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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】マットレス
(51)【国際特許分類】
   A47C 31/10 20060101AFI20241113BHJP
   A47C 27/12 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
A47C31/10
A47C27/12 B
A47C27/12 G
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023042363
(22)【出願日】2023-03-16
(62)【分割の表示】P 2022043896の分割
【原出願日】2018-01-23
(65)【公開番号】P2023063541
(43)【公開日】2023-05-09
【審査請求日】2023-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2017025492
(32)【優先日】2017-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505290531
【氏名又は名称】株式会社エアウィーヴ
(74)【代理人】
【識別番号】110004082
【氏名又は名称】弁理士法人北大阪特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100141092
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 英生
(72)【発明者】
【氏名】高岡 本州
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-069693(JP,A)
【文献】中国実用新案第204192110(CN,U)
【文献】登録実用新案第3190739(JP,U)
【文献】国際公開第2015/125497(WO,A1)
【文献】特開2001-258958(JP,A)
【文献】特開2014-133047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 27/00-27/22
A47C 31/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さ方向へ複数のクッション体に分割可能であるマットレス用クッションを、マットレスカバー内に収容し、厚み方向の上側に使用者が横たわることの出来るマットレスにおいて、
前記複数のクッション体は、かさ密度が30~150kg/m3、フィラメント径が0.5~2mmである樹脂製のフィラメント3次元結合体を直方体状としたものであり、
隣接するクッション体との接触面を長さ方向の端部側面とすると共に前記厚み方向両端 部にフィラメントの密度が厚み方向中央部より高い平滑表面層を有しており、
前記マットレスカバーは、上方から見て1周するように設けられた周面部を有すると共に、当該周面部の伸びを100Nの力で引っ張った際に、1mあたり2cm以内としたものであり、
当該マットレスカバーは、前記フィラメント3次元結合体から成る前記複数のクッション体を長さ方向に圧密状態で被覆している
ことを特徴とするマットレス。
【請求項2】
前記マットレスカバーは、開閉部材で開閉可能な上面側カバーと底面側カバーとから成ることを特徴とする請求項1に記載のマットレス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クッション体を用いて形成されるマットレスに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂からなるフィラメントを3次元的に融着結合させて得られる結合体(フィラメント3次元結合体)をクッションとして用いた高反発マットレスが、近年注目されてきている。フィラメント3次元結合体を用いたマットレスは、反発力が高いことから寝返りがしやすい上、通気性と体圧分散性に優れているため、蒸れにくく柔らかな感触の寝心地が得られる。このように当該マットレスは、快適な睡眠のために必要不可欠な特長を有している。またフィラメント3次元結合体は、空隙率が高いことから、水洗いしても水切りや乾燥を速く行うことが出来るので、クリーニングしやすいという利点を備える。
【0003】
