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特許7587722活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、塗膜および積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、塗膜および積層体
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/06 20060101AFI20241113BHJP
   C08G 18/67 20060101ALI20241113BHJP
   C09D 4/02 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
C08F290/06
C08G18/67 010
C09D4/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024057555
(22)【出願日】2024-03-29
【審査請求日】2024-04-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 早季子
(72)【発明者】
【氏名】西村 文男
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-161761(JP,A)
【文献】国際公開第2024/063128(WO,A1)
【文献】特開平05-345050(JP,A)
【文献】国際公開第2022/225041(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C08G
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の製造方法であって、
グリセリンジアクリレート(A)およびグリセリントリアクリレート(B)を含むモノマー(M)と、イソシアネート化合物(C)とを含む原料を用いて、活性エネルギー線硬化性成分を得る工程を備え、
前記モノマー(M)は、前記グリセリントリアクリレート(B)を80質量%以上含み、
前記工程では、前記グリセリンジアクリレート(A)と前記イソシアネート化合物(C)とを付加反応することで付加反応物(X)を生成させ、
前記モノマー(M)は、水酸基価が10mgKOH/g以上、50mgKOH/g以下であり、
前記イソシアネート化合物(C)は、脂肪族イソシアネート及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、かつ、前記脂肪族イソシアネートは分子中に芳香環および脂環を有さず、
前記活性エネルギー線硬化性成分は、前記付加反応物(X)、および、前記グリセリントリアクリレート(B)を含有し、
前記付加反応物(X)は、前記活性エネルギー線硬化性成分の全質量に対して14.6質量%以下含まれる、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記イソシアネート化合物(C)の誘導体が、脂肪族ポリイソシアネートのイソシアヌレート体および脂肪族ポリイソシアネートのビウレット体からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物を含有する塗膜の製造方法であって、
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を請求項1または2に記載の製造方法によって製造する工程と、
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化することで前記硬化物を得る工程を備える、塗膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、塗膜および積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線等の活性エネルギー線によって硬化する重合性成分を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、例えば、硬化すると塗膜等の硬化物を形成することができるため、コーティング用途等に広く用いられている。
【0003】
例えば、電子デバイスや光学デバイス等に用いられる樹脂フィルム等の表面を保護する目的で、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物をコーティング剤として使用されることが知られている。具体的には、樹脂フィルム等の表面に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗工して皮膜を形成させ、この皮膜に紫外線等の活性エネルギー線を照射することで、皮膜を硬化させる工程を実施する。この工程によって、樹脂フィルム等の表面に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の塗膜が形成される。斯かる塗膜によって樹脂フィルム等の表面が保護され、例えば、樹脂フィルムの傷付きを防止することを可能とする。この観点から、樹脂フィルム等の表面の保護性能を高めるべく、耐擦傷性等の性能に優れる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が種々検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、特定の構造を有するウレタンアクリレート樹脂と光重合開始剤とを含有する活性エネルギー線硬化性組成物が開示されており、斯かる組成物によって、高い硬度を有し、耐擦傷性にも優れる硬化塗膜を形成できるものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2023-161761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年、電子デバイスや光学デバイス等の高性能化が急速に進展する中、それらに使用される樹脂フィルムにもさらなる性能向上の要求はますます高まっている。これに応じて、コーティング剤(活性エネルギー線硬化性樹脂組成物)に対する要望も高まっており、従来よりも耐擦傷性に優れる塗膜を樹脂フィルムに形成することができる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が求められていた。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、高い硬度を有し、耐擦傷性に優れ、基材への密着性にも優れる塗膜を形成することができる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を用いて形成される塗膜および該塗膜を備える積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、グリセリンジアクリレートおよびイソシアネート化合物の反応により得られる生成物と、グリセリントリアクリレートとを所定の割合で含有する活性エネルギー線硬化性成分を用いることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
