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  • -窒化物半導体装置の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】窒化物半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/318 20060101AFI20241114BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20241114BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20241114BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
H01L21/318 C
H01L21/31 B
H01L29/78 301G
H01L29/78 301B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021029176
(22)【出願日】2021-02-25
(65)【公開番号】P2022130162
(43)【公開日】2022-09-06
【審査請求日】2023-08-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(73)【特許権者】
【識別番号】513067727
【氏名又は名称】高知県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大川 峰司
(72)【発明者】
【氏名】富田 英幹
(72)【発明者】
【氏名】川原村 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ ▲麗▼
【審査官】長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-022870(JP,A)
【文献】特開2016-143842(JP,A)
【文献】国際公開第2012/090738(WO,A1)
【文献】特開2017-157857(JP,A)
【文献】特開2008-244163(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/318
H01L 21/31
H01L 21/336
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体装置(1,2,3)の製造方法であって、
窒化物半導体層(20)上にゲート絶縁膜(44)を成膜するゲート絶縁膜成膜工程、を備えており、
前記ゲート絶縁膜成膜工程は、前記窒化物半導体層の表面に接するようにシリコン酸窒化膜(144,144a,144b)を成膜するステップ、を有しており、
前記シリコン酸窒化膜を成膜するステップは、シリコンと窒素の双方を分子中に含む膜原料を酸化して前記シリコン酸窒化膜を成膜しており、
前記膜原料がポリシラザン又はヘキサメチルジシラザンである、製造方法。
【請求項2】
前記シリコン酸窒化膜を成膜するステップは、ミストCVD法を利用して前記シリコン酸窒化膜を成膜する、請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
前記シリコン酸窒化膜は、前記窒化物半導体層の表面に接する第1シリコン酸窒化膜(144a)と、前記第1シリコン酸窒化膜を介して前記窒化物半導体層に対向する第2シリコン酸窒化膜(144b)と、を有しており、
前記シリコン酸窒化膜を成膜するステップは、前記第2シリコン酸窒化膜を成膜するときよりも前記第1シリコン酸窒化膜を成膜するときに、酸化剤濃度が低い条件で実施される、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ゲート絶縁膜成膜工程はさらに、前記シリコン酸窒化膜上に、シリコン酸窒化物とは異なる材料の上側絶縁膜(146)を成膜するステップ、を備えており、
前記上側絶縁膜の前記窒化物半導体層に対するバンドオフセットが、前記シリコン酸窒化膜の前記窒化物半導体層に対するバンドオフセットよりも大きい、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記上側絶縁膜が、シリコン酸化膜又は金属酸化膜である、請求項に記載の製造方法。
【請求項6】
窒化物半導体装置(1,2,3)の製造方法であって、
窒化物半導体層(20)上にゲート絶縁膜(44)を成膜するゲート絶縁膜成膜工程、を備えており、
