(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】蛍光体プレート、及び発光装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/20 20060101AFI20241113BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20241113BHJP
C09K 11/64 20060101ALI20241113BHJP
F21V 9/38 20180101ALI20241113BHJP
F21S 2/00 20160101ALI20241113BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20241113BHJP
【FI】
G02B5/20
H01L33/50
C09K11/64
F21V9/38
F21S2/00 100
F21Y115:10
(21)【出願番号】P 2023508808
(86)(22)【出願日】2022-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2022006930
(87)【国際公開番号】W WO2022202035
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2021047097
(32)【優先日】2021-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】久保田 雄起
(72)【発明者】
【氏名】山浦 太陽
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和弘
【審査官】内村 駿介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/083781(WO,A1)
【文献】特開平10-241860(JP,A)
【文献】特開2020-052413(JP,A)
【文献】特開2019-186300(JP,A)
【文献】特開2019-105846(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0068012(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20-5/28
H01L 33/50
C09K 11/64
F21V 9/38
F21S 2/00
F21Y 115/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材と、前記母材中に分散した蛍光体とを含む板状の複合体を備える蛍光体プレートであって、
当該蛍光体プレートの表面における最大高さをRy
1とし、裏面における最大高さをRy
2としたとき、Ry
1及びRy
2のいずれも、5.00μm以下である、蛍光体プレート
であり、
前記母材は無機物で構成され、
前記蛍光体プレートは下記条件A1および/または条件A2を満たす、蛍光体プレート。
条件A1:前記Ry
1
及びRy
2
の差分の絶対値が1.10μm以下である
条件A2:前記Ry
1
及びRy
2
の少なくとも一方が0.90μm以下である
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光体プレートであって、
Ry
1及びRy
2の少なくとも一方が、3.00μm以下である、蛍光体プレート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の蛍光体プレートであって、
前記母材が、アルミナ又はスピネル系化合物を含む、蛍光体プレート。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の蛍光体プレートであって、
前記蛍光体が、サイアロン蛍光体、CASN蛍光体、SCASN蛍光体からなる群から選ばれる一又は二以上を含む、蛍光体プレート。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の蛍光体プレートであって、