活性エネルギー線硬化性成分を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物であって、
前記活性エネルギー線硬化性成分は、
グリセリンジアクリレート(A)を含有するモノマー(M)とイソシアネート化合物(C)との付加反応物(X)を含有し、
前記モノマー(M)は、グリセリントリアクリレート(B)をさらに含有し、
前記モノマー(M)は、水酸基価が5mgKOH/g以上、80mgKOH/g以下であり、
前記イソシアネート化合物(C)は、脂肪族イソシアネート及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記付加反応物(X)は、前記活性エネルギー線硬化性成分の全質量に対して15質量%以下含まれる、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
項2
前記イソシアネート化合物(C)の誘導体が、脂肪族ポリイソシアネートのイソシアヌレート体および脂肪族ポリイソシアネートのビウレット体からなる群から選択される少なくとも1種である、項1に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
項3
前記反応物は、前記付加反応物(X)と前記グリセリントリアクリレート(B)とを含有する、項1または2に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
項4
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の製造方法であって、
グリセリンジアクリレート(A)およびグリセリントリアクリレート(B)を含むモノマー(M)と、イソシアネート化合物(C)とを含む原料を用いて、前記活性エネルギー線硬化性成分を得る工程を備え、
前記モノマー(M)は、水酸基価が5mgKOH/g以上、80mgKOH/g以下であり、
前記イソシアネート化合物(C)は、脂肪族イソシアネート及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記活性エネルギー線硬化性成分は、前記グリセリンジアクリレート(A)と前記イソシアネート化合物(C)との付加反応物(X)、および、前記グリセリントリアクリレート(B)を含有する、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の製造方法。
項5
前記イソシアネート化合物(C)の誘導体が、脂肪族ポリイソシアネートのイソシアヌレート体および脂肪族ポリイソシアネートのビウレット体からなる群から選択される少なくとも1種である、項4に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の製造方法。
項6
前記付加反応物(X)は、前記活性エネルギー線硬化性成分の全質量に対して15質量%以下含まれる、項4又は5に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の製造方法。
項7
項1~3のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物を含有する、塗膜。
項8
項7に記載の塗膜を基材上に備える、積層体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、高い硬度を有し、耐擦傷性に優れ、基材への密着性にも優れる塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0012】
1.活性エネルギー線硬化性樹脂組成物
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、活性エネルギー線硬化性成分を含有してなるものである。当該活性エネルギー線硬化性成分は、グリセリンジアクリレート(A)を含有するモノマー(M)とイソシアネート化合物(C)との付加反応物(X)を含有する。前記モノマー(M)は、グリセリントリアクリレート(B)をさらに含有し、前記モノマー(M)は、水酸基価が5mgKOH/g以上、80mgKOH/g以下である。前記イソシアネート化合物(C)は、脂肪族イソシアネート及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種である。前記付加反応物(X)は、前記活性エネルギー線硬化性成分の全質量に対して15質量%以下含まれる。
【0013】
なお、本明細書では、グリセリンジアクリレートを「グリセリンジアクリレート(A)」と表記し、グリセリントリアクリレートを「グリセリントリアクリレート(B)」と表記し、イソシアネート化合物を「イソシアネート化合物(C)」と表記する。
【0014】
本明細書において、以下では「本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物」を単に「本発明の硬化性樹脂組成物」と略記する。
【0015】
本発明の硬化性樹脂組成物は、高い硬度を有し、耐擦傷性に優れる塗膜を形成することができる。特に、本発明の硬化性樹脂組成物から得られる塗膜は、マルテンス硬度と、鉛筆硬度との両方に優れるものである。
【0016】
また、本発明の硬化性樹脂組成物を用いて形成される塗膜は、樹脂フィルムに対する密着性も高い。
【0017】
従って、本発明の硬化性樹脂組成物は、樹脂フィルム等の基材に対するコーティング剤として好適に使用することができる。
【0018】
(活性エネルギー線硬化性成分)
