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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】車両用ブレーキ液圧制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/12 20060101AFI20241113BHJP
【FI】
B60T7/12 B
B60T7/12 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022533868
(86)(22)【出願日】2021-06-21
(86)【国際出願番号】 JP2021023296
(87)【国際公開番号】W WO2022004442
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2024-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2020112649
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】315019735
【氏名又は名称】日立Astemo上田株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116034
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 啓輔
(74)【代理人】
【識別番号】100144624
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 達也
(72)【発明者】
【氏名】小暮 佳奈子
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-100923(JP,A)
【文献】特開2017-071313(JP,A)
【文献】特開2014-172477(JP,A)
【文献】特開2007-055536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が停止したと判定した場合にブレーキ液圧を保持する停車時保持制御を実行可能であり、前記停車時保持制御の実行の可否を決めるための停車時保持制御スイッチがONの場合に、前記停車時保持制御の開始条件が満たされると前記停車時保持制御を実行し、前記停車時保持制御スイッチがOFFの場合に、前記停車時保持制御の開始条件が満たされても前記停車時保持制御を実行しない車両用ブレーキ液圧制御装置であって、
前記停車時保持制御中において、車両の横方向の挙動量が規定値以上であること、および、車両に加わる前後加速度の絶対値が第1閾値以上であることを含む第1条件が満たされた場合には、前記停車時保持制御スイッチがOFFにされず、かつ、車両を操作するための操作部材の操作がなくても、前記停車時保持制御を解除することを特徴とする車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項2】
前記停車時保持制御中において、車両の横方向の挙動量が前記規定値以上であること、および、前記操作部材の操作が行われたことを含む第2条件が満たされた場合に、前記停車時保持制御を解除することを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項3】
前記第2条件は、車両に加わる前後加速度の絶対値が第2閾値以上であることをさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項4】
前記第1閾値は、前記第2閾値より大きいことを特徴とする請求項3に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項5】
前記第1閾値は、推定された路面勾配に基づいて設定されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用ブレーキ液圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば車両が停止した際にブレーキ液圧を保持する停車時保持制御を実行する車両用ブレーキ液圧制御装置として、停車時保持制御中に車両にヨーレートが加わるとブレーキ液圧を低下させるものが知られている(特表2006-528579号公報参照)。この技術では、アイス路等の低μ路面の坂道で停車していた車両が回転しながらずり下がると、保持されていたブレーキ液圧が低下するので、車輪のロックが解消されてドライバーの操作で車両の立て直しを図ることが可能となっている。
