(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 73/06 20060101AFI20241114BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20241114BHJP
C09J 179/04 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
C08G73/06
C08J5/24 CEZ
C09J179/04 C
(21)【出願番号】P 2020100576
(22)【出願日】2020-06-10
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】松下 海瑠
(72)【発明者】
【氏名】岩本 慎平
(72)【発明者】
【氏名】安田 祥宏
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-049238(JP,A)
【文献】特開2001-261958(JP,A)
【文献】特表平02-503003(JP,A)
【文献】特開平06-228308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G73/00- 73/26
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
C09J 1/00-201/10
C08J 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内にシアナト基を1個のみ有し、下記式(I)で表されるシアン酸エステル化合物(A)と、
分子内に2個以上のシアナト基を有し、下記式(II)で表される化合物、及び、下記式(III)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種以上であるシアン酸エステル化合物(B)と、を含有し、
前記シアン酸エステル化合物(A)の含有量が、前記シアン酸エステル化合物(A)及び前記シアン酸エステル化合物(B)の合計100質量部に対して、0.1~40質量部である、
【化1】
(式中、R1は、炭素数2~15のアルケニル基のいずれかを表す。)
【化2】
(式中、Ar
1は、各々独立に芳香環を表し、
Raは、各々独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~6のアルキル基と炭素数6~12のアリール基とが結合した基のいずれかを表し、Raにおけるアルキル基又はアリール基は置換基を有していてもよく、
aは、Ar
1に対するシアナト基の結合個数を表し、各々独立に、1~3の整数であり、
bは、Ar
1に対するRaの結合個数を表し、各々独立に、Ar
1の置換可能基数から(a+2)を引いた数を表し、
cは、1~50の整数であり、
Xは、各々独立に、単結合、炭素数1~50の2価の有機基、スルホニル基(-SO2-)、或いは、2価の硫黄原子又は2価の酸素原子のいずれかを表す。)
【化3】
(式中、Ar
2は芳香環を表し、
Rbは、各々独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~4のアルコキシ基、又は、炭素数1~6のアルキル基と炭素数6~12のアリール基とが結合した基のいずれかを表し、Rbにおけるアルキル基又はアリール基は置換基を有していてもよく、
dは、Ar
2に対するシアナト基の結合個数を表し、2~3の整数であり、eは、Ar
2に対するRbの結合個数を表し、Ar
2の置換可能基数から(d+2)を引いた数を表す。)
樹脂組成物。
【請求項2】
前記一般式(II)におけるXが、各々独立に、下記一般式(IV)~(XV)で表される構造からなる群より選ばれる2価の連結基を表す、
請求項1に記載の樹脂組成物。
【化4】
(式中、Ar
3は、各々独立に芳香環を表し、
Rc、Rd、Rg、及び、Rhは、各々独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は、炭素数6~12のアリール基を表し、Rc、Rd、Rg、及び、Rhにおけるアルキル基又はアリール基は置換基を有していてもよく、
Re及びRfは、各々独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、又は、炭素数1~4のアルコキシ基のいずれかを表し、Re及びRfにおけるアルキル基又はアリール基は置換基を有していてもよく、fは0~5の整数を表す。)
【化5】
(式中、Ar
4は、各々独立に、芳香環を表し、
Ri及びRjは、各々独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、又は、炭素数1~4のアルコキシ基のいずれかを表し、Ri及びRjにおけるアルキル基又はアリール基は置換基を有していてもよく、
gは0~5の整数を表す。)
【化6】
(式中、hは4~7の整数を表し、Rkは、各々独立に水素原子又は炭素数1~6のアルキル基のいずれかを表す。)
【請求項3】
前記シアン酸エステル化合物(B)が、下記式(XVI)で表される化合物、及び、下記式(XVII)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種以上を含む、
請求項1~2のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【化7】
(式中、Ar
5は各々独立に芳香環を表し、
Rlは、各々独立に、メチレン基、メチレンオキシ基、メチレンオキシメチレン基、オキシメチレン基、又はこれらが連結した基を表し、
Rm及びRnは、各々独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、又は、炭素数1~4のアルコキシ基を表し、Rm及びRnにおけるアルキル基又はアリール基は置換基を有していてもよく、
iは、Ar
5に対するシアナト基の結合個数を表し、1~3の整数であり、
jは、Ar
5に対するRmの結合個数を表し、Ar
5の置換可能基数から(i+2)を引いた数を表し、
kは、Ar
5に対するRnの結合個数を表し、Ar
5の置換可能基数から2を引いた数を表し、
lは1以上の整数を表し、mは1以上の整数を表し、各繰り返し単位の配列は任意である。)
【化8】
(式中、Ar
6は、各々独立に芳香環を表し、
Roは、各々独立に、メチレン基、メチレンオキシ基、メチレンオキシメチレン基又はオキシメチレン基、又はこれらが連結した基を表し、
Rp及びRqは、各々独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、又は、炭素数1~4のアルコキシ基を表し、Rp及びRqにおけるアルキル基又はアリール基は置換基を有していてもよく、
nは、Ar
6に対するシアナト基の結合個数を表し、2~3の整数であり、
oは、Ar
6に対するRpの結合個数を表し、Ar
6の置換可能基数から(n+2)を引いた数を表し、
pは、Ar
6に対するRqの結合個数を表し、Ar
6の置換可能基数から2を引いた数を表す。
qは1以上の整数を表す。)
【請求項4】
前記シアン酸エステル化合物(A)が、アリルフェニルシアネートである、
請求項1~
3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
硬化促進剤(C)をさらに含む、
請求項1~
4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記硬化促進剤(C)が、有機金属塩、アミン化合物、ホスフィン酸化合物、ホスホン酸化合物、及び尿素誘導体からなる群より選ばれるいずれか1種以上である、
請求項
5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記硬化促進剤(C)の含有量が、前記シアン酸エステル化合物(A)及び前記シアン酸エステル化合物(B)の合計100質量部に対して、0.001~5質量部である、
請求項
5又は6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の樹脂組成物を硬化してなる、
硬化物。
【請求項9】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む、
封止材料。
【請求項10】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む、
接着剤。
【請求項11】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む、
絶縁材料。
【請求項12】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む、
塗料。
【請求項13】
基材と、
該基材に含浸又は塗布した、請求項1~
7のいずれか一項に記載の樹脂組成物と、を有する、
プリプレグ。
【請求項14】
請求項
13に記載のプリプレグを備える、
積層板。
【請求項15】
強化繊維と、
該強化繊維に含浸又は塗布して硬化させた、請求項1~
7のいずれか一項に記載の樹脂組成物と、を有する、
