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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】繊維強化プラスチックの個体認識方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/42 20060101AFI20241113BHJP
   B29C 70/06 20060101ALI20241113BHJP
   G05B 19/418 20060101ALN20241113BHJP
【FI】
B29C70/42
B29C70/06
G05B19/418 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023516446
(86)(22)【出願日】2022-04-08
(86)【国際出願番号】 JP2022017430
(87)【国際公開番号】W WO2022224852
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-08-21
(31)【優先権主張番号】P 2021071135
(32)【優先日】2021-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡 勇登
(72)【発明者】
【氏名】谷上 香織
(72)【発明者】
【氏名】峰尾 千緒
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-038733(JP,A)
【文献】国際公開第2019/172208(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/42
B29C 70/06
G05B 19/418
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化プラスチックの個体認識方法であって、前記繊維強化プラスチックの表面には不連続繊維がランダムに配列しており、前記不連続繊維は不連続繊維束A1を含み、
以下の工程を具備する、繊維強化プラスチックの個体認識方法。
工程101.繊維強化プラスチックの表面にランダムに配列している不連続繊維を識別情報として予め取得して、不連続繊維束A1の面積が2000mm 以上含まれる識別情報画像P1を取得し、前記繊維強化プラスチックの製品情報を関連付けして記憶させたデータベースを作成する段階、
工程201.工程101の後に、繊維強化プラスチックの識別情報を取得して、識別情報画像P2を取得する段階、
工程301.取得した前記識別情報画像P2と、前記データベースに記憶された前記識別情報画像P1とを照合することにより、繊維強化プラスチックの個体認識を行う段階、
ただし、工程101の繊維強化プラスチック製品に含まれる樹脂M1は、工程201の繊維強化プラスチック製品に含まれる樹脂M2よりも数平均分子量が大きい。
【請求項2】
前記製品情報は、繊維長、繊維体積割合、繊維の銘柄、樹脂の銘柄、製造日、製造時刻、又は製品シリアル番号の少なくともいずれか一つを含む、請求項1に記載の繊維強化プラスチックの個体認識方法。
【請求項3】
工程101の繊維強化プラスチックは成形材料であって、
工程201の繊維強化プラスチックは成形体であり、前記成形体は成形材料を圧縮成形して得られたものである、
請求項1に記載の繊維強化プラスチックの個体認識方法。
【請求項4】
前記圧縮成形は、上型と下型を備えた成形型を用いたコールドプレス成形であって、
識別情報は、下型へ接触する側の繊維強化プラスチックの表面画像である、
請求項3に記載の個体認識方法。
【請求項5】
請求項4に記載の個体認識方法であって、
識別情報は、非流動領域、又は低流動領域に存在する、個体認識方法。
【請求項6】
前記識別情報画像は、非破壊検査データである、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチックの個体認識方法。
【請求項7】
前記繊維強化プラスチックの識別情報を撮像する際に、ラインスキャン照明又はドーム型照明を用いる、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチックの個体認識方法。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチックの個体認識方法を用いて個体認識を行った後、繊維強化プラスチックに含まれる樹脂の劣化具合を評価する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像した繊維強化プラスチックの画像に基づき、繊維強化プラスチックの個体を認識する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維強化プラスチックは、例えば特許文献1に記載の発明のように、繊維強化プラスチックの表面にレーザーマーキングしてQRコード(登録商標)を印字し、これをスキャナで読み込むことで個体認証してきた。QRコード(登録商標)には繊維強化プラスチックが保有する製品情報が含まれている。
【0003】
一方、物体の個体認証する方法として、例えば特許文献2では、物体を識別するために、同一平面上に載置された2以上の物体について撮像手段により撮像された画像を取り込み、この画像を画像認識することにより前記物体の種類を識別する画像処理手段を備えた物体識別装置に関する発明が記載されている。
【0004】
特許文献3では、医療材料を簡単かつスピーディに認識して、正確な集計や管理に利用できる医療材料認識システムが提供されている。
【0005】
特許文献4では、製造条件を把握し、欠陥が生じた原因の究明を容易にするため、焼結製品個々の個体識別を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2015/137093号
【文献】日本国特開2012-198848号公報
【文献】日本国特開2019-168765号公報
【文献】日本国特開2013-232069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のレーザーマーキングを利用するには高額な専用マーキング装置が必要になる。また、製品の一部にマーキング加工痕(例えばQRコード(登録商標))を残すため、外観が求められる製品には適用が難しい。
【0008】
特許文献2に記載の個体認証は、異なる種類のパンは認識できるものの、同じ種類のパンは区別できないため、製品出荷後の追跡には使用できない。
【0009】