このようなフィラメント3次元結合体の製造方法として、例えば、特許文献1に開示された方法が知られている。当該方法によれば、水平に配置された複数のノズルから溶融状態の熱可塑性樹脂を鉛直方向下向きに押し出した後、直径が1mm前後の溶融フィラメントを冷却水中に落下させて、水の浮力でループを形成させると同時に、ループ形成した複数の溶融フィラメントどうしを3次元的に融着結合させてフィラメント3次元結合体が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4966438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、フィラメント3次元結合体がクリーニングしやすいとは言え、マットレスは、サイズが大きくなり重くなることも多い。そのためマットレスについては、洗い場までの運搬や、水切りおよび乾燥といった作業が煩わしくなるという課題がある。特に、高齢者にとっては、このような作業が体力的に困難となることが多い。
【0006】
この課題に対して、マットレス用のクッションを複数のクッション体(それぞれを合わせることで、一のマットレス用クッションとなるもの)に分割可能に形成しておき、当該マットレス用のクッションをマットレスカバーに収容する方法が考えられる。この方法によって形成されたマットレスによれば、クッション体それぞれは比較的コンパクトになるため、上記作業の煩わしさが軽減され、高齢者による上記作業も比較的容易となる。
【0007】
しかし、当該方法により形成されたマットレスによれば、クッション体どうしの境界部の隙間が広がりやすくなる。この問題点について、図11を参照しながら以下に説明する。図11は、当該方法により形成されたマットレスの一例について、クッション体どうしの境界部の隙間が広がる様子を概略的に示している。
【0008】
図11に示すマットレス500は、長さ方向へ並ぶ3個のクッション体521~523が、マットレスカバー510に収容されている。図11(A)に示すように、クッション体521とクッション体522の隙間520aが使用者の手足等(例えば肘や膝)に押圧されると、図11(B)に示すように、そこに形成された溝に当該手足等が落ち込むといった問題が発生する。柔らかな寝心地を得るためにマットレスカバーの上面部の生地を軟らかくすればするほど、隙間520aが広がりやすくなり、発生した溝の中に手足等が落ち込みやすくなる傾向にある。
【0009】
手足等がこのような溝に落ち込むことは使用者に不快感を与えてしまい、寝心地が悪くなる要因となり得る。本発明は上記課題に鑑み、柔らかな寝心地を損なうことなく、手足等が溝に落ち込みにくく、クリーニング作業を容易にすることが可能となるマットレスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るマットレスは、長さ方向へ複数のクッション体に分割可能であるマットレス用クッションと、このマットレス用クッションを、開口を介して出し入れ可能に収容するマットレスカバーと、前記開口を開閉する開閉部材とを備え、前記開口を閉じた状態で使用者が横たわることの出来るマットレスにおいて、前記複数のクッション体それぞれは、厚み方向両端部にフィラメントの密度が厚み方向中央部より高い平滑表面層を備える樹脂製のフィラメント3次元結合体を用いて直方体状に形成されており、且つ当該フィラメント3次元結合体はフィラメント径が0.5~2mm、かさ密度が30~150kg/m3を有するものであって、前記マットレスカバーは、上面側カバーと底面側カバーとから成り、少なくとも一方のカバーは、前記マットレス用クッションの周面部も包囲して前記マットレス用クッションの長さ方向の伸びを防止する伸張防止部材として機能し、前記開閉部材をもって前記開口を閉じることにより、前記長さ方向に互いに隣接するクッション体の鉛直面同士を少なくとも圧着状態で収容するようにしたマットレスとする。
【0011】
本構成によれば、柔らかな寝心地を損なうことなく、膝や肘などが溝に落ち込みにくく、クリーニング作業を容易にすることが可能となる。
【0012】
なお、ここでの長さ方向とは、上下方向と略直交し、マットレスにおいて最も長くなっている方向(通常、横たわる使用者の身長方向に一致する)のことである。また、マットレスカバーの周面部は、上方から見た場合のマットレスカバーの外周の面(側面)に相当する。
【0013】
また上記構成としてより具体的には、前記上面側カバーは前記マットレス用クッションの上面部と当該上面部に続く周面部の上部側をカバーするものである構成としても良い。また上記構成としてより具体的には、前記マットレス用クッションを少なくとも上下2層とした構成としても良い。また上記構成としてより具体的には、前記開口を開閉する開閉部材がファスナーである構成としても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るマットレスによれば、柔らかな寝心地を損なうことなく、手足等が溝に落ち込みにくく、クリーニング作業を容易にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態に係るマットレスの斜視図である。
