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▶ エリコン サーフェス ソリューションズ アーゲー、 プフェフィコンの特許一覧

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  • 特許-構造化されたブレーキディスク 図1
  • 特許-構造化されたブレーキディスク 図2
  • 特許-構造化されたブレーキディスク 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】構造化されたブレーキディスク
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/12 20060101AFI20241114BHJP
   C23C 4/02 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
F16D65/12 S
C23C4/02
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021549267
(86)(22)【出願日】2020-02-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-13
(86)【国際出願番号】 EP2020054125
(87)【国際公開番号】W WO2020169541
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2023-01-23
(31)【優先権主張番号】102019001286.0
(32)【優先日】2019-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】516082866
【氏名又は名称】エリコン サーフェス ソリューションズ アーゲー、 プフェフィコン
【住所又は居所原語表記】Churerstrasse 120 8808 Pfeffikon SZ CH
(74)【代理人】
【識別番号】100180781
【弁理士】
【氏名又は名称】安達 友和
(74)【代理人】
【識別番号】100182903
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 武慶
(72)【発明者】
【氏名】バース,アレクサンダー
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-513311(JP,A)
【文献】特表2014-503056(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0058363(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 65/12
C23C 4/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面(S)を備えたブレーキディスク(1)であって、前記表面は、前記表面(S)上の被膜の付着力を高めるために構造化されていて、前記表面の前記構造化は、少なくとも1つの溝状のトレンチ(G)を具備し、前記トレンチの幅は、凹部の深さが増すにつれ減少し、
前記溝状のトレンチ(G)は、第1凹部壁(W1)、第2凹部壁(W2)および溝底(N)を具備し、かつ前記溝状のトレンチ(G)は、前記第1凹部壁(W1)から前記第2凹部壁(W2)まで前記表面(S)にほぼ平行に測定される幅(B)と、前記表面(S)から前記溝底(N)まで前記表面(S)にほぼ直交して測定される深さ(T)とを有し、前記幅(B)は、前記表面(S)から前記溝底(T)に向かって減少し、
前記溝底(G)から前記第1凹部壁(W1)までで測定された第1角度は(α)は、0°と90°との間であり、かつ前記少なくとも1つの溝状のトレンチ(G)は、螺旋構造の形状を有する、ブレーキディスク(1)。
【請求項2】
前記溝底(G)から前記第2凹部壁(W)までで測定された第2角度(γ)は、90°と180°との間であることを特徴とする、請求項に記載の被膜されたブレーキディスク。
【請求項3】
第2角度(γ)を補完する補角(β)が第1角度(α)よりも小さく、前記第2角度(γ)と前記補完する補角(β)とを合わせると180°になることを特徴とする、請求項に記載の被膜されたブレーキディスク。
【請求項4】
前記溝状のトレンチ(G)は台形の断面を有することを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の被膜されたブレーキディスク。
【請求項5】
前記双方の凹部壁(W1,W2)の少なくとも一方が平坦であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の被膜されたブレーキディスク。
【請求項6】
前記溝底(N)が平坦であり、かつ前記表面(S)とほぼ平行に延在することを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の被膜されたブレーキディスク。
【請求項7】
最小幅(B)は、前記溝底(N)の幅を表し、前記深さ(T)が前記トレンチ(G)の前記最小幅(B)よりも小さく前記深さ(T)と前記最小幅(B)との比が約0.85であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の被膜されたブレーキディスク。