前記蛍光体の含有量は、前記複合体100vol%中、5vol%以上60vol%以下である、蛍光体プレート。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の蛍光体プレートであって、
プレート厚みが、0.050mm以上1mm以下である、蛍光体プレート。
【請求項7】
発光素子と、
前記発光素子の一面上に設けられた請求項1~6のいずれか一項に記載の蛍光体プレートと、を備える、発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体プレート、及び発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで蛍光体プレートについて様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、ガラスマトリクス中に無機蛍光体が分散してなる波長変換部材が記載されている(特許文献1の請求項1)。同文献によれば、波長変換部材の形状は限定されず板状でもよいことが記載されている(段落0054)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載の板状の波長変換部材において、発光特性の点で改善の余地があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者はさらに検討したところ、蛍光体プレートにおける励起光の入射面及び出射面の平滑度合を高めることにより、発光特性を向上できることを見出した。このような知見に基づきさらに鋭意研究したところ、平滑度合として表面粗さプロファイルを表す粗さ曲線における最も高いピークトップと最も深いピークボトムとの間隔を意味する最大高さRyを用い、入射面及び出射面における最大高さRyを所定値以下とすることにより、蛍光体プレートにおける発光特性を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明によれば、
母材と、前記母材中に分散した蛍光体とを含む板状の複合体を備える蛍光体プレートであって、
当該蛍光体プレートの表面における最大高さをRy1とし、裏面における最大高さをRy2としたとき、Ry1及びRy2のいずれも、5.00μm以下である、蛍光体プレートが提供される。
【0007】
また本発明によれば、
発光素子と、
前記発光素子の一面上に設けられた上記の蛍光体プレートと、を備える、発光装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、発光特性に優れた蛍光体プレート、及びそれを用いた発光装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態の蛍光体プレートの構成の一例を示す模式図である。
【
図2】(a)はフリップチップ型の発光装置の構成を模式的に示す断面図であり、(b)はワイヤボンディング型の発光素子の構成を模式的に示す断面図である。
【
図3】蛍光体プレートの発光特性を測定するための装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。
【0011】
本実施形態の蛍光体プレートを概説する。
【0012】
本実施形態の蛍光体プレートの概要を説明する。
本実施形態の蛍光体プレートは、母材と、母材中に分散した蛍光体とを含む板状の複合体を備える。
この蛍光体プレートは、表面における最大高さをRy1とし、裏面における最大高さをRy2としたとき、Ry1及びRy2のいずれも、5.00μm以下となるように構成される。
【0013】
蛍光体プレートは、照射された青色光を橙色光に変換して発光する波長変換体として機能し得る。
波長変換体として使用するとき、蛍光体プレートの裏面は光の入射面になり、その表面は光の出射面になる。
【0014】
本発明者の知見によれば、蛍光体プレートにおける表面及び裏面における最大高さRyを指標とすることにより、発光特性を安定的に評価することができ、さらに検討した結果、表面及び裏面における最大高さRyが上記上限値以下とすることにより、発光特性を向上できることが判明した。
【0015】
蛍光体プレートの表面における最大高さRy1の上限は、5.00μm以下、好ましくは3.00μm以下、より好ましくは2.00μm以下である。これにより、蛍光体プレートの発光特性を向上できる。
