(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】コントラスト強調のない肝臓のMRI画像の生成
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20241113BHJP
G06N 20/10 20190101ALI20241113BHJP
G06N 3/02 20060101ALI20241113BHJP
A61K 49/10 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
A61B5/055 383
A61B5/055 380
G06N20/10
G06N3/02
A61K49/10
(21)【出願番号】P 2022521396
(86)(22)【出願日】2020-10-05
(86)【国際出願番号】 EP2020077767
(87)【国際公開番号】W WO2021069338
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2023-09-07
(32)【優先日】2019-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516245885
【氏名又は名称】バイエル、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】BAYER AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(72)【発明者】
【氏名】ゲシネ、クノブロッホ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン、リーネルト
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-167408(JP,A)
【文献】特開2011-092677(JP,A)
【文献】特開2002-165775(JP,A)
【文献】特開2017-064370(JP,A)
【文献】特表2003-519200(JP,A)
【文献】特開2019-023891(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0122348(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0108634(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0198054(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0204402(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0352156(US,A1)
【文献】Enhao Gong MS et al.,Deep learning enables reduced gadolinium dose for contrast-enhanced brain MRI,Journal of Magnetic Resonance Imaging,2018年,Vol. 48, No. 2,p. 330-340,<検索日:2024.03.27>, <DOI: DOI: 10.1002/jmri.25970>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G06N 20/10
G06N 3/02
A61K 49/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
-検査対象の肝臓または肝臓の一部分を示す、前記検査対象の少なくとも1つの第1MRI画像であって、前記肝臓内または前記肝臓の前記
一部分内の血管は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出される、前記少なくとも1つの第1MRI画像を受信するステップと、
-前記肝臓または前記肝臓の前記
一部分を示す、前記検査対象の少なくとも1つの第2MRI画像であって、健康な肝臓細胞は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出される、前記少なくとも1つの第2MRI画像を受信するステップと、
-
受信した前記少なくとも1つの第1MRI画像および受信した前記少なくとも1つの第2MRI画像を予測モデルへ送るステップであって、前記予測モデルは、前記検査対象の前記肝臓または前記肝臓の前記
一部分を示す
第3MRI画像であって、前記肝臓内または前記肝臓の前記
一部分内の前記血管は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出される
前記第3MRI画像に基づいて、かつ前記検査対象の前記肝臓または前記肝臓の前記
一部分の
第4MRI画像であって、健康な肝臓細胞は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出される
前記第4MRI画像に基づいて、前記検査対象の前記肝臓または前記肝臓の前記
一部分を示す、造影剤により生じるコントラスト強調のない1つまたは複数のMRI画像を予測するよう教師あり学習を用いて訓練されている、送るステップと、
-前記予測モデルから、前記検査対象の前記肝臓または前記肝臓の前記
一部分を示す、造影剤により生じるコントラスト強調のない
、予測された前記1つまたは複数のMRI画像を受信するステップと、
-
予測された前記1つまたは複数のMRI画像を表示および/もしくは出力する、ならびに/または
、予測された前記1つまたは複数のMRI画像をデータ記憶媒体に記憶するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの第1MRI画像は、肝胆道系で常磁性の造影剤の投与後のダイナミック相における前記肝臓または前記肝臓の前記
一部分のT1強調された表現である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの第1MRI画像は、
(i)動脈相における前記検査対象の前記肝臓または前記肝臓の前記
一部分を示すMRI画像と、
(ii)静脈相における前記検査対象の前記肝臓または前記肝臓の前記
一部分を示すMRI画像と、
(iii)後期相における前記検査対象の前記肝臓または前記肝臓の前記
一部分を示すMRI画像、
である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの第2MRI画像は、肝胆道系で常磁性の造影剤または常磁性の細胞外造影剤の投与後の肝細胞造影相における前記肝臓または前記肝臓の前記
一部分のT1強調された表現である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記検査対象への肝胆道系で常磁性の造影剤の最初の投与後に肝細胞造影相において前記肝臓または前記肝臓の前記
一部分のT1強調された表現を有する前記少なくとも1つの第2MRI画像が記録され、前記検査対象への前記肝胆道系で常磁性の造影剤または常磁性の細胞外造影剤の2回目の投与の後にダイナミック相において前記肝臓または前記肝臓の前記
一部分のT1強調された表現を有する前記少なくとも1つの第1MRI画像が記録される、請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記造影剤は、コントラストを強調する活性物質としてのガドキセト酸またはガドキセト酸塩を有する物質、または混合物であり、好ましくはガドキセト酸の二ナトリウム塩である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記検査対象は哺乳類であり、好ましくは人間である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記予測モデルは、人工ニューラルネットワークである、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
受信ユニットと、
制御演算ユニットと、
出力ユニットと、
を含み、
-前記制御演算ユニットは、検査対象の肝臓または肝臓の一部分を示す、前記検査対象の少なくとも1つの第1MRI画像を受信するよう前記受信ユニットに促すよう構成され、前記肝臓内または前記肝臓の前記
