(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】キメラFcεRIα鎖遺伝子、キメラFcεRIα鎖タンパク質、細胞、分析用キット、及び分析方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20241114BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20241114BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20241114BHJP
C07K 14/735 20060101ALI20241114BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241114BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241114BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/12
C07K19/00
C07K14/735
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12Q1/02
(21)【出願番号】P 2023503758
(86)(22)【出願日】2022-02-24
(86)【国際出願番号】 JP2022007612
(87)【国際公開番号】W WO2022186041
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2021031757
(32)【優先日】2021-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000192903
【氏名又は名称】神奈川県
(73)【特許権者】
【識別番号】597128004
【氏名又は名称】国立医薬品食品衛生研究所長
(73)【特許権者】
【識別番号】597023558
【氏名又は名称】学校法人帝京平成大学
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】中村 亮介
(72)【発明者】
【氏名】秋山 晴代
(72)【発明者】
【氏名】田所 哲
(72)【発明者】
【氏名】熊坂 謙一
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-019467(JP,A)
【文献】J. Biol. Chem.,1993年,Vol.268, No.29,pp.22076-22083
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12N 1/00-7/08
C12Q 1/00-3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトFcεRIα鎖のうちの細胞外ドメインをコードする第一塩基配列と、
非ヒト動物FcεRIα鎖のうちの少なくとも細胞膜貫通ドメインをコードする第二塩 基配列と
を含む、キメラFcεRIα鎖遺伝子。
【請求項2】
前記第一塩基配列は、配列
番号7の塩基配
列を含む、請求項1に記載のキメラFcεRIα鎖遺伝子。
【請求項3】
前記第二塩基配列は、少なくとも配列
番号5の塩基配
列を含む、請求項1又は2に記載のキメラFcεRIα鎖遺伝子。
【請求項4】
前記第二塩基配列は、配列
番号6の塩基配
列をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のキメラFcεRIα鎖遺伝子。
【請求項5】
前記キメラFcεRIα鎖遺伝子は、当該遺伝子に基づき生成されたキメラFcεRIα鎖を細胞膜に発現させるためのシグナル配列をコードする第三塩基配列をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のキメラFcεRIα鎖遺伝子。
【請求項6】
前記第三塩基配列が、配列
番号2の塩基配
列を含む、請求項5に記載のキメラFcεRIα鎖遺伝子。
【請求項7】
前記キメラFcεRIα鎖遺伝子が、配列
番号1の塩基配
列を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のキメラFcεRIα鎖遺伝子。
【請求項8】
前記非ヒト動物がげっ歯類の動物である、請求項1~7のいずれか一項に記載のキメラFcεRIα鎖遺伝子。
【請求項9】
ヒトFcεRIα鎖のうちの細胞外ドメインと、
非ヒト動物FcεRIα鎖のうちの少なくとも細胞膜貫通ドメインと
を含むキメラFcεRIα鎖タンパク質。
【請求項10】
前記細胞外ドメインは、配列
番号14のアミノ酸配
列を含む、請求項9に記載のキメラFcεRIα鎖タンパク質。
【請求項11】
前記細胞膜貫通ドメインは、配列
番号12のアミノ酸配
列を含む、請求項9又は10に記載のキメラFcεRIα鎖タンパク質。
【請求項12】
前記キメラFcεRIα鎖タンパク質は、非ヒト動物FcεRIα鎖のうちの細胞内ドメインをさらに含み、
当該細胞内ドメインは、配列
番号13のアミノ酸配
列を含む、請求項9~11のいずれか一項に記載のキメラFcεRIα鎖タンパク質。
【請求項13】
前記キメラFcεRIα鎖タンパク質が、配列
番号8のアミノ酸配
列を有する、請求項9~12のいずれか一項に記載のキメラFcεRIα鎖タンパク質。
【請求項14】
請求項1~8のいずれか一項に記載されたキメラFcεRIα鎖遺伝子を含むベクター。
【請求項15】
請求項1~8のいずれか一項に記載されたキメラFcεRIα鎖遺伝子、
請求項9~13のいずれか一項に記載のキメラFcεRIα鎖タンパク質、又は
請求項14に記載のベクター
を含む、前記非ヒト動物の細胞。
【請求項16】
前記非ヒト動物細胞のFcεRIのγ鎖の遺伝子をさらに含む、請求項15に記載の細胞。
【請求項17】
前記キメラFcεRIα鎖遺伝子に基づき生成されたキメラFcεRIα鎖と前記細胞のFcεRIのγ鎖とを含む会合体を形成する、請求項16に記載の細胞。
【請求項18】
前記会合体同士の架橋によって発現が誘導されるレポーター遺伝子をさらに含む、請求項17に記載の細胞。
【請求項19】
請求項15~18のいずれか一項に記載の細胞を含む分析用キット。
【請求項20】
請求項15~18のいずれか一項に記載の細胞を用いる分析方法。
【請求項21】
前記分析方法は、
前記細胞をインキュベートするインキュベート工程、及び
前記細胞の応答を分析する分析工程
を実行することを含む、請求項20に記載の分析方法。
【請求項22】
前記インキュベート工程が、前記細胞をインキュベート用材料中でインキュベートすることを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記分析工程が、前記応答に基づ
き
アレルゲン性の評
価、
IgEについての分析、
アレルギー抑制活性の評価、及び
ドラッグスクリーニング
からなる群から選ばれる少なくとも一つを行うことを含む、請求項21又は22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キメラFcεRIα鎖遺伝子、キメラFcεRIα鎖タンパク質、細胞、分析用キット、及び分析方法に関する。より特には、本発明は、アレルギーに関連する試験を行うために用いられるキメラFcεRIα鎖遺伝子、キメラFcεRIα鎖タンパク質、細胞、及びキット、並びにアレルギーに関連する分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギー反応に関与するIgEは血清中にごく微量に存在する抗体である。IgEは、例えばマスト細胞及び好塩基球などの細胞が発現する高親和性IgE受容体(本明細書内において、高親和性IgE受容体を「FcεRI」ともいう)のα鎖に非常に強固に結合する(Ka=1010 M-1)。FcεRIは、α鎖1本、β鎖1本、及びγ鎖のホモダイマーを含みうる。これらのサブユニットは、多くの動物種では4量体を形成して初めて細胞膜表面に発現するが、ヒトにおいてはβ鎖を伴わない発現様式も知られている。
【0003】
B細胞がアレルゲン(抗原)特異的なIgEを産生すると、IgEは血流に乗り、末梢の免疫細胞、特にはマスト細胞や好塩基球が発現するFcεRIに結合し、これらの細胞を感作する。IgEで感作されたこれらの細胞が特異抗原に暴露されると抗原とIgEとが結合する。このとき、抗原1分子にIgEエピトープが複数存在すると、抗原を介して複数のIgE抗体が結合することになり、それに伴い複数のFcεRIが「架橋」されることになる。
【0004】
FcεRIの架橋を引き金として、例えば受容体の細胞内ドメインに会合するチロシンキナーゼなどの酵素及びアダプター分子の活性化を介して、例えばカルシウムイオンの流入、ヒスタミン等の化学伝達物質の脱顆粒、及び脂質性化学伝達物質の産生昂進などの細胞応答が起こり、即時型のアレルギー応答が惹起される。さらに、ある種の転写因子の活性化を通じ、例えばサイトカイン及びケモカインなどの遺伝子発現が誘導され、これは、より後期の炎症反応へとつながる。
【0005】
アレルギーに関する検査方法がこれまでにいくつか提案されている。例えば、下記特許文献1は、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を、被験者由来の生体試料の存在下でインキュベートすること;被験物質および前記インキュベート後の細胞を接触させること;ならびに、前記被験物質と接触させた細胞における前記レポーター遺伝子の発現の増大を確認することを含む、前記被験物質が前記被験者に対するアレルゲンであるか否かを検査する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アレルギー検査感度のさらなる向上が求められている。当該感度を向上させることができれば、例えば患者IgEの生物学的意義に基づく評価、微量アレルゲンの検出、及び抗アレルギー物質のハイスループットスクリーニングなど、種々のアレルギーに関する試験のために有用であると考えられる。そこで、本発明は、アレルギー検査の高感度化、特にはIgE検出手法の高感度化を主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
ヒトFcεRIα鎖のうちの細胞外ドメインをコードしうる第一塩基配列と、
非ヒト動物FcεRIα鎖のうちの少なくとも細胞膜貫通ドメインをコードしうる第二塩基配列と
を含む、キメラFcεRIα鎖遺伝子を提供する。
前記第一塩基配列は、配列ID No.7の塩基配列と70%以上の配列同一性を有する塩基配列を含んでよい。
前記第二塩基配列は、配列ID No.5の塩基配列と70%以上の配列同一性を有する塩基配列を含んでよい。
前記第二塩基配列は、配列ID No.6の塩基配列と70%以上の配列同一性を有する塩基配列をさらに含みうる。
前記キメラFcεRIα鎖遺伝子は、当該遺伝子に基づき生成されたキメラFcεRIα鎖を細胞膜に発現させるためのシグナル配列をコードする第三塩基配列をさらに含みうる。
前記第三塩基配列は、配列ID No.2の塩基配列と70%以上の配列同一性を有する塩基配列を含みうる。
前記キメラFcεRIα鎖遺伝子は、配列ID No.1の塩基配列と50%以上の配列同一性を有する塩基配列を有しうる。
前記非ヒト動物はげっ歯類の動物でありうる。
【0009】
また、本発明は、
ヒトFcεRIα鎖のうちの細胞外ドメインと、
非ヒト動物FcεRIα鎖のうちの少なくとも細胞膜貫通ドメインと
を含むキメラFcεRIα鎖タンパク質も提供する。
前記細胞外ドメインは、配列ID No.14のアミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含みうる。
前記細胞膜貫通ドメインは、配列ID No.12のアミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含みうる。
前記キメラFcεRIα鎖タンパク質は、非ヒト動物FcεRIα鎖のうちの細胞内ドメインをさらに含み、
当該細胞内ドメインは、配列ID No.13のアミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含みうる。
前記キメラFcεRIα鎖タンパク質は、配列ID No.8のアミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有しうる。
【0010】
また、本発明は、前記キメラFcεRIα鎖遺伝子を含むベクターも提供する。
【0011】
また、本発明は、前記キメラFcεRIα鎖遺伝子、前記キメラFcεRIα鎖タンパク質、又は前記ベクターを含む、前記非ヒト動物の細胞も提供する。
前記細胞は、前記非ヒト動物細胞のFcεRIのγ鎖の遺伝子をさらに含みうる。
前記細胞は、前記キメラFcεRIα鎖遺伝子に基づき生成されたキメラFcεRIα鎖と前記細胞のFcεRIのγ鎖とを含む会合体を形成しうる。
前記細胞は、前記会合体同士の架橋によって発現が誘導されるレポーター遺伝子をさらに含みうる。
【0012】
また、本発明は、前記細胞を含む分析用キットも提供する。
【0013】
また、本発明は、前記細胞を用いる分析方法も提供する。
前記分析方法は、
前記細胞をインキュベートするインキュベート工程、及び
前記細胞の応答を分析する分析工程
を実行することを含んでよい。
前記インキュベート工程は、前記細胞をインキュベート用材料中でインキュベートすることを含みうる。
前記分析工程は、前記応答に基づき
アレルゲン性の評価、
アレルギーの有無又はリスクの評価、
IgEについての分析、
アレルギー抑制活性の評価、及び
ドラッグスクリーニング
からなる群から選ばれる少なくとも一つを行うことを含みうる。
前記分析工程は、I型アレルギーの有無又はリスクの評価を行うことを含みうる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の細胞を説明するための模式図である。
【
図2】本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質を説明するための模式図である。
【
図3】本発明のキメラFcεRIα鎖遺伝子及びキメラFcεRIα鎖タンパク質の構成例を示す図である。
【
図4】実施例において用いられたキメラFcεRIα鎖遺伝子の塩基配列及び当該遺伝子によりコードされるアミノ酸配列を示す図である。
【
図6】遺伝子挿入のための配列を説明する図である。
【
図8】フローサイトメーターによる測定結果を示す図である。
【
図19】実施例において用いられたキメラFcεRIα鎖遺伝子及び当該遺伝子から発現するキメラFcεRIα鎖タンパク質の構造及び機能を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態を示したものであり、本発明の範囲がこれらの実施形態のみに限定されることはない。
【0016】
本発明について、以下の順序で説明を行う。
1.本発明の説明
2.第一の実施形態(キメラFcεRIα鎖遺伝子)
(1)第一塩基配列
(2)第二塩基配列
(3)第三塩基配列
(4)キメラFcεRIα鎖遺伝子全体
3.第二の実施形態(キメラFcεRIα鎖タンパク質)
(1)細胞外ドメイン
(2)細胞膜貫通ドメイン及び細胞内ドメイン
(3)シグナル配列
(4)キメラFcεRIα鎖タンパク質
4.第三の実施形態(ベクター)
5.第四の実施形態(細胞)
6.第五の実施形態(分析用キット)
7.第六の実施形態(分析方法)
8.実施例
(1)キメラFcεRIα鎖遺伝子の合成
(2)キメラFcεRIα鎖遺伝子のRBL-NL4細胞への導入
(3)キメラFcεRIα鎖遺伝子が導入された細胞におけるルシフェラーゼ発現
(4)キメラFcεRIα鎖遺伝子が導入された細胞へのIgE結合能の確認
(5)本発明の細胞に適した試験条件の検討
(6)アレルギー患者血清を用いた試験(ピーナッツアレルギー)
(7)本発明の細胞と他の細胞との比較(アレルギー検査、卵アレルギー)
(8)本発明の細胞と他の細胞との比較(アレルギー反応抑制剤の有効性評価)
(9)安定性及び再現精度
【0017】
1.本発明の説明
【0018】
