(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】鋼製壁と鉄筋コンクリート部材の結合構造及びその構築方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/20 20060101AFI20241114BHJP
E02D 5/04 20060101ALI20241114BHJP
E02D 5/10 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
E02D5/20
E02D5/04
E02D5/10
(21)【出願番号】P 2021104033
(22)【出願日】2021-06-23
【審査請求日】2024-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000230010
【氏名又は名称】ジオスター株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000227593
【氏名又は名称】日之出水道機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】池田 真
(72)【発明者】
【氏名】駄原 剛弘
(72)【発明者】
【氏名】松野 真樹
(72)【発明者】
【氏名】妙中 真治
(72)【発明者】
【氏名】西山 輝樹
(72)【発明者】
【氏名】中山 裕章
(72)【発明者】
【氏名】永田 誠
(72)【発明者】
【氏名】木村 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】藤原 俊之
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-169467(JP,A)
【文献】特開2006-057252(JP,A)
【文献】特開平09-100541(JP,A)
【文献】米国特許第04836718(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/20
E02D 5/04
E02D 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との結合構造であって、
前記鉄筋コンクリート部材の前記鋼製壁と対向する端部には嵌合自在に構成される第1の金具及び第2の金具からなる複数の継手部材と、当該継手部材に係止される第1主鉄筋と、が埋設され、
前記第1の金具は前記鋼製壁の上下方向に延伸して配置され、当該第1の金具の一方の端部は前記鋼製壁の壁面と結合され、他方の端部は前記第2の金具に嵌合され、
前記第1主鉄筋は、前記第1の金具と前記第2の金具の嵌合により、当該第1の金具と第2の金具の間に係止されることを特徴とする、鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との結合構造。
【請求項2】
前記第1の金具は雄金具、前記第2の金具は雌金具であり、
前記第1主鉄筋は、前記鋼製壁の壁面の面外方向に延伸し、前記雌金具の前記鋼製壁に対向する面において前記雄金具との間で当該雌金具の外周形状に沿って折り返されて係止されることを特徴とする、請求項1に記載の鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との結合構造。
【請求項3】
前記第1の金具は雄金具、前記第2の金具は雌金具であり、
前記第1主鉄筋は、前記鋼製壁の壁面の面外方向に延伸し、前記鋼製壁に対向する端部において膨張部を有し、
前記雌金具の前記鋼製壁に対向する面において前記雄金具との間で前記膨張部を係止させることで前記第1主鉄筋は前記雌金具に係止されることを特徴とする、請求項1に記載の鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との結合構造。
【請求項4】
前記雄金具の他方の端部には係留突起部が設けられ、
前記雌金具には前記係留突起部の受容部としての係留溝部が形成されることを特徴とする、請求項2又は3に記載の鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との結合構造。
【請求項5】
前記第1の金具は雌金具、前記第2の金具は雄金具であり、
前記第1主鉄筋は、前記鋼製壁の壁面の面外方向に延伸し、前記雄金具の前記鋼製壁に対向する面において前記雌金具との間で当該雄金具の外周形状に沿って折り返されて係止されることを特徴とする、請求項1に記載の鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との結合構造。