【発明の概要】
【0003】
しかしながら、従来のように停車時保持制御中においてヨーレートに基づいてブレーキ液圧を低下させると、例えば立体駐車場のターンテーブル上において停車した車両にターンテーブルが回転することでヨーレートが加わると、ドライバーの意図に反してブレーキ液圧が低下してしまうおそれがあった。
【0004】
停車時保持制御中においてドライバーの意図に反するブレーキ液圧の低下を抑えることができる車両用ブレーキ液圧制御装置を提供することが望まれている。
【0005】
上述の背景に鑑み、車両が停止したと判定した場合にブレーキ液圧を保持する停車時保持制御を実行可能な車両用ブレーキ液圧制御装置であって、前記停車時保持制御中において、車両の横方向の挙動量が規定値以上であること、および、車両に加わる前後加速度の絶対値が第1閾値以上であることを含む第1条件が満たされた場合には、車両を操作するための操作部材の操作がなくても、前記停車時保持制御を解除する車両用ブレーキ液圧制御装置を開示する。
【0006】
この構成によれば、第1条件が満たされた場合には、操作部材を操作しなくても停車時保持制御が解除されるので、停車時保持制御を迅速に解除することができる。また、第1閾値を、ターンテーブルが常識的に設置されないような路面勾配に対応した値に設定することで、ターンテーブル上において車両に横方向の挙動量が発生しても、ドライバーの意図に反するブレーキ液圧の低下を抑えることができる。
【0007】
また、前記車両用ブレーキ液圧制御装置は、前記停車時保持制御中において、前記第1条件、または、車両の横方向の挙動量が前記規定値以上であること、および、前記操作部材の操作が行われたことを含む第2条件が満たされた場合に、前記停車時保持制御を解除してもよい。
【0008】
これによれば、停車時保持制御中において、挙動量が規定値以上になっても、操作部材の操作が行われなければ停車時保持制御が解除されないので、例えば立体駐車場のターンテーブル上などにおいて車両に横方向の挙動量が発生しても、ドライバーの意図に反するブレーキ液圧の低下を抑えることができる。なお、アイス路等の低μ路面の坂道における停車時保持制御中において車両が回転しながらずり下がった場合には、車両に横方向の挙動量が発生するとともに、ドライバーが車両を立て直そうとして操作部材を操作することで、停車時保持制御が解除され、ブレーキ液圧が低下されるので、車両の立て直しを行うことができる。
【0009】
また、前記第2条件は、車両に加わる前後加速度の絶対値が第2閾値以上であることをさらに含んでいてもよい。
【0010】
また、前記第1閾値は、前記第2閾値より大きくてもよい。
【0011】
第2条件は、操作部材の操作の条件を含んでいるため、第2閾値を例えばターンテーブルの設置が十分あり得るような小さな路面勾配に対応した値に設定しても、ターンテーブルでの誤判定を抑えることができる。
【0012】
また、前記第1閾値は、推定された路面勾配に基づいて設定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置を備えた車両の構成図である。
図2】車両用ブレーキ液圧制御装置のブレーキ液圧回路図である。
図3】制御部のブロック構成図である。
図4】第1条件を満たすかの判断処理を示すフローチャートである。
図5】第2条件を満たすかの判断処理を示すフローチャートである。
図6】停車時保持制御を解除するための処理を示すフローチャートである。
図7】第1条件で停車時保持制御が解除される場合における各種パラメータの変化を示すタイムチャート(a)~(h)である。
図8】第2条件で停車時保持制御が解除される場合における各種パラメータの変化を示すタイムチャート(a)~(h)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
車両用ブレーキ液圧制御装置の一実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に示すように、車両用ブレーキ液圧制御装置100は、車両CRの各車輪Wに付与する制動力(ブレーキ液圧)を適宜制御するためのものである。車両用ブレーキ液圧制御装置100は、油路(液圧路)や各種部品が設けられた液圧ユニット10と、液圧ユニット10内の各種部品を適宜制御するための制御部20とを主に備えている。
【0015】
