(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】鉄道車両用電池監視システム、鉄道車両用車上装置、及び鉄道車両用電池監視方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/42 20060101AFI20241113BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20241113BHJP
B60L 58/10 20190101ALI20241113BHJP
B61L 25/04 20060101ALI20241113BHJP
B61L 27/00 20220101ALI20241113BHJP
G16Y 10/40 20200101ALI20241113BHJP
G16Y 20/20 20200101ALI20241113BHJP
G16Y 40/20 20200101ALI20241113BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20241113BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
H01M10/42 P
B60L3/00 N
B60L58/10
B61L25/04
B61L27/00
G16Y10/40
G16Y20/20
G16Y40/20
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H02J7/00 P
H02J7/00 X
H02J7/00 Y
(21)【出願番号】P 2023550462
(86)(22)【出願日】2022-08-24
(86)【国際出願番号】 JP2022031903
(87)【国際公開番号】W WO2023053794
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2023-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2021157533
(32)【優先日】2021-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 智晃
【審査官】宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-019479(JP,A)
【文献】特表2014-524099(JP,A)
【文献】特開2020-005407(JP,A)
【文献】特開2017-150925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L1/00-3/12
B60L7/00-13/00
B60L15/00-58/40
B61L1/00-99/00
G01R31/36-31/396
G16Y10/00-40/60
H01M10/42-10/48
H02J7/00-7/12
H02J7/34-7/36
H02J13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の蓄電池を監視する鉄道車両用電池監視システムであって、
全ての蓄電池における一日の電池特性値の最大値と、最小値と、平均値と、積算値と、の少なくとも何れかを日報データとして生成及び記録し、サーバに送信する鉄道車両用電池監視システム。
【請求項2】
一部の蓄電池における一日の電池特性値の時系列データを生成及び記録し、前記一部の蓄電池の時系列データを全ての蓄電池の日報データと合わせて地上サーバに送信する、
請求項1に記載の鉄道車両用電池監視システム。
【請求項3】
時系列データを取得する対象蓄電池を日毎に切り替える、
請求項2に記載の鉄道車両用電池監視システム。
【請求項4】
日毎に切り替える対象蓄電池を直列群毎とする、
請求項3に記載の鉄道車両用電池監視システム。
【請求項5】
日毎に切り替える対象蓄電池を全ての直列群から同数選出する、
請求項3に記載の鉄道車両用電池監視システム。
【請求項6】
蓄電池の電池特性値を、電流と電圧と温度と充電率との何れか1つ以上で示す、
請求項1~5の何れか1項に記載の鉄道車両用電池監視システム。
【請求項7】
日報データを電池監視システムの終了時に地上サーバに送信する、
請求項1~6の何れか1項に記載の鉄道車両用電池監視システム。
【請求項8】
日報データを、電池監視システムの毎日の初回起動時に地上サーバに送信する、
請求項1~6の何れか1項に記載の鉄道車両用電池監視システム。
【請求項9】
蓄電池故障発生前後の電池特性値の時系列データを生成及び記録し、全ての蓄電池の日報データと合わせて地上サーバに送信する、
請求項1~8の何れか1項に記載の鉄道車両用電池監視システム。
【請求項10】
複数の蓄電池を監視する鉄道車両用車上装置であって、
全ての蓄電池における一日の電池特性値の最大値と、最小値と、平均値と、積算値と、の少なくとも何れかを日報データとして生成及び記録し、前記日報データを地上サーバに送信する鉄道車両用車上装置。
【請求項11】
鉄道車両における複数の蓄電池を監視する鉄道車両用蓄電池監視方法であって、
全ての蓄電池における一日の電池特性値の最大値と、最小値と、平均値と、積算値と、の少なくとも何れかを日報データとして生成及び記録し、前記日報データを地上サーバに送信する鉄道車両用蓄電池監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用電池監視システム、鉄道車両用車上装置、及び鉄道車両用電池監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両に搭載される電池システムは、高電圧かつ大容量が要求されるため、バッテリセルの複数を組合せてバッテリモジュールを製作し、さらに、このバッテリモジュールを直列と並列にそれぞれ複数接続して大容量化された電池システムが構成される。
【0003】
通常、電池システムには、蓄電池の電流や温度を適切に管理して安全に使用するためのコントローラを含む電池監視システムが備わっており、近年ではLTE(3G Long Term Evolution)等の携帯電話用基地局回線を用いて、遠隔地から電池システムの状態を監視する方法が開発されている。
【0004】