一部分内の血管は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出され、
-前記制御演算ユニットは、前記肝臓または前記肝臓の前記
一部分を示す、前記検査対象の少なくとも1つの第2MRI画像を受信するよう前記受信ユニットに促すよう構成され、健康な肝臓細胞は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出され、
-前記制御演算ユニットは、
受信した前記少なくとも1つの第1MRI画像および受信した前記少なくとも1つの第2MRI画像に基づいて1つまたは複数のMRI画像を予測するよう構成され、
予測された前記1つまたは複数のMRI画像は、造影剤により生じるコントラスト強調なしに前記検査対象の前記肝臓または前記肝臓の前記
一部分を示し、
-前記制御演算ユニットは、
予測された前記1つまたは複数のMRI画像を表示して、
予測された前記1つまたは複数のMRI画像を出力す
るまたはデータ記憶媒体に記憶するよう
、前記出力ユニットに促すよう構成される、
システム。
【請求項10】
コンピュータのメモリへロードすることができるコンピュータプログラムを含むコンピュータプログラム製品であって、前記コンピュータプログラムは、前記コンピュータに対して、
-検査対象の肝臓または肝臓の一部分を示す、前記検査対象の少なくとも1つの第1MRI画像であって、前記肝臓内または前記肝臓の前記
一部分内の血管は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出される、前記少なくとも1つの第1MRI画像を受信するステップと、
-前記肝臓または前記肝臓の前記
一部分を示す、前記検査対象の少なくとも1つの第2MRI画像であって、健康な肝臓細胞は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出される、前記少なくとも1つの第2MRI画像を受信するステップと、
-
受信した前記少なくとも1つの第1MRI画像および受信した前記少なくとも1つの第2MRI画像を予測モデルへ送るステップであって、前記予測モデルは、前記検査対象の前記肝臓または前記肝臓の前記
一部分を示す
第3MRI画像であって、前記肝臓内または前記肝臓の前記
一部分内の前記血管は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出される
前記第3MRI画像に基づいて、かつ前記検査対象の前記肝臓または前記肝臓の前記
一部分の
第4MRI画像であって、健康な肝臓細胞は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出される
前記第4MRI画像に基づいて、前記検査対象の前記肝臓または前記肝臓の前記
一部分を示す、造影剤により生じるコントラスト強調のない1つまたは複数のMRI画像を予測するよう教師あり学習を用いて訓練されている、送るステップと、
-前記予測モデルから出力された、前記検査対象の前記肝臓または前記肝臓の前記
一部分を示す、造影剤により生じるコントラスト強調のない
、予測された前記1つまたは複数のMRI画像を受信するステップと、
-
予測された前記1つまたは複数のMRI画像を表示および/もしくは出力する、ならびに/または
、予測された前記1つまたは複数のMRI画像をデータ記憶媒体に記憶するステップと、
を実行するよう促すコンピュータプログラム製品。
【請求項11】
前記コンピュータプログラムは、前記コンピュータに対して、請求項1~7に列挙された前記ステップの1つまたは複数を実行するよう促す、請求項10に記載のコンピュータプログラム製品。
【請求項12】
MRI方式における造影剤の利用法であって、前記MRI方式は、
-検査対象の肝臓内または肝臓の一部分内で拡散する前記造影剤を投与するステップと、
-前記検査対象の前記肝臓または前記肝臓の前記
一部分を示す少なくとも1つの第1MRI画像であって、前記肝臓内または前記肝臓の前記
一部分内の血管は、前記造影剤のためにコントラストが強調されて描出される、前記少なくとも1つの第1MRI画像を生成するステップと、
-前記肝臓または前記肝臓の前記
一部分を示す少なくとも1つの第2MRI画像であって、健康な肝臓細胞は、前記造影剤のためにコントラストが強調されて描出される、前記少なくとも1つの第2MRI画像を生成するステップと、
-
生成した前記少なくとも1つの第1MRI画像および生成した前記少なくとも1つの第2MRI画像を予測モデルへ送るステップであって、前記予測モデルは、前記検査対象の前記肝臓または前記肝臓の前記
一部分を示す
第3MRI画像であって、前記肝臓内または前記肝臓の前記
一部分内の前記血管は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出される
前記第3MRI画像に基づいて、かつ前記検査対象の前記肝臓または前記肝臓の前記
一部分の
第4MRI画像であって、健康な肝臓細胞は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出される
前記第4MRI画像に基づいて、前記検査対象の前記肝臓または前記肝臓の前記
一部分を示す、造影剤により生じるコントラスト強調のない1つまたは複数のMRI画像を予測するよう教師あり学習を用いて訓練されている、送るステップと、
-前記予測モデルから出力された、前記検査対象の前記肝臓または前記肝臓の前記
一部分を示す、造影剤により生じるコントラスト強調のない
、予測された前記1つまたは複数のMRI画像を受信するステップと、
-
予測された前記1つまたは複数のMRI画像を表示および/もしくは出力する、ならびに/または
、予測された前記1つまたは複数のMRI画像をデータ記憶媒体に記憶するステップと、
を含む造影剤の利用法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝臓の人工MRI画像の生成を扱う。本発明の主題は、コントラスト強調のない肝臓のMRI画像を生成する方法、システム、およびコンピュータプログラム製品である。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴画像法、略してMRIは、人間または動物の体内の組織および臓器の構造および機能を描出するために、特に医療診断で使用される画像検査法である。
【0003】
MRIでは、検査対象内のプロトンの磁気モーメントが基本磁場内で揃えられており、その結果、長手方向沿いに巨視的磁化が起こる。この巨視的磁化は、後に高周波(HF)パルス(励起)の入射放射線によって静止位置から偏向される。励起状態から静止位置への復帰(緩和)、すなわち磁化ダイナミクスが後に1つまたは複数のHF受信コイルを用いて緩和信号として検出される。
【0004】
空間符号化のため、速やかスイッチングが行われる傾斜磁場が基本磁場に重ね合わせられる。捕捉された緩和信号、または検出されて空間分解されたMRIデータは当初は空間周波数空間において生データとして存在し、その後のフーリエ変換によって実空間(像空間)へ変換することができる。
【0005】
ネイティブ(非造影)MRIの場合、組織のコントラストが異なる緩和時間(T1およびT2)とプロトン密度によって生成される。
【0006】
T1緩和は長手方向磁化の平衡状態への遷移を表し、T1は共鳴励起より前に63.21%の平衡磁化へ達するのに必要な時間である。T1は長手方向緩和時間、またはスピン格子緩和時間とも呼ばれる。
【0007】
同様に、T2緩和は横方向磁化の平衡状態への遷移を表す。
【0008】
MRI用造影剤は、造影剤を取り込む構造の緩和時間を変えることで、その作用を発現させる。常磁性物質と超常磁性物質という2つの物質群は明確に区別することができる。いずれの物質群も、個々の原子または分子の周りに磁場を誘起する不対電子を有している。
【0009】
超常磁性の造影剤は顕著なT2の短縮をもたらすが、常磁性の造影剤は主にT1の短縮をもたらす。T1時間の短縮はT1強調シーケンスにおいて信号強度の上昇をもたらし、T2時間の短縮はT2強調シーケンスにおいて信号強度の減少をもたらす。
【0010】
前記造影剤の作用は間接的であるが、これは造影剤自体が信号を発するのではなく、その周辺の水素のプロトンの信号強度に影響を与えるに過ぎないからである。
【0011】
T1強調画像では、常磁性の造影剤は、造影剤を含まない領域と比べて造影剤を含む領域をより明るく描出(より高い信号に)する。
【0012】
T2強調画像では、超常磁性の造影剤は、造影剤を含まない領域と比べて造影剤を含む領域をより暗く描出(より低い信号に)する。
