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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】天井用表皮材
(51)【国際特許分類】
   D04B 21/00 20060101AFI20241114BHJP
   D04B 21/16 20060101ALI20241114BHJP
   D06M 15/564 20060101ALI20241114BHJP
   D06M 15/263 20060101ALI20241114BHJP
   D06M 15/507 20060101ALI20241114BHJP
   B60R 13/02 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
D04B21/00 A
D04B21/16
D06M15/564
D06M15/263
D06M15/507
B60R13/02 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021202168
(22)【出願日】2021-12-14
(65)【公開番号】P2023087727
(43)【公開日】2023-06-26
【審査請求日】2022-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】510206039
【氏名又は名称】スミノエ テイジン テクノ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】東條 和之
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-068577(JP,A)
【文献】特開2009-214589(JP,A)
【文献】特開2021-130882(JP,A)
【文献】特開昭58-136863(JP,A)
【文献】特開2016-124185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B1/00-1/28、21/00-21/20、
B60R13/01-13/04、13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の天井基材に積層される表皮材であって、
前記表皮材がトリコット編機のL1(後筬)、L2(中筬)とL3(前筬)によって編成されるトリコット編地で、
前記L1(後筬)と前記L2(中筬)によるニードルループの面が前記表皮材の表面であり、
前記L3(前筬)に仮撚加工糸を通し2針~12針振りの編組織を有し、
前記表皮材の厚み方向に前記仮撚加工糸が立ったシンカーループの面が前記表皮材の裏面であり、前記裏面は、起毛せず、
前記シンカーループの厚みは0.8mm~1.6mmであり、前記表皮材の厚み(mm)に占める百分率が62%~76%であり、かつ前記表皮材の厚みが1.3mm~2.1mmであり、
前記表皮材のヨコの剛軟度(曲げ長さ)は、64mm~95mmであり、
前記表皮材には、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂からなる群より選ばれる1種が付着していることを特徴とする天井用表皮材。
【請求項2】
前記仮撚加工糸の総繊度が20dtex~330dtexで、単糸繊度が0.1dtex~2.2dtexである請求項1に記載の天井用表皮材。
【請求項3】
前記表皮材において製品のタテ密度と、編成時のタテ密度の関係が、以下の式で表される請求項1又は、2に記載の天井用表皮材。
タテ密度比:製品のタテ密度/編成時のタテ密度=1.28~1.3
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の天井用表皮材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の天井材において、表面側に風合いや意匠性のある表皮材を用い、裏面側には軟質ポリウレタンフォーム等のクッション材が積層された積層材が、自動車の天井基材に接着されている。例えば、編地、不織布、スエード調合成皮革等を表皮材とし、裏面にポリウレタンフォームを積層して車両用シート内装材が接着剤層を介して積層され、成型された車両用シート内装材が開示されている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、表皮材とポリウレタンフォームが積層された車両用シート内装材は、異素材の複合材であるため材料のリサイクルが困難であるとういう問題があった。また、自動車に用いる内装材の難燃基準を満たすために、難燃剤が配合されたポリウレタンフォームを用いるため材料コストが高く、しかも表皮材の裏面に積層するのに手間と時間を要し、製造コストが高くなるという問題があった。