特許文献3に記載の医療材料認識システムでは、包装材に意図的で明示的に与えられた文字や図形などの特徴から医療材料の種類を識別するものであり、包装材のない製品そのものの識別はできない。また、同じ種類の医療材料の区別はできないため、製品出荷後の追跡には使用できない。
【0010】
特許文献4に記載の個体識別方法は、繊維強化プラスチックを用いておらず、繊維強化プラスチックの個体認識するための検討が不十分である。
【0011】
そこで本発明は従来技術の有する問題点を鑑み、高額な専用マーキング装置などの識別のための加工、及びその装置が不要となる、繊維強化プラスチックの個体認識方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
1.以下の工程を具備する、繊維強化プラスチックの個体認識方法。
工程101.繊維強化プラスチックの識別情報を予め取得して、識別情報画像P1を取得し、前記繊維強化プラスチックの製品情報を関連付けして記憶させたデータベースを作成する段階、
工程201.工程101の後に、繊維強化プラスチックの識別情報を取得して、識別情報画像P2を取得する段階、
工程301.取得した前記識別情報画像P2と、前記データベースに記憶された前記識別情報画像P1とを照合することにより、繊維強化プラスチックの個体認識を行う段階、
ただし、工程101の繊維強化プラスチック製品に含まれる樹脂M1は、工程201の繊維強化プラスチック製品に含まれる樹脂M2よりも数平均分子量が大きい。
【0014】
2.前記製品情報は、繊維長、繊維体積割合、繊維の銘柄、樹脂の銘柄、製造日、製造時刻、又は製品シリアル番号の少なくともいずれか一つを含む、前記1に記載の繊維強化プラスチックの個体認識方法。
3.工程101の繊維強化プラスチックは成形材料であって、
工程201の繊維強化プラスチックは成形体であり、前記成形体は成形材料を圧縮成形して得られたものである、
前記1又は2のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチックの個体認識方法。
4.前記圧縮成形は、上型と下型を備えた成形型を用いたコールドプレス成形であって、
識別情報は、下型へ接触する側の繊維強化プラスチックの表面画像である、
前記3に記載の個体認識方法。
5.前記4に記載の個体認識方法であって、
識別情報は、非流動領域、又は低流動領域に存在する、個体認識方法。
【0015】
6.前記繊維強化プラスチックの表面は、不連続繊維がランダムに配列しており、
当該ランダムに配列している不連続繊維を、前記識別情報として取得する、前記1乃至5のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチックの個体認識方法。
7.不連続繊維は不連続繊維束A1を含み、識別情報画像P1には、不連続繊維束A1の面積が、2000mm以上含まれる、前記6に記載の繊維強化プラスチックの個体認識方法。
8.前記識別情報画像は、非破壊検査データである、前記1乃至7のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチックの個体認識方法。
9.前記繊維強化プラスチックの識別情報を撮像する際に、ラインスキャン照明又はドーム型照明を用いる、前記1乃至8のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチックの個体認識方法。
10.前記1乃至9のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチックの個体認識方法を用いて個体認識を行った後、繊維強化プラスチックに含まれる樹脂の劣化具合を評価する方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の繊維強化プラスチックの個体認識方法を用いれば、繊維強化プラスチックが保有する固有の外観情報に基づくため、高額な専用マーキング装置や、識別のための加工およびそのための装置が不要である。
【0017】
また、本発明は、同じ銘柄の製品であっても、繊維強化プラスチックが保有する固有のパターンを認識するため、製品個別の識別が可能であり、製品出荷後の追跡が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】強化繊維が不連続繊維であって、2次元にランダム配列した繊維強化プラスチックの模式図。
図2】成形材料が成形体となったことを示す模式図。
図3】流通前後の成形体を示す模式図。
図4】コールドプレスしたとき、成形材料の内部が流動して、最初に配置した成形材料の外周へ成形材料が流出していることを示した模式図。
図5】(a)成形型に成形材料を配置し、上型を下降している様子を示した模式図(プレス圧力は加わっていない)。(b)上型を閉じて、成形材料へ圧力を加えている様子を示した模式図。
図6】(a)リング照明を使用して繊維強化プラスチックの表面を撮像した画像。(b)ドーム照明を使用して繊維強化プラスチックの表面を撮像した画像。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0020】
[強化繊維]
1.種類
本発明の繊維強化プラスチックには強化繊維が含まれる。強化繊維に特に限定は無いが、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、玄武岩繊維からなる群より選ばれる1つ以上の強化繊維であることが好ましい。
【0021】
強化繊維としてPAN系炭素繊維を用いる場合、その引張弾性率は100~600GPaの範囲内であることが好ましく、200~500GPaの範囲内であることがより好ましく、230~450GPaの範囲内であることがさらに好ましい。また、引張強度は2000~6000MPaの範囲内であることが好ましく、3000~6000MPaの範囲内であることがより好ましい。
【0022】
2.不連続繊維
強化繊維は不連続繊維を含むことが好ましい。不連続繊維を用いた場合、連続繊維のみを用いた繊維強化プラスチックに比べて賦形性が向上し、複雑な成形体を作成することが容易となる。
【0023】
3.強化繊維の重量平均繊維長
本発明に用いられる強化繊維は不連続強化繊維であって、重量平均繊維長が1~100mmであればよい。不連続強化繊維の重量平均繊維長は、3~80mmであることがより好ましく、5~60mmであることがさらに好ましい。重量平均繊維長が100mm以下であれば、繊維強化プラスチックを成形材料と使用する場合、成形材料の流動性が向上し、例えば圧縮成形等により所望の成形体形状を得やすい。一方、重量平均繊維長が1mm以上の場合、繊維強化プラスチックの機械強度が向上する。
【0024】