制御部20には、車輪速センサ91、操舵角センサ92、横加速度センサ93、ヨーレートセンサ94、および加速度センサ95が接続されている。車輪速センサ91は、車輪Wの車輪速度を検出する。操舵角センサ92は、操作部材の一例としてのステアリングSTの操舵角を検出する。横加速度センサ93は、車両CRの横方向に働く加速度を検出する。ヨーレートセンサ94は、車両CRの横方向の挙動量としての車両CRの旋回角速度(ヨーレート)を検出する。加速度センサ95は、車両CRの前後方向の加速度を検出する。各センサ91~95の検出結果は、制御部20に出力される。
【0016】
制御部20は、例えば、CPU、RAM、ROMおよび入出力回路を備えており、車輪速センサ91、操舵角センサ92、横加速度センサ93、ヨーレートセンサ94および加速度センサ95や後述する圧力センサ8(図2参照)からの入力と、ROMに記憶されたプログラムやデータに基づいて各演算処理を行うことによって、制御を実行する。また、ホイールシリンダHは、マスタシリンダMCおよび車両用ブレーキ液圧制御装置100により発生されたブレーキ液圧を各車輪Wに設けられた車輪ブレーキFR,FL,RR,RLの作動力に変換する液圧装置であり、それぞれ配管を介して車両用ブレーキ液圧制御装置100の液圧ユニット10に接続されている。
【0017】
図2に示すように、車両用ブレーキ液圧制御装置100の液圧ユニット10は、運転者がブレーキペダルBPに加える踏力に応じたブレーキ液圧を発生する液圧源であるマスタシリンダMCと、車輪ブレーキFR,FL,RR,RLとの間に配置されている。液圧ユニット10は、ブレーキ液が流通する油路を有する基体であるポンプボディ10a、油路上に複数配置された入口弁1、出口弁2などから構成されている。マスタシリンダMCの二つの出力ポートM1,M2は、ポンプボディ10aの入口ポート121に接続され、ポンプボディ10aの出口ポート122が、各車輪ブレーキFR,FL,RR,RLに接続されている。そして、通常時はポンプボディ10a内の入口ポート121から出口ポート122までが連通した油路となっていることで、ブレーキペダルBPの踏力が各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに伝達されるようになっている。
【0018】
ここで、出力ポートM1から始まる油路は、前輪左側の車輪ブレーキFLと後輪右側の車輪ブレーキRRに通じている。出力ポートM2から始まる油路は、前輪右側の車輪ブレーキFRと後輪左側の車輪ブレーキRLに通じている。なお、以下では、出力ポートM1から始まる油路を「第一系統」と称し、出力ポートM2から始まる油路を「第二系統」と称する。
【0019】
液圧ユニット10には、その第一系統に各車輪ブレーキFL,RRに対応して二つの制御弁ユニットVが設けられており、同様に、その第二系統に各車輪ブレーキRL,FRに対応して二つの制御弁ユニットVが設けられている。また、この液圧ユニット10には、第一系統および第二系統のそれぞれに、リザーバ3、ポンプ4、オリフィス5a、調圧弁(レギュレータ)R、吸入弁7が設けられている。また、液圧ユニット10には、第一系統のポンプ4と第二系統のポンプ4とを駆動するための共通のモータ9が設けられている。このモータ9は、回転数制御可能なモータであり、本実施形態では、デューティ制御により回転数制御が行われる。また、本実施形態では、第二系統にのみ圧力センサ8が設けられている。
【0020】
なお、以下では、マスタシリンダMCの出力ポートM1,M2から各調圧弁Rに至る油路を「出力液圧路A1」と称し、第一系統の調圧弁Rから車輪ブレーキFL,RRに至る油路および第二系統の調圧弁Rから車輪ブレーキRL,FRに至る油路をそれぞれ「車輪液圧路B」と称する。また、出力液圧路A1からポンプ4に至る油路を「吸入液圧路C」と称し、ポンプ4から車輪液圧路Bに至る油路を「吐出液圧路D」と称し、さらに、車輪液圧路Bから吸入液圧路Cに至る油路を「開放路E」と称する。
【0021】
制御弁ユニットVは、マスタシリンダMCまたはポンプ4から車輪ブレーキFL,RR,RL,FR(詳細には、ホイールシリンダH)への液圧の行き来を制御する弁であり、ホイールシリンダHの圧力を増加、保持または低下させることができる。そのため、制御弁ユニットVは、入口弁1、出口弁2、チェック弁1aを備えて構成されている。
【0022】
入口弁1は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRとマスタシリンダMCとの間、すなわち車輪液圧路Bに設けられた常開型の比例電磁弁である。そのため、入口弁1に流す駆動電流の値に応じて、入口弁1の上下流の差圧が調整可能となっている。
