(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】含フッ素環状スルホニルイミド塩、及びその製法、非水系電解液、非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20241113BHJP
C07C 303/22 20060101ALI20241113BHJP
C07C 313/02 20060101ALI20241113BHJP
C07D 285/01 20060101ALI20241113BHJP
C25B 3/29 20210101ALI20241113BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241113BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20241113BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20241113BHJP
H01M 50/119 20210101ALI20241113BHJP
【FI】
H01M10/0567
C07C303/22
C07C313/02
C07D285/01
C25B3/29
H01M10/052
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M50/119
(21)【出願番号】P 2023509346
(86)(22)【出願日】2022-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2022014660
(87)【国際公開番号】W WO2022203074
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2021053666
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021108912
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021108939
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021108940
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021140158
(32)【優先日】2021-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021161369
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021161468
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021201100
(32)【優先日】2021-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 慎
(72)【発明者】
【氏名】松岡 直樹
(72)【発明者】
【氏名】堀 開史
(72)【発明者】
【氏名】前田 和輝
(72)【発明者】
【氏名】植松 信之
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/110388(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/025246(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/262670(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/106960(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 303/22
C07C 309/80
C07C 309/82
C07C 313/02
C07D 285/00
C07D 285/01
H01M 10/052
H01M 10/0567
H01M 10/0568
H01M 10/0569
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水
系溶媒及びリチウム塩を含有する非水系電解液であって、
前記非水系溶媒はカーボネート溶媒を含み、
前記リチウム塩が、下記一般式(1):
【化1】
{式中、R
fは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又は炭素数4以下のパーフルオロ基を表す}
で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩を含有し、かつ
下記一般式(2):
H(CR
2)
m-SO
2NHM
2 (2)
{式中、Rは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、M
2は、Li、Na、K、H又はNH
4であり、そしてmは、1又は2である}
で表される含フッ素スルホンアミド化合物を前記非水系電解液の全量に対して、
1質量ppm以上200質量ppm以下含有する、非水系電解液。
【請求項2】
前記一般式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩が、下記式(1-1)~(1-5):
【化2】
のいずれか一つを含む、請求項1に記載の非水系電解液。
【請求項3】
前記一般式(2)で表される含フッ素スルホンアミド化合物を、前記非水系電解液の全量に対して、0.1質量ppm以上含有する、請求項1又は2に記載の非水系電解液。
【請求項4】
前記非水系溶媒が、アセトニトリルを、前記非水系溶媒の全量に対して、3体積%以上97体積%以下含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の非水系電解液。
【請求項5】
前記アセトニトリルの含有量が、前記非水系溶媒の全量に対して、20体積%以上95体積%以下である、請求項4に記載の非水系電解液。
【請求項6】
前記一般式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩の含有量が、前記非水系溶媒1Lに対して、0.8モル以上1.5モル以下である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の非水系電解液。
【請求項7】
前記一般式(2)で表される含フッ素スルホンアミド化合物を、前記非水系電解液の全量に対して、80質量ppm以上120質量ppm以下含有する、請求項1~
6のいずれか一項に記載の非水系電解液。
【請求項8】
前記リチウム塩が、前記一般式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩と、LiPF
6とを含有し、
前記非水系溶媒が、ビニレンカーボネート及び/またはフルオロエチレンカーボネートを含有し、
前記一般式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩の含有量は、前記LiPF
6の含有量に対してモル比で2.5以上であり、かつ
前記LiPF
6の含有量は、ビニレンカーボネート及びフルオロエチレンカーボネートの含有量に対してモル比で0.01以上4以下である、請求項1~
7のいずれか一項に記載の非水系電解液。
【請求項9】
前記一般式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩の含有量は、前記LiPF
6の含有量に対してモル比で10より大きい、請求項
8に記載の非水系電解液。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか一項の非水系電解液を備えた、非水系二次電池。
【請求項11】
前記非水系二次電池は電池外装を備え、前記電池外装が、正極側の、前記非水系電解液との接液層の少なくとも一部にアルミニウムを含む、請求項1
0に記載の非水系二次電池。
【請求項12】
下記一般式(3):
MO
2C-(CR
2)
m-SO
2F (3)
{式中、Rは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、mは、1又は2であり、そしてMは、H、Li、Na、K又はNH
4である}で表されるフルオロスルホニル基含有カルボン酸化合物から出発して、電解カップリング反応工程、環化工程、及びカチオン交換工程を経て、前記一般式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩を製造し、
前記一般式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩と非水系溶媒とを混合する混合工程を含み、
該電解カップリング反応工程後に下記一般式(5):
H-(CR
2)
m-SO
2F (5)
{式中、Rは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、mは、1又は2である}で表されるフルオロスルホニル基含有化合物を、該
電解カップリング反応工程で得られる反応液中0.1質量%以下まで低下させる精製工程、を含むことを特徴とする請求項1~
9のいずれか一項に記載の非水系電解液の製造方法。
【請求項13】
下記一般式(3):
MO
2C-(CR
2)
m-SO
2F (3)
{式中、Rは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、mは、1又は2であり、そしてMは、H、Li、Na、K又はNH
4である}で表されるフルオロスルホニル基含有カルボン酸化合物から出発して、電解カップリング反応工程、環化工程、及びカチオン交換工程を経て、前記一般式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩を製造し、
前記カチオン交換工程後に得られる前記一般式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩を、単座配位性の鎖状エーテル溶媒に、溶解させた後に晶析して、精製された含フッ素環状スルホニルイミド塩を得る晶析工程と、
前記晶析工程で得られた前記一般式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩と非水系溶媒とを混合する混合工程とを含む、請求項1~
9のいずれか一項に記載の非水系電解液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止剤、有機電解質等のイオン電導材料や難燃剤として有用な含フッ素環状スルホニルイミド塩、及びその製法、非水系電解液並びに非水系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池をはじめとする非水系二次電池は、軽量、高エネルギー及び長寿命であることが大きな特徴であり、各種携帯用電子機器電源として広範囲に用いられている。近年では、非水系電解液は、電動工具等のパワーツールに代表される産業用、及び電気自動車、電動式自転車における車載用としても広がりを見せており、更には住宅用蓄電システム等の電力貯蔵分野においても注目されている。
【0003】
リチウムイオン電池の非水系電解液としては、環状炭酸エステル等の高誘電性溶媒と、鎖状炭酸エステル等の低粘性溶媒との組み合わせが、一般的に例示される。また、負極表面にSEI(Solid Electrolyte Interface:固体電解質界面)を形成し、これにより非水系溶媒の還元分解を抑制するために、ビニレンカーボネート等の電極保護用添加剤を添加することが望ましい。
【0004】
近年、非水系電解液の材料として、含フッ素環状スルホニルイミド塩が注目を集めている。
【0005】
例えば、特許文献1では、含フッ素環状スルホニルイミド塩を用いることによって、電極の腐食がなく、高いイオン伝導度を保つ非水系電解液が報告されている。
【0006】
特許文献2では、含フッ素環状スルホニルイミド塩を含む非水系電解液と、コバルト使用量を減少した正極とを組み合わせた非水系二次電池が報告されている。
【0007】
N、N-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ビス(フルオロスルホニル)イミド等の含フッ素スルホニルイミド塩、及びその誘導体は、イオン電導材料や難燃剤として有用な化合物であることが知られている(例えば、以下の非特許文献1参照)。
ところで、化合物(1A)を製造する方法としては、FSO2CF2COOHの電解カップリング反応により合成したFO2SCF2CF2SO2Fとアンモニアを反応させ、含フッ素環状スルホニルイミドアンモニウム塩を得た(環化反応の)後、アルカリ金属の水酸化物や炭酸塩と反応させて(カチオン交換反応)を経る方法が知られている(以下の特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2010/110388号
【文献】特開2008-21517号公報
【文献】国際公開第2006/106960号
【文献】国際公開第2009/025246号
【非特許文献】
【0009】
【文献】旭硝子研究報告 60巻(2010年)13-21頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献3には、電解カップリング反応により合成したFO
2SCF
2CF
2SO
2Fを含む反応粗生成物は、蒸留等による後処理により精製してもよいと記載されているが、最終生成物である化合物(1A)中に含まれる特定の副生成物の含有量を低下させて耐熱特性(高温での低い質量減少率)を高めるための具体的な、後処理については記載されていないし、示唆もされていない。
特許文献3に従い一般式(1A):
【化1】
{式中、Rは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、nは、1~4の整数であり、そしてM
1は、Li、Na、K又はNH
4である。}で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩(以下、本書中、化合物(1A)ともいう。)を製造した場合、下記一般式(2):
H(CR
2)
m-SO
2NHM
2 (2)
{式中、Rは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、mは、1又は2であり、そしてM
2は、Li、Na、K、H又はNH
4である。}で表される含フッ素スルホンアミド化合物(以下、化合物(2)ともいう。)が、最終生成物に副生成物(不純物)として混入し、結果として化合物(1A)の所望の耐熱特性が得られない。
【0011】
なお、含フッ素環状スルホニルイミド塩の晶析に係る限られた既存技術として、例えば、特許文献4には、1,4-ジオキサンを貧溶媒とし、アセトニトリルを良溶媒とした混合溶媒でのリチウム塩の晶析精製の実施例が記載されている。
【0012】
また、特許文献1~3に記載の技術では、非水系二次電池部材の金属腐食の十分な抑制、または初回充放電効率及びサイクル性能に課題があった。
【0013】
上記事情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、耐熱性に優れ、金属腐食性を低減した含フッ素環状スルホニルイミド塩および非水系電解液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討し実験を重ねた結果、特定の不純物が低減された含フッ素環状スルホンイミドのアルカリ金属塩が耐熱特性に優れるとともに、金属腐食性を低減することを予想外に見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0015】
即ち、本発明は以下のとおりのものである。
<1>
非水系電溶媒及びリチウム塩を含有する非水系電解液であって、
前記非水系溶媒はカーボネート溶媒を含み、
前記リチウム塩が、下記一般式(1):
【化2】
{式中、R
fは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又は炭素数4以下のパーフルオロ基を表す}
で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩を含有し、かつ
下記一般式(2):
H(CR
2)
m-SO
2NHM
2 (2)
{式中、Rは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、M
2は、Li、Na、K、H又はNH
4であり、そしてmは、1又は2である}
で表される含フッ素スルホンアミド化合物を前記非水系電解液の全量に対して、1000質量ppm以下含有する、非水系電解液。
<2>
前記一般式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩が、下記式(1-1)~(1-5):
【化3】
のいずれか一つを含む、項目1に記載の非水系電解液。
<3>
前記一般式(2)で表される含フッ素スルホンアミド化合物を、前記非水系電解液の全量に対して、0.1質量ppm以上含有する、項目1又は2に記載の非水系電解液。
<4>
前記非水系溶媒が、アセトニトリルを、前記非水系溶媒の全量に対して、3体積%以上97体積%以下含有する、項目1~3のいずれか一項に記載の非水系電解液。
<5>
前記アセトニトリルの含有量が、前記非水系溶媒の全量に対して、20体積%以上95体積%以下である、項目4に記載の非水系電解液。
<6>
前記一般式(2)で表される含フッ素スルホンアミド化合物を、前記非水系電解液の全量に対して、1質量ppm以上200質量ppm以下含有する、項目1~5のいずれか一項に記載の非水系電解液。
<7>
前記一般式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩の含有量が、前記非水系溶媒1Lに対して、0.8モル以上1.5モル以下である、項目1~6のいずれか一項に記載の非水系電解液。
<8>
前記一般式(2)で表される含フッ素スルホンアミド化合物を、前記非水系電解液の全量に対して、80質量ppm以上120質量ppm以下含有する、項目1~7のいずれか一項に記載の非水系電解液。
<9>
前記リチウム塩が、前記一般式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩と、LiPF
6とを含有し、
前記非水系溶媒が、ビニレンカーボネート及び/またはフルオロエチレンカーボネートを含有し、
前記一般式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩の含有量は、前記LiPF
6の含有量に対してモル比で2.5以上であり、かつ
前記LiPF
6の含有量は、ビニレンカーボネート及びフルオロエチレンカーボネートの含有量に対してモル比で0.01以上4以下である、項目1~8のいずれか一項に記載の非水系電解液。
<10>
前記一般式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩の含有量は、前記LiPF
6の含有量に対してモル比で10より大きい、項目1~9のいずれか一項に記載の非水系電解液。
<11>
項目1~10のいずれか一項の非水系電解液を備えた、非水系二次電池。
<12>
前記非水系二次電池は電池外装を備え、前記電池外装が、正極側の、前記非水系電解液との接液層の少なくとも一部にアルミニウムを含む、項目11に記載の非水系二次電池。
<13>
下記一般式(3):
MO
2C-(CR
2)
m-SO
2F (3)
{式中、Rは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、mは、1又は2であり、そしてMは、H、Li、Na、K又はNH
4である}で表されるフルオロスルホニル基含有カルボン酸化合物から出発して、電解カップリング反応工程、環化工程、及びカチオン交換工程を経て、前記一般式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩を製造し、
前記一般式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩と非水系溶媒とを混合する混合工程を含み、
該電解カップリング反応工程後に下記一般式(5):
H-(CR
2)
m-SO
2F (5)
{式中、Rは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、mは、1又は2である}で表されるフルオロスルホニル基含有化合物を、該反応液中0.1質量%以下まで低下させる精製工程、を含むことを特徴とする項目1~10のいずれか一項に記載の非水系電解液の製造方法。
<14>
下記一般式(3):
MO
2C-(CR
2)
m-SO
2F (3)
{式中、Rは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、mは、1又は2であり、そしてMは、H、Li、Na、K又はNH
4である}で表されるフルオロスルホニル基含有カルボン酸化合物から出発して、電解カップリング反応工程、環化工程、及びカチオン交換工程を経て、前記一般式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩を製造し、
前記カチオン交換工程後に得られる前記一般式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩を、単座配位性の鎖状エーテル溶媒に、溶解させた後に晶析して、精製された含フッ素環状スルホニルイミド塩を得る晶析工程と、
前記晶析工程で得られた前記一般式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩と非水系溶媒とを混合する混合工程とを含む、項目1~10のいずれか一項に記載の非水系電解液の製造方法。
<15>
下記一般式(1A):
【化4】
{式中、Rは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、nは、1~4の整数であり、そしてM
1は、Li、Na、K、又はNH
4である}で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩を含む含フッ素環状スルホニルイミド塩組成物であって、
窒素気流下、100℃より10℃/分の昇温速度で加熱したときに、質量減少率が2質量%となる温度が385℃以上であることを特徴とする含フッ素環状スルホニルイミド塩組成物。
<16>
下記一般式(2):
H(CR
2)
m-SO
2NHM
2 (2)
{式中、Rは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、M
2は、Li、Na、K、H又はNH
4であり、そしてmは、1又は2である}
で表される含フッ素スルホンアミド化合物を5000質量ppm以下含有する、項目15に記載の含フッ素環状スルホニルイミド塩組成物。
<17>
前記一般式(1A)中、nが2である、項目16に記載の含フッ素環状スルホニルイミド塩組成物。
<18>
前記一般式(1A)と(2)中、Rがフッ素原子である、項目16又は17に記載の含フッ素環状スルホニルイミド塩組成物。
<19>
前記一般式(1A)中、M
1がLiであり、かつ、前記一般式(2)中、M
2がLiである、項目16~18のいずれか一項に記載の含フッ素環状スルホニルイミド塩組成物。
<20>
前記含フッ素環状スルホニルイミド塩が、下記式:
【化5】
で表される、項目15~19のいずれか一項に記載の含フッ素環状スルホニルイミド塩組成物。
<21>
下記一般式(3):
MO
2C-(CR
2)
m-SO
2F (3)
{式中、Rは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、mは、1又は2であり、そしてMは、H、Li、Na、K又はNH
4である}で表されるフルオロスルホニル基含有カルボン酸化合物から出発して、電解カップリング反応工程、環化工程、及びカチオン交換工程を経て、下記一般式(1A):
【化6】
{式中、Rは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、nは、1~4の整数であり、そしてM
1は、Li、Na又はKである}で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩を製造する方法において、該電解カップリング反応工程後に下記一般式(5):
H-(CR
2)
m-SO
2F (5)
{式中、Rは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、mは、1又は2である}で表されるフルオロスルホニル基含有化合物を、該反応液中0.1質量%以下まで低下させる精製工程を特徴とする前記製造方法。
<22>
下記一般式(3):
MO
2C-(CR
2)
m-SO
2F (3)
{式中、Rは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、mは、1又は2であり、そしてMは、H、Li、Na、K又はNH
4である}で表されるフルオロスルホニル基含有カルボン酸化合物から出発して、電解カップリング反応工程、環化工程、及びカチオン交換工程を経て、下記一般式(1A):
【化7】
{式中、Rは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、nは、1~4の整数であり、そしてM
1は、Li、Na又はKである}で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩を製造する方法において、カチオン交換工程後に得られる含フッ素環状スルホニルイミド塩を、単座配位性の鎖状エーテル溶媒に、溶解させた後に晶析して、精製された含フッ素環状スルホニルイミド塩を得る晶析工程を含む、前記方法。
<23>
前記晶析に用いる単座配位性の鎖状エーテル溶媒が、エチルエーテル、プロピルメチルエーテル、プロピルエチルエーテル、プロピルエーテル、イソプロピルメチルエーテル、イソプロピルエチルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルメチルエーテル、ブチルエチルエーテル、イソブチルメチルエーテル、イソブチルエチルエーテル、sec-ブチルメチルエーテル、sec-ブチルエチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、tert-ブチルエチルエーテル、ペンチルメチルエーテル、イソペンチルメチルエーテル、sec-ペンチルメチルエーテル、tert-ペンチルメチルエーテル、ネオペンチルメチルエーテル、及びシクロペンチルメチルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒である、項目22に記載の方法。
<24>
前記一般式(1A)中のnが2である、項目22又は23に記載の方法。
<25>
前記一般式(1A)中のRがFである、項目22~24のいずれか一項に記載の方法。
<26>
前記一般式(1A)中のMがLiである、項目22~25のいずれか一項に記載の方法。
<27>
前記電解カップリング反応工程において、上記一般式(3)で表されるフルオロスルホニル基含有カルボン酸化合物を、水の質量(α)とニトリル基含有溶媒の質量(β)の比率(β/α)が0.80以下である水とニトリル基含有溶媒との混合溶媒の存在下、電解カップリング反応させる、項目21~26のいずれか一項に記載の方法。
<28>
前記水の質量(α)とニトリル基含有溶媒の質量(β)の比率(β/α)が0.75以下である、項目27に記載の方法。
<29>
前記電解カップリング反応工程において、上記一般式(3)で表されるフルオロスルホニル基含有カルボン酸化合物を、水とニトリル基含有溶媒との混合溶媒の存在下、反応容器中で、電解カップリング反応させ、
反応中、前記反応容器底部から反応液の液面までの高さ(距離)TLと前記反応容器底部から電極上部(最高位)までの高さ(距離)TEとが、TL>TEの関係を満たし、かつ、反応後には、前記反応容器底部から、有機相と水相の間の界面までの高さ(距離)TSと、前記反応容器底部から電極下部(最低位)までの高さ(距離)TE’とが、TE’>TSの関係を満たす、項目21~28のいずれか一項に記載の方法。
<30>
前記TE’と前記TSの関係が、TE’×0.6>TSの関係である、項目29に記載の方法。
<31>
前記電解カップリング反応における反応液中のアルカリ金属の含有量が2000質量ppm以下である、項目27~30のいずれか一項に記載の方法。
<32>
前記電解カップリング反応工程において、上記一般式(5)で表される化合物の生成モル比が、下記一般式(4):
FO
2S-(CR
2)
m-SO
2F (4)
{式中、Rは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、mは、1又は2である}で表されるビス(フルオロスルホニル)化合物(4)の生成量1モルに対し、0.01以下とする、項目27~31のいずれか一項に記載の方法。
<33>
前記電解カップリング反応工程において、上記一般式(3)で表されるフルオロスルホニル基含有カルボン酸化合物を、水とニトリル基含有溶媒との混合溶媒存在下、電解カップリング反応させ、該フルオロスルホニル基含有カルボン酸化合物の質量(γ)と、該混合溶媒の質量(δ)の比率(δ/γ)が1.5以下であることを特徴とする、項目27~32のいずれか一項に記載の方法。
<34>
前記電解カップリング反応において、陽極と陰極との極板間隔が0.001mm~9.9mmである、項目27~33のいずれか一項に記載の方法。
<35>
前記電解カップリング反応において、前記化合物(4)の収率を、70%以上とする、項目33又は34に記載の方法。
<36>
前記ニトリル基含有溶媒が、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、及びベンゾニトリルからなる群より選ばれる少なくとも1種である、項目27~35のいずれか一項に記載の方法。
<37>
前記ニトリル基含有溶媒がアセトニトリルである、項目36に記載の方法。
<38>
前記電解カップリング反応が、-35℃以上10℃以下の範囲の反応温度で行われる、項目27~37のいずれか一項に記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る含フッ素環状スルホニルイミド塩は、耐熱性が高く、広い温度領域で使用可能であり、金属腐食性が低い。また、本発明によれば、金属腐食性が低く、優れた初回充放電効率とサイクル性能を備えた非水系電解液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態の非水系二次電池の一例を概略的に示す平面図である。
【
図2】
図1の非水系二次電池のA-A線断面図である。
【
図3】実施例II-1に用いた非水系電解液で作製されたコイン型非水系二次電池のサイクル試験後の正極アルミニウム(Al)集電体の表面走査型電子顕微鏡(SEM)写真(倍率40倍)である。
【
図4】実施例II-1に用いた非水系電解液で作製されたコイン型非水系二次電池のサイクル試験後の正極Al集電体の表面SEM写真(倍率1000倍)である。
【
図5】比較例II-1に用いた非水系電解液で作製されたコイン型非水系二次電池のサイクル試験後の正極Al集電体の表面SEM写真(倍率40倍)である。
【
図6】比較例II-1に用いた非水系電解液で作製されたコイン型非水系二次電池のサイクル試験後の正極Al集電体の表面SEM写真(倍率1000倍)である。
【
図7】比較例II-3に用いた非水系電解液で作製されたコイン型非水系二次電池のサイクル試験後の正極Al集電体の表面SEM写真(倍率40倍)である。
【
図8】比較例II-3に用いた非水系電解液で作製されたコイン型非水系二次電池のサイクル試験後の正極Al集電体の表面SEM写真(倍率1000倍)である。
【
図9】比較例II-3に用いた非水系電解液で作製されたコイン型非水系二次電池のサイクル試験後の正極Al集電体の表面SEM写真(倍率10000倍)である。
【
図10】反応容器における反応液、電極等の配置例を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。本明細書において「~」を用いて記載される数値範囲は、その前後に記載される数値を含む。
【0019】
本発明の一実施形態は、下記一般式(1A):
【化8】
{式中、Rは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、nは、1~4の整数であり、そしてM
1は、Li、Na、K又はNH
4である}で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩を含む組成物であって、窒素気流下、100℃より10℃/分の昇温速度で加熱したときに、質量減少率が2質量%となる温度が385℃以上であることを特徴とする含フッ素環状スルホニルイミド塩組成物である。