本発明においては繊維長が互いに異なる強化繊維を併用してもよい。換言すると、本発明に用いられる強化繊維は、重量平均繊維長に単一のピークを有するものであってもよく、あるいは複数のピークを有するものであってもよい。
【0025】
強化繊維の平均繊維長は、例えば、繊維強化プラスチックから無作為に抽出した100本の繊維の繊維長を、ノギス等を用いて1mm単位まで測定し、下記式に基づいて求めることができる。平均繊維長の測定は、重量平均繊維長(Lw)で測定する。個々の強化繊維の繊維長をLi、測定本数をjとすると、数平均繊維長(Ln)と重量平均繊維長(Lw)とは、以下の式(c)、(d)により求められる。
Ln=ΣLi/j・・・式(c)
Lw=(ΣLi)/(ΣLi)・・・式(d)
なお、繊維長が一定長の場合は数平均繊維長と重量平均繊維長は同じ値になる。
【0026】
繊維強化プラスチックからの強化繊維の抽出は、例えば、繊維強化プラスチックに対し、500℃×1時間程度の加熱処理を施し、炉内にて樹脂を除去することによって行うことができる。
【0027】
4.繊維体積割合
強化繊維の繊維体積割合Vfに特に限定は無いが、20~70%が好ましく、25~60%がより好ましく、30~55%が更に好ましい。
なお、繊維体積割合(Vf単位:体積%)とは、強化繊維とマトリクス樹脂だけではなく、その他の添加剤等も含めた全体の体積に対する強化繊維の体積の割合である。
【0028】
5.繊維径
本発明に用いられる強化繊維が炭素繊維の場合、炭素繊維の繊維径は、平均繊維径として、通常3~50μmの範囲内であることが好ましく、4~12μmの範囲内であることがより好ましく、5~8μmの範囲内であることがさらに好ましい。ここで、上記平均繊維径は、炭素繊維の単糸の直径を指すものとする。したがって、炭素繊維が繊維束状である場合は、繊維束の径ではなく、繊維束を構成する炭素繊維(単糸)の直径を指す。炭素繊維の平均繊維径は、例えば、JISR-7607:2000に記載された方法によって測定することができる。
【0029】
強化繊維としてガラス繊維を用いる場合、ガラス繊維の平均繊維直径は、1μm~50μmが好ましく、5μm~20μmがより好ましい。平均繊維径が大きいと樹脂の繊維への含浸性が容易となり、上限以下であれば成形性や加工性が良好となる。
【0030】
6.繊維束
強化繊維が不連続繊維であって、繊維束を開繊して用いる場合、繊維強化プラスチックに含まれる強化繊維は、単糸状のもののみであってもよく、繊維束状のもののみであってもよく、両者が混在していてもよい。本発明に用いられる強化繊維が繊維束状である場合、各繊維束を構成する単繊維(単糸などとも称される)の数は特に限定されるものではないが、通常、1000本~10万本の範囲内とされる。強化繊維として炭素繊維を使用する場合、一般的に、炭素繊維は、数千~数万本の単繊維が集合した繊維束状となっている。炭素繊維をこのまま使用すると、繊維束の交絡部が局部的に厚くなり薄肉の衝撃吸収部材を得ることが困難になる場合がある。このため、強化繊維として炭素繊維を用いる場合は、繊維束を拡幅したり、又は開繊したりして使用するのが通常である。
【0031】
より具体的には、下記式(a)で定義される臨界単糸数以上で構成される強化繊維束(A)と、それ以外の開繊された強化繊維(B)、すなわち単糸の状態または臨界単糸数未満で構成される繊維束とからなることが好ましい。
臨界単糸数=600/D 式(a)
(ここでDは強化繊維の平均繊維径(μm)である)
【0032】
強化繊維の開繊程度は、例えば、開繊工程にて吹き付ける空気の圧力調整等、繊維束の開繊条件を調整することにより目的の範囲内とすることができる。
【0033】
本発明において、強化繊維が不連続繊維であって、不連続繊維が不連続繊維束A1を含む場合、不連続繊維束A1の平均繊維数(N)は本発明の目的を損なわない範囲で適宜決定することができるものであり、特に限定されるものではないが、下記式(b)を満たすことが好ましい。
0.6×10/D<N<6×10/D 式(b)
(ここでDは強化繊維の平均繊維径(μm)である)
【0034】
具体的には繊維強化プラスチックに含まれる強化繊維が炭素繊維であって、その平均繊維径が5~7μmの場合、臨界単糸数は86~120本となり、炭素繊維の平均繊維径が5μmの場合、炭素繊維束の平均繊維数(N)は240~24000本となるが、300~10000本であることがより好ましく、500~5000本であることがさらに好ましい。炭素繊維の平均繊維径が7μmの場合、炭素繊維束の平均繊維数(N)は122~12200本となるが、200~5000本であることがより好ましく、300~3000本であることがさらに好ましい。炭素繊維束の平均繊維数(N)が0.6×10/D以上の場合、繊維強化プラスチックの炭素繊維体積割合(Vf)を高めることが容易となり、結果的に所望の機械特性を得られやすくなる。一方で、炭素繊維束の平均繊維数(N)が6×10/D以下の場合、局部的に厚い部分が生じにくく、繊維強化プラスチックにボイドが生じにくくなる。
【0035】
7.強化繊維の配向
繊維強化プラスチックに含まれる強化繊維の配向状態としては、例えば、強化繊維の長軸方向が一方向に配列した一方向配列や、上記長軸方向が成形材料の面内方向においてランダムに配列した2次元ランダム配列を挙げることができる。
【0036】
本発明における強化繊維の配向状態は、上記一方向配列又は2次元ランダム配列のいずれであってもよい。また、上記一方向配列と2次元ランダム配列の中間の無規則配列(強化繊維の長軸方向が完全に一方向に配列しておらず、かつ完全にランダムでない配列状態)であってもよい。さらに、強化繊維の繊維長によっては、強化繊維の長軸方向が繊維強化プラスチックの面内方向に対して角度を有するように配列していてもよく、繊維が綿状に絡み合うように配列していてもよく、さらには繊維が平織や綾織などの二方向織物、多軸織物、不織布、マット、ニット、組紐、強化繊維を抄紙した紙等のように配列していてもよい。
【0037】
本発明における強化繊維は、強化繊維マットの状態であっても良い。強化繊維マットとは、強化繊維が堆積し、または絡みあうなどしてマット状になったものをいう。強化繊維マットとしては、強化繊維の長軸方向が繊維強化プラスチックの面内方向においてランダムに配列した2次元ランダムの強化繊維マットや、強化繊維が綿状に絡み合うなどして、強化繊維の長軸方向がXYZの各方向においてランダムに配列している3次元ランダムの強化繊維マットが例示される。
【0038】
なお、繊維強化プラスチックにおける強化繊維の2次元ランダム配列の配向態様は、例えば、繊維強化プラスチックの任意の方向、及びこれと直交する方向を基準とする引張試験を行い、引張弾性率を測定した後、測定した引張弾性率の値のうち大きいものを小さいもので割った比(Eδ)を測定することで確認できる。弾性率の比が1に近いほど、強化繊維が2次元ランダム配列していると評価できる。直交する2方向の弾性率の値のうち大きいものを小さいもので割った比が2を超えないときに等方性であるとされ、この比が1.3を超えないときは等方性に優れていると評価される。
