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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】複数の薄型ウエハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20241113BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20241113BHJP
   C09J 4/02 20060101ALI20241113BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20241113BHJP
   C09J 5/00 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
H01L21/304 622J
H01L21/304 631
H01L21/68 N
C09J4/02
C09J11/06
C09J5/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024541734
(86)(22)【出願日】2024-01-22
(86)【国際出願番号】 JP2024001572
【審査請求日】2024-07-10
(31)【優先権主張番号】P 2023013526
(32)【優先日】2023-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100127247
【弁理士】
【氏名又は名称】赤堀 龍吾
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 拓
(72)【発明者】
【氏名】谷川(星野) 貴子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 佑輔
(72)【発明者】
【氏名】山本 翔太
(72)【発明者】
【氏名】栗村 啓之
【審査官】柴垣 俊男
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/235406(WO,A1)
【文献】特開2023-008789(JP,A)
【文献】国際公開第2011/158654(WO,A1)
【文献】特開2016-086158(JP,A)
【文献】特開2006-188586(JP,A)
【文献】特開平6-177094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
H01L 21/683
C09J 4/02
C09J 11/06
C09J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の薄型ウエハの製造方法であって、
(1)以下の(A)~(C)を含有する仮固定用組成物を介して、薄型ウエハの基材と、光学的に透明な支持部材を貼り合わせる工程、
(A)(メタ)アクリレートを含む重合性成分
(B)光ラジカル重合開始剤
(C)重合性官能基を有する紫外線吸収剤
(2)前記支持部材側から、波長が350nm~700nmである光を照射して、前記仮固定用組成物を硬化させて接着剤層を形成し、前記基材と前記支持部材を接着する工程、
(3)前記基材の表面を加工して薄型ウエハを形成する工程、
(4)前記支持部材側から、波長が385nm以下である光を照射して、前記接着剤層を分解させて、前記薄型ウエハを前記支持部材から剥離する工程、
(5)次の薄型ウエハの製造に用いるために、前記支持部材を洗浄する工程、
(6)前記工程(1)~(5)を少なくとも1回繰り返す工程
を含み、
前記工程(1)において、前記基材及び前記支持部材の間に、カーボンブラックを含む層を介さないことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記接着剤層の、385nmの波長における、厚み50μmであるときの光透過率が95%以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記(A)成分が、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシC1~C20アルコキシ)フェニル]フルオレンジ(メタ)アクリレート、C1~C20アルコキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ベンジルジ(メタ)アクリレート、1,3-ビス(2-(メタ)アクリロイルオキシC1~C20アルキル)ベンゼン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、又はそれらの構造異性体からなる群から選択される1種以上を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記(B)成分が、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、及び1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エタノン1-(O-アセチルオキシム)から選択される1種以上である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記(C)成分が、ベンゾフェノン骨格、トリアゾール骨格、ヒドロキシフェニルトリアジン骨格、及びフェノール骨格からなる群から選択される1種以上を有し、かつ重合性官能基を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記(A)成分の合計100質量部に対して、前記(B)成分を0.01~5質量部含有し、前記(C)成分を0.01~15質量部含有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
複数の薄型ウエハの製造方法であって、
(1)以下の(A)~(C)を含有する組成物を介して、薄型ウエハの基材と、光学的に透明な支持部材を貼り合わせる工程、
(A)(メタ)アクリレートを含む重合性成分
(B)重合開始剤
(C)重合性官能基を有する紫外線吸収剤
(2)前記支持部材側から、波長が350nm~700nmである光を照射して、組成物を硬化させて接着剤層を形成し、前記基材と前記支持部材を接着する工程、
(3)前記基材の表面を加工して薄型ウエハを形成する工程、