前記ゲート絶縁膜成膜工程は、前記窒化物半導体層の表面に接するようにシリコン酸窒化膜(144,144a,144b)を成膜するステップ、を有しており、
前記シリコン酸窒化膜を成膜するステップは、シリコンと窒素の双方を分子中に含む膜原料を酸化して前記シリコン酸窒化膜を成膜し、
前記シリコン酸窒化膜は、前記窒化物半導体層の表面に接する第1シリコン酸窒化膜(144a)と、前記第1シリコン酸窒化膜を介して前記窒化物半導体層に対向する第2シリコン酸窒化膜(144b)と、を有しており、
前記シリコン酸窒化膜を成膜するステップは、前記第2シリコン酸窒化膜を成膜するときよりも前記第1シリコン酸窒化膜を成膜するときに、酸化剤濃度が低い条件で実施される、製造方法。
【請求項7】
前記シリコン酸窒化膜を成膜するステップは、ミストCVD法を利用して前記シリコン酸窒化膜を成膜する、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ゲート絶縁膜成膜工程はさらに、前記シリコン酸窒化膜上に、シリコン酸窒化物とは異なる材料の上側絶縁膜(146)を成膜するステップ、を備えており、
前記上側絶縁膜の前記窒化物半導体層に対するバンドオフセットが、前記シリコン酸窒化膜の前記窒化物半導体層に対するバンドオフセットよりも大きい、請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記上側絶縁膜が、シリコン酸化膜又は金属酸化膜である、請求項8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、窒化物半導体装置とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、窒化物半導体層上にシリコン窒化膜とシリコン酸化膜が積層して構成されたゲート絶縁膜を備えた窒化物半導体装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-103408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シリコン窒化膜は、窒化物半導体層に対して負のバンドオフセットを有している。このため、特許文献1のゲート絶縁膜では、シリコン窒化膜の価電子帯に井戸型ポテンシャルが形成され、その井戸型ポテンシャルに正孔が蓄積する。井戸型ポテンシャルに正孔が蓄積すると、ゲート閾値電圧が変動するという問題がある。本明細書は、ゲート閾値電圧の変動が抑えられた窒化物半導体装置とその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する窒化物半導体装置(1,2,3)の製造方法は、窒化物半導体層(20)上にゲート絶縁膜(44)を成膜するゲート絶縁膜成膜工程、を備えることができる。前記ゲート絶縁膜成膜工程は、前記窒化物半導体層の表面に接するようにシリコン酸窒化膜(144,144a,144b)を成膜するステップ、を有することができる。さらに、前記シリコン酸窒化膜を成膜するステップは、シリコンと窒素の双方を分子中に含む膜原料を酸化して前記シリコン酸窒化膜を成膜する。前記シリコン酸窒化膜は、前記窒化物半導体層に対して正のバンドオフセットを有している。このため、前記シリコン酸窒化膜を有する前記ゲート絶縁膜では、井戸型ポテンシャルが形成されない。したがって、前記ゲート絶縁膜では、正孔の蓄積が抑えられる。この製造方法で製造される窒化物半導体装置では、ゲート閾値電圧の変動が抑えられる。
【0006】
本明細書が開示する窒化物半導体装置(2)の一実施形態は、窒化物半導体層(20)上に設けられているゲート絶縁膜(44)を備えることができる。前記ゲート絶縁膜は、前記窒化物半導体層の表面に接するシリコン酸窒化膜(144a,144b)を有することができる。さらに、前記シリコン酸窒化膜は、前記窒化物半導体層の表面に接する第1シリコン酸窒化膜(144a)と、前記第1シリコン酸窒化膜を介して前記窒化物半導体層に対向する第2シリコン酸窒化膜(144b)と、を有することができる。前記第2シリコン酸窒化膜内の炭素濃度は、前記第1シリコン酸窒化膜内の炭素濃度よりも低い。前記シリコン酸窒化膜は、前記窒化物半導体層に対して正のバンドオフセットを有している。このため、前記シリコン酸窒化膜を有する前記ゲート絶縁膜では、井戸型ポテンシャルが形成されない。したがって、前記ゲート絶縁膜では、正孔の蓄積が抑えられる。上記実施形態の窒化物半導体装置では、ゲート閾値電圧の変動が抑えられる。
【0007】