繊維強化複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シアン酸エステルは、硬化時にトリアジン環を形成する熱硬化性樹脂として知られている。シアン酸エステルにより得られる硬化物は、ガラス転移温度が高く、誘電率及び誘電正接が低く、電気絶縁性や難燃性にも優れるなど、優れた性質を有している。そのため、従来より、シアン酸エステルは、電気電子材料や構造用複合材料、接着剤、その他、種々の機能性高分子材料の原料として幅広く用いられている。
【0003】
このような事情のもと、より優れた性質を有するシアン酸エステルの開発が進められている。例えば、特許文献1には、常温において液状で、かつ優れた低熱膨張率を有する硬化物が得られる新規な2官能シアナトフェニルタイプのシアン酸エステルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されるような低分子型のシアン酸エステルは、常温において液状で取り扱い性に優れるものの、硬化物の引張剪断接着強度が低く、また吸水率が高いという問題が生じることが分かってきた。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、引張剪断接着強度が高く、吸水率の低い硬化物を与えることのできる樹脂組成物、並びに、それを用いた硬化物、封止材料、接着剤、絶縁材料、塗料、プリプレグ、積層板、及び繊維強化複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、特定の2種のシアン酸エステル化合物を用いることにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕
分子内にシアナト基を1個のみ有するシアン酸エステル化合物(A)と、
分子内に2個以上のシアナト基を有するシアン酸エステル化合物(B)と、を含有する、
樹脂組成物。
〔2〕
前記シアン酸エステル化合物(A)が、下記式(I)で表される化合物を含む、
〔1〕に記載の樹脂組成物。
【化1】
(式中、R
1は、水素原子、炭素数1~15のアルキル基、炭素数2~15のアルケニル基、炭素数1~15のアルコキシ基、炭素数6~20のアリール基、炭素数1~6のアルキル基と炭素数6~12のアリール基とが結合した基、又は炭素数6~20のアリールオキシ基のいずれかを表し、R
1はシアナト基以外の置換基を有していてもよい。)
〔3〕
前記シアン酸エステル化合物(B)が、下記式(II)で表される化合物、及び、下記式(III)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種以上を含む、
〔1〕又は〔2〕に記載の樹脂組成物。
【化2】
(式中、Ar
1は、各々独立に芳香環を表し、
Raは、各々独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~6のアルキル基と炭素数6~12のアリール基とが結合した基のいずれかを表し、Raにおけるアルキル基又はアリール基は置換基を有していてもよく、
aは、Ar
1に対するシアナト基の結合個数を表し、各々独立に、1~3の整数であり、
bは、Ar
1に対するRaの結合個数を表し、各々独立に、Ar
1の置換可能基数から(a+2)を引いた数を表し、
cは、1~50の整数であり、
Xは、各々独立に、単結合、炭素数1~50の2価の有機基、スルホニル基(-SO
2-)、或いは、2価の硫黄原子又は2価の酸素原子のいずれかを表す。)
【化3】
(式中、Ar
2は芳香環を表し、
Rbは、各々独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~4のアルコキシ基、又は、炭素数1~6のアルキル基と炭素数6~12のアリール基とが結合した基のいずれかを表し、Rbにおけるアルキル基又はアリール基は置換基を有していてもよく、
dは、Ar
2に対するシアナト基の結合個数を表し、2~3の整数であり、eは、Ar
2に対するRbの結合個数を表し、Ar
2の置換可能基数から(d+2)を引いた数を表す。)
〔4〕
前記一般式(II)におけるXが、各々独立に、下記一般式(IV)~(XV)で表される構造からなる群より選ばれる2価の連結基を表す、
〔3〕に記載の樹脂組成物。
【化4】
(式中、Ar
3は、各々独立に芳香環を表し、
Rc、Rd、Rg、及び、Rhは、各々独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は、炭素数6~12のアリール基を表し、Rc、Rd、Rg、及び、Rhにおけるアルキル基又はアリール基は置換基を有していてもよく、
Re及びRfは、各々独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、又は、炭素数1~4のアルコキシ基いずれかを表し、Re及びRfにおけるアルキル基又はアリール基は置換基を有していてもよく、fは0~5の整数を表す。)
【化5】
(式中、Ar
4は、各々独立に、芳香環を表し、
Ri及びRjは、各々独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、又は、炭素数1~4のアルコキシ基のいずれかを表し、Ri及びRjにおけるアルキル基又はアリール基は置換基を有していてもよく、
gは0~5の整数を表す。)
【化6】
(式中、hは4~7の整数を表し、Rkは、各々独立に水素原子又は炭素数1~6のアルキル基のいずれかを表す。)
〔5〕
前記シアン酸エステル化合物(B)が、下記式(XVI)で表される化合物、及び、下記式(XVII)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種以上を含む、
〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【化7】
(式中、Ar
5は各々独立に芳香環を表し、
Rlは、各々独立に、メチレン基、メチレンオキシ基、メチレンオキシメチレン基、オキシメチレン基、又はこれらが連結した基を表し、
Rm及びRnは、各々独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、又は、炭素数1~4のアルコキシ基を表し、Rm及びRnにおけるアルキル基又はアリール基は置換基を有していてもよく、
iは、Ar
5に対するシアナト基の結合個数を表し、1~3の整数であり、
jは、Ar
5に対するRmの結合個数を表し、Ar
5の置換可能基数から(i+2)を引いた数を表し、
kは、Ar
5に対するRnの結合個数を表し、Ar
5の置換可能基数から2を引いた数を表し、
lは1以上の整数を表し、mは1以上の整数を表し、各繰り返し単位の配列は任意である。)
【化8】
(式中、Ar
6は、各々独立に芳香環を表し、
Roは、各々独立に、メチレン基、メチレンオキシ基、メチレンオキシメチレン基又はオキシメチレン基、又はこれらが連結した基を表し、
Rp及びRqは、各々独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、又は、炭素数1~4のアルコキシ基を表し、Rp及びRqにおけるアルキル基又はアリール基は置換基を有していてもよく、
nは、Ar
6に対するシアナト基の結合個数を表し、2~3の整数であり、
oは、Ar
6に対するRpの結合個数を表し、Ar
6の置換可能基数から(n+2)を引いた数を表し、
pは、Ar
6に対するRqの結合個数を表し、Ar
6の置換可能基数から2を引いた数を表す。
qは1以上の整数を表す。)
〔6〕
前記シアン酸エステル化合物(A)の含有量が、前記シアン酸エステル化合物(A)及び前記シアン酸エステル化合物(B)の合計100質量部に対して、0.1~40質量部である、
〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
〔7〕
前記シアン酸エステル化合物(A)が、アリルシアネート、ノニルシアネート又はクミルシアネートである、
〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
〔8〕
硬化促進剤(C)をさらに含む、
〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
〔9〕
前記硬化促進剤(C)が、有機金属塩、アミン化合物、ホスフィン酸化合物、ホスホン酸化合物、及び尿素誘導体からなる群より選ばれるいずれか1種以上である、
〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
〔10〕
前記硬化促進剤(C)の含有量が、前記シアン酸エステル化合物(A)及び前記シアン酸エステル化合物(B)の合計100質量部に対して、0.001~5質量部である、
〔1〕~〔9〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
〔11〕
〔1〕~〔10〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物を硬化してなる、
硬化物。
〔12〕
〔1〕~〔10〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む、
封止材料。
〔13〕
〔1〕~〔10〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む、
接着剤。