【0013】
より高い信号による描出と、より低い信号による描出のいずれもコントラストの強調をもたらす。
【0014】
超常磁性の造影剤の一例は、酸化鉄ナノ粒子(SPIO、超常磁性酸化鉄製剤)である。
【0015】
常磁性の造影剤の例は、ガドペンテト酸ジメグルミン(商品名はマグネビスト(登録商標)など)、ガドベン酸メグルミン(商品名はマルチハンス(登録商標))、ガドテル酸(Dotarem(登録商標)、Dotagita(登録商標)、Cyclolux(登録商標))、ガドジアミド(オムニスキャン(登録商標))、ガドテリドール(プロハンス(登録商標))、ガドブトロール(ガドビスト(登録商標))などのガドリニウムキレートである。
【0016】
細胞外、細胞内、および血管内造影剤は、組織内でのその拡散パターンに応じて区別することができる。
【0017】
ガドキセト酸に基づく造影剤は、肝臓細胞(肝細胞)での特有の摂取により、また機能性組織(実質)での濃縮と健康な肝組織でのコントラストの強調により、特徴づけられる。嚢胞、転移したがん、および、ほとんどの肝臓細胞がんの細胞はもはや正常な肝臓細胞のようには機能せず、造影剤を取り込まない、またはほとんど取り込まず、強調して描出されることはなく、その結果、識別可能で場所の特定が可能である。
【0018】
ガドキセト酸に基づく造影剤の例が米国特許第6,039,931A号明細書に記載されており、例えばプリモビスト(登録商標)やEovist(登録商標)の商品名で市販されている。
【0019】
プリモビスト(登録商標)やEovist(登録商標)のコントラストを強調する効果は安定なガドリニウム錯体Gd-EOB-DTPA(ガドリニウムエトキシベンジルジエチレントリアミン五酢酸、ガドキセト酸ナトリウム)によりもたらされる。DTPAは、常磁性のガドリニウムイオンと共に、極めて高い熱力学的安定性を有する錯体を形づくる。エトキシベンジルラジカル(EOB)は、造影剤の肝胆道系摂取の仲介物質である。
【0020】
プリモビスト(登録商標)は、肝臓内の腫瘍の検出および特性評価に使用することができる。健康な肝組織への血液の供給は、主に門脈(vena portae)を介して実現され、肝臓動脈(arteria hepatica)がほとんどの原発腫瘍を供給する。造影剤のボーラスが静脈内注射された後には、それに応じて健康な肝実質における信号の増加と腫瘍における信号の増加との間の時間遅れを観測することが可能となる。
【0021】
プリモビスト(登録商標)により分布相において実現されるコントラスト強調の場合、観測されるのは病変を特徴付ける情報を提供する、典型的な灌流パターンである。ウォッシュイン(wash-in)の間の振る舞い、およびウォッシュアウト(wash-out)の間の振る舞い、ならびに血管新生を描出することは、病変の種類を特徴づけて、腫瘍と血管の空間的関係を判定するのを助ける。
【0022】
T1強調画像の場合、プリモビスト(登録商標)は、(肝細胞造影相での)注射の10~20分後に健康な肝実質において明確な信号強調をもたらすが、肝細胞を含まないかほんのわずかに含む病変、例えば、転移した、または中分化~低分化の肝細胞がん(HCC)は、より暗い領域として見える。
【0023】
しかし、肝細胞造影相では血管も暗い領域として見えて、これは、肝細胞造影相において生成されるMRI画像では肝臓の病変と血管をコントラストのみに基づいて区別するのは概して不可能であることを意味する。肝臓の病変と血管は、例えば(血管が強調表示される)ダイナミック相の更なるMRI画像に関連して、さもなければ造影剤により生じるコントラスト強調のないMRI画像を用いて区別することができる。しかし、例えば検査対象に対して短縮されたMRI画像取得方法が使用される場合、例えば肝細胞造影相の間にMRI画像を直接取得するために造影剤がMRI画像の取得前に特定の期間にわたってすでに投与されており、造影剤の2回目の投与後にダイナミック相のMRI画像が作成される場合は、同じMRI画像取得プロセスでコントラスト強調のないMRI画像(ネイティブMRI画像)を作成するのはもはや不可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は、独立請求項の主題によりこの問題へ対応している。本発明の好ましい実施形態は、従属請求項、本明細書、および図面に存在する。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明は、第1態様において、
-検査対象の肝臓または肝臓の一部分を示す、検査対象の少なくとも1つの第1MRI画像であって、肝臓内の血管は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出される、少なくとも1つの第1MRI画像を受信するステップと、
-同じ肝臓または肝臓の同じ部分を示す、同じ検査対象の少なくとも1つの第2MRI画像であって、健康な肝臓細胞は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出される、少なくとも1つの第2MRI画像を受信するステップと、
-受信した複数のMRI画像を予測モデルへ送るステップであって、予測モデルは、検査対象の肝臓または肝臓の一部分を示すMRI画像であって、肝臓内の血管は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出されるMRI画像に基づいて、かつ同じ検査対象の同じ肝臓または肝臓の同じ部分のMRI画像であって、健康な肝臓細胞は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出されるMRI画像に基づいて、検査対象の肝臓または肝臓の一部分を示す、造影剤により生じるコントラスト強調のない1つまたは複数のMRI画像を予測するよう教師あり学習を用いて訓練されている、送るステップと、
-予測モデルから、検査対象の肝臓または肝臓の一部分を示す、造影剤により生じるコントラスト強調のない1つまたは複数の予測されるMRI画像を受信するステップと、
-1つまたは複数の予測されるMRI画像を表示および/もしくは出力する、ならびに/または1つまたは複数の予測されるMRI画像をデータ記憶媒体に記憶するステップと、
を含む方法を提供する。
【0026】
本発明はさらに、
受信ユニットと、
制御演算ユニットと、
出力ユニットと、
を含み、
-制御演算ユニットは、検査対象の肝臓または肝臓の一部分を示す、検査対象の少なくとも1つの第1MRI画像を受信するよう受信ユニットに促すよう構成され、肝臓内の血管は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出され、
-制御演算ユニットは、同じ肝臓または肝臓の同じ部分を示す、検査対象の少なくとも1つの第2MRI画像を受信するよう受信ユニットに促すよう構成され、健康な肝臓細胞は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出され、
-制御演算ユニットは、受信した複数のMRI画像に基づいて1つまたは複数のMRI画像を予測するよう構成され、1つまたは複数の予測されるMRI画像は、造影剤により生じるコントラスト強調なしに検査対象の肝臓または肝臓の一部分を示し、
-制御演算ユニットは、1つまたは複数の予測されるMRI画像を表示して、1つまたは複数の予測されるMRI画像を出力する、またはデータ記憶媒体に記憶するよう出力ユニットに促すよう構成される、
システムを提供する。
【0027】
本発明はさらに、コンピュータのメモリへロードすることができるコンピュータプログラムを含むコンピュータプログラム製品を提供し、このコンピュータプログラムは、コンピュータに対して、
-検査対象の肝臓または肝臓の一部分を示す、検査対象の少なくとも1つの第1MRI画像であって、肝臓内の血管は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出される、少なくとも1つの第1MRI画像を受信するステップと、
-同じ肝臓または肝臓の同じ部分を示す、同じ検査対象の少なくとも1つの第2MRI画像であって、健康な肝臓細胞は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出される、少なくとも1つの第2MRI画像を受信するステップと、
