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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】排ガス浄化用触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/57 20240101AFI20241113BHJP
   B01J 23/63 20060101ALI20241113BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20241113BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20241113BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
B01J35/57 L
B01J23/63 A ZAB
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
F01N3/10 A
F01N3/28 301P
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023031266
(22)【出願日】2023-03-01
(65)【公開番号】P2024123661
(43)【公開日】2024-09-12
【審査請求日】2024-04-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】尾上 亮太
(72)【発明者】
【氏名】高須 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】藤田 希未
(72)【発明者】
【氏名】白山 陽大
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅也
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-163342(JP,A)
【文献】特開2022-007587(JP,A)
【文献】特開2021-154191(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0299647(US,A1)
【文献】特開2021-104473(JP,A)
【文献】国際公開第2021/165697(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/73
53/86-53/90
53/94,53/96
F01N 3/00, 3/02
3/04- 3/38
9/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気経路に配置され、前記内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒であって、
複数のセルと、前記複数のセルを仕切る隔壁とを有する筒状の基材と、
前記隔壁の表面に設けられた多孔質層であって、触媒金属を有する触媒層と
を備え、
前記触媒層は、前記隔壁の表面に近い方を下層触媒層とし相対的に遠い方を上層触媒層とする少なくとも2層の積層構造を有しており、
前記下層触媒層は、
排ガス流通方向における前記基材の上流側の端部から下流側に向かって延在し、前記触媒金属としてPdを含む下層フロント部Aと、
前記排ガス流通方向における前記基材の下流側の端部から上流側に向かって延在し、前記触媒金属としてPdおよびPtの少なくとも一方を含む下層リア部Bと、
前記下層フロント部Aと前記下層リア部Bとが積層した下層ラップ部と、
を有し、
前記上層触媒層は、
前記排ガス流通方向における前記基材の上流側の端部から下流側に向かって延在し、前記触媒金属としてRhを含む上層フロント部Cと、
前記排ガス流通方向における前記基材の下流側の端部から上流側に向かって延在し、前記触媒金属としてRhを含む上層リア部Dと、
前記上層フロント部Cと前記上層リア部Dとが積層した上層ラップ部と、
を有しており、
前記下層ラップ部の形成位置と前記上層ラップ部の形成位置は、前記基材の筒軸方向において重複しておらず、
前記筒軸方向における前記隔壁の全長を100%としたとき、前記下層ラップ部の長さが5%以上40%以下であり、
前記下層ラップ部及び前記上層ラップ部が存在しない領域における前記触媒層の総厚みを100%としたとき、前記下層ラップ部の厚みが80%以上130%以下であり、
前記筒軸方向における前記隔壁の全長を100%としたとき、前記上層ラップ部の長さが5%以上40%以下であり、
前記下層ラップ部及び前記上層ラップ部が存在しない領域における前記触媒層の総厚みを100%としたとき、前記上層ラップ部の厚みが80%以上130%以下であり、
前記下層ラップ部及び前記上層ラップ部が存在しない領域における前記触媒層の総厚みを100%としたとき、前記下層フロント部Aと前記下層リア部Bと前記上層フロント部Cと前記上層リア部Dの各々の厚みが70%以下である、排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記筒軸方向における前記隔壁の全長を100%としたとき、前記上層ラップ部の中心は、前記基材の上流側の端部から40%~70%の位置に配置されている、請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記筒軸方向における前記隔壁の全長を100%としたとき、前記下層ラップ部の中心は、前記基材の上流側の端部から35%~50%の位置に配置されている、請求項1または2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記筒軸方向における前記隔壁の全長を100%としたとき、前記下層フロント部Aの長さLは、45%~55%である、請求項1または2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項5】
前記筒軸方向における前記隔壁の全長を100%としたとき、前記下層リア部Bの長さLは、65%~75%である、請求項4に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項6】
前記筒軸方向における前記隔壁の全長を100%としたとき、前記上層フロント部Cの長さLは、50%~80%である、請求項5に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項7】
前記筒軸方向における前記隔壁の全長を100%としたとき、前記上層リア部Dの長さLは、40%~70%である、請求項6に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項8】
前記触媒層は、CeOを含むOSC材をさらに有する、請求項1または2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項9】
前記OSC材は、CeO-ZrO複合酸化物である、請求項8に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項10】
前記下層フロント部Aにおける前記CeOの含有量ACeO2が0g/L~15g/Lである、請求項8に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項11】
前記下層リア部Bにおける前記CeOの含有量BCeO2が20g/L~63g/Lである、請求項8に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項12】
前記上層フロント部Cにおける前記CeOの含有量CCeO2が1g/L~8g/Lである、請求項8に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項13】
前記上層リア部Dにおける前記CeOの含有量DCeO2が1g/L~8g/Lである、請求項8に記載の排ガス浄化用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示される技術は、排ガス用浄化触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジン等の内燃機関から排出される排ガスには、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NO)等の有害成分が含まれる。このため、内燃機関の排気系には、有害成分を浄化する排ガス浄化用触媒が配置される。この排ガス浄化用触媒は、基材と、当該基材の表面に形成される触媒層とを備えている。この触媒層には、例えば、触媒金属とOSC材が含まれる。触媒金属は、上記有害成分の酸化(又は還元)を促進する貴金属材料である。また、OSC材には、例えば、CeOが使用される。このCeOは、リーン状態(酸素過多)の排ガスが供給されている間に酸素を貯蔵し、リッチ状態(酸素不足)の排ガスが供給された際に酸素を放出する。これによって、排ガスの空燃比が変動しても、排ガスを安定的に浄化できる。
【0003】
近年の排ガス浄化用触媒の分野では、組成の異なる複数の触媒層を基材表面に形成することが提案されている。例えば、特許文献1に記載の排ガス浄化用触媒は、上流側下層コート層と、上流側上層コート層と、下流側下層コート層と、下流側上層コート層とからなる4種類の触媒層を備えている。そして、特許文献1に記載の排ガス浄化用触媒では、各層における触媒金属(Pt、Pd、Rh)の濃度を異ならせている。これによって、高温環境におけるHC浄化能力と、低温環境におけるNO浄化能力とを高度に両立できる。また、特許文献2には、排ガス用浄化触媒の他の例が開示されている。この特許文献2に記載の排ガス用浄化触媒では、複数の触媒層の各々にOSC材が添加されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第7061655号
【文献】米国出願公開第2010/0104491号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、内燃機関から排出される排ガスは、当該内燃機関の稼働状況に応じて様々な要素(温度、流速、空燃比など)が変化する。例えば、始動直後の暖機運転では、低温低速の排ガスが排出される。一方、高速運転では、高温高速の排ガスが排出される。加えて、一般的な排ガス浄化用触媒は、暖機運転や高速運転などの特殊な状況だけではなく、通常の運転においても高い浄化性能が要求される。このため、特定の状況(例えば、暖機運転)のみに着目して排ガス浄化用触媒を設計すると、内燃機関の稼働状況が変化した際に、有害成分のエミッションが増大するおそれがある。
【0006】
ここに開示される技術は、上述の課題を解決するためになされたものであり、様々な稼働状況で好適な浄化性能を発揮できる排ガス浄化用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するべく、ここに開示される技術によって下記の構成の排ガス浄化用触媒が提供される。
【0008】
ここに開示される排ガス浄化用触媒(1)は、内燃機関の排気経路に配置され、内燃機関から排出される排ガスを浄化する。かかる排ガス浄化用触媒は、複数のセルと、複数のセルを仕切る隔壁とを有する筒状の基材と、隔壁の表面に設けられた多孔質層であって、触媒金属を有する触媒層とを備えている。そして、触媒層は、隔壁の表面に近い方を下層触媒層とし相対的に遠い方を上層触媒層とする少なくとも2層の積層構造を有している。この下層触媒層は、排ガス流通方向における基材の上流側の端部から下流側に向かって延在し、触媒金属としてPdを含む下層フロント部Aと、排ガス流通方向における基材の下流側の端部から上流側に向かって延在し、触媒金属としてPdおよびPtの少なくとも一方を含む下層リア部Bと、下層フロント部Aと下層リア部Bとが積層した下層ラップ部とを有している。また、上層触媒層は、排ガス流通方向における基材の上流側の端部から下流側に向かって延在し、触媒金属としてRhを含む上層フロント部Cと、排ガス流通方向における基材の下流側の端部から上流側に向かって延在し、触媒金属としてRhを含む上層リア部Dと、上層フロント部Cと上層リア部Dとが積層した上層ラップ部とを有している。そして、ここに開示される排ガス浄化用触媒では、下層ラップ部の形成位置と上層ラップ部の形成位置は、基材の筒軸方向において重複していない。
【0009】
上述の通り、ここに開示される排ガス浄化用触媒は、触媒金属の種類が異なる4種類の触媒層(下層フロント部A、下層リア部B、上層フロント部C、上層リア部D)を備えている。これによって、様々な稼働状況において好適な浄化性能を発揮できる。以下、具体的に説明する。
【0010】
