(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】歯付きプーリ
(51)【国際特許分類】
F16H 55/38 20060101AFI20241114BHJP
F16H 55/48 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
F16H55/38 A
F16H55/48
(21)【出願番号】P 2021004734
(22)【出願日】2021-01-15
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000211695
【氏名又は名称】中西金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】山盛 歩実
(72)【発明者】
【氏名】中村 成嘉
(72)【発明者】
【氏名】岡 伸政
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04722722(US,A)
【文献】特開2018-090081(JP,A)
【文献】特開2001-227620(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0161141(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/38
F16H 55/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯金と、歯を含む樹脂部とからなる歯付きプーリであって、
前記芯金は、
円筒状の第1芯金と、
前記第1芯金に対して径方向の隙間をあけるように前記第1芯金よりも径方向の外方に位置し、前記第1芯金と同心である
、円筒状の第2芯金と
からなり、
前記樹脂部は、
熱可塑性樹脂であるとともに、
前記第1芯金と前記第2芯金との間の前記隙間の樹脂、及び前記歯の樹脂を含む同一の部品である、
歯付きプーリ。
【請求項2】
前記樹脂部における前記歯の歯底の内径側の肉厚F、及び前記歯の全歯たけEは、
E≦F≦3mm
の関係を満たす、
請求項1に記載の歯付きプーリ。
【請求項3】
前記第1芯金は、軸方向の一端部に底板を有し、
前記底板に、複数の軸方向の取付け穴、及び、前記樹脂部が入り込む、複数の抜き穴を有する、
請求項1又は2に記載の歯付きプーリ。
【請求項4】
前記樹脂部は、軸方向の一端部に底板を有し、
前記樹脂部の底板に、前記第1芯金の底板の前記取付け穴を軸方向に露出させる切欠きを有する、
請求項3に記載の歯付きプーリ。
【請求項5】
前記樹脂部は、
軸方向の一端部に、前記歯の歯先よりも径方向の外方へ突出する外向きフランジを有する、
請求項1~4の何れか1項に記載の歯付きプーリ。
【請求項6】
前記第1芯金は、
軸方向の他端部に、前記樹脂部との周方向の回止め形状を有する外向きフランジを有する、
請求項1~5の何れか1項に記載の歯付きプーリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯付きベルトに噛み合う歯付きプーリに関する。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置の動力伝達機構として、駆動側歯付きプーリ、従動側歯付きプーリ、及び歯付きベルトからなるベルト伝動機構が用いられる(例えば、特許文献1のベルト伝動機構30参照)。前記ベルト伝動機構は減速機であるため、前記従動側歯付きプーリのピッチ円直径は大きくなる。また、前記従動側歯付きプーリは、例えば有底円筒状である(例えば、特許文献1の
図2及び
図4の符号32の部品を参照)。
【0003】
前記歯付きプーリの材質は、強度及び精度の要求仕様を満たすために通常は鋼である。前記歯付きプーリは、例えば鋼材から削り出して製造される。
【0004】
電動パワーステアリング装置の動力伝達機構に用いる歯付きプーリとして、軽量化のために、ハブベース(2)を鋼とし、歯(3)をフェノール樹脂やエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂としたものがある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-44854号公報