より具体的には、蓄電池の電池特性値の時系列データを携帯電話用基地局回線経由で地上サーバに送信する技術が知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1には、第1の電池特性値(例えば放電時の電流)と第2の電池特性値(例えば放電時の電圧)を地上サーバへ送信し、地上サーバでこれらのデータから複数のパラメータを同定し、パラメータと第1の電池特性値の時系列データから第2の電池特性値の時系列データを復元できるようにする方法が記載されている。これによれば、第2の電池特性値の時系列データを削除できるので、データ容量の削減を期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術では、時系列データを地上サーバに蓄積することで、寿命推定や予兆診断、故障時の要因解析等、様々なことが可能となる。さらにこの技術によれば、一部の時系列データを複数のパラメータから復元できるようにすることで、地上サーバで保持すべきデータ容量を削減できる。しかし、特許文献1の技術では、地上サーバのデータ容量は削減できても、鉄道車両から地上サーバへの通信量は削減できていない。また一般的に、時系列データのデータサイズは大きく、これを鉄道車両から地上へデータ送信する経路としてLTE等の携帯電話用基地局回線を用いるため、高額の通信料金が必要となる。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、寿命推定や予兆診断、故障時の要因解析等に必要なデータを鉄道車両から地上サーバへ送信する通信量を削減できる鉄道車両用電池監視システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明は、複数の蓄電池を監視する鉄道車両用電池監視システムであって、全ての蓄電池における一日の電池特性値の最大値と、最小値と、平均値と、積算値と、の少なくとも何れかを日報データとして生成及び記録し、サーバに送信する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、寿命推定や予兆診断、故障時の要因解析等に必要なデータを鉄道車両から地上サーバへ送信する通信量を削減できる鉄道車両用電池監視システムが実現する。上述した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施例1に係る鉄道車両用電池監視システム(以下、「本監視システム」ともいう)と、それに連携する地上サーバと、それらが監視対象とする電池システムの全体構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1の本監視システムの機能構成を示すブロック図である。
【
図3】
図2の日報データ生成部の演算処理を示すブロック図である。
【
図4】
図2の日報データ生成部の出力結果を一覧して示す表である。
【
図5】
図2の時系列データ生成部の演算処理を示すブロック図である。
【
図6】
図2の時系列データ生成部の出力結果を示す4種類のグラフである。
【
図7】
図2の遠隔監視装置をより詳細に示すブロック図である。
【
図8】
図7の送信データ管理部における送信データの選定について例示する図である。
【
図9】
図1の地上サーバに蓄積された日報データと時系列データを対比した一覧図である。
【
図10】本発明の実施例2に係る時系列データ生成部の演算処理を示すブロック図である。
【
図11】
図10の時系列データ生成部がデータを取得する対象である蓄電池を直並列接続して例示する回路図である。
【
図12】本発明の実施例3に係る時系列データ生成部の演算処理を示すブロック図である。
【
図13】
図12の時系列データ生成部がデータを取得する対象である蓄電池を直並列接続して例示する回路図である。
【
図14】本発明の実施例4に係る送信データ管理部での送信データ選定について例示する図である。
【
図15】本発明の実施例5に係る鉄道車両用電池監視システム(これも「本監視システム」という)の機能構成を示す図である。
【
図16】
図15の遠隔監視装置をより詳細に示すブロック図である。
【
図17】
図16の送信データ管理部での送信データ選定について例示する図である。
【
図18】
図16の地上サーバの蓄積データを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、
図1~
図18に基づいて、本監視システムを説明する。実施例1は
図1~
図9を用いて説明し、実施例2は
図10~
図11を用いて説明し、実施例3は
図12~
図13を用いて説明し、実施例4は
図14を用いて説明し、実施例5は
図15~
図18を用いて説明する。なお、
図1を用いて後述するように、本監視システム5は、車上に搭載された電池システム1の電池状態を主に地上で遠隔監視するための情報処理機能であり、鉄道車両用車上装置(以下、「本車上装置」ともいう)のみならず、鉄道車両用地上設備まで連携可能に構成される。
【実施例1】
【0012】
以下、
図1~
図9を用いて、実施例1を説明する。
図1は、本監視システム5と、それに連携する地上サーバ8と、それらが監視対象とする電池システム1の全体構成を示すブロック図である。
図1に示すように、鉄道車両上に搭載された蓄電池の遠隔監視は、車上装置としての電池システム1と、鉄道車両用地上設備としての地上サーバ8で実現される。そのための本監視システム5は、
図1で破線に囲まれた、車上装置としてのバッテリコントローラ4、上位コントローラ6、及び遠隔監視装置7を備えて主要構成され、地上サーバ8に連携して動作する。また、地上サーバ8も本監視システム5に含むものと考えても構わない。なお、本監視システム5を用いて実行される鉄道車両用電池監視方法を本方法ともいう。
【0013】
電池システム1は、1~n番目まで構成される複数の蓄電池箱2と、上位コントローラ6と、遠隔監視装置7と、を備えて構成される。蓄電池箱2は、バッテリモジュール3と、バッテリコントローラ4と、を格納した筐体であり、不図示の鉄道車両の屋根上や床下に艤装される。また、実施例1では蓄電池箱2を1~nの複数としているが、1つの箱内に複数の直列群の回路を格納しても良い。なお、バッテリモジュール3が何個のバッテリセルで構成されるかは任意である。
【0014】
バッテリモジュール3は、蓄電池の最小単位であるバッテリセルの複数を組み合わせて接続し、バッテリセル電圧の監視基板(不図示)や温度検出用のサーミスタ(不図示)を付設したものである。なお、
図11及び