本発明の硬化性樹脂組成物は、活性エネルギー線硬化性成分を必須成分として含有する。活性エネルギー線硬化性成分とは、活性エネルギー線によって硬化する性質、特には活性エネルギー線によって重合する性質を有する成分である。本発明でいう活性エネルギー線は、紫外線が好ましく、その他、電子線、γ線、カーボンアーク灯、キセノン灯、メタルハライド灯等が挙げられる。以下、活性エネルギー線硬化性成分を単に「硬化性成分」と略記する。
【0019】
硬化性成分は、前述のように、グリセリンジアクリレート(A)を含有するモノマー(M)とイソシアネート化合物(C)との付加反応物(X)を含有する。
【0020】
モノマー(M)はグリセリントリアクリレート(B)さらに含有する。従って、モノマー(M)は、グリセリンジアクリレート(A)およびグリセリントリアクリレート(B)の混合物である。
【0021】
モノマー(M)の水酸基価が5mgKOH/g以上、80mgKOH/g以下である。モノマー(M)の水酸基価がこの範囲であることによって、本発明の硬化性樹脂組成物から得られる塗膜は、高い硬度を有し、かつ、耐擦傷性に優れるものとなる。モノマー(M)の水酸基価が5mgKOH/g未満である場合、あるいは、80mgKOH/gを超過する場合、本発明の硬化性樹脂組成物から得られる塗膜の硬度が低下し、特にマルテンス硬度が低下し、また、所望の耐擦傷性を有する塗膜を形成することも難しくなる。
【0022】
モノマー(M)の水酸基価は、10mgKOH/g以上であることが好ましく、15mgKOH/g以上であることがより好ましく、20mgKOH/g以上であることがさらに好ましく、25mgKOH/g以上であることが特に好ましく、また、70mgKOH/g以下であることが好ましく、60mgKOH/g以下であることがより好ましく、50mgKOH/g以下であることがさらに好ましく、40mgKOH/g以下であることが特に好ましい。
【0023】
モノマー(M)は、水酸基価が5mgKOH/g以上、80mgKOH/g以下である限り、グリセリンジアクリレート(A)およびグリセリントリアクリレート(B)以外の他の成分を含むこともできる。モノマー(M)はグリセリンジアクリレート(A)およびグリセリントリアクリレート(B)を80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、95質量%以上含むことがさらに好ましい。モノマー(M)は、グリセリンジアクリレート(A)およびグリセリントリアクリレート(B)のみからなることが特に好ましい。
【0024】
モノマー(M)において、グリセリンジアクリレート(A)およびグリセリントリアクリレート(B)の含有割合は、水酸基価が5mgKOH/g以上、80mgKOH/g以下となる範囲で調節することができる。例えば、グリセリンジアクリレート(A)およびグリセリントリアクリレート(B)の総量に対し、グリセリントリアクリレート(B)は50質量%以上含有することが好ましい。
【0025】
付加反応物(X)は、モノマー(M)中のグリセリンジアクリレート(A)とイソシアネート化合物(C)との付加反応により得られる生成物である。より詳しくは、付加反応物(X)は、グリセリンジアクリレート(A)とイソシアネート化合物(C)とを重付加反応させて得られる重付加物である。従って、付加反応物(X)は、グリセリンジアクリレート(A)由来の単位と、イソシアネート化合物(C)由来の単位とを含む化合物である。
【0026】
なお、モノマー(M)中のグリセリントリアクリレート(B)は、水酸基を有さない化合物であるので、イソシアネート化合物(C)とは付加反応しないことから、付加反応物(X)は、グリセリントリアクリレート(B)由来の単位を含まない。
【0027】
付加反応物(X)は、具体的には、グリセリンジアクリレート(A)の分子中に存在する水酸基(OH)と、イソシアネート化合物(C)の分子中に存在するイソシアネート基(NCO)とが反応することで得られる生成物である。とりわけ、後記するようにイソシアネート化合物(C)はイソシアネート基を2個以上有するので、グリセリンジアクリレート(A)およびイソシアネート化合物(C)との反応は逐次的に進行するものであり、重付加反応となる。
【0028】
付加反応物(X)は、グリセリンジアクリレート(A)中の水酸基(OH)と、イソシアネート化合物(C)中のイソシアネート基(NCO)との反応によって生成するので、付加反応物(X)には、ウレタン結合(OCONH)が存在する。すなわち、付加反応物(X)は、前述の反応によって生じるウレタン部位と、グリセリンジアクリレート(A)に由来するアクリレート部位との両方を有するので、ウレタンアクリレート化合物ということができる。
【0029】
前記イソシアネート化合物(C)は、脂肪族イソシアネート及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種である。特に、イソシアネート化合物(C)は、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する。なお、脂肪族イソシアネートおよびその誘導体(脂肪族イソシアネート誘導体)はいずれも、分子中に芳香環、脂環(環状の炭化水素基)を有さないことが好ましい。
【0030】
前記脂肪族イソシアネートは、例えば、公知の二官能以上の脂肪族イソシアネートを広く挙げることができ、その例として、炭素数30以下の脂肪族ジイソシアネート化合物を挙げることができる。具体的な脂肪族イソシアネートとしては、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2-メチル-1,5-ペンタンジイソシアネート、3-メチル-1,5-ペンタンジイソシアネート、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。本発明の硬化性樹脂組成物から得られる塗膜の硬度が高くなりやすく、耐擦傷性もより高まるという点で、前記脂肪族イソシアネートは、炭素数4~30の脂肪族ジイソシアネート化合物が好ましく、炭素数4~10の脂肪族ジイソシアネート化合物がより好ましい。
【0031】
脂肪族イソシアネート誘導体(イソシアネート化合物(C)の誘導体と同義である)は、例えば、三官能以上のイソシアネート化合物を挙げることができる。中でも、本発明の硬化性樹脂組成物から得られる塗膜の硬度が高くなりやすく、耐擦傷性もより高まるという点で、脂肪族イソシアネート誘導体は、脂肪族ポリイソシアネートのイソシアヌレート体および脂肪族ポリイソシアネートのビウレット体からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0032】
