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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】画像処理装置
(51)【国際特許分類】
   B65H 3/56 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
B65H3/56 330S
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020185322
(22)【出願日】2020-11-05
(65)【公開番号】P2022074903
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2023-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003096
【氏名又は名称】弁理士法人第一テクニカル国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】謝 添錦
(72)【発明者】
【氏名】吉宗 秀晃
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-140858(JP,A)
【文献】特開2016-160006(JP,A)
【文献】特開2010-037020(JP,A)
【文献】特開2014-144863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 1/00-3/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転方向に回転し対応する第1駆動力を発生するか、前記第1回転方向とは反対向きの第2回転方向に回転し対応する第2駆動力を発生可能な、モータと、
前記モータからの前記第2駆動力が伝達されることにより回転し、シートを搬送経路に沿って搬送する搬送ローラと、
第1位置、及び、前記第1位置よりも前記搬送経路から遠い第2位置であって前記シートの搬送方向への通過を許容する第2位置、の間で変位可能なストッパと、
前記モータからの前記第1駆動力が入力されるときには前記ストッパを前記第1位置で前記シートの前記搬送方向への通過を規制する規制状態とし、前記モータからの前記第2駆動力が入力されるときには前記ストッパを前記第2位置で前記シートの前記搬送方向への移動を許容する規制解除状態とする、ストッパ切替機構と、
前記モータからの前記第2駆動力を前記搬送ローラに伝達するとともに、前記モータからの前記第1駆動力の前記搬送ローラへの伝達を遮断する、第1伝達切替機構と、
移動可能な遊星ギヤと、前記遊星ギヤの移動に連動してホルダが軸心まわりに回動するのに伴って前記ストッパを前記規制状態とする規制位置と前記ストッパを前記規制解除状態とする開放位置との間で変位する変位部材と、を有し、前記第2駆動力が入力されると、給紙ローラが前記シートに当接するとともに前記変位部材が前記開放位置に変位し、前記第1駆動力が入力されると、前記給紙ローラが前記シートから離間するとともに前記変位部材が前記規制位置に変位する、第2伝達切替機構と、
を備えることを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記シートを支持する支持面と、
前記モータからの前記第2駆動力が伝達されることにより回転し、前記支持面に支持された前記シートを搬送方向に送り出す、前記給紙ローラと、
前記給紙ローラより前記搬送方向の下流側に位置し、前記モータからの前記第2駆動力が入力されることにより回転し、前記給紙ローラから送り出される前記シートを1枚ずつに分離する分離ローラと、
を備え、
前記ストッパは、
前記給紙ローラと前記分離ローラとの間に位置することを特徴とする請求項1記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記モータから前記分離ローラに対し入力される前記第2駆動力を前記給紙ローラに伝達するとともに、前記モータから前記分離ローラに対し入力される前記第1駆動力の前記給紙ローラへの伝達を遮断する、前記第2伝達切替機構を備えることを特徴とする請求項2記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記第2伝達切替機構は、
前記分離ローラ及び前記給紙ローラを回転可能に支持し、回転軸の前記軸心まわりに揺動可能なホルダをさらに有し、
前記遊星ギヤは、
前記分離ローラの回転軸の軸ギヤに噛合しつつ、固定歯と噛合して移動可能であり、
前記変位部材は、前記ホルダに設けられており
前記モータからの前記第2駆動力が前記分離ローラの回転軸に対し入力されると、前記遊星ギヤが第1方向へ移動して前記固定歯との噛合が外れるとともに、前記給紙ローラの回転軸の軸ギヤに作動連結される中間ギヤに前記遊星ギヤが噛合し、かつ、前記ホルダが揺動して前記給紙ローラが前記シートに当接するとともに前記変位部材が前記開放位置に変位し、
前記モータからの前記第1駆動力が前記分離ローラの回転軸に対し入力されると、前記遊星ギヤが前記第1方向とは逆の第2方向へ移動して前記中間ギヤとの噛合が外れるとともに前記固定歯に噛合し、かつ、前記ホルダが揺動して前記給紙ローラが前記シートから離間するとともに前記変位部材が前記規制位置に変位する
ことを特徴とする請求項3記載の画像処理装置。
【請求項5】
一端において回動可能に支持され、前記給紙ローラ、前記分離ローラ、及び前記搬送ローラによる前記搬送経路を覆う開閉カバーをさらに有し、
前記開閉カバーは、前記固定歯を有し、
前記給紙ローラ及び前記分離ローラを備えた前記ホルダと、前記ストッパとは、前記開閉カバーに支持されている
ことを特徴とする請求項4記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記モータの回転を制御する制御部をさらに有し、
前記制御部は、
前記給紙ローラ、前記分離ローラ、及び前記搬送ローラによる搬送対象の前記シートの搬送が終了した後において前記モータを前記第1回転方向に駆動し、前記第2伝達切替機構により前記第1駆動力の前記給紙ローラの回転軸への伝達を遮断するとともに、前記ストッパ切替機構により前記ストッパを前記規制状態とする、第1処理と、
前記シートの搬送異常発生時において前記モータを前記第1回転方向に駆動し、前記第2伝達切替機構により前記第1駆動力の前記給紙ローラの回転軸への伝達を遮断する第2処理と、
を実行し、
前記第1処理における前記モータの前記第1回転方向への回転量を、前記第2処理における前記モータの前記第1回転方向への回転量よりも大きくする
ことを特徴とする請求項4又は請求項5記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記モータの回転を制御する制御部をさらに有し、
前記制御部は、