図13の破線で囲むように示して後述するように、電圧については、複数の蓄電池箱2にわたって、各バッテリセル全部を個別に同時監視する前提である。バッテリコントローラ4は、蓄電池の充電率(SOC:state of charge)のほか、容量維持率及び抵抗上昇率といった劣化度、換言すると寿命を表す指標値を算出する。なお、容量維持率=あるサイクルでの電池容量/初期電池容量×100であり、容量維持率の低下量と抵抗上昇率は正相関する。
【0015】
これら、SOCその他の指標値は、例えば、バッテリモジュール3の電圧及び温度と、電池箱2別の直列群毎の電流と、に基づいて算出される。バッテリモジュール3の電圧や温度は、そのバッテリモジュール3に搭載されたセンサで測定される。直列群毎の電流は、直列群毎に取り付けられた電流センサで測定される。ここでは、バッテリコントローラ4は、m個が直列接続されたバッテリモジュール3と、対応付けて配設され、電圧、電流、及び温度をまとめて検出するが、電圧だけはバッテリセル毎の個別に検出する。つまり、バッテリコントローラ4において、電流、及び温度はバッテリモジュール単位、すなわち電池箱2毎に監視され、電圧は全バッテリセル毎に監視される。なお、本発明は、このような構成に限定するものでなく、他の形態でも適用できる。
【0016】
上位コントローラ6は、バッテリコントローラ4毎にそれぞれ出力される電流、電圧、温度、SOC、及び劣化度(寿命)を全て受信する。上位コントローラ6内のデータ処理については後述する。遠隔監視装置7は、LTEや4G,5G等の携帯電話用基地局回線を用いて通信するルータ(図示せず)やアンテナ(図示せず)を備え、上位コントローラ6で処理されたデータを地上サーバ8に送信する。地上サーバ8は、遠隔監視装置7が送信したデータを受信して蓄積する。
【0017】
図2は、
図1の本監視システム5の機能構成を示すブロック図である。
図2に示すように、バッテリコントローラ4は、電池特性値測定部4a、SOC推定部4b、異常診断部4c、及びセル情報処理部4dを有する。電池特性値測定部4aは、バッテリモジュール電圧、バッテリモジュール電流、バッテリモジュール温度、のほか各バッテリセル電圧を計測する。SOC推定
部4bは、計測された電池特性のうち、バッテリモジュール電圧、バッテリモジュール電流、及びバッテリモジュール温度に基づいて、バッテリモジュールSOCを推定する。
【0018】
異常診断部4cは、過電圧や過電流、過温度等の故障診断を行い、故障発生時にバッテリモジュール故障フラグを0(故障なし)から1(故障あり)に表示するほか、バッテリモジュール故障コードを00(故障なし)から各故障項目に割り当てた値に設定する。セル情報処理部4dは、バッテリモジュール3内の各バッテリセル電圧のうち、最大値を最大バッテリセル電圧、最小値を最小バッテリセル電圧として出力する。
【0019】
バッテリコントローラ4は、以上のように、バッテリモジュール電圧、バッテリモジュール電流、バッテリモジュール温度、バッテリモジュールSOC、バッテリモジュール故障フラグ、バッテリモジュール故障コード、最大バッテリセル電圧、及び最小バッテリセル電圧を取得し、それらの情報をバッテリモジュール情報として、上位コントローラ6へ送信する。
【0020】
上位コントローラ6は、複数のバッテリコントローラ4から、それぞれバッテリモジュール情報nmを受信する。情報に付した符号nmは、バッテリモジュールの位置を特定する。例えば、バッテリモジュール情報21は、電池システム1で2番目(
図1、
図11、及び
図13)の電池箱2に収納された、すなわち2番目の直列群における、高(正)電圧側から1段目のバッテリモジュールの情報であることを示している。
【0021】
これらのバッテリモジュール情報nmを、上位コントローラ6内の日報データ生成部6aと、時系列データ生成部6bと、に入力する。これら日報データ生成部6a、及び時系列データ生成部6bは、各別に生成された日報データと、時系列データと、を記録するとともに、遠隔監視装置7へ送信する。このような本監視システム5は、寿命推定や予兆診断、故障時の要因解析等に必要なデータを鉄道車両から地上サーバ8へ送信する通信量を削減できる。以下に、その理由を説明する。
【0022】
時系列データは、莫大な情報量であり、故障発生した場合に、原因究明のため最適タイミングのデータを解析容易な状態で提供するが、その通信には相当の負担がかかる。これに対し、日報データは、
図9の対比一覧を用いて後述するように、膨大な時系列データのうち、その顕著な特徴的データのみを少ない情報量で示すことができる。
【0023】
図3は、
図2の日報データ生成部6aの演算処理を示すブロック図である。
図3に示すように、日報データ生成部6aは、バッテリモジュール電圧nm、最大バッテリセル電圧nm、バッテリモジュール温度nm、最小バッテリセル電圧nm、バッテリモジュールSOCnm、及びバッテリモジュール電流nm、の6つを入力とし、それらの特性値毎に、最大値と、最小値と、平均値と、積算値と、の少なくとも何れかの演算を行う。なお、符号nmは、直列及び並列に接続されて配設された複数のバッテリセルのどれかを特定する。
【0024】
最大値演算部6a1は、バッテリモジュール電圧nm、バッテリモジュール温度nm、バッテリモジュールSOCnm、バッテリモジュール電流nm、及び最大バッテリセル電圧nmの5つを入力とし、只今計測中の周期における入力と、1周期前の出力の最大値と、それぞれ比較して大きい方の値を抽出することで、常に稼働中の最大値を出力する。
【0025】
最小値演算部6a2は、バッテリモジュール電圧nm、バッテリモジュール温度nm、バッテリモジュールSOCnm、バッテリモジュール電流nm、最小バッテリセル電圧nmを入力とし、只今計測中の周期における入力と、1周期前の出力の最小値と、それぞれ比較して小さい方の値を抽出することで、常に稼働中の最小値を出力する。
【0026】
平均演算部6a3は、バッテリモジュール電圧nm、バッテリモジュール温度nm、及びバッテリモジュールSOCnmそれぞれの総和を算出し、この総和値をそれぞれのデータ数で除した平均値を出力する。また、バッテリモジュール電流nmについては、二乗した値を平均演算部6a3に入力し、その出力の平方根を算出することでRMS(Root Mean Square ;二乗平均平方根)値を出力する。最後に、積算値演算部6a4は、バッテリモジュール電流nmの絶対値を入力し、その総和を算出し、この総和値をバッテリモジュール電流nmの積算値として出力する。
【0027】
図4は、
図2の日報データ生成部6aの出力結果を一覧して示す表である。
図4に示すように、バッテリモジュール3の番号11~nmの全部について、その電池特性値の代表値、すなわち、最大値と、最小値と、平均値と、積算値と、の少なくとも何れかを演算していることを示している。