〔14〕
〔1〕~〔10〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む、
絶縁材料。
〔15〕
〔1〕~〔10〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む、
塗料。
〔16〕
基材と、
該基材に含浸又は塗布した、〔1〕~〔10〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物と、を有する、
プリプレグ。
〔17〕
〔16〕に記載のプリプレグを備える、
積層板。
〔18〕
強化繊維と、
該強化繊維に含浸又は塗布して硬化させた、〔1〕~〔10〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物と、を有する、
繊維強化複合材料。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、引張剪断接着強度が高く、吸水率の低い硬化物を与えることのできる樹脂組成物、並びに、それを用いた硬化物、封止材料、接着剤、絶縁材料、塗料、プリプレグ、積層板、及び繊維強化複合材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0011】
〔樹脂組成物〕
本実施形態の樹脂組成物は、分子内にシアナト基を1個のみ有するシアン酸エステル化合物(A)と、分子内に2個以上のシアナト基を有するシアン酸エステル化合物(B)と、を含有し、必要に応じて、その他の成分を含んでいてもよい。以下、各成分について、詳説する。
【0012】
〔シアン酸エステル化合物(A)〕
シアン酸エステル化合物(A)は、分子内にシアナト基を1個のみ有する化合物であれば特に制限されないが、例えば、下記式(I)で表される化合物が挙げられる。シアン酸エステル化合物(A)は、一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【化9】
(式中、R
1は、水素原子、炭素数1~15のアルキル基、炭素数2~15のアルケニル基、炭素数1~15のアルコキシ基、炭素数6~20のアリール基、炭素数1~6のアルキル基と炭素数6~12のアリール基とが結合した基、又は炭素数6~20のアリールオキシ基のいずれかを表し、R
1はシアナト基以外の置換基を有していてもよい。)
【0013】
式中、R1は、水素原子、炭素数1~15のアルキル基、炭素数2~15のアルケニル基、炭素数1~15のアルコキシ基、炭素数6~20のアリール基、又は炭素数6~20のアリールオキシ基のいずれかを表す。このなかでも、炭素数1~15のアルキル基、炭素数2~15のアルケニル基、及び炭素数6~20のアリール基が好ましい。
【0014】
炭素数1~15のアルキル基としては、特に制限されないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、テキシル基、n-へプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、n-デシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、シクロデシル基、シクロドデシル基が挙げられる。このなかでも、炭素数3~15のアルキル基が好ましく、炭素数5~12のアルキル基がより好ましい。また、アルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。
【0015】
炭素数2~15のアルケニル基としては、特に制限されないが、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基が挙げられる。このなかでも、炭素数2~10のアルケニル基が好ましく、炭素数2~5のアルケニル基がより好ましい。また、アルケニル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。
【0016】
炭素数1~15のアルコキシ基としては、特に限定されないが、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基、ヘキサデシルオキシ基、及びオクタデシルオキシ基等が挙げられる。アルコキシ基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。
【0017】
炭素数6~20のアリール基としては、特に制限されないが、例えば、フェニル基、ナフチル基が挙げられる。
【0018】
炭素数1~6のアルキル基と炭素数6~12のアリール基とが結合した基としては、特に制限されないが、例えば、アルキルアリール基、及びアリールアルキル基が挙げられる。アルキルアリール基としては、特に制限されないが、例えば、メチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、メチルナフチル基、ジメチルナフチル基などが挙げられる。また、アリールアルキル基としては、特に制限されないが、例えば、フェニルメチル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基などが挙げられる。このなかでも、アルキルアリール基及びアリールアルキル基が好ましく、アリールアルキル基がより好ましい。
【0019】
炭素数6~20のアリールオキシ基としては、特に制限されないが、例えば、フェノキシ基、2-メチルフェノキシ基、4-t-ブチルフェノキシ基が挙げられる。
【0020】
また、R1が有していてもよい、シアナト基以外の置換基としては、特に制限されないが、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、カルボニル基、アミノ基、イミノ基、チオール基、スルホ基、ニトロ基、アシル基、アルデヒド基、アリール基が挙げられる。
【0021】
このような式(I)で表される化合物としては、特に制限されないが、例えば、アリルシアネート、ノニルシアネート、クミルシアネートが好ましい。このようなシアン酸エステル化合物(A)を用いることにより、得られる硬化物において、引張剪断接着強度がより向上し、吸水率がより低下する傾向にある。なかでも、引張剪断接着強度とワニス粘度の観点から、アリルシアネートが好ましい。
【0022】
シアン酸エステル化合物(A)の含有量は、シアン酸エステル化合物(A)及びシアン酸エステル化合物(B)の合計100質量部に対して、好ましくは0.1~40質量部であり、より好ましくは1~35質量部であり、さらに好ましくは3~30質量部であり、さらにより好ましくは4~15質量部である。シアン酸エステル化合物(A)の含有量が上記範囲内であることにより、得られる硬化物において、引張剪断接着強度がより向上し、吸水率がより低下する傾向にある。
【0023】
シアン酸エステル化合物(B)のシアネート基当量に対する、シアン酸エステル化合物(A)のシアネート基当量の比(A/B)は、好ましくは0.0005~0.75であり、より好ましくは0.005~0.70であり、さらに好ましくは0.01~0.50であり、さらにより好ましくは0.02~0.20である。比(A/B)が上記範囲内であることにより、得られる硬化物において、引張剪断接着強度がより向上し、吸水率がより低下する傾向にある。
【0024】
〔シアン酸エステル化合物(B)〕
シアン酸エステル化合物(B)は、分子内に2個以上のシアナト基を有する化合物であれば特に制限されないが、例えば、下記式(II)で表される化合物、及び、下記式(III)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種以上が挙げられる。このなかでも式(II)で表される化合物が好ましい。
【0025】
(式(II)で表される化合物)
式(II)で表される化合物を以下に示す。
【化10】
(式中、Ar
1は、各々独立に、芳香環を表し、
Raは、各々独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~6のアルキル基と炭素数6~12のアリール基とが結合した基のいずれかを表し、Raにおけるアルキル基又はアリール基は置換基を有していてもよく、
aは、Ar
1に対するシアナト基の結合個数を表し、各々独立に、1~3の整数であり、
bは、Ar
1に対するRaの結合個数を表し、各々独立に、Ar
1の置換可能基数から(a+2)を引いた数を表し、
cは、1~50の整数であり、
Xは、各々独立に、単結合、炭素数1~50の2価の有機基、スルホニル基(-SO
2-)、或いは、2価の硫黄原子又は2価の酸素原子のいずれかを表す。)
【0026】
上記式中、Ar1は、各々独立に、芳香環を表す。Ar1が表す芳香環としては、特に制限されないが、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。このなかでもフェニル基が好ましい。
【0027】
Raは、各々独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~6のアルキル基と炭素数6~12のアリール基とが結合した基のいずれかを表す。このなかでも、水素原子、又は炭素数2~6のアルケニル基が好ましい。
【0028】
