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特許7587728ポリマー組成物ならびにその用途および製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】ポリマー組成物ならびにその用途および製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20241113BHJP
   C08L 1/00 20060101ALI20241113BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20241113BHJP
   C08L 5/00 20060101ALI20241113BHJP
   C08K 5/151 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L1/00
C08K7/02
C08L5/00
C08K5/151
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2024112143
(22)【出願日】2024-07-12
【審査請求日】2024-07-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】廣田 真之
(72)【発明者】
【氏名】前田 麻美
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-119026(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106188781(CN,A)
【文献】特開2023-143704(JP,A)
【文献】国際公開第2023/166943(WO,A1)
【文献】特表2023-501513(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2024/0067803(US,A1)
【文献】特開2024-112777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー成分と、植物由来フィラーと、糖類の還元体とを含み、前記植物由来フィラーが、個数平均繊維径1~80μmのセルロース繊維を含み、かつ前記糖類の還元体が、二糖還元体および/または三糖還元体を含む、ポリマー組成物。
【請求項2】
前記糖類の還元体が、二糖還元体を含む請求項1記載のポリマー組成物。
【請求項3】
前記二糖還元体が、分子内に1個のピラノース環および複数のヒドロキシル基を有する二糖還元体を含む請求項2記載のポリマー組成物。
【請求項4】
前記二糖還元体が、イソマルトおよび/またはマルチトールを含む請求項2記載のポリマー組成物。
【請求項5】
前記ポリマー成分が熱可塑性樹脂またはゴムを含む請求項1~4のいずれかに記載のポリマー組成物。
【請求項6】
前記ポリマー成分100質量部に対して、前記植物由来フィラー1~100質量部および前記糖類の還元体0.01~100質量部を含む請求項1~4のいずれかに記載のポリマー組成物。
【請求項7】
前記ポリマー成分と、前記植物由来フィラーと、前記糖類の還元体とを混練する工程を含む、請求項1~4のいずれかに記載のポリマー組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1~4のいずれかに記載のポリマー組成物で形成された成形体であって、自動車部品、電気・電子部品、建築資材、土木資材、農業資材、包装資材、生活資材および光学部材から選択される部品または資材である、成形体。
【請求項9】
ポリマー成分と個数平均繊維径1~80μmのセルロース繊維を含む植物由来フィラーとを含むポリマー組成物の強度を向上させるための強度向上剤であって、二糖還元体および/または三糖還元体を含む糖類の還元体を含む強度向上剤。
【請求項10】
ポリマー成分と個数平均繊維径1~80μmのセルロース繊維を含む植物由来フィラーとを含むポリマー組成物に、二糖還元体および/または三糖還元体を含む糖類の還元体を配合し、前記ポリマー組成物の強度および/または硬度を向上する方法。
【請求項11】
個数平均繊維径1~80μmのセルロース繊維を含む植物由来フィラーと、二糖還元体および/または三糖還元体を含む糖類の還元体とを含む、組成物。
【請求項12】
造粒体である請求項11記載の組成物。
【請求項13】
前記糖類の還元体が二糖還元体を含み、前記二糖還元体が、分子内に1個のピラノース環を有する二糖還元体を含み、かつ前記糖類の還元体の割合が前記植物由来フィラー100質量部に対して0.01~100質量部である請求項11または12記載の組成物。
【請求項14】
水分率が5質量%以下である請求項11または12記載の組成物。
【請求項15】
個数平均繊維径1~80μmのセルロース繊維を含む植物由来フィラーと、二糖還元体および/または三糖還元体を含む糖類の還元体と、水とを混合して混合物を得る混合工程と、前記混合物を乾燥して組成物を得る組成物調製工程とを含む、請求項11または12記載の組成物の製造方法。
【請求項16】
前記組成物調製工程において、前記混合物を押出造粒して造粒体としての組成物を得る請求項15記載の製造方法。
【請求項17】
請求項11または12記載の組成物とポリマー成分とを混合する工程を含む、ポリマー組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリマー成分に植物由来のフィラーを配合したポリマー組成物ならびにその用途および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物由来の繊維であるセルロースは、環境負荷が小さく、かつ持続型資源であるとともに、高弾性率、高強度、低線膨張係数などの優れた特性を有する。そのため、幅広い用途、例えば、紙、フィルムやシートなどの材料、ポリマー成分の複合材料(例えば、ポリマー成分の補強剤)などに利用されている。特に、複合材料では、ポリマー成分の機械的特性を向上させるために、補強剤としてセルロースが添加されている。そこで、樹脂やゴムなどのポリマー成分にセルロースを均一に分散させる方法が種々提案されている。
【0003】
WO2020/145398号パンフレット(特許文献1)には、セルロースナノファイバーと、炭素数4~60のアルコール系化合物と、熱可塑性樹脂とを含み、前記セルロースナノファイバー100質量部に対する前記アルコール系化合物の含有量が0.01~100質量部であり、前記熱可塑性樹脂100質量部に対する前記セルロースナノファイバーの含有量が0.5~150質量部である熱可塑性樹脂組成物が開示されている。
【0004】
特開2017-128630号公報(特許文献2)には、平均重合度が500以下のセルロースと、溶解パラメータ(SP値)が7.25以上であり、水よりも高い沸点を有する有機成分とを含むセルロース製剤を1質量%以上含有する樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2020/145398号パンフレット
【文献】特開2017-128630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1および2の樹脂組成物でも、機械的特性は十分ではなかった。特に、特許文献1では、セルロースナノファイバーを用いるため、取扱性が困難であり、熱可塑性樹脂中にフィラーとしてのセルロースナノファイバーを均一に分散させるのも困難であった。また、特許文献1のアルコール系化合物や特許文献2の有機成分では、樹脂の種類によっては製造時に熱劣化して成形性が低下する場合がある。
【0007】
従って、本開示の目的は、植物由来のフィラーを含み、成形性に優れ、かつ高い機械的特性を有するポリマー組成物ならびにその用途および製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、ポリマー成分と、植物由来フィラーと、特定の糖類の還元体とを組み合わせることにより、植物由来のフィラーを含み、成形性に優れ、かつ高い機械的特性を有するポリマー組成物を提供できることを見出し、本発明(または本開示)を完成した。
【0009】
すなわち、本開示には、以下の態様が含まれる。
【0010】
態様[1]:ポリマー成分と、植物由来フィラーと、糖類の還元体とを含み、かつ前記糖類の還元体が二糖還元体および/または三糖還元体を含む、ポリマー組成物。
【0011】
態様[2]:前記糖類の還元体が、二糖還元体を含む態様[1]記載のポリマー組成物。
【0012】
態様[3]:前記二糖還元体が、分子内に1個のピラノース環および複数のヒドロキシル基を有する二糖還元体を含む態様[2]記載のポリマー組成物。
【0013】
態様[4]:前記二糖還元体が、イソマルトおよび/またはマルチトールを含む態様[2]記載のポリマー組成物。
【0014】
態様[5]:前記ポリマー成分が熱可塑性樹脂またはゴムを含む態様[1]~[4]のいずれかに記載のポリマー組成物。
【0015】
態様[6]:前記ポリマー成分100質量部に対して、前記植物由来フィラー1~100質量部および前記糖類の還元体0.01~100質量部を含む態様[1]~[5]のいずれかに記載のポリマー組成物。
【0016】
態様[7]:前記植物由来フィラーがセルロース繊維を含む態様[1]~[6]のいずれかに記載のポリマー組成物。
【0017】
態様[8]:前記セルロース繊維の平均繊維径がミクロンオーダーである態様[7]記載のポリマー組成物。
【0018】
態様[9]:前記ポリマー成分と、前記植物由来フィラーと、前記糖類の還元体とを混練する工程を含む、態様[1]~[8]のいずれかに記載のポリマー組成物の製造方法。
【0019】
態様[10]:態様[1]~[8]のいずれかに記載のポリマー組成物で形成された成形体であって、自動車部品、電気・電子部品、建築資材、土木資材、農業資材、包装資材、生活資材および光学部材から選択される部品または資材である、成形体。
【0020】
態様[11]:ポリマー成分と植物由来フィラーとを含むポリマー組成物の強度を向上させるための強度向上剤であって、二糖還元体および/または三糖還元体を含む糖類の還元体を含む強度向上剤。
【0021】
態様[12]:ポリマー成分と植物由来フィラーとを含むポリマー組成物に、二糖還元体および/または三糖還元体を含む糖類の還元体を配合し、前記ポリマー組成物の強度および/または硬度を向上する方法。
【0022】
態様[13]:植物由来フィラーと、二糖還元体および/または三糖還元体を含む糖類の還元体とを含む、組成物(または予備組成物)。
【0023】
態様[14]:造粒体である態様[13]記載の組成物。
【0024】
態様[15]:前記糖類の還元体が二糖還元体を含み、前記二糖還元体が、分子内に1個のピラノース環を有する二糖還元体を含み、前記植物由来フィラーがセルロース繊維を含み、かつ前記糖類の還元体の割合が前記植物由来フィラー100質量部に対して0.01~100質量部である態様[13]または[14]記載の組成物。
【0025】
態様[16]:水分率が5質量%以下である態様[13]~[15]のいずれかに記載の組成物。
【0026】
態様[17]:植物由来フィラーと、二糖還元体および/または三糖還元体を含む糖類の還元体と、水とを混合して混合物を得る混合工程と、前記混合物を乾燥して組成物を得る組成物調製工程とを含む、態様[13]~[16]のいずれかに記載の組成物の製造方法。
【0027】
態様[18]:前記組成物調製工程において、前記混合物を押出造粒して造粒体としての組成物を得る態様[17]記載の製造方法。
【0028】
態様[19]:態様[13]~[16]のいずれかに記載の組成物とポリマー成分とを混合する工程を含む、ポリマー組成物の製造方法。
【0029】
なお、本開示では、以下の従たる目的を達成(課題を解決)してもよい。
【0030】
本開示の他の目的は、ポリマー成分と植物由来フィラーとを含むポリマー組成物の強度を向上できる強度向上剤および前記ポリマー成分の強度を向上する方法を提供することにある。