【0004】
そこで、出願人は、表皮材としてトリコット編地の裏面を起毛し、特定の厚さにすることによりクッション性が付与され、軟質ポリウレタンフォームを省くことが可能であることを見出し、自動車等の車両内装材としての表皮材の裏側に起毛を施し、ウレタン層を介さずに直接基材層と接着させ、軟質ウレタンフォームの接着工程を省き、リサイクル性を向上し、軽量化を実現する意匠性のある車両内装用表皮材の発明を出願した(特許文献2)。
【0005】
しかしながら、軽量で、良好な意匠性とクッション性を備え、リサイクル性を高めることができる優れた車両内装用表皮材であったものの、起毛により付与された厚みは使用時の負荷による復元性の点で改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-245969号公報
【文献】特開2009-214589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであり、その目的は起毛により付与された厚みではなく、編組織及び糸使いにより厚みを得ることで柔軟性に優れ、後加工での作業性に優れるためポリウレタンフォームを積層する必要のない天井用表皮材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0009】
[1]自動車の天井基材に積層される表皮材であって、
前記表皮材がトリコット編機のL1(後筬)、L2(中筬)とL3(前筬)によって編成されるトリコット編地で、
前記L1(後筬)と前記L2(中筬)によるニードルループの面が前記表皮材の表面であり、
前記L3(前筬)に仮撚加工糸を通し2針~12針振りの編組織を有し、
前記表皮材の厚み方向に前記仮撚加工糸が立ったシンカーループの面が前記表皮材の裏面であり、前記裏面は、起毛せず、
前記シンカーループの厚みは0.8mm~1.6mmであり、前記表皮材の厚み(mm)に占める百分率が62%~76%であり、かつ前記表皮材の厚みが1.3mm~2.1mmであり、
前記表皮材のヨコの剛軟度(曲げ長さ)は、64mm~95mmであり、
前記表皮材には、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂からなる群より選ばれる1種が付着していることを特徴とする天井用表皮材。
【0010】
[2]前記仮撚加工糸の総繊度が20dtex~330dtexで、単糸繊度が0.1dtex~22dtexである前項1に記載の天井用表皮材。
【0011】
[3]前記表皮材において製品のタテ密度と、編成時のタテ密度の関係が、以下の式で表される前項1又は、2に記載の天井用表皮材。
タテ密度比:製品のタテ密度/編成時のタテ密度=1.28~1.3

【発明の効果】
【0014】
[1]の発明では、起毛により付与された厚みではなく、編組織及び糸使いにより厚みを得ることでき、しかも表皮材の厚みが1.3mm~2.1mmであることから、柔軟性に優れ、後加工での作業性に優れるためポリウレタンフォームを積層する必要のない天井用表皮材を提供することができる。また、ポリウレタンフォームを積層するといった複合材ではないので高いリサイクル性を発揮するとともに、製造コストの低減も実現した天井用表皮材を提供することができる。
【0015】
[2]の発明では、前記仮撚加工糸の総繊度が20dtex~330dtexで、単糸繊度が0.1dtex~22dtexであることから、仮撚加工糸の捲縮と染色時の糸の収縮によりシンカーループ密度を増加させることで天井用表皮材の厚みを確保することができる。
【0016】
[1]の発明では、前記表皮材のヨコの剛軟度(曲げ長さ)が64mm~95mmであることから、天井用表皮材の裁断工程、成型工程等における取扱い等の作業性を向上することができる。
【0017】
[1]の発明では、前記シンカーループの厚みが0.8mm~1.6mmであり、前記表皮材の厚み(mm)に占める百分率が62%~76%であることから、シンカーループに使用している仮撚加工糸の捲縮と糸の収縮による厚みを確保し、柔軟性のある天井用表皮材とすることができる。L3(前筬)で編成されたアンダーラップによる糸の飛びが染色工程において編地の収縮によってループを形成し、このループが天井基材の凹凸を吸収し表皮材表面がフラットな仕上がりが得られるような柔軟性を発揮することができる。
【0018】