上記Ry1の下限は、特に限定されないが、検出限界でもよく、0.10μm以上でもよく、好ましくは0.30μm以上、より好ましくは0.50μm以上である。これにより、蛍光体プレートの製造安定性を向上できる。
【0016】
蛍光体プレートの裏面における最大高さRy2の上限は、5.00μm以下、好ましくは3.00μm以下、より好ましくは2.00μm以下、さらに好ましくは1.00μm以下である。これにより、蛍光体プレートの発光特性を向上できる。
上記Ry2の下限は、特に限定されないが、検出限界でもよく、0.10μm以上でもよく、好ましくは0.30μm以上、より好ましくは0.50μm以上である。これにより、蛍光体プレートの製造安定性を向上できる。
【0017】
蛍光体プレートの一態様は、上記Ry1及びRy2の少なくとも一方が3.00μm以下、好ましくはRy1及びRy2の少なくとも一方が3.00μm以下かつRy1>Ry2、より好ましくはRy1及びRy2が2.80μm以下となるように構成されてもよい。これにより、励起光抜けを抑制できる。
また、蛍光体プレートの別の一態様は、次の条件A1および/または条件A2を満たすように構成されてもよい。これにより、励起光抜けを一層抑制できる。
・条件A1:上記Ry1及びRy2の差分の絶対値が1.10μm以下であること。
・条件A2:上記Ry1及びRy2の少なくとも一方が0.90μm以下であること。
また、蛍光体プレートの別の一態様は、次の条件B1または条件B2を満たすように構成されてもよい。これにより、蛍光体プレートの発光特性を一層向上できる。
・条件B1:上記Ry1及びRy2の差分の絶対値が1.60μm以下であること。
・条件B2:上記Ry1及びRy2の差分の絶対値が1.60μm超え1.90μm以下であり、かつRy1>Ry2であること。
【0018】
本実施形態では、例えば、蛍光体プレート中に含まれる各成分の種類や配合量、蛍光体プレートの製造方法等を適切に選択することにより、上記Ry1及びRy2を制御することが可能である。これらの中でも、例えば、蛍光体プレートの表面及び裏面を、所定の粒度の砥石や砥粒を用いて、研削すること及び/又は研磨加工すること等が、上記Ry1及びRy2を所望の数値範囲とするための要素として挙げられる。
【0019】
上記蛍光体プレートによれば、波長455nmの青色光が照射された場合、蛍光体プレートから発せられる波長変換光のピーク波長は585nm以上605nm以下であることが好ましい。また、これによれば、青色光を発光する発光素子に蛍光体プレートを組み合わせることで、輝度が高い橙色を発光する発光装置を得ることができる。
【0020】
本実施形態の蛍光体プレートの構成について詳述する。
【0021】
(母材)
上記蛍光体プレートを構成する複合体中は、蛍光体と無機物で構成される母材とが混在した状態となる。具体的には、無機母材を構成する化合物の焼結物中に蛍光体が分散された構造を有してもよい。この蛍光体は、粒子状態で、無機母材中に均一に分散されていてもよい。
【0022】
母材は、複合体中における主成分であってもよい。この場合、母材の含有量は、複合体中に対して、体積換算で、例えば、50vol%以上、好ましくは60vol%以上でもよい。
【0023】
母材は、Al203の焼結物、SiO2の焼結物及びスピネル系化合物M2xAl4-4xO6-4x(ただし、MはMg、Mn、Znの少なくともいずれかであり、0.2<x<0.6である)を含む焼結物の少なくとも一種を含む金属酸化物の焼結物で構成されてもよい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。この中でも、母材は、熱特性や透明性の観点から、アルミナ又はスピネル系化合物を含む焼結物にて構成されてもよい。
【0024】
Al203の焼結物は、可視光の吸収が少ないため、蛍光体プレートの発光強度を高めることができる。また、Al203の焼結物は熱伝導性が高いため、蛍光体プレートにおける耐熱性を向上できる。さらには、Al203の焼結物は機械的強度にも優れるため、蛍光体プレートの耐久性を高められる。
【0025】
SiO2の焼結物は、ガラスマトリクスで構成されてもよい。ガラスマトリクスとして、シリカガラス等が用いられる。