【文献】独国特許出願公開第102006059946号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2のように、歯を熱硬化性樹脂とすると歯の精度は高くなる。しかしながら、歯を熱硬化性樹脂で射出成形する場合、成形サイクルが長くなるとともに、バリが出るため二次加工が必要になる。したがって生産性が低下する。
【0007】
それに対して歯を熱可塑性樹脂とすれば生産性は向上する。しかしながら、樹脂部の肉厚を適切に設定(強度を保ちながら薄肉化)しないと、樹脂部の肉厚と全歯たけの厚みの差が大きくなり、収縮差も大きくなるので精度が悪化しやすい。例えば特許文献1の従動プーリ32を熱可塑性樹脂と芯金で形成する場合、樹脂部の肉厚を適切に設定すると、芯金の外径を大きくする必要があり重量が増加する。
【0008】
本発明は、歯付きプーリの歯を生産性の高い熱可塑性樹脂としながら、歯の精度を確保して重量の増加を抑制できる歯付きプーリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る歯付きプーリは、前記課題解決のため、
芯金と、歯を含む樹脂部とからなる歯付きプーリであって、
前記芯金は、
円筒状の第1芯金と、
前記第1芯金に対して径方向の隙間をあけるように前記第1芯金よりも径方向の外方に位置し、前記第1芯金と同心である、円筒状の第2芯金と
からなり、
前記樹脂部は、
熱可塑性樹脂であるとともに、
前記第1芯金と前記第2芯金との間の前記隙間の樹脂、及び前記歯の樹脂を含む同一の部品である。
【0010】
このような構成によれば、歯付きプーリの歯を含む部分を樹脂部としているので、歯付きプーリを軽量化できる。その上、歯付きプーリの円筒状の芯金が第1芯金及び第2芯金であることから芯金を薄肉化できるので、歯付きプーリを軽量化できる。その上さらに、前記樹脂部が熱可塑性樹脂であるので、歯付きプーリの生産性が高くなる。
【0011】
その上、芯金を、歯付きプーリの内径を形成する、円筒状の第1芯金と、第1芯金よりも径方向の外方に位置する、円筒状の第2芯金とにより構成している。したがって、円筒状の第2芯金により、それより径方向の外方に位置する樹脂部の肉厚を適正に設定できるので、歯付きプーリの歯の要求精度を確保しやすい。
【0012】
ここで、前記樹脂部における前記歯の歯底の内径側の肉厚F、及び前記歯の全歯たけEは、E≦F≦3mmの関係を満たすのが好ましい実施態様である。
【0013】
このような構成によれば、歯付きプーリの重量の増加を抑制しながら歯の精度をより確保しやすくなる。
【0014】
また、前記第1芯金は、軸方向の一端部に底板を有し、
前記底板に、複数の軸方向の取付け穴、及び、前記樹脂部が入り込む、複数の抜き穴を有するのがより好ましい実施態様である。
【0015】
このような構成によれば、第1芯金の取付け穴から通したボルトにより、歯付きプーリを取り付ける部材に対して歯付きプーリを容易かつ確実に固定できる。その上、抜き穴により第1芯金を軽量化できるとともに、第1芯金の抜き穴に樹脂部が入り込んでいるので、歯を含む樹脂部と第1芯金とを周方向に回り止めをする機能も有する。
【0016】
さらに、前記樹脂部は、軸方向の一端部に底板を有し、
前記樹脂部の底板に、前記第1芯金の底板の前記取付け穴を軸方向に露出させる切欠きを有するのが一層好ましい実施態様である。
【0017】
このような構成によれば、樹脂部に設けた底板により、樹脂部の強度及び剛性が高くなる。その上、樹脂部の底板に切欠きを設けていることにより第1芯金の底板の取付け穴が軸方向に露出するので、歯付きプーリを取り付ける部材に対して歯付きプーリを取り付ける作業を行う際に樹脂部の底板が邪魔にならない。
【0018】
さらにまた、前記樹脂部は、軸方向の一端部に、前記歯の歯先よりも径方向の外方へ突出する外向きフランジを有するのがより一層好ましい実施態様である。
【0019】
このような構成によれば、前記外向きフランジにより、歯付きプーリに噛み合う歯付きベルトの軸方向への移動を規制することができる。
【0020】
また、前記第1芯金は、軸方向の他端部に、前記樹脂部との周方向の回止め形状を有する外向きフランジを有するのがさらに一層好ましい実施態様である。
【0021】