-受信した複数のMRI画像を予測モデルへ送るステップであって、予測モデルは、検査対象の肝臓または肝臓の一部分を示すMRI画像であって、肝臓内の血管は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出されるMRI画像に基づいて、かつ同じ検査対象の同じ肝臓または肝臓の同じ部分のMRI画像であって、健康な肝臓細胞は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出されるMRI画像に基づいて、検査対象の肝臓または肝臓の一部分を示す、造影剤により生じるコントラスト強調のない1つまたは複数のMRI画像を予測するよう教師あり学習を用いて訓練されている、送るステップと、
-予測モデルから出力された、検査対象の肝臓または肝臓の一部分を示す、造影剤により生じるコントラスト強調のない1つまたは複数の予測されるMRI画像を受信するステップと、
-1つまたは複数の予測されるMRI画像を表示および/もしくは出力する、ならびに/または1つまたは複数の予測されるMRI画像をデータ記憶媒体に記憶するステップと、
を実行するよう促す。
【0028】
本発明はさらにMRI方式での造影剤の利用法を提供し、このMRI方式は、
-検査対象の肝臓内で拡散する造影剤を投与するステップと、
-検査対象の肝臓また肝臓の一部分を示す少なくとも1つの第1MRI画像であって、肝臓内の血管は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出される、少なくとも1つの第1MRI画像を生成するステップと、
-同じ肝臓または肝臓の同じ部分を示す少なくとも1つの第2MRI画像であって、健康な肝臓細胞は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出される、少なくとも1つの第2MRI画像を生成するステップと、
-生成したMRI画像を予測モデルへ送るステップであって、予測モデルは、検査対象の肝臓または肝臓の一部分を示すMRI画像であって、肝臓内の血管は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出されるMRI画像に基づいて、かつ同じ検査対象の同じ肝臓または肝臓の同じ部分のMRI画像であって、健康な肝臓細胞は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出されるMRI画像に基づいて、検査対象の肝臓または肝臓の一部分を示す、造影剤により生じるコントラスト強調のない1つまたは複数のMRI画像を予測するよう教師あり学習を用いて訓練されている、送るステップと、
-予測モデルから出力された、検査対象の肝臓または肝臓の一部分を示す、造影剤により生じるコントラスト強調のない1つまたは複数の予測されるMRI画像を受信するステップと、
-1つまたは複数の予測されるMRI画像を表示および/もしくは出力する、ならびに/または1つまたは複数の予測されるMRI画像をデータ記憶媒体に記憶するステップと、
を含む。
【0029】
さらに、MRI方式で使用する造影剤が提供され、このMRI方式は、
-検査対象の肝臓内で拡散する造影剤を投与するステップと、
-検査対象の肝臓また肝臓の一部分を示す少なくとも1つの第1MRI画像であって、肝臓内の血管は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出される、少なくとも1つの第1MRI画像を生成するステップと、
-同じ肝臓または肝臓の同じ部分を示す少なくとも1つの第2MRI画像であって、健康な肝臓細胞は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出される、少なくとも1つの第2MRI画像を生成するステップと、
-生成したMRI画像を予測モデルへ送るステップであって、予測モデルは、検査対象の肝臓または肝臓の一部分を示すMRI画像であって、肝臓内の血管は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出されるMRI画像に基づいて、かつ同じ検査対象の同じ肝臓または肝臓の同じ部分のMRI画像であって、健康な肝臓細胞は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出されるMRI画像に基づいて、検査対象の肝臓または肝臓の一部分を示す、造影剤により生じるコントラスト強調のない1つまたは複数のMRI画像を予測するよう教師あり学習を用いて訓練されている、送るステップと、
-予測モデルから出力された、検査対象の肝臓または肝臓の一部分を示す、造影剤により生じるコントラスト強調のない1つまたは複数の予測されるMRI画像を受信するステップと、
-1つまたは複数の予測されるMRI画像を表示および/もしくは出力する、ならびに/または1つまたは複数の予測されるMRI画像をデータ記憶媒体に記憶するステップと、
を含む。
【0030】
さらに、本発明に係る造影剤およびコンピュータプログラム製品を含むキットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】肝臓動脈(A)、肝臓静脈(P)、および健康な肝臓細胞(L)内の造影剤の濃度の時間的プロファイルを概略的に示す。
【
図2】短縮されたMRI画像取得手順の例を概略的に示す。
【
図3】本発明に係るシステムの好ましい実施形態を概略的に示す。
【
図4】本発明に係る方法の一実施形態を概略的、かつ例示的に示す。
【
図5】本発明の更なる実施形態を例示的、かつ概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、本発明の複数の主題(方法、システム、コンピュータプログラム製品、利用法、使用する造影剤、キット)を区別することなく、以下でより詳細に説明される。それどころか、以下の説明は、それらの説明が現れる文脈に関わらず、本発明のすべての主題(方法、システム、コンピュータプログラム製品、利用法、使用する造影剤、キット)に同様にあてはまるように意図されている。
【0033】
本明細書、または請求の範囲において、複数のステップが順番に述べられている場合、これは本発明が記載の順番に限定されることを必ずしも意味するわけではない。それどころか、これらのステップは、一つのステップが別のステップの上に構築されている場合、つまり構築されているステップは間違いなく後で実行されることを必要とする、という場合以外は、異なる順番で、または互いに並行して実行されるとも考えられる(ただし、これは個々の事例で明らかになる)。したがって、記載された順番は本発明の好ましい実施形態である。
【0034】
本発明は、検査対象の肝臓また肝臓の一部分の1つまたは複数の人工MRI画像であって、肝臓また肝臓の一部分を示す、造影剤により生じるコントラスト強調のない1つまたは複数のMRI画像を生成する。人工MRI画像は、そのすべてが造影剤によりコントラストが強調されて記録された複数のMRI画像に基づいて作成される。人工MRI画像は自己学習アルゴリズムを用いて作成することができて、造影剤の投与によってコントラストが強調されない検査対象の肝臓または肝臓の一部のMRI画像を模している。
【0035】
「検査対象(examination object)は通常は生物であり、好ましくは哺乳類であり、特に好ましくは人間である。
【0036】
検査対象の一部分が、コントラストが強調される磁気共鳴画像検査の対象となる。「検査領域(examination region)」は、画像容積(視野、FOV)とも呼ばれ、特に磁気共鳴画像で撮像される容積である。検査領域は、典型的には放射線科医により、例えば概観画像(ローカライザー)上で規定される。検査領域は、あるいは、またはさらに、例えば選択されたプロトコルに基づいて自動的に規定することもできるのは自明である。検査領域は、検査対象の肝臓の少なくとも一部分を含む。
【0037】
検査領域が基本磁場へ持ち込まれる。
【0038】
検査領域内で拡散する造影剤が検査対象へ投与される。造影剤は、体重に基づいて、好ましくは投薬を用いてボーラスとして静脈内に(例えば、腕の静脈へ)投与される。
【0039】
「造影剤」は、物質または混合物を意味すると理解され、磁気共鳴測定においてはその存在により信号が変更される。好ましくは、造影剤はT1緩和時間および/またはT2緩和時間の短縮をもたらす。
【0040】
好ましくは、造影剤は例えばGd-EOB-DTPAやGd-BOPTAなどの肝胆道系造影剤である。
【0041】
特に好ましい実施形態では、造影剤はコントラストを強調する活性物質としてのガドキセト酸またはガドキセト酸塩を有する物質、または混合物である。非常に特有な設定がガドキセト酸の二ナトリウム塩(Gd-EOB-DTPA二ナトリウム)に与えられる。