脂肪族ポリイソシアネートのイソシアヌレート体としては、例えば、イソシアヌレート由来の窒素原子に-R-NCOが結合してなる化合物を挙げることができ、脂肪族ポリイソシアネートのビウレット体としては、例えば、ビウレット由来の窒素原子に-R-NCOが結合してなる化合物を挙げることができる。ここで、Rはいずれも炭素数30以下のアルキレン基を挙げることができ、好ましくは炭素数4~30のアルキレン基、より好ましくは炭素数4~10のアルキレン基である。
【0033】
以上より、イソシアネート化合物(C)としては、脂肪族イソシアネート、脂肪族ポリイソシアネートのイソシアヌレート体および脂肪族ポリイソシアネートのビウレット体からなる群から選択される少なくとも1種を好ましく採用することができる。より好ましいイソシアネート化合物(C)は、脂肪族イソシアネートであり、この場合、マルテンス硬度のより高い塗膜を形成しやすい。
【0034】
付加反応物(X)を得るために使用するイソシアネート化合物(C)は、1種単独または2種以上とすることができる。
【0035】
イソシアネート化合物(C)は、例えば、公知の方法で製造して得ることができ、あるいは、市販品等から入手することもできる。
【0036】
グリセリンジアクリレート(A)およびイソシアネート化合物(C)の反応によって方法は特に限定されない。例えば、後記する工程1で行われる反応によって、付加反応物(X)を得ることができる。
【0037】
付加反応物(X)の分子量は、例えば、モル質量換算で450以上、3000以下が好ましく、550以上、1200以下がより好ましい。
【0038】
以上のように、硬化性成分は、グリセリンジアクリレート(A)を含有するモノマー(M)とイソシアネート化合物(C)との付加反応物(X)を含有するものであり、言い換えれば、硬化性成分は、前記付加反応物(X)と前記グリセリントリアクリレート(B)とを含有するものである。
【0039】
硬化性成分は、付加反応物(X)及びグリセリントリアクリレート(B)以外に他の成分を含むことができる。他の成分としては、種々の重合性二重結合を有する化合物、とりわけ、(メタ)アクリル化合物を挙げることができる。本明細書において、「(メタ)アクリル」とは「アクリル」または「メタクリル」を意味する。
【0040】
硬化性成分は、付加反応物(X)及びグリセリントリアクリレート(B)を合わせて50質量%以上含むことができ、70質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましく、99質量%以上含むことが特に好ましい。硬化性成分は、付加反応物(X)及びグリセリントリアクリレート(B)のみからなるものであってもよい。この場合において、硬化性成分に不可避的に含まれるグリセリンジアクリレート(A)および/またはイソシアネート化合物(C)の含有を排除するものではない。不可避的に含まれるグリセリンジアクリレート(A)および/またはイソシアネート化合物(C)とは、例えば、付加反応物(X)を得るための反応の未反応物である。なお、硬化性成分は、後記する溶媒を含まないことが好ましい。
【0041】
(活性エネルギー線硬化性樹脂組成物)
次に、本発明の硬化性樹脂組成物を説明する。本発明の硬化性樹脂組成物は、上述の硬化性成分を必須成分として含有する。すなわち、本発明の硬化性樹脂組成物は、付加反応物(X)及びグリセリントリアクリレート(B)を少なくとも含有する混合物である。
【0042】
本発明の硬化性樹脂組成物において、付加反応物(X)は、前記硬化性成分の全質量に対して15質量%以下含まれる。これにより、本発明の硬化性樹脂組成物から得られる塗膜は、高い硬度を有し、かつ、耐擦傷性に優れるものとなる。付加反応物(X)の含有割合が、前記硬化性成分の全質量に対して15質量%を超過する場合、本発明の硬化性樹脂組成物から得られる塗膜の硬度が低下し、特にマルテンス硬度が低下し、また、所望の耐擦傷性を得ることも難しくなる。
【0043】
本発明の硬化性樹脂組成物において、付加反応物(X)は、前記硬化性成分の全質量に対して1質量%以上含まれることが好ましく、5質量%以上含まれることがより好ましく、7質量%以上含まれることがさらに好ましく、8質量%以上含まれることが特に好ましい。
【0044】
本発明の硬化性樹脂組成物は、硬化性成分を必須成分とする限り、その他の成分を含むことができる。その他の成分としては、例えば、溶媒、重合開始剤、重合禁止剤、光増感剤、光安定剤、シランカップリング剤、紫外線吸収剤、触媒、レベリング剤、消泡剤、重合促進剤、酸化防止剤、難燃剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤、スリップ剤、可塑剤、分散剤等が挙げられる。
【0045】
前記溶媒は、例えば、本発明の硬化性樹脂組成物の塗工性を向上させることを目的として添加され得る。溶媒としては、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等の塩素系炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル化合物;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエンおよびキシレン等の芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;酢酸ビニル等のエステル化合物;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールおよびt-ブタノール等のアルコール;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のホルムアミド;2-ピロリドン、N-メチルピロリドン等のピロリドン;ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0046】
本発明の硬化性樹脂組成物に含まれる溶媒の量は特に限定されず、例えば、前記硬化性成分の総濃度が1~100質量%となるように溶媒の量を調整することができ、塗工性を考慮すると、好ましくは5~50質量%程度である。
【0047】
前記重合開始剤は、例えば、公知の重合開始剤を広く使用することができる。重合開始剤は、熱分解重合開始剤及び光重合開始剤のいずれであってもよく、製膜しやすい点で、重合開始剤は、光重合開始剤であることが好ましい。