現在臨床で一般的に用いられているアレルギー試験法は、例えばin vivo試験法、ex vivo試験法、in vitro試験法の3つに分けることができ、それぞれに一長一短がある。in vivo試験法は患者自身にアレルゲンを投与するため、信頼性は最も高いが、患者に負担を強いるという問題がある。ex vivo試験法では、患者の好塩基球を体外に取り出し、当該好塩基球に対してアレルゲンが投与されうる。当該ex vivo試験法は、好塩基球の活性化(例えばヒスタミンの放出又は細胞表面へのCD203c/CD63の発現など)を指標とするため、信頼度は高い。しかしながら、当該ex vivo試験法では、全血が用いられるため、サンプルの保存が利かないという問題がある。最も頻繁に利用されているin vitro試験法の一つとして、ImmunoCAP法が挙げられる。ImmunoCAP法は、患者の血清又は血漿を用いて実施することができる。ImmunoCAP法は、簡便であり且つ比較的高感度であるが、偽陽性が非常に多いという問題がある。この問題は、アレルゲン上にIgEエピトープが1カ所しか存在しない場合に起こり得ると考えられる。また、この問題は、アレルゲンとIgEとの結合アフィニティーが低く、FcεRIの架橋を維持できないことにも起因すると考えられる。
【0019】
上述したex vivo試験法では、患者の好塩基球の活性化が定量されるところ、この方法を若干修正すると、患者血清中のIgE依存的な好塩基球の活性化を調べることができる。すなわち、当該修正された方法では、まず、健常人から末梢血好塩基球を単離し、単離された好塩基球を酸処理して、結合しているIgEを当該好塩基球から乖離させる。その後、被験者由来の血清中IgEで当該好塩基球を受動的に感作し、当該感作による抗原特異的な好塩基球の活性化を調べる。しかし、この手法は手間がかかる上、同一の健常人の末梢血が常に利用できるわけではないため、試験の再現性に欠けるという問題がある。
【0020】
このような問題を解決する方法として、例えばラット培養マスト細胞株として知られるRBL-2H3細胞にヒトFcεRIを安定的に発現させた培養細胞株を用い、これをアレルギー患者血清で感作し、特異抗原を添加した際の脱顆粒量を測定する方法が、いくつかのグループにより考案された。この方法は、患者血清中のIgEによりヒトFcεRIを発現する培養マスト細胞を感作し、抗原によるFcεRIの架橋を検出できたという意味において画期的ではあった。しかしながら、この方法は、脱顆粒測定の感度が低く、偽陰性が生じる確率の高さが問題になりうる。
【0021】
上記特許文献1に記載の方法により、これらの問題に対処することができる。上記特許文献1に記載の方法では、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞が用いられる。この細胞の例として、上記特許文献1には、RBL-2H3細胞にヒトFcεRIを安定的に発現させた培養細胞株であるRBL-SX38細胞に、転写因子Nuclear Factor of Activated T-cells(NF-AT)依存的にホタルルシフェラーゼ遺伝子の発現が誘導されるレポーター遺伝子が導入された細胞株RS-ATL8細胞が開示されている。上記特許文献1に記載の方法では、当該細胞を、例えば100倍希釈した患者血清などと一晩培養することによりIgEで感作し、当該感作後に、当該細胞を特異抗原と接触させる。当該接触により、FcεRIの架橋が誘導される。当該架橋により、前記転写因子を含む細胞内シグナル伝達を経由してルシフェラーゼが発現される。これにより、非常に感度よく抗原又は特異的IgEを検出することができる。当該方法は、「IgE-Crosslinking-induced Luciferase Expression(EXiLE)法」とも呼ばれている。当該方法は、プロトコルが非常にシンプルであり、大量の検体をスクリーニングするのに適している。さらに、当該方法に関して、例えば卵白アレルギー患者を対象としたROC曲線解析では曲線下面積が0.97を超えるなど、非常に優れた性能を有している。世界中の研究者がこの手法をすでに利用しており、例えば2019年8月の時点では、欧米を中心に16カ国において利用されている。
【0022】
上記特許文献1に記載の方法は、抗原及び特異的IgEを感度良く検出することができるが、さらなる感度の向上が求められている。さらなる感度の向上は、例えば、患者IgEの生物学的意義に基づく評価、微量アレルゲンの検出、及び抗アレルギー物質のハイスループットスクリーニングのために有用であると考えられる。
【0023】
本発明者らは、ヒトFcεRIα鎖のうちの細胞外ドメインをコードする第一塩基配列と非ヒト動物FcεRIα鎖のうちの少なくとも細胞膜貫通ドメインをコードする第二塩基配列とを含むキメラFcεRIα鎖遺伝子が、アレルギー検査感度の向上のために極めて有用であることを見出した。例えば、前記キメラFcεRIα鎖遺伝子が導入された当該非ヒト動物の細胞(例えばマスト細胞)は、ヒトのアレルギーに関する試験における使用に適しており、例えばヒトのアレルギーを極めて感度良く検査するために用いられる材料として使用することができる。例えば、前記キメラFcεRIα鎖遺伝子は、例えば上記特許文献1に記載された方法において使用されてよく、特には上記特許文献1に記載された方法において用いられる細胞に導入されうる。
【0024】
以下で
図1及び2を参照しながら、本発明のキメラFcεRIα鎖遺伝子を有する細胞の例、及び、当該細胞による抗原又はIgEの検出のメカニズムを説明する。
【0025】
図1に示される細胞1は、非ヒト動物細胞である。細胞1は、本発明のキメラFcεRIα鎖遺伝子と、レポーター遺伝子と、を含む。細胞1は、さらに、当該非ヒト動物細胞のFcεRIγ鎖遺伝子を含む。当該非ヒト動物細胞は、さらに、当該非ヒト動物細胞のFcεRIβ鎖遺伝子を含んでもよい。
【0026】
細胞1中で、前記キメラFcεRIα鎖遺伝子、前記FcεRIβ鎖遺伝子、及び前記FcεRIγ鎖遺伝子が発現して、キメラFcεRIα鎖タンパク質、FcεRIβ鎖タンパク質、及びFcεRIγ鎖タンパク質が生成される。1つのキメラFcεRIα鎖タンパク質、1つのFcεRIβ鎖タンパク質、及び2つのFcεRIγ鎖タンパク質(ホモダイマー)が会合して形成された4量体であるキメラFcεRIは、
図1に示されるように、細胞1の細胞膜表面に発現する。なお、樹状細胞においては、キメラFcεRIは1つのα鎖及び2つのγ鎖からなる3量体のコンフォメーションで発現する。
【0027】
当該キメラFcεRIのより詳細な模式図を
図2Aに示す。
図2Aに示されるとおり、当該キメラFcεRIは、キメラFcεRIα鎖タンパク質(同図において
h+rαと示されている)、FcεRIβ鎖タンパク質(同図において
rβ)、及び、FcεRIγ鎖タンパク質のホモダイマー(同図において
rγ)からなる4量体である。当該α鎖タンパク質は、ヒトFcεRIα鎖に由来する第一部分(同図においてドットで示される部分)と、非ヒト動物FcεRIα鎖に由来する第二部分(同図においてグレーで示される部分)とを含む。
なお、
図1及び2は、説明のための模式図であり、実際の状態を反映しているものではないことを理解されたい。
【0028】
前記第一部分は、ヒトFcεRIα鎖のうちの細胞外ドメインを含む。当該細胞外ドメインは、文字通り、細胞外に露出していてよい。当該細胞外ドメインは、ヒトFcεRIα鎖のうちのIgE結合性領域を含む。
例えば
図2Aに示されるように、当該細胞外ドメインは、細胞外に存在し、当該α鎖タンパク質は、当該細胞外ドメインに含まれるIgE結合性領域を介して、ヒトIgE(
hIgE)と結合することができる。
【0029】
前記第二部分は、非ヒト動物FcεRIα鎖のうちの少なくとも細胞膜貫通ドメインを含む。また、当該細胞膜貫通ドメインが、非ヒト動物FcεRIγ鎖との結合に寄与し、例えば当該結合性を発揮する一つ又は複数のアミノ酸残基を含む。当該第二部分は、当該非ヒト動物FcεRIα鎖の細胞内ドメインをさらに含んでもよい。
例えば、
図2Aに示されるように、前記α鎖タンパク質は、当該細胞膜貫通ドメインのうちの前記一つ又は複数のアミノ酸残基を介して、前記γ鎖タンパク質と結合しうる。また、同図に示されるように、前記α鎖タンパク質は、当該細胞膜貫通ドメインによって、細胞膜に留まる。
【0030】
前記FcεRIβ鎖タンパク質は、前記非ヒト動物に内因的に存在する前記FcεRIβ鎖遺伝子の発現産物であってよい。
前記FcεRIγ鎖タンパク質も、前記非ヒト動物に内因的に存在する前記FcεRIγ鎖遺伝子の発現産物であってよい。
【0031】
なお、上記で述べたRS-ATL8細胞が発現するFcεRIの模式図が
図2Bに示されている。RS-ATL8細胞は、RBL-2H3細胞にヒトFcεRIを安定発現させたRBL-SX38細胞に、NF-AT依存性ホタルルシフェラーゼ発現ベクターが安定導入された細胞である。
図2Bに示されるとおり、RS-ATL8細胞において発現するFcεRIのα鎖及びγ鎖はヒトFcεRIのものであり(ドットで示される部分)、β鎖は、ラットFcεRIのものであると思われる(グレーで示される部分)。RS-ATL8細胞において発現するFcεRIは、そのα鎖がヒトFcεRIのものであるので、ヒトIgEと結合することができる。
RS-ATL8細胞のFcεRIのα鎖はその全体がヒトFcεRIのものであるのに対し、
図2Aにおける本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質は、細胞外ドメインがヒトFcεRIのものである一方で、細胞膜貫通ドメインが非ヒト動物のFcεRIのものである。
【0032】
また、上記で述べたRBL-2H3細胞が発現するFcεRIの模式図が
図2Cに示されている。当該FcεRIのα鎖、β鎖、及びγ鎖はいずれもラット由来であり、α鎖はラットIgEに結合する。
【0033】
図1に示されるように、I型アレルギーは、(1)FcεRIとIgEとの結合(感作)、(2)IgEに対する抗原(アレルゲン)と、FcεRIに結合したIgEとの結合(結合)、(3)1つの抗原に結合した複数のIgE結合FcεRI間の架橋(架橋)、(4)細胞からのヒスタミンやセロトニンなどの生理活性物質の放出(脱顆粒)、(5)生理活性物質による全身性の応答、により生じる。
【0034】
上記(3)の複数のIgE結合FcεRI間の架橋によって発現が誘導されるレポーター遺伝子の遺伝子発現を確認することで、例えばIgEに結合する抗原(特には特異的な抗原)を検出することができる。
【0035】
2.第一の実施形態(キメラFcεRIα鎖遺伝子)
【0036】
本発明のキメラFcεRIα鎖遺伝子の構成例を、
図3Aを参照しながら以下で説明する。
図3Aは、本発明のキメラFcεRIα鎖遺伝子の構成を説明するための模式図である。
図3Aにおいて、紙面左が当該遺伝子の5’末端であり、紙面右が当該遺伝子の3’末端である。
また、当該模式図の下に
図3Bが示されており、
図3Bは、本発明のキメラFcεRIα鎖遺伝子の発現により生成される本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質の構成例を示す。
図3Bにおいて、紙面左が当該タンパク質のN末端であり、紙面右が当該タンパク質のC末端である。
【0037】
図3Aに示されるとおり、本発明のキメラFcεRIα鎖遺伝子は、ヒトFcεRIα鎖のうちの細胞外ドメインをコードする第一塩基配列と、非ヒト動物FcεRIα鎖のうちの少なくとも細胞膜貫通ドメインをコードする第二塩基配列とを含む。前記第二塩基配列は、特には非ヒト動物FcεRIα鎖のうちの細胞膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインをコードし、当該細胞膜貫通ドメインが、非ヒト動物FcεRIγ鎖との結合性を発揮しうる。
本発明のキメラFcεRIα鎖遺伝子はさらに、当該遺伝子に基づき生成されたキメラFcεRIα鎖を細胞膜に発現させるためのシグナル配列をコードする第三塩基配列をさらに含みうる。
本発明のキメラFcεRIα鎖遺伝子の発現により生成されるキメラFcεRIα鎖タンパク質は、
図3Bに示されるとおり、ヒトFcεRIα鎖のうちの細胞外ドメイン1と、非ヒト動物FcεRIα鎖のうちの細胞膜貫通ドメイン2及び細胞内ドメイン3を含みうる。当該細胞外ドメイン1は、IgE結合性領域を含みうる。当該細胞膜貫通ドメイン2が、非ヒト動物FcεRIγ鎖との結合性を発揮し、当該結合性を発揮する一つ又は複数のアミノ酸残基を含みうる。当該キメラFcεRIα鎖タンパク質はさらに、当該タンパク質を細胞膜に発現させるためのシグナル配列4をさらに含みうる。
以上のとおり、前記キメラFcεRIα鎖遺伝子に含まれる前記第一塩基配列が前記キメラFcεRIα鎖タンパク質に含まれる前記細胞外ドメインに対応する。前記第二塩基配列が前記細胞膜貫通ドメイン及び前記細胞内ドメインに対応する。前記第三塩基配列が、前記シグナル配列に対応する。
【0038】
前記第一~第三塩基配列は、
図3Aに示されるとおり、5’末端から、前記第三塩基配列、前記第一塩基配列、及び前記第二塩基配列の順に並んでいてよい。
前記細胞外ドメイン、前記細胞膜貫通ドメイン、前記細胞内ドメイン、及び前記シグナル配列は、
図3Bに示されるとおり、N末端から、前記シグナル配列、前記細胞外ドメイン、前記細胞膜貫通ドメイン、及び前記細胞内ドメインの順に並んでいてよい。また、これらの領域の間には、1以上のアミノ酸残基が挿入されていてよく又は挿入されていなくてもよい。
【0039】
(1)第一塩基配列
【0040】
前記第一塩基配列は、上記のとおり、ヒトFcεRIα鎖のうちの細胞外ドメインをコードする。当該細胞外ドメインは、ヒトFcεRIα鎖のうちのIgE結合性領域を含む。当該IgE結合性領域は、ヒトのIgEに結合する領域であってよい。
【0041】
前記第一塩基配列は、好ましくは、配列ID No.7の塩基配列と70%以上、より好ましくは80%以上、さらにより好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上、92%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む。当該塩基配列にコードされるアミノ酸配列が、IgEへの結合性のために好ましく、IgE結合性領域として機能する。
【0042】
配列ID No.7は以下のとおりである。配列ID No.7は、後述の配列ID No.8(本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質)のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号110~183に対応する塩基配列である。
【0043】
【0044】
より好ましい実施態様において、前記第一塩基配列は、以下の配列ID No.3の塩基配列と70%以上、より好ましくは80%以上、さらにより好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上、92%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の配列同一性を有する塩基配列を含んでよい。当該塩基配列にコードされるアミノ酸配列は、IgEへの結合性のために好ましく、さらにはIgE結合性をもたらすための構造の維持のためにも好ましい。当該塩基配列にコードされるアミノ酸配列が、本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質における細胞外ドメイン全体を構成してよい。
配列ID No.3は、後述の配列ID No.8(本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質)のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号26~205に対応する塩基配列である。
【0045】
【0046】
また、前記第一塩基配列は、イムノグロブリンドメインとして機能する2つのアミノ酸配列をコードしていてよい。
当該2つのアミノ酸配列のうちの一つは、配列ID No.8(本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質)のアミノ酸配列のうち、アミノ酸残基番号44~108のアミノ酸配列である。当該アミノ酸配列をコードする塩基配列は、例えば、配列ID No.1のうちの塩基番号130~324に対応する。
当該2つのアミノ酸配列のうちのもう一つは、配列ID No.8のアミノ酸配列のうち、アミノ酸残基番号121~194のアミノ酸配列である。当該アミノ酸配列をコードする塩基配列は、例えば、配列ID No.1のうちの塩基番号361~582に対応する。
また、イムノグロブリンドメインとして機能するこれら2つのアミノ酸配列の間の領域は、リンカー領域とも呼ばれる。当該リンカー領域は、配列ID No.8のアミノ酸配列のうち、アミノ酸残基番号109~120のアミノ酸配列である。当該リンカー領域をコードする塩基配列は、例えば、配列ID No.1のうちの塩基番号325~360に対応する。