【0039】
強化繊維の配置の方向を制御する手法として特に限定は無いが、具体的には強化繊維の形状に繊維束を使用する手法、繊維強化プラスチックの製造時にエアレイド法、カーディング法、抄紙法を用いる事で達成できる。
【0040】
[樹脂]
本発明において樹脂の種類に特に限定は無く、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が用いられる。熱硬化性樹脂を用いる場合、不飽和ポリエステル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系の樹脂であることが好ましい。
樹脂としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
[シートモールディングコンパウンド]
本発明の繊維強化プラスチックは、強化繊維を用いたシートモールディングコンパウンド(SMCと呼ぶ場合がある)を成形したものであっても良い。シートモールディングコンパウンドはその成形性の高さから、バッテリートレイやバッテリーカバーのような複雑形状であっても、容易に成形することができる。
【0042】
シートモールディングコンパウンド(SMC)を用いた繊維強化プラスチックとしては、Continental Structural Plastics社製(CSPと略する場合がある)のシートモールディングコンパウンドを利用することができる。
【0043】
[その他の剤]
本発明で用いる繊維強化樹脂中には、本発明の目的を損なわない範囲で、有機繊維または無機繊維の各種繊維状または非繊維状のフィラー、無機充填剤、難燃剤、耐UV剤、安定剤、離型剤、顔料、軟化剤、可塑剤、界面活性剤等の添加剤を含んでいてもよい。
また、熱硬化性樹脂を用いる場合には、増粘剤、硬化剤、重合開始剤、重合禁止剤などを含有してもよい。添加剤としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
[個体認識方法]
本発明における繊維強化プラスチックの個体認識方法は、以下の工程101、工程201、工程301を具備する。
工程101.繊維強化プラスチックの識別情報を予め取得して、識別情報画像P1を取得し、前記繊維強化プラスチックの製品情報を関連付けして記憶させたデータベースを作成する段階、
工程201.工程101の後に、繊維強化プラスチックの識別情報を取得して、識別情報画像P2を取得する段階、
工程301.取得した前記識別情報画像P2と、前記データベースに記憶された前記識別情報画像P1とを照合することにより、繊維強化プラスチックの個体認識を行う段階、
ただし、工程101の繊維強化プラスチック製品に含まれる樹脂M1は、工程201の繊維強化プラスチック製品に含まれる樹脂M2よりも数平均分子量が大きい。
【0045】
工程101は繊維強化プラスチックの識別情報を予め取得して、識別情報画像P1を取得し、前記繊維強化プラスチックの製品情報を関連付けして記憶させたデータベースを作成する段階であるが、好ましくは、繊維強化プラスチックの識別情報を予め撮像して、識別情報画像P1を取得し、前記繊維強化プラスチックの製品情報を関連付けして記憶させたデータベースを作成する段階である。
繊維強化プラスチックの識別情報は、繊維強化プラスチックの表面画像であることが好ましい。
繊維強化プラスチックの識別情報は、繊維強化プラスチックの表面を撮像することにより得られる画像であることが好ましい。
なお、工程101では繊維強化プラスチックの識別情報を予め取得するが、識別情報が繊維強化プラスチックの表面を撮像することにより得られる繊維強化プラスチックの表面画像である場合は、撮像自体は、工程101を行う者が行ってもよいし、工程101を行う者以外の者が行ってもよい。
【0046】
工程101はあるロットの識別情報を備えた繊維強化プラスチックと、その識別情報画像を紐づけたデータ{Lot.1…n;P1…Pn}をn組含むデータベースを作成する段階でもある。工程101において繊維強化プラスチックは製品情報が明確である。
【0047】
一方、工程201における繊維強化プラスチックの識別情報は不明である。市場に流通する等したためである。工程201で不明な繊維強化プラスチックの識別情報を撮像することによって、識別情報画像P2を取得し、工程301で識別情報画像P2をデータベースにある識別情報画像と照合する。データベースに登録されていれば、不明な繊維強化プラスチックの製品情報を照会できる。
【0048】
[個体認識方法:工程101]
1.識別情報画像P1は、認識対象の繊維強化プラスチック自体の識別情報を撮像して取得する。
撮像するための撮像装置に特に限定は無いが、例えばレンズが取り付けられたデジタルカメラからなり、撮像した繊維強化プラスチックの識別情報をデジタル画像の電子データとして取得してコンピュータにその識別情報画像データを送る。例えば、撮像装置は、繊維強化プラスチックの識別情報に正対して、識別情報の全体を撮影しうるように設定されている。繊維強化プラスチックの表面で反射する余計な光や映り込みをおさえるため、製品および周囲光源とカメラの位置を調整することや、撮像装置のレンズの先端に、例えば、レンズに入る光を直線偏光する偏光フィルタを設置することを行うことで、繊維強化プラスチックの識別情報を正確に撮像できる。コンピュータは周知のものを利用できる。
【0049】
繊維強化プラスチックの識別情報を撮像する際には、照明を使用してもよい。
照明としては、ラインスキャン照明、自然光(太陽光)、ドーム型照明(拡散光)、リング型照明、多角度照明(リングライトを様々な方向から当てて合成)などがあるが、ラインスキャン照明又はドーム型照明が好ましく、ドーム型照明が特に好ましい。ラインスキャン照明は、一方向のみから照明を当ててもよいし、正反射の位置から撮像してもよいし、正反射の位置から少しずらして撮像してもよい。例えばリング型照明及び多角度照明の場合などで、反射が強いなどの理由から撮像できない場合は、写真を合成してもよい。
繊維強化プラスチックを回転させると得られる像が異なる場合があるため、毎回同じ方向から撮像することが好ましい。
【0050】
2.識別情報と識別情報画像
好ましくは、繊維強化プラスチックの識別情報は、例えば、繊維強化プラスチック自体の表面に観察される強化繊維の模様であり、例えば図1で示される。言い換えると、繊維強化プラスチックの表面画像そのものを識別情報画像P1とすることができる。本発明の個体認証は、指紋認証の工業製品版というともできるため、繊維強化プラスチックの表面画像の取得は、指紋に相当するといえる。