[1]の発明では、前記トリコット編地にポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂からなる群より選ばれる1種が付着していることから、天井用表皮材に適度なコシを付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る天井用表皮材の一実施形態を示す模式的断面図である。
図2図1に示す天井用表皮材の天井基材との接合を示す説明図である。
図3】従来技術の表皮層の一例を示す説明図である。
図4】実施例1のトリコット編地の編組織である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明に係る車両用内装材の一実施形態について図を参照しつつ説明する。
【0021】
本発明に係る天井用表皮材1は、自動車の天井基材4に積層される表皮材であって、前記表皮材がトリコット編機のL1(後筬)、L2(中筬)とL3(前筬)によって編成されるトリコット編地で、前記L1(後筬)と前記L2(中筬)によるニードルループ2の面が前記表皮材の表面であり、前記L3前筬)に仮撚加工糸を通し2針~12針振りの編組織を有し、前記表皮材の厚み方向に前記仮撚加工糸が立ったシンカーループ3の面が前記表皮材の裏面であり、前記裏面は起毛せず、前記シンカーループの厚みは0.8mm~1.6mmであり、前記表皮材の厚み(mm)に占める百分率が62%~76%であり、かつ前記表皮材の厚みが1.3mm~2.1mmであり、
前記表皮材のヨコの剛軟度(曲げ長さ)は、64mm~95mmであり、
前記表皮材には、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂からなる群より選ばれる1種が付着していることを特徴とする。
【0022】
このような構成を採用することによって、起毛により付与された厚みではなく、編組織及び糸使いにより厚みを得ることでき、ポリウレタンフォーム5-2を積層する必要のない天井用表皮材1を提供することができる。
【0023】
本発明の表皮材を構成する繊維としては、ポリエステル繊維、ポリウレタン繊維、ポリプロピレン繊維等の合成繊維を挙げることができる。これらを適宜組み合せてもよい。なかでも、ポリエステル繊維を含んでなるのが自動車用として優れた耐候性能を保つことができるという観点から好ましい。
【0024】
本発明のトリコット編地は、3枚以上の筬を有するトリコット編機のL1(後筬)、L2(中筬)とL3 (前筬)によって編成されるトリコット編地で、L2(中筬)の糸はL3(前筬)の糸とL1(後筬)の糸を繋ぎニードルループ2を形成し、L3(前筬)の仮撚加工糸は、2針~12針振りの編組織によってシンカーループ3を形成する。こうして編成されたトリコット編地は、ニードルループ2の面が表面で、方向性のない小柄で、無地調の外観となる。一方のシンカーループ3は前記表皮材の厚み方向に前記仮撚加工糸が立ったループの面が天井用表皮材1の裏面で、前記表皮材の厚みは1.3 mm~2.1mmである。なお、本発明ではトリコット編機のL1(後筬)、L2(中筬)とL3(前筬)によって編成されるトリコット編地で、前記L1(後筬)と前記L2(中筬)によるニードルループの面が前記表皮材の表面である3枚筬を使用した編地であるが、ニーズに応じてL3(中前筬)とL4(前筬)で編柄を編成し、L2(中筬)が地組織となり、L1(後筬)をコード編組織とし、シンカーループの面を表皮材の表面とする4枚筬を使用した編地を天井用表皮材として用いてもよい。
【0025】
天井用表皮材1の裏面を天井基材4に向けて積層して適宜天井の形状に応じて接着成型される。接着成型の際にニードルループ2の面を表面、シンカーループ3の面を裏面にすることで、天井基材4の凹凸を吸収し天井表面の品位を保ったなめらかな仕上がりが得られる。
【0026】
前記L3(前筬)の仮撚加工糸は、2針~12針振りの編組織によってシンカーループ3を形成するが、2針振り未満のデンビ編組織では、シンカーループ3の糸長が短くなるので、ポリウレタンフォームを必要としない天井用として必要な厚みを得ることが困難となる。逆に12針振りを超えた編組織では、編地のヨコ伸びが低下し、天井用表皮材1の成形時にシワが発生し易くなる。
【0027】
前記トリコット編機のゲージは、特に制限はないが22~36ゲージ/インチの編機を使用するのが好ましい。22ゲージ/インチ未満では編地密度が粗く、天井基材4と表皮材との接着に使用する接着剤が浸みだし易くなる恐れがあるので好ましくない。逆に36ゲージ/インチを越えると繊度の太い糸での編立が難しくなるため厚みを維持できなくなる恐れがあるので好ましくない。