【0048】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン等の芳香族ケトン類、アントラセン、α-クロロメチルナフタレン等の芳香族化合物、ジフェニルスルフィド、チオカーバメイト等のイオウ化合物を挙げることができる。可視光以外の紫外線などの活性エネルギー線による重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3-メチルアセトフェノン、4-クロロベンゾフェノン、4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノ-プロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1,4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、2,4,6,-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、オリゴ(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-(4-(1-メチルビニル)フェニル)プロパノン)等を挙げることができる。
【0049】
本発明の硬化性樹脂組成物に含まれる重合開始剤の含有量は特に制限されず、前記硬化性成分の総量100質量部に対して0.01~10質量部とすることができ、好ましくは、0.03~5質量部である。あるいは、重合開始剤の含有量は、前記付加反応物(X)の総量に対して0.1~1質量%とすることもできる。
【0050】
本発明の硬化性樹脂組成物は、前記溶媒を除いた総質量に対し、前記硬化性成分を50質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましく、95質量%以上含むことが特に好ましい。
【0051】
(活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の製造方法)
本発明の硬化性樹脂組成物を製造する方法は特に限定されず、例えば、公知の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の製造方法を広く採用することができる。好ましくは、下記の工程1を備える製造方法によって、本発明の硬化性樹脂組成物を製造することができる。
工程1:グリセリンジアクリレート(A)およびグリセリントリアクリレート(B)を含むモノマー(M)と、イソシアネート化合物(C)とを含む原料を用いて、前記活性エネルギー線硬化性成分を得る工程。
【0052】
工程1では、グリセリンジアクリレート(A)およびグリセリントリアクリレート(B)を含むモノマー(M)と、イソシアネート化合物(C)を含む原料を用いる。
【0053】
工程1において、前記原料を用いる反応とは詳しくは、グリセリンジアクリレート(A)およびイソシアネート化合物(C)の付加反応(重付加)である。斯かる反応を行うことで、グリセリンジアクリレート(A)およびイソシアネート化合物(C)の付加反応(重付加)が起こり、前記付加反応物(X)が生成する。
【0054】
工程1で使用する原料は、モノマー(M)と、イソシアネート化合物(C)とをそれぞれ所定の割合で混合することで調製することができる。
【0055】
原料に含まれるモノマー(M)の水酸基価は、5mgKOH/g以上、80mgKOH/g以下である。モノマー(M)の水酸基価がこの範囲であることによって、本発明の製造方法で得られる硬化性樹脂組成物は、高い硬度を有し、かつ、耐擦傷性に優れる塗膜を形成することができる。
【0056】
原料に含まれるモノマー(M)の水酸基価が5mgKOH/g未満である場合、あるいは、80mgKOH/gを超過する場合、本発明の製造方法で得られる硬化性樹脂組成物の塗膜は、硬度が低下し、特にマルテンス硬度が低下し、また、所望の耐擦傷性を有する塗膜を形成することも難しくなる。
【0057】
モノマー(M)の水酸基価は、10mgKOH/g以上であることが好ましく、15mgKOH/g以上であることがより好ましく、20mgKOH/g以上であることがさらに好ましく、25mgKOH/g以上であることが特に好ましく、また、70mgKOH/g以下であることが好ましく、60mgKOH/g以下であることがより好ましく、50mgKOH/g以下であることがさらに好ましく、40mgKOH/g以下であることが特に好ましい。
【0058】
モノマー(M)は、水酸基価が5mgKOH/g以上、80mgKOH/g以下である限り、グリセリンジアクリレート(A)およびグリセリントリアクリレート(B)以外の他の成分を含むこともできる。モノマー(M)はグリセリンジアクリレート(A)およびグリセリントリアクリレート(B)を80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、95質量%以上含むことがさらに好ましい。モノマー(M)は、グリセリンジアクリレート(A)およびグリセリントリアクリレート(B)のみからなることが特に好ましい。
【0059】
モノマー(M)において、グリセリンジアクリレート(A)およびグリセリントリアクリレート(B)の含有割合は、水酸基価が5mgKOH/g以上、80mgKOH/g以下となる範囲で調節することができる。例えば、グリセリンジアクリレート(A)およびグリセリントリアクリレート(B)の総量に対し、グリセリントリアクリレート(B)は50質量%以上含有することが好ましい。
【0060】
グリセリンジアクリレート(A)およびグリセリントリアクリレート(B)を含むモノマー(M)は、市販品から入手することが可能であり、例えば、東亞合成社のアロニックス(登録商標)シリーズであるM-930を挙げることができる。
【0061】
原料に含まれるイソシアネート化合物(C)は、脂肪族イソシアネート及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種である。イソシアネート化合物(C)の誘導体とは、前述同様、脂肪族ポリイソシアネートのイソシアヌレート体および脂肪族ポリイソシアネートのビウレット体からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0062】
原料に含まれるイソシアネート化合物(C)は、脂肪族イソシアネート、脂肪族ポリイソシアネートのイソシアヌレート体および脂肪族ポリイソシアネートのビウレット体からなる群から選択される少なくとも1種を好ましく採用することができる。より好ましいイソシアネート化合物(C)は、脂肪族イソシアネートであり、この場合、本開示の製造方法で得られる硬化性樹脂組成物はマルテンス硬度のより高い塗膜を形成しやすい。原料に含まれるイソシアネート化合物(C)は、1種単独または2種以上とすることができる。