まず、下層フロント部Aは、運転開始直後の暖機運転における排ガスを好適に浄化する領域である。具体的には、運転開始時においては、触媒金属の大部分が酸化しており、触媒活性が低下している。そして、暖機運転を開始すると、排ガス温度の上昇に伴って触媒金属から酸素が徐々に解離して浄化性能が上昇(回復)する。この暖機運転中の排ガスは、流速が非常に遅いため、下層触媒層の上流側(下層フロント部A)に浸透しやすい。かかる点に着目し、ここに開示される排ガス浄化用触媒では、下層フロント部Aの触媒金属としてPdを使用している。Pdは、他の触媒金属よりも、酸化状態での触媒活性に優れている。これらの構成によって、下層フロント部Aは、暖機運転中の有害成分のエミッションを低減できる。
【0011】
次に、下層リア部Bは、下層フロント部Aに次いで、暖機運転中の排ガスが供給されやすい領域である。また、下層リア部Bは、他の領域で生じた成分(触媒内発生物質)が供給されやすい領域でもある。これらの点を考慮し、下層リア部Bは、触媒金属としてPdおよびPtの少なくとも一方を含有している。例えば、下層リア部BにPdを配置することによって、暖機運転中でも好適な浄化性能を発揮できる。また、Ptは、触媒内発生物質を好適に浄化できる。下層リア部Bは、様々な状況の排ガスが供給され得るため、これらの触媒金属の少なくとも一方を含有することが好ましい。
【0012】
次に、上層フロント部Cは、通常運転を含めた様々な状況におけるNO浄化の促進を目的とした領域である。まず、排ガス浄化用触媒の内部では、式(1)に示す水性ガスシフト反応が生じて水素ガス(H)が生成される。そして、この水素ガスは、式(2)に示すNO浄化反応における還元剤として用いられる。すなわち、排ガス浄化用触媒の内部でNOを浄化するには、下記の式(1)及び(2)に示す反応を適切に生じさせることが求められる。
CO+HO→CO+H (1)
NO+H→N+HO (2)
ここで、上層触媒層の上流側に位置する上層フロント部Cは、排ガスと最初に接触する領域である。このため、上層フロント部Cで水性ガスシフト反応が適切に生じると、他の領域でNO浄化反応が生じやすくなる。かかる観点から、上層フロント部Cは、水性ガスシフト反応の促進に優れるRhを含有している。
【0013】
次に、上層リア部Dは、高速運転中に排出される排ガスを浄化するための領域である。具体的には、高速運転中の排ガスは、流速が非常に速いため、下層触媒層まで殆ど浸透せず、主に上層触媒層(特に上層リア部D)に浸透する。この場合、排ガスと触媒層との接触機会が少なくなるため、有害成分を十分に浄化できなくなるおそれがある。これに対して、上層リア部Dは、触媒金属としてRhを含有している。Rhは、三元性能に非常に優れているため、流速が速い高速運転中の排ガスを好適に浄化できる。
【0014】
また、ここに開示される排ガス浄化用触媒の触媒層は、下層ラップ部と上層ラップ部とを備えている。これらのラップ部では、触媒金属の存在量が他の領域よりも増大する。このため、下層ラップ部(又は上層ラップ部)が生じるように、下層フロント部Aと下層リア部B(又は上層フロント部Cと上層リア部D)を積層させることによって、排ガス浄化性能をさらに向上させることができる。
【0015】
一方で、このラップ部では、他の部分と比べて触媒層の厚みが増大する。そして、基材の筒軸方向において、下層ラップ部と上層ラップ部を同じ位置に形成すると、触媒層の厚みが局所的に増加する。このような局所的な触媒層の厚みの増加は、セルの閉塞による圧損増大の原因になり得る。これに対して、ここに開示される排ガス浄化用触媒では、基材の筒軸方向において、下層ラップ部の形成位置と上層ラップ部の形成位置とが重複しないように、下層フロント部A~上層リア部Dの各々の形成領域を設定する。これによって、ラップ部の重複によるセルの閉塞を防止できる。
【0016】
ここに開示される排ガス浄化用触媒(2)では、上記排ガス浄化用触媒(1)において、筒軸方向における隔壁の全長を100%としたとき、上層ラップ部の中心は、基材の上流側の端部から40%~70%の位置に配置されている。これによって、高速運転における排ガス浄化性能をさらに改善できる。
【0017】
ここに開示される排ガス浄化用触媒(3)では、上記排ガス浄化用触媒(1)又は(2)において、筒軸方向における隔壁の全長を100%としたとき、下層ラップ部の中心は、基材の上流側の端部から35%~50%の位置に配置されている。これによって、暖機運転における排ガス浄化性能をさらに改善できる。
【0018】
ここに開示される排ガス浄化用触媒(4)では、上記排ガス浄化用触媒(1)~(3)の何れか1つにおいて、筒軸方向における隔壁の全長を100%としたとき、下層フロント部Aの長さLは、45%~55%である。これによって、暖機運転における排ガス浄化性能をより好適に改善できる。
【0019】
ここに開示される排ガス浄化用触媒(5)では、上記排ガス浄化用触媒(1)~(4)の何れか1つにおいて、筒軸方向における隔壁の全長を100%としたとき、下層リア部Bの長さLは、65%~75%である。これによって、暖機運転における浄化性能や触媒内発生物質に対する浄化性能を改善できる。
【0020】
ここに開示される排ガス浄化用触媒(6)では、上記排ガス浄化用触媒(1)~(5)の何れか1つにおいて、筒軸方向における隔壁の全長を100%としたとき、上層フロント部Cの長さLは、50%~80%である。これによって、水性ガスシフト反応をより好適に促進できる。
【0021】
ここに開示される排ガス浄化用触媒(7)では、上記排ガス浄化用触媒(1)~(6)の何れか1つにおいて、筒軸方向における隔壁の全長を100%としたとき、上層リア部Dの長さLは、40%~70%である。これによって、高速運転中の排ガス浄化性能をさらに改善できる。
【0022】
ここに開示される排ガス浄化用触媒(8)では、上記排ガス浄化用触媒(1)~(7)の何れか1つにおいて、触媒層は、CeOを含むOSC材をさらに有する。これによって、触媒層に酸素吸蔵能が付与されるため、触媒金属の性能を安定的に発揮できる。
【0023】
ここに開示される排ガス浄化用触媒(9)では、上記排ガス浄化用触媒(8)において、OSC材は、CeO-ZrO複合酸化物である。これによって、CeOのシンタリングが抑制されるため、より好適な酸素吸蔵能を発揮できる。
【0024】
ここに開示される排ガス浄化用触媒(10)では、上記排ガス浄化用触媒(8)又は(9)において、下層フロント部AにおけるCeOの含有量ACeO2が0g/L~15g/Lである。運転開始時の暖機運転において、OSC材(CeO)は、多くの酸素を吸蔵している。このため、下層フロント部AにCeOが多く存在していると、CeOから触媒金属への酸素供給によって、酸素脱離による触媒金属の性能回復が阻害される。かかる点を考慮すると、下層フロント部AのCeO含有量ACeO2は、15g/L以下が好ましい。
【0025】
ここに開示される排ガス浄化用触媒(11)では、上記排ガス浄化用触媒(8)~(10)の何れか1つにおいて、下層リア部BにおけるCeOの含有量BCeO2が20g/L~63g/Lである。上述の通り、下層リア部Bは、下層触媒層の下流側に位置しているため、様々な状況の排ガスが供給される。このため、下層リア部Bに多くのCeOが存在していると、内燃機関の稼働中に生じ得る空燃比の変動に対応しやすい。かかる観点から、下層リア部BのCeO含有量BCeO2は、20g/L以上に設定される。これによって、空燃比の変動による有害成分のエミッションを低減できる。なお、触媒層を形成する他の成分の添加量を一定以上担保するために、下層リア部BのCeO含有量BCeO2の上限値は、63g/L以下に設定される。
【0026】
ここに開示される排ガス浄化用触媒(12)では、上記排ガス浄化用触媒(8)~(11)の何れか1つにおいて、上層フロント部CにおけるCeOの含有量CCeO2が1g/L~8g/Lである。上述の通り、ここに開示される排ガス浄化用触媒では、水性ガスシフト反応を促進させるために、上層フロント部CにRhを添加している。しかしながら、Rhは、酸化状態での活性低下が顕著であるという問題を有している。これに対して、ここに開示される排ガス浄化用触媒では、上層フロント部CのCeO含有量CCeO2を7g/L以下に設定している。これによって、暖機運転におけるRhの触媒活性の回復を促進できるため、暖機運転中にNOを好適に浄化できる。なお、上層フロント部CのCeO含有量CCeO2が少なくなりすぎると、空燃比の変動に追従できなくなるため、触媒活性が十分に回復しても暖機運転中のNOエミッションを低減できなくなるおそれがある。このため、ここに開示される技術では、上層フロント部CのCeO含有量CCeO2の下限値を1g/L以上に設定している。
【0027】
ここに開示される排ガス浄化用触媒(13)では、上記排ガス浄化用触媒(8)~(12)の何れか1つにおいて、上層リア部DにおけるCeOの含有量DCeO2が1g/L~8g/Lである。上述の通り、ここに開示される排ガス浄化用触媒では、高速運転中の浄化性能の改善のために、上層リア部CにRhを添加している。しかし、Rhは、CeOに固溶して触媒性能が大きく低下するおそれがある。特に、高速運転中の排ガスは、非常に高温であるため、RhとCeOの固溶を促進する。このため、ここに開示される排ガス浄化用触媒では、上層リア部DのCeO含有量DCeO2を8g/L以下に設定している。これによって、Rhの周囲におけるCeOの存在量を減少させ、RhとCeOの固溶を抑制できる。一方で、上層リア部DのCeO含有量DCeO2が少なくなりすぎると、短い周期における排ガスの空燃比の急激な変動に対応できなくなるため、高速運転中の有害成分のエミッションが却って増大するおそれがある。このため、ここに開示される技術では、上層リア部DのCeO含有量DCeO2の下限値を2g/L以上に設定している。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】排ガス浄化用触媒が配置される排気系を模式的に示す図である。
図2】一実施形態に係る排ガス浄化用触媒を模式的に示す斜視図である。
図3】一実施形態に係る排ガス浄化用触媒の筒軸方向に沿った断面を模式的に示す図である。
図4図3に示す排ガス浄化用触媒の隔壁表面を拡大した部分断面図である。
図5】第1の試験における50%HC浄化時間の測定結果を示すグラフである。
図6】第3の試験における50%HC浄化時間の測定結果を示すグラフである。
図7】第4の試験におけるNO浄化率の測定結果を示すグラフである。
図8】第5の試験における50%HC浄化温度の測定結果を示すグラフである。
図9】第6の試験におけるNO排出量の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、ここに開示される技術の実施形態について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、ここに開示される技術の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。すなわち、ここに開示される技術は、本明細書の開示事項と当該分野における技術常識とに基づいて実施できる。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付している。各図における寸法関係(長さ、幅、厚みなど)は、実際の寸法関係を必ずしも反映するものではない。また、本明細書において範囲を示す「A~B」(A,Bは任意の数値)の表記は、A以上B以下の意と共に、「好ましくはAより大きい」および「好ましくはBより小さい」の意を包含する。
【0030】
[内燃機関の排気系]
先ず、ここに開示される排ガス浄化用触媒の用途について説明する。図1は排ガス浄化用触媒が配置される排気系を模式的に示す図である。
【0031】
図1中の内燃機関2は、酸素と燃料ガスを含む混合気を燃焼して運動エネルギーを発生させる機構である。この内燃機関2から排出される排ガスには、ガス状の有害成分(NO、CO、HC)と、粒子状物質(PM)が含まれる。そして、排ガスは、エキゾーストマニホールド3と排気管4とで構成された排気系5に排出される。また、排気管4には、センサ6が取り付けられている。このセンサ6は、排ガスの成分や温度に関する情報を検知する。センサ6は、エンジンコントロールユニット(ECU:Engine Control Unit)7と接続されている。センサ6が検知した情報は、ECU7に送信される。ECU7は、内燃機関2の運転制御の際にセンサ6の検知結果を適宜参照する。
【0032】
そして、ここに開示される排ガス浄化用触媒は、内燃機関2の排気系5(図1では排気管4)に配置される。具体的には、図1に示す排気管4は、第1浄化部材8と第2浄化部材9を備えている。ここに開示される排ガス浄化用触媒は、この第1浄化部材8と第2浄化部材9の少なくとも一方に使用できる。そして、排ガス浄化用触媒は、排気管4を流通する排ガス中の有害成分を浄化する。