【0026】
スピネル系化合物を含む焼結物は、通常、一般式MO(MはMg、Mn、Znの少なくともいずれか)で表される金属酸化物の粉末と、Al2O3の粉末とを混合し、焼結することで得られる。
スピネルとは、化学量論的に、x=0.5(すなわち、一般式MAl2O4)で表される組成である。
ただし、原料のMOの量とAl2O3の量の比によっては、MO又はAl2O3が過剰に固溶した非化学量論組成のスピネル系化合物となる。
上記一般式で表されるスピネル系化合物を含む焼結体は、比較的透明である。よって、蛍光体プレート内での光の過剰散乱が抑制される。さらに、透明性の観点で、上記一般式におけるMがMgであるスピネル系化合物を用いることが好ましい。
【0027】
(蛍光体)
複合体に含まれる蛍光体は、例えば、サイアロン蛍光体、CASN蛍光体、SCASN蛍光体からなる群から選ばれる一又は二以上を含んでもよい。サイアロン蛍光体としては、α型サイアロン蛍光体等が挙げられる。
【0028】
α型サイアロン蛍光体としては、下記一般式(1)で表されるEu元素を含有するα型サイアロン蛍光体を含むものが用いられる。
(M)m(1-x)/p(Eu)mx/2(Si)12-(m+n)(Al)m+n(O)n(N)16-n ・・一般式(1)
【0029】
上記一般式(1)中、MはLi、Mg、Ca、Y及びランタニド元素(LaとCeを除く)からなる群から選ばれる1種以上の元素を表し、pはM元素の価数、0<x<0.5、1.5≦m≦4.0、0≦n≦2.0を表す。nは、例えば、2.0以下でもよく、1.0以下でもよく、0.8以下でもよい。一般的に、MがCaのものをCa-α型サイアロン蛍光体という。
【0030】
α型サイアロンの固溶組成は、α型窒化ケイ素の単位胞(Si12N16)のm個のSi-N結合をAl-N結合に、n個のSi-N結合をAl-O結合に置換し、電気的中性を保つために、m/p個のカチオン(M、Eu)が結晶格子内に侵入固溶し、上記一般式のように表される。特にMとして、Caを使用すると、幅広い組成範囲でα型サイアロンが安定化し、その一部を発光中心となるEuで置換することにより、紫外から青色の幅広い波長域の光で励起され、黄から橙色の可視発光を示す蛍光体が得られる。
【0031】
α型サイアロンとは異なる第二結晶相や不可避的に存在する非晶質相のため、α型サイアロンの固溶組成は厳密に規定することができない。α型サイアロンは、他の結晶相としてβ型サイアロン、窒化アルミニウム又はそのポリタイポイド、Ca2Si5N8、CaAlSiN3等を含んでいてもよい。
【0032】
α型サイアロン蛍光体の製造方法としては、窒化ケイ素、窒化アルミニウム及び侵入固溶元素の化合物からなる混合粉末を高温の窒素雰囲気中で加熱して反応させる方法がある。加熱工程で構成成分の一部が液相を形成し、この液相に物質が移動することにより、α型サイアロン固溶体が生成する。合成後のα型サイアロン蛍光体は複数の等軸状の一次粒子が焼結して塊状の二次粒子を形成する。本実施形態における一次粒子とは、粒子内の結晶方位が同一であり、単独で存在することができる最小粒子をいう。
【0033】
CASN蛍光体としては、例えば、CaAlSiN3で表されるアルカリ土類ケイ窒化物の母体結晶にEu元素がされた蛍光体が用いられる。
【0034】
SCASN蛍光体としては、例えば、(Sr,Ca)AlSiN3で表されるアルカリ土類ケイ窒化物の母体結晶にEu元素が賦活された蛍光体が用いられる。
【0035】
蛍光体の平均粒子径の下限は、例えば、1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましい。これにより、発光強度を高めることができる。また、蛍光体の平均粒子径の上限は、30μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましい。蛍光体の平均粒子径は上記二次粒子における寸法である。平均粒子径を5μm以上とすることにより、複合体の透明性をより高めることができる。一方、蛍光体の平均粒子径を30μm以下とすることにより、ダイサー等で蛍光体プレートを切断加工する際に、チッピングの発生を抑制することができる。
【0036】