炭素数1~6のアルキル基としては、特に制限されないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。アルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。
【0029】
炭素数2~6のアルケニル基としては、特に制限されないが、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基が挙げられる。このなかでも、炭素数2~10のアルケニル基が好ましく、炭素数2~5のアルケニル基がより好ましい。また、アルケニル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。
【0030】
炭素数1~4のアルコキシ基としては、特に限定されないが、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。アルコキシ基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。
【0031】
炭素数6~20のアリール基としては、特に制限されないが、例えば、フェニル基、ナフチル基が挙げられる。
【0032】
炭素数1~6のアルキル基と炭素数6~12のアリール基とが結合した基としては、特に制限されないが、例えば、アルキルアリール基、及びアリールアルキル基が挙げられる。アルキルアリール基としては、特に制限されないが、例えば、メチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、メチルナフチル基、ジメチルナフチル基などが挙げられる。また、アリールアルキル基としては、特に制限されないが、例えば、フェニルメチル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基などが挙げられる。
【0033】
また、Raにおけるアルキル基又はアリール基が有していてもよい置換基としては、特に制限されないが、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、シアナト基、アルコキシ基、カルボニル基、アミノ基、イミノ基、チオール基、スルホ基、ニトロ基、アシル基、アルデヒド基、アリール基が挙げられる。
【0034】
aは、Ar1に対するシアナト基の結合個数を表し、各々独立に、1~3の整数であり、好ましくは1~2の整数であり、より好ましくは1である。bは、Ar1に対するRaの結合個数を表し、各々独立に、Ar1の置換可能基数から(a+2)を引いた数を表す。cは、1~50の整数であり、好ましくは1~10の整数であり、より好ましくは1~5の整数であり、さらに好ましくは1である。
【0035】
Xは、各々独立に、単結合、炭素数1~50の2価の有機基、スルホニル基(-SO
2-)、或いは、2価の硫黄原子又は2価の酸素原子のいずれかを表す。Xで表される炭素数1~50の2価の有機基としては、特に制限されないが、例えば、窒素数1~10の2価の有機基(-N-R-N-(ここでRは有機基を示す))、カルボニル基(-CO-)、カルボキシ基(-C(=O)O-)、カルボニルジオキサイド基(-OC(=O)O-)、下記一般式(IV)~(XV)で表される構造からなる群より選ばれる2価の連結基が挙げられる。
【化11】
(式中、Ar
3は、各々独立に芳香環を表し、
Rc、Rd、Rg、及び、Rhは、各々独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は、炭素数6~12のアリール基を表し、Rc、Rd、Rg、及び、Rhにおけるアルキル基又はアリール基は置換基を有していてもよく、
Re及びRfは、各々独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、又は、炭素数1~4のアルコキシ基のいずれかを表し、Re及びRfにおけるアルキル基又はアリール基は置換基を有していてもよく、fは0~5の整数を表す。)
【化12】
(式中、Ar
4は、各々独立に、芳香環を表し、
Ri及びRjは、各々独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、又は、炭素数1~4のアルコキシ基のいずれかを表し、Ri及びRjにおけるアルキル基又はアリール基は置換基を有していてもよく、
gは0~5の整数を表す。)
【化13】
(式中、hは4~7の整数を表し、Rkは、各々独立に水素原子又は炭素数1~6のアルキル基のいずれかを表す。)
【0036】
上記式中、Ar3及びAr4表される芳香環としては、Ar1で例示したものと同様のものを例示することができる。また、上記式中、Rc、Rd、Rg、及び、Rhで表される、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数6~12のアリール基を表し、及びその置換基、Re、Rf、Ri及びRjで表される、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~4のアルコキシ基、及びその置換基としては、Raで例示したものと同様のものを例示することができる。
【0037】
このような式(II)で表される化合物としては、特に制限されないが、例えば、ビスフェノールA型シアネート、ビスフェノールE型シアネート、ジアリルビスフェノールA型シアネートなどが挙げられる。このような化合物を用いることにより、得られる硬化物において、引張剪断接着強度がより向上し、吸水率がより低下する傾向にある。
【0038】
また、式(II)で表される化合物としては、下記式(XVI)で表される化合物が好ましい。
【化14】
(式中、Ar
5は各々独立に芳香環を表し、
Rlは、各々独立に、メチレン基、メチレンオキシ基、メチレンオキシメチレン基、オキシメチレン基、又はこれらが連結した基を表し、
Rm及びRnは、各々独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、又は、炭素数1~4のアルコキシ基を表し、Rm及びRnにおけるアルキル基又はアリール基は置換基を有していてもよく、
iは、Ar
5に対するシアナト基の結合個数を表し、1~3の整数であり、
jは、Ar
5に対するRmの結合個数を表し、Ar
5の置換可能基数から(i+2)を引いた数を表し、
kは、Ar
5に対するRnの結合個数を表し、Ar
5の置換可能基数から2を引いた数を表し、
lは1以上の整数を表し、mは1以上の整数を表し、各繰り返し単位の配列は任意である。)
【0039】
上記式中、Ar5表される芳香環としては、Ar1で例示したものと同様のものを例示することができる。また、上記式中、Rm及びRnで表される、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~4のアルコキシ基、及びその置換基としては、Raで例示したものと同様のものを例示することができる。また、lは1以上の整数を表し、好ましくは1~10であり、より好ましくは1~5である。さらに、mは1以上の整数を表し、好ましくは1~10であり、より好ましくは1~5である。
【0040】
(式(III)で表される化合物)
式(III)で表される化合物を以下に示す。
【化15】
(式中、Ar
2は芳香環を表し、
Rbは、各々独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~4のアルコキシ基、又は、炭素数1~6のアルキル基と炭素数6~12のアリール基とが結合した基のいずれかを表し、Rbにおけるアルキル基又はアリール基は置換基を有していてもよく、
dは、Ar
2に対するシアナト基の結合個数を表し、2~3の整数であり、eは、Ar
2に対するRbの結合個数を表し、Ar
2の置換可能基数から(d+2)を引いた数を表す。)
【0041】
上記式中、Ar2表される芳香環としては、Ar1で例示したものと同様のものを例示することができる。また、上記式中、Rbで表される、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~4のアルコキシ基、及びその置換基としては、Raで例示したものと同様のものを例示することができる。
【0042】
式(III)で表される化合物としては、下記式(XVII)で表される化合物が好ましい。
【化16】
(式中、Ar
6は、各々独立に芳香環を表し、
Roは、各々独立に、メチレン基、メチレンオキシ基、メチレンオキシメチレン基又はオキシメチレン基、又はこれらが連結した基を表し、
Rp及びRqは、各々独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、又は、炭素数1~4のアルコキシ基を表し、Rp及びRqにおけるアルキル基又はアリール基は置換基を有していてもよく、
nは、Ar
6に対するシアナト基の結合個数を表し、2~3の整数であり、
oは、Ar
6に対するRpの結合個数を表し、Ar
6の置換可能基数から(n+2)を引いた数を表し、
pは、Ar
6に対するRqの結合個数を表し、Ar
6の置換可能基数から2を引いた数を表す。
qは1以上の整数を表す。)
【0043】