(4)前記支持部材側から、波長が385nm以下である光を照射して、前記接着剤層を分解させて、前記薄型ウエハを前記支持部材から剥離する工程、
(5)次の薄型ウエハの製造に用いるために、前記支持部材を洗浄する工程、
(6)前記工程(1)~(5)を少なくとも1回繰り返す工程
を含み、
前記工程(1)において、前記基材及び前記支持部材の間に、カーボンブラックを含む層を介さないことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の薄型ウエハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスの製造にあたっては、シリコンに代表される無機系の材料を基板として用い、その表面への絶縁膜形成、回路形成、研削による薄化等の加工を施すことで得られた、厚さ数百μm程度のウエハ型の基板がよく用いられる。しかし基板には脆くて割れやすい材質のものが多いため、特に研削による薄化に際しては破損防止措置が必要である。この措置には、従来、研削対象面の反対側の面(裏面ともいう)に、加工工程終了後に剥離することが可能な、仮固定用保護テープを貼るという方法が採られている。このテープは、有機樹脂フィルムを基材に用いており、柔軟性がある反面、強度や耐熱性が不充分であり、高温となる工程での使用には適さない。
【0003】
そこで、電子デバイス用基板をシリコンやガラス等の支持部材に接着剤を介して接合することによって、裏面研削や裏面電極形成の工程の条件に対する充分な耐久性を付与するシステムが提案されている。この際に重要なのが、基板を支持部材に接合する際の接着剤層である。これは基板を支持部材に隙間なく接合でき、後の工程に耐えるだけの充分な耐久性が必要であり、最後に薄化したウエハを支持部材から簡便に剥離できる、即ち仮固定ができることが必要である。
【0004】
このようなウエハの加工では主に、スピンコート工程、真空接合と光硬化工程、研削・研磨による薄化加工工程、高温処理工程、レーザー剥離工程、仮固定剤(以下、仮固定用組成物ということもある)の除去工程が行われる。
【0005】
スピンコート工程では、仮固定剤の膜をウエハ上に均一に形成できるようにするために、仮固定剤が適した粘度を有すること及びニュートン流体であること(又はせん断粘度のせん断速度非依存性を持つこと)が求められる。
【0006】
真空接合/UV硬化工程では、ガラス等の支持部材上で短時間に紫外線(UV)等光照射による硬化ができること、及びアウトガス発生が少ないこと(低アウトガス性)が仮固定剤に求められる。
【0007】
研削・研磨による薄化加工工程では、研削機の荷重が基板に局所的に掛かることによる破損を避けるため、荷重を面内方向に分散させつつ基板の局所的な沈下を防いで平面性を保てる適度な硬度が仮固定剤に求められる。さらに加えて、支持部材との接着性、エッジを保護するための弾性率の適度な高さ、及び耐薬品性も求められることになる。
【0008】
高温処理工程では、真空中での長時間に亘る高温処理(例えば300℃以上で一時間以上)に耐えうる耐熱性が仮固定剤に求められる。
【0009】
レーザー剥離工程では、UVレーザー等のレーザーにより、高速に剥離できることが仮固定剤に求められる。
【0010】
除去工程では、基板を支持部材から簡便に剥離できる易剥離性のほか、剥離後に基板上に接着剤の残渣が残らないための凝集特性、易洗浄性が求められる。
【0011】
こうした背景の中で、特許文献1は、半導体チップと光透過性支持体との間に光熱変換層を設けることを含む、半導体チップの製造方法を開示している。この光熱変換層はレーザー光などの放射エネルギーの照射により分解し、半導体チップを破損することなく支持体から分離することを可能にする。この発明によれば、ダイシング時のチッピングを効果的に防止することができると開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2005-159155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
引用文献1に開示される発明では、放射エネルギーが照射されたときに放射エネルギーを熱に変換するために、光熱変換層は光吸収剤としてカーボンブラックを含むものである。しかしながら、剥離後、支持体を搬送したり、再利用のために洗浄したりする作業の際に、カーボンブラックが飛散する問題がある。半導体の製造においては、クリーンな環境が求められるため、カーボンブラックの飛散は好ましくない。
【0014】
本発明は上記問題点に鑑み完成されたものであり、一実施形態において、複数の薄型ウエハの製造方法であって、カーボンブラックを含む層を設けなくても、支持部材の洗浄が可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者が鋭意検討の結果、薄型ウエハの基材と、光学的に透明な支持部材との間に、カーボンブラックを含む層を設けず、特定の組成を有する接着剤層に対して特定の波長の光を照射することで、薄型ウエハと支持部材を剥離することができ、かつ残存の接着剤層を容易に洗浄することができることを見出した。本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、以下に例示される。
【0016】
[1]
複数の薄型ウエハの製造方法であって、
(1)以下の(A)~(C)を含有する仮固定用組成物を介して、薄型ウエハの基材と、光学的に透明な支持部材を貼り合わせる工程、
(A)(メタ)アクリレートを含む重合性成分
(B)光ラジカル重合開始剤
(C)重合性官能基を有する紫外線吸収剤
(2)前記支持部材側から、波長が350nm~700nmである光を照射して、前記仮固定用組成物を硬化させて接着剤層を形成し、前記基材と前記支持部材を接着する工程、
(3)前記基材の表面を加工して薄型ウエハを形成する工程、
(4)前記支持部材側から、波長が385nm以下である光を照射して、前記接着剤層を分解させて、前記薄型ウエハを前記支持部材から剥離する工程、
(5)次の薄型ウエハの製造に用いるために、前記支持部材を洗浄する工程、
(6)前記工程(1)~(5)を少なくとも1回繰り返す工程
を含み、
前記工程(1)において、前記基材及び前記支持部材の間に、カーボンブラックを含む層を介さないことを特徴とする方法。
[2]
前記接着剤層の、385nmの波長における、厚み50μmであるときの光透過率が95%以下である、[1]に記載の方法。
[3]