図2A】第1実施形態に係る結合状態のマットレスカバーの斜視図である。
図2B】第1実施形態に係るマットレスカバーの分解斜視図である。
図3】第1実施形態に係るマットレス用クッションの分解斜視図である。
図4A】第1実施形態に係るマットレスの断面図である。
図4B】第1実施形態に係るマットレスの変形状態を示す概念図である。
図5】底面側カバーにクッション体を収容する様子を示す概念図である。
図6】各クッション体をクリーニングする際の、水切り方法や乾燥方法の一例を示す概念図である。
図7A】第2実施形態に係るマットレスの断面図である。
図7B】第2実施形態に係るマットレス用クッションの分解斜視図である。
図8】第2実施形態に係るマットレスの変形状態を示す概念図である。
図9A】第3実施形態に係るマットレスの断面図である。
図9B】第3実施形態に係るマットレス用クッションの分解斜視図である。
図10】第3実施形態に係るマットレスの変形状態を示す概念図である。
図11】クッション体どうしの境界部の隙間が広がる様子に関する説明図である。
図12】第4実施形態に係るマットレスの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態として、第1実施形態から第3実施形態のそれぞれを例に挙げ、以下に図面を参照しながら説明する。
【0017】
1.第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態に係るマットレス1の概略的な斜視図である。なお、マットレス1に関する上下、左右、および前後の各方向は、図1等に示すとおりである。また図1では、マットレス1の内部構成を理解容易とするため、各クッション体21~23の概略的な位置を破線で示している。
【0018】
マットレス1は、その外面全体を覆うマットレスカバー10と、その中に収容されるマットレス用クッション20を含む。マットレス1は全体的に見て、前後方向(長さ方向)と左右方向と上下方向(厚み方向)の各辺を有する直方体の形状となっており、左右方向寸法は前後方向寸法よりやや小さく、上下方向寸法は左右方向寸法より十分に小さい。
【0019】
マットレス用クッション20は、3個のクッション体21~23に分割可能に形成されている。マットレス1は通常、水平な床やベッド等の上に置かれ、上側に使用者が横たわる形態で使用される。このように使用されるとき、マットレス1の上下方向は、鉛直方向に一致する。マットレス1は、上記のとおり前後方向(長さ方向)のサイズが長めに設定されており、前後方向がユーザーの身長方向と略一致する形態で好適に使用可能である。
【0020】
マットレスカバー10は、上面側カバー10aと底面側カバー10bを有し、内部にマットレス用クッション20を入れた状態で、各カバー10a、10bをファスナー(後述する伸張防止部材14として機能する)により結合することが可能である。図2Aは、上面側カバー10aと底面側カバー10bを結合した状態(結合状態)のマットレスカバー10の概略的な斜視図であり、図2Bは、マットレスカバー10を上面側カバー10aと底面側カバー10bに分解した場合の概略的な分解斜視図である。
【0021】
図2Aに示す状態のマットレスカバー10は、就寝時のユーザーと接する長方形の上面部11と、その対面となる長方形の底面部12と、上面部11と底面部12の各辺(11a~11d、12a~12d)に接続される4個の長方形の側面で構成される周面部13を有しており、全体的に見て、内部にスペースを有する略直方体の形状となっている。
【0022】
より具体的に説明すると、上面部11は、それぞれ前後に伸びる左端の辺11aと右端の辺11c、および、それぞれ左右に伸びる後端の辺11bと前端の辺11dに囲まれている。一方、下面部12は、それぞれ前後に伸びる左端の辺12aと右端の辺12c、および、それぞれ左右に伸びる後端の辺12bと前端の辺12dに囲まれている。
【0023】
また、周面部13は、辺11aと辺12aに挟まれた左向きの側面と、辺11bと辺12bに挟まれた後向きの側面と、辺11cと辺12cに挟まれた右向きの側面と、辺11dと辺12dに挟まれた前向きの側面と、を有する。このように周面部13は、上方から見た場合のマットレスカバー10の外周の面に相当する。なお、前向きの側面と左向きの側面は辺13aにおいて連接し、左向きの側面と後向きの側面は辺13bにおいて連接し、後向きの側面と右向きの側面は辺13cにおいて連接し、右向きの側面と前向きの側面は辺13dにおいて連接している。周面部13は、各辺13a~13dで区切られた4面からなる角筒状の側面と見ることもできる。