上記式中、Ar6表される芳香環としては、Ar1で例示したものと同様のものを例示することができる。また、上記式中、Rp及びRqで表される、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~4のアルコキシ基、及びその置換基としては、Raで例示したものと同様のものを例示することができる。また、qは1以上の整数を表し、好ましくは1~10であり、より好ましくは1~5である。
【0044】
シアン酸エステル化合物(B)の含有量は、シアン酸エステル化合物(A)及びシアン酸エステル化合物(B)の合計100質量部に対して、好ましくは60~99.9質量部であり、より好ましくは65~99質量部であり、さらに好ましくは70~97質量部であり、さらにより好ましくは85~96質量部である。シアン酸エステル化合物(B)の含有量が上記範囲内であることにより、得られる硬化物において、引張剪断接着強度がより向上し、吸水率がより低下する傾向にある。
【0045】
〔硬化促進剤(C)〕
本実施形態の樹脂組成物は、硬化促進剤(C)をさらに含んでもよい。硬化促進剤(C)としては、特に制限されないが、例えば、ナフテン酸鉛、ステアリン酸鉛、ナフテン酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、オレイン酸錫、ジブチル錫マレート、ナフテン酸マンガン、ナフテン酸コバルト、アセチルアセトン鉄などの有機金属塩;N,N-ジメチルベンジルアミン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチルトルイジン、2-N-エチルアニリノエタノール、トリ-n-ブチルアミン、ピリジン、キノリン、N-メチルモルホリン、トリエタノールアミン、トリエチレンジアミン、テトラメチルブタンジアミン、N-メチルピペリジン、ジシアンジアミド、ベンジルジメチルアミン、4-メチル-N,N-ジメチルベンジルアミンなどのアミン化合物;ジメチルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸等のホスフィン酸化合物;ホスホン酸ナトリウム、ホスホン酸カリウム、ホスホン酸リチウム、ホスホン酸カリウム、フェニルホスホン酸ナトリウム、フェニルホスホン酸カリウム、フェニルホスホン酸リチウム、フェニルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸ナトリウム、エチルホスホン酸カリウム等のホスホン酸化合物;尿素誘導体などが挙げられる。
【0046】
このなかでも、有機金属塩、アミン化合物、ホスフィン酸化合物、ホスホン酸化合物、及び尿素誘導体からなる群より選ばれるいずれか1種以上が挙げられる。このような硬化促進剤(C)を用いることにより、得られる硬化物において、引張剪断接着強度がより向上し、吸水率がより低下する傾向にある。
【0047】
硬化促進剤(C)の含有量は、シアン酸エステル化合物(A)及びシアン酸エステル化合物(B)の合計100質量部に対して、好ましくは0.001~5質量部であり、より好ましくは0.01~3質量部であり、さらに好ましくは0.03~1質量部である。硬化促進剤(C)の含有量が上記範囲内であることにより、得られる硬化物において、引張剪断接着強度がより向上し、吸水率がより低下する傾向にある
【0048】
〔その他の成分〕
本実施形態の樹脂組成物は、必要に応じて、マレイミド化合物、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂及び重合可能な不飽和基を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含有してもよい。また、本実施形態の樹脂組成物は、必要に応じて、充填材、シランカップリング剤、湿潤分散剤、溶剤などをさらに含有していてもよい。以下、各成分について説明する。
【0049】
(マレイミド化合物)
マレイミド化合物は、1分子中にマレイミド基を1個以上有する化合物であれば、公知のものを適宜用いることができ、その種類は特に限定されない。マレイミド化合物の1分子当たりのマレイミド基の数は、1以上であり、好ましくは2以上である。
【0050】
マレイミド化合物としては、特に制限されないが、例えば、N-フェニルマレイミド、N-ヒドロキシフェニルマレイミド、ビス(4-マレイミドフェニル)メタン、2,2-ビス{4-(4-マレイミドフェノキシ)-フェニル}プロパン、ビス(3,5-ジメチル-4-マレイミドフェニル)メタン、ビス(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン、ビス(3,5-ジエチル-4-マレイミドフェニル)メタン、これらマレイミド化合物のプレポリマー、及び、上記マレイミド化合物とアミン化合物のプレポリマーなどが挙げられる。マレイミド化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0051】
(フェノール樹脂)
フェノール樹脂は、1分子中にフェノール性水酸基を2個以上有する化合物であれば、公知のものを適宜用いることができ、その種類は特に限定されない。
【0052】
フェノール樹脂としては、特に制限されないが、例えば、クレゾールノボラック型フェノール樹脂、ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂、ナフトールアラルキル型フェノール樹脂、アミノトリアジンノボラック型フェノール樹脂、ナフタレン型フェノール樹脂、フェノールノボラック樹脂、アルキルフェノールノボラック樹脂、ビスフェノールA型ノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、ザイロック型フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、及びポリビニルフェノール類等が挙げられる。フェノール樹脂は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂は、1分子中にエポキシ基を1個以上有する化合物であれば、公知のものを適宜用いることができ、その種類は特に限定されない。エポキシ樹脂の1分子当たりのエポキシ基の数は、1以上であり、好ましくは2以上である。
【0054】
エポキシ樹脂としては、特に限定されず従来公知のエポキシ樹脂を用いることができ、例えば、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビスナフタレン型エポキシ樹脂、多官能フェノール型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、キシレンノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格変性ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、フェノールアラルキルノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキルノボラック型エポキシ樹脂、アラルキルノボラック型エポキシ樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド型エポキシ樹脂、アントラキノン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ザイロック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、フェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、アラルキルノボラック型エポキシ樹脂、トリアジン骨格エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、脂環式エポキシ樹脂、ポリオール型エポキシ樹脂、グリシジルアミン、グリシジル型エステル樹脂、ブタジエン等の二重結合含有化合物の二重結合をエポキシ化した化合物、及び、水酸基含有シリコーン樹脂類とエピクロルヒドリンとの反応により得られる化合物等が挙げられる。エポキシ樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0055】
(オキセタン樹脂)
オキセタン樹脂としては、一般に公知のものを使用でき、その種類は特に限定されない。その具体例としては、オキセタン、2-メチルオキセタン、2,2-ジメチルオキセタン、3-メチルオキセタン、3,3-ジメチルオキセタン等のアルキルオキセタン、3-メチル-3-メトキシメチルオキセタン、3,3’-ジ(トリフルオロメチル)パーフルオキセタン、2-クロロメチルオキセタン、3,3-ビス(クロロメチル)オキセタン、ビフェニル型オキセタン、OXT-101(東亞合成製商品名)、OXT-121(東亞合成製商品名)等が挙げられる。これらのオキセタン樹脂は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0056】
(重合可能な不飽和基を有する化合物)