【請求項6】
前記雌金具の他方の端部には係留溝部が形成され、
前記雄金具には前記係留溝部を受容部として当該係留溝部に嵌合可能な係留突起部が設けられることを特徴とする、請求項5に記載の鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との結合構造。
【請求項7】
前記鉄筋コンクリート部材において、前記第1主鉄筋は複数埋設され、
複数の前記第1主鉄筋に挟まれた位置において前記鋼製壁の壁面の面外方向に延伸する第2主鉄筋と、当該第2主鉄筋に直交する方向に延伸する配力筋と、が更に埋設されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との結合構造。
【請求項8】
前記鋼製壁はハット形鋼矢板を連結させた壁体であり、前記第1の金具の幅長さは、前記ハット形鋼矢板の断面凹凸形状に応じて当該第1の金具の他方の端部位置が揃うような幅長さに設計されることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との結合構造。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との結合構造の構築方法であって、
前記鉄筋コンクリート部材は前記鋼製壁と対向する端部において前記第1の金具の一方の端部が露出するように製作されたプレキャスト鉄筋コンクリート部材であり、
当該プレキャスト鉄筋コンクリート部材から露出した前記第1の金具の端部を前記鋼製壁と結合させ、
前記鋼製壁と前記プレキャスト鉄筋コンクリート部材との間隙に対し経時性硬化材を打設して接続用コンクリート部材を構成し、
前記鋼製壁と前記プレキャスト鉄筋コンクリート部材とを一体化させることを特徴とする、鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との結合構造の構築方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との結合構造の構築方法であって、
前記第1の金具の一方の端部を前記鋼製壁の壁面に結合させ、
前記第1主鉄筋を、前記第1の金具と前記第2の金具との嵌合により当該第2の金具に係止させ、
経時性硬化材としての現場打ちコンクリートを打設して前記鋼製壁と前記鉄筋コンクリート部材とを一体化させることを特徴とする、鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との結合構造の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼製壁と鉄筋コンクリート部材の結合構造及びその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な橋梁下部工事や貯水等のための地下構造物、各種土木構造物の工事においては、鋼矢板(シートパイル)等を用いて壁体を構築する場合がある。例えば、特許文献1には、土木構造物を構築する際に、外壁材を鋼矢板によって構成し、鋼矢板に取り付けられた腹起し材や接続金物によって隣接する鋼矢板同士を接続し、腹起し材にアンカー材を挿入することで硬化材(コンクリート)との間に支持力を付与するといった技術が開示されている。
【0003】
また、橋梁下部工事等では、初めに仮設鋼矢板を土留めとして打ち込み、掘削を行った後に構造物本体(基礎杭等)の構築を行い、その後に埋戻しや仮設鋼矢板の撤去といった工程を行う手順が採用されている。このような仮設鋼矢板の使用には手間やコストの面で無駄があることから、例えば、特許文献2には、仮設として用いられてきた鋼矢板を本設として用いることで有効活用し、橋脚基礎構造を構築する技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、予め孔あき鋼板が溶接された複数の鋼矢板を地盤に打ち込み、孔あき鋼板に係止部材を介してアンカー鉄筋を掛着して周囲にコンクリート打設を行い、フーチングを構築する技術が開示されている。この特許文献3では、係止部材やアンカー鉄筋により鋼材(鋼矢板)とコンクリートとの間でせん断力及び引張力を伝達させる構造において作業性の向上が図られている。
【0005】
また、近年では、各種構造物の構築において、施工性や工期短縮化といった観点から、工場などで予め製作された部材を現場に搬入し、既設部材に組み付けるといったいわゆるプレキャストコンクリート部材(単にプレキャスト部材とも呼称される)をコンクリート部材として用いる技術が一般的となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-44119号公報