ここで、蛍光体の平均粒子径とは、レーザー回析散乱式粒度分布測定法(ベックマンコールター社製、LS13-320)により測定して得られる体積基準粒度分布において、小粒径側からの通過分積算(積算通過分率)50%の粒子径D50をいう。
【0037】
蛍光体の含有量の下限値は、複合体100vol%中、例えば、5vol%以上、好ましくは10vol%以上、より好ましくは15vol%以上である。これにより、薄層の蛍光体プレートにおける発光強度を高めることができる。また、蛍光体プレートの光変換効率を向上できる。
一方、蛍光体の含有量の上限値は、複合体100vol%中、例えば、60vol%以下、好ましくは50vol%以下、より好ましくは40vol%以下である。これにより、蛍光体プレートの熱伝導性の低下を抑制できる。
【0038】
上記蛍光体プレートにおいて、450nmの青色光における光線透過率の上限値は、例えば、10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下である。これにより、青色光が蛍光体プレートを透過することを抑制できるため、発光輝度が高くなる。蛍光体の含有量や蛍光体プレートの厚みを適切に調整することで、450nmの青色光における光線透過率を低減できる。
なお、450nmの青色光における光線透過率の下限値は、特に限定されないが、例えば、0.01%以上としてもよい。これにより、発光強度をより高められる。
【0039】
本実施形態の蛍光体プレートの製造工程について詳述する。
【0040】
本実施形態の蛍光体プレートの製造方法は、金属酸化物、及び蛍光体を含む混合物を得る工程(1)と、得られた混合物を焼成する工程(2)と、を有してもよい。
【0041】
また、蛍光体プレートの製造方法は、金属酸化物を溶融して、得られた溶融物中に蛍光体の粒子を混合してもよい。
【0042】
工程(1)において、原料として用いる蛍光体や金属酸化物の粉末は、できるだけ高純度であるものが好ましく、構成元素以外の元素の不純物は0.1%以下であることが好ましく、0.01%以下であることがさらに好ましい。
【0043】
原料粉末の混合は、乾式、湿式の種々の方法を適用できるが、原料として用いる蛍光体粒子が極力粉砕されず、また混合時に装置からの不純物が極力混入しない方法が好ましい。
【0044】
蛍光体原料の金属酸化物として、Al203粉末、SiO2粉末及びスピネル原料粉末の少なくとも一種を含むものを使用してもよい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
金属酸化物は、微粉末であればよく、その平均粒子径は、例えば1μm以下としてもよい。
【0045】
原料の金属酸化物として、アルミナ粉末(Al203)を使用してもよい。
【0046】
アルミナ粉末のBET比表面積の上限は、例えば、10.0m2/g以下、好ましくは9.0m2/g以下、より好ましくは8.0m2/g以下、さらに好ましくは6.0m2/g以下である。これにより、蛍光体プレートの黒色化を抑制できる。一方、アルミナ粉末のBET比表面積の下限は、例えば、0.1m2/g以上、好ましくは0.5m2/g以上、より好ましくは1.0m2/g以上、さらに好ましくは2.0m2/g以上である。これにより、アルミナ粉末の焼結性を高め、緻密な複合体を形成できる。
【0047】
工程(2)において、アルミナ粉末と蛍光体粉末との混合物を、例えば、1300℃以上1650℃以下で焼成を行ってもよい。焼結工程における加熱温度は1500℃以上1600℃以下がより好ましい。複合体を緻密化するためには、焼成温度が高い方が好ましいが、焼成温度が高すぎると、蛍光体とアルミナが反応し蛍光体プレートの発光強度が低下するため、前記範囲が好ましい。
また、焼成温度が約1600℃~1650℃の高温領域の場合、この温度を保持する保持時間は、例えば、20分以下、好ましくは15分以下である。これにより、蛍光体プレートの発光強度を高められる。
【0048】
原料の金属酸化物として、ガラス粉末(SiO2を含む粉末)を使用してもよい。
ガラス粉末としては、SiO2粉末(シリカ粉末)や、一般的なガラス原料を使用できる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
原料の金属酸化物として、スピネル原料粉末を使用してもよい。