前記給紙ローラ、前記分離ローラ、及び前記搬送ローラによる搬送対象の前記シートの搬送が終了した後において前記モータを前記第1回転方向に駆動し、前記第2伝達切替機構により前記第1駆動力の前記給紙ローラの回転軸への伝達を遮断するとともに、前記ストッパ切替機構により前記ストッパを前記規制状態とする、第1処理と、
前記シートの搬送異常発生時において前記モータを前記第1回転方向に駆動し、前記第2伝達切替機構により前記第1駆動力の前記給紙ローラの回転軸への伝達を遮断する第2処理と、
を実行し、
前記第1処理における前記モータの前記第1回転方向への回転量を、前記第2処理における前記モータの前記第1回転方向への回転量と略等しくする
ことを特徴とする請求項4又は請求項5記載の画像処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザによるシートの差し込みを規制する機能を備えた画像処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に記載のように、第1送出ローラ、第2送出ローラ、給紙ローラ、排紙ローラを、それぞれ、送出モータ、給紙モータ、排紙モータの駆動力により回転させる技術が知られている。またこの従来技術では、第1送出ローラと第2送出ローラとの間に規制部材が設けられている。この規制部材は、上記送出モータの駆動力を用いて、用紙の通過を規制するために搬送経路上に出現する第1位置態様と、用紙の搬送経路から退避する第2位置態様とが、切り替えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-37020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シートを搬送する搬送ローラを駆動するための駆動力、及び、ユーザによるシートの差し込みを規制するためのストッパをシートの通過を規制する状態とシートの通過を許容する状態との間で切り替えるための駆動力、を1つのモータから供給する構成において、例えば上記のように搬送経路上をシートが搬送される時に何らかの搬送異常が生じた際に、用紙を手で引き抜かなければならない場合がある。例えばDCモータが使用される場合には非通電時にはトルクが生じにくいため、上記引き抜きの妨げになりにくい。しかしながら、製造コスト低減等の観点から、例えばステッピングモータ等が使用される場合には、そのトルクにより上記引き抜きの妨げになる可能性がある。
【0005】
これを回避するために、例えば上記ステッピングモータとローラとの間に、駆動力の伝達及び遮断を切り替え可能な機構を設けることが考えられる。しかしながらその場合、ストッパの状態を切り替える動作に支障が出ないように検討する必要がある。
【0006】
本発明の目的は、1つのモータの駆動力を用いて搬送ローラの駆動とストッパの状態の切替とを行う際の、搬送異常時のシートの搬送ローラからの円滑な引き抜きと、ストッパの状態の適切な切り替えとを両立させることができる画像処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本願発明は、第1回転方向に回転し対応する第1駆動力を発生するか、前記第1回転方向とは反対向きの第2回転方向に回転し対応する第2駆動力を発生可能な、モータと、前記モータからの前記第2駆動力が伝達されることにより回転し、シートを搬送経路に沿って搬送する搬送ローラと、 第1位置、及び、前記第1位置よりも前記搬送経路から遠い第2位置であって前記シートの搬送方向への通過を許容する第2位置、の間で変位可能なストッパと、前記モータからの前記第1駆動力が入力されるときには前記ストッパを前記第1位置で前記シートの前記搬送方向への通過を規制する規制状態とし、前記モータからの前記第2駆動力が入力されるときには前記ストッパを前記第2位置で前記シートの前記搬送方向への移動を許容する規制解除状態とする、ストッパ切替機構と、前記モータからの前記第2駆動力を前記搬送ローラに伝達するとともに、前記モータからの前記第1駆動力の前記搬送ローラへの伝達を遮断する、第1伝達切替機構と、を備えることを特徴とする。
【0008】
本願発明の画像処理装置は、シートを搬送経路に沿って搬送する搬送ローラを備えている。また第1位置と第2位置とに変位可能なストッパが備えられ、ストッパは、第1位置においてシートの搬送方向への通過を規制する規制状態となり、第2位置においてシートの搬送方向への通過を許容する規制解除状態となる。
【0009】
このストッパの規制状態と規制解除状態との切替は、ストッパ切替機構によって、入力されるモータの駆動力の態様に応じて行われる。すなわち、モータが第1回転方向に回転することで発生した第1駆動力が入力される場合は、ストッパは第1位置で規制状態となり、モータが第2回転方向に回転することで発生した第2駆動力が入力される場合は、ストッパは第2位置で規制解除状態となる。
【0010】
同様に、搬送ローラへのモータの駆動力の伝達の切替が、第1伝達切替機構によって、モータの駆動力の態様に応じて行われる。すなわち、モータから第2駆動力が発せられている場合はその第2駆動力が搬送ローラに伝達されるとともに、モータから第1駆動力が発せられている場合は搬送ローラへの駆動力の伝達は行われず遮断される。
【0011】
以上のように、本願発明においては、モータが第2回転方向へ回転して第2駆動力を発生すると、ストッパは規制解除状態となりシートの搬送を許容する状態となるとともに、第2駆動力が搬送ローラへと伝達され、搬送ローラによるシートの搬送が行われる。
【0012】
一方、モータが第1回転方向へ回転して第1駆動力を発生すると、ストッパは規制状態となりシートの搬送方向への通過を規制するとともに搬送ローラへの駆動力の伝達は遮断される。すなわち、上記第2駆動力に基づく搬送ローラによるシート搬送時に何らかの搬送異常が生じた場合には、モータを第1回転方向へ駆動することで搬送ローラへの駆動力の伝達を遮断できるので、例えばステッピングモータ等を用いた場合でも容易に引き抜くことができる。
【0013】
以上のようにして、本願発明によれば、1つのモータの駆動力を用いたストッパの2つの状態の適切な切替と、搬送異常時のシートの搬送ローラからの円滑な引き抜きと、を両立させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、1つのモータの駆動力を用いて搬送ローラの駆動とストッパの状態の切替とを行う際の、搬送異常時のシートの搬送ローラからの円滑な引き抜きと、ストッパの状態の適切な切り替えとを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態による複合機の概念的な全体構成を表す模式図である。
図2】複合機の外観構成を表す斜視図である。
図3】複合機の外観構成を表す平面図である。
図4】読取ユニットの要部断面構造を後方から見た横断面図である。
図5図4に示した構造において開閉カバーを開けた状態を表す横断面図である。
図6図4に示した構造において開閉カバーを開けた状態を表す斜視図である。
図7】ストッパがロックレバーに係合した状態を表す断面図、及び、その部分拡大図である。
図8】ストッパとロックレバーとの係合が解除された状態を表す断面図、及び、その部分拡大図である。