【文献】特開2010-216150号公報
【文献】特開2006-57252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1においては、アンカー材としての鉄筋を腹起し材の孔に直接挿入して硬化材との間の支持力を得る構成となっている。また、上記特許文献2においては、鋼矢板に取り付けられた孔あき鋼板ジベルの孔に鉄筋を直接引っ掛ける(挿入する)ことでずれ止め効果を得る構成を採っている。
【0008】
このような特許文献1、2に開示された構成において、ジベル性能や剛性の向上を図るために、足が長い鉄筋を密に配置しようとすると、鋼板等に形成された孔に直接鉄筋を挿入するのは施工性等の面から困難である。具体的には、特許文献1では、腹起し材の上下方向ピッチは約100cm(=1000mm)間隔となっており、密な状態で鉄筋を配置する構成とはなっていない。また、特許文献2では、幅900mmの鋼矢板1枚に対し1枚の孔あき鋼板ジベルが取り付けられた構成であるため、そこに引っ掛けられた鉄筋同士の間隔も900mm程度離間していると考えられ、密な状態で鉄筋を配置する構成とはなっていない。
【0009】
特許文献1、2のように、鋼板等に形成された孔に直接鉄筋を挿入する構成では、密な状態で鉄筋を配置することが難しく、応力集中により破壊の原因となる懸念があり、更なるジベル性能や剛性の向上が求められている。また、上述したように、仮設として用いられてきた鋼矢板を本設として用いることは手間やコストの面で優れていることから、仮設鋼矢板を本設鋼矢板として用い、且つ、ジベル用の鉄筋を密に配置することが可能な鋼矢板(鋼製壁)と鉄筋コンクリート部材の結合構造が求められている。
【0010】
また、特許文献3に開示された技術では、アンカー鉄筋を有孔板に掛着する際に孔に係止部材を挿通させ、係止部材にアンカー鉄筋を引っ掛けるとの構成を採ることで作業性の向上が図られているが、一方でアンカー鉄筋の配置に伴う鋼材や係止部材への応力集中については何ら考慮されていない。
【0011】
上記事情に鑑み、本発明の目的は、鋼製壁と鉄筋コンクリート部材を結合して結合構造を構築するに際し、鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との間のジベル性能を向上させ、優れた剛性を有するように鉄筋を密に配置することが可能な鋼製壁と鉄筋コンクリート部材の結合構造及びその構築方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するため、本発明によれば、鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との結合構造であって、前記鉄筋コンクリート部材の前記鋼製壁と対向する端部には嵌合自在に構成される第1の金具及び第2の金具からなる複数の継手部材と、当該継手部材に係止される第1主鉄筋と、が埋設され、前記第1の金具は前記鋼製壁の上下方向に延伸して配置され、当該第1の金具の一方の端部は前記鋼製壁の壁面と結合され、他方の端部は前記第2の金具に嵌合され、前記第1主鉄筋は、前記第1の金具と前記第2の金具の嵌合により、当該第1の金具と第2の金具の間に係止されることを特徴とする、鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との結合構造が提供される。
【0013】
前記第1の金具は雄金具、前記第2の金具は雌金具であり、前記第1主鉄筋は、前記鋼製壁の壁面の面外方向に延伸し、前記雌金具の前記鋼製壁に対向する面において前記雄金具との間で当該雌金具の外周形状に沿って折り返されて係止されても良い。
【0014】
前記第1の金具は雄金具、前記第2の金具は雌金具であり、前記第1主鉄筋は、前記鋼製壁の壁面の面外方向に延伸し、前記鋼製壁に対向する端部において膨張部を有し、前記雌金具の前記鋼製壁に対向する面において前記雄金具との間で前記膨張部を係止させることで前記第1主鉄筋は前記雌金具に係止されても良い。
【0015】
前記雄金具の他方の端部には係留突起部が設けられ、前記雌金具には前記係留突起部の受容部としての係留溝部が形成されても良い。
【0016】
前記第1の金具は雌金具、前記第2の金具は雄金具であり、前記第1主鉄筋は、前記鋼製壁の壁面の面外方向に延伸し、前記雄金具の前記鋼製壁に対向する面において前記雌金具との間で当該雄金具の外周形状に沿って折り返されて係止されても良い。