【0028】
また、トリコット編成時の編機上でのコースは、35~65コース/インチが好ましい。35コース/インチ未満では、編地密度が粗く、天井基材4と表皮材との接着に使用する樹脂が浸みだし易くなる恐れがあるので好ましくない。逆に65コース/インチを超えると、編地の伸びが低下し、天井用表皮材の成型時にシワが発生し易くなる恐れがあるので好ましくない。
【0029】
本発明では、表皮材の厚みは編組織及び糸使いにより得られ、厚みは1.3mm~2.1mmである。より具体的にはL3(前筬)の前記仮撚加工糸はランナー長を長くすることで、前記表皮材の厚み方向に前記仮撚加工糸が立ったループを形成し、厚みを付与することができる。
【0030】
前記ランナー長は220cm以上が好ましい。さらに好ましくは、280cm~600cmの範囲である。ランナー長が220cm未満では編地が薄くなるため、天井基材4と表皮材との接着に使用する樹脂が浸みだす恐れがあることや、天井基材4の凹凸を吸収しきれない恐れがあるため好ましくない。逆に600cmを超えると編地が厚くなってくるため、染色加工時に編地に詰め込みシワが発生し易くなる恐れがあるので好ましくない。
【0031】
また、シンカーループ3の厚みが0.8mm~1.6mm範囲であり、前記表皮材の厚み(mm)に占める百分率が62%~76%の範囲である。シンカーループ3の厚みが0.4mm未満では編地が薄くなるため、天井基材4と表皮材との接着に使用する樹脂が浸みだす恐れがあることや、天井基材4の凹凸を吸収しきれない恐れがあるため好ましくない。逆に2.0mmを超えると編地が厚くなってくるため、染色加工時に編地に詰め込みシワが発生し易くなる恐れがあるので好ましくない。
【0032】
また、シンカ―ループ3の前記表皮材の厚み(mm)に占める百分率が40%未満では編地が薄くなるため、天井基材4と表皮材との接着に使用する樹脂が浸みだす恐れがあることや、天井基材4の凹凸を吸収しきれない恐れがあるため好ましくない。逆に80%を超えると編地が厚くなってくるため、染色加工時に編地に詰め込みシワが発生し易くなる恐れがあるので好ましくない。
【0033】
前記仮撚加工糸は、公知の方法により仮に撚りを掛けた糸に熱を加え、また撚りを戻す加工が施された糸で、ふんわりと柔らかい風合いで嵩高性のある糸である。
【0034】
前記仮撚加工糸の総繊度が20dtex~330dtexの範囲で、かつ単糸繊度が0.1dtex~22dtexの範囲が好ましい。より好ましくは単糸繊度が1dtex~5dtexの範囲である。総繊度が20dtex未満では編地が薄くなるため、天井基材4と表皮材との接着に使用する樹脂が浸みだす恐れがあることや、天井基材4の凹凸を吸収しきれない恐れがあるため好ましくない。逆に総繊度が330dtexを超えると編地が厚くなってくるため、染色加工時に編地に詰め込みシワが発生し易くなる恐れがあるので好ましくない。同時に、単糸繊度が0.1dtex未満では表皮材の面に負荷がかかった際に編地が変形してしましい編地の厚みを維持することが難しくなる恐れがあり、逆に単糸繊度が22dtexを超えると糸が硬くなってくるので編成時にニードルループ2の面に糸が飛び出してしまい触感が低下する恐れがあるので好ましくない。
【0035】
本発明の表皮材のヨコの剛軟度(曲げ長さ)が64mm~95mmの範囲である。ヨコの剛軟度(曲げ長さ)が35mm未満では柔らか過ぎるため天井用表皮材の成型時の作業において天井用表皮材の取り扱いが難しく(=作業性が悪い)なる恐れがあり好ましくない。逆に110mmを超えると天井用表皮材に折れやシワが発生し易くなる恐れがあるので好ましくない。
【0036】
また、前記トリコット編地にポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂からなる群より選ばれる1種が付着している。上述の接着の際に用いられる樹脂との親和性が良好な樹脂であることから好ましい。
【0037】
なお、本発明の天井用表皮材1を自動車の天井基材4に積層するには、天井の形状に合わせて、成型と同時または成型後に樹脂を用いてプレスして積層を行なう方法を用いることができる。
【0038】
なお、接着の際のアンカー効果が期待できることからシンカーループ3の面を起毛してもよい。この場合の起毛は厚さを増すというよりはアンカー効果のためのものなのでループもしくはセミカット起毛が好ましく、起毛する方法は特に限定されないが、針布起毛、サンドペーパー等を挙げることができる。起毛を施す際には、あらかじめ起毛油剤を塗布しておくのがよい。
【実施例
【0039】