このような構成によれば、周方向の回止め形状を有する外向きフランジにより、第1芯金と樹脂部との周方向の回り止めを容易かつ確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の歯付きプーリによれば、歯付きプーリの歯を生産性の高い熱可塑性樹脂としながら、歯の精度を確保して重量の増加を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施の形態に係る歯付きプーリの一例を示す斜視図である。
【
図3B】前記歯付きプーリの要部拡大縦断面図である。
【
図5】前記歯付きプーリを軸方向から見た要部拡大端面図である。
【
図6】可動側金型、並びに第1芯金及び第2芯金の分解縦断面図である。
【
図7】可動側金型に第1芯金及び第2芯金をセットした状態を縦断面図である。
【
図8】固定側金型からキャビティ内に溶融した熱可塑性樹脂を充填した状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
本発明の実施の形態に係る歯付きプーリは、電動パワーステアリング装置の動力伝達機構に用いるものである。したがって、本発明の実施の形態に係る歯付きプーリには高い精度が要求される。
【0026】
本明細書において、歯付きプーリの回転軸(
図3Aの符号O参照)の方向を「軸方向」、軸方向に直交する方向を「径方向」(
図3Aの矢印L参照)、軸方向を鉛直にした際に径方向に直交する水平方向を「周方向」という。
【0027】
<歯付きプーリ>
図1の斜視図、
図2の部分断面斜視図、並びに、
図3Aの縦断面図、及び
図3Bの要部拡大縦断面図に示すように、本発明の実施の形態に係る歯付きプーリAは、円筒状の芯金Bと、歯Tを含む樹脂部Cとからなる。歯付きプーリAの歯Tを含む部分を樹脂部Cとしているので、歯付きプーリAを軽量化できる。歯付きプーリAの歯Tには、図示しない歯付きベルトの歯が噛み合う。本実施の形態に係る歯付きプーリAの歯Tは、はすばである。
【0028】
<芯金>
図2の部分断面斜視図、
図3Aの縦断面図、及び
図3Bの要部拡大縦断面図、並びに
図4の分解斜視図に示すように、芯金Bは、薄肉の第1芯金1及び第2芯金2からなる二重構造を有する。第1芯金1の内周面1Bは露出しており、内周面1Bは、図示しない電動パワーステアリング装置の動力伝達機構のボールねじのナット部材の外周面に取り付けられて、ボールねじのナットに対する歯付きプーリAの径方向の位置決めに用いられる。第1芯金1及び第2芯金2は、冷延鋼板、熱延鋼板、高張力鋼板などをプレス加工したものが使用される。
【0029】
第2芯金2は、第1芯金1に対して径方向の隙間G(
図3B)をあけるように第1芯金1よりも径方向Lの外方に位置し、第1芯金1と同心(同軸)である。すなわち、隙間Gは、第1芯金1の外周面1Aと第2芯金2の内周面2Bとの間である。
【0030】
第1芯金1は、軸方向の一端部に底板3を有する。底板3に、複数の軸方向の取付け穴(本実施の形態では周方向等分の4個の丸穴)3A、及び、樹脂部Cが入り込む、複数の抜き穴(本実施の形態では周方向等分の4個の周方向の長穴)3Bを有する。
【0031】
第1芯金1の取付け穴3Aから通したボルトにより、歯付きプーリAを取り付ける部材に対して歯付きプーリAを容易かつ確実に固定できる。その上、第1芯金1の抜き穴3Bにより有底円筒状である第1芯金1を軽量化できる。その上さらに、
図8の縦断面図に示すように抜き穴3Bに樹脂部Cが入り込んでいるので、歯Tを含む樹脂部Cと第1芯金1とを周方向に回り止めをする機能も有する。
【0032】
第1芯金1は、軸方向の他端部に、外向きフランジ1C(
図2、
図3B、
図4)を有する。第1芯金1に外向きフランジ1Cを設けることにより、第1芯金1の剛性が向上するとともに、樹脂部Cに対する第1芯金1の軸方向の抜け止めをすることができる。
【0033】
外向きフランジ1Cは、樹脂部Cとの周方向の回止め形状Hを有する。回止め形状Hは、例えば、外向きフランジ1Cの外周面を多角形状としたものである。それにより、第1芯金1と樹脂部Cとの周方向の回り止めを容易かつ確実に行うことができる。
【0034】
第2芯金2は、軸方向の一端部に、外向きフランジ2C(
図2、
図3B、
図4)を有する。第2芯金2に外向きフランジ2Cを設けることにより、第2芯金2の剛性が向上するとともに、樹脂部Cに対する第2芯金2の軸方向の抜け止めをすることができる。