【0017】
前記雌金具の他方の端部には係留溝部が形成され、前記雄金具には前記係留溝部を受容部として当該係留溝部に嵌合可能な係留突起部が設けられても良い。
【0018】
前記鉄筋コンクリート部材において、前記第1主鉄筋は複数埋設され、複数の前記第1主鉄筋に挟まれた位置において前記鋼製壁の壁面の面外方向に延伸する第2主鉄筋と、当該第2主鉄筋に直交する方向に延伸する配力筋と、が更に埋設されても良い。
【0019】
前記鋼製壁はハット形鋼矢板を連結させた壁体であり、前記第1の金具の幅長さは、前記ハット形鋼矢板の断面凹凸形状に応じて当該第1の金具の他方の端部位置が揃うような幅長さに設計されても良い。
【0020】
また、本発明によれば、上記記載の鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との結合構造の構築方法であって、前記鉄筋コンクリート部材は前記鋼製壁と対向する端部において前記第1の金具の一方の端部が露出するように製作されたプレキャスト鉄筋コンクリート部材であり、当該プレキャスト鉄筋コンクリート部材から露出した前記第1の金具の端部を前記鋼製壁と結合させ、前記鋼製壁と前記プレキャスト鉄筋コンクリート部材との間隙に対し経時性硬化材を打設して接続用コンクリート部材を構成し、前記鋼製壁と前記プレキャスト鉄筋コンクリート部材とを一体化させることを特徴とする、鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との結合構造の構築方法が提供される。
【0021】
また、本発明によれば、上記記載の鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との結合構造の構築方法であって、前記第1の金具の一方の端部を前記鋼製壁の壁面に結合させ、前記第1主鉄筋を、前記第1の金具と前記第2の金具との嵌合により当該第2の金具に係止させ、経時性硬化材としての現場打ちコンクリートを打設して前記鋼製壁と前記鉄筋コンクリート部材とを一体化させることを特徴とする、鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との結合構造の構築方法が提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、鋼製壁と鉄筋コンクリート部材を結合して結合構造を構築するに際し、鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との間のジベル性能を向上させ、優れた剛性を有するように鉄筋を密に配置することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施の形態に係る鋼製壁と鉄筋コンクリート部材の結合構造の概略説明図である。
【
図2】雌金具、第1主鉄筋の形状についての概略説明図である。
【
図3】本実施形態に係る結合構造の構築方法を示す概略説明図である。
【
図4】本実施形態に係る結合構造の構築方法を示す概略説明図である。
【
図5】本実施形態に係る結合構造の構築方法を示す概略説明図である。
【
図6】本実施形態に係る結合構造の構築方法を示す概略説明図である。
【
図7】本実施形態に係る結合構造の構築方法を示す概略説明図である。
【
図8】本発明の第1の他実施形態に係る結合構造の概略説明図である。
【
図9】本発明の第1の他実施形態に係る雌金具、第1主鉄筋の形状についての概略説明図である。
【
図10】本発明の第2の他実施形態に係る結合構造の概略説明図である。
【
図11】本発明の第2の他実施形態に係る第1の金具としての雌金具、第2の金具としての雄金具の形状についての概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する場合がある。また、本明細書では、説明のために鉄筋構造や配筋構成について、一部図示を省略する場合や、あるいは、通常は可視されないコンクリート内部等の鉄筋構成を図示する場合がある。
【0025】
(本発明の実施の形態に係る結合構造の構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る鋼製壁と鉄筋コンクリート部材の結合構造(以下、単に結合構造とも記載)1の概略説明図である。