【0024】
周面部13には、伸張防止部材14が設けられている。伸張防止部材14は、マットレスカバー10の他の部分に比べて伸び難い構成となっており、マットレスカバー10が長さ方向(身長方向)に伸びることを防止する役割を果たす。伸張防止部材14は、上下方向位置(高さ)を略一定として、上方から見て周面部13を1周するように設けられている。
【0025】
本実施形態では、伸張防止部材14として織物テープを用いたファスナーが使用されており、このファスナーは、上面カバー10aと下面カバー10bの結合箇所全体に及ぶように配置されている。当該ファスナーを開けることにより、周面部13において、上面側カバー10aと底面側カバー10bを完全に分離できるようになっている。
【0026】
伸張防止部材14は、マットレスカバー10の長さ方向の伸びを防止し、マットレスカバー10が伸びることによるクッション体21~23どうしの隙間の広がりを防止する。なお伸張防止部材14は、当該伸びを完全に防止するものには限られない。伸張防止部材14は、100Nの力で引っ張った際に、1mあたりの伸びが2cm以内の部材であることが必要であり、好ましくは1mあたりの伸びが1cm以内の部材であることが好ましい。特に、長さ方向(通常、使用者の身長方向に一致する)に平行な側面(左向き及び右向きの側面)においては、100Nの力で引っ張った際に、1mあたりの伸びが0.5cm以下であることが好ましい。伸張防止部材14として使用できる素材としては、化学繊維で形成される織物テープなどが挙げられる。
【0027】
伸張防止部材14を取付ける位置としては、底面部12から上面部11までの高さにおいて、50~99%の範囲内の高さとなる位置(中央よりも上面部11寄りの位置)に、上方から見た場合の周方向へ連続的に設けられるが好ましい。この場合、伸張防止部材14は、長さ方向に平行な2つの側面(左向き及び右向きの側面)を含む周面部13を連続的に包囲するように、配設されることが好ましい。
【0028】
本実施形態は、帯状の伸張防止部材14を採用した形態とされているが、このような形態以外にも、例えば、キャンバス生地などを用いて周面部13全体が伸張防止部材として機能するように設計してもよい。また通気性を高めるために、周面部13には、複数の通気口や、通気性に優れたメッシュ生地を設けることが望ましい。
【0029】
なお周面部13は、マットレス1の周面部(上方から見たマットレス1の外周の面)に対応している。また、上面部11および底面部12の形状は、本実施形態のような長方形に限られず、例えば、長方形における四隅の角を丸めた形状であってもよい。この場合、周面部13において、前後左右の各側面どうしの境界部分(上下に伸びた辺)についても、同様に丸めた形状とすれば良い。
【0030】
図3は、図1に示すマットレス1内に収容されるマットレス用クッション20の分解斜視図である。マットレス用クッション20は、長さ方向へ3個のクッション体21~23に分割可能である。別の見方をすれば、マットレス用クッション20は、長さ方向へ順に並ぶ3個のクッション体21~23により形成される。
【0031】
3個のクッション体21~23はいずれも同等の構成となっており、それぞれ、その外面全体を覆うメッシュ状のインナーカバー31と、その中に収容されるフィラメント3次元結合体41を含む。各クッション体21~23は略直方体であり、上向きの外面及び下向きの外面と、周面部(前向きの外面、後向きの外面、左向きの外面、および右向きの外面からなる部分)を有する。本実施形態において、インナーカバー31には、フィラメント3次元結合体41を脱着可能とするための開閉部材として、ファスナー31aが周面部に設けられている。また周面部の一面(本実施形態では、左向きの外面)には、吊り具31c、31eと、それを収容する吊り具収容ポケット31b、31dが設けられている。
【0032】
本実施形態において、吊り具31c、31eは、一端がインナーカバー31に固定された吊り紐と、当該吊り紐の他端に固定されたフックを有する。当該フックは物干し竿等に引掛けることが可能であり、物干し竿等に当該フックを掛けるだけで、各クッション体21~23を吊るすことが可能である(図6を参照)。
【0033】