以下、化合物(1A)について詳細に説明する。
【0020】
<含フッ素環状スルホニルイミド塩(化合物(1A))を含む組成物>
一般式(1A)中、nは、入手又は製造が容易であり、経済性に優れる観点から1~4の整数であり、同様の観点から、1~3の整数であることが好ましく、1又は2であることがより好ましく、2であることが最も好ましい。
Rはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、入手又は製造が容易であり、経済性に優れる観点から、フッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、フッ素原子が最も好ましい。
M
1は、入手又は製造が容易であり、経済性に優れる観点から、Li、Na、K又はNH
4(すなわち、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン)であり、Li又はNaが好ましく、Liが最も好ましい。
化合物(1A)の具体例としては、以下の構造式:
【化9】
又は
【化10】
で表される化合物が挙げられる。
これらの中でも、以下の構造式:
【化11】
で表される化合物が好ましい。
【0021】
化合物(1A)を含む組成物は窒素気流下、100℃より10℃/分の昇温速度で加熱したときに、2%質量減少温度が385℃以上であるのが好ましく、同様の観点から390℃以上であるのがより好ましく、395℃以上であるのが最も好ましい。当該2%質量減少温度は、その上限値は特に限定されないが、1000℃以下であってもよく、500℃以下であってもよい。ここで、2%質量減少温度とは、上記条件下で熱重量分析を行ったときに、初期の質量に対する質量減少率が2%となる温度である。すなわち、2%質量減少温度が高くなるほど分解物を生じ難く、耐熱特性が高いことを示す。
【0022】
上記2%質量減少温度の測定は、25℃より10℃/分の昇温速度で加熱して100℃で30分間保持して水分等の揮発性成分を蒸発させた後に、100℃より10℃/分の昇温速度で加熱して2%質量減少温度を測定する。100℃からの昇温開始時の質量を基準として、2%質量減少する温度を求める。
上記2%質量減少温度の測定に使用可能な装置としては、示差熱熱重量同時測定装置(例えば、株式会社島津製作所製の「DTG-60A」)等が挙げられる。
【0023】
尚、測定試料が水分や残留溶媒を含んでいる場合には、正確な測定結果が得られ難い。したがって、上記測定に用いる化合物(1A)の組成物は水分と残留溶媒の合計含有率が2000質量ppm以下であることが好ましく、同様の観点から、1500質量ppm以下であることがより好ましく、1000質量ppm以下であることがさらに好ましく、600質量ppm以下であることが最も好ましい。上記の水分量は、カールフィッシャー水分計、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー等の分析機器により測定することができる。
【0024】
2%質量減少温度が所望の範囲の含フッ素環状スルホニルイミド塩組成物は、例えば、後述するように電解カップリング反応工程において得られる反応液を蒸留精製して化合物(5)を除去することや、化合物(1A)を晶析により精製することで得られる。また、この組成物は、前記蒸留精製と晶析を両方行うことで得られる。さらに、前記組成物は、蒸留や晶析を行った後に、化合物(2)を添加することで得られる。
【0025】
本実施形態の含フッ素環状スルホニルイミド塩組成物中の化合物(1A)の含有量(純度)は、98.0質量%以上であることが好ましく、99.0質量%以上であることがより好ましく、99.5質量%以上であることがさらに好ましい。
【0026】
本実施形態の含フッ素環状スルホニルイミド塩(1A)を含む組成物は、下記一般式(2):
H(CR2)m-SO2NHM2 (2)
{式中、Rは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、mは、1又は2であり、M2は、Li、Na、K、H又はNH4である。}で表される含フッ素スルホンアミド化合物の含有量が10000質量ppm(1質量%)以下であることが好ましい。化合物(2)の含有量が上記範囲内にあると、化合物(1A)を含む組成物の耐熱特性がより高まるとともに、金属腐食性が低減され、正極Al集電体の腐食による充放電時の不可逆容量の増加及びサイクル性能の低下を抑制できる。同様の観点から、化合物(2)の含有量は、含フッ素環状スルホニルイミド塩(1A)の全量に対して、5000質量ppm以下であることがより好ましく、1000質量ppm以下であることが最も好ましい。化合物(2)の含有量は、その下限値は特に限定されないが、含フッ素環状スルホニルイミド塩(1A)の全量に対して、0質量ppm以上であってもよく、0.001質量ppm以上であってもよく、10質量ppm以上であってもよく、100質量ppm以上であってもよい。
【0027】
化合物(2)の含有量は、19F-NMRのピーク値の積分値から算出する。化合物(2)の含有量は、内部標準法(内部標準物質;ベンゾトリフルオリド)にて測定する。化合物(2)の含有量は、下式により算出する。
化合物(2)の含有量(質量%)=(Im×Ci×Cmw)/(Ii×Ia)×100
(式中、
Im=内部標準物質モル数=ベンゾトリフルオリドの測定サンプル内の質量/ベンゾトリフルオリドの分子量
Ii=内部標準物質の1Fあたりの積分値=ベンゾトリフルオリドの積分値/ベンゾトリフルオリドのフッ素原子数
Ci=化合物(2)の1Fあたりの積分値=化合物(2)の積分値/化合物(2)のフッ素原子数
Cmw=化合物(2)の分子量
Ia=測定サンプル内の含フッ素環状スルホニルイミド塩を含む組成物の総質量)
例えば、非水系電解液中の化合物(2)の含有量が10質量ppm以下であり、上記の内部標準法での検出が困難な場合は、100mLの非水系電解液を溶媒留去して得られた固体サンプルを0.5mLの溶媒に再溶解したサンプルに関して、上記の内部標準法を用いて化合物(2)の含有量を仮に算出し、その値を200倍することで、元の非水系電解液中の化合物(2)の含有量を算出できる。または、非水系電解液の原料に用いられた化合物(1A)中の化合物(2)の含有量を上記の内部標準法を用いて算出し、化合物(1A)を非水系電解液中の化合物(1A)の濃度に希釈した際の希釈倍率で除することで算出できる。
化合物(2)の構造式の同定は、質量分析法、核磁気共鳴法、赤外分光法、元素分析、イオンクロマトグラフィ―法、ICP発光分光分析法を含む一般的な分析手法のうち一つまたは組合せによって可能である。
【0028】
化合物(2)の含有量が所望の範囲の含フッ素環状スルホニルイミド塩は、例えば、後述するように電解カップリング反応工程において得られる反応液を蒸留精製して化合物(5)を除去することで得られる、または、化合物(1A)を晶析により精製することで得られる。化合物(2)を低減する効果が高い晶析精製が好ましく、金属腐食性がより低減される。
また、化合物(2)の含有量が所望の範囲の含フッ素環状スルホニルイミド塩組成物および非水系電解液は、化合物(2)を含フッ素環状スルホニルイミド塩組成物および非水系電解液に後添加することでも得られる。
【0029】
一般式(2)中、Rの定義は、一般式(1A)におけるRと同義である。Rはフッ素原子であることが最も好ましい。mは、1であることが最も好ましい。M
2は、Li、Na、K又はNH
4(すなわち、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン)であり、Li又はNaが好ましく、Liが最も好ましい。
化合物(2)の具体例としては、下記の構造式で表される化合物が挙げられる。これらの中でも、HCF
2SO
2NHLi(化合物(2-1))、HF
2CSO
2NHNH
4(化合物(2-2))が好ましく、HCF
2SO
2NHLi(化合物(2-1))が最も好ましい。
【化12】
【0030】
<含フッ素環状スルホニルイミド塩(化合物(1A))の製造方法>
前記したように、化合物(1A)を製造する方法として、従来公知の方法、例えば、特許文献3に記載の方法を採用することができる。以下に、Rがフッ素原子、nが2である場合を例にとり、化合物(1A)の反応スキームを示す。かかる方法は、以下の反応スキームの上段に示すように、下記一般式(3):
HO
2C-(CR
2)
m-SO
2F (3)
{式中、Rは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、mは、1又は2である。}で表されるフルオロスルホニル基含有カルボン酸化合物(以下、化合物(3)ともいう。)から出発して、電解カップリング反応工程により化合物(4)を得て、次いで、環化工程により化合物(1-N)を得て、最後にカチオン交換工程を経て、化合物(1A)を製造する方法である。化合物(1A)においてM
1=NH
4である場合は、カチオン交換工程を省略できる。
【化13】
しかしながら、従来技術の方法によっては、化合物(2)の含有量が低減され、所望の耐熱性を有する化合物(1A)は得られない。反応スキーム下段に示すように、電解カップリング反応工程において、副生成物として生じる化合物(5)が、環化工程により化合物(2-N)を生じ、次いでカチオン交換工程における反応を経て、化合物(2)が生成する。
本願発明者らは、鋭意検討し実験を重ねた結果、最終生成物である化合物(1A)組成物の耐熱特性を高め、金属腐食性を低減するためには、前記したように、化合物(1A)組成物中の化合物(2)の含有量を所定値以下にすればよいことを見出した。
さらに、そうするためには、上記反応スキームの下段に示すように、電解カップリング反応工程において、副生成物として生じるフルオロスルホニル基含有化合物(化合物(5))を、該工程で得られる反応液中0.1質量%以下まで低下させればよいことを見出し、本発明を完成する至ったもののである。
【0031】
すなわち、本発明の他の実施形態は、下記一般式(3):
HO
2C-(CR
2)
m-SO
2F (3)
{式中、Rは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、mは、1又は2である。}で表されるフルオロスルホニル基含有カルボン酸化合物から出発して、電解カップリング反応工程、環化工程、及びカチオン交換工程を経て、下記一般式(1A):
【化14】
{式中、Rは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、nは、1~4の整数であり、そしてM
1は、Li、Na又はKである。}で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩を製造する方法において、該電解カップリング反応工程後に下記一般式(5):
H-(CR
2)
m-SO
2F (5)
{式中、Rは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、mは、1又は2である。}で表されるフルオロスルホニル基含有化合物を、該反応液中0.1質量%以下まで低下させる精製工程を特徴とする前記製造方法である。なお、化合物(5)は、該電解カップリング反応工程において得られる反応液を精製して得られる、下記一般式(4):
FO
2S-(CR
2)
m-SO
2F (4)
{式中、Rは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、mは、1又は2である。}で表されるビス(フルオロスルホニル)化合物の副生成物である。
【0032】
さらに、化合物(1A)組成物中の化合物(2)の含有量を所定値以下にするには、カチオン交換工程後に得られる含フッ素環状スルホニルイミド塩(1A)を、単座配位性の鎖状エーテル溶媒に、溶解させた後に晶析して、精製すればよいことを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0033】
すなわち、本発明の他の実施形態は、
前記一般式(3)で表されるフルオロスルホニル基含有カルボン酸化合物から出発して、電解カップリング反応工程、環化工程、及びカチオン交換工程を経て、前記一般式(1A)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩を製造する方法において、カチオン交換工程後に得られる含フッ素環状スルホニルイミド塩を、単座配位性の鎖状エーテル溶媒に、溶解させた後に晶析して、精製された含フッ素環状スルホニルイミド塩を得る晶析工程を含む、ものである。
【0034】
以下、かかる製造方法を詳細に説明する。
<電解カップリング反応工程>
化合物(3)を電解カップリング反応させることにより、ビス(フルオロスルホニル)化合物(化合物(4))を製造することができる。化合物(3)は市販のものを使用しても、公知の方法、例えば、テトラフルオロエチレンにSO3を付加して、サルトンを得、NEt3の存在下でサルトン開環物を得、これを加水分解して、サルトン加水分解物として化合物(3)を得る方法を使用してもよい。
【0035】
一般式(3)中、Rの定義は、一般式(1A)におけるRと同義である。Rはフッ素原子であることが最も好ましい。mは、1であることが最も好ましい。
化合物(3)の具体例としては、下記の構造式で表される化合物が挙げられる。これらの中でも、FO
2SCF
2CO
2H(2,2-ジフルオロ-2-(フルオロスルホニル)酢酸、化合物(3-1))が好ましい。
【化15】
【0036】
電解カップリング反応工程の反応温度は、一般的に用いられる範囲であれば特に限定されないが、-50℃以上70℃以下であることが好ましい。反応温度が-50℃以上であると、電気抵抗が低下し発熱が抑制できるため、温度制御が容易となるので好ましい。同様の観点から、反応温度は-40℃以上であることがより好ましく、-35℃以上であることがより好ましく、-30℃以上であることが最も好ましい。反応温度が70℃以下であると、化合物(3)、及び化合物(4)の分解が抑制でき、化合物(4)の収率がより高まる傾向にあるので好ましい。同様の観点から、反応温度は50℃以下であることがより好ましく、40℃以下であることがより好ましく、10℃以下であることが最も好ましい。
【0037】
電解カップリング反応工程においては、溶媒を用いてもよい。
上記溶媒としては、一般的に使用されるものであれば特に限定されないが、具体例としては、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、及び1,2-ジクロロベンゼン等の芳香族系溶媒、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、4-メチルテトラヒドロピラン、シクロペンチルメチルエーテル、及びアニソール等のエーテル基含有溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、及びベンゾニトリル等のニトリル基含有溶媒、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、及び2-ブタノール等の水酸基含有溶媒、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート等の炭酸エステル基含有溶媒等が挙げられる。中でも、化合物(4)の収率が高まる傾向にあることから、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、及びベンゾニトリル等のニトリル溶媒、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、及び2-ブタノール等の水酸基含有溶媒、及びジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート等の炭酸エステル基含有溶媒が好ましい。
これらの溶媒は単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせてもよく、化合物(4)の収率がより高まる傾向にあることから、水とニトリル基含有溶媒との混合溶媒、又は水と炭酸エステル基含有溶媒との混合溶媒が好ましく、水とニトリル基含有溶媒との混合溶媒がより好ましく、水とアセトニトリルとの混合溶媒が最も好ましい。溶媒中のアセトニトリルの量は、0.5~90質量%が好ましい。
【0038】
本実施形態においては、上記一般式(3)で表されるフルオロスルホニル基含有カルボン酸化合物を、水の質量(α)とニトリル基含有溶媒の質量(β)の比率(β/α)が0.80以下である水とニトリル基含有溶媒との混合溶媒の存在下、電解カップリング反応させ、上記一般式(4)で表されるビス(フルオロスルホニル)化合物を製造することが好ましい。β/αが0.80以下であると、化合物(5)の生成が抑制できる。同様の観点から、β/αは0.75以下であることがより好ましく、0.5以下であることがさらに好ましく、0.2以下であることがよりさらに好ましく、0.1以下であることがよりさらに好ましい。β/αは、その下限値は特に限定されないが、0.01以上であってもよく、0.03以上であってもよく、0.05以上であってもよく、0.18以上であってもよい。
【0039】
特許文献3には、FO2SCF2CO2Hを出発原料とし、電解カップリング反応により1工程でビス(フルオロスルホニル)化合物(FO2SCF2CF2SO2F)を製造する方法が開示されている。しかしながら、特許文献3に従いビス(フルオロスルホニル)化合物を製造した場合、一般式(5)で表されるフルオロスルホニル基含有化合物が副生成物として混入する。上述したように、ビス(フルオロスルホニル)化合物は、触媒や、電解質として利用されるが、これらの分野においては微量に混入する不純物により触媒活性や電気伝導度等の性能が大きく低下することがある。したがって、特許文献3に従いビス(フルオロスルホニル)化合物を製造した場合には、蒸留等の精製操作によりフルオロスルホニル基含有化合物を分離除去する必要がありフルオロスルホニル基含有化合物の含有量が少ないビス(フルオロスルホニル)化合物を製造する方法が求められてきた。
【0040】
我々は、水の質量(α)と、ニトリル基含有溶媒の質量との比率(β/α)を特定の数値以下にすることで、副生成物としてのフルオロスルホニル基含有化合物(化合物(5))の含有量が少ない化合物(4)が得られることを予想外に見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0041】
本実施形態においては、上記一般式(3)で表されるフルオロスルホニル基含有カルボン酸化合物を、水とニトリル基含有溶媒との混合溶媒の存在下、反応容器中で、電解カップリング反応させ、上記一般式(4)で表されるビス(フルオロスルホニル)化合物を製造する方法であって、反応中、前記反応容器底部から反応液の液面までの高さ(距離)TLと前記反応容器底部から電極上部(最高位)までの高さ(距離)TEとが、TL>TEの関係を満たし、かつ、反応後には、前記反応容器底部から、有機相と水相の間の界面までの高さ(距離)TSと、前記反応容器底部から電極下部(最低位)までの高さ(距離)TE’とが、TE’>TSの関係を満たす、前記ビス(フルオロスルホニル)化合物(化合物(4))の製造方法であることが好ましい。
【0042】
図10に示すように、本実施形態では、反応中、反応容器底部から反応液の液面までの高さ(距離)TLと反応容器底部から電極上部(最高位)までの高さ(距離)が、TL>TEの関係を満たし、反応後には、反応容器底部から、有機相と水相の間の界面までの高さ(距離)TSと、反応容器底部から電極下部(最低位)までの高さ(距離)TE’とが、TE’>TSの関係を満たすことが好ましい。TLとTE、及び、TE’とTSが、それぞれ、上記関係を満たすことで、電解カップリング反応時の電圧の急激な上昇が抑制され、より安全性の高い製造方法となる傾向にある。
同様の観点から、TE’とTSの関係は、TE’×0.8>TSの関係を満たすことがより好ましく、TE’×0.6>TSをさらに満たすことが最も好ましい。
【0043】
特許文献3には、FO2SCF2CO2Hを出発原料とし、電解カップリング反応により1工程でビス(フルオロスルホニル)化合物(FO2SCF2CF2SO2F)を製造する方法が開示されている。しかしながら、特許文献3に従いビス(フルオロスルホニル)化合物を製造した場合、電解カップリング反応中に電圧が急激に上昇するといったハンチングが観測され、電解カップリング反応の安定性の向上が求められる。
【0044】
我々は、反応中、前記反応容器底部から反応液の液面までの高さ(距離)TLと前記反応容器底部から電極上部(最高位)までの高さ(距離)TEとが、TL>TEの関係を満たし、かつ、反応後には、前記反応容器底部から、有機相と水相の間の界面までの高さ(距離)TSと、前記反応容器底部から電極下部(最低位)までの高さ(距離)TE’とが、TE’>TSの関係を満たすことで、ハンチングの発生を抑制し、反応器の運転安定性に優れることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0045】
本実施形態においては、上記一般式(3)で表されるフルオロスルホニル基含有カルボン酸化合物を、水とニトリル基含有溶媒との混合溶媒存在下、電解カップリング反応させる前記電解カップリング反応工程において、化合物(3)の質量(γ)と、混合溶媒の質量(δ)との比率(δ/γ)は、1.5以下であることが好ましい。δ/γが1.5以下であると、化合物(2)の収率がより高まる傾向にあるため好ましい。同様の観点から、δ/γは1.35以下であることが好ましく、1.00以下であることが最も好ましい。δ/γは、その下限値は特に限定されないが、0.01以上であってもよく、0.05以上であってもよく、0.1以上であってもよい。
【0046】
電解カップリング反応工程に用いる電極は、一般的に用いられる電極であれば特に限定されないが、溶媒の分解を抑制する観点から、白金電極であることが好ましい。
【0047】
本実施形態においては、電解カップリング反応において、陽極と陰極との極板間隔は、0.001mm~9.9mmであることが好ましい。極板間隔が0.001mm以上であると、極板間に電解液が流れやすくなり、化合物(4)の収率がより高まる傾向にあるため好ましい。極板間隔が9.9mm以下であると、電圧が低減され、副反応が抑制されることにより化合物(4)の収率がより高まる傾向にあるため好ましい。同様の観点から、陽極と陰極の極板間隔は、0.01mm~5mmであることが好ましく、0.1mm~2.9mmであることが最も好ましい。
【0048】
特許文献3には、FO2SCF2CO2Hを出発原料とし、電解カップリング反応により1工程でビス(フルオロスルホニル)化合物(FO2SCF2CF2SO2F)を製造する方法が開示されている。しかしながら、特許文献3には、電解カップリング反応時の原料と溶媒の混合比や、陽極と陰極との電極間隔に関する具体的な記載はない。実際に、FO2SCF2CO2Hを出発原料として通電しても、原料と溶媒の混合比率によってビス(フルオロスルホニル)化合物の収率に大きな変動があり、また、陽極と陰極との電極間隔によっては目的物であるビス(フルオロスルホニル)化合物が全く得られない場合がある。
【0049】
我々は、該フルオロスルホニル基含有カルボン酸化合物の質量(γ)と、該混合溶媒の質量(δ)の比率(δ/γ)を特定の数値以下にし、陽極と陰極との電極間隔一定の範囲に設定する組合せによって、ビス(フルオロスルホニル)化合物が高い収率で安定して得られることを予想外に見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0050】
本実施形態においては、電解カップリング反応にける反応液中のアルカリ金属の含有量が2000質量ppm以下であることが好ましい。アルカリ金属の含有量が当該範囲であることで、化合物(3)の分解が抑制され、化合物(4)の収率がより高まる傾向にある。反応液中のアルカリ金属の含有量は、より好ましくは1000質量ppm以下であり、さらに好ましくは500質量ppm以下である。
【0051】
電解カップリング反応工程において、化合物(3)の電解カップリング反応後、化合物(3)、化合物(4)、及び溶媒を含む反応生成物から、各々を分離する方法としては、一般的に用いられる分離除去方法であれば特に限定されず用いることができる。例えば、蒸留による揮発成分の分離除去、分液操作による液体成分の分離、濾過による不溶固体の分離除去等が挙げられる。
これらの方法は、単独で用いてもよいし、複数種の方法を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
電解カップリング反応工程において、目的物である化合物(4)とともに、副生成物としてH-(CR2)m-SO2F{式中、Rは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、mは、1又は2である。}(化合物(5))が生成することがある。化合物(5)は、電解カップリング反応工程に引き続く環化工程、カチオン交換工程を経て、化合物(2)へと変化し、化合物(1A)の耐熱特性の低下の原因となる。さらに、化合物(1A)、及び化合物(2)はともに固体であり、化合物(1A)、及び化合物(2)の混合物から、化合物(2)を分離除去することは困難である。したがって、化合物(1A)の耐熱特性低下の原因となる化合物(5)は、電解カップリング反応工程後において、該工程で得られる反応液中0.1質量%以下まで低下させることが好ましい。
【0053】
化合物(3)の電解カップリング反応時、一般式(5)で表される化合物が副生する詳細な理由は明らかではないが、以下の反応スキームに示すように、化合物(3)のカルボキシル基と、溶媒のニトリル基とが相互作用することで化合物(3)の脱炭酸反応が促進され、その後、溶媒の水と反応することにより化合物(5)が生成すると考えられる。
【化16】
【0054】
化合物(4)、及び化合物(5)との混合物から、各々を分離する方法としては、一般的に用いられる分離除去であれば特に限定されず用いることができる。例えば、蒸留による分離方法が挙げられる。
【0055】
一般式(5)中、Rの定義は、一般式(1A)におけるRと同義である。Rはフッ素原子であることが最も好ましい。mは、1であることが最も好ましい。
化合物(5)の具体例としては、下記の構造式で表される化合物が挙げられる。これらの中でも、HCF
2SO
2F(1,1-ジフルオロメタンスルホニルフルオリド、化合物(5-1))が好ましい。
【化17】
【0056】
電解カップリング時の電流密度は、0.001A/cm2~2.0A/cm2であることが好ましい。電流密度が上記範囲内であると、副反応が抑制され、化合物(4)の収率がより高まる傾向にあるため好ましい。同様の観点から、電流密度は、0.005A/cm2~1.5A/cm2であることがより好ましく、0.01A/cm2~1.0A/cm2であることが最も好ましい。
本実施形態において使用される電解槽は有機電解反応において通常用いられるものであり、バッチ式であっても、化合物(3)等を連続的に供給しながら行う連続式であってもよい。
【0057】
電解カップリング反応工程の反応時間は、通常用いられる範囲であれば特に限定されないが、0.5~100時間が好ましく、1~50時間がより好ましい。
電解カップリング反応工程の圧力は、反応を行う温度によるが、通常用いられる範囲であれば特に限定されないが、10kPa~5000kPaが好ましい。
反応雰囲気は、通常用いられる雰囲気であれば特に限定されないが、通常は大気雰囲気、窒素雰囲気、及びアルゴン雰囲気等が用いられる。これらの中でも、より安全に化合物(4)を製造できる傾向にあることから、窒素雰囲気、及びアルゴン雰囲気が好ましい。また、より経済性に優れる製造方法となる傾向にあることから、窒素雰囲気がさらに好ましい。
反応雰囲気は、単独で用いてもよいし、複数種の反応雰囲気を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
電解カップリング反応時、支持電解質を添加してもよい。支持電解質としては、通常用いられる支持電解質であれば特に限定されないが、具体例としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の金属水酸化物、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等の硫酸塩、硝酸、硫酸、塩酸等の酸性化合物、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸アンモニウム等の過塩素酸塩、テトラメチルアンモニウムブロミド、パラトルエンスルホン酸テトラブチルアンモニウム等の4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0059】
本実施形態の製造方法は、電解カップリング反応において、化合物(5)の生成モル比が、化合物(4)の生成量1モルに対し、0.01以下とすることが好ましい。化合物(5)の生成モル比は、0.008以下とすることがより好ましく、0.005以下とすることが更に好ましく、0.003以下とすることがよりさらに好ましい。上述のように電解カップリング反応を所定のβ/αの範囲で行うことなどにより、当該生成モル比とすることができる。当該生成比は、電解カップリング後の反応液を19F-NMRで測定することにより求められる。具体的な条件は実施例に記載する。
【0060】
電解カップリング反応工程における化合物(4)の収率は、60%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上が更に好ましく、90%以上が特に好ましい。上述の化合物(4)の収率で電解カップリング反応工程を行うことで、化合物(4)の製造コストを低減できるとともに、単位時間当たりの製造量を向上できる。
【0061】
<環化工程>
化合物(4)と、アンモニアを反応させることにより、下記一般式(1-N):
【化18】
{式中、Rは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、nは、1~4の整数である}で表される含フッ素環状スルホニルイミドアンモニウム塩(化合物(1-N))を製造することができる。
【0062】
一般式(4)中、Rの定義は、一般式(1A)におけるRと同義である。Rはフッ素原子であることが最も好ましい。mは、1であることが最も好ましい。
【0063】
化合物(4)の具体例としては、下記の構造式で表される化合物が挙げられる。これらの中でも、FO
2SCF
2CF
2SO
2F(1,1,2,2-テトラフルオロー1,2-エタンジスルホニルジフルオリド、化合物(4-1))が好ましい。
【化19】
【0064】
化合物(4)の物質量(λ)と、アンモニアの物質量(μ)とのモル比率(μ/λ)は、一般的に用いられる範囲であれば特に限定されないが、2~50であることが好ましい。μ/λが2以上であると、化合物(1-N)の収率がより高まる傾向にあるため好ましい。δ/γが50以下であると、廃棄物が低減でき、経済性により優れる製法となる傾向にあるため好ましい。同様の観点から、μ/λは5~40であることがより好ましく、10~30であることが最も好ましい。
【0065】
環化工程においては、溶媒を使用してもよい。
上記溶媒としては、反応時に不活性であり、一般的に使用されるものであれば特に限定されないが、具体例としては、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、及び1,2-ジクロロベンゼン等の芳香族系溶媒、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、4-メチルテトラヒドロピラン、シクロペンチルメチルエーテル、及びアニソール等のエーテル基含有溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、及びベンゾニトリル等のニトリル基含有溶媒、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、及び2-ブタノール等の水酸基含有溶媒等が挙げられる。中でも、化合物(1-N)の収率が高まる傾向にあることから、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、4-メチルテトラヒドロピラン、シクロペンチルメチルエーテル、及びアニソール等のエーテル基含有溶媒がより好ましい。同様の観点から、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、及び4-メチルテトラヒドロピランがより好ましく、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、及び4-メチルテトラヒドロピランがさらに好ましい。