図9】複合機1の電気的構成を表す機能ブロック図である。
図10】モータからの駆動力の搬送ローラ及び排紙ローラへの伝達構成を表す横断面図である。
図11】モータからの駆動力の搬送ローラ及び排紙ローラへの伝達構成を表す横断面図である。
図12】モータからの駆動力の分離ローラへの伝達構成を説明するための横断面図である。
図13図12に示した構造において開閉カバーを開けた状態を表す横断面図である。
図14】モータからの駆動力の給紙ローラへの伝達構成を説明するための横断面図である。
図15】遊星ギヤの移動による駆動力の伝達及び遮断、並びにホルダの揺動を説明するための部分拡大断面図である。
図16】遊星ギヤの移動による駆動力の伝達及び遮断、並びにホルダの揺動を説明するための部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。なお、各図面は、本開示が採用し得る技術的特徴を説明する為に用いるものであり、記載している装置の構成等は、それのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例である。
【0017】
<複合機の全体概略構成>
図1に本実施形態の複合機1の全体概略構成を概念的に示す。複合機1が画像処理装置の一例である。図1に示す複合機1において、紙面に向かって手前側を装置の前方と規定し、紙面に向かって左手に来る側を左方と規定して、前後、左右及び上下の各方向を表示する。そして、以降の各図に示す各方向は、全て図1に示す各方向に対応させて表示する。
【0018】
図1に示すように、複合機1は、本体ユニット2と、読取ユニット3と、を備える。読取ユニット3は、ADF部9と、FB部5とを備える。ADF部9のFB部5の前面には、タッチパネル等である操作パネル40(後述の図9参照)が設けられている。
【0019】
図1に示すように、本体ユニット2は、扁平な略箱状体であり、内部に画像形成部4を備えている。画像形成部4は、インクジェット方式又はレーザ方式等により、複合機1に接続されたパーソナルコンピューターから受信した画像データ、読取ユニット3によって原稿の画像が読み取られて生成された画像データ、等に基づき、記録紙に画像を形成する。読取ユニット3は、本体ユニット2の上方に配置されている。FB部5は、後述する原稿支持面101A上に載置された原稿の画像を読み取る際に使用される。ADF部9は、供給トレイ12と、排出トレイ14と、搬送部6と、を有している。搬送部6は、供給トレイ12に載置されたシートSHを搬送経路P1に沿って搬送し、排出トレイ14に排出する。ADF部9は、供給トレイ12に載置されたシートSHの画像を搬送経路P1に沿って順次搬送しながら、読み取らせる際に使用される。なお、読取対象のシートは、用紙、OHPシート等であるシートの他、原稿等が含まれる。
【0020】
<ADF部の外観>
ADF部9の外観構成を図2及び図3に示す。これら図2及び図3に示すように、ADF部9は、後部に配設された図示しないヒンジによって、左右方向に延びる開閉軸心X9周りで揺動可能に支持されている。ADF部9は、図2及び図3に示す閉じた状態では、後述する原稿支持面101Aを上方から覆っている。図示は省略するが、ADF部9は、その前端部が上方かつ後方に変位するように上記開閉軸心X9周りで揺動することにより、原稿支持面101Aを露出させる。これにより、ユーザは、読取対象の原稿を原稿支持面101Aに支持させることができる。
【0021】
図2及び図3に示すように、供給トレイ12は、ADF部9の右部分に形成されている。供給トレイ12の上面は、シートSHを下から支持する給紙面12Aである。給紙面12Aには、搬送部6によって搬送される読取対象の複数枚のシートSHが積載される。給紙面12Aは、左向きに下り傾斜する平坦面である。供給トレイ12には、前ガイド17F及び後ガイド17Rがそれぞれ前後方向にスライド可能に設けられている。前ガイド17Fと後ガイド17Rとが互いに接近又は離間することにより、供給トレイ12に支持されるサイズの異なる複数種類のシートSHを前後から挟む。図2及び図3に示すように、排出トレイ14は、供給トレイ12よりも下方に位置している。排出トレイ14の上面は、シートSHを下から支持する排紙面14Aである。排紙面14Aには、イメージセンサ3Sによって画像が読み取られ、搬送部6によって排出されたシートSHが積載される。排紙面14Aは、左から右に向かうにつれて上り傾斜する平坦面である。
【0022】
図2及び図3に示すように、ADF部9の上部分には、開閉カバー32が設けられている。開閉カバー32は、ADF部9の略中央から左端まで前後左右方向に延在する略平板部材である。開閉カバー32の左端部は下向きに屈曲している。そして、開閉カバー32は、その左端、かつ下端部において、前後方向に延びる開閉軸心X32周りに揺動可能に支持されている。これにより、開閉カバー32は、図2及び図3に実線で示す閉鎖位置と、後述の図5等に示す開放位置との間で変位可能となっている。上記閉鎖位置においては、開閉カバー32は搬送経路P1を覆うように機能する。また、上記左端かつ下端部が開閉カバー32の一端の一例である。
【0023】
<読取ユニットの断面構造>
図4は、読取ユニット3の要部断面構造を後方から見た図であり、図5はその断面構造において開閉カバー32を開いた状態を表す図である。これら図4及び図5において、FB部5の上面には、プラテンガラス101が配設されている。プラテンガラス101の上面によって、原稿支持面101Aが形成されている。FB部5内であって、プラテンガラス101の下方には、上記イメージセンサ3Sが左右方向に移動可能に設けられている。原稿支持面101Aは、静止した状態の原稿の画像をイメージセンサ3Sによって読み取る際に、その原稿を下から支持する。
【0024】
プラテンガラス101の上面によって、読取面101Bが形成されている。読取面101Bは、搬送部6によって1枚ずつ搬送されるシートSHの画像をFB部5内のイメージセンサ3Sによって読み取る際に、その搬送されるシートSHを下から案内する。なお、本実施形態においては、原稿支持面101Aを使用して画像が読み取られる対象を原稿と記載し、搬送部6により搬送しながら画像が読み取られる対象をシートSHと記載する。原稿とシートSHとは、実質的に同じものであってもよい。
【0025】
FB部5は、上記イメージセンサ3Sと、図示しない走査機構と、上記プラテンガラス101と、を有している。走査機構は、イメージセンサ3Sを原稿支持面101A及び読取面101Bの下方で左右方向に往復動させる。原稿支持面101Aに支持されている原稿の画像を読み取る場合には、イメージセンサ3Sが原稿支持面101Aの下方を移動しながら読み取る。シートSHを搬送部6によって搬送しながら画像を読み取る場合には、イメージセンサ3Sを予め決められた静止読取位置に停止させる。ここで、イメージセンサ3Sが停止する静止読取位置は、読取面101Bに下方から対向する位置である。イメージセンサ3Sとしては、CIS(Contact Image Sensor)やCCD(Charge Coupled Device)等の周知の画像読取センサが使用される。