本明細書が開示する窒化物半導体装置(3)の一実施形態は、窒化物半導体層(20)上に設けられているゲート絶縁膜(44)を備えることができる。前記ゲート絶縁膜は、前記窒化物半導体層の表面に接するシリコン酸窒化膜(144)と、前記シリコン酸窒化膜上に設けられているとともに前記シリコン酸窒化物とは異なる材料の上側絶縁膜(146)と、を有することができる。前記上側絶縁膜の前記窒化物半導体層に対するバンドオフセットは、前記シリコン酸窒化物膜の前記窒化物半導体層に対するバンドオフセットよりも大きい。前記シリコン酸窒化膜は、前記窒化物半導体層に対して正のバンドオフセットを有している。このため、前記シリコン酸窒化膜を有する前記ゲート絶縁膜では、井戸型ポテンシャルが形成されない。したがって、前記ゲート絶縁膜では、正孔の蓄積が抑えられる。上記実施形態の窒化物半導体装置では、ゲート閾値電圧の変動が抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態の窒化物半導体層装置の一例の要部断面図を模式的に示す図である。
図2】ミストCVD装置の構成の概略を示す図である。
図3】本実施形態の窒化物半導体層装置の一例の要部断面図を模式的に示す図である。
図4】本実施形態の窒化物半導体層装置の一例の要部断面図を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本明細書が開示する技術について説明する。しかしながら、本明細書が開示する技術は、以下で説明する例に限らず、絶縁ゲート部を有する様々な種類の窒化物半導体装置に適用可能である。また、以下では、プレーナー型の絶縁ゲート部を例示するが、本明細書が開示する技術はトレンチ型の絶縁ゲート部にも適用可能である。
【0010】
(第1実施形態)
図1に示されるように、窒化物半導体装置1は、横型MISFET(Metal Insulator Semiconductor Field Effect Transistor)又は横型MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)と称される種類のスイッチング素子であり、基板10と、窒化物半導体層20と、ドレイン電極32と、ソース電極34と、プレーナー型の絶縁ゲート部40と、を備えている。
【0011】
基板10は、その表面から窒化物半導体が結晶成長可能な材料で構成されており、典型的にはGaN基板である。この例に代えて、基板10は、シリコン、サファイア等で構成されていてもよい。
【0012】
窒化物半導体層20は、V族元素として窒素を含むIII-V族化合物半導体を材料とする半導体層で構成されており、基板10の表面から結晶成長して形成されている。窒化物半導体層20は、特に限定されるものではないが、この例では窒化ガリウム(GaN)で構成されている。窒化物半導体層20は、p型のボディ領域22と、n+型のドレイン領域24と、n+型のソース領域26と、を有している。
【0013】
ボディ領域22は、ドレイン領域24とソース領域26を隔てる部分(以下、「チャネル領域CH」という)を少なくとも有している。ボディ領域22は、ドーパントとして例えばマグネシウム(Mg)を含むp型の領域である。チャネル領域CHは、窒化物半導体層20の表面に露出する位置に設けられており、絶縁ゲート部40の直下に配置されている。
【0014】
ドレイン領域24は、窒化物半導体層20の表面に露出する位置に配置されており、ドーパントとして例えばシリコン(Si)を含むn型の領域である。ドレイン領域24は、イオン注入技術を利用して、窒化物半導体層20の表層部にシリコンを導入することで形成されている。
【0015】
ソース領域26は、窒化物半導体層20の表面に露出する位置に配置されており、ドーパントとして例えばシリコン(Si)を含むn型の領域である。ソース領域26は、イオン注入技術を利用して、窒化物半導体層20の表層部にシリコンを導入することで形成されている。
【0016】
ドレイン電極32とソース電極34は、窒化物半導体層20の表面上に設けられており、絶縁ゲート部40を間に置いて配置されている。ドレイン電極32は、ドレイン領域24に接触するように配置されており、ドレイン領域24にオーミック接触している。ソース電極34は、ソース領域26に接触するように配置されており、ソース領域26にオーミック接触している。
【0017】
絶縁ゲート部40は、窒化物半導体層20の表面上に設けられており、ボディ領域22のチャネル領域CHに対向するように配置されている。絶縁ゲート部40は、ゲート電極42と、ゲート絶縁膜44と、を有している。
【0018】