これらの有機溶媒は単独で用いてもよいし、複数種の溶媒を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
化合物(4)の質量(ε)と、溶媒の質量(ζ)との比率(ζ/ε)は、一般的に用いられる範囲であれば特に限定されないが、0.01~100であることが好ましい。ζ/εが上記範囲内であると、化合物(1-N)の収率がより高まる傾向にある。同様の観点から、ζ/εは0.05~50であることがより好ましく、0.1~10であることがさらに好ましい。
【0067】
環化工程の反応温度は、一般的に用いられる範囲であれば特に限定されないが、-90℃~20℃であることが好ましい。反応温度が-90℃以上であると、化合物(4)の反応性が高まり、化合物(1-N)の収率がより高まる傾向にあるので好ましい。反応温度が20℃以下であると、副生成物が抑制でき、化合物(1-N)の収率がより高まる傾向にあるので好ましい。同様の観点から、反応温度は-80℃~10℃であることがより好ましく、-80℃~0℃であることが最も好ましい。
【0068】
環化工程の反応時間は、通常用いられる範囲であれば特に限定されないが、1~100時間が好ましく、5~50時間がより好ましい。
環化工程の圧力は、反応を行う温度によるが、通常用いられる範囲であれば特に限定されないが、10kPa~5000kPaが好ましい。
反応雰囲気は、通常用いられる雰囲気であれば特に限定されないが、通常は大気雰囲気、窒素雰囲気、及びアルゴン雰囲気等が用いられる。これらの中でも、より安全に化合物(1-N)を製造できる傾向にあることから、窒素雰囲気、及びアルゴン雰囲気が好ましい。また、より経済性に優れる製造方法となる傾向にあることから、窒素雰囲気がさらに好ましい。
反応雰囲気は、単独で用いてもよいし、複数種の反応雰囲気を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
環化工程において、化合物(4)とアンモニアとの反応後、化合物(1-N)、及び溶媒とを含む反応生成物から、各々を分離する方法としては、一般的に用いられる分離除去方法であれば特に限定されず用いることができる。例えば、蒸留による揮発成分の分離除去、分液操作による液体成分の分離、濾過による不溶固体の分離除去等が挙げられる。
これらの方法は、単独で用いてもよいし、複数種の方法を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
<カチオン交換工程>
化合物(1-N)と、下記一般式(6):
M1
pX (6)
(式中、M1は、Li、Na又はKであり、Xは、OH又はCO3であり、そしてpは、XがOHの場合、1であり、XがCO3の場合、2である。}で表されるアルカリ金属塩(以下、化合物(6)ともいう。)とを、反応させることにより、化合物(1A)を製造することができる。
【0071】
下記一般式(1-N)中、Rの定義は、一般式(1A)におけるRと同義である。Rはフッ素原子であることが最も好ましい。nは、1または2であることが好ましく、2であることが最も好ましい。mは、1であることが最も好ましい。式(1―N)におけるnは、1~4の整数である。
【0072】
化合物(1-N)の具体例としては、下記一般式(1-N-1)~(1-N-5):
【化20】
で表されるアンモニウム塩が挙げられる。これらの中でも、(1-N-2)で表されるアンモニウム塩が好ましい。
【化21】
【0073】
化合物(1-N)の物質量(η)と、化合物(6)の物質量(θ)とのモル比率(θ/η)は、一般的に用いられる範囲であれば特に限定されないが、0.2~10であることが好ましい。θ/ηが0.2以上であると、化合物(1A)の収率がより高まる傾向にあるため好ましい。θ/ηが10以下であると、廃棄物が低減でき、経済性により優れる製法となる傾向にあるため好ましい。同様の観点から、θ/ηは0.5~5であることがより好ましく、0.8~3であることが最も好ましい。
【0074】
カチオン交換工程において、溶媒を使用してもよい。
上記溶媒としては、反応時に不活性であり、一般的に使用されるものであれば特に限定されないが、具体例としては、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、及び1,2-ジクロロベンゼン等の芳香族系溶媒、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、4-メチルテトラヒドロピラン、シクロペンチルメチルエーテル、及びアニソール等のエーテル基含有溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、及びベンゾニトリル等のニトリル基含有溶媒、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、及び2-ブタノール等の水酸基含有溶媒等が挙げられる。中でも、化合物(1A)の収率が高まる傾向にあることから、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、4-メチルテトラヒドロピラン、シクロペンチルメチルエーテル、及びアニソール等のエーテル基含有溶媒がより好ましい。同様の観点から、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、及び4-メチルテトラヒドロピランがより好ましく、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、及び4-メチルテトラヒドロピランがさらに好ましい。
これらの有機溶媒は単独で用いてもよいし、複数種の溶媒を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
化合物(1―N)の質量(ι)と、溶媒の質量(κ)との比率(κ/ι)は、一般的に用いられる範囲であれば特に限定されないが、0.01~100であることが好ましい。κ/ιが上記範囲内であると、化合物(1A)の収率がより高まる傾向にある。同様の観点から、0.05~50であることがより好ましく、0.1~10であることがさらに好ましい。
【0076】
カチオン交換工程の反応温度は、一般的に用いられる範囲であれば特に限定されないが、0℃~150℃であることが好ましい。反応温度が0℃以上であると、化合物(1-N)の反応性が高まり、化合物(1A)の収率がより高まる傾向にあるので好ましい。反応温度が150℃以下であると、副生成物が抑制でき、化合物(1A)の収率がより高まる傾向にあるので好ましい。同様の観点から、反応温度は20℃~140℃であることがより好ましく、40℃~130℃であることが最も好ましい。
【0077】
カチオン交換工程の反応時間は、通常用いられる範囲であれば特に限定されないが、1~100時間が好ましく、5~50時間がより好ましい。
カチオン交換工程の圧力は、反応を行う温度によるが、通常用いられる範囲であれば特に限定されないが、10kPa~5000kPaが好ましい。
反応雰囲気は、通常用いられる雰囲気であれば特に限定されないが、通常は大気雰囲気、窒素雰囲気、及びアルゴン雰囲気等が用いられる。これらの中でも、より安全に化合物(1A)を製造できる傾向にあることから、窒素雰囲気、及びアルゴン雰囲気が好ましい。また、より経済性に優れる製造方法となる傾向にあることから、窒素雰囲気がさらに好ましい。
反応雰囲気は、単独で用いてもよいし、複数種の反応雰囲気を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
<含フッ素環状スルホニルイミド塩(化合物(1A))の晶析工程>
含フッ素環状スルホニルイミド塩は、一般に、水及び配位性の各種有機溶媒への溶解性が極めて高く、このことが帯電防止剤、有機電解質等のイオン電導材料や難燃剤といった幅広い用途での利用に有利に働いている。他方、この高い溶解性は、低い結晶性及び乾燥時の溶媒残存量の増大と直接的に結びついている。含フッ素環状スルホニルイミド塩のような粉体物質を高純度化するための最も一般的で簡便な製造方法の一つとして晶析が挙げられるが、この低い結晶性と溶媒残存量の増大が問題となり、含フッ素環状スルホニルイミド塩の晶析による高純度化に係る既存技術は限られている。
【0079】
特許文献4には、1,4-ジオキサンを貧溶媒とし、アセトニトリルを良溶媒とした混合溶媒でのリチウム塩の晶析精製の実施例が記載されている。しかしながら、上述の特許文献1の手法では乾燥後の結晶に1,4-ジオキサンが5質量%程度残存しており、残存溶媒の除去に長大な時間と費用がかかるという問題がある。この問題は本質的に、二つの酸素原子を有する環状エーテルである1,4-ジオキサンを用いたことで、結晶状態において溶媒がリチウムに強固に配位していることに起因すると考えられる。尚、特許文献4には、同一の含フッ素環状スルホニルイミドアンモニウム塩を1,4-ジオキサンで懸濁濾過、洗浄することによる高純度化法が記載されているが、乾燥後の残存溶媒量に関しては記述されておらず、残存溶媒量に係る問題解決に資するものかは不明瞭である。
【0080】
また、実際に本発明の発明者も、簡便かつ高純度化可能な晶析方法の発明を目指し検討を進める中で、炭酸ジメチルやアセトニトリル、テトラヒドロフラン、アセトンといった溶媒に含フッ素環状スルホニルイミド塩を溶解させ、溶媒を留去し濃縮させることによる晶析を試みたが、濃縮時に混合物全体がゲル状となり結晶化せず濃縮を継続しても乾固しない、濃厚溶液を冷却しても結晶が生じず高純度化が不可能である、といった問題が生ずることを確認している。このように含フッ素環状スルホニルイミド塩を溶解させる溶媒との高い親和性が、含フッ素環状スルホニルイミド塩の晶析においては障壁となっていた。
【0081】
本発明者は鋭意検討した結果、晶析において、単座配位性の鎖状エーテル溶媒を用いることで、極めて高純度な、低残存溶媒量の含フッ素環状スルホニルイミド塩を簡便に得られることを予想外に見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0082】
晶析工程は、冷却晶析により行われてもよい。晶析工程は、含フッ素環状スルホニルイミド塩の有する高い吸湿性を鑑み、得られる結晶の取り扱いの容易さから乾燥雰囲気下で行なうのが望ましい。乾燥雰囲気は特に限定されないが、乾燥空気、乾燥窒素、乾燥アルゴン等の気体の雰囲気下、気流下において行なうことができ、真空減圧下において行うこともできる。
【0083】
以下において、「貧溶媒」との語は、含フッ素環状スルホニルイミド塩の溶液を冷却した際に結晶を生ずるに好適な溶媒、を示すものであり、必ずしも含フッ素環状スルホニルイミド塩の溶解性が著しく低いことを意味するものではない。
【0084】
本実施形態の製造方法における晶析に用いる溶媒としては、含フッ素環状スルホニルイミド塩の比較的高い溶解性と金属への低配位性との双方を満たす観点から、単座配位性の鎖状エーテル溶媒である。晶析に単座配位性の鎖状エーテル溶媒を用いる場合、フッ素系不純物、及び残存溶媒量の低減された含フッ素環状スルホニルイミド塩を高純度かつ簡便に製造することができる理由は明らかでないが、本発明者は、単座配位性の鎖状エーテル溶媒は、金属への配位性、誘電率、双極子モーメント、いずれもその他の極性溶媒や環状エーテル等に比べて低い傾向にあり、このことが結晶中からの溶媒の除去に有利に働くものと推定している。本実施形態の製造方法では、含フッ素環状スルホニルイミド塩の晶析に単座配位性の鎖状エーテル溶媒を用いることで、フッ素系不純物、及び残存溶媒量の低減された含フッ素環状スルホニルイミド塩を高純度かつ簡便に得ることが達成できる。
【0085】
「単座配位性」の溶媒とは、金属への配位性を有する部位を一つ有する溶媒を意味する。配位性を有する部位としてはエーテル結合が挙げられる。
【0086】
晶析工程において、製造コストの観点からは単一の溶媒を用いることが望ましく、本実施形態においては、単座配位性の鎖状エーテル溶媒それ自体が晶析における貧溶媒として有効に機能することから、単一の溶媒のみを用いても高純度のイミド塩を得ることが充分可能である。しかしながら、本実施形態においては、複数の溶媒を混合することもでき、極性溶媒を良溶媒として添加することや、貧溶媒を更に添加することで結晶化を促すこともできる。但し、複数の溶媒を混合した場合には、乾燥後の溶媒残存量が増大する傾向にあり、熱履歴や製造コストの観点では不利になる場合がある。また、良溶媒である極性溶媒を添加した場合には、生じた結晶が晶析器内に固着する場合があり、回収率の低下、特殊な破砕機器の導入によるコストの増大といった懸念が生じる。
【0087】
単座配位性の鎖状エーテル溶媒としては、乾燥後の残存溶媒量低減の観点からは、低沸点、すなわち炭素数が6以下のものが好ましく、エチルエーテル、プロピルメチルエーテル、プロピルエチルエーテル、プロピルエーテル、イソプロピルメチルエーテル、イソプロピルエチルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルメチルエーテル、ブチルエチルエーテル、イソブチルメチルエーテル、イソブチルエチルエーテル、sec-ブチルメチルエーテル、sec-ブチルエチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、tert-ブチルエチルエーテル、ペンチルメチルエーテル、イソペンチルメチルエーテル、sec-ペンチルメチルエーテル、tert-ペンチルメチルエーテル、ネオペンチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等が挙げられ、また、溶解性の観点からは、プロピルメチルエーテル、プロピルエチルエーテル、イソプロピルメチルエーテル、イソプロピルエチルエーテル、ブチルメチルエーテル、ブチルエチルエーテル、イソブチルメチルエーテル、イソブチルエチルエーテル、sec-ブチルメチルエーテル、sec-ブチルエチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、tert-ブチルエチルエーテル、ペンチルメチルエーテル、イソペンチルメチルエーテル、sec-ペンチルメチルエーテル、tert-ペンチルメチルエーテル、ネオペンチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテルがより好ましく、更に好ましくはブチルメチルエーテル、ブチルエチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、tert-ブチルエチルエーテル、tert-ペンチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテルである。
【0088】
極性溶媒を良溶媒として添加する場合、用いる良溶媒は特に限定されないが、含フッ素環状スルホニルイミド塩をとりわけ好適に溶解し、比較的低沸点である観点から、アセトン、テトラヒドロフラン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。
結晶化を促すために貧溶媒を殊更に添加する場合には、用いる貧溶媒は特に限定されないが、含フッ素環状スルホニルイミド塩を溶解せず、単座配位性の鎖状エーテル溶媒と混和し、かつ低沸点であることが望ましく、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン等が挙げられる。
【0089】
晶析工程は主に、単座配位性の鎖状エーテル溶媒による粗含フッ素環状スルホニルイミド塩の溶解工程、晶析工程から構成されるが、晶析工程の直前に混合物中の不溶物を除去する工程を行なってもよい。この除去工程は、いずれも公知の、遠心分離、自然濾過、減圧濾過、加圧濾過等によって行なうことができる。濾過を行なう際には有機溶媒の使用に耐え得るものであれば、公知のいずれの濾過材を用いてもよく、濾過助剤を添加することもできる。濾過材の孔径は、好ましくは10μm以下、より好ましくは1μm以下である。
【0090】
粗含フッ素環状スルホニルイミド塩の溶解工程では、晶析前のイミド塩含有固体に対して、100~1000質量%、より好ましくは100~500質量%、さらに好ましくは100~300質量%の単座配位性の鎖状エーテル溶媒を加える。この工程は、マグネチックスターラーや撹拌羽根による撹拌、振盪や超音波振動等による溶解の促進を行なってもよい。溶解時の温度は特に限定されないが、0℃から溶媒の沸点+50℃の温度において行なうことができる。溶媒の沸点を超えて加熱を行なう場合には、公知の還流装置を用いることができる。
【0091】
晶析工程は、例えば、上記溶解工程によって得られた粗含フッ素環状スルホニルイミド塩の溶液を所望の温度で冷却することにより実施することができる。冷却に際しては、生じる結晶の高純度化の観点から、所望の温度まで穏やかに冷却していくことが好ましい。冷却温度としては-100℃~30℃が好ましく、より好ましくは-80℃~20℃、さらに好ましくは-50℃~20℃である。晶析時には、公知の手法として広く行なわれるように、種晶を添加してもよく、また、冷却を開始する前及び冷却中に、溶媒を留去することによる濃縮を行なってもよく、冷却を行ないながら上記貧溶媒を添加することで結晶化を促すこともできる。
【0092】
精製された含フッ素環状スルホニルイミド塩の捕集は、いずれも公知の、遠心分離、自然濾過、減圧濾過、加圧濾過等によって行なうことができる。濾過を行なう際には有機溶媒の使用に耐え得るものであれば、公知のいずれの濾過材を用いてもよい。濾過材の孔径としては好ましくは、10μm以下、より好ましくは1μm以下である。また、高純度化のためには、結晶の捕集時に、単座配位性の鎖状エーテル溶媒や添加した貧溶媒、又は別途調製した含フッ素環状スルホニルイミド塩の該溶媒溶液等によって洗浄することが好ましい。洗浄時に用いる液は、別途所望の温度に加熱又は冷却して使用してもよい。
【0093】
製造コストの面においては不利であるが、更に高純度の結晶を得るためには、必要に応じて上記の晶析工程を複数回繰り返すこともできる。
【0094】
製造工程の高効率化の観点から、結晶の捕集時に除去した液部及び洗浄液等は全て回収し、溶解工程又は晶析工程へと再利用することが望ましい。
【0095】
晶析工程で得られた精製された含フッ素環状スルホニルイミド塩は、不純物、特に製造時に混入するフッ素原子を有する不純物が低減された高純度のイミド塩である。精製された含フッ素環状スルホニルイミド塩の純度は、好ましくは98質量%以上であり、より好ましくは99質量%以上である。
【0096】
また、19F-NMRにおける含フッ素環状スルホニルイミド(1A)のピークの積分値の和T1と、-115ppm~-125ppmの領域に単一の又は複数の二重線ピークとして現れることに特徴的な不純物のピークの積分値の和T2、との比T1/T2を、化合物(1A)の純度に係る一の指標として用いることができる。発明者の検討によれば、前記の工程にて化合物(1A)を製造した場合特段の精製を行なわなければ、19F-NMRにおける含フッ素環状スルホニルイミド(1A)のピークの積分値の和T1と、-115ppm~-125ppmの領域に単一の又は複数の二重線ピークとして現れることに特徴的な不純物のピークの積分値の和T2、との比T1/T2は、500未満となり、化合物(1A)は褐色に着色する傾向がある。
【0097】
尚、本明細書中、用語「-115ppm~-125ppmの領域に単一の又は複数の二重線ピーク」を特徴とする不純物は、特に限定されないが、例えば、例えばH-CF2-X-Y(Xは水素およびフッ素を有さない連結基、Yは特に限定されない官能基)のようなジフルオロメチル基を有する化合物を挙げることができる。
【0098】
精製された含フッ素環状スルホニルイミド塩は、19F-NMRにおける含フッ素環状スルホニルイミド(1A)のピークの積分値の和T1と、-115ppm~-125ppmの領域に単一又は複数の二重線ピークとして現れることに特徴的な不純物のピークの積分値の和T2、との比T1/T2が、500以上であることが好ましく、より好ましくは、T1/T2が800以上、より好ましくは1000以上、更に好ましくは2000以上である。最も好ましくは該不純物ピークが全く見られないことであるが、このような場合は製造コストの観点から非効率的である。T1/T2が上記の値以上であれば得られた含フッ素環状スルホニルイミド塩は高純度化され、着色が全く見られなくなる傾向がある。これにより、例えば、帯電防止剤として樹脂と混合した際の外観不良や、長期保存時の品質劣化等を抑えることができ、より多様な用途での利用が可能になる。
【0099】
<含フッ素環状スルホニルイミド塩(化合物(1A))の乾燥工程>
次に、捕集後の含フッ素環状スルホニルイミド塩中の余剰の溶媒の除去のために乾燥工程を行なうことが好ましい。乾燥工程では一般に行なわれるように加熱減圧乾燥を行なうことができる。加熱温度は好ましくは40℃、より好ましくは60℃であるが、含フッ素環状スルホニルイミド塩の分解が進行しない限りにおいては100℃以上の温度で行なってもよく、含フッ素環状スルホニルイミド塩の熱安定性を考慮すると上限は200℃とするのが好ましい。減圧時の圧力は好ましくは100hPa以下、より好ましくは50hPa以下、さらに好ましくは10hPa以下であり、最も好ましくは1hPa以下である。
乾燥を行なう際は、上記工程で捕集されたそのままの形態の結晶を乾燥しても充分に残存溶媒を除去できるが、より速やかに乾燥を進行させる目的で、結晶の破砕、撹拌操作を加えてもよく、この場合は更なる熱履歴、時間、及びコストの低減が期待できる。本実施形態の製造方法によれば、得られる結晶は残存溶媒量が少なく、結晶同士の固着や容器への固着を抑制できることから、結晶の破砕や粉砕工程には特殊な製造装置は必要なく、一般に広く用いられる撹拌翼やミルを用いることができる。
【0100】
乾燥を行なう際は、上記工程で捕集されたそのままの形態の結晶を乾燥しても充分に残存溶媒を除去できるが、残存溶媒量を低減し、より高純度な含フッ素環状スルホニルイミド塩を得る目的で、フッ素含有溶剤による洗浄操作を加えてもよい。フッ素含有溶剤による洗浄操作は、残存溶媒と含フッ素環状スルホニルイミド塩中のリチウムの間の親和性を弱めると推測され、含フッ素環状スルホニルイミド塩中の残存溶媒量を低減することができる。具体的な洗浄操作としては、捕集後の含フッ素環状スルホニルイミド塩に十分量のフッ素含有溶剤を添加して、一定時間攪拌、または無攪拌条件で静置、した後、ろ過または減圧操作によって溶媒留去した上で、上記の乾燥工程を行う。上記の洗浄操作は複数回繰り返してもよい。フッ素含有溶剤としては、HCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)、HFC(ハイドロフルオロカーボン)、CFC(クロロフルオロカーボン)、PFC(パーフルオロカーボン)、PFPE(パーフルオロポリエーテル)、HFE(ハイドロフルオロエーテル)、HFO(ハイドロフルオロオレフィン)が挙げられる。中でも、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロペンタン、1,1,1,2,2,3,4,4,5,5,5-ウンデカフルオロペンタン、1,1,1,2,2,3,3,4,5,5,5-ウンデカフルオロペンタン、パーフルオロペンタンで表されるHFC(ハイドロフルオロカーボン)が好ましく、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロペンタンで表されるHFC(ハイドロフルオロカーボン)が最も好ましい。
【0101】
含フッ素環状スルホニルイミド塩の残存溶媒量としては、ベンゾトリフルオリド等の内部標準物質を添加した1H-NMR測定の結果から、5.0質量%以下であることが好ましく、また100質量ppm以上であることが好ましく、より好ましくは100質量ppm以上2.0質量%以下、更に好ましくは100質量ppm以上1.0質量%以下、より一層好ましくは100質量ppm以上0.1質量%以下である。残存溶媒量が5.0質量%以下の場合は、含フッ素環状スルホニルイミド塩の粉体としての取り扱い性が低下し難い傾向があり望ましい。また、残存溶媒量が100質量ppm以上の場合には、乾燥工程の時間の短縮と更なる加熱が不要となる傾向があることから製造コストの観点で望ましい。
【0102】
<1.非水系電解液>
【0103】
非水系電解液において、下記一般式(1):
【化22】
{式中、R
fは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又は炭素数4以下のパーフルオロ基を表す}
で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩を用いることによって、初回充放電効率とサイクル性能が向上する。その詳細な機構は不明だが、含フッ素環状スルホニルイミド塩が解離して生成した環状アニオンが負極で還元分解され、負極に堆積してSEIとして働くためだと推測される。また、含フッ素環状スルホニルイミド塩は金属腐食性が低く、正極集電体のAlイオンの溶出が抑制されたためだと推測される。
【0104】
非水系溶媒がアセトニトリルを含有する非水系電解液において、式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩を用いることによって、金属腐食性が低く、初回充放電効率とサイクル性能が向上する。その機構は以下のように推察される。
【0105】
式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩は、アセトニトリルを含有する非水系電解液中でカチオンと環状アニオンに解離する。環状アニオンは、アセトニトリルと電気的に相互作用し、アセトニトリルの持つニトリル基の金属配位能を弱める。それによって、高温下でアセトニトリルが正極活物質中の遷移金属と錯体を形成することで起こる金属溶出を抑制でき、金属錯体の負極への移動が抑制される。従って、金属錯体の負極での還元析出による負極SEIの劣化が抑制され、初回充放電効率とサイクル性能が向上する。
【0106】
それに加えて、環状アニオンが負極で還元分解して生成した分解物は、負極に堆積してSEIとして働き、金属錯体の負極での還元析出に対する負極SEIの耐久性を向上させ、負極での溶媒の還元分解を抑制できる。
【0107】
式(1)におけるnは、1~4の整数である。nが1~4の含フッ素環状スルホニルイミド塩として、具体的には、下記化合物(1-1)~(1-5)で表されるリチウム塩が挙げられる。なかでも、イオン伝導度の高い電解液が得られ易い観点から、nが2の化合物(1-2)が好ましい。
【化23】
【0108】
式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩の含有量は、非水系溶媒1L当たりの量として、0.1モル以上であることが好ましく、0.5モル以上であることがより好ましく、0.8モル以上であることがさらに好ましい。上述の範囲内にある場合、イオン伝導度が増大し、高出力特性を発現できる傾向にある。また、式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩の含有量は、非水系溶媒1L当たりの量として、3モル未満であることが好ましく、2.5モル以下であることがより好ましく、1.8モル以下であることがより好ましく、1.5モル以下であることがより好ましく、1.3モル以下であることがさらに好ましい。式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩の含有量が上述の範囲内にある場合、非水系電解液のイオン伝導度が増大し、電池の高出力特性を発現できると共に、非水系電解液の低温での粘度上昇に伴うイオン伝導度の低下を抑制できる傾向にあり、非水系電解液の優れた性能を維持しながら、電池の高温サイクル特性及びその他の特性を一層良好なものとすることができる傾向にある。
【0109】
また、非水系二次電池の体積エネルギー密度を向上するため、正極に含まれる正極活物質層の目付量が24~200mg/cm2の範囲に調整されている場合、式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩の含有量は、1モル以上であることが好ましく、1.2モル以上であることがより好ましく、1.5モル以上であることがさらに好ましく、2モル以上であることが特に好ましい。式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩の含有量が上述の範囲内にある場合、正極-電解液界面から離れた正極深部においても素早いイオン伝導が可能になり、非水系二次電池における出力性能とのバランスを保ちながら体積エネルギー密度を向上することができる傾向にある。
【0110】
また、含フッ素環状スルホニルイミド塩の含有量を電解液から測定する方法としては、例えば、パーフルオロベンゼンなどを内部標準に用いた19F-NMRによる環状アニオン含有量の測定、及び、イオンクロマトグラフィによるリチウムイオン含有量の測定を組み合わせる方法などが挙げられる。
【0111】
また非水系電解液において、過剰なLiPF6は、高温下での電池性能低下をもたらす原因となる一方、含フッ素環状スルホニルイミド塩は、負極SEIへの寄与などと推測される機構によって高温下での電池性能低下を抑制することから、LiPF6の含有量に対する式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩の含有量のモル比は、2.5以上であることが好ましく、10より大きいことが好ましく、15以上であることがより好ましく、20以上であることが更に好ましく、25以上であることが特に好ましい。LiPF6の含有量に対する含フッ素環状スルホニルイミド塩の含有量のモル比が上述の範囲内にある場合、例えば50℃以上のような高温での電池性能低下を効果的に抑制でき、優れた高温耐久性を得ることができる。
【0112】
本発明の一実施形態の非水系電解液は、非水系溶媒及びリチウム塩を含有し、
前記非水系溶媒はカーボネート溶媒を含み、
前記リチウム塩が、上記一般式(1)
で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩を含有し、
下記一般式(2):
H(CR2)m-SO2NHM2 (2)
{式中、Rは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、M2は、Li、Na、K、H又はNH4であり、そしてmは、1又は2である}
で表される含フッ素スルホンアミド化合物を前記非水系電解液の全量に対して、1000質量ppm以下含有する。
【0113】
非水系電解液とは、非水系電解液の全量に対し、水が1質量%以下の電解液を指す。本実施形態に係る非水系電解液は、水分を極力含まないことが好ましいが、本発明の課題解決を阻害しない範囲であれば、ごく微量の水分を含有してよい。そのような水分の含有量は、非水系電解液の全量当たり、300質量ppm以下であり、好ましくは200質量ppm以下である。非水系電解液については、本発明の課題解決を達成するための構成を具備していれば、その他の構成要素については、リチウムイオン電池に用いられる既知の非水系電解液における構成材料を、適宜選択して適用することができる。
【0114】
本実施形態の非水系電解液は、非水系溶媒とリチウム塩と化合物(2)を含有し、更に、所望により下記に示す各種添加剤(本明細書では、単に「添加剤」ということもある)とを、任意の手段で混合して製造することができる。なお、各種添加剤とは、電極保護用添加剤及びその他の任意的添加剤の総称であり、それらの含有量は、下記に示したとおりである。
【0115】
なお、非水系溶媒の各化合物の含有量は、特に断りが無い限り、<2-1.非水系溶媒>に記載の各成分、及び<2-3.電極保護用添加剤>に記載の電極保護用添加剤については非水系溶媒を構成する各成分の合計量に対する体積%で混合比を規定し、<2-2.リチウム塩>に記載のリチウム塩については、非水系溶媒1L当たりのモル数で混合比を規定し、<2-4.その他の任意的添加剤>についてはリチウム塩及び非水系溶媒全体を100質量部としたときの質量部で混合比を規定する。
【0116】
また、本実施形態において、下記<2-1>~<2-4>の各項目で具体的に示した化合物以外の化合物を電解液に含む場合は、該化合物が常温(25℃)で液体の場合は非水系溶媒に準じて取り扱い、非水系溶媒を構成する各成分(該化合物を含む)の合計量に対する体積%で混合比を表す。他方、該化合物が常温(25℃)で固体の場合はリチウム塩及び非水系溶媒全体を100質量部としたときの質量部で混合比を表す。
【0117】
<2-1.非水系溶媒>
本実施形態の非水系溶媒はカーボネート溶媒を含む。カーボネート溶媒としては、環状カーボネート、フルオロエチレンカーボネート、鎖状カーボネート、前記カーボネート性溶媒のH原子の一部または全部をハロゲン原子で置換した化合物等が挙げられる。
【0118】
環状カーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、トランス-2,3-ブチレンカーボネート、シス-2,3-ブチレンカーボネート、1,2-ペンチレンカーボネート、トランス-2,3-ペンチレンカーボネート、シス-2,3-ペンチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、4,5-ジメチルビニレンカーボネート、及びビニルエチレンカーボネート;