【0063】
工程1で行うグリセリンジアクリレート(A)およびイソシアネート化合物(C)の付加反応(重付加)は、例えば、公知の重付加反応を広く採用することができ、例えば、公知のアルコール化合物と、イソシアネート化合物とを反応する反応条件を広く本発明でも採用することができる。
【0064】
例えば、モノマー(M)中のグリセリンジアクリレート(A)と、イソシアネート化合物(C)とを、触媒の存在下で反応させることで付加反応物(X)を得ることができる。なお、モノマー(M)中のグリセリントリアクリレート(B)には水酸基が存在しないので、グリセリントリアクリレート(B)は、イソシアネート化合物(C)とは反応しない。従って、重付加反応の後も、グリセリントリアクリレート(B)は残存する。
【0065】
前記触媒としては、例えば、有機錫系化合物を使用することができ、具体例として、錫オクトエート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジネオデカネート、ジオクチル錫ジラウレート、マンガン、コバルト、鉛、ビスマス錫酸塩、鉛錫酸塩、ジルコニウムオクトエート、ジンクオクトエート、ジブチル錫-ビス-o-フェニルフェニレン、ジブチル錫-S,S-ジブチルジチオ-カーボネート、トリフェニルアンチモニージクロライド、ジブチル錫マレエート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレートメルカプチド、トリエチレンジアミン、ビスマスステアレート、鉛ステアレート、ジメチル錫ジクロライドなどを挙げることができる。触媒の使用量は、通常、グリセリンジアクリレート(A)およびイソシアネート化合物(C)の合計100質量部あたり、0.001~5重量部の範囲で調節することができる。
【0066】
付加反応物(X)を得るための反応は、重合禁止剤の存在下で行うこともできる。重合禁止剤としては、ハイドロキノンモノメチルエーテル等の公知に重合禁止剤を広く使用することができる。
【0067】
付加反応物(X)を得るための反応温度も特に限定されず、例えば、30~100℃程度、好ましくは、50~80℃とすることができる。反応時間も特に制限は無く、反応温度に応じて適宜の範囲とすることができる。例えば、遊離イソシアネート量が使用したイソシアネート化合物(C)に対して10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下となるまで反応することができる。
【0068】
工程1で使用する原料は、グリセリンジアクリレート(A)、グリセリントリアクリレート(B)およびイソシアネート化合物(C)以外に他の成分を含むことができる。他の成分としては、前述の触媒、重合禁止剤等が挙げられる他、必要に応じて添加される重合性モノマー等である。
【0069】
上記の原料を用いて反応(重付加反応)を行うことで、グリセリンジアクリレート(A)およびイソシアネート化合物(C)の反応が進行し、付加反応物(X)が生成する。前述のようにグリセリントリアクリレート(B)は水酸基を有さないので、反応せずに残存する。従って、上記の原料を用いた反応により、付加反応物(X)と、グリセリントリアクリレート(B)とを含む硬化性成分が得られる。
【0070】
付加反応物(X)の分子量は、例えば、モル質量換算で450以上、3000以下が好ましく、550以上、1200以下がより好ましい。
【0071】
工程1で得られた硬化性成分に必要に応じて溶媒、光重合開始剤等を配合し、本発明の硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【0072】
工程1で得られる硬化性成分(活性エネルギー線硬化性成分)は、付加反応物(X)を、前記硬化性成分の全質量に対して15質量%以下含む。これにより、本発明の製造方法で得られる硬化性樹脂組成物は、高い硬度を有し、かつ、耐擦傷性に優れる塗膜を形成することができる。付加反応物(X)の含有割合が、前記硬化性成分の全質量に対して15質量%を超過する場合、塗膜の硬度が低下し、特にマルテンス硬度が低下し、また、所望の耐擦傷性を得ることも難しくなる。
【0073】
付加反応物(X)は、前記硬化性成分の全質量に対して1質量%以上含まれることが好ましく、5質量%以上含まれることがより好ましく、7質量%以上含まれることがさらに好ましく、8質量%以上含まれることが特に好ましい。
【0074】
(塗膜)
本発明の硬化性樹脂組成物、または、本発明の製造方法で得られる硬化性樹脂組成物を用いることで、塗膜を形成することができる。具体的には、硬化性樹脂組成物に必要に応じて溶剤、重合開始剤等を加えて塗工液とし、この塗工液を基材に塗工して皮膜を形成させ、斯かる皮膜を硬化することで、基材上に塗膜を形成することができる。すなわち、前記塗膜は本発明の硬化性樹脂組成物の硬化物を含有する。
【0075】
基材は特に限定されず、例えば、公知の樹脂フィルムを各種挙げることができる。フィルムの種類も特に限定されず、各種樹脂フィルムを広く挙げることができ、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、アクリルフィルム等である。
【0076】
本発明の硬化性樹脂組成物から得られる塗工液を基材上に塗布する方法も特に限定されず、公知の塗布方法を広く採用することができる。例えば、公知の塗工装置を用いて塗布することができ、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ロッドブレードコーター、リップコーター、ダイコーター、カーテンコーター等が挙げられる。
【0077】
基材上に形成された皮膜を硬化させる方法も特に限定されず、例えば、皮膜に活性エネルギー線を照射する方法が挙げられる。活性エネルギー線は、紫外線が好ましく、その他、電子線、γ線、カーボンアーク灯、キセノン灯、メタルハライド灯等が挙げられる。活性エネルギー線を照射する方法及び条件も制限はなく、公知と同様とすることができる。紫外線発生源として、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、ガリウムランプ、メタルハライドランプ、太陽光、LED等の紫外線ランプ等が挙げられる。
【0078】
塗膜の厚みも特に限定されず、目的の用途に応じて適宜の範囲に設定することができる。
【0079】