【0031】
また、本明細書および特許請求の範囲において、置換基などの炭素原子の数をC、C、C10などで示すことがある。例えば「Cアルキル基」は炭素数が1のアルキル基を意味し、「C6-10アリール基」は炭素数が6~10のアリール基を意味する。
【0032】
本明細書および特許請求の範囲において、「糖類の還元体」とは、糖類のカルボニル基(ケト基)、ホルミル基(アルデヒド基)がヒドロキシル基に還元された化合物を意味する。
【0033】
さらに、本明細書および特許請求の範囲において、「X~Y」を用いて数値範囲を示す場合、端の数値XおよびYを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0034】
本開示によれば、植物由来のフィラーを用いて、成形性に優れ、高い機械的特性を有するポリマー組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
[ポリマー成分]
本開示のポリマー組成物は、ポリマー成分を含む。ポリマー成分は、高分子化合物であれば特に限定されず、樹脂成分であってもよく、ゴムであってもよい。これらのポリマー成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0036】
樹脂成分は、熱可塑性樹脂であってもよく、硬化性樹脂であってもよい。これらの樹脂成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0037】
熱可塑性樹脂としては、例えば、鎖状オレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体(MS樹脂)、スチレン-アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS樹脂)などのスチレン系樹脂;ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体などの(メタ)アクリル系樹脂;ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアセタール(ポリビニルホルマール(PVF)、ポリビニルブチラール(PVB)など)などの酢酸ビニル系樹脂;塩化ビニル単独重合体(PVC);塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体などの塩化ビニル系樹脂;塩化ビニリデン-塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体などの塩化ビニリデン系樹脂;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂;ポリアルキレンアリレート系樹脂、ポリヒドロキシカルボン酸系樹脂、ポリアリレート系樹脂、液晶性ポリエステル(LCP)、ビスフェノール型(例えば、ビスフェノールA型)ポリカーボネート系樹脂などのポリエステル系樹脂;脂肪族ポリアミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂またはアラミド樹脂などのポリアミド系樹脂;ポリアセタール樹脂(POM)などのポリアセタール系樹脂;ポリフェニレンエーテル(PPE)などのポリフェニレンエーテル系樹脂;ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)などのポリエーテルケトン系樹脂;フェノキシ樹脂;脂肪族ポリケトン樹脂などのポリケトン樹脂;ポリフェニレンスルフィド(PPS)などのポリフェニレンスルフィド系樹脂;ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)などのポリスルホン系樹脂;ニトロセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどのセルロースエステル;エチルセルロースなどのセルロースエーテル;ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミドなどの熱可塑性ポリイミド樹脂;ポリエーテルニトリル樹脂;ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系TPE(TPO)、ポリジエン系TPE、塩素系TPE、フッ素系TPE、ポリウレタン系TPE(TPU)、ポリエステル系TPE(TPEE)、ポリアミド系TPE(TPA)などの熱可塑性エラストマー(TPE)などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0038】
硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂;メラミン樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂などのアミノ樹脂;シリコーン樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂;不飽和ポリエステル系樹脂;ビニルエステル樹脂;ポリウレタン系樹脂;ポリイミド系樹脂などが挙げられる。これらの硬化性樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0039】
ゴムとしては、例えば、ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム、アクリル系ゴム(ACM、ANM)、ブチルゴム(IIR)、エピクロロヒドリンゴム(CO)、多硫化ゴム(OT、EOT)、ウレタンゴム(U)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FFKM、FKM)、含イオウゴムなどが挙げられる。これらのゴムは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0040】
これらのポリマー成分のうち、ポリマー組成物の機械的特性を向上し易い点から、熱可塑性樹脂、ゴムが好ましく、熱可塑性樹脂が特に好ましい。特に、本開示における糖類の還元体は耐熱性に優れるため、ポリマー成分として熱可塑性樹脂を用いて溶融混練することにより容易に成形体を製造することができ、成形性に優れている。
【0041】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂の密度は、例えば0.85~3g/cm程度の範囲から選択してもよく、例えば0.9~2.7g/cm、好ましくは0.9~2g/cm、さらに好ましくは0.9~1.5g/cmであってもよい。
【0042】
熱可塑性樹脂の重量平均分子量Mwは、例えば10000~10000000程度の範囲から選択してもよい。また、数平均分子量Mnは、例えば13000~1000000程度の範囲から選択してもよく、好ましくは15000~800000、好ましくは18000~500000、さらに好ましくは20000~400000である。分子量分布(Mw/Mn)は、例えば、1~50程度の範囲から選択してもよく、例えば2~25である。
【0043】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、重量平均分子量、数平均分子量および分子量分布は、GPCにより標準ポリスチレン換算で測定できる。
【0044】
ポリマー成分としては、前記熱可塑性樹脂の中でも、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂が特に好ましい。
【0045】
(ポリオレフィン系樹脂)
ポリオレフィン系樹脂は、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテンなどのα-鎖状C2-12オレフィンに由来するオレフィン単位を含んでいればよく、前記オレフィン単位以外に他の共重合性単位を含んでいてもよい。前記α-鎖状C2-12オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-ペンテン-1などのα-C2-6オレフィンが好ましく、エチレンおよび/またはプロピレンが特に好ましい。
【0046】
他の共重合性単位を形成するための重合成分(共重合性モノマー)としては、例えば、スチレンなどの芳香族ビニル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどの脂肪族ビニルエステル;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、アンゲリカ酸など不飽和モノカルボン酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸C1-10アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシC1-10アルキルエステル、グリシジル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸アミド;(メタ)アクリロニトリル;(無水)マレイン酸、フマル酸、(無水)シトラコン酸、(無水)イタコン酸、メサコン酸などの不飽和ジカルボン酸またはその無水物;マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチルなどの不飽和ジカルボン酸ジC1-10アルキルエステル;ブタジエン、イソプレンなどのジエン系モノマーなどが挙げられる。これらの共重合性モノマーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。オレフィン単位と他の共重合性単位とのモル比は、例えば、前者/後者=50/50~100/0、好ましくは70/30~100/0、さらに好ましくは90/10~100/0である。
【0047】
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、酸変性ポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0048】
ポリエチレン系樹脂は、エチレン単位を主単位(例えば50モル%以上、好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上含む単位)として含むポリオレフィン系樹脂であればよい。
【0049】
ポリエチレン系樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超高分子量ポリエチレンなどのエチレンの単独重合体;エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン-1共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-1共重合体、エチレン-(4-メチルペンテン-1)共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA樹脂)、エチレン-メチルメタクリレート共重合体などのエチレンを主成分とする共重合体などが挙げられる。これらのポリエチレン系樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのポリエチレン系樹脂のうち、ポリマー組成物の曲げ強さや曲げ弾性率などの機械的特性に優れる点から、中密度または高密度ポリエチレンが好ましく、HDPEが特に好ましい。
【0050】
ポリエチレン系樹脂の密度は、JIS K 6922-1に準拠して、0.910~0.980kg/m程度の範囲から選択でき、機械的特性に優れる点から、例えば0.930~0.970kg/m、好ましくは0.940~0.965kg/m、さらに好ましくは0.950~0.962kg/m、より好ましくは0.955~0.960kg/mである。
【0051】