【0042】
検査領域はMRI方式の対象となり、この過程で、検査段階での検査領域を示すMRI画像が生成される(測定される)。
【0043】
測定されたMRI画像は、検査対象を貫通する切断面を示す2次元画像として存在することができる。測定されたMRI画像は、2次元画像の束として存在することができて、束の個々の画像は異なる切断面を示す。測定されたMRI画像は、3次元画像(3D画像)として存在することができる。図をより簡略化するために、本発明は、本明細書内のある時点で、2次元MRI画像の存在に基づいて説明されるが、本発明を2次元MRI画像に限定することは望んでいない。個々に記載されていることを2次元画像の束および3D画像へどのように適用することができるかは当業者には明らかである(これに関しては、例えば、「M. Reisler, W. Semmler: Magnetresonanztomographie [Magnetic resonance imaging], Springer Verlag, 3rd edition, 2002, ISBN: 978-3-642-63076-7」を参照)。
【0044】
ボーラスの形式で肝胆道系造影剤が静脈内投与された後に、造影剤はまず動脈を経由して肝臓へ達する。動脈は対応するMRI画像においてコントラストが強調されて描出される。MRI画像で肝臓動脈がコントラストを強調されて描出される相は、「動脈相」と呼ばれる。前記の相は造影剤の投与の直後に始まり、通常は15~25秒間続く。
【0045】
その後、造影剤は肝臓静脈を経由して肝臓へ達する。肝臓動脈内のコントラストがすでに減少しつつあるのに対して、肝臓静脈内のコントラストは最大値へ達しつつある。MRI画像で肝臓静脈がコントラストを強調されて描出される相は、「静脈相」と呼ばれる。前記の相は動脈相の間に既に始まることがあり、これらの相は重複しうる。通常、前記の相は静脈内投与の20~30秒後に始まり、通常は40~60秒間続く。
【0046】
静脈相の後には「後期相」が続き、後期相では肝臓動脈内のコントラストはさらに小さくなり、肝臓静脈内のコントラストも同様に小さくなり、健康な肝臓細胞内のコントラストは徐々に大きくなる。前記の相は造影剤の投与の70~90秒後に始まり、通常は100~120秒間続く。
【0047】
動脈相、静脈相、および後期相は、まとめて「ダイナミック相」とも呼ばれる。
【0048】
注射の10~20分後に、肝胆道系造影剤は健康な肝実質内で明確な信号強調をもたらす。前記の相は「肝細胞造影相」と呼ばれる。造影剤は肝臓細胞からごくゆっくりと除去され、その結果、肝細胞造影相は2時間以上続くことがある。
【0049】
前述の相は、例えば以下の文献により詳細に記載されている:「J. Magn. Reson. Imaging, 2012, 35(3): 492-511, doi:10.1002/jmri.22833; Clujul Medical, 2015, Vol. 88 no. 4: 438-448, DOI: 10.15386/cjmed-414; Journal of Hepatology, 2019, Vol. 71: 534-542, http://dx.doi.org/10.1016/j.jhep.2019.05.005)」。
【0050】
本明細書では、「第1MRI画像」は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出される血管を特定可能であるMRI画像を指す。好ましくは、少なくとも1つの第1MRI画像は、ダイナミック相において測定された少なくとも1つのMRI画像である。特有な設定が動脈相、静脈相、および/または後期相において測定された少なくとも1つのMRI画像へ、いずれの場合にも与えられる。非常に特有な設定が動脈相、静脈相、および後期相において測定された少なくとも1つのMRI画像へ、いずれの場合にも与えられる。好ましくは、少なくとも1つの第1MRI画像はT1強調された表現である。
【0051】
常磁性の造影剤を使用する場合、少なくとも1つの第1MRI画像において、コントラスト強調(高信号表現)のために血管は高信号強度により特徴づけられる。実験的に確認可能な範囲内の信号強度を有する第1MRI画像内のこうした(連続した)構造は、それゆえ、血管に割り当てることができる。これは、少なくとも1つの第1MRI画像を用いることでMRI画像内で血管がどこに描出されているか、またはMRI画像内のどの構造が血管(動脈および/または静脈)に起因しうるのか、についての情報が存在する、ということを意味する。
【0052】
本明細書では、「第2MRI画像」は、肝細胞造影相における検査領域を示すMRI画像を指す。肝細胞造影相の間、健康な肝組織(実質)はコントラストが強調されて描出される。このようにして、実験的に確認可能な範囲内の信号強度を有する第2MRI画像内のこうした(連続した)構造を、健康な肝臓細胞に割り当てることができる。したがって、少なくとも1つの第2MRI画像は、MRI画像内のどこに健康な肝臓細胞が描出されているか、またはMRI画像内のどの構造が健康な肝臓細胞に起因しうるのか、についての情報を含む。好ましくは、少なくとも1つの第2MRI画像はT1強調された表現である。
【0053】
肝臓のダイナミック相および肝細胞造影相のMRI画像の取得は、比較的長い期間に及ぶ。前記期間にわたって、患者による動作はMRI画像における動作によるアーチファクトを最小化するために防ぐべきである。動作が長い間制限されることは、患者にとって不快となりうる。それゆえ、本明細書で確立されるのは短縮されたMRI画像取得手順であり、この手順では、肝細胞造影相の間にMRI画像を直接取得できるようにするために造影剤がMRI画像の取得前に特定の期間(すなわち、10~20分)にわたってすでに検査対象へ与されている。そして、ダイナミック相のMRI画像は造影剤の2回目の投与後に同じMRI画像取得プロセスにおいて取得される。結果として、従来のMRI画像取得プロセスと比べて、患者または検査対象のMRI滞留時間は明らかに短くなる。それゆえ、本発明は、検査対象への第1造影剤の(最初の)投与後に肝細胞造影相において肝臓または肝臓の一部分の少なくとも1つのMRI画像を記録することと、同じ検査対象への第2造影剤の投与または第1造影剤の2回目の投与の後にダイナミック相において同じ肝臓または肝臓の同じ部分の少なくとも1つの更なるMRI画像を記録することを好ましくは含む。第1造影剤は、この文脈では肝胆道系で常磁性の造影剤である。また、第2造影剤は常磁性の細胞外造影剤とすることができる。
【0054】
「第1MRI画像」および「第2MRI画像」は、予測モデルへ送られる。予測モデルは、受信した複数のMRI画像に基づいて、検査対象の肝臓または肝臓の一部分を示す、造影剤により生じるコントラスト強調のない1つまたは複数のMRI画像を予測するよう構成されるモデルである。
【0055】
この文脈では、「予測」という用語は、検査対象の肝臓または肝臓の一部分を示す、造影剤により生じるコントラスト強調のないMRI画像が、造影剤によりコントラストが強調された同じ検査領域を示すMRI画像を用いて算出されることを意味する。
【0056】
予測モデルは、好ましくは教師あり機械学習のプロセスで自己学習アルゴリズムを用いて作成された。学習は、検査対象の肝臓または肝臓の一部分のダイナミック相および肝細胞造影相のMRI画像を非常に多数含む訓練データを用いて実現される。さらに、好ましくは同じ検査対象の同じ肝臓または肝臓の一部分のMRI画像であってコントラスト強調のない、すなわち造影剤を投与せずに生成されたMRI画像から作成された訓練データも利用される。
【0057】
自己学習アルゴリズムは、機械学習の間に訓練データに基づく統計的モデルを生成する。これは、例が単に暗記されるのではなく、アルゴリズムが訓練データ内のパターンと規則性を「認識する」ということを意味する。また、それゆえ、アルゴリズムは未知のデータを評価することもできる。検証データは、未知のデータの評価の品質を検査するのに使用することができる。
【0058】
自己学習アルゴリズムは教師あり学習を用いて訓練される、つまり、ダイナミック相および肝細胞造影相のコントラストが強調されたMRI画像がアルゴリズムへ連続的に渡されて、どのコントラスト強調のないMRI画像がこれらのコントラストが強調されたMRI画像に関連付けられるかがアルゴリズムに通知される。そしてアルゴリズムは、コントラストが強調されたMRI画像に対して1つまたは複数のコントラスト強調のないMRI画像を予測するために、コントラストが強調されたMRI画像とコントラスト強調のないMRI画像の間の関係を学習する。