【0119】
フルオロエチレンカーボネートとしては、例えば、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、シス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、トランス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4,5-トリフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4,5,5-テトラフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、及び4,4,5-トリフルオロ-5-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オン;
【0120】
鎖状カーボネートとしては、例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート;
を挙げることができる。
【0121】
ここで、鎖状カーボネートのフッ素化物としては、例えば、メチルトリフルオロエチルカーボネート、トリフルオロジメチルカーボネート、トリフルオロジエチルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、メチル2,2-ジフルオロエチルカーボネート、メチル2,2,2-トリフルオロエチルカーボネート、メチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルカーボネートなどが挙げられる。上記のフッ素化鎖状カーボネートは、下記の一般式:
Rcc-O-C(O)O-Rdd
{式中、Rcc及びRddは、CH3、CH2CH3、CH2CH2CH3、CH(CH3)2、及びCH2Rf
eeから成る群より選択される少なくとも一つであり、Rf
eeは、少なくとも1つのフッ素原子で水素原子が置換された炭素数1~3のアルキル基であり、そしてRcc及び/又はRddは、少なくとも1つのフッ素原子を含有する}
で表すことができる。
本実施形態におけるアセトニトリル以外のカーボネート溶媒は、1種を単独で使用することができ、又は2種以上を組み合わせて使用してよい。
【0122】
本実施形態における非水系溶媒は、環状カーボネート及び鎖状カーボネートのうちの1種以上とともに、アセトニトリルを併用することが、非水系電解液の安定性向上の観点から好ましい。この観点から、本実施形態における非水系溶媒は、アセトニトリルとともに環状カーボネートを併用することがより好ましく、アセトニトリルとともに環状カーボネート及び鎖状カーボネートの双方を使用することが、更に好ましい。
【0123】
アセトニトリルとともに環状カーボネートを使用する場合、かかる環状カーボネートが、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート及び/又はフルオロエチレンカーボネートを含むことが特に好ましい。
【0124】
本実施形態でいう「非水系溶媒」とは、非水系電解液中から、リチウム塩及び各種添加剤を除いた要素をいう。非水系電解液に電極保護用添加剤が含まれている場合、「非水系溶媒」とは、非水系電解液中から、リチウム塩と、電極保護用添加剤以外の添加剤とを除いた要素をいう。非水系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類;非プロトン性溶媒等が挙げられる。中でも、非水系溶媒としては、非プロトン性溶媒が好ましい。本発明の課題解決を阻害しない範囲であれば、非水系溶媒は、非プロトン性溶媒以外の溶媒を含有してよい。
【0125】
本実施形態の非水系電解液に係る非水系溶媒は、非プロトン性溶媒としてアセトニトリルを含有してもよい。非水系溶媒がアセトニトリルを含有することにより、非水系電解液のイオン伝導性が向上することから、電池内におけるリチウムイオンの拡散性を高めることができる。そのため、特に正極活物質層を厚くして正極活物質の充填量を高めた正極においても、高負荷での放電時にはリチウムイオンが到達し難い集電体近傍の領域にまで、リチウムイオンが良好に拡散できるようになる。よって、高負荷放電時にも十分な容量を引き出すことが可能となり、負荷特性に優れた非水系二次電池を得ることができる。
【0126】
また、非水系溶媒がアセトニトリルを含有することにより、非水系二次電池の急速充電特性を高めることができる。非水系二次電池の定電流(CC)-定電圧(CV)充電では、CV充電期間における単位時間当たりの充電容量よりも、CC充電期間における単位時間当たりの容量の方が大きい。非水系電解液の非水系溶媒にアセトニトリルを使用する場合、CC充電できる領域を大きく(CC充電の時間を長く)できる他、充電電流を高めることもできるため、非水系二次電池の充電開始から満充電状態にするまでの時間を大幅に短縮できる。
【0127】
なお、アセトニトリルは、電気化学的に還元分解され易い。そのため、アセトニトリルを用いる場合、非水系溶媒としてアセトニトリルとともに他の溶媒(例えば、アセトニトリル以外の非プロトン性溶媒)を併用すること、及び/又は、電極への保護被膜形成のための電極保護用添加剤を添加すること、を行うことが好ましい。
【0128】
アセトニトリルの含有量は、非水系溶媒の全量に対して、3体積%以上、97体積%以下であることが好ましい。アセトニトリルの含有量は、非水系溶媒の全量に対して、5体積%以上又は10体積%以上又は20体積%以上又は30体積%以上又は40体積%以上又は50体積%以上であることがより好ましく、60体積%以上であることが更に好ましい。この値は、97体積%以下であることがより好ましく、95体積%以下であることが更に好ましい。アセトニトリルの含有量が、非水系溶媒の全量に対して3体積%以上である場合、イオン伝導度が増大して高出力特性を発現できる傾向にあり、更に、リチウム塩の溶解を促進することができる。後述の添加剤が電池の内部抵抗の増加を抑制するため、非水系溶媒中のアセトニトリルの含有量が上記の範囲内にある場合、アセトニトリルの優れた性能を維持しながら、高温サイクル特性及びその他の電池特性を一層良好なものとすることができる傾向にある。
【0129】
アセトニトリル以外の非プロトン性溶媒としては、例えば、ラクトン、硫黄原子を有する有機化合物、環状エーテル、アセトニトリル以外のモノニトリル、アルコキシ基置換ニトリル、ジニトリル、環状ニトリル、短鎖脂肪酸エステル、鎖状エーテル、フッ素化エーテル、ケトン、前記非プロトン性溶媒のH原子の一部または全部をハロゲン原子で置換した化合物等が挙げられる。
【0130】
ラクトンとしては、γ-ブチロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、δ-カプロラクトン、及びε-カプロラクトン;
【0131】
硫黄原子を有する有機化合物としては、例えば、エチレンサルファイト、プロピレンサルファイト、ブチレンサルファイト、ペンテンサルファイト、スルホラン、3-スルホレン、3-メチルスルホラン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1-プロペン1,3-スルトン、ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、及びエチレングリコールサルファイト;
【0132】
環状エーテルとしては、例えば、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、及び1,3-ジオキサン;
【0133】
アセトニトリル以外のモノニトリルとしては、例えば、プロピオニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、及びアクリロニトリル;
【0134】
アルコキシ基置換ニトリルとしては、例えば、メトキシアセトニトリル及び3-メトキシプロピオニトリル;
【0135】
ジニトリルとしては、例えば、マロノニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、1,4-ジシアノヘプタン、1,5-ジシアノペンタン、1,6-ジシアノヘキサン、1,7-ジシアノヘプタン、2,6-ジシアノヘプタン、1,8-ジシアノオクタン、2,7-ジシアノオクタン、1,9-ジシアノノナン、2,8-ジシアノノナン、1,10-ジシアノデカン、1,6-ジシアノデカン、及び2,4-ジメチルグルタロニトリル;
【0136】
環状ニトリルとしては、例えば、ベンゾニトリル;
【0137】
短鎖脂肪酸エステルとしては、例えば、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、イソ酪酸メチル、酪酸メチル、イソ吉草酸メチル、吉草酸メチル、ピバル酸メチル、ヒドロアンゲリカ酸メチル、カプロン酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、イソ酪酸エチル、酪酸エチル、イソ吉草酸エチル、吉草酸エチル、ピバル酸エチル、ヒドロアンゲリカ酸エチル、カプロン酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸プロピル、イソ酪酸プロピル、酪酸プロピル、イソ吉草酸プロピル、吉草酸プロピル、ピバル酸プロピル、ヒドロアンゲリカ酸プロピル、カプロン酸プロピル、酢酸イソプロピル、プロピオン酸イソプロピル、イソ酪酸イソプロピル、酪酸イソプロピル、イソ吉草酸イソプロピル、吉草酸イソプロピル、ピバル酸イソプロピル、ヒドロアンゲリカ酸イソプロピル、カプロン酸イソプロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸ブチル、イソ酪酸ブチル、酪酸ブチル、イソ吉草酸ブチル、吉草酸ブチル、ピバル酸ブチル、ヒドロアンゲリカ酸ブチル、カプロン酸ブチル、酢酸イソブチル、プロピオン酸イソブチル、イソ酪酸イソブチル、酪酸イソブチル、イソ吉草酸イソブチル、吉草酸イソブチル、ピバル酸イソブチル、ヒドロアンゲリカ酸イソブチル、カプロン酸イソブチル、酢酸tert-ブチル、プロピオン酸tert-ブチル、イソ酪酸tert-ブチル、酪酸tert-ブチル、イソ吉草酸tert-ブチル、吉草酸tert-ブチル、ピバル酸tert-ブチル、ヒドロアンゲリカ酸tert-ブチル、及びカプロン酸tert-ブチル;
【0138】
鎖状エーテルとしては、例えば、ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、1,3-ジオキソラン、ジグライム、トリグライム、及びテトラグライム;
【0139】
フッ素化エーテルとしては、例えば、Rf
aa-ORbb{式中、Rf
aaはフッ素原子を含有するアルキル基、Rbbはフッ素原子を含有してよい有機基};
【0140】
ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、及びメチルイソブチルケトン;
【0141】
前記非プロトン性溶媒のH原子の一部または全部をハロゲン原子で置換した化合物としては、例えば、ハロゲン原子がフッ素である化合物;
を挙げることができる。
【0142】
また、短鎖脂肪酸エステルのフッ素化物としては、例えば、酢酸2,2-ジフルオロエチル、酢酸2,2,2-トリフルオロエチル、酢酸2,2,3,3-テトラフルオロプロピルに代表されるフッ素化短鎖脂肪酸エステルなどが挙げられる。フッ素化短鎖脂肪酸エステルは、下記の一般式:
Rff-C(O)O-Rgg
{式中、Rffは、CH3、CH2CH3,CH2CH2CH3、CH(CH3)2、CF3CF2H、CFH2、CF2Rf
hh、CFHRf
hh、及びCH2Rf
iiから成る群より選択される少なくとも一つであり、Rggは、CH3、CH2CH3、CH2CH2CH3、CH(CH3)2、及びCH2Rf
iiから成る群より選択される少なくとも一つであり、Rf
hhは、少なくとも1つのフッ素原子で水素原子が置換されてよい炭素数1~3のアルキル基であり、Rf
iiは、少なくとも1つのフッ素原子で水素原子が置換された炭素数1~3のアルキル基であり、そしてRff及び/又はRggは、少なくとも1つのフッ素原子を含有し、RffがCF2Hである場合、RggはCH3ではない}
で表すことができる。
【0143】
本実施形態におけるアセトニトリル以外の非プロトン性溶媒は、1種を単独で使用することができ、又は2種以上を組み合わせて使用してよい。
【0144】
<2-2.リチウム塩>
(含フッ素環状スルホニルイミド塩(1))
前記リチウム塩が、上記一般式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩である。
【0145】
前記式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩の含有量は、前記非水系溶媒1Lに対して、0.8モル以上1.5モル以下であることが好ましい。
前記式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩は、上記項目<含フッ素環状スルホニルイミド塩(化合物(1A))を含む組成物>に記載の内容と同じでよい。
【0146】
前記式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩は、5員環構造を持つ。下記一般式(1B):
【化24】
{式中、Rは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又は炭素数4以下のパーフルオロ基を表す}で表される6員環の含フッ素環状スルホニルイミド塩は、スルホニル基と隣接していないCR
2基中の炭素原子とR基の結合が弱いため、充電時に負極で還元されることで電池の高温耐久性が低下する。また、6員環以上の含フッ素環状スルホニルイミド塩は、5員環の含フッ素環状スルホニルイミド塩に比べてリチウム塩の分子量が大きい。そのため、一定のモル濃度のリチウムイオンを含む非水系電解液を調製するために必要なリチウム塩の重量が増加するため、非水系電解液の粘度が上昇して出力特性が低下する傾向にある。
【0147】
(含フッ素環状スルホニルイミド塩(化合物(1))の製造方法)
上記式(1)で表される含フッ素環状スルホニルイミド塩(化合物(1))の製造方法は、上記項目<含フッ素環状スルホニルイミド塩(化合物(1A))の製造方法>に記載の内容と同じでよい。
【0148】
本実施形態におけるリチウム塩は、含フッ素環状スルホニルイミド塩とともに、リチウム含有イミド塩、フッ素含有無機リチウム塩、有機リチウム塩、及びその他のリチウム塩から選択される1種以上を、更に含んでよい。
【0149】
本実施形態におけるリチウム塩の含有量を測定する方法は、先述した含フッ素環状スルホニルイミド塩の測定方法と同じ方法である。
【0150】
(LiPF6)
本実施形態の非水系電解液は、リチウム塩として、LiPF6をさらに含有してもよい。本実施形態の非水系電解液におけるLiPF6の含有量については、非水系溶媒1L当たりの量として、0.5モル未満であることが好ましく、0.1モル未満であることがより好ましく、0.01モル未満であることが更に好ましい。LiPF6の含有量が上述の範囲内にある場合、LiPF6の熱分解反応による酸成分の生成を抑えることができ、負極SEIにおける無機成分の過剰な堆積による負極の抵抗増加を最小限に留めることが出来る。
【0151】
LiPF6の含有量は、ビニレンカーボネート及びフルオロエチレンカーボネートの含有量に対してモル比で4以下であり、1以下であることが好ましく、0.2以下であることがより好ましい。また、LiPF6の含有量は、ビニレンカーボネート及びフルオロエチレンカーボネートの含有量に対してモル比で0.01以上であり、0.05以上であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましい。LiPF6の含有量を上述の範囲内に調整することにより、ビニレンカーボネート及びフルオロエチレンカーボネート由来の有機成分と、LiPF6由来の無機成分のバランスに優れた負極SEIを形成し、例えば50℃以上のような高温試験における負極の抵抗増加を抑制することができる。
【0152】
負極SEIにおけるビニレンカーボネート及びフルオロエチレンカーボネート由来の有機成分の割合がLiPF6由来の無機成分の割合に比べて極端に高い場合、高温耐久性試験において非水系二次電池の内部抵抗が増加する傾向にある。詳細は不明だが、ビニレンカーボネート及びフルオロエチレンカーボネート由来の有機成分を主体として構成された負極SEIは強度が低く、負極における溶媒の還元分解が十分に抑制できず、分解物が負極に堆積することで内部抵抗が増加するものと推測される。この際、リチウムイオンが消費されることなく溶媒の還元分解が起こるために電池の可逆容量は高く保たれるが、電池の内部抵抗が高いために出力性能が大幅に低下する傾向がある。
【0153】
また、負極SEIにおけるビニレンカーボネート及びフルオロエチレンカーボネート由来の有機成分の割合がLiPF6由来の無機成分の割合に比べて極端に低い場合も、高温耐久性試験において非水系二次電池の内部抵抗が増加する傾向にある。詳細は不明だが、LiPF6由来の無機成分を主体として構成された負極SEIの絶縁性が高く、負極-電解液界面のリチウムイオン伝導を阻害するものと推測される。
【0154】
(リチウム含有イミド塩)
イミド塩としては、具体的には、LiN(SO2F)2、及びLiN(SO2CF3)2のうち少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0155】
非水系溶媒にアセトニトリルが含まれる場合、アセトニトリルに対するリチウム含有イミド塩の飽和濃度がLiPF6の飽和濃度よりも高いことから、LiPF6≦リチウム含有イミド塩となるモル濃度でイミド塩を含むことが、低温でのリチウム塩とアセトニトリルの会合及び析出を抑制できるため好ましい。また、リチウム含有イミド塩の含有量が、非水系溶媒1L当たりの量として、0.5モル以上3.0モル以下であることが、本実施形態に係る非水系電解液へのイオン供給量を確保する観点から好ましい。
【0156】
LiN(SO2F)2、及びLiN(SO2CF3)2のうち少なくとも1種を含むアセトニトリル含有非水系電解液によれば、-10℃又は-30℃のような低温域でのイオン伝導率の低減を効果的に抑制でき、優れた低温特性を得ることができる。本実施形態では、このように、リチウム含有イミド塩の含有量を限定することで、より効果的に、高温加熱時の抵抗増加を抑制することも可能となる。
【0157】
(フッ素含有無機リチウム塩)
本実施形態の非水系電解液で用いるリチウム塩は、LiPF6以外のフッ素含有無機リチウム塩を含んでもよく、例えば、LiBF4、LiAsF6、Li2SiF6、LiSbF6、Li2B12FbH12-b〔式中、bは0~3の整数である〕等のフッ素含有無機リチウム塩を含んでもよい。ここで「無機リチウム塩」とは、炭素原子をアニオンに含まず、アセトニトリルに可溶なリチウム塩をいう。また、「フッ素含有無機リチウム塩」とは、炭素原子をアニオンに含まず、フッ素原子をアニオンに含み、アセトニトリルに可溶なリチウム塩をいう。フッ素含有無機リチウム塩は、正極集電体であるアルミニウム箔の表面に不働態被膜を形成し、正極集電体の腐食を抑制する点で優れている。これらのフッ素含有無機リチウム塩は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。フッ素含有無機リチウム塩として、LiFとルイス酸との複塩である化合物が好ましく、中でも、リン原子を有するフッ素含有無機リチウム塩を用いると、遊離のフッ素原子を放出し易くなることからより好ましい。フッ素含有無機リチウム塩として、ホウ素原子を有するフッ素含有無機リチウム塩を用いた場合には、電池劣化を招くおそれのある過剰な遊離酸成分を捕捉し易くなることから好ましく、このような観点からはLiBF4が特に好ましい。
【0158】
本実施形態の非水系電解液に用いるリチウム塩におけるフッ素含有無機リチウム塩の含有量については、非水系溶媒1Lに対して、0.01モル以上であることが好ましく、0.1モル以上であることがより好ましく、0.25モル以上であることが更に好ましい。フッ素含有無機リチウム塩の含有量が上述の範囲内にある場合、イオン伝導度が増大し、高出力特性を発現できる傾向にある。また、この含有量は、非水系溶媒1Lに対して、2.8モル未満であることが好ましく、1.5モル未満であることがより好ましく、1モル未満であることが更に好ましい。フッ素含有無機リチウム塩の含有量が上述の範囲内にある場合、イオン伝導度が増大し、高出力特性を発現できると共に、低温での粘度上昇に伴うイオン伝導度の低下を抑制できる傾向にあり、非水系電解液の優れた性能を維持しながら、高温サイクル特性及びその他の電池特性を一層良好なものとすることができる傾向にある。
【0159】
(有機リチウム塩)
本実施形態におけるリチウム塩は、有機リチウム塩を含んでよい。「有機リチウム塩」とは、炭素原子をアニオンに含み、アセトニトリルに可溶な、イミド塩以外のリチウム塩をいう。
【0160】
有機リチウム塩としては、シュウ酸基を有する有機リチウム塩を挙げることができる。シュウ酸基を有する有機リチウム塩の具体例としては、例えば、LiB(C2O4)2、LiBF2(C2O4)、LiPF4(C2O4)、及びLiPF2(C2O4)2のそれぞれで表される有機リチウム塩等が挙げられ、中でもLiB(C2O4)2及びLiBF2(C2O4)で表されるリチウム塩から選ばれる少なくとも1種のリチウム塩が好ましい。また、これらのうちの1種又は2種以上を、フッ素含有無機リチウム塩と共に使用することがより好ましい。このシュウ酸基を有する有機リチウム塩は、非水系電解液に添加する他、負極(負極活物質層)に含有させてもよい。
【0161】
本実施形態における有機リチウム塩の非水系電解液への添加量は、その使用による効果をより良好に確保する観点から、非水系溶媒1L当たりの量として、0.005モル以上であることが好ましく、0.01モル以上であることがより好ましく、0.02モル以上であることが更に好ましく、0.05モル以上であることが特に好ましい。ただし、上記シュウ酸基を有する有機リチウム塩の非水系電解液中の量が多すぎると析出する恐れがある。よって、上記シュウ酸基を有する有機リチウム塩の非水系電解液への添加量は、非水系溶媒1L当たりの量として、1.0モル未満であることが好ましく、0.5モル未満であることがより好ましく、0.2モル未満であることが更に好ましい。
【0162】
シュウ酸基を有する有機リチウム塩は、極性の低い有機溶媒、特に鎖状カーボネートに対して難溶性であることが知られている。本実施形態に係る非水系電解液における有機リチウム塩の含有量は、非水系溶媒1L当たりの量として、例えば、0.01モル以上0.5モル以下であってよい。
【0163】
なお、シュウ酸基を有する有機リチウム塩は、微量のシュウ酸リチウムを含有している場合があり、更に、非水系電解液として混合するときにも、他の原料に含まれる微量の水分と反応して、シュウ酸リチウムの白色沈殿を新たに発生させる場合がある。したがって、本実施形態に係る非水系電解液におけるシュウ酸リチウムの含有量は、500ppm以下の範囲に抑制することが好ましい。
【0164】
(その他のリチウム塩)
本実施形態におけるリチウム塩は、上記以外に、その他のリチウム塩を含んでよい。
【0165】
その他のリチウム塩の具体例としては、例えば、
LiClO4、LiAlO4、LiAlCl4、LiB10Cl10、クロロボランLi等のフッ素原子をアニオンに含まない無機リチウム塩;
LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li2C2F4(SO3)2、LiC(CF3SO2)3、LiCnF(2n+1)SO3{式中、n≧2}、低級脂肪族カルボン酸Li、四フェニルホウ酸Li、LiB(C3O4H2)2等の有機リチウム塩;
LiPF5(CF3)等のLiPFn(CpF2p+1)6-n〔式中、nは1~5の整数、pは1~8の整数である〕で表される有機リチウム塩;
LiBF3(CF3)等のLiBFq(CsF2s+1)4-q〔式中、qは1~3の整数、sは1~8の整数である〕で表される有機リチウム塩;
多価アニオンと結合されたリチウム塩;
下記式(XXa):
LiC(SO2Rjj)(SO2Rkk)(SO2Rll) (XXa)
{式中、Rjj、Rkk、及びRllは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素数1~8のパーフルオロアルキル基を示す。}、
下記式(XXb):
LiN(SO2ORmm)(SO2ORnn) (XXb)
{式中、Rmm、及びRnnは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素数1~8のパーフルオロアルキル基を示す。}、及び
下記式(XXc):
LiN(SO2Roo)(SO2ORpp) (XXc)
{式中、Roo、及びRppは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素数1~8のパーフルオロアルキル基を示す。}
のそれぞれで表される有機リチウム塩等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を、フッ素含有無機リチウム塩と共に使用することができる。
【0166】
その他のリチウム塩の非水系電解液への添加量は、非水系溶媒1L当たりの量として、例えば、0.01モル以上0.5モル以下の範囲で適宜に設定されてよい。
【0167】
<2-3.電極保護用添加剤>
本実施形態に係る非水系電解液は、電極を保護するための添加剤(電極保護用添加剤)を含んでよい。電極保護用添加剤は、リチウム塩を溶解させるための溶媒としての役割を担う物質(すなわち上記の非水系溶媒)と実質的に重複してよい。電極保護用添加剤は、非水系電解液及び非水系二次電池の性能向上に寄与する物質であることが好ましいが、電気化学的な反応には直接関与しない物質をも包含する。
【0168】
電極保護用添加剤の具体例としては、例えば、
4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、シス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、トランス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4,5-トリフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4,5,5-テトラフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、及び4,4,5-トリフルオロ-5-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オンに代表されるフルオロエチレンカーボネート;
ビニレンカーボネート、4,5-ジメチルビニレンカーボネート、及びビニルエチレンカーボネートに代表される不飽和結合含有環状カーボネート;
γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、δ-カプロラクトン、及びε-カプロラクトンに代表されるラクトン;
1,4-ジオキサンに代表される環状エーテル;
エチレンサルファイト、プロピレンサルファイト、ブチレンサルファイト、ペンテンサルファイト、スルホラン、3-スルホレン、3-メチルスルホラン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1-プロペン1,3-スルトン、及びテトラメチレンスルホキシドに代表される環状硫黄化合物;
が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0169】
非水系電解液中の電極保護用添加剤の含有量は、非水系溶媒の全量当たりの量として、0.1~30体積%であることが好ましく、0.3~15体積%であることがより好ましく、0.4~8体積%であることが更に好ましく、0.5~4体積%であることが特に好ましい。
【0170】
本実施形態においては、電極保護用添加剤の含有量が多いほど、非水系電解液の劣化が抑えられる。しかしながら、電極保護用添加剤の含有量が少ないほど、非水系二次電池の低温環境下における高出力特性が向上することになる。したがって、電極保護用添加剤の含有量を上記の範囲内に調整することによって、非水系二次電池としての基本的な機能を損なうことなく、電解液の高イオン伝導度に基づく優れた性能を発揮することができる傾向にあり、そして、このような組成で非水系電解液を調製することにより、非水系二次電池のサイクル性能、低温環境下における高出力性能及びその他の電池特性を、一層良好なものとすることができる傾向にある。
【0171】
アセトニトリルは、電気化学的に還元分解され易い。そのため、アセトニトリルを含む非水系溶媒は、負極への保護被膜形成のための電極保護用添加剤として、環状の非プロトン性極性溶媒を1種以上含むことが好ましく、不飽和結合含有環状カーボネートを1種以上含むことがより好ましい。
【0172】
不飽和結合含有環状カーボネートとしてはビニレンカーボネートが好ましく、ビニレンカーボネートの含有量は、非水系電解液中、0.1体積%以上4体積%以下であることが好ましく、0.2体積%以上3体積%未満であることがより好ましく、0.5体積%以上2.5体積%未満であることが更に好ましい。これにより、低温耐久性をより効果的に向上させることができ、低温性能に優れた二次電池を提供することが可能になる。
【0173】
電極保護用添加剤としてのビニレンカーボネートは、負極表面でのアセトニトリルの還元分解反応を抑制し、他方では、過剰な被膜形成は低温性能の低下を招く。そこで、ビニレンカーボネートの添加量を上記の範囲内に調整することで、界面(被膜)抵抗を低く抑えることができ、低温時のサイクル劣化を抑制することができる。
【0174】
(酸無水物)
本実施形態に係る非水系二次電池は、初回充電のときに非水系電解液の一部が分解し、負極表面にSEIを形成することにより安定化する。このSEIをより効果的に強化するため、非水系電解液、電池部材、又は非水系二次電池に、酸無水物を添加することができる。非水系溶媒としてアセトニトリルを含む場合には、温度上昇に伴いSEIの強度が低下する傾向にあるが、酸無水物の添加によってSEIの強化が促進される。よって、このような酸無水物を用いることにより、効果的に熱履歴による経時的な内部抵抗の増加を抑制することができる。
【0175】
酸無水物の具体例としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水安息香酸に代表される鎖状酸無水物;マロン酸無水物、無水コハク酸、グルタル酸無水物、無水マレイン酸、無水フタル酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸無水物、2,3-ナフタレンジカルボン酸無水物、又は、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物に代表される環状酸無水物;異なる2種類のカルボン酸、又はカルボン酸とスルホン酸等、違う種類の酸が脱水縮合した構造の混合酸無水物が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0176】
本実施形態に係る非水系二次電池は、非水系溶媒の還元分解前にSEIを強化することが好ましいことから、酸無水物としては初回充電のときに早期に作用する環状酸無水物を少なくとも1種含むことが好ましい。これら環状酸無水物は、1種のみ含んでも複数種含んでよい。又は、これらの環状酸無水物以外の環状酸無水物を含んでいてよい。また、環状酸無水物は、無水コハク酸、無水マレイン酸、及び無水フタル酸のうち少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0177】
無水コハク酸、無水マレイン酸、及び無水フタル酸のうち少なくとも1種を含む非水系電解液によれば、負極に強固なSEIを形成でき、より効果的に、高温加熱時の抵抗増加を抑制する。特に、無水コハク酸を含むことが好ましい。これにより、副反応を抑制しつつ、より効果的に、負極に強固なSEIを形成できる。
【0178】
本実施形態に係る非水系電解液が酸無水物を含有する場合、その含有量は、非水系電解液100質量部当たりの量として、0.01質量部以上10質量部以下の範囲であることが好ましく、0.05質量部以上1質量部以下であることがより好ましく、0.1質量部以上0.5質量部以下であることが更に好ましい。
【0179】