【0026】
ADF部9の下部分には、ベース部材9Aが設けられている。ベース部材9Aは、ADF部9の底部を構成している。ベース部材9Aの右部分は、前述の排出トレイ14を構成している。搬送部6は、ADF部9における開閉カバー32とベース部材9Aの左部分との間に設けられている。搬送部6は、ベース部材9Aに組み付けられたアッパーシュート部材130とロアシュート部材140とを有している。ロアシュート部材140は、アッパーシュート部材130に対して下方に位置している。ロアシュート部材140の下方にベース部材9Aが位置している。
【0027】
図4図5、及び図6に示すように、開閉カバー32の内面には、左右方向に延びるガイドリブ32Rが前後方向に複数本並んで形成されている。それらのガイドリブ32Rの下端縁によって、上記上案内面32Aが形成されている。上案内面32Aは、搬送経路P1のうち、後述する上経路P1Aを上から規定する。
【0028】
アッパーシュート部材130の上面には、第1上搬送面130Aと第2上搬送面130Bとが形成されている。第1上搬送面130Aは、供給トレイ12の左端に隣接し、左向きに下り傾斜する平坦面である。アッパーシュート部材130の第1上搬送面130Aと供給トレイ12の給紙面12Aとにより、積載面150Aが構成されている。積載面150Aには、搬送部6によって搬送される読取対象の複数枚のシートSHが積載される。積載面150Aは支持面の一例である。第2上搬送面130Bは、第1上搬送面130Aに続いて左向きに上り傾斜する略平坦面である。
【0029】
ロアシュート部材140の下面には、下案内面140A1,140A2が形成されている。下案内面140A1は、ADF部9内の左端部の近傍から読取面101Bに向かって右向きに下り傾斜する略平坦面である。下案内面140A2は、下案内面140A1に続いて右向きに上り傾斜する略平坦面である。ベース部材9Aの上面には、下案内面140A1に下から対向する下搬送面140B1と、下案内面140A2に下から対向する下搬送面140B2とが形成されている。
【0030】
搬送部6における搬送経路P1は、アッパーシュート部材130の第1上搬送面130Aと、第2上搬送面130Bと、ロアシュート部材140の下案内面140A1,140A2と、開閉カバー32の上案内面32Aと、ベース部材9Aの下搬送面140B1,140B2と、各種搬送ローラ等に囲まれた空間として規定される。より具体的には、搬送経路P1は、供給トレイ12の給紙面12Aからアッパーシュート部材130の第1上搬送面130A及び第2上搬送面130Bに沿って左向きに延びる部分である上経路P1Aを含んでいる。次に、搬送経路P1は、上経路P1Aに接続し、下向きに湾曲する部分である湾曲経路P1Bを含んでいる。次に、搬送経路P1は、湾曲経路P1Bに接続し、湾曲する部分の下端から読取面101Bに向かって下り傾斜した後、読取面101Bに沿って右方に短く延びる部分と、読取面101Bの右端からさらに右に向かって上り傾斜して排出トレイ14に至る部分とから成る下経路P1Cを含んでいる。上経路P1Aと下経路P1Cとは上下方向に重なっている。搬送部6によって搬送されるシートSHの搬送方向は、搬送経路P1の上経路P1Aでは左向きであり、搬送経路P1の湾曲経路P1Bでは、左向きから変化して右向きになり、搬送経路P1の下経路P1Cでは右向きである。なお、この搬送経路P1の延出する方向や形状は、一例である。
【0031】
<分離ローラ、分離パッド、給紙ローラ等>
図4図5、及び図6に示すように、搬送部6は、分離ユニット50と、分離パッド56Aと、を備えている。詳細については後述するが、分離ユニット50は、回転軸54Sを備えた分離ローラ54と、ホルダ51と、回転軸92Sを備えた給紙ローラ92と、を備えている。
【0032】
分離ローラ54は、給紙ローラ92よりも左方、すなわち、搬送経路P1における搬送方向の下流に位置している。そして、分離ローラ54は、アッパーシュート部材130の第2上搬送面130Bに対して上方から対向する位置に設けられている。分離ローラ54の回転軸54Sは、シートSHの搬送方向に直交する方向である前後方向に延びる回転軸心X54を軸心として延在する円柱軸体である。図6に示すように、分離ローラ54の回転軸54Sの前端及び後端は、ADF部9の前端部を形成する前カバー31Fと、ADF部9の後端を形成する後カバー31Rの内部に配置されたフレーム(図示せず)と、にそれぞれ回転可能に支持されている。分離ローラ54は、回転軸54Sの中央部に組み付けられている。
【0033】
図4に示すように、分離パッド56Aは、第2上搬送面130Bと共にシートSHの搬送面を形成している。分離パッド56Aは、分離ローラ54に下から対向する位置に設けられている。分離パッド56Aは、ゴムやエラストマー等の軟質材料からなる板状体である。分離パッド56Aは、例えば図示しない付勢バネによって、分離ローラ54に向かって押圧される。
【0034】
図4図5、及び図6に示すように、ホルダ51は、分離ローラ54を上から覆いつつ、前後から挟んだ状態で収容している。詳細については後述する。ホルダ51は、分離ローラ54の回転軸心X54周りに揺動可能に回転軸54Sに支持されている。また、ホルダ51は、回転軸54Sに対して右方、すなわち、搬送方向の上流に向かって延びている。
【0035】
図4図5、及び図6に示すように、給紙ローラ92は、アッパーシュート部材130の第1上搬送面130Aに対して上から対向する位置に設けられている。そして、給紙ローラ92は、積載面150Aに積載されたシートSHに対して、上から接触可能に設けられている。給紙ローラ92は、分離ローラ54に対して右方に位置し、ホルダ51内に収容される。給紙ローラ92は、回転軸心X54と平行な回転軸心X92周りに回転可能にホルダ51に支持されている。よって、ホルダ51が、分離ローラ54の回転軸心X54周りに上方向、あるいは下方向に揺動することで、給紙ローラ92が、積載面150Aに近づく位置と離間する位置とに変位可能に構成されている。
【0036】
図6に示すように、回転軸54Sの後端には、伝達ギヤ55が設けられている。伝達ギヤ55は、後述するモータ70の駆動により、回転軸54Sを回転させる。伝達ギヤ55が回転すると、回転軸54Sが回転し、分離ローラ54及び給紙ローラ92が同期して回転する。給紙ローラ92の外周面92Aは、積載面150Aに積載されたシートSHのうち、最上位置にあるシートSHに搬送力を付与して、そのシートSHを分離ローラ54に向けて送り出す。図4図5、及び図6に示すように、分離ローラ54は、分離パッド56Aと協働して、給紙ローラ92によって搬送されるシートSHを1枚ずつに分離し、搬送経路P1における搬送方向の下流に搬送する。
【0037】
<搬送ローラ>
搬送部6は、搬送経路P1の上経路P1Aにおいて、分離ローラ54よりも左方、すなわち、分離ローラ54に対して搬送方向の下流となる位置に、第1搬送ローラ44及びピンチローラ44Pを有している。第1搬送ローラ44及びピンチローラ44Pは、分離ローラ54及び分離パッド56Aによって1枚ずつに分離されたシートSHをニップし、搬送方向の下流に向かって搬送する。