図1に示すように、結合構造1は、鋼製壁10と、鋼製壁10に結合される継手部材15を有する。鋼製壁10は、例えば鉛直方向(上下方向、図中Z方向))に延伸するハット形鋼矢板やU形鋼矢板、鋼管矢板でも良い。継手部材15は、鋼製壁10の壁面(内面)に一方の端部が固定手段によって結合される。また、継手部材15は、第1の金具としての雄金具17と、第2の金具としての雌金具20からなり、他方の端部において、受容体としての雌金具20と、雄金具17が嵌合自在に構成される。なお、本実施の形態では、
図1のように、継手部材15は所定の間隔でもって互いに平行に複数(例えば図中の15a~15c)配置され、各継手部材15a~15cは、雄金具17a~17c及び雌金具20a~20cを備える。
【0026】
ここで、継手部材15(あるいは雄金具17)の幅長さ(図中X方向長さ)は、各継手部材15(15a~15c)が固定される鋼製壁10の位置によって調整されても良い。例えば鋼製壁10がハット形鋼矢板や複数のハット形鋼矢板を連結させた壁体である場合には、その断面形状の凹凸に応じて、鋼製壁10に固定された際に、各継手部材15(15a~15c)の他方の端部位置が揃うような幅長さに設計されても良い。また、継手部材15の鋼製壁10に対する固定手段は例えば溶接やボルト止め等でも良い。
【0027】
雄金具17(17a~17c)の構成は、受容体である雌金具20の形状に応じて任意に設計可能であり、例えば、平面視で略T字状、且つ、上下方向に延伸するリブ状に形成され、雌金具20の受容部としての係留溝部21(21a~21c)に挿入することで嵌合可能な係留突起部22(22a~22c)が、他方の端部に設けられた構成でも良い。即ち、雄金具17は、板状部材に対しリブ状の係留突起部22を溶接して製作されても良い。
【0028】
また、
図1に示すように、結合構造1には、雌金具20によって係止される第1主鉄筋30が配置される。第1主鉄筋30は、鋼製壁10の壁面(内面)の面外方向、例えば、壁面に対し垂直な方向(図中X方向)に延伸し、雄金具17と雌金具20との間で折り返された状態で係止される。この折り返し部分31は、雌金具20の外周形状に沿って折り返されても良く、例えば平面視でいわゆるU字形状を成すように折り返されても良い。ここで、雄金具17の一部箇所には、第1主鉄筋30を係止するための溝(
図1には図示せず、
図3の溝部18参照)が形成されても良い。
【0029】
図1のように、第1主鉄筋30は例えば所定の間隔でもって互いに平行に複数配置されても良い。また、折り返された鉄筋同士の間隔aは150mm~300mmでも良い。第1主鉄筋30は、折り返し点(折り返し部31の中央)を起点とし、両端部への延伸長さ(図中X方向の長さL)が同じ長さとなるように均等に折り返されることが好ましい。これは、主鉄筋30に外力がかかった際にその外力が均等になることで鉄筋の破断等が抑えられるからである。ここでの長さLは例えば950mm~1150mmが好ましい。なお、第1主鉄筋30の鉄筋種類は特に限定されるものではなく、例えば異形鉄筋でも良い。
【0030】
また、結合構造1において、複数配置された第1主鉄筋30に挟まれた位置に、鋼製壁10の壁面(内面)面外方向、例えば、壁面に対しに対し垂直な方向(図中X方向)に延伸する第2主鉄筋40と、当該第2主鉄筋40に直交する方向(図中Y方向)に延伸する配力筋42が設けられても良い。これら第2主鉄筋40や配力筋42は例えば所定の間隔でもって互いに平行に複数配置されても良い。第2主鉄筋40及び配力筋42は必須ではなく、また、配置される位置も任意であるが、設けることで結合構造1全体の剛性や耐力の向上が図られる。
【0031】
なお、結合構造1を構成する各部材や鉄筋等(継手部材15、第1主鉄筋30、第2主鉄筋40、配力筋42)は、
図1には図示していない経時性硬化材(例えばコンクリート)が施工されることで当該経時性硬化材に埋設(内包)され、鉄筋コンクリート部材(後述する鉄筋コンクリート部材50)となる。例えば、鉄筋コンクリート部材の鋼製壁10と対向する端部には、継手部材15が露出した状態で埋設され、当該継手部材15が鋼製壁10の壁面(内面)と結合することで一体化される。なお、鉄筋コンクリート部材は、例えば、現場打ちコンクリート、プレキャストコンクリートのいずれから構成されても良い。
【0032】
また、結合構造1において鋼製壁10と鉄筋コンクリート部材とを一体化させるため、鋼製壁10の壁面(内面)に対し図示しない経時性硬化材を打設し接続用コンクリート部材(後述する接続用コンクリート部材52)としても良い。この接続用コンクリート部材には、継手部材15や第1主鉄筋30の一部(例えば折り返し部分31の一部)が内包される。
【0033】
(雌金具、第1主鉄筋の形状)
図2は雌金具20、第1主鉄筋30の形状についての概略説明図であり、(a)は雌金具20の俯瞰図、(b)は第1主鉄筋30の平面図である。なお、