【請求項8】
前記深さ(T)が、約10μmと1000μmとの間であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の被膜されたブレーキディスク。
【請求項9】
前記ブレーキディスク(1)の前記表面(S)上の前記トレンチ(G)がほぼ螺旋状に延在し、前記螺旋の中心が円形の前記ブレーキディスク(1)のほぼ中心(M)にあり、前記螺旋の半径が前記ブレーキディスク(1)の中心(M)に向かって減少することを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の被膜されたブレーキディスク。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載のブレーキディスクの被膜方法であって、前記トレンチ(G)を有する前記ブレーキディスク(1)を、プラズマ蒸発法、または溶射で被膜することを特徴とする、方法。
【請求項11】
被膜源から前記ブレーキディスク(1)上にほぼ一直線に飛来する被膜粒子が、前記ブレーキディスク(1)の前記表面(S)上にほぼ直交して当たることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ブレーキディスク(1)が前記被膜される前に、前記トレンチ(G)が前記ブレーキディスクの前記表面に入れられ、切り込み加工されることを特徴とする、請求項10または11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理された表面を備えたブレーキディスク、特に、表面上への被膜の付着性を高めるために置かれた表面を備えたブレーキディスクに関する。当業者はこの過程を「表面の活性化」と呼ぶが、これは最終的に構造化を意味する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、ブレーキディスクと、ブレーキディスクの表面を処理する方法とを提案しており、この際、表面上での被膜の付着性を高めるために、表面を粗くするが、これは、表面中に少なくとも1つの凹部を設け、その幅が凹部の深さが増すにつれて増大し、このアンダーカットによってブレーキディスクと被膜との間に形状結合が生成されることにより行われる。
【0003】
このため、切削工具は少なくとも2つのカッティングエッジを有し、これらの双方のカッティングエッジは加工物表面の垂直線に対して傾斜角を有し、これらの両カッティングエッジは直交方向に同時に1つの共通の平面を形成する。ここでの目的は、プロセスパラメータの変動を可能な限り少なくして、活性化した表面上に表面被膜を塗布させるために、正確に再現可能な表面活性化を提供することである。
【0004】
従来技術によると、この表面が構造化部を有し、この構造化部が少なくとも1つの凹部を有し、この凹部は、深さが増すにつれて幅が増大するする。この従来の技術では、続いて塗布する被膜剤と加工物との間に形状結合を作ることが可能になり、この形状結合が正確な再現性を示すと説明されている。
【0005】
さらに、この従来技術によれば、上述の少なくとも1つの凹部が、レコードの溝に似た螺旋状の凹部の形態であることが有利である。これにより、表面活性化を材料の機械加工、特に旋削プロセスによって行うことができ、この表面活性化を非常に迅速かつ低コストで行うことができるようになる。
【0006】
しかし、凹部の深さが増すにつれて幅が増大する凹部を備えた構造化部は、後続の被膜の際に、この形状では陰影効果が生じてしまうという重大な欠点がある。つまり、凹部の深さが増すにつれ、被膜の厚みが急激に減少し、これにより付着性を向上させる効果が大きく低下してしまうことを意味する。これは、例えば、プラズマ蒸発および気相からの堆積(PVD法)など、被膜粒子が材料源から基板まで一直線に飛来するような被膜法で特に問題となる。溶射についても同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】独国特許出願公開第102010064350A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そのため、一方では被膜がアンダーカットにより確実になる歯面を有し、他方ではこの被膜が、従来技術で示された幅が拡がる凹部の方策のように陰影を被らない構造中に達する構造化部を示す必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、この課題は、請求項1に記載のブレーキディスクによって解決される。従来技術と同様に、ブレーキディスクは、螺旋状の凹部の形状の少なくとも1つの凹部を有している。
【0010】