これらの塩基配列についても、上記で配列ID No.3について述べたとおりの配列同一性が許容される。
【0047】
なお、本明細書内において、塩基配列(又はアミノ酸配列)の「配列同一性」とは、比較すべき2つの塩基配列(又はアミノ酸配列)の塩基(又はアミノ酸残基)ができるだけ多く一致するように両塩基配列(又はアミノ酸配列)を整列させ、一致した塩基数(又は一致したアミノ酸残基数)を全塩基数(又は全アミノ酸残基数)で除したものを百分率で表したものである。前記整列化及び前記百分率の算出は、例えばBLAST等の周知のアルゴリズムを用いて行なわれてよい。
【0048】
(2)第二塩基配列
【0049】
第二塩基配列は、上記のとおり、少なくとも非ヒト動物FcεRIα鎖のうちの細胞膜貫通ドメインをコードする。当該細胞膜貫通ドメインが、γ鎖と結合する機能を有する。当該機能を発揮するために、当該細胞膜貫通ドメインは、非ヒト動物FcεRIのγ鎖との結合に関与するアミノ酸残基を含んでよい。例えば、後述の細胞膜貫通ドメインに含まれるAspが、当該結合に関与しうる。
前記非ヒト動物は、例えばげっ歯類の動物であり、好ましくはラット、マウス、又はハムスターであり、より好ましくはラット又はマウスであり、特に好ましくはラットである。
【0050】
また、第二塩基配列は、前記細胞膜貫通ドメインに加えて、当該非ヒト動物FcεRIα鎖のうちの当該細胞内ドメインを含む領域をさらにコードしてもよい。
【0051】
特に好ましくは、第二塩基配列は、非ヒト動物FcεRIα鎖のうちの当該細胞膜貫通ドメイン及び当該細胞内ドメインの両方を含む領域をコードしてよい。そして、当該細胞膜貫通ドメインが、前記非ヒト動物FcεRIγ鎖と結合する機能を有してよく、当該機能を発揮するための前記Aspを含んでよい。当該Aspは、後述の配列ID No.12におけるアミノ酸番号219のAspでありうる。
【0052】
前記第二塩基配列は、好ましくは、
配列ID No.5の塩基配列と70%以上、より好ましくは80%以上、さらにより好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上、92%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の配列同一性を有する塩基配列、及び
配列ID No.6の塩基配列と70%以上、より好ましくは80%以上、さらにより好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上、92%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の配列同一性を有する塩基配列
を含む。このような塩基配列にコードされるアミノ酸配列が、非ヒト動物FcεRIγ鎖との結合のために好ましい。
配列ID No.5の塩基配列と前記配列同一性を有する塩基配列は、非ヒト動物FcεRIα鎖の細胞膜貫通ドメインに対応する。
配列ID No.6の塩基配列と前記配列同一性を有する塩基配列は、非ヒト動物FcεRIα鎖の細胞内ドメインに対応する。
【0053】
配列ID No.5及び配列ID No.6は以下のとおりである。
配列ID No.5は、後述の配列ID No.8(本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質)のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号206~224(細胞膜貫通ドメイン)に対応する塩基配列である。
配列ID No.6は、当該アミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号225~246(細胞内ドメイン)に対応する塩基配列である。
【0054】
【0055】
【0056】
前記第二塩基配列のうち、配列ID No.5の塩基配列と前記配列同一性を有する前記塩基配列が5’末端側にあり、且つ、配列ID No.6の塩基配列と前記配列同一性を有する前記塩基配列は3’末端側にある。これら2つの塩基配列の間には、塩基配列は挿入されていなくてよい(すなわち、前者の塩基配列の直後の後者の塩基配列があってよい)が、例えば15塩基~75塩基(5アミノ酸残基~25アミノ酸残基に相当)、特には21塩基~60塩基(7アミノ酸残基~20アミノ酸残基に相当)、より特には30塩基~45塩基(10アミノ酸残基~15アミノ酸残基に相当)、より特には36塩基(12アミノ酸残基に相当)が挿入されていてもよい。
【0057】
前記細胞膜貫通ドメイン及び前記細胞内ドメインの両方を含む領域をコードする前記第二塩基配列は、配列ID No.4の塩基配列と70%以上、より好ましくは80%以上、さらにより好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上、92%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む。このような塩基配列にコードされるアミノ酸配列が、非ヒト動物FcεRIγ鎖との結合のために好ましい。
配列ID No.4は以下のとおりである。配列ID No.4は、後述の配列ID No.8(本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質)のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号206~246(細胞膜貫通ドメイン及び細胞内ドメイン)に対応する塩基配列である。
【0058】
【0059】
(3)第三塩基配列
【0060】
第三塩基配列は、上記のとおり、当該遺伝子に基づき生成されたキメラFcεRIα鎖を細胞膜に発現させるためのシグナル配列をコードする。例えば、キメラFcεRIα鎖タンパク質の細胞膜貫通(特には1回膜貫通)をもたらすためのシグナル配列をコードしうる。
本発明の一つの実施態様において、当該シグナル配列は、例えば、ヒトのFcεRIα鎖タンパク質に含まれるシグナル配列であってよく又は非ヒト動物のFcεRIα鎖タンパク質に含まれるシグナル配列であってもよい。好ましくは、当該シグナル配列は、ヒトのFcεRIα鎖タンパク質に含まれるシグナル配列である。前記第三塩基配列にコードされた当該シグナル配列によって、本発明のキメラFcεRIα鎖遺伝子から生成されたキメラFcεRIα鎖タンパク質が、細胞膜に発現される。
本発明の他の実施態様において、当該シグナル配列は、Igκに含まれるシグナル配列であってよく、例えばヒトIgκ又は非ヒト動物Igκに含まれるシグナル配列であってもよい。当該シグナル配列によっても、キメラFcεRIα鎖タンパク質が、細胞膜に発現されうる。
【0061】
前記第三塩基配列は、好ましくは、
配列ID No.2の塩基配列と70%以上、より好ましくは80%以上、さらにより好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上、92%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む。このような塩基配列が、キメラFcεRIα鎖タンパク質の細胞膜への発現にとって好ましい。
【0062】
配列ID No.2は以下のとおりである。配列ID No.2は、後述の配列ID No.8(本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質)のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号1~25(シグナル配列)に対応する塩基配列である。
【0063】
【0064】
(4)キメラFcεRIα鎖遺伝子全体
【0065】
本発明のキメラFcεRIα鎖遺伝子が、好ましくは、配列ID No.1の塩基配列と50%以上、より好ましくは60%以上、さらにより好ましくは70%以上、さらにより好ましくは80%以上、さらにより好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上、92%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の配列同一性を有する塩基配列を有する。
【0066】
配列ID No.1は以下のとおりである。配列ID No.1は、後述の配列ID No.8(本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質)のアミノ酸配列をコードする塩基配列である。
【0067】
【0068】
配列ID No.1~No.7は、げっ歯類の動物のコドン使用頻度、特にはラットのコドン使用頻度を考慮して最適化されている。そのため、前記非ヒト動物は、好ましくはげっ歯類の動物であり、より好ましくはラット、マウス、又はハムスターであり、特に好ましくはラットである。
【0069】
(製造方法)
本発明のキメラFcεRIα鎖遺伝子は、例えば当技術分野で既知の人工遺伝子合成技術によって製造することができる。例えば化学合成法又は酵素法によって、当該キメラFcεRIα鎖遺伝子を製造することができる。
また、本発明のキメラFcεRIα鎖遺伝子は、制限酵素及び/又はPCRを用いて複数の遺伝子構成要素を結合させることにより製造されてもよく、又は、非ヒト動物細胞(特にはラット細胞)のFcεRIα鎖遺伝子をゲノム編集することによって製造されてもよい。
【0070】
3.第二の実施形態(キメラFcεRIα鎖タンパク質)
【0071】
本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質の構成例が
図3Bに示されている。当該構成例は、上記「2.第一の実施形態(キメラFcεRIα鎖遺伝子)」において説明したとおりである。すなわち、当該キメラFcεRIα鎖タンパク質は、ヒトFcεRIα鎖のうちの細胞外ドメインと、非ヒト動物FcεRIα鎖のうちの細胞膜貫通ドメインとを含む。当該キメラFcεRIα鎖タンパク質はさらに非ヒト動物FcεRIα鎖のうちの細胞内ドメインを含んでよい。
前記細胞外ドメインは、ヒトFcεRIα鎖のうちのIgE結合性領域を含んでよい。また、前記細胞膜貫通ドメインが、非ヒト動物FcεRIα鎖のうちの非ヒト動物FcεRIγ鎖との結合に寄与しうる。
また、当該キメラFcεRIα鎖タンパク質はさらに、当該タンパク質を細胞膜に発現させるためのシグナル配列をさらに含みうる。
【0072】
(1)細胞外ドメイン
【0073】
前記細胞外ドメインは前記IgE結合性領域を含み、当該領域は、上記のとおり、ヒトFcεRIα鎖のうちの、ヒトIgEに結合する領域であってよい。前記細胞外ドメインは、例えば、上記で説明した本発明のキメラFcεRIα鎖遺伝子に含まれる前記第一塩基配列に対応するものであってよい。すなわち、前記細胞外ドメインは、前記第一塩基配列にコードされたアミノ酸配列を有しうる。
【0074】
前記細胞外ドメインは、好ましくは、配列ID No.14のアミノ酸配列と70%以上、より好ましくは80%以上、さらにより好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上、92%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでよい。このようなアミノ酸配列が、前記IgE結合性領域として機能する。
【0075】
配列ID No.14は以下のとおりである。配列ID No.14は、後述の配列ID No.8(本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質)のアミノ酸配列のうちのアミノ酸残基番号110~183に対応する。配列ID No.14のアミノ酸配列は、配列ID No.7の塩基配列によりコードされたアミノ酸配列でもある。
【0076】
【0077】
より好ましい実施態様において、前記細胞外ドメインは、以下の配列ID No.10のアミノ酸配列と70%以上、より好ましくは80%以上、さらにより好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上、92%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であってよい。当該アミノ酸配列は、IgEへの結合性のために好ましく、さらにはIgE結合性をもたらすための構造の維持のためにも好ましい。当該アミノ酸配列が、本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質における細胞外ドメイン全体を構成してよい。
配列ID No.10は、後述の配列ID No.8(本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質)のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号26~205のアミノ酸配列である。
【0078】
【0079】
また、前記細胞外ドメインは、2つのイムノグロブリンドメインを含んでよい。当該2つのイムノグロブリンドメインのうちの一つは、配列ID No.8(本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質)のアミノ酸配列のうち、アミノ酸残基番号44~108のアミノ酸配列により形成されうる。当該2つのアミノ酸配列のうちのもう一つは、配列ID No.8のアミノ酸配列のうち、アミノ酸残基番号121~194のアミノ酸配列により形成されうる。
また、イムノグロブリンドメインとして機能するこれら2つのアミノ酸配列の間の領域は、リンカー領域とも呼ばれる。当該リンカー領域は、配列ID No.8のアミノ酸配列のうち、アミノ酸残基番号109~120のアミノ酸配列により形成されうる。
これらのアミノ酸配列についても、上記で配列ID No.10について述べたとおりの配列同一性が許容される。
このようなアミノ酸配列が、IgEへの結合のために適している。
【0080】
(2)細胞膜貫通ドメイン及び細胞内ドメイン
【0081】
前記細胞膜貫通ドメインは、前記非ヒト動物FcεRIγ鎖と結合する機能を有してよい。当該機能を発揮するために、前記細胞膜貫通ドメインは、当該機能を発揮する1つ又は複数のアミノ酸残基を含みうる。例えば、後述の細胞膜貫通ドメインに含まれるAspが、当該結合に関与しうる。
【0082】
すなわち、本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質は、非ヒト動物FcεRIα鎖の細胞膜貫通ドメインを少なくとも含んでよい。そして、当該細胞膜貫通ドメインが、前記非ヒト動物FcεRIγ鎖との結合に機能を発揮する1つ又は複数のアミノ酸残基を含みうる。当該細胞膜貫通ドメインは、そのようなアミノ酸残基としては、例えば前記Aspを含んでよい。
【0083】
また、本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質は、当該非ヒト動物FcεRIα鎖の細胞内ドメインをさらに含んでよい。特に好ましくは、本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質は、当該非ヒト動物FcεRIα鎖の細胞膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインの両方を含む。
【0084】
前記細胞膜貫通ドメインは、好ましくは、配列ID No.12のアミノ酸配列と70%以上、より好ましくは80%以上、さらにより好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上、92%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでよい。
配列ID No.12のアミノ酸配列と前記配列同一性を有するアミノ酸配列は、非ヒト動物FcεRIα鎖の細胞膜貫通ドメインに対応する。
【0085】
前記細胞内ドメインは、好ましくは、配列ID No.13のアミノ酸配列と70%以上、より好ましくは80%以上、さらにより好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上、92%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでよい。このようなアミノ酸配列が、非ヒト動物FcεRIγ鎖との結合のために好ましい。
配列ID No.13のアミノ酸配列と前記配列同一性を有するアミノ酸配列は、非ヒト動物FcεRIα鎖の細胞内ドメインに対応する。
【0086】
配列ID No.12及び配列ID No.13は以下のとおりである。