フィラメント3次元結合体41は、熱可塑性樹脂の溶融フィラメントどうしを3次元的に融着結合させることによって得られる弾性部材である。フィラメント3次元結合体41の製造過程では、水平に配置された複数のノズルから、溶融状態の熱可塑性樹脂が鉛直方向下向きに押し出される。これにより断面の直径が1mm前後である溶融フィラメントを冷却水中に落下させ、水の浮力でループを形成させると同時に、ループ形成した複数の溶融フィラメントどうしを3次元的に融着結合させることによって、フィラメント3次元結合体41が得られる。この時、溶融フィラメント群の幅を、シュートおよび引取機などで規制することによって、厚み方向両端部にフィラメントの密度が厚み方向中央部より高い平滑表面層を形成できる。このようなフィラメント3次元結合体の製造方法としては、特許文献1に開示された方法などが採用され得る。
【0034】
フィラメント3次元結合体41の厚み(上下方向寸法)は、10~25cmの範囲内であることが好ましい。またフィラメント3次元結合体41において、フィラメント径(断面の直径)は0.5~2mmの範囲内であることが好ましく、かさ密度は30~150kg/mの範囲内であることが好ましい。本実施形態に係るマットレス1においては、これらの条件が全て満たされている。厚み方向両端部にフィラメントの密度が厚み方向中央部より高い平滑表面層を形成させるとともに、厚み、フィラメント径、およびかさ密度が上記の範囲内に収められることにより、フィラメント3次元結合体41の水切り性や乾燥性が損なわれることなく、各クッション体21~23が長さ方向に変形してマットレス1の表面に楕円状の溝が形成されることを、極力防ぐことが可能となる。
【0035】
フィラメント3次元結合体41の厚みが10cm未満の場合、フィラメント3次元結合体41自体がねじれて鉛直方向上下に重なりやすくなり、長さ方向への圧着力を十分に伝えることが難しくなる。逆に、当該厚みが25cmを超えると、フィラメント3次元結合体41が重くなり搬送しにくくなる。
【0036】
フィラメント3次元結合体41におけるフィラメント径が0.5mm未満の場合、フィラメントの表面積が水洗後の水切れや乾燥時間が長くなる。逆に、当該フィラメント径が2mmを超えると、フィラメント3次元結合体41の柔らかな感触が失われやすくなる。フィラメント3次元結合体41のかさ密度が30kg/m未満の場合、フィラメント3次元結合体41自体が長さ方向に変形しやすくなり、マットレス表面において、楕円状の溝や窪みが生じやすくなる。逆に、当該かさ密度が150kg/mを超えると、フィラメント3次元結合体41が重くなり搬送しにくくなる。
【0037】
なお、フィラメント3次元結合体のかさ密度は、例えば、直方体形状の測定サンプルを用いた測定方法により、測定することが可能である。当該測定方法では、まず、測定サンプルの質量W(kg)と、その測定サンプルの各方向(縦方向、横方向、および高さ方向)のサイズ(m)が測定される。また、測定サンプルの各方向(縦方向、横方向、高さ方向)のサイズ(m)を乗算することにより、当該測定サンプルの体積V(m)が算出される。かさ密度(kg/m)は、測定サンプルの質量W(kg)を、測定サンプルの体積V(m)で除することにより算出される。
【0038】
図4Aは、図1に示すマットレス1の断面図(左右方向を法線方向とする平面で切断した場合の断面図)である。また図4Bは、隣合うクッション体21、22の境界近傍で下方に局所的な荷重(ユーザーの肘や膝などによる押圧)が加わった際における、マットレス1の変形状態を示す概念図である。なお図4Bにおけるマットレス1は、図4Aと同様の視点で表されている。
【0039】
本実施形態のマットレス1は、長さ方向に変形しにくいフィラメント3次元結合体を含む複数のクッション体21~23(これらを一体的に見ると、マットレス用クッション20である)と、これらのクッション体21~23を長さ方向に圧密状態で被覆するマットレスカバー10を含む。マットレスカバー10には伸張防止部材14が設けられているため、マットレスカバー10は長さ方向へ非常に伸び難くなっている。そのため、クッション体21~23の隙間に局所的な荷重が加わっても、溝が形成されにくく、使用者の手足等(例えば肘や膝)が落ち込むことを防止できる。
【0040】
図5は、マットレス1について、底面側カバー10bにクッション体21~23を圧着させながら収容する様子の一例を示す概念図である。なお図5におけるマットレス1は、図4Aと同様の視点で表されている。底面側カバー10bは、長方形の底面部12と、底面部12の外縁部に結合した筒状の側面部13と、を有し、マットレス用クッション20を嵌め込み可能であるボックス状(底面部12を底とした有底筒状)に形成されている。
【0041】
図5には、マットレスカバー10内に複数のクッション体21~23を組入れる方法として、底面側カバー10bの長さ方向両側の側面部13(側面部13の前側と後側)を利用する方法が例示されている。この方法では、まず側面部13の前側と後側に2つのクッション体21、23の側面をそれぞれ押し当てて、その後、クッション体22を鉛直方向下向きに押し込む。この方法により、複数のクッション体21~23を、圧着した状態でマットレスカバー10に容易に組入れることができる。なおクッション体22を押し込む際、クッション体22を山折りにしておいても良い。