ポリエチレン系樹脂のメルトマスフローレート(MFR)は、JIS K 6922-2に準拠して、例えば3~80g/10分、好ましくは5~50g/10分、さらに好ましくは10~30g/10分、より好ましくは15~25g/10分である。MFRが下限以上であると、ポリマー組成物の溶融成形性が向上する傾向があり、上限以下であると、ポリマー組成物の機械的特性が向上する傾向がある。
【0052】
ポリエチレン系樹脂の融点(DSC法)は、ISO 11357-3に準拠して、例えば80~150℃、好ましくは100~145℃、さらに好ましくは120~140℃、より好ましくは130~135℃である。融点が下限以上であると、ポリマー組成物の耐熱性が向上する傾向があり、上限以下であると、ポリマー組成物の溶融成形性が向上する傾向がある。
【0053】
ポリプロピレン系樹脂は、プロピレン単位を主単位(例えば50モル%以上、好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上含む単位)として含んでいればよい。
【0054】
ポリプロピレン系樹脂しては、例えば、アイソタクチックポリプロピレン(N-Z触媒系またはメタロセン触媒系ポリプロピレン)、シンジオタクチックポリプロピレン、アタクチックポリプロピレンなどのプロピレンの単独重合体;プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-C4-6アルケン共重合体(例えば、プロピレン-ブテン共重合体など)などのプロピレンを主成分とする共重合体などが挙げられる。これらのポリプロピレン系樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのポリプロピレン系樹脂のうち、プロピレンの単独重合体を含むポリプロピレン系樹脂が好ましい。
【0055】
ポリプロピレン系樹脂の密度は、JIS K 7112に準拠して、0.855~0.940程度の範囲から選択でき、樹脂組成物の機械的特性に優れる点から、例えば0.870~0.930kg/m、好ましくは0.880~0.925kg/m、さらに好ましくは0.890~0.920kg/m、より好ましくは0.900~0.915kg/mである。
【0056】
ポリプロピレン系樹脂のメルトマスフローレート(MFR)は、JIS K 7210(試験温度:230℃、試験荷重:2.16kg)に準拠して、例えば1~100g/10分、好ましくは3~50g/10分、さらに好ましくは4~30g/10分、より好ましくは5~20g/10分、最も好ましくは8~15g/10分である。MFRが下限以上であると、ポリマー組成物の溶融成形性が向上する傾向があり、上限以下であると、ポリマー組成物の機械的特性が向上する傾向がある。
【0057】
ポリプロピレン系樹脂の引張弾性率は、JIS K 7161に準拠して、例えば1000~2500MPa、好ましくは1200~2000MPa、さらに好ましくは1400~1900MPa、より好ましくは1500~1800MPa、最も好ましくは1600~1700MPaである。引張弾性率が下限以上であると、ポリマー組成物の機械的特性が向上する傾向があり、上限以下であると、ポリマー組成物の溶融成形性が向上する傾向がある。
【0058】
ポリプロピレン系樹脂のシャルピー衝撃強さ(23℃)は、JIS K 7111に準拠して、例えば1~50kJ/m、好ましくは1.5~30kJ/m、さらに好ましくは2~10kJ/m、より好ましくは2.5~7kJ/m、最も好ましくは3~5kJ/mである。シャルピー衝撃強さが下限以上であると、ポリマー組成物の溶融成形性が向上する傾向があり、上限以下であると、ポリマー組成物の弾性率や強度などのバランスに優れる傾向がある。
【0059】
ポリプロピレン系樹脂の荷重たわみ温度(熱変形温度)は、JIS K 7191(曲げ応力:B法0.45MPa)に準拠して、例えば60~150℃、好ましくは70~130℃、さらに好ましくは80~120℃、より好ましくは90~110℃、最も好ましくは95~105℃である。荷重たわみ温度が下限以上であると、ポリマー組成物の耐熱性が向上する傾向があり、荷重たわみ温度が上限以下であると、ポリマー組成物の溶融成形性が向上する傾向がある。
【0060】
酸変性ポリオレフィン系樹脂は、カルボン酸で変性されたポリオレフィン系樹脂であればよく、詳しくは、カルボキシル基および/または酸無水物基を有するポリオレフィン系樹脂であればよい。酸による変性方法としては、未変性ポリオレフィン系樹脂の骨格にカルボキシル基および/または酸無水物基が導入されればよく、特に限定されないが、機械的特性などの点から、カルボキシル基および/または酸無水物基を有する単量体を共重合により導入する方法が好ましい。共重合の形態としては、ランダム共重合、ブロック共重合などであってもよいが、グラフト共重合が好ましい。
【0061】
未変性ポリオレフィン系樹脂としては、前記ポリオレフィン系樹脂として例示されたα-鎖状C2-12オレフィンの単独または共重合体などが挙げられる。前記未変性ポリオレフィン系樹脂のうち、ポリエチレンなどのポリエチレン系樹脂、ポリプロピレンなどのポリプロピレン系樹脂が好ましく、ポリプロピレン系樹脂が特に好ましい。
【0062】
カルボキシル基および/または酸無水物基を有する単量体としては、前記ポリオレフィン系樹脂の共重合性モノマーとして例示した不飽和モノカルボン酸、不飽和ジカルボン酸または酸無水物などが挙げられる。これらの単量体は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの単量体のうち、(メタ)アクリル酸などの不飽和モノカルボン酸、(無水)マレイン酸などの不飽和ジカルボン酸またはその酸無水物が好ましく、無水マレイン酸が特に好ましい。
【0063】
酸変性ポリオレフィン系樹脂としては、酸変性ポリプロピレン系樹脂が好ましく、無水マレイン酸変性ポリプロピレンが特に好ましい。
【0064】
酸変性ポリオレフィン系樹脂において、前記単量体の割合は、未変性ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して0.01~30質量部程度の範囲から選択でき、例えば0.1~20質量部、好ましくは0.2~10質量部、さらに好ましくは0.3~8質量部、より好ましくは0.5~5質量部である。
【0065】
酸変性ポリオレフィン系樹脂の酸価(mgKOH/g)は、JIS K 2510に準拠して、例えば10~100、好ましくは20~80、さらに好ましくは30~50、より好ましくは35~45である。酸価が下限以上であると、ポリマー組成物の機械的特性が向上する傾向があり、上限以下であると、ポリマー組成物の溶融成形性が向上する傾向がある。
【0066】
酸変性ポリオレフィン系樹脂の粘度(180℃の溶融粘度)は、JIS K 6862に準拠して、例えば0.5~50Pa・s、好ましくは1~30Pa・s、さらに好ましくは1.5~10Pa・s、より好ましくは2~5Pa・s、最も好ましくは3~4Pa・sである。粘度が下限以上であると、ポリマー組成物の機械的特性が向上する傾向があり、上限以下であると、ポリマー組成物の溶融成形性が向上する傾向がある。
【0067】
ポリオレフィン系樹脂は、機械的特性を向上できる点から、ポリエチレン系樹脂および/またはポリプロピレン系樹脂を少なくとも含むのが好ましく、ポリエチレン系樹脂単独、ポリプロピレン系樹脂と酸変性ポリオレフィン系樹脂との組み合わせが特に好ましい。
【0068】
ポリオレフィン系樹脂として、ポリプロピレン系樹脂と、酸変性ポリオレフィン系樹脂(特に、酸変性ポリプロピレン系樹脂)とを組み合わせる場合、酸変性ポリオレフィン系樹脂の割合は、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して、例えば0.1~100質量部、好ましくは1~50質量部、さらに好ましくは2~30質量部、より好ましくは3~10質量部、最も好ましくは5~8質量部である。酸変性ポリオレフィン系樹脂の割合が下限以上であると、機械的特性が向上する傾向があり、上限以下であると、溶融成形性が向上する傾向ある。
【0069】
ポリマー成分が熱可塑性樹脂としてポリオレフィン系樹脂を含む場合、ポリオレフィン系樹脂の割合は、ポリマー成分中50質量%以上であってもよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、最も好ましくは100質量%である。ポリオレフィン系樹脂の割合が下限以上であると、ポリマー組成物の成形性や機械的特性が向上する傾向がある。
【0070】
(ポリエステル系樹脂)
ポリエステル系樹脂としては、ジオール成分とジカルボン酸成分とを反応(縮合反応)させて得られるポリエステル、ヒドロキシカルボン酸を反応(縮合反応)させて得られるポリエステルなどが挙げられる。
【0071】
ジオール成分としては、アルカンジオール、ポリアルカンジオールなどの脂肪族ジオール;シクロアルカンジオール、ジ(ヒドロキシアルキル)シクロアルカンまたはこれらのアルキレンオキシド(アルキレンカーボネートまたはハロアルカノール)付加体などの脂環族ジオール;ジヒドロキシアレーン、芳香脂肪族ジオール、ビスフェノール類またはこれらのアルキレンオキシド付加体などの芳香族ジオールなどが挙げられる。
【0072】
アルカンジオールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコールなどのC2-10アルカンジオールなどが挙げられる。
【0073】
ポリアルカンジオールとしては、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコールなどのジまたはトリC2-4アルカンジオールなどが挙げられる。
【0074】
シクロアルカンジオールとしては、シクロヘキサンジオールなどのC5-8シクロアルカンジオールなどが挙げられる。
【0075】
ジ(ヒドロキシアルキル)シクロアルカンとしては、シクロペンタンジメタノール、シクロヘキサンジメタノールなどのジ(ヒドロキシC1-4アルキル)C5-8シクロアルカンなどが挙げられる。
【0076】
ジヒドロキシアレーンとしては、ハイドロキノン、レゾルシノール、ビフェノールなどが挙げられる。
【0077】
芳香脂肪族ジオールとしては、1,4-ベンゼンジメタノール、1,3-ベンゼンジメタノールなどのジ(ヒドロキシC1-4アルキル)C6-10アレーンなどが挙げられる。
【0078】
ビスフェノール類としては、ビスフェノールAなどのビス(ヒドロキシフェニル)C1-10アルカンなどが挙げられる。
【0079】
これらのジオール成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのジオール成分のうち、エチレングリコールや1,4-ブタンジオールなどのC2-6アルカンジオールが好ましく、C2-5アルカンジオールがさらに好ましく、C3-5アルカンジオールがより好ましい。
【0080】
ジカルボン酸成分としては、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、芳香族カルボン酸、これらのジカルボン酸の誘導体などが挙げられる。
【0081】
脂肪族ジカルボン酸としては、アルカンジカルボン酸などが挙げられる。アルカンジカルボン酸としては、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などのC2-20アルカン-ジカルボン酸などが挙げられる。
【0082】
脂環族ジカルボン酸としては、シクロアルカンジカルボン酸、ジまたはトリシクロアルカンジカルボン酸などが挙げられる。シクロアルカンジカルボン酸としては、シクロヘキサンジカルボン酸などのC5-10シクロアルカン-ジカルボン酸などが挙げられる。ジまたはトリシクロアルカンジカルボン酸としては、デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸などが挙げられる。
【0083】