【0033】
[排ガス浄化用触媒]
次に、ここに開示される排ガス浄化用触媒の一実施形態について説明する。図2は、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒を模式的に示す斜視図である。図3は、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒の筒軸方向に沿った断面を模式的に示す図である。図4は、図3に示す排ガス浄化用触媒の隔壁表面を拡大した部分断面図である。
【0034】
なお、各図における符号Xは「基材の筒軸方向」を示し、符号Yは「基材の隔壁の厚み方向」を示す。また、本明細書では、排ガスが流通する方向のことを「排ガス流通方向F」という。そして、相対的に内燃機関に近い方を「(排ガス流通方向Fの)上流側」といい、内燃機関から遠い方を「(排ガス流通方向Fの)下流側」という。また、本明細書では、排ガス浄化用触媒1の上流側の領域を「フロント部」といい、下流側の領域を「リア部」という。
【0035】
図2図4に示すように、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒1は、基材10と触媒層20とを備えている。以下、各構成について説明する。
【0036】
1.基材
基材10は、排ガス浄化用触媒1の骨組みを構成する部材である。図2に示すように、本実施形態における基材10は、筒軸方向Xに延びる円筒形の外形を有している。なお、基材の外形は、排ガスが通過できる筒状であればよく、図2に示す形状に限定されない。例えば、基材の外形は、楕円筒形、多角筒形などでもよい。また、基材10には、従来公知の材料を特に制限なく使用できる。例えば、基材10は、コージェライト、チタン酸アルミニウム、炭化ケイ素などのセラミックス製でもよい。また、基材10は、ステンレス鋼(SUS)、Fe-Cr-Al系合金、Ni-Cr-Al系合金などの合金製でもよい。
【0037】
また、図3に示すように、基材10は、ストレートフロー型の基材である。すなわち、基材10は、複数のセル12と、当該複数のセル12を仕切る隔壁14とを有している。セル12は、筒軸方向Xにおいて基材10を貫通するガス流路である。排ガス浄化用触媒1に供給された排ガスは、セル12を通過して外部へ排出される。なお、セル12の形状、大きさ及び数等は特に限定されない。これらのセル12の構成は、排ガスの流量や成分などを考慮して適宜変更できる。例えば、図2に示すように、本実施形態におけるセル12の正面形状(筒軸方向Xに沿って見た形状)は正方形である。しかし、セルの正面形状は、平行四辺形、長方形、台形等の矩形、その他の多角形(例えば三角形、六角形、八角形)、円形状等の種々の幾何学形状でもよい。
【0038】
一方、隔壁14は、隣接した2つのセル12を仕切る緻密部材である。この隔壁14は、筒軸方向Xに沿って、基材10の上流側の端部10aから下流側の端部10bまで延びている。このため、セル12に流入した排ガスは、筒軸方向Xに沿って直線的に流動する。すなわち、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒1では、基材10の筒軸方向Xと排ガス流通方向Fとが略同一方向になる。なお、ここに開示される技術を限定するものではないが、隔壁14の厚みは、10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましい。これによって、基材10の機械的強度を十分に確保できる。一方、隔壁14の厚みは、500μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。これによって、セル12の孔径を十分に確保できるため、セル12の閉塞による圧損上昇を抑制できる。
【0039】
また、基材10の全長や容量は、特に限定されず、内燃機関2の性能や排気管6の寸法等に応じて適宜変更することが好ましい。例えば、筒軸方向Xにおける基材10の全長L(図4参照)は、10mm~500mm(好適には50mm~300mm)の範囲内で設定され得る。また、基材10の体積は、例えば、0.1L~10L(好適には1L~5L)の範囲内に設定され得る。なお、本明細書における「基材の体積」とは、基材10の内部に存在する空間(典型的にはセル12)の総体積のことをいう。
【0040】
2.触媒層
触媒層20は、基材10の隔壁14の表面に設けられた多孔質層である。触媒層20の気孔率は、1%以上が好ましく、2%以上がより好ましく、3%以上がさらに好ましく、5%以上が特に好ましい。これによって、触媒層20内部に排ガスが浸透しやすくなるため、より好適な浄化性能を発揮できる。一方、触媒層20の気孔率の上限は、40%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、20%以下がさらに好ましく、15%以下が特に好ましい。これによって、触媒層20の強度を十分に確保できる。なお、触媒層の気孔率は、筒軸方向に沿った断面SEM写真に画像解析処理を実施することによって測定できる。ここでの画像解析処理には、Image-Jなどの従来公知の解析ソフトを使用できる。
【0041】
(1)触媒層の成分
次に、触媒層20の成分について説明する。本実施形態における触媒層20は、少なくとも触媒金属を有している。
【0042】
(1-1)触媒金属
触媒金属は、排ガス中の有害成分(HC、CO、NO)の酸化(又は還元)を促進する金属材料である。具体的には、炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)は、触媒金属との接触によって酸化反応が促進される。これによって、HCやCOは、水(HO)や二酸化炭素(CO)に変換される。一方、窒素酸化物(NO)は、触媒金属との接触によって還元反応が促進される。これによって、NOは、水(HO)と窒素(N)に変換される。なお、触媒金属の具体例として、金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)等の貴金属触媒が挙げられる。なお、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒1では、触媒層20を構成する4つの領域(下層フロント部A、下層リア部B、上層フロント部C、上層リア部D)の各々に含まれる触媒金属の種類が異なっている。各領域における触媒金属の詳細は後述する。
【0043】
また、排ガス浄化用触媒1内に存在する触媒金属量は、1.0g/L以上が好ましく、1.5g/L以上がより好ましく、2.0g/L以上が特に好ましい。これによって、より好適な排ガス浄化性能を発揮できる。一方で、材料コストを考慮すると、触媒金属の総量は、8g/L以下が好ましく、7g/L以下がより好ましく、6g/L以下が特に好ましい。なお、ここでの「触媒金属量」とは、基材10の体積を1Lとして規格化した際の触媒金属の合計含有量である。
【0044】
(1-2)担持材料
また、本実施形態における触媒層20は、触媒材料を担持する担持材料を含んでいる。担持材料に触媒金属を担持させることによって、触媒金属のシンタリングを抑制できる。この担持材料の一例として、OSC材が挙げられる。このOSC材は、セリア(CeO)を含有する金属酸化物である。このOSC材を含む担持材料は、触媒層20に酸素吸蔵性能を付与できるため、排ガス浄化性能の安定化にも貢献できる。具体的には、CeOは、リーン状態の排ガスが供給された際に酸素を吸蔵する。一方で、CeOは、リッチ状態の排ガスが供給された際に酸素を放出する。これによって、排ガスの空燃比が変動しても安定的な排ガス浄化性能を発揮できる。なお、OSC材は、CeO以外の成分を含んでいてもよい。例えば、OSC材は、CeO-ZrO複合酸化物などでもよい。CeO-ZrO複合酸化物は、高温環境におけるCeOのシンタリングを抑制できるため、高い酸素貯蔵能を安定的に発揮できる。なお、CeO-ZrO複合酸化物をOSC材として使用する場合、当該複合酸化物の総重量(100wt%)に対するCeOの含有率は、10wt%以上が好ましく、15wt%以上がより好ましく、17wt%以上がさらに好ましく、20wt%以上が特に好ましい。これによって、酸素貯蔵能を発揮するCeOを十分に確保できる。一方、CeO-ZrO複合酸化物の総重量に対するCeOの含有率は、70wt%以下が好ましく、60wt%以下がより好ましく、50wt%以下がさらに好ましく、40wt%以下が特に好ましい。これによって、CeOのシンタリングを抑制するZrOを十分に確保できる。
【0045】
また、触媒層20は、OSC材以外の担持材料を含んでいてもよい。かかる担持材料の好適例として、JIS R2001で規定される耐熱材料(アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、シリカ(SiO)、マグネシア(MgO)、カルシア(CaO)等)が挙げられる。これらの耐熱材料を含む担持材料を使用することによって、触媒金属のシンタリングをより好適に抑制できる。なお、触媒層20の総重量を100wt%としたときのOSC材以外の担持材料の含有量は、10wt%以上(好適には15wt%以上、より好適には20wt%以上、特に好適には30wt%以上)が好ましい。これによって、触媒金属のシンタリングをさらに好適に抑制できる。一方、触媒金属やOSC材の含有量を確保するという観点から、OSC材以外の担持材料の含有量は、95wt%以下が好ましく、92.5wt%以下がより好ましく、90wt%以下が特に好ましい。
【0046】
(1-3)他の添加剤
また、触媒層20は、ここに開示される技術の効果を著しく阻害しない限りにおいて、他の添加材を含んでいていてもよい。かかる添加材の一例として、NOx吸着材、安定化材、HC吸着材などが挙げられる。さらに、触媒層20は、原料や製造工程に由来する微量成分を含有していてもよい。例えば、触媒層20は、アルカリ土類金属元素(Be、Mg、Ca、Baなど)、希土類元素(Y、La、Ceなど)、アルカリ金属元素(Li、Na、Kなど)、遷移金属元素(Mn、Fe、Co、Niなど)等を含む化合物(酸化物、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、塩化物)を1種または2種以上含んでいてもよい。
【0047】
(2)触媒層の構造
次に、触媒層20の構造について説明する。図4に示すように、本実施形態における触媒層20は、下層触媒層22と上層触媒層24を有している。
【0048】
下層触媒層22は、相対的に隔壁14の表面に近い方に設けられた触媒層である。図4に示す下層触媒層22は、隔壁14の表面上に設けられている。なお、本明細書における「隔壁の表面上に設けられている」とは、下層触媒層22の大部分が隔壁14の表面上に存在していることを意味しており、下層触媒層22の一部が隔壁14の内部に入り込むことを禁止することを意図したものではない。典型的には、断面SEM画像に基づいた分析において、触媒層20の80%以上(典型的には90%以上、例えば95%以上)が隔壁14の表面に付着していれば、「下層触媒層22が隔壁14の表面上に設けられている」ということができる。
【0049】
一方、上層触媒層24は、相対的に隔壁14の表面から遠い方に設けられた触媒層である。図4に示す上層触媒層24は、下層触媒層22の表面上に設けられている。なお、本明細書における「下層触媒層22の表面上に設けられている」とは、上層触媒層24の大部分が下層触媒層22の表面上に付着していることを意味しており、上層触媒層24の一部が下層触媒層22の内部に入り込むことを禁止することを意図したものではない。典型的には、断面SEM画像に基づいた分析において、上層触媒層24の50%以上(典型的には60%以上、例えば70%以上)が下層触媒層22の表面に付着していれば、「上層触媒層24が下層触媒層22の表面上に設けられている」ということができる。
【0050】
そして、本実施形態における触媒層20は、下層フロント部A、下層リア部B、上層フロント部C、上層リア部Dから構成される4つの領域を有している。そして、この下層フロント部A~上層リア部Dの各領域では、様々な稼働状況で好適な浄化性能を発揮させるという観点で触媒金属の種類が選択されている。また、図4に示すように、本実施形態における触媒層20は、下層フロント部Aと下層リア部Bとが積層した下層ラップ部25と、上層フロント部Cと上層リア部Dとが積層した上層ラップ部27とを備えている。以下、各々の構成について具体的に説明する。
【0051】
(2-1)各領域の触媒金属
まず、下層フロント部A~上層リア部Dの各々の構造と、各領域に含まれる触媒金属について説明する。
【0052】
(a)下層フロント部A