【0023】
出口弁2は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRと各リザーバ3との間、すなわち車輪液圧路Bと開放路Eとの間に介設された常閉型の電磁弁である。出口弁2は、通常時に閉塞されているが、車輪Wがロックしそうになったときに制御部20により開放されることで、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに作用するブレーキ液圧を各リザーバ3に逃がす。
【0024】
チェック弁1aは、各入口弁1に並列に接続されている。このチェック弁1aは、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RR側からマスタシリンダMC側へのブレーキ液の流入のみを許容する弁であり、ブレーキペダルBPからの入力が解除された場合に、入口弁1を閉じた状態にしたときにおいても、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RR側からマスタシリンダMC側へのブレーキ液の流入を許容する。
【0025】
リザーバ3は、開放路Eに設けられており、各出口弁2が開放されることによって逃がされるブレーキ液を一時的に貯留する機能を有している。また、リザーバ3とポンプ4との間には、リザーバ3側からポンプ4側へのブレーキ液の流れのみを許容するチェック弁3aが介設されている。
【0026】
ポンプ4は、出力液圧路A1に通じる吸入液圧路Cと車輪液圧路Bに通じる吐出液圧路Dとの間に介設されており、リザーバ3で貯留されているブレーキ液を吸入して吐出液圧路Dに吐出する機能を有している。これにより、リザーバ3により吸収されたブレーキ液をマスタシリンダMCに戻すことができるとともに、ブレーキペダルBPの操作の有無に関わらずブレーキ液圧を発生して、車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに制動力を発生することができる。
なお、ポンプ4によるブレーキ液の吐出量は、モータ9の回転数(デューティ比)に依存している。すなわち、モータ9の回転数(デューティ比)が大きくなると、ポンプ4によるブレーキ液の吐出量も大きくなる。
【0027】
オリフィス5aは、ポンプ4から吐出されたブレーキ液の圧力の脈動を減衰させている。
【0028】
調圧弁Rは、通常時に出力液圧路A1から車輪液圧路Bへのブレーキ液の流れを許容するとともに、ポンプ4が発生したブレーキ液圧によりホイールシリンダH側の圧力を増加するときには、この流れを遮断しつつ、車輪液圧路BおよびホイールシリンダH側の圧力を設定値以下に調節する機能を有し、切換弁6およびチェック弁6aを備えて構成されている。
【0029】
切換弁6は、マスタシリンダMCに通じる出力液圧路A1と各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに通じる車輪液圧路Bとの間に介設された常開型の比例電磁弁である。詳細は図示しないが、切換弁6の弁体は、付与される電流に応じた電磁力によって閉弁方向へ付勢されており、車輪液圧路Bの圧力が出力液圧路A1の圧力より所定値(この所定値は、付与される電流による)以上高くなった場合には、車輪液圧路Bから出力液圧路A1へ向けてブレーキ液が逃げることで、車輪液圧路B側の圧力が所定圧に調整される。すなわち、切換弁6に入力される駆動電流の値(指示電流値)に応じて閉弁力を任意に変更することで、切換弁6の上下流の差圧が調整されて、車輪液圧路Bの圧力を設定値以下に調節可能となっている。
【0030】
チェック弁6aは、各切換弁6に並列に接続されている。このチェック弁6aは、出力液圧路A1から車輪液圧路Bへのブレーキ液の流れを許容する一方向弁である。
【0031】
吸入弁7は、吸入液圧路Cに設けられた常閉型の電磁弁であり、吸入液圧路Cを開放する状態および遮断する状態を切り換えるものである。吸入弁7は、例えば、ポンプ4によって各車輪ブレーキFL,FR,RL,RR内の液圧を加圧するときに制御部20の制御により開弁される。
【0032】
圧力センサ8は、出力液圧路A1のブレーキ液圧を検出するものであり、その検出結果は制御部20に入力される。
【0033】
次に、制御部20の詳細について説明する。