前記(A)成分が、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシC1~C20アルコキシ)フェニル]フルオレンジ(メタ)アクリレート、C1~C20アルコキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ベンジルジ(メタ)アクリレート、1,3-ビス(2-(メタ)アクリロイルオキシC1~C20アルキル)ベンゼン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、又はそれらの構造異性体からなる群から選択される1種以上を含む、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]
前記(B)成分が、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、及び1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エタノン1-(O-アセチルオキシム)から選択される1種以上である、[1]~[3]いずれか1項に記載の方法。
[5]
前記(C)成分が、ベンゾフェノン骨格、トリアゾール骨格、ヒドロキシフェニルトリアジン骨格、及びフェノール骨格からなる群から選択される1種以上を有し、かつ重合性官能基を有する、[1]~[4]いずれか1項に記載の方法。
[6]
前記(A)成分の合計100質量部に対して、前記(B)成分を0.01~5質量部含有し、前記(C)成分を0.01~15質量部含有する、[1]~[5]いずれか1項に記載の方法。
[7]
複数の薄型ウエハの製造方法であって、
(1)以下の(A)~(C)を含有する組成物を介して、薄型ウエハの基材と、光学的に透明な支持部材を貼り合わせる工程、
(A)(メタ)アクリレートを含む重合性成分
(B)重合開始剤
(C)重合性官能基を有する紫外線吸収剤
(2)前記支持部材側から、波長が350nm~700nmである光を照射して、組成物を硬化させて接着剤層を形成し、前記基材と前記支持部材を接着する工程、
(3)前記基材の表面を加工して薄型ウエハを形成する工程、
(4)前記支持部材側から、波長が385nm以下である光を照射して、前記接着剤層を分解させて、前記薄型ウエハを前記支持部材から剥離する工程、
(5)次の薄型ウエハの製造に用いるために、前記支持部材を洗浄する工程、
(6)前記工程(1)~(5)を少なくとも1回繰り返す工程
を含み、
前記工程(1)において、前記基材及び前記支持部材の間に、カーボンブラックを含む層を介さないことを特徴とする方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一実施形態によれば、複数の薄型ウエハの製造方法であって、カーボンブラックを含む層を設けなくても、支持部材の洗浄が可能な方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0019】
本明細書においては別段の断わりがない限り、数値範囲はその上限値及び下限値を含むものとする。本明細書において(メタ)アクリレートとは、1分子中に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物をいう。単官能(メタ)アクリレートとは、1分子中に1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物をいう。多官能(メタ)アクリレートとは、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物をいう。n官能(メタ)アクリレートとは、1分子中にn個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物をいう。多官能(メタ)アクリレートにおける重合性官能基としては、アクリロイル基のみを有してもよく、メタクリロイル基のみを有してもよく、アクリロイル基とメタクリロイル基の両方を有してもよい。また、「C1~C20」や「C10~C20」等の表記は、炭素数1~20の炭化水素基又は炭素数10~20の炭化水素基を意味する。
【0020】
(1.基材と支持部材の貼り合わせ)
本発明は一実施形態において、以下の(A)~(C)を含有する組成物、好ましくは仮固定用組成物を介して、薄型ウエハの基材と、光学的に透明な支持部材を貼り合わせる工程が実施される。
(A)(メタ)アクリレートを含む重合性成分
(B)重合開始剤、好ましくは光ラジカル重合開始剤
(C)重合性官能基を有する紫外線吸収剤
【0021】
(1-1.(A)成分)
本実施形態の仮固定用組成物が含む(A)成分である重合性成分は、(メタ)アクリル重合骨格を形成する役割を担う。また、本実施形態の仮固定用組成物には、非重合性成分を含んでいてもよいが、その非重合性成分と(A)成分との合計100質量部に対して、非重合性成分の量は15質量部以下であることが好ましく、15質量部未満であることがより好ましい。なお、本明細書において、「非重合性成分」とは、(B)成分以外のもの、すなわち光ラジカル重合開始剤として当該技術分野で用いられないものであると定義する。
【0022】
本実施形態の仮固定用組成物が含む(A)成分である重合性成分は、(メタ)アクリロイル基を含有し、(メタ)アクリル重合骨格を形成する役割を担う。重合性成分としては、重合性有機化合物成分が好ましい。(A)成分として好ましくは(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物を含んでよい。(A)成分は、単官能(メタ)アクリレート、2官能(メタ)アクリレート、若しくは3官能以上の多官能(メタ)アクリレート、又はそれらの混合物であってよい。また、好ましくは(A)成分は、多官能(メタ)アクリレートと単官能(メタ)アクリレートの組み合わせ(より好ましくは2官能(メタ)アクリレートと単官能(メタ)アクリレートの組み合わせ)を含んでもよい。
【0023】
(A)成分が含みうる多官能(メタ)アクリレートとしては、剛直な構造を提供できる観点から、芳香族(メタ)アクリレート、若しくは脂環式2官能(メタ)アクリレート、又はそれらの混合物が挙げられる。(A)成分は、非環式多官能(メタ)アクリレートを含んでいてもよい。多官能(メタ)アクリレートは、モノマーであってもポリマーであってもよく、その混合物であってもよい。多官能(メタ)アクリレートモノマーの分子量は900以下が好ましく、700以下がより好ましく、500以下がさらにより好ましく、400以下がさらにより好ましい。
【0024】