下層触媒層22は、排ガス流通方向Fにおける基材10の上流側の端部10aから下流側(図4中の右側)に向かって延在する下層フロント部Aを備えている。換言すると、下層フロント部Aは、下層触媒層22の上流側の領域である。この下層フロント部Aは、暖機運転中に供給される低速の排ガスの浄化に適した領域である。具体的には、暖機運転中の排ガスは、流速が非常に遅いため、排ガス浄化用触媒1の上流側から触媒層20の内部に浸透し、下層フロント部Aまで到達する。これに対して、本実施形態における下層フロント部Aは、触媒金属としてパラジウム(Pd)を含有する。Pdは、他の触媒金属よりも酸化状態での触媒活性に優れている。このため、当該Pdを含む下層フロント部Aは、暖機運転による回復(酸素の解離)が十分に進行する前でも一定の排ガス浄化性能を発揮できる。これによって、暖機運転中の有害成分のエミッションを低減できる。
【0053】
なお、下層フロント部AのPd含有量は、0.5g/L以上が好ましく、1.0g/L以上がより好ましく、2g/L以上がさらに好ましく、2.8g/L以上が特に好ましい。これによって、暖機運転中の有害成分のエミッションをより好適に低減できる。一方、浄化性能と材料コストとのバランスを考慮すると、下層フロント部AのPd含有量は、10g/L以下が好ましく、8g/L以下がより好ましく、6g/L以下がさらに好ましく、5.3g/L以下が特に好ましい。
【0054】
本明細書における「各領域の触媒金属の含有量(g/L)」は、誘導結合プラズマ分析(ICP:Inductively Coupled Plasma)と、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer)を利用することによって測定される。以下、下層フロント部AのPd含有量の測定手順を例に挙げて、「各領域の触媒金属の含有量(g/L)」の測定手順を説明する。この測定では、最初に、下層フロント部Aと上層フロント部Cとのみを含む上流側領域を排ガス浄化用触媒1から切り出した上流測定サンプルを作成する。次に、上流測定サンプルを粉砕した粉体に対してICPを実施することによって、上流側領域のPdの総重量(g)を測定する。次に、筒軸方向に沿った上流側領域の断面に対してEPMAを実施することによって上流側領域の元素マップを取得する。そして、この元素マップに基づいて、上流側領域のPd存在量PdA+Cに対する下層フロント部AのPd存在量Pdの比率(Pd/PdA+C)を算出する。なお、この元素マップの解析には、従来公知の画像解析ソフト(Image-Jなど)を使用できる。そして、ICPで取得した「上流側領域のPdの総重量(g)」に、「元素マップで取得した存在比率(Pd/PdA+C)」を掛けることによって、下層フロント部AのPdの重量(g)を算出できる。そして、この算出結果を基材10の容量(L)で除算することによって、「下層フロント部AのPd含有量(g/L)」を算出することができる。
【0055】
また、下層フロント部Aは、Pd以外の触媒金属を含んでいてもよい。但し、下層フロント部AにおけるPd含有量は、当該下層フロント部Aにおける触媒金属の総量を100wt%としたとき、80wt%以上(好適には85wt%以上、より好適には90wt%以上、特に好適には95wt%以上)であることが好ましい。これによって、暖機運転中の排ガス浄化性能を適切に確保することができる。
【0056】
なお、下層フロント部Aは、触媒層20全体に対する触媒金属の含有比率が最も多い領域であることが好ましい。具体的には、触媒層20全体の触媒金属(100wt%)に対する下層フロント部Aの触媒金属の含有比率は、30wt%以上が好ましく、35wt%以上がより好ましく、40wt%以上が特に好ましい。これによって、材料コストのために触媒層20全体の触媒金属量を少なくした場合でも、暖機運転時やフューエルカット後の浄化性能を十分に担保できる。一方、下層フロント部Aの触媒金属の含有比率が多くなりすぎると、触媒層20全体の触媒金属量を少なくした場合に、他の領域における触媒金属の含有量が低下し、各領域に要求される機能が発揮されにくくなる可能性がある。かかる点を考慮すると、下層フロント部Aの触媒金属の含有比率は、80wt%以下が好ましく、75wt%以下がより好ましく、70wt%以下が特に好ましい。
【0057】
なお、排ガス流通方向Fにおける下層フロント部Aの長さLは、基材10の全長Lよりも短ければよく、特に限定されない。但し、下層フロント部Aの機能(暖機運転中の排ガスの浄化)を適切に発揮させるという観点から、下層フロント部Aの長さLは、基材10の全長Lの30%以上が好ましく、35%以上がより好ましく、40%以上がさらに好ましく、45%以上が特に好ましい。一方、下層フロント部Aの長さLは、隔壁14の全長Lの70%以下が好ましく、65%以下がより好ましく、60%以下がさらに好ましく、55%以下が特に好ましい。これによって、後述する下層リア部Bの長さLを確保しやすくなる。なお、下層フロント部Aは、触媒金属やCeOの組成が他の領域と異なるため、目視による発色で他の領域と区別することができる。このため、下層フロント部Aの長さLは、ブラシ等で他の領域(上層触媒層24など)を削り落とした後に目視で測定することができる。
【0058】
また、下層フロント部Aの厚みTも、特に限定されない。但し、下層フロント部Aの機能を適切に発揮するという観点から、触媒層20の厚みT(100%)に対する下層フロント部Aの厚みTは、25%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、35%以上がさらに好ましく、40%以上が特に好ましい。一方、下層フロント部Aの厚みTは、75%以下が好ましく、70%以下がより好ましく、65%以下がさらに好ましく、60%以下が特に好ましい。これによって、後述する上層フロント部Cの厚みTを確保しやすくなる。なお、ここでの「触媒層の厚みT」や「下層フロント部Aの厚みT」は、後述するラップ部が存在しない領域における厚みを複数(例えば5箇所)測定した際の平均値である。
【0059】
(b)下層リア部B
下層触媒層22は、排ガス流通方向Fにおける基材10の下流側の端部10bから上流側(図4中の左側)に向かって延在する下層リア部Bを備えている。換言すると、下層リア部Bは、下層触媒層22の下流側の領域である。例えば、この下層リア部Bにも暖機運転中の排ガスが供給され得る。このため、酸化状態での触媒活性に優れたPdを含有させることによって、暖機運転中の有害成分のエミッションを低減できる。また、下層リア部Bには、他の領域(下層フロント部Aや上層フロント部Cなど)を通過した後の排ガスも供給されやすい。この他の領域を通過した排ガスは、有害成分が変化した物質(触媒内発生物質)を含んでいることがある。例えば、炭化水素(HC)の一種である長鎖系炭化水素は、水と二酸化炭素まで分解される前に、短鎖系炭化水素(メタン(CH)など)になることがある。また、他の領域でNOが過剰に還元されると、アンモニア(NH)になることもある。Ptは、短鎖系炭化水素の分解やアンモニアの酸化を好適に促進するため、下層リア部Bの触媒金属として好適である。
【0060】
なお、下層リア部BのPdとPtの合計含有量は、0.1g/L以上が好ましく、0.25g/L以上がより好ましく、0.5g/L以上がさらに好ましく、0.8g/L以上が特に好ましい。これによって、下層リア部Bにおける浄化性能を十分に担保できる。一方、浄化性能と材料コストとのバランスを考慮すると、下層リア部BのPdとPtの合計含有量は、10g/L以下が好ましく、7.5g/L以下がより好ましく、5g/L以下がさらに好ましく、3.4g/L以下が特に好ましい。なお、「下層リア部BのPdとPtの合計含有量(g/L)」は、上述した「下層フロント部AのPd含有量(g/L)」と同様の手順に従って測定できるため重複した説明を省略する。
【0061】
なお、下層リア部Bは、PdとPt以外の触媒金属を含んでいてもよい。但し、下層リア部BにおけるPdとPtの合計含有量は、当該下層リア部Bにおける触媒金属の総量を100wt%としたとき、80wt%以上(好適には85wt%以上、より好適には90wt%以上、特に好適には95wt%以上)であることが好ましい。これによって、有害成分のエミッションをより好適に低減できる。
【0062】
また、下層リア部Bは、触媒層20全体に対する触媒金属の含有比率が2番目に多い領域であることが好ましい。具体的には、触媒層20全体に対する下層リア部Bの触媒金属の含有比率は、10wt%以上が好ましく、15wt%以上がより好ましく、20wt%以上が特に好ましい。これによって、酸素吸蔵能が非常に高い下層リア部Bにおいても触媒金属による浄化性能を一定以上確保することができる。一方、下層リア部Bの触媒金属の含有比率が多くなりすぎると、触媒層20全体の触媒金属量を少なくした場合に、他の領域における触媒金属の含有量が低下し、各領域に要求される機能が発揮されにくくなる可能性がある。かかる点を考慮すると、下層リア部Bの触媒金属の含有比率は、50wt%以下が好ましく、47wt%以下がより好ましく、45wt%以下が特に好ましい。
【0063】
また、筒軸方向Xにおける下層リア部Bの長さLは、隔壁14の全長Lよりも短ければよく、特に限定されない。但し、下層リア部Bの機能を好適に生じさせるという観点から、下層リア部Bの長さLは、隔壁14の全長Lの50%以上が好ましく、55%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましく、65%以上が特に好ましい。一方、下層リア部Bの長さLは、隔壁14の全長Lの90%以下が好ましく、85%以下がより好ましく、80%以下がさらに好ましく、75%以下が特に好ましい。これによって、下層フロント部Aの長さLを確保しやすくなる。
【0064】
また、下層リア部Bの厚みTも、特に限定されない。但し、下層リア部Bの機能を十分に発揮するという観点から、下層リア部Bの厚みTは、触媒層20の厚みTの25%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、35%以上がさらに好ましく、40%以上が特に好ましい。一方、下層リア部Bの厚みTの上限は、触媒層20の厚みTの85%以下が好ましく、80%以下がより好ましく、75%以下がさらに好ましく、70%以下が特に好ましい。これによって、上層リア部Dの厚みTを確保しやすくなる。
【0065】
(c)上層フロント部C
上層触媒層24は、排ガス流通方向Fにおける基材10の上流側の端部10aから下流側(図4中の右側)に向かって延在する上層フロント部Cを備えている。換言すると、上層フロント部Cは、上層触媒層24の上流側の領域である。この上層フロント部Cは、排ガス浄化用触媒1全体のNO浄化性能を向上させる機能を有している。具体的には、排ガス浄化用触媒1に排ガスが供給されると、下記の式(1)に示される水性ガスシフト反応が生じ、水素ガス(H)が生成される。そして、この水素ガスは、下記の式(2)に示すようにNOを浄化する還元剤となる。ここで、上層触媒層24の上流側の領域である上層フロント部Cは、様々な状況において、排ガスが最初に接触する領域である。このため、上層フロント部Cにおける水性ガスシフト反応を促進すると、排ガス浄化用触媒1全体のNO浄化性能を向上できる。これに対して、上層フロント部Cは、触媒金属としてロジウム(Rh)を含有している。Rhは、水性ガスシフト反応の促進に優れているため、上層フロント部CにおけるHの生成量を増加できる。これによって、排ガス浄化用触媒1全体のNO浄化性能を大きく向上できる。
CO+HO→CO+H (1)
NO+H→N+HO (2)
【0066】
なお、上層フロント部CのRh含有量は、0.01g/L以上が好ましく、0.05g/L以上がより好ましく、0.1g/L以上がさらに好ましく、0.2g/L以上が特に好ましい。これによって、上層フロント部Cにおける水性ガスシフト反応をより好適に促進できる。一方、浄化性能と材料コストとのバランスを考慮すると、上層フロント部CのRh含有量は、1g/L以下が好ましく、0.5g/L以下がより好ましく、0.4g/L以下がさらに好ましく、0.3g/L以下が特に好ましい。なお、「上層フロント部CのRh含有量(g/L)」は、上述した「下層フロント部AのPd含有量(g/L)」と同様の手順に従って測定できるため重複した説明を省略する。
【0067】
また、上層フロント部CにおけるH生成を適切に促進するという観点から、上層フロント部CにおけるRh含有量は、当該上層フロント部Cにおける触媒金属の含有量(100wt%)に対して、50wt%以上(好適には60wt%以上、より好適には70wt%以上、特に好適には80wt%以上)であることが好ましい。
【0068】
なお、筒軸方向X(排ガス流通方向F)における上層フロント部Cの長さLは、隔壁14の全長Lよりも短ければよく、特に限定されない。但し、水性ガスシフト反応をより適切に生じさせるという観点から、上層フロント部Cの長さLは、隔壁14の全長Lの35%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、45%以上がさらに好ましく、50%以上が特に好ましい。一方、後述する上層リア部Dの長さLを十分に確保するという観点から、上層フロント部Cの長さLは、隔壁14の全長Lの95%以下が好ましく、90%以下がより好ましく、85%以下がさらに好ましく、80%以下が特に好ましい。