芳香族ジカルボン酸としては、アレーンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、ジフェニルアルカンジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸などが挙げられる。アレーンジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸などのC6-14アレーン-ジカルボン酸などが挙げられる。ビフェニルジカルボン酸としては、2,2’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ビフェニルカルボン酸などが挙げられる。ジフェニルアルカンジカルボン酸としては、4,4’-ジフェニルメタンジカルボン酸、2,2-ジ(4-カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンなどのジフェニルC1-10アルカン-ジカルボン酸などが挙げられる。ジフェニルケトンジカルボン酸としては、4,4’-ジフェニルケトンジカルボン酸などが挙げられる。ジフェニルエーテルジカルボン酸としては、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸などが挙げられる。
【0084】
ジカルボン酸の誘導体としては、ジカルボン酸クロリドなどのジカルボン酸ハライド;ジカルボン酸無水物;ジカルボン酸メチルエステル、ジカルボン酸エチルエステルなどのジカルボン酸低級アルキルエステルなどが挙げられる。低級アルキルエステルは、C1-4アルキルエステルが好ましく、C1-2アルキルエステルが特に好ましい。
【0085】
これらのジカルボン酸成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのジカルボン酸成分のうち、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などのシクロアルカン-ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンカルボン酸などのアレーンジカルボン酸が好ましく、テレフタル酸などのC6-10アレーン-ジカルボン酸が特に好ましい。
【0086】
ヒドロキシカルボン酸成分としては、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシ酪酸などが挙げられる。
【0087】
これらのポリエステル系樹脂のうち、機械的特性や耐熱性などの点から、ポリアルキレンテレフタレート系樹脂、ポリアルキレンナフタレート系樹脂などのポリアルキレンアリレート系樹脂が好ましい。
【0088】
ポリアルキレンアリレート系樹脂としては、アルキレンアリレート単位(特に、エチレンテレフタレート、ブチレンテレフタレート、エチレン-2,6-ナフタレートなどのC2-6アルキレンアリレート単位)のホモポリエステル、またはアルキレンアリレート単位の含有量が、例えば50モル%以上、好ましくは80モル%以上(特に90モル%以上)のコポリエステルが挙げられる。コポリエステルを構成する共重合性単量体としては、前述のジカルボン酸成分、ジオール成分の他、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸成分、カプロラクトンなどのラクトン成分などが挙げられる。これらの共重合性単量体のうち、イソフタル酸などのジカルボン酸成分などが汎用される。
【0089】
代表的なポリアルキレンアリレート系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリC2-10アルキレンC8-16アリレート;ポリ-1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレートなどのポリC5-10シクロアルカン-ジC1-4アルキレンC8-16アリレートなどが挙げられる。
【0090】
これらのポリアルキレンアリレート系樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリC2-6アルキレンC8-16アリレートが好ましく、ポリブチレンテレフタレートなどのポリC3-5アルキレンC8-12アリレートが特に好ましい。
【0091】
これらのポリエステル樹脂は、ポリアルキレンアリレート系樹脂のように結晶性であってもよく、ポリアリレート系樹脂のように非晶性であってもよく、透明ポリエステル樹脂(非晶性透明ポリエステル樹脂)であってもよい。また、前述の共重合成分により、ポリエステル樹脂の結晶性を調整することもでき、例えば、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオールなどの非対称脂肪族ジオール成分;フタル酸、イソフタル酸などの非対称芳香族ジカルボン酸成分などを用いて結晶性を調整してもよい。
【0092】
ポリエステル系樹脂の密度は、ISO 1183に準拠して、0.95~1.8g/cm程度の範囲から選択でき、ポリマー組成物の機械的特性に優れる点から、例えば1~1.75g/cm、好ましくは1~1.7g/cm、さらに好ましくは1.1~1.5g/cm、より好ましくは1.2~1.4g/cmである。
【0093】
ポリエステル系樹脂のメルトボリュームフローレート(MVR)は、ISO 1133(試験温度:250℃、試験荷重:2.16kg)に準拠して、例えば5~100cm/10分、好ましくは10~50cm/10分、さらに好ましくは15~40cm/10分、より好ましくは20~30cm/10分である。MVRが下限以上であると、ポリマー組成物の溶融成形性が向上する傾向があり、上限以下であると、ポリマー組成物の機械的特性が向上する傾向がある。
【0094】
ポリエステル系樹脂の重量平均分子量は、ポリスチレンを基準とするゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる評価方法に準拠して、3000~1000000程度の範囲から選択でき、例えば、5000~800000、好ましくは8000~600000、さらに好ましくは10000~500000、より好ましくは20000~500000である。
【0095】
ポリエステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば30~350℃、好ましくは40~300℃、さらに好ましくは40~250℃、より好ましくは40~200℃である。
【0096】
ポリマー成分が熱可塑性樹脂としてポリエステル系樹脂を含む場合、ポリエステル系樹脂の割合は、ポリマー成分中50質量%以上であってもよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、最も好ましくは100質量%である。ポリエステル系樹脂の割合が下限以上であると、ポリマー組成物の成形性や機械的特性が向上する傾向がある。
【0097】
(ポリアミド系樹脂)
ポリアミド系樹脂は、脂肪族モノマー成分、脂環族モノマー成分および芳香族モノマー成分からなる群より選択された少なくとも一種で形成してもよい。これらのうち、脂肪族モノマー成分を含むのが好ましく、脂肪族モノマー成分が特に好ましい。
【0098】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、後述するジカルボン酸などのカルボキシル基を有するモノマー成分は、酸クロリドなどの酸ハライド、酸無水物などのアミド形成性誘導体であってもよい。
【0099】
脂肪族モノマー成分としては、脂肪族ジアミン、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族アミノカルボン酸、ラクタムなどが挙げられる。
【0100】
脂肪族ジアミンとしては、例えば、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、2-メチルオクタメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミンなどの直鎖状または分岐鎖状C2-20アルキレンジアミンなどが挙げられる。これらのうち、直鎖状または分岐鎖状C4-16アルキレンジアミンが好ましく、直鎖状または分岐鎖状C6-12アルキレンジアミンが特に好ましい。
【0101】
脂肪族ジカルボン酸としては、飽和脂肪族ジカルボン酸(直鎖状または分岐鎖状アルカンジカルボン酸)、不飽和脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0102】
直鎖状または分岐鎖状アルカンジカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,10-デカンジカルボン酸などの直鎖状または分岐鎖状C1-20アルカン-ジカルボン酸などが挙げられる。これらのうち、直鎖状または分岐鎖状C2-16アルカン-ジカルボン酸が好ましく、アジピン酸、セバシン酸、1,10-デカンジカルボン酸などの直鎖状または分岐鎖状C4-12アルカン-ジカルボン酸が特に好ましい。
【0103】
不飽和脂肪族ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのC2-10アルケン-ジカルボン酸などが挙げられる。
【0104】
脂肪族アミノカルボン酸としては、6-アミノヘキサン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸などのアミノC2-20アルキル-カルボン酸などが挙げられる。これらのうち、アミノC3-16アルキル-カルボン酸が好ましく、アミノC5-11アルキル-カルボン酸が特に好ましい。
【0105】
ラクタムとしては、前記脂肪族アミノカルボン酸に対応するラクタムであってもよく、例えば、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタムなどの4~13員環のラクタムが挙げられる。これらのうち、7~13員環のラクタムが好ましい。
【0106】
脂環族モノマー成分は、脂環骨格(または脂肪族炭化水素環骨格)を有していればよく、例えば、脂環族ジアミン、脂環族ジカルボン酸、脂環族アミノカルボン酸が挙げられる。
【0107】
脂環族ジアミンとしては、ジアミノシクロアルカン、ビス(アミノアルキル)シクロアルカン、ビス(アミノシクロヘキシル)アルカンなどが挙げられる。
【0108】
ジアミノシクロアルカンとしては、例えば、ジアミノシクロヘキサンなどのジアミノC5-10シクロアルカンなどが挙げられる。
【0109】
ビス(アミノアルキル)シクロアルカンとしては、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどのビス(アミノC1-4アルキル)C5-10シクロアルカンなどが挙げられる。
【0110】
ビス(アミノシクロヘキシル)アルカンとしては、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパンなどのビス(アミノシクロヘキシル)C1-6アルカン;ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノ-3,5-ジメチルシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)プロパンなどのビス(アミノ-モノないしトリC1-6アルキル-C5-10シクロアルキル)C1-6アルカンなどが挙げられる。
【0111】
脂環族ジカルボン酸としては、前記ポリエステル系樹脂の項でジカルボン酸成分の脂環族ジカルボン酸として例示された脂環族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0112】
脂環族アミノカルボン酸としては、アミノシクロアルカンカルボン酸などが挙げられ、具体的には、アミノシクロヘキサンカルボン酸などのアミノC5-10シクロアルカン-カルボン酸などが挙げられる。
【0113】