図3に示すように、制御部20は、各センサ91~95,8から入力された信号に基づき、液圧ユニット10内の制御弁ユニットV、調圧弁R(切換弁6)および吸入弁7の開閉動作ならびにモータ9の動作を制御して、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRの動作を制御するものである。制御部20は、挙動判定部21、操作判定部22、液圧制御部23、弁駆動部24、モータ駆動部25および記憶部26を備えている。
【0034】
挙動判定部21は、ヨーレートセンサ94から出力されてくるヨーレートYの絶対値(以下、単に「ヨーレートY」とも称する。)が規定値Yth以上か否かを判定する機能を有している。そして、この挙動判定部21は、ヨーレートYが規定値Yth以上であると判定すると、そのことを示すヨーレート発生信号を液圧制御部23に出力する。
【0035】
操作判定部22は、操舵角センサ92から出力されてくる操舵角θ(絶対値)が操舵角規定値θth以上か否かを判定することで、ステアリングSTの操作が行われたか否かを判定する機能を有している。そして、この操作判定部22は、操作が行われたと判定すると、そのことを示す操作信号を液圧制御部23に出力する。
【0036】
なお、前述した規定値Ythや操舵角規定値θthは、実験やシミュレーション等により適宜設定すればよい。
【0037】
液圧制御部23は、各センサ91~95,8から入力された信号に基づいて、例えば公知の横滑り抑制制御モードや、トラクション制御モードや、停車時保持制御などの複数種類の制御モードでブレーキ液圧を制御するために、各種弁の動作やモータ9の駆動を弁駆動部24やモータ駆動部25に指示する機能を有している。ここで、停車時保持制御とは、車両が停車する際にブレーキ液圧を保持するモードであり、例えば、停車時におけるブレーキペダルBPの踏込力に応じたブレーキ液圧に保持したり、停車時におけるブレーキペダルBPの踏込力に応じたブレーキ液圧よりも高い液圧(ポンプ4で昇圧した液圧)に保持するモードをいう。なお、各種制御モードは、記憶部26に記憶されている。
【0038】
また、液圧制御部23は、挙動判定部21および操作判定部22から出力されてくる信号に基づいて、停車時保持制御中において、車両CRがスキッド状態(横滑り状態)か否かを判定するスキッド判定部23aを有している。具体的に、スキッド判定部23aは、停車時保持制御中において、ヨーレートYが規定値Yth以上であること、および、車両CRに加わる前後加速度の絶対値Gが第1閾値G1以上であることを含む第1条件が満たされた場合には、第1条件の成立によってスキッドが発生したことを示す第1フラグF1を1にする機能を有している。ここで、第1閾値G1は、ターンテーブルが常識的に設置されないような路面勾配に対応した値に設定されている。具体的に、第1閾値G1は、10~15%の路面勾配に対応した値に設定するのが好ましく、11~13%の路面勾配に対応した値に設定するのがより好ましい。
【0039】
また、スキッド判定部23aは、停車時保持制御中において、ヨーレートYが規定値Yth以上であること、ステアリングSTの操作が行われたこと、および、前後加速度の絶対値Gが第1閾値G1より小さな第2閾値G2以上であることを含む第2条件が満たされた場合には、第2条件の成立によってスキッドが発生したことを示す第2フラグF2を1にする機能を有している。ここで、第2閾値G2は、ターンテーブルの設置条件を考慮しない極めて小さな値に設定することができ、例えば、5%以下の路面勾配に対応した値に設定することができる。
【0040】
液圧制御部23は、車両CRが停止したか否かを判定し、車両CRが停止したと判定した場合に、停車時保持制御を開始する機能を有している。ここで、車両CRが停止したか否かの判定方法は、どのような方法であってもよく、例えば、車輪速センサ91からの信号に基づいて算出した車体速度が所定値V1(図7(a)参照)以下であるか否を判定することで車両CRの停止を判断する方法などが挙げられる。
【0041】
また、液圧制御部23は、停車時保持制御中において、第1フラグF1または第2フラグF2が1である場合には、公知の解除条件の成立に関わらず、停車時保持制御を解除するように構成されている。つまり、液圧制御部23は、停車時保持制御中において、第1条件または第2条件が満たされた場合には、停車時保持制御を解除するように構成されている。特に、液圧制御部23は、停車時保持制御中において、第1条件が満たされた場合には、停車時保持制御スイッチやステアリングSTの操作がなくても、停車時保持制御を解除するように構成されている。
【0042】