【0038】
また搬送部6は、搬送経路P1における湾曲経路P1Bにおいて、湾曲案内面45Gと、湾曲案内面45Hと、第2搬送ローラ45と、ピンチローラ45Pと、を有している。湾曲案内面45Gと湾曲案内面45Hとは、所定の間隔を有して対向している。湾曲案内面45Gは、湾曲経路P1Bにおいて下向きに湾曲する部分を外側から規定する。湾曲案内面45Hは、湾曲経路P1Bにおいて下向きに湾曲する部分を内側から規定する。第2搬送ローラ45及びピンチローラ45Pは、湾曲経路P1Bの下端部に配置されている。第2搬送ローラ45及びピンチローラ45Pは、第1搬送ローラ44及びピンチローラ44Pによって搬送されるシートSHをニップし、読取面101Bに向けてさらに搬送する。第1搬送ローラ44及びピンチローラ44Pと読取面101Bとの間には、下案内面140A1と下搬送面140B1とが所定間隔を有して対向することにより、下経路P1Cの左部分を規定している。
【0039】
搬送部6は、さらに、排紙ローラ48及びピンチローラ(図示せず)を有している。読取面101Bと排紙ローラ48及びピンチローラとの間には、下案内面140A2と下搬送面140B2とが所定間隔を有して対向することにより、下経路P1Cの右部分を規定している。
【0040】
下案内面140A2と下搬送面140B2とにより形成される経路は、押圧部材49よりも右方で、排紙ローラ48及びピンチローラに向かって上り傾斜している。排紙ローラ48は、駆動軸48aを備えており、ロアシュート部材140の下案内面140A2の右端部に位置している。ピンチローラは、下搬送面140B2の右端部に位置している。排紙ローラ48とピンチローラとは、読取面101B上を通過したシートSHをニップして、排出トレイ14の排紙面14A上に向けて排出する。
【0041】
<ストッパ>
図5及び図6に示すように、本実施形態のADF部9は、分離ローラ54と給紙ローラ92との間に位置し、シートSHの搬送方向先端に当接してシートSHの移動を規制する前・後一対のストッパ80F,80Rを備える。なお以下適宜、これら前ストッパ80F及び後ストッパ80Rを総称して単に「ストッパ80」と称する。
【0042】
ストッパ80は、図7(a)及び図7(b)に示す規制状態と、図8(a)及び図8(b)に示す規制解除状態との間で位置を切替可能に構成されている。この例では、上記規制状態では、ストッパ80は、後述のようにロックレバー100に係合されることでシートSHの搬送経路P1を画定する第1上搬送面130Aに向かって突出し、これによってシートSHの通過を規制する。このときのストッパ80の位置が第1位置の一例である。また上記規制解除状態では、ストッパ80は、後述のように上記ロックレバー100による係合が解除されフリーな状態となることで、シートSHの先端に押され上記第1位置から回動して第1上搬送面130Aより遠ざかるように上方に退避し、シートSHの下流側への移動すなわちシートSHの通過を許容する。このときのストッパ80の位置が第2位置の一例である。なおストッパ80は、分離ローラ54及び給紙ローラ92を備えた上記ホルダ51とともに、開閉カバー32に支持されている。
【0043】
<複合機の電気的構成>
次に、本実施形態における複合機1の電気的構成を説明する。複合機1が備える本体ユニット2には、図9に示すように、制御部110が設けられている。制御部110は、周知のCPU110A、ROM110B、RAM110C、NVRAM110D、及びインターフェース部110Eなどを備える。CPU110Aは、ROM110B、RAM110C等に記憶された制御プログラムに従って所定の処理を実行し、これにより、複合機1の各部に対する制御が実行される。
【0044】
制御部110による制御対象としては、画像形成部4、LAN通信部111、操作パネル40、イメージセンサ3S、シート搬送センサ113、モータ70、モータ114、及びシート載置センサ112などが設けられている。これらのうち、画像形成部4及びLAN通信部111は、本体ユニット2に設けられている。操作パネル40、イメージセンサ3S、及びモータ114は、FB部5に設けられている。シート載置センサ112、モータ70、及びシート搬送センサ113は、ADF部9に設けられている。
【0045】
また、制御部110は、シート載置センサ112及びLAN通信部111からの信号を監視する。LAN通信部111は、無線LANに対応した通信インターフェース装置、及び有線LANに対応した通信インターフェース装置によって構成されている。モータ114は、イメージセンサ3SをFB部5内において、左右方向に移動させるための動力源である。シート載置センサ112は、積載面150AにシートSHが載置されたことを検出するセンサである。シート搬送センサ113は、ADF部9において搬送されるシートSHの搬送方向先端や搬送方向後端が、搬送経路P1における所定の検出位置を通過したことを検出するセンサである。
【0046】
<本実施形態の特徴>
本実施形態の第1の特徴は、共通の駆動源である上記モータ70で発生した駆動力の伝達経路及び伝達態様にある。すなわち、モータ70から第1搬送ローラ44、第2搬送ローラ45、排紙ローラ48への駆動力の伝達経路及び伝達態様と、分離ローラ54及び給紙ローラ92への駆動力の伝達経路及び伝達態様とが互いに異なる。
【0047】
<搬送ローラ・排紙ローラへの駆動力の伝達>
まず、第1搬送ローラ44、第2搬送ローラ45、排紙ローラ48への駆動力の伝達について、図10及び図11を用いて説明する。
【0048】
図10及び図11に示すように、ADF部9内には、モータ70と、遊星ギヤ機構73と、歯付きプーリ74と、ベルト75と、歯付きプーリ76と、伝達ギヤ61と、第1搬送ローラ44の回転軸44aに固定された駆動ギヤ44bと、第2搬送ローラ45の回転軸45aに固定された駆動ギヤ45bと、中間ギヤ53と、分離ローラ54の回転軸54Sに固定された伝達ギヤ55と、を備えている。
【0049】
モータ70は、非通電時にはトルクが生じないモータ、この例ではステッピングモータであり、前述した制御部110により、その正回転、逆回転、及び回転停止が制御される。また制御部110は、モータ70に対する各方向への回転量を制御することができる。モータ70は、図10に時計回りで示す回転方向をX方向の回転方向とし、反時計回りで示す回転方向をY方向の回転方向とする。そして、モータ70のX方向の回転を正回転とし、Y方向の回転を逆回転とする。X方向は第2回転方向の一例であり、Y方向は第1回転方向の一例である。
【0050】
遊星ギヤ機構73は、太陽プーリ78、及び遊星ギヤ79によって構成される。モータ70は、図示しないプーリやベルト72を介して、遊星ギヤ機構73の太陽プーリ78と連結されている。遊星ギヤ機構73の遊星ギヤ79は、太陽プーリ78に設けられた図示しないギヤと同軸上で結合され、太陽プーリ78の回転に応じて自転および公転する。遊星ギヤ79の位置は、モータ70の回転方向により、歯付きプーリ74と結合する伝達位置と、歯付きプーリ74から離間する遮断位置に切り替わる。なお、遊星ギヤ機構73は第1伝達切替機構の一例である。