【0028】
なお、この日報データは、例えば、
図4の表に記載していない積算電圧値のように、一部の特性値を省略しても良い。また、この日報データにおけるRMS電流値のように、統計的処理の常套手段として、最大値と、最小値と、平均値と、積算値と、の少なくとも何れかを算出する処理の前後に、二乗や平方根等の計算処理を施しても良い。
【0029】
以上のように、本監視システム5は、日報データとして、電池特性値の最大値と、最小値と、平均値と、積算値と、の少なくとも何れかを記録し、出力することで、時系列データと比較してデータ量を削減できる。このように、本監視システム5は、連日の日報データを対比して、状態の変化を特徴的情報として捉える。すなわち、本監視システム5において、目立った変化だけを把握する用途であれば、連日の対比データから変化の無い時系列データを間引いて省略した方が、特徴的情報を際立たせるので都合良い。
【0030】
また、鉄道車両は日毎に運用が管理されているため、本監視システム5が鉄道用途であるならば、より簡潔な日報データとすることで、運用番号間による差分の比較や、事故等の非定常状態が発生した際の蓄電池への影響についても可視化し易い。つまり、本監視システム5は、日報データをグラフ化することにより、突出した特徴的情報を視認して捉え易い。
【0031】
図5は、
図2の時系列データ生成部6bの演算処理を示すブロック図である。
図5に示すように、時系列データ生成部6bは、時系列データ対象抽出部6b1、及び電池特性値データ抽出部6b2で構成されている。まず、時系列データ対象抽出部6b1は、全てのバッテリモジュール3についての特性情報のうち、遠隔監視装置7で地上サーバ8に送る対象のデータを抽出する。
【0032】
なお、実施例1では、
図5に例示するように、本監視システム5が地上サーバ8へ送る監視対象としての抽出データは、全バッテリモジュール3のバッテリモジュール情報11~nmのうち、1番目の直列群のバッテリモジュール情報11~1mを抽出した。これは一例に過ぎず、バッテリモジュール情報は、データの抽出対象を変えても良い。また、本監視システム5は、バッテリモジュール情報のデータ抽出元、つまり監視対象をバッテリモジュール1個としても良いし、2つ以上の直列群を対象としても良い。このような監視対象の選択については、実施例2の
図10及び
図11と、実施例3の
図12及び
図13と、を用いて各種態様を後述する。
【0033】
つぎに、電池特性値データ抽出部6b2は、時系列データ対象抽出部6b1で抽出したバッテリモジュール情報11~1mから、さらに、電池特性値として、バッテリモジュール電圧11~1m、バッテリモジュール温度11~1m、バッテリモジュールSOC11~1m、バッテリモジュール電流11~1m、最大バッテリセル電圧11~1m、及び最小電圧11~1mを抽出し、記録及び出力する。
【0034】
図6は、
図2の時系列データ生成部6bの出力結果を示す4種類のグラフである。
図6は、横軸に時間を示し、縦軸につぎの各グラフ(a)~(d)で区別された各電池特性値をプロットしている。各グラフは、(a)バッテリモジュール電圧、最大バッテリセル電圧、最小バッテリセル電圧と、(b)バッテリモジュール電流と、(c)バッテリモジュールSOCと、(d)バッテリモジュール温度と、に項目分けされた特性値をプロットした。本監視システム5は、このような時系列データを得ることにより、監視対象である畜電池(箱、バッテリモジュール又はバッテリセル)に対する寿命推定や故障時の要因解析等が可能となる。なお、そのための解析手法については、説明を省略する。
【0035】
図7は、
図2の遠隔監視装置7をより詳細に示すブロック図である。
図7に示すように、遠隔監視装置7は、車上サーバ7a、ルータ7b、及びアンテナ7cで構成される。まず、車上サーバ7aについて説明する。より具体的な車上サーバ7aとして、電車の運転台の一部に具備されたメモリカードに、ある程度の期間分の時系列データを記憶して、それを適宜に地上サーバ8へ送信するものを例示する。
【0036】
車上サーバ7aは、起動終了判定部7a1と、送信データ管理部7a2と、の機能を有する。起動終了判定部7a1は、鉄道車両が起動時か稼働中か終了時かを判定し、判定結果を鉄道車両状態信号として送信データ管理部7a2に送信する。つぎに、送信データ管理部7a2は、上位コントローラ6から受信した日報データ、時系列データ、及び鉄道車両状態信号に基づいて、地上サーバ8へ送信する送信データを定める。
【0037】
図8は、
図7の送信データ管理部7a2における送信データの選定について例示する図である。
図8に示すように、通常の鉄道車両は、朝に一度起動されると、その日の運行終了まで鉄道車両の電源をオフしないことが多いが、停電や長時間休止等により途中で電源が切れることもあるので、1日の中でコンピュータの起動と終了(シャットダウン)がそれぞれ2回ずつ発生する場合を想定する。
【0038】
実施例1では、送信データ管理部7a2は、稼働中は電池特性値の時系列データを送信データとし、運転士が電源を落とす終了時に日報データを送信データとする。そしてこれらの全ての蓄電池の日報データと一部の蓄電池の時系列データを含む送信データは、ルータ7bとアンテナ7cを通して、地上サーバ8に送信される。
【0039】
地上サーバ8では、稼働中の時系列データと終了時の日報データを受信し、データ表示やデータ解析のためこれらのデータを蓄積する。ここで地上サーバ8は、1日の中で複数回日報データを受信した場合は、各日報データとそれぞれの稼働時間から、1日の日報データを作成するものとする。
【0040】
また、
図8では稼働時間を6時から12時、15時から21時までとしたが、路線によって24時を超えても稼働する路線もある。その場合、例えば午前3時等、通常なら稼働が終了していると考えられる時間を1日の区切りとしても良い。
【0041】
図9は、
図1の地上サーバ8に蓄積された日報データと時系列データを対比した一覧図である。
図9に示すように、各年月日に対して、(a)全てのバッテリモジュールの日報データと、(b)一部(バッテリモジュール11~1m)の時系列データがそれぞれ蓄積されている。
【0042】
まず、
図9(b)に示すように、地上サーバ8は、一部ではあるが、任意に特定された例えば3つのバッテリモジュール11,12,1mの時系列データを蓄積している。蓄電池の管理者は、このように備蓄された時系列データに基づいて、電池特性値の挙動の経年変化を始め、走行ルートや気温変動による電池特性値の変化等を把握することができる。したがって、蓄電池の管理者は、備蓄された時系列データを寿命推定や予兆診断、故障時の要因解析に活用することができる。