配列ID No.12は、後述の配列ID No.8(本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質)のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号206~224(細胞膜貫通ドメイン)である。配列ID No.12のアミノ酸配列は、配列ID No.5の塩基配列によりコードされたアミノ酸配列でもある。
配列ID No.13は、当該アミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号225~246(細胞内ドメイン)に対応する塩基配列である。配列ID No.13のアミノ酸配列は、配列ID No.6の塩基配列によりコードされたアミノ酸配列でもある。
【0087】
【0088】
【0089】
非ヒト動物FcεRIγ鎖への良好な結合性の観点から、本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質は、配列ID No.12のアミノ酸配列と配列ID No.13のアミノ酸配列との両方を含むものであってよい。
【0090】
配列ID No.12のアミノ酸配列と前記配列同一性を有する前記アミノ酸配列がN末端側にあり、且つ、配列ID No.13のアミノ酸配列と前記配列同一性を有する前記アミノ酸配列はC末端側にあってよい。これら2つのアミノ酸配列の間には、アミノ酸残基は挿入されていなくてよい(すなわち、前者のアミノ酸配列の直後の後者のアミノ酸配列があってよい)が、例えば5アミノ酸残基~25アミノ酸残基、特には7アミノ酸残基~20アミノ酸残基、より特には10アミノ酸残基~15アミノ酸残基、より特には12アミノ酸残基が挿入されていてもよい。
【0091】
本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質が、当該非ヒト動物FcεRIα鎖の細胞膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインの両方を含む場合において、当該タンパク質は、好ましくは、配列ID No.11のアミノ酸配列と70%以上、より好ましくは80%以上、さらにより好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上、92%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでよい。
配列ID No.11のアミノ酸配列と前記配列同一性を有するアミノ酸配列は、非ヒト動物FcεRIα鎖の細胞膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインに対応する。
配列ID No.11は以下のとおりである。
【0092】
【0093】
配列ID No.11は、後述の配列ID No.8(本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質)のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号206~246(細胞膜貫通ドメイン及び細胞内ドメイン)である。配列ID No.11のアミノ酸配列は、配列ID No.4の塩基配列によりコードされたアミノ酸配列でもある。
【0094】
(3)シグナル配列
【0095】
前記シグナル配列は、上記のとおり、キメラFcεRIα鎖を細胞膜に発現させるためのシグナル配列である。前記シグナル配列は、本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質の、細胞膜への移行を促進する。
【0096】
前記シグナル配列は、好ましくは、配列ID No.9のアミノ酸配列と70%以上、より好ましくは80%以上、さらにより好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上、92%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。このようなアミノ酸配列が、キメラFcεRIα鎖タンパク質の細胞膜への発現にとって好ましい。
【0097】
配列ID No.9は以下のとおりである。配列ID No.9は、後述の配列ID No.8(本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質)のアミノ酸配列のうちアミノ酸残基番号1~25(シグナル配列)である。また、配列ID No.9のアミノ酸配列は、配列ID No.2の塩基配列によりコードされたアミノ酸配列でもある。
【0098】
【0099】
(4)キメラFcεRIα鎖タンパク質
【0100】
本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質は、好ましくは、配列ID No.8のアミノ酸配列と70%以上、より好ましくは80%以上、さらにより好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上、92%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。
【0101】
配列ID No.8は以下のとおりである。
【0102】
【0103】
また、本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質は、非ヒト動物FcεRIγ鎖の細胞内ドメインをさらに含んでもよい。これにより、本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質が発現される細胞におけるγ鎖の役割を、当該α鎖タンパク質が果たすことができ、当該細胞においてγ鎖が発現されなくてもよい。
また、本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質は、例えばLyn又はSykなどのチロシンキナーゼのキナーゼドメインをさらに含んでもよい。当該キナーゼドメインは、配列ID No.13のアミノ酸配列と前記配列同一性を有するアミノ酸配列の下流に挿入されてよい。当該キナーゼドメインによって、本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質が発現される細胞におけるシグナル伝達を調節することができ、例えば脱顆粒などのアレルギー応答を制御することができる。
これらの構成要素により、宿主細胞のγ鎖又はチロシンキナーゼに依存せずに細胞内シグナリングを誘導することができるようになる。なお、これらの構成要素が含まれる場合は、当該誘導のために、好ましくは、前記キメラFcεRIα鎖タンパク質は、細胞膜貫通ドメインとして、例えばCD8又はIL2Raの細胞膜貫通ドメインを含みうる。
【0104】
本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質は、本発明のキメラFcεRIα鎖遺伝子を用いて生成されうる。例えば、本発明のキメラFcεRIα鎖遺伝子を、当該遺伝子に含まれる第二塩基配列がコードする細胞膜貫通ドメインが由来する非ヒト動物の細胞において発現させることによって、本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質は生成されうる。例えば、当該遺伝子が導入された細胞の細胞膜に、本発明のキメラFcεRIα鎖タンパク質が発現しうる。
【0105】
4.第三の実施形態(ベクター)
【0106】
本発明は、前記キメラFcεRIα鎖遺伝子を含むベクターも提供する。当該ベクターによって、当該遺伝子を非ヒト動物細胞に導入することができる。当該ベクターは、非ヒト動物細胞への導入に際して、リニアライズされてよく、又は、されなくてもよい。
【0107】
前記ベクターは、例えば当技術分野で既知のプラスミドに前記キメラFcεRIα鎖遺伝子を挿入することによって製造されてよい。当該プラスミドは、例えば少なくとも一つのクローニングサイトを有し、当該クローニングサイトを利用して、前記キメラFcεRIα鎖遺伝子が当該プラスミドに挿入されうる。
【0108】
プラスミドの種類は、非ヒト動物細胞の種類に応じて当業者により適宜選択されてよく、プラスミドの例として、例えばpcDNA3.1(+)ベクター(Invitrogen社)を挙げることができる。
【0109】
本発明のベクターは、例えば、Kozak配列を含みうる。当該Kozak配列によって、翻訳開始効率を高めることができる。当該Kozak配列は、例えば、前記キメラFcεRIα鎖遺伝子の開始コドンと、当該開始コドンの直前(5’端側)の1塩基~6塩基と、当該開始コドンの直後(3’端側)の1塩基~6塩基(特には1塩基)と、から構成されてよい。
【0110】
5.第四の実施形態(細胞)
【0111】
本発明は、前記キメラFcεRIα鎖遺伝子、前記キメラFcεRIα鎖タンパク質、又は前記ベクターを含む、非ヒト動物の細胞も提供する。
【0112】
前記キメラFcεRIα鎖遺伝子は、例えば、前記非ヒト動物の細胞の染色体に組み込まれていてよく、又は、前記非ヒト動物の細胞内に導入されたベクター内に組み込まれていてもよい。安定的な発現のために、好ましくは、前記キメラFcεRIα鎖遺伝子は、前記非ヒト動物の細胞の染色体に組み込まれている。
【0113】
本発明の細胞は、好ましくは、前記非ヒト動物細胞のFcεRIのγ鎖の遺伝子をさらに含む。さらに、本発明の細胞は、前記キメラFcεRIα鎖遺伝子に基づき生成されたキメラFcεRIα鎖タンパク質と前記細胞のFcεRIのγ鎖タンパク質とを含む会合体を形成しうる。当該会合体には、当該α鎖1つと当該γ鎖2つとが含まれていてよい。すなわち、当該γ鎖遺伝子の発現産物である非ヒト動物FcεRIγ鎖タンパクが、前記キメラFcεRIα鎖タンパク質と会合体を形成しうる。当該会合体は、ヒトIgEのFcレセプターとして機能し、ヒトIgEを高親和性に結合した複合体を形成する。1つの抗原が複数(例えば2つ)の当該IgEと結合することにより複数(例えば2つ)の当該複合体が架橋されることでアレルギー反応が起こる。このように、前記非ヒト細胞が前記γ鎖遺伝子をさらに含むことで、前記非ヒト細胞は、アレルギー反応を引き起こすことができ、これは種々のアレルギー検査を実行するために有用である。
【0114】
本発明の細胞は、より好ましくは、前記非ヒト動物細胞のFcεRIのβ鎖の遺伝子をさらに含む。当該β鎖遺伝子に基づき生成された非ヒト動物FcεRIのβ鎖により、前記架橋によるシグナル伝達を増強することができる。
【0115】
前記γ鎖遺伝子及び前記β鎖遺伝子は、前記非ヒト動物に内在されているものであってよく、例えば前記非ヒト動物細胞の染色体内に天然に存在するものであってよい。例えば、ラットのγ鎖遺伝子及びβ鎖遺伝子の配列情報は、NCBI Reference Sequenceデータベースより入手可能である。例えばラットのγ鎖遺伝子の情報(配列情報を含む)は、ウェブページ(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/NM_001131001)より入手可能である。また、ラットのβ鎖遺伝子の情報(配列情報を含む)は、ウェブページ(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/M22923.1)より入手可能である。また、これら遺伝子から発現するタンパク質のアミノ酸配列情報は、uniprotデータベース(https://www.uniprot.org/)より入手することができる。
【0116】
本発明の細胞は、前記キメラFcεRIα鎖遺伝子に基づき生成されたキメラFcεRIα鎖と、前記細胞の非ヒト動物FcεRIのβ鎖と、前記細胞の非ヒト動物FcεRIのγ鎖とを含む会合体を形成しうる。当該会合体には、当該α鎖1つと、当該β鎖1つと、当該当該γ鎖2つとが含まれていてよい。すなわち、当該会合体は4量体であり、本発明の細胞は、好ましくは、当該4量体を形成するように構成されていてよい。当該4量体によって、前記アレルギー反応に関与するシグナル伝達が増強されうる。これにより、当該細胞を用いたアレルギー検査を、より感度良く実行することができる。
【0117】
本発明の細胞は、より好ましくは、前記会合体同士の架橋によって発現が誘導されるレポーター遺伝子をさらに含む。当該レポーター遺伝子によって、当該細胞を用いたアレルギー検査を感度良く実行することができる。
【0118】
当該レポーター遺伝子は、上記のとおり、前記会合体同士の架橋によって発現が誘導される遺伝子である。このように誘導される遺伝子は、好ましくは、前記架橋によって活性化した転写因子によって発現が誘導されるように構成されうる。当該転写因子は、NF-AT、NF-κB、AP-1、Elk-1、Egr-1、GATA-1、及びGATA-2からなる群から選ばれるいずれか一つであってよく、好ましくはNF-AT である。NF-ATの活性化は、被験物質の中から被験者に対してI型アレルギーを誘発する可能性があるアレルゲンを検出するために適している。
【0119】
例えば、当該レポーター遺伝子は、前記活性化転写因子が結合しうるエンハンサーの制御下にあってよい。当該レポーター遺伝子の上流には、プロモーターが配置されていてもよい。例えば、本発明の細胞は、前記エンハンサーと、当該エンハンサーの制御下にあるプロモーター及びレポーター遺伝子を含む。前記エンハンサー、前記プロモーター、及び前記レポーター遺伝子は、例えばこれら3つの要素を含む領域(以下「レポーター遺伝子領域」ともいう)を有するベクター(例えばプラスミド)によって、前記細胞に導入されてよい。当該レポーター遺伝子領域は、前記非ヒト動物細胞の染色体内に導入されてよく、又は、前記非ヒト動物細胞中のベクター内に存在していてもよい。好ましくは、当該レポーター遺伝子領域は、前記非ヒト動物細胞の染色体内に導入されている。これにより、当該レポーター遺伝子の安定的な発現が可能となる。当該レポーター遺伝子領域は、例えば相同組み換えによって、染色体内に導入されうる。
【0120】
前記エンハンサーの配列は、前記転写因子の種類に応じて当業者により適宜選択されてよく、例えば以下表1に示される配列のいずれかであってよい。以下の表1の左列には、エンハンサー配列が記載されている。各エンハンサー配列は括弧で囲まれており、当該括弧の外に記載されている数字は、エンハンサー配列の反復回数の例である。本技術において、レポーター遺伝子に含まれるエンハンサーのエンハンサー配列反復回数は、表1に記載された数に限定されず、例えば1~15、2~15、特には2~10、より特には3~10のうちのいずれかの数であってよい。表1の右列には、各エンハンサー配列に結合する転写因子が記載されている。
【0121】
【0122】
前記プロモーターは、細胞のRNAポリメラーゼを含む複合体が結合する配列を有するものであってよく、例えばTATAボックスを有するプロモーターであってよく、好ましくは配列TATATAAを有するプロモーターであってよい。
【0123】
前記レポーター遺伝子は、例えば、酵素をコードする遺伝子、蛍光タンパク質をコードする遺伝子、及び表面抗原(前記非ヒト動物に内在しないもの)をコードする遺伝子のうちのいずれかであってよい。
前記酵素をコードする遺伝子は、例えば、ルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、及び西洋ワサビペルオキシダーゼのうちのいずれか1つ又はそれ以上であってよい。
前記蛍光タンパク質をコードする遺伝子は、例えば、緑蛍光タンパク質(GFP)、Sirius、EBFP、ECFP、EGFP、Venus、及びDsRedのうちのいずれか1つ又はそれ以上であってよい。
本発明の非ヒト動物細胞は、同じ又は異なる種類のレポーター遺伝子を1つ又はそれ以上有していてよい。好ましくは、本発明の非ヒト動物細胞は、1、2、3、4、又は5つのレポーター遺伝子を含んでよい。
【0124】
本発明の細胞は、非ヒト動物の細胞であってよい。前記非ヒト動物は、例えばげっ歯類の動物であってよく、好ましくはラット、マウス、又はハムスターであってよく、より好ましくはラットである。
【0125】
本発明の非ヒト動物細胞は、好ましくは前記キメラFcεRIα鎖タンパク質と当該非ヒト動物細胞に由来するFcεRIγ鎖タンパク質とが会合体を形成するように構成されている細胞であり、より好ましくは前記キメラFcεRIα鎖タンパク質と当該非ヒト動物細胞に由来するFcεRIβ鎖タンパク質及びFcεRIγ鎖タンパク質とが会合体を形成するように構成されている細胞である。このような細胞として、例えば、マスト細胞(肥満細胞)、好塩基球、樹状細胞、好酸球、単球、マクロファージ、及びランゲルハンス細胞を挙げることができる。すなわち、本発明の細胞は、これらの列挙された細胞のうちのいずれか一つであってよく、より好ましくはマスト細胞、好塩基球、又は樹状細胞であり、さらにより好ましくはマスト細胞である。