ゲート電極42は、チャネル領域CHにゲート絶縁膜44を介して対向するように配置されている。ゲート絶縁膜44は、窒化物半導体層20とゲート電極42の間に配置されており、両者を絶縁分離している。ゲート絶縁膜44は、この例ではシリコン酸窒化膜144(SiON膜)の単層で構成されている。
【0019】
次に、窒化物半導体装置1の動作について説明する。ドレイン電極32がソース電極34よりも高電位となるような電圧がドレイン電極32とソース電極34の間に印加されている状態で、ゲート電極42に閾値電圧以上の電圧が印加されると、チャネル領域CHに反転層が生成され、ドレイン領域24とソース領域26がその反転層を介して電気的に接続される。これにより、ドレイン電極32とソース電極34の間が導通し、窒化物半導体装置1がオンとなる。ゲート電極42に印加される電圧が閾値電圧よりも小さくなると、チャネル領域CHに生成されていた反転層が消失し、窒化物半導体装置1はオフとなる。このように、窒化物半導体装置1は、ドレイン電極32とソース電極34の間を流れる電流を制御するスイッチング素子として機能することができる。
【0020】
窒化物半導体装置1では、ゲート絶縁膜44が単層のシリコン酸窒化膜144で構成されている。シリコン酸窒化膜144は、窒化物半導体層20の表面に接しており、窒化物半導体層20との間に界面を形成している。シリコン酸窒化膜144は、窒化物半導体層20(この例では、GaN)に対して正のバンドオフセットを有している。このため、シリコン酸窒化膜144の価電子帯には、井戸型ポテンシャルが形成されない。この結果、シリコン酸窒化膜144に正孔が蓄積するということが抑えられ、ゲート閾値電圧の変動が抑えられる。
【0021】
次に、窒化物半導体装置1の製造方法を説明する。以下では、窒化物半導体装置1を製造する工程のうちのゲート絶縁膜44を成膜する工程のみを説明する。窒化物半導体装置1を製造する工程のうちのゲート絶縁膜44を成膜する工程以外の工程については、既知の製造方法を利用することができる。
【0022】
この例では、ゲート絶縁膜44はミストCVD法(Chemical Vapor Deposition)を利用して成膜される。なお、ミストCVD法に代えて、他の塗布法、例えばスプレー法、印刷法又はインクジェット法が利用されてもよい。図2に、ミストCVD法を実行するミストCVD装置80の構成を概略して示す。ミストCVD装置80は、炉82と、ミスト発生装置84と、キャリアガス供給源86と、酸化ガス供給源88と、を有している。なお、図2には、ファインチャネル方式のミストCVD装置80を例示しているが、この例に代えて、他の方式、例えばリニアソース方式又はホットウォール方式のミストCVD装置であってもよい。
【0023】
炉82は、チャンバー82aを有している。チャンバー82a内に、各種の電極(ドレイン電極、ソース電極、ゲート電極)を形成する前の窒化物半導体層20が載置される。炉82は、ヒータを内蔵しており、チャンバー82a内の窒化物半導体層20を加熱することができる。
【0024】
ミスト発生装置84は、ミスト発生タンク84aと、容器84bと、超音波振動子84cと、を有している。
【0025】
ミスト発生タンク84a内には、溶液84dが貯留されている。溶液84dは、ゲート絶縁膜44のシリコン酸窒化膜144を成膜するための膜原料が溶剤に溶解したものである。膜原料は、シリコンと窒素の双方を分子中に含む有機物である。例えば、膜原料として、ポリシラザン又はヘキサメチルジシラザンを用いることができる。溶剤として、ジメチルエーテル、酢酸メチル、アセトニトリル、ジブチルエーテル等の有機溶剤を用いることができる。
【0026】
容器84bは、液体84e(例えば、水)を貯留している。ミスト発生タンク84aの下部は、液体84e内に浸漬されている。容器84bの底面に、超音波振動子84cが固定されている。超音波振動子84cは、液体84eに超音波を加える。液体84eに加えられた超音波は、液体84eを介してミスト発生タンク84a内の溶液84dに伝わる。すると、溶液84dの液面が振動し、溶液84dの上部の空間に溶液84dのミスト83が発生する。このように、ミスト発生装置84は、ミスト発生タンク84a内に、溶液84dのミスト83を発生させる。ミスト発生タンク84aは、原料供給管94を介して炉82に接続されている。ミスト83は、ミスト発生タンク84aから原料供給管94を介して炉82に供給される。炉82内を下流端まで流れたミスト83は、炉82の外部へ排出される。
【0027】