酸無水物は、非水系電解液が含有することが好ましい。他方、酸無水物が、非水系二次電池の中で作用することが可能であればよいので、正極、負極、及びセパレータから成る群より選ばれる少なくとも1種の電池部材が、酸無水物を含有していてよい。酸無水物を電池部材含有させる方法としては、例えば、電池部材作製時にその電池部材に含有させてよいし、電池部材への塗布、浸漬又は噴霧乾燥等に代表される後処理によってその電池部材に含浸させてよい。
【0180】
<2-4.その他の任意的添加剤>
本実施形態においては、非水系二次電池の充放電サイクル特性の改善、高温貯蔵性、安全性の向上(例えば過充電防止等)等の目的で、非水系電解液に、任意的添加剤(酸無水物、及び電極保護用添加剤以外の添加剤)を適宜含有させることもできる。
【0181】
任意的添加剤としては、例えば、スルホン酸エステル、ジフェニルジスルフィド、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、フルオロベンゼン、tert-ブチルベンゼン、リン酸エステル〔エチルジエチルホスホノアセテート(EDPA);(C2H5O)2(P=O)-CH2(C=O)OC2H5、リン酸トリス(トリフルオロエチル)(TFEP);(CF3CH2O)3P=O、リン酸トリフェニル(TPP);(C6H5O)3P=O、リン酸トリアリル;(CH2=CHCH2O)3P=O、リン酸トリアミル、リン酸トリオクチル、リン酸トリス(2-ブトキシエチル)、リン酸トリス(2-エチルヘキシル)等〕、非共有電子対周辺に立体障害のない窒素含有環状化合物〔ピリジン、1-メチル-1H-ベンゾトリアゾール、1-メチルピラゾール等〕等が挙げられる。特に、リン酸エステルは、貯蔵時の副反応を抑制する作用および非水系電解液のセパレータへの含浸性を向上させる作用があり、任意的添加剤として効果的である。
【0182】
本実施形態に係る非水系電解液がその他の任意的添加剤を含有する場合、その含有量は、非水系電解液の全量当たりの量として、0.01質量%以上10質量%以下の範囲であることが好ましく、0.02質量%以上5質量%以下であることがより好ましく、0.05~3質量%であることが更に好ましい。その他の任意的添加剤の含有量を上記の範囲内に調整することによって、非水系二次電池としての基本的な機能を損なうことなく、より一層良好な電池特性を付加することができる傾向にある。
【0183】
<2-5.化合物(2)>
化合物(2)は、上記一般式(2)で表される含フッ素スルホンアミド化合物である。
【0184】
化合物(2)は金属腐食性を有し、含フッ素スルホンアミド化合物を多量に含有する非水系電解液を用いた場合、正極集電体に用いられる金属箔が腐食し、充放電時の不可逆容量の増加及びサイクル性能が低下する。特に、金属箔にAl箔またはステンレス箔を用いた場合、顕著に腐食する。
【0185】
詳細には、例えば正極にAl集電体を用いた場合、充電時に正極でのAl腐食反応(反応式a)、及び、負極でのAlの還元析出反応(反応式b)が促進されることで、充電時にAlが正極から負極に移動する不可逆反応が促進され、電池の不可逆容量が増加したものと推測される。長期的にも、負極での多量のAl析出は、負極での不均一なSEI形成又は不均一な金属リチウムの析出を促進し、電池の容量減少又は電池の微短絡及び短絡に繋がると考えられる。
反応式a:Al+3(H(CR2)m-SO2NHM)→[Al(H(CR2)m-SO2NHM)3]3++3e-
反応式b:[Al(H(CR2)m-SO2NHM)3]3++3e-→Al+3(H(CR2)m-SO2NHM)
化合物(2)の含有量を低減することで、充電時の正極でのAl腐食反応(反応式a)及び負極でのAlの還元析出反応(反応式b)を抑制でき、充放電時の不可逆容量が低下し、サイクル性能が向上する。これらの現象は、本発明者らの検討により新たに判明し、特許文献1~4には一切記載されていない。
【0186】
非水系電解液に含まれる含フッ素スルホンアミド化合物(2)の含有量は、非水系電解液の全量に対して、1000質量ppm以下であり、500質量ppm以下であることが好ましく、300質量ppm以下であることがより好ましく、200質量ppm以下であることがより好ましく、150質量ppm以下であることがより好ましく、120質量ppm以下であることがさらに好ましい。含フッ素スルホンアミド化合物の含有量を上述の範囲内に調整することにより、正極Al集電体の腐食による充放電時の不可逆容量の増加及びサイクル性能の低下を抑制できる。
【0187】
また、非水系電解液に含まれる含フッ素スルホンアミド化合物の含有量は、非水系電解液の全量に対して、0.001質量ppm以上であることが好ましく、0.01質量ppm以上であることがより好ましく、0.1質量ppm以上であることがより好ましく、1質量ppm以上であることがより好ましく、80質量ppm以上であることがさらに好ましい。含フッ素スルホンアミド化合物の含有量を上述の範囲内に調整することにより、含フッ素スルホンアミド化合物が負極で還元された分解物が負極SEIとして働き、電池の長期耐久性を向上できる。
【0188】
<3.非水系二次電池>
本実施形態の非水系電解液は、非水系二次電池に用いることができる。
本実施形態に係る非水系二次電池は、特に制限を与えるものではないが、正極、負極、セパレータ、及び非水系電解液が、適当な電池外装中に収納されて構成される。
【0189】
本実施形態に係る非水系二次電池としては、具体的には、
図1及び2に図示される非水系二次電池100であってよい。ここで、
図1は非水系二次電池を概略的に表す平面図であり、
図2は
図1のA-A線断面図である。
【0190】
図1、
図2に示す非水系二次電池100は、パウチ型セルで構成される。非水系二次電池100は、電池外装110の空間120内に、正極150と負極160とをセパレータ170を介して積層して構成した積層電極体と、非水系電解液(図示せず)とを収容している。電池外装110は、例えばアルミニウムラミネートフィルムで構成されており、2枚のアルミニウムラミネートフィルムで形成された空間の外周部において、上下のフィルムを熱融着することにより封止されている。正極150、セパレータ170、及び負極160を順に積層した積層体には、非水系電解液が含浸されている。ただし、この
図2では、図面が煩雑になることを避けるために、電池外装110を構成している各層、並びに正極150及び負極160の各層を区別して示していない。
【0191】
電池外装110を構成するアルミニウムラミネートフィルムは、アルミニウム箔の両面をポリオレフィン系の樹脂でコートしたものであることが好ましい。
【0192】
正極150は、非水系二次電池100内で正極リード体130と接続している。図示していないが、負極160も、非水系二次電池100内で負極リード体140と接続している。そして、正極リード体130及び負極リード体140は、それぞれ、外部の機器等と接続可能なように、片端側が電池外装110の外側に引き出されており、それらのアイオノマー部分が、電池外装110の1辺とともに熱融着されている。
【0193】
図1及び2に図示される非水系二次電池100は、正極150及び負極160が、それぞれ1枚ずつの積層電極体を有しているが、容量設計により正極150及び負極160の積層枚数を適宜増やすことができる。正極150及び負極160をそれぞれ複数枚有する積層電極体の場合には、同一極のタブ同士を溶接等により接合したうえで1つのリード体に溶接等により接合して電池外部に取り出してよい。上記同一極のタブとしては、集電体の露出部から構成される態様、集電体の露出部に金属片を溶接して構成される態様等が可能である。
【0194】
正極150は、正極集電体と、正極活物質層とから構成される。負極160は、負極集電体と、負極活物質層とから構成される。
【0195】
正極活物質層は正極活物質を含み、負極活物質層は負極活物質を含む。
【0196】
正極150及び負極160は、セパレータ170を介して正極活物質層と負極活物質層とが対向するように配置される。
以下、本実施形態に係る非水系二次電池を構成する各要素について、順に説明する。
【0197】
<4.正極>
正極150は、正極合剤から作製した正極活物質層と、正極集電体とから構成される。正極合剤は、正極活物質を含有し、必要に応じて、導電助剤及びバインダーを含有する。
【0198】
正極活物質層は、正極活物質として、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な材料を含有する。このような材料は、高電圧及び高エネルギー密度を得ることができる。
【0199】
正極活物質としては、例えば、Ni、Mn、及びCoから成る群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含有する正極活物質が挙げられ、下記一般式(at):
LipNiqCorMnsMtOu・・・・・(at)
{式中、Mは、Al、Sn、In、Fe、V、Cu、Mg、Ti、Zn、Mo、Zr、Sr、及びBaから成る群から選ばれる少なくとも1種の金属であり、且つ、0<p<1.3、0<q<1.2、0<r<1.2、0≦s<0.5、0≦t<0.3、0.7≦q+r+s+t≦1.2、1.8<u<2.2の範囲であり、そしてpは、電池の充放電状態により決まる値である。}
で表されるリチウム(Li)含有金属酸化物から選ばれる少なくとも1種のLi含有金属酸化物が好適である。
【0200】
正極活物質の具体例としては、例えば、LiCoO2に代表されるリチウムコバルト酸化物;LiMnO2、LiMn2O4、及びLi2Mn2O4に代表されるリチウムマンガン酸化物;LiNiO2に代表されるリチウムニッケル酸化物;LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、LiNi0.8Co0.2O2に代表されるLizMO2(式中、Mは、Ni、Mn、Al、及びMgから成る群より選ばれる2種以上の金属元素を示し、そしてzは、0.9超1.2未満の数を示す)で表されるリチウム含有複合金属酸化物等が挙げられる。
【0201】
特に、一般式(at)で表されるLi含有金属酸化物のNi含有比qが、0.5<q<1.2であると、レアメタルであるCoの使用量削減と、高エネルギー密度化の両方が達成されるため好ましい。そのような正極活物質としては、例えば、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.75Co0.15Mn0.15O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2、LiNi0.85Co0.075Mn0.075O2、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2、LiNi0.81Co0.1Al0.09O2、LiNi0.85Co0.1Al0.05O2、等に代表されるリチウム含有複合金属酸化物が挙げられる。
【0202】
他方、Li含有金属酸化物のNi含有比が高まるほど、低電圧で劣化が進行する傾向にある。一般式(at)で表される層状岩塩型の正極活物質には、電解液を酸化劣化させる活性点が本質的に存在する。この活性点が電極保護用添加剤を意図せず消費してしまうことがある。
【0203】
また、正極側に取り込まれ堆積したこれらの添加剤分解物は非水系二次電池の内部抵抗増加要因となるだけでなく、リチウム塩の劣化も加速させる。特に、リチウム塩としてLiPF6が含まれる場合、劣化によりHFが生成し、遷移金属の溶出が促進されることが考えられる。非水系溶媒としてアセトニトリルを含有する非水系電解液では、金属カチオンとアセトニトリルの錯体が形成され、電池の劣化が加速する。
【0204】
更に、電極保護用添加剤、又はリチウム塩の劣化により、本来の目的であった負極表面の保護も不十分にしてしまう。特に、非水系溶媒としてアセトニトリルを含有する非水系電解液では、負極表面の保護が十分でない場合にアセトニトリルの還元分解が進行し、電池性能が急激に悪化するため、致命的な課題となる。
【0205】
非水系電解液を本質的に酸化劣化させる活性点を失活させるにはヤーンテラー歪みの制御又は中和剤的な役割を担う成分の共存が重要である。そのため、正極活物質にはAl、Sn、In、Fe、V、Cu、Mg、Ti、Zn、Mo、Zr、Sr、及びBaから成る群より選ばれる少なくとも1種の金属を含有することが好ましい。
【0206】
同様の理由により、正極活物質の表面が、Zr、Ti、Al、及びNbから成る群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含有する化合物で被覆されていることが好ましい。また、正極活物質の表面が、Zr、Ti、Al、及びNbから成る群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含有する酸化物で被覆されていることがより好ましい。更に、正極活物質の表面が、ZrO2、TiO2、Al2O3、NbO3、及びLiNbO2から成る群より選ばれる少なくとも1種の酸化物で被覆されていることが、リチウムイオンの透過を阻害しないため特に好ましい。
【0207】
本実施形態に係る非水系二次電池では、鉄(Fe)原子が含まれるオリビン結晶構造を有するリチウムリン金属酸化物を使用することが好ましく、下記式(Xba):
LiwMIIPO4 (Xba)
{式中、MIIは、Feを含む少なくとも1種の遷移金属元素を含む1種以上の遷移金属元素を示し、そしてwの値は、電池の充放電状態により決まり、0.05~1.10の数を示す}
で表されるはオリビン構造を有するリチウムリン金属酸化物を用いることがより好ましい。これらのリチウム含有金属酸化物は、構造を安定化させる等の目的から、Al、Mg、又はその他の遷移金属元素により遷移金属元素の一部を置換したもの、これらの金属元素を結晶粒界に含ませたもの、酸素原子の一部をフッ素原子等で置換したもの、正極活物質表面の少なくとも一部に他の正極活物質を被覆したもの等であってもよい。
【0208】
正極活物質としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸金属酸化物、及びリチウムと遷移金属元素とを含むケイ酸金属酸化物が挙げられる。より高い電圧を得る観点から、リチウム含有金属酸化物としては、特に、リチウムと、Co、Ni、Mn、Fe、Cu、Zn、Cr、V、及びTiから成る群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素と、を含むリン酸金属酸化物が好ましく、上記式(Xba)で表されるリチウムリン金属酸化物の観点から、LiとFeを含むリン酸金属酸化物がより好ましい。
【0209】
上記式(Xba)で表されるリチウムリン金属酸化物とは異なるリチウムリン金属酸化物として、下記式(Xa):
LivMID2 (Xa)
{式中、Dは、カルコゲン元素を示し、MIは、少なくとも1種の遷移金属元素を含む1種以上の遷移金属元素を示し、そしてvの値は、電池の充放電状態により決まり、0.05~1.10の数を示す}、
で表される化合物を使用してもよい。
【0210】
本実施形態における正極活物質としては、上記のようなリチウム含有金属酸化物のみを用いてもよいし、該リチウム含有金属酸化物と共にその他の正極活物質を併用してもよい。その他の正極活物質としては、例えば、トンネル構造及び層状構造を有する金属酸化物又は金属カルコゲン化物;イオウ;導電性高分子等が挙げられる。トンネル構造及び層状構造を有する金属酸化物、又は金属カルコゲン化物としては、例えば、MnO2、FeO2、FeS2、V2O5、V6O13、TiO2、TiS2、MoS2、及びNbSe2に代表されるリチウム以外の金属の酸化物、硫化物、セレン化物等が挙げられる。導電性高分子としては、例えば、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、及びポリピロールに代表される導電性高分子が挙げられる。
【0211】
上述のその他の正極活物質は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。リチウムイオンを可逆安定的に吸蔵及び放出することが可能であり、且つ、高エネルギー密度を達成できることから、正極活物質層がNi、Mn、及びCoから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含有することが好ましい。
【0212】
正極活物質として、リチウム含有金属酸化物とその他の正極活物質とを併用する場合、両者の使用割合としては、正極活物質の全部に対するリチウム含有金属酸化物の使用割合として、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましい。
【0213】
正極活物質層は、正極活物質と、必要に応じて導電助剤及びバインダーとを混合した正極合剤を溶剤に分散した正極合剤含有スラリーを、正極集電体に塗布及び乾燥(溶媒除去)し、必要に応じてプレスすることにより形成される。このような溶剤としては、公知のものを用いることができる。例えば、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、水等が挙げられる。
【0214】
導電助剤としては、例えば、グラファイト;アセチレンブラック、及びケッチェンブラックに代表されるカーボンブラック;並びに炭素繊維が挙げられる。導電助剤の含有量は、正極活物質100質量部当たりの量として、1質量部~20質量部とすることが好ましく、より好ましくは2質量部~15質量部である。
【0215】
導電助剤の含有量は、多すぎると体積エネルギー密度が低下するが、少なすぎると電子伝導パスの形成が不十分となる。特に、正極活物質層は負極活物質層と比べて電子伝導性が低いため、導電助剤の量が不足している場合は、非水系二次電池を高い電流値で放電または充電した際に、所定の電池容量を取り出すことができなくなる。そのため、高出力及び/又は急速充電が必要な用途では、電子の移動に基づく反応が律速とならない範囲に導電助剤の含有量を増やした方が好ましい。
【0216】
バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴム、及びフッ素ゴムが挙げられる。バインダーの含有割合は、正極活物質100質量部に対して、6質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5~4質量部である。
【0217】
正極集電体は、例えば、アルミニウム箔、ニッケル箔、ステンレス箔等の金属箔により構成される。正極集電体は、表面にカーボンコートが施されていてもよく、メッシュ状に加工されていてもよい。正極集電体の厚さは、5~40μmであることが好ましく、7~35μmであることがより好ましく、9~30μmであることが更に好ましい。
【0218】
正極集電体を除く正極片面当たりの目付量は、非水系二次電池における体積エネルギー密度を向上させるという観点から、15mg/cm2以上であることが好ましく、17.5mg/cm2以上であることがより好ましく、24mg/cm2以上であることがさらに好ましい。また、正極集電体を除く正極片面当たりの目付量は、200mg/cm2以下であることが好ましく、100mg/cm2以下であることがより好ましく、60mg/cm2以下であることが更に好ましい。正極集電体を除く正極片面当たりの目付量を上記の範囲に制限することによって、体積エネルギー密度の高い電極活物質層を設計した場合においても、高出力性能を実現する非水系二次電池を提供することができる。
【0219】
ここで、目付量とは、集電体の片面に電極活物質層を形成する場合は、電極面積1cm2あたりに含まれる電極活物質の質量を示し、集電体の両面に電極活物質層を形成する場合は、各片面の電極面積1cm2あたりに含まれる電極活物質の質量を示す。電極集電体に電極活物質を多く塗布すると、電池の単位体積あたりの電極活物質量が、電池容量に関係しない他の電池材料、例えば集電箔やセパレータよりも相対的に多くなるため、電池としては高容量化することになる。
集電体の片面に電極活物質層を形成する場合の目付量は、下記式(12)により算出することができる。
目付量[mg/cm2]=(電極質量[mg]-電極集電体質量[mg])÷電極面積[cm2] ・・・・・(12)
【0220】
<5.負極>
負極160は、負極合剤から作製した負極活物質層と、負極集電体とから構成される。負極160は、非水系二次電池の負極として作用することができる。
【0221】
負極合剤は、負極活物質を含有し、必要に応じて導電助剤及びバインダーを含有する。
【0222】
負極活物質としては、例えば、アモルファスカーボン(ハードカーボン、ソフトカーボン)、黒鉛(人造黒鉛、天然黒鉛)、熱分解炭素、コークス、ガラス状炭素、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭、炭素コロイド、及びカーボンブラックに代表される炭素材料、金属リチウム、金属酸化物、金属窒化物、リチウム合金、スズ合金、シリコン合金、金属間化合物、有機化合物、無機化合物、金属錯体、有機高分子化合物等を用いることができる。負極活物質は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0223】
本実施形態の負極活物質としては、黒鉛、またはTi、V、Sn、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Al、Si、及びBから成る群から選択される1種以上の元素を含有する化合物を用いることが好ましい。
【0224】
負極活物質層は、電池電圧を高められるという観点から、負極活物質としてリチウムイオンを0.4V vs.Li/Li+よりも卑な電位で吸蔵することが可能な材料を含有することが好ましい。
【0225】
負極活物質層は、負極活物質と必要に応じて導電助剤及びバインダーとを混合した負極合剤を溶剤に分散した負極合剤含有スラリーを、負極集電体に塗布及び乾燥(溶媒除去)し、必要に応じてプレスすることにより形成される。このような溶剤としては、公知のものを用いることができ、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、水等が挙げられる。
【0226】
導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、及びケッチェンブラックに代表されるカーボンブラック;炭素繊維;並びに黒鉛が挙げられる。導電助剤の含有割合は、負極活物質100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは0.1~10質量部である。
【0227】
バインダーとしては、例えば、カルボキシメチルセルロース、PVDF、PTFE、ポリアクリル酸、及びフッ素ゴムが挙げられる。また、ジエン系ゴム、例えばスチレンブタジエンゴム等も挙げられる。バインダーの含有割合は、負極活物質100質量部に対して、10質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5~6質量部である。
【0228】
負極集電体は、例えば、銅箔、ニッケル箔、ステンレス箔等の金属箔により構成される。また、負極集電体は、表面にカーボンコートが施されていてもよいし、メッシュ状に加工されていてもよい。負極集電体の厚さは、5~40μmであることが好ましく、6~35μmであることがより好ましく、7~30μmであることが更に好ましい。
【0229】
<6.セパレータ>
本実施形態における非水系二次電池100は、正極150及び負極160の短絡防止、シャットダウン等の安全性付与の観点から、正極150と負極160との間にセパレータ170を備えることが好ましい。セパレータ170としては、イオン透過性が大きく、機械的強度に優れる絶縁性の薄膜が好ましい。セパレータ170としては、例えば、織布、不織布、合成樹脂製微多孔膜等が挙げられ、これらの中でも、合成樹脂製微多孔膜が好ましい。
【0230】
合成樹脂製微多孔膜としては、例えば、ポリエチレン又はポリプロピレンを主成分として含有する微多孔膜、又は、これらのポリオレフィンの双方を含有する微多孔膜等のポリオレフィン系微多孔膜が好適に用いられる。不織布としては、例えば、ガラス製、セラミック製、ポリオレフィン製、ポリエステル製、ポリアミド製、液晶ポリエステル製、アラミド製等の耐熱樹脂製の多孔膜が挙げられる。
【0231】
セパレータ170は、1種の微多孔膜を単層又は複数積層した構成でよく、2種以上の微多孔膜を積層したものであってもよい。セパレータ170は、2種以上の樹脂材料を溶融混錬した混合樹脂材料を用いて単層又は複数層に積層した構成であってもよい。
【0232】
機能付与を目的として、セパレータの表層又は内部に無機粒子を存在させてもよく、その他の有機層を更に塗工又は積層してもよい。また、セパレータは、架橋構造を含むものであってもよい。非水系二次電池の安全性能を高めるため、これらの手法は必要に応じ組み合わせてもよい。
【0233】
このようなセパレータ170を用いることで、特に上記の高出力用途のリチウムイオン電池に求められる良好な入出力特性、低い自己放電特性を実現することができる。セパレータの厚さは、セパレータ強度の観点から1μm以上であることが好ましく、透過性の観点より500μm以下であることが好ましく、5μm以上30μm以下であることがより好ましく、10μm以上25μm以下であることが更に好ましい。なお、耐ショート性能を重視する場合には、セパレータの厚さは、15μm以上20μm以下であることが更に好ましいが、高エネルギー密度化を重視する場合には、10μm以上15μm未満であることが更に好ましい。セパレータの気孔率は、高出力時のリチウムイオンの急速な移動に追従する観点から、30%以上90%以下が好ましく、35%以上80%以下がより好ましく、40%以上70%以下が更に好ましい。なお、安全性を確保しつつ出力性能の向上を優先に考えた場合には、50%以上70%以下が特に好ましく、耐ショート性能と出力性能の両立を重視する場合には、40%以上50%未満が特に好ましい。セパレータの透気度は、セパレータの厚さ、気孔率とのバランスの観点から、1秒/100cm3以上400秒/100cm3以下が好ましく、100秒/100cm3以上350/100cm3以下がより好ましい。なお、耐ショート性能と出力性能の両立を重視する場合には、透気度は、150秒/100cm3以上350秒/100cm3以下が特に好ましく、安全性を確保しつつ出力性能の向上を優先に考えた場合には、100/100cm3秒以上150秒/100cm3未満が特に好ましい。他方では、イオン伝導度の低い非水系電解液と上記範囲内のセパレータを組み合わせた場合、リチウムイオンの移動速度がセパレータの構造ではなく、電解液のイオン伝導度の高さが律速となり、期待したような入出力特性が得られない傾向がある。そのため、非水系電解液の25℃におけるイオン伝導度は、10mS/cm以上であることが好ましく、15mS/cm以上であることがより好ましく、20mS/cm以上であることが更に好ましい。ただし、セパレータの厚さ、透気度及び気孔率、並びに非水系電解液のイオン伝導度は上記の例に限定されない。
【0234】
<7.電池外装>
本実施形態における非水系二次電池100の電池外装110の構成は、例えば、電池缶(図示せず)、及びラミネートフィルム外装体のいずれかの電池外装を用いることができる。電池缶としては、例えば、スチール、ステンレス(SUS)、アルミニウム、又はクラッド材等から成る角型、角筒型、円筒型、楕円型、扁平型、コイン型、又はボタン型等の金属缶を用いることができる。ラミネートフィルム外装体としては、例えば、熱溶融樹脂/金属フィルム/樹脂の3層構成から成るラミネートフィルムを用いることができる。
【0235】
ラミネートフィルム外装体は、熱溶融樹脂側を内側に向けた状態で2枚重ねて、又は熱溶融樹脂側を内側に向けた状態となるように折り曲げて、端部をヒートシールにより封止した状態で外装体として用いることができる。ラミネートフィルム外装体を用いる場合、正極集電体に正極リード体130(又は正極端子及び正極端子と接続するリードタブ)を接続し、負極集電体に負極リード体140(又は負極端子及び負極端子と接続するリードタブ)を接続してもよい。この場合、正極リード体130及び負極リード体140(又は正極端子及び負極端子のそれぞれに接続されたリードタブ)の端部が外装体の外部に引き出された状態でラミネートフィルム外装体を封止してもよい。
【0236】
本実施形態における非水系二次電池の電池外装は、正極側の、非水系電解液との接液層の少なくとも一部にアルミニウムを含むことが好ましい。このような電池外装を用いることで、電池外装の腐食劣化を最大限に抑えて、電池のサイクル特性を向上させることができる。前記接液層は、本体と同じ素材、即ち本体の接液層、であってもよく、本体に別の素材をコーティングした層であってもよい。
【0237】
前記接液層に含まれるアルミニウムは、非水系電解液との接液層の一部に存在する態様であってもよく、接液層の全部であってもよいが、電池外装の腐食劣化を最大限に抑えて、そして電池のサイクル特性を最大限に向上させるために、接液層の全部がアルミニウムであることがより好ましい。
【0238】
また、本実施形態における非水系二次電池の電池外装は、本体がアルミニウム以外の金属からなり、非水電解液との接液層の少なくとも一部にアルミニウムを含有するものでもよい。前記アルミニウムを含む接液層は、メッキ、クラッドなどにより設けることができる。より好ましくはアルミニウムクラッドにより構成されるものである。クラッドとは、二種類以上の異なる金属を貼り合わせた材料のことであり、一般的には異種金属の境界面が拡散結合している(合金層を持っている)ものとされている。クラッドはプレス加工や爆発圧接により作製することができる。
【0239】
コイン型非水系二次電池の場合、電池外装は正極側の接液層の少なくとも一部にアルミニウムを含有するものが好ましく、正極側の接液層の少なくとも一部にアルミニウムがクラッドされたものがより好ましい。
【0240】
電池外装の本体金属層がアルミニウム以外の金属からなる場合、その本体金属については特に限定されないが、容器の外側の腐食を防止する観点から、SUS304やSUS316、SUS316Lなどのオーステナイト系ステンレス、SUS329J1、SUS329J3Lなどのオーステナイト・フェライト系ステンレス、SUS405、SUS430などのフェライト系ステンレス、SUS403、SUS410などのマルテンサイト系ステンレスであることが好ましい。
【0241】
<8.電池の作製方法>
本実施形態における非水系二次電池100は、上述の非水系電解液、集電体の片面又は両面に正極活物質層を有する正極150、集電体の片面又は両面に負極活物質層を有する負極160、及び電池外装110、並びに必要に応じてセパレータ170を用いて、公知の方法により作製される。
【0242】
先ず、正極150及び負極160、並びに必要に応じてセパレータ170から成る積層体を形成する。例えば、長尺の正極150と負極160とを、正極150と負極160との間に該長尺のセパレータを介在させた積層状態で巻回して巻回構造の積層体を形成する態様;正極150及び負極160を一定の面積と形状とを有する複数枚のシートに切断して得た正極シートと負極シートとを、セパレータシートを介して交互に積層した積層構造の積層体を形成する態様;長尺のセパレータをつづら折りにして、該つづら折りになったセパレータ同士の間に交互に正極体シートと負極体シートとを挿入した積層構造の積層体を形成する態様;等が可能である。
【0243】
次いで、電池外装110(電池ケース)内に上述の積層体を収容して、本実施形態に係る電解液を電池ケース内部に注液し、積層体を電解液に浸漬して封印することによって、本実施形態における非水系二次電池を作製することができる。代替的には、電解液を高分子材料から成る基材に含浸させることによって、ゲル状態の電解質膜を予め作製しておき、シート状の正極150、負極160、及び電解質膜、並びに必要に応じてセパレータ170を用いて積層構造の積層体を形成した後、電池外装110内に収容して非水系二次電池100を作製することもできる。
【0244】
なお、電極の配置が、負極活物質層の外周端と正極活物質層の外周端とが重なる部分が存在するように、又は負極活物質層の非対向部分に幅が小さすぎる箇所が存在するように設計されている場合、電池組み立て時に電極の位置ずれが生じることにより、非水系二次電池における充放電サイクル特性が低下するおそれがある。よって、該非水系二次電池に使用する電極体は、電極の位置を予めポリイミドテープ、ポリフェニレンスルフィドテープ、ポリプロピレン(PP)テープ等のテープ類、接着剤等により、固定しておくことが好ましい。
【0245】
アセトニトリルを含有する非水系電解液において、アセトニトリルの高いイオン伝導性に起因して、非水系二次電池の初回充電時に正極から放出されたリチウムイオンが負極の全体に拡散する可能性がある。非水系二次電池では、正極活物質層よりも負極活物質層の面積を大きくすることが一般的である。しかしながら、負極活物質層のうち正極活物質層と対向していない箇所にまでリチウムイオンが拡散して吸蔵されてしまうと、このリチウムイオンが初回放電時に放出されずに負極に留まることとなる。そのため、該放出されないリチウムイオンの寄与分が不可逆容量となってしまう。こうした理由から、アセトニトリルを含有する非水系電解液を用いた非水系二次電池では、初回充放電効率が低くなってしまう場合がある。