【0069】
また、上層フロント部Cの厚みTも、特に限定されない。但し、水性ガスシフト反応をより適切に生じさせるという観点から、上層フロント部Cの厚みTは、触媒層20の厚みTの25%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、35%以上がさらに好ましく、40%以上が特に好ましい。一方、下層フロント部Aの厚みTを十分に確保するという観点から、上層フロント部Cの厚みTは、触媒層20の厚みTの75%以下が好ましく、70%以下がより好ましく、65%以下がさらに好ましく、60%以下が特に好ましい。
【0070】
(d)上層リア部D
上層触媒層24は、排ガス流通方向Fにおける基材10の下流側の端部10bから上流側(図4中の左側)に向かって延在する上層リア部Dを備えている。換言すると、上層リア部Dは、上層触媒層24の下流側の領域である。この上層リア部Dは、高速運転中に排出される排ガスを浄化するという機能を有している。具体的には、高速運転中の排ガスは、流速が非常に速いため、触媒層20の上流部分には殆ど浸透せず、流速が低下し始めた下流部分において上層触媒層24に浸透する。すなわち、高速運転中の排ガスは、主に上層リア部Dに浸透するため、触媒層20との接触機会が少なくなる。これに対して、ここに開示される排ガス浄化用触媒では、上層リア部Dの触媒金属としてロジウム(Rh)を使用する。Rhは、三元性能に非常に優れた金属であるため、排ガスとの接触機会が僅かであっても有害成分を好適に浄化できる。このため、本実施形態における上層リア部Dは、高速運転中の排ガスを適切に浄化することができる。
【0071】
なお、上層リア部DのRh含有量は、0.01g/L以上が好ましく、0.05g/L以上がより好ましく、0.1g/L以上がさらに好ましく、0.2g/L以上が特に好ましい。これによって、高速運転中の排ガスをより好適に浄化できる。一方、浄化性能と材料コストとのバランスを考慮すると、上層リア部DのRh含有量は、1g/L以下が好ましく、0.5g/L以下がより好ましく、0.4g/L以下がさらに好ましく、0.3g/L以下が特に好ましい。なお、「上層リア部DのRh含有量(g/L)」は、上述した「下層フロント部AのPd含有量(g/L)」と同様の手順に従って測定できるため重複した説明を省略する。
【0072】
また、高速運転中の排ガスを適切に浄化するという観点から、上層リア部DにおけるRh含有量は、当該上層リア部Dにおける触媒金属の含有量(100wt%)に対して、30wt%以上(好適には40wt%以上、より好適には45wt%以上、特に好適には50wt%以上)であることが好ましい。
【0073】
また、筒軸方向Xにおける上層リア部Dの長さLは、隔壁14の全長Lよりも短ければよく、特に限定されない。但し、高速運転中の排ガスを適切に浄化するという観点から、上層リア部Dの長さLは、隔壁14の全長Lの25%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、35%以上がさらに好ましく、40%以上が特に好ましい。一方、上層フロント部Cの長さLを十分に確保するという観点から、上層リア部Dの長さLは、隔壁14の全長Lの85%以下が好ましく、80%以下がより好ましく、75%以下がさらに好ましく、70%以下が特に好ましい。
【0074】
また、上層リア部Dの厚みTも、特に限定されない。例えば、上層リア部Dの厚みTは、触媒層20の厚みTの25%以上でもよく、30%以上でもよく、35%以上でもよく、40%以上でもよい。一方、下層リア部Dの厚みTを十分に確保するという観点から、上層リア部Dの厚みTは、触媒層20の厚みTの75%以下が好ましく、70%以下がより好ましく、65%以下がさらに好ましく、60%以下が特に好ましい。
【0075】
(2-2)ラップ部
次に、本実施形態における触媒層20は、下層ラップ部25と、上層ラップ部27とを備えている。以下、各々のラップ部について説明する。
【0076】
(a)下層ラップ部
下層ラップ部25は、下層フロント部Aと下層リア部Bとが積層した領域である。図4に示す排ガス浄化触媒1では、下層フロント部Aの下流側の端部の上に、下層リア部Bの上流側の端部が積層されている。この下層ラップ部25では、下層フロント部Aの触媒金属(Pd)と、下層リア部Bの触媒金属(Pdおよび/又はPt)の両方が存在する下層触媒層22が形成される。このため、下層ラップ部25では、PdやPtの存在量が他の領域よりも増大する。これによって、暖機運転中の浄化性能や、触媒内発生物質に対する浄化性能をさらに改善できる。
【0077】
なお、筒軸方向X(排ガス流通方向F)における下層ラップ部25の長さLA-Bは、隔壁14の全長Lの5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上が特に好ましい。これによって、暖機運転における浄化性能や触媒内発生物質に対する浄化性能をより好適に改善できる。一方、下層ラップ部25と上層ラップ部27との重複によるセル12の閉塞を確実に防止するという観点から、下層ラップ部25の長さLA-Bは、隔壁14の全長Lの40%以下が好ましく、35%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましく、25%以下が特に好ましい。
【0078】
また、ラップ部が存在しない領域における触媒層20の総厚みTを100%としたときの下層ラップ部25の厚みTA-Bは、50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましく、80%以上が特に好ましい。これによって、下層触媒層22(下層フロント部A又は下層リア部B)に排ガスが接触しやすくなるため、排ガスの浄化(特に暖機運転における浄化)をより効率よく実施できる。また、下層ラップ部25の厚みTA-Bは、150%以下が好ましく、140%以下がより好ましく、130%以下がさらに好ましく、120%以下が特に好ましい。これによって、セル12の閉塞による圧損の増大をより好適に防止できる。
【0079】
(b)上層ラップ部
上層ラップ部27は、上層フロント部Cと上層リア部Dとが積層した領域である。図4に示すように、本実施形態に係る排ガス浄化触媒1では、上層フロント部Cの下流側の端部の上に、上層リア部Dの上流側の端部が積層されている。この上層ラップ部27では、上層フロント部Cの触媒金属(Rh)と、上層リア部Dの触媒金属(Rh)の両方が存在する上層触媒層24が生じる。このため、上層ラップ部27では、Phの存在量が他の領域よりも増大する。これによって、水性ガスシフト反応や高速運転中の浄化性能をさらに改善できる。
【0080】
なお、筒軸方向X(排ガス流通方向F)における上層ラップ部27の長さLC-Dは、隔壁14の全長Lの5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上が特に好ましい。これによって、水性ガスシフト反応や高速運転中の浄化性能をより好適に改善できる。一方、下層ラップ部25と上層ラップ部27との重複によるセル12の閉塞を確実に防止するという観点から、上層ラップ部27の長さLC-Dは、隔壁14の全長Lの40%以下が好ましく、35%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましく、25%以下が特に好ましい。
【0081】
また、ラップ部が存在しない領域における触媒層20の総厚みTを100%としたときの上層ラップ部27の厚みTC-Dは、50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましく、80%以上が特に好ましい。これによって、セル12を流通する排ガスが上層触媒層24に接触しやすくなるため、排ガスの浄化(特に高速運転における浄化)をより効率よく実施できる。また、上層ラップ部27の厚みTC-Dは、150%以下が好ましく、140%以下がより好ましく、130%以下がさらに好ましく、120%以下が特に好ましい。これによって、セル12の閉塞による圧損の増大をより好適に防止できる。
【0082】
(c)下層ラップ部と上層ラップ部との位置
ここで、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒1は、基材10の筒軸方向Xにおいて、下層ラップ部25と上層ラップ部27の形成位置とが重複しないように構成されている。上述の通り、2つの触媒領域を積層させたラップ部(下層ラップ部25、上層ラップ部27)を形成すると、種々の排ガス浄化性能を改善できる。しかし、図4に示すように、下層ラップ部25が形成された領域では、少なくとも下層フロント部Aと下層リア部Bと上層フロント部Cの3層が積層される。同様に、上層ラップ部25が形成された領域では、少なくとも下層リア部Bと上層フロント部Cと上層リア部Dの3層が積層される。加えて、筒軸方向Xにおいて上層ラップ部27と下層ラップ部25とが重複すると、触媒層20に含まれる4つの層の全てが積層された領域が生じる。そして、このラップ部が重複した領域では、触媒層20の厚みが大きく増加するため、セル12の開口面積が小さくなる。それによって、圧損が急激に上昇するおそれがある。これに対して、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒1では、筒軸方向Xにおいて下層ラップ部25と上層ラップ部27とが重複しないように、各々のラップ部の形成位置をずらしている。これによって、セル12の開口面積を一定以上確保できるため、セル12の閉塞による急激な圧損上昇を抑制ができる。
【0083】
なお、本実施形態のように下層ラップ部25と上層ラップ部27の形成位置を異ならせる場合には、排ガス流通方向Fの上流側に下層ラップ部25を形成し、下流側に上層ラップ部27を形成することが好ましい。暖機運転時の排ガス浄化用触媒1は、上流側から暖まっていくため、暖機運転中に好適に機能する下層ラップ部25を上流側に配置した方が好ましい。一方、高速運転時の流速が早い排ガスと触媒金属との接触頻度を増加させるという観点から、上層ラップ部27を下流側に配置した方が好ましい。この結果、暖機運転と高速運転の各々において高い排ガス浄化性能を発揮できる。
【0084】
具体的には、上層ラップ部27の中心27cは、基材10の上流側の端部10から40%以上(より好適には45%以上、さらに好適には50%以上、特に好適には55%以上)の位置に配置されていることが好ましい。上層ラップ部27を下流側に形成することによって、流速の早い排ガスが上層ラップ部27に接触しやすくなるため、高速運転中の排ガス浄化性能を改善できる。一方、上層ラップ部27に接触した後の排ガスは、流速が低下して触媒層20に流入しやすくなる。このため、上層ラップ部27よりも下流側に、ある程度の長さの触媒層20を設けておくことが好ましい。かかる観点から、上層ラップ部27の中心27cは、基材10の上流側の端部10から70%以下(より好適には65%以下、さらに好適には60%以下)の位置に配置されていることが好ましい。
【0085】
一方、下層ラップ部25の中心25cは、基材10の上流側の端部10から50%以下(より好適には45%以下)の位置に配置されていることが好ましい。下層ラップ部25を上流側に形成することによって、流速の遅い排ガスが下層ラップ部25に接触しやすくなるため、暖機運転中の排ガス浄化性能を改善できる。一方で、下層ラップ部25の形成位置が上流側になり過ぎると、排ガス浄化触媒1に流入した排ガスが下層ラップ部25の上方を通過しやすくなる。かかる観点から、下層ラップ部25の中心25cは、基材10の上流側の端部10から35%以上(より好適には40%以上)の位置に配置されていることが好ましい。
【0086】
3.まとめ
上述の通り、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒1は、下層フロント部Aと、下層リア部Bと、上層フロント部Cと、上層リア部Dを有する触媒層20を備えている。下層フロント部Aは、酸化状態での触媒活性に優れたPdを含んでいる。このため、下層フロント部Aは、暖機運転における排ガス浄化性能の向上に貢献する。次に、下層リア部Bは、酸化状態での触媒活性に優れたPdや、触媒内発生物質に対する浄化性能に優れたPtを含んでいる。次に、上層フロント部Cは、水性ガスシフト反応の促進に優れたRhを含んでいるため、排ガス浄化用触媒1全体のNO浄化性能の向上に貢献する。そして、上層リア部Dは、三元性能に優れたRhを含んでいるため、高速高温の排ガスが供給される高速運転時の排ガス浄化性能の向上に貢献する。以上の通り、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒1は、様々な稼働状況で好適な浄化性能を発揮できるように構成されている。