【0042】
図6は、各クッション体21~23をクリーニングする際の、水切り方法や乾燥方法の一例を示す概念図である。本実施形態において、吊り具31c、31eは、インナーカバー31に固定された吊り紐と、物干し竿等に吊るすためのフックで構成されている。そのため、物干し竿50に当該フックを掛けるだけで、各クッション体21~23を吊るすことができるようになっている。このように吊るすことにより、各クッション体21~23の水切りや乾燥を、効率良く行うことが可能である。なお、物干し竿に吊紐を直接結んで固定できるように、吊り具31c、31eを2本の吊り紐だけで構成したり、2本の吊り紐の先端に接合や乖離が可能な一対のバックルを設けるようにしてもよい。
【0043】
インナーカバー31の素材としては、吸水性の低い(撥水性の高い)ポリエステル繊維で編まれたメッシュ生地が好ましい。また、吊り具31c、31eの素材としては、吸水性の低い(撥水性の高い)ポリエステル繊維で編まれた網紐や網テープが好ましい。
【0044】
本実施形態に係るマットレス1は、長さ方向へ複数のクッション体21~23に分割可能であるマットレス用クッション20と、マットレス用クッション20を収容可能なマットレスカバー10と、を含み、上側に使用者が横たわることの出来るものとなっている。更に、複数のクッション体21~23それぞれは、厚み方向両端部に平滑表面層(フィラメントの密度が厚み方向中央部よりも高くなっている層)を備える樹脂製のフィラメント3次元結合体を用いて形成されている。また、当該フィラメント3次元結合体は、厚みが10~25cmであり、フィラメント径が0.5~2mmであり、かさ密度が30~150kg/mであって、マットレスカバー10の周面部には、マットレスカバー10の長さ方向の伸びを防止する伸張防止部材14が設けられている。そのためマットレス1によれば、水切り性や乾燥性の高いマットレス用クッション20を分割して容易に搬送し、水洗い乾燥できる。さらには、マットレスカバー10の周面部(側面部)には伸張防止部材14が設けられているので、就寝時等においてクッション体どうしの隙間の広がり(溝の形成)が生じ難い。その結果、マットレス1においては、柔らかな寝心地を損なうことなく、膝や肘などが溝に落ち込みにくく、クリーニング作業を容易にすることが可能となっている。
【0045】
2.第2実施形態
次に本発明の第2実施形態について説明する。なお第2実施形態は、クッション体の形状およびこれに関する点を除き、基本的に第1実施形態と同様である。以下の説明では、第1実施形態と異なる部分の説明に重点を置き、第1実施形態と共通する部分の説明を省略することがある。
【0046】
図7Aは、第2実施形態に係るマットレス100の断面図(左右方向を法線方向とする平面で切断した場合の断面図)である。図7Bは、マットレス100に用いられるマットレス用クッション120の分解斜視図である。マットレス100は、その外面全体を覆うマットレスカバー110と、その中に収容されるマットレス用クッション120を含む。またマットレス用クッション120は、長さ方向へ複数のクッション体121~123に分割可能である。換言すれば、長さ方向へ複数のクッション体121~123を並べて配置したものが、マットレス用クッション120に相当する。
【0047】
本実施形態において、複数のクッション体121~123それぞれにおける隣接するクッション体との接触面は、鉛直方向に対して20~70°の範囲内の傾斜角を有する。より具体的に説明すると、図7Aに示すように、クッション体121とクッション体122は、平面である接触面Y1において接触する。そして接触面Y1の上下方向(マットレス100を水平面に置いた場合の鉛直方向に相当する)に対する傾斜角θ1は、20~70°の範囲内に収まっている。また、クッション体122とクッション体123は、平面である接触面Y2において接触する。そして接触面Y2の上下方向に対する傾斜角θ2も、20~70°の範囲内に収まっている。
【0048】
図8は、マットレス100において、接触面Y1の近傍で下方に局所的な荷重(図11の場合と同様に、使用者の手足等による押圧)が加わった際の変形状態を示す概念図である。なお図8におけるマットレス100は、図7Aと同様の視点で表されている。マットレス100においては、隣合うクッション体どうしの間に形成される隙間が、鉛直方向から所定の角度を有しているので、当該隙間に鉛直方向の荷重をかけても当該隙間が広がり難い。そのため、当該隙間が広がることによる溝の形成が抑えられ、隣合うクッション体どうしの間に手足等が落ち込みに難くなっている。