しかし、従来の技術とは異なり、凹部の幅は深さが増すにつれて増大せず、減少する。本発明によれば、第1凹部壁と第2凹部壁とを有する凹部が実現される。双方の凹部壁のうちの1つ、例えば第1凹部壁は、被膜されるべき表面に対して相対的にアンダーカットされた凹部壁として実施されている。これに対し、他の凹部壁、例えば第2凹部壁は、アンダーカットされた凹部壁として実施されていない。この凹部の幅は、凹部の深さが増すにつれて減少する。そのため、他方のアンダーカットされていない凹部壁の領域では、被膜時に陰にならない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、図1を用いて本発明を例示的に詳細に説明する。図1は、本発明に従って被膜されるブレーキディスク1の一部分を概略的に示している。このブレーキディスクは、被膜されるべき構造化された表面Sを有し、この表面はトレンチGを備えている。このトレンチGは、凹部とも呼ばれうる。トレンチGは、ブレーキディスクの表面S中にフライス加工された螺旋状の凹部であり、第1凹部壁W1と第2凹部壁W2とを有する。また、凹部壁W1と表面Sとにより形成された角Lにある角Lと、凹部壁W2と表面Sとで形成された角Rにあるさらなる角Rとを備えた仮想矩形が描かれている。仮想矩形の高さは、トレンチの深さに相当する。仮想矩形と凹部壁W1とが角度αを形成し、これが、張り出した凹部壁W1の急傾斜、ひいてはアンダーカットを規定する。仮想矩形と凹部壁W2とは角度βを形成し、これが、凹部壁W2の(張り出していない)急傾斜を規定する。本発明によれば、α>βが該当するように凹部の形状を選択するが、この理由は、この場合、深さが増すにつれて凹部の幅が確実に減少するからである。
【0012】
これに対して、図2は従来技術の凹部を示し、この場合にはα<βが該当し、したがって、深さが増すにつれて凹部の幅が増大する。
【0013】
図3は、螺旋状の凹部を備えたブレーキディスクの概略上面図である。本発明によれば、被膜されるブレーキディスク1は、表面Sを有し、表面Sは、図1で明確に認識できるように、溝状のトレンチGを有する。溝状のトレンチGは、第1凹部壁W1、第2凹部壁W2および溝底Nを具備する。この溝状のトレンチGは、第1凹部壁W1から第2凹部壁W2まで表面Sに対してほぼ平行に測定される幅Bと、表面Sから溝底Nまで表面Sにほぼ直交して測定される深さTを有する。幅Bは、表面Sから溝底Tに向かって減少していく。これは、被膜プロセス/方法の際に、特に第2凹部壁W2を非常に良好に被膜できるという利点があるが、これは被膜粒子が第2凹部壁W2に自由にアクセスできるからである。同時に、被膜の継続的な付着を高めるために必要なトレンチのアンダーカットも確実に与えられる。逆に、図2の従来技術では、両方の凹部壁が被膜の陰影に入ってしまい、劣悪な被膜しかできない。
【0014】
図1による実施形態では、溝底Gから第2凹部壁Wまで測定した第2角度γが90°より大きく、特に90°と180°との間であり、好ましくは135°であり、特に鈍角であることが十分に認識できる。また、溝底Gから第凹部壁W1まで測った第1角度αが90°未満、特に0°と90°との間、好ましくは55°、特に鋭角であることが十分に認識できる。第2角度γを補完する補角βは、第1角度αよりも小さく、かつ第2角度γとこの補完する補角βとを合わせて180°となる。溝状のトレンチGは、台形の断面を有しており、特に双方の凹部壁W1,W2のうちの一方、特に第1凹部壁W1、特に第2凹部壁W2、および特に有利には、図1による実施形態中に示すように、双方の凹部壁W1、W2が平面である。このような平坦な実施形態は、特に溝Gをフライス加工する場合、比較的容易に製造可能である。さらなる実施形態では、壁W1、W2が、平坦ではなく、例えば、部分的に円形、楕円形、放物線形または双曲線形などの輪郭を有することが合目的である。しかし、溝Gの幅Bが、表面Sから溝底Nに向かう方向で減少し、特に常に減少することが本質的である。また、トレンチGの幅Bを部分的に一定にすること場合も合目的である。特に有利であるのは、表面SにおけるトレンチGの幅Bが、溝底NにおけるトレンチGの幅Bよりも大きい場合である。
【0015】
図1による実施形態では、溝底Nは平坦で、かつ特に表面Sとほぼ平行に延在している。さらなる実施形態では、溝底Nは、部分的に円形、楕円形、放物線形または双曲線形などの輪郭を有することができる。
【0016】
深さTは、溝Gの最小幅Bよりも小さく、この場合最小幅Bは特に溝底Nの幅を表し、特に深さTと最小幅Bとの比は約0.85である。有利な場合、この比率は約0.5~約0.99、特に約0.7~約0.95、有利には約0.8~約0.9の範囲である。
【0017】
トレンチGの深さTは、約10μmと1000μmとの間である。被膜されるブレーキディスク1は、図3で十分認識できるように、トレンチGがブレーキディスク1の表面S上でほぼ螺旋状に延在することを特徴とする場合に有利である。この場合、螺旋の中心は、円形のブレーキディスク1のほぼ中心Mに位置しており、特に螺旋の半径は、ブレーキディスク1の中心Mに向かって減少する。
【0018】
以下に、ある実施形態における、ブレーキディスクを被膜する方法を示すが、この場合、溝Gを有するブレーキディスク1は、プラズマ蒸発法、特にPVD法または溶射で被膜される。この被覆方法では、被覆源からブレーキディスク1上にほぼ一直線に飛来する被覆粒子が、ブレーキディスク1の表面S上にほぼ直交して当たる。直交から少しずれが生じてもよい。しかし、本質的には、ブレーキディスク1上に飛来した被膜粒子が、双方の凹部壁W1、W2のうちの少なくとも1つ、特に第2凹部壁W2に直接アクセスし、その結果、この第2凹部壁W2が良好に被膜されうる。合目的には、ブレーキディスク1が被膜される前に、トレンチGがブレーキディスクの表面中に入れられ、特にフライス加工、スクラッチ加工、または切り込み加工される。

図1
図2
図3