多官能(メタ)アクリレートポリマーの重量平均分子量が5000~200000であることが好ましい。多官能(メタ)アクリレートポリマーの重量平均分子量が5000以上であることにより、他の重合性成分と配合した際に、適度な粘度を得られる。多官能(メタ)アクリレートポリマーの重量平均分子量が10000以上であることにより、適切な増粘効果が得られる。この観点から、多官能(メタ)アクリレートポリマーの重量平均分子量が6000以上であることがより好ましく、7000以上であることがさらにより好ましい。(A-1)成分の重量平均分子量が200000以下であることにより、せん断速度依存性が低い良好なスピンコート性が得られる。この観点から、多官能(メタ)アクリレートポリマーの重量平均分子量が190000以下であることがより好ましく、180000以下であることがさらにより好ましく、150000以下であることがさらにより好ましく、100000以下であることが特に好ましい。
【0025】
多官能(メタ)アクリレートポリマーの官能基当量は、500~20000が好ましく、700~10000がより好ましく、1000~7000が最も好ましい。
なお、本明細書における多官能(メタ)アクリレートポリマーの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によって測定される標準ポリスチレン換算の値である。具体的には、重量平均分子量は、下記の条件にて、溶剤としてテトラヒドロフランを用い、GPCシステム(東ソー株式会社製SC-8010)を使用し、市販の標準ポリスチレンで検量線を作成して求められる。
流速:1.0ml/min
設定温度:40℃
カラム構成:TSK-GEL MultiporeHXL-M φ7.8×300mm(東ソ-社製) 排除限界2,000,000 2本
サンプル注入量:100μl(試料液濃度0.1%(wt/vol))
送液圧力:3.8MPa
【0026】
芳香族(メタ)アクリレートの例としては、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシC1~C20アルコキシ)フェニル]フルオレンジ(メタ)アクリレート、C1~C20アルコキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ベンジルジ(メタ)アクリレート、1,3-ビス(2-(メタ)アクリロイルオキシC1~C20アルキル)ベンゼン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン(エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレートを包含)、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート(ノニルフェノールEO変性(メタ)アクリレートを包含)、又はそれらの構造異性体からなる群から選択される1種以上が挙げられる。好ましくは、縮合環骨格、例えばフルオレン、インデン、インデセン、アントラセン、アズレン、トリフェニレンの骨格を有するジ(メタ)アクリレートが含まれていてよい。
【0027】
脂環式2官能(メタ)アクリレートの例としては、C1~C20アルコキシ化水添ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシアダマンタン、トリシクロC10~C20アルカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジシクロC5~C20ジ(メタ)アクリレート、又はそれらの構造異性体等が挙げられる。
【0028】
非環式2官能(メタ)アクリレートの例としては、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ステアリン酸変性ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートといったものが挙げられる。
【0029】
また、(A)成分は3官能以上の多官能(メタ)アクリレートを含んでいてもよい。3官能(メタ)アクリレートとしては、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス[(メタ)アクリロイルオキシエチル]イソシアヌレート等が挙げられる。
【0030】
4官能以上の(メタ)アクリレートとしては、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0031】
また、(A)成分が含んでもよい単官能(メタ)アクリレートとしては、分子量が550以下の単官能(メタ)アクリレートが好ましく、アルキル基を有する単官能アルキル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0032】
当該アルキル基としては、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、及び脂環式アルキル基から選択される一種以上が好ましく、直鎖状アルキル基、及び分岐鎖状アルキル基から選択される一種以上がより好ましい。他成分との相溶性向上の観点からは、(A)成分は長鎖かつ分岐鎖状又は環状のアルキル基を有することが好ましく、例えば炭素数18~40、より好ましくは炭素数18~32の、例えばイソステアリル基、イソテトラコサニル基(2-デシル-1-テトラデカニル基等)、イソトリアコンタニル基(2-テトラデシル-1-オクタデカニル基等)等の分岐鎖状アルキル基、又はシクロアルキル基を有することが好ましい。このような長鎖・高分子量かつ脂肪族炭化水素の性格の強い成分を用いること(更に好ましくは系全体の脂肪族炭化水素的性質を高めること)で、仮固定用組成物に求められる低揮発性、耐薬品性及び耐熱性を向上できる。
【0033】
(A)成分としては、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、2-デシル-1-テトラデカニル(メタ)アクリレート、2-ドデシル-1-ヘキサデカニル(メタ)アクリレート、2-テトラデシル-1-オクタデカニル(メタ)アクリレートからなる群から選択される1種以上が好ましい。(A)成分としては、下記式1の(メタ)アクリレートが好ましい。
【0034】
【化1】
式中、R1は水素原子又はメチル基であり、水素原子がより好ましい。R2はアルキル基であり、その炭素数は18~32が好ましい。これらの(メタ)アクリレートは一種以上を使用できる。