【0051】
前記繊維強化プラスチックの表面は、不連続繊維がランダムに配列しており、当該ランダムに配列している不連続繊維を、前記識別情報として撮像することが好ましい。例えば図1に描いた繊維強化プラスチックは、強化繊維が不連続繊維であって、2次元にランダム配列している。このような繊維形態は、同一銘柄の製品であっても個々の製品ごとに異なる。具体的には配列された繊維の束の位置、向き、太さ、長さなどの特徴は、個々の製品ごとに差異が生じるため、識別情報として用いることが可能である。
【0052】
不連続繊維は不連続繊維束A1を含み、撮像して識別情報画像P1には、不連続繊維束A1の面積が、2000mm以上が好ましく、4000mm以上であればより好ましく、8000mm以上含まれると更に好ましい。
【0053】
繊維強化プラスチックの識別情報は、例えば400mm×400mmの範囲で撮像したものを、識別情報データとすると好ましい。この範囲であれば、識別可能な不連続繊維束A1の面積が必要量以上に含まれている。この情報を加工してデータベースに保存しても良い。
【0054】
また、識別情報画像は、非破壊検査データであれば良く、必ずしも表面の観察模様には限定されない。具体的にはX線装置、γ線装置、超音波装置、ミリ波装置、マイクロ波装置、過電流装置、サーモグラフィーなどにより、取得された画像を含む。さらに、非破壊検査データは二次元の画像に限らず、三次元データとして構成されていても良い。
【0055】
3.製品情報
製品情報は、繊維長、繊維体積割合、繊維の銘柄、樹脂の銘柄、製造日、製造時刻、又は製品シリアル番号の少なくともいずれか一つを含むことが好ましい。製造日時や製品シリアル番号は、別途保存されている製品の生産工程データや検査、輸送、販売履歴データなどと関連づけされており、個々の製品に関わるあらゆるデータを抽出できるトレーサビリティシステムとして活用することが好ましい。
【0056】
4.データベース
データベースは、識別情報画像P1を取得し、取得した画像に対応する繊維強化プラスチックの製品情報を関連付けして記憶して作成する。データベースは複数の繊維強化プラスチックの識別情報と対応する製品情報を関連付けして記憶させたデータベースであり、コンピュータの記憶部に記憶すると良い。
【0057】
5.成形材料としての繊維強化プラスチック
工程101の繊維強化プラスチックは成形材料であることが好ましい。成形材料は圧縮成形し、成形体となるものが好ましく、圧縮成形は、上型と下型を備えた成形型を用いたコールドプレス成形であるとより好ましい。
【0058】
[個体認識方法:工程201]
1.識別情報画像P2の取得
工程201は、工程101の後に、再度、繊維強化プラスチックの識別情報を取得して、識別情報画像P2を取得する段階である。撮像装置は工程101と同様のものを用いれば良い。
なお、工程102では繊維強化プラスチックの識別情報を取得するが、識別情報が繊維強化プラスチックの表面を撮像することにより得られる繊維強化プラスチックの表面画像である場合は、撮像自体は、工程102を行う者が行ってもよいし、工程102を行う者以外の者が行ってもよい。
【0059】
2.成形体としての繊維強化プラスチック
工程201の繊維強化プラスチックは成形体であり、成形体は成形材料を圧縮成形して得られたものが好ましい。
【0060】
3.繊維強化プラスチックに備えられた識別情報
圧縮成形は、上型と下型を備えた成形型を用いたコールドプレス成形であって、識別情報は、下型へ接触する側の繊維強化プラスチックの表面画像であることが好ましい。ただし、必ずしも下型へ接触する側の繊維強化プラスチックの全てを撮像する必要は無い。
【0061】
コールドプレス成形の場合、下型へ接触する側の繊維強化プラスチックの表面は、成形時の流動性が低いか、又は非流動である。特に繊維強化プラスチックの樹脂が熱可塑性樹脂の場合は、これ傾向が顕著に表れる。樹脂が熱可塑性樹脂の繊維強化プラスチック(成形材料)をコールドプレスする場合、成形型は可塑化温度以下であるので、加熱された成形材料を下型へ接触した瞬間に、成形材料表面の熱可塑性樹脂は固化し、非流動領域となる。繊維強化プラスチックを下型に配置した際、最初に下型へ接触している面は、例えば図4の403で示される。図4の401は下型、図4の402は上型である。成形材料内部は、下型への配置後であっても可塑化温度以上を維持しており、上型が下降してプレス圧が加わると、繊維強化プラスチックの内部は流動し成形材料の外部へ流出する(例えば図4の404)。この流出により、最初に成形材料が下型へ接触している面の外周領域では、流動領域を形成する。
【0062】
同様の様子を図5に示す。図5(a)は成形材料を成形型に配置した状態、図5(b)は成形材料へプレス圧力を加えている状態である。したがって、工程201において、下型へ接触する側の繊維強化プラスチックの表面画像を識別情報とする場合、識別情報は非流動領域、又は低流動領域に存在することが好ましい。下型へ接触する側の繊維強化プラスチックの表面画像は、非流動領域に存在することがより好ましい。この領域に識別情報があれば、識別情報画像P1と、識別情報画像P2での繊維形態がほぼ同じになり、工程301における照合が容易になる。
【0063】
4.製造工程での識別
工程201で撮像する繊維強化プラスチックは、工程101で製造された後に圧縮成形された成形体であると好ましい。すなわち、図2の201の成形材料を工程101の撮像対象とし、成形後の成形体である202を工程201の撮像対象としても良い。成形材料の製造現場と、成形体の製造現場で、それぞれ工程101と工程201の撮像を行っても良く、これにより成形材料としての繊維強化プラスチックと、成形体としての繊維強化プラスチックとを個体認証できる。
【0064】
従来、繊維強化プラスチックは、例えば特許文献1に記載の発明のように、繊維強化プラスチックの表面にレーザーマーキングしてQRコード(登録商標)を印字し、これをスキャナで読み込むことで個体認証してきた。QRコード(登録商標)には繊維強化プラスチックが保有する製品情報が含まれている。しかしながら、特許文献1に記載のレーザーマーキングを利用するには高額な専用マーキング装置が必要になる。また、製品の一部にマーキング加工痕(例えばQRコード(登録商標))を残すため、外観が求められる製品には適用が難しい。更に、繊維強化プラスチックに熱可塑性樹脂が使用された成形材料を用いた場合、成形工程で樹脂が加熱され、マーキングが消えてしまう。すなわち、成形材料の製造現場で関連付けた製品情報を、成形体の製造現場で、再度付与する必要が生じる。本発明の繊維強化プラスチックの個体認識方法を用いれば、繊維強化プラスチックが保有する固有の識別情報に基づくため、高額な専用マーキング装置や、識別のための加工およびそのための装置が不要になる。また、成形材料で関連付けた製品情報を、成形体の製造工程において、再度付与する必要もない。