【0087】
さらに、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒1は、下層ラップ部25と上層ラップ部27を備えている。これらのラップ部では、触媒金属の存在量が他の領域よりも増大する。このため、下層ラップ部25と上層ラップ部27が生じるように、各領域(下層フロント部A、下層リア部B、上層フロント部Cおよび上層リア部D)を積層させることによって、排ガス浄化性能をさらに向上させることができる。加えて、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒1は、基材10の筒軸方向Xにおいて、下層ラップ部25と上層ラップ部27の形成位置が重複しないように構成されている。これによって、セル12の開口面積を十分に確保できるため、セル12の閉塞による圧損上昇を防止できる。
【0088】
[排ガス浄化用触媒の製造方法]
次に、上記構成の排ガス浄化用触媒1を製造する方法の一例について説明する。かかる製造方法は、少なくとも、下層形成工程と、上層形成工程とを備えている。以下、各工程について説明する。
【0089】
1.下層形成工程
本工程では、下層触媒層22を形成する。この下層形成工程は、下層フロント部Aを形成する下層フロント部形成工程と、下層リア部Bを形成する下層リア部形成工程と、を備えている。下層フロント部形成工程では、まず、下層フロント部A形成用のスラリーを基材10の上流側の端部10aからセル12内に供給する。そして、基材10の下流側の端部10bからセル12内を吸引する。これによって、基材10の上流側の端部10aから下流側(図4中の右側)に向かって延びるように、隔壁14の表面上にスラリーを塗布できる。この状態で乾燥・焼成を行うことによって下層フロント部Aが形成される。一方、下層リア部形成工程では、下層リア部B形成用のスラリーを基材10の下流側の端部10bからセル12内に供給する。そして、基材10の上流側の端部10aからセル12内を吸引する。これによって、基材10の下流側の端部10bから上流側(図4中の左側)に向かって延びるように、隔壁14の表面上にスラリーを塗布できる。このとき、スラリーの供給量と、セル12内の吸引条件(吸引時間、吸引力等)を調節することによって、下層フロント部Aの上側に、下層リア部B用のスラリーを塗布できる。この状態で乾燥・焼成を行うことによって、下層フロント部Aの上側の一部(下流側の端部)の上に、下層リア部Bの一部(上流側の端部)が積層した下層ラップ部25が形成される。なお、下層フロント部形成工程と下層リア部形成工程を実施する順序は、特に限定されない。例えば、下層リア部Bを形成した後に、下層フロント部Aを形成してもよい。すなわち、ここに開示される下層ラップ部は、下層リア部Bの一部(上流側の端部)の上に、下層フロント部Aの一部(下流側の端部)が積層された構成を有していてもよい。
【0090】
2.上層形成工程
本工程では、上層触媒層24を形成する。この上層形成工程は、上層フロント部Cを形成する上層フロント部形成工程と、上層リア部Dを形成する上層リア部形成工程と、を備えている。上層フロント部形成工程では、まず、上層フロント部C形成用のスラリーを基材10の上流側の端部10aからセル12内に供給する。そして、基材10の下流側の端部10bからセル12内を吸引する。これによって、基材10の上流側の端部10aから下流側(図4中の右側)に向かって延びるように、下層触媒層22の表面上にスラリーを塗布できる。この状態で乾燥・焼成を行うことによって上層フロント部Cが形成される。一方、上層リア部形成工程では、上層リア部D形成用のスラリーを基材10の下流側の端部10bからセル12内に供給する。そして、基材10の上流側の端部10aからセル12内を吸引する。これによって、基材10の下流側の端部10bから上流側(図4中の左側)に向かって延びるように、下層触媒層22の表面上にスラリーを塗布できる。このとき、スラリーの供給量と、セル12内の吸引条件(吸引時間、吸引力等)を調節することによって、上層フロント部Cの上側に、上層リア部D用のスラリーを塗布できる。この状態で乾燥・焼成を行うことによって、上層フロント部Cの一部(下流側の端部)の上に、上層リア部Dの一部(上流側の端部)が積層した上層ラップ部27が形成される。なお、上層フロント部形成工程と上層リア部形成工程の順序も特に限定されない。例えば、上層リア部Dを形成した後に、上層フロント部Cを形成してもよい。すなわち、ここに開示される上層ラップ部は、上層リア部Dの上流側の端部の上に、上層フロント部Cの下流側の端部が積層された構成を有していてもよい。
【0091】
各工程で使用されるスラリーは、触媒層の成分(触媒金属、OSC材など)を分散媒に分散させることによって調製できる。この分散媒は、水を主成分とする水系媒体でもよいし、有機溶媒(アルコール類など)を主成分とする非水系媒体でもよい。また、スラリーは、粘度調整用のバインダを含有していてもよい。スラリーの粘度を調節することによって、筒軸方向Xにおける各領域の長さを調節できる。また、スラリーは、造孔材(樹脂ビーズなど)を含有していてもよい。これによって、焼成後の触媒層20の気孔率を容易に調節できる。
【0092】
なお、ここに開示される排ガス浄化用触媒は、上述の製造方法によって製造されたものに限定されない。例えば、上述の製造方法では、スラリーを塗布する度に乾燥と焼成を実施している。これによって、触媒層20を構成する各領域を一つずつ形成できる。しかし、触媒層20を形成する手順はこれに限定されない。例えば、下層フロント部A~上層リア部Dの各スラリーの塗布と乾燥を順次実施した後に、全ての乾燥膜を共焼成してもよい。これによって、下層フロント部A~上層リア部Dを同時に形成できるため、排ガス浄化用触媒の製造効率を向上できる。
【0093】
[他の実施形態]
以上、ここに開示される排ガス浄化用触媒の一実施形態について説明した。しかし、ここに開示される排ガス浄化用触媒は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0094】
1.各領域のOSC材の含有量
例えば、上述した下層フロント部A~上層リア部Dは、OSC材の量(CeO含有量)が各領域で異なっている方が好ましい。これによって、より多彩な稼働状況で好適な浄化性能を発揮できる排ガス浄化用触媒を構築できる。以下、具体的に説明する。
【0095】
(1)下層フロント部AのCeO含有量ACeO2
まず、触媒層20にOSC材を添加する場合には、下層フロント部AのCeO含有量ACeO2を15g/L以下に設定することが好ましい。これによって、暖機運転における浄化性能の回復が生じやすくなる。具体的には、運転開始時は、触媒金属の大部分が酸化しており、触媒活性が低下している。そして、暖機運転を開始すると、排ガス温度の上昇に伴って触媒金属から酸素が徐々に解離して浄化性能が上昇(回復)する。一方で、運転開始時は、OSC材(CeO)も多くの酸素を吸蔵している。このため、触媒金属の近傍にCeOが多く存在していると、CeOが放出した酸素によって触媒金属の回復(酸素の解離)が阻害される可能性がある。これに対して、下層フロント部AのCeO含有量ACeO2が一定以下に制限すると、暖機運転中のCeOからの酸素供給を抑制できる。これによって、触媒金属からの酸素の解離を促進し、浄化性能を早期に回復できる。なお、暖機性能をさらに向上するという観点から、下層フロント部AのCeO含有量ACeO2は、14g/L以下がより好ましく、13g/L以下がさらに好ましく、12g/L以下が特に好ましい。
【0096】
なお、暖機運転中の浄化性能の回復を促進するという観点では、下層フロント部Aは、CeOを含んでいなくてもよい(ACeO2=0g/L)。一方で、下層フロント部AのCeO含有量ACeO2の下限値は、2g/L以上がより好ましく、4g/L以上がさらに好ましく、6g/L以上が特に好ましい。下層フロント部Aに一定の酸素吸蔵能を付与することによって、排ガスの空燃比の変動に対応しやすい排ガス浄化用触媒を構築できる。なお、下層フロント部AのCeO含有量ACeO2が少量である場合には、CeOによる回復阻害が殆ど生じないことが実験で確認されている。
【0097】
なお、本明細書における「下層フロント部AのCeO含有量ACeO2」とは、下層フロント部Aが存在する領域の基材体積Vを1Lと仮定した際に、下層フロント部Aに含まれるCeOの重量(g/L)である。このような触媒層20の各領域におけるCeO含有量(g/L)は、上記「各領域の触媒金属の含有量(g/L)」と同様に、ICPとEPMAとを利用することによって測定される。以下、下層フロント部AのCeO含有量ACeO2と上層フロント部CのCeO含有量CCeO2の測定手順を例に挙げて、「各領域のCeO含有量(g/L)」の測定手順を説明する。
【0098】
この測定では、最初に、下層フロント部Aと上層フロント部Cとのみを含む上流側領域(すなわち、図4中の下層ラップ部25よりも上流側の領域)を排ガス浄化用触媒1から切り出す。次に、この上流側領域を粉砕した粉体に対してICPを実施することによって、上流側領域のCe元素と比較元素の存在比率(%)を測定する。なお、ここでの「比較元素」の種類は、特に限定されず、Ce元素以外の任意の元素を適宜選択できる。例えば、OSC材としてCeO-ZrO複合酸化物を使用した場合にはZr元素を選択できる。また、担体材料としてAlを使用した場合にはAl元素を選択できる。以下、Al元素を選択した場合を例に挙げて説明する。
【0099】
上記ICPによって測定されたCe元素の存在比率とAl元素の存在比率の各々に対して酸化物換算を行うことによって、CeO比率とAl比率を算出することができる。次に、触媒層20が付与されていない基材10に対して同様の処理を行い、基材10の主要元素を解析する。そして、上流側領域の成分から基材10由来の成分を減算する。これによって、基材10の成分を除いた、上流側領域の触媒層20のCeO比率とAl比率を得ることができる。そして、測定に供した上流側領域の重量W(g)と触媒層20のCeO比率とを掛けることによって、下層フロント部Aと上層フロント部Cの合計CeO重量M(g)を算出できる。また同様の手順に従って、下層フロント部Aと上層フロント部Cの合計Al重量N(g)を算出できる。
【0100】
次に、筒軸方向に沿った上流側領域の断面に対してEPMAを実施することによって上流側領域の元素マップを取得する。そして、所定の画像解析ソフト(Image-Jなど)を用いて、元素マップ上の下層フロント部Aを解析し、下層フロント部AにおけるAl量とCe量との比率(Ce/Al)を算出する。次に、上層フロント部Cを解析し、上層フロント部CにおけAl量とCe量との比率(Ce/Al)を算出する。以下、算出結果のCe/Alを「a」とし、Ce/Alを「c」とする。
【0101】
そして、下層フロント部A中のAl量とCeO量の合計量を「X」、上層フロント部C中のAl量とCeO量の合計量を「Y」と仮定する。この場合、ICPによって測定した「下層フロント部Aと上層フロント部Cの合計CeO重量M」と、「下層フロント部Aと上層フロント部Cの合計Al重量N」は、以下の式(4)及び式(5)で表される。
X+Y=M+N (4)
aX+cY=M (5)
【0102】
そして、上記の(4)及び式(5)中のM、N、a、cは既に測定されているため、連立方程式を解くことによって、下層フロント部A中のAl量とCeO量の合計量Xと、上層フロント部C中のAl量とCeO量の合計量Yを算出することができる。そして、当該Xとaを掛けることによって、下層フロント部AのCeO重量(g)を算出できる。一方、Yとcを掛けることによって、上層フロント部CのCeO重量(g)を算出できる。そして、各々の算出結果を上流測定サンプルの体積(L)で除算することによって、「下層フロント部AのCeO含有量ACeO2(g/L)」と、「上層フロント部CのCeO含有量CCeO2(g/L)」とを算出することができる。
【0103】
(2)下層リア部BのCeO含有量BCeO2
次に、下層リア部Bは、フューエルカット(F/C)などによる空燃比の変動に対応しやすい領域である。具体的には、下層触媒層22の下流側に位置する下層リア部Bには、暖機運転中の排ガスや通常運転中の排ガスなどの様々な排ガスが供給される。このため、下層リア部Bに高い酸素吸蔵能力を付与することによって、排ガスの空燃比の変動に対応しやすい排ガス浄化用触媒を構築できる。かかる観点から、下層リア部BのCeO含有量BCeO2は、20g/L以上に設定することが好ましい。これによって、下層リア部Bに高い酸素吸蔵能力を付与できるため、空燃比の変動が生じた場合でも好適な排ガス浄化性能を発揮できる。なお、下層リア部BのCeO含有量BCeO2は、22g/L以上がより好ましく、23g/L以上がさらに好ましく、24g/L以上が特に好ましい。これによって、下層リア部Bにより好適な酸素吸蔵能力を付与できる。