【0043】
また
図9(a)に示すように、地上サーバ8は、分析用のプログラムを備え、それを実行することにより、電池システム1内の各バッテリモジュールnmにおいて、各別のばらつきのほか、全体平均に対し突出して差を生じたバッテリモジュールがあれば、nmのどれかを特定する。このような要領で、地上サーバ8は、監視対象の電池システム1について、全体的又は任意に特定した一部バッテリモジュールnmの状態を把握できる。
【0044】
さらに、監視対象である電池システム1の劣化や温度ばらつきが小さい場合、地上サーバ8は、
図9(a),(b)の2つを組み合わせることで、(b)の時系列データを(a)の日報データに基づいて補正することにより、(b)の対象でないバッテリモジュールの時系列データまでも類推できる。その結果、本監視システム5は、電池システム1において、抜き取り検査の要領で、全体的なバッテリモジュール3の状態を把握できる。
【0045】
上述と同等の効果を得るため、全てのバッテリモジュール3の時系列データを遠隔監視装置7から地上サーバ8へ送信しても良い。ただし、そうした場合の情報量は莫大であり、通信に負担がかかる。これに対し、日報データは、膨大な時系列データのうち、その顕著な特徴的データのみを少ない情報量で示すことができる。したがって、実施例1において、日報データは全ての蓄電池分を送信し、時系列データは一部の蓄電池について送信するようにすれば、鉄道車両から地上サーバ8までの通信量を削減できる。
【実施例2】
【0046】
実施例1の本電池監視システム5では、監視対象である複数のバッテリモジュール3を積極的に切り替え選択する思想は無い。この点について相違する実施例2及び実施例3の各態様を順次説明する。まず、
図10及び
図11を用いて、実施例2を説明する。実施例2に係る鉄道車両用電池監視システム5(
図1の符号5を援用)では、時系列データを取得する対象の蓄電池を固定するのではなく、日毎に切り替える。
図10は、本発明の実施例2に係る時系列データ生成部6b’の演算処理を示すブロック図である。
【0047】
実施例1では、時系列データを取得するバッテリモジュールの対象を常に1番目の直列群(バッテリモジュール11~1m)としていたが、実施例2では、時系列データ対象抽出部6b1’内にスイッチを入れ、抽出データ対象番号に基づいて対象を切替える。抽出データ対象番号は、例えば1日毎にインクリメントされ、直列群の最大数となった翌日に1に戻るよう設定される。
【0048】
図11は、
図10の時系列データ生成部6b’がデータを取得する対象である蓄電池を直並列接続して例示する回路図である。
図10及び
図11に示すように、実施例2の時系列データ生成部6b’は、日毎にデータ取得対象とする電池の直列群を切替える。時系列データ生成部6b’は、1日目に1番目の蓄電池箱2内におけるバッテリモジュール11~1mとし、2日目に2番目の蓄電池箱2内におけるバッテリモジュール22~2mとし、n日目に最後であるn番目の蓄電池箱2内におけるバッテリモジュールn1~nmを取得した翌日に、再び1番目の蓄電池箱2内におけるバッテリモジュール11~1mをデータの取得対象とするように構成されている。
【0049】
以上の構成により、実施例2の本監視システム5は、全バッテリモジュールの時系列データを定期的に取得できる。そのため、電池システム1内の全てのバッテリモジュールの電池特性値の経年変化等を解析することができる。さらに、実施例2の本監視システム5は、データ取得対象を直列群毎とすることで、同一直列群で同一電流の各バッテリセル間におけるバッテリセル電圧のばらつきを把握することがでる。その結果、実施例2の本監視システム5は、特にバッテリセル過電圧等の故障を未然に防止することに役立つ。なお、電圧については、全バッテリセルが個別に監視されている。
【0050】
また、実施例2の本監視システム5は、時系列データの取得機会について、例えば、12並列の電池システム1の場合は、12日に1回となる。この周期に対し、電池劣化や季節変動といった変化は、これよりも充分に長い周期で変化することが考えられる。したがって、実施例2の本監視システム5において、時系列データの取得機会については、複数日に一度の頻度で良い。実施例2のその他の構成は、上述した実施例1の構成と同じであり、重複する説明を省略している。また、
図11に破線の囲みで示すように、複数の蓄電池箱2にわたって、各バッテリセルの何れかを個別、又は同時に監視できる。なお、監視対象の範囲、情報密度及び頻度は、任意に設定可能であり、
図11に示した破線の囲みは、一例に過ぎない。
【実施例3】
【0051】
つぎに、
図12及び
図13を用いて実施例3に係る鉄道車両用電池監視システム5(
図1の5と、
図2に相当)を説明する。実施例3の本監視システム5では、日毎に切り替えて時系列データを取得する対象蓄電池を直列群毎とするのではなく、1~n番目の全ての直列群それぞれから同数のバッテリモジュールを監視対象に選出する。
図12は、本発明の実施例3に係る時系列データ生成部6b’’の演算処理を示すブロック図である。
【0052】
図12の実施例3に係る時系列データ生成部6b’’は、
図10の実施例2に係る時系列データ生成部6b’に対し、スイッチの前段にバッテリモジュール情報組替部6b3が追加された点が異なる。バッテリモジュール情報組替部6b3は、各バッテリコントローラ4から、それぞれ送信されるバッテリモジュール情報*1~*m(*=1,2,3,…,n)を分解や再構築することにより、バッテリモジュール情報1*~n*(*=1,2,3,…,m)を生成する。
【0053】
図13は、
図12の時系列データ生成部6b’’がデータを取得する対象である蓄電池を直並列接続して例示する回路図である。
図13に示すように、実施例3では、1日目は全ての直列群の高圧側から1個目のバッテリモジュール、2日目は全ての直列群の高圧側から2個目、といったように各直列群からそれぞれ同数のバッテリモジュールを選出する。
【0054】
以上の構成により、実施例3は、全バッテリモジュールの時系列データを定期的に取得できる。さらに、データ取得対象を全ての直列群毎から選出することで、直列群間の電流ばらつきを把握することができ、過電流等の故障を未然に防止することに役立つ。実施例3のその他の構成は、上述した実施例1、及び実施例2の構成と同じであり、重複する説明を省略している。また、