ここで、「スピネル原料粉末」は、例えば、(i)前述の一般式M2xAl4-4xO6-4xで表されるスピネル化合物を含む粉末、及び/又は、(ii)一般式MO(MはMg、Mn、Znの少なくともいずれか)で表される金属酸化物の粉末とAl2O3の粉末との混合物である。
【0050】
工程(2)において、スピネル原料粉末を、例えば、1300℃以上1650℃以下で焼成を行ってもよい。焼結工程における加熱温度は1500℃以上1600℃以下がより好ましい。複合体を緻密化するためには、焼成温度が高い方が好ましいが、焼成温度が高すぎると、蛍光体プレートの発光強度が低下するため、前記範囲が好ましい。
また、焼成温度が約1600℃~1650℃の高温領域の場合、この温度を保持する保持時間は、例えば、20分以下、好ましくは15分以下である。これにより、蛍光体プレートの発光強度を高められる。
【0051】
上記の製造方法において、焼成方法は常圧焼結でも加圧焼結でも構わないが、蛍光体の特性低下を抑制し、且つ緻密な複合体を得るために、常圧焼結よりも緻密化させやすい加圧焼結が好ましい。
【0052】
加圧焼結方法としては、ホットプレス焼結や放電プラズマ焼結(SPS)、熱間等方加圧焼結(HIP)等が挙げられる。ホットプレス焼結やSPS焼結の場合、圧力は10MPa以上、好ましくは30MPa以上であるまた、100MPa以下、好ましくは80MPa以下である。
焼成雰囲気は蛍光体の酸化を防ぐ目的のため、窒素やアルゴン等の非酸化性の不活性ガス、もしくは真空雰囲気下が好ましい。
【0053】
以上により、本実施形態の蛍光体プレートが得られる。
得られた蛍光体プレートの表面及び裏面に対して、適当な表面処理がなされる。
表面処理としては、例えば、ダイヤモンド砥石等を用いた研削、ラッピング、ポリッシング等の研磨等が挙げられる。
【0054】
本実施形態の発光装置について説明する。
【0055】
本実施形態の発光装置は、発光素子及び、発光素子の一面上に設けられた上記の蛍光体プレートを備える。
具体的な発光装置の一例は、例えば、III族窒化物半導体発光素子(発光素子20)と、III族窒化物半導体発光素子の一面上に設けられた上記の蛍光体プレート10と、を備えるものである。III族窒化物半導体発光素子は、例えば、AlGaN、GaN、InAlGaN系材料等のIII族窒化物半導体で構成される、n層、発光層、及びp層を備えるものである。III族窒化物半導体発光素子として、青色光を発光する青色LEDを用いることができる。
蛍光体プレート10は、発光素子20の一面上に直接配置されてもよいが、光透過性部材又はスペーサーを介して配置され得る。
【0056】
発光素子20の上に配置される蛍光体プレート10は、
図1に示す円板形状の蛍光体プレート100(蛍光体ウェハ)を用いてもよいが、蛍光体プレート100を個片化したものを用いることができる。
【0057】
図1は、蛍光体プレートの構成の一例を示す模式図である。
図1に示す蛍光体プレート100の厚みとしては、用途に応じて適宜設定されえる。
【0058】
図1に示す蛍光体プレート100の厚みの下限は、例えば、0.050mm以上、好ましくは0.080mm以上、より好ましくは0.100mm以上である。蛍光体プレート100の厚みの上限は、例えば、1mm以下、好ましくは0.500mm以下、より好ましくは0.300mm以下である。このような範囲内とすることにより、光の取り出し効率を向上させ、発光強度を向上させることができる。
【0059】
なお、円板形状の蛍光体プレート100は、四角形状の場合と比べて、角部における欠けや割れの発生が抑制されるため、耐久性や搬送性に優れる。
【0060】
上記の半導体装置の一例を、
図2(a)、(b)に示す。
図2(a)はフリップチップ型の発光装置110の構成を模式的に示す断面図であり、
図2(b)はワイヤボンディング型の発光装置120の構成を模式的に示す断面図である。
【0061】
図2(a)の発光装置110は、基板30と、半田40(ダイボンド材)を介して基板30と電気的に接続された発光素子20と、発光素子20の発光面上に設けられた蛍光体プレート10と、を備える。フリップチップ型の発光装置110は、フェイスアップ型及びフェイスダウン型のいずれの構造でもよい。
また、