キャリアガス供給源86は、キャリアガス供給管90を介してミスト発生タンク84aに接続されている。キャリアガス供給源86は、ミスト発生タンク84aにキャリアガス(例えば、アルゴン等の不活性ガス)を供給する。
【0028】
酸化ガス供給源88は、酸化ガス供給管92を介して原料供給管94の途中に接続されている。酸化ガス供給源88は、原料供給管94に酸化剤(この例では、オゾン)を供給する。なお、酸化剤は、例えば水蒸気(H2O)であってもよい。
【0029】
ゲート絶縁膜形成工程では、まず、炉82のチャンバー82a内に窒化物半導体層20を載置する。次に、炉82によって窒化物半導体層20を加熱する。ゲート絶縁膜形成工程の間は、窒化物半導体層20の温度を約400℃に維持する。
【0030】
次に、超音波振動子84cを作動させて、溶液84dからミスト83を発生させる。同時に、キャリアガス供給源86からミスト発生タンク84aへのキャリアガスの供給を開始し、酸化ガス供給源88から原料供給管94への酸化ガスの供給を開始する。キャリアガス供給管90からミスト発生タンク84a内に流入したキャリアガスは、ミスト発生タンク84a内のミスト83と共に原料供給管94へ流れる。原料供給管94内では、ミスト83がキャリアガスとともに炉82へ向かって流れる。原料供給管94の途中で、酸化ガス供給管92から原料供給管94内に酸化ガスが流入する。このため、原料供給管94のうちの酸化ガス供給管92との合流部よりも下流側の部分では、ミスト83がキャリアガスと酸化ガスとともに炉82へ向かって流れる。
【0031】
ミスト83、キャリアガス、及び、酸化ガスは、原料供給管94の下流端まで達すると、炉82のチャンバー82a内へ流入する。チャンバー82a内を流れるミスト83の一部は、窒化物半導体層20の表面に付着する。すると、窒化物半導体層20の表面に付着したミスト83に含まれる溶剤が揮発し、窒化物半導体層20の表面にシリコンと窒素を含む膜原料が固着する。また、窒化物半導体層20の表面に膜原料が固着するのと同時に、膜原料が酸化ガスによって酸化される。酸化された膜原料は、シリコン酸窒化膜144となる。したがって、窒化物半導体層20の表面に、シリコン酸窒化膜144により構成されたゲート絶縁膜44が成長する。
【0032】
単層のシリコン酸窒化膜144からなるゲート絶縁膜44を形成したら、窒化物半導体層20を窒素雰囲気下において約800℃にて約5分間アニールする。このような手順により、ゲート絶縁膜44を成膜することができる。
【0033】
このように、本明細書が開示するミストCVD法は、シリコンと窒素の双方を分子中に含む膜原料を酸化することでシリコン酸窒化膜144を成膜する。例えば、窒素源としてアンモニアを用いる手法では、アンモニアが分解したときに生じる水素ラジカルによって窒化物半導体層20の表面にダメージが加わるという問題がある。一方、本明細書が開示する技術では、シリコンと窒素の双方を分子中に含む膜原料を酸化するので、窒素源としてアンモニアを用いない。このため、水素ラジカルによって窒化物半導体層20の表面にダメージが加わることが抑えられる。この結果、窒化物半導体装置1は、高いチャネル移動度を有することができる。
【0034】
さらに、本明細書が開示するミストCVD法では、非プラズマ状態の酸化ガスを使用して膜原料を酸化し、シリコン酸窒化膜144を成膜する。このため、本明細書が開示するミストCVD法では、窒化物半導体層20の表面がプラズマ状態の酸化ガスに曝されることがないので、窒化物半導体層20の表面にダメージが加わることが抑えられる。この点でも、窒化物半導体装置1は、高いチャネル移動度を有することができる。
【0035】
(第2実施形態)
図3に、第2実施形態の窒化物半導体装置2を示す。なお、第1実施形態の窒化物半導体装置1と共通する構成要素については共通の符号を付し、その説明を省略する。窒化物半導体装置2は、ゲート絶縁膜44が第1シリコン酸窒化膜144aと第2シリコン酸窒化膜144bを有していることを特徴としている。
【0036】
第1シリコン酸窒化膜144aは、窒化物半導体層20の表面に接するように設けられている。第2シリコン酸窒化膜144bは、第1シリコン酸窒化膜144aの表面上に設けられており、第1シリコン酸窒化膜144aを介して窒化物半導体層20に対向するように設けられている。
【0037】
第1シリコン酸窒化膜144aと第2シリコン酸窒化膜144bは、第1実施形態と同様に、ミストCVD法を利用して成膜される。さらに、ミストCVD法を利用して成膜するときに、第2シリコン酸窒化膜144bを成膜するときよりも第1シリコン酸窒化膜144aを成膜するときの酸化剤濃度が低い条件で実施される。即ち、第1シリコン酸窒化膜144aを成膜するときの酸化力は相対的に弱く、第2シリコン酸窒化膜144bを成膜するときの酸化力が相対的に強い。