【0104】
一方、下層リア部BのCeO含有量BCeO2が一定以上になると、下層リア部Bの酸素吸蔵能力が飽和する。かかる観点から、下層リア部BのCeO含有量BCeO2は、63g/L以下であるとよい。これによって、下層リア部Bにおける他の成分(触媒金属、担体材料など)の含有量を十分に確保できる。なお、下層リア部BのCeO含有量BCeO2は、50g/L以下が好ましく、40g/L以下がより好ましく、30g/L以下がさらに好ましく、28g/L以下が特に好ましい。
【0105】
また、本明細書における「下層リア部BのCeO含有量BCeO2」とは、下層リア部Bが存在する領域の基材体積Vを1Lと仮定した際に、下層リア部Bに含まれるCeOの重量である。この「下層リア部BのCeO含有量BCeO2」は、上記「下層フロント部AのCeO含有量ACeO2」と同様に、ICPとEPMAを利用することによって測定される。なお、下層リア部Bと上層リア部Dの各々のCeO含有量の測定では、最初に、下層リア部Bと上層リア部Dとのみを含む下流側領域(すなわち、図4中の上層ラップ部27よりも下流側の領域)を排ガス浄化用触媒1から切り出す。
【0106】
(3)上層フロント部CのCeO含有量CCeO2
上述した通り、上層フロント部Cは、触媒金属としてRhを含有している。これによって、水性ガスシフト反応を促進し、触媒全体の浄化性能を改善できる。一方で、Rhは、酸化された際に触媒活性が大きく低下するという問題を有している。このため、暖機運転による触媒活性の回復が遅くなると、上層フロント部CにおけるH生成量が大きく減少し、NOエミッションが増大するおそれがある。このため、上層フロント部CのCeO含有量CCeO2は、7g/L以下に設定することが好ましい。上述の通り、触媒金属の周囲のCeO量を少なくすることによって、暖機運転中のCeOからの酸素供給を抑制できるため、Rhの触媒活性を早期に回復できる。これによって、暖機運転中の上層フロント部CにおけるH生成量を確保し、NOエミッションを低減できる。なお、暖機運転中のNOエミッションをさらに抑制するという観点から、上層フロント部CのCeO含有量CCeO2は、6.5g/L以下がより好ましく、6g/L以下が特に好ましい。
【0107】
一方、上層フロント部CのCeO含有量CCeO2が少なくなりすぎると、短い周期における排ガスの空燃比の急激な変動に対応できなくなるため、暖機運転中のNOエミッションが却って増大するおそれがある。このため、上層フロント部CのCeO含有量CCeO2の下限値は、1g/L以上に設定することが好ましい。なお、暖機運転中のNOのエミッションをより好適に抑制するという観点から、上層フロント部CのCeO含有量CCeO2は、2g/L以上がより好ましく、2.5g/L以上がさらに好ましく、3g/L以上が特に好ましい。
【0108】
また、本明細書における「上層フロント部CのCeO含有量CCeO2」とは、上層フロント部Cが存在する領域の基材体積Vを1Lと仮定した際に、上層フロント部Cに含まれるCeOの重量である。この「上層フロント部CのCeO含有量CCeO2」は、上述の通り、ICPとEPMAを利用することによって測定できる。
【0109】
(4)上層リア部DのCeO含有量DCeO2
上述した通り、ここに開示される上層リア部Dは、触媒金属としてRhを含有している。これによって、高速運転中の排ガス浄化性能を改善できる。一方で、酸化ロジウムは、セリアに対する反応性が高いため、高温環境に晒されるとセリアに固溶して触媒活性が大幅に低下するおそれがある。特に、高速運転中の排ガスは、非常に高温であるため、酸化ロジウムとセリアの固溶を促進し得る。このため、上層リア部DのCeO含有量DCeO2は、8g/L以下に設定することが好ましい。これによって、Rhの周囲におけるCeOの存在量を減少させ、酸化ロジウムとセリアの固溶を抑制できる。この結果、高速運転中の排ガスを好適に浄化することができる。なお、高速運転中の排ガスをより好適に浄化するという観点から、上層リア部DのCeO含有量DCeO2は、7.5g/L以下がより好ましく、7g/L以下が特に好ましい。
【0110】
一方、上層リア部DのCeO含有量DCeO2が少なくなりすぎると、短い周期における排ガスの空燃比の急激な変動に対応できなくなるため、高速運転中のNOエミッションが却って増大するおそれがある。このため、上層リア部DのCeO含有量DCeO2の下限値は、2g/L以上に設定することが好ましい。なお、高速運転中のNOエミッションをより適切に抑制するという観点から、上層リア部DのCeO含有量DCeO2は、2.5g/L以上がより好ましく、3g/L以上がさらに好ましく、3.5g/L以上が特に好ましい。
【0111】
また、本明細書における「上層リア部DのCeO含有量DCeO2」とは、上層リア部Dが存在する領域の基材体積Vを1Lと仮定した際に、上層リア部Dに含まれるCeOの重量である。この「上層リア部DのCeO含有量DCeO2」も、上記「下層フロント部AのCeO含有量ACeO2」などと同様に、ICPとEPMAを利用することによって測定できる。
【0112】
なお、上層リア部DのCeO含有量DCeO2は、上層フロント部CのCeO含有量CCeO2よりも多いことが好ましい。より具体的には、上層リア部DのCeO含有量DCeO2に対する上層フロント部CのCeO含有量CCeO2の割合(CCeO2/DCeO2)は、1.0以下が好ましく、0.75以下がより好ましく、0.7以下がさらに好ましい。これによって、高速の排ガスが供給される高負荷運転における空燃比の変動に対応しやすくなる。この結果、上層フロント部Cで十分に浄化できなかった有害成分に対する浄化性能が向上するため、高負荷運転時の有害成分のエミッションを好適に低減できる。一方、上記CCeO2/DCeO2の下限値は、特に限定されず、0.1以上でもよく、0.2以上でもよく、0.4以上でもよく、0.5以上でもよい。
【0113】
2.他の改変例
例えば、上述の実施形態に係る排ガス浄化用触媒1の触媒層20は、下層触媒層22と上層触媒層24のみで構成されている。しかし、ここに開示される排ガス浄化用触媒の触媒層は、下層触媒層と上層触媒層とを含む少なくとも2層の積層構造を有していればよい。換言すると、ここに開示される排ガス浄化用触媒は、図4中の隔壁14と下層触媒層22との間、下層触媒層22と上層触媒層24との間、上層触媒層24の表面上などに、他の触媒層が設けられた形態を包含する。なお、このような3層以上の触媒層を含む場合、隔壁の表面に近い方を下層触媒層とし、相対的に遠い方を上層触媒層とする。
【0114】
[試験例]
以下、ここに開示される技術に関する試験例を説明する。なお、以下の試験例は、ここに開示される技術を以下の内容に限定することを意図したものではない。
【0115】
<第1の試験>
本試験では、上層ラップ部の位置が異なる6種類の排ガス浄化用触媒(例1~例6)を作製し、各例の排ガス浄化性能を評価した。
【0116】
1.各例の作製
(1)例1
例1では、4種類のスラリー(下層フロント部A用のスラリー、下層リア部B用のスラリー、上層フロント部C用のスラリー、および、上層リア部D用のスラリー)を準備した。下層フロント部A用のスラリーは、硝酸Pd(Pd含有量:2.0g)と、CeO含有率が40%のCeO-ZrO複合酸化物(CeO含有量:10g)と、Al粉末(80g)と、水系溶媒と混合したスラリーである。また、下層リア部B用のスラリーは、下層フロント部A用のスラリーと同じ組成のものを準備した。次に、上層フロント部C用のスラリーは、硝酸Rh(Rh含有量:0.2g)と、CeO含有率が20%のCeO-ZrO複合酸化物(CeO含有量:4.8g)と、Al粉末(60g)と、水系溶媒と混合したスラリーである。そして、上層リア部D用のスラリーは、上層フロント部C用のスラリーと同じ組成のものを準備した。
【0117】
次に、基材として、円筒形状のストレートフロー型のハニカム基材(直径:118.4mm、筒軸方向の長さL:114.3mm、容積:1.26L)を準備した。そして、上記[排ガス浄化用触媒の製造方法]に記載の手順に従って、下層フロント部Aと下層リア部Bと上層フロント部Cと上層リア部Dを有する触媒層を形成した。
【0118】
ここで、例1では、隔壁の全長(100%)に対する下層フロント部Aの長さを50%に設定し、下層リア部Bの長さを50%に設定した。さらに、上層フロント部Cの長さを90%に設定し、上層リア部Dの長さを30%に設定した。この結果、例1では、基材の上流側から80%の位置に中心が配置された上層ラップ部(ラップ幅20%)が形成された。
【0119】
(2)例2~例6
例2~例6では、上層フロント部Cと上層リア部Dの長さを変更したことを除いて、例1と同じ手順で排ガス浄化用触媒を作製した。各例における上層フロント部Cと上層リア部Dの長さ、上層ラップ部の中心の位置、上層ラップ部の幅を表1に示す。
【0120】
2.評価試験
(1)耐久試験
本試験では、各例の排ガス浄化用触媒に対して12万km相当の加速耐久試験を行った。具体的には、各例の排ガス浄化用触媒を排気量4.8Lのエンジンベンチに取り付けた。そして、エンジンを稼働させ、触媒床温度1000℃で50時間保持した。
【0121】
(2)排ガス浄化性能評価
次に、耐久試験後の排ガス浄化用触媒の排ガス浄化性能を評価した。具体的には、耐久試験後の排ガス浄化用触媒の上流側と下流側のHC濃度を測定しながら、20℃/minの昇温速度で150℃から450℃まで昇温する排ガスを供給した、そして、下流側のHC濃度が上流側のHC濃度の50%以下になる温度(50%HC浄化温度(℃))を測定した。結果を表1及び図5に示す。なお、本試験における排ガスの空燃比(AFR)は、λ(還元ガス成分に対する酸化ガス成分の割合)が1(ストイキ)になるように設定した
【0122】
【表1】
【0123】
表1及び図5に示すように、本試験では、上層ラップ部を形成した排ガス浄化用触媒(例1~5)において、50%HC浄化時間が短くなるという傾向が確認された。また、例2~5に示すように、上層ラップ部の中心が基材の上流側の端部から40%~70%の範囲内に配置されると、排ガス浄化性能がさらに改善されることが確認された。これは、比較的に下流側に上層ラップ部を形成した結果、流速が早い排ガスが効率よく浄化されるようになったためと推測される。
【0124】
<第2の試験>
本試験では、下層ラップ部と上層ラップ部の位置が異なる4種類の排ガス浄化用触媒(例7~例10)を作製し、各例の圧損を評価した。
【0125】
1.各例の作製
第2の試験の例7~例10では、各領域(下層フロント部A~上層リア部D)の長さを変更した点を除いて、第1の試験の例1と同様の手順で排ガス浄化用触媒を作製した。すなわち、例7~例10では、第1の試験と同じ組成のスラリーを使用した上で、各スラリーを塗布する領域のみを変更した。なお、例7~例10における各領域の長さ、下層ラップ部の形成領域、上層ラップ部の形成領域は、表2に示す。
【0126】
2.評価試験
(1)耐久試験
上記第1の試験と同じ手順に従って、各例の排ガス浄化用触媒に対して12万km相当の加速耐久試験を行った。
【0127】
(2)圧損評価試験
耐久試験後の(PM堆積後の)排ガス浄化用触媒に、25℃の空気を10m/minの流量で流入させた。そして、排ガス浄化用触媒の上流側の圧力と下流側の圧力とを測定し、圧損値(kPa)を算出した。結果を表2に示す。なお、表2に示す圧損は、例10の圧損値を100%としたときの相対値(圧損比)である。
【0128】
【表2】
【0129】
表2に示すように、例7および例8では、例9および例10と比較して、耐久試験後の圧損が顕著に低くなっていた。これは、上層ラップ部と下層ラップ部の形成位置を異ならせた結果、触媒層の厚みが局所的に増大する領域が形成されることを防止し、セルの開口面積を充分に確保できたためと推測される。
【0130】
<第3の試験>
本試験では、下層フロント部AのCeO含有量ACeO2が異なる6種類の排ガス浄化用触媒(例11~例16)を作製し、各例の暖機性能を評価した。
【0131】
1.各例の作製
(1)例11
第3の試験の例11では、各スラリー(下層フロント部A~上層リア部D)の成分を変更した点を除いて、第1の試験の例6(ラップ部なし)と同様の手順で排ガス浄化用触媒を作製した。
【0132】
具体的には、例11の下層フロント部A用のスラリーは、硝酸Pd(Pd含有量:5.3g)と、Al粉末(40g)と、水系溶媒と混合したスラリーである。また、下層リア部B用のスラリーは、硝酸Pd(Pd含有量:2.6g)と、CeO含有率が40%のCeO-ZrO複合酸化物(CeO含有量:22g)と、Al粉末(50g)と、水系溶媒と混合したスラリーである。次に、上層フロント部C用のスラリーは、硝酸Rh(Rh含有量:0.2g)と、CeO含有率が20%のCeO-ZrO複合酸化物(CeO含有量:2.1g)と、Al粉末(90g)と、水系溶媒と混合したスラリーである。そして、上層リア部D用のスラリーは、硝酸Rh(Rh含有量:0.2g)と、CeO含有率が20%のCeO-ZrO複合酸化物(CeO含有量:2.1g)と、Al粉末(90g)と、水系溶媒と混合したスラリーである。