芳香族モノマー成分は、芳香環骨格を有していればよく、例えば、芳香族(または芳香脂肪族)ジアミン、芳香族(または芳香脂肪族)ジカルボン酸、芳香族(または芳香脂肪族)アミノカルボン酸などが例示できる。
【0114】
芳香族(または芳香脂肪族)ジアミンとしては、例えば、ジアミノアレーン、ビス(アミノアルキル)アレーンなどが挙げられる。ジアミノアレーンとしては、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミンなどのジアミノC6-14アレーンなどが挙げられ、ビス(アミノアルキル)アレーンとしては、m-キシリレンジアミンなどのビス(アミノC1-4アルキル)アレーンなどが挙げられる。
【0115】
芳香族(または芳香脂肪族)ジカルボン酸としては、前記ポリエステル系樹脂の項でジカルボン酸成分の芳香族ジカルボン酸として例示された芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0116】
芳香族アミノカルボン酸成分としては、例えば、アミノアレーンカルボン酸などが挙げられる。アミノアレーンカルボン酸としては、アミノ安息香酸などのアミノC6-12アレーン-カルボン酸などが挙げられる。
【0117】
ポリアミド系樹脂は、これらのモノマー成分を単独でまたは二種以上組み合わせて形成でき、例えば、ジアミン成分およびジカルボン酸成分の重合、アミノカルボン酸成分および/またはラクタム成分の重合、ジアミン成分およびジカルボン酸成分とアミノカルボン酸成分および/またはラクタム成分との重合などにより形成してもよい。また、ポリアミド系樹脂は、単一のモノマー成分(単一のジアミン成分およびジカルボン酸成分、単一のアミノカルボン酸成分、または単一のラクタム成分)で形成されたホモポリアミドであってもよく、複数のモノマー成分が共重合したコポリアミドであってもよい。代表的なポリアミド系樹脂としては、脂肪族ポリアミド樹脂、脂環族ポリアミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂などが挙げられる。これらのうち、脂肪族ポリアミド系樹脂が好ましい。
【0118】
脂肪族ポリアミド樹脂は、脂肪族モノマー成分に由来する脂肪族モノマー単位で形成されていればよい。脂肪族ポリアミド系樹脂としては、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612などの脂肪族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸とのホモポリアミド;ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12などの脂肪族アミノカルボン酸および/または対応するラクタムのホモポリアミド;コポリアミド6/66、コポリアミド6/11、コポリアミド66/12などの複数の脂肪族モノマー成分の共重合体(コポリアミド)などが挙げられる。
【0119】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、コポリアミドにおける「/」は、前後に記載されたモノマー(単位)を共重合成分(共重合単位)としてコポリアミドが形成されることを意味する。すなわち、コポリアミド6/66は、ポリアミド6を形成する単位と、ポリアミド66を形成する単位とを有する共重合体であることを意味する。
【0120】
脂肪族ポリアミド系樹脂としては、炭素数が、例えば4~12、好ましくは6~11、さらに好ましくは6~9のアルキレン基を有する脂肪族モノマー成分を含む脂肪族ポリアミド樹脂が好ましい。代表的な好ましい脂肪族ポリアミド樹脂としては、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612などの脂肪族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸とのホモポリアミド;ポリアミド6などの脂肪族アミノカルボン酸および/または対応するラクタムのホモポリアミドである。
【0121】
ポリアミド系樹脂の密度は、ISO 1183に準拠して、0.95~1.8g/cm程度の範囲から選択でき、ポリマー組成物の機械的特性に優れる点から、例えば1~1.7g/cm、好ましくは1~1.5g/cm、さらに好ましくは1.05~1.3g/cm、より好ましくは1.1~1.2g/cmである。
【0122】
ポリアミド系樹脂のメルトボリュームフローレート(MVR)は、ISO 1133(275℃、5kg荷重)に準拠して、例えば10~400cm/10分、好ましくは50~350cm/10分、さらに好ましくは100~300cm/10分、より好ましくは150~250cm/10分である。MVRが下限以上であると、ポリマー組成物の溶融成形性が向上する傾向があり、MVRが上限以下であると、ポリマー組成物の機械的特性が向上する傾向がある。
【0123】
ポリアミド系樹脂の数平均分子量Mnは、ポリスチレンを基準とするゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる評価方法に準拠して、7000~1000000程度の範囲から選択でき、例えば10000~750000、好ましくは15000~500000、さらに好ましくは18000~500000、より好ましくは20000~500000である。
【0124】
ポリマー成分が熱可塑性樹脂としてポリアミド系樹脂を含む場合、ポリアミド系樹脂の割合は、ポリマー成分中50質量%以上であってもよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、最も好ましくは100質量%である。ポリアミド系樹脂の割合が下限以上であると、ポリマー組成物の成形性や機械的特性が向上する傾向がある。
【0125】
(ゴム)
ポリマー成分としては、前記ゴムの中でも、植物由来フィラーを分散し易い点から、ジエン系ゴムまたはオレフィン系ゴムが特に好ましい。
【0126】
ジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム、ポリブタジエン[例えば、ブタジエンゴム(BR)、1,2-ポリブタジエン(VBR)など]、イソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)などが挙げられる。これらのジエン系ゴムは、水添ゴム(例えば、水素化BR、水素化NBR、水素化SBRなど)であってもよい。これらのジエン系ゴムは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0127】
ポリマー成分がゴムとしてジエン系ゴムを含む場合、ジエン系ゴムの割合は、ゴム中50質量%以上であってもよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0128】
オレフィン系ゴムとしては、例えば、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、エチレン-ブテンゴム、エチレン-1-ブテン-ジエンゴム、プロピレン-1-ブテン-ジエンゴム、ポリイソブチレンゴム、イソブチレン-イソプレンゴム(IIR)、エチレン-酢酸ビニルゴム、マレイン酸変性エチレン-プロピレンゴム(M-EPM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M-CM)などが挙げられる。EPDMなどのオレフィン系ゴムに含まれていてもよいジエン単位(非共役ジエン単位)としては、例えば、ジシクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、シクロオクタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネン由来の単位などが挙げられる。これらのオレフィン系ゴムは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0129】
ポリマー成分がゴムとしてオレフィン系ゴムを含む場合、オレフィン系ゴムの割合は、ゴム中50質量%以上であってもよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0130】
なお、共重合ゴムは、ランダムまたはブロック共重合体であってもよく、ブロック共重合体には、AB型、ABA型、テーパー型、ラジアルテレブロック型の構造を有する共重合体などが含まれる。
【0131】
これらのうち、SBR、EPMおよびEPDMからなる群より選択された少なくとも一種が特に好ましい。
【0132】
(ポリマー成分の好ましい態様および割合)
ポリマー成分としては、ポリマー組成物の機械的特性を向上し易い点から、熱可塑性樹脂またはゴムが好ましく、熱可塑性樹脂がさらに好ましく、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂がさらに好ましい。
【0133】
ポリマー成分が熱可塑性樹脂を含む場合、熱可塑性樹脂の割合は、ポリマー成分中50質量%以上であってもよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、最も好ましくは100質量%である。熱可塑性樹脂の割合が下限以上であると、ポリマー組成物の成形性や機械的特性が向上する傾向がある。
【0134】
ポリマー成分がゴムを含む場合、ゴムの割合は、ポリマー成分中50質量%以上であってもよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0135】
ポリマー成分の割合は、ポリマー組成物中50質量%以上であってもよく、例えば50~95質量%、好ましくは55~90質量%、さらに好ましくは60~88質量%、より好ましくは70~85質量%、最も好ましくは77~82質量%である。ポリマー成分の割合が下限以上であると、ポリマー組成物の成形性や機械的特性が向上する傾向がある。
【0136】
[植物由来フィラー]
植物由来フィラーは、植物を原料とするフィラー(充填剤、補強剤または強化剤)であれば、特に限定されない。
【0137】
植物由来フィラーの形状としては、例えば、非繊維状(球状、略球状、楕円体状、多角体状または多面体状、扁平状、棒状または柱状、不定形状などの粒状)、繊維状などが挙げられる。これらのうち、繊維状が好ましい。
【0138】
植物原料としては、例えば、木材、草本類、種子毛、竹、サトウキビなどが挙げられる。木材としては、マツ、モミ、トウヒ、ツガ、スギなどの針葉樹;ブナ、カバ、ポプラ、カエデなどの広葉樹などが挙げられる。草本類としては、麻、亜麻、マニラ麻、ラミーなど麻類;ワラ;バガス;ミツマタなどが挙げられる。種子毛としては、コットンリンター、ボンバックス綿、カポックなどが挙げられる。
【0139】
植物原料は、古紙、ワラ、食品残渣などであってもよい。食品残渣としては、茶抽出殻、コーヒー豆抽出殻、穀類の殻、柑橘類の皮、さとうきび粕、豆類の皮などが挙げられる。
【0140】
これらの植物原料は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。植物原料は、リグニン、ヘミセルロースなどの非セルロース成分の含有量が少ないパルプが好ましい。パルプとしては、針葉樹パルプ、広葉樹パルプなどの木材パルプ;コットンリンターパルプなどの種子毛繊維パルプなどが汎用される。
【0141】
植物由来フィラーは、これらの植物原料で形成されているのが好ましく、セルロース繊維(繊維状セルロース)が特に好ましい。
【0142】
セルロース繊維は、結晶性の高いセルロース繊維であってもよく、セルロース繊維の結晶化度は、例えば40~100%(例えば50~100%)、好ましくは60~100%、さらに好ましくは70~100%、最も好ましくは75~99%であり、通常、結晶化度が60%以上(例えば60~98%)である。また、セルロース繊維の結晶構造としては、例えば、I型、II型、III型、IV型などが例示でき、線膨張特性や弾性率などに優れたI型結晶構造が好ましい。