【0051】
<第1搬送ローラ、第2搬送ローラ45、排紙ローラ48への伝達>
例えばモータ70が図示のX方向に回転すると、太陽プーリ78もX方向に回転する。太陽プーリ78のX方向の回転に伴って遊星ギヤ79はX方向に自転しつつ図示のL方向に公転する。そして、図10に示すように遊星ギヤ79が歯付きプーリ74と結合して前述の遮断位置から伝達位置になると、歯付きプーリ74によって遊星ギヤ79のL方向の公転が阻止される。これにより、歯付きプーリ74は、遊星ギヤ79のX方向の自転に伴って、X方向に回転する。すなわち、この伝達位置では、モータ70の駆動力は歯付きプーリ74に伝達される。なおこのときのモータ70の正転に伴う駆動力が第2駆動力の一例である。歯付きプーリ74のX方向の回転により、歯付きプーリ74に連結されている駆動軸48aが駆動されることで前述の排紙ローラ48が回転する。
【0052】
また、歯付きプーリ74のX方向の回転は、伝達ベルト75を介して歯付きプーリ76に伝達され、歯付きプーリ76がX方向に回転する。歯付きプーリ76がX方向に回転することで、これに噛合する伝達ギヤ61がX方向に回転する。この結果、伝達ギヤ61に噛合する駆動ギヤ44bと駆動ギヤ45bとがX方向に回転し、駆動ギヤ44bに固定された上記回転軸44aが回転することで第1搬送ローラ44が回転するとともに、駆動ギヤ45bに固定された上記回転軸45aが回転することで第2搬送ローラ45が回転する。これにより、供給トレイ12にセットされた後に給紙ローラ92及び分離ローラ54により送られたシートSHの搬送が行われる。なお搬送ローラは、第1搬送ローラ44及び第2搬送ローラ45の2つに限られず、搬送経路P1に沿って適宜に3つ以上設けてもよい。この場合、第1搬送ローラ44及び第2搬送ローラ45以外の搬送ローラについても、上記と同様にしてモータ70からの第2駆動力の伝達が行われる。また上記とは逆に第1搬送ローラ44及び第2搬送ローラ45のうちいずれか1つのみを設けてもよい。
【0053】
上記とは逆に、モータ70がY方向に回転すると、太陽プーリ78もY方向に回転する。なおこのときのモータ70の逆転に伴う駆動力が第1駆動力の一例である。太陽プーリ78のY方向の回転に伴って遊星ギヤ79は、Y方向に自転しつつR方向に公転する。遊星ギヤ79がR方向に公転すると、図11に示すように、遊星ギヤ79と歯付きプーリ74との結合が外れて前述した駆動力の伝達経路が遮断されることで、第1搬送ローラ44、第2搬送ローラ45、排紙ローラ48へモータ70の駆動力が伝達されなくなる。
【0054】
<分離ローラ・給紙ローラへの駆動力の伝達>
一方、遊星ギヤ79が上記伝達位置にあるか遮断位置にあるかにかかわらず、遊星ギヤ機構73の太陽プーリ78に対し中間ギヤ53が作動連結されている。すなわち、前述のように太陽プーリ78に伝達されたモータ70の駆動力は太陽プーリ78の回転を介し中間ギヤ53に伝達され、中間ギヤ53が回転する。中間ギヤ53が回転すると、図示しないギヤ又はプーリを介し中間ギヤ53に作動連結された中間ギヤ57が回転する。この中間ギヤ57は、図10及び図11とは別断面による断面図である図12に示されるように前述の伝達ギヤ55に噛合しており、上記中間ギヤ57の回転により伝達ギヤ55が回転し、その結果、分離ローラ54の回転軸54Sが回転する。なお、図13に示されるように、開閉カバー32が開いた場合には分離ローラ54の回転軸54S及び伝達ギヤ55は開閉カバー32とともに上方へ持ち上げられ、中間ギヤ57と伝達ギヤ55との噛合は解消される。
【0055】
例えばモータ70がX方向に回転し太陽プーリ78がX方向に回転すると、中間ギヤ53がX方向に回転し、これによって中間ギヤ57及び伝達ギヤ55がX方向に回転する。この結果、分離ローラ54は、供給トレイ12にセットされた後に給紙ローラ92から送られたシートSHを、さらに下流側の上記第1搬送ローラ44及び第2搬送ローラ45へと搬送する。逆に例えばモータ70がY方向に回転し太陽プーリ78がY方向に回転すると、中間ギヤ53がY方向に回転し、これによって中間ギヤ57及び伝達ギヤ55がY方向に回転する。この伝達ギヤ55のY方向への回転によって上記ストッパ80が切り替えられるが、これについては後述する。
【0056】
<ストッパ切替機構>
本実施形態の第2の特徴は、分離ローラ54への駆動力の伝達を利用したストッパ80の状態の切替にある。以下、その詳細を前述の図7及び図8図14図16とにより説明する。
【0057】
図14において、前述したように、分離ローラ54及び給紙ローラ92は、ホルダ51に設けられており、ホルダ51は、分離ローラ54の回転軸54Sに揺動可能に支持されている。ホルダ51にはさらに、回転軸54Sに固定された軸ギヤ154と、軸ギヤ154に噛合しつつ、開閉カバー32に設けられた固定歯32aと噛合して移動可能な遊星ギヤ153と、給紙ローラ92の回転軸92Sに固定された軸ギヤ157に噛合する中間ギヤ156と、この中間ギヤ156に噛合する中間ギヤ155と、が設けられている。
【0058】
前述したようにモータ70のX方向への回転に伴う前述の第2駆動力が前述のようにして回転軸54Sに対し入力され回転軸54Sが図15(a)中のX方向に回転すると、遊星ギヤ153が搬送方向上流側へ移動して図15(b)に示すように固定歯32aと噛合する。なおこのときの遊星ギヤ153の移動方向である搬送方向上流側が第1方向の一例である。この噛合した状態でさらに回転軸54SがX方向に回転することにより、図15(c)に示すようにホルダ51が、回転軸心X54を中心にして給紙ローラ92側が下がるように揺動する。これにより給紙ローラ92はシートSHに当接する。
【0059】
図7及び図8を用いて前述したように、開閉カバー32のうちホルダ51の近傍にストッパ80が設けられている。ストッパ80は、軸部材80cを回転中心として回転可能に開閉カバー32に支持されており、段付部80aとシート規制部80bとを有している。ホルダ51のうち給紙ローラ92の近傍にはロックレバー100が回動可能に支持されている。なお、ロックレバー100が変位部材の一例である。ロックレバー100は、図示しない適宜のバネ部材によって、図7(b)及び図8(b)中に示すS方向に付勢されている。図14図15(a)、図15(b)に示した、ホルダ51が上記のように給紙ローラ92側が下がるように揺動する前の状態では、図7(a)及び図7(b)に示すようにロックレバー100の先端部100aが段付部80aに当接し係合する。これによってストッパ80の回動が阻止されて前述の規制状態となる。なおこのときのロックレバー100の位置が規制位置の一例である。
【0060】
上述したような遊星ギヤ153の移動に連動してホルダ51が回転軸54Sの回転軸心X54まわりに回動し図15(c)に示したように給紙ローラ92側が下がるように揺動すると、ロックレバー100の被当接面100bが、開閉カバー32に設けられた当接リブ132に当接する。これにより、ロックレバー100は、図8(a)及び図8(b)に示すように上記S方向と逆方向へと回動するように変位する。この結果、ロックレバー100の先端部100aと上記段付部80aとの係合が外れ、ストッパ80は回動自由な状態、すなわち前述の規制解除状態となる。なおこのときのロックレバー100の位置が開放位置の一例である。またホルダ151と、ロックレバー100と、当接リブ132とが、ストッパ切替機構の一例である。