ここで、停車時保持制御スイッチとは、制御部20による停車時保持制御の実行の可否を決めるためのスイッチである。制御部20は、停車時保持制御スイッチがONの場合には、停車時保持制御の開始条件が満たされると停車時保持制御を実行する。また、制御部20は、停車時保持制御スイッチがOFFの場合には、停車時保持制御の開始条件が満たされても停車時保持制御を実行しない。さらに、制御部20は、停車時保持制御中に、停車時保持制御スイッチがONからOFFにされると、停車時保持制御を解除する。
【0043】
なお、公知の解除条件としては、例えば、シフトポジションが「D」または「R」で発進操作が行われたことなどが挙げられる。
【0044】
弁駆動部24は、液圧制御部23の指示に基づいて、制御弁ユニットV、調圧弁Rおよび吸入弁7を制御する部分である。そのため、弁駆動部24は、制御弁ユニット駆動部24a、調圧弁駆動部24bおよび吸入弁駆動部24cを有する。
【0045】
制御弁ユニット駆動部24aは、液圧制御部23の増圧、保持または減圧の指示に基づいて入口弁1および出口弁2を制御する。具体的には、ホイールシリンダHの圧力を増加すべき場合には、入口弁1および出口弁2の双方に電流を流さない。そして、ホイールシリンダHの圧力を減少させるべき場合には、入口弁1および出口弁2の双方に信号を送り、入口弁1を閉じ、出口弁2を開放させることで、ホイールシリンダHのブレーキ液を出口弁2から流出させる。また、ホイールシリンダHの圧力を保持する場合には、入口弁1に信号を送り、出口弁2には電流を流さないことで、入口弁1と出口弁2の双方を閉じる。
【0046】
調圧弁駆動部24bは、通常時は、調圧弁Rに電流を流さない。そして、液圧制御部23から駆動の指示があった場合には、この指示に従い調圧弁Rにデューティ制御により電流を供給する。調圧弁Rに電流が供給されると、調圧弁RのマスタシリンダMC側と制御弁ユニットV(ホイールシリンダH)側との間には、この電流に応じた差圧が形成される。その結果、調圧弁Rと制御弁ユニットVの間の吐出液圧路Dの液圧が調整される。
【0047】
吸入弁駆動部24cは、通常時は、吸入弁7に電流を流さない。そして、液圧制御部23から指示があった場合には、この指示に従い吸入弁7に信号を出力する。これにより、吸入弁7が開いてマスタシリンダMCからポンプ4へブレーキ液が吸入されるようになっている。
【0048】
モータ駆動部25は、液圧制御部23の指示に基づきモータ9の回転数を決定し、駆動するものである。すなわち、モータ駆動部25は、回転数制御によりモータ9を駆動するものであり、本実施形態では、デューティ制御により回転数制御を行う。
【0049】
次に、制御部20の動作を図4から図6を参照して説明する。
制御部20は、常時、図4および図5に示すスキッド判定処理と、図6に示す停車時保持制御を解除するための処理を繰り返し実行する。
【0050】
図4に示す処理において、制御部20は、まず、停車時保持制御中であるか否かを判断する(S1)。ステップS1において停車時保持制御中であると判断した場合には(Yes)、制御部20は、車両CRに加わるヨーレートYが規定値Yth以上であるか否かを判断する(S2)。
【0051】
ステップS2においてY≧Ythであると判断した場合には(Yes)、制御部20は、前後加速度の絶対値Gが第1閾値G1以上であるか否かを判断する(S3)。ステップS3においてG≧G1であると判断した場合には(Yes)、制御部20は、第1条件が満たされたと判断して、第1フラグF1を1に設定し(S4)、本制御を終了する。
【0052】
また、制御部20は、ステップS1~S3のいずれかにおいてNoと判断すると、第1フラグF1を0に設定して(S5)、本制御を終了する。
【0053】
図5に示す処理において、制御部20は、まず、停車時保持制御中であるか否かを判断する(S11)。ステップS11において停車時保持制御中であると判断した場合には(Yes)、制御部20は、車両CRに加わるヨーレートYが規定値Yth以上であるか否かを判断する(S12)。
【0054】
ステップS12においてY≧Ythであると判断した場合には(Yes)、制御部20は、前後加速度の絶対値Gが第2閾値G2以上であるか否かを判断する(S13)。ステップS13においてG≧G2であると判断した場合には(Yes)、制御部20は、ステアリングSTの操舵角θが操舵角規定値θth以上であるか否かを判断する(S14)。
【0055】
ステップS14においてθ≧θthであると判断した場合には(Yes)、制御部20は、第2条件が満たされたと判断して、第2フラグF2を1に設定し(S15)、本制御を終了する。
【0056】