本発明の硬化性樹脂組成物から得られる塗膜は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物を含有ので、高い硬度を有し、耐擦傷性に優れ、特に、マルテンス硬度と、鉛筆硬度との両方に優れるものである。本発明の硬化性樹脂組成物から得られる塗膜は、鉛筆硬度だけでなく、マルテンス硬度も高く、これによって、従来よりも優れる耐擦傷性を達成することを可能としている。また、本発明の硬化性樹脂組成物を用いて形成される塗膜は、樹脂フィルムに対する密着性も高いものである。
【0080】
従って、本発明の硬化性樹脂組成物は樹脂フィルム等の基材に塗膜を形成するためのコーティング剤としての使用に適している。
【0081】
前記塗膜を用いて各種積層体を形成することができ、例として、基材上に前記塗膜を備える積層体が挙げられる。斯かる積層体は、前記塗膜を備えることで、基材表面の傷付きが防止されやすい。
【0082】
本開示に包含される発明を特定するにあたり、本開示の各実施形態で説明した各構成(性質、構造、機能等)は、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各構成のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例
【0083】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0084】
(実施例1)
表1に示す実施例1の配合に従って原料を調製した。具体的には、フラスコに、イソシアネート化合物(C)としてヘキサメチレンジイソシアネート(以下、HDI)3.6質量部と、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.05質量部と、触媒としてジオクチル錫ジネオデカネート0.03質量部と、グリセリンジアクリレート(A)およびグリセリントリアクリレート(B)からなる水酸基価30mgKOH/gであるモノマーM(東亞合成社「アロニックス(登録商標)M-930」)96.4質量部とを、それぞれ配合することで工程1にて使用する原料を調製した。
【0085】
次いで、フラスコ内の前記原料を70℃に加熱することで、反応を行った。当該反応は、遊離イソシアネート量が、仕込んだイソシアネート化合物(C)に対して0.1質量%以下となるまで行った。この反応により、前記モノマーM中のグリセリンジアクリレート(A)およびイソシアネート化合物(C)の反応生成物であるウレタンアクリレート(付加反応物(X))と、グリセリントリアクリレート(B)とを含有する活性エネルギー線硬化性成分を含む組成物を得た(工程1)。
【0086】
(実施例2)
表1に示すように、イソシアネート化合物(C)として、HDIの代わりに1,5-ペンタメチレンジイソシアネート(以下、PDI)に変更して原料を調製するようにしたこと以外は実施例1と同様の方法で活性エネルギー線硬化性成分を含む組成物を得た。
【0087】
(実施例3)
表1に示すように、イソシアネート化合物(C)として、HDIの代わりにHDI誘導体であるHDIヌレート(東ソー株式会社製「コロネートHXR」)7.2質量部に変更し、かつ、モノマーMの使用量を92.8質量部に変更して原料を調製するようにしたこと以外は実施例1と同様の方法で活性エネルギー線硬化性成分を含む組成物を得た。
【0088】
(実施例4)
表1に示すように、イソシアネート化合物(C)として、HDIの代わりにPDI誘導体であるPDIヌレート(三井化学製「スタビオ(登録商標)D-376N」)6.8質量部に変更し、かつ、モノマーMの使用量を93.2質量部に変更して原料を調製するようにしたこと以外は実施例1と同様の方法で活性エネルギー線硬化性成分を含む組成物を得た。
【0089】
(実施例5)
表1に示すように、イソシアネート化合物(C)として、HDIの代わりにHDI誘導体であるHDIビウレット(旭化成社製「デュラネート24A―100」)6.4質量部に変更し、かつ、モノマーMの使用量を93.6質量部に変更して原料を調製するようにしたこと以外は実施例1と同様の方法で活性エネルギー線硬化性成分を含む組成物を得た。
【0090】
(比較例1)
表1に示す比較例1の配合に従って原料を調製した。具体的には、フラスコに、イソシアネート化合物(C)としてHDIを12.1質量部と、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.05質量部と、触媒としてジオクチル錫ジネオデカネート0.03質量部と、グリセリンジアクリレート(A)およびグリセリントリアクリレート(B)からなるモノマー87.9質量部とを、それぞれ配合することで工程1にて使用する原料を調製した。なお、グリセリンジアクリレート(A)およびグリセリントリアクリレート(B)からなるモノマーは、前記モノマーM54.1質量部と、モノマーm(東亞合成社「アロニックス(登録商標)M-920」、水酸基240mgKOH/g)33.8質量部とを混合することで調製した水酸基111mgKOH/gである混合モノマー1を用いた。
【0091】
次いで、フラスコ内の前記原料を70℃に加熱することで、反応を行った。当該反応は、遊離イソシアネート量が、仕込んだイソシアネート化合物(C)に対して0.1質量%以下となるまで行った。この反応により、混合モノマー中のグリセリンジアクリレート(A)およびイソシアネート化合物(C)の反応生成物であるウレタンアクリレート(付加反応物(X))と、グリセリントリアクリレート(B)とを含有する活性エネルギー線硬化性成分を含む組成物を得た。
【0092】
(比較例2)
混合モノマー1の代わりに、東亞合成社「アロニックス(登録商標)M-920」(水酸基価240mgKOH/g)75.4質量部を使用し、かつ、HDIの配合量を24.6質量部に変更して原料を調製するようにしたこと以外は比較例1と同様の方法で活性エネルギー線硬化性成分を含む組成物を得た。
【0093】
(比較例3)
混合モノマー1の代わりに、東亞合成社「アロニックス(登録商標)M-930」(水酸基価30mgKOH/g)94.9質量部を使用し、かつ、イソシアネート化合物(C)として、HDIの代わりに脂環式イソシアネートであるイソホロンジイソシアネート(IPDI)5.1質量部に変更したこと以外は比較例1と同様の方法で活性エネルギー線硬化性成分を含む組成物を得た。
【0094】
(比較例4)
混合モノマー1の代わりに、東亞合成社「アロニックス(登録商標)M-930」(水酸基価30mgKOH/g)95.6質量部を使用し、かつ、イソシアネート化合物(C)として、HDIの代わりに芳香族イソシアネートであるキシレンジイソシアネート(XDI)4.4質量部に変更したこと以外は比較例1と同様の方法で活性エネルギー線硬化性成分を含む組成物を得た。