【0038】
窒化物半導体層20と接する第1シリコン酸窒化膜144aを成膜するときの酸化力を弱くすることで、窒化物半導体層20の表面が酸化されるのを抑え、窒化物半導体層20の表面にダメージが加わるのを抑えることができる。この結果、窒化物半導体装置2は、高いチャネル移動度を有することができる。一方、窒化物半導体層20から離れた第2シリコン酸窒化膜144bを成膜するときの酸化力を強くすることで、第2シリコン酸窒化膜144bの膜質を欠陥が少ない良質なものとすることができ、リーク電流を抑えることができる。このように、第1シリコン酸窒化膜144aと第2シリコン酸窒化膜144bを有する窒化物半導体装置2は、ゲート閾値電圧の変動を抑えながら、高いチャネル移動度と低リーク電流を両立することができる。
【0039】
上記したように、第1シリコン酸窒化膜144aを成膜するときの酸化力は相対的に弱く、第2シリコン酸窒化膜144bを成膜するときの酸化力が相対的に強い。この結果、第1シリコン酸窒化膜144aには有機物の膜材料(例えば、ポリシラザン又はヘキサメチルジシラザン)に含まれる炭素が相対的に多く取り込まれ、第2シリコン酸窒化膜144bには有機物の膜材料(例えば、ポリシラザン又はヘキサメチルジシラザン)に含まれる炭素が相対的に少なく取り込まれる。
【0040】
なお、ゲート絶縁膜44内において、第1シリコン酸窒化膜144aと第2シリコン酸窒化膜144bは明確に区別できないこともある。例えば、ゲート絶縁膜44を成膜するときに、酸化剤の供給濃度を連続的に増加させるように調整した場合、ゲート絶縁膜44内の炭素濃度が窒化物半導体層20の表面から離れる向きに連続的に増加するようなプロファイルとなる。このような場合、ゲート絶縁膜44のうちの窒化物半導体層20の表面に接する任意の厚みを第1シリコン酸窒化膜144aとし、ゲート絶縁膜44のうちの残りの部分を第2シリコン酸窒化膜144bとすると、第1シリコン酸窒化膜144aの任意の位置の炭素濃度>第2シリコン酸窒化膜144bの任意の位置の炭素濃度の関係が成立する。第2実施形態の窒化物半導体装置2は、このような場合も含んでいる。即ち、第2実施形態の窒化物半導体装置2のゲート絶縁膜44に含まれる炭素濃度は、窒化物半導体層20の表面から離れる向きに単調増加する限りにおいて様々なプロファイルを持つことができる。いずれのプロファイルでも、窒化物半導体装置2は、ゲート閾値電圧の変動を抑えながら、高いチャネル移動度と低リーク電流を両立することができる。
【0041】
(第3実施形態)
図4に、第3実施形態の窒化物半導体装置3を示す。なお、第1実施形態の窒化物半導体装置1と共通する構成要素については共通の符号を付し、その説明を省略する。窒化物半導体装置3は、ゲート絶縁膜44がシリコン酸窒化膜144と上側絶縁膜146とを有していることを特徴としている。
【0042】
シリコン酸窒化膜144は、窒化物半導体層20の表面に接するように設けられている。上側絶縁膜146は、シリコン酸窒化膜144の表面上に設けられており、シリコン酸窒化膜144を介して窒化物半導体層20に対向するように設けられている。
【0043】
上側絶縁膜146の窒化物半導体層20に対するバンドオフセットが、シリコン酸窒化膜144の窒化物半導体層20に対するバンドオフセットよりも大きい。上側絶縁膜146の材料は、特に限定されるものではないが、例えばシリコン酸化膜(SiO2)又は金属酸化膜である。金属酸化膜としては、アルミナ(Al23)であってもよい。上側絶縁膜146は、特に限定されるものではないが、例えばミストCVD法を利用して成膜してもよい。
【0044】
窒化物半導体層20と接するようにシリコン酸窒化膜144が設けられている。このため、窒化物半導体装置3では、シリコン酸窒化膜144に井戸型ポテンシャルが形成されないので、ゲート閾値電圧の変動を抑えられる。さらに、上側絶縁膜146の窒化物半導体層20に対するバンドオフセットが、シリコン酸窒化膜144の窒化物半導体層20に対するバンドオフセットよりも大きい。このため、上側絶縁膜146は、シリコン酸窒化膜144よりも絶縁破壊強度が大きい。この結果、窒化物半導体装置3では、ゲート絶縁膜44の絶縁破壊強度が大きくなる。
【0045】
以下、本明細書で開示される技術の特徴を整理する。なお、以下に記載する技術要素は、それぞれ独立した技術要素であって、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【0046】