【0061】
図15(c)に示した状態の後、さらに遊星ギヤ153が搬送方向上流側へ移動することで、図16(a)に示すように遊星ギヤ153と固定歯32aとの噛合が外れる。固定歯32aから外れた遊星ギヤ153は、図16(a)に示すように中間ギヤ156に噛合する。これにより、モータ70からの上記第2駆動力が、回転軸54S、遊星ギヤ153、中間ギヤ155、及び中間ギヤ156を介して軸ギヤ157に伝達され、給紙ローラ92が回転してシートSHを湾曲経路P1Bへ搬送する。
【0062】
一方、モータ70からのY方向への回転に伴う前述の第1駆動力が回転軸54Sに対し入力され回転軸54Sが図16(a)中のY方向に回転すると、遊星ギヤ153が前述とは逆の搬送方向下流側へ移動して中間ギヤ155との噛合が外れる。これにより、モータ70からの駆動力の給紙ローラ92への伝達は遮断される。その後遊星ギヤ153はさらに移動して図16(b)に示すように固定歯32aに噛合する。なおこのときの遊星ギヤ153の移動方向である搬送方向下流側が第2方向の一例である。この噛合した状態でさらに回転軸54SがY方向に回転することにより、図16(c)に示すようにホルダ51が、回転軸心X54を中心にして給紙ローラ92側が上がるように揺動する。これにより給紙ローラ92はシートSHから離間する。
【0063】
上述したような遊星ギヤ153の移動に連動して給紙ローラ92側が上がるようにホルダ51が揺動すると、図8(a)及び図8(b)を用いて前述したように被当接面100bが当接リブ132に当接することで持ち上げられていたロックレバー100が、図7(a)及び図7(b)に示すように上記S方向へと回動するように変位する。この結果、ロックレバー100の先端部100aと上記段付部80aとが係合し、ストッパ80は前述の規制状態となる。なお、以上のように作動する、ホルダ51、遊星ギヤ153、中間ギヤ155、中間ギヤ156が、第2伝達切替機構の一例である。
【0064】
<実施形態の効果>
以上説明したように、本実施形態の複合機1では、シートSHを搬送経路P1に沿って搬送する搬送ローラ44,45を備えている。またストッパ80が設けられ、第1位置においてシートSHの搬送方向への通過を規制する規制状態となり、第2位置においてシートSHの搬送方向への通過を許容する規制解除状態となる。
【0065】
ストッパ80の規制状態と規制解除状態との切替は、入力されるモータ70の駆動力の態様に応じて行われる。すなわち、モータ70がY方向に回転することで発生した第1駆動力が入力される場合は、ストッパ80は上記第1位置で規制状態となり(図7(a)及び図7(b)参照)、モータ70がX方向に回転することで発生した第2駆動力が入力される場合は、ストッパ80は上記第2位置で規制解除状態となる(図8(a)及び図8(b)参照)。
【0066】
同様に、搬送ローラ44,45へのモータ70の駆動力の伝達の切替が、モータ70の駆動力の態様に応じて行われる。すなわち、モータ70がX方向に回転することで第2駆動力が発せられている場合はその第2駆動力が搬送ローラ44,45に伝達されるとともに(図10参照)、モータ70がY方向に回転することで第1駆動力が発せられている場合は搬送ローラ44,45への駆動力の伝達は行われず遮断される(図11参照)。
【0067】
以上のように、本実施形態においては、モータ70がX方向へ回転して第2駆動力を発生すると、ストッパ80は規制解除状態となりシートSHの搬送を許容する状態となるとともに、第2駆動力が搬送ローラへと伝達され、搬送ローラによるシートSHの搬送が行われる。一方、モータ70がY方向へ回転して第1駆動力を発生すると、ストッパ80は規制状態となりシートSHの搬送方向への通過を規制するとともに搬送ローラへの駆動力の伝達は遮断される。すなわち、上記第2駆動力に基づく搬送ローラ44,45によるシートSH搬送時に何らかの搬送異常が生じた場合には、モータ70をY方向へ駆動することで搬送ローラへの駆動力の伝達を遮断できるので、モータ70にステッピングモータ等を用いる場合でも容易に引き抜くことができる。
【0068】
以上の結果、本実施形態によれば、1つのモータ70の駆動力を用いたストッパ80の2つの状態の適切な切替と、搬送異常時のシートSHの搬送ローラ44,45からの円滑な引き抜きと、を両立させることができる。
【0069】
また、本実施形態では特に、複合機1には、積載面150Aに支持されたシートSHを送り出す給紙ローラ92と、シートSHを1枚ずつに分離する分離ローラ54と、を備えている。このとき、ストッパ80は、給紙ローラ92と分離ローラ54との間に設けられている。これにより、モータ70の第1駆動力によりストッパ80が規制状態となりシートSHの搬送方向への通過を規制する際、シートSHが分離ローラ54まで差し込まれるのを規制することができる。
【0070】
また、本実施形態では特に、給紙ローラ92へのモータ70の駆動力の伝達の切替が、分離ローラ54へ入力されるモータ70の駆動力の態様に応じて行われる。すなわち、モータ70がX方向に回転することで発生した第2駆動力が分離ローラ54へ入力されるときにはその第2駆動力が給紙ローラ92に伝達されるとともに、モータ70がY方向に回転することで発生した第1駆動力が分離ローラ54へ入力されるときには給紙ローラ92への駆動力の伝達は行われず遮断される。したがって、上記第2駆動力に基づくシートSH搬送時に何らかの搬送異常が生じた場合に、モータ70をY方向へ駆動することで給紙ローラ92への駆動力の伝達を遮断でき、シートSHを給紙ローラ92から円滑に引き抜くことができる。
【0071】
また、本実施形態では特に、ホルダ51と、遊星ギヤ153と、ロックレバー100とが備えられる。前述したようにモータ70からの第2駆動力が分離ローラ54の回転軸54Sに入力されることで、遊星ギヤ153が移動してホルダ51の固定歯32aとの噛合が外れて中間ギヤ155に噛合し、その中間ギヤ155と作動連結される給紙ローラ92の軸ギヤ157に第2駆動力が伝達される。また、この伝達によりホルダ51が揺動し、給紙ローラ92がシートSHに当接するとともにロックレバー100が規制位置から開放位置に変位する。このようにロックレバー100が開放位置に変位してストッパ80を規制状態から規制解除状態とすることで、ストッパ80はフリーな状態(シートSHに押されて第2位置へ切り替わり可能)となり、給紙ローラ92、分離ローラ54、搬送ローラによりシートSHを搬送可能な態勢となることができる。
【0072】