【0059】
教師あり学習を用いて訓練される自己学習アルゴリズムは先行技術で広く記載されている(例えば、「C. Perez: Machine Learning Techniques: Supervised Learning and Classification, Amazon Digital Services LLC - Kdp Print Us, 2019, ISBN 1096996545, 9781096996545」を参照)。
【0060】
好ましくは、予測モデルは人工ニューラルネットワークである。
【0061】
そのような人工ニューラルネットワークは、少なくとも3層の処理要素、すなわち、入力ニューロン(ノード)を有する第1層と、少なくとも1つの出力ニューロン(ノード)を有する第N層と、(N-2)個の中間層を含み、Nは自然数で2より大きい。
【0062】
入力ニューロンは、デジタルMRI画像を入力値として受信する働きをする。通常は、デジタルMRI画像の各画素または各ボクセルに対して1つの入力ニューロンが存在する。追加の入力値(例えば、検査領域についての情報、検査対象についての情報、および/またはMRI画像の生成時の支配的な条件についての情報)に対して追加の入力ニューロンが存在しうる。
【0063】
そのようなネットワークでは、出力ニューロンは第1MRI画像および第2MRI画像に対する第3人工MRI画像を生成する働きをする。入力ニューロンと出力ニューロンの間の層の処理要素は、所定のパターンで所定の結合荷重で互いに接続される。
【0064】
好ましくは、人工ニューラルネットワークは、いわゆる畳み込みニューラルネットワーク(略してCNN)である。
【0065】
畳み込みニューラルネットワークは、行列の形式の入力データを処理することができる。これにより、行列(例えば、幅×高さ×カラーチャンネル)として描出されたデジタルMRI画像を入力データとして使用することが可能となる。対照的に、通常のニューラルネットワークは、例えば多層パーセプトロン(MLP)の形で、入力として、すなわち、MRI画像を入力として使用するためにベクトルを必要とし、MRI画像の画素またはボクセルは連続的に長い鎖状に送り出す必要がある。その結果、通常のニューラルネットワークは、例えば、MRI画像内の物体をMRI画像内の物体の位置と無関係に認識することができない。MRI画像内の異なる位置にある同じ物体は、完全に異なる入力ベクトルを持つであろう。
【0066】
CNNは本質的に、交互に繰り返されるフィルタ(畳み込み層)と集約層(プーリング層)、そして終端に「通常の」完全に接続されたニューロン(密に/完全に接続された層)の1つ、または多数の層からなる。
【0067】
シーケンス(一連のMRI画像)を分析する際に、空間および時間は等価な次元として扱うことができて、例えば3Dのフォールド(fold)を介して処理される。これは、Baccoucheなどによる論文(Sequential Deep Learning for Human Action Recognition; International Workshop on Human Behavior Understanding, Springer 2011, pages 29-39)およびJiなどによる論文(3D Convolutional Neural Networks for Human Action Recognition, IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence, 35(1), 221-231)で示されている。さらに、時間および空間を担当している異なる複数のネットワークを訓練して、最後に特徴量を結合することが、Karpathyなどによる文献(Large-scale Video Classification with Convolutional Neural Networks; Proceedings of the IEEE conference on Computer Vision and Pattern Recognition, 2014, pages 1725-1732)およびSimonyan & Zissermanによる文献(Two-stream Convolutional Networks for Action Recognition in Videos; Advances in Neural Information Processing Systems, 2014, pages 568-576)に記載されているように可能である。
【0068】
回帰型ニューラルネットワーク(RNN)は、層間のフィードバック結合を含む、いわゆるフィードフォワードニューラルネットワークの仲間である。RNNは、ニューラルネットワークの異なる部分を用いてパラメータデータを共通利用することで、連続するデータのモデル化を可能とする。RNN用のアーキテクチャは循環を含む。循環は、変数の現在値が将来の時点におけるその変数自身の値に対する影響を表すが、これは、RNNからの出力データの少なくとも一部分がシーケンスの後続の入力を処理するためにフィードバックとして使用されるからである。
【0069】
詳細は、先行技術(例えば、「S. Khan et al.: A Guide to Convolutional Neural Networks for Computer Vision, Morgan & Claypool Publishers 2018, ISBN 1681730227, 9781681730226」を参照)から得ることができる。
【0070】
ニューラルネットワークの訓練は、例えば誤差逆伝搬法を用いて行うことができる。これに関して、ネットワークで求められるものは、所与の入力ベクトルをできるだけ信頼できる所与の出力ベクトルへマッピングすることである。マッピング品質は誤差関数により記述される。目標は誤差関数を最小化することである。誤差逆伝搬法の場合、人工ニューラルネットワークは結合荷重を変更することで教育される。
【0071】
訓練された状態では、処理要素間の結合荷重は、ダイナミック相および肝細胞造影相のコントラストが強調されたMRI画像と、コントラスト強調のないMRI画像であって、検査領域のコントラストが強調されたMRI画像だけを用いて算出される、コントラストを強調することなく検査領域を示す1つまたは複数のMRI画像を予測するのに使用できる、コントラスト強調のないMRI画像との間の関係に関する情報を含む。
【0072】
データを訓練用データセットと検証用データセットへ分類するために交差検証法を使用することができる。訓練用データセットはネットワークの重みに対する誤差逆伝搬法の訓練で使用される。検証用データセットは、予測の精度を確認するために使用され、この予測を用いて訓練されたネットワークを未知の複数のMRI画像へ適用することができる。
【0073】
すでに示したように、検査対象についての更なる情報、検査領域についての更なる情報、および/または検査条件についての更なる情報も訓練、検証、および予測に使用することができる。
【0074】
検査対象についての情報の例は、性別、年齢、体重、身長、既往歴、すでに摂取した薬剤の働き、摂取時間、および摂取量、血圧、中心静脈圧、呼吸数、血清、アルブミン、総ビリルビン、血糖、鉄含量、肺活量、ならびに同種のものである。これらは、例えば、データベースや患者の電子カルテから得ることもできる。
【0075】
検査領域についての情報の例は、基礎疾患、手術、部分切除、肝臓移植、肝臓の鉄、脂肪肝、および同種のものである。
【0076】
受信した複数のMRI画像は、それらの画像が予測モデルへ送られる前に遡及的な動き補正の対象となることが考えられる。そのような動き補正により、第1MRI画像の画素またはボクセルが時間的に下流の第2MRI画像の対応する画素またはボクセルと同じ検査領域を示していることを確実にする。動き補正方法は先行技術(例えば、EP3118644、EP3322997、US20080317315、US20170269182、US20140062481、EP2626718を参照)に記載されている。
【0077】
本発明は、本発明に係る方法を実行できるようにするシステムを提供する。
【0078】
前述のユニットは単一のコンピュータシステムの構成要素と考えられるが、前述のユニットは、データおよび/または制御信号を一つのユニットから別のユニットへと送信するためにネットワークを介して互いに接続された多数の別々のコンピュータシステムの構成要素とも考えられる。