【0246】
他方、負極活物質層よりも正極活物質層の面積が大きいか、又は両者が同じである場合には、充電時に負極活物質層のエッジ部分に電流の集中が起こり易く、リチウムデンドライトが生成し易くなる。
【0247】
正極活物質層と負極活物質層とが対向する部分の面積に対する、負極活物質層全体の面積の比について特に制限はないが、上記の理由により、1.0より大きく1.1未満であることが好ましく、1.002より大きく1.09未満であることがより好ましく、1.005より大きく1.08未満であることが更に好ましく、1.01より大きく1.08未満であることが特に好ましい。アセトニトリルを含有する非水系電解液を用いた非水系二次電池では、正極活物質層と負極活物質層とが対向する部分の面積に対する、負極活物質層全体の面積の比を小さくすることにより、初回充放電効率を改善できる。
【0248】
正極活物質層と負極活物質層とが対向する部分の面積に対する、負極活物質層全体の面積の比を小さくするということは、負極活物質層のうち、正極活物質層と対向していない箇所の面積の割合を制限することを意味している。これにより、初回充電時に正極から放出されたリチウムイオンのうち、正極活物質層とは対向していない負極活物質層の箇所に吸蔵されるリチウムイオンの量(すなわち、初回放電時に負極から放出されずに不可逆容量となるリチウムイオンの量)を可及的に低減することが可能となる。よって、正極活物質層と負極活物質層とが対向する箇所の面積に対する、負極活物質層全体の面積の比を上記の範囲に設計することによって、アセトニトリルを使用することによる電池の負荷特性向上を図りつつ、電池の初回充放電効率を高め、更にリチウムデンドライトの生成も抑えることができるのである。
【0249】
本実施形態における非水系二次電池100は、初回充電により電池として機能し得るが、初回充電のときに電解液の一部が分解することにより安定化する。初回充電の方法について特に制限はないが、初回充電は0.001~0.3Cで行われることが好ましく、0.002~0.25Cで行われることがより好ましく、0.003~0.2Cで行われることが更に好ましい。初回充電は、定電圧充電を経由して行われることも好ましい結果を与える。リチウム塩が電気化学的な反応に関与する電圧範囲を長く設定することによって、安定強固な負極SEIが電極表面に形成され、内部抵抗の増加を抑制すると共に、反応生成物が負極160のみに強固に固定化されることなく、正極150、セパレータ170等の、負極160以外の部材にも良好な効果を与える。このため、非水系電解液に溶解したリチウム塩の電気化学的な反応を考慮して初回充電を行うことは、非常に有効である。
【0250】
本実施形態における非水系二次電池100は、複数個の非水系二次電池100を直列又は並列に接続した電池パックとして使用することもできる。電池パックの充放電状態を管理する観点から、正極において上記式(Xba)で表される正極活物質を用いる場合には、電池1個当たりの使用電圧範囲は1.5~4.0Vであることが好ましく、2.0~3.8Vであることが特に好ましい。
【0251】
また、一般式(at)で表される正極活物質を用いる場合、電池1個当たりの使用電圧範囲は2~5Vであることが好ましく、2.5~5Vであることがより好ましく、2.75V~5Vであることが特に好ましい。
【実施例】
【0252】
以下に本実施形態を具体的に説明した実施例を例示する。本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0253】
<I.含フッ素環状スルホニルイミド塩(化合物(1A))組成物の耐熱性試験>
<分析方法>
実施例及び比較例において使用した分析方法、原材料、反応条件等は、以下のとおりのものであった。
【0254】
(核磁気共鳴分析(NMR):
1H-NMR、及び
19F-NMRによる分子構造解析)
実施例、及び比較例で得られた生成物について、
1H-NMR(400MHz)、及び
19F-NMR(337MHz)を用いて、下記測定条件にて分子構造解析を行った。
[測定条件]
測定装置:JNM-ECZ400S型核磁気共鳴装置(日本電子株式会社製)
観測核:
1H、
19F
溶媒:重クロロホルム、重ジメチルスルホキシド
基準物質:テトラメチルシラン(
1H、0.00ppm)、トリクロロフルオロメタン(
19F、0.00ppm)
基準物質濃度:5質量%
測定試料濃度:20質量%
パルス幅:6.5μ秒
待ち時間:2秒
積算回数:8回(
1H)、1024回(
19F)
<化合物(2)の含有量>
19F-NMRの測定結果から、化合物(1A)及び化合物(2)の代表的なピークの積分値より化合物(2)の含有量を測定した。
本実施例においては、下記構造式:
【化25】
で表される含フッ素環状スルホンイミドリチウム塩(化合物(1-2))の含有量は、-115.4ppm(4F)のピークの積分値より、HCF
2SO
2NHLi(化合物(2-1))の含有量は、-122.6ppm(2F)のピークの積分値より算出した。
【0255】
(ICP発光分光分析法)
実施例、及び比較例で得られた生成物について、下記測定条件にて分子構造解析を行った。
[測定条件]
測定装置:SPS3520UV-DD(株式会社日立ハイテクサイエンス製)
測定原子:Li
サンプル調製条件:生成物0.1gを超純水9.9gと混合した濃度1質量%の一時希釈液を得た。次いで、一時希釈液1.5gを1質量%硝酸水溶液28.5gと混合し、測定試料とした。
高周波パワー:1.2kW
プラズマガス(アルゴン)流量:16L/分
補助ガス(アルゴン)流量:0.5L/分
キャリヤーガス(アルゴン)圧力:0.24MPa
キャリヤーガス(アルゴン)流量:0.3L/分
測光高さ:12mm
チャンバーガス(アルゴン)流量:0.6L/分
【0256】
(質量減少率1質量%、2質量%となる温度)
実施例、及び比較例で得られた生成物について、下記測定条件にて質量減少率の測定を行った。
アルミパン(「クリンプセル(オートサンプラ用)品番346-66963-91」、株式会社島津製作所製、尚、測定時にはカバーを使用しなかった。)に5mgの試料を秤量し、示差熱熱重量同時測定装置(「DTG-60A」、株式会社島津製作所製)を使用し、窒素気流下(流量50mL/分)、25℃~100℃まで昇温速度10℃/分で昇温し、100℃で30分間保持した後、測定温度範囲100℃~500℃、昇温速度10℃/分で加熱し、質量減少の様子を観察した。
上述の100℃で30分間保持した後の100℃からの昇温開始時の質量を基準(100質量%)として、測定温度範囲100℃~500℃、昇温速度10℃/分で加熱する過程で1質量%、2質量%の質量減少率が確認される温度(℃)を観測した。
【0257】
<使用原材料>
実施例、及び比較例で使用した原材料を以下に示す。
(フルオロスルホニル基含有カルボン酸(化合物(3)))
・2,2-ジフルオロ-2-(フルオロスルホニル)酢酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)(化合物(3-1))
【0258】
・アンモニア(住友精化株式会社製)
【0259】
(アルカリ金属塩(化合物(6)))
・水酸化リチウム一水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(溶媒)
【0260】
・アセトニトリル(富士フイルム和光純薬株式会社製、乾燥したモレキュラーシーブ3A 1/16(富士フイルム和光純薬株式会社製)を加え、脱水し、モレキュラーシーブ3A 1/16を除去することにより水分量を調整した)
・テトラヒドロフラン(富士フイルム和光純薬株式会社製、乾燥したモレキュラーシーブ3A 1/16(富士フイルム和光純薬株式会社製)を加え、脱水し、モレキュラーシーブ3A 1/16を除去することにより水分量を調整した)
【0261】
・活性炭素(富士フイルム和光純薬株式会社製)
【0262】
<反応温度>
反応温度は、外部加熱冷却装置を用いず、室温である場合は、室温である。また、ウォーターバスやオイルバス等の外部加熱冷却装置を利用する場合には、外部加熱冷却装置に用いられている媒体の温度が反応温度である。
【0263】
[実施例I-1]
(電解カップリング反応工程)
200mLの三口フラスコに窒素雰囲気下、攪拌子、アセトニトリル(59g)、水(75g)を添加した後、0℃に冷却し、FO2SCF2CO2H(化合物(3-1)、25.7g、144.3mmоl)を加えた。陽極、及び陰極として、白金板電極(25mm×50mm)を6mmの間隔で設置し、溶液中に浸漬させた。0℃冷却下で攪拌を維持しつつ、電極に1.5Aの電流を4時間通電した。通電終了後、攪拌を止めると、反応液が2相に分離した。下層を分取すると7.9gの液体が得られた。得られた液体をサンプリングし、19F-NMRで測定すると、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))が90.3質量%(収率37.1%)、HCF2SO2F(化合物(5-1))が1.2質量%含まれていることが確認された。
上記操作により得られた粗製のFO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))を常圧単蒸留で精製することにより、95.6質量%のFO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))、及び0.042質量%のHCF2SO2F(化合物(5-1))を含む液体6.9gが得られた。
FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))
19F-NMR:δ(ppm)46.1(2F)、-108.7(4F)
HCF2SO2F(化合物(5-1))
1H-NMR:δ(ppm)7.0ppm(1H)
19F-NMR:36.0(1F)、-122.0(2F)
【0264】
(環化工程)
3Lオートクレーブを-78℃に冷却し、アンモニアガス(250g、14680mmоl)、及びテトラヒドロフラン(222.3g)を添加した後、前記電解カップリング反応工程で得られたFO
2SCF
2CF
2SO
2F(化合物(4-1)、208g、純度95.6質量%、747.2mmоl)のテトラヒドロフラン(222.3g)溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了後、室温で12時間攪拌した。攪拌終了後、反応液を加圧濾過し、不溶固体を除去し、濾液を減圧濃縮、乾燥し、肌色固体193.0gを得た。得られた固体をサンプリングし、
19F-NMRで分析すると、下記構造式:
【化26】
で表される含フッ素環状スルホニルイミドアンモニウム塩(化合物(1-N-2))が99.0質量%(収率98.3%)、HCF
2SO
2NHNH
4(化合物(2-2))が0.048質量%含まれていることが確認された。
化合物(1-N-2)
19F-NMR:δ(ppm)-115.4(4F)
HF
2CSO
2NHNH
4(化合物(2-2))
1H-NMR:δ(ppm)6.0ppm(1H)
19F-NMR:36.0(1F)、-122.6(2F)
【0265】
(カチオン交換工程)
1Lの三口フラスコに、窒素雰囲気下、攪拌子、テトラヒドロフラン(400g)、実施例I-1で得られた含フッ素環状スルホニルイミドアンモニウム塩(化合物(1-N-2)、192.7g、純度99.0質量%、733.2mmоl)、及び水酸化リチウム一水和物(34.2g、815.1mmоl)を添加し、70℃で4時間攪拌した。得られた反応液を減圧濃縮した後、水(500mL)、活性炭(65.8g)を添加し、105℃で3時間攪拌した。得られた反応液を加圧濾過し不溶固体を除去した後、減圧濃縮し肌色固体を得た。得られた肌色固体にテトラヒドロフラン(889g)を添加し、50℃で30分攪拌した後加圧濾過により不溶固体を除去し、減圧濃縮することで177.9gの白色固体を得た。得られた固体をサンプリングし、ICP発光分光分析法により分析を行ったところ、アンモニウムカチオンがリチウムカチオンに交換されていることを確認した。さらに、
19F-NMRで分析すると、下記構造式:
【化27】
で表される含フッ素環状スルホンイミドリチウム塩(化合物(1-2))が99.9質量%(収率97.3%)、HCF
2SO
2NHLi(化合物(2))が0.046質量%含まれていることが確認された。
化合物(1-2)
19F-NMR:δ(ppm)-115.4(4F)
HCF
2SO
2NHLi(化合物(2-1))
1H-NMR:δ(ppm)6.0ppm(1H)
19F-NMR:36.0(1F)、-122.6(2F)
【0266】
[比較例I-1]
(電解カップリング反応工程)
電解反応後に蒸留精製を行わなかったこと以外は、実施例I-1と同様にして、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))の製造を行い、90.3質量%のFO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))、及び1.2質量%のHCF2SO2F(化合物(5-1))を含む液体7.9g(収率37.2%)を得た。
【0267】
(環化工程)
前記電解カップリング反応工程で得られたFO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))を用い、実施例I-1と同様に、含フッ素環状スルホニルイミドアンモニウム塩(化合物(1-N-2))の製造を行い、96.2質量%の含フッ素環状スルホニルイミドアンモニウム塩(化合物(1-N-2))、及び1.43質量%のHCF2SO2NHNH4(化合物(2-2))を含む肌色固体188.0g(収率98.3%)を得た。
【0268】
(カチオン交換工程)
前記環化工程で得られた含フッ素環状スルホニルイミドアンモニウム塩(化合物(1-N-2))を用い、実施例I-1と同様にして含フッ素環状スルホンイミドリチウム塩(化合物(1-2))の製造を行い、98.3質量%の含フッ素環状スルホンイミドリチウム塩(化合物(1-2))、及び1.22質量%のHCF2SO2NHLi(化合物(2-1))を含む白色固体170.3g(収率97.2%)を得た。
【0269】
実施例I-1、及び比較例I-1で得られた含フッ素環状スルホンイミドリチウム塩(化合物(1-2))の質量減少率1質量%、2質量%となる温度を上述の方法に従い測定した。
【0270】
【0271】
表1より、HF2CSO2NHLi(化合物(2-1))の含有量が低減された実施例I-1の含フッ素環状スルホンイミドリチウム塩(化合物(1-2))は、HCF2SO2NHLi(化合物(2-1))の含有量が多い比較例I-1の含フッ素環状スルホンイミドリチウム塩(化合物(1-2))と比較して、質量減少率2質量%となる温度が上昇し、耐熱特性が向上していることが分かる。これは、熱的に不安定な化合物(2)の含有量が低減したことで、化合物(2)の分解反応に起因する化合物(1A)の分解が抑制された結果、化合物(1A)の耐熱特性が向上したものと考えられる。
【0272】
<II.非水系電解液>
【0273】
(1)非水系電解液の調製
不活性雰囲気下、各種非水系溶媒を、それぞれが所定の濃度になるよう混合した。更に、各種リチウム塩をそれぞれ所定の濃度になるよう添加することにより、非水系電解液(S01)~(S20)を調製した。また、(S01)を母電解液とし、式(2-1)で表される化合物が所定の質量部になるよう添加することにより、非水系電解液(S21)を調製した。これらの非水系電解液組成を表2に示す。
【0274】
化合物(1-2)は以下に記載の方法で合成した。ロットAは晶析工程による精製後の化合物、ロットBは電解カップリング反応工程後に蒸留による精製後、環化工程およびカチオン交換工程を経て合成された化合物、ロットCは晶析精製および電解カップリング反応工程後の蒸留精製のいずれも行わなかった化合物である。
【0275】
電解液(S02)および(S15)には、精製前の化合物(1-2)(ロットC)由来の、化合物(2-1)とは異なる不溶成分が観測された。そのため、電解液(S02)および(S15)に関しては、不溶成分を容器の底に沈殿させてデカンテーションを行うことで不溶固体を除去した電解液を用いてコイン型非水系二次電池の作製を行った。
【0276】
なお、表2における非水系溶媒、リチウム塩の略称は、それぞれ以下の意味である。
(非水系溶媒)
AN:アセトニトリル
PC:プロピレンカーボネート
EMC:エチルメチルカーボネート
ES:エチレンサルファイト
VC:ビニレンカーボネート
FEC:4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン
(リチウム塩)
(1-2):上記式(1-2)で表される化合物
(1-6):下記式(1-6)で表される化合物
【化28】
LiFSI:リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SO
2F)
2)
LiTFSI:リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(SO
2CF
3)
2)
(含フッ素スルホンアミド化合物)
(2-1):上記式(2-1):HCF
2SO
2NHLiで表される含フッ素スルホンアミド化合物
【0277】
・化合物(1-2)の作製
<分析方法>
化合物(1-2)の作製において使用した分析方法、原材料、反応条件等は、以下のとおりのものであった。
【0278】
(核磁気共鳴分析(NMR):1H-NMR、及び19F-NMRによる分子構造解析)
化合物(1-2)の作製過程で得られた生成物について、1H-NMR(400MHz)、及び19F-NMR(337MHz)を用いて、下記測定条件にて分子構造解析を行った。
[測定条件]
測定装置:JNM-ECZ400S型核磁気共鳴装置(日本電子株式会社製)
観測核:1H、19F
溶媒:重クロロホルム、重ジメチルスルホキシド
基準物質:テトラメチルシラン(1H、0.00ppm)、トリクロロフルオロメタン(19F、0.00ppm)
基準物質濃度:5質量%
測定試料濃度:20質量%
パルス幅:6.5μ秒
待ち時間:2秒
積算回数:8回(1H)、1024回(19F)
【0279】
<化合物(2-1)の含有量>
19F-NMRの測定結果から、化合物(1-2)及び化合物(2-1)の代表的なピークの積分値より化合物(2-1)の含有量を測定した。
【0280】
本実施例においては、下記構造式:
【化29】
で表される含フッ素環状スルホンイミドリチウム塩(化合物(1-2))は、-115.4ppm(4F)のピークの積分値より、およびHCF
2SO
2NHLi(化合物(2-1))は、-122.6ppm(2F)のピークの積分値より化合物(2-1)の含有量を算出した。
【0281】
(ICP発光分光分析法)
作製した化合物(1-2)について、下記測定条件にて分子構造解析を行った。
[測定条件]
測定装置:SPS3520UV-DD(株式会社日立ハイテクサイエンス製)
測定原子:Li
サンプル調製条件:生成物0.1gを超純水9.9gと混合した濃度1質量%の一時希釈液を得た。次いで、一時希釈液1.5gを1質量%硝酸水溶液28.5gと混合し、測定試料とした。
高周波パワー:1.2kW
プラズマガス(アルゴン)流量:16L/分
補助ガス(アルゴン)流量:0.5L/分
キャリヤーガス(アルゴン)圧力:0.24MPa
キャリヤーガス(アルゴン)流量:0.3L/分
測光高さ:12mm
チャンバーガス(アルゴン)流量:0.6L/分
【0282】
<使用原材料>
化合物(1-2)の作製で使用した原材料を以下に示す。
・2,2-ジフルオロ-2-(フルオロスルホニル)酢酸(化合物(3-1)、富士フイルム和光純薬株式会社製)
【0283】
・アンモニア(住友精化株式会社製)
【0284】
・水酸化リチウム一水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)
【0285】
・アセトニトリル(富士フイルム和光純薬株式会社製、乾燥したモレキュラーシーブ3A 1/16(富士フイルム和光純薬株式会社製)を加え、脱水し、モレキュラーシーブ3A 1/16を除去することにより水分量を調整した)
・テトラヒドロフラン(富士フイルム和光純薬株式会社製、乾燥したモレキュラーシーブ3A 1/16(富士フイルム和光純薬株式会社製)を加え、脱水し、モレキュラーシーブ3A 1/16を除去することにより水分量を調整した)
【0286】
・活性炭素(富士フイルム和光純薬株式会社製)
【0287】
<反応温度>
反応温度は、外部加熱冷却装置を用いない場合は、室温である。また、ウォーターバスやオイルバス等の外部加熱冷却装置を利用する場合には、外部加熱冷却装置に用いられている媒体の温度が、反応温度である。
【0288】
<化合物(1-2)の合成(ロットAおよびC)>
(電解カップリング反応工程)
200mLの三口フラスコに窒素雰囲気下、攪拌子、アセトニトリル(59g)、水(75g)を添加した後、0℃に冷却し、FO2SCF2CO2H(化合物(3-1)、富士フイルム和光純薬株式会社製、25.7g、144.3mmоl)を加えた。陽極、及び陰極として、白金板電極(25mm×50mm)を6mmの間隔で設置し、溶液中に浸漬させた。0℃冷却下で攪拌を維持しつつ、電極に1.5Aの電流を4時間通電した。通電終了後、攪拌を止めると、反応液が2相に分離した。下層を分取すると7.9gの液体が得られた。得られた液体を水洗し、モレキュラーシーブで乾燥することにより、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))を含む液体6.9gが得られた。
FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))
19F-NMR(重クロロホルム):δ(ppm)46.1(2F)、-108.7(4F)
【0289】
(環化工程)
3Lオートクレーブを-78℃に冷却し、アンモニアガス(250g、14.68mоl)、及びテトラヒドロフラン(250mL)を添加した後、オートクレーブ内の温度を-55℃以下に保ちつつ、FO
2SCF
2CF
2SO
2F(化合物(4-1)、208g、0.71mоl)のテトラヒドロフラン(250.0mL)溶液を滴下した。滴下終了後、室温で終夜攪拌した。その後、攪拌を維持しつつ、内圧を常圧に戻し、アルゴンを0.5L/分の速度で1.5時間オートクレーブに吹きこみ、アンモニアを排出した。反応液を濾過することで白色固体を除去し、テトラヒドロフランで数回洗浄した。得られた濾液を3Lのフラスコに移し、減圧濃縮し、さらに40℃で12時間真空乾燥させることで固体188.0gを得た。得られた固体をサンプリングし、
19F-NMRで分析すると、下記構造式:
【化30】
で表される含フッ素環状スルホニルイミドアンモニウム塩(化合物(1-N-2)、0.7mоl、収率98%)であることが確認された。
19F-NMR(重ジメチルスルホキシド):δ(ppm)-115.4(4F)
【0290】
(カチオン交換工程)
1Lの三口フラスコに、窒素雰囲気下、攪拌子、テトラヒドロフラン(450mL)、含フッ素環状スルホニルイミドアンモニウム塩(化合物(1-N-2)、187.0g、0.69mоl)、及び水酸化リチウム一水和物(32.2g、0.77mоl)を添加し、70℃で4時間攪拌した。得られた反応液を減圧濃縮した後、イオン交換水(500mL)、および活性炭(65.8g)を添加し、105℃で3時間攪拌した。得られた反応液を加圧濾過して不溶固体を除去した後、減圧濃縮して固体(205.8g)を得た。得られた肌色固体にテトラヒドロフラン(1L)を添加し、50℃で30分攪拌した後、加圧濾過により不溶固体を除去し、減圧濃縮した後、70℃で16時間、90℃で10時間真空乾燥することで170.3gの微褐色固体を得た。得られた固体をサンプリングし、ICP発光分光分析法により分析を行ったところ、アンモニウムカチオンがリチウムカチオンに交換されていることを確認した。さらに、
19F-NMRで分析すると、下記構造式:
【化31】
で表される含フッ素環状スルホンイミドリチウム塩(化合物(1-2)、0.68mоl、収率98%)であることが確認された。得られた結晶をサンプリングし、
19F-NMRで分析すると、化合物(1-2)が99.1質量%、HCF
2SO
2NHLi(化合物(2-1))が6600質量ppm含まれていることが確認された(ロットC)。
化合物(1-2)
19F-NMR(重ジメチルスルホキシド):δ(ppm)-115.4(4F)
HCF
2SO
2NHLi(化合物(2-1))
1H-NMR(重ジメチルスルホキシド):δ(ppm)6.0(1H)
19F-NMR(重ジメチルスルホキシド):δ(ppm)-122.6(2F)
【0291】
(晶析工程)
撹拌子を備えた100mLナスフラスコに、合成した化合物(1-2)10gとtert-ブチルメチルエーテル27gとを秤量し、密栓を取り付けて30分撹拌した。得られた混合液を減圧濾過後、-20℃の冷凍庫で30分間冷却したところ、無色の結晶が生じた。デカンテーションによる液部の除去後、-35℃のtert-ブチルメチルエーテルを添加して薬さじで混ぜることにより結晶を洗浄し、液部をデカンテーションによって除去した。得られた結晶を、無撹拌条件かつ60℃、および40hPaの条件で3時間減圧乾燥した。この結晶を乳鉢と乳棒を用いて粉砕し、バートレル(三井・ケマーズフロロプロダクツ株式会社製、主成分:1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロペンタン)20mLを添加し、無撹拌条件かつ100℃、および15hPaの条件で2時間減圧乾燥する操作を4回繰り返す追乾燥工程を行なうことで、4.9g(収率49.0%)の結晶が得られた。得られた結晶をサンプリングし、19F-NMRで分析すると、化合物(1-2)が99.9質量%、HCF2SO2NHLi(化合物(2-1))が462質量ppm含まれていることが確認された(ロットA)。
化合物(1-2)
19F-NMR(重ジメチルスルホキシド):δ(ppm)-115.4(4F)
HCF2SO2NHLi(化合物(2-1))
1H-NMR(重ジメチルスルホキシド):δ(ppm)6.0(1H)
19F-NMR(重ジメチルスルホキシド):δ(ppm)-122.6(2F)
【0292】
<化合物(1-2)の合成(ロットB)>
(電解カップリング反応工程)
外形が、直径30mm、高さ170mmであり、容量が50mLのシュレンク管に窒素雰囲気下、攪拌子、アセトニトリル(4.5g)、水(22.6g)を添加した後、0℃に冷却し、FO2SCF2CO2H(化合物(3-1)、30.0g、168.2mmоl)を加えた。陽極、及び陰極として、白金板電極(13mm×50mm)を3mmの間隔で設置し、溶液中に浸漬させた。0℃冷却下で攪拌を維持しつつ、電極に1.5A(231mA/cm2)の電流を3時間通電した。通電終了後、攪拌を止めると、反応液が2相に分離した。下層を分取すると17.2gの液体が得られた。得られた液体をモレキュラーシーブで乾燥後、蒸留精製し、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))を含む液体12.2gが得られた。
FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))
19F-NMR(重クロロホルム):δ(ppm)46.1(2F)、-108.7(4F)
【0293】
(環化工程)
3Lオートクレーブを-78℃に冷却し、アンモニアガス(240g、14.09mоl)、及びテトラヒドロフラン(200mL)を添加した後、オートクレーブ内の温度を-55℃以下に保ちつつ、FO
2SCF
2CF
2SO
2F(化合物(4-1)、173g、0.59mоl)のテトラヒドロフラン(200.0mL)溶液を滴下した。滴下終了後、室温で終夜攪拌した。その後、攪拌を維持しつつ、内圧を常圧に戻し、アルゴンを0.5L/分の速度で1.5時間オートクレーブに吹きこみ、アンモニアを排出した。反応液を濾過することで白色固体を除去し、テトラヒドロフランで数回洗浄した。得られた濾液を3Lのフラスコに移し、減圧濃縮し、さらに40℃で12時間真空乾燥させることで固体160.2gを得た。得られた固体をサンプリングし、
19F-NMRで分析すると、下記構造式:
【化32】
で表される含フッ素環状スルホニルイミドアンモニウム塩(化合物(1-N-2)、0.56mоl、収率95%)であることが確認された。
19F-NMR(重ジメチルスルホキシド):δ(ppm)-115.4(4F)
【0294】
(カチオン交換工程)
1Lの三口フラスコに、窒素雰囲気下、攪拌子、テトラヒドロフラン(564mL)、含フッ素環状スルホニルイミドアンモニウム塩(化合物(1-N-2)、242.0g、0.93mоl)、及び水酸化リチウム一水和物(42.9g、1.02mоl)を添加し、75℃で4時間攪拌した。得られた反応液を減圧濃縮した後、イオン交換水(628mL)、および活性炭(82.7g)を添加し、105℃で3時間攪拌した。得られた反応液を加圧濾過して不溶固体を除去した後、減圧濃縮して固体(245g)を得た。得られた肌色固体にテトラヒドロフラン(1.27L)を添加し、50℃で30分攪拌した後、加圧濾過により不溶固体を除去し、減圧濃縮した後、70℃で16時間、90℃で6時間真空乾燥することで212gの白色固体を得た。得られた固体をサンプリングし、ICP発光分光分析法により分析を行ったところ、アンモニウムカチオンがリチウムカチオンに交換されていることを確認した。さらに、
19F-NMRで分析すると、下記構造式:
【化33】
で表される含フッ素環状スルホンイミドリチウム塩(化合物(1-2)、0.85mоl、収率91%)であることが確認された。得られた結晶をサンプリングし、
19F-NMRで分析すると、化合物(1-2)が99.8質量%、HCF
2SO
2NHLi(化合物(2-1))が761質量ppm含まれていることが確認された(ロットB)。
化合物(1-2)
19F-NMR(重ジメチルスルホキシド):δ(ppm)-115.4(4F)
HCF
2SO
2NHLi(化合物(2-1))
1H-NMR(重ジメチルスルホキシド):δ(ppm)6.0(1H)
19F-NMR(重ジメチルスルホキシド):δ(ppm)-122.6(2F)
【0295】
【0296】
(2)コイン型非水系二次電池の作製
(2-1)正極(P1)の作製
正極活物質として、リチウム、ニッケル、マンガン及びコバルトの複合酸化物(LiNi0.33Mn0.33Co0.33O2)と、導電助剤として、カーボンブラック粉末と、バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、94:3:3の質量比で混合し、正極合剤を得た。
【0297】
得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを投入してさらに混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に、この正極合剤含有スラリーを目付量が11.4mg/cm2になるように調節しながら塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで正極活物質層の密度が2.71g/cm3になるよう圧延して、正極活物質層と正極集電体から成る正極(P1)を得た。
【0298】
(2-2)負極(N1)の作製
負極活物質として、グラファイト粉末と、導電助剤として、カーボンブラック粉末と、バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、90:3:7の質量比で混合し、負極合剤を得た。
【0299】
得られた負極合剤に溶剤として水を投入してさらに混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。負極集電体となる厚さ8μmの銅箔の片面に、この負極合剤含有スラリーを目付量が5.4mg/cm2になるように調節しながら塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで負極活物質層の密度が1.31g/cm3になるよう圧延して、負極活物質層と負極集電体から成る負極(N1)を得た。
【0300】
(2-3)コイン型非水系二次電池の組み立て
CR2032タイプの電池ケース(SUS304/Alクラッド)にポリプロピレン製ガスケットをセットし、その中央に、上述のようにして得られた正極(P1)を直径15.958mmの円盤状に打ち抜いたものを、正極活物質層を上向きにしてセットした。その上から、ガラス繊維濾紙(GA-100;アドバンテック社製)を直径16.156mmの円盤状に打ち抜いたものをセットして、非水系電解液(S01~S21)を150μL注入した後、上述のようにして得られた負極(N1)を直径16.156mmの円盤状に打ち抜いたものを、負極活物質層を下向きにしてセットした。さらに、電池ケース内にスペーサーとスプリングをセットした後に電池キャップをはめ込み、カシメ機でかしめた。溢れた非水系電解液はウエスで拭き取った。正極とガラス繊維濾紙と負極の積層体、及び非水系電解液を含むアセンブリを25℃で12時間保持し、積層体に非水系電解液を十分馴染ませてコイン型非水系二次電池を得た。