本明細書が開示する窒化物半導体装置の製造方法は、窒化物半導体層上にゲート絶縁膜を成膜するゲート絶縁膜成膜工程を備えることができる。前記ゲート絶縁膜成膜工程は、前記窒化物半導体層の表面に接するようにシリコン酸窒化膜を成膜するステップを有することができる。前記シリコン酸窒化膜を成膜するステップは、シリコンと窒素の双方を分子中に含む膜原料を酸化して前記シリコン酸窒化膜を成膜する。前記シリコン酸窒化膜を成膜するステップは、例えばミストCVD法、スプレー法、印刷法又はインクジェット法等の塗布法が利用されてもよい。この製造方法によると、例えば窒素源としてアンモニアを利用する場合に問題となる水素ラジカルが発生しない。このため、この製造方法では、前記窒化物半導体層の表面に対するダメージが抑えられる。
【0047】
前記膜原料は、特に限定されるものではないが、例えばポリシラザン又はヘキサメチルジシラザンであってもよい。
【0048】
前記シリコン酸窒化膜を成膜するステップは、特に限定されるものではないが、例えばミストCVD法を利用して前記シリコン酸窒化膜を成膜してもよい。ミストCVD法によると、非プラズマ状態の酸化ガスを使用して前記膜原料を酸化することができる。このため、ミストCVD法では、前記窒化物半導体層の表面がプラズマ状態の酸化ガスに曝されることがないので、窒化物半導体層の表面にダメージが加わることが抑えられる。
【0049】
前記シリコン酸窒化膜は、前記窒化物半導体層の表面に接する第1シリコン酸窒化膜と、前記第1シリコン酸窒化膜を介して前記窒化物半導体層に対向する第2シリコン酸窒化膜と、を有していてもよい。前記シリコン酸窒化膜を成膜するステップは、前記第2シリコン酸窒化膜を成膜するときよりも前記第1シリコン酸窒化膜を成膜するときに、酸化剤濃度が低い条件で実施されてもよい。この製造方法によると、酸化力の弱い条件で前記第1シリコン酸窒化膜を成膜することで高いチャネル移動度という特性を確保し、酸化力の強い条件で前記第2シリコン酸窒化膜を成膜することで低いリーク電流という特性を確保することができる。この製造方法によると、高いチャネル移動度と低リーク電流を両立した窒化物半導体装置を製造することができる。
【0050】
前記ゲート絶縁膜成膜工程はさらに、前記シリコン酸窒化膜上に、シリコン酸窒化物とは異なる材料の上側絶縁膜を成膜するステップ、を備えていてもよい。前記上側絶縁膜の前記窒化物半導体層に対するバンドオフセットが、前記シリコン酸窒化物膜の前記窒化物半導体層に対するバンドオフセットよりも大きい。前記上側絶縁膜が、シリコン酸化膜又は金属酸化膜であってもよい。この製造方法によると、高いチャネル移動度と高い絶縁破壊耐量を両立した窒化物半導体装置を製造することができる。。
【0051】
本明細書が開示する窒化物半導体装置の一実施形態は、窒化物半導体層上に設けられているゲート絶縁膜を備えることができる。前記ゲート絶縁膜は、前記窒化物半導体層の表面に接するシリコン酸窒化膜を有することができる。前記シリコン酸窒化膜は、前記窒化物半導体層の表面に接する第1シリコン酸窒化膜と、前記第1シリコン酸窒化膜を介して前記窒化物半導体層に対向する第2シリコン酸窒化膜と、を有することができる。前記第2シリコン酸窒化膜内の炭素濃度は、前記第1シリコン酸窒化膜内の炭素濃度よりも低い。この窒化物半導体装置は、高いチャネル移動度と低リーク電流を両立することができる。
【0052】
本明細書が開示する窒化物半導体装置の一実施形態は、窒化物半導体層上に設けられているゲート絶縁膜を備えることができる。前記ゲート絶縁膜は、前記窒化物半導体層の表面に接するシリコン酸窒化膜と、前記シリコン酸窒化膜上に設けられているとともに前記シリコン酸窒化物とは異なる材料の上側絶縁膜と、を有することができる。前記上側絶縁膜の前記窒化物半導体層に対するバンドオフセットが、前記シリコン酸窒化物膜の前記窒化物半導体層に対するバンドオフセットよりも大きい。前記上側絶縁膜が、シリコン酸化膜又は金属酸化膜であってもよい。この窒化物半導体装置は、高いチャネル移動度と高い絶縁破壊耐量を両立することができる。
【0053】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0054】
1,2,3:窒化物半導体装置、 10:基板、 20:窒化物半導体層、 22:ボディ領域、 24:ドレイン領域、 26:ソース領域、 32:ドレイン電極、 34:ソース電極、 40:絶縁ゲート部、 42:ゲート電極、 44:ゲート絶縁膜、 144:シリコン酸窒化膜、 CH:チャネル領域
図1
図2
図3
図4