【0079】
「コンピュータシステム」は、プログラム可能な演算規則を用いてデータを処理する、電子データ処理用のシステムである。
そのようなシステムは通常、論理演算を実行するプロセッサを含む装置である「コンピュータ」を含み、周辺機器も含む。
【0080】
コンピュータ技術では、「周辺機器」はコンピュータに接続されてコンピュータを制御するのに役立つ、および/または入出力装置として機能するすべての機器を指す。その例は、モニタ(画面)、プリンタ、スキャナ、マウス、キーボード、ドライブ、カメラ、マイク、スピーカなどである。内部ポートおよび拡張カードもコンピュータ技術では周辺機器とみなされる。
【0081】
今日のコンピュータシステムは、しばしば、デスクトップPC、ポータブルPC、ラップトップ、ノートブック、ネットブックおよびタブレットPC、そしていわゆる携帯機器(例えばスマートフォン)へと分けられ、これらすべてのシステムは本発明を実施するのに利用することができる。
【0082】
コンピュータシステムへの入力は、例えばキーボード、マウス、マイク、タッチセンサー式ディスプレイ、および/または同種のものなどの入力手段により実現される。
【0083】
本発明に係るシステムは、肝細胞造影相のコントラストが強調された少なくとも1つの第1MRI画像と、ダイナミック相のコントラストが強調された少なくとも1つの第2MRI画像とを受信して、これらのデータおよび任意選択で更なるデータに基づいて、検査領域、すなわち肝臓または肝臓の一部分を示す、コントラスト強調のない1つまたは複数のMRI画像を生成する(予測する、算出する)よう構成される。
【0084】
制御演算ユニットは、受信ユニットの制御、様々なユニット間のデータおよび信号の流れの調整、ならびにMRI画像の処理および生成に役立つ。多数の制御演算ユニットが存在すると考えられる。
【0085】
受信ユニットはMRI画像の受信に役立つ。MRI画像は、例えば磁気共鳴システムから送信することができる、またはデータ記憶媒体から読み出すことができる。磁気共鳴システムは、本発明に係るシステムの構成要素でありうる。ただし、本発明に係るシステムは磁気共鳴システムの構成要素であるとも考えられる。
【0086】
少なくとも1つの第1MRI画像と、少なくとも1つの第2MRI画像と、任意選択で更なるデータとが受信ユニットから制御演算ユニットへ送信される。
【0087】
制御演算ユニットは、検査領域を示す、ダイナミック相および肝細胞造影相のコントラストが強調されたMRI画像に基づいて、コントラストを強調することなく検査領域を示す1つまたは複数のMRI画像を予測するよう構成される。好ましくは、制御演算ユニットのメモリへロード可能なものは、コントラスト強調のないMRI画像を算出するのに使用される予測モデルである。予測モデルは、好ましくは教師あり学習により、自己学習アルゴリズムを用いて作成(訓練)された。
【0088】
出力ユニットを介して、少なくとも1つの予測されるMRI画像は、(例えばモニタ上に)表示する、(例えばプリンタを用いて)出力する、またはデータ記憶媒体に記憶することができる。
【0089】
本発明の更なる実施形態は、MRI方式での造影剤の利用法または使用する造影剤に関連し、このMRI方式は、
-検査対象の肝臓内で拡散する造影剤を投与するステップと、
-検査対象の肝臓また肝臓の一部分を示す少なくとも1つの第1MRI画像であって、肝臓内の血管は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出される、少なくとも1つの第1MRI画像を生成するステップと、
-同じ肝臓または肝臓の同じ部分を示す少なくとも1つの第2MRI画像であって、健康な肝臓細胞は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出される、少なくとも1つの第2MRI画像を生成するステップと、
-生成したMRI画像を予測モデルへ送るステップであって、予測モデルは、検査対象の肝臓または肝臓の一部分を示すMRI画像であって、肝臓内の血管は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出されるMRI画像に基づいて、かつ同じ検査対象の同じ肝臓または肝臓の同じ部分のMRI画像であって、健康な肝臓細胞は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出されるMRI画像に基づいて、検査対象の肝臓または肝臓の一部分を示す、造影剤により生じるコントラスト強調のない1つまたは複数のMRI画像を予測するよう教師あり学習を用いて訓練されている、送るステップと、
-予測モデルから出力された、検査対象の肝臓または肝臓の一部分を示す、造影剤により生じるコントラスト強調のない1つまたは複数の予測されるMRI画像を受信するステップと、
-1つまたは複数の予測されるMRI画像を表示および/もしくは出力する、ならびに/または1つまたは複数の予測されるMRI画像をデータ記憶媒体に記憶するステップと、
を含む。
【0090】
好ましい変形では、少なくとも1つの「第2MRI画像」は第1造影剤の検査対象への(最初の)投与後に生成され、少なくとも1つの「第1MRI画像」は同じ検査対象への第1造影剤の2回目の投与後、または第2造影剤の投与後に生成される。これは、上で定義した「第2MRI画像」は、時間的には、上で定義した「第1MRI画像」より前に生成されることを意味する。
【0091】
本発明は以下で図を参照してより詳細に説明されるが、本発明を図中で示される特徴または特徴の組み合わせに限定することは望んでいない。
図1は、肝臓動脈(A)、肝臓静脈(P)、および健康な肝臓細胞(L)内の造影剤の濃度の時間的プロファイルを概略的に示す。濃度は、記載の領域(肝臓動脈、肝臓静脈、および肝臓細胞)において、磁気共鳴測定中の信号強度Iの形で時間tの関数として描かれている。静脈内ボーラス注射がなされた後に、造影剤の濃度はまず肝臓動脈(A)内で上昇する(破線の曲線)。濃度は最大値を通過して、その後下がる。肝臓静脈(P)内の濃度は、肝臓動脈内よりもっとゆっくりと上昇し、後でその最大値に達する(点線の曲線)。肝臓細胞(L)内の造影剤の濃度はゆっくりと上昇し(連続した曲線)、ずっと後の時点でその最大値に達する(
図1には描かれていない)。いくつかの特徴的な時点を規定することができる。時点TP0では造影剤は静脈内にボーラスとして投与される。時点TP1において、肝臓動脈内の造影剤の濃度(信号強度)は、その最大値に達する。時点TP2において、肝臓動脈および肝臓静脈での信号強度の曲線は交わる。時点TP3において、肝臓静脈内の造影剤の濃度(信号強度)は、その最大値を通過する。時点TP4において、肝臓静脈および肝臓細胞での信号強度の曲線は交わる。時点TP5において、肝臓動脈内および肝臓静脈内の濃度は目に見えるコントラスト強調をもはや生じないレベルまで低下した。
【0092】
図2は、短縮されたMRI画像取得手順の例を概略的に示す。短縮されたMRI画像取得手順では、造影剤がまず投与される(1)。特定の待機期間、例えば10~20分後に検査対象がMRIへ案内される(2)。その後、MRIプロセスが開始され、肝細胞造影相で肝臓または肝臓の一部分のMRIがまず実施される(3)。その後、更なる静脈内ボーラスが検査対象へ投与されて(4)、直後にダイナミック相で肝臓または肝臓の一部分のMRIが実施される。
【0093】
図3は、本発明に係るシステムの好ましい実施形態を概略的に示す。システム(10)は、受信ユニット(11)と、制御演算ユニット(12)と、出力ユニット(13)とを含む。
【0094】
制御演算ユニット(12)は、検査対象の肝臓または肝臓の一部分を示す、検査対象の少なくとも1つの第1MRI画像を受信するよう受信ユニット(11)に促すよう構成され、肝臓内の血管は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出される。
【0095】
制御演算ユニット(12)はさらに、同じ肝臓または肝臓の同じ部分を示す、検査対象の少なくとも1つの第2MRI画像を受信するよう受信ユニット(11)に促すよう構成され、健康な肝臓細胞は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出される。
【0096】
制御演算ユニット(12)はさらに、受信した複数のMRI画像に基づいて、検査対象の肝臓または肝臓の一部分を示す、造影剤により生じるコントラスト強調のない1つまたは複数のMRI画像を予測するよう構成される。