【0049】
なお、上記の傾斜角を小さくし過ぎると、その分、上記の接触面が鉛直面に近くなり、上記溝の形成を抑える効果が薄れてしまう。一方、上記の傾斜角を大きくし過ぎると、その分、クッション体の前後方向サイズが大きくなり、クッション体の小型化が阻害されてしまう。このような点を考慮し、本実施形態において、上記の傾斜角は20~70°の適切な範囲内に設定されている。
【0050】
また第2実施形態においては、上述のとおり、上記溝の形成が抑えられるようにクッション体の形状が工夫されている。そのため第2実施形態では、仮に伸張防止部材(第1実施形態の説明を参照)を設けない形態としても、図11に示すようなマットレス(クッション体どうしの接触面がほぼ鉛直面となったもの)に比べ、上記溝の形成を抑えることが可能である。
【0051】
3.第3実施形態
次に本発明の第3実施形態について説明する。なお第3実施形態は、クッション体の形状およびこれに関する点を除き、基本的に第1実施形態と同様である。以下の説明では、第1実施形態と異なる部分の説明に重点を置き、第1実施形態と共通する部分の説明を省略することがある。
【0052】
図9Aは、第3実施形態に係るマットレス200の断面図(左右方向を法線方向とする平面で切断した場合の断面図)である。図9Bは、マットレス200に用いられるマットレス用クッション220の分解斜視図である。マットレス200は、その外面全体を覆うマットレスカバー210と、その中に収容されるマットレス用クッション220を含む。またマットレス用クッション220は、長さ方向へ複数のクッション体221~223に分割可能である。換言すれば、長さ方向へ複数のクッション体221~223を並べて配置したものが、マットレス用クッション220に相当する。
【0053】
クッション体221~223それぞれは、3枚の薄い直方体形状のフィラメント3次元結合体(便宜的にそれぞれ、下層、中層、上層とする。)を下から上へ積み重ねた構造を有する。各クッション体221~223は、別々に形成された各層が接着剤を用いて結合されたものであっても良い。各クッション体221~223において、隣合うクッション体との接触部は複数の直方体面で構成され、互いに嵌合する凹凸面が形成されている。このようにして、隣合うクッション体どうしの一方に設けた凸部は、他方に設けた凹部に嵌り込むようになっている。
【0054】
例えば図9Aおよび図9Bに示すように、隣合うクッション体221とクッション体222の接触部については、クッション体221において凸部221aが設けられている。この凸部221aは、中層の後端を、上層および下層の後端よりも後方へ突出させることにより形成されている。一方、クッション体222において凹部222aが設けられている。この凹部222aは、上層および下層の前端を、中層の前端よりも前方へ突出させることにより形成されている。凸部221aの突出量は、凹部222aの凹み量と同等であり、隣合うクッション体221、222は、凸部221aが凹部222aに嵌り込んだ状態で接触する。
【0055】
上述した凹凸が設けられているため、これらのクッション体221、222における前後方向の境界Z1~Z3は、上下方向に連続していない。なお同様にして、隣合うクッション体222とクッション体223の接触部についても、前後方向の境界が上下方向へ連続しないようになっている。
【0056】
図10は、マットレス200において、境界Z1の近傍で下方に局所的な荷重(図11の場合と同様に、使用者の手足等による押圧)が加わった際の変形状態を示す概念図である。なお図10におけるマットレス200は、図9Aと同様の視点で表されている。マットレス200においては、隣合うクッション体の間に形成される隙間が連続していないので、下方に荷重をかけても手足等が底面まで落ち込み難くなっている。
【0057】
なお第3実施形態においては、上述のとおり、上記溝の形成が抑えられるようにクッション体の形状が工夫されている。そのため第3実施形態では、仮に伸張防止部材(第1実施形態の説明を参照)を設けない形態としても、図11に示すようなマットレス(クッション体どうしの接触面がほぼ鉛直面となったもの)に比べ、上記溝の形成を抑えることが可能である。
【0058】
4.第4実施形態
次に本発明の第4実施形態について説明する。なお第4実施形態は、ダブルベッド用マットレスの使用形態を考慮したマットレスであり、クッション体の数が異なる点を除き、基本的に第1実施形態と同様である。以下の説明では、第1実施形態と異なる部分の説明に重点を置き、第1実施形態と共通する部分の説明を省略することがある。
【0059】
図12は、第4実施形態に係るマットレス300の斜視図である。マットレス300は、その外面全体を覆うマットレスカバー310と、その中に収容されるマットレス用クッション320を含む。