本発明の非ヒト動物細胞は、好ましくは、ラットのマスト細胞、好塩基球、若しくは樹状細胞、又は、マウスのマスト細胞、好塩基球、若しくは樹状細胞であり、より好ましくは、ラット又はマウスのマスト細胞である。
【0126】
本発明の非ヒト動物細胞は、例えば、動物体内から単離された細胞又は株化した細胞に前記キメラFcεRIα鎖遺伝子を導入することにより得られてよい。本発明において用いられうる当該株化した細胞の例として、ラットマスト細胞株であるRBL-2H3細胞(細胞番号:JCRB0023、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所JCRB細胞バンクより入手可能、又は、細胞番号:CRL-2256、ATCC(商標)より入手可能)及びマウスマスト細胞株であるMC/9細胞(ATCC(商標)より入手可能)を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0127】
本発明の非ヒト動物細胞は、例えば、受託番号:NITE BP-03230で寄託された細胞であってよい。当該細胞は、寄託日を令和2年(2020年)6月17日として、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)に国際寄託された。
【0128】
本発明の非ヒト動物細胞は、例えば、分析方法において用いられてよく、例えば以下「7.第六の実施形態(分析方法)」において説明する分析方法において用いられてよい。
また、本発明の非ヒト動物細胞は、例えば、上記特許文献1に記載の方法における細胞として使用するために適している。すなわち、本発明の非ヒト動物細胞は、上記で述べたEXiLE法において使用されてよい。
【0129】
6.第五の実施形態(分析用キット)
【0130】
本発明は、本発明の細胞を含む分析用キットを提供する。前記キットは、例えばアレルギーに関する分析又は診断のために用いられうる。前記キットは、例えばアレルゲン性の評価、アレルギーの有無又はリスクの評価、IgEについての分析、アレルギー抑制活性の評価、及びドラッグスクリーニングからなる群から選ばれる少なくとも一つの試験を実行するために用いられるキットであってよい。
【0131】
本発明のキットは、レポーター遺伝子の発現検出用材料を含みうる。当該検出用材料は、例えばレポーター遺伝子が酵素を発現する場合、当該酵素の基質を含んでよく、例えばルシフェラーゼの基質を含みうる。
【0132】
本発明のキットは、例えば、本発明の細胞をインキュベートするために用いられるインキュベート材料を含みうる。当該インキュベート用材料は、前記細胞をインキュベートするために用いられる材料を意味してよく、例えば前記細胞がインキュベートされる培地又はバッファーであってよい。当該インキュベート材料は、例えば感作用インキュベートのためのインキュベート材料、細胞応答誘導用インキュベートのためのインキュベート材料であってもよい。また、当該インキュベート材料は、感作及び細胞応答誘導の両方のインキュベート材料であってもよい。
【0133】
前記培地として、例えばMEM培地を挙げることができるが、これに限定されない。当該培地は、例えばウシ胎児血清などの補助成分を含んでもよい。
前記バッファーとして、例えばPBSを挙げることができるがこれに限定されない。当該PBSは、例えば細胞洗浄液として用いられうる。
【0134】
本発明のキットは、細胞感作成分を含みうる。当該成分は、上記で述べた感作用インキュベートのためのインキュベート材料に含まれていてもよく、例えば培地又はバッファー中に含まれていてよい。又は、当該成分は、培地又はバッファーに含まれていない状態で、前記キットに含まれていてもよい。
当該細胞感作成分は、本発明の細胞を感作させることができる成分であってよい。細胞感作成分は、例えばIgE又はキメラIgEである。当該IgEは、霊長類のIgEであってよく、例えばヒト又は非ヒト霊長類(特にはサル)のIgEであってよく、好ましくはヒトのIgEである。当該IgEは、精製又は単離されたIgEであってよく、又は、精製又は単離されていないIgEであってもよい。また、前記キメラIgE、例えばFc部がヒト化されたキメラIgEであってよい。
当該細胞感作成分は、生体材料であってもよく、例えば全血、血清、血しょう、又は血液に含まれる成分(例えば血液細胞)などであってもよい。
【0135】
本発明のキットは、細胞応答誘導成分を含みうる。当該成分は、上記で述べた細胞応答誘導用インキュベートのためのインキュベート材料に含まれていてもよく、例えば培地又はバッファー中に含まれていてよい。又は、当該成分は、培地又はバッファーに含まれていない状態で、前記キットに含まれていてもよい。
前記細胞応答誘導成分は、例えば、前記細胞感作成分に結合して本発明の細胞の応答を誘導する成分であってよく、例えば、前記IgE又はキメラIgEに結合する成分であってよい。細胞応答誘導成分は、例えば抗IgE抗体であってよく、又は、IgE又はキメラIgEと結合する(例えば特異的に結合する)抗原又は抗原候補物質であってよい。
前記細胞応答誘導成分は、当該抗原又は抗原候補物質は、例えば被験者に対してアレルギー反応(特にはI型アレルギー反応)を引き起こし得る物質(すなわちアレルゲンとなる可能性のある物質)であってよい。当該物質として、例えば、塵;埃;ふけなどの皮屑;スギ花粉、ヤシャブシ花粉、イネ科花粉、キク科花粉などの花粉;カビなどの真菌;ユスリカやゴキブリなどの昆虫;昆虫や魚介類などが有する刺激性または毒性の物質;大豆、卵、小麦、牛乳、ソバ、落花生、えび、かになどに含まれる物質;ペニシリンなどの薬剤に含まれる物質;排泄物などに含まれる動物の体に由来する物質;小麦粉や木材加工の際に生じる粉塵などの植物性物質;その他の天然または化学合成物質を挙げることができるが、これに限定されない。例えば、被験者が卵白をアレルゲンとするかどうかを検出したい場合には、たとえば、被験物質としてオブアルブミン、オボムコイド、リゾチームなどの卵白中に存在する物質の精製品や卵白抽出物を用いることができる。IgEとしてキメラIgEを用いる場合は、抗原として例えばニトロフェニル基のような低分子ハプテンを用いることもできる。
【0136】
本発明のキットはさらに、試験において用いられる陽性対照材料及び/又は陰性対照材料を含みうる。陽性対照材料は、例えばカルシウムイオノフォア(例えばイオノマイシンなど)を含みうる。陰性対照材料は、例えば培地であってよい。
また、本発明のキットは、転写因子の活性を抑制する物質を含んでもよく、例えばNF-ATの活性を抑制する物質を含んでもよい。当該物質は、例えばシクロスポリンAまたはタクロリムスでありうる。なお、本発明のキットが、抗アレルギー活性物質のスクリーニング用キットである場合は、当該物質は、抗アレルギー活性物質の陽性対照として用いられうる。
【0137】
本発明のキットはさらに薬剤を含みうる。
当該薬剤は、感作阻害剤であってよく、又は、感作を阻害することが期待される薬剤であってもよい。当該薬剤は、例えば、IgE又はキメラIgEに結合する成分であってよく、例えば抗IgE抗体又は抗キメラIgE抗体でありうる。
当該薬剤は、細胞応答阻害剤であってよく、又は、細胞応答を阻害することが期待される薬剤であってもよい。当該薬剤は、例えばFcεRIの架橋によるシグナル伝達を阻害するシグナル伝達阻害剤であってよい。
【0138】
本発明のキットはさらに、試験のための反応が行われる容器、特には本発明の細胞が保持される空間を有する容器を含みうる。当該容器の例として、例えばウェルプレート(96ウェルプレートなど)を挙げることができる。
【0139】
7.第六の実施形態(分析方法)
【0140】
本発明は、本発明に従う細胞を用いる分析方法も提供する。当該方法は、アレルギーに関する分析又は診断のために行われうる。当該方法は、当該細胞を用いて、例えばアレルゲン性の評価、アレルギーの有無若しくはリスクの評価、IgEについての分析、アレルギー抑制活性の評価、又はドラッグスクリーニングを行うことを含みうる。すなわち、本発明の分析方法は、アレルゲン性の評価方法、アレルギーの有無若しくはリスクの評価方法、IgEの分析方法、アレルギー抑制活性の評価方法、又はドラッグスクリーニング方法として構成されてよい。
【0141】
本発明の方法は、例えば、上記特許文献1に記載された方法を実行するように行われてよく、すなわち、EXiLE法を実行するように行われてよい。
【0142】
また、本発明の方法は、抗原特異的なIgEのセカンドスクリーニングのために行われうる。例えば、生物学的に意義のあるIgEかどうかの評価、中和抗体のアッセイ、又は交差反応性のアッセイのために、本発明の方法が実行されてよい。
また、本発明の方法は、ドラッグスクリーニング、特にはハイスループットなドラッグスクリーニングのために行われうる。例えば、IgEとFcεRIとの結合を阻害する物質の選択又は評価のために、又は、細胞(特にはマスト細胞又は好塩基球など)の細胞内シグナル伝達阻害物質の選択又は評価のために、本発明の方法が行われてよい。
また、本発明の方法は、基礎科学研究のために行われてよい。例えば、メカニズム解析又はバイオマーカー探索のために、本発明の方法が行われてよい。
【0143】
本発明の方法は、例えば、本発明に従う細胞をインキュベートするインキュベート工程及び/又は前記細胞の応答を分析する分析工程を含みうる。
【0144】
前記インキュベート工程において、例えば本発明に従う細胞がインキュベートされうる。前記インキュベート工程は、後述するとおり、2又はそれ以上のインキュベート工程から構成されてよい。
【0145】
前記インキュベート工程は、例えば、本発明に従う細胞をインキュベート用材料中でインキュベートすることを含みうる。本明細書内において、「インキュベート用材料」は、前記細胞をインキュベートするために用いられる材料を意味し、例えば前記細胞がインキュベートされる培地又はバッファーであってよい。
【0146】
前記分析工程において、本発明に従う細胞の応答が分析されうる。当該分析は、例えば、上記で説明したレポーター遺伝子の発現の分析であってよい。当該レポーター遺伝子の発現は、上記「5.第四の実施形態(細胞)」において説明した前記会合体同士の架橋によって誘導される発現であってよい。レポーター遺伝子の発現分析の具体的な手法は、レポーター遺伝子の種類に応じて当業者により適宜選択されてよい。例えば、レポーター遺伝子が、酵素タンパク質を発現する場合は、分析工程において、当該酵素タンパク質による酵素反応の分析が行われうる。例えば、酵素タンパク質がルシフェラーゼである場合、ルシフェラーゼによる基質分解によって生じる発光が分析されうる。例えば、レポーター遺伝子が蛍光タンパク質を発現する場合は、分析工程において、当該蛍光タンパク質から生じた蛍光の分析が行われうる。
【0147】
また、前記分析は、当該細胞におけるアレルギー応答の分析であってよく、特にはI型アレルギー応答の分析であってもよい。当該分析において、例えば脱顆粒などのアレルギー応答が分析されうる。
【0148】
前記分析工程は、前記インキュベート工程の後に実行されてよく、又は、前記インキュベート工程が行われている間に実行されてもよい。例えば、前記分析工程は、2以上のインキュベート工程のうちのいずれか一つのインキュベート工程が行われている間(特には最後のインキュベート工程が行われている間)に実行されてもよい。
【0149】
本発明の一つの実施態様において、前記インキュベート工程は、2つのインキュベート工程を含む。以下これら2つのインキュベート工程を、「第一インキュベート工程」及び「第二インキュベート工程」ともいう。第一インキュベート工程は、本発明に従う細胞に感作をもたらすための処理を行う感作用インキュベート工程であってよい。第二インキュベート工程は、当該処理が行われた細胞における応答を誘導する細胞応答誘導用インキュベート工程であってよい。
【0150】
この実施態様において、前記分析工程は、例えば第一インキュベート工程が行われている間に実行されてよく、第一インキュベート工程と前記第二インキュベート工程との間に実行されてよく、前記第二インキュベート工程が行われている間に実行されてよく、又は、前記第二インキュベート工程の後に実行されてよい。
【0151】
以下、これらの工程についてそれぞれ説明する。
【0152】
(1-1)第一インキュベート工程
【0153】
前記第一インキュベート工程において用いられるインキュベート用材料は、感作用材料又は感作分析用材料であってよい。すなわち、前記第一インキュベート工程は、前記細胞を、感作用材料又は感作分析用材料中でインキュベートすることを含む。当該材料は、例えば培地又はバッファーでありうる。前記培地又は前記バッファーの種類は、例えば分析の目的などに応じて当業者により適宜選択されてよい。例えば、当該培地は、MEM培地であってよい。当該材料は、補助成分を含んでよく、例えばウシ胎児血清(FBS)を含みうる。当該材料は、補助成分として、例えば1又は2以上の抗生物質を含んでもよい。
【0154】
本明細書内において、「感作用材料」は、前記細胞を感作させるために用いられる材料をいう。当該感作用材料は、前記細胞を感作させることができる成分(本明細書内において「細胞感作成分」ともいう)を含む材料を意味してよい。
前記「細胞感作成分」は、例えばIgE又はキメラIgEである。当該IgE又はキメラIgEは、霊長類のIgE又はキメラIgEであってよく、例えばヒト又は非ヒト霊長類(特にはサル)のIgE又はキメラIgEであってよく、好ましくはヒトのIgE又はキメラIgEである。当該IgE又はキメラIgEは、精製又は単離されたIgE又はキメラIgEであってよく、又は、精製又は単離されていないIgE又はキメラIgEであってもよい。
前記「細胞を感作させることができる成分を含む材料」は、例えば細胞感作成分を含む培地又はバッファーであってよく、特には当該成分を含む培地である。
本発明の一つの実施態様において、前記感作用材料は、例えば精製又は単離されたIgEを含む材料(特には培地又はバッファー)であってよい。
本発明の他の実施態様において、前記感作用材料は、IgEを含むことが既知の生体成分(特には霊長類由来生体成分、ヒト又は非ヒト霊長類(サル)に由来する生体成分)を含む材料(培地又はバッファー)であってよく、より具体的には全血、血清、若しくは血しょう、又は血液構成成分(例えば血液細胞)を含む材料(培地又はバッファー)などであってよい。
【0155】
本明細書内において、前記「感作分析用材料」は、前記細胞を感作させることができるかに関する分析の対象となる材料をいう。当該感作分析用材料は、前記細胞感作成分を含みうる材料を意味してよい。
前記「細胞感作成分」は、上記で述べたとおりであってよい。
前記「細胞感作成分を含みうる材料」、当該成分を含むかどうかが不明である材料(培地又はバッファー)であってよく、又は、当該成分を含むことが既知であるが当該成分の種類又は含有量が不明である材料であってよい。例えば、当該材料は、本発明の方法を実施した結果、当該成分を含むこと若しくは含まないことが判明する材料、又は、当該成分の含有量及び/若しくは種類が判明する材料であってもよい。
【0156】
(1-2)第二インキュベート工程
【0157】
前記第二インキュベート工程において用いられるインキュベート用材料は、細胞応答誘導用材料又は細胞応答誘導分析用材料であってよい。すなわち、前記第二インキュベート工程は、前記細胞を、細胞応答誘導用材料又は細胞応答誘導分析用材料中でインキュベートすることを含む。当該材料は、例えば培地又はバッファーでありうる。前記培地又は前記バッファーの種類は、例えば分析の目的などに応じて当業者により適宜選択されてよい。例えば、当該培地は、MEM培地であってよい。当該材料は、補助成分を含んでよく、例えばウシ胎児血清(FBS)を含みうる。当該材料は、補助成分として、例えば1又は2以上の抗生物質を含んでもよい。
【0158】
本明細書内において、「前記細胞応答誘導用材料」は、細胞の応答を誘導する成分(以下「細胞応答誘導成分」ともいう)、特には感作された細胞の応答を誘導する成分を含む材料であってよい。
「前記細胞応答誘導用材料」は、前記細胞応答誘導成分に加えて、上記で説明した細胞感作成分を含んでよく又は含まなくてもよい。
前記細胞応答誘導成分は、例えば、前記細胞感作成分に結合して本発明の細胞の応答を誘導する成分であってよく、例えば、前記IgE又はキメラIgEに結合する成分であってよい。細胞応答誘導成分は、例えば抗IgE抗体であってよく、又は、IgE又はキメラIgEと結合する(例えば特異的に結合する)抗原又は抗原候補物質であってよい。