【0035】
2が炭素数18~32のアルキル基である単官能アルキル(メタ)アクリレートとしては、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、エイコデシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、2-デシル-1-テトラデカニル(メタ)アクリレート、2-テトラデシル-1-オクタデカニル(メタ)アクリレート等といった、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリレートが好ましい。
【0036】
(A)成分の含有量は、仮固定用組成物の総量に対して、好ましくは、60~100質量%であり、70~98質量%であり、80~96質量%であり、85~94質量%である。
【0037】
好ましい実施形態においては、本実施形態の仮固定用組成物が含む非重合性成分の量が0質量%以上10質量%未満、若しくは0質量%以上5質量%未満であってもよい。より好ましくは、本実施形態の仮固定用組成物は(B)成分を除き、非重合性成分を含まなくてもよい。
【0038】
(1-2.(B)成分)
本実施形態の仮固定用組成物が含む(B)成分である重合開始剤、好ましくは光ラジカル重合開始剤とは、光照射を受けて(A)成分の重合を開始できる物質である。光ラジカル重合開始剤は例えば、紫外線或いは可視光線(例えば波長350~700nm、好ましくは365~500nm、より好ましくは385~450nm)の照射により分子が切断され、2つ以上のラジカルに分裂する化合物をいう。光ラジカル重合開始剤の例としては、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルフォリン-4-イルフェニル)-ブタン-1-オン、1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-1,2-オクタンジオン2-O-ベンゾイルオキシム、及び1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エタノン1-(O-アセチルオキシム)が挙げられる。(B)成分は、これらのうち一種以上又は二種以上の組み合わせを含んでよい。
【0039】
本発明の好ましい実施形態では、仮固定用組成物が含む(B)成分はアシルフォスフィンオキサイド系化合物を含んでもよい。好ましいアシルフォスフィンオキサイド系化合物としては、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、及び2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドが挙げられる。光ラジカル重合開始剤としては、高感度であること、光褪色性を有することから深部硬化性に優れることに加え、ラジカルを発生させるための吸収波長領域が比較的長波長領域にまで拡がっていることが好ましい。上述した好ましい化合物では、吸収波長領域は波長約440nmまでの範囲であり、後述するUVレーザー剥離工程で用いるUV吸収剤の吸収波長領域との差が大きい。つまり、UV吸収剤によるUV硬化阻害の度合いが小さく、より長波長の光でラジカル重合を開始できる。そのため、UV吸収剤の共存下であっても比較的高速度で効率良くラジカル重合を開始し、硬化できるという効果が得られる。
【0040】
好ましい実施形態においては、光ラジカル重合開始剤を吸光度から選定できる。具体的には、300~500nmの波長領域に極大吸収をもたない溶媒(例えば、アセトニトリルやトルエンなど)に0.1質量%の濃度で溶解させた際に、365nmの波長において吸光度が0.5以上であること、385nmの波長において吸光度が0.5以上であること、及び405nmの波長において吸光度が0.5以上であることのいずれかひとつ以上の条件を満たすような化合物の1種以上から、光ラジカル重合開始剤を選択できる。そのような条件を満たす化合物としては例えば、溶媒としてのアセトニトリルに対して0.1質量%の濃度で溶解させた際において、365nmの波長において吸光度が0.5以上である1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エタノン 1-(O-アセチルオキシム)、365nmと385nmの波長において吸光度が0.5以上である1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-1,2-オクタンジオン 2-O-ベンゾイルオキシム、365nmと385nmと405nmの波長において吸光度が0.5以上であるビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド及び2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドが挙げられる。
【0041】
また、光ラジカル重合開始剤による硬化性とUVレーザー剥離を両立する観点からは、400~500nmの範囲に吸収波長領域を有するビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウムも、光ラジカル重合開始剤として使用できる。
【0042】
(B)光ラジカル重合開始剤としては、反応速度、硬化後の耐熱性、低アウトガス性、後述するUVレーザー剥離に用いるUVレーザーの波長とも該UVレーザー剥離に用いるUV吸収剤の吸収波長領域とも異なる領域での吸収特性を有する点で、アシルフォスフィンオキサイド系化合物、チタノセン系化合物、又はα-アミノアルキルフェノン系化合物から選択される1種以上が好ましい。また、後述する構造を有する仮固定用組成物の内の、UVレーザー剥離工程に対応するための層ではない、加工対象基材の支持部材との接合から加熱工程までの破損防止の仮固定用途のための樹脂組成物用光ラジカル重合開始剤としては、上記以外に、オキシムエステル系化合物を選択することもできる。
【0043】
アシルフォスフィンオキサイド系化合物としては、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。これらの中では、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイドが特に好ましい。
【0044】
チタノセン系化合物としては、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウムが挙げられる。