【0035】
<樹脂部>
図2の部分断面斜視図、並びに、
図3Aの縦断面図、及び
図3Bの要部拡大縦断面図に示すように、樹脂部Cは、第1芯金1と第2芯金2との間の前記隙間Gの樹脂、及び歯Tを含む同一の部品である。つまり、樹脂部Cは前記隙間Gにある樹脂と、複数の歯Tを外周に備えて略円筒形をなす歯部とを含んで、一体に形成されている。樹脂部Cの材質は、例えば、PBT、PA6、PA66、PA46、PPS、又はPEEK等の熱可塑性樹脂材料であり、その中でも、耐熱性、機械的特性、難燃性及び寸法安定性等の点で優れるPPSに、強化材としてガラス繊維を数十重量%配合したものであるのが好ましい実施態様である。
【0036】
樹脂部Cは、軸方向の一端部に、歯Tの歯先よりも径方向Lの外方へ突出する外向きフランジJを有する。また、樹脂部Cの軸方向の他端部の嵌合凸部Sに、合成樹脂製である外向きフランジKの嵌合凹部Rを嵌合させ、樹脂部Cに対する外向きフランジKの軸方向及び径方向の位置決めを行った状態で、例えば超音波溶着により、外向きフランジKを樹脂部Cに取り付ける。したがって、歯付きプーリAは両フランジ型であり、歯付きプーリAに噛み合う歯付きベルトの軸方向への移動を規制することができる。
【0037】
樹脂部Cは、軸方向の一端部に底板Mを有し、底板Mに、第1芯金1の底板3の取付け穴3Aを軸方向に露出させる切欠きNを有する。樹脂部Cに設けた底板Mにより、樹脂部Cの強度及び剛性が高くなる。その上、樹脂部Cの底板Mに切欠きNを設けていることにより第1芯金1の底板3の取付け穴3Aが軸方向に露出するので、歯付きプーリAを取り付ける部材に対して歯付きプーリAを取り付ける作業を行う際に樹脂部Cの底板Mが邪魔にならない。
【0038】
<芯金を二重構造にすることによる作用効果>
歯付きプーリAの円筒状の芯金Bが第1芯金1及び第2芯金2であることから芯金を薄肉化できるので、歯付きプーリAを軽量化できる。その上、樹脂部Cが熱可塑性樹脂であるので、歯付きプーリAの生産性が高くなる。
【0039】
その上さらに、円筒状の芯金Bを、歯付きプーリAの内径を形成する第1芯金1と、第1芯金1よりも径方向の外方に位置する第2芯金2とにより構成している。したがって、第2芯金2により、それより径方向の外方に位置する樹脂部Cの肉厚を適正に設定できるので、歯付きプーリAの歯Tの要求精度を確保しやすい。また、第1芯金1の内径により、ボールねじのナットに対する歯付きプーリAの径方向の位置決めを精度よく行えると同時に、第1芯金1と第2芯金2を薄肉として両芯金の間の隙間Gは樹脂で埋めているので、第1芯金1を厚肉化してその外径を第2芯金2の外径と同じ直径まで拡大する場合に比べて軽量化できる。
【0040】
<第2芯金よりも径方向の外方の樹脂部の肉厚、全歯たけとの関係>
図5の要部拡大端面図に示すように、樹脂部Cにおける歯Tの歯底円Dと第2芯金2の外周面2Aとの径方向Lの距離、すなわち樹脂部Cにおける歯Tの歯底の内径側の肉厚F、及び歯Tの全歯たけEは、E≦F≦3mmの関係を満たす。
【0041】
樹脂部Cにおける歯Tの歯底の内径側の肉厚F、及び歯Tの全歯たけEを、E≦F≦3mmとすることにより、歯付きプーリAの重量の増加を抑制しながら歯Tの精度をより確保しやすくなる。
【0042】
<インサート成形>
図6~
図8の縦断面図を参照して歯付きプーリAのインサート成形について説明する。
図6~
図8において、回転軸O(
図6)の上側は取付け穴3Aを含む断面を示しており、回転軸O(
図6)の下側は抜き孔3Bを含む断面を示している。
【0043】
(インサート品セット工程)
図6及び
図7に示すように、射出成形用金型IMを開いた状態で、射出成形用金型IMの可動側金型4に、インサート品である第1芯金1及び第2芯金2をセットして射出成形用金型IM内に配置する。
【0044】
(射出成形工程)
図8に示すように射出成形用金型IMを閉じて型締めした状態で、溶融した熱可塑性樹脂材料Pを固定側金型5のスプルー6から注入する。溶融した熱可塑性樹脂材料Pは、ランナー7を通ってゲート8から固定側金型5及び可動側金型4間のキャビティ9内に充填される。ゲート8は、例えば4点である。
【0045】
(成形品取出し工程)
溶融した熱可塑性樹脂材料Pを冷却・固化させた後、
図8に示すパーティングライン10から可動側金型4を開き、図示しないエジェクタピンにより突き出すことにより成形品である歯付きプーリAを取り出す。歯付きプーリAには、