【0060】
マットレス用クッション320は、長さ方向(前後方向)に並べて配置される3個のクッション体321a~323aと、長さ方向に並べて配置される3個のクッション体321b~323bによって形成されている。これらの計6個のクッション体321a~323a、321b~323bは、いずれもほぼ同等の形状および寸法に形成されている。3個のクッション体321a~323aの列と、3個のクッション体321b~323bの列は、左右に並べて配置される。これにより、マットレス300上に複数人のユーザーが就寝する場合に、各人に適した硬さ(反発力)のクッション体を選ぶことが容易となっている。例えば、マットレス300の上に二人のユーザーが左右に並んで就寝する場合において、クッション体321a~323aについては一方のユーザーに適した硬さとなるように、クッション体321b~323bについては他方のユーザーに適した硬さとなるように、それぞれ選ぶことができる。
【0061】
マットレスカバー310は、上面側カバー310aと底面側カバー310bを有しており、これらの各カバー310a、310bを結合する伸張防止部材314が設けられている。上面側カバー310a、底面側カバー310b、および伸張防止部材314は、第1実施形態における上面側カバー10a、底面側カバー10b、および伸張防止部材14に相当する。
【0062】
マットレスカバー310の内部側には、前後方向のマットレスカバー310の伸びを規制する前後方向内部伸張防止部材314aと、左右方向のマットレスカバー310の伸びを規制する2個の左右方向内部伸張防止部材314b、314cとが設けられている。本実施形態では、これらの伸張防止部材314a~314cそれぞれの両端部は、底面側カバー310bの側面(伸長防止部材314のすぐ下側)に固定されている。前後方向内部伸張防止部材314aは、左側の3個のクッション体321a~323aと右側の3個のクッション体321b~323bとの境界に沿って張架されている。左右方向内部伸張防止部材314bは、前側の2個のクッション体321a、321bと前後方向中央に配置された2個のクッション体322a、322bとの境界に沿って張架されている。左右方向内部伸張防止部材314cは、後側の2個のクッション体323a、323bと前後方向中央に配置された2個のクッション体322a、322bとの境界に沿って張架されている。これらの伸張防止部材314a~314cは、上面側カバー310aおよび底面側カバー310bに比べて伸び難い構成となっており、マットレスカバー310が伸びることをより効果的に防ぐ役割を果たす。
【0063】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の構成は上記実施形態に限られず、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。すなわち上記実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の技術的範囲は、上記実施形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内に属する全ての変更が含まれると理解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、クッション体を用いて形成されるマットレスに利用可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 マットレス(第1実施形態)
10 マットレスカバー
10a 上面側カバー
10b 底面側カバー
11 上面部
12 底面部
13 周面部
14 伸張防止部材
20 マットレス用クッション(第1実施形態)
21~23 クッション体(第1実施形態)
31 インナーカバー
41 フィラメント3次元結合体
100 マットレス(第2実施形態)
110 マットレスカバー(第2実施形態)
120 マットレス用クッション(第2実施形態)
121~123 クッション体(第2実施形態)
200 マットレス(第3実施形態)
210 マットレスカバー(第3実施形態)
220 マットレス用クッション(第3実施形態)
221~223 クッション体(第3実施形態)
221a 凸部
222a 凹部
300 マットレス(第4実施形態)
310 マットレスカバー(第4実施形態)
320 マットレス用クッション(第4実施形態)
321a~323a、321b~323b クッション体(第4実施形態)
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12