【0143】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、セルロース繊維の結晶化度は、粉末X線回折装置((株)リガク製「Ultima IV」)などを用いて測定できる。
【0144】
セルロース繊維は、ヘミセルロースやリグニンなどの非セルロース成分を含んでいてもよく、非セルロース成分の割合はセルロース繊維中30質量%以下、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。セルロース繊維は、非セルロース成分を実質的に含まないセルロース繊維(特に、非セルロース成分を含まないセルロース繊維)であってもよい。
【0145】
セルロース繊維は、純度の高いセルロース繊維であってもよく、セルロース繊維の純度(セルロース純度)は、例えば50質量%以上であってもよく、好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上、最も好ましくは80質量%以上(例えば80~99質量%程度)である。セルロース繊維の純度が下限以上であると、ポリマー組成物の機械的特性が向上する傾向がある。
【0146】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、セルロース繊維の純度は、TAPPI T 203におけるアルファセルロース量で測定できる。
【0147】
セルロース繊維は、修飾または未修飾であってもよく、未修飾が好ましい。
【0148】
セルロース繊維の重合度は、組成物の機械的特性の点から、500以上であってもよく、好ましくは600以上(例えば600~10万)であってもよい。
【0149】
セルロース繊維の平均繊維径は、0.5~100μmであればよいが、ミクロンオーダーであるのが好ましく、例えば1~80μm、好ましくは5~70μm、より好ましくは10~50μm、最も好ましくは30~45μmである。平均繊維径が下限以上であると、セルロース繊維をポリマー成分中に均一に分散させ易くなる傾向があり、上限以下であると、ポリマー組成物の表面にセルロース繊維が浮き出て外観が低下するのを抑制できる傾向がある。
【0150】
セルロース繊維の平均繊維長は、1μm以上(例えば1μm~100mm)程度の範囲から選択でき、例えば10μm以上(例えば0.01~50mm)、好ましくは100μm以上(例えば0.1~30mm)、さらに好ましくは300μm以上(例えば0.3~20mm)、より好ましくは500μm以上(例えば0.5~10mm)、最も好ましくは1mm以上(例えば1~5mm)である。平均繊維長が下限以上であると、ポリマー組成物の機械的特性が向上する傾向があり、上限以下であると、ポリマー組成物中にセルロース繊維を均一に分散させ易くなる傾向がある。
【0151】
セルロース繊維の平均繊維径に対する平均繊維長の割合(アスペクト比)は、例えば5以上(例えば5~10000)、好ましくは10以上(例えば10~5000)、さらに好ましくは15以上(例えば15~3000)、より好ましくは20以上(例えば20~100)、最も好ましくは25以上(例えば25~50)である。アスペクト比が下限以上であると、機械的特性が向上する傾向があり、上限以下であると、ポリマー組成物中でセルロース繊維が均一に分散し易くなる傾向がある。
【0152】
なお、本明細書および特許請求の範囲では、セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長およびアスペクト比は、走査型電子顕微鏡写真の画像からランダムに50個の繊維を選択し、加算平均して算出できる。また、前記セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長およびアスペクト比は、ポリマー組成物または予備組成物中におけるセルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長およびアスペクト比である。
【0153】
植物由来フィラー(特に、セルロース繊維)の割合は、ポリマー成分100質量部に対して、例えば1~100質量部、好ましくは2~50質量部、さらに好ましくは3~30質量部、より好ましくは5~20質量部、最も好ましくは10~15質量部である。植物由来フィラーの割合が下限以上であると、ポリマー組成物の機械的特性が向上する傾向があり、上限以下であると、ポリマー組成物中での植物由来フィラーの分散性が向上する傾向がある。
【0154】
[糖類の還元体]
本開示のポリマー組成物は、二糖還元体および/または三糖還元体を含む糖類の還元体を含むため、ポリマー組成物の機械的特性を向上できる。特定の糖類の還元体の存在によって、ポリマー組成物の機械的特性が向上する詳細にメカニズムは不明であるが、二糖還元体および/または三糖還元体(特に、二糖還元体)は、所定の構造を有し、かつ複数の水酸基により親水性を示すため、植物由来フィラー間の間隙に侵入して水素結合などによって植物由来フィラーと親和または結合するにより、前記フィラーの補強機能を強化していると推定できる。
【0155】
二糖還元体としては、例えば、乳糖(ラクトース)の還元体(ラクチトール)、異性化乳糖(ラクチュロース)の還元体、メリビオースの還元体、イソマルツロースの還元体(イソマルト)などのヘテロ二糖の還元体;セロビオースの還元体、麦芽糖(マルトース)の還元体(マルチトール)、ゲンチオビオースの還元体、イソマルトースの還元体、コージビオースの還元体、ラミナリビオースの還元体、ソホロースの還元体などのホモ二糖の還元体などが挙げられる。これらの二糖還元体は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0156】
三糖還元体としては、例えば、ニゲロトリオースの還元体、マルトトリオースの還元体、メレチトースの還元体、マルトトリウロースの還元体、ラフィノースの還元体、ケストースの還元体などが挙げられる。これらの三糖還元体は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0157】
本開示では、糖類の還元体としては、二糖還元体を含むのが特に好ましい。二糖還元体の構造は、分子内に1個の環状単位[五員環(フラノース環)または六員環(ピラノース環)]および複数のヒドロキシル基を有する構造が好ましく、分子内に1個のピラノース環および複数のヒドロキシル基を有する構造がさらに好ましく、ヒドロキシル基を有するピラノース環で形成された環状単位と、ヒドロキシル基を有する鎖状単位(アルカン単位)とがエーテル結合した構造がより好ましい。
【0158】
二糖還元体の炭素数は、例えば7~16、好ましくは8~15、さらに好ましくは10~14、より好ましくは11~13である。二糖還元体は、分子内に5~14個、好ましくは6~12個、さらに好ましくは7~11個、より好ましくは8~10個のヒドロキシル基を有していてもよい。
【0159】
これらのうち、イソマルト、ラクチトールなどのヘテロ二糖の還元体、マルチトールなどのホモ二糖の還元体などが汎用され、イソマルトおよび/またはマルチトールが特に好ましい。なお、イソマルトは、パラチノース(登録商標)の還元体であるパラチニット(登録商標)として市販されている。
【0160】
糖類の還元体は、本開示の効果を損なわない範囲であれば、単糖還元体、四糖以上のオリゴ糖還元体(以下「オリゴ糖還元体」とも称する)を含んでいてもよい。
【0161】
単糖還元体としては、例えば、エリトリトール;アラビノース還元体、キシロース還元体(キシリトール)、リボース還元体、デオキシリボース還元体などのペントース還元体;ガラクトース還元体、ブドウ糖(グルコース)還元体(ソルビトール)、マンノース還元体(マンニトール)、フコース還元体、ラムノース還元体、グルコサミン還元体などのヘキソース還元体などが挙げられる。これらの単糖還元体は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0162】
オリゴ糖還元体としては、例えば、ニゲロテトラオース還元体などが挙げられる。これらのオリゴ糖還元体は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0163】
単糖還元体およびオリゴ糖還元体の合計量は、例えば、糖類の還元体中50質量%以下であってもよく、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、最も好ましくは0質量%である。前記合計量の割合が上限以下であると、ポリマー組成物の機械的特性が向上する傾向がある。
【0164】
特に、本開示のポリマー組成物では、ポリマー組成物の機械的特性および成形性を向上し易い点から、糖類の還元体として、単糖還元体またはその誘導体(例えば、エリトリトール、ソルビトール、キシリトールなどの糖アルコールや、ジペンタエリスリトールなどの糖アルコールの縮合体など)を実質的に含まないのが好ましく、単糖還元体またはその誘導体を完全に含まないのがより好ましい。
【0165】
二糖還元体および三糖還元体の合計量の割合は、例えば、糖類の還元体中1質量%以上であってもよく、好ましくは以下段階的に、10質量%以上、30質量%以上、50質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。前記合計量の割合が下限以上であると、ポリマー組成物の機械的特性が向上する傾向がある。
【0166】
特に、二糖還元体の割合は、例えば、糖類の還元体中1質量%以上(特に5質量%以上)であってもよく、好ましくは以下段階的に、10質量%以上、30質量%以上、50質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。前記二糖還元体の割合が下限以上であると、ポリマー組成物の機械的特性が向上する傾向がある。
【0167】
糖類の還元体(特に、二糖還元体)の割合は、ポリマー成分(特に、熱可塑性樹脂またはゴム)100質量部に対して、例えば0.01~100質量部程度の範囲から選択でき、好ましくは以下段階的に、0.1~80質量部、1~50質量部、2~30質量部、3~20質量部、5~15質量部であり、最も好ましくは7~13質量部である。糖類の還元体の割合が下限以上であると、植物由来フィラーを補強してポリマー組成物の機械的特性が向上する傾向があり、上限以下であると、糖類の還元体の過多によるポリマー組成物の機械的特性の低下を抑制できる傾向がある。
【0168】
糖類の還元体(特に、二糖還元体)の割合は、植物由来フィラー100質量部に対して、例えば10~1000質量部、好ましくは20~500質量部、さらに好ましくは30~300質量部、より好ましくは50~200質量部、最も好ましくは80~150質量部である。糖類の還元体の割合が下限以上であると、ポリマー組成物の機械的特性が向上する傾向があり、上限以下であると、ポリマー組成物の成形性が向上する傾向がある。
【0169】
[他の成分]
本開示のポリマー組成物は、ポリマー成分、植物由来フィラーおよび糖類の還元体に加えて、他の成分として、慣用の添加剤をさらに含んでいてもよい。慣用の添加剤としては、例えば、可塑剤、安定化剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、熱安定化剤など)、酸捕捉剤、導電剤、帯電防止剤、難燃剤(リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、無機系難燃剤など)、難燃助剤、耐衝撃改良剤、流動性改良剤、レベリング剤、消泡剤、非植物由来の補強材(ガラス繊維、炭素繊維、合成繊維などの繊維状補強材、タルク、炭酸カルシウムなどの充填剤など)、着色剤、滑剤、離型剤、色相改良剤、分散剤、抗菌剤、防腐剤、低応力化剤、核剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0170】