図2(a)は、継手部材15を構成した際に雌金具20を鋼製壁10と対向する側から見た場合の図である。
【0034】
図2(a)に示すように、雌金具20は平面視での断面が略半円形状の半円柱形状を有する部材であり、その曲面側が開口側となるような上下方向に伸びるいわゆるスリット状の係留溝部21が形成されている。係留溝部21の平面視における断面形状は雄金具17と適合するような任意の形状であり、例えば図示のように略T字形状である。
【0035】
また、
図2(b)に示すように、第1主鉄筋30は、1本の鉄筋を折り返し部分31において折り返し、平面視でいわゆるU字形状を有するような形状とした部材である。
図1のように、継手部材15を構成する際には、雌金具20の曲面側(鋼製壁10に対向する側)の外周が第1主鉄筋30の折り返し部分31に取り囲まれるように配置され、第1主鉄筋30は係止される。従って、雌金具20の曲面側の形状と、第1主鉄筋30の折り返し部分31の形状とは一致するような略半円形状に設計されることが好ましい。
【0036】
(結合構造の構築方法)
図3~
図7は、本実施形態に係る結合構造1の構築方法を示す概略説明図である。先ず、
図3に示すように、継手部材15(15a~15c)を構成する雄金具17(17a~17c)の一方の端部が壁面(内面)に固定された鋼製壁10が鉛直方向(上下方向、図中Z方向))に延伸した状態で地盤等(図示せず)に打ち込まれる。ここでは、鋼製壁10は例えばハット形鋼矢板であり、雄金具17(17a~17c)は他方の端部に係留突起部22(22a~22c)を備えた板状部材である。また、本実施の形態に係る構成では、雄金具17の一部箇所(係留突起部22の上下方向の各2か所)に後述する第1主鉄筋30を係止するための溝部18(18a~18c)が形成されている。なお、鋼製壁10に対する雄金具17の固定は、予め工場等で行っても良く、あるいは現場での施工時に行っても良い。
【0037】
次いで、
図4に示すように、複数の第1主鉄筋30が互いに平行に複数配置される。第1主鉄筋30は折り返し部分31において平面視でいわゆるU字形状を成すように予め折り返された鉄筋であり、折り返し部分31が溝部18に係止された状態となるような位置に配置される。
【0038】
そして、
図5に示すように、雄金具17(17a~17c)の係留突起部22と雌金具20(20a~20c)の係留溝部21を嵌合させることで継手部材15(15a~15c)が構成される。この時、第1主鉄筋30の折り返し部分31を溝部18に係止させた状態で当該溝部18を覆うように雌金具20(20a~20c)を雄金具17(17a~17c)にはめ込むことで、第1主鉄筋30が所定の位置に配置される。なお、ここで第1主鉄筋30は所定位置に固定されても良く、あるいはある程度可動自在に遊嵌されても良い。
【0039】
そして、
図6に示すように、複数配置された第1主鉄筋30に挟まれた位置に、鋼製壁10の壁面(内面)に対し垂直な方向(図中X方向)に延伸する第2主鉄筋40と、第2主鉄筋40に直交する方向(図中Y方向)に延伸する配力筋42が配置される。第2主鉄筋40、配力筋42は図示のように所定の間隔で複数配置されても良く、また、第2主鉄筋40と配力筋42は、両者が予め固着された状態で用意されても良い。
【0040】
そして、
図7に示すように、継手部材15(雄金具17及び雌金具20)、第1主鉄筋30、第2主鉄筋40、及び、配力筋42が埋設(内包)されるように例えばコンクリートである経時性硬化材Uが打設される。ここで打設される経時性硬化材Uは継手部材15、第1主鉄筋30、第2主鉄筋40、及び、配力筋42を埋設(内包)させることで一体化させて鉄筋コンクリート部材50を構成するために打設される経時性硬化材U1と、この鉄筋コンクリート部材50を鋼製壁10と固着させ結合構造1全体を一体化させるための接続用コンクリート部材52を構成するために打設される経時性硬化材U2と、に分けて打設されても良い。あるいは、経時性硬化材Uは、鉄筋コンクリート部材50と接続用コンクリート部材52とを一体的に構成するように打設されても良い。
【0041】
このように、継手部材15、第1主鉄筋30、第2主鉄筋40、及び、配力筋42を内包して構成される鉄筋コンクリート部材50と、地盤(図示せず)に打ち込まれた鋼製壁10と、それらを接続させるための接続用コンクリート部材52と、が一体化され本実施の形態に係る結合構造1が構築される。
【0042】
(作用効果)