重合可能な不飽和基を有する化合物としては、一般に公知のものを使用でき、その種類は特に限定されない。その具体例としては、エチレン、スチレン、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル等のビニル化合物;メチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の1価又は多価アルコールの(メタ)アクリレート類;ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレート、ビスフェノールF型エポキシ(メタ)アクリレート等のエポキシ(メタ)アクリレート類;アリルクロライド、酢酸アリル、アリルエーテル、プロピレン、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、フタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル等のアリル化合物;ベンゾシクロブテン樹脂が挙げられる。これらの重合可能な不飽和基を有する化合物は、1種又は2種以上混合して用いることができる。
【0057】
(充填材)
充填材としては、特に限定されないが、例えば、無機充填材及び有機充填材が挙げられる。充填材は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0058】
無機充填材としては、特に限定されないが、例えば、天然シリカ、溶融シリカ、合成シリカ、アモルファスシリカ、アエロジル、中空シリカなどのシリカ類;ホワイトカーボンなどのケイ素化合物;チタンホワイト、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウムなどの金属酸化物;窒化ホウ素、凝集窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどの窒化物;硫酸バリウムなどの金属硫酸化物;水酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム加熱処理品(水酸化アルミニウムを加熱処理し、結晶水の一部を減じたもの)、ベーマイト、水酸化マグネシウムなどの金属水和物;酸化モリブデン、モリブデン酸亜鉛などのモリブデン化合物;ホウ酸亜鉛、錫酸亜鉛などの亜鉛化合物;アルミナ、クレー、カオリン、タルク、焼成クレー、焼成カオリン、焼成タルク、マイカ、Eガラス、Aガラス、NEガラス、Cガラス、Lガラス、Dガラス、Sガラス、MガラスG20、ガラス短繊維(Eガラス、Tガラス、Dガラス、Sガラス、Qガラスなどのガラス微粉末類を含む。)、中空ガラス、球状ガラスなどが挙げられる。
【0059】
また、有機充填材としては、特に限定されないが、例えば、スチレン型パウダー、ブタジエン型パウダー、アクリル型パウダーなどのゴムパウダー;コアシェル型ゴムパウダー;シリコーンレジンパウダー;シリコーンゴムパウダー;シリコーン複合パウダーなどが挙げられる。
【0060】
(シランカップリング剤)
シランカップリング剤としては、一般に無機物の表面処理に使用されているシランカップリング剤であれば、特に限定されないが、例えば、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノシラン系化合物;γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのエポキシシラン系化合物;γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのアクリルシラン系化合物;N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩などのカチオニックシラン系化合物;フェニルシラン系化合物などが挙げられる。シランカップリング剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0061】
(湿潤分散剤)
湿潤分散剤としては、特に限定されないが、例えば、ビッグケミー・ジャパン(株)製のDISPER-110、111、118、180、161、BYK-W996、W9010、W903等が挙げられる。
【0062】
(溶剤)
溶剤としては、樹脂組成物中の樹脂成分の一部又は全部を溶解可能なものであれば、特に限定されないが、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;メチルセルソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル及びそのアセテートなどが挙げられる。溶剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0063】
〔用途〕
本実施形態の樹脂組成物は、硬化物、プリプレグ、金属箔張積層板、積層樹脂シート、樹脂シート、プリント配線板、封止材料、接着剤、絶縁材料、塗料、又は繊維強化複合材料として好適に用いることができる。以下、これらについて説明する。
【0064】
〔硬化物〕
本実施形態の硬化物は、上記樹脂組成物を硬化させてなるものである。硬化物の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、樹脂組成物を溶融又は溶媒に溶解させた後、型内に流し込み、熱や光などを用いて通常の条件で硬化させることにより得ることができる。熱硬化の場合、硬化温度は、特に限定されないが、硬化が効率的に進み、かつ得られる硬化物の劣化を防止する観点から、120℃から300℃の範囲内が好ましい。光硬化の場合、光の波長領域は、特に限定されないが、光重合開始剤等により効率的に硬化が進む100nmから500nmの範囲で硬化させることが好ましい。
【0065】
〔プリプレグ〕
本実施形態のプリプレグは、基材と、該基材に含浸又は塗布した、上記樹脂組成物と、を有する。プリプレグの製造方法は、常法にしたがって行うことができ、特に限定されない。例えば、本実施形態における樹脂成分を基材に含浸又は塗布させた後、100~200℃の乾燥機中で1~30分加熱するなどして半硬化(Bステ-ジ化)させることで、本実施形態のプリプレグを作製することができる。
【0066】
樹脂組成物(充填材を含む。)の含有量は、プリプレグの総量に対して、好ましくは30~90質量%であり、より好ましくは35~85質量%であり、さらに好ましくは40~80質量%である。樹脂組成物の含有量が上記範囲内であることにより、成形性がより向上する傾向にある。
【0067】
基材としては、特に限定されず、各種プリント配線板材料に用いられている公知のものを、目的とする用途や性能により適宜選択して使用することができる。基材を構成する繊維の具体例としては、特に限定されないが、例えば、Eガラス、Dガラス、Sガラス、Qガラス、球状ガラス、NEガラス、Lガラス、Tガラスなどのガラス繊維;クォーツなどのガラス以外の無機繊維;ポリパラフェニレンテレフタラミド(ケブラー(登録商標)、デュポン(株)製)、コポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレン・テレフタラミド(テクノーラ(登録商標)、帝人テクノプロダクツ(株)製)などの全芳香族ポリアミド;2,6-ヒドロキシナフトエ酸・パラヒドロキシ安息香酸(ベクトラン(登録商標)、(株)クラレ製)、ゼクシオン(登録商標、KBセーレン製)などのポリエステル;ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(ザイロン(登録商標)、東洋紡績(株)製)、ポリイミドなどの有機繊維が挙げられる。これらのなかでも、Eガラスクロス、Tガラスクロス、Sガラスクロス、Qガラスクロス、及び有機繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。これら基材は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0068】
基材の形状としては、特に限定されないが、例えば、織布、不織布、ロービング、チョップドストランドマット、サーフェシングマットなどが挙げられる。織布の織り方としては、特に限定されないが、例えば、平織り、ななこ織り、綾織り等が知られており、これら公知のものから目的とする用途や性能により適宜選択して使用することができる。また、これらを開繊処理したものやシランカップリング剤などで表面処理したガラス織布が好適に使用される。基材の厚さや質量は、特に限定されないが、通常は0.01~0.3mm程度のものが好適に用いられる。とりわけ、強度と吸水性との観点から、基材は、厚み200μm以下、質量250g/m2以下のガラス織布が好ましく、Eガラス、Sガラス、及びTガラスのガラス繊維からなるガラス織布がより好ましい。
【0069】
〔積層樹脂シート〕
本実施形態の積層樹脂シートは、支持体と、該支持体上に配された、上記樹脂組成物と、を有する。積層樹脂シートとは、薄葉化の1つの手段として用いられるもので、例えば、金属箔やフィルムなどの支持体に、直接、樹脂組成物を塗布及び乾燥して製造することができる。
【0070】
支持体としては、特に限定されないが、各種プリント配線板材料に用いられている公知の物を使用することができる。例えばポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、ポリエチレン(PE)フィルム、ポリカーボネートフィルム、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体フィルム、並びにこれらのフィルムの表面に離型剤を塗布した離型フィルム等の有機系のフィルム基材、アルミニウム箔、銅箔、金箔などの導体箔、ガラス板、SUS板、FPR等の板状の無機系フィルムが挙げられる。その中でも電解銅箔、PETフィルムが好ましい。