図13に破線の囲みで示すように、複数の蓄電池箱2にわたって、各バッテリモジュールの何れかを個別、又は同時に監視できる。なお、監視対象の範囲、情報密度及び頻度は、任意に設定可能であり、
図13に示した破線の囲みは、一例に過ぎない。
【実施例4】
【0055】
つぎに、
図14を用いて実施例4を説明する。
図14は、本発明の実施例4に係る送信データ管理部(
図7の7a2に相当)での送信データ選定について例示する図である。遠隔監視装置7から地上サーバ8への日報データ送信タイミングについて、
図8に示した実施例1では毎回の稼働終了(コンピュータのシャットダウン)時としていた。これに対し、
図14の実施例4では、翌日の起動時とする。
【0056】
実施例4に係る鉄道車両用電池監視システム5(
図1の5と、
図2に相当)では、車上サーバ7aに不揮発性メモリを備えている。そして、稼働終了時には日報データを不揮発性メモリに書き込み、次の起動時には不揮発性メモリから日報データを呼出して演算する。そして翌日(次の運用日)の初回起動時には、不揮発性メモリから日報データを呼出し、ルータ7bとアンテナ7cを介して地上サーバ8に送信する。
【0057】
以上の構成により、実施例4の本監視システム5は、1日の中で複数回起動と終了が行われた場合でも日報データの送信回数を1回とすることができ、実施例1の場合に比べて通信量を削減できる。実施例4の本監視システム5は、1日の中で、異なる内容で複数回分の日報データが存在した場合、例えば、最大値と最小値のそれぞれは、より顕著な方のみを抽出することにより、単一の日報データにまとめられる。したがって、実施例4の本監視システム5は、異なる内容で複数回分の日報データのうち、何れを送信するか迷うことは無い。
【実施例5】
【0058】
つぎに、
図15~
図18を用いて実施例5を説明する。実施例5に係る鉄道車両用電池監視システム5(
図1の5と、
図2に相当)では、稼働中の全ての時間の一部蓄電池の時系列データを地上サーバ8に送るのではなく、故障発生前後の数分間のみ蓄電池の時系列データを地上サーバ8に送る。
【0059】
図15は、本電池監視システム5の機能構成を示す図である。
図15に示すように、実施例5の本監視システム5では、上位コントローラ6’の機能として、イベントデータ生成部6cが追加されている。
【0060】
イベントデータ生成部6cは、全てのバッテリモジュール3のバッテリモジュール故障フラグをOR論理で選出した故障発生フラグを生成して出力する。また、実施例5の本監視システム5において、日報データ生成部6a’は、各バッテリモジュール3のバッテリモジュール故障フラグに基づいて、バッテリモジュール故障フラグが1(故障あり)となった際の時刻(故障発生時刻)、及び故障コードを記録するものとする。さらに、時系列データ生成部6bは、処理としては実施例1と同じだが、全てのバッテリモジュール3の電池特性値の時系列データを事故発生前後の所定時間だけ出力する。
【0061】
図16は、
図15の遠隔監視装置7’をより詳細に示すブロック図である。
図16に示すように、実施例5では、車上サーバ7a’内の送信データ管理部7a2’の処理が異なる。送信データ管理部7a2’は上位コントローラ6’から受信した全ての畜電池にわたる過去数分間の時系列データを保持し、故障発生フラグが1(故障あり)となった事故の前後数分間の時系列データを送信データとする。
【0062】
図17は、
図16の送信データ管理部7a2’での送信データ選定について例示する図である。
図17に示すように、稼働中の2回の故障発生時について、それぞれ前後数分間の全バッテリモジュールの時系列データを送信データとして地上サーバ8に送信する。また、日報データについては実施例1と同様に、終了時に地上サーバ8に送信する。一日分の全時系列データ量は膨大なので、事故の前後数分間にわたる要点のみを時系列データとして用いる。
【0063】
図18は、
図16の地上サーバ8の蓄積データを例示する図である。
図18の日報データは、
図4及び
図9に示した実施例1のデータに加えて、各バッテリモジュール3の故障発生時刻、及び故障コードを蓄積する。さらに、時系列データとしては、故障発生事故の前後数分間の全バッテリモジュールの電池特性値の時系列データを蓄積する。つまり、実施例5の本監視システム5は、ドライブレコーダ同様に、連続的にバッファ記憶しておき、故障フラグが入ったときだけ、つまり事故の前後数分間にわたる要点のみを時系列データとして用いる。
【0064】
以上の構成により、実施例5の本監視システム5は、全てのバッテリモジュール3の電池特性値の日報データと、故障発生前後数分間の時系列データを得ることができ、これらの情報からより詳細な故障要因の解析をすることができる。なお、ここでは、時系列データの取得対象を全てのバッテリモジュールとしたが、それに限定しない。実施例5の本監視システム5では、例えば故障が発生したバッテリモジュールのみを対象とする等、一部のバッテリモジュールに着目して監視対象としても良い。実施例5の本監視システム5のその他の構成は、上述した実施例1のそれと同じであり、重複する説明を省略している。
【0065】
なお、本発明は上記した各実施形態に限定されるものではなく、様々な変形形態が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、又は置換をすることが可能である。
【0066】
[補足]
近年、地球温暖化といった環境問題を背景に、様々な産業分野において、省エネルギー化が一層重要とされ、鉄道においても、更なる消費電力量の削減が求められている。このような状況を踏まえて、非架線区間を蓄電池電力のみで走行する蓄電池電車や、エンジンと蓄電池を組み合わせたハイブリッド気動車等、蓄電池を搭載した鉄道車両が普及してきている。
【0067】
本監視システム5の適用対象は、電池システム1を搭載した鉄道車両であるが、その種類について、特に限定しない。本監視システム5は、上述の電車をはじめ、ハイブリッド気動車や、回生電力を蓄電池に充電して再利用する軽負荷回生システムを備えた電車、非常時に蓄電装置の放電電力で走行する非常走行システムを搭載した電車等のほか、電池システム1を搭載したあらゆる鉄道車両に適用できる。
【0068】
また、電池システム1を構成する蓄電池として、リチウムイオン電池を適用した場合を想定して説明したが、鉛電池やニッケル水素電池等、その他の蓄電素子にも、同様に適用できる。なお、上述のLTEとは、現在の第3世代携帯電話の略称であるが、その3Gを長期的に進化させた3.9Gや4Gと呼ばれている通信規格をも意味する。LTEの通信速度及び容量は、家庭向けブロードバンド携帯電話用基地局回線に近い。