【0065】
5.繊維強化プラスチックの流通
工程201で撮像する繊維強化プラスチックは、工程101で製造された後に出荷され、市場に流通した後のものであっても良い。本発明における繊維強化プラスチックは、自動車部品などに採用される。すなわち、図3の301の成形体を工程101の撮像対象とし、流通後の成形体である302を工程201の撮像対象としても良い。
【0066】
繊維強化プラスチックを市場に流通させる場合、例えば、使用状態において他の部材と擦れたり、衝突したりして損傷しない決められた特定箇所を識別情報にしておくと好ましい。表面の損傷を極力避けることができれば、長期間に亘って、例えば製品破棄まで、識別情報を明確に確保できる。
【0067】
[個体認識方法:工程301]
工程301は、取得した識別情報画像P2と、データベースに記憶された識別情報画像P1とを照合することにより、繊維強化プラスチックの個体認識を行う段階である。
【0068】
1.照合
識別情報画像P2と、データベースに記憶された識別情報P1との照合は、例えばコンピュータにより実現できる。コンピュータは、例えば、周知のコンピュータ構成からなり、中央演算処理装置、メモリ、記憶部を有しており、予め記憶部に記憶されたプログラムに基づいて動作する。コンピュータには、撮像装置、ユーザが入力操作するための入力部、撮像装置で撮像した画像やシステムのユーザインタフェース等を画面表示する出力部がデータ通信可能に接続されている。コンピュータへの入力には、例えば、マウス等のポインティングディバイスやキーボード等でもよい。また、出力部には、例えば、ディスプレー等の画面表示機能のみを有する機器でもよいし、他のコンピュータやプリンタ等の周辺機器に認識結果等を送信する送信機器としてもよい。
【0069】
照合は、撮像装置で撮像することにより取得した識別情報画像P2と、データベースに記憶された識別情報画像P1と、を照合することにより、撮像装置で撮像した繊維強化プラスチックを認識して同定する手段である。画像照合手段は、例えば、画像ノイズの除去や画像の特徴量を強調するため、輝度の平均化や色相変換、エッジ検出、ガウシアン、オープニング、クロージングなどの各種フィルタ、Convolutional Neural Networkなどの手法を用いたセマンティック・セグメンテーションなどによる前処理プロセスの後、Oriented-BRIEFやAccelerated KAZE、Feature from Accelerated Segment Testなどの特徴点の抽出プロセスにより個々の製品に固有の特徴を抽出し、その一致度の最も高い画像のペアを特定することで識別を行う、特徴ベースマッチング等の周知の画像認識技術が利用されており、撮像装置からの識別情報画像P2と完全一致又は略一致するデータベースに記憶された識別情報画像P1を検索して、繊維強化プラスチックを特定する。
【0070】
例えば、繊維強化プラスチックの識別情報には、繊維強化プラスチックの表面に観察される繊維束の形状や配置が挙げられる。識別画像に対して平滑化スケールの異なるガウシアンフィルタや非線形拡散フィルタを適用した後の画像との差分画像から、輝度勾配で表現されるそれぞれの繊維束の輪郭情報(長さ、太さ、角度、曲率)を特徴点として抽出する。さらに、各特徴点周辺の画素の輝度勾配情報から、各特徴点固有の支配方向ベクトルおよび64次元の輝度勾配ベクトルを算出し、これらを特徴点ごとの特徴量として記述する。特徴量を用いて画像の回転や照度、スケール変化の影響を補正したうえで、各特徴点の位置関係を比較し、画像の一致度を算出する。このため、精度の高い識別を行うには、一定面積以上の繊維束が識別情報として必要である。
【0071】
最も高い一致度を持つ識別画像情報P1と一致度が類似している識別画像情報P1が複数ある場合には、第1段階として複数の繊維強化プラスチックの候補を認識結果とする。次に、異なる要素で補助的に繊維強化プラスチックを特定する補助認識手段を備えていても良いが、照合は、基本的には、繊維強化プラスチックの識別情報画像により完全に一致する画像データを照合するような構成が好ましい。
【0072】
しかしながら、最も高い一致度と類似する画像データのものが存在する場合には、識別画像情報P2では第1段階の複数の候補を認識結果とし、その後補助認識手段によってユーザ入力等の別の要素で補助的に特定する構成としても良い。
【0073】
[繊維強化プラスチック:成形材料と成形体]
工程101、工程201のいずれにおいても、個体認識の対象となる繊維強化プラスチックは、成形して三次元形状が形成される前の材料(以下、成形材料と呼ぶ場合がある)であっても、成形材料を成形して得られた三次形状を有する成形体であっても良い。成形材料とは成形体を作成するための材料であり、成形材料は成形されて成形体となる。したがって、成形材料は平板形状であることが好ましい。一方、成形体は賦形されており、三次元形状であることが好ましい。成形は後述する圧縮成形であることが好ましい。
【0074】
ただし、より好ましくは工程101においては、予め撮像する繊維強化プラスチックは成形材料である。更に好ましくは、工程201においては、後に撮像する繊維強化プラスチックは成形体であり、成形体は成形材料を圧縮成形して得られたものであるとよい。
【0075】
[圧縮成形]
成形材料の成形には、種々の成形方法を利用できるが、加熱・加圧して行われるのが好ましい。成形方法としては、所謂、コールドプレス成形やホットプレス成形等の圧縮成形法が好ましく利用される。
【0076】
1.コールドプレス成形
繊維強化プラスチックに含まれる樹脂が熱可塑性樹脂である場合、とりわけコールドプレスを用いた圧縮成形が好ましい。コールドプレス成形は、例えば、第1の所定温度に加熱した成形材料を第2の所定温度に設定された成形型内に投入した後、加圧・冷却を行う。
【0077】
具体的には、成形材料を構成する樹脂が熱可塑性樹脂であって、熱可塑性樹脂が結晶性である場合、第1の所定温度は融点以上であり、第2の設定温度は融点未満である。熱可塑性樹脂が非晶性である場合、第1の所定温度はガラス転移温度以上であり、第2の設定温度はガラス転移温度未満である。
すなわち、コールドプレス成形は、少なくとも以下の工程A-1)~A-2)を含んでいる。
【0078】
A-1)成形材料を、熱可塑性樹脂が結晶性の場合は融点以上分解温度以下、非晶性の場合はガラス転移温度以上分解温度以下に加温する工程。
A-2)上記A-1)で加温された成形材料を、熱可塑性樹脂が結晶性の場合は融点未満、非晶性の場合はガラス転移温度未満に温度調節された成形型に配置し、加圧する工程。