本実施の形態に係る結合構造1及びその構築方法によれば、複数の足が長い(長さの長い)第1主鉄筋30を結合構造1の内部に設けるにあたり、雄金具17及び雌金具20からなる継手部材15を介して鉄筋コンクリート部材50と鋼製壁10との間に生じる応力を伝達させるような構成で鉄筋を配筋している。これにより、鋼板等に形成された孔に直接鉄筋を通すといった構成を採らず、応力集中による部材や鉄筋の破断を防止しつつ、鋼製壁10と鉄筋コンクリート部材50や接続用コンクリート部材52との間のジベル性能を向上させ、優れた剛性や耐力を有するように鉄筋を密に配置した結合構造1が実現される。
【0043】
また、橋梁下部工事等では、初めに仮設鋼矢板を土留めとして打ち込み、掘削を行った後に構造物本体(基礎杭等)の構築を行い、その後に仮設鋼矢板の撤去を行う場合があるが、本実施の形態に係る構築方法では、鋼製壁10及び継手部材15を本設利用して結合構造1を構築している。これにより、工期の短縮やコスト削減が図られる。また、仮設鋼矢板を用いた場合、仮設鋼矢板と構造物との離隔を確保しなくてはならないが、本実施形態に係る構築方法では仮設鋼矢板を用いないため、狭隘地での施工が可能となる。
【0044】
以上、本発明の実施の形態の一例を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0045】
(本発明の第1の他実施形態)
図8は本発明の第1の他実施形態に係る結合構造1aの概略説明図である。ここで、上記実施の形態と同じ機能構成を有する構成要素については同一の符号を付して図示し、その説明は省略する場合がある。また、
図9は他実施形態に係る雌金具60、第1主鉄筋70の形状についての概略説明図であり、(a)は雌金具60の俯瞰図、(b)は第1主鉄筋70の平面図である。なお、
図9(a)は、継手部材15を構成した際に雌金具60を鋼製壁10と対向する側から見た場合の図である。
【0046】
図8に示すように、第1の他実施形態に係る結合構造1aでは、上記実施の形態と異なる形状・構成を有する雌金具60(60a~60c)が用いられ、これに伴い、第1主鉄筋70の形状・構成も相違している。
図9(a)に示すように、雌金具60は平面視で略矩形形状を有する部材であり、雌金具60には上記実施の形態と同様の係留溝部21が形成され、加えて、側面に鉄筋を係止させるための側面溝61が形成されている。また、
図9(b)に示すように、第1主鉄筋70は直線状の鉄筋71を端部において膨張部72を有し、膨張部72は鉄筋71の径に比べ極めて大きな厚みや膨らみを有するような形状である。第1主鉄筋70を複数配置する場合に、1つの同じ雌金具60によって2本の第1主鉄筋70が係止されても良く、その際の間隔は例えば上記実施の形態と同じ所定の間隔aであっても良い。
【0047】
図8のように、本形態に係る結合構造1aにおいては、第1主鉄筋70を端部の膨張部72が鋼製壁10と対向するように配置し、雄金具17(17a~17c)の係留突起部22と雌金具60(60a~60c)の係留溝部21(21a~21c)を嵌合させることで継手部材15(15a~15c)が構成される。その際、第1主鉄筋70の直線状の鉄筋71は側面溝61に係止されても良い。
【0048】
図8、9を参照して説明した本発明の第1の他実施形態に係る結合構造1aによれば、上記実施の形態で説明した作用効果に加え、雄金具17の形状を簡素化させると共に、第1主鉄筋70をいわゆるU字形状のような曲率を有する形状に造形する必要が無いため、部材加工の負荷を低減することができる。また、雌金具60に形成される側面溝61を予め深い形状に設計しておくことで、雌金具60の形状を変えることなく鉄筋同士の間隔aを調節することが可能となる。
【0049】
(本発明の第2の他実施形態)
また、上記実施の形態では、継手部材15が、第1の金具としての雄金具17と、第2の金具としての雌金具20からなる場合について図示・説明したが、本発明の適用範囲はこれに限定されない。例えば、継手部材15を構成する第1の金具を雌金具とし、第2の金具を雄金具としても良い。
図10は本発明の第2の他実施形態に係る結合構造1bの概略説明図である。また、
図11は第2の他実施形態に係る第1の金具としての雌金具80、第2の金具としての雄金具90の形状についての概略説明図であり、(a)は雌金具80、(b)は雄金具90の説明図である。ここで、上記実施の形態と同じ機能構成を有する構成要素については同一の符号を付して図示し、その説明は省略する場合がある。
【0050】
図10に示すように、本形態に係る結合構造1bにおいては、継手部材15は、第1の金具として雌金具80(80a~80c)と、第2の金具としての雄金具90(90a~90c)からなる。その一方の端部は鋼製壁10に結合され、その他方の端部において、これら雌金具80と雄金具90が嵌合自在に構成される。
