0067】
図11AとBはレモンバームエキスとコラーゲンペプチドとビタミンCの混合液によるFLGとHAS3の遺伝子発現の変化を示すグラフである。これらの結果より、混合液によるFLGとHAS3の発現が増加したことが示された。即ち混合液により、皮膚バリア機能や保湿に関連するヒアルロン酸産生能の亢進が強く示唆された。
【0068】
図11Cは、レモンバームエキスとコラーゲンペプチドとビタミンCの混合液による三次元皮膚組織中におけるメラニン産生量の比較を示す写真とグラフである。フォルスコリンはメラニン産生促進剤として添加している。これらの混合液は、皮膚バリア機能、コラーゲン産生能、ヒアルロン酸産生能以外にメラニン産生抑制能も併せ持つことが新たに確認された。
【0069】
[実施例5 経口摂取の非盲検試験]
細胞を用いたin vitro試験においてだけでなく、ヒトでの経口摂取においてもコラーゲンペプチド、ビタミンC及びレモンバームエキスを組み合わせた混合液がバリア機能の強化、キメ改善、保湿機能を有することが示された。
【0070】
コラーゲンペプチド、ビタミンC及びレモンバームエキスを使用したドリンクを1日1本継続飲用し、飲用開始前(飲用0週後)、飲用2週間後、飲用4週間後に肌状態を測定した。結果は、図12図13に示した。
図12は、コラーゲン密度を表す指標であるコラーゲンスコアと肌水分量を示している。前腕では飲用4週間後、頬では飲用2週間後と4週間後いずれにおいても有意に上昇していた(図12A)。また飲用2週間後に肌水分量は頬、こめかみ、前腕において上昇傾向が見られ、飲用4週間後には頬において有意に上昇した(図12B)。図13は継続飲用による皮膚粘弾性及び頬のキメの変化を示している。皮膚粘弾性は飲用4週間後に前腕において有意な上昇が見られた(図13A)。さらに肌のキメが改善することが確認された(図13B)。
すなわち、コラーゲンペプチド、ビタミンC及びレモンバームエキスを組み合わせた混合物は、細胞においてだけでなく、ヒトでの経口摂取においても効果が発揮されることが示された。
【0071】
コラーゲンペプチドは体内におけるコラーゲン合成に利用され、ビタミンCはその合成過程に必須である。またレモンバームエキスは分解されたコラーゲンの線維芽細胞への取り込みを促進する効果があることが示唆されている。そのため、コラーゲンペプチドやビタミンCも同時摂取することにより、体内でのコラーゲン合成が促進され、レモンバームエキスも含む三者混合物にすることでさらにその効果を亢進したと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
コラーゲンペプチド、ビタミンC及びバリア機能性成分若しくはバリア機能性組成物は、皮膚真皮層の線維芽細胞においてコラーゲンやヒアルロン酸量を増加させることで皮膚のシワ、弾力の改善に寄与していることが明らかとなった。また、同時にこれらは表皮層の角化細胞にも作用し、皮膚のバリア機能の強化、キメ改善、保湿の機能を有することが新たに示唆された。これら各成分は複合摂取することにより皮膚に対して総合的に働きかけ、自然老化によって低下した皮膚の構造を強化し、表皮バリア機能の向上などさらなるアンチエイジング効果が期待できると考えられる。
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
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図10
図11
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図13