【0045】
α-アミノアルキルフェノン系化合物としては、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルフォリン-4-イルフェニル)-ブタン-1-オン等が挙げられる。
【0046】
オキシムエステル系化合物としては、1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-1,2-オクタンジオン2-O-ベンゾイルオキシム、1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エタノン 1-(O-アセチルオキシム)等が挙げられる。これらの中では、1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エタノン 1-(O-アセチルオキシム)が好ましい。
【0047】
本発明の好ましい実施形態では、仮固定用組成物における(B)成分が、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド及び1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エタノン1-(O-アセチルオキシム)から選択される1種以上である。
【0048】
(B)光ラジカル重合開始剤の使用量は、反応速度及び硬化後の耐熱性、低アウトガス性の点で、(A)成分の合計100質量部に対して、0.01~5質量部が好ましく、0.01~3質量部がより好ましく、0.1~2質量部がさらにより好ましく、0.1~1質量部がさらにより好ましい。(B)成分が0.01質量部以上であると十分な硬化性が得られ、5質量部以下だと低アウトガス性及び耐熱性が損なわれにくい効果が得られる。
【0049】
(1-3.(C)成分)
本実施形態の仮固定用組成物が含む(C)成分である重合性官能基を有する紫外線吸収剤(UV吸収剤)は、紫外線或いは可視光線のレーザーの照射により分子が切断されて分解・気化し、該分解・気化が支持部材と仮固定剤の界面で発生することにより、UVレーザー剥離工程直前まで維持されていた仮固定剤・支持部材間の接着性を喪失させる化合物を指す。(C)成分は、ベンゾフェノン骨格、トリアゾール骨格、ヒドロキシフェニルトリアジン骨格、及びフェノール骨格(好ましくはヒンダードフェノール骨格)からなる群から選択される1種以上を有する化合物である。これらの骨格を有するのは、UV吸収波長領域のUVレーザー波長との重なりの度合い、同波長でのUV吸収特性、低アウトガス性、耐熱性を得るためである。(C)成分が有する重合性官能基は、(メタ)アクリロイル基であることが好ましい。
【0050】
(C)成分の例としては、2-[2-ヒドロキシ-5-[2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチル]フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニル(メタ)アクリレート、2-(2-(メタ)アクリロイルオキシ,5-メチル)フェニル-2H-ベンゾトリアゾール、1,1-ビス-[2-(メタ)アクリロイルオキシ,3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル),5-ターシャリーオクチル]メタン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジ(メタ)アクリロイルオキシベンゾフェノンからなる群の1種以上が、樹脂成分との相溶性、UV吸収特性、低アウトガス性、耐熱性の点から特に好ましい。
【0051】
(C)成分の量は、(A)成分の合計100質量部に対して0.01~15質量部が好ましく、0.1~12質量部がより好ましく、0.5~10質量部がさらにより好ましく、0.5~9質量部がさらにより好ましく、0.5~7質量部がさらにより好ましい。0.01質量部以上だと十分なUVレーザー剥離速度が得られ、15質量部以下だと低アウトガス性及び耐熱性が損なわれにくい効果が得られる。
【0052】
(1-4.仮固定用組成物の塗布)
薄型ウエハの基材と、光学的に透明な支持部材を貼り合わせる方法は特に限定されないが、典型的には光学的に透明な支持部材に仮固定用接着剤を塗布してから、当該仮固定用接着剤が塗布された面に、基材を貼り合わせることにより行う。
【0053】
仮固定用接着剤の塗布方法としては、スピンコート、スクリーン印刷、各種コーター等の公知の塗布方法を用いることができる。本実施形態の仮固定用組成物の粘度は、23℃(大気圧下)において、塗布性や作業性の点で、500mPa・s以上が好ましく、1000mPa・s以上がより好ましい。本実施形態の仮固定用組成物の粘度は、23℃(大気圧下)において、塗布性や作業性の点で、15000mPa・s以下が好ましく、10000mPa・s以下がより好ましく、5000mPa・s以下がさらにより好ましい。500mPa・s以上だと塗布性、特にスピンコートによる塗布性に優れる。15000mPa・s以下だと作業性に優れる。粘度の測定は、公知の粘度計により行うことができる。
【0054】
スピンコートとは、例えば、支持部材に液状組成物を滴下し、支持部材を所定の回転数で回転させることにより、組成物を支持部材表面に塗布する方法である。スピンコートにより、高品質な塗膜を効率良く生産できる。
【0055】
(2.基材と支持部材の接着)
加工対象基材と支持部材を接着する際は、波長が350nm~700nmである光を照射して、仮固定用組成物を硬化させて接着剤層を形成する。特に、可視光線若しくは紫外線(波長又は中心波長365~405nm)においてエネルギー量が1~20000mJ/cm2になるように照射することが好ましい。エネルギー量が1mJ/cm2以上だと十分な接着性が得られ、20000mJ/cm2以下だと生産性が優れ、光ラジカル重合開始剤からの分解生成物が発生しにくく、アウトガスの発生が抑制される。生産性、接着性、低アウトガス性、易剥離性の点で、1000~10000mJ/cm2であることが好ましい。
【0056】
支持部材は、特に限定されないが、光学的に透明なものが好ましい。透明基材としては、水晶、ガラス、石英、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム等の無機基材、プラスチック等の有機基材等が挙げられる。これらの中では、汎用性があり、大きい効果が得られる点で、無機基材が好ましい。無機基材の中では、ガラス、及び石英から選択される1種以上が好ましい。