【0051】
図11(a)に示すように、雌金具80(80a~80c)の構成は任意に設計可能であり、例えば、平面視で略T字状、且つ、上下方向に延伸する受容部としての係留溝部81(81a~81c)が端部に設けられても良い。この係留溝部81(81a~81c)には、
図11(b)に示す雄金具90に形成された係留突起部91が嵌合可能に構成される。
【0052】
図11(b)に示すように、雄金具90は平面視で略半円形状の本体部92に上記係留突起部91が取り付けられた構成でも良い。図示のように、係留突起部91は、平面視で略T字状断面のリブ状部材が本体部92の複数個所(ここでは上下2か所)に取り付けられた構成でも良い。
【0053】
本形態に係る結合構造1bにおいては、上記実施の形態で説明した結合方法と基本的には同じ方法により、雌金具80と雄金具90を嵌合させることで継手部材15(15a~15c)が構成される。その際、上記実施の形態と同じように、第1主鉄筋30を所定位置(例えば2か所の係留突起部91に挟まれた位置)にはめ込むことで固定することができる。本形態に係る結合構造1bによれば、上記実施の形態と一部異なる部品構成であっても同様の作用効果が享受される。
【0054】
(結合構造の他の構築方法)
例えば、上記実施の形態に係る構築方法おいては、継手部材15、第1主鉄筋30、第2主鉄筋40、及び、配力筋42を内包する鉄筋コンクリート部材50を構成するために経時性硬化材U1を現場において打設する場合について説明したが、本発明に係る結合構造1の構築方法はこれに限られるものではない。
【0055】
具体的には、鉄筋コンクリート部材50を工場などで予め製作された部材(以下、プレキャスト鉄筋コンクリート部材)とし、現場において鋼製壁10とプレキャスト鉄筋コンクリート部材である鉄筋コンクリート部材50を配置し、両者の間隙部に接続用コンクリート部材52としての経時性硬化材U2を打設することで接続させて結合構造1を構築しても良い。この場合、継手部材15が予め鋼製壁10に固着された構成は採られず、プレキャスト鉄筋コンクリート部材としての鉄筋コンクリート部材50は、継手部材15、第1主鉄筋30、第2主鉄筋40、及び、配力筋42を内包させた状態で製作される。その際、プレキャスト鉄筋コンクリート部材としての鉄筋コンクリート部材50は、継手部材15の一部端面が露出した状態で製作されても良く、更に、第1主鉄筋30の一部(例えば折り返し部分31)が露出するように製作されても良い。
【0056】
プレキャスト鉄筋コンクリート部材としての鉄筋コンクリート部材50を用いて結合構造1を構築することで、上記実施の形態で説明した作用効果に加え、現場での施工性の向上や工期短縮が図られる。即ち、施工性等の効率化と、耐力の確保の両立を実現させることが可能となる。
【0057】
また、上記実施の形態や他実施形態において、継手部材15の構成について、鋼製壁10に固定される雄金具17に係留突起部22が設けられ、離間可能な部材である雌金具20に係留溝部21が形成される場合を図示して説明したが、本発明はこれに限られるものではない。例えば、鋼製壁10に固定される金具に係留溝部を設けていわゆる雌型部材とし、当該雌型部材に嵌合させる金具に係留突起部を設けていわゆる雄型部材とするといった、上記実施の形態に係る構成とは金具の雌雄が逆であるような構成としても良い。
【0058】
また、上記実施の形態では、鋼製壁10として鋼矢板を用いる場合を挙げて図示・説明したが、本発明はこれに限られるものではない。例えば、鋼製壁10として鋼管杭や各種形鋼等、地盤に打ち込むことで壁体を構成可能な種々の杭部材を用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、鋼製壁と鉄筋コンクリート部材の結合構造及びその構築方法に適用できる。
【符号の説明】
【0060】
1、1a…結合構造
10…鋼製壁
15(15a~15c)…継手部材
17(17a~17c)…雄金具
18(18a~18c)…溝部
20(20a~20c)…雌金具
21(21a~21c)…係留溝部
22(22a~22c)…係留突起部
30…第1主鉄筋
31…折り返し部分
40…第2主鉄筋
42…配力筋
50…鉄筋コンクリート部材
52…接続用コンクリート部材
60(60a~60c)…(第1の他実施形態に係る)雌金具
70…(第1の他実施形態に係る)第1主鉄筋
80…(第2の他実施形態に係る)雌金具
90…(第2の他実施形態に係る)雄金具
U、U1、U2…経時性硬化材