次に、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例のものに特に限定されるものではない。なお、実施例、比較例では編糸はポリエステル繊維を使用し、表1に使用した編糸の番手等、編組織、ランナー長を示した。編糸欄に記載のTはdtexを、SDはセミダルをそれぞれ意味する。また、表2に評価結果を示した。
【0040】
<実施例1>
28ゲージからなる3枚筬のトリコット編機を使用し、編組織を図4に示すように編成した。すなわち、L1(後筬)とL2(中筬)にそれぞれポリエステル56dtex/24f FDY(フルドローヤーン)セミダル糸を1in1outで導糸し、L3(前筬)にポリエステル110dtex/48f DTY(ドローンテクスチャードヤーン)セミダル糸をフルセットで導糸し、コード編組織がアンダーラップ6針となるように編成した。なお、L3~L1の各ランナー長は表1に示す通りとした。次に、得られた編地を液流染色機にて分散染料で温度135℃×15分間染色した後、脱水、拡布し温度150℃×2分間乾燥した。次に、乾燥後の編地をポリエステル樹脂分散液(樹脂濃度6%)にディッピングすることで編地全体にポリエステル樹脂を塗布した。続いて温度160℃×2分間幅出し加工を施して天井用表皮材を得た。得られた天井用表皮材の目付けは280g/mで、密度は38ウェール/インチ、45コース/インチであった。また、全厚みは1.3mm、シンカーループの厚みは0.8mmであり、ループ厚の全厚に占める割合(%)は62%で、ヨコの剛軟度(曲げ長さ)は64mmであった。したがって、厚みの評価、柔軟性の評価と作業性の評価はどれも「◎」で合格であった。
【0041】
<参考例1>
実施例1 において、L3(前筬)にポリエステル110dtex/48fDTY(ドローンテクスチャードヤーン)セミダル糸をフルセットで導糸し、コード編組織がアンダーラップを3針となるようにし、L3の編組織、及びL3~L1の各ランナー長を表1に示す通りとした以外は実施例1と同様にして天井用表皮材を得た。得られた天井用表皮材の目付けは220g/mで、密度は38ウェール/インチ、45 コース/インチであった。また、全厚みは1.0mm、シンカーループの厚みは0.5mmであり、ループ厚の全厚に占める割合(%)は50%で、ヨコの剛軟度(曲げ長さ)は41mmであった。したがって、厚みの評価、柔軟性の評価と作業性の評価はどれも「〇」で合格であった。
【0042】
<参考例2>
実施例1において、編糸を替えて表1に示す編糸を用いてL3~L1の各ランナー長を表1に示す通りとし、編地をポリエステル樹脂分散液(樹脂濃度6%)にディッピングしなかった以外は実施例1と同様にして天井用表皮材を得た。得られた天井用表皮材の目付けは320g/mで、密度は3 8ウェール/インチ、41コース/インチであった。また、全厚みは1.5mm、シンカーループの厚みは0.9mmであり、ループ厚の全厚に占める割合(%)は60%で、ヨコの剛軟度(曲げ長さ)は45mmであった。したがって、厚みの評価と柔軟性の評価はともに「◎」、作業性の評価は「〇」でどれも合格であった。
【0043】
<参考例3>
参考例2において、起毛機を用いて編地のシンカーループの面に起毛厚み0.4mmのセミカット起毛処理を施した以外は参考例2と同様にして天井用表皮材を得た。得られた天井用表皮材の目付けは338g/m2で、密度は39ウェール/インチ、40コース/インチであった。また、全厚みは1.8mm、シンカーループの厚みは1.3mmであり、ループ厚の全厚に占める割合(%)72% で、ヨコの剛軟度(曲げ長さ)は58mmであった。したがって、厚みの評価、柔軟性の評価と作業性の評価はどれも「◎」で合格であった。
【0044】
<参考例4>
実施例1において、28ゲージの編機を替えて36ゲージからなる3枚筬のトリコット編機を使用し、L3(前筬)の編糸を替えてポリエステル84dtex/36fDTY(ドローンテクスチャードヤーン)セミダル糸を用い、フルセットで導糸し、コード編組織がアンダーラップを8針となるようにし、L3の編組織、及びL3~L1の各ランナー長を表1に示す通りとし、編地をポリエステル樹脂分散液(樹脂濃度6%)にディッピングしなかった以外は実施例1と同様にして天井用表皮材を得た。得られた天井用表皮材の目付けは340g/m2で、密度は48ウェール/インチ、57コース/インチであった。また、全厚みは1.6mm、シンカーループの厚みは1.0mmであり、ループ厚の全厚に占める割合(%)は63%で、ヨコの剛軟度(曲げ長さ)は48mmであった。したがって、厚みの評価と柔軟性の評価はともに「◎」、作業性の評価は「〇」でどれも合格であった。
【0045】