また、制御部20は、ステップS11~S14のいずれかにおいてNoと判断すると、第2フラグF2を0に設定して(S16)、本制御を終了する。
【0057】
図6に示す処理において、制御部20は、まず、停車時保持制御中であるか否かを判断する(S21)。ステップS21において停車時保持制御中でないと判断した場合には(No)、制御部20は、本制御を終了する。
【0058】
ステップS21において停車時保持制御中であると判断した場合には(Yes)、制御部20は、第1フラグF1が1であるか否かを判断する(S22)。ステップS22においてF1=1でないと判断した場合には(No)、制御部20は、第2フラグF2が1であるか否かを判断する(S23)。ステップS23においてF2=1でないと判断した場合には(No)、制御部20は、その他の解除条件が成立したか否かを判断する(S24)。
【0059】
制御部20は、ステップS22において第1フラグF1が1であると判断した場合(Yes)、ステップS23において第2フラグF2が1であると判断した場合(Yes)、または、ステップS24においてその他の解除条件が成立したと判断した場合には(Yes)、停車時保持制御を解除して(S25)、本制御を終了する。また、制御部20は、ステップS24においてその他の解除条件が成立していないと判断した場合には(No)、停車時保持制御の解除を行わずに、そのまま本制御を終了する。つまり、この場合には、停車時保持制御が継続される。
【0060】
次に、停車時保持制御中において第1条件または第2条件が満たされた場合の制御について図7および図8を参照して説明する。なお、図7および図8におけるヨーレート、操舵角および前後加速度については、便宜上、絶対値として図示するものとする。また、車体速度は、車輪速度から推定された値として図示する。最初に、図7を参照して、停車時保持制御中に第1条件が満たされた場合の制御について説明する。
【0061】
図7(a),(b),(g)に示すように、車両CRが車体速度V2で走行している際に、運転者がブレーキペダルBPを踏むと(時刻t1)、ホイールシリンダH内のブレーキ液圧が徐々に上がっていくとともに、車体速度が徐々に下がっていく。車体速度が所定値V1まで下がると(時刻t2)、車両CRの停止が判断され、例えばそのときのブレーキ液圧P1で停車時保持制御が実行される(図7(h)参照)。なお、図7の例では、車両CRが、第1閾値G1に対応する勾配よりも大きな路面勾配の下り坂で停止しようとしたこととする。
【0062】
制御部20が車両CRの停止を判断した後、図7(d)に示すように、車両CRにかかる前後加速度の絶対値Gが第1閾値G1以上であり、路面が例えばアイス路等の低μ路面である場合には、車両CRが実際には停止せずに回転しながらすべり続けることがある。
【0063】
この場合には、図7(c)に示すように、車両CRに規定値Yth以上のヨーレートYが発生するため(時刻t3)、図7(f),(h)に示すように、この時点で第1条件が満たされて第1フラグF1が1となり、停車時保持制御が解除される。これにより、時刻t3以降は、ブレーキ液圧が低下していって車輪のロックが解消され、車輪Wのグリップ力が回復するので、車両CRの操縦が可能となる。そのため、ドライバーが、車両CRの姿勢を立て直すべく、ステアリング操作を行うと(時刻t4)、ドライバーの操作により車両CRの姿勢を立て直すことができる。
【0064】
次に、図8を参照して、停車時保持制御中に第2条件が満たされた場合の制御について説明する。
【0065】
図8(a),(b),(g)に示すように、車両CRが車体速度V2で走行している際に、運転者がブレーキペダルBPを踏むと(時刻t11)、ホイールシリンダH内のブレーキ液圧が徐々に上がっていくとともに、車体速度が徐々に下がっていく。車体速度が所定値V1まで下がると(時刻t12)、車両CRの停止が判断され、例えばそのときのブレーキ液圧P1で停車時保持制御が実行される(図8(h)参照)。なお、図8の例では、車両CRが、第1閾値G1に対応する勾配よりも小さな路面勾配の下り坂で停止しようとしたこととする。
【0066】
制御部20が車両CRの停止を判断した後、図8(d)に示すように、車両CRにかかる前後加速度の絶対値Gが、第1閾値G1よりも小さく、かつ、第2閾値G2以上であり、路面が例えばアイス路等の低μ路面である場合には、車両CRが実際には停止せずに回転しながらすべり続けることがある。
【0067】