【0079】
これらの工程を行うことで、成形材料の成形を完結させることができる。
なお、成形型に投入する際、成形材料は、対象の成形体の板厚に合わせて、単独(1枚で)又は複数枚用いられる。複数枚用いる場合、複数枚を予め積層して加熱してもよいし、加熱した成形材料を積層した後に成形型内に投入してもよいし、加熱した成形材料を成形型内に順次積層してもよい。なお、積層した場合の最下層の成形材料と最上層の成形材料との温度差は少ない方が良く、この観点からは、成形型に投入する前に積層した方が好ましい。また、上記A-1)における加圧は、例えば、成形型やニップローラ等を利用することができる。上記の各工程は、上記の順番で行う必要があるが、各工程間に他の工程を含んでもよい。他の工程とは、例えば、A-2)の前に、A-2)で利用される成形型と別の賦形型を利用して、成形型のキャビティの形状に予め賦形する賦形工程等がある。
【0080】
2.ホットプレス成形
ホットプレス成形は、例えば、成形型内に成形材料を投入し、成形型の温度を第1の所定温度まで上昇させながら加圧し、第2の所定温度まで成形型の冷却を行う。具体的には、成形材料を構成する熱可塑性樹脂が結晶性である場合、第1の所定温度は融点以上であり、第2の所定温度は融点未満である。成形材料を構成する熱可塑性樹脂が非晶性である場合、第1の所定温度はガラス転移温度以上であり、第2の所定温度はガラス転移温度未満である。
ホットプレス成形は、少なくとも以下の工程B-1)~B-4)を含んでいることが好ましい。
【0081】
B-1)成形材料を成形型(下型)に配置する工程。
B-2)熱可塑性樹脂が結晶性の場合は熱可塑性樹脂の融点以上熱分解温度以下の温度まで、非晶性の場合は熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上熱分解温度以下の温度まで、成形型を昇温しつつ、加圧する工程(第1プレス工程)。
B-3)一段以上であり、最終段の圧力が第1プレス工程の圧力の1.2倍以上100倍以下となるように加圧する工程(第2プレス工程)。
B-4)熱可塑性樹脂が結晶性の場合は融点未満、非晶性の場合はガラス転移温度未満に成形型温度を調節する工程。
これらの工程を行うことで、成形材料の成形を完結させることができる。
【0082】
3.共通事項
工程A-2)及びB-3)は、成形材料に圧力を加えて所望形状の成形体を得る工程であるが、このときの成形圧力については特に限定はしないが、所望の成形体形状を得られる範囲内において、極力低い方が好ましい。具体的には、成形型キャビティ投影面積に対して30MPa未満が好ましく、20MPa以下であるとより好ましく、10MPa以下であると更に好ましい。成形圧力が30MPa未満の場合は、プレス機の設備投資や維持費が必要とならないため、好ましい。また、当然のことであるが、圧縮成形時に種々の工程を上記の工程間に入れてもよく、例えば真空にしながら圧縮成形する真空圧縮成形を用いてもよい。
【0083】
[樹脂M1と樹脂M2の数平均分子量]
本発明において、
工程101で撮像される繊維強化プラスチック製品に含まれる樹脂M1は、工程201で撮像される繊維強化プラスチック製品に含まれる樹脂M2よりも数平均分子量が大きい。
本発明における樹脂M1と樹脂M2の数平均分子量は、繊維強化プラスチックの表層領域で測定することが好ましく、表層領域とは、繊維強化プラスチックの表面から50μm未満の領域である。
【0084】
1.数平均分子量の測定
測定に供するサンプルは、コールドプレス後の成形体の表層領域(又は成形体の中央領域)を平刀により切削する。塗装された繊維強化プラスチックの場合は塗装を剥がす。数平均分子量は、ゲルパーミッショクロマトグラフィー(GPC)により求めることができる。
【0085】
2.製造工程での分子量低下
工程101で撮像した繊維強化プラスチックを成形材料とし、これを成形して成形体とした後の繊維強化プラスチックを工程201で撮像する場合、繊維強化プラスチックに含まれる分子量は低下する。
【0086】
特に、強化繊維として炭素繊維を用い、炭素繊維の重量平均繊維長が1mm以上100mm以下の不連続炭素繊維を含んだ成形材料を用いた場合、成形時の流動性を向上させるためには、高温領域(樹脂がナイロン6の場合は275~330℃)で、加熱する必要がある。
【0087】
このような過酷な加熱条件では、特に表層領域に存在するポリアミド樹脂の分子量低下が大きくなる。
【0088】
3.流通時の分子量低下
工程201で撮像する繊維強化プラスチックは、工程101で製造された後に出荷され、市場に流通した後のものであっても良い。本発明における繊維強化プラスチックは、自動車部品などに採用される。繊維強化プラスチックを市場に流通させた場合、経過時間と共に雨風に暴露され、繊維強化プラスチックに含まれる数平均分子量は低下する。従って、予め撮像する繊維強化プラスチック製品に含まれる樹脂M1は、後に個体認識を行う被撮像繊維強化プラスチック製品に含まれる樹脂M2よりも数平均分子量が大きくなる。
【0089】
4.樹脂の劣化度合いの評価
繊維強化プラスチックの個体認識方法を用いて個体認識を行った後、繊維強化プラスチックに含まれる樹脂の劣化具合を評価しても良い。樹脂の劣化は、樹脂M1と樹脂M2に含まれる数平均分子量を測定して評価する。
【実施例
【0090】
以下、本発明について実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0091】
1.材料
1.1炭素繊維
帝人社製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)STS40-24K(平均繊維径7μm、単繊維数24,000本)
1.2熱可塑性樹脂
・ポリアミド6(ユニチカ株式会社製A1030、PA6と略する場合がある)。
【0092】
2.各種測定
本実施例における各値は、以下の方法に従って求めた。
(1)繊維体積割合(Vf)の測定
繊維強化プラスチックから100mm×100mmのサンプルを切り出し、サンプルを550℃に加熱した電気炉(ヤマト科学株式会社製FP410)の中、窒素雰囲気下で、1時間加熱してマトリクス樹脂等の有機物を焼き飛ばした。
焼き飛ばし前後のサンプルの重量を秤量することによって繊維と樹脂の重量を算出した。次に、各成分の比重を用いて、繊維の体積割合を算出した。
繊維体積割合(Vf)=100×繊維体積/(繊維体積+樹脂体積)・・・式(1)
【0093】
3.数平均分子量の測定
測定に供するサンプルは、コールドプレス前後の繊維強化プラスチック(成形材料、成形体)の表層を平刀により切削することで得た。サンプリング重量は、135mm×65mmの試験片の全域を平刀で削り、80~120mg程度の測定用サンプルを得た。