【0057】
(3.基材の加工)
加工対象である基材と支持部材を接着した後、基材の表面を加工して薄型ウエハを形成する工程を実施する。加工の内容は特に限定されないが、典型的には、研削・研磨による薄化加工、及び高温処理などがある。
【0058】
(4.接着剤層の分解)
前述の基材と支持部材の接着工程により、仮固定用組成物が硬化して接着剤層を形成する。薄型ウエハを形成した後、支持部材側から、波長が385nm以下、より好ましくは300nm~385nmである光を照射して、接着剤層を分解させる工程を実施する。例えば、波長が300nm~385nmであるUVレーザーを全面に走査するように照射することにより接着剤層を分解させることが可能である。
【0059】
接着剤層が分解されると、薄型ウエハを支持部材から剥離することができる。ここで、薄型ウエハの基材と支持部材の間に、カーボンブラックを含む層がないため、両者を剥離しても、カーボンブラックが飛散するおそれはない。
【0060】
接着剤層の分解を促進するために、385nmの波長における、50μm厚み時の接着剤層の光透過率が95%以下であることが好ましい。好ましくは、350nm~385nmの波長範囲内において、接着剤層の光透過率が50%以下である。この条件を満たすことにより、剥離速度と剥離効果を両立させることができる。この観点から、385nmの波長における、接着剤層の光透過率が45%以下であることがより好ましく、40%以下であることがさらにより好ましく、30%以下であることがさらにより好ましく、20%以下であることがさらにより好ましい。
【0061】
本明細書における光の透過率は、吸光光度分析法により得られる値である。具体的には、透過率は、下記の条件にて測定する。接着剤層と同組成、ガラス(厚み700μm)同士で厚み50μmの仮固定用組成物を挟み込み硬化させた積層体を用い、ガラス1枚(厚み700μm)の透過率をリファレンスとして、紫外可視分光光度計(島津製作所社製UV2550)を使用して、以下の条件で測定する。なお、ガラス1枚(厚み700μm)の透過率をリファレンスとする。
測光モード:透過
測定範囲:800~200nm
データ取込間隔:1nm
光源:D2/WI
波長送り速度:中速
【0062】
なお、厚みを50μmに調整できない場合、実測した厚み(αμmとする)での透過率yα%の値を用い、厚み50μmの透過率y50(%)を下式で算出する。
50(%)=100×(yα/100)(50/α)
【0063】
(5.支持部材の洗浄)
薄型ウエハを支持部材から剥離した後に、接着剤層が薄型ウエハの表面に残存することがある。そのため、次の薄型ウエハの製造に用いるために、支持部材を洗浄する工程を実施する。
【0064】
支持部材の洗浄は、アンモニア水、酢酸2-メトキシ-1-メチルエチル、又はイソプロピレンアルコール、アセトンなど有機溶剤を浸したブラシ(例えば、市販歯ブラシ)で、支持部材をブラッシングすることで実施することができる。前述のように、薄型ウエハの基材と支持部材の間に、カーボンブラックを含む層がないため、支持部材を洗浄してもカーボンブラックが飛散するおそれはない。また、洗浄はアンモニア水、酢酸2-メトキシ-1-メチルエチル、又はイソプロピレンアルコール、アセトンなど有機溶剤を浸したウエスでふきとることでも実施できる。さらに、これらの液をかけ流しながらブラシで洗浄することもできる。ブラシまたは基材、又はその両方を回転させることで、上記のブラッシングと同様の効果がある。
【0065】
洗浄後の支持部材は、次の薄型ウエハの製造に用いることができる。前述の各工程を1回以上繰り返すことで、さらなる複数の薄型ウエハの製造が可能である。
【実施例
【0066】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0067】
特記しない限り、23℃、湿度50%で実験した。下記表に示す組成(単位は質量部)の仮硬化用組成物(以下、液状組成物ということもある)を調製し、評価した。各成分としては、以下の化合物を選択した。
【0068】
(組成)
(A)成分として、以下を用いた。
APB-001(多官能アクリレートポリマー、根上工業社製「APB-001」、重量平均分子量72,000、官能基当量1400)
RC110C(両末端アクリレートポリマー、株式会社カネカ製「XMAP RC110C」、重量平均分子量12,000、官能基当量6,000)
A-BPEF-2:9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンジアクリレート(新中村化学工業社製「NKエステルA-BPEF-2」)
A-BPE-2:エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート(新中村化学工業社製「NKエステルA-BPE-2」、下記構造式においてR=-CH2CH2O-、m=n=1)
【化2】
HBPE-4:EO(エチレンオキサイド)変性水添ビスフェノールAジアクリレート(第一工業製薬社製「HBPE-4」、m+n≒4)
A-DOD-N:1,10-デカンジオールジアクリレート(新中村化学工業株式会社製「A-DOD-N」)
HX-620:カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート(日本化薬社製「カヤラッドHX-620」、m+n≒4)
HX-220:カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート(日本化薬社製「カヤラッドHX-220」、m+n≒2)
A-TMPT:トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学工業株式会社製「A-TMPT」)
M-113:ノニルフェノールEO変性アクリレート(東亞合成社製「アロニックスM-113」、n≒4)
ISTA:イソステアリルアクリレート(大阪有機化学工業社製「ISTA」)
【0069】
(B)成分として、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド(IGM RESINS社製「Omnirad 819」)を用いた。
【0070】
(C)成分として以下を用いた。
RUVA-93:2-[2-ヒドロキシ-5-[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール(大塚化学社製「RUVA-93」)