【0159】
前記細胞応答誘導成分により誘導される細胞応答は、例えば、上記で説明したレポーター遺伝子の発現であってよい。特には、当該発現は、前記会合体同士の架橋によって誘導される発現であってよい。
また、前記細胞応答は、当該細胞のアレルギー応答であってもよく、特にはI型アレルギーに関する細胞応答であってよい。前記細胞応答は、例えば脱顆粒などのアレルギー応答であってよい。
【0160】
本明細書内において、前記「細胞応答誘導分析用材料」は、細胞応答を誘導することができるかの分析対象となる材料をいう。前記「細胞応答誘導分析用材料」は、例えば、細胞応答誘導成分を含みうる材料を意味してよく、特には感作された細胞の応答を誘導する成分を含みうる材料を意味してよい。
前記「細胞応答誘導成分」は、上記で述べたとおりであってよい。
前記「細胞応答誘導成分を含みうる材料」は、当該成分を含むかどうかが不明である材料(培地又はバッファー)であってよく、又は、当該成分を含むことは既知であるが当該成分の種類及び/又は含有量が不明である材料であってよい。例えば、当該材料は、本発明の方法を実施した結果、当該成分を含むこと若しくは含まないことが判明する材料、又は、当該成分の含有量及び/若しくは種類が判明する材料であってもよい。
【0161】
(1-3)分析工程
【0162】
前記分析工程において、前記細胞の応答が分析される。当該応答は、例えば、上記で説明したレポーター遺伝子の発現であってよい。特には、当該発現は、前記会合体同士の架橋によって誘導される発現であってよい。レポーター遺伝子の発現分析の具体的な手法は、レポーター遺伝子の種類に応じて当業者により適宜選択されてよい。例えば、レポーター遺伝子が、酵素タンパク質を発現する場合は、分析工程において酵素反応の分析が行われうる。例えば、酵素タンパク質がルシフェラーゼである場合、ルシフェラーゼによる基質分解によって生じる発光が分析されうる。例えば、レポーター遺伝子が蛍光タンパク質を発現する場合は、分析工程において蛍光分析が行われうる。
【0163】
また、前記応答は、当該細胞のアレルギー応答であってもよく、特にはI型アレルギーに関する細胞応答であってよく、例えば細胞内カルシウムイオン濃度上昇や脱顆粒などのアレルギー応答であってよい。これらのアレルギー応答は、蛍光指示薬を用いて測定されてよい。
また、前記応答を分析するために、エバネッセント波を用いて、アレルギー応答に伴う細胞膜の屈折率変化などが測定されてもよい。
【0164】
(1-4)薬剤の使用
【0165】
本発明の分析方法において、本発明の細胞における応答に影響を及ぼしうる薬剤が用いられてよい。当該薬剤は、例えばアレルギー反応を阻害又は抑制するために用いられる剤であってよく、例えば感作阻害剤又は細胞応答阻害剤であってよい。当該薬剤は、例えば、
前記第一インキュベーション工程の前、
前記第一インキュベーション工程が実行されている間、
前記第一インキュベーション工程と前記第二インキュベーション工程との間、
前記第二インキュベーション工程が実行されている間、又は、
前記第二インキュベーション工程の後
のいずれか1つ又は2つ以上の段階において用いられてよい。
当該薬剤を用いて本発明の方法を実行することにより、例えば当該薬剤のアレルギー反応抑制活性の評価が可能となる。また、種々の薬剤を用いて本発明の方法を実行することにより、ドラッグスクリーニングを行うこともできる。
【0166】
当該薬剤は、例えば、上記で述べたインキュベーション材料に含まれた状態で使用されうる。当該薬剤の各工程における使用例は以下のとおりである。
【0167】
例えば、上記(1-1)において述べた前記第一インキュベーション工程において、当該薬剤が、感作用材料又は感作分析用材料に含まれうる。この場合において、当該薬剤は、感作阻害剤であってよく、又は、感作を阻害することが期待される薬剤であってもよい。当該薬剤は、例えば、IgE又はキメラIgEに結合する成分であってよく、例えば抗IgE抗体又は抗キメラIgE抗体でありうる。代替的には、当該薬剤は、受容体のダウンレギュレーションを誘導する薬物であってもよい。このように薬剤を使用することで、アレルギー反応(特にはI型アレルギー反応)を抑制する作用を有する薬剤をスクリーニングすることができ、または、アレルギー反応抑制剤(特にはI型アレルギー反応抑制剤)の抑制作用の評価を行うこともできる。
代替的には、前記第一インキュベーション工程の前に、当該薬剤と、前記感作用材料又は前記感作分析用材料に含まれる細胞感作成分との接触が行われてもよい。当該接触後に、前記感作用材料又は前記感作分析用材料中で前記細胞をインキュベートすることによっても、前記スクリーニング又は前記評価を行うことができる。
【0168】
また、上記(1-2)において述べた前記第二インキュベーション工程において、当該薬剤が、細胞応答誘導用材料又は細胞応答誘導分析用材料に当該薬剤が含まれうる。この場合において、当該薬剤は、細胞応答阻害剤であってよく、又は、細胞応答を阻害することが期待される薬剤であってもよい。当該薬剤は、例えばFcεRIの架橋によるシグナル伝達を阻害するシグナル伝達阻害剤であってよい。当該薬剤の例として、例えばシクロスポリン及びタクロリムスなどのカルシニューリン阻害剤;例えばGenistein、Herbimycin A、及びPiceatannolなどのチロシンキナーゼ阻害剤;例えばU73122などのPLC阻害剤;例えばWortmanninなどのPI3-kinase阻害剤;並びに、例えばBAPTA-AMなどの細胞内カルシウムイオンキレーターを挙げることができるが、これらに限定されない。
このように薬剤を使用することによっても、アレルギー反応(特にはI型アレルギー反応)を抑制する作用を有する薬剤をスクリーニングすることができ、または、アレルギー反応抑制剤(特にはI型アレルギー反応抑制剤)の抑制作用の評価を行うこともできる。
代替的には、前記第一インキュベーション工程と前記第二インキュベーション工程との間に、当該薬剤と、前記細胞応答誘導用材料又は前記細胞応答誘導分析用材料に含まれる細胞応答誘導成分との接触が行われてもよい。当該接触後に、前記細胞応答誘導用材料又は前記細胞応答誘導分析用材料中で前記細胞をインキュベートすることによっても、前記スクリーニング又は前記評価を行うことができる。
【0169】
(1-5)アレルゲン性評価の例
【0170】
この例において、前記第二インキュベート工程において用いられる細胞応答誘導成分(特には抗原又は抗原候補物質)が、被験試料として取り扱われ、当該細胞応答誘導成分のアレルゲン性が評価されうる。
【0171】
この例において、前記第一インキュベート工程において、例えば対象(ヒト)から得られたIgE又はIgE含有血清を含む感作用材料中で、本発明に従う細胞がインキュベートされる。これにより、当該対象のIgEによって、当該細胞が感作される。
次に、前記第二インキュベート工程において、被験試料である抗原を含む細胞応答誘導用材料中で、前記感作された細胞がインキュベートされる。これにより、当該抗原によって、本発明に従う細胞の細胞膜において、上記で述べたとおりの会合体が形成され、そして、当該会合体の形成によって、例えばレポーター遺伝子が発現しうる。
次に、前記分析工程において、細胞応答が分析される。例えば、分析工程において、当該レポーター遺伝子の発現が分析されうる。当該発現の分析によって、前記抗原の、前記対象に対するアレルゲン性を評価することができる。
【0172】
(1-6)アレルギーの有無若しくはリスクの評価
【0173】
この例において、前記第一インキュベート工程において用いられる細胞感作成分(特にはIgE又はIgE含有生体成分)が、被験試料として取り扱われ、当該細胞感作成分が由来する対象の、所定の抗原に対するアレルギー(特にはI型アレルギー)の有無若しくはリスクが評価されうる。
【0174】
この例において、前記第一インキュベート工程において、例えば対象(ヒト)から得られたIgE又はIgE含有生体成分(特にはIgE含有血清)を含む感作用材料中で、本発明に従う細胞がインキュベートされる。これにより、当該対象のIgEによって、当該細胞が感作される。
次に、前記第二インキュベート工程において、所定の抗原を含む細胞応答誘導用材料中で、前記感作された細胞がインキュベートされる。これにより、当該抗原によって、本発明に従う細胞の細胞膜において、上記で述べたとおりの会合体が形成され、そして、当該会合体の形成によって、例えばレポーター遺伝子が発現しうる。
次に、前記分析工程において、当該レポーター遺伝子の発現が分析される。当該発現の分析によって、前記対象の、前記所定の抗原に対するアレルギーの有無又はリスクを評価することができる。
【0175】
(1-7)IgEについての分析
【0176】
この例において、前記第一インキュベート工程において用いられる細胞感作成分(特にはIgE又はIgE含有生体成分)が、被験試料として取り扱われ、当該細胞感作成分自体の分析が行われうる。
【0177】
この例において、前記第一インキュベート工程において、例えば対象(ヒト)から得られたIgE又はIgE含有生体成分(特にはIgE含有血清)を含む感作用材料中で、本発明に従う細胞がインキュベートされる。これにより、当該対象のIgEによって、当該細胞が感作される。
次に、前記第二インキュベート工程において、所定の抗原を含む細胞応答誘導用材料中で、前記感作された細胞がインキュベートされる。これにより、当該抗原によって、本発明に従う細胞の細胞膜において、上記で述べたとおりの会合体が形成され、そして、当該会合体の形成によって、例えばレポーター遺伝子が発現しうる。
次に、前記分析工程において、当該レポーター遺伝子の発現が分析される。当該発現の分析によって、IgEの評価を行うことができる。
【0178】
(1-8)アレルギー抑制活性の評価方法
【0179】
この例において、薬剤が被験試料として取り扱われ、当該薬剤によるアレルギー反応抑制活性が評価されうる。
【0180】
この例において、前記第一インキュベート工程において、例えばIgE又はIgE含有生体成分(特にはIgE含有血清)を含む感作用材料中で、本発明に従う細胞がインキュベートされる。これにより、当該対象のIgEによって、当該細胞が感作される。
次に、前記第二インキュベート工程において、所定の細胞応答誘導用材料中で、前記感作された細胞がインキュベートされる。これにより、当該抗原によって、本発明に従う細胞の細胞膜において、上記で述べたとおりの会合体が形成され、そして、当該会合体の形成によって、例えばレポーター遺伝子が発現しうる。
ここで、アレルギー抑制活性を有する物質又はアレルギー抑制活性を有すると考えられる物質(薬剤)が、前記感作用材料又は前記細胞応答誘導用材料に含まれている。当該物質が前記感作用材料に含まれる場合、当該物質は感作阻害剤として作用しうる。当該物質が前記細胞応答誘導用材料に含まれる場合、当該物質は細胞応答阻害剤として作用しうる。
次に、前記分析工程において、当該レポーター遺伝子の発現が分析される。当該発現の分析によって、当該物質のアレルギー抑制活性を評価することができる。
【0181】
(1-9)ドラッグスクリーニング
【0182】
この例において、種々の薬剤が被験試料として取り扱われ、当該種々の薬剤によるアレルギー反応抑制活性が評価される。そして、より良いアレルギー反応抑制活性を有する薬剤が選択されうる。
【0183】
この例において、前記第一インキュベート工程において、例えばIgE又はIgE含有生体成分(特にはIgE含有血清)を含む感作用材料中で、本発明に従う細胞がインキュベートされる。これにより、当該対象のIgEによって、当該細胞が感作される。
次に、前記第二インキュベート工程において、所定の細胞応答誘導用材料中で、前記感作された細胞がインキュベートされる。これにより、当該抗原によって、本発明に従う細胞の細胞膜において、上記で述べたとおりの会合体が形成され、そして、当該会合体の形成によって、例えばレポーター遺伝子が発現しうる。
ここで、アレルギー抑制活性を有すると考えられる種々の物質のそれぞれが、前記感作用材料又は前記細胞応答誘導用材料に含まれている。当該種々の物質が前記感作用材料に含まれる場合、当該種々の物質は感作阻害剤として作用することが期待される。当該種々の物質が前記細胞応答誘導用材料に含まれる場合、当該種々の物質は細胞応答阻害剤として作用することが期待される。
次に、前記分析工程において、当該種々の物質のそれぞれを用いた場合における、当該レポーター遺伝子の発現が分析される。当該発現の分析によって、当該種々の物質のうちから、より良いアレルギー抑制活性を有する物質が選択されうる。
【0184】
8.実施例
【0185】
(1)キメラFcεRIα鎖遺伝子の合成
【0186】
ヒトFcεRIα鎖の細胞外ドメインに、ラットFcεRIα鎖の細胞膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインを連結させたキメラ受容体(ヒト-ラットキメラFcεRIα鎖、Human-Rat chimeric FcεRI α chain)遺伝子を人工遺伝子合成により作成した。当該遺伝子の塩基配列及び当該遺伝子によりコードされるアミノ酸配列を
図4に示す。
図4において、上段が塩基配列であり、下段が翻訳後のアミノ酸配列を表す。
図4に示される塩基配列及びアミノ酸配列は、それぞれ配列ID No.1の塩基配列及び配列ID No.8のアミノ酸配列と同じである。また、
図4に示される塩基配列及びアミノ酸配列と、前記キメラ受容体タンパク質の構造及び機能との関係を、
図19に示す。
【0187】
図19に示されるとおり、
図4に示されるアミノ酸配列のうちのアミノ酸残基番号1~25がシグナル配列であり、アミノ酸残基番号26~205が細胞外ドメインであり、アミノ酸残基番号206~224が細胞膜貫通ドメインであり、且つ、アミノ酸残基番号225~246が細胞内ドメインである。
【0188】
前記細胞外ドメインを構成するアミノ酸残基番号26~205のアミノ酸配列は、配列ID No.10に示された配列と同じである。前記細胞外ドメインはIgE結合性領域を含み、当該IgE結合性領域は、アミノ酸残基番号110~183である。アミノ酸残基番号110~183のアミノ酸配列は、配列ID No.14に示された配列と同じである。
図19に示されるとおり、当該IgE結合性領域に含まれるアミノ酸残基のうち、特にはS110、D111、W112、W135、W138、K142、I144、A151、Y154、W155、Y156、E157、W181、Q182、及びL183が、IgEとの結合性に関与するアミノ酸である。これらアミノ酸のうち、K142、I144、A151、Y154、W155、Y156、及びE157が1つ目のIgE結合性部位を形成し、S110、D111、W112、W135、W138、W181、Q182、及びL183が2つ目のIgE結合性部位を形成する。
【0189】
また、アミノ酸残基番号44~108及び121~194がイムノグロブリンドメインである。
【0190】
前記細胞膜貫通ドメインのアミノ酸配列は、ラットのFcεRIα鎖に含まれる細胞膜貫通ドメインのアミノ酸配列である。アミノ酸残基番号206~224の配列は、配列ID No.12に示された配列と同じである。また、当該細胞膜貫通ドメインのアミノ酸配列をコードする塩基配列の例は、配列ID No.5に示された配列である。
図19に示されるとおり、前記細胞膜貫通ドメインは、γ鎖との結合性を発揮し、荷電アミノ酸であるD219が、γ鎖結合性に特に関与するアミノ酸である。
【0191】
前記細胞内ドメインのアミノ酸配列は、ラットのFcεRIα鎖に含まれる細胞内ドメインのアミノ酸配列である。アミノ酸残基番号225~246の配列は、配列ID No.13に示された配列と同じである。また、当該細胞内ドメインのアミノ酸配列をコードする塩基配列の例は、配列ID No.6に示された配列である。
【0192】
前記シグナル配列は、ヒトのFcεRIα鎖に含まれるシグナル配列である。アミノ酸残基番号1~25の配列は、配列ID No.9に示された配列と同じである。また、当該シグナル配列のアミノ酸配列をコードする塩基配列の例は、配列ID No.2に示された配列である。
【0193】
配列ID No.1の塩基配列は、ラットの培養細胞における効率よい遺伝子発現のために、ラットのコドン使用頻度を考慮して最適化されている。また、最適化される前の塩基配列は、
図5に示される配列ID No.15の塩基配列である。これら2つの塩基配列を比較して、以下に、配列ID No.1の塩基配列が有する特徴を説明する。
【0194】