【0301】
(3)コイン型非水系二次電池の評価
上述のようにして得られたコイン型非水系二次電池について、まず、下記(3-1)の手順に従って初回充電処理及び初回充放電容量測定を行った。次に下記(3-2)の手順に従って、それぞれの非水系二次電池を評価した。なお、充放電はアスカ電子(株)製の充放電装置ACD-M01A(商品名)及びヤマト科学(株)製のプログラム恒温槽IN804(商品名)を用いて行った。
ここで、1Cとは、満充電状態の電池を定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。下記(3-1)~(3-2)の評価では、1Cは、具体的には、4.2Vの満充電状態から定電流で3.0Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【0302】
上記(2-3)の手順に従って組み立てられた小型非水系二次電池は、3mAh級セルであり、満充電状態となる電池電圧を4.2Vと定め、1C相当の電流値は3.0mAとする。以降、特に断らない限り、便宜上、電流値、電圧の表記は省略する。
【0303】
(3-1)初回充放電処理
コイン型非水系二次電池の周囲温度を25℃に設定し、0.025Cに相当する0.075mAの定電流で充電して3.1Vに到達した後、4.2Vの定電圧で電流が0.025mAに減衰するまで充電を行った。続いて3時間休止後、0.05Cに相当する0.15mAの定電流で電池を充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で電流が0.025Cに減衰するまで充電を行った。このときの充電容量(3.1Vまでの充電容量と4.2Vまでの充電容量の和)を初回充電容量(X)とした。その後、0.15Cに相当する0.45mAの定電流で3.0Vまで電池を放電した。このときの放電容量を初回放電容量(Y)とした。また、以下の式に基づき、初回充放電効率を算出した。
初回充放電効率=(初回放電容量(Y)/初回充電容量(X))×100[%]
次に、0.2Cに相当する0.6mAの定電流で4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で電流が0.025Cに減衰するまで充電を行った。その後、0.2Cに相当する0.6mAの電流値で3Vまで放電した。その後、上記と同様の充放電を1サイクル行った。
【0304】
(3-2)25℃サイクル試験
上記(3-1)に記載の方法で初回充放電処理を行ったコイン型非水系二次電池について、周囲温度を25℃に設定し、1Cに相当する3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で電流が0.025Cに減衰するまで充電を行った。その後、1Cに相当する3mAの定電流で電池電圧3.0Vまで放電した。充電と放電とを各々1回ずつ行うこの工程を1サイクルとし、100サイクルの充放電を行った。このときの放電容量を100サイクル目放電容量(以後、(T)と表記する場合がある)とした。以下の式に基づき、サイクル容量維持率を算出した。
サイクル容量維持率=(25℃サイクル試験での100サイクル目放電容量(T)/初回充放電処理における初回放電容量(Y))×100[%]
なお、25℃サイクル試験前に電圧が2V以下に低下していた場合、電圧異常としてサイクル試験を行わなかった。
【0305】
(4)負極のICP発光分光分析
25℃サイクル試験終了後、25℃環境下で電池電圧が2.5Vとなるまで0.1Cに相当する定電流で放電を行った。その後、アルゴン雰囲気下でコイン型非水系二次電池を解体して負極を取り出した。アセトニトリルで負極を洗浄した後、乾燥した。さらに、以下に示される前処理を行なった後に、負極のICP発光分光分析を行った。
【0306】
前処理として、試料をテフロン(登録商標)分解容器に取り、68%硝酸:3mLと98%硫酸:5mLの混合溶媒を加えてマイクロウェーブによる220℃45分間の加熱分解後(1段目反応)、68%硝酸:2mLを追添して、再度マイクロウェーブによる230℃40分間の加熱分解後(2段目反応)、超純水で全量を約100gに調製した。黒鉛が残渣として残ったため、ろ過した液をICP測定に用いた。マイクロウェーブ前処理装置はマイルストーンゼネラル製ETHOS oneを用い、マイクロウェーブ出力は1000Wとした。
【0307】
ICP発光分光分析は、下記条件にて行い、負極(負極集電箔含む)1g当たりの負極Al溶出量を測定した。
装置:SII(エスアイアイ)ナノテクノロジー社製SPS3520UV-DD
高周波パワー:1.2(Kw)
プラズマガス(Ar)流量:16(L/min)
補助ガス(Ar)流量 :0.5(L/min)
キャリヤーガス(Ar)圧力:0.24(MPa)
キャリヤーガス(Ar)流量:0.3(L/min)
チャンバーガス(Ar)流量:0.6(L/min)
パージガス(N2)流量:5(L/min)
測光高さ:12(mm)
元素:Al
分光器:R
波長:167.079(nm)
パージガス:ON
検量線は、Al標準液100mg/Lを、酸水溶液(試料の分解液と同様の酸濃度になるように、超純水に68%硝酸と98%硫酸を加えて調製)で希釈して調製した、0、0.01、0.05、0.1、0.5、1、2mg/Lの6点の検量線用標準液を用いて作成した。
【0308】
(5)正極Al集電体の表面SEM解析
25℃サイクル試験終了後、25℃環境下で電池電圧が2.5Vとなるまで0.1Cに相当する定電流で放電を行った。その後、アルゴン雰囲気下でコイン型非水系二次電池を解体して正極を取り出した。正極Al集電体上の正極活物質を、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に浸した綿棒で除去した。アセトニトリルで正極Al集電体を洗浄した後、乾燥した。その後、アルゴン雰囲気下で正極Al集電体を適切な大きさに切り出し、走査電子顕微鏡(SEM)観察用試料台に固定し、表面SEM観察試料とした。試料は専用のトランスファーベッセルを用いて、雰囲気遮断した状態でSEM装置に導入した。
【0309】
SEM観察は、日立製SU8220を用いた。測定条件は加速電圧1kVとした。
【0310】
実施例II-1に用いた非水系電解液で作製されたコイン型非水系二次電池のサイクル試験後の正極Al集電体の表面SEM写真を
図3(倍率40倍)及び
図4(倍率1000倍)に示す。
【0311】
また、比較例II-1に用いた非水系電解液で作製されたコイン型非水系二次電池のサイクル試験後の正極Al集電体の表面SEM写真を
図5(倍率40倍)及び
図6(倍率1000倍)に示す。
【0312】
また、比較例II-3に用いた非水系電解液で作製されたコイン型非水系二次電池のサイクル試験後の正極Al集電体の表面SEM写真を
図7(倍率40倍)、
図8(倍率1000倍)及び
図9(倍率10000倍)に示す。
【0313】
ここで、各試験の解釈について述べる。
【0314】
初回効率は、初回充電容量に対する初回放電容量の割合を示すが、一般的に2回目以降の充放電効率より低い。これは、初回充電時にLiイオンが利用されて負極SEIが形成するためである。それによって放電できるLiイオンが少なくなる。ここで、初期充放電初回効率は84%以上であれば問題はなく、85%以上であることが望ましい。
【0315】
25℃サイクル容量維持率は、繰り返し使用による電池劣化の指標となる。この値が大きいほど、繰り返し使用による容量低下が少なく、長期使用を目的とする用途に使用可能であると考えられる。
従って、25℃サイクル容量維持率は70%以上であることが望ましい。
また、25℃サイクル試験前に電圧が2V以下に低下した場合、電池内で微短絡が生じていると考えられ、長期使用を目的とする用途に使用するのは困難であると考えられる。
【0316】
負極Al溶出量は、繰り返し使用による電池劣化の指標となる。この値が小さいほど、繰り返し使用による正極Al集電箔の腐食が抑制され、Alの負極での還元析出による負極SEIの劣化が抑制され、長期使用を目的とする用途に使用可能であると考えられる。
従って、負極Al溶出量は1000質量ppm以下であることが望ましく、500質量ppm以下であることがさらに望ましい。
【0317】
初回充放電処理、25℃サイクル試験、負極のICP発光分光分析の結果を表3に示す。
【0318】
【0319】
表3に示すように、実施例II-1~II-13では、初回効率、サイクル容量維持率、負極Al溶出量ともに好ましい範囲の値となった。一方、比較例II-2、II-3、II-4、II-5、II-7は初回効率が84%未満の値を示した。比較例II-3、II-4、II-7、II-8はサイクル容量維持率が70%未満の値を示した。比較例II-1、II-3、II-6は、負極Al溶出量が1000質量ppmより大きい値を示した。
【0320】
実施例II-1と比較例II-1~II-3を比較すると、リチウム塩として含フッ素環状スルホニルイミド塩を用い、かつ、含フッ素スルホンアミド化合物の量を好ましい範囲に調節することで、初回効率が向上している。これは、初回充電時の正極でのAl腐食反応、及び、負極でのAlの還元析出反応が抑制され、不可逆容量の増加を抑制したためだと考えられる。初回充電容量及び初回放電容量に関して、比較例II-1~II-3と比較して実施例II-1の初回充電容量が低下しているのにも関わらず、比較例II-1~II-3と比較して実施例II-1の初回放電容量は低下していないことからも、Al腐食に起因する不可逆反応が抑制されていることが示唆される。
【0321】
また、実施例II-1と比較例II-1、II-3を比較すると、リチウム塩として含フッ素環状スルホニルイミド塩を用い、かつ、含フッ素スルホンアミド化合物の量を好ましい範囲に調節することで、サイクル容量維持率が向上するとともに、負極Al溶出量が低減されている。これは、サイクル試験時に継続的な正極でのAl腐食反応、及び、負極でのAl還元析出反応が抑制され、不可逆容量の増加が抑制されるとともに、負極で還元析出したAlによる負極SEIの物理的損傷が抑制されたためだと考えられる。
【0322】
なお、リチウム塩としてLiFSIを用いた比較例II-2ではサイクル試験開始前に電圧が2V以下に低下し、電圧異常を起こしている。これは、初回充放電時に激しい正極でのAl腐食反応、及び、負極でのAl還元析出反応が起き、負極で還元析出したAlにより微短絡が起こったためだと考えられる。
【0323】
また、
図7より、Al集電体表面に多数の孔食が観測された。
図8、9では孔食の1つが拡大されており、
図9では孔食内部の外縁が歪であるのに加え、孔食内部にさらなる孔が観測された。これは、リチウム塩として含フッ素環状スルホニルイミド塩を用いなかった場合に、正極Al集電体が激しく腐食したためだと考えられる。一方、
図3~4ではAl集電体表面に孔食が見られず、リチウム塩として含フッ素環状スルホニルイミド塩を用いることで、正極Al集電体の激しい腐食を抑制することができる。
【0324】
また、実施例II-1と実施例II-2を比較すると、含フッ素環状スルホニルイミド塩としてロットAを用いた場合、ロットBを用いた場合と比べてサイクル容量維持率が向上するとともに、負極Al溶出量が低減されている。これは、晶析精製が電解カップリング反応工程後の蒸留精製に比べて含フッ素スルホンアミド化合物低減効果が高く、含フッ素環状スルホニルイミド塩および電解液中の含フッ素スルホンアミド化合物が低減されたため、サイクル試験時に継続的な正極でのAl腐食反応、及び、負極でのAl還元析出反応が抑制され、不可逆容量の増加が抑制されるとともに、負極で還元析出したAlによる負極SEIの物理的損傷が抑制されたためだと考えられる。
【0325】
(6)25℃サイクル試験での100サイクル後放電IRドロップ増加率
各サイクルにおいて、放電開始前の電圧と放電開始から10秒後の電圧の差(単位:V)を、放電電流値である3.0(単位:mA)で割ることで求められる値(単位:kΩ)を各サイクルにおける放電IRドロップとし、内部抵抗の指標とした。
【0326】
1サイクル目における放電IRドロップを1サイクル目放電IRドロップとし、100サイクル目における放電IRドロップを100サイクル目放電IRドロップとした。以下の式に基づき、100サイクル後放電IRドロップ増加率を算出した。
100サイクル後IRドロップ増加率=(25℃サイクル試験での100サイクル目放電IRドロップ/1サイクル目放電IRドロップ)×100[%]
【0327】
100サイクル後放電IRドロップ増加率は、繰り返し使用による電池劣化の指標となる。この値が小さいほど、繰り返し使用による内部抵抗の増加が少なく、長期使用を目的とする用途に使用可能であると考えられる。従って、アセトニトリルを含有する非水系電解液を含む非水系二次電池において、100サイクル後放電IRドロップ増加率は400%以下であることが好ましく、200%以下であることがより好ましい。得られた評価結果を表4に示す。
【0328】
【0329】
表4に示すように、実施例II-14、II-15では、100サイクル後放電IRドロップ増加率が好ましい範囲の値となった。一方、比較例II-9では100サイクル後放電IRドロップ増加率が400%より大きい値を示した。これは、サイクル試験時に継続的な正極でのAl腐食反応、及び、負極でのAl還元析出反応が抑制され、内部抵抗の増加が抑制されたためだと考えられる。
【0330】
また、実施例II-14と実施例II-15を比較すると、含フッ素環状スルホニルイミド塩としてロットAを用いた場合、ロットBを用いた場合と比べて100サイクル後放電IRドロップ増加率が低減されている。これは、晶析精製が電解カップリング反応工程後の蒸留精製に比べて含フッ素スルホンアミド化合物低減効果が高く、含フッ素環状スルホニルイミド塩および電解液中の含フッ素スルホンアミド化合物が低減されたため、サイクル試験時に継続的な正極でのAl腐食反応、及び、負極でのAl還元析出反応が抑制され、内部抵抗の増加が抑制されたためだと考えられる。
【0331】
(7)小型非水系二次電池の作製
(7-1)正極(P2)の作製
正極活物質として、リチウム、ニッケル、マンガン及びコバルトの複合酸化物(LiNi0.8Mn0.1Co0.1O2)と、導電助剤として、カーボンブラック粉末と、バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、94:3:3の質量比で混合し、正極合剤を得た。
【0332】
得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを投入してさらに混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に、この正極合剤含有スラリーを目付量が16.6mg/cm2になるように調節しながら塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで正極活物質層の密度が2.91g/cm3になるよう圧延して、正極活物質層と正極集電体から成る正極(P2)を得た。
【0333】
(7-2)負極(N2)の作製
(A)負極活物質として、黒鉛粉末と、(B)導電助剤としてカーボンブラック粉末と、(C)バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、90:3:7の固形分質量比で混合し、負極合剤を得た。
【0334】
得られた負極合剤に溶剤として水を投入してさらに混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。このスラリーを、負極集電体となる厚さ8μmの銅箔の片面に、この負極合剤含有スラリーを目付量が10.3mg/cm2になるように調節しながら塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで負極活物質層の密度が1.36g/cm3になるよう圧延して、負極活物質層と負極集電体から成る負極(N2)を得た。
【0335】
(7-3)小型非水系二次電池の組み立て
上述のようにして得られた正極(P2)を直径18mmの円盤状に打ち抜いたものと、上述のようにして得られた負極(N2)を直径18mmの円盤状に打ち抜いたものと、セパレータ内蔵絶縁スリーブ(EL-Cell社製、ECC1-00-0210-W/X)の両側に重ね合わせ、非水系電解液(S19~S20)を120μL注入した後、正極側をアルミニウム製プランジャー、負極側をSUS製プランジャーで押さえることで積層体を得た。その積層体を電池ケース(EL-Cell社製、PAT-Cell)に挿入して組み立てた後、電池ケースを密閉して25℃で12時間保持し、積層体に非水系電解液を十分馴染ませて小型非水系二次電池を得た。
【0336】
(8)小型非水系二次電池の評価
上述のようにして得られた小型非水系二次電池について、まず、下記(8-1)の手順に従って初回充放電処理、及び初回充放電容量測定を行った。次に下記(8-2)の手順に従って、それぞれの小型非水系二次電池を評価した。なお、充放電はアスカ電子(株)製の充放電装置ACD-M01A(商品名)、及びヤマト科学(株)製のプログラム恒温槽IN804(商品名)を用いて行った。
【0337】
本明細書では、1Cとは満充電状態の電池を定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。下記(8-1)~(8-2)の評価では、1Cは、具体的には、4.2Vの満充電状態から定電流で3.0Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【0338】
上記(7-3)の手順に従って組み立てられた小型非水系二次電池は、7.4mAh級セルであり、満充電状態となる電池電圧を4.2Vと定め、1C相当の電流値は7.4mAとする。以降、特に断らない限り、便宜上、電流値、電圧の表記は省略する。
【0339】
(8-1)小型非水系二次電池の初回充放電処理
小型非水系二次電池の周囲温度を25℃に設定し、0.025Cに相当する0.185mAの定電流で充電して3.1Vに到達した後、3.1Vの定電圧で1.5時間充電を行った。続いて3時間休止後、0.05Cに相当する0.37mAの定電流で電池を充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で1.5時間充電を行った。その後、0.15Cに相当する1.11mAの定電流で3.0Vまで電池を放電した。
【0340】
(8-2)小型非水系二次電池の50℃サイクル試験
上記(8-1)に記載の方法で初回充放電処理を行った小型非水系二次電池について、周囲温度を50℃に設定し、0.5Cに相当する3.7mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で1.5時間充電を行った。その後、0.5Cに相当する3.7mAの電流値で3.0Vまで電池を放電した。充電と放電とを各々1回ずつ行うこの工程を1サイクルとし、100サイクルの充放電を行った。
【0341】
各サイクルにおいて、放電開始前の電圧と放電開始から10秒後の電圧の差(単位:V)を、放電電流値である3.7(単位:mA)で割ることで求められる値(単位:kΩ)を各サイクルにおける放電IRドロップとし、内部抵抗の指標とした。
【0342】
1サイクル目における放電IRドロップを1サイクル目放電IRドロップとし、100サイクル目における放電IRドロップを100サイクル目放電IRドロップとした。以下の式に基づき、100サイクル後放電IRドロップ増加率を算出した。
100サイクル後IRドロップ増加率=(50℃サイクル試験での100サイクル目放電IRドロップ/1サイクル目放電IRドロップ)×100[%]
【0343】
100サイクル後放電IRドロップ増加率は、繰り返し使用による電池劣化の指標となる。この値が小さいほど、繰り返し使用による内部抵抗の増加が少なく、長期使用を目的とする用途に使用可能であると考えられる。従って、アセトニトリルを含有しない非水系電解液を含む非水系二次電池において、100サイクル後放電IRドロップ増加率は200%以下であることが望ましく、130%以下であることがより望ましい。得られた評価結果を表5に示す。
【0344】
【0345】
表5に示すように、実施例II-16では、100サイクル後放電IRドロップ増加率が130%以下の値を示した一方、実施例II-17は、100サイクル後放電IRドロップ増加率が130%を超える値を示した。
【0346】
実施例II-16と実施例II-17を比較すると、非水系電解液がLiPF6を含有することで、100サイクル後放電IRドロップ増加率が改善している。これは、LiPF6を含有することでアルミニウム不働態及び負極SEIの形成に必要なフッ化水素(HF)量を満足するとともに、環状アニオンの分解物が負極SEI成分として働いたためだと考えられる。
【0347】
また、実施例II-16と実施例II-17を比較すると、LiPF6の含有量がビニレンカーボネートの含有量に対してモル比で0.01以上4以下の範囲にあることで、100サイクル後放電IRドロップ増加率が改善している。これは、LiPF6の含有量がビニレンカーボネートの含有量に対して好ましい範囲にあることで、負極SEIにおける環状アニオン含有リチウム塩及び環状カーボネート由来の有機成分と、LiPF6由来の無機成分の割合が適切に制御されたためだと考えられる。
【0348】
<III.電解カップリング反応(β/αの関係および反応容器―電極の関係)>
【0349】
<分析方法>
実施例及び比較例において使用し分析方法、原材料、反応条件等は、以下の通りのものであった。
(核磁気共鳴分析(NMR):1H-NMR、及び19F-NMRによる分子構造解析)
実施例、及び比較例で得られた生成物について、1H-NMR(400MHz)、及び19F-NMR(337MHz)を用いて、下記測定条件にて分子構造解析を行った。
[測定条件]
測定装置:JNM-ECZ400S型核磁気共鳴装置(日本電子株式会社製)
観測核:1H、19F
溶媒:重クロロホルム、重ジメチルスルホキシド
基準物質:テトラメチルシラン(1H、0.00ppm)、トリクロロフルオロメタン(19F、0.00ppm)
基準物質濃度:5質量%
測定試料濃度:20質量%
パルス幅:6.5μ秒
待ち時間:2秒
積算回数:8回(1H)、1024回(19F)
【0350】
<使用原材料>
実施例及び比較例で使用した原材料を以下に示す。
(フルオロスルホニル基含有カルボン酸化合物(3))
・2,2-ジフルオロ-2-(フルオロスルホニル)酢酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)(化合物(3-1))
・アンモニア(住友精化株式会社製)
(アルカリ金属塩(6))
・水酸化リチウム一水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)
【0351】
(溶媒)
・アセトニトリル(富士フイルム和光純薬株式会社製、乾燥したモレキュラーシーブ3A 1/16(富士フイルム和光純薬株式会社製)を加え、脱水し、モレキュラーシーブ3A 1/16を除去することにより水分量を調整した)
・テトラヒドロフラン(富士フイルム和光純薬株式会社製、乾燥したモレキュラーシーブ3A 1/16(富士フイルム和光純薬株式会社製)を加え、脱水し、モレキュラーシーブ3A 1/16を除去することにより水分量を調整した)
【0352】
・活性炭素(富士フイルム和光純薬株式会社製)
・オクタフルオロトルエン(東京化成工業株式会社製)
【0353】
<反応温度>
反応温度は、外部加熱冷却装置を用いず、室温である場合は、室温である。また、ウォーターバスやオイルバス等の外部加熱冷却装置を利用する場合には、外部加熱冷却装置に用いられている媒体の温度が反応温度である。
【0354】
<β/αに関する実施例>
[実施例III-1]
100mLの三口フラスコに窒素雰囲気下、攪拌子、アセトニトリル(12.9g)、水(17.1g)を添加した後(β/α=0.75)、0℃に冷却し、FO2SCF2CO2H(化合物(3-1)、5.0g、28.1mmоl)を加えた。陽極、及び陰極として、白金板電極(25mm×50mm)を3mmの間隔で設置し、溶液中に浸漬させた。0℃冷却下で攪拌を維持しつつ、電極に1.5Aの電流を0.5時間通電した。通電終了後、得られた液体をサンプリングし、19F-NMRで測定すると、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))とHCF2SO2F(化合物(5-1))の生成比は100:0.9であった。
FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))
19F-NMR:δ(ppm)46.1(2F)、-108.7(4F)
HCF2SO2F(化合物(5-1))
1H-NMR:δ(ppm)7.7ppm(1H)
19F-NMR:37.0(1F)、-120.3(2F)
【0355】
[実施例III-2]
アセトニトリル(10.0g)、水(20.0g)を使用したこと以外は、実施例III-1と同様にして通電を行った(β/α=0.50)。通電終了後、得られた液体をサンプリングし、19F-NMRで測定すると、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))とHCF2SO2F(化合物(5-1))の生成比は100:0.8であった。
【0356】
[実施例III-3]
アセトニトリル(5.0g)、水(25.0g)を使用したこと以外は、実施例III-1と同様にして通電を行った(β/α=0.20)。通電終了後、得られた液体をサンプリングし、19F-NMRで測定すると、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))とHCF2SO2F(化合物(5-1))の生成比は100:0.4であった。
【0357】
[実施例III-4]
(電解カップリング反応)
アセトニトリル(2.5g)、水(27.5g)を使用したこと以外は、実施例III-1と同様にして通電を行った(β/α=0.09)。通電終了後、得られた液体をサンプリングし、19F-NMRで測定すると、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))とHCF2SO2F(化合物(5-1))の生成比は100:0.3であった。
【0358】
(環化工程)
1Lオートクレーブを-78℃に冷却し、アンモニアガス(60.0g、3523.2mmоl)、及びテトラヒドロフラン(110.0g)を添加した後、電解カップリング反応で得られたFO
2SCF
2CF
2SO
2F(化合物(3-1)、50g、187.5mmоl)のテトラヒドロフラン(50.0g)溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了後、室温で12時間攪拌した。攪拌終了後、反応液を加圧濾過し、不溶固体を除去し、濾液を減圧濃縮、乾燥し、肌色固体49.1gを得た。得られた固体をサンプリングし、
19F-NMRで分析すると、下記構造式:
【化34】
で表される含フッ素環状スルホニルイミドアンモニウム塩(化合物(1-N-2)、収率99.1%)であることが確認された。
19F-NMR:δ(ppm)-115.4(4F)
【0359】
(カチオン交換工程)
1Lの三口フラスコに、窒素雰囲気下、攪拌子、テトラヒドロフラン(100g)、環化工程で得られた含フッ素環状スルホニルイミドアンモニウム塩(化合物(1-N-2)、45.0g、170.4mmоl)、及び水酸化リチウム一水和物(8.1g、193.0mmоl)を添加し、70℃で4時間攪拌した。得られた反応液を減圧濃縮した後、水(120mL)、活性炭(16.5g)を添加し、105℃で3時間攪拌した。得られた反応液を加圧濾過し不溶固体を除去した後、減圧濃縮し肌色固体を得た。得られた肌色固体にテトラヒドロフラン(220g)を添加し、50℃で30分攪拌した後加圧濾過により不溶固体を除去し、減圧濃縮することで40.9gの白色固体を得た。得られた固体をサンプリングし、ICP発光分光分析法により分析を行ったところ、アンモニウムカチオンがリチウムカチオンに交換されていることを確認した。さらに、
19F-NMRで分析すると、下記構造式:
【化35】
で表される含フッ素環状スルホンイミドリチウム塩(化合物(1-2)、収率95.9%)であることが確認された。
19F-NMR:δ(ppm)-115.4(4F)
【0360】
[実施例III-5]
アセトニトリル(13.0g)、水(17.0g)を使用したこと以外は、実施例III-1と同様にして通電を行った(β/α=0.76)。通電終了後、得られた液体をサンプリングし、19F-NMRで測定すると、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))とHCF2SO2F(化合物(5-1))の生成比は100:1.6であった。
【0361】
[実施例III-6]
アセトニトリル(15.0g)、水(15.0g)を使用したこと以外は、実施例III-1と同様にして通電を行った(β/α=1.00)。通電終了後、得られた液体をサンプリングし、19F-NMRで測定すると、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))とHCF2SO2F(化合物(5-1))の生成比は100:4.4であった。
【0362】
[実施例III-7]
アセトニトリル(20.0g)、水(10.0g)を使用したこと以外は、実施例III-1と同様にして通電を行った(β/α=2.00)。通電終了後、得られた液体をサンプリングし、19F-NMRで測定すると、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))とHCF2SO2F(化合物(5-1))の生成比は100:8.4であった。
【0363】
[実施例III-8]
外形が、直径30mm、高さ170mmであり、容量が50mLのシュレンク管に窒素雰囲気下、攪拌子、アセトニトリル(5g)、水(25g)を添加した後(β/α=0.2)、0℃に冷却し、FO2SCF2CO2H(化合物(3-1)、5.2g、29.4mmоl)を加えた。陽極、及び陰極として、白金板電極(13mm×50mm)を3mmの間隔で設置し、溶液中に浸漬させた。0℃冷却下で攪拌を維持しつつ、電極に1.5A(231mA/cm2)の電流を0.5時間(1F/mоl)通電した。通電終了後、攪拌を止めると、反応液が2相に分離した。上層を19F-NMRで分析すると、HCF2SO2F(化合物(5-1))が収率0.4%、HO2CCF2SO3Hが収率0.2%生成し、FO2SCF2CO2Hが23%残存していることが明らかになった。下相を19F-NMRで分析すると、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))が収率49%、HCF2SO2F(化合物(5-1))が痕跡量生成していることが明らかになった。電流効率は、49%であった。FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))とHCF2SO2F(化合物(5-1))の生成比は100:0.8であった。
【0364】
[実施例III-9]
外形が、直径30mm、高さ170mmであり、容量が50mLのシュレンク管に窒素雰囲気下、攪拌子、アセトニトリル(10g)、水(20g)を添加した後(β/α=0.5)、0℃に冷却し、FO2SCF2CO2H(化合物(3-1)、5.1g、28.7mmоl)を加えた。陽極、及び陰極として、白金板電極(13mm×50mm)を3mmの間隔で設置し、溶液中に浸漬させた。0℃冷却下で攪拌を維持しつつ、電極に1.5A(231mA/cm2)の電流を0.5時間(1F/mоl)通電した。通電終了後、攪拌を止めると、反応液が2相に分離した。上層を19F-NMRで分析すると、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))が収率0.5%、FO2SCF2CF2SO3Hが収率0.8%、HCF2SO2F(化合物(5-1))が収率1%、HO2CCF2SO3Hが収率0.2%生成し、FO2SCF2CO2H(化合物(3-1))が16%残存していることが明らかになった。下相を19F-NMRで分析すると、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))が収率53%、HCF2SO2Fが痕跡量生成していることが明らかになった。電流効率は、53%であった。FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))とHCF2SO2F(化合物(5-1))の生成比は100:1.9であった。
【0365】
[実施例III-10]