【0133】
(2)例12~例16
例12~例16では、下層フロント部AのCeO含有量ACeO2を表3に示すように変更したことを除いて、例11と同じ手順で排ガス浄化用触媒を作製した。具体的には、例12~例16では、CeO含有量ACeO2が表3に示す量になるように、下層フロント部A用のスラリーに、CeO含有率が40%のCeO-ZrO複合酸化物を添加した。なお、例12~例16の下層フロント部A用のスラリーでは、CeO-ZrO複合酸化物を添加した分、Al粉末の添加量を減少させた。
【0134】
2.評価試験
(1)耐久試験
第1の試験と同じ手順に従って、各例の排ガス浄化用触媒に対して12万km相当の加速耐久試験を行った。
【0135】
(2)暖機性能評価
次に、耐久試験後の排ガス浄化用触媒の暖機性能を評価した。具体的には、耐久試験後の排ガス浄化用触媒に空気を供給して50℃まで冷却した。その後、排ガス浄化用触媒の上流側と下流側のHC濃度を測定しながら450℃の排ガスを供給した、そして、下流側のHC濃度が上流側のHC濃度の50%以下になるまでの時間(50%HC浄化時間(sec))を測定した。結果を表3及び図6に示す。なお、本試験における排ガスの空燃比(AFR)は、λ=1(ストイキ)に設定した。
【0136】
【表3】
【0137】
表3及び図6に示すように、本試験では、下層フロント部AのCeO含有量ACeO2が少なくなるにつれて、50%HC浄化時間が短くなるという傾向が確認された。これは、暖機運転におけるCeOからの酸素供給が抑制された結果、下層フロント部Aの触媒金属(Pd)の浄化性能の回復が促進されたためと推測される。
【0138】
<第4の試験>
本試験では、下層リア部BのCeO含有量BCeO2が異なる4種類の排ガス浄化用触媒(例17~例20)を作製し、各々の酸素吸蔵能を評価した。
【0139】
1.各例の作製
(1)例17
第4の試験の例17では、各スラリー(下層フロント部A~上層リア部D)の成分を変更した点を除いて、第3の試験の例11と同様の手順で排ガス浄化用触媒を作製した。
【0140】
具体的には、例17の下層フロント部A用のスラリーは、硝酸Pd(Pd含有量:2.8g)と、CeO含有率が40%のCeO-ZrO複合酸化物(CeO含有量:15g)と、Al粉末(70g)と、水系溶媒と混合したスラリーである。また、下層リア部B用のスラリーは、硝酸Pd(Pd含有量:0.8g)と、CeO含有率が40%のCeO-ZrO複合酸化物(CeO含有量:28g)と、Al粉末(40g)と、水系溶媒と混合したスラリーである。次に、上層フロント部C用のスラリーは、硝酸Rh溶液(Rh含有量:0.2g)と、CeO含有率が20%のCeO-ZrO複合酸化物(CeO含有量:6g)と、Al粉末(80g)と、水系溶媒と混合したスラリーである。そして、上層リア部D用のスラリーは、硝酸Rh溶液(Rh含有量:0.2g)と、CeO含有率が20%のCeO-ZrO複合酸化物(CeO含有量:6g)と、Al粉末(80g)と、水系溶媒と混合したスラリーである。
【0141】
(2)例18~例20
例18~例20では、下層リア部BのCeO含有量BCeO2を表4に示すように変更したことを除いて、例17と同じ手順で排ガス浄化用触媒を作製した。なお、例18~例20におけるCeO含有量BCeO2を調整する手順は、第3の試験の例12~例16におけるCeO含有量ACeO2を調整する手順と同じであるため重複した説明を省略する。
【0142】
2.評価試験
(1)耐久試験
第1の試験と同じ手順に従って、各例の排ガス浄化用触媒に対して12万km相当の加速耐久試験を行った。
【0143】
(2)空燃比変動試験
本試験では、まず、耐久試験後の排ガス浄化用触媒の下流側にOセンサを取り付けた。次に、排ガス浄化用触媒の温度を500℃に維持した状態で、エンジンベンチから排ガスを供給した。そして、Oセンサの出力電圧が0.5V以上である場合に、排ガス浄化用触媒の内部がリッチガスで満たされていると判断し、λが1.035のリーンガスを供給した。一方、Oセンサの出力電圧が0.5V未満である場合に、排ガス浄化用触媒の内部がリーンガスで満たされていると判断し、λが0.965のリッチガスを供給した。この空燃比変動試験を、上流側と下流側のNO濃度を測定しながら5分間継続した。そして、NO濃度の測定結果に基づいて試験中のNO浄化率を算出した。結果を表4に示す。
【0144】
【表4】
【0145】
表4及び図7に示すように、本試験では、下層リア部BのCeO含有量BCeO2が多くなるにつれて、空燃比変動時のNO浄化率が向上するという傾向が確認された。これは、様々な稼働状況の排ガスが供給されやすい下層リア部Bに、高い酸素吸蔵能力を付与したためと推測される。
【0146】
<第5の試験>
本試験では、上層フロント部CのCeO含有量CCeO2が異なる4種類の排ガス浄化用触媒(例21~例24)を作製し、暖機運転中のNO浄化性能を評価した。
【0147】
1.各例の作製
(1)例21
第5の試験の例21では、各スラリー(下層フロント部A~上層リア部D)の成分を変更した点を除いて、第3の試験の例11と同様の手順で排ガス浄化用触媒を作製した。
【0148】
具体的には、例21の下層フロント部A用のスラリーは、硝酸Pd(Pd含有量:3.4g)と、CeO含有率が40%のCeO-ZrO複合酸化物(CeO含有量:8g)と、Al粉末(40g)と、水系溶媒と混合したスラリーである。また、下層リア部B用のスラリーは、硝酸Pd(Pd含有量:3.4g)と、CeO含有率が40%のCeO-ZrO複合酸化物(CeO含有量:22g)と、Al粉末(55g)と、水系溶媒と混合したスラリーである。次に、上層フロント部C用のスラリーは、硝酸Rh(Rh含有量:0.3g)と、CeO含有率が20%のCeO-ZrO複合酸化物(CeO含有量:3g)と、Al粉末(75g)と、水系溶媒と混合したスラリーである。そして、上層リア部D用のスラリーは、硝酸Rh(Rh含有量:0.3g)と、CeO含有率が20%のCeO-ZrO複合酸化物(CeO含有量:3g)と、Al粉末(75g)と、水系溶媒と混合したスラリーである。
【0149】
(2)例22~例24
例22~例24では、上層フロント部CのCeO含有量CCeO2を表5に示すように変更したことを除いて、例21と同じ手順で排ガス浄化用触媒を作製した。なお、例22~例24におけるCeO含有量CCeO2を調整する手順は、第3の試験の例12~例16におけるCeO含有量ACeO2を調整する手順と同じであるため重複した説明を省略する。
【0150】
2.評価試験
(1)耐久試験
上記第1の試験と同じ手順に従って、各例の排ガス浄化用触媒に対して12万km相当の加速耐久試験を行った。
【0151】
(2)暖機性能評価
本試験では、耐久試験後の排ガス浄化用触媒に対して、暖機運転中のNO浄化性能を評価した。具体的には、耐久試験後の排ガス浄化用触媒に空気を供給して200℃まで冷却した。その後、排ガス浄化用触媒の上流側と下流側のNO濃度を測定しながら、排ガスの温度を10℃/minの昇温速度で500℃まで昇温させた。そして、NO浄化率が50%になった温度(50%NO浄化温度(℃))を測定した。結果を表5及び図8に示す。なお、本試験における排ガスの空燃比は、ストイキ(λ=1)に設定した。
【0152】
【表5】
【0153】
表5及び図8に示すように、例22は、例24と比べて50%HC浄化温度が顕著に低下していた。このことから、上層フロント部CのCeO含有量CCeO2が多くなると、暖機運転中のNO浄化性能が低下することが分かった。これは、CeOからの酸素供給によってRhの触媒活性の回復が阻害された結果、上層フロント部Cで水性ガスシフト反応が生じにくくなったためと推測される。一方、例21と例23とを比較すると、例21の方が50%HC浄化温度が顕著に低くなっていた。このことから、上層フロント部Cに一定以上のCeOが存在すると、暖機性能が大幅に向上することが分かった。これは、排ガスの空燃比がストイキに制御されている場合でも、実際の空燃比はリッチ側とリーン側に細かく振幅しており、上層フロント部Cに微量のCeOを存在させることによって、このような微細な空燃比変動に対応できるようになるためと推測される。
【0154】
<第6の試験>
本試験では、上層リア部DのCeO含有量DCeO2が異なる4種類の排ガス浄化用触媒(例25~例28)を作製し、高速運転における排ガス浄化性能を評価した。
【0155】
1.各例の作製
(1)例25
第6の試験の例25では、各スラリー(下層フロント部A~上層リア部D)の成分を変更した点を除いて、第3の試験の例11と同様の手順で排ガス浄化用触媒を作製した。
【0156】
具体的には、例25の下層フロント部A用のスラリーは、硝酸Pd(Pd含有量:3.4g)と、CeO含有率が40%のCeO-ZrO複合酸化物(CeO含有量:8g)と、Al粉末(40g)と、水系溶媒と混合したスラリーである。また、下層リア部B用のスラリーは、硝酸Pd(Pd含有量:3.4g)と、CeO含有率が40%のCeO-ZrO複合酸化物(CeO含有量:22g)と、Al粉末(55g)と、水系溶媒と混合したスラリーである。次に、上層フロント部C用のスラリーは、硝酸Rh溶液(Rh含有量:0.3g)と、CeO含有率が20%のCeO-ZrO複合酸化物(CeO含有量:3g)と、Al粉末(75g)と、水系溶媒と混合したスラリーである。そして、上層リア部D用のスラリーは、硝酸Rh溶液(Rh含有量:0.3g)と、CeO含有率が20%のCeO-ZrO複合酸化物(CeO含有量:3g)と、Al粉末(75g)と、水系溶媒と混合したスラリーである。
【0157】
(2)例26~例28
例26~例28では、上層リア部DのCeO含有量DCeO2を表6に示すように変更したことを除いて、例25と同じ手順で排ガス浄化用触媒を作製した。
【0158】
2.評価試験
(1)耐久試験
上記第1の試験と同じ手順に従って、各例の排ガス浄化用触媒に対して12万km相当の加速耐久試験を行った。
【0159】
(2)高速運転評価
本試験では、耐久試験後の排ガス浄化用触媒に対して、高速運転におけるNO浄化性能の評価を行った。具体的には、各例の排ガス浄化用触媒を1.5Lターボ車両に取り付けて、WLTCモードで実際に走行した。そして、Extra-urban区間(平均速度:62.6km/h、最高速度:120km/h)におけるNO排出量(mg/km)を、高速運転中のNO排出量とみなして測定を行った。結果を表6及び図9に示す。
【0160】
【表6】
【0161】
表6及び図9に示すように、例26は、例28と比べて、高速運転中のNOx排出量が顕著に低下していた。このことから、上層リア部DのCeO含有量DCeO2を少なくすると、高速運転中の排ガス浄化性能が向上することが分かった。これは、Rhの周囲に存在するCeOを少なくした結果、高温の排ガスによるRhとCeOとの固溶が抑制されたためと推測される。一方、例25と例27とを比較すると、例25のNO排出量が顕著に低下していた。このことから、上層リア部Dに一定量のCeOを存在させることによって、高速運転中の排ガス浄化性能が向上することが分かった。これは、短い周期における排ガスの空燃比の急激な変動に対応できるようになるためと推測される。
【0162】
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、上記実施形態は一例に過ぎない。本発明は、他にも種々の形態にて実施することができる。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。請求の範囲に記載の技術には、上記に例示した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、上記した実施形態の一部を、他の変形態様に置き換えることも可能であり、上記した実施形態に他の変形態様を追加することも可能である。また、その技術的特徴が必須なものとして説明されていなければ、適宜削除することも可能である。
【符号の説明】
【0163】
1 排ガス浄化用触媒
2 内燃機関
3 エキゾーストマニホールド
4 排気管
5 排気系
6 センサ
7 エンジンコントロールユニット(ECU)
8 第1浄化部材
9 第2浄化部材
10 基材
12 セル
20 触媒層
22 下層触媒層
24 上層触媒層
25 下層ラップ部
27 上層ラップ部
A 下層フロント部
B 下層リア部
C 上層フロント部
D 上層リア部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9