配列ID No.15の塩基配列のコドン適応指標(Codon Adaptation Index、CAI)は、0.72である。一方、配列ID No.1の塩基配列のラットに対する前記コドン適応指標は、0.83である。 コドン適応指標は高いほど好ましく、最高で1であり、好ましくは0.8以上、より好ましくは0.8超であると、細胞中における高い遺伝子発現レベルのために良いと考えられる。
配列ID No.1の塩基配列は、配列ID No.15の塩基配列よりもコドン適応指標がより高いため、ラット細胞における発現のためにより適している。
本発明のキメラFcεRIα鎖遺伝子の塩基配列のコドン適応指標は、例えば0.7以上であり、好ましくは0.8以上であり、より好ましくは0.8超であり、さらにより好ましくは0.81以上、0.82以上でありうる。当該コドン適応指標は、例えば1.0以下、0.99以下、又は0.95以下であってよい。
コドン適応指標は、リボソーム関連遺伝子などの高発現遺伝子の同義コドン使用頻度の偏りを基にして、これら高発現遺伝子のコドンバイアスと観察対象遺伝子のコドンバイアスの相関から、相対的な発現量を推定するための尺度として用いられうる。コドン適応指標は、例えば、P. M. Sharp and W. H. Li (Nucleic Acids Res. 1987 Feb 11; 15(3): 1281-1295)に記載された方法に従い算出されうる。
【0195】
配列ID No.15の塩基配列は、使用頻度(最も高いコドンを100とした場合におけるコドン使用頻度)が91~100であるコドンの割合が47%である。一方、配列ID No.1の塩基配列は、使用頻度が91~100であるコドンの割合が59%である。
使用頻度が高いコドンの割合が高いほど、細胞中における高い遺伝子発現レベルのために良いと考えられる。
配列ID No.1の塩基配列は、使用頻度が91~100であるコドンの割合が、配列ID No.15の塩基配列よりも高いため、ラット細胞における発現のためにより適している。
本発明のキメラFcεRIα鎖遺伝子は、当該遺伝子が発現される細胞(特には非ヒト動物の細胞)における使用頻度が91~100であるコドンの割合が、例えば40%以上、好ましくは50%以上であり、より好ましくは53%以上であり、さらにより好ましくは55%以上でありうる。当該割合は、例えば100%以下、90%以下、80%以下、70%以下、又は60%以下でありうる。
【0196】
配列ID No.15の塩基配列のGC含量は45.53%であるのに対し、配列ID No.1の塩基配列のGC含量は51.05%である。GC含量がより高いほど、転写産物mRNAの半減期が長くなる傾向にあり、高い遺伝子発現レベルのための好ましい。そのため、配列ID No.1の塩基配列は、配列ID No.15よりも、より高い遺伝子発現レベルを達成できると考えられる。
本技術のキメラFcεRIα鎖遺伝子のGC含量は、例えば40%以上であり、好ましくは47%以上、より好ましくは50%以上であってよい。当該GC含量は、例えば80%以下、70%以下、又は60%以下でありうる。
【0197】
配列ID No.15の塩基配列は制限酵素ScaIが認識する配列(AGTACT)を2つ含む。一方、配列ID No.1の塩基配列は前記配列を含まない。
本技術のキメラFcεRIα鎖遺伝子は、制限酵素配列を含んでもよいが、好ましくは制限酵素配列を含まない。
【0198】
配列ID No.15の塩基配列は、スプライシングに関するシス作用エレメント(GGTGAT)を3つ含み、ポリAシグナルであるシス作用エレメント(AATAAA)を1つ含み、mRNAの不安定化に関するシス作用エレメント(ATTTA)を1つ含み、且つポリAシグナルであるシスエレメント(AAAAAAA)を1つ含む。一方で、配列ID No.1の塩基配列はこれらのシスエレメントを含まない。そのため、配列ID No.1の塩基配列は、例えばスプライス部位として誤認されうる配列、誤ってポリAが付加されうる配列、及びmRNAの不安定化をもたらす配列が削除されている。
本技術のキメラFcεRIα鎖遺伝子は、1又は複数のこれらのシス作用エレメントを含んでもよいが、好ましくはこれらのシス作用エレメントを含まない。
【0199】
配列ID No.15の塩基配列は、1対の逆向き反復配列を有するが、配列ID No.1の塩基配列は配列を有さない。そのため、後者では、不要な高次構造の形成が抑制されうる。
【0200】
(2)キメラFcεRIα鎖遺伝子のRBL-NL4細胞への導入
【0201】
図6に示されるとおり、配列ID No.1の5’末端に「制限酵素BamHIの認識部位(GGATCC)」と「KOZAK配列を形成するための配列(CACC)」が追加され且つその3’末端に「制限酵素EcoRIの認識部位(GAATTC)」が追加された塩基配列を有する核酸(DNA)を人工的に合成した。当該核酸は、前記2つの制限酵素認識部位をマルチクローニングサイト内に有するpcDNA3.1(+)ベクター(Invitrogen社)に、当該2つの部位を利用して、前記核酸は挿入された。当該核酸が挿入されたベクターが、当技術分野で既知の手法により、大量調製された。その後、前記核酸が挿入されたベクターが、BamHI及びEcoRIを用いてリニアライズされた。
【0202】
RBL-2H3細胞(細胞番号:JCRB0023、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所JCRB細胞バンク)に、NF-AT(Nuclear factor activated T-cell)依存性ホタルルシフェラーゼ発現ベクター(pHTS-NFAT、Biomyx社)を安定導入した細胞(以下「RBL-NL4細胞」ともいう)を得た。当該RBL-NL4細胞に、Lipofectamine3000を用いて、前記リニアライズされたベクターを導入し、Hygromycinによる薬剤選択を行った。その後、限界希釈法でクローニングを行い、キメラFcεRIα鎖遺伝子が導入された7つのクローンを得た。
【0203】
RBL-NL4細胞は、ラットの内在性FcεRIのα鎖遺伝子、β鎖遺伝子、及びγ鎖遺伝子を発現する。そのため、前記導入されたキメラFcεRIα鎖遺伝子が発現することによって、当該遺伝子の発現により生成したキメラFcεRIα鎖タンパク質が、β鎖及びγ鎖と会合したFcεRIが、当該細胞の細胞膜上に機能的に発現する。
【0204】
(3)キメラFcεRIα鎖遺伝子が導入された細胞におけるルシフェラーゼ発現
【0205】
上記(2)において得られた7つのクローン及びRBL-NL4細胞を培養して得られた培養物に対してイオノマイシン、抗ヒトIgE抗体、又は特異抗原により刺激を与えた場合のルシフェラーゼ発現を確認した。当該確認は具体的には以下のとおりに行われた。
【0206】
各クローン及びRBL-NL4細胞が、10%の非働化ウシ胎児血清を添加したMEM培地において培養された。当該培地の組成は以下のとおりである。
MEM培地(Earle‘s salts(+)、L-Glutamine(-);Gibco 11090)
ウシ胎児血清(Gibco 10437-028、56℃で30分非働化、使用時濃度10%)
GlutaMAX-I(Gibco 35050)
ペニシリン-ストレプトマイシン(Sigma P4333)
ジェネティシン(Geneticin、Gibco 10131、使用時濃度500μg/mL)
ハイグロマイシンB(Hygromycin B、Invirtogen 10687-10、使用時濃度200μg/mL)
ペニシリンおよびストレプトマイシンは細菌による感染を防ぐために前記培地に加えられた。ジェネティシン及びハイグロマイシンBは選択マーカーである。
【0207】
前記培養は、プラスチック製細胞培養フラスコ(T25)にて、37℃、5%二酸化炭素存在下のインキュベータ中で行われた。
【0208】
細胞の継代は以下のとおりに行われた。すなわち、前記フラスコ中の培養上清(浮遊している細胞を含む)をデカントで捨てた後、新しい培地を5mL加えた。セルスクレイパーを用いて細胞をソフトに剥がし、ピペッティングした後、あらかじめ培地5mLを入れた継代用のフラスコに1/40量(0.125mL)加えて、37℃、5%CO2下で5日間培養した。
なお、後述の各種試験において用いるために大量培養する際には、T75フラスコ及び倍量の培地(10mL)を用いた。
【0209】
前記刺激を与えた場合のルシフェラーゼ発現を確認するための試験の前日に、以下の操作を行った。すなわち、精製ヒトIgE(ab65866、Abcam)(最終濃度50ng/mL)を前記MEM培地に添加した。当該培地を、底面が透明なプラスチック製の白色96ウェルプレート(製品番号:165306、Thremo社)の各ウェルに入れた。そして、各クローンの細胞を、1ウェルあたり5×104細胞/50μLとなるように播種し、インキュベータ中で一晩静置して感作した。
また、精製ヒトIgEが添加されていないこと以外は同じように、各クローンの細胞を前記96ウェルプレートの各ウェルに入れ、そして、前記インキュベータ内で一晩静置した(すなわち感作されていない細胞も用意した)。
【0210】
翌日、PBSにより細胞を複数回洗浄した。感作された細胞を含むウェルに、前記培地で調製された100ng/mLの抗ヒトIgE抗体(製品番号A80-108A、BETHYL社、最終濃度100ng/mL)を添加し、そして、当該細胞に、37℃で3時間刺激を与えた。同様に、感作されていない細胞を含むウェルにも、100ng/mLの抗ヒトIgE抗体を添加し、そして、当該細胞に、37℃で3時間刺激を与えた。
また、感作されていない細胞を含む別のウェルに250μMのイオノマイシンを添加し、そして、当該細胞に、37℃で3時間刺激を与えた。
【0211】
前記刺激付与後に各ウェル内に、基質液(One-Glo Luciferase Assay System、Promega社)を50μL/ウェルずつ加えて5分間反応させた後、ルミノメーター(GloMax、Promega社)を用いて発光強度を測定した。測定結果が
図7に示されている。
【0212】
図7において、7つのクローンについての測定結果は、「HuRa-11」、「HuRa-19」、「HuRa-21」、「HuRa-29」、「HuRa-37」、「HuRa-38」、及び「HuRa-40」にそれぞれ示されている。また、RBL-NL4細胞についての測定結果は、「NL4」に示されている。
【0213】
図7において、黒いドットは測定されたルシフェラーゼ発光強度(単位:CPS)を示す(右側の軸:LUMINESCENCE(CPS))。また、
図7において、各棒は、ヒトIgEで感作されていない細胞に抗ヒトIgE抗体を加えた場合(no IgE)、感作された細胞に抗ヒトIgE抗体を加えて刺激を与えた場合(aIgE)、及び感作されていない細胞にイオノマイシン刺激を与えた場合(Iono)における相対発光強度をそれぞれ示す(左側の軸:Luciferase activity(fold change))。相対発光強度は、各クローンの無刺激時の発光強度を1とした場合における相対的発光強度であり、ログスケールで示されている。
【0214】
図7に示されるとおり、感作された場合(aIgE)及び感作されていない場合(no IgE)との比較より、いずれのクローンについても、抗ヒトIgE抗体刺激によって、ルシフェラーゼ発現量が数十倍~100倍増加した。一方で、キメラFcεRIα鎖遺伝子を発現していないRBL-NL4細胞については、抗ヒトIgE抗体刺激にはほとんど応答しなかった。よって、キメラFcεRIα鎖遺伝子の導入により、ヒトIgEの検出能力が付与されたことが分かる。
【0215】
なお、
図7に示されるとおり、RBL-NL4細胞をイオノマイシンにより刺激した場合(Iono)におけるルシフェラーゼ発現量は、RBL-NL4細胞を抗ヒトIgE抗体により刺激した2つの場合(no IgE及びaIgE)よりも大幅に増加した。イオノマイシンは、FcεRIを経由せずに、NFATを活性化する物質である。そのため、RBL-NL4細胞において、NFATの活性化によりルシフェラーゼ発現系は正常に機能していることが確認された。
【0216】
また、上記7つのクローンのうち、HuRa-40が特に、抗体刺激に対する応答性、FcεRI発現量、及び増殖能の点で優れていた。HuRa-40は、寄託日を令和2年(2020年)6月17日として、受託番号:NITE BP-03230で、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)に国際寄託された。
【0217】
(4)キメラFcεRIα鎖遺伝子が導入された細胞へのIgE結合能の確認
【0218】
各クローンについて、細胞表面へのヒトIgEの結合性をフローサイトメトリーにより、以下のとおりに測定した。
【0219】
まず、各クローンについて、50ng/mLのヒトIgEで一晩感作した細胞サンプルと感作していない細胞サンプルを用意した。次に、これら2種の細胞サンプルそれぞれを、氷上で30分間1μg/mLのヒトIgEに接触させて、すべてのFcεRIをIgEにより占有させた。また、感作していない細胞サンプルの一部については、氷上でのヒトIgEへの接触処理を行わなかった。その後、各サンプルを、FITC標識抗ヒトIgE抗体で染色した。このようにして、各クローンについて、以下の3つのサンプルを用意した。
サンプル1:感作なし、氷上でのヒトIgE接触なし、FITC染色あり
サンプル2:感作なし、氷上でのヒトIgE接触あり、FITC染色あり
サンプル3:感作あり、氷上でのヒトIgE接触あり、FITC染色あり
【0220】
また、RBL-NL4細胞(陰性対照)及びRS-ATL8細胞(陽性対照)についても、上記3つのサンプルを用意した。
【0221】
以上のとおりに用意されたサンプルについて、FITCの蛍光強度をフローサイトメーターにより測定した。測定結果が
図8に示されている。
図8に示されるとおり、サンプル1、2、及び3の順に、FITCの蛍光が確認された細胞の数が増え、特に、サンプル3に関して、FITCの蛍光が確認された細胞の数が、サンプル1及び2よりも大幅に増えた。また、陽性対照であるRS-ATL8細胞についても、同様の結果が得られた。一方で、陰性対照であるRBL-NL4細胞については、このような結果は得られなかった。これらの結果より、各クローンの細胞にIgEが特異的に結合することが確認された。
【0222】
(5)本発明の細胞に適した試験条件の検討
【0223】
(5-1)刺激時間
【0224】
100倍希釈した健常人血清(コスモバイオ社)を含む10%FBS含有MEM培地に懸濁したHuRa-40細胞を、96穴のマイクロプレート(ISOPLATE-96TC、PerkinElmer社)に5.0×104細胞/50μL/ウェルで播種し、CO2インキュベータ内で一晩感作させた。
【0225】
前記感作された細胞を洗浄した後に、10%FBS含有MEM培地で希釈された抗ヒトIgE抗体(0.1μg/mL)を、50μL/ウェルの量で添加し、1時間、3時間、6時間、又は8時間刺激した。
また、刺激を行わない細胞については、培地を添加した。
【0226】
前記刺激時間が経過した後に、ONE-Glo EX Luciferase Assay System(Promega社)の基質液を50μL/ウェルの量で各ウェルに加えて、5分間、室温で遮光しながら反応させた。その後、マイクロプレートリーダー(GloMax、Promega社)で発光強度を測定した。測定結果が
図9に示されている。
【0227】
図9に示される相対発光強度(Luciferase activity (fold change))は、次の式に従って算出した。
Luciferase activity (fold change)=(抗体刺激したHuRa-40細胞の各時間における発光強度-培地の発光強度)/(培地を添加したHuRa-40細胞の0時間における発光強度-培地の発光強度)
【0228】
図9に示される結果より、刺激時間は、好ましくは1時間以上、より好ましくは1.5時間以上、さらにより好ましくは2時間以上である。また、刺激時間は、好ましくは8時間以下、より好ましくは7時間以下、さらにより好ましくは6時間以下、5時間以下、又は4時間以下であってよい。刺激時間は、例えば1時間~8時間であってよく、より好ましくは2時間~8時間、さらにより好ましくは1.5時間~7時間、2時間~6時間、2時間~5時間、又は2時間~4時間、特に好ましくは3時間~4時間であってよい。
【0229】
(5-2)血清濃度
【0230】
各種濃度で健常人血清(コスモバイオ社)を含む10%FBS含有MEM培地に懸濁したHuRa-40細胞を、96穴のマイクロプレート(ISOPLATE-96TC、PerkinElmer社)に5.0×104細胞/50μL/ウェルで播種し、CO2インキュベータ内で一晩感作させた。用いられた血清濃度は、0体積%、0.01体積%、0.1体積%、1体積%、又は10体積%の5種類であった。
【0231】