【0095】
(評価方法)
各実施例及び比較例で得られた組成物を用いて塗膜を以下の方法で調製し、得られた塗膜を用いて、そのマルテンス硬度、耐擦傷性、鉛筆硬度および基材への密着性を評価した。
【0096】
[塗膜の調製]
各実施例及び比較例で得た組成物にメチルエチルケトンを添加して固形分濃度40質量%の溶液を調製した。この溶液に、重合開始剤としてIGM Resins B.V.製「Omnirad 184」を活性エネルギー線硬化性成分に対して3質量%添加し、塗工液を得た。斯かる塗工液を、厚さ100μmのPETフィルム(東洋紡(株)製「コスモシャインA4360」)に乾燥した状態での膜厚が約3μmとなるよう塗布した後、80℃のオーブンで1分間乾燥させることで、PETフィルム上に皮膜を形成させた。その後、窒素雰囲気下で、高圧水銀ランプ(80W/cm×1灯)を、積算照度600mJ/cmにて皮膜に照射することにより皮膜を硬化させ、PETフィルム上に塗膜が形成されてなる積層体を得た。
【0097】
[マルテンス硬度HM]
前記塗膜のマルテンス硬度は、エリオニクス社の微小硬度計(品番:ENT-1100a)を用いた押し込み試験による微小硬度を測定することで評価した。押し込み試験は、押し込み荷重を0.3mNとした。押し込み試験は、ISO14577-1準拠のインデンテーション試験法に準拠して行い、これにより、塗膜のマルテンス硬度HMを測定し、下記判定基準で評価した。
≪判定基準≫
A:マルテンス硬度HMが360N/mm以上であり、極めて高いマルテンス硬度を有する。
B:マルテンス硬度HMが340~360N/mm未満であり、高いマルテンス硬度を有する。
C:マルテンス硬度HMが320~340N/mm未満であり、マルテンス硬度が低い。
D:マルテンス硬度HMが320N/mm未満であり、マルテンス硬度が極めて低い。
【0098】
[耐擦傷性]
前記積層体表面に形成されている塗膜に対して#0000のスチールウールを用い、荷重250g/cm、ストローク6cmで1000往復の条件で擦傷性試験を行い、この試験後の積層体表面を目視で確認し下記基準で耐擦傷性を評価した。
≪判定基準≫
A:傷本数が2本以下であり、優れた耐擦傷性を有する。
B:傷本数が3本以上、4本以下であり、耐擦傷性に劣る。
C:傷本数が5本以上であり、耐擦傷性が極めて劣る。
【0099】
[鉛筆硬度]
前記積層体表面の塗膜に対してJIS K5600-5-4:1999準拠して、鉛筆硬度を測定した。
【0100】
[基材への密着性]
前記積層体表面に形成されている塗膜表面に対して、硬化塗膜表面にカッタ-ナイフで切れ目を入れて、2mm×2mmの碁盤目を100個作製し、その上からセロハン粘着テープを貼着した後、急速に剥がす操作を3回行い、剥離せずに残存した碁盤目の数を数え、下記基準で基材(PETフィルム)への密着性を評価した。
≪判定基準≫
A:碁盤目の残存数が80個以上であり、基材への密着性に極めて優れるものであった。
B:碁盤目の残存数が50個以上80個未満であり、基材への密着性に優れるものであった。
C:碁盤目の残存数が50個未満であり、基材への密着性に劣るものであった。
【0101】
表1には、各実施例及び比較例で得た組成物の調製条件であって、特に活性エネルギー線硬化性成分を得るための配合条件を示している。なお、表1の空欄部は、その原料を使用していないことを意味し、の種類については、各実施例、比較例で示した略記号を用いて表記した。
【0102】
また、表1には、付加反応物(X)(ウレタンアクリレート)の活性エネルギー線硬化性成分の全質量に対する含有割合を示している(表1では、「付加反応物(X)の樹脂全体に対する含有割合(質量%)」と表記している)。なお、付加反応物(X)(ウレタンアクリレート)の活性エネルギー線硬化性成分の全質量に対する含有割合は、下記式(1)により算出した。
付加反応物(X)の質量割合=付加反応物(X)の質量/{付加反応物(X)の質量+未反応のグリセリンジアクリレート(A)の質量+グリセリントリアクリレート(B)の質量}×100 (1)
ここで、モノマーM中のグリセリンジアクリレート(A)およびグリセリントリアクリレート(B)は、これらの水酸基価、および、モノマーMの水酸基価に基づいて計算することができる。この計算により、グリセリンジアクリレート(A)、グリセリントリアクリレート(B)の質量がそれぞれ算出できる。また、イソシアネート(C)と反応するグリセリンジアクリレート(A)の質量は、「イソシアネート(C)の物質量×イソシアネート(C)の官能基数×グリセリンジアクリレート(A)のモル質量」で計算できる。そして、付加反応物(X)の質量は、「イソシアネート(C)の質量+イソシアネート(C)と反応するグリセリンジアクリレート(A)の質量」から計算できる。未反応のグリセリンジアクリレート(A)の質量は、「グリセリンジアクリレート(A)の質量―イソシアネート(C)と反応するグリセリンジアクリレート(A)の質量」によって計算できる。以上の計算結果に基づき、前記(1)式から、付加反応物(X)(ウレタンアクリレート)の活性エネルギー線硬化性成分の全質量に対する含有割合を導き出すことができる。
【0103】
さらに表1には、各実施例及び比較例の組成物から得られた塗膜の評価結果(マルテンス硬度、耐擦傷性、鉛筆硬度および基材への密着性)を示している。
【0104】
表1から、各実施例で調製した組成物を用いて得られた塗膜は、高い硬度を有し、耐擦傷性に優れ、しかも、基材への密着性も高いことがわかる。
【0105】
【表1】
【要約】
【課題】高い硬度を有し、耐擦傷性に優れる塗膜を形成することができる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、活性エネルギー線硬化性成分を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物であって、活性エネルギー線硬化性成分は、グリセリンジアクリレート(A)を含有するモノマー(M)とイソシアネート化合物(C)との付加反応物(X)を含有し、モノマー(M)は、グリセリントリアクリレート(B)をさらに含有し、モノマー(M)は、水酸基価が5mgKOH/g以上、80mgKOH/g以下であり、イソシアネート化合物(C)は、脂肪族イソシアネート及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、付加反応物(X)は、活性エネルギー線硬化性成分の全質量に対して15質量%以下含まれる。
【選択図】なし