外形が、直径30mm、高さ170mmであり、容量が50mLのシュレンク管に窒素雰囲気下、攪拌子、アセトニトリル(4.17g)、水(20.85g)を添加した後(β/α=0.2)、0℃に冷却し、FO2SCF2CO2H(化合物(3-1)、10.1g、56.9mmоl)を加えた。陽極、及び陰極として、白金板電極(13mm×50mm)を3mmの間隔で設置し、溶液中に浸漬させた。0℃冷却下で攪拌を維持しつつ、電極に1.5A(231mA/cm2)の電流を1時間(1F/mоl)通電した。通電終了後、攪拌を止めると、反応液が2相に分離した。上層を19F-NMRで分析すると、HCF2SO2F(化合物(5-1))が収率0.3%、HO2CCF2SO3Hが収率0.6%生成し、FO2SCF2CO2H(化合物(3-1))が17%残存していることが明らかになった。下相を19F-NMRで分析すると、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))が収率57%、HCF2SO2F(化合物(5-1))が痕跡量生成していることが明らかになった。電流効率は、57%であった。FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))とHCF2SO2F(化合物(5-1))の生成比は100:0.5であった。
【0366】
[実施例III-11]
外形が、直径30mm、高さ170mmであり、容量が50mLのシュレンク管に窒素雰囲気下、攪拌子、アセトニトリル(3.3g)、水(16.7g)を添加した後(β/α=0.2)、0℃に冷却し、FO2SCF2CO2H(化合物(3-1)、15.2g、85.2mmоl)を加えた。陽極、及び陰極として、白金板電極(13mm×50mm)を3mmの間隔で設置し、溶液中に浸漬させた。0℃冷却下で攪拌を維持しつつ、電極に1.5A(231mA/cm2)の電流を1.5時間(1F/mоl)通電した。通電終了後、攪拌を止めると、反応液が2相に分離した。上層を19F-NMRで分析すると、HCF2SO2F(化合物(5-1))が収率0.1%、HO2CCF2SO3Hが収率0.6%生成し、FO2SCF2CO2H(化合物(3-1))が13%残存していることが明らかになった。下相を19F-NMRで分析すると、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))が収率62%、HCF2SO2F(化合物(5-1))が痕跡量生成していることが明らかになった。電流効率は、62%であった。FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))とHCF2SO2F(化合物(5-1))の生成比は100:0.2であった。
【0367】
[実施例III-12]
外形が、直径30mm、高さ170mmであり、容量が50mLのシュレンク管に窒素雰囲気下、攪拌子、アセトニトリル(4.5g)、水(22.5g)を添加した後(β/α=0.2)、0℃に冷却し、FO2SCF2CO2H(化合物(3-1)、30.0g、168.5mmоl)を加えた。陽極、及び陰極として、白金板電極(13mm×50mm)を3mmの間隔で設置し、溶液中に浸漬させた。0℃冷却下で攪拌を維持しつつ、電極に1.5A(231mA/cm2)の電流を3時間(1F/mоl)通電した。通電終了後、攪拌を止めると、反応液が2相に分離した。上層を19F-NMRで分析すると、HCF2SO2F(化合物(5-1))が収率0.1%、HO2CCF2SO3Hが収率0.7%生成し、FO2SCF2CO2H(化合物(3-1))が9%残存していることが明らかになった。下相を19F-NMRで分析すると、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))が収率72%、HCF2SO2F(化合物(5-1))が痕跡量生成していることが明らかになった。電流効率は、72%であった。FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))とHCF2SO2F(化合物(5-1))の生成比は100:0.1であった。
【0368】
<反応容器―電極の関係>
[実施例III-13]
外形が、直径30mm、高さ170mmであり、容量が50mLのシュレンク管に窒素雰囲気下、攪拌子、アセトニトリル(15g)、水(15g)を添加した後、0℃に冷却し、FO2SCF2CO2H(化合物(3-1)、5.0g、28.3mmоl)を加えた。陽極、及び陰極として、白金板電極(13mm×50mm)を3mmの間隔で設置し、溶液中に浸漬させた。0℃冷却下で攪拌を維持しつつ、電極に1.5A(231mA/cm2)の電流を0.25時間(0.5F/mоl)通電した。通電終了後、攪拌を止めると、反応液が2相に分離した。上層を19F-NMRで分析すると、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))が収率8%、FO2SCF2CF2SO3Hが収率1%、HCF2SO2F(化合物(5-1))が収率3%、HO2CCF2SO3Hが収率0.3%生成し、FO2SCF2CO2H(化合物(3-1))が41%残存していることが明らかになった。下相を19F-NMRで分析すると、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))が収率22%、HCF2SO2F(化合物(5-1))が痕跡量生成していることが明らかになった。電流効率は、60%であった。反応容器と電極の関係について、高さTLは75mmであり、最高位TEが65mm、高さTSが8mm、最低位TE’が15mmであったため、TL>TEを満たし、TE’>TSを満たしていた。反応中、電圧が急激に上昇することはなく、ハンチングは発生しなかった。
FO2SCF2CF2SO3H
19F-NMR:δ(ppm)44.3(1F)、-106.2(2F)、-113.7(2F)
HCF2SO2F(化合物(5-1))
19F-NMR:δ(ppm)37.0(1F)、-120.3(2F)
1H-NMR:δ(ppm)6.5(1H)
HO2CCF2SO3H
19F-NMR:δ(ppm)-111.5(2F)
FO2SCF2CO2H(化合物(3-1))
19F-NMR:δ(ppm)37.1(1F)、-102.0(2F)
【0369】
[実施例III-14]
外形が、直径30mm、高さ170mmであり、容量が50mLのシュレンク管に窒素雰囲気下、攪拌子、アセトニトリル(15g)、水(15g)を添加した後、0℃に冷却し、FO2SCF2CO2H(化合物(3-1)、5.1g、28.4mmоl)を加えた。陽極、及び陰極として、白金板電極(13mm×50mm)を3mmの間隔で設置し、溶液中に浸漬させた。0℃冷却下で攪拌を維持しつつ、電極に1.5A(231mA/cm2)の電流を0.5時間(1F/mоl)通電した。通電終了後、攪拌を止めると、反応液が2相に分離した。上層を分析すると、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))が収率8%、FO2SCF2CF2SO3Hが収率2%、HCF2SO2F(化合物(5-1))が収率2%生成し、FO2SCF2CO2Hが11%残存していることが明らかになった。下相を分析すると、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))が収率41%、HCF2SO2F(化合物(5-1))が痕跡量生成していることが明らかになった。電流効率は、49%であった。反応容器と電極の関係について、高さTLは75mmであり、最高位TEが65mm、高さTSが8mm、最低位TE’が15mmであったため、TL>TEを満たし、TE’>TSを満たしていた。反応中、電圧が急激に上昇することはなく、ハンチングは発生しなかった。
【0370】
[実施例III-15]
外形が、直径30mm、高さ170mmであり、容量が50mLのシュレンク管に窒素雰囲気下、攪拌子、アセトニトリル(15g)、水(15g)を添加した後、0℃に冷却し、FO2SCF2CO2H(化合物(3-1)、5.1g、28.5mmоl)を加えた。陽極、及び陰極として、白金板電極(13mm×50mm)を3mmの間隔で設置し、溶液中に浸漬させた。0℃冷却下で攪拌を維持しつつ、電極に1.5A(231mA/cm2)の電流を0.75時間(1.5F/mоl)通電した。通電終了後、攪拌を止めると、反応液が2相に分離した。上層を分析すると、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))が収率7%、FO2SCF2CF2SO3Hが収率3%、HCF2SO2F(化合物(5-1))が収率1%、HO2CCF2SO3Hが痕跡量生成し、FO2SCF2CO2H(化合物(3-1))が5%残存していることが明らかになった。下相を分析すると、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))が収率38%、HCF2SO2F(化合物(5-1))が痕跡量生成していることが明らかになった。電流効率は、30%であった。反応容器と電極の関係について、高さTLは75mmであり、最高位TEが65mm、高さTSが5mm、最低位TE’が15mmであったため、TL>TEを満たし、TE’>TSを満たしていた。反応中、電圧が急激に上昇することはなく、ハンチングは発生しなかった。
【0371】
[実施例III-16]
外形が、直径30mm、高さ170mmであり、容量が50mLのシュレンク管に窒素雰囲気下、攪拌子、アセトニトリル(15g)、水(15g)を添加した後、0℃に冷却し、FO2SCF2CO2H(化合物(3-1)、5.0g、28.3mmоl)を加えた。陽極、及び陰極として、白金板電極(13mm×50mm)を3mmの間隔で設置し、溶液中に浸漬させた。0℃冷却下で攪拌を維持しつつ、電極に1.5A(231mA/cm2)の電流を1時間(2F/mоl)通電した。通電終了後、攪拌を止めると、反応液が2相に分離した。上層を19F-NMRで分析すると、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))が収率7%、FO2SCF2CF2SO3Hが収率3%、HCF2SO2F(化合物(5-1))が収率1%、HO2CCF2SO3Hが痕跡量生成し、FO2SCF2CO2H(化合物(3-1))が2%残存していることが明らかになった。下相を19F-NMRで分析すると、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))が収率44%、HCF2SO2F(化合物(5-1))が痕跡量生成していることが明らかになった。電流効率は、26%であった。反応容器と電極の関係について、高さTLは75mmであり、最高位TEが65mm、高さTSが8mm、最低位TE’が15mmであったため、TL>TEを満たし、TE’>TSを満たしていた。反応中、電圧が急激に上昇することはなく、ハンチングは発生しなかった。
【0372】
FO2SCF2CO2H(化合物(3-1))の貯蔵安定性を、下記方法に従い測定した。
[貯蔵安定性評価]
30mLのスクリュー管にFO2SCF2CO2H(化合物(3-1)、10.0g)、アセトニトリル(1.5g)、水(7.5g)、及び19F―NMR用内部標準物質としてオクタフルオロトルエン(0.3g)を添加し、振とうした後19F-NMRを測定し、オクタフルオロトルエンの-57.4ppmの三重線のピークの積分値を3、としたときの化合物(3-1)の-102.0ppmの二重線のピークの積分値を算出した結果、88.72であった。本数値を経過時間0時間の化合物(3-1)の基準含有量、とした。続いて、上記溶液を3本の10mLスクリュー管に分割し、それぞれのスクリュー管を-20℃、-3℃、23℃で静置し、所定時間経過後に19F-NMRを測定し、オクタフルオロトルエンの-57.4ppmの三重線のピークの積分値を3、としたときの化合物(3-1)の-102.0ppmの二重線のピークの積分値を算出し下式より化合物(3-1)の残存率を算出した。
化合物(3-1)の残存率=(-102.0ppmの二重線のピークの積分値)/88.72×100
【0373】
【0374】
表6より、FO2SCF2CO2H(化合物(3-1))、アセトニトリル、及び水の混合物は、3℃以下で貯蔵することにより、安定性が飛躍的に向上することが分かる。したがって、電解カップリング反応が、低温(例えば、-35℃~10℃の範囲)で行われることで原料の安定性が担保され副生成物の生成が抑制されると考えられる。
【0375】
<IV.電解カップリング反応(δ/γの関係および反応容器―電極の関係)>
[実施例IV-1]
100mLの三口フラスコに窒素雰囲気下、攪拌子、アセトニトリル(4.0g)、水(18.5g)を添加した後、0℃に冷却し、FO2SCF2CO2H(化合物(3-1)、15.0g、84.2mmоl)を加えた(δ/γ=1.5)。陽極、及び陰極として、白金板電極(25mm×50mm)を3mmの間隔で設置し、溶液中に浸漬させた。0℃冷却下で攪拌を維持しつつ、電極に1.5Aの電流を1.5時間通電した。通電終了後、攪拌を止めると反応液が2相に分離した。このうち下相を分液し、9.0gの液体を得た。得られた液体をサンプリングし、19F-NMRで測定すると、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1)、純度90.5%、収率72.7%)であることが分かった。
FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))
19F-NMR:δ(ppm)46.1(2F)、-108.7(4F)
【0376】
[実施例IV-2]
アセトニトリル(3.3g)、水(16.7g)、FO2SCF2CO2H(化合物(3-1)、15.0g、84.2mmоl)を使用したこと以外は、実施例IV-1と同様にして通電を行った(δ/γ=1.3)。通電終了後、攪拌を止めると反応液が2相に分離した。このうち下相を分液し、9.4gの液体を得た。得られた液体をサンプリングし、19F-NMRで測定すると、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1)、純度92.4%、収率77.5%)であることが分かった。
【0377】
[実施例IV-3]
(電解カップリング反応)
アセトニトリル(4.5g)、水(22.5g)、FO2SCF2CO2H(化合物(3-1)、30.0g、168.5mmоl)を使用し、通電時間を3時間としたこと以外は、実施例IV-1と同様にして通電を行った(δ/γ=0.9)。通電終了後、攪拌を止めると反応液が2相に分離した。このうち下相を分液し、20.6gの液体を得た。得られた液体をサンプリングし、19F-NMRで測定すると、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1)、純度92.4%、収率84.9%)であることが分かった。
【0378】
(環化工程)
1Lオートクレーブを-78℃に冷却し、アンモニアガス(60.0g、3523.2mmоl)、及びテトラヒドロフラン(110.0g)を添加した後、電解カップリング反応で得られたFO
2SCF
2CF
2SO
2F(化合物(4-1)、50g、純度92.4%、173.6mmоl)のテトラヒドロフラン(50.0g)溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了後、室温で12時間攪拌した。攪拌終了後、反応液を加圧濾過し、不溶固体を除去し、濾液を減圧濃縮、乾燥し、肌色固体45.4gを得た。得られた固体をサンプリングし、
19F-NMRで分析すると、下記構造式:
【化36】
で表される含フッ素環状スルホニルイミドアンモニウム塩(化合物(1-N-2)、純度97.7%、収率98.2%)であることが確認された。
化合物(1-N-2)
19F-NMR:δ(ppm)-115.4(4F)
【0379】
(カチオン交換工程)1Lの三口フラスコに、窒素雰囲気下、攪拌子、テトラヒドロフラン(100g)、環化工程で得られた含フッ素環状スルホニルイミドアンモニウム塩(化合物(1-N-2)、45.0g、169.0mmоl)、及び水酸化リチウム一水和物(8.0g、190.7mmоl)を添加し、70℃で4時間攪拌した。得られた反応液を減圧濃縮した後、水(120mL)、活性炭(16.5g)を添加し、105℃で3時間攪拌した。得られた反応液を加圧濾過し不溶固体を除去した後、減圧濃縮し肌色固体を得た。得られた肌色固体にテトラヒドロフラン(220g)を添加し、50℃で30分攪拌した後加圧濾過により不溶固体を除去し、減圧濃縮することで41.7gの白色固体を得た。得られた固体をサンプリングし、ICP発光分光分析法により分析を行ったところ、アンモニウムカチオンがリチウムカチオンに交換されていることを確認した。さらに、
19F-NMRで分析すると、下記構造式:
【化37】
で表される含フッ素環状スルホンイミドリチウム塩(化合物(1-2)、純度99.1%、収率98.2%)であることが確認された。
化合物(1-2)
19F-NMR:δ(ppm)-115.4(4F)
【0380】
[実施例IV-4]
アセトニトリル(4.1g)、水(20.9g)、FO2SCF2CO2H(化合物(3-1)、10.0g、56.2mmоl)を使用し(δ/γ=2.5)、通電時間を1時間としたこと以外は、実施例IV-1と同様にして通電を行った。通電終了後、攪拌を止めると反応液が2相に分離した。このうち下相を分液し、4.8gの液体を得た。得られた液体をサンプリングし、19F-NMRで測定すると、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1)、純度91.0%、収率58.5%)であることが分かった。
【0381】
[実施例IV-52]
アセトニトリル(5.0g)、水(25.0g)、FO2SCF2CO2H(化合物(3-1)、5.0g、28.1mmоl)を使用し(δ/γ=6.0)、通電時間を0.5時間としたこと以外は、実施例IV-1と同様にして通電を行った。通電終了後、攪拌を止めると反応液が2相に分離した。このうち下相を分液し、2.2gの液体を得た。得られた液体をサンプリングし、19F-NMRで測定すると、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1)、純度89.1%、収率51.5%)であることが分かった。
【0382】
[実施例IV-6]
アセトニトリル(4.0g)、水(20.0g)、FO2SCF2CO2H(化合物(3-1)、15.0g、84.2mmоl)を使用したこと以外は、実施例IV-1と同様にして通電を行った(δ/γ=1.6)。通電終了後、攪拌を止めると反応液が2相に分離した。このうち下相を分液し、8.3gの液体を得た。得られた液体をサンプリングし、19F-NMRで測定すると、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1)、純度91.1%、収率67.5%)であることが分かった。
【0383】
[実施例IV-7]
外形が、直径30mm、高さ170mmであり、容量が50mLのシュレンク管に窒素雰囲気下、攪拌子、アセトニトリル(4.5g)、水(22.5g)を添加した後、0℃に冷却し、FO2SCF2CO2H(化合物(4-1)、30.0g、168.5mmоl)を加えた。陽極、及び陰極として、白金板電極(13mm×50mm)を3mmの間隔で設置し、溶液中に浸漬させた。0℃冷却下で攪拌を維持しつつ、電極に1.5A(231mA/cm2)の電流を3時間(1F/mоl)通電した。通電終了後、攪拌を止めると、反応液が2相に分離した。上層を分析すると、HCF2SO2F(化合物(5-1)が収率0.1%、HO2CCF2SO3Hが収率0.7%生成し、FO2SCF2CO2H(化合物(3-1))が9%残存していることが明らかになった。下相を分析すると、FO2SCF2CF2SO2F(化合物(4-1))が収率72%、HCF2SO2F(化合物(5-1))が痕跡量生成していることが明らかになった。電流効率は、72%であった。
【0384】
[実施例IV-8]
(環化工程)
3Lオートクレーブを-78℃に冷却し、アンモニアガス(250g、14.68mоl)、及びテトラヒドロフラン(250mL)を添加した後、オートクレーブ内の温度を-55℃以下に保ちつつ、実施例IV-3の電解カップリング反応で得られたFO
2SCF
2CF
2SO
2F(化合物(4-1)、208g、0.71mоl)のテトラヒドロフラン(250.0mL)溶液を滴下した。滴下終了後、室温で終夜攪拌した。その後、攪拌を維持しつつ、内圧を常圧に戻し、アルゴンを0.5L/分の速度で1.5時間オートクレーブに吹きこみ、アンモニアを排出した。反応液を濾過することで白色固体を除去し、テトラヒドロフランで数回洗浄した。得られた濾液を3Lのフラスコに移し、減圧濃縮し、さらに40℃で12時間真空乾燥させることで固体188.0gを得た。得られた固体をサンプリングし、
19F-NMRで分析すると、下記構造式:
【化38】
で表される含フッ素環状スルホニルイミドアンモニウム塩(化合物(1-N-2)、0.7mоl、収率98%)であることが確認された。
【0385】
(カチオン交換工程) 1Lの三口フラスコに、窒素雰囲気下、攪拌子、テトラヒドロフラン(450mL)、環化工程で得られた含フッ素環状スルホニルイミドアンモニウム塩(化合物(1-N-2)、187.0g、0.69mоl)、及び水酸化リチウム一水和物(32.2g、0.77mоl)を添加し、70℃で4時間攪拌した。得られた反応液を減圧濃縮した後、イオン交換水(500mL)、活性炭(65.8g)を添加し、105℃で3時間攪拌した。得られた反応液を加圧濾過し不溶固体を除去した後、減圧濃縮し固体(205.8g)を得た。得られた肌色固体にテトラヒドロフラン(1L)を添加し、50℃で30分攪拌した後加圧濾過により不溶固体を除去し、減圧濃縮、70℃で16時間、90℃で10時間真空乾燥することで170.3gの微褐色固体を得た。得られた固体をサンプリングし、ICP発光分光分析法により分析を行ったところ、アンモニウムカチオンがリチウムカチオンに交換されていることを確認した。さらに、
19F-NMRで分析すると、下記構造式:
【化39】
で表される含フッ素環状スルホンイミドリチウム塩(化合物(1-2)、0.68mоl、収率98%)であることが確認された。
【0386】
<V.晶析>
<分析方法>
実施例及び比較例において使用した分析方法は、以下のとおりのものであった。
【0387】
(核磁気共鳴分析(NMR):1H-NMR、19F-NMRによる分子構造解析)
実施例及び比較例で得られた生成物について、1H-NMR(400MHz)、19F-NMR(376MHz)を用いて、下記測定条件にて分子構造解析を行った。
[測定条件]
測定装置:JNM-ECZ400S型核磁気共鳴装置(日本電子株式会社製)
観測核:1H又は19F
溶媒:重クロロホルム、重ジメチルスルホキシド
基準物質:テトラメチルシラン(1H,0.00ppm),トリクロロフルオロメタン(19F,0.00ppm)
基準物質濃度:5質量%
測定試料濃度:20質量%
パルス幅:6.5μ秒
待ち時間:2秒
積算回数:8回(1H)又は1024回(19F)。
尚、以下の実施例において、19F-NMR測定によって得られたスペクトルにおいて、含フッ素環状スルホニルイミド塩のピークの積分値の和をT1と、-115ppm~-125ppmの領域に単一のまたは複数の二重線ピークとして現れることに特徴的な不純物のピークの積分値の和をT2、T1とT2との比をT1/T2と表記し、これを含フッ素環状スルホニルイミドの純度を示す指標として用いる。また、19F-NMRにおける含フッ素環状スルホニルイミド塩、及び不純物のピークは、純度や残存溶媒量、測定条件等によって化学シフト値が±5ppm程度変動する場合がある。本発明に係る含フッ素環状スルホニルイミド塩は、このような化学シフト値の変動に伴う帰属の誤りに制限を受けるものではない。
【0388】
[実施例V-1]
特許文献2(国際公開第2006/106960号)の実施例[例2]及び[例4]から[例6]に記載された方法に従い、市販の2,2-ジフルオロ-2-フルオロスルホニル酢酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)を原料として、電解カップリング反応工程、アンモニアによる環化工程、水酸化リチウムによるカチオン交換工程を経て、下記構造式:
【化40】
で表される含フッ素環状スルホンイミドリチウム塩(化合物(1-2))を合成した。撹拌子を備えた100mLナスフラスコに、合成した化合物(1-2)10gと、tert-ブチルメチルエーテル27gとを秤量し、密栓を取り付けて30分撹拌した。得られた混合液を減圧濾過後、-20℃の冷凍庫で30分間冷却したところ、無色の結晶が生じた。デカンテーションによって液部を除去後、-35℃のtert-ブチルメチルエーテルを添加して薬さじで混ぜることにより結晶を洗浄し、液部をデカンテーションによって除去した。得られた結晶を無撹拌条件で60℃、40hPaの条件で3時間減圧乾燥した。乾燥後の結晶の質量は4.9gであり、使用量に基づく収率は49%であった。
19F-NMRにおいて、化合物(1-2)のピーク(δ(ppm)-110.0(4F))と、-117.2ppmに単一の二重線として見られた不純物のピークに関して、T1/T2は3170であった。ベンゾトリフルオリドを内部標準とした
1H-NMRの測定から、tert-ブチルメチルエーテルの残存量は0.72質量%であり、これらの結果から化合物(1-2)の純度は99.2質量%であった。得られた乾燥後の結晶は薬さじで砕くことで容易に全量をナスフラスコから取り出すことが可能であった。
【0389】
[比較例V-1]
実施例V-1と同様に化合物(1-2)を合成したが、その後に晶析による精製を行なわなかった。19F-NMRにおいて、化合物(1-2)のピーク(δ(ppm)-115.4(4F))と、-122ppm~-125ppmの領域に複数の二重線として見られた不純物のピークの積分値の和に関して、T1/T2は215と低純度であり、破砕乾燥後に得られた粉体は褐色に着色していた。
【0390】
[比較例V-2]
実施例V-1と同様に化合物(1-2)を合成した。次いで、20mLナスフラスコに合成した化合物(1-2)1gとアセトン(沸点56℃)2gを秤量し、密栓を取り付けて30分撹拌した。混合液を-50℃で一晩冷却したが、結晶は生じず、高純度化はできなかった。回収のため60℃、10hPaの条件で3時間減圧乾燥したところ、内容物は壁面の一部が固化したのみで、底部には高粘性の液体が残存しており、薬さじで固体として回収することは不可能であった。低沸点のアセトンを用いても多量の溶媒が残存したのは、アセトンとリチウムとの高い親和性により、アセトンの留去が阻害されたためと考えられる。
【0391】
[比較例V-3]
実施例V-1と同様に化合物(1-2)を合成した。次いで、50mLナスフラスコに合成した化合物(1-2)1gと炭酸ジメチル2gを秤量し、密栓を取り付けて30分撹拌した。混合物を濾過後、得られた液にシクロヘキサン20gを添加したところ、内容液は2相に分離し、結晶は生じなかった。相分離した内容液を-20℃で一晩冷却したが、化合物(1-2)の結晶は生じず、高純度化はできなかった。炭酸ジメチルとリチウムとの高い親和性により結晶化が抑制されたためと考えられる。
【0392】
[実施例V-2]
実施例V-1と同様に化合物(1-2)を合成した。次いで、200mLナスフラスコに合成した化合物(1-2)10gと炭酸ジメチル20gを秤量し、密栓を取り付けて30分撹拌した。混合物を濾過後、液を-50℃で一晩冷却したが、結晶は生じなかった。回収のため100℃、5hPaの条件で10時間減圧乾燥したところ、混合物全体が白濁したゲル状物となり、その後更に乾燥を続けることで高粘性の固体状となった。ここにtert-ブチルメチルエーテル27gを加えて溶解させた後に、-50℃で一晩冷却したところ、無色の結晶が生じた。液部をデカンテーションにより除去した後、-35℃のtert-ブチルメチルエーテルを添加して薬さじで混ぜることにより結晶を洗浄し、液部をデカンテーションによって除去した。得られた結晶を無撹拌条件で60℃、40hPaの条件で3時間減圧乾燥した。得られた結晶を回収すべく薬さじで砕いて取り出すことを試みたが、ナスフラスコ底部への固着が顕著であり、薬さじでの粉砕で得られた結晶は2.7g(収率27%)に留まった。固着による損失は2.0gであった。リチウムとの親和性の高い炭酸ジメチルが残存したことで乾燥時に結晶が部分溶解し、ナスフラスコ壁面に固着したものと考えられる。結晶同士の固着による試料の不均一性が予想されたことから、回収できた結晶を更に100℃、20hPaの条件で3時間乾燥させ、乳棒で粉砕することで最終的に結晶2.4gを取得した。19F-NMRによるT1/T2は1550であった。ベンゾトリフルオリドを内部標準とした1H-NMRの測定から、tert-ブチルメチルエーテルの残存量は0.29質量%、炭酸ジメチルの残存量は0.13質量%であり、これらの結果から化合物(1-2)の純度は99.5質量%であった。
【0393】
[比較例V-4]
実施例V-1と同様に化合物(1-2)を合成した。次いで、20mLナスフラスコに合成した化合物(1-2)1.0gとテトラヒドロフラン(沸点65℃)1.3gを秤量し、密栓を取り付けて30分撹拌した。混合液を-50℃で一晩冷却したが結晶は生成せず、高純度化はできなかった。回収のため60℃、10hPaの条件で3時間減圧乾燥したところ、内容物は壁面の一部が固化したのみで、底部には高粘性の液体が残存しており、薬さじで固体として回収することは不可能であった。低沸点のエーテル溶媒であるテトラヒドロフランを用いても多量の溶媒が残存したのは、テトラヒドロフランの環状構造に伴うリチウムへの強い配位力により、テトラヒドロフランの留去が阻害されたためと考えられる。
【0394】
[実施例V-5]
実施例V-1と同様に化合物(1-2)の合成、晶析および乾燥を行い、4.9gの結晶を得た。次いで、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロペンタン30mLを添加して薬さじで混ぜることにより結晶を洗浄し、100℃、15hPa条件で7時間乾燥した。この洗浄および乾燥操作を計5回繰り返し、最終的に結晶4.6gを取得した。19F-NMRによるT1/T2は3355であった。ベンゾトリフルオリドを内部標準とした1H-NMRの測定から、tert-ブチルメチルエーテルの残存量は0.072質量%であり、これらの結果から化合物(1-2)の純度は99.9質量%であった。得られた乾燥後の結晶は薬さじで砕くことで容易に全量をナスフラスコから取り出すことが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0395】
本発明に係る構成要件の範囲内の非水系電解液は、高温耐久性の向上および金属腐食性の低減が求められる電池に利用できる為、特に本発明の非水系電解液を用いた非水系二次電池は、例えば、携帯電話機、携帯オーディオ機器、パーソナルコンピュータ、IC(Integrated Circuit)タグ等の携帯機器用の充電池;ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車等の自動車用充電池;12V級電源、24V級電源、48V級電源等の低電圧電源;住宅用蓄電システム、IoT機器等としての利用等が期待される。また、本発明の非水系電解液を用いた非水系二次電池は、寒冷地用の用途、及び夏場の屋外用途等にも適用することができる。
【0396】
本発明に係る含フッ素環状スルホニルイミド塩(1A)は、耐熱特性が高く、広い温度領域で使用可能なものであるため、帯電防止剤、有機電解質等のイオン電導材料や難燃剤として好適に利用可能である。
【0397】
本発明に係る製造方法により、界面活性剤、帯電防止剤、電解質、イオン液体、触媒等の原材料となるビス(フルオロスルホニル)化合物を、副生成物であるフルオロスルホニル基含有化合物の含有量を低減しつつ製造することができる。
【0398】
本発明に係る製造方法により、界面活性剤、帯電防止剤、電解質、イオン液体、触媒等の原材料となるビス(フルオロスルホニル)化合物を、高い収率で安定して製造することができる。
【0399】
本発明に係る製造方法により、残存溶媒量、及びフッ素系不純物の少ない含フッ素環状スルホニルイミド塩を高効率に製造することができる。残存溶媒量の低減により、より簡易な設備、低コスト、熱履歴での製造が可能である。また、不純物量の低減により着色の抑制が可能である。したがって、本発明に係る製造方法により得られる含フッ素環状スルホニルイミド塩は、イオン電導材料、帯電防止剤、難燃剤等として好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0400】
1 反応容器
2 一対の電極
3 水相(上層)
4 有機相(下層)
TL 反応容器底部から反応液の液面までの高さ(距離)
TE 反応容器底部から電極上部(最高位)までの高さ(距離)
TE’ 反応容器底部から電極下部(最低位)までの高さ(距離)
TS 反応容器底部から、有機相と水相の間の界面までの高さ(距離)
【0401】
100 非水系二次電池
110 電池外装
120 電池外装の空間
130 正極リード体
140 負極リード体
150 正極
160 負極
170 セパレータ