<実施例2>
参考例4において、L3(前筬)にポリエステル84dtex/36fDTY(ドローンテクスチャードヤーン)セミダル糸をフルセットで導糸し、コード編組織がアンダーラップを12針となるようにし、L3の編組織、及びL3~L1の各ランナー長を表1に示す通りとし、編地をポリエステル樹脂分散液(樹脂濃度6%)にディッピングした以外は参考例4と同様にして天井用表皮材を得た。得られた天井用表皮材の目付けは400g/mで、密度は46ウェール/インチ、53コース/インチであった。また、全厚みは2.1mm、シンカーループの厚みは1.6mmであり、ループ厚の全厚に占める割合(%)は76%で、ヨコの剛軟度(曲げ長さ)は95mmであった。したがって、厚みの評価、柔軟性の評価と作業性の評価はどれも「◎」で合格であった。
【0046】
<比較例1>
参考例1において、編糸を替えて表1に示す編糸を用いてL3~L1の各ランナー長を表1に示す通りとし、編地をポリエステル樹脂分散液(樹脂濃度6%)にディッピングしなかった以外は参考例1と同様にして表皮材を得た。得られた表皮材の目付けは180g/mで、密度は46ウェール/ インチ、53コース/インチであった。また、全厚みは0.7mm、シンカーループの厚みは1.4mmであり、ループ厚の全厚に占める割合(%)は49%で、ヨコの剛軟度(曲げ長さ)は28mmであった。したがって、厚みの評価と作業性の評価はともに「×」で、柔軟性の評価だけ「〇」で合格であった。このように自動車のポリウレタンフォームを必要としない天井用の表皮材としては不適切であった。
【0047】
【表1】
【0048】
上記のようにして得られた天井用表皮材について次の各評価法に基づいて評価した。
【0049】
<厚み評価方法>
マイクロスコープ(株式会社キーエンス製、デジタルマイクロスコープ VHX-6000)を用いて表皮材の巾方向の断面を観察し、表皮材の全厚を測定した。次の判定基準で評価し、判定の「〇」以上を合格とした。
(判定基準)
「◎」:1.2mm以上
「〇」:0.9mm以上1.2mm未満
「×」:0.9mm未満
【0050】
<柔軟性の評価方法>
天井基材4の凹凸を吸収し表皮材の表面の品位を保つフラットでなめらかな仕上がりが得られるような柔軟性を、シンカーループの厚みの割合から評価した。具体的には、マイクロスコープ(株式会社キーエンス製、デジタルマイクロスコープ VHX-6000)を用いて表皮材のシンカーループの厚みを観察し、ループ厚を測定して全厚に対する割合を算出した。次の判定基準で評価し、判定の「〇」以上を合格とした。
(判定基準)
「◎」: 60%以上80%未満
「〇」: 40%以上60%未満
「×」: 40%未満
【0051】
<作業性の評価方法>
表皮材と天井基材を接着する際に編地の剛軟度により表皮材のシワの発生度合いが異なるので、シワを取り除きながら又はシワが発生しないようにしながら作業するため、作業時間が増加してしまう傾向にある。そこで、シワの発生が抑制されると作業性効率が向上することから、作業性を剛軟度から評価した。剛軟度(曲げ長さ)は、JIS L 1096(2010年版)の45°カンチレバー法に準拠し測定した。試験片は、編地のウェール方向をヨコ方向、編地のコース方向をタテ方向としてそれぞれ幅2.5cm×長さ20cmサイズに裁断したものを用いた。試験片を、45°の斜面を持つ滑らかな平面台からその一端を緩やかに斜面の上に押し出し、その端が斜面に接した時の試験片の押し出された長さを剛軟度とした。次の判定基準で評価し、判定の「〇」以上を合格とした。
(判定基準)
「◎」: 50mm以上110mm未満
「〇」: 35mm以上50mm未満
「×」: 35mm未満
【0052】
【表2】
【0053】
表2から明らかなように、本発明に係る実施例1~の天井用表皮材は編組織及び糸使いにより厚みを得ることで柔軟性に優れ、後加工での作業性に優れるためポリウレタンフォームを積層する必要のない表皮材であった。これに対して、比較例1の布帛では、柔軟性はあるものの厚み及び作業性が「×」でかなり劣るものであった。

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係る天井用表皮材は、ポリウレタンフォームを積層する必要がなく、柔軟性に優れるため天井用表皮材をとして好適に用いられる。
【符号の説明】
【0055】
1・・・表皮材(天井用表皮材)
2・・・ニードルループ
3・・・シンカーループ
4・・・天井基材
5・・・表皮層
5-1・・・表皮
5-2・・・ポリウレタンフォーム(軟質)
T・・・表皮材の厚み
T1・・・シンカーループの厚み
図1
図2
図3
図4