モータ70からの第1駆動力が分離ローラ54の回転軸54Sに対し入力されることで、遊星ギヤ153が移動して中間ギヤ155との噛合が外れてホルダ51の固定歯32aに噛合し、給紙ローラ92への駆動力の伝達が遮断される。また、ホルダ51が揺動して給紙ローラ92がシートSHから離間するとともにロックレバー100が開放位置から規制位置に変位する。このようにロックレバー100が規制位置に変位することで、ストッパ80はシートSHを規制可能な規制状態となり、投入されたシートSHの先端を給紙ローラ92と分離ローラ54との間の所定位置にて規制することができる。
【0073】
また、本実施形態では特に、給紙ローラ92、分離ローラ54、及び搬送ローラによる搬送経路P1を覆う開閉カバー32が、その一端において回動可能に支持されており、適宜に回動させることで、覆っていた上記搬送経路P1を外部へ露出させることができる。このとき、給紙ローラ92及び分離ローラ54を備えたホルダ51と、ストッパ80とが、その開閉カバー32に支持されている。これにより、前述のようにシートSH搬送時に何らかの搬送異常が生じた場合には、当該開閉カバー32を上記のように回動させることで、それら給紙ローラ92、分離ローラ54、ストッパ80等を搬送経路P1に位置するシートSHから離間させ、円滑にシートSHを抜き取ることができる。
【0074】
なお、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、その趣旨及び技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。以下、そのような変形例を順を追って説明する。これらの変形例も技術的範囲に含まれる。
【0075】
(1)モータ回転量の調節
前述したように、制御部110は、モータ70の各方向への回転量を制御することができる。その際、例えばその回転量の設定を処理に応じて可変に設定してもよい。
【0076】
すなわち、制御部110は、前述したように、モータ70をX方向に駆動することで、給紙ローラ92、分離ローラ54、及び搬送ローラ44,45によりシートSHの搬送を行うことができる。そしてその搬送が終了した後、モータ70をY方向に駆動することで、給紙ローラ92への駆動力の伝達を遮断するとともにストッパ80を上記規制状態とする。なお、このときの制御部110による処理が第1処理の一例である。一方、制御部110はまた、前述したようにシートSHの搬送異常が発生した時にはモータ70をY方向に駆動し給紙ローラ92への駆動力の伝達を遮断する。このときの制御部110による処理が第2処理の一例である。
【0077】
制御部110は、例えば、上記第1処理のときのモータ70のY方向への回転量を、上記第2処理のときのモータ70のY方向への回転量よりも大きくする。これには、以下のような技術的意義がある。すなわち、上記第1処理ではストッパ80における規制解除状態から規制状態への状態切り替えを伴うことから比較的大きな回転量が必要である。これに対し、上記第2処理は引き抜き時の負荷を軽くするために給紙ローラ92への駆動力伝達を遮断するのが主目的であり、比較的小さな回転量で足りる。本変形例においてはこれに対応し、制御部における各処理におけるY方向へのモータの回転量が、第1処理における回転量>第2処理における回転量、に設定される。これにより、上記2つの処理内容に合致した、無駄のない最適な制御とすることができる。
【0078】
なお、上記とは異なり、制御部110において、例えば、上記第1処理のときのモータ70のY方向への回転量と、上記第2処理のときのモータ70のY方向への回転量とを略等しくしてもよい。この場合は、上記のように各処理によって回転量に差をつける場合に比べ、制御内容を簡素化できるという効果がある。
【0079】
(2)その他
すなわち、以上においては、ストッパ80は回動することによりシートSHの搬送経路P1に対し出没する構成としたが、これに限られない。すなわち、例えばソレノイドや電磁クラッチ等を用いてストッパを上下動させることにより搬送経路P1に対し出没する構成としてもよい。その場合、搬送経路P1側に位置する上記第1位置へストッパを上方移動(又は下方移動)させることで前述の規制状態を実現し、当該第1位置よりも搬送経路P1から遠い上記第2位置へストッパを下方移動(又上下方移動)させることで前述の規制解除状態を実現する、ストッパ切替機構が設けられる。
また、以上においては、変位部材として回動可能なロックレバー100が設けられる場合を例にとって説明したが、これに限られず、ホルダ51の回動に連動してストッパ80を前述の規制状態又は開放状態に切り替え可能なものであれば足りる。すなわち例えば、レバーのように回動せず直線的に移動してストッパ80に対し当接したり係合したりするバーや板のようなものを、上記変位部材として用いてもよい。
また、以上においては、ホルダ51、遊星ギヤ153、中間ギヤ155、中間ギヤ156により、第2伝達切替機構を構成したが、これに限られない。すなわち、一方向クラッチやその他の適宜のクラッチ等、モータ70から分離ローラ54に対し入力される第2駆動力を給紙ローラ92に伝達し、モータ70から分離ローラ54に対し入力される第1駆動力の給紙ローラ92への伝達を遮断する機構を用いれば足りる。
【0080】
また、以上においては、ホルダ51の揺動についてもモータ70からの駆動力を利用して実現したが、これに限られない。すなわち、モータ70とは別の駆動源からの駆動力を用いてホルダ51を揺動させてもよい。
また、以上においては、ユーザにより原稿がADF部9に差し込まれたときのADF部9内の原稿給紙機構に対し本発明が適用された場合を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、本体ユニット2に別途設けられる手差し給紙口からユーザにより記録紙が差し込まれるときの手差し給紙機構に対し本発明を適用してもよい。この場合も、上記同様の効果を得る。
さらに、以上は、画像処理装置の一例として複合機1を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、画像処理装置の他の一例として、上述した画像形成部4に相当する部分を有さず読み取りユニット3に相当する部分のみを有する読み取り装置に対し本発明を適用してもよい。この場合も、上記同様の効果を得る。
【0081】
また、以上既に述べた以外にも、上記実施形態や各変形例による手法を適宜組み合わせて利用しても良い。
【0082】
その他、一々例示はしないが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0083】
1 複合機(画像処理装置の一例)
32 開閉カバー
44 搬送ローラ
45 搬送ローラ
51 ホルダ(第2伝達切替機構の一例)
51A 固定歯
54 分離ローラ
54S 回転軸
70 モータ
73 遊星ギヤ機構(第1伝達切替機構の一例)
80 ストッパ
92 給紙ローラ
92S 回転軸
100 ロックレバー(変位部材の一例)
110 制御部
132 当接リブ
153 遊星ギヤ(第2伝達切替機構の一例)
155 中間ギヤ(第2伝達切替機構の一例)
156 中間ギヤ(第2伝達切替機構の一例)
SH シート
P1 搬送経路
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