図2(b)の発光装置120は、基板30と、ボンディングワイヤ60及び電極50を介して基板30と電気的に接続された発光素子20と、発光素子20の発光面上に設けられた蛍光体プレート10と、を備える。
図2中、発光素子20と蛍光体プレート10とは、公知の方法で貼り付けられており、例えば、シリコーン系接着剤や熱融着等の方法で貼り合わされてもよい。
また、発光装置110、発光装置120は、全体を透明封止材で封止されていてもよい。
【0062】
なお、基板30に実装された発光素子20に対し、個片化された蛍光体プレート10を貼り付けてもよい。大面積の蛍光体プレート100に複数の発光素子20を貼り付けてから、ダイシングにより、蛍光体プレート10付き発光素子20ごとに個片化してもよい。また、複数の発光素子20が表面に形成された半導体ウェハに、大面積の蛍光体プレート100を貼り付け、その後、半導体ウェハと蛍光体プレート100を一括して個片化してもよい。
【0063】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例】
【0064】
<蛍光体プレートの作製>
蛍光体プレートの原料として、アルミナ粉末(AA-03(住友化学株式会社製、BET比表面積:5.2m2/g))、Ca-α型サイアロン蛍光体(アロンブライトYL-600B、デンカ株式会社製、D50が15μm)を用いた。
【0065】
アルミナ粉末を7.857g、Ca-α型サイアロン蛍光体粉末を2.833g秤量し、メノウ乳鉢により乾式混合した。混合後の原料を目開き75μmのナイロン製メッシュ篩を通して凝集を解き、原料混合粉末を得た。尚、原料の真密度(アルミナ:3.97g/cm3、Ca-α型サイアロン蛍光体:3.34g/cm3)から算出した配合比は、アルミナ:Ca-α型サイアロン蛍光体=70:30vol%である。
【0066】
約11gの原料混合粉末を、カーボン製下パンチをセットした内径30mmのカーボン製ダイスに充填し、カーボン製上パンチをセットし、原料粉末を挟み込んだ。尚、原料混合粉末とカーボン治具の間には固着防止のために、厚み0.127mmのカーボンシート(GraTech社製、GRAFOIL)をセットした。
【0067】
この原料混合粉末を充填したホットプレス治具をカーボンヒーターの多目的高温炉(富士電波工業株式会社製、ハイマルチ5000)にセットした。炉内を0.1Pa以下まで真空排気し、減圧状態を保ったまま、上下パンチを55MPaのプレス圧で加圧した。加圧状態を維持したまま、毎分5℃の速さで1600℃まで昇温した。1600℃に到達後、すぐに加熱を止め、室温まで徐冷し、除圧した(焼成工程)。その後、外径30mmの焼成物を回収した。
回収した焼成物に対して、円筒研削盤を用いて側面を研削し、下記の条件に従って、平面研削盤を用いての研削や、研磨機を用いての研磨加工を行い、表1の厚み(mm)及び直径25mmを有する円板状の蛍光体プレートを得た。
【0068】
(各実施例、各比較例における平面研削・研磨加工の条件)
[実施例1]
・表面及び裏面:ダイヤモンド砥石(#400)で研削→9μmダイヤモンド砥粒で研磨(研磨盤回転数150rpm、研磨時間:6分)→3μmダイヤモンド砥粒で研磨(研磨盤回転数150rpm、研磨時間:6分)→1μmダイヤモンド砥粒で研磨(研磨盤回転数150rpm、研磨時間:3分)。
[実施例3]
・表面:ダイヤモンド砥石(#400)で研削→9μmダイヤモンド砥粒で研磨(研磨盤回転数150rpm、研磨時間:6分)→3μmダイヤモンド砥粒で研磨(研磨盤回転数150rpm、研磨時間:6分)→1μmダイヤモンド砥粒で研磨(研磨盤回転数150rpm、研磨時間:3分)。
・裏面:ダイヤモンド砥石(#400)で研削
[実施例5]
・表面及び裏面:ダイヤモンド砥石(#400)で研削
[実施例7]
・表面:ダイヤモンド砥石(#400)で研削→9μmダイヤモンド砥粒で研磨(研磨盤回転数150rpm、研磨時間:6分)。
・裏面:ダイヤモンド砥石(#400)で研削
[実施例9]
・表面:ダイヤモンド砥石(#400)で研削→9μmダイヤモンド砥粒で研磨(研磨盤回転数150rpm、研磨時間:6分)。