図1における4箇所の窪み部Qの中央にゲート跡がある。
【0046】
<歯付きプーリの歯の成形収縮量及び円筒度の評価>
(比較例)
実施例に対する比較例1及び比較例2の歯付きプーリは、第1芯金及び第2芯金からなる二重構造ではない従来構造の芯金であり、芯金の肉厚は3mmである。
図5の端面図に示す樹脂部Cにおける歯Tの歯底の内径側の肉厚(以下、「歯底内径側肉厚」という)Fに相当する樹脂部の肉厚は、比較例1が3.68mm、比較例2が1.63mmである。
【0047】
(実施例)
実施例の歯付きプーリは、本発明の実施の態様のように第1芯金及び第2芯金からなる二重構造を有する芯金であり、比較例1及び2に対して、第1芯金の肉厚は約半分、第2芯金の肉厚は約1/3である。なお、実施例の歯付きプーリは、比較例1の歯付きプーリに対して約20%軽量化できている。
【0048】
(評価方法)
樹脂部の材質は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)に、強化材としてガラス繊維を数十重量%配合したものとした。比較例1及び2については実測及び解析を行い、実施例については解析を行い、歯の収縮量及び円筒度を評価した。前記解析は、プラスチック射出成形用のシミュレーションソフトウェアであるMOLDFLOW(登録商標)を用いて行った。
【0049】
(実測値と解析値との比較)
比較例1及び2における歯の収縮量の実測値と解析値とを比較すると、後述する評価結果のように実測値と解析値の傾向は良く一致している。円筒度についても、後述する評価結果のように実測値と解析値は近い値である。したがって、解析の精度が高いことが分かる。
【0050】
(評価結果)
歯の収縮量における以下の「取付側」は、例えば
図3Aの歯付きプーリAにより説明すると、歯Tの左端部である。
【0051】
比較例1と比較例2を比較すると、歯底内径側肉厚が薄い比較例2の方が、歯の収縮量が小さく、円筒度が良い。例えば、歯の収縮量の「取付側」の最大値で比較すると、比較例1に対して比較例2の方が、約64%(実測値)、約60%(解析値)であり、比較例1よりも歯底内径側肉厚が薄い比較例2の方が収縮量が小さい。また、円筒度は、比較例1に対して比較例2の方が、約39%(実測値)、約42%(解析値)であり、比較例1よりも歯底内径側肉厚が薄い比較例2の方が円筒度が良い。
【0052】
以上の結果(円筒度)より、熱可塑性樹脂の歯底内径側肉厚(
図5のFに相当する樹脂部の肉厚)が3mmを超えると、その部分の収縮量のばらつきが大きくなることで、歯の精度が低下する。全歯たけ(E)より樹脂部の肉厚(F)が小さいと、歯付きプーリの歯に入力される歯付きベルトからの力を適切に受けることができず、樹脂部(歯底部)が破壊されることが懸念される。E≦F≦3mmの関係を満たすことにより、樹脂部の肉厚(F)と全歯たけ(E)との厚みの差が大きくならず、収縮差も大きくならないので精度が確保しやすい。
【0053】
実施例は、比較例2と同様の歯の収縮量及び円筒度を有する。薄肉の第1芯金及び第2芯金2からなる二重構造を有する実施例では、第2芯金よりも外方に位置する樹脂部の歯底内径側肉厚(F)を適正に設定することが容易であるので歯付きプーリの歯の要求精度を確保しやすく、第1芯金及び第2芯金を薄肉にすること等により、軽量化を図りやすい。
【0054】
以上の実施の形態の記載はすべて例示であり、これに制限されるものではない。本発明の範囲から逸脱することなく種々の改良及び変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0055】
1 第1芯金
1A 外周面
1B 内周面
1C 外向きフランジ
2 第2芯金
2A 外周面
2B 内周面
2C 外向きフランジ
3 底板
3A 取付け穴
3B 抜き孔
4 可動側金型
5 固定側金型
6 スプルー
7 ランナー
8 ゲート
9 キャビティ
10 パーティングライン
A 歯付きプーリ
B 芯金
C 樹脂部
D 歯底円
E 全歯たけ
F 樹脂部の肉厚
G 隙間
H 回止め形状
IM 射出成形用金型
J 外向きフランジ
K 外向きフランジ
L 径方向
M 底板
N 切欠き
O 回転軸
P 溶融した熱可塑性樹脂材料
Q 窪み部
R 嵌合凹部
S 嵌合凸部
T 歯