他の成分の合計割合は、ポリマー成分100質量部に対して、例えば100質量部以下(例えば0.1~100質量部)であってもよく、好ましくは50質量部以下(例えば1~50質量部)、さらに好ましくは30質量部以下、より好ましくは10質量部以下、最も好ましくは5質量部以下である。
【0171】
本開示のポリマー組成物は、ポリマー成分が熱可塑性樹脂またはゴム(特に、熱可塑性樹脂)である場合、成形性の点から、糖類を含まないのが好ましく、単糖および二糖を含まないのが特に好ましい。
【0172】
[ポリマー組成物の特性]
本開示のポリマー組成物は、機械的特性に優れている。本開示のポリマー組成物(特に、熱可塑性樹脂組成物)の曲げ強さは、ポリマー成分の種類に応じて適宜選択できるが、例えば10MPa以上であってもよく、例えば10~300MPa、好ましくは30~250MPa、さらに好ましくは50~200MPa、より好ましくは80~180MPa、最も好ましくは100~150MPaである。
【0173】
本開示のポリマー組成物(特に、熱可塑性樹脂組成物)の曲げ弾性率は、ポリマー成分の種類に応じて適宜選択できるが、2000MPa以上であってもよく、例えば2000~7000MPa、好ましくは2500~6000MPa、さらに好ましくは3000~5500MPa、より好ましくは3500~5000MPa、最も好ましくは4000~4500MPaである。
【0174】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、ポリマー組成物の曲げ強さおよび曲げ弾性率は、ISO 178に準じて測定できる。
【0175】
本開示のポリマー組成物(特に、ゴム組成物)は、硬度が高い。本開示のポリマー組成物(特に、ゴム組成物の加硫物)の硬度(タイプAデュロメータ)は30以上であってもよく、例えば35~60、好ましくは37~55、さらに好ましくは38~53、より好ましくは40~51である。
【0176】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、硬度(タイプAデュロメータ)は、ISO 7619-1に準拠し、デュロメータ(タイプA)を用いて測定できる。
【0177】
[ポリマー組成物の製造方法]
本開示のポリマー組成物は、ポリマー成分の種類に応じて慣用の方法で製造できる。本開示のポリマー組成物の製造方法は、各成分を一括して配合して混練する方法(一括法)であってもよく、植物由来フィラーと糖類の還元体とを含む予備組成物を予め調製して、この予備組成物とポリマー成分(特に、熱可塑性樹脂またはゴム)とを混合する方法(分割法)であってもよい。
【0178】
一括法では、ポリマー成分が熱可塑性樹脂である場合、熱可塑性樹脂と植物由来フィラーと糖類の還元体と必要に応じて他の成分とを、乾式混合、溶融混練などの慣用の方法で混合する方法により調製でき、熱可塑性樹脂組成物は、ペレットなどの形態であってもよい。溶融混練する場合、混練温度は、ポリマー成分の種類に応じて適宜選択できるが、例えば150~300℃、好ましくは200~280℃、さらに好ましくは200~270℃、より好ましくは210~260℃、最も好ましくは230~250℃である。本開示のポリマー組成物では、このような高い温度であっても、植物由来フィラーを用いて安定してペレットなどの熱可塑性樹脂組成物を製造できる。溶融混練の方法としては、慣用の方法を利用でき、例えば、二軸押出混練機を利用してもよい。
【0179】
一括法では、ポリマー成分がゴムである場合は、未加硫ゴムと植物由来フィラーと糖類の還元体と必要に応じて他の成分とを慣用の方法で混練する方法により調製できる。混練方法としては、ミキシングローラなどのロール式混練機を用いて混練する方法、バンバリーミキサー、インターミックス、ニーダー、押出機(一軸または二軸押出機など)などの密閉式混練機を用いて混練する方法などが挙げられる。これらの混練方法のうち、酸化などを防止できる点から、密閉式混練機を用いる混練方法が好ましく、剪断力が大きな混練機、例えば、ニーダーを用いる混練方法が特に好ましい。混練温度は、例えば50~200℃、好ましくは60~150℃、さらに好ましくは65~120℃、より好ましくは70~100℃、最も好ましくは75~90℃である。
【0180】
分割法において、予め予備組成物を製造する方法は、植物由来フィラーと、糖類の還元体と、水とを混合して混合物を得る混合工程と、前記混合物を乾燥して予備組成物を得る予備組成物調製工程とを経て予備組成物を得る方法であってもよい。
【0181】
混合工程において、水の割合は、植物由来フィラー100質量部に対して、例えば10~500質量部、好ましくは50~300質量部、さらに好ましくは100~250質量部、より好ましくは130~200質量部、最も好ましくは150~180質量部である。
【0182】
植物由来フィラーと糖類の還元体と水との混合方法(または攪拌方法)としては、慣用の混合または攪拌方法を利用できる。慣用の混合または攪拌方法としては、ボールミル、タンブルミキサー、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、ミキシングローラ、ニーダ、バンバリーミキサー、押出機(一軸または二軸押出機など)などを用いた方法などが挙げられる。
【0183】
具体的には、慣用の混合または攪拌手段により混合してもよく、ミキサーでは、例えば100~10000rpm、好ましくは500~5000rpm、さらに好ましくは1000~3000rpm、特に1500~2500rpm程度の回転速度で混合してもよい。
【0184】
混合時間は、例えば1~100分、好ましくは3~60分、さらに好ましくは5~30分である。
【0185】
予備組成物調製工程では、慣用の方法で、前記混合物を粉砕してもよく、造粒してもよい。造粒方法としては、慣用の造粒方法、例えば、転動造粒、流動層造粒、攪拌造粒、解砕造粒、圧縮造粒、押出造粒、溶解造粒などの造粒方法から選択できる。これらのうち、圧縮造粒、押出造粒が好ましく、押出造粒が特に好ましい。押出造粒は、ディスクペレッターなどの慣用の押出造粒機を用いて造粒できる。
【0186】
造粒温度は、常温(例えば25℃)~200℃程度の範囲で選択できるが、好ましくは常温~100℃、さらに好ましくは常温~50℃であり、混練により温度が上昇する可能性もあるため、簡便性の点から、通常、常温であり、非加熱状態で造粒してもよい。
【0187】
得られた造粒体(予備組成物)は、乾燥工程に供してもよい。乾燥工程において、乾燥方法としては、自然乾燥であってもよいが、生産性などの点から、真空乾燥するのが好ましい。乾燥時間は、例えば0.1~24時間、好ましくは0.5~10時間、さらに好ましくは1~5時間である。水分率は、後述する範囲に調整してもよい。
【0188】
予備組成物において、糖類の還元体(特に、二糖還元体)の割合は、植物由来フィラー100質量部に対して、例えば10~1000質量部、好ましくは20~500質量部、さらに好ましくは25~300質量部、より好ましくは30~50質量部、最も好ましくは30~45質量部である。
【0189】
植物由来フィラーおよび糖類の還元体の合計量の割合は、予備組成物中50質量%以上であってもよく、例えば80質量%以上、好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0190】
予備組成物の水分率は5質量%以下であってもよく、好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。予備組成物の水分率が上限以下であると、ポリマー組成物の機械的特性を向上し易い傾向がある。
【0191】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、予備組成物の水分率は、慣用の方法で測定でき、具体的には、加熱乾燥式水分計((株)エー・アンド・デイ製「MX-50」)を用いて測定できる。
【0192】
予備組成物の形状は、特に限定されないが、粒状(または粉末状)が好ましい。粒状は、球状、略球状、楕円体状、多角体状または多面体状、扁平状、棒状または柱状、不定形状などであってもよい。これらのうち、粒状は、球状などの等方形状や、略球状や略円柱状などの略等方形状が好ましい。そのため、粒状の造粒体において、短径に対する長径の割合(アスペクト比)は、1に近いアスペクト比が好ましく、例えば1~10、好ましくは1~8、さらに好ましくは1~6、より好ましくは1~4、最も好ましくは1~3である。予備組成物が円柱状である場合、長径は、円柱の高さおよび底面の円形状の直径のうち大きい方が相当し、短径は、円柱の高さおよび底面の円形状の直径のうち小さい方が相当する。
【0193】
予備組成物の平均粒径(D50)は、例えば0.1~20mm、好ましくは1~10mm、さらに好ましくは1.5~5mm、より好ましくは2~4mm、最も好ましくは2.5~3.5mmである。予備組成物の平均粒径が下限以上であると、糖類の還元体と植物由来フィラーとを均一に混合し易くなる傾向があり、上限以下であると、予備組成物を調製し易くなる傾向がある。
【0194】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、予備組成物の平均粒径は、慣用の方法で測定でき、例えば、走査型電子顕微鏡写真の画像からランダムに50個の粒子を選択し、加算平均して算出できる。
【0195】
これらの方法のうち、ポリマー組成物の機械的特性を向上し易い点から、分割法が好ましい。
【0196】
[強度向上剤]
本開示の強度向上剤は、ポリマー成分と植物由来フィラーとを含むポリマー組成物の強度を向上させるための強度向上剤であり二糖還元体および/または三糖還元体を含む糖類の還元体とを含む。糖類の還元体は、好ましい態様も含めて、ポリマー組成物の糖類の還元体と同一である。
【0197】
本開示の強度向上剤において、前記糖類の還元体の割合は、強度向上剤中50質量%以上であってもよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、最も好ましくは100質量%である。前記糖類の還元体の割合が下限以上であると、前記ポリマー組成物の強度を高度に向上できる傾向がある。
【0198】
また、本開示の強度向上剤は、植物由来フィラーを含んでいてもよく、前記分割法で得られる予備組成物を強度向上剤として用いてもよい。
【0199】
[成形体]
本開示の成形体は、前記ポリマー組成物を慣用の成形法で成形することにより製造できる。
【0200】
ポリマー組成物が熱可塑性樹脂である場合、慣用の成形法としては、圧縮成形法、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、トランスファー成形法、ブロー成形法、加圧成形法、キャスティング成形法などが挙げられる。本開示の熱可塑性樹脂組成物は、成形性に優れるため、これらの成形法のうち、高度な成形性が要求される成形法、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法が好ましく、射出成形法が特に好ましい。
【0201】
射出成形法において、シリンダー温度は、例えば150~300℃、好ましくは180~280℃、さらに好ましくは180~260℃である。シリンダー温度が下限以上であると、成形性が向上する傾向があり、上限以下であると、成形体の機械的特性が向上する傾向がある。
【0202】
シリンダー温度は、熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である場合、例えば150~250℃、好ましくは180~230℃、さらに好ましくは190~210℃である。
【0203】
シリンダー温度は、熱可塑性樹脂がポリエステル系樹脂である場合、例えば150~300℃、好ましくは220~280℃、さらに好ましくは240~260℃である。
【0204】
シリンダー温度は、熱可塑性樹脂がポリアミド系樹脂である場合、例えば150~300℃、好ましくは220~280℃、さらに好ましくは240~260℃である。
【0205】