・裏面:ダイヤモンド砥石(#400)で研削→9μmダイヤモンド砥粒で研磨(研磨盤回転数150rpm、研磨時間:6分)→3μmダイヤモンド砥粒で研磨(研磨盤回転数150rpm、研磨時間:6分)→1μmダイヤモンド砥粒で研磨(研磨盤回転数150rpm、研磨時間:3分)。
[比較例1]
・表面:ダイヤモンド砥石(#400)で研削→9μmダイヤモンド砥粒で研磨(研磨盤回転数150rpm、研磨時間:6分)→3μmダイヤモンド砥粒で研磨(研磨盤回転数150rpm、研磨時間:6分)→1μmダイヤモンド砥粒で研磨(研磨盤回転数150rpm、研磨時間:3分)。
・裏面:ダイヤモンド砥石(#200)で研削
[比較例3]
・表面:ダイヤモンド砥石(#400)で研削
・裏面:ダイヤモンド砥石(#200)で研削
【0069】
[実施例2]
実施例1の蛍光体プレートを、表裏逆にして使用した。
[実施例4]
実施例3の蛍光体プレートを、表裏逆にして使用した。
[実施例6]
実施例5の蛍光体プレートを、表裏逆にして使用した。
[実施例8]
実施例7の蛍光体プレートを、表裏逆にして使用した。
[実施例10]
実施例9の蛍光体プレートを、表裏逆にして使用した。
[比較例2]
比較例1の蛍光体プレートを、表裏逆にして使用した。
[比較例4]
比較例3の蛍光体プレートを、表裏逆にして使用した。
【0070】
蛍光体プレートにおける表面のRy1及び裏面のRy2は、JIS B 0031:1994に準拠し、表面粗さ測定器(ミツトヨ製、SJ-400)を用いて測定した。
【0071】
【0072】
得られた蛍光体プレートについて以下の評価項目について評価を行った。
【0073】
[光学特性の評価]
各実施例・各比較例で得られた蛍光体プレートについて、以下の手順に従って発光強度を測定した。
蛍光体プレートの光学特性は、チップオンボード型(COB型)のLEDパッケージ130を用いて測定した。
図3は、蛍光体プレート100の発光スペクトルを測定するための装置(LEDパッケージ130)の概略図である。
まず、各実施例・各比較例の蛍光体プレート100、凹部70が形成されたアルミ基板(基板30)を用意した。凹部70の底面の径φを13.5mmとし、凹部70の開口部の径φを16mmとした。
次いで、基板30の凹部70の内部に、青色発光光源として青色LED(発光素子20)を実装した。
その後、基板30の凹部70の開口部を塞ぐように、青色LEDの上部に円形状の蛍光体プレート100を設置し、
図3に示す装置(チップオンボード型(COB型)のLEDパッケージ130)を作製した。
【0074】
全光束測定システム(HalfMoon/φ1000mm積分球システム、大塚電子株式会社製)を用いて、作製したLEDパッケージ130の青色LEDを点灯した時の、蛍光体プレート100の表面における発光スペクトルを測定した。
【0075】
得られた発光スペクトルにおいて、波長が585nm以上605nmである橙色光(Orange)の発光強度の最大値(W/nm)を求めた。表1には、橙色光の発光強度の最大値について、実施例1を100%として規格化ときの、他の実施例・比較例の相対値(%)を示す。
なお、発光スペクトルにおいて、波長が585nm以上605nmである橙色光(Orange)の発光強度の最大値をTOとし、波長が445nm以上465nmである青色光(Blue)の発光強度の最大値をTBとしたとき、青色LEDからの青色光の透過量(励起光の抜け)をTB/TO×100と定義し、これを算出した。結果を表1に示す。
【0076】
実施例1~10の蛍光体プレートは、比較例1~4に比べて、発光強度に優れる結果を示した。
また、実施例1~6、9~10は、実施例7、8と比べて、励起光である青色光の透過が抑制される結果を示し、実施例1、2、4~10は、実施例3と比べて発光強度が向上する結果を示した。
このような実施例の蛍光体プレートは、発光特性に優れるものであることが分かった。
【0077】
この出願は、2021年3月22日に出願された日本出願特願2021-047097号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0078】
10 蛍光体プレート
20 発光素子
30 基板
40 半田
50 電極
60 ボンディングワイヤ
70 凹部
100 蛍光体プレート
102 表面
104 裏面
100 発光装置
120 発光装置
130 LEDパッケージ