【0071】
塗布方法としては、例えば、本実施形態の樹脂組成物を溶剤に溶解させた溶液を、バーコーター、ダイコーター、ドクターブレード、ベーカーアプリケーター等で支持体上に塗布する方法が挙げられる。
【0072】
積層樹脂シートは、上記樹脂組成物を支持体に塗布後、半硬化(Bステージ化)させたものであることが好ましい。具体的には、例えば、上記樹脂組成物を銅箔などの支持体に塗布した後、100~200℃の乾燥機中で、1~60分加熱させる方法などにより半硬化させ、積層樹脂シートを製造する方法などが挙げられる。支持体に対する樹脂組成物の付着量は、積層樹脂シートの樹脂厚で1~300μmの範囲が好ましい。
【0073】
〔単層樹脂シート〕
本実施形態の単層樹脂シートは、樹脂組成物を含む。単層樹脂シートは、樹脂組成物をシート状に成形してなるものである。樹脂シートの製造方法は、常法にしたがって行うことができ、特に限定されない。例えば、上記積層樹脂シートから、支持体を剥離又はエッチングすることにより得ることができる。なお、本実施形態の樹脂組成物を溶剤に溶解させた溶液を、シート状のキャビティを有する金型内に供給し乾燥する等してシート状に成形することで、シート基材を用いることなく単層樹脂シートを得ることもできる。
【0074】
〔積層板〕
本実施形態の積層板は、上記プリプレグを備える。また、積層板は、さらにプリプレグの片面または両面に配された金属箔を有する、金属箔張積層板であってもよい。
【0075】
金属箔は、銅やアルミニウムなどの金属箔とすることができる。ここで使用する金属箔は、プリント配線板材料に用いられるものであれば、特に限定されないが、圧延銅箔や電解銅箔などの公知の銅箔が好ましい。また、導体層の厚みは、特に限定されないが、1~70μmが好ましく、より好ましくは1.5~35μmである。
【0076】
金属箔張積層板の成形方法及びその成形条件は、特に限定されず、一般的なプリント配線板用積層板及び多層板の手法及び条件を適用することができる。例えば、金属箔張積層板の成形時には多段プレス機、多段真空プレス機、連続成形機、オートクレーブ成形機などを用いることができる。また、金属箔張積層板の成形において、温度は100~350℃、圧力は面圧2~100kgf/cm2、加熱時間は0.05~5時間の範囲が一般的である。さらに、必要に応じて、150~350℃の温度で後硬化を行うこともできる。また、上述のプリプレグと、別途作成した内層用の配線板とを組み合わせて積層成形することにより、多層板とすることも可能である。
【0077】
〔プリント配線板〕
本実施形態のプリント配線板は、絶縁層と、該絶縁層の表面に形成された導体層とを含み、前記絶縁層が、上記樹脂組成物を含む。上記の金属箔張積層板は、所定の配線パターンを形成することにより、プリント配線板として好適に用いることができる。そして、上記の金属箔張積層板は、良好な成形性及び耐薬品性を有し、そのような性能が要求される半導体パッケージ用プリント配線板として、殊に有効に用いることができる。
【0078】
本実施形態のプリント配線板は、具体的には、例えば、以下の方法により製造することができる。まず、上述の金属箔張積層板(銅張積層板等)を用意する。金属箔張積層板の表面にエッチング処理を施して内層回路の形成を行い、内層基板を作製する。この内層基板の内層回路表面に、必要に応じて接着強度を高めるための表面処理を施し、次いでその内層回路表面に上述のプリプレグを所要枚数重ね、更にその外側に外層回路用の金属箔を積層し、加熱加圧して一体成形する。このようにして、内層回路と外層回路用の金属箔との間に、基材及び樹脂組成物の硬化物からなる絶縁層が形成された多層の積層板が製造される。次いで、この多層の積層板にスルーホールやバイアホール用の穴あけ加工を施した後、硬化物層に含まれている樹脂成分に由来する樹脂の残渣であるスミアを除去するためデスミア処理が行われる。その後この穴の壁面に内層回路と外層回路用の金属箔とを導通させるめっき金属皮膜を形成し、更に外層回路用の金属箔にエッチング処理を施して外層回路を形成し、プリント配線板が製造される。
【0079】
上記の製造例で得られるプリント配線板は、絶縁層と、この絶縁層の表面に形成された導体層とを有し、絶縁層が上述した本実施形態の樹脂組成物を含む構成となる、すなわち、上述のプリプレグ(基材及びこれに添着された上述の樹脂組成物)、金属箔張積層板の樹脂組成物層(上述の樹脂組成物からなる層)が、上述の樹脂組成物を含む絶縁層を構成することになる。
【0080】
また、金属箔張積層板を用いない場合には、上記プリプレグ、上記積層樹脂シート、又は上記樹脂組成物からなるものに、回路となる導体層を形成しプリント配線板を作製してもよい。この際、導体層の形成に無電解めっきの手法を用いることもできる。
【0081】
本実施形態のプリント配線板は、上述の絶縁層がめっきピール強度、曲げ強度、誘電率、熱重量減少率に優れた特性を有することから、半導体パッケージ用プリント配線板として、殊に有効に用いることができる。
【0082】
〔封止材料〕
本実施形態の封止材料は、本実施形態の樹脂組成物を含む。封止材料の製造方法としては、一般に公知の方法を適宜適用でき、特に限定されない。例えば、上記した樹脂組成物と、封止材料用途で一般的に用いられる各種公知の添加剤或いは溶媒等を、公知のミキサーを用いて混合することで封止材料を製造することができる。なお、混合の際の、各成分の添加方法は、一般に公知の方法を適宜適用でき、特に限定されない。
【0083】
〔接着剤〕
本実施形態の接着剤は、本実施形態の樹脂組成物を含む。接着剤の製造方法としては、一般に公知の方法を適宜適用でき、特に限定されない。例えば、上記した樹脂組成物と、接着剤用途で一般的に用いられる各種公知の添加剤或いは溶媒等を、公知のミキサーを用いて混合することで接着剤を製造することができる。なお、混合の際の、各成分の添加方法は、一般に公知の方法を適宜適用でき、特に限定されない。
【0084】
〔絶縁材料〕
本実施形態の絶縁材料は、本実施形態の樹脂組成物を含む。絶縁材料の製造方法としては、一般に公知の方法を適宜適用でき、特に限定されない。例えば、上記した樹脂組成物と、接着剤用途で一般的に用いられる各種公知の添加剤或いは溶媒等を、公知のミキサーを用いて混合することで接着剤を製造することができる。なお、混合の際の、各成分の添加方法は、一般に公知の方法を適宜適用でき、特に限定されない。
【0085】
〔塗料〕
本実施形態の塗料は、本実施形態の樹脂組成物を含む。塗料の製造方法としては、一般に公知の方法を適宜適用でき、特に限定されない。例えば、上記した樹脂組成物と、接着剤用途で一般的に用いられる各種公知の添加剤或いは溶媒等を、公知のミキサーを用いて混合することで塗料を製造することができる。なお、混合の際の、各成分の添加方法は、一般に公知の方法を適宜適用でき、特に限定されない。
【0086】
〔繊維強化複合材料〕
本実施形態の繊維強化複合材料は、強化繊維と該強化繊維に含浸又は塗布して硬化させた樹脂組成物と、を有する。
【0087】
強化繊維としては、一般的に公知のものを用いることができ、特に限定されない。その具体例としては、Eガラス、Dガラス、Lガラス、Sガラス、Tガラス、Qガラス、UNガラス、NEガラス、球状ガラス等のガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、PBO繊維、高強力ポリエチレン繊維、アルミナ繊維、及び炭化ケイ素繊維などが挙げられる。強化繊維の形態や配列については、特に限定されず、織物、不織布、マット、ニット、組み紐、一方向ストランド、ロービング、チョップド等から適宜選択できる。また、強化繊維の形態としてプリフォーム(強化繊維からなる織物基布を積層したもの、又はこれをステッチ糸により縫合一体化したもの、あるいは立体織物や編組物などの繊維構造物)を適用することもできる。
【0088】
これら繊維強化複合材料の製造方法としては、一般に公知の方法を適宜適用でき、特に限定されない。その具体例としては、リキッド・コンポジット・モールディング法、レジン・フィルム・インフュージョン法、フィラメント・ワインディング法、ハンド・レイアップ法、プルトルージョン法等が挙げられる。このなかでも、リキッド・コンポジット・モールディング法の一つであるレジン・トランスファー・モールディング法は、金属板、フォームコア、ハニカムコア等、プリフォーム以外の素材を成形型内に予めセットしておくことができることから、種々の用途に対応可能であるため、比較的、形状が複雑な複合材料を短時間で大量生産する場合に好ましく用いられる。
【実施例】
【0089】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0090】
合成例1:下記式(1)で表される化合物(アリルフェノールのシアン酸エステル化合物、以下「ACN」と略記)の合成
【化17】
アリルフェノール(東京化成工業株式会社製)30.0g(224mmol)およびトリエチルアミン 17.14g(169mmol)(ヒドロキシ基1molに対して0.75mol)をジクロロメタン150.0gに溶解させ、これを溶液Aとした。
【0091】