P-66:2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアクリロイルオキシベンゾフェノン(大和化成社製「DAINSORB P-66」)
【0071】
(光透過率の測定)
表1に示される各比較例及び実施例の仮固定用組成物について、前述の方法により、385nmの波長における光透過率を測定した。結果を表1に示す。具体的には、接着剤層と同組成、ガラス(厚み700μm)同士で厚み50μmの仮固定用組成物を挟み込み硬化させた積層体を用い、ガラス1枚(厚み700μm)の透過率をリファレンスとして、紫外可視分光光度計(島津製作所社製UV2550)を使用して、以下の条件を設定して測定した。なお、ガラス1枚(厚み700μm)の透過率をリファレンスとした。
測光モード:透過
測定範囲:800~200nm
データ取込間隔:1nm
光源:D2/WI
波長送り速度:中速
【0072】
(液状サンプル作製)
表1に示されるとおり、各比較例及び実施例について、材料を60℃で加温混合することで均一な液状組成物として、仮固定用組成物を得た。
【0073】
(実施例の接合サンプル作製)
作製した液状組成物にて、4インチのシリコンウエハ(直径10cm×厚さ0.47mm)と4インチのガラス支持部材(直径10cm×厚さ0.7mm)を貼り合わせた。貼り合わせに際し、組成物の厚みは50μmとなるように調整した。貼り合わせ後、波長405nmLEDにより積算光量5000mJ/cm2の条件にて硬化させ、高温条件下での接着性評価用試験片を作製した。組成物は貼り合わせ面の全面に塗布した。
また、作製した液状組成物について、JIS Z 8803:2011に従い、下記の装置を使用し粘度を測定した。
(粘度の評価)
測定装置:E型粘度計DV3T-HB(英弘精機社製)
測定冶具:コーンプレートCPA-40Z(英弘精機社製)
測定温度:23℃
回転数:10rpm
【0074】
(洗浄性の評価)
得られた4インチ試験体のガラス支持部材側から該試験体全面を走査するように、同試験体を中心に固定した直径110mmの真円の面積に、波長355nmのUVレーザーを照射しガラスを剥離した。UVレーザーはクォークテクノロジー社製UVレーザーQLA-355を、出力8.5W、周波数40kHz、スキャンピッチ200μm、ビーム径200μmで使用した。
【0075】
次に、ガラス支持部材を剥離した後に、5質量%のアンモニア水に浸した市販のブラシを用いて、ガラス支持部材の中心側から外周側へ10回ブラッシングし、ガラス支持部材の表面の状態を確認した。以下の基準により、洗浄性の良否を判断した。
◎:ライトを当て、目視で汚れが確認されない状態。
〇:蛍光灯下にて目視で汚れが残っていない状態。
×:目視で汚れが残っていることが確認された状態。
【0076】
【表1】
使用量の単位は質量部。
【0077】
表1の結果から、本発明の製造方法では、カーボンブラックを含む層を設けなくても、残存する接着剤層を容易に洗浄することができたことがわかる。これにより、よりクリーンな環境での作業が可能となる。
【0078】
(比較例の接合サンプル作製)
比較例1として作製したカーボンブラック液(表2参照)を4インチのガラス支持部材(直径10cm×厚さ0.7mm)にスピンコートにより塗布した。これを加熱により乾燥し、1500mJ/cm2(波長365nm)の紫外線(UV)を光照射し、カーボンブラック層を形成した。一方、比較例1として作製した仮固定剤(表2参照)を4インチのシリコンウエハ(直径10cm×厚さ0.47mm)に塗布し、ガラス支持部材と貼り合わせた。このとき、ガラス支持部材側の接合面はカーボンブラック層が形成された側であった。貼り合わせに際し、仮固定剤の厚みは50μmとなるように調整した。貼り合わせ後、1500mJ/cm2(波長365nm)の紫外線(UV)光照射の条件にて硬化させ、作製した。仮固定剤は貼り合わせ面の全面に塗布した。
(組成)
UV6100B:ウレタンアクリレート(日本合成化学社製)
1,6-HX-A:1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(共栄社化学社製
Omnirad 369:光ラジカル重合開始剤(IGM RESINS社製)
Sevacarb:カーボンブラック(コロンビアンカーボンブラック社製)
AEROSIL A200:シリカ(日本アエロジル社製)
Disperbyk161:分散剤(ビックケミージャパン社製)
Joncryl 690:アクリルレジン(ジョンソンポリマー社製)
プロピレングリコール:市販品
【0079】
(洗浄性の評価)
得られた4インチ試験体のガラス支持部材側から該試験体全面を走査するように、同試験体を中心に固定した直径110mmの真円の面積に、IRレーザーを照射しガラスを剥離した。IRレーザーはYAGレーザー(波長1064nm)を、出力7.0W、スキャンピッチ130μmで使用した。
【0080】
次に、ガラス支持部材を剥離した後に、5質量%のアンモニア水に浸した市販のブラシを用いて、ガラス支持部材の中心側から外周側へ10回ブラッシングし、ガラス支持部材の表面の状態を確認した。以下の基準により、洗浄性の良否を判断した。
◎:ライトを当て、目視で汚れが確認されない状態。
〇:蛍光灯下にて目視で汚れが残っていない状態。
×:目視で汚れが残っていることが確認された状態。
【0081】
【表2】
使用量の単位は質量部。
【0082】
表2の結果から、カーボンブラックを使用した比較例では、目視で黒いカーボンブラックが残っていることが確認され、洗浄性も悪かった。
【要約】
本発明の課題は、複数の薄型ウエハの製造方法であってカーボンブラックを含む層を設けなくても支持部材の洗浄が可能な方法を提供することである。課題は、複数の薄型ウエハの製造方法であって(1)(A)(メタ)アクリレートを含む重合性成分(B)光ラジカル重合開始剤(C)重合性官能基を有する紫外線吸収剤を含有する組成物を介して薄型ウエハの基材と光学的に透明な支持部材を貼り合わせる工程;(2)支持部材側から波長が350nm~700nmである光を照射し、組成物を硬化させて接着剤層を形成し基材と支持部材を接着する工程;(3)基材の表面を加工して薄型ウエハを形成する工程;(4)支持部材側から波長が385nm以下である光を照射して接着剤層を分解させて薄型ウエハを支持部材から剥離する工程;(5)次の薄型ウエハの製造に用いるために支持部材を洗浄する工程;(6)工程(1)~(5)を少なくとも1回繰り返す工程を含み;工程(1)において基材及び支持部材の間にカーボンブラックを含む層を介さないことを特徴とする方法により解決できる。