射出圧力は、例えば10~100MPa、好ましくは20~80MPa、さらに好ましくは40~60MPaである。
【0206】
金型温度は、例えば10~130℃、好ましくは15~120℃、さらに好ましくは20~100℃である。金型温度が下限以上であると、成形体の生産性が向上する傾向があり、上限以下であると、成形体の機械的特性が向上する傾向がある。
【0207】
金型温度は、熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である場合、例えば10~100℃、好ましくは15~50℃、さらに好ましくは20~40℃である。
【0208】
金型温度は、熱可塑性樹脂がポリエステル系樹脂である場合、例えば30~120℃、好ましくは50~90℃、さらに好ましくは60~80℃である。
【0209】
金型温度は、熱可塑性樹脂がポリアミド系樹脂である場合、例えば30~130℃、好ましくは60~100℃、さらに好ましくは70~90℃である。
【0210】
ポリマー組成物がゴム組成物である場合、慣用の成形法としては、前記ゴム組成物を加硫(または架橋)する加硫工程を含む方法などが挙げられる。
【0211】
加硫工程において、加硫温度は、ゴムの種類に応じて選択でき、例えば100~250℃、好ましくは130~200℃、さらに好ましくは140~190℃、より好ましくは145~180℃である。
【0212】
本開示の成形体の形状は、特に限定されず、用途に応じて選択でき、線状または糸状などの一次元的構造体;フィルム状、シート状、板状などの二次元的構造体;ブロック状、棒状、管状またはチューブ状、中空状などの三次元的構造体などが挙げられる。特に、本開示の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形によって高い生産性で成形体を製造できるため、三次元的構造体であっても、高い生産性で製造できる。
【実施例
【0213】
以下に、実施例に基づいて本開示をより詳細に説明するが、本開示はこれらの実施例によって限定されるものではない。実施例で用いた原料、機器および評価方法は以下の通りである。
【0214】
[原料]
(植物由来フィラー)
セルロース繊維:植物由来のパルプ(化学修飾されていない繊維、平均繊維径40μm、平均繊維長1mm以上、セルロース純度80%以上)のシートを4mm×4mm角程度のチップ状に裁断したセルロース繊維、嵩密度0.15g/cm
【0215】
(二糖還元体を含む糖類の還元体)
マルチトール:東京化成工業(株)製、二糖還元体比率98質量%以上
パラチニット(登録商標):富士フイルム和光純薬(株)製、二糖還元体比率98質量%以上
アマルティシロップ:三菱商事ライフサイエンス(株)製マルチトール75質量%水溶液、固形分中の各還元体比率(単糖還元体比率1~4質量%、二糖還元体比率75~80質量%、三糖還元体比率10~17質量%、四糖以上還元体比率6~12質量%)
SOシロップ:三菱商事ライフサイエンス(株)製還元水飴70質量%水溶液、固形分中の各還元体比率(単糖還元体比率3~10質量%、二糖還元体比率35~50質量%、三糖還元体比率20~30質量%、四糖以上還元体比率15~30質量%)
PO-30:三菱商事ライフサイエンス(株)製還元水飴70質量%水溶液、固形分中の各還元体比率(単糖還元体比率3~6質量%、二糖還元体比率13~19質量%、三糖還元体比率14~19質量%、四糖以上還元体比率58~66質量%)
PO-10:三菱商事ライフサイエンス(株)製還元水飴、各還元体比率(単糖還元体比率0~3質量%、二糖還元体比率1~5質量%、三糖還元体比率1~5質量%、四糖以上還元体比率90~95質量%)
【0216】
(比較材料)
エリトリトール:東京化成工業(株)製、meso―エリトリトール、単糖還元体比率99質量%以上
キシリトール:東京化成工業(株)製、単糖還元体比率98質量%以上
スクロース:東京化成工業(株)製D-(+)-スクロース、二糖(還元体ではない)比率99質量%以上
【0217】
(熱可塑性樹脂)
高密度ポリエチレン樹脂(HDPE):日本ポリエチレン(株)製「ノバテックHD HJ490」
ポリプロピレン樹脂(PP):プライムポリマー(株)製「プライムポリプロ J105G」
無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(PP-MAH):理研ビタミン(株)製「リケエイドMG-400P」
ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT):三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製「ノバデュラン 5010R5」
ポリアミド6樹脂(PA6):ユニチカ(株)製「ユニチカナイロン A1030BRL」
【0218】
(ゴム)
SBR:(株)ENEOSマテリアル製「ESBR 1502」
EPDM:三井化学(株)製「三井EPT 3045」
【0219】
[使用機器]
二軸押出機:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製「Process11」
射出成形機:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製「HAAKE MiniJet Pro」
混合機:カワタ(株)製「スーパーミキサー SMV-20B」
押出造粒機:ダルトン社製「ディスクペレッター F-5型」、ダイス径3mm
バッチ式ニーダ:(株)テクノベル製「MSR-60」
手動油圧真空加熱プレス機:(株)井元製作所製
【0220】
[ペレット化]
二軸押出機を用いた熱可塑性樹脂を含むペレット状樹脂組成物の調製について、以下の基準で評価した。
【0221】
可…混練物のストランド化とカットが安定的に実施できた
不可…熱劣化して実施できなかった
【0222】
[曲げ強さおよび曲げ弾性率]
短冊状試験片の曲げ強さおよび曲げ弾性率をISO 178に準じて測定した。
【0223】
[デュロメータ硬度]
シート状試験片のデュロメータ硬度をISO 7619-1に準じて測定した。
【0224】
[実施例1~11および比較例1~11]
二軸押出機を用いて、温度200℃、スクリュー回転数200rpm、吐出量約500g/hで、表1~3に示す質量割合の各原料を混練し、ペレット状の樹脂組成物を調製し、ペレット化について評価した。
【0225】
得られた樹脂組成物を、射出成形機を用いて、シリンダー温度200℃、金型温度30℃の条件で射出成形し、短冊状試験片を得た。
【0226】
なお、熱可塑性樹脂としてPBTを用いた場合は、二軸押出機の温度を240℃、射出成形機のシリンダー温度を250℃、金型温度を70℃に変更し、PA6を用いた場合は、二軸押出機の温度を240℃、射出成形機のシリンダー温度を250℃、金型温度を80℃に変更した。
【0227】
得られた短冊状試験片の曲げ強さおよび曲げ弾性率を測定した結果を表1~3に示す。なお、表1~5において、組成は、固形分による質量比である。
【0228】
【表1】
【0229】
【表2】
【0230】
【表3】
【0231】
表1および2から明らかなように、PPのみを含む比較例1およびPP、PP-MAH、セルロース繊維のみを含む比較例2に対して、PP、PP-MAH、セルロース繊維、二糖および/または三糖還元体を含む実施例1~8では、曲げ強さと曲げ弾性率が向上した。一方、PP、PP-MAH、セルロース繊維に加えて単糖還元体または二糖(非還元体)を含む比較例3および4では、曲げ強さと曲げ弾性率が実施例1~8に比べて劣っており、比較例5では成形不可であった。なお、実施例1~6を比較すると、添加剤中に含まれる二糖還元体の比率が高いものほど、曲げ強さと曲げ弾性率が高まる傾向にあった。また、実施例1、実施例7、実施例8を比較すると、二糖還元体の添加量が高まると曲げ弾性率が高まったが、曲げ強度の上り幅は相対的に小さかった。
【0232】
表3から明らかなように、樹脂のみを含む比較例6、比較例8、比較例10に対して、対応する樹脂とセルロース繊維、二糖還元体を含む実施例9、実施例10、実施例11では、曲げ強さと曲げ弾性率が向上した。さらに、樹脂とセルロース繊維のみを含む比較例7、比較例9、比較例11に対して、対応する樹脂とセルロース繊維、二糖還元体を含む実施例9、実施例10、実施例11では、曲げ強さと曲げ弾性率が向上した。
【0233】
[実施例12]
セルロース繊維100質量部、マルチトール33.3質量部、水166.7質量部を、混合機(カワタ(株)製「スーパーミキサー SMV-20B」)を用いて回転数2000rpmにて10分間攪拌した。得られた混合物を、押出造粒機(ダルトン社製「ディスクペレッター F-5型」、ダイス径3mm)を用いて造粒した。続いて、真空乾燥機を用いて1時間乾燥して水分を除去し、セルロース繊維とマルチトールとの造粒体を得た。造粒体の水分率は1質量%であった。
【0234】
[実施例13~14]
表4に示す質量割合の各原料を、実施例1~11および比較例1~11と同様の方法でペレット状樹脂組成物および短冊状試験片を製造して評価した。評価結果を表4に示す。
【0235】
【表4】
【0236】
表4から明らかなように、実施例12で得られたセルロース繊維とマルチトールとの造粒体を樹脂に混合した実施例13および実施例14では、セルロース繊維とマルチトールを直接混練した実施例9および実施例11に比較して曲げ強さと曲げ弾性率が向上した。
【0237】
[実施例15~16および比較例12~15]
表5に示す質量割合の各成分を、バッチ式ニーダーを用いて、温度80℃、スクリュー回転数40rpmで5分間混練し、塊状のゴム組成物を調製した。得られたゴム組成物を、手動油圧真空加熱プレス機を用いて、熱盤温度150℃、圧力2MPaの条件で2分間プレスし、シート状試験片を得た。
【0238】
【表5】
【0239】
表5から明らかなように、SBRのみを含む比較例12およびSBR、セルロース繊維のみを含む比較例13に対して、SBR、セルロース繊維、マルチトールを含む実施例15では硬度が向上した。また、EPDMのみを含む比較例14およびEPDM、セルロース繊維のみを含む比較例15に対して、EPDM、セルロース繊維、マルチトールを含む実施例16では硬度が向上した。
【産業上の利用可能性】
【0240】
本開示の強度向上剤は、樹脂やゴムなどのポリマー成分への分散性に優れ、高分子化合物の強度向上剤として利用できる。
【0241】
本開示の樹脂組成物は、種々の分野の樹脂成形品[例えば、自動車部品、電気・電子部品、建築資材(壁材など)、土木資材、農業資材、包装資材(容器、緩衝材など)、生活資材(日用品など)、光学部材など]に利用できる。
【0242】
本開示のゴムまたはエラストマー組成物は、各種の工業用部材(コンベアベルトなどのベルト;ゴムカバーロール、印刷ロールなどのロール;ガスケット;オイルシールなどのシール;パッキン;耐油ホースなどのホースなど)、建築部材(窓枠ゴム、制振材、カーペットバッギング材など)、輸送機部材(自動車用部材、タイヤ、動力伝達ベルトなど)、電気・電子機器部材(電線被覆物など)に利用できる。
【要約】
【課題】植物由来のフィラーを含み、成形性に優れ、かつ高い機械的特性を有するポリマー組成物を提供する。
【解決手段】ポリマー成分と、植物由来フィラーと、二糖還元体および/または三糖還元体を含む糖類の還元体とを組み合わせて、ポリマー組成物を調製する。前記糖類の還元体は、分子内に1個のピラノース環および複数のヒドロキシル基を有する二糖還元体を含んでいてもよい。前記ポリマー成分は熱可塑性樹脂またはゴムを含んでいてもよい。前記ポリマー成分100質量部に対して、前記植物由来フィラー1~100質量部および前記糖類の還元体0.01~100質量部を含んでいてもよい。前記植物由来フィラーはセルロース繊維を含んでいてもよい。植物由来フィラーと、二糖還元体および/または三糖還元体を含む糖類の還元体と、水とを混合して得られた混合物を押出造粒して造粒体を得た後、この造粒体とポリマー成分とを混合してポリマー組成物を調製してもよい。
【選択図】なし