【0094】
分子量は、ゲルパーミッショクロマトグラフィー(GPC)により求めた。装置は東ソー(株)製HLC-8220GPC、検出器は示差屈折計(RI)、溶媒はヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に10mM(mol/l)となるようにCFCOONaを加えた。カラムはShodex製HFIP-LGを1本とHFIP-806Mを2本使用した。溶媒流量は0.8ml/min、サンプル濃度は、約0.1wt/vol%であり、フィルタでろ過し、不溶分を除去し、測定試料とした。得られた溶出曲線をもとに、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)換算により、数平均分子量(Mn)を算出した。
【0095】
[実施例1]
1.予め撮像するための繊維強化プラスチックの準備
炭素繊維として、繊維長20mmにカットした帝人社製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)STS40-24K(平均繊維径7μm、単繊維数24,000本)を使用し、樹脂として、ユニチカ社製のナイロン6樹脂A1030を用いて、米国特許第8946342号に記載された方法に基づき二次元ランダムに炭素繊維が配向した炭素繊維およびナイロン6樹脂の成形材料を作成した。得られた成形材料を270℃に加熱したプレス装置にて、2.0MPaにて5分間加熱し、幅400mm×長さ400mm×平均厚み2.6mmの平の繊維強化プラスチックを得た。
【0096】
平板状の繊維強化プラスチックに含まれる炭素繊維の解析を行ったところ、炭素繊維体積割合(Vf)は35%、炭素繊維の繊維長は一定長であり、重量平均繊維長は20mmであった。
【0097】
この平板状の繊維強化プラスチックは、後に成形して成形体とするため、成形材料とした。繊維強化プラスチックの表面は図1で示されるような二次元ランダムに配向していた。
【0098】
成形材料である繊維強化プラスチックは全部で100枚準備し、工程101に進めた。
また、数平均分子量を測定するため、更に追加で繊維強化プラスチックを2枚準備し、工程101で撮像される繊維強化プラスチック製品に含まれる樹脂M1と、工程201で撮像される繊維強化プラスチック製品に含まれる樹脂M2の数平均分子量を測定するためのものとした。
【0099】
2.工程101
1.で準備した繊維強化プラスチックの表面を識別情報とし、これをSONY製のRX100Vで撮像し、対応する製品情報を関連付けしてデータベースをコンピュータに作成した。1.で準備した全部で100枚の成形材料である繊維強化プラスチックに対しても、同様に撮像してデータベースを作成した。製品情報は、シリアル番号、製造日、及び製造時刻とした。
【0100】
3.圧縮成形
工程101で表面の識別情報を取得した繊維強化プラスチック(成形材料)を、NGKキルンテック株式会社製の樹脂シート加熱装置(型式H7GS-73408)を用いて、ポリアミド6(熱可塑性樹脂)の可塑化温度以上である290℃に加熱した。
【0101】
加熱した繊維強化プラスチック(成形材料)を、150℃に設定した400mm×400mm×2.5mmのクリアランスを持った成形型の下型に配置した。このとき、識別情報を備える面(撮像面)を下型へ接触する繊維強化プラスチックの面とした。
【0102】
成形型の上型を下降させて加圧し、20MPaで1分間コールドプレスした。成形型の上型を上昇させて成形型を完全に開放した後、作成した成形体を下型から脱型させ、成形体を取り出した。
【0103】
1.で準備した全部で100枚の成形材料である繊維強化プラスチックは、全てコールドプレスして成形体として取り出した。
【0104】
4.工程201
コールドプレスして作成された繊維強化プラスチック(成形体)の識別情報を撮像して、識別情報画像P2を取得した。識別情報は、下型に接触していた繊維強化プラスチック(成形体)の面である。
【0105】
5.工程301
取得した識別情報画像P2と、前記データベースに記憶された識別情報画像P1とを照合し、繊維強化プラスチックの個体認識を行った。
【0106】
繊維強化プラスチックの表面に観察された繊維束の位置、向き、太さ、長さなどの特徴点を識別することで、最も一致度の高い画像のみで識別を行った結果、100枚中90枚は正しく認識した。言い換えると、システムのみでの識別では、90%の精度で識別情報画像P1に基づいて1枚の識別情報画像P1を抽出可能であった(TOP-1 ACCURACYが90%)。
【0107】
さらに、識別情報画像P2に対して一致度の高い順に識別情報画像P1の5枚を提示した結果、100%の確率で正しい識別情報画像P1が含まれていた。
言い換えると、システムが抽出した上位5件から人が補助的に選定する場合、100%の精度で識別情報画像P1に基づいて1枚の識別情報画像P1を抽出可能であった(TOP-5 ACCURACYが100%)。
【0108】
[樹脂M1と樹脂M2の数平均分子量]
樹脂M1の数平均分子量は17000、樹脂M2の数平均分子量は11500であり、予め撮像する繊維強化プラスチック製品に含まれる樹脂M1は、後に個体認識を行う被撮像繊維強化プラスチック製品に含まれる樹脂M2よりも数平均分子量が大きかった。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の繊維強化プラスチックの個体認識方法を用いれば、繊維強化プラスチックが保有する固有の外観情報に基づくため、高額な専用マーキング装置や、識別のための加工およびそのための装置が不要である。
また、本発明は、同じ銘柄の製品であっても、繊維強化プラスチックが保有する固有のパターンを認識するため、製品個別の識別が可能であり、製品出荷後の追跡が可能となる。
【0110】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2021年4月20日出願の日本特許出願(特願2021-071135)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0111】
101:繊維強化プラスチック
102:炭素繊維束
201:成形材料(工程101で撮像する繊維強化プラスチック)
202:成形体(工程201で撮像する繊維強化プラスチック)
301:成形体(工程101で撮像する繊維強化プラスチック)
302:成形体(工程201で撮像する繊維強化プラスチック)
401:成形下型
402:成形上型
403:繊維強化プラスチックを下型に配置した際、最初に下型へ接触している面
404:流動、最初に配置した成形材料の外周へ成形材料が流出している部分
405:成形材料



図1
図2
図3
図4
図5
図6