【0097】
制御演算ユニット(12)はさらに、少なくとも1つの予測されるMRI画像を表示して、少なくとも1つの予測されるMRI画像を出力する、またはデータ記憶媒体に記憶するよう出力ユニット(13)に促すよう構成される。
【0098】
図4は、本発明に係る方法の一実施形態を概略的、かつ例示的に示す。方法(100)は、
-検査対象の肝臓または肝臓の一部分を示す、検査対象の少なくとも1つの第1MRI画像であって、肝臓内の血管は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出される、少なくとも1つの第1MRI画像を受信するステップ(110)と、
-同じ肝臓または肝臓の同じ部分を示す、同じ検査対象の少なくとも1つの第2MRI画像であって、健康な肝臓細胞は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出される、少なくとも1つの第2MRI画像を受信するステップ(120)と、
-受信した複数のMRI画像を予測モデルへ送るステップであって、予測モデルは、検査対象の肝臓または肝臓の一部分を示すMRI画像であって、肝臓内の血管は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出されるMRI画像に基づいて、かつ同じ検査対象の同じ肝臓または肝臓の同じ部分のMRI画像であって、健康な肝臓細胞は、造影剤のためにコントラストが強調されて描出されるMRI画像に基づいて、検査対象の肝臓または肝臓の一部分を示す、造影剤により生じるコントラスト強調のない1つまたは複数のMRI画像を予測するよう教師あり学習を用いて訓練されている、送るステップ(130)と、
-予測モデルから、検査対象の肝臓または肝臓の一部分を示す、造影剤により生じるコントラスト強調のない1つまたは複数の予測されるMRI画像を受信するステップ(140)と、
-1つまたは複数の予測されるMRI画像を表示および/もしくは出力する、ならびに/または1つまたは複数の予測されるMRI画像をデータ記憶媒体に記憶するステップ(150)と、
を含む。
【0099】
図5は、本発明の更なる実施形態を例示的、かつ概略的に示す。検査対象の肝臓または肝臓の一部分を示す第1MRI画像(1)が提供され、肝臓内の血管は、造影剤のためにコントラストが強調(信号が強調)されて描出される。
【0100】
第1MRI画像と同じ肝臓または肝臓の同じ部分を示す第2MRI画像(2)が提供され、健康な肝組織(実質)は、造影剤のためにコントラストが強調(信号が強調)されて描出される。
【0101】
第1MRI画像(1)および第2MRI画像(2)は、予測モデル(PM)へ送られる。
【0102】
予測モデル(PM)は、第1MRI画像(1)および第2MRI画像(2)とに基づいて、造影剤により生じるコントラスト強調のないMRI画像を示す第3MRI画像(3)を生成するよう構成される。
【0103】
予測モデルは、好ましくは訓練用データセットを用いた教師あり機械学習のプロセスで自己学習アルゴリズムを用いて作成された。訓練用データセットは、非常に多数の第1MRI画像、第2MRI画像、および関連する第3MRI画像を含み、第3MRI画像は、例えば造影剤の最初の静脈内ボーラスの投与前に実際に記録されている。
【0104】
自己学習アルゴリズムは、機械学習の間に訓練データに基づく統計的モデルを生成する。これは、例が単に暗記されるのではなく、アルゴリズムが訓練データ内のパターンと規則性を「認識する」ということを意味する。また、それゆえ、アルゴリズムは未知のデータを評価することもできる。検証データは、未知のデータの評価の品質を検査するのに使用することができる。
【0105】
自己学習アルゴリズムは教師あり学習を用いて訓練される、つまり、第1MRI画像および第2MRI画像がアルゴリズムへ渡されて、どの第3MRI画像が特定の第1MRI画像および第2MRI画像と関連しているかが通知される。そしてアルゴリズムは、未知の第1MRI画像および第2MRI画像に対する第3MRI画像を予測する(算出する)ために、MRI画像間の関係を学習する。
【0106】
教師あり学習を用いて訓練される自己学習アルゴリズムは先行技術で広く記載されている(例えば、「C. Perez: Machine Learning Techniques: Supervised Learning and Classification, Amazon Digital Services LLC - Kdp Print Us, 2019, ISBN 1096996545, 9781096996545」を参照)。
【0107】
好ましくは、予測モデルは人工ニューラルネットワークである。
【0108】
そのような人工ニューラルネットワークは、少なくとも3層の処理要素、すなわち、入力ニューロン(ノード)を有する第1層と、少なくとも1つの出力ニューロン(ノード)を有する第N層と、(N-2)個の中間層を含み、Nは自然数で2より大きい。
【0109】
入力ニューロンは、デジタルMRI画像を入力値として受信する働きをする。通常は、デジタルMRI画像の各画素または各ボクセルに対して1つの入力ニューロンが存在する。追加の入力値(例えば、検査領域についての情報、検査対象についての情報、および/またはMRI画像の生成時の支配的な条件についての情報)に対して追加の入力ニューロンが存在しうる。
【0110】
そのようなネットワークでは、出力ニューロンは第1MRI画像および第2MRI画像に対する第3MRI画像を生成する働きをする。
【0111】
入力ニューロンと出力ニューロンの間の層の処理要素は、所定のパターンで所定の結合荷重で互いに接続される。
【0112】
好ましくは、人工ニューラルネットワークは、いわゆる畳み込みニューラルネットワーク(略してCNN)である。
【0113】
畳み込みニューラルネットワークは、行列の形式の入力データを処理することができる。これにより、行列(例えば、幅×高さ×カラーチャンネル)として描出されたデジタルMRI画像を入力データとして使用することが可能となる。対照的に、通常のニューラルネットワークは、例えば多層パーセプトロン(MLP)の形で、入力として、すなわち、MRI画像を入力として使用するためにベクトルを必要とし、MRI画像の画素またはボクセルは連続的に長い鎖状に送り出す必要がある。その結果、通常のニューラルネットワークは、例えば、MRI画像内の物体をMRI画像内の物体の位置と無関係に認識することができない。MRI画像内の異なる位置にある同じ物体は、完全に異なる入力ベクトルを持つであろう。
【0114】
CNNは本質的に、交互に繰り返されるフィルタ(畳み込み層)と集約層(プーリング層)、そして終端に「通常の」完全に接続されたニューロン(密に/完全に接続された層)の1つ、または多数の層からなる。
【0115】
詳細は、先行技術(例えば、「S. Khan et al.: A Guide to Convolutional Neural Networks for Computer Vision, Morgan & Claypool Publishers 2018, ISBN 1681730227, 9781681730226」を参照)から得ることができる。
【0116】
ニューラルネットワークの訓練は、例えば誤差逆伝搬法を用いて行うことができる。これに関して、ネットワークで求められるものは、所与の入力ベクトルをできるだけ信頼できる所与の出力ベクトルへマッピングすることである。マッピング品質は誤差関数により記述される。目標は誤差関数を最小化することである。誤差逆伝搬法の場合、人工ニューラルネットワークは結合荷重を変更することで教育される。
【0117】
訓練された状態では、処理要素間の結合荷重は、ダイナミック相および肝細胞造影相のコントラストが強調されたMRI画像と、コントラスト強調のないMRI画像であって、同じ検査領域のコントラストが強調されたMRI画像だけを用いて算出される、コントラストを強調することなく検査領域を示す1つまたは複数のMRI画像を予測するのに使用できる、コントラスト強調のないMRI画像との間の関係に関する情報を含む。
【0118】
データを訓練用データセットと検証用データセットへ分類するために交差検証法を使用することができる。訓練用データセットはネットワークの重みに対する誤差逆伝搬法の訓練で使用される。検証用データセットは、予測の精度を確認するために使用され、訓練されたネットワークをこの検証用データセットと共に未知の複数のMRI画像へ適用することができる。