【0069】
本監視システム5は、つぎのように総括できる。
[1]
図1に示す本監視システム5は、
図13のn列×m番目に配設されるような複数の蓄電池を監視するものであり、全ての蓄電池における一日の電池特性値の最大値と、最小値と、平均値と、積算値と、の少なくとも何れかを日報データとして生成及び記録し、サーバ8に送信する。日報データの用途は、主にメンテナンスのタイミングを決定するため、n列×m番目のどこに配設されたバッテリセルであるかを特定した上で、その劣化程度(寿命)を示す指標をできるだけ簡略に得ることである。
【0070】
鉄道車両は日毎に運用が管理されているため、日毎の時系列データ及び日報データは、概ね同一パターンの繰り返しである。すなわち、鉄道車両の電池システム1を構成する蓄電池を監視する電池特性値の日報データは、カレンダーや季節のほか社会情勢による輸送需要の変化と、天候等の環境変化、といった変動要因を除外すれば、毎日同じダイヤに基づいて運行されるので、電池特性値も同一パターンでの変動を繰り返される。
【0071】
例えば、平日の朝夕混雑時に満員の乗客を乗せてダイヤ通りに定時運行される鉄道車両の電池システム1の場合、月曜から金曜までの日報データは同一パターンの繰り返しであることが多い。したがって、上述した変動要因がないにも関わらず、同一パターンから逸脱するような日報データの変化があれば、故障や事故を原因とすることが考えられる。このように、日報データは、
図9で対比して示すように、膨大な時系列データのうち、その顕著な特徴的データのみを少ない情報量で示すことができる。
【0072】
本監視システム5は、蓄電池を監視するための各種指標値に対し、統計的手法による計算処理によって、日報データから寿命推定や予兆診断、故障時の要因解析等が可能である。そのため、本監視システム5は、鉄道車両を運転中の運転士に逐一指示するほどのリアルタイム性はなくても、その鉄道車両に搭載された蓄電池の保守のほか、列車運行管理を長期的に支援するための適切な情報を発出することを目的としている。この目的に応じて、例えば、
図1に示すバッテリモジュール3について、監視範囲をバッテリモジュール3の単位で捉えるか、各バッテリセル個別に捉えるか、は任意に設定できる。
【0073】
その目的を達成するために、本監視システム5は、膨大な時系列データから、必要最小限の特徴ある情報だけを抽出した日報データを主に取り扱えば足りる。すなわち、上述の同一パターンから逸脱する特徴的な日報データに変化があれば、故障や事故を原因とすることが考えられるので、膨大な時系列データから特徴的な日報データだけを抽出して効率的に監視すれば足りる。
【0074】
したがって、複数の蓄電池を監視する本監視システム5は、全ての蓄電池における一日の電池特性値の最大値と、最小値と、平均値と、積算値と、の少なくとも何れかを日報データとして生成し、それを記録し、出力することで、日毎にパターン化された時系列データと比較してデータ量を削減できる。その結果、[1]の本監視システム5は、鉄道車両から地上サーバ8への通信量を抑えつつ、寿命推定や予兆診断、故障時の要因解析等に活用できるデータを簡便に取得できる。
【0075】
[2]上記[1]の本監視システム5において、一部の蓄電池における一日の電池特性値の時系列データを生成及び記録し、一部の蓄電池の時系列データを、全ての蓄電池の日報データと合わせて地上サーバ8に送信すると良い。本監視システム5は、監視対象の範囲、情報密度及び頻度は、任意に設定可能であり、複数の蓄電池箱2にわたって、各バッテリセルの何れかを個別、又は同時に監視できる。したがって、簡素な日報データと、膨大な時系列データと、適宜に使い分けられる。
【0076】
時系列データは、故障発生した場合に、その原因究明のために最適タイミングのデータを解析容易な状態で提供されるので、情報量が莫大であり、通信にも負担がかかる。これに対し、日報データは、
図9の対比一覧に示すように、膨大な時系列データのうち、その顕著な特徴的データのみを少ない情報量で示すことができる。その結果、[2]の本監視システム5は、通信量を適宜に抑制できるので効率的に監視できる。
【0077】
[3]上記[2]の本監視システム5において、時系列データを取得する対象蓄電池を、
図11及び
図13に示すように、日毎に切り替えると良い。これによれば、監視目的によっては、監視頻度を数日に一度程度に設定することが望ましい場合もあるので、それに応じた最適な設定による監視ができる。その結果、[3]の本監視システム5は、必要最小現の通信量に抑制できるので効率的に監視できる。
【0078】
[4]上記[3]の本監視システム5において、日毎に切り替える対象蓄電池を、直列群毎にすることが好ましい。すなわち、
図10及び
図11に示すように、[4]の本監視システム5は、1~n番目まで同一規格の各蓄電池箱2がそれぞれ直列群を備え、監視対象として、1~n番目の蓄電池箱2を日毎に切り替えるならば、蓄電池箱2単位で劣化する速度に合わせた適度な周期で監視できる。また、[4]の本監視システム5は、監視対象として切り替える蓄電池箱2の単位が、メンテナンスで交換する単位と一致していれば、使い勝手が一層良好である。
【0079】
[5]上記[3]の本監視システム5において、日毎に切り替える対象蓄電池を、全ての直列群から同数選出するようにしても良い。すなわち、
図12及び
図13に示すように、本監視システム5は、同一規格の各蓄電池箱2がそれぞれ直列群を備え、その直列群を構成する各バッテリセルも同一規格であるとする。その場合、監視対象である全ての蓄電池箱2の各直列群から同数のバッテリセルを選出するように、日毎に切り替えるならば、各直列群間の電流ばらつき等を検出できる。その結果、[5]の本監視システム5は、選出数に応じたバッテリセル単位で劣化の程度を、適度な周期で監視できる。また、監視対象として切り替えるバッテリセルの単位が、メンテナンスで交換する単位と一致していれば、使い勝手が良好である。
【0080】
[6]上記[1]~[5]の本監視システム5において、蓄電池の電池特性値を、
図4に示すように、電流と電圧と温度と充電率との何れか1つ以上で示すことが好ましい。[6]の本監視システム5によれば、例えば、リチウムイオン電池その他の蓄電池の種類に応じた仕様に基づいて、使用状態に応じた適切な充放電の許容電流値を設定できるほか、メンテナンス周期の良好な管理も実現できる。
【0081】
[7]上記[1]~[6]の本監視システム5において、