塩化シアン22.44g(365mol)(ヒドロキシ基1molに対して1.6mol)、ジクロロメタン50.86g、36%塩酸36.91g(364mmol)(ヒドロキシ基1molに対して1.6mol)、水228.8gを、撹拌下、液温-2~-0.5℃に保ちながら、溶液Aを20分かけて注下した。溶液A注下終了後、同温度にて30分撹拌した後、トリエチルアミン30.86g(304mmol)(ヒドロキシ基1molに対して1.35mol)をジクロロメタン30.86gに溶解させた溶液(溶液B)を15分かけて注下した。溶液B注下終了後、同温度にて30分撹拌して反応を完結させた。
【0092】
その後反応液を静置して有機相と水相を分離した。得られた有機相を0.1N塩酸300gにより洗浄した後、水150gで4回洗浄した。水洗4回目の廃水の電気伝導度は17μS/cmであり、水による洗浄により、除けるイオン性化合物は十分に除けられたことを確認した。
【0093】
水洗後の有機相を減圧下で濃縮し、最終的に50℃で1時間濃縮乾固させて目的とするシアン酸エステル化合物ACNを33.3g得た。得られたシアン酸エステル化合物ACNの構造をNMRにて同定した。
1H-NMR:(500MHz、クロロホルム-d、内部標準TMS)
δ(ppm)=3.41(d,2H)、5.05(m,1H)、5.11(m,1H)、5.87-5.95(m,1H)、7.23-7.45(m,4H)
【0094】
合成例2:下記式(2)で表される化合物(ノニルフェノールのシアン酸エステル化合物、以下「NPCN」と略記)の合成
【化18】
4-ノニルフェノール(東京化成工業株式会社製)35.0g(159mmol)およびトリエチルアミン 12.18g(120mmol)(ヒドロキシ基1molに対して0.75mol)をジクロロメタン175.0gに溶解させ、これを溶液Aとした。
【0095】
塩化シアン15.94g(259mol)(ヒドロキシ基1molに対して1.6mol)、ジクロロメタン36.13g、36%塩酸26.22g(259mmol)(ヒドロキシ基1molに対して1.6mol)、水162.6gを、撹拌下、液温-2~-0.5℃に保ちながら、溶液Aを20分かけて注下した。溶液A注下終了後、同温度にて30分撹拌した後、トリエチルアミン33.28g(329mmol)(ヒドロキシ基1molに対して2.05mol)をジクロロメタン33.28gに溶解させた溶液(溶液B)を20分かけて注下した。溶液B注下終了後、同温度にて30分撹拌して反応を完結させた。
【0096】
その後反応液を静置して有機相と水相を分離した。得られた有機相を0.1N塩酸300gにより洗浄した後、水180gで5回洗浄した。水洗5回目の廃水の電気伝導度は29μS/cmであり、水による洗浄により、除けるイオン性化合物は十分に除けられたことを確認した。
【0097】
水洗後の有機相を減圧下で濃縮し、最終的に50℃で1時間濃縮乾固させて目的とするシアン酸エステル化合物NPCNを36.4g得た。NPCNのIRスペクトルは2263cm-1(シアン酸エステル基)の吸収を示し、且つ、ヒドロキシ基の吸収は示さなかった。
【0098】
合成例3:下記式(3)で表される化合物(クミルフェノールのシアン酸エステル化合物、以下「CPCN」と略記)の合成
【化19】
クミルフェノール(富士フィルム和光純薬株式会社製)20.0g(94mmol)およびトリエチルアミン 7.22g(71mmol)(ヒドロキシ基1molに対して0.75mol)をジクロロメタン100.0gに溶解させ、これを溶液Aとした。
【0099】
塩化シアン9.46g(154mol)(ヒドロキシ基1molに対して1.6mol)、ジクロロメタン21.43g、36%塩酸15.55g(154mmol)(ヒドロキシ基1molに対して1.6mol)、水96.4gを、撹拌下、液温-2~-0.5℃に保ちながら、溶液Aを10分かけて注下した。溶液A注下終了後、同温度にて30分撹拌した後、トリエチルアミン19.74g(195mmol)(ヒドロキシ基1molに対して2.05mol)をジクロロメタン19.74gに溶解させた溶液(溶液B)を15分かけて注下した。溶液B注下終了後、同温度にて30分撹拌して反応を完結させた。
【0100】
その後反応液を静置して有機相と水相を分離した。得られた有機相を0.1N塩酸200gにより洗浄した後、水100gで6回洗浄した。水洗6回目の廃水の電気伝導度は26μS/cmであり、水による洗浄により、除けるイオン性化合物は十分に除けられたことを確認した。
【0101】
水洗後の有機相を減圧下で濃縮し、最終的に50℃で1時間濃縮乾固させて目的とするシアン酸エステル化合物CPCNを19.0g得た。得られたシアン酸エステル化合物CPCNの構造をNMRにて同定した。
1H-NMR:(500MHz、クロロホルム-d、内部標準TMS)
δ(ppm)=1.68(s,6H)、7.18-7.31(m,9H)
【0102】
〔実施例1〕
アリルシアネート(合成例1、ACN)5質量部と、ビスフェノールE型シアネート(三菱ガス化学株式会社製、P-201)95質量部と、オクチル酸亜鉛0.05質量部と、を混合し、樹脂組成物を得た。
【0103】
〔実施例2~3〕
アリルシアネート(ACN)と、ビスフェノールE型シアネート(P-201)の質量割合を、下記表1のとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
【0104】
〔実施例4〕
ノニルシアネート(合成例2、NPCN)1質量部と、ビスフェノールE型シアネート(P-201)99質量部と、オクチル酸亜鉛0.05質量部と、を混合し、樹脂組成物を得た。
【0105】
〔実施例5~7〕
ノニルシアネート(NPCN)と、ビスフェノールE型シアネート(P-201)の質量割合を、下記表1のとおりに変更したこと以外は、実施例4と同様にして樹脂組成物を得た。
【0106】
〔実施例8〕
クミルシアネート(合成例3、CPCN)10質量部と、ビスフェノールE型シアネート(P-201)90質量部と、オクチル酸亜鉛0.05質量部と、を混合し、樹脂組成物を得た。
【0107】
〔実施例9〕
クミルシアネート(CPCN)と、ビスフェノールE型シアネート(P-201)の質量割合を、下記表1のとおりに変更したこと以外は、実施例8と同様にして樹脂組成物を得た。
【0108】
〔比較例1〕
ビスフェノールE型シアネート(P-201)100質量部と、オクチル酸亜鉛0.05質量部と、を混合し、樹脂組成物を得た。
【0109】
〔実施例10〕
ノニルシアネート(NPCN)5質量部と、ビスフェノールA型シアネート(三菱ガス化学株式会社製、TA)95質量部と、オクチル酸亜鉛0.05質量部と、を混合し、樹脂組成物を得た。
【0110】
〔比較例2〕
ビスフェノールA型シアネート(TA)100質量部と、オクチル酸亜鉛0.05質量部と、を混合し、樹脂組成物を得た。
【0111】
〔実施例11〕
アリルシアネート(ACN)1質量部と、ジアリルビスフェノールA型シアネート(三菱ガス化学株式会社製、A-211)99質量部と、オクチル酸亜鉛0.05質量部と、を混合し、樹脂組成物を得た。
【0112】
〔実施例12~13〕
アリルシアネート(ACN)と、ジアリルビスフェノールA型シアネート(A-211)の質量割合を、下記表2のとおりに変更したこと以外は、実施例11と同様にして樹脂組成物を得た。
【0113】
〔比較例2〕
ジアリルビスフェノールA型シアネート(A-211)100質量部と、オクチル酸亜鉛0.05質量部と、を混合し、樹脂組成物を得た。
【0114】
〔引張剪断接着強度〕
2枚の被着体のうち、一方の表面に、上記のようにして得られた樹脂組成物を試験片面に塗布して、2枚の被着体を樹脂組成物を介して接着し、樹脂組成物を硬化させて、試験片を得た。次いで、JIS K 6850(1999)に準拠して引張剪断接着強度(MPa)を測定した。測定器としては、精密万能試験機(島津製作所社製 オートグラフ型番「AG‐X plus」)を用いた。
【0115】
〔吸水率〕
樹脂組成物を150℃3時間、180℃5時間及び250℃3時間の条件で硬化させて、10mm×35mm×4mmの試験片を得た。得られた試験片を使用し、JIS C648に準拠して、プレッシャークッカー試験機(平山製作所製、PC-3型)で121℃、2気圧で14日間処理後の吸水率を測定した。
【0116】
〔ワニス粘度〕
樹脂組成物の25℃における粘度(mPa・s)を、動的粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製 型番「DHR-2」)を用いて測定した。なお、粘度の測定は、25℃において液体である樹脂組成物に対して行い、25℃において固体である樹脂組成物には、その旨を表1~2に記した。
【0117】
引張剪断接着強度、吸水率、ワニス粘度ともに、比較例の測定値を100として、各実施例の測定値を相対評価した。具体的には、実施例1~9については、比較例1の測定値を100として相対評価し、実施例10については、比較例2の測定値を100として相対評価し、実施例11~13については、比較例3の測定値を100として相対評価した。以下、結果を表1及び2に示す。
【0118】
【0119】
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の樹脂組成物は、硬化物、封止材料、接着剤、絶縁材料、塗料、プリプレグ、積層板、及び繊維強化複合材料などに用いる樹脂成分として、産業上の利用可能性を有する。