前記感作された細胞を洗浄した後に、10%FBS含有MEM培地で希釈された抗ヒトIgE抗体(0.1μg/mL)を、50μL/ウェルの量で添加し、3時間刺激した。
また、刺激を行わない細胞については、培地を添加した。
【0232】
前記刺激時間が経過した後に、上記(5-1)で述べたとおりに、発光強度を測定した。測定結果が
図10に示されている。
図10に示される相対発光強度(Luciferase activity (fold change))は、次の式に従って算出した。
Luciferase activity (fold change)=(各種血清濃度におけるHuRa-40細胞の発光強度-培地の発光強度)/(血清濃度が0体積%におけるHuRa-40細胞の発光強度-培地の発光強度)
【0233】
図10に示される結果より、感作のための血清濃度は、好ましくは0.01体積%以上、より好ましくは0.1体積%以上、さらにより好ましくは0.5体積%以上、0.6体積%以上、0.7体積%以上、0.8体積%以上、又は0.9体積%以上である。また、感作のための血清濃度は、例えば10体積%以下、好ましくは8体積%以下、より好ましくは7体積%以下、さらにより好ましくは6体積%以下、5体積%以下、4体積%以下、3体積%以下、又は2体積%以下であってよい。血清濃度は、例えば0.1体積%~10体積%であってよく、より好ましくは0.5体積%~5体積%、さらにより好ましくは0.7体積%~3体積%、特に好ましくは1体積%であってよい。
【0234】
(5-3)細胞障害性
【0235】
ヒト血清によるHuRa-40細胞への細胞障害性を、CytotoxicityLDH Assay Kit-WST(同仁化学研究所社)を用いて、細胞外に放出されたLDHを指標に評価した。各濃度(0体積%、0.01体積%、0.1体積%、1体積%、又は10体積%)のヒト血清を含むMEM培地で前記細胞を一晩培養して得られた培養物の細胞上清を、96穴マイクロプレートに50μL/ウェルで播種し、前記キットに含まれるWorking Solutionを50μL/ウェルで各ウェルに加え、遮光しながら室温で30分間呈色反応を行った。最後に前記キットに含まれるStop Solutionを25μL/ウェルで各ウェルに加え、マイクロプレートリーダー(iMark、Bio Rad社)を用いて490nmの吸光度を測定した。測定結果が
図11に示されている。
【0236】
図11より、血清濃度1%では障害性がないこと、および、10%では障害性があることがわかる。
【0237】
(5-4)凍結保存
【0238】
HuRa-40細胞の表現型の安定性への-80℃保存の影響を検討した。-80℃での凍結前、凍結2ヶ月後、又は凍結4ヶ月後のHuRa-40細胞を用意した。これら3種の細胞を、ヒトIgE(ab65866、Abcam、最終濃度50ng/mL)を含むMEM培地において一晩感作した。当該感作後、PBSで3回洗浄した。当該洗浄後、抗ヒトIgE抗体で3時間刺激した。陽性対照としては、イオノマイシン(250nM)を用いた。前記刺激後、基質液(One-Glo Luciferase Assay System、Promega社)を添加し、発光強度を測定した。測定結果が
図12に示されている。
【0239】
図12に示される結果より、少なくとも4ヶ月間の凍結における受容体特異的な反応の安定性が確認された。なお、8ヶ月間の-80℃保存後でも、細胞の受容体特異的な応答が起こることも確認できた。
【0240】
(5-5)継代数
【0241】
継代数4(P4)又は継代数50(P50)のHuRa-40細胞に、スギ花粉症患者血清(特異的IgE抗体価100以上)を加え一晩感作した。当該感作後、各細胞は、PBSで洗浄され、そして、スギ花粉アレルゲンエキスで刺激された。当該刺激後、基質液(Bright-Glo、Promega社)を加え発光を測定した。測定結果が
図13に示されている。
【0242】
図13に示される結果より、スギ花粉エキスに対する応答はP4及びP50で大きな差は認められなかった。
【0243】
(6)アレルギー患者血清を用いた試験(ピーナッツアレルギー)
【0244】
(6-1)各種RASTスコアの患者血清を用いた抗原特異的応答
【0245】
100倍希釈した健常人血清又は各種RASTスコアを有するピーナッツアレルギー患者血清を含む10%FBS含有MEM培地に懸濁したHuRa-40細胞を、96穴のマイクロプレート(ISOPLATE-96TC、PerkinElmer社)に5.0×104細胞/50μL/ウェルで播種し、CO2インキュベータ内で一晩感作させた。
【0246】
前記感作された細胞を洗浄した後に、10%FBS含有MEM培地で希釈されたアレルゲンスクラッチエキス(ラッカセイ)を、各種濃度で添加し、37℃で3時間刺激した。
また、前記感作が行われていない細胞についても、同じ刺激処理を行った。
【0247】
前記刺激時間が経過した後に、ONE-Glo EX Luciferase Assay System(Promega社)の基質液を50μL/ウェルの量で各ウェルに加えて、5分間、室温で遮光しながら反応させた。その後、マイクロプレートリーダー(GloMax、Promega社)で発光強度を測定した。測定結果が
図14に示されている。
【0248】
図14に示される結果より、HuRa-40細胞は、抗原特異的に応答することが分かる。
【0249】
(6-2)本発明の細胞と他の細胞との比較
【0250】
HuRa-40細胞による抗原特異的応答を、RS-ATL8細胞と比較した。また、当該比較において、陰性対照として、RBL-NL4細胞を用いた。
RS-ATL8細胞は、RBL-2H3細胞にヒトFcεRIを安定発現させたRBL-SX38細胞に、NF-AT依存性ホタルルシフェラーゼ発現ベクター(Biomyx社)を安定導入した細胞である。
RBL-NL4細胞は、上記のとおり、HuRa-40細胞のホスト細胞であり、RBL-2H3細胞にNF-AT依存性ホタルルシフェラーゼ発現ベクター(Biomyx社)を安定導入した細胞である。
【0251】
前記3種の細胞をそれぞれ、RASTスコア6(>100UA/mL)のピーナッツアレルギー患者血清(100倍希釈)を含む10%FBS含有MEM培地に懸濁し、96穴のマイクロプレート(ISOPLATE-96TC、PerkinElmer社)に5.0×104細胞/50μL/ウェルで播種し、CO2インキュベータ内で一晩感作させた。
【0252】
前記感作された細胞を洗浄した後に、10%FBS含有MEM培地で希釈されたアレルゲンスクラッチエキス(ラッカセイ)を、各種濃度(0、0.1、1、10、100、又は1000ng/mL)で添加し、37℃で3時間刺激した。
【0253】
前記刺激時間が経過した後に、ONE-Glo EX Luciferase Assay System(Promega社)の基質液を50μL/ウェルの量で各ウェルに加えて、5分間、室温で遮光しながら反応させた。その後、マイクロプレートリーダー(GloMax、Promega社)で発光強度を測定した。測定結果が
図15に示されている。
【0254】
図15に示される結果より、HuRa-40細胞は、RS-ATL8細胞と比較して、優れた抗原応答を示すことが分かる。また、幅広い抗原濃度にわたって、HuRa-40細胞の応答性は、RS-ATL8細胞よりも優れていた。
【0255】
(7)本発明の細胞と他の細胞との比較(アレルギー検査、卵アレルギー)
【0256】
HuRa-40細胞による抗原特異的応答を、RS-ATL8細胞と比較した。また、当該比較において、陰性対照として、RBL-NL4細胞を用いた。
【0257】
前記3種の細胞をそれぞれ、卵アレルギー患者血清(特異的IgE抗体価100以上)又は健常者のプール血清を含む10%FBS含有MEM培地に懸濁し、96穴のマイクロプレート(ISOPLATE-96TC、PerkinElmer社)に5.0×104細胞/50μL/ウェルで播種し、CO2インキュベータ内で一晩感作させた。
【0258】
前記感作された細胞をPBSで洗浄した後に、10%FBS含有MEM培地で希釈された卵白アレルゲンエキスを、各種濃度(0.1、1、10、100、又は1000ng/mL)で添加し、37℃で3時間刺激した。
【0259】
前記刺激時間が経過した後に、ONE-Glo EX Luciferase Assay System(Promega社)の基質液を50μL/ウェルの量で各ウェルに加えて、5分間、室温で遮光しながら反応させた。その後、マイクロプレートリーダー(GloMax、Promega社)で発光強度を測定した。測定結果が
図16に示されている。
【0260】
図16に示される結果より、卵アレルギー患者血清を用いた場合は、HuRa-40細胞は、RS-ATL8細胞と比較して、優れた応答性を示すことが分かる。また、健常者プール血清を用いた場合は、卵白アレルゲンエキスに対する応答は認められなかった。これらの結果より、HuRa-40細胞は、RS-ATL8細胞よりも、優れた抗原特異的応答性を示すことが分かる。
【0261】
(8)本発明の細胞と他の細胞との比較(アレルギー反応抑制剤の有効性評価)
【0262】
オマリズマブは、気管支喘息、季節性アレルギー性鼻炎、及び慢性蕁麻疹の治療薬である。オマリズマブは、ヒト化抗ヒトIgEモノクローナル抗体であり、IgEと高親和性受容体(FcεRI)の結合を阻害することで、好塩基球、肥満細胞等の炎症細胞の活性化を抑制する。ヒトIgEとFcεRIの結合を競合的に阻害し、血清中遊離IgE濃度を減少させる。なお、すでにFcεRIと結合したIgEには結合しない。本発明の細胞は、例えばオマリズマブなどのアレルギー反応抑制剤の有効性評価のために用いることができる。以下で、当該有効性評価のために用いることができることを示す実験及びその結果を説明する。
【0263】
HuRa-40細胞及びRS-ATL8細胞を用意した。10%FBS含有MEM培地に懸濁されたこれら細胞のそれぞれに、各種最終濃度(0、0.001、0.01、0.1、1、10、又は100μg/mL)のオマリズマブを添加し、添加の30分後に、ヒトIgEを50ng/mL加え一晩感作した。
【0264】
前記感作された細胞をPBSで3回洗浄した後に、ヒトIgE抗体を添加し、37℃で3時間刺激した。
【0265】
前記刺激時間が経過した後に、Bright-Glo(Promega社)の基質液を50μL/ウェルの量で各ウェルに加えて、5分間、室温で遮光しながら反応させた。その後、マイクロプレートリーダー(GloMax、Promega社)で発光強度を測定した。測定結果が
図17に示されている。
【0266】
図17に示される結果より、RS-ATL8細胞に関しては、オマリズマブ濃度が0.1μg/mLから1μg/mLへと増加することに伴い発光強度がわずかに低下し、そして1μg/mLから10μg/mLへと増加することに伴い発光強度がさらに低下した。さらに、同図から分かるとおり、RS-ATL8細胞に関しては、オマリズマブの50%阻害濃度(IC50)は1μg/mL超である。一方で、同図から分かるとおり、HuRa-40細胞に関しては、オマリズマブ濃度が0.1μg/mLから1μg/mLへと増加した段階ですでに、発光強度の大幅な低下が観察された。同図から分かるとおり、HuRa-40細胞に関しては、オマリズマブのIC50は1μg/mL未満である。すなわち、HuRa-40細胞は、RS-ATL8細胞と比べて、より低い濃度でオマリズマブの作用を検出することができる。そのため、HuRa-40細胞は、RS-ATL8細胞と比べて、抗アレルギー活性物質のスクリーニングにより適していることが分かり、HuRa-40細胞によって、抗アレルギー活性物質を、より切れ味鋭くスクリーニングすることができることが分かる。
【0267】
また、
図17に示される結果より、RS-ATL8細胞に関しては、オマリズマブ濃度が最大(100μg/mL)のとき、0μg/mLの場合と比べて、発光強度は1/4程度に低下しただけであった。一方で、HuRa-40細胞に関しては、オマリズマブ濃度100μg/mLにおける発光強度は、0μg/mLの場合の1/30以下へと顕著に低下した。すなわち、HuRa-40細胞は、RS-ATL8細胞と比べて、バックグラウンドがほとんど残らない。この結果からも、HuRa-40細胞は、RS-ATL8細胞と比べて、抗アレルギー活性物質のスクリーニングにより適していることが分かり、HuRa-40細胞によって、抗アレルギー活性物質を、より切れ味鋭くスクリーニングすることができることが分かる。
【0268】
以上で説明した試験と同様の試験を、オマリズマブの代わりにシクロスポリンAを用いて行った。具体的には、最終濃度0~1μg/mLのシクロスポリンAをRS-ATL8細胞又はHuRa-40細胞に添加して30分後、ヒトIgEを50ng/mL加え一晩感作した。PBSで3回洗浄後、抗ヒトIgE抗体で3時間刺激し、Bright-Gloを加え発光を測定した。測定結果が
図18に示されている。
【0269】
図18に示される結果より、HuRa-40細胞では、0.1μg/mLのシクロスポリンA添加で抑制傾向が認められ、RS-ATL8細胞と同様に、0.5μg/mLのシクロスポリンA添加によって応答が顕著に抑制された。
【0270】
(9)安定性及び再現精度
【0271】
HuRa-40細胞の凍結保存における表現型の安定性評価試験及び再現精度評価試験を以下のとおりに行った。
【0272】
これらの試験において用いられたルシフェラーゼアッセイは以下のとおりに行われた。
すなわち、HuRa-40細胞懸濁培地に1/100vol.の患者血清またはHuman IgE(ab65866、Abcam)(最終濃度50ng/mL)を加え、5.0×104細胞/50μL/ウェルとなるように96穴プレート(165306、Thermo社)に播種し、37℃、CO2インキュベータ内で一晩感作した。当該感作後、細胞をPBSで3回洗浄し、当該洗浄後、培地で調製した卵白アレルゲンエキスまたは抗ヒトIgE抗体(A80-108A、BETHYL社)(最終濃度100ng/mL)を50μL/ウェルずつ加え、37℃、CO2下で3時間刺激した。以下の基質液を50μL/wellずつ加えて5分間反応させた後、ルミノメーター(GloMax、Promega社)で発光強度を測定した。
<基質液>
One-Glo Luciferase Assay System(Promega社)
One-Glo EX Luciferase Assay System(Promega社)
Bright-Glo(Promega社)
【0273】
(HuRa-40の表現型の安定性の評価1)
凍結前、凍結2ヶ月後、凍結4ヶ月後、凍結6ヶ月後、又は凍結2年5ヶ月後のHuRa-40細胞にHuman IgEを加え一晩感作した。PBSで3回洗浄後、抗ヒトIgE抗体で3時間刺激した。One-Glo Luciferase Assay Systemを加え発光強度を測定した。測定結果が
図20に示されている。
同図に示されるように、HuRa-40細胞の、少なくとも2年5ヶ月間の受容体特異的な反応の安定性が確認された。
【0274】
(HuRa-40の表現型の安定性の評価2)
凍結2ヶ月後又は凍結2年5ヶ月後のHuRa-40細胞に卵アレルギー患者血清(特異的IgE抗体価100以上)又は健常者のプール血清を加え一晩感作後、PBSで洗浄し、卵白アレルゲンエキスで刺激してOne-Glo EX Luciferase Assay Systemを加え発光強度を測定した。測定結果が
図21に示されている。
同図に示されるように、HuRa-40細胞の、少なくとも2年5ヶ月間の受容体特異的な反応の安定性が確認された。
【0275】
(室間再現精度評価)
以下の検討を施設数2(
図22のA及びBに対応する)及び試行回数3(同図のEXP1、2、3に対応する)で実施した(室間共同試験)。HuRa-40細胞にHuman IgEを加え一晩感作した。当該感作後、PBSで3回洗浄し、当該洗浄後、抗ヒトIgE抗体で3時間刺激した。ホモジニアス系ルシフェラーゼ基質液(Bright-Glo)を加え発光強度を測定した。測定結果が
図22に示されている。
同図に示されるように、HuRa-40細胞を用いた試験の再現精度は非常に高かった。
【0276】
(室内再現精度評価)
単一試験室による再現精度確認を行った。HuRa-40細胞にLotの異なるHuman IgE(
図23のOLD及びNEWに対応する)を加え一晩感作した。当該感作後にPBSで3回洗浄し、当該洗浄後、抗ヒトIgE抗体で3時間刺激した。ホモジニアス系ルシフェラーゼ基質液(Bright-Glo)を加え発光強度を測定した。測定結果が
図23に示されている。
同図に示されるように、HuRa-40細胞を用いた試験の再現精度は非常に高かった。
【受託番号】
【0277】
ラット細胞: NITE BP-03230
【0278】
【配列表】