図8に示すように、電池監視システム5の終了(シャットダウン)時に日報データを地上サーバ8に送信するようにしても良い。通常のコンピュータ装置は、稼働中に用いるRAM(Random Access Memory)等のように、通電中のみデータの記録が行えるメモリ演算用のキャッシュメモリ(cache memory)やメインメモリ(Main memory)と、非稼働中に電源を切っても記憶内容を保持することができる不揮発性メモリと、を備える。[7]の本監視システム5によれば、シャットダウンしてから再起動するまでの間にデータを記憶しておく必要が無いので、車上装置に具備される上位コントローラ6において、不揮発性メモリとして必要な容量を減らすことができる。
【0082】
[8]上記[1]~[6]の本監視システム5において、
図14に示すように、電池監視システム5の毎日の初回起動時に日報データを地上サーバ8に送信するようにしても良い。電車の運行ダイヤの都合により、1つの電車を1日のうち何回も長時間停車する場合、パンタグラフを下す等により、補機まで含めて電車全体を休止状態にする運用がある。このような場合、車上装置のコンピュータは、昼間でもシャットダウンされる。このとき、データを消滅させないように、そのコンピュータは、それに備わる不揮発性メモリに、1日分の日報データを間欠的に記憶しておき、これを毎日の初回起動時のみに1回で地上サーバ8に送信すると都合良い。
【0083】
このように、[8]の本監視システム5では、複数回分が間欠的に記憶された1日分の日報データは、1つにまとめられる。したがって、[8]の本監視システム5では、全ての蓄電池における一日の電池特性値の最大値と、最小値と、平均値と、積算値と、の何れであっても、1回、又は1まとまりの簡単な処理で生成されて送信される。その結果、車上装置のコンピュータは、負担が少なくて済む。また、日報データであれば、1日分であってもデータ量が少ないので、[8]の本監視システム5によれば、コンピュータに必要とされる不揮発性メモリも小容量で足りる。
【0084】
[9]上記[1]~[8]の本監視システム5において、
図18に示すように、蓄電池故障発生前後の電池特性値の時系列データを生成及び記録し、全ての蓄電池の日報データと合わせて地上サーバに送信するようにしても良い。このような本監視システム5によれば、自動車事故の原因究明に好適なドライブレコーダと同等の機能を発揮し、より詳細な故障要因を解析できる。すなわち、[9]の本監視システム5は、情報量が莫大であり、通信にも負担がかかる時系列データを連続的にメモリに記憶し、その記憶エリアに対して所定時間後に上書きを継続するので、そのメモリの容量は、わずかでも、故障原因の究明に役立てられる。
【0085】
[10]本発明の実施形態に係る鉄道車両用車上装置(
図1に示唆される本車上装置)は、複数の蓄電池を監視する機能を有し、全ての蓄電池における一日の電池特性値の最大値と、最小値と、平均値と、積算値と、の少なくとも何れかを日報データとして生成及び記録し、日報データを地上サーバ8に送信する。このような[10]の本車上装置によれば、鉄道車両から地上サーバ8への通信量を抑えつつ、寿命推定や予兆診断、故障時の要因解析等に活用できるデータを簡便に発出できる。
【0086】
[11]本発明の実施形態に係る鉄道車両用蓄電池監視方法(本方法)は、鉄道車両における複数の蓄電池を監視する方法であって、全ての蓄電池における一日の電池特性値の最大値と、最小値と、平均値と、積算値と、の少なくとも何れかを日報データとして生成及び記録し、日報データを地上サーバ8に送信する。本方法は、本監視システム5を構成するコンピュータにおいて、メモリに記憶されたプログラムをCPU(Central Processing Unit)が実行することにより、本監視システム5を構成する各機能が形成され、所定の手順により実行される。そのコンピュータはワンチップマイコンが好適であるが、他用途のコンピュータの一部を兼用利用しても構わない。このような[11]の本方法によれば、鉄道車両から地上サーバ8への通信量を抑えつつ、寿命推定や予兆診断、故障時の要因解析等に活用できるデータを簡便に取得できる。
【符号の説明】
【0087】
1…電池システム(Battery system)、11~1m,21~2m,n1~nm…バッテリモジュール情報(Battery module information)、2…蓄電池箱(Storage Battery box)、3…バッテリモジュール(Battery module)、4…バッテリコントローラ(Battery controller)、4a…電池特性値測定部(Battery characteristic value measuring part)、4b…SOC推定部(SOC estimation part)、4c…異常診断部(Abnormality diagnosis part)、4d…セル情報処理部(Cell information processing part)、5…電池監視システム(Battery monitoring system)、6,6’…上位コントローラ(Upper controller)、6a,6a’…日報データ生成部(Daily report data generator)、6a1…最大値演算部(Maximum value calculator)、6a2…最小値演算部(Minimum value calculator)、6a3…平均値演算部(average value calculator)、6a4…積算値演算部(Integrated value calculator)、6b,6b’,6b’’…時系列データ生成部(Time series data generator)、6b1,6b1’,6b1’’…時系列データ対象抽出部(Time series data target extraction part)、6b2…電池特性値データ抽出部(Battery characteristic value data extraction part)、6b3…バッテリモジュール情報組替部(Battery Module information rearrangement part)、6c…イベントデータ生成部(Event data generator)、7,7’…遠隔監視装置(Remote monitoring device)、7a…車上サーバ(On-board server)、7a1…起動終了判定部(Start / end judgment part)、7a2,7a2’…送信データ管理部(Transmission data management part)、7b…ルータ(Router)、7c…アンテナ(Antenna)、8…地上サーバ(Ground server)