このような現象が生じると、図8(c),(h)に示すように、停車時保持制御中において(時刻t12~t14)、ヨーレートYが発生し、そのヨーレートYが規定値Ythを超えることがある(時刻t13)。この場合、ドライバーは車両CRの姿勢を立て直すべく、ステアリング操作を行う。このステアリング操作により、図8(e)に示すように、操舵角θが操舵角規定値θthを超えると(時刻t14)、図8(f),(h)に示すように、この時点で第2条件が満たされて第2フラグF2が1となり、停車時保持制御が解除される。
【0068】
これにより、図8(b)に示すように、停車時保持制御により保持されていたブレーキ液圧が下がっていくので、図8(a)に示すように、車輪Wのロック状態が解消される(時刻t15)。そのため、車輪Wのグリップ力が回復して車両CRの操縦が可能となるので、ドライバーの操作により車両CRの姿勢を立て直すことができる。
【0069】
以上によれば、本実施形態において以下のような効果を得ることができる。
第1条件が満たされた場合には、ステアリングSTを操作しなくても停車時保持制御が解除されるので、停車時保持制御を迅速に解除することができる。また、第1閾値G1を、ターンテーブルが常識的に設置されないような路面勾配に対応した値に設定するので、ターンテーブル上において車両CRにヨーレートが加わったとしても、ドライバーの意図に反するブレーキ液圧の低下を抑えることができる。
【0070】
坂道がターンテーブルを設置可能な小さな勾配である場合には、第2条件によって停車時保持制御の解除を判断するので、小さな勾配の坂道において、前後加速度の絶対値Gが第2閾値G2以上で、かつ、ヨーレートYが規定値Yth以上になっても、ステアリング操作が行われなければ停車時保持制御が解除されない。そのため、例えばターンテーブル上において車両CRに規定値Yth以上のヨーレートYが発生しても、ドライバーの意図に反するブレーキ液圧の低下を抑えることができる。なお、アイス路等の低μ路面の坂道における停車時保持制御中において車両CRが回転しながらずり下がった場合には、ドライバーが車両CRを立て直そうとしてステアリング操作することで、停車時保持制御が解除され、ブレーキ液圧が低下されるので、車両の立て直しを行うことができる。
【0071】
なお、第2条件は、ステアリングSTの操作の条件を含んでいるため、第2閾値G2をターンテーブルの設置が十分あり得るような小さな路面勾配に対応した値に設定しても、ターンテーブルでの誤判定を抑えることができる。また、第2条件から前後加速度の条件を取り除いたとしても、ステアリングSTの操作の条件によって、ターンテーブルでの誤判定を抑えることができる。
【0072】
10%以上といった大きな路面勾配では常識的にターンテーブルを設置しないため、第1閾値G1を10%以上の路面勾配に対応した値に設定することで、ターンテーブルでの誤判定を抑制することができる。さらに、第1閾値G1を、11%以上の路面勾配に対応した値に設定すると、ターンテーブルでの誤判定をより抑制することができる。
【0073】
第1閾値G1を15%以下の路面勾配に対応した値に設定することで、例えば第1閾値を15%よりも大きな路面勾配に対応した値に設定した場合と比べ、15%以下の路面勾配での車両CRのずり下がりを抑制することができる。さらに、第1閾値G1を、13%以下の路面勾配に対応した値に設定すると、13%以下の路面勾配での車両のずり下がりを抑制することができる。
【0074】
なお、前記実施形態は、以下に例示するように様々な形態に変形して実施することができる。
【0075】
前記実施形態では、車両の横方向の挙動量としてヨーレートを例示したが、例えば横加速度センサで検出される横加速度であってもよい。ただし、前記実施形態のように、挙動量としてヨーレートを採用した場合には、ヨーレートに基づいて車両の横滑り状態(スキッド状態)を良好に判定することができる。
【0076】
前記実施形態では、操作部材として停車時保持制御スイッチやステアリングSTを例示したが、操作部材は、例えばブレーキやアクセルなどであってもよい。
【0077】
前記実施形態では、調圧弁Rを制御することで減圧制御(停車時保持制御の解除時の減圧制御)を行ったが、例えば、モータを駆動することによってマスタシリンダ内のピストンを移動させるような電動ブースタでブレーキ液圧を保持・減圧する場合には、電動ブースタを制御することで本開示に係る停車時保持制御やその解除を行ってもよい。
【0078】
前記した実施形態および変形例で説明した各要素を、任意に組み合わせて実施してもよい。
図1
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図8